神経内科医の注目が集まる「てんかん診療」高齢者のてんかん患者が増加!

提供元:ケアネット

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公開日:2012/06/06

 



第53回日本神経学会学術大会(5月22日~25日、東京国際フォーラム)における共催セミナー(グラクソ・スミスクライン株式会社)にて、産業医科大学 辻 貞俊氏が「高齢者てんかんについて」と題して講演した。

高齢者てんかん患者は50万人以上




てんかんは小児および若年者での発症が多い疾患である。一方、加齢に伴う中枢神経疾患は、高齢者におけるてんかんの新規発症の原因となる。高齢者のてんかんは若年者のものとは病態が異なり、若年者とは異なった治療が必要となる。わが国では急速な高齢化に伴って、このような高齢発症のてんかん患者が増えており、若年発症てんかん患者のキャリーオーバーともあいまって、高齢世代のてんかん患者が増加している。高齢者てんかん(65歳以上で発症)は対人口比2~7%と言われており、患者数は50万人程度と推定される。

診断が難しい、高齢者てんかん




高齢者てんかんは脳血管障害や脳腫瘍、認知症などを原因とする症候性てんかんである。約1/3は脳波が正常であり、鑑別診断が難しい。そのため、高齢者てんかんの特徴を理解し、診断・治療を行うことが求められる。中でも最も重要なのが「失神」である。失神は70歳以上の約23%が経験するともいわれている。また、神経疾患(TIA、TGAなど)、循環器疾患、代謝・内分泌疾患、睡眠時行動異常、心因性非てんかん性発作などとの鑑別を行う必要がある。

高齢者てんかんの特徴は、
・複雑部分発作、過運動発作が多い
・約1/4は鑑別が難しく、診断できない(約1/3は脳波正常)
・部分てんかん(側頭葉てんかん、前頭葉てんかんが大部分)が最も多い
・二次性全般発作が少ないため見逃されている可能性が高い
・発作後のもうろう状態が数時間~数日続くことがある
・非特異的な症状(ボーとした状態、不注意、無反応など)が多い  などである。

高齢者てんかんは抗てんかん薬単剤で奏功率約80%




高齢者てんかんは診断が難しい側面はあるものの、薬物療法による奏効率は高く、比較的予後は良好である。ただし、再発率は高く、再発による患者の心理的負担を考慮し、初回発作時から薬物療法を開始することが推奨される。

高齢者てんかんの薬物療法のポイントは以下のとおりである。
・初回発作時から薬物療法を開始する
・相互作用に注意し、少量から投与を開始する
・米国ガイドラインでは部分発作の場合、合併症がなければカルバマゼピン、ラモトリギンの順、合併症があればレベチラセタム、ラモトリギンの順、全般発作の場合はラモトリギン、バルプロ酸の順で推奨されている
・約80%は単剤にて効果が認められている(成人の投与量より少量)
・海外データによると新規抗てんかん薬は発作軽減に有効である
・長期にわたり治療を継続することが重要である

まとめ




 高齢者てんかんが増加している現状を踏まえ、神経内科医によるさらなるてんかん診療の推進が求められる。また、発症後6年以上経過した認知症患者ではてんかん発作の発現率が一般の5~10倍に増加するともいわれており、注意が必要である。辻氏は「まずは、正確な診断、そして積極的な治療を行ってほしい」と締めくくった。

(ケアネット 鷹野 敦夫)