統合失調症では早期の正確な診断と治療が、患者に長期的な利益をもたらすとされている。英国・Enhance Reviews社のKarla Soares-Weiser氏らは、診断ツールとしてFirst Rank Symptoms(FRS)が有用であるかどうか、その診断精度についてレビューした。その結果、FRSの統合失調症の識別能は75~95%であること、トリアージでの使用においては100例につきおよそ5~19例に誤った診断が下る可能性があることや診断感度は60%であることなどを報告した。結果を踏まえて著者は、「FRSに依存すると治療の遅れや中断などが生じる可能性があるが、現状では、臨床症状のばらつきが大きな疾患に対する簡便、迅速かつ有用なツールである」と述べている。Cochrane Database Systematic Reviewsオンライン版2015年1月25日号の掲載報告。
研究グループは、統合失調症におけるFRSの診断精度を調べるため、非器質性精神症状を有すると思われる成人および青少年についての専門家(精神科医、看護師、ソーシャルワーカーなど)による診断歴や検査結果を照合した。ICDやDSMといった診断基準やチェックリスト使用の有無は問わなかった。MEDLINE、EMBASE、PsycInfo using OvidSPを介して、2011年4、6、7月と2012年12月に該当文献を検索、2013年12月にMEDIONの検索も行った。QUADAS-2を用いて、バイアスリスクを評価した。
主な結果は以下のとおり。
・21試験、被験者6,253例(うち解析に包含したのは5,515例)を解析に組み込んだ。試験は1974~2011年に行われたもので、うち80%は1970年代、80年代または90年代に行われた試験であった。
・大半の試験で、試験方法の報告が不十分であった。また多くに、適用可能性に関する強い懸念があった。
・FRSが統合失調症とその他疾患を識別した感度は57%(50.4~63.3%)、特異度は81.4%(74%~87.1%)であった(20試験)。
・また、FRSが統合失調症と非精神病性精神障害とを識別した感度は61.8%(51.7~71%)、特異度は94.1%(88~97.2%)であった(7試験)。
・FRSが統合失調症とその他タイプの精神疾患を識別した感度は58%(50.3~65.3%)、特異度は74.7%(65.2~82.3%)であった(16試験)。
・以上、分析に組み込んだ試験は過去のものが多く質的に限定的であるが、当時の時点で、FRSが統合失調症の人を正しく特定した割合は75~95%であった。
・トリアージにおけるFRSの使用は、100例につき5~19例については統合失調症を有すると誤った診断をする(専門家はその診断に同意しない)可能性が示された。それでもなお、これらの人々は、専門家の評価を受けることが適当であったり、行動や精神状態の重度の障害により援助の対象となる可能性があった。
・また、FRSの診断感度は60%であった。すなわちトリアージでFRSを参照することで、約40%の人(専門家は統合失調症であるとみなしているが)については誤った診断が下る可能性があった。トリアージでFRSに依存して統合失調症の診断を行った場合、適切な治療を受けることが遅れたり、早期に治療が中断される人が出る可能性があった。
・そうしたエラーを回避するためには、FRSの限界を知ったうえで使用する必要がある。
・今後のコクランレビューで、新たな試験のより良い結果が示されることが望まれる。しかし、新たな試験がない場合でも、FRSは統合失調症が疑われる人の初回スクリーニングでは、なお有用と考えられる。
・現状ではFRSは、ばらつきの大きな疾患における簡便、迅速かつ有用な臨床指標である。
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(ケアネット)