不眠症は、現代社会において一般的な睡眠障害であり、生活の質の低下を引き起こし、身体的および精神的健康を損なう。音楽鑑賞が睡眠を助ける手段として広く用いられているが、それが成人の不眠症を実際に改善しうるか否かは依然不明確であった。デンマーク・オーフス大学のKira V Jespersen氏らは、成人の不眠症に対する音楽療法の有効性を明らかにするため、メタ解析を行った。その結果、音楽療法は通常の治療法に比べ、睡眠の質の改善に有効であることを示唆するエビデンスが得られたことを報告した。今回の結果を踏まえて著者らは、「音楽療法は安全で、その導入は簡便である。さらなる研究により、音楽鑑賞等の睡眠の側面に対する効果や、不眠症に起因する日中の症状に対する効果を確立することが求められる」とまとめている。Cochrane Database Systematic Reviews誌オンライン版2015年8月13日号の掲載報告。
研究グループは、音楽鑑賞が成人の不眠症に及ぼす効果と、その効果を減じる可能性がある特定の事象の影響について評価した。2015年5月にCENTRAL、PubMed、Embase、その他の9つのデータベース、2件の試験登録を検索した。さらに、音楽療法に特化した雑誌、試験に掲載されている参考文献リストを手動検索したり、未発表あるいは進行中の試験を含めて包含に適格な追加試験を特定するため、公表されている著者への問い合わせなども行った。試験の選択基準は、成人の不眠症において、音楽療法単独と未治療または通常の治療法の効果とを比較しているランダム化対照試験および準ランダム化対照試験とした。著者2人が個別に抄録をスクリーニングして試験を選択し、バイアスリスクを評価して、適格基準を満たすすべての試験からデータを抽出した。2件以上の試験で一貫した報告がなされていた場合は、事前に規定されたアウトカムのデータについてメタ解析を行った。メタ解析は固定効果モデルとランダム効果モデルの両方を用いて実施した。試験間における不均質性はI2検定で検証した。
主な結果は以下のとおり。
・6試験、被験者計314例が解析対象例となった。
・試験では、事前に録音された音楽を毎日25~60分間、3日間~5週間聴くことの効果を検討していた。
・音楽鑑賞が睡眠の質に及ぼす効果を評価している5試験のエビデンスについて、Grades of Recommendations, Assessment, Development and Evaluation(GRADE)アプローチに基づき判定した結果、中等度の質と判断された。
・睡眠の別の側面(下記参照)を検討した1試験のエビデンスについては、質が低いと判定した。
・試験デザインの限界や公表されている唯一の試験であることなどを主な理由とし、エビデンスレベルのダウングレードを行った。
・バイアスリスクに関しては、大半の試験で1項目以上に高いバイアスリスクを認めた。
●選択バイアスのリスクが高い試験が1件、同試験のリスクは不明と判断された。
●施行バイアスのリスクが高い試験が6件。
●検出バイアスのリスクが高い試験が3件。
●症例減少バイアスのリスクが高い試験が1件、同試験のリスクは不明と判断された。
●報告バイアスのリスクが不明確と判断された試験が2件。
●その他のバイアスリスクが高い試験が4件。
・メタ解析には、ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)を用いて睡眠の質を評価した5試験(264例)を包含した。
・ランダム効果を用いたメタ解析により、音楽療法に優位な結果が示された(平均差[MD]:-2.80、95%信頼区間[CI]:-3.42~-2.17、Z=8.77、p<0.00001、エビデンスの質は中等度)。
・エフェクトサイズから、未治療または通常の治療に比べ、介入(音楽療法)は睡眠の質向上において、約1標準偏差、優れることが示唆された。
・睡眠潜時、総睡眠時間、中途覚醒、睡眠効率のデータを報告した試験が1件(50例、エビデンスの質は低い)のみあった。それらのアウトカムに介入が有益であることを示唆するエビデンスは認められなかった。
・いずれの試験においても、有害事象の報告はなかった。
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