「免疫チェックポイント阻害薬」の登場以降、がん治療における免疫療法には大きな関心が集まっている。
長年、がん免疫療法分野の研究に携わってきた慶應義塾大学医学部 先端医療科学研究所 教授の河上 裕氏は、医療課題から複合免疫療法まで免疫療法を取り巻く概況について講演した。
当月開催のプレスセミナー「免疫チェックポイント阻害薬の基礎と今後の展望」(主催:アストラゼネカ株式会社 2016年12月13日都内開催)より内容を抜粋して紹介する。
求められる、使い方の工夫
免疫チェックポイント阻害薬(以下、免疫CP阻害薬)の登場以降、「がん免疫療法」には注目が集まっている。
ヒトの体には免疫機構が備わっているが、遺伝子異常を持つがん細胞には免疫防御をくぐり抜ける「がん免疫逃避機構」がある。この抗腫瘍免疫にブレーキをかける経路が、免疫チェックポイントと呼ばれるCTLA4経路や PD-1/PD-L1経路である。そして、このブレーキを解除するのが、免疫CP阻害薬である。
治療奏効率の高さで注目を集める免疫CP阻害薬だが、医療経済的課題から議論は続いている。河上氏は「使い方の工夫が必要」と述べる。
使用時期、使用症例の選択は?
使い方で問題となるのが「使用時期」だ。河上氏は、「悪性黒色腫や肺がんは未治療例への奏効率が高く、最初に使うことで治療成績が上がる可能性がある」という。しかし、無駄な治療は前述の医療経済的課題につながる。
そこで「使用症例」の選択が重要となる。臨床で唯一使用されているバイオマーカーは「PD-L1」のみだが、今後臨床応用が期待されているバイオマーカーには以下がある。
・CD8+T細胞の腫瘍湿潤度
・DNA突然変異数、DNA修復関連遺伝子の不良(MMR、POLE、BRCA1/2など)
・腫瘍組織の遺伝子発現解析(IFN signature,CTL signature)
・治療後のTCRレパートリー解析
これらマーカーのさらなる開発、精度向上が期待されている。
このほか、効きが悪いがん種も明らかになりつつある。「膵がん」「大腸がん」「多発性骨髄腫」「前立腺がん」などは効きが悪い可能性が高い。そこで「効きが悪い症例をどこまで効く状態に変えられるか?」というアプローチにも注目が集まっている。それが「複合免疫療法」である。
複合免疫療法で、効きが悪い症例を効く状態に
現在、「複合免疫療法」を検討した臨床試験は複数進行中だ。同じ免疫制御系の組み合わせとして注目されるのが、「抗PD-1 抗体+抗CTLA4抗体」の併用。2剤の併用は単剤治療に比べ奏効率を増加させたと報告されており、補完的作用が期待される。
そのほか、化学療法剤や分子標的治療薬と免疫CP阻害薬とを組み合わせた複合免疫療法の検討も進行中だ。抗腫瘍免疫ネットワークを総合的に制御する「複合免疫療法」の開発に期待がかかる。
新しい時代を迎えたがん免疫療法
がん免疫療法はすでに標準がん治療の仲間入りをした。今後、新技術の開発によりがん免疫病態の解明も進むだろう。しかし、米国で1,000以上の臨床試験が進行している一方、日本での臨床試験実施数はまだまだ不足している。
河上氏は「今後は日本でも産学官連携がいっそう重要となる。日本で実施する臨床試験により、免疫病態の解析が進むことを期待したい。」と述べ、講演を締めくくった。
(ケアネット 佐藤 寿美)