収縮能は保たれているが心筋ストレインが低下している症例が、肥大型心筋症、虚血性心疾患、糖尿病などの患者において報告されている。そこで、Oslo University Hospital(ノルウェー)のThomas M. Stokke氏ら研究グループが、左室駆出率(EF)とストレインが一致しないことを検証するため、数学的および心エコーを組み合わせた解析を行った。Journal of American College of Cardiology誌2017年8月22日号に掲載。
ストレインを含む4つのパラメータからEFを求める方程式を作成
本研究では、楕円形の左室形状モデルからEFと4つのパラメータであるGlobal longituidal strain (GLS:縦方向のストレイン)、Global circumferential strain (GCS:円周方向のストレイン)、壁厚および短軸方向の直径の関係を導く方程式が考案された。EFが16~72%の被験者100例において、EFの予想値と実際の計測値を比較し、この方程式の妥当性が確認された。また、異なるパラメータのEFに対する影響についても検証し、患者データとの比較を行った。
円周性の収縮は長軸性の収縮より2倍以上もEFと関連
計算によって導き出されたEFの予測値と、実際の計測値はかなりの割合で一致していた(r=0.95)。またこのモデルでは、GCSがGLSと比べて2倍以上EFに関連することが示され、縦方向の収縮の大幅な減少は、円周方向の収縮のわずかな増加で補うことが可能と考えられた。壁厚が増加し、直径が減少した心室においては、長軸性および円周性の収縮が低下するが、そういった症例では、拡張末期容量を少なくすることで、EFを保っていた。このことは、正常コントロール20例と、壁厚が増加しかつ円周性および長軸方向の収縮が低下した肥大型心筋症患者20例とで、EF同様の値であるという結果と合致していた。
心筋の収縮が低下しているにもかかわらず、EFが保たれているという矛盾は、心臓の形状変化(ジオメトリー)の寄与を考えると、数学的に説明しうる。つまり、心筋の縦方向および円周方向の短縮が大きく変化しても、その他の形状学的な変化でそれを補い、EFが保持されている。
EFが保たれている場合、ストレインは左室の収縮能を反映している
EFは保たれていても、心臓全体としての変形が小さくなりうることが数学的に説明された。心臓の形体上の変化が大きく寄与していることを考えると、EFが保たれている症例ではストレインが心室の収縮能をより正確に反映していると考えられた。
(カリフォルニア大学アーバイン校 循環器内科 河田 宏)
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