2019年1月11~13日の3日間、第22回日本病態栄養学会年次学術集会が開催された。1日目のシンポジウム1では、演者の一人である幣 憲一郎氏(京都大学医学部附属病院疾患栄養治療部 副部長)が「高齢糖尿病患者におけるサルコペニア・フレイル対策の現状と課題」について講演を行った。
糖尿病患者の高齢化とサルコペニア・フレイル
日本人の平均寿命は延び続け、糖尿病患者の平均寿命もこの10年間で男女ともに約3.5歳延びている。30年前の調査と比べても、男性で8.3歳、女性で10.2歳も延びているが、現代人は単なる寿命の延命ではなく、自力で快適な生活ができる“健康寿命の延伸”を望んでいる。しかし、糖尿病患者は高齢化に伴い合併症問題が深刻化し、「その1つがサルコペニア・フレイル」と同氏は考える。
現在の糖尿病患者に対する食事療法は、エネルギー管理を主とした血糖コントロールの視点が強過ぎるため、低栄養を来し、サルコペニアやフレイルを招きかねない。そんな現状を踏まえ、同氏は糖尿病患者における栄養摂取における二重負荷の問題、食品の多様性とオーラルフレイル対策の重要性について語った。
糖尿病食事療法に生じる栄養不良の二重負荷の問題
糖尿病患者は、壮年期では糖・脂質代謝異常などの生活習慣病予防による過剰栄養対策を、老年期から介護予防としてのサルコペニア・フレイルに関連する低栄養対策が必要となる。これについて同氏は、「生活習慣病予防の教育を受けていた患者が、高齢になったにもかかわらずそのままの食事療法を続けてしまうと、介護予防とは相反する状況が生まれてしまう」と問題提起。さらに、「高齢者の体重減少が“加齢に伴う自然な変化”として見過ごされている」と指摘し、「患者個々をみて、ある段階から低栄養対策を考えていく必要がある」と訴えた。
筋肉は20代をピークに年齢と共に衰え、骨格筋量は低下していく。また、体重の約半分を占め、血糖の80%を取り込む骨格筋の減少は、糖尿病の血糖管理にも悪影響を及ぼすため、これをいかに食い止めるかがサルコペニア対策において重要な問題となる。現在、サルコペニアの診断にはアジア人のサルコペニアの診断手順(AWGS)が用いられ、年齢、握力、歩行速度、筋肉量の測定によって分類されている。しかし、この手順において、「下肢筋肉測定を行い、筋肉量だけではなく筋力も判定基準として使用するか否か検証していく必要がある」と述べた。
咀嚼回数と肥満の関係
筋肉の減少は咀嚼機能にも関連し、「噛むことを維持することが大切」と強調する同氏は、平成29年度の国民健康栄養調査における歯・口腔の健康に関する状況のデータを提示。これによると、何でも噛んで食べることができる者の割合、歯を20本以上有する者の割合が60代から急激に低下している。
肥満や血糖上昇にも影響を及ぼす食後誘発熱産生(DIT)は、食事を摂取した後に産生する体熱のことで、咀嚼によって上昇する。味わい、よく噛んで食べる群と、胃に直接流し込む群、それぞれにおける時間経過によるカロリーの消費量をみたデータ
1)によると、前群のほうがカロリーの消費量は高く、体重管理にも噛むことが重要であることがうかがえる。
また、咀嚼回数は認知機能にも影響を及ぼすと言われ、歯を失い、義歯を使用していない場合、認知症発症リスクは最大で1.9倍にもなるという報告もある。ただし、自身の歯がほとんどなくとも義歯を装着して噛んでいれば、認知機能の予防につながるとの見解も出ている
2)。
このような咀嚼やエネルギー消費量に関する問題は、多様な食品摂取が問題を解決へと導く。自施設の報告では、血糖管理の改善やエネルギー摂取量の増大にも寄与することが明らかになっており、熱産生やカロリー消費の面からも、同氏は「柔らかい単一の食事が高血糖や肥満を招くので、多様な食品摂取が重要」とし、「ささいな“口の衰え”を認識し、しっかりと噛まなければならないおかずを一品加える」などのオーラルフレイルにおける予防策を講じていることを紹介した。
最後に同氏は、「食事療法の実施において、口腔環境や社会背景の把握を行うことは不可欠であり、生活の質の担保、その方法が長期実施可能かどうか」が重要であるとコメント。栄養管理の姿勢について、「単なるエネルギー管理や血糖管理の視点だけではなく、将来的に危惧される合併症も、総合的に勘案して個別に対応すること」を強く求めた。
■参考
1)
LeBlanc J, et al.Am J Physiol.1984;246:E95-101.
2)
Yamamoto, et al.Psychosomatic Medicine.2012;74: 241-248.
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(ケアネット 土井 舞子)