先進工業国はいずれも余命が延長し続け、2030年までに50%以上の確率で韓国女性の寿命が90歳を超えるとの研究結果が、Lancet誌オンライン版2017年2月22日号で報告された。研究を行った英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのVasilis Kontis氏らは、「90歳の壁は、21世紀の折り返し点ではまだ破られないと考えられていたが、とくに高齢女性の寿命の延長が大きく貢献し、達成時期が早まると予測される」と指摘している。
信頼性の高い方法で35ヵ国の余命を予測
研究グループは、予測モデルの選択に起因する不確実性を考慮し、単一モデルよりも予測能が優れる方法として、確率的ベイジアンモデル平均化(BMA)アプローチを用い、国別の年齢別死亡率および余命の予測を行った(英国医学研究評議会[MRC]、米国環境保護庁[EPA]の助成による)。
BMAアプローチには、確率的に最終予測に貢献する21の予測モデルを用いた。質の高い人口動態統計データを有する35の先進工業国について、2030年までの年齢別死亡率を予測した。この年齢別死亡率を用いて、出生時と65歳時の余命を算出し、生命表で70歳前の死亡の確率を推定した。
日本女性が2030年まで第1位を続ける確率は22%
2030年の出生時余命(寿命)は、35ヵ国全体で女性が65%以上、男性は85%以上の確率で2010年よりも延長するが、延長の幅は国によってばらつきがあると予測された。一方、2030年までに、日本女性の余命は、35%の確率で伸びが留まるか短縮し、次いで14%の確率でブルガリア男性、11%の確率でフィンランド女性の余命が、停滞または短縮すると予測された。
韓国女性の2030年の出生時余命は、90%の確率で86.7歳(2012年の世界最長の出生時余命に相当)を超え、57%の確率で90歳以上に達すると予測された。次いで、フランス、日本、スペインの順で女性の出生時余命が長かった。日本女性は、22%の確率で2030年まで余命世界一が継続し、14%の確率で第2位となる可能性が示唆された。
男性は、韓国、オーストラリア、スイスの2030年の出生時余命が、95%以上の確率で80歳を上回り、27%以上の確率で85歳を超えると予測された。また、女性と同様に、韓国のほか、ハンガリー、スロベニアのような中央ヨーロッパの新興経済国で、余命の延長が大きいと予測された。
これらの傾向の結果として、2030年までに女性の余命は韓国が日本に代わって第1位となり、男性の余命は韓国が現在の第1位であるオーストラリアに追いつく可能性が示唆された。米国、日本、スウェーデン、ギリシャ、マケドニア、セルビアは、男女とも予測余命の延長分が最も短かった。
女性の男性に対する余命の優越性は、メキシコ(女性が男性よりも延長)、チリ、フランス、ギリシャ(男女の延長分がほぼ同じ)を除き、2030年までに小さくなると予測された。
年齢層別の死亡率減少への寄与の解析では、女性の出生時余命の予測延長分の半分以上(多くの国では3分の2以上)が、65歳以上の高齢者の寿命の延長によるものであった。同様のパターンが、オーストラリア、アジア太平洋地域、北米、西ヨーロッパの男性にも認められた。
著者は、「余命の延長には、健康的な加齢、教育・労働・引退の枠組みの再構築、保健医療や社会的ケアへの出資を支援する施策を必要とするが、今回の予測では寿命の継続的な延長の達成が示唆された」としている。
(医学ライター 菅野 守)