ブプレノルフィンはオピオイド使用障害(opioid use disorder)の最も効果的な治療法の1つであり、救急診療部で安全に治療を開始できることが知られているが、その臨床導入は遅れているという。米国・イェール大学医学大学院のEdward R. Melnick氏らは、EMBED(EMergency department initiated BuprenorphinE for opioid use Disorder)と呼ばれるオピオイド使用者が主体となる臨床意思決定支援のための介入法の、救急診療部でのブプレノルフィン導入における有効性について検討し、このツールは通常治療と比較して、救急診療部におけるブプレノルフィン治療の導入の患者レベルでの割合を増加させないことを確認した。研究の詳細は、BMJ誌2022年6月27日号に掲載された。
米国の救急診療部のクラスター無作為化対照比較試験
本研究は、救急診療部でのブプレノルフィン治療の導入におけるEMBEDの有効性の評価を目的に、米国の北東部、南東部、西部地域の5州の5つの保健システムに参加している18のクラスター(21の救急診療部)で行われた実践的なクラスター無作為化対照比較試験であり、2019年11月~2021年5月の期間に実施された(米国国立衛生研究所[NIH]の助成を受けた)。
クラスターは、EMBEDによる介入を行う群または通常治療を行う群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。
オピオイド使用者主体の医師向けの臨床意思決定支援システムであるEMBEDは、電子健康記録(EHR)の診療過程と円滑に統合されており、医師によるオピオイド使用障害の診断、離脱症状の重症度の評価、患者の治療への動機付けを支援することで、救急診療部でのブプレノルフィン治療の開始を促す。また、このシステムでは、受診後の文書作成や受注、処方、紹介が自動化されており、これによりEHRを完成することができる。
主要アウトカムは、オピオイド使用障害者における救急診療部でのブプレノルフィン治療の導入(投与または処方)の割合とされた。
医師レベルでの治療開始は増加
141万3,693件(介入群77万5,873件、通常治療群63万7,820件)の救急診療部受診について解析が行われた。
オピオイド使用障害は5,047例(年齢中央値36.0歳[29.0~47.0]、女性1,730例[34.3%])で認められ、救急診療部の医師599人(年齢層中央値35~44歳[206人、39.3%]、女性173人[33.0%])が治療を行った。このうち、介入群が2,787例(医師340人)、通常治療群は2,260例(医師259人)であった。
ブプレノルフィン治療は、患者レベルでは、介入群が347例(12.5%)、通常治療群は271例(12.0%)で導入されたが、両群間に有意な差は認められなかった(一般化推定方程式での補正後オッズ比[OR]:1.22、95%信頼区間[CI]:0.61~2.43、p=0.58)。
一方、少なくとも1回のブプレノルフィン治療を導入した医師は、介入群が151人(44.4%)と、通常治療群の88人(34.0%)に比べ有意に多かった(補正後OR:1.83、95%CI:1.16~2.89、p=0.01)。
著者は、「依存症の治療における他の課題に対処するとともに、オピオイド使用障害者の救急診療部におけるブプレノルフィン治療の導入の割合を高めるためには、EMBEDに加え、他の介入を使用する必要がある」としている。
(医学ライター 菅野 守)