手術室での迅速導入気管挿管時に、誤嚥のリスクがある成人患者において、即効性オピオイドであるレミフェンタニルは神経筋遮断薬と比較して、重度合併症を伴わない初回挿管の成功に関して非劣性を達成できず、むしろ統計学的に有意に劣ることが、フランス・ナント大学のNicolas Grillot氏らの検討で示された。研究の詳細は、JAMA誌2023年1月3日号に掲載された。
フランス15施設の無作為化非劣性試験
本研究は、フランスの15施設が参加した非盲検無作為化非劣性試験であり、2019年10月~2021年4月の期間に、患者の登録が行われた(フランス保健省の助成を受けた)。
対象は、年齢18~80歳、手術室での全身麻酔時に経口気管挿管を要し、肺誤嚥のリスク因子(術前空腹期間が6時間未満、腸閉塞、麻酔前12時間以内の嘔吐、術前12時間以内の外傷、重度の症候性の胃食道逆流など)を1つ以上有する患者であった。
被験者は、催眠薬投与直後にレミフェンタニル(3~4μg/kg)または神経筋遮断薬(サクシニルコリン[スキサメトニウム]またはロクロニウム1mg/kg)の静脈内投与を受ける群に無作為に割り付けられた。両群とも投与終了から30~60秒後に気管挿管が開始された。
主要アウトカムは、重度合併症を伴わない初回挿管の成功であった。合併症は、消化物の肺への誤嚥、酸素飽和度の低下、血行動態の重度の不安定化、持続性不整脈、心停止、重度のアナフィラキシー反応と定義された。事前に規定された非劣性マージンは7.0%。
非劣性の可能性は残る
1,150例(平均年齢50.7歳[SD 17.4]、女性573例[50%])が無作為化の対象となり、1,130例(98.3%)が試験を完遂した。両群に575例ずつが割り付けられた。腸管閉塞・イレウス・嘔吐が613例(54.1%)にみられ、気管挿管の理由として最も多かったのは消化管の手技であった。
as-randomized集団(無作為化の対象となったすべての患者)では、重度合併症を伴わない初回挿管の成功の割合は、レミフェンタニル群が66.1%(374/575例)、神経筋遮断薬群は71.6%(408/575例)であり(補正後群間差:-6.1%、95%信頼区間[CI]:-11.6~-0.5、非劣性のp=0.37)、レミフェンタニル群の劣性が示された。
per-protocol集団(割り付けられた薬剤の投与を受けた全適格例)では、レミフェンタニル群の66.2%(374/565例)、神経筋遮断薬群の71.3%(403/565例)で、重度合併症を伴わない初回挿管の成功が達成された(補正後群間差:-5.7%、両側95%CI:-11.3~-0.1、非劣性のp=0.32)。
試験薬投与から挿管成功までの平均時間は、レミフェンタニル群が2.5分(SD 1.0)、神経筋遮断薬群も2.5分(SD 1.2)であった(補正後平均群間差:0.0分、95%CI:-0.1~0.2)。術後7日の時点での肺炎の発生率は、それぞれ0.5%および0.4%だった(0.1%、-0.5~0.7)。
重度の有害事象は、レミフェンタニル群が2.1%、神経筋遮断薬群は0.5%で発現した(補正後群間差:1.8%、95%CI:0.4~3.2)。また、血行動態不安定が、それぞれ3.3%(19/575例)および0.5%(3/575例)で認められた(2.8%、1.2~4.4)。
著者は、「レミフェンタニルの効果は神経筋遮断薬よりも統計学的に有意に劣っていたが、効果推定値の信頼区間が広いため、非劣性の可能性が残されており、両群の差の臨床的妥当性について結論するには限界がある」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)