オピオイド使用障害の患者では、「リスク軽減ガイダンス(Risk Mitigation Guidance; RMG)」に基づくオピオイド処方により、過剰摂取による死亡および全死因死亡の発生率が有意に低下し、違法薬物に代わる医薬品の提供は有望な介入策となる可能性があることが、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学のAmanda Slaunwhite氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2024年1月10日号で報告された。
カナダ・ブリティッシュコロンビア州の後ろ向きコホート研究
研究グループは、RMGに基づくオピオイド(モルヒネ)および精神刺激薬(デキストロアンフェタミン、メチルフェニデート)の処方が、薬物の過剰摂取と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)という公衆衛生上の二重の緊急事態下に、死亡と急性期治療のための受診に及ぼした影響を明らかにする目的で、住民ベースの後ろ向きコホート研究を行った(カナダ健康研究所[CIHR]などの助成を受けた)。
2020年3月27日~2021年8月31日に、カナダ・ブリティッシュコロンビア州で、RMG処方としてオピオイド(5,356例、年齢中央値38歳、女性36.4%)または精神刺激薬(1,061例、39歳、38.5%)の処方を受けたオピオイド使用障害または精神刺激薬使用障害の患者5,882例(535例が両方の処方を受けた)を解析に含めた。
RMG精神刺激薬処方では予防効果はない
高次元傾向スコアマッチング法による解析では、RMGに基づく1日分以上のオピオイド処方を受けた患者(5,356例)は、同処方を受けていない対照群の患者(5,356例)と比較して、処方日から1週間以内の全死因死亡率(補正後ハザード比[HR]:0.39、95%信頼区間[CI]:0.25~0.60)および過剰摂取関連死亡率(0.45、0.27~0.75)が有意に低かった。
一方、RMGに基づく1日分以上の精神刺激薬処方を受けた患者(1,061例)と、同処方を受けていない対照群の患者(1,061例)の比較では、1週間以内の全死因死亡率(補正後HR:0.50、95%CI:0.20~1.23)および過剰摂取関連死亡率(0.53、0.18~1.56)の低下について、いずれも有意差を認めなかった。
また、RMGオピオイド処方による1週間以内の死亡の予防効果は、特定の週に処方された薬剤の日数が多いほど高くなった。RMGオピオイド処方を4日分以上受けた患者は、対照群と比較して、全死因死亡(補正後HR:0.09、95%CI:0.04~0.21)および過剰摂取関連死亡率(0.11、0.04~0.32)が有意に低下し、いずれも1日分以上の処方よりも優れた。
RMG精神刺激薬処方は全原因による急性期受診を抑制
RMGオピオイド処方は、あらゆる要因による急性期治療のための受診(オッズ比[OR]:1.02、95%CI:0.95~1.09)および過剰摂取による急性期治療のための受診(1.09、0.93~1.27)のいずれにも有意な変化をもたらさなかった。
また、RMG精神刺激薬処方は、あらゆる要因による急性期受診(OR:0.82、95%CI:0.72~0.95)を有意に低下させたが、過剰摂取による急性期受診(0.88、0.63~1.23)には影響しなかった。
著者は、「RMG処方を受けた人々の多くは、不安定な住宅事情と貧困の割合が不釣り合いに高いことから、劣悪な健康状態への寄与が示されている重層的で複雑な社会的・経済的な不平等を経験していることが示唆される」としている。
(医学ライター 菅野 守)