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EGFR陽性NSCLCへのオシメルチニブ、RECIST PDで中止すべき?(REIWA)

 EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がん(NSCLC)治療では、オシメルチニブが広く用いられているが、RECISTに基づく病勢進行(RECIST PD)後の臨床経過や治療実態は明らかになっていない。そこで、1次治療としてオシメルチニブを用いたEGFR遺伝子変異陽性患者を前向きに追跡する多施設共同観察研究(REIWA)が実施された。本研究において、オシメルチニブは実臨床においても既報の臨床試験と同様の有効性がみられたが、臨床的に安定した患者ではRECIST PD後にオシメルチニブを継続した場合、中止した場合と比べてRECIST PD後の全生存期間(OS)が短かった。本研究結果は、渡邊 景明氏(都立駒込病院)らによって、JTO Clinical and Research Reports誌2024年8月23日号で報告された。 本研究は、2018年9月~2020年8月の期間に1次治療として、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬による治療を受けたEGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者660例のうち、オシメルチニブによる治療を受けた583例を対象とした。対象患者をRECIST PD時の病勢進行の部位(中枢神経のみ、オリゴ転移、複数臓器)、症状・全身状態(無症状、有症状かつ臨床的増悪なし、臨床的増悪あり)で分類し、臨床経過および治療実態を検討した。また、RECIST PD後にオシメルチニブを継続した患者(継続群)と中止した患者(中止群)を比較した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者583例におけるOS中央値は41.0ヵ月、無増悪生存期間(PFS)中央値は20.0ヵ月であった。・EGFR遺伝子変異別にみたOS中央値は、exon19欠失変異群が44.2ヵ月、exon21 L858R変異群が36.1ヵ月であり、exon19欠失変異群が有意に長かった(ハザード比[HR]:0.63、95%信頼区間[CI]:0.48~0.81、p=0.0004)。PFS中央値は、それぞれ23.5ヵ月、16.9ヵ月であり、exon19欠失変異群が有意に長かった(同:0.68、0.56~0.84、p=0.0002)。・RECICT PDは344例に認められ、部位別にみると中枢神経のみが37例(10.8%)、オリゴ転移が156例(45.4%)、複数臓器が151例(43.9%)であった。症状・全身状態別にみると無症状が195例(56.7%)、有症状かつ臨床的増悪なしが73例(21.2%)、臨床的増悪ありが76例(22.1%)であった。・RECIST PD後もオシメルチニブを継続したのは163例(47.4%)であった。・臨床的増悪のない集団(247例)を対象として、RECIST PD後のオシメルチニブ継続の有無別にみた場合のRECIST PD後のOS中央値は、継続群が13.2ヵ月、中止群が24.0ヵ月であり、継続群は中止群と比べて有意にRECIST PD後のOSが短かった(HR:2.01、95%CI:1.38〜2.91、p=0.0002)。・2次治療として化学療法による治療を実施した患者は、継続群が63例(38.7%)、中止群が114例(63.3%)であった。

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寛解期の双極症I型患者の性機能は~横断的研究

 双極症(BD)は、生涯を通じた性機能低下などのいくつかの課題を伴う慢性的な精神疾患である。BD患者において、QOL、機能性、服薬順守は重要であるにもかかわらず、これまであまり調査されていなかった。ブラジル・バイーア連邦大学のJuliana Socorro Casqueiro氏らは、寛解期の双極症I型(BD-I)患者の性機能について、健康対照群と比較を行い、BD-I患者の性機能に関連する臨床的および社会人口統計学的特徴を調査した。また、性機能障害の有無によるQOLへの影響も併せて調査した。Trends in Psychiatry and Psychotherapy誌オンライン版2024年7月31日号掲載の報告。 寛解期BD-I患者132例および外来クリニックにおける健康対照群61例を対象に、横断的研究を実施した。性機能の評価にはArizona Sexual Scale(ASEX)、QOLの評価にはWHOQoL-BREFを用いた。BD-I群と健康対照群の比較を行った。BD-I群は、性機能障害の有無により2群に分類した。 主な結果は以下のとおり。・BD-I群の性機能障害有病率は、健康対照群よりも高かった(42.4% vs.16.4%、オッズ比:3.67、95%信頼区間:1.55~8.67、p=0.003)。・BD-I患者の性機能障害と関連していた因子は、女性(p=0.001)、高齢(p=0.003)、未治療期間の長さ(p=0.010)であった。・性機能障害を有するBD-I患者は、そうでない患者と比較し、QOLスコアが不良であった。 著者らは「BD-I患者は、性機能障害の有病率が高く、これがさまざまなQOLスコアの低下と関連していることが示唆された」とまとめている。

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NCCNガイドライン推奨の分子標的薬、臨床的有用性は?/BMJ

 精密医療に基づく腫瘍学(precision oncology)は、とくに進行性の治療抵抗性症例に対するがん治療を変革しつつあるが、多くの遺伝子変異の臨床的重要性は依然として不明とされる。米国・ハーバード大学医学大学院のAriadna Tibau氏らは、National Comprehensive Cancer Network(NCCN)が推奨する分子標的とゲノム標的がん治療薬を、欧州臨床腫瘍学会(ESMO)の2つの枠組みを用いて評価し、固形がんに対するゲノムに基づく治療薬のうち、患者に高い臨床的有益性をもたらす可能性があるのは約8分の1で、約3分の1は有望ではあるが実質的な有益性は証明されていないことを示した。研究の詳細は、BMJ誌2024年8月20日号で報告された。標的の有効性と治療薬の臨床的有益性を横断研究で評価 研究グループは、NCCNが実臨床で推奨しているゲノム標的がん治療薬とその分子標的について、臨床的有益性と有効性を評価する目的で横断研究を行った(Kaiser Permanent Institute for Health Policy and Arnold Venturesなどの助成を受けた)。 NCCNガイドラインが進行がんに対して推奨しているゲノム標的がん治療薬を対象とした。分子標的の有効性は、ESMO-Scale for Clinical Actionability of Molecular Targets(ESCAT、レベルI~Xの10段階、レベルが低いほど有効性のエビデンスが高度)を用いて評価し、ゲノム標的がん治療薬の臨床的有益性(効果、有害事象、生活の質のデータに基づく)の評価には、ESMO-Magnitude of Clinical Benefit Scale(ESMO-MCBS)を使用した。 実質的な臨床的有益性(ESMO-MCBSのグレード4または5)を示し、ESCATカテゴリーのレベルIに該当する分子標的を有する薬剤を有益性の高いゲノムに基づくがん治療と判定した。また、ESMO-MCBSのグレードが3で、ESCATカテゴリーのレベルIに該当する分子標的を有する薬剤は、有望ではあるが有益性は証明されていないがん治療と判定した。FDA承認は60%、第I/II相78%、単群試験76% 50のドライバー変異を標的とする74のゲノム標的薬に関する411件の推奨について調査した。411件の推奨のうち、米国食品医薬品局(FDA)の承認を得ていたのは246件(60%)で、165件(40%)は適応外使用であった。 薬剤クラスは、低分子の阻害薬が286件(70%)、免疫療法薬が66件(16%)、抗体製剤が37件(9%)、抗体薬物複合体が14件(3%)だった。がん種は、肺がんが83件(20%)、乳がんが49件(12%)、大腸がんが17件(4%)、前立腺がんが5件(1%)であった。 ほとんどの推奨(346/411件[84%])は、さまざまな相の臨床試験に基づいていたが、16%(65/411件)は症例報告または前臨床研究のみに依存していた。多くの臨床試験は、第I相または第II相(271/346件[78%])であり、単群試験(262/346件[76%])が多かった。また、主要評価項目は、多くが全奏効率(271/346件[78%])であり、生存率は3%(12/346件)だった。NCCNガイドラインは実臨床で重要な役割 ESCATのレベルIは60%(246/411件)であり、レベルIIまたはIIIは35%(142/411件)、レベルIV~Xは6%(23/411件)であった。また、ESMO-MCBSのスコア化が可能であった267試験では、実質的な臨床的有益性(グレード4/5)を示したのはわずか12%(32/267試験)で、グレード3は45%(121/267試験)だった。 これら2つの枠組みを組み合わせると、約8分の1(12%[32/267試験])の試験が高い有益性を、約3分の1(33%[88/267試験])は有望ではあるが証明されていない有益性を示した。また、NCCNガイドラインが、好ましいとして支持する118個の介入のうち、62個(53%)が高い有益性または有望ではあるが証明されていない有益性を有する治療に分類され、これらの治療はFDAの承認を得る可能性が高かった(61% vs.16%、p<0.001)。 著者は、「このようにNCCNの推奨と期待される臨床的有益性との一致を確認することは、エビデンスベースのゲノムに基づく治療決定を促進するためにきわめて重要である」とし、「ESMO-MCBSやESCATのような有益性の評価の枠組みは、どのゲノム標的治療が最も質の高いエビデンスに裏付けられているかを見極めるのに役立つ」と述べ、「NCCNガイドラインは実臨床において重要な役割を果たしており、今後ともNCCNの推奨の改善に注力する必要がある」としている。

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認知症リスクを高める修正可能な因子、2つが追加

 新たな研究により、認知症発症のリスクを高める修正可能なリスク因子のリストに、視力喪失と高コレステロールの2つが加えられた。研究グループは、いずれの因子も予防が可能であるとし、その具体的な方法もアドバイスしている。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のGill Livingston氏らが中心となって、認知症の予防や介入、ケアに関する最新の研究や取り組みを取りまとめた、今回で3報目となるこの報告書は、「Dementia prevention, intervention, and care 2024」として、「The Lancet」に7月31日掲載された。 Livingston氏は、「本研究は、認知症リスクを抑制するためにできることやするべきことは、まだたくさんあることを明らかにした。行動を起こすのに早過ぎることも遅過ぎることもない。人生に影響を与えるチャンスは常にある」とUCLのニュースリリースで述べている。さらに同氏は、「リスクにさらされる時間が長ければ長いほど、その影響は大きくなること、また、リスクは脆弱な人においてより強く作用するということに関するさらに強力なエビデンスが得られた。だからこそ、予防を最も必要とする人に対して、予防の努力を倍加させることが不可欠なのだ」と主張している。 前回の2020年の報告書では、認知症のリスク因子として12因子が特定されていた。それらは、教育不足、頭部外傷、運動不足、喫煙、過度の飲酒、高血圧、肥満、糖尿病、難聴、うつ病、社会的孤立、大気汚染である。今回は、最新のエビデンスに基づき、これらの12因子に新たに40代頃からの高LDLコレステロール(悪玉コレステロール)値と視力喪失が追加された。 今回の研究では、世界中で認知症発症との関連が最も強いのは難聴と高LDLコレステロール値であり、これらの因子を予防することで、それぞれ認知症の発症を7%ずつ予防できるものと推定された。次いで関連が強かったのは、人生早期における教育不足と社会的孤立で、それぞれ認知症の発症を5%ずつ予防できると推定された。 Livingston氏は、「定期的な運動、禁煙、中年期の認知活動(正式な教育以外も含む)、過度の飲酒を避けるなどの健康的なライフスタイルは、認知症リスクを低下させるだけでなく、認知症の発症を遅らせる可能性がある。つまり、いつか認知症を発症するにしても、認知症患者として生きる年数を短くできる可能性が高いということだ。このことは、個人の生活の質(QOL)に対して大きな影響を及ぼすだけでなく、社会的に見ても大幅なコスト削減につながる」と話す。 一方、新たに加わった2つのリスク因子について研究グループは、医師に対し、中年期以降にコレステロール値が上昇する人を見つけ出して治療することを促すとともに、視力低下のスクリーニングと治療をより身近なものにするよう求めている。 大気汚染が認知症のリスク因子であることはあまり知られていないが、2023年に発表された研究では、米国で毎年18万8,000件近くの認知症が大気汚染によって引き起こされている可能性があると推定されている。さらに、山火事の煙に曝露すると認知症の診断リスクが高まる可能性があるとする研究結果も、米フィラデルフィアで開催されたアルツハイマー病協会年次総会で発表されている。この研究を率いた米ペンシルバニア大学神経学分野のHolly Elser氏は、「山火事は日常生活を大混乱に陥れるため、そのストレスや不安、日常生活の崩壊が、未診断の認知症を露わにすることがあるのではないか」とCBSニュースに対して語っている。

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高身長とがんリスク~東アジア人での関連

 身長とがんリスクの関連が示唆されているが、ほとんどの研究は欧米人を対象としておりアジア人を対象とした研究は少ない。今回、中国・Fudan UniversityのYougen Wu氏らが中国人の前向きコホートで解析したところ、高身長ががん全体、肺がん、食道がん、乳がん、子宮頸がんのリスクと有意に関連していた。さらに、中国・日本・韓国のデータを用いたメンデルランダム化解析により、高身長が肺がんおよび胃がんのリスク因子である可能性が示唆された。Cancer Epidemiology誌2024年10月号に掲載。 本研究では、中国のChina Kadoorie Biobank(CKB)前向きコホートのデータを用いて観察的解析を実施し、調整後のハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)をCox比例ハザードモデルを用いて推定した。また、CKB、日本のBiobank Japan、韓国のKorean Genome and Epidemiology Studyのデータを用いた2標本メンデルランダム化解析により身長とがんの因果関係を検討した。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値10.1年で2万2,731例にがんが発生した。・観察的解析では、ボンフェローニ補正後、身長10cm増加当たりのHRは、がん全体で1.16(95%CI:1.14~1.19、p<0.001)、肺がんで1.18(同:1.12~1.24、p<0.001)、食道がんで1.21(同:1.12~1.30、p<0.001)、乳がんで1.41(同:1.31~1.53、p<0.001)、子宮頸がんで1.29(同:1.15~1.45、p<0.001)で、身長が高いとリスクが有意に上昇した。また、悪性リンパ腫で1.18(同:1.04~1.34、p=0.010)、大腸がんで1.09(同:1.02~1.16、p=0.010)、胃がんで1.07(同:1.00~1.14、p=0.044)で、リスク上昇が示唆された。・メンデルランダム化解析では、遺伝的に予測される身長の1標準偏差(8.07cm)増加当たりのオッズ比は、肺がんで1.17(95%CI:1.02~1.35、p=0.0244)、胃がんで1.14(同:1.02~1.29、p=0.0233)で、高身長でリスク上昇が示唆された。

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アートやクラフトの制作は心の健康に良い影響を与える

 絵画や彫刻、陶芸のような創造的・創作的な趣味は、心の健康を維持するという点では仕事と同等以上の効果を持つ可能性のあることが、英国の新たな研究で明らかになった。論文の筆頭著者である英アングリア・ラスキン大学のHelen Keyes氏は、「クラフト制作やアーティスティックな活動は、人々の人生に対する価値観を予測する上で有意に影響することが示された」と述べている。この研究の詳細は、「Frontiers in Public Health」に8月16日掲載された。 この研究では、英国のデジタル・文化・メディア・スポーツ省が毎年実施している調査「Taking Part Survey」への2019〜2020年の参加者7,182人のデータが解析された。調査参加者は年齢、性別、居住地の郵便番号(重複剥奪指標〔IMD〕を調べるため)、健康状態、雇用状況などのほか、過去12カ月間に絵画やドローイング、彫刻、写真撮影、刺繍、パソコンでの音楽やアートの制作、陶芸などのアートやクラフトの制作(creating arts and crafting;CAC)を行ったか否かを尋ねられていた。また、4つの質問で構成された評価尺度により主観的なウェルビーイング(人生に対する満足度・価値観、幸福感、不安)、1項目の質問により孤独感の評価が行われていた。 対象者の37.4%が過去12カ月の間にCACを1種類以上行っていた。解析の結果、過去12カ月間におけるCACの実施、健康状態、年齢増加、居住地域の豊かさは人生に対する満足度を予測する重要な因子であり、中でもCACは居住地域の豊かさよりも強く影響することが明らかになった。また、CACは人生に対する価値観や幸福感にも有意な影響を与え、人生に対する価値観に対しては雇用状況と同等以上の影響を及ぼすことが示された。一方で、CACは孤独感や不安には有意な影響を与えていなかった。 Keyes氏はこれらの結果について、「CACが主観的ウェルビーイングにもたらす影響は、雇用状況や貧困レベルなどを考慮した後でも確認された。つまりCACは、雇用状況などの他の側面を超えて、幸福感にプラスの影響を与える可能性がある」と「Frontiers in Public Health」誌のニュースリリースの中で述べている。また同氏は、「CACの影響は雇用状況が与える影響よりも強かった。これは、CACが達成感をもたらすだけでなく、自己表現への有意義な手段でもあるためだろう。仕事は、必ずしも自己表現の手段となるわけではない」と述べている。 ただし、本研究は関連性を示すことのみを目的として設計されているため、CACと主観的ウェルビーイングの因果関係が証明されたわけではない。 Keyes氏は、自身の生活の中でも熱心にアート制作やDIYを行っているとし、「自分の仕事の成果が目の前に現れるのは、確かに大きな満足感をもたらす。一つの作業に集中し、創造的に頭を働かせるのは素晴らしい体験だ」と話す。そして、「本研究の結果を受け、政府や国の保健サービスは、ウェルビーイングとメンタルヘルスの促進と予防のアプローチの一環として、クラフト活動への資金提供とその促進、あるいはリスクのある人々へのこうした活動の社会的処方を検討するかもしれない」と話している。

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ポケジェリ―AGS高齢者診療マニュアル

あなたのポケットにジェリアトリクス(老年医学)を!本書は、米国老年医学会(American Geriatrics Society)が刊行する、“Geriatrics At Your Fingertips”の翻訳版です。日本の超高齢社会において、すべての医師は老年医学のマインドセットを身につける必要があります。すなわち、内科学、総合診療を根幹におき、高齢者一人ひとりの尊厳を大切にする視点、特有の問題や複雑な症状を見極める洞察力、最適な薬剤・治療法を選択する判断力を加えた老年医学の考え方です。翻訳では全面的な薬剤監修も実施し、丁寧な日本化を試みました。実践で使いこなしながら学べる1冊になっています。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大するポケジェリ―AGS高齢者診療マニュアル定価6,930円(税込)判型B6変判頁数472頁発行2024年8月編著者山田 悠史(Brookdale Department of Geriatrics and Palliative Medicine, Icahn School of Medicine at Mount Sinai)原田 洸(Brookdale Department of Geriatrics and Palliative Medicine,  Icahn School of Medicine at Mount Sinai)榎本 貴一(練馬光が丘病院 薬剤室)ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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第111回 増えるマイコプラズマ肺炎、今年のマクロライド耐性率は?

増えるマイコプラズマ肺炎マイコプラズマ肺炎は、基幹定点医療機関において週ごとに報告される5類感染症です。新型コロナやインフルエンザと比べると報告義務のある医療機関はかなり少なくなります。さて、感染症発生動向調査週報2024年第31・32週(第31・32合併号)において、2016年と同じくらいの流行に陥っていることが示されました(図1)1)。定点当たりの報告数としては新型コロナほどではないのですが、マイコプラズマ気管支炎や咽頭炎などは報告数に入っておらず、肺炎が対象となっているので、水面下にはそれなりの感染者数がいると認識したほうがよいでしょう。画像を拡大する図1. マイコプラズマ肺炎の定点医療機関当たりの報告数(参考文献1より引用)マクロライド耐性率15年ほど前に、マクロライド耐性マイコプラズマが流行したことを覚えているでしょうか2)。といっても、これを読んでいるのがアラフォー・アラフィフばかりとは限らないので、その事実を知らない読者のほうが多いかもしれません。私の研修医時代はあまりそういう話はなかったのですが、5年10年経つと「マクロライド耐性」がやたら騒がれるようになって、いつの間にか8割以上がマクロライド耐性になっていました。当時、時折開かれる感染症セミナーでも、専門家の方々が「耐性化がハンパない」と連呼していましたが、結局思ったほど流行せず、しかもその後は徐々に耐性率は下がっていきました3)。この背景として、遺伝子型の違いが挙げられます。Mycoplasma pneumoniaeの細胞接着タンパク(P1)の遺伝子型は1型と2型があり、この2つは10~20年ごとに交互に流行するという傾向があります(図2)4)。1990年代は2型が優勢で、マクロライド耐性率は低かったようです。2001~16年あたりまでは1型菌が優位になっていたのですが、マクロライドの曝露を受けたことによって、この1型菌たちが耐性化したのではないかと考えられています。最近、中国で分離されたM. pneumoniaeのp1遺伝子型の頻度が報告されています5)。この報告では、1型菌が明らかに優勢で、全体の約4分の3を占めていたとされています。1型菌は当然ながらマクロライド耐性遺伝子を有していたのですが、驚いたのは2型菌もすべてマクロライド耐性遺伝子を持っていたことです(1型:54株すべてがA2063G変異、2型:3株がA2063G変異陽性・1株がA2064G変異陽性、2c型:13株すべてA2063G変異陽性)。画像を拡大する図2. M. pneumoniae分離株の遺伝子型とマクロライド耐性率の年別推移(参考文献4より引用)日本では2017年以降、2型菌が優勢となっていて、M. pneumoniaeのマクロライド耐性率が低減したとされています。上述した中国の報告を考慮すると、2型菌とて安心できるわけではないのかもしれません。また、地域によって耐性率に差があります。米国疾病予防管理センター(CDC)のウェブサイトによると、マクロライド耐性率はカナダで12%、中国で80%(上記の研究は100%でしたが)、ヨーロッパは5%(イタリアは20%)、日本は50%以上(上述したように時期によって変動があります)、アメリカは10%と記載されています6)。とはいえ、日本呼吸器学会の『成人肺炎診療ガイドライン2024』7)の中には、「マイコプラズマ肺炎は軽症例が多く、マクロライド耐性株が数十パーセント存在するがマクロライド系薬の有効性は示されている」と書かれており、“初手アジスロマイシン”はとくに否定されるものではないと考えられます。各医療機関、コロナ禍で検査技術が進展し、蛍光標識プローブ(Qプローブ)などでマクロライド耐性遺伝子があるかどうか判定できるようになりました。成人の場合、最初からテトラサイクリンやキノロンを用いる戦法だけでなく、アジスロマイシンなどのマクロライド系抗菌薬の治療失敗を早めに判断してスイッチすることも検討されます。ただし小児においては、使用する必要があると判断される場合、トスフロキサシンあるいはテトラサイクリン系薬の投与を考慮しますが、8歳未満には、テトラサイクリン系薬は原則禁忌です。参考文献・参考サイト1)感染症発生動向調査週報2024年第31・32週(第31・32合併号)2)Kawai Y, et al. Nationwide Surveillance of Macrolide-Resistant Mycoplasma pneumoniae Infection in Pediatric Patients. Antimicrob Agents Chemother. 2013 Aug;57(8):4046-4049.3)Kenri T, et al. Periodic Genotype Shifts in Clinically Prevalent Mycoplasma pneumoniae Strains in Japan. Front Cell Infect Microbiol. 2020 Aug 6;10:385.4)見理剛. 肺炎マイコプラズマの遺伝子型別法と薬剤耐性の動向. IASR. 2024 Jan;45:6-8.5)Chen Y, et al. Increased macrolide resistance rate of Mycoplasma pneumoniae correlated with epidemic in Beijing, China in 2023. Front Microbiol. 2024 Aug 6;15:1449511.6)CDC. Mycoplasma pneumoniae Infection Surveillance and Trends7)日本呼吸器学会. 成人肺炎診療ガイドライン2024. メディカルレビュー社.

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座位行動による健康への悪影響は運動で相殺可能

 毎日8時間以上、座ったまま過ごしている糖尿病の人でも、ガイドラインが推奨する身体活動量を満たしていれば、健康への悪影響を大きく抑制できることが報告された。米コロンビア大学メイルマン公衆衛生大学院のSandra Albrecht氏、Wen Dai氏による研究であり、詳細は「Diabetes Care」に7月19日掲載された。Albrecht氏は、「この研究結果は、オフィスワーカーやタクシードライバーなどの職業柄、長時間座り続ける必要のある人々に対して、習慣的な身体活動を推奨することの重要性を示している」と述べている。 この研究では、成人糖尿病患者の座位行動時間と全死因による死亡リスク、および心臓病による死亡リスクとの関連に対して、身体活動量がどの程度の影響を及ぼし得るかが検討された。2007~2018年の米国国民健康栄養調査(NHANES)の参加者のうち糖尿病を有する成人6,335人を2019年まで追跡。ベースライン時の自己申告に基づく座位行動時間および中~高強度身体活動(MVPA)の時間と死亡リスクとの関連を、Coxハザードモデルで解析した。社会人口統計学的因子、生活習慣、および疾患管理状況の影響は、統計学的に調整した。 解析対象者の主な特徴は、平均年齢が59.6歳、女性48.3%で、非ヒスパニック系白人が61%であり、糖尿病の罹病期間は約半数は5年以下である一方、34%は10年以上だった。身体活動量については、週当たりのMVPAが10分未満の人が38%を占めていた。 中央値5.9年の追跡で、全死因による死亡が1,278件記録されていて、そのうち354件が心臓病による死亡だった。身体活動量が極端に少ない群(MVPAが週10分未満)や不足している群(同10~150分未満)では、座位行動時間が長いほど全死因による死亡および心臓病による死亡リスクが高いという関連が認められた。しかし、身体活動量の多い群(同150分以上)では有意な関連がなく、身体活動量の多寡による有意な交互作用が確認された(全死因による死亡については交互作用P=0.003、心臓病による死亡についてはP=0.008)。 また、1日の座位行動時間が4時間未満の群に比べて8時間以上の群では、MVPAが150分未満の場合に、全死因による死亡と心臓病による死亡の双方のリスクが高かった。しかしMVPAが150分以上の場合は、いずれの死亡についても有意なリスク上昇は認められなかった。このほかに、MVPAが多いことは、特に心臓病による死亡リスクをより大きく抑制する傾向が認められた。 論文の筆頭著者であるDai氏は、「糖尿病が蔓延している現状と、成人糖尿病患者では座位行動時間が長く身体活動量が少ない傾向のあることを考え合わせると、このハイリスク集団に対する死亡リスク抑制のための介入が急務である」と、身体活動をいっそう強く奨励する必要性を強調している。なお、米疾病対策センター(CDC)は、中強度の身体活動にはウォーキングや水中エアロビクス、ダブルスのテニス、庭の手入れなどが含まれ、ランニングや水泳、自転車での高速走行、シングルスのテニス、バスケットボールなどは高強度運動に該当するとしている。

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ワルファリン時代vs.DOAC時代、日本の実臨床でのVTE長期転帰

 静脈血栓塞栓症(VTE)に対し、実臨床で直接経口抗凝固薬(DOAC)が使用されるようになって以降、ワルファリン時代と比較した長期転帰には実際どのような変化があるのだろうか。京都大学の金田 和久氏らは、急性の症候性VTE患者を対象とした多施設共同観察研究COMMAND VTE Registryから、ワルファリン時代とDOAC時代のデータを比較し、結果をJournal of the American College of Cardiology誌2024年8月6日号に報告した。 本研究では、COMMAND VTE Registryから、ワルファリン時代(2010~14年)の連続3,027症例(29施設)を登録したレジストリ1と、DOAC時代(2015~20年)の連続5,197症例(31施設)を登録したレジストリ2のデータが用いられた。 主な結果は以下のとおり。・DOACの使用率はレジストリ1:2.6% vs.レジストリ2:79%であった(p<0.001)。・レジストリ2における5年間のVTE累積再発率はレジストリ1よりも有意に低く(10.5% vs.9.5%、p=0.02)、そのリスク低下は交絡因子による調整後も有意であった(ハザード比[HR]:0.78、95%信頼区間[CI]:0.65〜0.93、p=0.005)。・2つのレジストリ間で5年間の大出血累積発生率に有意差は認められなかった(12.1% vs.13.7%、p=0.26)。交絡因子による調整後も、大出血リスクに有意差は認められなかった(HR:1.04、95%CI:0.89~1.21、p=0.63)。 著者らは、ワルファリンからDOACへの移行に伴い、VTEの再発リスクが低下した一方、大出血リスクに明らかな変化はなく、DOAC時代でも依然として満たされていないニーズとなっている可能性があると考察している。

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コーヒーや紅茶の摂取と認知症リスク~メタ解析

 コーヒー、紅茶、カフェイン摂取と認知症およびアルツハイマー病リスクとの関連性は、限定的で相反する結果が示されている。中国・汕頭大学のFengjuan Li氏らは、これらの関連性を明らかにするため、潜在的な用量反応関係を定量化することを目指し、メタ解析を実施した。Food & Function誌2024年8月12日号の報告。 2024年6月11日までの公表されたコホート研究を、PubMed、EMBASE、Web of Scienceより検索した。ランダム効果モデルを用いて、プールされた相対リスク(RR)および95%信頼区間(CI)を算出した。用量反応関係の評価には、制限付き3次スプラインを用いた。バイアスリスクの評価には、GRADE(Grading of Recommendations Assessment Development and Evaluation)ツールを用いた。 主な結果は以下のとおり。・38件のコホート研究より、合計75万1,824人(認知症:1万3,017人、アルツハイマー病:1万7,341人)の対象者が抽出された。・認知症の場合、紅茶、コーヒー、カフェイン摂取の最低群と比較した最高群のプールされたRRは、次のとおりであった。【紅茶】RR:0.84、95%CI:0.74~0.96、6件、確実性:低い【コーヒー】RR:0.95、95%CI:0.87~1.02、9件、確実性:低い【カフェイン】RR:0.94、95%CI:0.70~1.25、5件、確実性:低い・同様に、アルツハイマー病のプールされたRRは、次のとおりであった。【紅茶】RR:0.93、95%CI:0.87~1.00、6件、確実性:低い【コーヒー】RR:1.01、95%CI:0.90~1.12、10件、確実性:低い【カフェイン】RR:1.34、95%CI:1.04~1.74、2件、確実性:非常に低い・用量反応分析では、コーヒー摂取量と認知症リスクとの間に、非線形関係が認められ(Poverall=0.04、Pnonlinear=0.01)、1日当たり1~3杯のコーヒー摂取と認知症リスクとの保護的な関連が示唆された。・紅茶の摂取量と認知症リスクとの間には、線形関係が認められ、紅茶の摂取量が1日1杯増加するごとに認知症リスクの有意な低下が認められた(RR:0.96、95%CI:0.94~0.99、Poverall=0.01、Pnonlinear=0.68)。 著者らは「紅茶の摂取量増加は、認知症およびアルツハイマー病リスクの低下と関連しており、コーヒーでは非線形の関連が認められた。これは、認知症予防に関する公衆衛生の推奨事項を裏付けている」とまとめている。

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ICU入室前のソーシャルサポートは退室後の抑うつと関連

 集中治療室(ICU)で治療を受けた患者を対象とする単施設前向きコホート研究の結果、ICU入室前のソーシャルサポートが少ないほど、ICU退室後の抑うつが生じやすいことが明らかとなった。駒沢女子大学看護学科の吉野靖代氏らによる研究であり、「BMJ Open」に6月19日掲載された。 ICU在室中・退室後、退院後に生じる認知・身体機能の障害やメンタルヘルスの問題は、集中治療後症候群(post-intensive care syndrome;PICS)と呼ばれる。集中治療の進歩により患者の生存率は向上している一方で、PICSによりQOLが低下し、元の生活に戻ることのできない患者も多い。メンタルヘルスに関しては、がん患者や心疾患患者を対象とした研究で、ソーシャルサポートと抑うつの軽減との関連が報告されている。ただ、ICU患者におけるソーシャルサポートとICU退室後のメンタルヘルスに関しては、研究結果が一貫していなかった。 そこで著者らは今回、2020年12月から2022年6月の期間に、国内1施設のICU(内科・外科8床)に2日間以上在室した患者で、中枢神経疾患や精神疾患などの患者を除いた153人を対象とし、ICU入室前のソーシャルサポート(ICU入室2日後から退室2週後の間に調査)と、ICU退室3カ月後の心的外傷後ストレス障害(PTSD)症状、不安、抑うつ症状との関連を検討した。ソーシャルサポートは「Duke Social Support Index(DSSI-J)」、PTSD症状は「Impact of Event Scale-Revised(IES-R)」、不安と抑うつ症状は「Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS)」という自記式質問票を用いて評価した。 ICU退室3カ月後の追跡調査データの得られた解析対象患者は115人であり、年齢中央値は74.0歳(四分位範囲64.5~80.0歳)、男性が61人(53.0%)だった。患者の73.9%が予定手術のため入院し、57.3%が心臓手術のためICUに入室した。ICU在室日数の中央値は7日(四分位範囲5~8日)だった。ICU退室3カ月後、PTSDの疑いのある人の割合は11.3%、不安症状のある人は14.0%、抑うつ症状のある人は24.6%だった。 PTSD症状、不安、抑うつ症状について、説明変数をソーシャルサポート尺度とし、年齢、性別、教育年数を調整した多変量線形回帰分析を行った。その結果、PTSD症状および不安症状の重症度とソーシャルサポートに関連は認められなかった。しかし、抑うつ症状に関しては、ソーシャルサポート(β=-0.018、95%信頼区間-0.029~-0.006、P=0.002)は、抑うつ症状の重症度と独立して関連することが明らかとなった。また、抑うつ症状とソーシャルサポートとの関連には性差が認められ、男性の方が関連は強かった(交互作用P=0.056)。 今回の研究結果から著者らは、「ICU入室前のソーシャルサポートは、ICU退室後の抑うつ症状と関連するが、PTSD症状とは関連しなかった」と総括している。女性は抑うつと関連していた一方で、ソーシャルサポートが少ない男性は女性よりも抑うつ症状を生じやすいことなどを指摘し、「ICU入室前のソーシャルサポートが少ない患者は、ICU退室後の抑うつ症状に注意する必要がある」と述べている。

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アルツハイマー病、生存期間・悪化速度・入院/入所までの期間は?【外来で役立つ!認知症Topics】第20回

アルツハイマー病(AD)者に関わる臨床医なら、自分の治療は本当にうまくいっているのかと、時に心配になるのではなかろうか? 少なくとも筆者はそうである。たとえば「どんどん進行している」とか「一向に良くならないばかりか悪化した」などの訴えがあると、「むむっ!」と口元がゆがむ。ご家族は、医療者が思うような認知機能テストやADLなど数値化できるものの変化でなく、暴言・暴力、幻覚や妄想、衝動性、BPSDなど出れば、ひどく悪化したと思いがちだ。だから、その訴えと医師側の評価とが乖離することは稀でない。とはいえ、何が臨床経過の客観的な指標であり、それぞれの指標はどの程度の率で変化するかを知っていることは、認知症治療者にとっての素養かもしれない。そこで成書やレビューなどに当たってみた。結果として、生存期間、認知機能の悪化速度、そして入院・入所までの期間が3大ポイントと考えた。認知症と生存期間認知症性疾患全体の生命予後のメタアナリシス1)によれば、認知症全体としての死亡率は、認知症のない者に比べて5.9倍も高い。認知症全体の平均では、発症年齢が68.1±7.0歳で、診断された年齢は72.7±5.9歳。そして、初発から死亡まで7.3±2.3年で、診断から死亡まで4.8±2.0年との由。ADでは、初発から死亡まで7.6±2.1年、診断から死亡までが5.8±2.0年とされる。注目すべきは、いわゆる4大認知症性疾患の中で、ADの生命予後が一番良いことだ。もっともメタアナリシスの対象は、私が対応する患者さんの年齢より、少し若いかなという印象がある。それはさておき、ADの診断がついた患者さんやその家族から、余命は何年か?の質問を筆者が受けたなら、以上のメタアナリシスの結果を参考にして4~8年程度と答える。MMSEやADAS-cogで認知症の進行速度を評価認知機能の評価尺度として、ミニメンタルステート(MMSE:30点満点)が最もよく研究されている。ある教科書2)によると、年間の点数変化は1.8から4.2と幅が大きい。その理由は、観察開始時の重症度がどうだったかによる。つまり開始時に軽度なら点数変化は小さく、重度なら大きい。最近の研究で、MMSE、ADAS-cogについて大人数(開始時769例)のMCI者を対象にした報告を読んだ3)。開始時のMMSE得点は平均で27.3±1.9であった。これが3年後には、対象が473例になり、そのMMSE得点は25.3±4.8になった。3年で300例ものドロップアウトがあるが、以上の結果を分析して、MMSEについて低下が小さい群では年間2~3点の低下、中程度低下群では年間6~7点としている。この結果は従来の報告をほぼ支持すると思われる。次にADAS-Cogが注目される。このオリジナル版は11項目により、総合的にADの認知機能を評価する70点満点の尺度であり、問題なしが0点、最重度が70点である。従来のAD治療薬の治験においては、一番よく用いられてきた。ADAS-Cogが公表された頃の中等度のADを対象にした研究によれば、本尺度の年間変化は平均8点前後とまとまっている。なお上記したMCI者を対象にしてMMSE、ADAS-cogを詳細に検討した研究3)では、ADAS-Cogの研究開始時の平均得点は14.1±8.8である。3年の追跡結果から、ADAS-Cogについて、小変化群で年間2点の増加、中程度の群で年間3~4点の増加としている。はじめはゆっくり、途中で加速、再びゆっくり以上より、MMSEとADAS-Cogの成績推移では、当初ADが軽度なら両者における得点変化も少ないが、進行すれば大きくなるとまとめられる。これに関して2点の追記が欠かせない。まずこれらの経時的な変化の仕方(形状)は直線的なものではない。図に示すようなシグモイド、すなわち当初ゆっくりと、途中から直線的に加速し、末期は再度ゆっくりと変化する形状と考えられている。次に臨床経過を考えるとき、Rapid Declinerと言われる悪化速度の速いAD患者の一群が存在することは以前から注目されてきた。そのような患者を捉えるうえで、たとえばMMSEが半年で3点(年間6点)以上の低下をしていくことと提案したものがある。このような進行の予測因子を知ることは、臨床家が患者・家族にアドバイスするうえで重要である2)。まず教育年数が高いと進行が速いと考えられている。次に幻覚や妄想など神経精神医学的な症状があると進行が速くなるとする意見が多い。もっとも、こうした症状自体ではなく症状に対して処方される抗精神薬等が問題ではないかという意見がある。一方で、発症年齢が若いほど進行も速いと考えられがちだが、これは確立していない。性別も確立したものではない。アポリポ蛋白E4(APOE4)があるとAD発症のリスクが高くなり、発症年齢も早まることは有名だが、進行予測の要因としては確立していない。また合併症の脳血管障害も確立していない。なお錐体外路徴候も以前は検討されたが、今日ではレビー小体型認知症(DLB)の疾患概念が浸透してADと鑑別がかなり正確になった。それだけに従来の知見はADとDLBの進行の差異を論じていたのかもしれない。入院・入所までの期間は?入所予測因子について80の報告をレビューしたものによれば、施設入所を予測する因子として、患者要因では認知機能の重篤度、日常生活動作の自立と依存の度合い、BPSD、そしてうつ病が重要であった4)。介護者要因として、情緒的ストレスの高さが指摘されている。系統的な報告ではないが、失禁、焦燥、歩行困難、徘徊と過活動そして夜間の不穏などが、介護者が述べる入所の決定要因として最も多いと述べた報告があった。この意見は臨床の場でわかりやすく、筆者は大いに頷く。参考1)Liang CS, et al. Mortality rates in Alzheimer's disease and non-Alzheimer's dementias: a systematic review and meta-analysis. Lancet Healthy Longev. 2021 Aug;2(8): e479-e488.2)Fleisher AS, Corey-Bloom J. The natural history of Alzheimer’s disease. In Ames D, Burns A, O’Brien J. Dementia 4th ed. Boca Raton:CRC Press;2010.p.405-416.3)Lansdall CJ, et al. Establishing Clinically Meaningful Change on Outcome Assessments Frequently Used in Trials of Mild Cognitive Impairment Due to Alzheimer's Disease. J Prev Alzheimers Dis. 2023;10:9-18.4)Gaugler JE, et al. Predictors of nursing home admission for persons with dementia. Med Care. 2009;47:191-198.

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糖類控えめの食生活は生物学的年齢の若さと関連

 添加糖類の摂取は老化を早める可能性があると、新たな研究が警告している。この研究では、食生活が健康的でも、添加糖類の摂取が1g増加するごとに生物学的年齢が上昇する可能性がある一方で、ビタミンやミネラル、抗酸化物質、抗炎症作用のある栄養素が豊富な食事は、生物学的年齢の若さと関連することが示されたという。米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)精神医学・行動科学分野教授のElissa Epel氏らによるこの研究の詳細は、「JAMA Network Open」に7月29日掲載された。 この研究では、National Heart, Lung, and Blood Institute Growth and Health Study (NGHS)への参加女性342人(黒人と白人がそれぞれ171人、平均年齢39.2歳)を対象に、食事パターンとエピジェネティック年齢(細胞や組織、臓器などの生物学的年齢)との関連が検討された。NGHSは研究開始時に9〜10歳だった白人または黒人の女児を登録して1987〜1999年にかけて心代謝の健康とその関連因子を調査した研究で、2015〜2019年に追跡調査が行われていた。 Epel氏らは、対象者の食事摂取記録から栄養と食品の平均摂取量を計算し、全体的な食事の質を評価した。この評価には、既存の代替地中海食(Alternate Mediterranean Diet;aMED)スコア、代替健康食指数(Alternate Healthy Eating Index;AHEI)とともに、研究グループが考案したエピジェネティック栄養指数(ENI)が用いられた。さらに、3日間の食事摂取記録から添加糖類の平均摂取量を、唾液のDNAメチル化プロファイルから第二世代のエピジェネティック時計の指標とされるGrimAge2を算出した。 対象者は、1日平均61.5gの添加糖類を摂取していたが、範囲は2.7gから316.5gと個人差が大きかった。解析の結果、aMEDスコア、AHEI、ENIが高いほどGrimAge2が低くなり、特にaMEDスコアとGrimAge2の関連は強いことが明らかになった。地中海食は、一般的に新鮮な野菜と果物、ナッツ類、豆類、全粒穀物、主な脂肪源としてのオリーブオイルを重点的に摂取する一方で、魚介類、赤肉、加工食品、砂糖を多く使った菓子の摂取を制限する。一方、添加糖類の摂取量が増えるほどGrimAge2も高くなり、添加糖類の摂取量が1g増加するごとにGrimAge2は0.02増加する可能性が示唆された。 Epel氏は、「食事因子の中でも添加糖類を大量に摂取すると代謝の健康が損なわれ、疾患の早期発症につながることが明らかにされている。今回の研究により、添加糖類と疾患発症との関連の背景にはエピジェネティック年齢の加速が関係していることが示された。過剰な添加糖類の摂取は、健康的な長寿を妨げる多くの要因の一つである可能性がある」と話している。 論文の上席著者である、米カリフォルニア大学バークレー校食品・栄養・集団健康学教授のBarbara Laraia氏は、「エピジェネティックな変化は可逆的であるように見えることを考えると、長期にわたって継続的に添加糖類を1日10g控えることは、エピジェネティック時計を2.4カ月戻すことに近いのかもしれない」と言う。同氏はさらに、「重要な栄養素を多く含み、添加糖類の少ない食品に焦点を置く食事法は、長生きを目指して体に良い食生活を心がけようとする人の意欲を高める新たな方法になる可能性がある」と付け加えている。 一方、論文の筆頭著者であるUCSF、Osher Center for Integrative HealthのDorothy Chiu氏は、「われわれが調査した食事内容は、疾病予防と健康増進のための既存の推奨内容と一致しており、特に、抗酸化作用と抗炎症作用のある栄養素の効力が強調されている。ライフスタイル医学の立場から言えば、これらの勧告に従うことで、暦年齢に比べて生物学的年齢が若くなる可能性があるということは、心強いことだ」と述べている。

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ADHDや境界性パーソナリティ障害に対するシンバイオティクスの有効性〜basket試験

 注意欠如多動症(ADHD)およびまたは境界性パーソナリティ障害(BPD)の患者では、易怒性により予後が悪化し、死亡率上昇を来す可能性がある。しかし、その治療選択肢は、不十分である。近年、プロバイオティクスとプレバイオティクスを組み合わせたシンバイオティクスは、医療のさまざまな領域で注目されている。スペイン・Hospital Universitari Vall dHebronのGara Arteaga-Henriquez氏らは、ADHDまたはBPD患者の易怒性レベルに対するシンバイオティスクの有効性を評価するため、ランダム化二重盲検プラセボ対照試験を実施した。Brain, Behavior, and Immunity誌2024年8月号の報告。 本試験は、2019年2月〜2020年10月、ハンガリー、スペイン、ドイツの臨床センター3施設で実施した。対象は、ADHDおよびまたはBPDと診断され、易怒性レベルの高い18〜65歳の患者。易怒性レベルが高い患者の定義は、Affectivity Reactivity Index(ARI-S)5以上かつ臨床全般印象度-重症度(CGI-S)スコア4以上とした。対象患者は、シンバイオティクス群とプラセボ群にランダムに割り付けられ、10週間連続で毎日投与を行った。主要アウトカムは、治療終了時の治療反応とした。治療反応の定義は、ベースライン時と比較し10週目のARI-Sスコア30%以上減少かつ臨床全般印象度-改善度(CGI-I)総スコアが3未満(very muchまたはmuch)とした。両群間の副次的アウトカムの治療差および安全性も評価した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者231例中180例がランダム化され(シンバイオティクス群:90例、プラセボ群:90例)、ITT分析に含めた。・分析対象患者のうち、女性は117例(65%)、平均年齢は38歳、ADHD診断患者は113例(63%)、BPD診断患者は44例(24%)、ADHDとBPDの両方の診断患者は23例(13%)であった。・シンバイオティクスの忍容性は良好であった。・シンバイオティクス群における10週目の治療反応率は、プラセボ群と比較し、有意に高かった(OR:0.2、95%信頼区間[CI]:0.1〜0.7、p=0.01)。・シンバイオティクス(併用)療法は、ADHDおよびまたはBPDの成人患者において、臨床的に意味のある易怒性の改善と関連している可能性が示唆された。・シンバイオティクスは、プラセボと比較し、さまざまな副次的アウトカムのマネジメントにおいて優れていた。【感情調節障害】−3.6、95%CI:−6.8〜−0.3、p=0.03【感情症状】−0.6、95%CI:−1.2〜−0.05、p=0.03【不注意】−1.8、95%CI:−3.2〜−0.4、p=0.01【機能】−2.7、95%CI:−5.2〜−0.2、p=0.03【知覚ストレスレベル】−0.6、95%CI:−1.2〜−0.05、p=0.03・シンバイオティクス群では、ベースライン時のRANKLタンパク質レベルが高い場合、治療反応率の低下が認められた(OR:0.1、95%CI:−4.3〜−0.3、p=0.02)。・プラセボ群では、ベースライン時のIL-17Aレベルが高い場合、とくに感情調節障害の改善度が有意に上昇しており(p=0.04)、新規標的の薬物療法介入の可能性が示唆された。 著者らは「シンバイオティクスによる治療は、成人のADHDやBPD患者の易怒性改善に有効である可能性が示唆された。これらの結果を確認するためにも、より大規模なプロスペクティブ研究が求められる」としている。

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carcinoma(がん)【病名のルーツはどこから?英語で学ぶ医学用語】第10回

言葉の由来がん(癌)は英語で“carcinoma”といいます。日本語ではしばしば「カルチノーマ」と呼ばれますが、英語では「カルスィノーマ」のような発音になります。“carcinoma”は上皮組織系由来のがん(癌)を指します。肉腫や造血器腫瘍など、上皮組織系由来ではないものを含んだ広い意味での「がん」を指す英語は“cancer”です。“carcinoma”の語源はギリシャ語で「カニ」を意味する“karkinos”と、腫瘍を意味する接尾辞である“-oma”から成り立っています。古代ギリシャの医師ヒポクラテスが、がんから指のように広がる腫瘍がカニの姿に見えることから、“karkinos”という言葉を使用したとされています。なお、肉腫を表す“sarcoma”の語源も同じくギリシャ語で、肉を意味する“sarks”と接尾辞の“-oma”を組み合わせてできた単語です。がんの歴史は古く、紀元前1,500年ごろのエジプトのパピルスに、乳がんの記述が見つかっており、これが現状では最古のがんの記録です。近代になるまで「がんの正体」は明らかになっていませんでしたが、解剖学や顕微鏡の発達によって、がんは細胞の異常増殖によって発生することが明らかになり、外科手術療法の確立などにつながりました。併せて覚えよう! 周辺単語腺がんadenocarcinoma扁平上皮がんsquamous cell carcinoma転移metastasis腫瘍学oncology生検biopsyこの病気、英語で説明できますか?Carcinoma is a type of cancer that begins in the epithelial cells, which are the layers of cells that cover the surfaces of the body, line internal organs and cavities, and form glands. Carcinomas can occur in many parts of the body, including the skin, lungs, breasts, pancreas, and other organs.講師紹介

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診断のための標的ボトックス注射が片頭痛のトリガー部位を特定する可能性

 診断のための標的ボトックス注射は片頭痛のトリガー部位の特定に、高い陽性適中率を示すという研究結果が、「Plastic and Reconstructive Surgery」5月号に掲載された。 マギル大学保健センター(カナダ)のHassan ElHawary氏らは、片頭痛のトリガー部位を特定するためにボトックス注射を受け、その後に罹患末梢神経の神経減圧術を受けた患者40人について感度解析を実施し、ボトックスの診断能について検討した。 解析の結果、ボトックス注射が成功した患者(注射後に片頭痛指数のスコアが50%以上改善した患者と定義)は、神経減圧術後の片頭痛の強度、頻度、片頭痛指数の平均減少率が有意に高かった。片頭痛の診断法としてのボトックス注射の使用は、感度解析で感度が56.7%、特異度が80.0%であった。陽性適中率は89.5%、陰性適中率は38.1%であった。 共著者で米オハイオ州立大学ウェクスナー医療センターのJeffrey E. Janis氏は、「われわれの研究は、術前ボトックス注射が片頭痛手術に反応する患者を特定するための信頼できる診断ツールとして価値があることを支持するものであり、その陽性適中率はほぼ90%であった。われわれは、トリガー部位を確認し、片頭痛手術の効果がより期待できる患者を特定する目的で、神経ブロックと同様に診断用ボトックス注射を日常的に使用することを推奨する」と述べている。

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尋常性乾癬へのグセルクマブ、投与間隔を16週ごとに延長可能か

 インターロイキン(IL)-23のp19サブユニットに結合し、IL-23の活性を阻害するグセルクマブを用いた尋常性乾癬の維持療法について、16週ごと投与は8週ごと投与に対して非劣性であることが、ドイツ・フライブルク大学のKilian Eyerich氏らによる海外第IIIb相二重盲検無作為化比較試験「GUIDE試験」で示された。慢性の炎症性皮膚疾患である乾癬には、個別化治療およびde-escalation治療戦略に関するアンメットニーズが存在する。試験結果を踏まえて著者は、「今回の試験は、2回の連続した診察時(20週時および28週時)に皮膚症状が完全に消失した患者において、グセルクマブの投与間隔を延長しても疾患活動性をコントロール可能であるとのエビデンスを示した初の無作為化比較試験となった」とまとめている。JAMA Dermatology誌オンライン版2024年7月31日号掲載の報告。 GUIDE試験は中等症~重症の尋常性乾癬患者を対象に、グセルクマブの早期介入と投与間隔の延長を評価する試験で、現在も進行中である。ドイツとフランスの80施設で行われており、「早期介入の影響」「投与間隔の延長」「治療中止後の有効性の維持」を評価する3パートで構成されている。 本論で報告されたのは投与間隔の延長を評価するパート2の結果で、最初の患者は2019年9月、最後の患者は2022年3月に受診した。 パート1(0週~28週)では、患者は0週時、4週時、12週時、20週時にグセルクマブ100mgの投与を受けた。このうち20週時と28週時にPsoriasis Area and Severity Index(PASI)スコア0を達成した患者をスーパーレスポンダー(SRe)とし、パート2(28週~68週)では、これらSReを8週ごとまたは16週ごとのグセルクマブ100mg投与群に無作為化した。非SReは、非盲検下で8週ごとにグセルクマブの投与を継続した。 試験の主要目的は、SReにおける疾患コントロール(68週時点でPASI<3)達成率(主要エンドポイント)について、16週ごと投与群の8週ごと投与群に対する非劣性(マージン10%)を検証することであった。バイオマーカーに関するサブスタディでは、皮膚および血液における免疫学的効果を評価した。 主な結果は以下のとおり。・パート2では、822例がグセルクマブの投与を受けた(SRe 297例[36.1%]、非SRe 525例[63.9%])。・SRe(8週ごと投与群148例、16週ごと投与群149例)は、平均年齢39.4(SD 14.1)歳、女性95例(32.0%)、男性202例(68.0%)であった。・主要エンドポイントの疾患コントロール達成率は、16週ごと投与群91.9%(137/149例、90%信頼区間:87.3~95.3)、8週ごと投与群92.6%(137/148例、88.0~95.8)であり、グセルクマブ16週ごと投与の8週ごと投与に対する非劣性が示された(非劣性のp=0.001)。・臨床的有効性は免疫学的変化と一致していた。CD8陽性組織常在型メモリーT細胞数はベースラインから速やかに減少し、両群ともに低値を維持していた。同様に、血漿中のIL-17A、IL-17F、IL-22、βディフェンシン2値もベースラインから有意に低下し、68週時点まで両群ともに低値を維持した。・グセルクマブの忍容性は良好であり、新たな安全性シグナルは確認されなかった。

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マクロライドとキノロンを組み合わせたmacrolones、耐性菌に有望か

 2方向から同時に細菌を攻撃する抗菌薬が、薬剤耐性菌と闘うための解決策になるかもしれない。互いに異なる標的に作用する2種類の抗菌薬を組み合わせたmacrolonesと呼ばれる合成抗菌薬が、細菌のタンパク質合成の阻害とDNA複製の阻害という2つの異なる方法で細菌の細胞機能を破壊することが示された。米イリノイ大学シカゴ校(UIC)生物分子科学および薬学分野のAlexander Mankin氏らによるこの研究の詳細は、「Nature Chemical Biology」に7月22日掲載された。 Macrolonesは、広く使われている2種類の抗菌薬であるマクロライド系抗菌薬とフルオロキノロン系抗菌薬を組み合わせたものである。エリスロマイシンのようなマクロライド系抗菌薬は、細菌の細胞内にあるリボソームでのタンパク質合成を阻害し、シプロフロキサシンのようなフルオロキノロン系抗菌薬は、細菌がDNAを複製する際に必要とする酵素(DNAジャイレース、トポイソメラーゼIV)を標的にする。 今回の研究では、論文の共著者の1人でありUIC生物科学分野のYury Polikanov氏らの構造生物学を専門とする研究室と、Mankin氏らの薬学を専門とする研究室が、さまざまなmacrolonesの細胞内での作用を調べた。 Polikanov氏らはmacrolonesとリボソームの相互作用を調べた。その結果、macrolonesは従来のマクロライド系抗菌薬よりも強固にリボソームに結合し、マクロライド耐性の細菌株のリボソームも阻害することが示された。また、耐性遺伝子の活性化を引き起こすこともないことが確認された。 一方、Mankin氏らの研究室では、macrolonesがリボソームやDNAジャイレースのどちらを優先的に阻害するのかを、さまざまな投与量で調べた。その結果、いくつかの投与量でいずれかの標的を効果的に阻害することが示されたものの、低用量でリボソームとDNAジャイレースの両方に作用する、特に有望なmacrolonesが特定された。 Polikanov氏は、「基本的に同じ濃度で2つの標的を同時に攻撃することで、細菌による単純な遺伝的防御をほぼ不可能にすることができる」と話す。この点についてMankin氏は、「細菌がどちらか一方の標的に対して変異を起こしても(もう一方に対する変異を同時に起こすことはできないため)結果的に耐性を獲得することができないからだ」と説明している。 Polikanov氏は、「この研究の主な成果は、今後、進むべき方向性を明らかにしたこと、また、化学者に対しては、macrolonesが両方の標的を同時に攻撃するように最適化する必要があることを示した点だ」と述べている。

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腎盂腎炎のときによく使う抗菌薬セフトリアキソンを極める!【とことん極める!腎盂腎炎】第6回

腎盂腎炎のときによく使う抗菌薬セフトリアキソンを極める!Teaching point(1)セフトリアキソンは1日1回投与が可能で、スペクトラムの広さ、臓器移行性のよさ、腎機能での調整が不要なことから、腎盂腎炎に限らず多くの感染症に対して使用される(2)セフトリアキソンとセフォタキシムは、スペクトラムがほぼ同じであるが、投与回数の違い、腎機能での調整の有無の違いがある(3)セフトリアキソンは利便性から頻用されているが、効かない菌を理解し状況に合わせて注意深く選択する必要があることや、比較的広域な抗菌薬で耐性化対策のために安易に使用しないことに注意する(4)セフトリアキソンは、1日1回投与の特徴を活かして、外来静注抗菌薬療法(OPAT)に使用される1.セフトリアキソンの歴史セフトリアキソンは、1978年にスイスのF. Hoffmann-La Roche社のR. Reinerらによって既存のセファロスポリン系薬よりさらに強い抗菌活性を有する新しいセファロスポリンの研究開発のなかで合成された薬剤である。特徴としては、強い抗菌活性と広い抗菌スペクトラムならびに優れたβ-ラクタマーゼに対する安定性を有し、かつ既存の薬剤にはない独特な薬動力学的特性をも兼ね備えている。血中濃度半減期が既存のセファロスポリンに比べて非常に長く、組織移行性にも優れるため、1日1回投与で各種感染症を治療し得る薬剤として、広く使用されている。わが国においては、1986年3月1日に製造販売承認後、1986年6月19日に薬価基準収載された。海外では筋注での投与も行うが、わが国においては2024年8月時点では、添付文書上は認められていない。2.特徴セフトリアキソンは、セファゾリン、セファレキシンに代表される第1世代セファロスポリン、セフォチアムに代表される第2世代セファロスポリンのスペクトラムから、グラム陰性桿菌のスペクトラムを広げた第3世代セファロスポリンである。多くのセファロスポリンと同様に、腸球菌(Enterococcus属)は常に耐性であることは、同菌が引き起こし得る尿路感染や腹腔内感染の治療を考える際には重要である。その他、グラム陽性球菌としては、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に耐性がある。グラム陰性桿菌は、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、Stenotrophomonas maltphilia、偏性嫌気性菌であるBacteroides fragilisはカバーせず、アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii)も感受性があることが少ない。ESBL(extended-spectrum β-lactamase:基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ)産生菌やAmpC過剰産生菌といった耐性菌に対しては感受性がない。グラム陽性桿菌は、リステリア(Listeria monocytogenes)をカバーしない。血漿タンパク結合率が85~95%と非常に高く、半減期は健康成人で8時間程度と長いため、1日1回投与での治療が可能な抗菌薬となる。タンパク結合していない遊離成分が活性をもつ。そのため、重症患者ではセフトリアキソンの実際のタンパク結合は予想されるより小さいとされているが1)、その臨床的意義は現時点では不明である。排泄に関しては、尿中排泄が緩徐であり、1gを投与12時間までの尿中には40%、48時間までには55%の、未変化体での排泄が認められ、残りは胆汁中に、血清と比較して200~500%の濃度で分泌される。水溶性ではあるが、胸水、滑液、骨を含む、組織や体液へ広く分布し、髄膜に炎症あれば脳脊髄移行性が高まり、高用量投与で髄膜炎治療が可能となるため、幅広い感染症に使用される。3.腎盂腎炎でセフトリアキソンを選択する場面は?腎盂腎炎の初期抗菌薬治療は、解剖学的・機能的に正常な尿路での感染症である「単純性」か、それ以外の「複雑性」かを分類し、さらに居住地域や医療機関でのアンチバイオグラム、抗菌薬使用歴、過去の培養検査での分離菌とその感受性結果を踏まえて抗菌薬選択を行う。いずれにしても腎盂腎炎の起因菌は、主に腸内細菌目細菌(Enterobacterales)となり、大腸菌(Escherichia coli)、Klebsiella属、Proteus mirabilisが主な起因菌となる2)。セフトリアキソンは一般的にこれらをすべてカバーするため、多くのマニュアルにおいて第1選択とされている。しかし、忘れられがちであるが、セフトリアキソンは比較的広域な抗菌薬であり、これらの想定した菌の、その地域でのアンチバイオグラム上のセファゾリンやセフォチアムの耐性率が低ければ、1日1回投与でなければいけない事情がない限り、後述の耐性化のリスクや注意点からも、セファゾリンやセフォチアムといった狭域の抗菌薬を選択すべきである。アンチバイオグラムを作成していない医療機関での診療の場合は、厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業(Japan Nosocomial Infections Surveillance:JANIS)の都道府県別公開情報3)や、国立研究開発法人国立国際医療研究センター内のAMR臨床リファレンスセンターが管理する感染対策連携共通プラットフォーム(Japan Surveillance for Infection Prevention and Healthcare Epidemiology:J-SIPHE)の公開情報4)を参考にする。国内全体を見た場合にはセファゾリンに対する大腸菌の耐性率は高く、多くの施設において使用しづらいのは確かである。一方で、セフトリアキソンは、前述の通り耐性菌である、ESBL産生菌、AmpC過剰産生菌、緑膿菌はカバーをしないため、これらを必ずカバーをする必要がある場面では使用を避けなければいけない。4.セフトリアキソンとセフォタキシムとの違いは?同じ第3世代セファロスポリンである、セフトリアキソンとセフォタキシムは、スペクトラムがほぼ同じであり、使い分けが難しい薬剤ではあるが、2剤の共通点・相違点について説明する。セフトリアキソンとセフォタキシムとのスペクトラムについては、尿路感染症の主な原因となる腸内細菌目細菌に対してのスペクトラムの違いはほとんどなく、対象菌を想定しての使い分けはしない。2剤の主な違いは、薬物速度、排泄が大きく異なる点である。セフォタキシムは投与回数が複数回になること、主に腎排泄であり腎機能での用法・用量の調整が必要であり、利便性からはセフトリアキソンのほうが優位性がある。しかし、セフトリアキソンが胆汁排泄を介して便中に排出され、腸内細菌叢を選択するためか5)、セフォタキシムと比較し、腸内細菌の耐性化をより誘導する可能性を示す報告が少なからずある6,7)。そのため、投与回数や腎機能などで制限がない限り、セフトリアキソンよりセフォタキシムの使用を優先するエキスパートも存在する。5.投与量論争? 1gか2gかサンフォード感染症治療ガイドでは、化膿性髄膜炎を除く疾患では通常用量1〜2g静注24時間ごと、化膿性髄膜炎に対しては2g静注12時間ごと、Johns Hopkins ABX guidelineでは、化膿性髄膜炎を除く通常用量1〜2g静注もしくは筋注24時間ごと(1日最大4mg)での投与と記載されている。米国での集中治療室における中枢神経感染症のない患者でのセフトリアキソン1g/日と2g/日を後方視的に比較評価した研究において、セフトリアキソン1g/日投与患者で、2g/日投与患者より高い治療失敗率が観察された8)。腎盂腎炎ではないが、非重症市中肺炎患者を対象としたシステマティックレビュー・メタアナリシスでは、1g/日と2g/日の直接比較ではないが、同等の効果が期待できる可能性が示唆された9)。日本における全国成人肺炎研究グループ(APSG-J)という多施設レジストリからのデータを用いたpropensity score-matching研究において、市中肺炎に対するセフトリアキソン1g/日投与は2g/日と比較し、非劣性であった10)。以上から、現時点で存在するエビデンスからは、重症患者であれば、2g/日投与が優先され、軽症の肺炎やセフトリアキソンの移行性のよい臓器の感染症である腎盂腎炎であれば、1g/日も許容されると思われるが、1g/日投与の場合は、慎重な経過観察が必要と考える。6.セフトリアキソン使用での注意点【アレルギーの考え方】セファロスポリン系では、R1側鎖の類似性が即時型・遅延型アレルギーともに重要である11)。ペニシリン系とセファロスポリン系は構造的に類似しているが、分解経路が異なり、ペニシリン系は不完全な中間体であるpenicilloylが抗原となるため、ペニシリン系アレルギーがセファロスポリンアレルギーにつながるわけではない。セフトリアキソンは、セフォタキシム、セフェピムとR1で同一の側鎖構造(メトキシイミノ基)を有するため、いずれかの薬剤にアレルギーがある場合は、交差アレルギーが起こり得るので、使用を避ける。ただし、異なるR1側鎖を有する複数のセファロスポリン系にアレルギーがある場合は、β-ラクタム環が抗原である可能性があり、β-ラクタム系薬以外の抗菌薬を選択すべきである。【胆泥、偽性胆道結石症】小児で問題になることが多いが、セフトリアキソンは胆泥を引き起こす可能性があり、高用量での長期使用(3週間)により胆石症が報告されている。胆汁排泄はセフトリアキソンの排泄の40%までを占め、胆汁中の薬物濃度は血清の200倍に達することがある12,13)。過飽和状態では、セフトリアキソンはカルシウムと錯体を形成し、胆汁中に沈殿する。この過程は、経腸栄養がなく胆汁の停留がある集中治療室患者では、増強される可能性がある。以上から、重症患者、高用量や長期使用の際には、胆泥、胆石症のリスクになると考えられるため、注意が必要である。【末期腎不全・透析患者とセフトリアキソン脳症】脳症はセフトリアキソンの副作用のなかではまれであるが、報告が散見される。セフトリアキソンによる脳症の病態生理的メカニズムは完全には解明されていないが、血中・髄液中のセフトリアキソン濃度が高い場合に、β-ラクタム系抗菌薬による中枢神経系における脳内γ-アミノ酪酸(GABA)の競合的拮抗作用および興奮性アミノ酸濃度の上昇により、脳症が引き起こされると推定されている。セフトリアキソン関連脳症の多くは腎障害を伴い、患者の半数は血液透析または腹膜透析を受けていることが報告され、これらの患者のほとんどは、1日2g以上のセフトリアキソンを投与されていた14)。セフトリアキソンの半減期は、血液透析患者では正常腎機能患者と比較し、8~16時間と倍増することが判明しており15)、透析性の高いほとんどのセファロスポリンとは異なり、セフトリアキソンは血液透析中に透析されない14)。以上から、末期腎不全患者の血中および髄液中のセフトリアキソン濃度が高い状態が持続する可能性がある。サンフォード感染症治療ガイドやJohns Hopkins ABX guidelineなど、広く使われる抗菌薬ガイドラインでは、末期腎不全におけるセフトリアキソンの減量については言及されておらず、一般的には腎機能低下患者では投与量の調節は必要ないが、末期腎不全患者ではセフトリアキソンの減量を推奨するエキスパートも存在する。また1g/日の投与量でもセフトリアキソン脳症となった報告もあるため16)、長期投与例で、脳症を疑う症例があれば、その可能性に注意を払う必要がある。7.外来静注抗菌薬療法(OPAT)についてOPATはoutpatient parenteral antimicrobial therapyの略称で、外来静注抗菌薬療法と訳され、外来で行う静注抗菌薬治療の総称である。外来で点滴抗菌薬を使用する行為というだけではなく、対象患者の選定、治療開始に向けての患者教育、治療モニタリング、治療後のフォローアップまでを含めた内容となっている。OPATという名称がまだ一般的ではない国内でも、セフトリアキソンは1日1回投与での治療が可能という特性から、外来通院や在宅診療でのセフトリアキソンによる静注抗菌薬治療は行われている。外来・在宅でのセフトリアキソン治療は、本薬剤による治療が最も適切ではあるものの、全身状態がよく自宅で経過観察が可能で、かつアクセスがよく連日治療も可能な場合に行われる。OPATはセフトリアキソンに限らず、インフュージョンポンプという持続注射が可能なデバイスを使用することで、ほかの幅広い薬剤での外来・在宅治療が可能となる。詳細に関しては、馳 亮太氏(成田赤十字病院/亀田総合病院感染症内科)の報告を参考にされたい17)。1)Wong G, et al. Antimicrob Agents Chemother. 2013;57:6165-6170.2)原田壮平. 日本臨床微生物学会雑誌. 2021;31(4):1-10.3)厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業:道府県別公開情報.4)感染対策連携共通プラットフォーム:公開情報.5)Muller A, et al. J Antimicrob Chemother. 2004;54:173-177.6)Tan BK, et al. Intensive Care Med. 2018;44:672-673.7)Grohs P, et al. J Antimicrob Chemother. 2014;69:786-789.8)Ackerman A, et al. Antimicrob Agents Chemother. 2020;64:e00066-20.9)Telles JP, et al. Expert Rev Anti Infect Ther. 2019;17:501-510.10)Hasegawa S, et al. BMC Infect Dis. 2019;19:1079.11)Castells M, et al. N Engl J Med. 2019;381:2338-2351.12)Arvidsson A, et al. J Antimicrob Chemother. 1982;10:207-215.13)Shiffman ML, et al. Gastroenterology. 1990;99:1772-1778.14)Patel IH, et al. Antimicrob Agents Chemother. 1984;25:438-442.15)Cohen D, et al. Antimicrob Agents Chemother. 1983;24:529-532.16)Nishioka H, et al. Int J Infect Dis. 2022;116:223-225.17)馳 亮太ほか. 感染症学雑誌. 2014;88:269-274.

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