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肥満や男性だけでない、いびきをかく人の1/4は睡眠時無呼吸症候群/レスメド

 睡眠中に大きないびきと共に呼吸が止まったり、弱くなったりするという症状を呈する睡眠時無呼吸症候群(SAS)。いびきをかく人の25%(男性:3人に1人、女性:5人に1人)は睡眠時無呼吸を発生していたという報告もあり1)、SASの80%は未診断ともいわれる2)。しかし、SASは糖尿病・心血管疾患の発症や循環器系の疾患による死亡のリスクを上昇させるため、治療が必要である。一般的な治療法としてはCPAP(持続陽圧呼吸)治療、マウスピース治療、手術、生活習慣の改善がある。 そこで、レスメドは2023年3月16日に「CPAP治療の最前線と患者アドヒアランスの向上について」と題してメディアセミナーを実施した。前半で富田 康弘氏(虎の門病院 睡眠呼吸器科)が「CPAP治療の最前線と患者アドヒアランスの向上について」をテーマに講演し、後半では、レスメドの久保 慶郎氏が同日上市したPAP(気道陽圧)装置「Air Sense 11」について紹介した。健康の3本柱としての睡眠 富田氏は、「健康のために気を付けていることとして、食事や運動を挙げる人はいるが、睡眠を挙げる人は非常に少ない」と述べる。実際に、国民生活時間調査2020では日本人の平日の睡眠時間は7時間12分であったことが報告されており、年々短くなっている3)。また、経済協力開発機構(OECD)が実施した平均睡眠時間の調査では、OECD加盟国の中で日本が最も睡眠時間が短いことが明らかになっている。なお、National Sleep Foundation(米国睡眠財団)は18~64歳までの成人であれば7~9時間、65歳以上であれば7~8時間の睡眠を推奨している4)。 そこで、富田氏は7時間以上の睡眠を確保するために、睡眠を中心として生活を組み立てていくことを提案した。「たとえば、朝7時に起きるのがちょうどいいという人は24時に就寝するということを決めて、それを基に生活を組み立ててほしい」という。朝型、夜型は生まれ持ったものであるため、それに合わせた形で睡眠時間を確保することが重要ということも強調した。SASは肥満の人や男性だけの病気ではない しっかり睡眠をとっているにもかかわらず、日中に強い眠気があるという人もいる。そのような場合は、SASが隠れている可能性があるという。とくに「夜に大きないびきをかく」「日中に強い眠気がある」「ときどき呼吸が止まる」「起床時に頭痛やだるさがある」といった症状があったら要注意とのことである。 SASは上気道の閉塞によって生じるため、肥満が原因となる。しかし、日本人を含むアジア人は顎が小さいため、日本人は肥満がなくてもSASを発症することもあるという。SASの原因はさまざまであるが、SAS治療のゴールドスタンダードであるCPAP治療は上気道の閉塞を抑制することにより、原因によらず治療効果が期待できる。 NDB(レセプト情報・特定健診等情報データベース)に基づくと、日本ではCPAP治療を受けている患者は60万人を超えるとされるが、未治療の患者は400万人以上いると推定されている。また、CPAP治療を受けている女性は9.1万人とされる5)。女性と男性のSASの有病率の比率は1:2~3といわれるため、女性では未診断・未治療の患者が多いと考えられる。これについて富田氏は「肥満の人や男性に多い病気であると捉えられているためではないか」と述べ、正しいメッセージを伝えていくことの重要性を強調した。CPAPは毎日4時間以上継続することが重要 SASは、糖尿病や循環器疾患のリスクとなる疾患である。「睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020」では、閉塞性睡眠時無呼吸患者の高血圧や心血管イベントの抑制にはCPAPを4時間以上使用する日を70%以上とすること、日中の眠気の抑制にはCPAPを毎日4時間以上使用することが推奨されている6)。 このアドヒアランス目標を達成し、治療を継続するために、富田氏は「患者が受け身ではなく積極的に治療に取り組むことが必要である」と言う。そのような背景から「近年のCPAP治療では、遠隔モニタリング機能やスマートフォンアプリなどが利用可能であるため、患者エンゲージメントの向上に活用してほしい」と述べた。アドヒアランス・エンゲージメントの向上を目指しAirSense 11を上市 続いて、レスメドの久保氏が2023年3月16日に上市したPAP装置AirSense 11について紹介した。従来のAirSense 10では、治療へのエンゲージメントを高めることが期待されるアプリmyAirが併用可能となっている。myAirでは、使用時間やマスクの密閉性など、使用状況が100点満点でスコアリングされ、スマートフォン上に表示される。また、患者の使用状況に応じたコーチング機能も提供されている。しかし、CPAP治療を開始した患者のなかには「導入で説明された内容を覚えられない」「適切にデバイスやマスクを使用できているか不安」などの悩みを抱える患者もいる。 そこで、今回上市されるAirSense 11では、myAirと併用することで治療の「見える化」をサポートするPersonal Therapy Assistant、患者の主観的情報を医療者へ「見える化」するCare Check-Inという2つの機能が追加された。Personal Therapy Assistantでは、マスク装着などの手順についての解説動画を視聴することができ、実際にマスクが正確に装着されているか評価することもできる。Care Check-Inは患者の主観的感覚をデータとして医療者へ提供する。「眠気を感じていますか?」「治療は上手くいっていると感じていますか?」「何か課題は感じていますか?」という質問を患者に提示し、その回答を医療者に共有することができる。 久保氏は「AirSense 11は、とくにCPAP治療を開始する初期の患者にスムーズでポジティブな経験をしてもらうことを支援するデバイスである。対面や遠隔など、患者と医療者のタッチポイントが変化していく環境において、AirSense 11を通じて患者のアドヒアランス向上やエンゲージメント向上のサポートをしていきたい」とまとめた。■参考文献1)Peppard PE, et al. Am J Epidemiol. 2013;177:1006-1014.2)Benjafield AV, et al. Lancet Respir Med. 2019;7:687-698.3)NHK放送文化研究所.国民生活時間調査20204)Hirshkowitz M, et al. Sleep Health. 2015;1:233-243.5)厚生労働省. 第6回NDBオープンデータ6)睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン作成委員会 編集. 睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020. 南江堂;2020.p.76.

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SLEへのバリシチニブ、SLE-BRAVE-II試験での有効性は?/Lancet

 全身性エリテマトーデス(SLE)の治療において、選択的ヤヌスキナーゼ(JAK)1/2阻害薬バリシチニブはプラセボと比較して、疾患活動性を改善せず、グルココルチコイド漸減の達成や初回の重度フレア発現までの時間の延長をもたらさないことが、米国・ジョンズホプキンズ大学のMichelle Petri氏らが実施した「SLE-BRAVE-II試験」で示された。Lancet誌オンライン版2023年2月24日号掲載の報告。15ヵ国の無作為化プラセボ対照第III相試験 SLE-BRAVE-II試験は、日本を含む15ヵ国162施設で実施された二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2018年8月~2020年8月の期間に参加者のスクリーニングが行われた(Eli Lilly and Companyの助成を受けた)。 年齢18歳以上で、スクリーニングの少なくとも24週前に臨床的にSLEと診断された患者が、標準治療に加え、バリシチニブ4mg、同2mg、プラセボを1日1回、52週間、経口投与する群に、1対1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは、52週の時点における、プラセボ群と比較したバリシチニブ4mg群のSLE Responder Index 4(SRI-4)レスポンダーの割合とされた。安全性プロファイルは既知のものと一致 775例が登録され、バリシチニブ4mg群に258例、同2mg群に261例、プラセボ群に256例が割り付けられた。全体の94%が女性で、ベースラインの平均年齢は42.8(SD 12.9)歳であり、平均SLE罹患期間は8.72(SD 7.9)年だった。 52週時のSRI-4レスポンダーの割合は、バリシチニブ4mg群が47%(121/258例)、同2mg群が46%(120/261例)、プラセボ群は46%(116/256例)であった。プラセボ群と比較したバリシチニブ4mg群のSRI-4レスポンダーの割合のオッズ比(OR)は1.07(95%信頼区間[CI]:0.75~1.53)であり、両群間に有意な差は認められなかった(群間差:1.5、95%CI:-7.1~10.2、p=0.71)。また、プラセボ群と比較したバリシチニブ2mg群のORは1.05(95%CI:0.73~1.50)であった(群間差:0.8、95%CI:-7.9~9.4、p=0.79)。 24週時のSRI-4レスポンダーの割合やグルココルチコイド漸減の達成、初回の重度フレア発現までの時間の延長などの主要な副次エンドポイントでも、プラセボ群に比べてバリシチニブの2つの用量群で改善はみられなかった。 少なくとも1件の有害事象が発現した患者の割合は、バリシチニブ4mg群が78%(200例)、同2mg群が76%(199例)、プラセボ群は77%(198例)であり、多くは軽度または中等度であった。重篤な有害事象は、それぞれ11%(29例)、13%(35例)、9%(22例)で認められた。SLE患者におけるバリシチニブの安全性プロファイルは、既知のものと一致しており、新たな安全性シグナルは観察されなかった。 著者は、「第II相試験および第III相SLE-BRAVE-I試験で示されたバリシチニブの有効性は、本試験では再現されなかったことから、SLEにおける本薬の有効性のエビデンスについては結論が出ていない。事後解析により、本試験の失敗の原因が解明され、今後の臨床試験のデザインに有益な情報をもたらす可能性がある」としている。

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SLEへのバリシチニブ、第III相SLE-BRAVE-I試験の結果/Lancet

 オーストラリア・モナシュ大学のEric F. Morand氏らは、活動性全身性エリテマトーデス(SLE)患者を対象としたバリシチニブの無作為化二重盲検プラセボ対照第III相試験「SLE-BRAVE-I試験」の結果、主要エンドポイントは達成されたものの、主要な副次エンドポイントは達成されなかったことを報告した。ヤヌスキナーゼ(JAK)1/JAK2の選択的阻害薬であるバリシチニブは、関節リウマチ、アトピー性皮膚炎および円形脱毛症の治療薬として承認されている。SLE患者を対象にした24週間の第II相試験では、バリシチニブ4mgはプラセボと比較して、SLEの疾患活動性を有意に改善することが示されていた。Lancet誌オンライン版2023年2月24日号掲載の報告。SLE患者760例をバリシチニブ4mg群、2mg群、プラセボ群に無作為化 SLE-BRAVE-I試験は、アジア、欧州、北米、中米、南米の18ヵ国182施設で実施された。 研究グループは、スクリーニングの24週間以上前にSLEと診断され、標準治療を行うも疾患活動性が認められる18歳以上の患者を、バリシチニブ4mg群、バリシチニブ2mg群またはプラセボ群に1対1対1の割合で無作為に割り付け、標準治療との併用で52週間1日1回投与した。グルココルチコイドの漸減が推奨されたが、プロトコールで必須ではなかった。 主要エンドポイントは、52週時のSLE Responder Index-4(SRI-4)レスポンダーの割合で、ベースラインの疾患活動性、コルチコステロイド量、地域および治療群をモデルに組み込んだロジスティック回帰分析により、バリシチニブ4mg群とプラセボ群を比較した。 有効性解析対象集団は修正intention-to-treat(ITT)集団(無作為化され少なくとも1回治験薬の投与を受けたすべての患者)、安全性解析対象集団は無作為化され少なくとも1回治験薬を投与され、ベースライン後の最初の診察時に追跡調査不能の理由で試験を中止しなかったすべての患者とした。 760例が無作為に割り付けられ、修正ITT集団はバリシチニブ4mg群252例、バリシチニブ2mg群255例、プラセボ群253例であった。52週時のSRI-4レスポンダー率はバリシチニブ4mg群57%、プラセボ群46% 52週時のSRI-4レスポンダー率は、バリシチニブ4mg群57%(142/252例)、プラセボ群46%(116/253例)であり、オッズ比(OR)1.57(95%信頼区間[CI]:1.09~2.27)、群間差10.8(95%CI:2.0~19.6)で有意差が認められた(p=0.016)。バリシチニブ2mg群は50%(126/255例)で、プラセボ群との有意差はなかった(OR:1.14[95%CI:0.79~1.65]、群間差:3.9[95%CI:-4.9~12.6]、p=0.47)。 初回の重度SLE flareが発現するまでの時間やグルココルチコイド漸減など主要副次エンドポイントに関しては、バリシチニブ群のいずれにおいてもプラセボ群と比較して有意差は認められなかった。 重篤な有害事象は、バリシチニブ4mg群で26例(10%)、バリシチニブ2mg群で24例(9%)、プラセボ群で18例(7%)に発現した。SLE患者におけるバリシチニブの安全性プロファイルは、既知の安全性プロファイルと一致していた。

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ハチミツでなくとも甘くてトロリとしたものなら鎮咳効果がある?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第229回

ハチミツでなくとも甘くてトロリとしたものなら鎮咳効果がある?Pixabayより使用ハチミツって咳をおさめる効果があるとされる唯一の食材なのですが、実はかなり議論の余地があります。私はハチミツの味が苦手なので使いませんが、子供の咳に対して有効とする報告はこれまでいくつもあります。たとえば、就寝前に「スプーン1杯(2.5mL)のハチミツを取るグループ」、「咳止めを飲むグループ」、「何もせず様子をみるグループ」のいずれかにランダムに割り付けた研究では、ハチミツを与えられた患児で、有意に咳が減少することが示されました1)。コクランレビューでも2018年の時点では、急性の咳に対するハチミツは、何もしないよりは咳止めの効果があり、「既存の咳止めと大差がないほど効果的だ」という結論になっています2)。Nishimura T, et al.Multicentre, randomised study found that honey had no pharmacological effect on nocturnal coughs and sleep quality at 1-5 years of age.Acta Paediatr. 2022 Nov;111(11):2157-2164.これは上気道炎による急性咳嗽を呈した1~5歳児を対象としたランダム化二重盲検プラセボ対照試験です。日本国内の複数の小児科クリニックから患児を登録しました。参加者には、ハチミツまたはハチミツ風味のシロップ(プラセボ)を2晩連続で、眠前1時間のタイミングで摂取してもらいました。夜間咳嗽と睡眠について、7段階のリッカート尺度で評価しました。161人が登録され、78人がハチミツ群、83人がプラセボ群にランダム化されました。この分野ではかなり多い登録数だと思います。結果、確かに夜間の咳嗽の改善はみられたのですが、ハチミツ群とプラセボ群の有意差が観察されなかったのです。つまり、ハチミツによる有効性はプラセボ効果をみているのか、あるいはシロップのような甘いものであれば鎮咳効果があるのか、どちらかの可能性が高そうです。過去の研究が正しいとするなら、後者のほうが妥当な解釈かなと思います。となると、甘くてトロリとしたものであれば、ハチミツでなくてもよいのかもしれませんね。1)Paul IM, et al. Effect of honey, dextromethorphan, and no treatment on nocturnal cough and sleep quality for coughing children and their parents. Arch Pediatr Adolesc Med. 2007 Dec;161(12):1140-1146.2)Oduwole O, et al. Honey for acute cough in children. Cochrane Database Syst Rev. 2018 Apr 10;4(4):CD007094.

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1日を快活にスタートするための三つの鍵

 朝、気持ち良く目覚めて1日を快活に過ごすためには三つの鍵があることが、新たな研究から明らかになった。前日に運動をして、いつもより少し遅めに起き、炭水化物が多めの朝食を取ると良いようだ。これらの3因子は、朝の覚醒レベルにそれぞれ独立した関連があるという。米カリフォルニア大学バークレー校のRaphael Vallat氏らの研究によるもので、詳細は「Nature Communications」に11月19日掲載された。 広告などでは、しばしば朝食のシーンとして、砂糖で甘くしたシリアルがテーブルに並んだ映像が登場する。ただ、砂糖などの単純糖質ばかりの食事は、1日のスタートには最悪のようであり、Vallat氏は、「摂取後に血糖値を急激に上昇させる食品は避けた方が良い」と話す。 覚醒レベルが低い状態では労働生産性が低下し、労災や交通事故のリスクの一因ともなる。Vallat氏らは、起床後の覚醒レベルに影響を及ぼす生活習慣と遺伝的な影響の検討を行った。研究対象は、340人の一卵性双生児、134人の二卵性双生児、および359人の非双生児、計833人。平均年齢46.20±11.93歳、男性28.0%、BMI25.83±5.12、臥床時間7.66±0.80時間。 研究参加者には、2週間にわたって加速度計と連続血糖測定(CGM)センサーを装着して生活してもらい、その間、全ての食事の摂取量を専用アプリに保存するとともに、覚醒レベル(0~100のビジュアルアナログスケール)を記録してもらった。なお、朝食は研究者が用意した高炭水化物食、高タンパク食、高脂肪食などを支給した。このような手法についてVallat氏は、「この領域の研究はこれまで研究施設内に宿泊してもらい行うことが多く、実生活に即した結果を得ることが困難だった。それに対して今回の研究では、リアルワールドでのデータを得ることができた」と述べている。 解析により、覚醒レベルの違いを遺伝的に説明可能なのは約25%どまりであって、その他の多くは生活習慣によって説明されることが分かった。検討した全ての因子の影響を互いに調整後、以下の三つの生活習慣に関わる因子が、覚醒レベルにそれぞれ独立して関連していることが明らかになった。 一つ目は前日の身体活動量であり、身体活動量の多い10時間の平均加速度が高いほど翌日の覚醒レベルが高いという関連が認められた(β=0.02、P=0.049)。反対に、活動量の低い5時間の平均加速度が高いことは翌日の覚醒レベルの低さと関連があり(β=-0.21、P=0.004)、夜間の中途覚醒の少なさが翌日の良い目覚めに関連していると考えられた。 二つ目は通常よりも長く眠ることであり(β=0.90、P<0.001)、また、通常より遅い時刻に起床することも睡眠時間とは独立して、朝の覚醒レベルの高さと関連していた(β=0.75、P<0.001)。一方、睡眠効率(臥床時間に占める睡眠時間の割合)は有意な関連がなかった。 三つ目は朝食の組成であり、高炭水化物食(炭水化物75.7%)を摂取した時の覚醒レベルが有意に高く(β=1.42、P=0.002)、反対に高タンパク食(タンパク質32.5%)を摂取した時の覚醒レベルは有意に低かった(β=-1.36、P=0.012)。なお、覚醒レベルの変化が最も大きかったのは、経口ブドウ糖負荷試験(75gのブドウ糖溶液を飲んだ後の血糖値の変化を見る検査)を行った日であり(β=-6.97、p<0.001)、単純糖質の摂取は覚醒レベルを下げることが示唆された。 これらの結果についてVallat氏は、「運動は基本的に多ければ多いほど翌朝の目覚めに良いようだ。ただし、高タンパクの朝食が覚醒レベルの低さと関連しているという結果には、正直に言って驚いた」と述べている。また、論文の上席著者である同大学のMatthew Walker氏は、「運動と覚醒レベルとの関連は常に一定ということではなく、多くの運動をすることで十分に睡眠ができた場合に、より大きな効果が生じる」と付け加えている。 なお、今回の研究報告の全てがこの領域の専門家に肯定的に捉えられているわけではない。例えば、睡眠習慣に関する啓発サイト(The Sleep Doctor.com)の立ち上げ時の指導にあたった臨床心理学者のMichael Breus氏は、「報告された結果の朝食に関する部分は、これまでの知見からややずれている。私の経験や既報論文によれば、高炭水化物食は眠気を誘発することが多いはずだ」と話す。そのBreus氏は、快適な目覚めのためのシンプルな方法として、以下の5項目を提案している。・毎日同じ時間に起きる。・カフェインの摂取は午後2時まで。・飲酒は就床の3時間前までにやめる。・毎日運動を。ただし、就床時刻の4時間以上前までに終了する。・起床後は深呼吸を15回、水を15オンス(400mL強)飲み、外に出て15分間日光を浴びる。

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第149回 コロナ感染に特有の罹患後症状は7つのみ

2020年に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)の世界的流行が始まって以降、その通常の感染期間後にもかかわらず長く続く症状を訴える患者が増えています。それらCOVID-19罹患後症状(コロナ罹患後症状)のうち疲労、脳のもやもや(brain fog)、息切れは広く検討されていますが、他は調べが足りません。感染症発症後の長患いはCOVID-19に限るものではありません。インフルエンザなどの他の呼吸器ウイルスも長期の影響を及ぼしうることが示されています。COVID-19ではあって他の一般的な呼吸器ウイルス感染では認められないCOVID-19に特有の罹患後症状を同定することはCOVID-19の健康への長期影響の理解に不可欠です。そこで米国・ミズーリ大学の研究チームはソフトウェア会社Oracleが提供するCerner Real-World Dataを使ってCOVID-19に特有の罹患後症状の同定を試みました。米国の122の医療団体の薬局、診療、臨床検査値、入院、請求情報から集めた5万例超(5万2,461例)のCerner Real-World Data収載情報が検討され、47の症状が以下の3群に分けて比較されました。COVID-19と診断され、他の一般的な呼吸器ウイルスには感染していない患者(COVID-19患者)COVID-19以外の一般的な呼吸器ウイルス(風邪、インフルエンザ、ウイルス性肺炎)に感染した患者(呼吸器ウイルス感染者)COVID-19にも一般的な呼吸器ウイルスにも感染していない患者(非感染者)SARS-CoV-2感染から30日以降1年後までの47の症状の生じやすさを比較したところ、呼吸器ウイルス感染者と非感染者に比べてCOVID-19患者により生じやすい罹患後症状は思いの外少なく、動悸・脱毛・疲労・胸痛・息切れ・関節痛・肥満の7つのみでした1,2)。無嗅覚(嗅覚障害)などの神経病態がSARS-CoV-2感染から回復した後も長く続きうると先立つ研究で示唆されていますが、今回の研究では一般的な呼吸器ウイルス感染に比べて有意に多くはありませんでした。無嗅覚は非感染者と比べるとCOVID-19患者に確かにより多く生じていましたが、COVID-19以外の呼吸器ウイルス感染者にもまた非感染者に比べて有意に多く発生していました。つまり無嗅覚はCOVID-19を含む呼吸器ウイルス感染症全般で生じやすくなるのかもしれません。一方、先立つ研究でCOVID-19罹患後症状として示唆されている末梢神経障害や耳鳴りは呼吸器ウイルス感染者と非感染者のどちらとの比較でも多くはありませんでした。全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)、1型糖尿病(T1D)などの免疫病態もSARS-CoV-2感染で生じやすくなると先立つ研究で示唆されていますが、今回の研究では神経症状と同様にCOVID-19に限って有意に多い症状はありませんでした。ただし、1型糖尿病との関連は注意が必要です。COVID-19患者の1型糖尿病は呼吸器ウイルス感染者と比べると有意に多く発生していたものの、非感染者との比較では有意差がありませんでした。呼吸器ウイルス感染者の1型糖尿病はCOVID-19患者とは逆に非感染者に比べて有意に少なく済んでいました。心血管や骨格筋の病態でも1型糖尿病のような関連がいくつか認められており、COVID-19患者の頻拍・貧血・心不全・高血圧症・高脂血症・筋力低下は呼吸器ウイルス感染者と比べるとより有意に多く、非感染者との比較ではそうではありませんでした。今回の研究でCOVID-19に特有の罹患後症状とされた脱毛はSARS-CoV-2感染から100日後くらいに最も生じやすく、250日を過ぎて元の状態に回復するようです。疲労や関節痛は今回の試験期間である感染後1年以内には元の状態に落ち着くようです。COVID-19患者により多く認められた肥満はダラダラ続くCOVID-19流行が原因の運動不足に端を発するのかもしれません。ただし今回の研究ではそうだとは断言できず、さらなる研究が必要です。参考1)Baskett WI, et al. Open Forum Infect Dis. 1011;10: ofac683.2)Study unexpectedly finds only 7 health symptoms directly related to ‘long COVID’ / Eurekalert

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不眠症に対する認知行動療法アプリの有効性

 サスメド株式会社の渡邉 陽介氏らは、同社が開発した不眠症に対する認知行動療法(CBT-I)のスマートフォン用アプリについて、有効性および安全性を検証するため国内第III相シャム対照多施設共同動的割り付けランダム化二重盲検比較試験を実施した。その結果、不眠症治療に対するスマートフォンベースのCBT-Iシステムの有効性が確認された。Sleep誌オンライン版2022年11月10日号の報告。 不眠症患者175例を、スマートフォンベースのCBT-Iアプリ使用群(アクティブ群、87例)と、本アプリから治療アルゴリズムなどの治療の機能を除いたアプリを使用する群(シャム群、88例)にランダムに割り付け、CBT-Iアプリの有効性および安全性を評価した。主要評価項目は、ベースラインから治療8週間後のアテネ不眠尺度(AIS)の変化量とした。 主な結果は以下のとおり。・modified-ITT解析では、AISの平均変化量は、アクティブ群で-6.7±4.4、シャム群で-3.3±4.0であった。・両群間の平均変化の差は-3.4であり(p<0.001)、アクティブ群の変化量が有意に大きかった。・ベースラインからの臨床全般印象度改善度(CGI-I)の変化量は、アクティブ群で1.3±0.8、シャム群で0.7±0.8であった(p<0.001)。・AISが6未満の患者の割合は、アクティブ群で37.9%、シャム群で10.2%であった(p<0.001)。・安全性の評価で、アクティブ群における有害な反応や機器の不良は認められなかった。

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睡眠が不規則な人は全死亡リスクが最大1.5倍高い―日本人8万人の縦断的研究

 自分の睡眠が不規則だと自覚している人は、睡眠時間を含む多数の交絡因子を調整後も全死亡(あらゆる原因による死亡)のリスクが高いというデータが報告された。京都府立医科大学大学院医学研究科地域保健医療疫学の大道智恵氏、小山晃英氏らの研究によるもので、詳細は「Sleep Health」に10月10日掲載された。 睡眠時間の長短がさまざまな疾患の発症や全死亡のリスクと関連のあることは、多くの研究により明らかになっている。また近年では、シフト勤務などによる不規則な睡眠も健康リスクとなり得ることが示唆されている。小山氏らも既に、主観的な評価に基づく不規則な睡眠が、メタボリックシンドロームのリスクと有意な関連のあることを報告している。主観的な評価は客観性に欠けるという欠点があるものの、煩雑な検査を必要としないため、一般住民など大人数の睡眠に関連する健康リスクを、簡便かつ低コストで評価できるというメリットがある。今回、小山氏らは、主観的な評価による不規則な睡眠と全死亡リスクとの関連の有無を、「日本多施設共同コーホート研究(J-MICC研究)」のデータを用いて検討した。 J-MICC研究は、日本人の生活習慣病リスクの解明を目的として2005年から14拠点で継続されている前向きコホート研究。2004~2014年に35~69歳の成人9万2,527人がベースライン登録されている。そのうち、習慣的に睡眠薬を服用している人や追跡期間が1年未満の人を除外して8万1,382人(男性44.2%)を解析対象とした。睡眠の規則性については、ベースライン時の自記式アンケートに含まれていた「就床・起床時刻は規則的か?」の回答から判定。9,768人(12.0%)が「不規則」と回答した。なお、平均睡眠時間は6.6±1.0時間だった。 73万6,319人年(平均9.01年)の追跡で、3,376人が死亡。1,000人年当たりの死亡率は4.59だった。睡眠時間と睡眠が規則的か否かによって全体を6群に分け死亡率を比較すると、長時間睡眠群と睡眠が不規則な群で高いことが分かった。具体的には、睡眠時間6時間未満で規則的な場合は4.5、不規則な場合5.1、睡眠時間6~8時間未満では同順に4.1、5.2、睡眠時間8時間以上では6.3、7.6だった。 死亡リスクに影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、BMI、飲酒・喫煙・運動習慣、教育歴、虚血性心疾患・脳卒中・がんの既往、および調査拠点)を調整後の全死亡リスクは、睡眠時間6~8時間未満に比較し8時間以上の群で15%高く〔ハザード比(HR)1.15(95%信頼区間)1.05~1.25〕、睡眠が規則的な群より不規則な群は30%高かった〔HR1.30(同1.18~1.44)〕。性・年齢別に解析すると、男性は年齢(60歳未満/以上)にかかわらず、睡眠が不規則な群は有意に死亡リスクが高かった。一方、女性では睡眠が不規則なことと死亡リスク上昇との関連が有意なのは60歳未満のみであり、60歳以上や女性全体では有意な関連がなかった。 次に、睡眠時間が6~8時間未満でかつ規則的な群を基準として、他の5群の死亡リスクを比較。その結果、睡眠が規則的な場合は睡眠時間が8時間以上の群で有意なリスク上昇が認められ〔HR1.14(1.04~1.24)〕、睡眠が不規則な場合は睡眠時間にかかわらず、全てのカテゴリーで有意な死亡リスク上昇が認められた。具体的には、6時間未満はHR1.21(1.02~1.44)、6~8時間未満はHR1.23(1.09~1.40)、8時間以上はHR1.52(1.18~1.96)であり、最大で52%ハイリスクだった。 著者らは本研究を、「睡眠の規則性に対する主観的な評価と、全死亡リスクとの関連性を示した初の報告」としている。結論は、「睡眠障害を含む慢性疾患の既往歴が不明のため、交絡因子の調整が十分でない可能性などが限界点として挙げられるものの、死亡リスクの評価には睡眠時間の長短だけでなく、睡眠の規則性も把握する必要があることが明らかになった」とまとめられている。

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慢性片頭痛と睡眠の質との関係

 最近の研究によると、片頭痛患者では睡眠に関する問題が高頻度に発生し、慢性的な睡眠不足に陥ることが示唆されているが、慢性片頭痛が睡眠の質に及ぼす影響に関するメカニズムは明らかになっていない。トルコ・Yozgat Bozok UniversityのHikmet Sacmaci氏らは、慢性片頭痛患者で一般的に報告される睡眠障害を分析し、睡眠の質に対する慢性片頭痛の影響を明らかにするため、本研究を行った。その結果、慢性片頭痛患者では睡眠障害が一般的に認められ、睡眠の質と片頭痛の慢性化とは相互に関連していることが示唆された。Nature and Science of Sleep誌2022年10月6日号の報告。 2022年3月までに公開された慢性片頭痛と睡眠の質に関する文献を包括的にレビューした。臨床試験、観察研究、20件以上のケースシリーズを対象に含めた。2人のレビュアーおよび1人のスーパーバイザーにより、すべての検索された文献のタイトルおよびアブストラクトが事前に定義した包括基準や除外基準を満たしているかをレビューした。慢性片頭痛、睡眠、不眠症、睡眠の質、睡眠ポリグラフ、ピッツバーグ睡眠質問票を検索キーワードとし、1983~2022年に英語で報告された慢性片頭痛と睡眠の質に関するランダム化比較試験およびオープンスタディをPubMedより検索した。 主な結果は以下のとおり。・関連研究として535件が抽出されたが、そのうち455件は包括基準を満たしていなかったため、レビューから除外した。・残りの研究のうち、睡眠の質と片頭痛との関連をレビューした臨床研究36件が特定され、これらを本レビューに含めた。・睡眠不足と片頭痛の慢性化は、他の併存疾患や概日リズム調節不全と相互に関連しており、革新的な治療方法により睡眠不足と片頭痛の両方を緩和する可能性が示唆された。・高頻度の片頭痛発作を伴う併存疾患を有する患者では、睡眠の質を低下させる可能性が示唆された。・不適切な疼痛に対するプロセスは睡眠を悪化させ、睡眠の質の不良も片頭痛に悪影響を及ぼす。・片頭痛発作の悪化による睡眠障害は、QOL、労働力の低下、経済的負担を引き起こすと考えられる。

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ストレスや睡眠反応性が不眠症状に影響を及ぼすまでの期間

 米国・アリゾナ大学のJiah Yoo氏らは、ストレス曝露後の睡眠障害(睡眠反応性)と睡眠障害後のストレス反応(ストレス反応性)を自然主義的に毎日測定し、これらの反応性と不眠症との関連をレトロスペクティブに調査した。その結果、ベースライン時のストレス反応性と睡眠反応性は、11ヵ月後の不眠症状の悪化をそれぞれ独立して予測するだけでなく、相互に関連し予測していることが明らかとなった。著者らは、本調査結果は不眠症のストレス因子モデルの根底にあるプロセスを可視化し、睡眠とストレス反応性の長期的かつ自然主義的な測定の有用性を示唆していると述べている。Sleep誌オンライン版2022年10月27日号の報告。 対象は、看護師329人。睡眠およびストレスは、毎日の日誌およびアクチグラフィを用いて14日間測定し、評価を行った。不眠症状は、14日、6ヵ月、11ヵ月後に自己報告で収集した。 主な結果は以下のとおり。・マルチレベルモデリングでは、負の固定効果として総睡眠時間の短さ、睡眠効率の低下がストレス増大と関連し、その逆の関連も認められた。また、有意なランダム効果として睡眠反応性とストレス反応性の個人差も観察された。・潜在的スコアの変化モデリングでは、ベースライン時のより大きな睡眠反応性(より大きなストレスによる睡眠効率の低下)および、より大きなストレス反応性(総睡眠時間の短さによるストレス増大)は、11ヵ月後の不眠症状の悪化と関連していることが示唆された(各々、b=10.34、p=0.026、b=7.83、p=0.03)。・睡眠反応性およびストレス反応性は相互に作用し、不眠症状を予測していた。ストレス反応性が高い(+1SD)場合、睡眠反応性は不眠症状と関連していたが(b=17.23、p=0.001)、ストレス反応性が低い(-1SD)場合には、この関連は認められなかった(b=5.16、p=0.315)。

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日本における妊娠中の社会的孤独と不眠症との関係

 東北大学(東北メディカル・メガバンク機構)の村上 慶子氏らは、妊娠中の女性の不眠症有病率を推定し、妊娠中の社会的孤独と不眠症との関連を調査した。その結果、妊娠中の女性における家族や友人からの社会的孤独は、不眠症リスク増加と関連していることが示唆された。Sleep Health誌オンライン版2022年10月10日号の報告。 本横断的研究は、2013~17年に東北メディカル・メガバンク機構の三世代コホート調査の一部として実施された。妊娠中の女性を宮城県の産婦人科クリニックおよび病院で募集し、調査票への回答および医療記録の提供を許可した女性1万7,586人を対象に分析を行った。不眠症の定義は、アテネ不眠尺度スコア6以上とした。社会的孤独の評価にはLubben Social Network Scale短縮版(LSNS-6)を用い、スコア12未満を社会的孤独と定義した。また、LSNS-6のサブスケールを、家族または友人関係の質の評価に用いた。妊娠中の社会的孤独と不眠症との関連の評価には、年齢、出産回数、妊娠前のBMI、妊娠に対する感情、教育、収入、就労状態、つわり、精神的苦痛で調整した後、多重ロジスティック回帰分析を用いた。家族または友人関係の影響についての分析にも、多重ロジスティック回帰分析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・妊娠後期の不眠症有病率は、37.3%であった。・社会的孤独が認められた女性は、そうでない女性と比較し、不眠症リスクが高かった(多変量オッズ比[OR]:1.26、95%信頼区間[CI]:1.16~1.36)。・家族関係(OR:1.40、95%CI:1.25~1.56)や友人関係(OR:1.15、95%CI:1.07~1.24)の希薄さは、不眠症リスク増加と関連していた。

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William Osler先生とJ-OSLER、内科専門研修を考えてみた【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第54回

第54回 William Osler先生とJ-OSLER、内科専門研修を考えてみたオスラー先生の格言ウイリアム・オスラー(William Osler)の名前を耳にしたことはあると思います。カナダ生まれの医学者・内科医・教育者です(1849~1919)。ペンシルベニア大学、ジョンズ・ホプキンス大学、オックスフォード大学などで教授を務め、カナダ、米国、英国の医学の発展に多大な貢献をしました。遺伝性出血性末梢血管拡張症であるオスラー病や、感染性心内膜炎でみられる指趾掌蹠の有痛性結節であるオスラー結節などに名前を残しているように研究者としても一流でした。何よりも医学教育に情熱をそそぎ、彼の思想は今も医療の現場で受け継がれています。日本の名医・日野原 重明も感銘を受け、「医学の中にヒューマニズムを取り戻し、人間を全人的に診る」というオスラー先生の姿勢を世に広めるため「日本オスラー協会」を発足させています。『The Principles and Practice of Medicine』(医学の原理と実際)など名著だけでなく、100年後の今も受け継がれる数々の格言も有名です。Listen to your patient, he is telling you the diagnosis.患者の言葉に耳を傾けよ、患者はあなたに診断を告げている。これは、オスラー先生の言葉のなかでも小生が最も感銘を受けた一文です。循環器内科医として狭心症・心筋梗塞を診断するにあたり、心電図や採血でのトロポニン上昇も大切ですが、なによりも病歴聴取が一番重要と日々感じているからです。今日の医学教育の父として世界にその名を馳せたオスラー先生ですが、日本中の大学病院や研修指定病院で毎日のように彼の名前が叫ばれていることをご存じでしょうか。それは、ウイリアム・オスラーではなくジェイ・オスラー(J-OSLER)です。J-OSLERをめぐる専攻医と指導医のリアルJ-OSLERについて説明しましょう。2013年に厚生労働省の「専門医の在り方に関する検討会」から、専門医制度改革が必要であると報告されました。日本専門医機構が中心となり、各領域の専門医制度は再整備されることとなりました。日本内科学会でも「新・内科専門医制度」を整備することとなり、具現化するために導入されたシステムがJ-OSLERです。正式には以下の文言による造語です。「Online system for Standardized Log of Evaluation and Registration of specialty training System」を直訳すれば「専門研修の標準化を図るためオンラインで研修実績の登録と評価ができるシステム」で、この頭文字がOSLERです。そこに日本を意味するJが冠されてJ-OSLERとなっています。高名なオスラー先生を意識した素晴らしいネーミングです。このJ-OSLERをめぐる現場での苦労を紹介させていただきます。J-OSLERを実際に使用するのは、初期研修を修了して内科専門研修プログラムを選択した卒後3年次から5年次の医師が中心です。彼らを専攻医と呼称します。新内科専門医制度において研修履歴や実績を登録し審査を受ける仕組みが導入されました。具体的には専攻医はJ-OSLERを用いて症例登録と病歴要約が義務付けられています。症例登録は、一言でいうと症例の概要と省察を含むサマリーで56分野から160症例以上を登録します。指導医の評価を受け、修正に応じて承認を得る必要があります。これは、1例を入力するのに数十分ほど要します。症例登録した中から29症例について病歴要約を作成します。これは症例の詳細なサマリーで、学会発表での症例報告のような丁寧さと緻密さが要求され、A4判2ページほどの分量となります。病歴要約は、まず指導医と研修プログラム統括責任者が1次評価を行います。さらに専攻医の所属外の施設の査読委員が2次評価を行います。1次・2次評価ともに29症例ごとに、Accept(受理)、Revision(要修正)、Reject(要差し替え)の3段階で評価されます。全症例がAccept(受理)となるまで修正を繰り返します。1例の入力には短くても半日ほどの作業への集中が必要となります。症例登録は全分野をカバーしての量の面で、病歴要約は緻密な記載を求められる質の面で、それぞれ大変な作業となります。えらいこっちゃ!?事務作業に注力する余りベッドサイド診療が…新専門医制度にあわせて導入されたJ-OSLERの評判は、専攻医と指導医の双方から必ずしもいいわけではありません。たしかに、質の高い内科専門医を育成することは、社会がより高い水準で医療の恩恵を受けるために重要なことです。J-OSLERによる症例登録と病歴要約は、専攻医が個々の症例の理解を深め、さらには研修制度の標準化にも寄与することに異論はありません。一方で、J-OSLERの登録と評価における専攻医の負担も軽視できないレベルと感じます。専攻医は日常臨床業務だけでも大変です。この専門研修期間中に複数の施設での勤務が求められるために、勤務先の入職・退職と住居の転入・転出を繰り返して行うこととなり、手続きだけも多くの時間を要します。女性医師においては出産や育児などのライフイベントとも重複する時期となります。昨今、働き方改革が声高に論じられる中、専攻医だけでなく指導医にとっても、システム入力が困難と感じる場面があることは事実です。オスラー先生の格言を紹介します。Fifteen minutes at the bedside is better than three hours at the desk.3時間机で勉強するよりもベッドサイドの15分が勝る。J-OSLERの症例登録・病歴要約により机でレポートを書く時間が増えたことは皮肉といえます。机上の事務作業に注力する余りベッドサイド診療が疎かになりかねない現状はJ-OSLER本来の意義からも望ましいことでは無いように思います。高邁な理念のもとに導入されたJ-OSLERを揶揄するつもりはありません。しかしウィリアム・オスラーは「えらい」先生なのですが、ジェイ・オスラーは「えらいこっちゃ」というのが本音です。新専門医制度による研修が開始され数年しか経過していません。課題もこれから明らかになってくるのでしょう。よりよい新専門医制度となるよう制度が洗練されていくことを期待しております。今回は、日本内科学会に直訴状を提出する気構えで気合をいれて書かせていただきました。

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不眠症患者の死亡リスクに対する睡眠薬の影響~J-MICC研究

 不眠症患者の死亡リスクに関する研究では、一貫した結果が得られていない。不眠症の治療では、睡眠のコントロールよりも、睡眠薬の使用が死亡リスクを高める可能性があるにもかかわらず、死亡リスクに対する睡眠薬の影響については、これまでよくわかっていなかった。佐賀大学医学部附属病院の祖川 倫太郎氏らは、日本の大規模サンプルにおける全死亡リスクと睡眠薬使用との関連を、併存疾患の影響を考慮したうえで評価した。その結果、睡眠薬の使用と全死亡率との間に、性別および年齢による関連性が観察されたことを報告した。Sleep Medicine誌オンライン版2022年9月28日号の報告。 日本多施設共同コーホート研究(Japan Multi-Institutional Collaborative Cohort Study:J-MICC study)として35~69歳の9万2,527人を対象に、死亡率に関するフォローアップ調査を実施した。睡眠薬の定期的な使用の評価には、自己記入式アンケートを用いた。がん歴は死亡リスクが高く、睡眠薬による不眠症治療と関連しているため、がん歴を有する患者は除外した。睡眠時間、併存疾患(BMI、虚血性心疾患、脳卒中、糖尿病)などの共変量で調整した後、睡眠薬使用に関連する全死亡率のハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を推定するため、Cox比例ハザードモデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・フォローアップ期間(平均:8.4±2.5年)中の死亡数は1,492人であり、睡眠薬の使用率は4.2%であった。・共変量で調整した後、睡眠薬の使用により、全死亡リスクが有意に上昇することが確認された(HR:1.32、95%CI:1.07~1.63)。・睡眠薬の使用と全死亡率との関連は、男性(HR:1.51、95%CI:1.15~1.96)、60歳未満(HR:1.75、95%CI:1.21~2.54)で強かった。

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円板状エリテマトーデスから重症SLE進行へのリスク因子は?

 フランス・ソルボンヌ大学のLisa Fredeau氏らは、円板状エリテマトーデス(DLE)が重症の全身性エリテマトーデス(SLE)へと進行するリスク因子を特定する、初となる検討を行った。164例を対象としたレジストリベースの後ろ向きコホート研究の結果、DLE診断時年齢が25歳未満、phototype V-VI、抗核抗体(ANA)抗体価≧1:320が、重症SLE発症のリスク因子であることを明らかにした。Journal of the American Academy of Dermatology誌オンライン版2022年9月22日号掲載の報告。 研究グループは、孤立性DLEを有する患者または軽度の生物学的異常を有するSLE関連患者について、重症SLE(入院と特定の治療が必要と定義)への進行のリスク因子を特定し、予測スコアを生成するため、レジストリベースのコホート研究を行った。 文献から特定、および関連変数を特定するために後退的選択法によって選出されたリスク因子を用いて多変量解析を実施。ポイント数はオッズ比に比例して重み付けがされた。 主な結果は以下のとおり。・解析には、重症SLEを発症したDLE患者30例と、非発症患者134例を包含した。・多変量解析では、12の選択変数のうち、DLE診断時年齢が25歳未満(オッズ比[OR]:2.8、95%信頼区間[CI]1.1~7.0、1ポイント)、phototype V-VI(OR:2.7、95%CI:1.1~7.0、1ポイント)、ANA抗体価≧1:320(OR:15、95%CI:3.3~67.3、5ポイント)が、スコア生成変数として選択された。・ベースラインでスコア0であった患者54例のうち、SLEへ進行した患者はいなかったが、スコア6以上の患者は約40%の重症リスク因子と関連していた。

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統合失調症や双極性障害患者における強迫症状の有症率

 強迫症状(OCS)は、精神疾患患者において高頻度でみられる症状であるにもかかわらず、認識および治療が不十分である。英国・キングス・カレッジ・ロンドンのDeborah Ahn Robins氏らは、統合失調症、統合失調感情障害、双極性障害の患者におけるOCSおよび強迫症(OCD)の有病率を推定し、OCSの要因となる臨床的特徴を明らかにするため、本研究を実施した。その結果、OCSおよびOCDは、精神疾患患者で頻繁に認められており、より重篤な精神医学的な臨床的特徴と関連している可能性が示唆された。また、著者らは、自動化された情報抽出ツールを用いることで、精神疾患に合併するOCS/OCDの認識や治療を改善できる可能性があることを報告した。The Journal of Clinical Psychiatry誌2022年9月28日号の報告。 データは、South London and Maudsley NHS Foundation Trust Biomedical Research Centreのレジストリデータより収集した。対象は、2007~15年に統合失調症(ICD F20.x)、統合失調感情障害(ICD F25.x)、双極性障害(ICD F31.x)と診断された患者。OCSおよびOCDは、構造化データおよびフリーテキストより自然言語処理ソフトウェアを用いて特定した。臨床的特徴は、Health of the Nation Outcome Scalesを用いて収集した。臨床的特徴とOCS/OCDとの関連の分析には、交絡因子を考慮したロジスティック回帰を用いた。 主な結果は以下のとおり。・対象患者数は、2万2,551例。・OCSが認められた患者は5,179例(24.0%)であり、OCDを合併していた患者は2,574例(11.9%)であった。・OCS/OCDは、以下の症状増加との関連が認められた。 ●攻撃性(OR:1.18、95%CI:1.10~1.26) ●認知機能障害(OR:1.21、95%CI:1.13~1.30) ●幻覚・妄想(OR:1.11、95%CI:1.04~1.20) ●身体的問題(OR:1.17、95%CI:1.09~1.26)

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第130回 手放しに喜べない?新たな認知症治療薬の良好な臨床成績

長らく続くコロナ禍で医療系学会の取材はこの間ご無沙汰していたが、先日久しぶりに学会に参加した。たまたま開催地が実家から近いこともあり、両親と昼食をとる機会に恵まれた。以下、今回はかなり私事を交えることになるが、お付き合いいただきたい。私の場合、地元で開催された学会の取材に赴く際でも実家に宿泊することはほとんどない。あくまで仕事で来ているという線引きが必要だというのが表向きの理由だが、実のところはある種、鬱陶しいからという事情もある。すでに私が50代になっているとはいえ、80代半ばの両親にとっては子供なので、実家でパソコンを開いて仕事をしていても何かと話しかけられるし、食事の時間になると「○○があるから食え」だの、とくに食べたいものでもないのに勧められるのは正直言うならば厄介なことこの上ない。それでも両親を食事に誘ったのは、近年急速に弱ってきている父親が賑やかなところが好きな人だからだ。実家は地元の繁華街から離れた田園地帯にある。父親本人は常に外出したくて仕方ないのだが、すでに足腰も弱り、その牛歩に毎回付き添うのは母親がくたびれるため、週末ぐらいしか外出できない。加えて父親は軽度認知障害(MCI)の診断を受けている。それでも元が几帳面な性格だったことも手伝ってか、現時点でも買い物では小銭から計算して使いたがるので、まだましなほうかもしれない。とはいえ、緩やかに症状は進行しており、先日は銀行に出かけた際にATM前から母親に「使い方がわからなくなった」と連絡があったという。昼時、待ち合わせ場所の寿司屋近くの路上にいると、人混みの向こうから両親がゆっくりと歩いてきた。視界に入ってきた両親はなかなか近づいてこない。父親のゆっくりとした歩みに母親が合わせざるを得ないからである。それでも数年前から介護保険を使って理学療法士のお世話になってからはかなり改善している。一時は「カタツムリか?」と思うほどの歩みだったのだから。私は路上に立ったまま両親が近くに来るのを待った。ようやく顔が良く見える距離になって私を見つけた父親は、「破顔一笑」とも言える表情を見せた。私も微笑んで見せたが、内心はこの上なく複雑だった。幼少期の記憶の中の父親は口下手で喜怒哀楽に乏しく、私に笑顔を向けてきた記憶がほとんどない。常にむすっとしていて、時に激しく叱られることが私の記憶のデフォルトである。母親がよく話題に出すのは、私が2歳ぐらいの時の父親と私のやり取りだ。父親が私を大声で呼びつけた際に登場した私は頭に座布団を乗せていたという。叱られて叩かれると勘違いしたらしい。やや長くなってしまったが、なぜこうつらつらと書いてしまったかというと、今話題のエーザイ・バイオジェン共同開発のアルツハイマー病(AD)治療薬候補lecanemab(以下、レカネマブ)について、こうしたMCI患者を持つ家族と医療ジャーナリストという職業の狭間で揺れ動く自分がいるからだ。ご存じのようにADに関しては、脳内に蓄積するタンパク質「アミロイドβ(Aβ)」が神経細胞を死滅させるというAβ仮説に基づき、過去20年近く新薬開発が進められてきた。Aβ仮説は、Aβ前駆タンパク質から酵素のβセクレターゼ(BACE)の働きで、Aβの一量体(モノマー)が作り出され、そこからモノマーが重合した重合体(オリゴマー)、高分子オリゴマーである可溶性プロトフィブリル、そこから形成されたアミロイド線維である不溶性フィブリルへと進行し、最終的にアミロイド線維から形成されるアミロイドプラークが神経細胞を死滅させADに至るというのが大まかな理論だ。これまでのAβ仮説に基づく新薬開発では、BACE阻害薬と脳内の神経細胞に沈着したAβを排除する抗Aβ抗体が2つの大きな流れだったが、ほとんどが事実上失敗している。唯一飛び抜けていたとも言えるのが、同じエーザイとバイオジェンが共同開発していた抗Aβ抗体のアデュカヌマブ。Aβの生成過程の中でもフィブリルに結合する抗体で第II相試験での成績が良好だったことから期待されたが、2019年3月に独立データモニタリング委員会が主要評価項目を達成できる見通しがないと勧告した結果、進行中の2件の第III相試験が中止された。しかし、勧告後に入手できた症例データを加えて再解析した結果、うち1件では、高用量群でプラセボ群との比較で、臨床的認知症重症度判定尺度(CDR-SB:Clinical Dementia Rating Sum of Boxes)の有意な低下が認められた。このためバイオジェンは一転して米食品医薬品局(FDA)に承認を申請。FDA諮問委員会の評決では、ほぼ否定的な評価を下されていたものの、社会的要請の高さなどを理由に新たな無作為化比較試験の追加実施とそのデータ提出を求める条件付き承認となった。もっともこの承認には専門家の中でも批判が多く、米国ではメディケア・メディケイド サービスセンター(CMS)がアデュカヌマブの保険償還対象を特定の臨床試験参加者のみに限定。さらにヨーロッパと日本では現状の臨床試験結果では効果が十分確認されていないとして承認見送りとなった。まさにジェットコースターのようなアップダウンを繰り返して、ほぼ振出しに戻ったのがAD治療薬開発の現状である。もちろんレカネマブの開発が続いていたことは承知していた。しかし、前述のような開発を巡るドタバタを知っている身としては、必死に開発を行っていた人たちには申し訳ないが、期待はせずに横目で見ていたというのが実状である。そんな最中、エーザイがレカネマブの第III相試験「Clarity AD」の主要評価項目で有意差を認め、記者発表するとのニュースリリースを9月28日早朝に発表した。今回はあの抗寄生虫薬イベルメクチンの時と違って、すでに結果がポジティブだったことはわかっている。要はどの程度のポジティブだったかがカギだ。当日、オンラインで記者会見に参加した私はディスプレイに釘付けになった。ちなみにClarity AD の登録症例は1,795例。脳内Aβ病理が確認され、スクリーニングおよびベースラインの認知症ミニメンタルステート検査(MMSE)が 22~30点、論理的記憶検査(WMS-IV LM II:Wechsler Memory Scale-IV logical memory II)の点数が年齢調整済み平均値を少なくとも1標準偏差を下回り、エピソード記憶障害が客観的に示されることが認められるADによるMCIと軽度ADが対象だ。これを2群に分け、レカネマブ10mg/kgの点滴静注を2週に1回とプラセボ点滴静注を2週に1回行い、主要評価項目は、ベースラインから投与18ヵ月時点でのCDR-SBの変化を比較したものだ。アデュカヌマブとレカネマブの最大の違いは、レカネマブはフィブリル形成直前の可溶性プロトフィブリルが標的となっていることに加え、アデュカヌマブでは漸増投与が必要だったのに対し、レカネマブは初回から有効用量の投与が可能なことである。公表された結果ではプラセボ比でのCDR-SB変化量で見た悪化抑制率は27%、詳細は発表されなかったが副次評価項目すべてでプラセボに対して統計学的有意差が認められたという。また、抗Aβ抗体では付き物の副作用がアミロイド関連画像異常(ARIA)だが、その発現率はARIAのうち脳浮腫をさすARIA-Eが12.5%(症候性2.8%)、脳微小出血をさすARIA-Hが17.0%(同0.7%)。アデュカヌマブが高用量群でプラセボ比でのCDR-SB変化量で見た悪化抑制率は23%(低用量群では14%)で、ARIA発現率がレカネマブの約3倍であることを考えれば、確かに成績は良いと言える。しかも、あくまでエーザイ側の説明に依拠するが、プラセボと比較したCDR-SB変化量の差は治験開始6ヵ月後に発現しているというのだ。私が驚いたのはむしろこの効果発現の早さだ。さてエーザイではこの結果をもって日米欧で2022年度中のフル申請、2023年度中のフル承認を目指すという。「フル」というのはアデュカヌマブの時のような条件付き承認ではないということである。ちなみに米国では、すでにClarity AD以外の試験結果で迅速承認制度の指定を受け、その結果は来年1月上旬までに明らかになる予定だが、この試験結果を追加提出することで、アデュカヌマブのような「失敗」はしないという意味である。CMSはアデュカヌマブの保険償還制限に当たって、同薬のような“条件付きの迅速承認の場合”とこちらも条件を付けている。では、このまま承認に至った際の課題は…やはり投与対象と薬価の問題である。米国でアデュカヌマブが承認された際の年間薬剤費は約600万円となった。前述のCMSの付けた条件が制限となったため、現実にはほとんど売上と言えるほどの数字にはなっていない。抗体医薬品である以上、どんなに頑張ってもレカネマブの年間薬剤費が100万円以下というのは世界のどの国でも考えにくい。たとえば仮に年間100万円としても、現在日本には推定約700万人の認知症患者がいる。日本国内でこのうちの1%強に当たる10万人が処方を受けたとすると、年間薬剤費は1,000億円となる。世界最速とも言える少子高齢化が進み、社会保障費の増大に危機感が募るばかりの昨今の状況を考えれば、簡単に容認できる話ではない。これまでの経緯を考えれば、承認されたあかつきに厚生労働省は最適使用推進ガイドラインなどでかなり投与対象を絞り込んでくるだろう。それに仮に成功しても、その先が相当厄介である。まず、投与開始後にどのような状態を有効・無効と判定するのか。かつて話題になった免疫チェックポイント阻害薬のニボルマブ(商品名:オプジーボ)の場合ならば、画像診断での腫瘍縮小効果という指標もあった。では、レカネマブでは1回数十万円もするアミロイドPETでAβ量を定量化するのか? それともある程度ばらつきもあるMMSEで判定するのか?有効基準が決まったとして、投与はいつまで続けるのか? そもそもADは高齢者の病気である。期待余命は長くはなく、悪化抑制効果が最大限得られたとしても患者本人の社会的・経済的生産性の向上が見込めるかと言えば、そこには「?」がつく。とはいえ、MCIの父親を持つ自分にとってみれば、たとえ3割弱の遅延抑制効果とはいえ、老老介護となっている母親の肉体的・精神的負担を考えれば、使える物なら使ってみたいという気持ちもある。約束した寿司屋でうまそうに漬け丼をほおばる父親を見ながら、そんなことばかりを考えていた。寿司屋を出て両親と一緒に牛歩で駅に向かった。とくに何時の新幹線に乗るかは決めていなかった。アーケード街を歩きながら、途中でベンチが見えると父親はそこに腰を掛けて休むと言い出した。母親は私に気を遣って、「私たちはゆっくり行くから、あなたは先に帰りなさい」と促した。私は父親に「またね?」と言ってその場を後にした。父親はまた破顔一笑。そのまま後ろを振り返らずにまっすぐ駅へと向かった。医療経済性、社会保障費の増大、患者家族としての思いがぐるぐる頭を巡りながら、今日この時点でも結論は出ていない。たぶんこの先も容易に結論は出ないだろう。正直、メディアの側にいるというだけで私たちは他人から忌み嫌われることは少なくない。とはいえ、それでも自分で自分の仕事を嫌だと思ったことは、こと私自身に関しては数えられるほど少ない。ただ、この日ばかりは「何も知ならきゃ良かった。本当に因果な商売だな」と自分の仕事が嫌になった数少ない日として、生涯忘れられない日になりそうである。

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腎細胞がんに対するbempegaldesleukin+ニボルマブ1次治療の成績(PIVOT-09)/ESMO2022

 未治療の腎細胞がん患者を対象に、インターロイキン2(IL-2)作動薬であるbempegaldesleukinとニボルマブの併用療法を、スニチニブまたはカボザンチニブと比較検討した無作為化第III相試験PIVOT-09において、主要評価項目とした奏効率(ORR)と全生存期間(OS)に差が認められなかった。米国・MDアンダーソンがんセンターのNizar Tannir氏が欧州臨床腫瘍学会(ESMO2022)で報告した。・対象:未治療の進行・転移腎細胞がん・試験群:bempegaldesleukin+ニボルマブ3週ごと(311例)・対照群:医師が選択したTKIスニチニブまたはカボザンチニブ(312例)・主要評価項目:盲検独立中央判定(BICR)の評価によるORR、OS 主な結果は以下のとおり。・623例が無作為に対照群(312例)ではスニチニブ225例、カボザンチニブ87例に割り付けられた。・患者背景は両群間でおおむね一致しており、年齢中央値は62歳、男性比率は約75%で、IMDCリスク分類では17%が低リスク、63%が中リスク、20%が高リスクであった。・中リスクおよび高リスクの患者が有効性評価の解析対象となり、ORRは試験群で23.0%、対照群で30.6%であった。・試験群のOS中央値は29.0ヵ月で、対照群では未到達であった(ハザード比:0.82、95%信頼区間:0.61〜1.10、p=0.1915)。・全患者を解析対象とした安全性解析では、Grade3/4の治療関連有害事象(TRAE)が試験群では25.8%、対照群では56.5%に発現し、TRAEによる治療中止は試験群と対照群でそれぞれ7.7%と7.2%であった。・試験群のTRAEで主なものは、発熱(32.6%)、痒み(31.3%)、悪心(24.2%)、好酸球増加(23.9%)、甲状腺機能低下症(22.9%)、発疹(22.9%)、関節痛(20.0%)などであった。

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心不全未発症者、睡眠時無呼吸や質低下が心拡張機能障害と関連/兵庫医大

 心不全未発症の段階において、睡眠時の無呼吸と質の低下がそれぞれ独立した左室拡張機能低下の重要な予測因子であることを、兵庫医科大学糖尿病内分泌・免疫内科学講座の大学院生の木俵 米一氏らの共同研究グループが前向き研究で解明した。これまで、心不全患者では睡眠に関する問題が多く、睡眠が心不全発症と関連する可能性が指摘されていたが、無呼吸、短時間、質の低下などの睡眠関連因子を定量的かつ同時に評価し、左室拡張機能障害の進行に対する影響を直接検討した研究は報告されていなかった。Journal of American Heart Association誌オンライン版2022年9月21日号掲載の報告。 対象は、同大学が実施する全学横断的プロジェクト研究事業「Hyogo Innovative Challenge(HIC)」の一環であるHyogo Sleep Cario-Autonomic Atherosclerosis (HSCAA)コホート研究に登録された患者のうち、心不全未発症の452例。平均34.7ヵ月(中央値25ヵ月)追跡を行い、睡眠時の無呼吸、睡眠の時間と質が心拡張機能障害の進行にどのように関連するのかを前向きに検討した。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中、452例中66例で心拡張機能低障害が進行した。・カプランマイヤー解析の結果、中~重症の睡眠時無呼吸を有する患者および睡眠中の体動が多く質が低下した患者では、これらの因子がない/軽度の患者に比べて将来の心拡張機能障害を来す割合が高かった(それぞれp<0.01)。・睡眠の時間については、心拡張機能との明らかな関連は認められなかった(p=0.27)。・これらの因子の影響を患者背景も含めて検討したCox比例ハザードモデルでは、中~重症の睡眠時無呼吸を有する患者(ハザード比[HR]:9.26、95%信頼区間[CI]:1.89~45.26、p<0.01)および質の低下した患者(同:1.85、同:1.01~3.39、p=0.04)は、将来の心拡張機能の低下と有意な関連を示しており、これらの関係は互いに独立していた。

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日本人高齢者の睡眠時間と認知症リスクとの関係~NISSINプロジェクト

 大阪公立大学の鵜川 重和氏らは、身体的および社会的に自立した日本人高齢者における毎日の睡眠時間と認知症発症リスク(高血圧、糖尿病、心血管疾患などの併存疾患の有無にかかわらず)との関連を調査するため、日本人の年齢別コホートを行った。その結果、日々の習慣的な睡眠時間は、将来の認知症発症リスクの予測因子であることが示唆された。Sleep Medicine誌オンライン版2022年9月3日号の報告。 64~65歳の日本人1,954人(男性:1,006人、女性:948人)を含むプロスペクティブコホート研究を実施した。1日の睡眠時間、症状、人口統計学的因子、ライフスタイル特性に関するデータは、ベースラインアンケート調査および健康診断調査(2000~05年)より収集した。認知症発症は、厚生労働省が提唱する全国標準化認知症尺度を用いて確認した。認知症発症のハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を算出するため、競合リスクモデルを用いた。死亡例も競合イベントとして扱った。 主な結果は以下のとおり。・フォローアップ期間中央値は15.6年であり、その間に認知症を発症した人は260人であった。・併存疾患がなく、1日6~7.9時間の睡眠時間の人と比較し、認知症リスクが高かった人の特徴は以下のとおりであり、併存疾患と睡眠時間との間に有意な相関が認められた(いずれもp<0.001)。 ●1日の睡眠時間が6時間未満(HR:1.73、95%CI:1.04~2.88) ●併存疾患があり1日の睡眠時間が8時間未満(HR:1.98、95%CI:1.14~3.44) ●併存疾患があり1日の睡眠時間が8時間程度(HR:1.44、95%CI:1.03~2.00) ●併存疾患があり1日の睡眠時間が8時間以上(HR:2.09、95%CI:1.41~3.09)

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第130回 がん治療で知られるCAR-Tの応用で全身性エリテマトーデス患者5人が寛解

がん治療で一足先に実用化されたキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)の応用で5人の自己免疫疾患・全身性エリテマトーデス(SLE)が寛解に至りました1-3)。5年前にB細胞がんの治療として米国で承認されたCAR-T治療は採取したT細胞を目当ての加工を施したうえで再び患者の体内に戻すという手順を踏みます。SLEは免疫系が自己DNAに誤って反応してしまうことで生じます。その反応とはB細胞が死にゆく細胞から放出されるDNAへの抗体を作ってしまうことです。SLE治療のCAR-Tはそういう病因抗体を作るB細胞の駆除を目指し、B細胞のタンパク質CD19を標的とするキメラ抗原受容体(抗CD19 CAR)を導入したうえで患者5人に投与されました。その投与から3ヵ月以内に5人全員が寛解に至り、免疫抑制剤などのそれまで必要だった薬を止めることができ、薬なしでやっていけるようになりました。5人の観察期間はおよそ8ヵ月(中央値)で、長い人は治療から17ヵ月経ち2)、薬なしでの寛解を観察期間中維持しました。効果がどれほど続くかはまだ不明で今後多くの人に試して調べる必要がありますが、投与したCAR-Tが体内でなくなっても効果は少なくともしばらくは持続するようです。というのも5人に投与したCAR-Tは1ヵ月もするとほとんど検出されなくなったからです。3ヵ月半ほどが過ぎるといったん枯渇したB細胞が骨髄の幹細胞から作られるようになって復活し始めました。しかし幸いにもそれらの新たなB細胞は自己DNAに反応しませんでした。ただし、SLE患者のDNAに反応するように何がB細胞を駆り立てるのかは分かっておらず、何らかのきっかけでその反応が再び頭をもたげ始める恐れがあります。そういう再発の恐れをはじめとする課題を今後の試験で検討する必要がありますが今回の結果をSLE界隈の医師等はまずは歓迎しているようです。僅か5人の結果とはいえCAR-T治療の効果はこれまでにないものであり、胸躍らせるものだとKing‘s College LondonのSLE研究医師Chris Wincup氏は言っています2)。CAR-Tの活躍の場はSLEに限定されるものではなく、免疫が神経を攻撃することで生じる多発性硬化症(MS)などの抗体を要因とする他の自己免疫疾患も相手できるかもしれません。企業による自己免疫疾患治療CAR-Tの開発も進んでおり、たとえば米国カリフォルニア州のバイオテック企業Kyverna Therapeutics社はSLEに伴う腎臓炎症・ループス腎炎を治療するCAR-T・KYV-101の臨床試験を今年中に開始します4)。KYV-101もCD19標的CAR-Tであり、最近Kyverna社はドイツのフリードリヒ・アレクサンダー大学のGeorg Schett氏を科学顧問に迎えています。Schett氏は他でもない今回紹介したCAR-T治療試験のリーダーです。ループス腎炎を合併する重度SLE女性がCD19標的CAR-T治療で寛解に至ったことをSchett氏等は今回の試験報告に先立って昨夏の去年8月にNEJM誌に報告しています5)。参考1)Mackensen A,et al. . Nat Med. 2022 Sep 15. [Epub ahead of print]2)Radical lupus treatment uses CAR T-cell therapy developed for cancer / NewScientist3)Cancer treatment tackles lupus / Science4)Kyverna Therapeutics Names Georg Schett, M.D., and Peter A. Merkel, M.D., MPH, to Scientific Advisory Board / PRNewswire5)Mougiakakos D, et al. N Engl J Med. 2021;385:567-569.

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