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Vol. 4 No. 2 アスピリンの評価とコントロバーシー(1) 循環器内科の立場から

上妻 謙 氏帝京大学医学部内科学講座・循環器内科はじめに虚血性心疾患に対する治療は抗血小板療法の進歩とカテーテルインターベンション(percutaneous coronary intervention:PCI)の普及によって低侵襲かつ高い成功率で治療が可能となった。抗血小板療法ではアスピリンを常に標準薬として投与し、そこに血小板表面のP2Y12受容体のADPによる凝集を抑制するチエノピリジンなどの薬剤を追加する抗血小板薬2剤併用療法(dual antiplatelet therapy:DAPT)がステント血栓症予防とハイリスク患者の2次予防のために確立された治療となった。しかしDAPTによる出血合併症の増加が問題となり、近年P2Y12受容体拮抗薬に第3世代と呼ばれる新しい薬剤が登場して、より早期に有効性を発揮できるようになってきたことにより、アスピリンの役割、意義に見直しの気運がでてきた。アスピリンの抗血小板作用アスピリン(アセチルサリチル酸)は、何世紀にもわたって医学史上、代表的な薬物として使用されており、アテローム性血栓症の治療の主要な役割を担ってきた。アスピリンが合成できるようになって120年近くなるが、当初は消炎鎮痛薬として捉えられていた。抗血小板薬として認知されるようになったのは50年ほど前からで、日本で虚血性心疾患や脳梗塞予防に対する保険適応が認められたのは2000年と比較的最近のことである。アスピリンは、cyclooxygenase(COX)にあるsingle serine residue(Ser529)のアセチル化によって、アラキドン酸の代謝を阻害する。血小板が生きている間中、アスピリンはこのCOXを不可逆的に阻害する。また血小板の活性因子であるトロンボキサンA2(TXA2)の産生が減少する結果、COXを阻害することができる。もともとアスピリンは、用量依存性でTXA2を減少させ、一度COXがアスピリンによってアセチル化された場合、巨核球によって新しい血小板が産生されるまで、TXA2は結合できない。COXは2つの異なるアイソフォームが存在し、COX-1は血小板、マクロファージ、そして血管内皮細胞に表れる構成型であり、もう一方のCOX-2は、炎症性刺激を求める誘導型である。アスピリンは、基本的には不可逆的なCOX-1阻害薬であり、高用量であればCOX-2阻害をすることができる。このため、アスピリンは大量投与すると抗血小板作用が減弱する可能性が知られており、アスピリンジレンマとも呼ばれ、1日100mgの投与で十分である。アスピリンの役割と問題点アスピリンは急性冠症候群をはじめとする虚血性心疾患の2次予防に対して、有効性が確立された薬物である。ISIS-2とRISC研究の両方の研究において、急性冠症候群発症後にアスピリン内服を継続していると、心筋梗塞の再発率を軽減させるという結果が示されている1, 2)。ISIS-2研究では、アスピリン160mg/日で内服治療を行う群と対照群とを無作為化して、5週間両群を比較検討したところ、血管イベントによる死亡率は減少したと報告された(9.4% vs. 11.8%; 95% CI 15-30; p<0.00001)。アスピリンの最大の問題点は出血合併症である。Antithrombotic Trialists' Collaborationは、アテローム性血栓症のハイリスク患者において、心筋梗塞、脳卒中、そして死亡を予防するための抗血小板療法を研究した、287の無作為化研究のメタ解析である3)。脳出血の合併は787人に起こり、そのうちの20%は致死的な出血であった。対照群と比較してアスピリンを内服していた患者は、脳出血発生のリスクが60%増加していたと報告している。このAntithrombotic Trialists' Collaboration研究において、重大な血管イベントを予防することに関して、アスピリンの1日内服用量、75~150、160~325、500~1,000mgの3群間にて、有意な差を示さなかった。アスピリンによる消化管出血および脳内出血発症のリスクを解析している、28の無作為化研究を用いたメタ解析では、対照群に割り振られた患者の消化管出血発生率は1.42%であったが、アスピリンを内服していた患者の消化管出血発生率は2.47%であることがわかった(OR 1.68; 95% CI 1.51-1.88)4)。また、心血管もしくは脳血管イベントの2次予防に対する6つの無作為化研究では、1日325mg以下のアスピリンを内服する患者は、対照群に比べると消化管出血の発症を2.5倍程度増加することが明らかにされた(95% CI 1.4-4.7; p= 0.001)5)。この解析は、アスピリンで治療を行った場合、67人の内1人の割合で死亡を防げた一方で、100人のうち1人の割合で非致死性の消化管出血が起こるということを示した。最近MAGIC試験の結果が発表され、日本人のデータとして低用量アスピリン内服中の患者の内視鏡所見で消化管障害を合併する頻度を明らかにしている6)。この報告では直径5mm以上の消化性潰瘍が6.5%に存在し、びらんは29.2%の頻度で存在した。もともとアスピリンをはじめとした非ステロイド消炎鎮痛薬(NSAIDs)は上部消化管粘膜の障害を来す直接の作用があり、出血の元になる病変がアスピリンによって作られ、そこに他の抗血小板薬や抗凝固薬を併用することによって、臨床的に問題となる出血に発展するものと思われる。そして、消化管出血は心血管イベントの上昇につながることが示されている7)。そのため、海外のガイドラインでは低用量アスピリンに抗血小板薬や抗凝固薬を併用する時には、プロトンポンプ阻害薬を併用することを推奨するものが多い。DAPTにおけるアスピリンの役割現在、冠動脈ステント植え込み後の抗血小板療法として標準となっているのがアスピリンとチエノピリジン(クロピドグレル、プラスグレル、チクロピジン)の2剤併用療法、すなわちDAPTである。日本ではほとんどのACSがPCIで治療されているため、ステント治療のDAPTと同義になっている傾向がある。もともとステント血栓症の予防のために始まったDAPTは、アスピリンにワルファリンを併用していたものを、ワルファリンからチクロピジンに変更したことで始まった。特にチクロピジンは作用が十分に発現するまで1週間程度かかり、チクロピジン単剤という発想はまったくなかった。クロピドグレル、プラスグレル、チクロピジンはチエノピリジン系薬剤といわれ、血小板表面上にあるP2Y12受容体に結合し、ADPによる血小板凝集を抑制し、またcAMP濃度を上昇させることによる血小板凝集抑制作用をもち、強力な抗血小板作用を有する薬剤である。プラスグレルやチカグレロルのような新しい抗血小板薬の特徴は作用発現の早さと効果の個人差が少ないことである。今まではクロピドグレルの効果発現の早さに個人差があることから、効果発現の早いアスピリンの併用は、その早期作用不足の補完の意味があったが、新規抗血小板薬ではその必要がなくなってきている可能性がある。1. ステント血栓症予防のためのDAPT最近の大きな話題の1つが、「DAPTをいつまでつづけるか」というDAPT期間の問題である。ステント血栓症予防のためのDAPT投与期間に対する考えは、ステントの進歩に伴い大きく変わってきている。現在標準のDAPT期間は、ベアメタルステント(BMS)留置後は最低30日間、理想的には12か月間が推奨されており、薬剤溶出性ステント(DES)留置後は12か月となっている。BMSでは、臨床使用され始めた頃から30日以内の早期のステント血栓症が問題であった。これがDESに関しては、30日以降の遅発性ステント血栓症、さらに1年以降の超遅発性ステント血栓症(very late stent thrombosis:VLST)がクローズアップされ、2006年BASKET late試験では、6か月以降の心筋梗塞と死亡のイベントはDESのほうがBMSよりも高いと発表され、大きな問題点として取りざたされるようになった。2006年秋のヨーロッパ心臓病学会(ESC)においてその話題は一気に盛り上がり、その後追試もなされ、第1世代のDESでは5年経過しても年間0.2~0.5%程度のVLST発生がレポートされており8, 9)、一時は世界中で使用を控える動きがみられるようになった。以上の背景から、DES植え込み後のDAPT期間は無期限に延長される傾向があった。しかし、その後上市され現在使用されているDESは第2世代と呼ばれ、VLSTの問題が大きく改善されている。DAPTに関する臨床試験が多数行われており、3か月や6か月へのDAPT期間短縮が試みられるようになった。これまでに出版された6つの論文では、いずれも延長されたDAPTにイベント抑制のメリットが認められず、出血が増加するという結果となっており、6か月以上のDAPTに関してはデメリットがメリットを上回るとされている10-13)。したがって、最近改訂された2014年のESCのガイドラインでも待機的PCIのDAPTはDESでも6か月までに短縮された12)。しかし、2014年11月に発表されたDAPT試験の結果は、これまでの結果を否定するものとなった。DAPT試験は、DES植え込み後12か月経過した症例をランダマイズし、DAPTを30か月まで継続する群とアスピリン単剤とする群とに分けて検討した、FDA主導の産官学共同の臨床試験である。その結果、DAPTの継続によってステント血栓症、心筋梗塞の発症率は有意に抑制されることが示された。しかし重篤な出血はDAPT継続で有意に多く、死亡率もDAPT継続で高い傾向が示された。特にステント血栓症が少ないといわれるeverolimus-eluting stentが半数近くを占めており、現代のDES植え込み患者の実態で行われた試験のため、DAPTの継続が一定の意味をもつことが初めて示されたといえる。残された疑問は、DAPT終了後に残す薬剤として選択されているのが常にアスピリンであり、それがP2Y12受容体拮抗薬であったらどうかということである。この点について検討する臨床試験がGlobal Leadersで、1か月のDAPT後にP2Y12受容体拮抗薬(チカグレロル)を単剤で残す治療法と、12か月DAPT後にアスピリン単剤を残す従来療法とを比較する無作為化試験で、出血合併症と関連しやすいにもかかわらず、作用がP2Y12受容体拮抗薬よりも弱いというアスピリンの問題点について、解決策を示してくれる可能性がある。2. 急性冠症候群等アテローム血栓症2次予防としての抗血小板療法ステント血栓症予防で始まったDAPTであるが、ステント使用にかかわらず、抗血小板薬の内服治療でACS患者の心血管イベント抑制が得られることが多くの臨床試験で示され、DAPTを12か月間行うことがACS治療の標準となっている14)。不安定プラークを発症の基盤とするアテローム血栓症は同一患者に複数存在することが多く、同時期に心血管イベントを起こすことも多い。そのアテローム血栓症が症候性のACSや脳卒中として発症することを予防するために、強力な抗血小板療法が行われる。PCI施行患者の冠動脈3枝すべてをイメージングで解析し、その後3年間フォローしたPROSPECT試験では、PCI施行病変以外の病変に伴う心血管イベントは、治療病変と同等の頻度で起こることが示されている15)。さらに、そのイベントを起こす病変はもともと有意な狭窄病変であったものと、狭窄が存在しなかったところから急速に進展して発症したものがほぼ同頻度であることも示されている。したがって、一度アテローム血栓症によるイベントを発症した患者は、プラークが安定化するまで2次予防を厳重に行わなければならないわけである。末梢動脈疾患など、多臓器に病変がおよぶpolyvascular diseaseはアテローム血栓症発症のハイリスクであることが示されており、こういったリスクの高い疾患では、心血管イベントによる死亡率が末梢動脈疾患の存在しない患者と比較して1.76倍、心筋梗塞発症率が2.08倍という報告もあり16)、2次予防のための抗血小板薬としてアスピリン単剤では効果不十分な可能性があることがメタ解析によって指摘されている17)。そして、アスピリンよりもチエノピリジン系を中心としたアスピリン以外の抗血小板薬のほうが心血管イベントの抑制に有効であるというメタ解析も公表されている18)。20年前の臨床試験ではあるが、アスピリンとクロピドグレルを比較する二重盲検無作為化比較試験であるCAPRIE試験のサブ解析でも、末梢動脈疾患で組み入れられた患者では、アスピリンに比べクロピドグレルは心筋梗塞発症率を37%低減させたと発表されている19)。したがって末梢動脈疾患やpolyvascular diseaseなどのハイリスク患者については、アスピリンよりP2Y12受容体拮抗薬などのより強力な抗血小板薬の投与が推奨されてきている。DAPTとアスピリン単剤のどちらがよいかについては、CHARISMA試験が公表されている。2次予防患者については心筋梗塞発症などのリスク低下が示されているが、重篤でない出血合併症の増加が指摘されている20)。ここでもアスピリンが本当に必要なのかという点については、すべてのガイドラインでアスピリン投与が標準となっており、当初からのアスピリンoffについては今まで検討されたことがない。おわりに今まで述べてきたように、ゴールデンスタンダードとして常に投与が基本とされてきたアスピリンの有効性、安全性についてのエビデンスレベルは、近年急速に低下してきており、効果が確実で早いP2Y12受容体拮抗薬の普及もあり、治療の当初からP2Y12受容体拮抗薬単剤投与という選択肢を考慮していく必要が出てきた。今後のエビデンスの集積が望まれるが、アスピリンは安価であり、費用対効果も検討していく必要がある。文献1)Randomised trial of intravenous streptokinase, oral aspirin, both, or neither among 17,187 cases of suspected acute myocardial infarction: ISIS-2. 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侍オンコロジスト奮闘記~Dr.白井 in USA~ 第13回

第13回:米国オンコロジストのweb活用勉強法ビデオレター中で紹介しているwebサイトMedscape Oncology:www.medscape.com/oncologyClinical Care Options Oncology:www.clinicaloptions.com/Oncology.aspxResearch to Practice:www.researchtopractice.comGrace(Global Resourch for Advancing Cancer Education):cancergrace.orgASCO University:university.asco.orgTargeted Oncology:targetedonc.com

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ジカウイルス感染症に気を付けろッ! その1【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。第16回となる今回は「ジカウイルス感染症」についてです。地域によっては小頭症例が例年の75倍まず、読者の皆さまはジカウイルス感染症という感染症をご存じでしょうか。おそらくご存じない方が多いのではないでしょうか。それもそのはず、ジカウイルス感染症はこれまでに日本国内でたった3例しか診断されたことのない感染症だからです(そして自慢ですが3例とも私忽那が診断しているのですッ!)。「そんなまれな感染症を取り上げやがって…忽那もついにネタ切れか…」と思われるかもしれませんが(そしてネタ切れというのは決して間違っていないのですが)、ジカウイルス感染症は今世界で注目を集めている感染症なのですッ! そして、この連載でジカウイルス感染症を扱うのは、今しかないのですッ!!2015年11月、ブラジルの保健省が「ジカウイルス感染症のせいで小頭症が増えているかもしれない」という驚愕の発表をしました。ブラジルで生まれてくる子どものうち、小頭症の子どもが例年の8倍も増えており、2015年11月28日時点で疑い例を含めブラジル14州で計1,248例の小頭症症例が報告されているというのです1)。とくにペルナンブコ州という地域では75倍にも激増しているといいます(図1)。画像を拡大するなぜこの小頭症患者の増加が、ジカウイルス感染症によるものと考えられているのかというと、一つはこの小頭症患者が増加している地域とジカウイルス感染症が流行している地域が一致しているということがあります。そして、もう一つは妊娠中にジカウイルス感染症に矛盾しない臨床症状を呈していた妊婦2人の羊水からジカウイルスが検出され、胎児が小頭症であることが確認されたということも、ジカウイルス感染症の関与を強く疑わせます。また、2013~14年とジカウイルス感染症が大流行していたフランス領ポリネシア(タヒチ)でも、小頭症患者が増加していることが報告されています。この小頭症患者の増加を受けて、ついにブラジル保健省は「ジカウイルス感染症の流行地域の女性は妊娠を控えてほしい」という声明を発表するに至ります。妊娠を控えろとは…これはもう完全に異常事態です。ジカウイルス感染症、急速に拡大中!では、ジカウイルス感染症はどのようにして、ここまでの広がりをみせたのでしょうか。ジカウイルス感染症はほんの10年前まで、ごく一部の地域でしかみられない感染症でした。症例報告数も数えるほどしかなく、希少感染症だったのです。しかし、2007年にオセアニア地域のミクロネシアにあるヤップ島という島でジカウイルス感染症のアウトブレイクが起き、300人の感染者が出て注目を集めました2)。ここで一部の感染症マニアの間で「なんかデング熱に似た変な感染症があるな」と認識されました。そして、さらに2013年9月よりフランス領ポリネシアで始まったジカウイルス感染症の大流行は、ニューカレドニア、クック諸島にも波及し、感染者は3万人以上に上りました3)。この段階で私も「おいおい、結構ジカウイルス感染症流行ってるなぁ」と思っていましたが「でも軽症の感染症だしなぁ…大したことにはなるまい」と甘く見ていたのでした。さらに2015年6月、ジカウイルス感染症がブラジルで報告されると、その後も中南米に飛び火しコロンビア、エルサルバドル、グアテマラ、メキシコ、パラグアイ、スリナムで国内感染例が報告されています(図2)。そして、次々に小頭症患者が報告され、現在の悪夢が起こっているというわけです。画像を拡大するチクングニア熱と酷似する感染拡大ところで、この流行の広がり方、どこかでみたことがありませんか? 熱心な「気を付けろッ!」読者の方(そんな人いるのかな)はお気付きでしょう。そう、チクングニア熱の広がり方にクリソツなのですッ(チクングニア熱に気を付けろッ!をご参照ください)!!最初にアフリカで発見され、東南アジアに流行が広がり、さらにオセアニア・中南米にまで広がるというこのストーリー、まさに「チクングニア熱物語」に瓜二つではないでしょうか。ジカウイルス感染症は、チクングニア熱が歩んだ階段を後から追いかけているのですッ!(われわれ人間にとってはホントに迷惑な話ですが)。というわけで、今ではこのジカウイルス感染症の流行地域は、チクングニア熱とほとんど同じになってしまいました。そして、ジカウイルス感染症と同じフラビウイルス科であり、同じ蚊媒介感染症であるデング熱とも、ほぼ同じ流行地域にまで広がっています。つまり、これからは海外渡航歴のある患者でデング熱を疑ったら、チクングニア熱、そして、ジカウイルス感染症も同時に疑う必要があるのですッ!それではどのようなときに、ジカウイルス感染症を疑えばいいのでしょうか? 次回は、ジカウイルス感染症の臨床像、日本国内での流行の可能性についてご紹介したいと思います。※本文中の「ジカ熱」の表記を「ジカウイルス感染症」に変更いたしました。1)European Centre for Disease Prevention and Control (ECDC). Epidemiological update: Evolution of the Zika virus global outbreaks and complications potentially linked to the Zika virus outbreaks. 04 Dec 2015.2)Duffy MR, et al. N Engl J Med.2009;360:2536-2543.3)Kutsuna S, et al. Euro Surveill.2014;19:20683.4)Centre for Disease Prevention and Control (CDC). Zika Fever. Geographic Distribution.

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非薬物的介入の併用で認知症への抗精神病薬使用が減らせるか

 英国・ロンドン大学のClive Ballard氏らは、介護施設に入居中の認知症患者を対象に、抗精神病薬の見直し、社会的交流、運動などの介入が、抗精神病薬の使用状況や興奮、うつなどの症状に及ぼす影響を評価した。その結果、抗精神病薬の見直しにより使用が減少したが、より高いベネフィットを期待するには、その他の非薬物的介入も併用することが望ましいと報告した。American Journal of Psychiatry誌オンライン版2015年11月20日号の掲載報告。 研究グループは、英国の介護施設16ヵ所に入居中の認知症患者を対象とし、2種のレプリケーションを用いたクラスター無作為化要因対照試験を実施した。全介護施設が、患者中心医療のトレーニングを受けた。8施設が「抗精神病薬の見直し」「社会的交流の介入」「運動介入」に割り付けられ、9ヵ月間の介入を実施した。なお、大半の施設が1つ以上の介入に割り付けられ実施した。主要アウトカムは、抗精神病薬の使用、興奮、うつとした。副次的アウトカムは、全般的神経精神症状および死亡率であった。 主な結果は以下のとおり・抗精神病薬の見直しは、抗精神病薬の使用を有意に50%減少させた(オッズ比:0.17、95%信頼区間[CI]:0.05~0.60)。・抗精神病薬の見直しと社会的交流介入の併用は、どちらも実施しなかったグループと比べ、死亡率を有意に減少させた(オッズ比:0.26、95%CI:0.13~0.51)。・抗精神病薬の見直しを受け、社会的交流の介入を受けなかったグループは、どちらも受けていないグループに比べ、神経精神症状のアウトカムが有意に不良であった(スコアの差:+7.37、95%CI:1.53~13.22)。・この負の影響は、社会的交流の併用により軽減された(-0.44、-4.39~3.52)。・運動介入は、神経精神症状を有意に改善したが(-3.59、95%CI:-7.08~-0.09)、うつに関しては改善が認められなかった(-1.21、-4.35~-1.93)。・興奮に対して有意な影響を及ぼす介入は確認されなかった。(ケアネット)精神科関連Newsはこちらhttp://www.carenet.com/psychiatry/archive/news

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循環器内科 米国臨床留学記 第4回

第4回:大学病院、退役軍人病院、プライベート病院特徴のあるローテーション先の病院米国には、大きく分けて3つの病院があります。多くの大学のプログラムは、University Hospital (大学病院)に加えて、VA(退役軍人)病院、場合によってプライベート病院をローテートします。University Hospital (大学病院)University Hospitalは、メインの研修先となります。最先端の治療が行われるため、自然と重症患者が集まります。University Hospitalはフェローやレジデントが主戦力ですから、われわれがいないと仕事が先に進みません。近年、レジデントは労働時間の制限(週80時間労働)、Caps制度(受け持てる患者の数が決まっている)があります。結果的に、そのしわ寄せがフェローに来ます。先月はCCU(冠動脈疾患ケアユニット、重症の心疾患を扱う集中治療室)でしたが、レジデントより遅くまで病院にいることも多かったです。私のプログラムではCCUをローテートする月の平日は毎晩オンコールでERや院内からの循環器コンサルトが頻回にかかってきます。病院のカルテに家からアクセスできるため、心電図の確認のコールが頻回にかかってきます。夜中にST上昇心筋梗塞が来たら、心電図を確認した上でカテ室を起動させなければなりません。その他、緊急心エコーなどのオーダーもあります。そのため、4時間以上連続して寝られることはありませんでした。University Hospitalとしても酷使しても給料を増やさなくて良くて、かつ労働時間の制限がないフェローは使い勝手が良いのです。University Hospitalでは、医師の給料はプライベートホスピタルと比べると安いので、大学で働くことを希望する人は教育をしたい、もしくは研究をしたい人が中心となります。University of Californiaでは、すべての職員の給料が公開されています。循環器フェロー卒業直後の給料は、25万ドル程度です。EP(不整脈)や冠動脈インターベンションの教授のトップクラスは50万ドル以上にもなります。Veterans Affairs Hospital(VA: 退役軍人病院)VA(退役軍人)病院は、多くのUniversity Hospitalのプログラムとつながっており、ローテーションすることが義務付けられています(写真:ロングビーチVA病院)。全米のレジデントの約30%がVAをローテートし、ローテートしたフェローやレジデントの給料の一部はVAの財源から補われます。ロングビーチVA病院安価で医療を受けられると聞くと聞こえがいいが、VAはさまざまな問題を抱えている。VAで働くと、アメリカという国が、いかにインセンティブで動いているかを強く感じる。VA病院には、働いた人にしかわからない特別な雰囲気があります。基本的に米国というのは、能力や成果に応じて給料が決められる出来高制や年棒制で医師の給料が決まっており、これが労働意欲につながっています。VA病院はsocialized medicineです。つまり、政府によって運営され、患者は退役軍人です。彼らの多くはVA病院に来るしか選択肢がありません。病院からすれば、頑張らなくたって患者は来ますし、医師やスタッフの給料も固定されていますから、頑張って働く必要はありません。できることなら患者を減らして、早く帰りたいと思っている人がほとんどです。公的サービスが優れている日本なら、これでもみんな一生懸命働くでしょう。私は全米の3つのVA病院で働きましたが、共通して医療従事者の労働意欲は低く、VA病院はうまく機能しているとは思えなかったです。実際2014年にVA病院の医療が大きな問題となりました。多くの患者が何ヵ月にもわたって、外来の予約待ちで適切な診察を受けられず、診察を待っている間にがん患者が死亡するという問題が生じました。これに基づくさまざまな問題は、エリック・シンセキという日系の退役軍人長官の辞任につながりました。循環器領域でいうと、冠動脈カテーテルなら1日3件、アブレーションでも1日1件など、他の病院では考えられないような手技件数です。医師でさえも、外来の患者や心エコーの件数を減らすために、心エコーや外来のコンサルトのスクリーニングをすることが仕事になっている上司までいます。金曜日は15時を過ぎると、人はまばらになり、何も機能しなくなります。労働時間が短く、負荷も少ない割に、福利厚生は充実しているので、QOL重視の人にとっては最高の環境です。医師でいえば、60歳を超え、引退を控えた人、研究に時間を割きたいような人、急かされて手技などをやりたくない人が集まってきます。さらに一度、この生ぬるい環境に慣れると、なかなか他の病院では働けなくなります。周りの若手医師で、将来VA病院で働きたいと思っている人はいません。患者は退役軍人の人たちで、ざっくばらんに言えば、いいおじさんたちといった感じの人が多く、付き合いやすい人たちばかりです。しかしながら、経済的に貧しい人が多く、ホームレスの患者もたくさんいます。よく知られていることですが、退役した後は仕事に就けず、またベトナム、韓国、イラクなどで覚えた麻薬などを止められず、薬物やアルコール依存、PTSDなどに悩まされます(イラク、アフガニスタンからの帰還兵の10%が薬物やアルコール依存症との報告があります)。犯罪率も高いようで、死刑囚の10%が退役軍人という報告もあります。悲しいことに、アメリカの街角で「退役軍人です、お金を恵んでください」と書かれたプラカードを持っている人をよく見かけます。幸い、ホームレスでも退役運人である限り、医療は無料で受けられますので、外来にこういった方がたくさんいらっしゃいます。研究もVA病院では盛んに行われます。退役軍人の人は、VA病院にしかかからないためフォローがしやすいこと、また、退役軍人の方はいい人が多く、医師が研究を勧めると文句も言わず応じてくれる人が多いように感じます。無料で医療を受けているという引け目があるのかもしれません。研究に対価が払われることなどもあります。私も何度か目のあたりにしましたが、他の病院や日本では少しありえない実験的な研究が行われているのも事実です。VA病院からいい論文が出るのは、こういった側面があると思われます。実際、VA病院の医療の質に疑問を抱いている人も多く、退役軍人でお金を持っている患者はVA病院にかからないという方もいます。プライベートホスピタルプライベートホスピタルは当然ですが、収益第一です。収益につながらないようなことはしません。循環器の冠動脈インターベンショニストやEP(不整脈)の医師の仕事は、カテ室に空きがないようにどんどん手技を行うことです。1日に行う手技の数が、大学と比べても断然に多くなりますし、プライベートの循環器医師は、手技も比較的早い人が多いです。逆に言うと、1つの症例で粘ったりすると、他のスケジュールに支障が出るため、あきらめが早いほうがいい場合もあります。心房細動のアブレーションで肺静脈隔離という手技を行いますが、大学病院であるUC San Diegoにいた頃は、完全に隔離できるまで、上司が粘り、手技が大幅に遅れることがよくありました。患者さんのことを考えて粘ってやっているわけですが、プライベートホスピタルでは、そういうわけにはいきません。結果として、Cryoballoonといったような、時間短縮につながるデバイスが使用される傾向にあります。また、プライベートホスピタルでは、フェローやレジデントがいない環境に慣れているため、カテーテル手技後の止血や簡単なオーダーなどは看護師やNP(ナースプラクティショナー)がやってくれます。医師は、手技のリポートを作り、次の患者に備えます。収益を上げるべく、医師には医師だけができる仕事に専念させます。General Cardiologist(一般循環器専門医)も、コンサルトをどんどん見ることが自分や病院の収益につながります。出来高制ですからUniversity Hospitalでは怒られてしまいそうな、くだらないコンサルトでもお金になるため、喜んで引き受けてくれます。NPが一緒にラウンドし、雑用は彼らがこなし、医師は患者を見て、せっせとノートを作ります。教育面では、仕事のペースが落ちるためレジデントやフェローと関わるのを避ける人も結構います。悲しいですが、リサーチが病院の収益に結び付かないと判断されると、リサーチはもちろん行われません。中規模のプライベートホスピタルではリサーチをほとんどやっていないところが多いです。ファンディングを持っていて、研究を積極的に行うような大規模な病院もありますが、医師が臨床の時間を割かなくても良いように、リサーチのナースなどが積極的に関与し、サポート体制が充実しています。プライベートホスピタルにおける医師への待遇は、大学やVAと比べて格段に良いです。駐車場は無料で、食事、飲み物、スナック類も食べ放題なところが結構あります。給料も大学より、だいぶ良く、卒後すぐの循環器医師でもCaliforniaで30万ドル、以前住んでいたOhio州では40万ドルから50万ドルにもなります。プライベートホスピタルでは、トップクラスのインターベンショニストになると100万ドル以上稼ぐこともあります。このように、異なった種類の病院をローテートすることで、どういった病院が自分に合っているかをフェローの間に考えられるという側面もあります。

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鋭い論文解説が勢ぞろい!【CLEAR!ジャーナル四天王 2015年トップ30発表】

臨床研究適正評価教育機構(J-CLEAR)は、臨床研究を適正に評価するために、必要な啓発・教育活動を行い、日本の臨床研究の健全な発展に寄与することを目指しているNPO法人です。本企画『CLEAR!ジャーナル四天王』では、CareNet.comで報道された海外医学ニュース『ジャーナル四天王』に対し、鋭い視点で解説します。コメント総数は約450本(2015年11月時点)。今年掲載された150本以上のコメントの中から、アクセス数の多かった解説記事のトップ30を発表します。1位高齢者では、NOACよりもワルファリンが適していることを証明した貴重なデータ(解説:桑島 巖氏)(2015/5/20)2位LancetとNEJM、同じデータで割れる解釈; Door-to-Balloon はどこへ向かうか?(解説:香坂 俊氏)(2015/1/9)3位FINGER試験:もしあなたが、本当に認知症を予防したいなら・・・(解説:岡村 毅氏)(2015/3/20)4位降圧は「The faster the better(速やかなほど、よし)」へ(解説:桑島 巖氏)(2015/4/3)5位MRIが役に立たないという論文が出てしまいましたが…(解説:岡村 毅氏)(2015/7/22)6位DAPT試験を再考、より長期間(30ヵ月)のDAPTは必要か?(解説:中川 義久氏)(2015/1/8)7位やはり優れたワルファリン!(解説:後藤 信哉氏)(2015/8/19)8位ヘパリンブリッジに意味はあるのか?(解説:後藤 信哉氏)(2015/7/8)9位市中肺炎患者に対するステロイド投与は症状が安定するまでの期間を短くすることができるか?(解説:小金丸 博氏)(2015/2/18)10位CKD合併糖尿病患者では降圧治療は生命予後を改善しない?(解説:浦 信行氏)(2015/6/9)11位ワルファリン出血の急速止血に新たな選択肢?(解説:後藤 信哉氏)(2015/4/6)12位SPRINT試験:厳格な降圧が心血管発症を予防、しかし血圧測定環境が違うことに注意!(解説:桑島 巖氏)(2015/11/13)13位なんと!血糖降下薬RCT論文の1/3は製薬会社社員とお抱え医師が作成(解説:桑島 巖氏)(2015/7/14)14位COSIRA試験:血管を開けるのか?それとも、閉じるのか? 狭心症治療に新たな選択肢(解説:香坂 俊氏)(2015/3/27)15位SORT OUT VI試験:薬剤溶出性ステント留置は成熟した標準治療となった!(解説:平山 篤志氏)(2015/2/10)16位心血管リスクと関係があるのはHDL-C濃度ではなくその引き抜き能(解説:興梠 貴英氏)(2015/1/21)17位SPRINT試験:75歳以上の後期高齢者でも収縮期血圧120mmHg未満が目標?(解説:浦 信行氏)(2015/11/18)18位鼻腔から集中治療を行える時代へ:ハイフロー鼻腔酸素療法(解説:倉原 優氏)(2015/6/3)19位働き過ぎは、脳卒中のリスク!(解説:桑島 巖氏)(2015/8/31)20位CLEAN試験:血管内カテーテル挿入時の皮膚消毒はクロルヘキシジン・アルコール(解説:小金丸 博氏)(2015/10/30)21位IMPROVE-IT試験:LDL-コレステロールは低ければ低いほど良い!(解説:平山 篤志氏)(2015/6/22)22位なぜ心房細動ばかりが特別扱い?(解説:後藤 信哉氏)(2015/10/5)23位LDL-コレステロール低下で心血管イベントをどこまで減少させられるか?(解説:平山 篤志氏)(2015/4/21)24位EMPA-REG OUTCOME試験:試験の概要とその結果が投げかけるもの(解説:吉岡 成人氏)(2015/10/1)25位DPP-4阻害薬の副作用としての心不全-アログリプチンは安全か…(解説:吉岡 成人氏)(2015/4/14)26位食後血糖の上昇が低い低glycemic index(GI)の代謝指標への影響(解説:吉岡 成人氏)(2015/1/6)27位抗うつ薬、どれを使う? 選択によって転帰は変わる?(解説:岡村 毅氏)(2015/3/3)28位治療抵抗性高血圧の切り札は、これか?~ROX Couplerの挑戦!(解説:石上 友章氏)(2015/2/20)29位デブと呼んでごめんね! DEB改めDCB、君は立派だ(解説:中川 義久氏)(2015/9/30)30位問診と自己申告で全死亡が予測できる?(解説:桑島 巖氏)(2015/7/6)今回ご紹介しました「CLEAR!ジャーナル四天王」とは他にも、人気のランキングはこちらをどうぞ

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2015年、人気を集めた記事・スライド・動画は?【2015年コンテンツ閲覧ランキング TOP30】

2015年も、日常診療に役立つ情報を、記事やスライド、動画などで多数お届けしてまいりました。その中でもアクセスの高かった人気コンテンツは、何だったのでしょうか?トップ30をご紹介いたします。1位わかる統計教室第1回 カプランマイヤー法で生存率を評価するセクション1 生存率を算出する方法2位特集:アナフィラキシー 症例クイズ(1)3回目のセフェム系抗菌薬静注後に熱感を訴えた糖尿病の女性3位特集:誰もが知っておきたいアナフィラキシー(3)知っておくべき初期治療4位1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより~第16回 犬猫咬傷~傷は縫っていいの? 抗菌薬は必要なの?5位特集:誰もが知っておきたいアナフィラキシー(1)誘因と増悪因子を整理6位CLEAR!ジャーナル四天王高齢者では、NOACよりもワルファリンが適していることを証明した貴重なデータ(解説:桑島 巖 氏)7位Dr.山本の感染症ワンポイントレクチャーQ9.急性腎盂腎炎の標準的治療期間、10~14日の根拠を教えてください。8位特集:誰もが知っておきたいアナフィラキシー(2)診断のカギ9位Dr.山本の感染症ワンポイントレクチャーQ1.急性上気道炎での抗菌薬投与は本当に不要なのでしょうか?10位Dr.山本の感染症ワンポイントレクチャーQ20.尿路感染症にアンピシリン・スルバクタム、正しいですか?11位臨床に役立つ法的ケーススタディ【ケース1】「入院拒否後、自宅で死亡。家族対応はどうすべき?」(後編)12位わかる統計教室第2回 リスク比(相対危険度)とオッズ比セクション2 よくあるオッズ比の間違った解釈13位わかる統計教室第1回 カプランマイヤー法で生存率を評価するセクション2 カプランマイヤー法で累積生存率を計算してみる14位わかる統計教室第2回 リスク比(相対危険度)とオッズ比セクション3 オッズ比の使い道15位特集:誰もが知っておきたいアナフィラキシー(4)再発予防と対応16位特集:アナフィラキシー 症例クイズ(2)海外出張中に救急搬送されたアレルギー体質の35歳・男性の例17位わかる統計教室第2回 リスク比(相対危険度)とオッズ比セクション1 分割表とリスク比18位Dr.倉原の“おどろき”医学論文第45回 急性心筋梗塞に匹敵するほど血清トロポニンが上昇するスポーツ19位Dr.山本の感染症ワンポイントレクチャーQ7.抗菌薬を投与する際、内服・点滴のどちらにするか悩むことがたびたびあります。20位診療よろず相談TV シーズンII第10回「脂質異常症」(回答者:寺本内科歯科クリニック / 帝京大学臨床研究センター長 寺本 民生氏)Q3.LDL、下げ過ぎによるリスクは?21位特集:成人市中肺炎 症例クイズ(2)「何にでも効く薬」は本当に「何にでも効く」のか?22位CLEAR!ジャーナル四天王LancetとNEJM、同じデータで割れる解釈; Door-to-Balloon はどこへ向かうか?(解説:香坂 俊 氏)23位Dr.山本の感染症ワンポイントレクチャーQ5.インフルエンザ感染で、WBCやCRPはどのように変化するか?24位斬らレセプト ―査定されるレセプトはこれ!事例61 「初診料 休日加算」の査定25位Cardiologistへの道@Stanford第6回 会員からのリクエスト「米国医師の給与について」26位アリスミアのツボQ22. 発作性心房細動はやがてどうなるの?27位わかる統計教室第1回 カプランマイヤー法で生存率を評価するセクション4 カプランマイヤー法の生存曲線を比較する28位スキンヘッド脳外科医 Dr. 中島の 新・徒然草五十五の段 責任とってねテレビ局29位Dr.小田倉の心房細動な日々~ダイジェスト版~テレビなど健康番組を見る患者さんへの説明用資料30位患者向けスライド期外収縮の患者さんへの説明

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うつ病へのECT、ケタミン併用の検討が進行

 英国・ニューカッスル大学のLiam Trevithick氏らは、うつ病に対する電気ショック療法(ECT)時にケタミンを併用することで、ECT後に認められる認知機能への影響を軽減しうるか否かを明らかにする多施設無作為化プラセボ対照二重盲検試験「ケタミン-ECT試験」を計画している。今回、その試験概要を報告した。試験について著者らは、「本研究は、補助的ケタミンをNHS臨床診療におけるうつ病に実施するECTにルーチンで適用すべきかどうかに関する、重要なエビデンスを提供するものになると思われる」と述べている。BMC Psychiatry誌2015年10月21日号の掲載報告。 重篤で治療抵抗性のうつ病に対し、ECTの急性効果を支持する強力な経験的エビデンスがある。しかし、重大な限界要因であり、おそらく本療法の使用を減少させる理由となっているのが、ECTが認知機能、とくに前向性記憶、逆行性記憶、実行機能に関する機能障害と関連するということである。一方で、前臨床およびヒトにおける予備的データにおいて、ケタミンが、麻酔薬として単剤あるいは他の麻酔薬との併用のいずれにおいても、ECTによる機能障害を軽減あるいは抑制することが示唆されている。そして、ケタミンがグルタミン酸受容体拮抗作用を通して、ECTの際に発生する過剰興奮性神経伝達刺激を防止するという仮説が想定される。 こうしたことから研究グループは、「ケタミン-ECT試験」により、ケタミンの併用がECTに起因する認知機能障害を軽減しうるか否かを検討することを計画した。副次目的は、ケタミンがECTによる臨床的改善のスピードを速めるか否かを検討することとした。 試験概要は以下のとおり。・ケタミン-ECT試験は、多施設無作為化プラセボ対照二重盲検試験である。・当初、ECTを実施している中等度~重度のうつ病患者160例の登録を予定したが、その後、登録人数の達成が困難という理由で100例に変更した。・患者は、ECTにおける標準的麻酔薬にケタミンを併用する群、または生理食塩水を投与する群に1対1に無作為に割り付けられた。・主要神経心理学的アウトカムは、4回のECT実施後の前向き言語記憶(Hopkins Verbal Learning Test-Revised delayed recall task)、副次的認知機能アウトカムは、発話の流暢性、自伝的記憶、視空間記憶、digit Span(数唱)であった。・有効性は、うつ症状に対する観察者の評価および自己報告に基づいて評価する。・サブサンプルを用い、認知機能課題実行中の皮質活性に対するECTおよびケタミンの影響を機能的近赤外線分光法(fNIRS)により検討する予定である。関連医療ニュース ケタミンは難治性うつ病に使えるのか 双極性障害のうつ症状改善へ、グルタミン酸受容体モジュレータの有用性は 統合失調症へのECT、アジア諸国での実態調査  担当者へのご意見箱はこちら

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小児のIgE感作と疾患の関連 4分の1が疾患を有さず

 小児は皮膚炎、喘息および鼻炎に罹患することが多いが、それらの有病率は年齢とともに変化する。また、IgE抗体保有と疾患との関連もよくわかっていない。スウェーデン・カロリンスカ研究所のNatalia Ballardini氏らは、感作と疾患との関連を明らかにする目的で、出生コホート研究にて16歳まで追跡された小児を調査した。その結果、特異的IgE抗体は小児期全体における皮膚炎およびアレルギー性疾患の複数罹患と関連していること、また4歳からの喘息および鼻炎と強く関連していたことを報告した。一方で、IgE感作を認める小児の23%が、小児期にいかなる疾患も呈しないことも判明したという。Allergy誌オンライン版2015年10月27日号の掲載報告。 対象は、スウェーデンの出生コホート研究BAMSEに登録された小児2,607例であった。 1~16歳の間6評価時点で、親の報告に基づき皮膚炎、喘息、鼻炎の罹患を確認した。また、4、8、16歳時の採血結果からIgE感作の有無を調査。一般的な食物または吸入アレルゲンに対するアレルゲン特異的IgE≧0.35kUA/Lの場合を感作ありと定義した。 一般化推定方程式を用い、感作による皮膚炎、喘息、鼻炎および複数罹患のオッズ比を算出した。 主な結果は以下のとおり。・16歳までに少なくとも1回の感作が報告された小児は、51%であった。・感作を受けている小児の約4分の1(23%)が、いかなる疾患も有していなかった。・潜在的な交絡因子を補正後、感作と次の有意な関連が認められた。 (1)小児期全体に及ぶ皮膚炎 (2)1~16歳時の皮膚炎・喘息・鼻炎の複数罹患(オッズ比:5.11、95%信頼区間[CI]:3.99~6.55) (3)4~16歳における喘息および鼻炎

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免疫性血小板減少症〔ITP:immune thrombocytopenia〕(旧名:特発性血小板減少性紫斑病)

1 疾患概要■ 概念・定義特発性血小板減少性紫斑病(ITP:idiopathic thrombocytopenic purpura)は、厚生労働省の特定疾患治療研究事業対象疾患(特定疾患)に認定されている疾患であり、他の基礎疾患や薬剤などの原因がなく、血小板の破壊が亢進し減少する後天性の自己免疫疾患と考えられている。欧米では本疾患に対し、免疫性(immune)あるいは自己免疫性(autoimmune)という表現が用いられており、わが国においても本疾患の病名を免疫性血小板減少症(ITP:immune thrombocytopenia)へと改定する予定である。血小板が減少していても、必ずしも出血症状を伴うわけではないことが“purpura”を削除した理由であり、この考え方は本疾患の治療戦略とも密接に関連する。■ 疫学わが国におけるITPの有病者数は約2万人で、年間発症率は人口10万人当たり約2.16人と推計される。つまり年間約3,000人が新規に発症している計算になる。最近の調査では、慢性ITPの好発年齢として20~40代の若年女性に加え、60~80代でのピークが認められるようになってきている。高齢者の発症に男女比の差はない。急性ITPは5歳以下の発症が圧倒的である。■ 病因ITPの病因はいまだ不明な点が多いが、その主たる病態は血小板の破壊亢進である。ITPでは血小板膜GPIIb-IIIaやGPIb-IXなどに対する自己抗体が産生され、それらに感作された血小板は早期に脾臓を中心とした網内系においてマクロファージのFc受容体を介して捕捉され、破壊されて血小板減少を来す。これらの自己抗体は主として脾臓で産生されており、脾臓は主要な血小板抗体の産生部位であるとともに、血小板の破壊部位でもある。さらに最近では、ITPにおける抗血小板自己抗体は巨核球の分化・成熟にも障害を与え、血小板産生も正常コントロールと比べ減少していることが示されている。■ 症状症状は皮下出血、歯肉出血、鼻出血、性器出血など皮膚粘膜出血が主症状である。血小板数が1万/μL未満になると血尿、消化管出血、吐血、網膜出血を認めることもある。口腔内に高度の粘膜出血を認める場合は、消化管出血や頭蓋内出血を来す危険があり、早急な対応が必要である。血友病など凝固因子欠損症では関節内出血や筋肉内出血を生じるが、ITPでは通常、これらの深部出血は認めない。■ 分類ITPはその発症様式と経過より、急性型と慢性型に分類され、6ヵ月以内に自然寛解する病型は急性型、それ以後も血小板減少が持続する病型は慢性型と分類される。急性型は小児に多くみられ、ウイルス感染を主とする先行感染を伴うことが多い。一方、慢性型は成人に多い。しかしながら、発症時に急性型か慢性型かを区別することはきわめて困難である。最近では、12ヵ月経過したものを慢性型とする意見もある。■ 予後ITPでは、血小板数が3万/μL以上の場合、死亡率は正常コントロールと同じであり、予後は比較的良好と考えられている。しかし、3万/μL以下だと出血や感染症が多くなり、死亡率が約4倍に増加すると報告されている。この成績より、血小板数3万/μL以上を維持することが治療目標となっている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)ITPの診断に関しては、いまだに他の疾患の除外診断が主体であり、薬剤性やC型肝炎など血小板減少を来す他の疾患を鑑別しなければならない。とくに血小板数が3~5万/μL以下の症例で無症状の場合や検査コメントに血小板凝集(+)と記載されている場合は、末血用スピッツ内のEDTAにより誘導される「見かけ上」の血小板減少(EDTA依存性偽性血小板減少症)を除外すべきである(治療の必要なし)。ITPと同様に免疫学的機序で血小板が減少する二次的ITPとして、全身性エリテマトーデスなどの膠原病やリンパ系腫瘍、ウイルス肝炎、HIV感染などが挙げられる。詳しい病歴の聴取や身体所見、時には骨髄穿刺により先天性血小板減少症や薬剤性血小板減少症、さらには血小板産生障害に起因する骨髄異形成症候群や再生不良性貧血などの鑑別を行う。骨髄検査において典型的ITPでは、幼若な巨核球が目立つが巨核球数は正常あるいは増加しており、その他はとくに異常を認めない。PAIgG(Platelet-associated IgG:血小板関連IgG)は2006年に保険収載されたが、PAIgGは血小板に結合した(あるいは付着した)非特異的なIgGも測定するため、再生不良性貧血などの血小板減少時にも高値になることがあり、その診断的意義は少ない。2023年に血漿トロンボポエチン濃度と幼若血小板比率(IPF%)を組み込んだ新たなITPの診断基準が公表されている。一方、これらのバイオマーカーの測定は現時点で保険適用外であり、その保険収載が急務の課題である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ ITPにおける治療目標ITPの治療目標は血小板数を正常化させることではなく、危険な出血を予防することである。具体的には血小板3万/μL以上かつ出血症状が無い状態にすることが当面の治療目標となる。「成人ITP治療の参照ガイド2019改訂版」では、初診時血小板が3万/μL以上あり出血傾向を認めない場合は、無治療での経過観察としている。血小板数を正常に維持するために高用量の副腎皮質ステロイドを長期に使用すべきではないとの立場である。図に「成人ITP治療の参照ガイド2019 改訂版」の概要を示す。なお、本ガイドは、https://www.jstage.jst.go.jp/article/rinketsu/60/8/60_877/_pdfにて公開されている。画像を拡大する1)第1選択治療(1)ピロリ菌除菌療法(2010年6月より保険適用)わが国においては、ITPに関してH.pylori(ピロリ菌)除菌療法の有効性が示されている。ピロリ菌感染患者には、第1選択として試みる価値がある。出血症状を伴う例に対しては、ステロイド療法をまず選択し、血小板数が比較的安定した時点で除菌療法を試みる。(2)副腎皮質ステロイド療法ピロリ菌陰性患者や除菌無効例には、副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン)が第1選択となる。副腎皮質ステロイドは網内系における血小板の貪食および血小板自己抗体の産生を抑制する。血小板数3万/μL以下の症例で出血症状を伴う症例が対象である。とくに口腔内や鼻腔内の出血を認める場合は積極的に治療を行う。50~75%において血小板が増加するが、多くは副腎皮質ステロイド減量に伴い血小板が減少する。初期投与量としては0.5~1mg/kg/日を2~4週間投与後、血小板数の増加がなくても8~12週かけて10mg/日以下にまで漸減する。経過が良ければさらに減量する。2)第2選択治療(1)トロンボポエチン(TPO)受容体作動薬ITPでは血小板造血が障害されているものの、血清TPO濃度は正常~軽度上昇に止まる。この成績より、血小板造血を促進する治療薬としてTPO受容体作動薬が開発され、2011年より保険適用となっている。薬剤としては、ロミプロスチム(商品名:ロミプレート/皮下注)やエルトロンボパグ オラミン(同:レボレード/経口薬)があり、優れた有効性が示されている。血栓症の発症や骨髄線維化のリスクがあるため、これらに関しては慎重にモニターすべきである。妊婦には使用できない。(2)リツキシマブB細胞に発現しているCD20抗原を認識するヒトマウスキメラモノクローナル抗体で、B 細胞を減少させ、抗体産生を低下させる作用がある。わが国では2017年3月よりITPに対して適応拡大されている。(3)脾臓摘出術(脾摘)発症後6~12ヵ月以上経過し、各種治療にて血小板数3万/μL以上を維持できない症例に考慮する。寛解率は約60%。摘脾の1週間前より免疫グロブリン大量療法(後述)にて血小板を増加させる。近年では、TPO受容体作動薬などの新規薬剤の登場により、脾摘施行例は減少している。(4)新規ITP治療薬「成人ITP治療の参照ガイド2019改訂版」公開後に新たに上市されたITP治療薬として、ホスタマチニブ([Syk阻害剤]およびエフガルチギモド(胎児性Fc受容体阻害剤)が挙げられる。これらの薬剤の治療上の位置付けに関しては、今後の検討課題である。3)難治ITP症例への治療法(第3選択治療)本項で述べる薬剤は、ITPへの適応は無いものの、文献などにて有効性が示唆されている薬剤である。4)緊急時の治療診断時、消化管出血や頭蓋内出血などの重篤な出血を認める症例や、脾摘など外科的処置が必要な症例には、免疫グロブリン大量療法やメチルプレドニンパルス療法にて血小板を速やかに増加させ、出血をコントロールする必要がある。血小板輸血は一般には行わないが、活動性出血を伴う重症例では血小板輸血も積極的に考慮する。4 今後の展望上記以外の新たなITP治療薬として、BTK阻害薬、新規TPO受容体作動薬、抗CD38抗体薬など種々の薬剤が開発、治験されており、これらの薬剤の上市が待たれる。5 主たる診療科血液内科、あるいは血液・腫瘍内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)成人特発性血小板減少性紫斑病治療の参照ガイド2012年版(医療従事者向けのまとまった情報)妊娠合併特発性血小板減少性紫斑病診療の参照ガイド(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報つばさのひろば(血液疾患患者とその家族の会)1)Cines DB, et al. N Engl J Med.2002;346:995-1008.2)冨山佳昭. 臨床血液. 2011;52:627-632.3)柏木浩和ほか. 臨床血液. 2019;60:877-896.4)柏木浩和ほか. 臨床血液. 2024;64:1245-1257.公開履歴初回2013年03月28日更新2015年11月02日更新2024年9月16日

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常染色体優性多発性嚢胞腎〔ADPKD : autosomal dominant polycystic kidney disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義PKD1またはPKD2遺伝子の変異により、両側の腎臓に多数の嚢胞が発生・増大する疾患。■ 診断基準ADPKD診断基準(厚生労働省進行性腎障害調査研究班「常染色体優性多発性嚢胞腎ガイドライン(第2版)」)1)家族内発生が確認されている場合(1)超音波断層像で両腎に各々3個以上確認されているもの(2)CT、MRIでは、両腎に嚢胞が各々5個以上確認されているもの2)家族内発生が確認されていない場合(1)15歳以下では、CT、MRIまたは超音波断層像で両腎に各々3個以上嚢胞が確認され、以下の疾患が除外される場合(2)16歳以上では、CT、MRIまたは超音波断層像で両腎に各々5個以上嚢胞が確認され、以下の疾患が除外される場合※除外すべき疾患多発性単純性腎嚢胞(multiple simple renal cyst)腎尿細管性アシドーシス(renal tubular acidosis)多嚢胞腎(multicystic kidney 〔多嚢胞性異形成腎 multicystic dysplastic kidney〕)多房性腎嚢胞(multilocular cysts of the kidney)髄質嚢胞性疾患(medullary cystic disease of the kidney〔若年性ネフロン癆 juvenile nephronophthisis〕)多嚢胞化萎縮腎(後天性嚢胞性腎疾患)(acquired cystic disease of the kidney)常染色体劣性多発性嚢胞腎(autosomal recessive polycystic kidney disease)【Ravineの診断基準】(表)(家族歴がある場合の画像診断基準)画像を拡大する■ 疫学一般人口中に占める多発性嚢胞腎患者数(有病率)は、病院受診者数を基に調査した結果では一般人口3,000~7,000人に1人である。病院患者数に占める多発性嚢胞腎患者数は3,500~5,000人に1人、病院での剖検結果では被剖検患者約400人に1人である。メイヨー病院があるオルムステッド郡(米国)で1年間に新たに診断された患者数(発症率)は、一般人口1,000~1,250人あたり1人である。調査方法、調査年代、調査場所などにより、結果に差異が認められる。今後、治療薬が利用可能になると受療する患者数が増加し、有病率も増える可能性がある。■ 病因(図を参照)画像を拡大するPKD1またはPKD2遺伝子の変異による。PKD1は16p13.3、PKD2は4q21-23に位置する。PKD1とPKD2の遺伝子産物 polycystin 1(PC 1)とPC2はtransient receptor potential channel for polycystin(TRPP)subfamilyで、Caチャネルである。PC1とPC2は腎臓、肝臓、膵臓、乳腺の管上皮細胞、平滑筋と血管内皮細胞、脳の星状細胞に存在する。PCは腎臓上皮細胞、血管内皮細胞、胆管細胞などの繊毛に存在する。尿細管腔の内側に存在する繊毛は、尿細管液の流れに反応して屈曲する。屈曲によるshear stressはPCや繊毛機能に関係する蛋白を活性化し、細胞外と小胞体からCaイオンを細胞質内へ流入させ、細胞質内Ca濃度を高める。繊毛機能に関係する蛋白をコードする遺伝子異常が嚢胞性腎疾患をもたらすことが明らかとなり、繊毛疾患(ciliopathy)として概括されている。PKD細胞ではPC機能異常により、尿細管上皮細胞のCa濃度は低値である。細胞内Ca濃度が低下すると、cyclicAMP(cAMP)分解酵素(PDE)活性が低下し、またcAMPを産生するadenyl cyclase(AC)活性が高まり、細胞内cAMP濃度が高まる。その結果、cAMP依存性protein kinase A(PKA)機能が高まり、種々のシグナル経路(EGF/EGFR、Wnt、Raf/MEK/ERK、JAK/STAT、mTORなど)が活性化され細胞増殖が起きる。繊毛は細胞極性(尿細管構造形成)に関与しており、細胞極性機能を失った細胞増殖が起きる結果、嚢胞が形成される。また、PKAはcystic fibrosis transmembrane conductance regulator(CFTR)を刺激し、嚢胞内へのCl分泌を高める。腎尿細管(集合管)に存在するバソプレシン(AVP)V2受容体は、AVPの作用を受け、ACおよびcAMP、PKAを介して水透過性を高める。この過程でcAMPは嚢胞を増大させる。ソマトスタチンはACを抑制するので、治療薬として期待される。■ 症状多くの患者は30~40代までは無症状で経過する。1)腎機能低下腎機能の低下と総腎容積は相関し、総腎容積が3,000mLを超えると腎不全になる確率が高い。しかし、3,000mLを超えない場合でも腎不全になる場合もある。腎不全による症状(疲労、貧血、食欲低下、皮膚搔痒など)は、他疾患による腎不全症状と同じである。透析導入平均年齢は55歳位であったが、最近では60歳近くになっている。患者全体では70歳で約50%が終末期腎不全になる。2)高血圧血管内皮機能の異常により高血圧を来すと考えられ、腎機能が低下する以前から発症する。60~80%の患者が高血圧に罹患している。高血圧になっている患者では腎臓腫大と腎機能低下の進行が速い。3)圧迫症状腎臓や肝臓の嚢胞(60~80%の患者に嚢胞肝が併存)が腫大するにつれて、腹部膨満感、少し食べるとお腹が張る、前屈が困難になる、背腰部痛、腹部痛などの圧迫症状が出現する。腎嚢胞は平均年5~6%の割合で増大するので、加齢とともに症状は進行する。4)脳血管障害脳出血、くも膜下出血、脳梗塞の発症頻度が高い。脳出血の原因として高血圧がある。脳動脈瘤の発生頻度(約8%)は一般より高い。5)血尿・尿路感染症血管の構築異常により血管が裂け、嚢胞内に出血し、疼痛を引き起こす。出血巣と尿路が交通すると血尿になる。また、変形した尿路のために尿路感染症を起こしやすい。嚢胞感染が起きると抗菌薬が嚢胞内に移行しにくいので難治性になることがある。6)その他尿路結石、鼠径ヘルニア、大腸憩室、心臓弁膜機能異常などの頻度が高い。■ 分類遺伝子の変異部位に応じて、PKD1とPKD2に分かれる。約85%はPKD1である。PKD1の方が症状は強く、腎不全になる平均年齢も若い。■ 予後生命予後に関するデータはない。腎機能に関しては症状の項参照。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診断基準に準ずる。家族歴と画像検査(超音波、CT、MRIなど)で比較的正確に診断できるが、中には診断に迷う症例もあり、遺伝子診断が有用な場合もある。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)1)トルバプタン(商品名: サムスカ)による治療AVP V2受容体拮抗薬トルバプタンは、ナトリウム利尿をあまり伴わない水利尿作用があり、低ナトリウム血症、体液貯留の治療薬として開発され、わが国では、2010年に心不全による体液貯留、2013年に肝硬変による体液貯留への治療薬として承認を受けている。2003年にモザバプタン(トルバプタンの前段階の薬)が、多発性嚢胞腎モデル動物に有効であると発表され、2007年から多発性嚢胞腎患者1,445名を対象として、トルバプタンの有効性と安全性を検討する国際共同治験が行われた。腎臓容積増大速度を約50%、腎機能低下速度を約30%緩和する結果が2012年秋に発表され、わが国において2014年3月に多発性嚢胞腎治療薬として承認され、臨床使用が始まっている。わが国での投薬適応基準は、総腎容積≧750mL、総腎容積増大速度≧年5%、eGFR≧15 mL/min/1.73m2などである。服用開始時には入院が必要で、その後月1回の血液検査で肝機能(5%程度に肝機能障害が発生する)、血清Na値(飲水不足で高Na血症になる)、尿酸値(上昇する)などのモニターが必要である。また、トルバプタンの処方医はWeb講習を受講し、登録する必要がある。2)高血圧の治療ARBが第1選択薬として推奨される。標準的降圧目標(120/70~130/80)とより低い降圧目標(95/60~110/75)との2群を5年間追跡したところ、より低い降圧群での総腎容積増大速度が低かったことが報告されているので、可能なら収縮期血圧を110未満にコントロールすることが望ましい。3)Na摂取制限Na摂取と腎嚢胞増大速度は相関するので、Na摂取は制限したほうがよい。4)飲水動物実験では飲水によって嚢胞の増大抑制効果が認められているが、人で飲水を奨励した結果では、逆に嚢胞増大速度とeGFR低下速度が増大したことが報告されている。水道水では、消毒用塩素の副産物ジクロロ酢酸に嚢胞増大作用があることが報告されている。多発性嚢胞腎患者では、腎機能が低下するにしたがい血清浸透圧とAVPが高くなることが報告されている。人における飲水効果には疑問があるが、脱水によるAVP上昇は避けるべきである。5)カフェインや抗うつ薬カフェインはPDEを抑制しcAMP濃度を上昇させ、嚢胞増大を促進する可能性がある。SSRI、三環系抗うつ薬などはAVPの放出を促進するため、多発性嚢胞腎では嚢胞増大を促進することが考えられる。6)開発中の薬剤(1)トルバプタン〔AVP V2受容体阻害薬〕は、大規模な臨床試験で腎嚢胞増大と腎機能悪化を抑制する効果が示され1)、わが国では2014年3月、カナダ、ヨーロッパでは2015年3月に認可が下りている。(2)ソマトスタチンアナログは小規模な臨床試験で肝臓と腎臓の嚢胞増大に有効と報告されているが、当局への申請を目的とする大規模な臨床試験は行われていない。(3)mTOR阻害薬であるシロリムスとエベロリムスの臨床試験が行われたが、副作用が強く臨床効果が認められなかった。7)腎動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization: TAE)腎動脈を塞栓し、腎臓を縮小させることで症状の緩和をもたらす。すでに透析が導入され、尿量が1日500mL以下の患者が対象となる。8)腹腔鏡下腎嚢胞開創術、腎摘除術抗菌薬抵抗性または反復感染の原因になっている嚢胞が特定される場合、あるいは数個の嚢胞が特別に大きくなり圧迫症状が強い場合、腹腔鏡下に特定の嚢胞を開窓する手術が適応となる。出血が強い場合や、反復する嚢胞感染がある場合、患者に腎機能の予後をよく説明したうえで同意を前提として腎摘除術(腹腔鏡下腎摘除術も行われる)が選択肢となる。4 今後の展望1)最近の研究では、総腎容積増大速度が5%/年以下でも、腎不全に進行することが示されている。トルバプタン適応基準となった総腎容積増大速度≧5%/年の基準では、これら腎不全に進行する患者を除外することになる。2)トルバプタンの作用として利尿作用があるが、利尿作用を少なくする薬剤が望まれる。3)多発性嚢胞腎の進展機序は、cAMP-PKAを介する経路のみではないので、cAMP-PKA非依存性経路を抑制する薬剤開発が望まれる。4)肝臓嚢胞に有効なソマトスタチンアナログの臨床開発が望まれる。5 主たる診療科腎臓内科、泌尿器科、脳動脈瘤があれば脳外科(多発性嚢胞腎に関心の高い医師の存在)※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報多発性嚢胞腎啓発ウエブサイト(杏林大学多発性嚢胞腎研究講座)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 多発性嚢胞腎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)常染色体多発性嚢胞腎(順天堂大学医学部泌尿器科)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)ADPKD.JP (~多発性嚢胞腎についてよくわかるサイト~/大塚製薬株式会社)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報PKDの会(患者と患者家族の会)1)Torres VE,et al.N Engl J Med.2012;367:2407-2418.2)東原英二 編著.多発性嚢胞腎~進化する治療最前線~.医薬ジャーナル;2015.3)Irazabal MV, et al. J Am Soc Nephrol.2015;26:160-172.公開履歴初回2013年04月18日更新2015年10月27日

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デブと呼んでごめんね! DEB改めDCB、君は立派だ(解説:中川 義久 氏)-419

 PCI(経皮的冠動脈インターベンション)の歴史は、再狭窄との戦いであったといわれます。現在の進化した薬剤溶出性ステント(DES)を用いても、依然として再狭窄は一定の確率で生じます。このステント内再狭窄に対する再治療をいかに行うかは、今なお残された重大な課題です。 薬物溶出性ステントを用いて治療することも1つの戦略です。しかし、ここで再度の再狭窄を生じれば2枚重ねのステントの内部の狭窄病変ということになります。このような病変への治療は非常に難渋します。ステントを何枚も重ねることなく治療する方法が望まれてきました。バルーンで拡張するだけの方法では不十分であることがわかっていました。そこで登場したのが、薬剤被覆バルーン:Drug coated balloon (DCB)です。 現在主流のDCBは、パクリタキセルを薬剤として用いています。この薬剤は脂溶性であるため組織への移行性に優れるとされるからです。しかし、これまでは、ステント内再狭窄へのDCBを含む治療成績の報告はありましたが、個々の報告の症例数は結論を下すには十分なものではありませんでした。 薬剤溶出性ステント内の再狭窄治療に対する27のランダマイズ試験の結果を、メタ解析で検討した結果がLancet誌に報告されました。その結果では、最も有効であったのがエベロリムス溶出性ステント(EES)による再PCI、次に有効だったのはDCBを用いた治療でした。DCBを用いた治療が、再度DESを用いて治療することに取って代わるということを示したわけではありませんが、このDCBの有効性を確認した研究として非常に大切な報告と考えられます。 DCBは、つい最近まで薬剤溶出性バルーン:Drug eluting balloon (DEB)と呼称されていました。薬剤が徐放性に溶け出すステントが薬剤溶出性ステント(DES)と呼ばれることに対応した用語でした。しかし、正確には徐放性を有せず拡張の際に薬剤が壁に刷り込まれるだけであることから、薬剤被覆バルーン(DCB)と名前を変えたのです。この古い呼称であるDEBの時代には、このデバイスは皆から「デブ」、「デブ」と呼ばれていました。その言葉の中には「デブ」って本当に効くの? といったイメージも重なっていました。今回のしっかりしたメタ解析の結果から「デブ」を見直した、というのが正直な感想です。「君はもうデブじゃない、DCBとして役割をしっかり果たしてくれ!」と応援メッセージを送ります。 また、このメタ解析論文を構成する個々の研究の中には、日本の倉敷中央病院からの発信された研究も重要な要素として含まれていることも強調したい点です。

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仮説検定としては意味があるが独創的とは言い難い(解説:野間 重孝 氏)-415

 本研究は、急性ST上昇型心筋梗塞(STEMI)患者に対して、プライマリ経皮的冠動脈インターベンション施行前にシクロスポリンを静脈内投与することにより、1年時点で評価した有害事象(全死因死亡、初回入院中の心不全の悪化、心不全による再入院、左室拡張末期容積15%以上増加のリモデリング)の発生を軽減することができるという仮説を検定したものである。 本研究に先立ち、著者らは2008年に58例を対象としたパイロットスタディを発表しており、シクロスポリンの前投与により、CK遊出量・トロポニン遊出量の減少、第5病日においてMRI hyperenhancementで計量した心筋梗塞量の減少を報告した1)。 今回の研究は、上記のphase3に当たるものであり、42施設、970例を対象として二重盲検プラセボ対照無作為化試験として実施された。結果は、複合アウトカム発生オッズ比が1.04であり、サブ解析でも優位を示した項目がみられず、仮説は否定された形となった。 この今回の研究における仮説の基礎には、心筋梗塞巣のサイズの決定に、再潅流に伴ういわゆる再潅流障害が重要な役割を果たしており、シクロスポリンはミトコンドリア壊死を防止することにより再潅流障害を軽減することができるのではないかとの予想があった。この点については、若干の解説が必要であろう。 真核生物の細胞内小器官であるミトコンドリアは、ADPの酸化的リン酸化によりATPを産生することを重要な役割としており、構造としては二重の生体膜(内膜と外膜)によって囲まれている。内膜と外膜の接触部位(contact sites)にはPTP(permeability transition pore)と呼ばれる穴構造が存在する。PTPはCaイオンの存在下に開口することが知られており、開口により膜電位が低下すると、まずアポトーシスが発生し、さらに開口して全エネルギーが失われると(complete deenerzation)ミトコンドリアが壊死に陥ることが知られている。心筋再潅流時にはミトコンドリアがCaイオン過負荷状態にあると考えられ、これがミトコンドリアの壊死から細胞全体の壊死へと発展するのではないかと考えられている。 シクロスポリンはPTPの構成物質中のcyclophilin Dとadenine nucleotide translocaseの結合を阻害することにより、PTPの開口を防止することがin vitroで確かめられており、このことからシクロスポリンは心筋再潅流時のCa過負荷から、ミトコンドリアを保護する働きがあるのではないかと考えられたのである。 予想が成立しなかった原因はいくつか考えられるだろう。シクロスポリンの一連の保護仮説の真偽は置いておくとして、まず第1に考えられるのは静脈内投与によっては十分量の薬剤が心筋に到達しなかった可能性である。これは、かなり初歩的な考え方のように思われるかもしれないが、薬剤前投与で現在まではっきり有効であると証明された薬剤がないことからも、静脈内投与の限界が考えられなくてはならないのではないだろうか。 第2に、そもそも大梗塞域の形成に果たす再潅流障害の意味付けを過大評価しているのではないかという疑問である。著者らが対象とした症例はいずれも重症例であったが、その病状形成に再潅流障害が大きく関与していたとどうして証明できるだろうか。単純に虚血域が大きいことだけで十分な危険因子なのである。 第3には、再潅流障害が起こったとして、in vitroの実験とは異なり、PCIにより再潅流している以上、微小血栓を末梢に飛ばすなど化学的以外の物理的な要因も考慮されなければならないことである。また、心筋壊死巣の大きさにはtotal ischemic timeこそが大きな意味を持つと考えられ、12時間以内という縛りでは、十分に速やかに再潅流が得られたとは言い難い点も指摘しておきたい。 急性心筋梗塞に対する治療は、この20年に著しい進歩を遂げたと言ってよい。しかしながら、それはPCI施行可能施設の増多、救急隊員・救命救急医の練度の向上、door to balloon timeの短縮といった社会的、人的な努力によるところが大きい。ステントの進歩や血栓吸引療法の登場など種々の進歩はあったものの、いわゆるパラダイムシフトが起こるには至っていない。本研究も、シクロスポリンというこの分野ではあまり注目されることのない薬剤を使用したこと、ミトコンドリア保護に注目した点は新しいと言えるが、根本的にはほかの薬剤の術前投与研究を踏襲したもので、目新しいとまでは言えない研究と考えられる。

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膵神経内分泌腫瘍〔P-NET : pancreatic neuroendocrine tumor〕

1 疾患概要■ 概念・定義神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumor: NET)は、神経内分泌細胞に由来する腫瘍の総称で、膵臓、下垂体、消化管、肺、子宮頸部など全身のさまざまな臓器に発生する。NETは比較的まれで進行も緩徐と考えられているが、基本的に悪性のポテンシャルを有する腫瘍である。ホルモンやアミンの過剰分泌を伴う機能性と非機能性に大別される。■ 疫学1)pNETの発症数欧米では膵神経内分泌腫瘍(pancreatic neuroendocrine tumor: pNET)は膵腫瘍全体の1~2%、年間有病数は人口10万人あたり1人以下と報告されている。日本における2005年の1年間のpNETの受療者数は約2,845人、人口10万人あたりの有病患者数は約2.23人、新規発症率は人口10万人あたり約1.01人と推定された。発症平均年齢は57.6歳で、60代にピークがあり、全体の15.8%を占めている。一方、2010年1年間のpNETの受療者数は約3,379人、人口10万人あたりの有病患者数は約2.69人、新規発症率は人口10万人あたり約1.27人と推定され、増加傾向がみられた。2)疾患別頻度2005年のわが国の疫学調査では、非機能性pNETが全体の47.4%を占め、機能性は49.4%を占めていた。2010年では、非機能性・機能性pNETの割合はそれぞれ34.5%と65.5%であり、非機能性腫瘍の割合が増えた。インスリノーマ20.9%、ガストリノーマ8.2%、グルカゴノーマ3.2%、ソマトスタチノーマ0.3%であった。機能性・非機能性腫瘍の割合は、欧米の報告に近づいたが、わが国では機能性腫瘍においてインスリノーマが多い傾向にある。■ 病因NETの発生にPI3K (phosphoinositide 3-kinase)-Akt経路が関わっていると考えられている。NETでは家族性発症するものが知られており、多発性内分泌腫瘍症I型(MEN-1)では原因遺伝子が同定され、下垂体腫瘍、副甲状腺腫瘍やpNETを来す。また、結節性硬化症、神経線維症、Von Hippel-Lindau(VHL)病を含む遺伝性腫瘍性疾患ではpNETの発生にmTOR経路が関連していると考えられているが、病因の詳細はいまだ不明である。■ 症状2005年のわが国における全国疫学調査によると、「症状あり」で来院した症例が全体の60%で、最も頻度が高いのは低血糖由来の症状であった。一方、無症状で検診にて偶然発見された症例は全体の24%であった。また、有症状例において何らかの症状が出現してからpNETと診断されるまで、平均約22ヵ月を要している。1)機能性腫瘍の症状機能性pNETは腫瘍が放出するホルモンによる内分泌症状をもたらすが、転移性のものは悪性腫瘍として生命予後に関わるという別の側面も持つ。また、ホルモン分泌も単一ではなく、複数のホルモンを分泌する腫瘍も認められる。主な内分泌症状を表1に示した。画像を拡大する2)非機能性腫瘍の症状非機能性腫瘍では特異的症状を呈さず、腫瘍増大による症状(周囲への圧迫・浸潤)や遠隔転移によって発見されることが多い。初発症状は腹痛、体重減少、食欲低下、嘔気などであるが、いずれも非特異的である。有肝転移例の進行例では、肝機能障害・黄疸が認められる。■ 分類上述したとおり、機能性腫瘍と非機能性腫瘍に大別される。遺伝性疾患(MEN-1、VHL)を合併するものもある。わが国においてはMEN-1合併の頻度は、2010年の調査ではpNET全体で4.3%であった。その中で、ガストリノーマは16.3%と最も高率にMEN-1を合併しており、非機能性pNETでは 4.0%であった。欧米の報告では非機能性pNETのMEN-1合併頻度は約30%であり、日本と大きな差を認めた。pNETの病理組織学的診断は、とくに切除不能腫瘍の治療方針決定に重要な情報となる。WHO 2010年分類を表2に示す。画像を拡大する■ 予後予後に与える因子は複数認められ、遠隔転移(肝転移)の有無、遺伝性疾患の有無、組織学的分類が影響を与える。欧米の報告によると5年生存率は、腫瘍が局所に留まっている症例で71%、局所浸潤が認められる症例で55%、遠隔転移を有する症例で23%とされる。インスリノーマ以外は遠隔転移を有する率が高く、予後不良である。単発例で転移がなく、治癒切除が施行できた症例の予後は良好である。WHO 2010分類でNECと診断された症例は、進行が早く、予後はさらに不良である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 存在診断症状や画像所見よりpNETが疑われた場合、各種膵ホルモンの基礎値を測定する。MEN-1を合併する頻度が高いことから、初診時に副甲状腺機能亢進症のスクリーニングで血清Ca、P値、intact-PTHを測定する。腫瘍マーカーとして神経内分泌細胞から合成・分泌されるクロモグラニンA(CgA)の有用性が知られているが、わが国ではいまだに保険適用がない。ほかに腫瘍マーカーとしてはNSEも用いられるが感度は低い。症状、検査などからインスリノーマやガストリノーマが疑われた場合、負荷試験(絶食試験、カルチコール負荷試験)を加えることで存在診断を進める。■ 局在診断pNETの多くは、多血性で内部均一な腫瘍であり、典型例では診断は容易であるが、乏血性を示すものや嚢胞変性を伴うような非典型例では、膵がんや嚢胞性膵腫瘍など他の膵腫瘍との鑑別が問題となる。インスリノーマやガストリノーマでは腫瘍径が小さいものも多く、正確な局在診断が重要である。症例に応じて各種modalityを組み合わせて診断する。1)腹部超音波検査内部均一な低エコー腫瘤として描出される。最も低侵襲であり、スクリーニングとして重要である。2)腹部CTダイナミックCTにて動脈相で非常に強く造影される。肝転移やリンパ節転移の検出にも優れており、ステージングの診断の際に必須である。3)腹部MRIT1強調画像で低信号、T2強調画像で高信号を呈する。CT同様、造影MRIでは腫瘍濃染を呈する。4)超音波内視鏡(EUS)辺縁整、内部均一な低エコー腫瘤として描出される。膵全体を観察でき、1cm以下の小病変も同定できる。診断率は80~95%程度とCTやMRIより優れており、原発巣の局在診断において非常に有用である。さらにEUS-FNAを併用することで組織診断が可能である。 5)選択的動脈内刺激薬注入法(SASI TEST)〔図1〕機能性腫瘍の局在診断に有用なmodalityである。腹部動脈造影の際に肝静脈内にカテーテルを留置し、膵の各領域を支配する動脈から刺激薬(カルシウム)を注入後、肝静脈血中のインスリン(ガストリン)値を測定し、その上昇から腫瘍の局在を判定する方法である。腫瘍の栄養動脈を同定することで他のmodalityでは描出困難な腫瘍の存在領域診断が可能であり、インスリノーマやガストリノーマの術前検査としてとくに有用である。画像を拡大する6)ソマトスタチンレセプターシンチグラフィー(SRS)pNETではソマトスタチンレセプター(SSTR)、とくにSSTR2が高率に発現している。SSTR2に強い結合能を持つオクトレオチドを用いたソマトスタチンレセプターシンチグラフィー(SRS)が、海外では広く行われており、転移巣を含めた全身検索に有用である。わが国では保険適用がないため、臨床試験として限られた施設でしか施行されていない。早期の国内承認が期待される。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 外科的治療pNETの治療法の第1選択は外科治療であり、小さな単発の腫瘍に対しては、腫瘍核出術が標準術式である。多発性腫瘍、膵実質内の腫瘍など核出困難例は膵頭十二指腸切除術、幽門輪温存膵頭十二指腸切除術、または膵体尾部切除術、膵分節切除術が行われる。肝転移を有する症例でも切除可能なものは積極的に切除する。1)分子標的薬近年、pNETに対するさまざまな分子標的薬を用いた臨床試験が行われてきた。その結果、mTOR阻害薬であるエベロリムス(商品名:アフィニトール)とマルチキナーゼ阻害薬であるスニチニブ(同:スーテント)が進行性pNET (NET G1/G2)に有効であることが示された。米国NCCNガイドラインでも推奨され(図2)、最近わが国でもpNETに対して保険適用が追加承認された(表3)。2015年の膵・消化管神経内分泌腫瘍(NET)診療ガイドラインでは、pNETに対するエベロリムスやスニチニブ療法はグレードBで推奨されているが、さまざまな有害事象に対する注意や対策が必要である(表3)。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する2)全身化学療法(殺細胞性抗腫瘍療法)進行性pNETに対する全身化学療法は、わが国においてはいまだコンセンサスがなく、保険適用外のレジメンが多い。(1)NET G1/G2に対する全身化学療法進行性の高分化型pNET(NET G1/G2相当)に対し、欧米で使用されてきた化学療法剤の中ではストレプトゾシン(STZ[同: ザノサー点滴静注])が代表的であるが、わが国ではこれまで製造販売されていなかった。国内でpNETおよび消化管NETに対するSTZの第I/II相試験が多施設共同で行われ、2014年にわが国でも保険適用され、2015年2月より国内販売された。膵・消化管神経内分泌腫瘍(NET)診療ガイドラインでは、pNET に対するSTZ療法はグレードC1と位置づけられている。他ではアルキル化剤であるダカルバジン(同: ダカルバジン)の報告もあるが保険承認されていない。(2)NECに対する全身化学療法pNETのうち低分化型腫瘍(WHO分類2010でNEC)は病理学的に小細胞肺がんに類似しており、進行も非常に速いことから、小細胞肺がんに準じた治療が行われている。肝胆道・膵由来のNECに対するエトポシド/CDDP併用療法の結果をretrospectiveに解析した報告では、奏効率14%、PFS中央値 1.8ヵ月、OS中央値が5.8ヵ月であった。わが国で実施された小細胞肺がんに対する第III相試験においてイリノテカン/CDDP併用療法がエトポシド/CDDP併用療法より効果を示したことを受けて、肺外のNECに対しても期待されている。現在、膵・消化管NECに対し、エトポシド/CDDP併用療法 vs. イリノテカン/CDDP併用療法の国内比較第III相試験が行われている。3)ソマトスタチンアナログ(SA)SAは広範な神経内分泌細胞でのペプチドホルモンの合成・分泌を阻害する作用を有している。オクトレオチド(同:サンドスタチン)を含むSAが持つ機能性NETに対する効果について、症候に対するresponseが平均73%(50~100%)といわれている。2009年に中腸由来の転移性高分化型NET(NET G1/G2相当)に対するオクトレオチドLARの抗腫瘍効果が示された(PROMID study)。pNETに対するSAの抗腫瘍効果に関しては、これまで十分なエビデンスは得られてこなかったが、2014年にランレオチド・オートゲル(同:ソマチュリン)のpNET・消化管NETに対する無増悪生存期間延長効果が報告された(CLARINET study)。それを受けてNCCNガイドラインでは、pNETに対するSAの位置づけが変わったが(図2)、わが国のガイドラインでは抗腫瘍効果を目的とした、NETに対するSAの明確な推奨はない。現在、わが国での承認を目的に、ランレオチド・オートゲルの国内第II相試験が進行中である。■ 肝転移に対する治療pNETの肝転移は疼痛や腫瘍浸潤による症状、もしくは内分泌症状が認められるまで気が付かれないことも多く、肝転移を伴った症例の80~90%は診断時すでに治癒切除が困難である。pNETの肝転移は血流が豊富であり、腫瘍への血流は90%以上肝動脈から供給されていることから、肝細胞がんと同様に動脈塞栓療法(transarterial embolization: TAE)や動脈塞栓化学療法(transarterial chemoembolization: TACE)がpNETの肝転移(とくに高腫瘍量)の局所治療として有用である。TAE後の生存率に関する報告はさまざまで5年生存率が0~71%(中央値50%)、生存期間中央値も20~80ヵ月と幅がある。腫瘍数が限られている症例では、ラジオ波焼灼術(RFA)が有用とする報告もある。わが国の診療ガイドラインでは、肝転移巣に対する局所療法はグレードC1と位置付けされている。4 今後の展望今までpNETに関しての診断・治療に関する明確な指針が、わが国にはなかったが、2013年にweb上でガイドラインが公開され、2015年には「膵・消化管神経内分泌腫瘍(NET)診療ガイドライン」として発刊された。今後、わが国におけるpNET診療の向上が期待される。pNETに対する薬物療法の臨床試験としては、進行性のG1/G2 pNETを対象に新規SAであるSOM230(パシレオチド)/RAD001(エベロリムス)併用療法とRAD001単独療法を比較したランダム化第II相試験がGlobal治験として行われ、現在解析中である。テモゾロミド(同: テモダール)は、副作用が軽減されたダカルバジンの経口抗がん剤であり、国内では悪性神経膠腫に保険適用を得ている薬剤であるが、進行性NET患者に対する他薬剤との併用療法の臨床試験が行われており、サリドマイド(同: サレド)やカペシタビン(同: ゼローダ)やベバシズマブ(同: アバスチン)などの薬剤との併用療法が期待されている。最近の話題の1つとして、WHO分類でNECに分類される腫瘍の中に、高分化なものと低分化なものが含まれている可能性が指摘されている。高分化NECに対する分子標的薬治療の可能性も提案されているが、今後の検討が待たれる。診断ツールとして有用な、血中クロモグラニンAの測定や、SRSが1日も早くわが国でも保険承認されることを希望するとともに、海外で臨床試験として施行されているPRRT(peptide receptor radionuclide therapy)の国内導入も今後の希望である。5 主たる診療科消化器内科、消化器外科、内分泌内科、内分泌外科、腫瘍内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療・研究情報日本神経内分泌腫瘍研究会(Japan NeuroEndocrine Tumor Society: JNETS)(医療従事者(専門医)向けのまとまった情報)独立行政法人 国立がん研究センター「がん情報サービス」(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)NET Links(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)がん情報サイト(Cancer Information Japan)(患者向けの情報)がんを学ぶ(患者向け情報)(患者向けの情報)患者会情報NPOパンキャンジャパン(pNET患者と家族の会)1)日本神経内分泌腫瘍研究会(JNETS) 膵・消化管神経内分泌腫瘍診療ガイドライン作成委員会編.膵・消化管神経内分泌腫瘍(NET)診療ガイドライン; 2015.2)Ito T, et al. J Gastroenterol. 2010; 45:234-243.3)Yao JC, et al. N Eng J Med. 2012; 364:514-523.4)Raymond E, et al. N Eng J Med. 2011; 364:501-513.公開履歴初回2013年02月28日更新2015年09月18日

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高齢者の認知機能に運動は影響しない?/JAMA

 ほとんど体を動かさない高齢者(sedentary older adults)を対象に、24ヵ月にわたる適度な運動プログラム介入 vs.健康教育プログラム介入を比較した結果、総合/特定領域認知機能の改善について有意な差はみられなかったことが示された。Kaycee M. Sink氏らが1,635例を対象に行った無作為化試験LIFEの結果、報告した。JAMA誌2015年8月25日号掲載の報告より。70~89歳高齢者1,635例を対象に24ヵ月間の介入効果を比較 LIFE(Lifestyle Interventions and Independence for Elders)試験は、2010年2月~2011年12月に米国内8施設で、1,635例を登録して行われた。被験者は、70~89歳の椅子に座っていることの多い生活を送る高齢者で、運動機能障害のリスクを有している(Short Physical Performance Batteryスコア[12ポイント]が9ポイント以下)が、400m歩行(15分以内)は可能であった。 被験者は、体系化した適度な身体活動(ウオーキング、筋肉トレーニング、柔軟体操など)プログラムの介入、もしくは健康教育(研修会と上肢ストレッチ)プログラムの介入を受けた。 LIFE試験では、認知機能のアウトカムは副次アウトカムとして規定され、Wechsler Adult Intelligence Scale(スコア範囲:0~133、高スコアほど機能良好を示す)のDigit Symbol Coding(DSC)タスクサブセット、および修正Hopkins Verbal Learning Test(HVLT-R、12単語リストの想起タスク)による評価が、被験者1,476例(90.3%)で行われた。また、3次アウトカムとして、24ヵ月時点の総合認知機能および実行認知機能、軽度認知障害(MCI)または認知症の発生などが含まれた。認知機能の改善、両群で差はみられず 24ヵ月時点で、DSCタスク/HVLT-Rスコア(施設、性別、ベースライン値で補正)について、群間差はみられなかった。 平均DSCタスクスコアは、運動介入群46.26ポイント vs.健康教育介入群46.28ポイント(平均差:-0.01ポイント、95%信頼区間[CI]:-0.80~0.77ポイント、p=0.97)であった。 平均HVLT-R遅延想起スコア(単語数)は、運動介入群7.22単語 vs.健康教育介入群7.25単語(同:-0.03単語、-0.29~0.24単語、p=0.84)であった。 その他のあらゆる認知機能評価および複合評価についても、差はみられなかった。 運動介入群で80歳以上の被験者(307例)、ベースラインの活動体力がより脆弱であった被験者(328例)は、健康教育介入群と比較した実行認知機能複合スコアの変化が有意に良好であった(両群間比較の相互作用p=0.01)。 MCIまたは認知症が認められたのは、運動介入群98例(13.2%)、健康教育介入群91例(12.1%)であった(オッズ比:1.08、95%CI:0.80~1.46)。

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世界の疾病負担は改善しているか:GBD 2013の最新知見/Lancet

 2012年、「世界の疾病負担(Global Burden of Disease:GBD)」の最初の調査(1993年)以降、初めての全面改訂の結果が公表された。この取り組みはGBD 2010研究と呼ばれ、世界187ヵ国の死亡および疾病の原因の情報に基づき、1990年と2010年の国別の障害調整生命年(disability-adjusted life-years:DALY)および健康調整平均余命(health-adjusted life expectancy:HALE)を報告している。その後、GBDは必要に応じて毎年更新することとなり、GBD 2013研究については、すでに国別の損失生存年数(years of life lost; YLL)や障害生存年数(years lived with disability; YLD)などのデータが公表されており、今回は最新の解析結果が報告された。Lancet誌オンライン版2015年8月27日号掲載の報告。1990~2013年の188ヵ国、306の疾病原因のDALY、HALEを評価 研究グループは、世界188ヵ国における1990~2013年の306種の傷病に関するDALYおよびHALEの評価を行った(Bill & Melinda Gates Foundationの助成による)。 既報のGBD 2013研究の年齢特異的死亡率、YLL、YLDのデータを用いて、1990、1995、2000、2005、2013年のDALYおよびHALEを算出した。 HALEの計算にはSullivan法を用い、国別、年齢別、性別、年度別の年齢特異的死亡率および1人当たりのYLDの不確定性を示す95%不確定性区間(uncertainty interval:UI)を算出した。 306の疾病原因に関する国別のDALYは、YLLとYLDの総和として推算し、YLL率とYLD率の不確定性を表す95%IUを算出した。 「疫学転換(epidemiological transition)」のパターンは、個人収入、15歳以降の学校教育の平均年数、総出生率、平均人口年齢から成る「社会的人口統計状況(sociodemographic status)」の複合指標で定量化した。 すべての国で疾病原因別のDALY率の階層的回帰分析を行い、社会的人口統計状況因子、国、年度に関する分散分析を行った。健康が増進しても保健システムへの需要は低下しない 世界的な出生時平均余命は、1990年の65.3年(95%UI:65.0~65.6)から2013年には71.5年(71.0~71.9)へと6.2年(5.6~6.6)延長した。 この間に、出生時HALEは56.9年(54.5~59.1)から62.3年(59.7~64.8)へと5.4年(4.9~5.8)上昇しており、総DALYは3.6%(0.3~7.4)減少し、10万人当たりの年齢標準化DALY率は26.7%(24.6~29.1)低下した。 1990年から2013年までに、感染性疾患、母体疾患、新生児疾患、栄養疾患の世界的なDALY、粗DALY率、年齢標準化DALY率はいずれも低下したのに対し、非感染性疾患の世界的なDALYは上昇しており、粗DALY率はほぼ一定で、年齢標準化DALY率は減少していた。 2005年から2013年の間に、心血管疾患や新生物などの特定の非感染性疾患のほか、デング熱、食物媒介吸虫類、リーシュマニア症のDALYが上昇したが、他のほぼすべての疾病原因のDALYは低下していた。2013年までのDALY上昇の5大原因は、虚血性心疾患、下気道感染症、脳血管疾患、腰頸部痛、道路交通傷害であった。 下痢/下気道感染症/他の一般的な感染性疾患、母体疾患、新生児疾患、栄養疾患、その他の感染性疾患/母体疾患/新生児疾患/栄養疾患、筋骨格系障害、その他の非感染性疾患の各国間の差や経時的な変動の50%以上は、社会的人口統計状況によって説明が可能であった。 一方、社会的人口統計状況は、心血管疾患、慢性呼吸器疾患、肝硬変、糖尿病/泌尿生殖器疾患/血液疾患/内分泌疾患、不慮の外傷のDALY率の変動については10%も説明できなかった。 また、予測されたとおり、社会的人口統計状況の上昇により、負担がYLLからYLDへと転換しており、筋骨格系障害、神経障害、精神/物質使用障害によるYLLの減少およびYLDの上昇が、これを促進したと考えられる。 平均余命の上昇はHALEの上昇よりも大きく、DALYの主原因には各国間に大きなばらつきが認められた。 著者は、「世界の疾病負担は改善している」と結論し、「人口増加と高齢化がDALYを押し上げているが、粗DALY率には相対的に変化はなく、これは健康の増進は保健システムへの需要の低下を意味しないことを示している。社会的人口統計状況が疾病負担の変動をもたらすとする疫学転換の概念は有用だが、疾病負担には、社会的人口統計状況とは関係のない大きな変動が存在する」とまとめている。 また、「これは、保健政策の立案や関係者の行動に向けて適切な情報を提供するには、国別のDALYおよびHALEの詳細な評価が必要であることをいっそう強調するもの」と指摘している。

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ステント内再狭窄の至適治療戦略は?/Lancet

 ステント内再狭窄(ISR)の経皮的治療について、エベロリムス薬剤溶出ステントを用いた経皮的冠動脈介入(PCI)と薬剤コーティングバルーン(drug-coated balloons:DCB)治療の2つが、考慮すべき治療戦略であることが、スイス・ベルン大学病院のGeorge C M Siontis氏らによるネットワークメタ解析の結果、示された。その理由について著者は、「前者は、血管造影の径狭窄率が最も良好である。後者は、新たなステント層を追加することなく良好な成績が得られるからだ」と述べている。薬剤溶出ステントを用いたPCIは、未治療の冠動脈狭窄症の標準治療となっている。しかし、これまでベアメタルステントや薬剤溶出ステントのISRに対する至適治療は確立されていなかなった。Lancet誌2015年8月15日号掲載の報告より。ネットワークメタ解析で、エビデンスを統合しランク付け 研究グループは、ISRの経皮的治療戦略を比較しランク付けるため、ネットワークメタ解析で、関連するすべての無作為化比較試験のエビデンスを統合して検討した。2014年10月31日時点でPubMed、Cochrane Library Central Register of Controlled Trials、Embaseを検索し、タイプを問わない冠動脈ISRの治療に関する種々のPCI戦略についての無作為化比較試験の発表論文を特定した。 主要アウトカムは、フォローアップ血管造影時の径狭窄率であった。考慮すべき戦略は、エベロリムス薬剤溶出ステント・PCIとDCB 検索で適格条件を満たした27試験・5,923例のデータが解析に組み込まれた。介入後フォローアップの期間は6ヵ月から60ヵ月。そのうち、血管造影のフォローアップが入手できたのは、4,975/5,923例(84%)・介入後6~12ヵ月であった。 解析の結果、径狭窄率でみた有効性が最も優れていたのは、エベロリムス薬剤溶出ステント・PCIで、その他の治療戦略との差は、対DCBで-9.0%(95%信頼区間[CI]:-15.8~2.2)、対シロリムス溶出ステント-9.4%(-17.4~-1.4)、対パクリタキセル溶出ステント-10.2%(-18.4~-2.0)、対冠動脈内放射線治療(vascular brachytherapy)-19.2%(-28.2~-10.4)、対ベアメタルステント-23.4%(-36.2~-10.8)、対バルーン血管形成術-24.2%(-32.2~-16.4)、対ロタブレーション-31.8%(-44.8~-18.6)であった。 2番目に有効性が高い治療としてランク付けされたのはDCBであった。シロリムス溶出ステント(-0.2%、95%CI:-6.2~5.6)やパクリタキセル溶出ステント(-1.2%、-6.4~4.2)と有意な差は認められなかったが、著者は、「新たなステント層を追加することなく良好な成績が得られるので」と述べている。 これらの結果を踏まえて著者は、「あらゆる冠動脈ISRに関して、2つの治療が考慮すべき戦略であることが示された」とまとめている。

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オキシコドン徐放性製剤Xtampza ER、中~重度の慢性腰痛を改善

 オピオイド鎮痛薬は慢性腰痛の治療に用いられるが、一方では乱用が大きな懸念となっている。米国・Analgesic Solutions社のNathaniel Katz氏らは、オキシコドンの乱用防止製剤であるXtampza ER(オキシコドン徐放性製剤)の安全性および有効性を評価する第III 相臨床試験を行い、Xtampza ERは中等度~重度慢性腰痛患者において臨床的に有意な鎮痛効果を発揮することを示した。Pain誌オンライン版2015年8月6日号の掲載報告。 本研究は、二重盲検プラセボ対照ランダム化治療中止試験として実施された。  対象は成人の中等度~重度慢性腰痛患者(オピオイド治療歴の有無を問わず)で、非盲検用量設定期に参加した740例のうちXtampza ER(等価用量はオキシコドン塩酸塩として40mg/日以上160mg/日以下)の最適用量が決定した患者を、二重盲検期に移行してXtampza ER群(193例)またはプラセボ群(196例)に無作為に割り付け12週間投与した。 主な結果は以下のとおり。・有効性の主要評価項目については、プラセボ群とXtampza ER群とで12週後における平均疼痛強度のベースラインからの変化量に統計学的な有意差が認められた(変化量の差[平均±SE]:-1.56±0.267、p<0.0001)。・すべての感度解析で、主要評価項目の結果が裏付けられた。・副次評価項目については、Xtampza ER群はプラセボ群と比較し、患者満足度(Patient Global Impression of Change)が改善した患者が多く(PGIC:26.4 vs.14.3%、p<0.0001)、投与中止までの期間が長く(58 vs.35日、p=0.0102)、疼痛強度が30%以上改善した患者の割合(49.2 vs.33.2%、p=0.0013)および50%以上改善した患者の割合(38.3 vs.24.5%、p=0.0032)が多かった。・アセトアミノフェンのレスキュー使用は、プラセボ群よりXtampza ER群が少なかった。・Xtampza ERの有害事象プロファイルは他のオピオイドと一致しており、忍容性は良好で、安全性に関する新たな懸念は認められなかった。

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慢性HBV感染の有病率、初の世界的分析結果/Lancet

 世界の慢性B型肝炎ウイルス(HBV)感染症の有病率は3.61%であり、アフリカおよび日本を含む西太平洋地域が最も高率であることなどが、ドイツ・ヘルムホルツ感染症研究センターのAparna Schweitzer氏らにより明らかにされた。世界的分析結果は初となるもので、研究グループは、1965~2013年の発表データを系統的にレビューし、プール解析を行った。Lancet誌オンライン版2015年7月28日号掲載の報告。1965~2013年の発表データを系統的にレビュー レビューは、1965年1月1日~2013年10月23日のMedline、Embase、CAB Abstracts(Global health)、Popline、Web of Scienceのデータベースを検索し、血清疫学データが入手できた国で一般集団に占めるHBV有病率(B型肝炎表面抗原[HBsAg]例)を報告している論文を適格とした。 各国のHBsAg有病率を、95%信頼区間[CI]値(試験サイズで加重)とともに推算し、また、2010年の国連人口統計を用いて、慢性HBV感染者数を算出した。世界で約2億4,800万人がHBsAg陽性と推計 検索により1万7,029件の文献を調べ、161ヵ国をカバーする1,800本のHBsAg有病率に関する報告が入手できた。 世界のHBsAgでみた慢性HBV感染症の有病率は、3.61%(95%CI:3.61~3.61)だった。WHOの6つの地域分類でみた結果、高率の地域はアフリカ(同地域の全体推計有病率8.83%、95%CI:8.82~8.83)と、日本を含む西太平洋(同:5.26%、5.26~5.26)だった。 また低率の地域でも、国によって有病率にばらつきがみられた。アメリカ地域では、メキシコの0.20%(同:0.19~0.21)からハイチの13.55%(同:9.00~19.89)まで、アフリカ地域ではセーシェル諸島の0.48%(同:0.12~1.90)から南スーダンの22.38%(同:20.10~24.83)までの差がみられた。 2010年の世界のHBsAg陽性者は、約2億4,800万人と推計された。 なお、日本の推定有病率は1.02%(同:1.01~1.02)、陽性者129万4,431例と報告されており、同地域では3番目に低かった。同地域で最も低率だったのはオーストラリアの0.37%。隣国では中国が5.49%、韓国は4.36%と報告されている。

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急速な経年的1秒量低下はCOPD発症の必須要素か?(解説:小林 英夫 氏)-393

 慢性閉塞性肺疾患(COPD)では、1秒量の経年的低下が正常者より急速であるという見解が従来の定説だった。1977年にFletcher氏によって報告され、その後、改変図がさまざまに引用されてきた1)。筆者もFletcher説を学び、厚労省サイトにも掲載されている。今回のLange論文は定説であったFletcher論文に一石を投じたもので、強い印象を与える。COPD発症には、当初からの1秒量(FEV1)低値も重要であって、急速なFEV1減少だけが必須の特性とは限らないと、コペンハーゲン大学 Peter Lange氏らは結論している。 Fletcher 論文を再検討すると、対象が全例「男性」で、年齢30~59歳の1,136例がエントリーされ、792例を8年間観察、25歳時の1秒量を100%として経時的低下をパーセント表示し、解析や算出方法の詳細は記載されていないのである。時代が異なるため、現在の推計学的基準からはいくつか問題点も指摘できよう。 そこで、Lange氏らは、FEV1の低下率が正常範囲であっても、成人早期の呼吸機能が低下していれば、加齢に伴いCOPDを発症する可能性がある、との仮説を前向き検証した。3つの別コホート研究(FOC、CCHS、LSC)のデータを用いたもので、3研究ともに1,000症例以上、また、FOCとCCHSは40歳以下の登録者を平均20年以上追跡している。LSCは50歳代の症例を平均5年追跡し、男性が2割しか含まれていないなど、前2者とは対象内容が大きく異なる。 登録開始時の%FEV1を2別化(80%以上、80%未満)し、最終受診時のCOPD有無でも2別化した全4群において、FEV1の経時的低下率を評価した。登録総数は4,397例、半数が喫煙者で最終観察時にも約2割が喫煙中だった。最終受診時のCOPD発症者は495例で、COPDの診断基準は、GOLD (Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease)スコアで2以上、呼吸機能検査で%1秒量80%未満かつ1秒率70%未満である。また、1秒量低下が年40mL 以上を迅速低下、未満を正常低下と定義している。 主目的である1秒量経時的低下の解析は、FOCとCCHSから算出された。平均観察22年で、40歳以前のFEV1が予測値の80%未満であった657例中174例(26%)がCOPDを発症し、80%以上であった2,207例からのCOPD発症158例(7%)であり、“成人早期”のFEV1低値集団で発症が多かった(p<0.001)。COPD発症332例中、登録時1秒量正常の158例は、その後平均53±21mL/年で急速に1秒量が低下した。登録時1秒量低値174例は、喫煙曝露は同程度であったにもかかわらず、その後のFEV1低下は平均27±18mL/年で、FEV1正常集団よりも緩徐であった(p<0.001)。これらの結果に基づきLange氏らは、COPDの約半数はFEV1の低下速度が正常かつ成人早期のFEV1が低値であるので、FEV1の急速低下がCOPD発症の必須特性ではないと示唆された、と結論した。 本論文は、COPD発症には1秒量の「低下速度」と「初期値」の2要素が関係しており、COPD発症は単一機序によるものではないことを提示している。下の図はFletcher論文の図にLange論文の結果を追加したものである。 彼らの結果には類似論文が存在し、重篤なCOPD患者においてFEV1がばらつくことや、経年低下が予想より小さい場合があることが報告されている。本論文は症例数や追跡期間などは秀逸だが、3つの研究を検討しているのに2つだけを対象とした解析、対象母数が一定しない、“成人早期”と和訳した対象に20歳代を含まないなどの問題がある。また、1秒量40mL/年以上の低下を迅速と定義しているが、絶対的基準かどうかなど検討の余地はあるが、20歳代からの呼吸機能追跡が加わりlead-timeバイアスが解消されれば、新たな定説となりうるのではないだろうか。

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