脳内に存在するビタミンDの量が多い高齢者では、明晰な頭脳が維持されやすい可能性が、米タフツ大学ジーン・メイヤーUSDA加齢人間栄養研究センターのSarah Booth氏らの研究で示唆された。この研究では、脳組織中のビタミンD濃度が高い高齢者では記憶力や思考力の標準的な検査の成績が良い傾向があり、認知症や軽度認知障害(MCI)になる可能性の低いことが示された。この研究の詳細は、「Alzheimer's & Dementia」に12月7日掲載された。
ビタミンDと脳の老化については、これまでにも複数の研究が行われている。しかし、高齢者においてビタミンDの血中濃度の低さが認知症リスクの上昇と関連するという報告がある一方で、そのような関連は認められないとする報告もあり、意見の一致は得られていない。さらに、高齢者の記憶力や思考力に対するビタミンDサプリメントの効果を検証したいくつかの臨床試験でも、有益性に関する明確な証拠は得られていない。
そこでBooth氏らは、「ビタミンDはそもそも脳に到達するのか」という基本的な疑問に立ち返り、それを調べるために、ラッシュ大学による疫学研究Rush Memory and Aging Project(MAP)に生前、参加していた高齢者290人(死亡時の平均年齢92歳)の剖検脳組織を調べた。MAPは1990年代に開始された長期研究で、正常および異常な脳の老化についての解明を進めることを目的としている。同研究の参加者は、毎年認知機能の検査を受けることと、死後は研究のために脳組織を提供することに同意している。
その結果、アルツハイマー病に関連する異常が認められた2人の脳組織を含む、全ての分析対象の脳組織で、ビタミンDの存在が確認された。また、全体的に脳組織中のビタミンD濃度が高い高齢者は、認知機能の検査の成績が優れていた。ビタミンD濃度が2倍になるごとに、死亡する前の最後の認知機能検査時に認知症またはMCIが認められる可能性が25~33%低下していた。その一方で、脳組織中のビタミンD濃度とアルツハイマー病に関連する、アミロイド斑の蓄積などの脳の生理学的指標との間に関連は認められなかった。
研究論文の筆頭著者である、同センターのKyla Shea氏は、「この研究により、人間の脳にはある程度の量のビタミンDが存在し、それが認知機能の低下のしにくさと関連することが明らかになった。しかし、将来の介入デザインを考え始める前に、さらに研究を行い、ビタミンDが関与する脳内の神経病理を特定する必要がある」と述べている。
今回の研究には関与していない、米アルツハイマー病協会サイエンティフィック・プログラム・アンド・アウトリーチのシニアディレクターであるClaire Sexton氏は、この研究により、ビタミンDと認知症リスクの間に「興味深い関連性が存在する可能性」が示されたと話す。ただし同氏は、この研究でビタミンDそのものに認知症の予防効果があることが証明されたわけではないことを強調。また、今回の研究で評価されたアルツハイマー病に関連する脳の異常と、脳組織中のビタミンD濃度との関連は認められなかったことに言及し、ビタミンDが認知症に対して保護的に働くとしても、その機序は明らかではないと指摘している。
一部の人たちでは他の人たちと比べて、脳組織中のビタミンD濃度が高い理由も不明だ。Booth氏によると、今回の研究では、ビタミンDの血中濃度と脳組織中の濃度との間にはわずかな関連しか確認されなかったという。また、ビタミンDの血中濃度は、高齢者の認知機能検査の成績には関連していなかったという。同氏は、「今後、より多様な人種を対象にするなどして研究を重ねる必要がある」と話している。
[2022年12月8日/HealthDayNews]Copyright (c) 20xx HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら