CLEAR!ジャーナル四天王|page:35

乳房温存術後の早期乳がん患者に対して加速乳房部分照射(APBI)は勧められるか?-RAPID試験の結果から(解説:岩瀬俊明氏)-1182

加速乳房部分照射(Accelerated Partial Breast Irradiation:APBI)とは、乳房温存術後の乳房内再発の約70%以上の症例が切除後の腫瘍床周囲から発生することから、全乳房照射(Whole Breast Irradiation:WBI)の代わりに腫瘍床のみに部分照射を行う方法である。メリットとしては1.線量を増加して短期間に照射を終えられる2.照射野を縮小することで有害事象を軽減できる3.短期間の治療により治療費を軽減できる(小線源治療を除く)

ビタミンDとオメガ3脂肪酸は糖尿病性腎臓病の進展を抑制しない(解説:住谷哲氏)-1183

ビタミンDまたはオメガ3脂肪酸が健常人の心血管イベントやがんの発症を抑制するか否かを検討した大規模無作為化試験VITALの結果はすでに報告されているが、残念ながらビタミンDおよびオメガ3脂肪酸の両者ともに心血管イベントもがんも抑制しなかった。本試験はこのVITALに組み込まれた糖尿病患者を対象としたsupplementary trial VITAL-DKDであり、主要評価項目は治療開始5年後のeGFRの低下である。この試験の背景には動物実験でビタミンDの投与が(1)レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系を抑制する、(2)腎臓での炎症および線維化を抑制する、(3)ポドサイトのアポトーシスを抑制する、(4)アルブミン尿および糸球体硬化の程度を軽減すること、ならびにオメガ3脂肪酸が抗炎症作用および抗血栓作用を有することがある。

乳房温存術後の早期乳がん患者に対して加速乳房部分照射(APBI)は勧められるか?-NSABP B-39/RTOG 0413試験結果から(解説:岩瀬俊明氏)-1181

加速乳房部分照射(Accelerated Partial Breast Irradiation:APBI)とは、乳房温存術後の乳房内再発の約70%以上の症例が切除後の腫瘍床周囲から発生することから、全乳房照射(Whole Breast Irradiation:WBI)の代わりに腫瘍床のみに部分照射を行う方法である。メリットとしては1.線量を増加して短期間に照射を終えられる2.照射野を縮小することで有害事象を軽減できる3.短期間の治療により治療費を軽減できる(小線源治療を除く)

患者団体は製薬企業からの資金提供をもっと公開すべきだろう(解説:折笠秀樹氏)-1179

患者団体とは患者の声を代表し、患者や家族と支え合うとともに、療養環境の改善を目指す患者会および患者支援団体のことである。ほぼ定款や会則を有している。がん・難病を中心に患者団体は数多く存在し、講演会や勉強会を開催している。疾病理解への啓発活動なども行っている。会費だけでは活動資金が不足しており、寄付金や協賛金に強く依存しているのが現状のようだ。26研究のシステマティックレビューがその実態を浮き彫りにした。

お酒飲みの皆さん、1日1合少しのお酒までやめられますか?(解説:野間重孝氏)-1180

飲酒と心房細動の有病率は古くから研究されており、種々の疫学調査により過量飲酒が心房細動の有病率を上昇させることが証明されている。最近のFramingham Studyでは3 drink/日以上の飲酒で心房細動の危険性が増すことが報告されている(相対危険度1.34)。わが国での疫学調査でもエタノール46~69g/日で相対危険度1.36、それ以上では相対危険度2.90と、用量依存性に心房細動の有病率が上昇することが報告されている(Sano F, et al. Circ J. 2014;78:955-961.)。ちなみに海外の疫学ではdrinkという単位が用いられることが多く、これはアルコール12gを表す。日本で用いられる単位の1単位は20gでこれは大体日本酒で1合、ビールで500mLに相当する。本論文で取り扱われている16~17 drink/週程度とは、日本酒で1升、ビールで500mL缶10本程度ということになる。興味深いことは、日本人はアルコール脱水素酵素やアルデヒド脱水素酵素の活性が欧米人に比して低いことが知られているが、一連の疫学研究でわが国と欧米との間に著しい差異は認められないことである。

3人に1人が臨床試験の結果を公表していなかった(解説:折笠秀樹氏)-1178

臨床試験を実施しても結果を公表しないのは資源の無駄に当たるとともに、参加された被験者へも無責任ということで、2007年に米国FDAは法律(FDAAA)を取りまとめた。2017年には施行され、2018年1月から完全実施となった。その法律によると、臨床試験は終了後1年以内に登録サイトへ結果を公表しなければならない。米国で登録サイトというと、ほぼすべてが「ClinicalTrials.gov」に当たる。終了とは何かというと、最後の観察測定が取られた時点を指す。いわゆるLPO(Last Patient Out)から1年以内ということであり、データの固定時ではない。

出血ハイリスクの重症患者に対する予防的なPPI・H2RAは有用か?(解説:上村直実氏)-1177

プロトンポンプ阻害薬(PPI)やH2受容体拮抗薬(H2RA)など酸分泌抑制薬は胃食道逆流症に対する有用性により世界中で頻用されている一方、長期投与による肺炎や骨折のリスク、腸内細菌叢の変化に伴うClostridium difficile(CD)感染症のリスク増加などを危惧する報告が散見されている。このように酸分泌抑制薬の有用性と安全性のバランスは臨床現場で最も注目されている課題の1つである。重症患者が主体のICUにおいて消化管出血の予防処置としてPPIやH2RAが当然のように投与されているが、薬剤のリスクを考慮した有用性に関する確実なコンセンサスが得られていないのが現状である。

Lp(a)低下核酸医薬の途中経過報告(解説:興梠貴英氏)-1175

Lp(a)の存在は古くから知られており、その生理的意義はいまだ不明だが、虚血性心疾患を含む心血管リスクとしての報告も1970年代からある。しかし、薬物により直接低下させる手段がないため、これまでさまざまな心血管ガイドラインでも対処について積極的に触れられていないことが多い。一方で核酸医薬の発達により、遺伝子発現レベルで標的蛋白の抑制が可能となってきており、本試験は肝細胞への特異性を高めた第2世代のアポリポプロテイン(a)低下核酸医薬の効果・安全性をみたものである。結果として大きな副作用がなく、有効にLp(a)を低下させることができたが、本邦における治験は行われていないと思われる。今後はLp(a)を直接低下させることが心血管リスクの低下に結び付くのかという試験が行われると考えられ、有効な治療薬として用いるにはまだ数年以上かかると思われる。

進行非小細胞肺がんへの初回治療としての免疫治療薬併用療法について(解説:小林英夫氏)-1176

2018年のノーベル医学賞を受賞された本庶 佑博士が発信されたがん免疫療法は、実地臨床でも急速に普及している。肺がん治療の柱は、手術療法、化学療法(殺細胞性抗悪性腫瘍薬)、放射線療法、さらに1990年代以降に加わった分子標的治療薬の4者が基本である。この分子標的治療薬の中でも腫瘍細胞が宿主免疫機構から逃避する機序を阻害する、そして本来有している免疫応答機能を回復・保持する治療薬が免疫チェックポイント阻害薬(がん免疫療法)である。治療の4本柱をどのように使い分けるか、またどう組み合わせれば治療効果をより高めるかについて、これまでもそして現在も精力的な検討がなされている。

腎交感神経除神経術は心房細動アブレーション治療のオプションか?(解説:冨山博史氏)-1172

本試験は、高血圧合併発作性心房細動症例に対して、発作性心房細動に対するカテーテルアブレーション単独治療と、アブレーション治療に腎交感神経除神経術を加えた併用治療のいずれが介入後の発作性心房細動再発抑制に有用であるかを検証したmulticenter、single-blind、randomized clinical trialである。主評価項目は、介入後12ヵ月の心房性頻脈再発率と降圧度である。登録された302例中、283例にて試験が遂行された。12ヵ月後に心房性頻脈を認めない症例数は、アブレーション治療単独では148例中84例(56.5%)、アブレーション治療+腎交感神経除神経術併用では154例中111例(72.1%)であった(ハザード比0.57、p<0.01)。さらに降圧の度合いも併用群で有意に大きかった(両群の収縮期血圧降圧の差13mmHg)。

限局性前立腺癌、治療法に対するQOL調査:各治療に伴う機能的な差は治療5年で目立たなくなる(解説:宮嶋哲氏)-1174

本研究は、2011~12年に限局性前立腺がんの診断がなされ、2017年9月までに観察可能であったfavorable risk 1,386例とunfavorable risk 619例を対象としたprospective, population-based study(CEASAR study)である。対象となった治療方法は、favorable risk患者では経過観察(active surveillance)、神経温存前立腺全摘除術、放射線外照射、低線量小線源療法であった。一方、unfavorable risk患者には前立腺全摘除術、アンドロゲン除去療法併用放射線外照射であった。各種治療に伴う機能的アウトカムをExpanded Prostate Index Composite(EPIC)で機能評価したところ、治療に伴う合併症(腸管ならびに性機能)の差異は、5年間の経過で減弱していく傾向を認めた。ただし、手術(前立腺全摘除術)がもたらす尿禁制と性機能の低下は5年経過しても他治療に比べ顕著であった。ただし、対象が限局性前立腺がんの患者のみである点、さまざまな習熟度の術者による手術が含まれている点、前立腺容量が検討に含まれていないなどlimitationも少なくない。

卵巣がん初回治療後の維持療法でオラパリブ+ベバシズマブはPFSを延長も、日本の臨床現場への適応は一部施設に限るか(解説:前田裕斗氏)-1173

進行期IIIまたはIVの進行卵巣がんにおける、初回治療(腫瘍減量術などの手術+プラチナ・タキサン[TC]・ベバシズマブ[以後Bevと表記])後の維持療法について、Bev単独とBev+オラパリブを比較したRCTである。結果はprogression-free survival(無増悪生存期間、PFS)についてBev+Ola群で有意に長いという結果が出た(中央値、22.9ヵ月vs.16.6ヵ月)。現在日本での進行卵巣がん初回治療における化学療法としては、dose-dense TC(TC療法のやり方の1つ)またはTC+Bevが行われることが多い。一方、初回治療後に行う維持化学療法には従来はBevという選択肢しかなかったが、SOLO1試験においてプラチナ製剤使用後にBRCA遺伝子に異常がある群でOlaのPFS改善効果が非常に高かったことから、日本でも初回治療の際にBRCA遺伝子変異を調べ、陽性の場合TC→Olaを行う施設も増えてきている。つまり、維持療法まで視野に入れると現状日本ではTC+Bev→BevまたはTC→Olaの2つの選択肢があることになる。

地政学時代のメンタルヘルス(解説:岡村毅氏)-1171

現代は地政学の時代などともいわれるが、香港の動乱において住民のメンタルヘルスが悪化しているという報告である。はじめに私の立場を申し上げると、科学に関していろいろ述べるが、政治に対しては一切述べるつもりはない。なお前提として本論文も政治的には中立で抑制がきいていると思われる。さて、本論文は住民の長期縦断研究の解析であるが、2014年の反政府デモ(雨傘運動/オキュパイセントラル運動)、2019年の「民主化デモ」と動乱が続き、depressionが5倍に増え、PTSDが戦時にも匹敵するレベルであることが報告されている。また、世界のその他の大都市でも動乱が起きる中で(たとえばパリの黄色いベスト運動)、この研究の科学的価値があるとしている。

short DAPT vs.standard DAPTの新展開:黄昏るのはアスピリン?クロピドグレル?(解説:中野明彦氏)-1170

本邦でBMSが使えるようになったのは平成6年、ステント血栓症予防には抗凝固療法(ワルファリン)より抗血小板剤:DAPT(アスピリン+チクロピジン)が優れるとわかったのはさらに数年後だった。その後アスピリンの相方が第2世代のADP受容体P2Y12拮抗薬:クロピドグレルに代わり、最近ではDAPT期間短縮の議論が尽くされているが、DAPT後の単剤抗血小板薬(SAPT)の主役はずっとアスピリンだった。そして時代は令和、そのアスピリンの牙城が崩れようとしている。

中国と日本の医学研究者は週末や深夜に仕事をする人が多いようだ(解説:折笠秀樹氏)-1169

2012年から2019年にかけて、BMJ/BMJ Open誌に論文が投稿された日時を調べた。加えて、同誌の査読が提出された日時も調べた。週末や深夜に提出されることも多々あり、医学研究者の仕事は9時5時とは限らない現実が明らかになった。国別に分析したところ、中国と日本はダントツで週末や深夜に仕事をする人が多かった。BMJもBMJ Openも大差がなかったので、BMJのデータを見ると、週末・祝日に論文投稿した割合は22%であった。査読提出の割合は31%であった。週末は7分の2(28%)なので、論文執筆は平日に行っているほうが多いが、週末でも22%の割合で仕事をするのはサラリーマンでは考えにくい。論文は本務に位置付けられるが、査読はそうではないので、査読のほうは時間外に行われがちなのだろう。

自信あると思わせる強い肯定的表現に惑わされないでほしい(解説:折笠秀樹氏)-1168

研究結果を報告するとき、どのような肯定的用語で表現していたかを調べた。男性研究者で多かったのは、(1)Novel(新規)、(2)Unique(唯一)、(3)Promising(有望)などであった。女性研究者が優位に使っていたのは、Supportive(支持)だけであった。女性のほうが控えめなため、肯定的表現をほとんど使っていなかったことがわかった。この15年間でどれくらい肯定的表現を使うようになったかというと、インパクトファクター(IF)10点以上の臨床医学誌では1.8倍に増えていた。そうでなくても1.4倍に増えていた。そういえば、NEJM誌の投稿規定の冒頭に3条件が示されている。

芸術に触れる人は長生き(解説:桑島巖氏)-1166

音楽会や美術館に年に1、2回行く人は行かない人より14%死亡リスクが低く、もっと頻回に2~3ヵ月に1回は行く人では、31%も低いという興味ある成績である。演奏をしたり絵を描かなくとも芸術を見たり聴いたりして楽しむ、いわゆる受容芸術活動できる人が長生きということを、50歳以上(平均65.9歳)の住民6,710人を約14年間追跡した調査でこの論文は明らかにした。

完全人工膵臓実現へのさらなる一歩(解説:住谷哲氏)-1167

数年前に米国FDAは、世界初のclosed-loop insulin delivery systemであるMiniMed 670G(Medtronic)を認可した。これは基礎インスリン分泌basal insulin deliveryのみを自動化したものでhybrid closed-loop systemと呼ばれている。本試験で用いられたのは、基礎インスリン分泌に加えて高血糖時の補正インスリンcorrection bolusも自動化した新しいclosed-loop systemである。人工膵臓 artificial pancreasはグルコース濃度を感知するセンサー、投与インスリン量を計算するアルゴリズム、インスリンを注入するポンプの3つから成る。本試験で用いられたのはそれぞれDexcom G6 CGM(Dexcom)、Control-IQ Technology(Tandem Diabetes Care)、t:slim X2インスリンポンプ(Tandem Diabetes Care)を組み合わせたシステムである。Control-IQ Technologyの基礎となったアルゴリズムinControlは米国・バージニア大学で開発され、後にTypeZero Technologiesに引き継がれたが、同社は近年Dexcomと合併した。t:slim X2インスリンポンプは唯一のタッチパネル式のインスリンポンプであり、その使いやすさから市場を伸ばしている。人工膵臓開発の分野は競争が熾烈で、これら複数の企業と米国のバージニア大学が共同で実施したInternational Diabetes Closed Loop(iDCL)trialが本試験である。

血圧に差がついてしまっては理論検証にならないのでは?(解説:野間重孝氏)-1165

マルファン症候群は細胞外基質タンパクであるfibrillin 1(FBN1)の遺伝子変異を原因とする遺伝性の結合織疾患であり、種々の表現型、重症度がみられるが、大動脈瘤(とくに大動脈基部)とそれに伴う大動脈弁閉鎖不全症が生命予後の決定因子としてとくに重要であるため、その発生予防が種々議論されてきた。近年、FBN1変異下においては炎症性サイトカインの1つである形質転換増殖因子β(TGFβ)の活性が亢進していることが明らかにされ、この活性亢進が結合織疾患の発生に関与している可能性が示され、動脈瘤の発生予防法として、シグナル伝達系でTGFβの上流に位置するアンジオテンシンII受容体1型活性をアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)によってブロックする治療法が有効である可能性が示唆され、注目を集めるに至った。

脳梗塞、一過性脳虚血発作発症後の脂質管理はどの程度まで(解説:吉岡成人氏)-1164

脳梗塞は適切な内科治療が行われなければ、最初の1年で10人に1人が再発する。一方、TIAも発症後90日以内の脳卒中発生率は15~20%である。脳梗塞、TIAの再発予防においては、抗血栓療法と内科的リスク(血圧、脂質、血糖)の管理が重要である。日本における『脳卒中治療ガイドライン2015』においても、脳梗塞患者の慢性期治療における脂質異常のコントロールが推奨されており、高用量のスタチン系薬剤は脳梗塞の再発予防に有用であると記されている(グレードB:行うように勧められる)。また、低用量のスタチン系薬剤で治療中の患者においてはEPA製剤の併用が脳卒中の再発予防に有効であることも併記されている(グレードB)。