CLEAR!ジャーナル四天王|page:45

頭を使わないと認知症になるっていうけど本当か?(解説:岡村毅氏)-983

お待ちかねのBMJ誌のクリスマス号である。ご存じの方も多いと思うが、クスリと笑えるが、じわじわと効いてくる論文(きちんとした科学であることが大前提で偽科学はダメ)が満載のなんとも英国的な恒例行事である。今回取り上げた論文は、英国・アバディーン市の1936年生まれの子供たちをなんと11歳の時点から継続的に知能テストし続けたという超長期縦断研究からの報告である。最新の調査は2013年であるから77歳に到達している。その結果、わかったことは大きく2つある。

がんの静脈血栓予防は必要かな?(解説:後藤信哉氏)-982

日本では静脈血栓症が欧米に比較して圧倒的に少ない。遺伝子型として活性化プロテインC抵抗性を示す血液凝固因子のLeiden型変異がいないことが理由の1つと想定されるが、その他の生活習慣も寄与しているかもしれない。静脈血栓症の圧倒的多数には血栓性素因がある。日本の高齢者に初発の静脈血栓症を認めた場合には、悪性腫瘍が隠れている可能性が高い。静脈血栓症例に対する悪性腫瘍スクリーニングは重要である。

ネーザルハイフロー(高流量鼻カニュラ)酸素療法の効果について(解説:小林英夫氏)-981

ネーザルハイフロー酸素療法は、従来の経鼻カニュラや酸素マスクとは異なり、数十L/分以上の高流量で高濃度かつ加湿された酸素を供給できるシステムである。価格は50万円以下で外観は太めの鼻カニュラ様であるが、酸素ボンベでは稼働せず配管を要するために診療所や外来診察室での利用は難しい。本療法に期待されることは、ガス交換や換気効率向上、PEEP類似効果、加湿による気道粘液線毛クリアランス改善、などといった単なる酸素投与にとどまらない効果であり、NPPVの一歩手前の呼吸療法としての活用が想定されていた。

スタチンに加え注射でLDL-Cをさらに下げると、心血管リスクが減少(解説:佐田政隆氏)-980

約30年前にスタチンが発売されてから、数々のエビデンスが築かれてきた。2次予防はもちろん、ハイリスク症例の1次予防にも、有効性が示された。その後、スタチン間のhead to headの試験が組まれ、LDLコレステロールを大量のストロングスタチンで積極的に低下させる方が、より心血管イベント抑制効果が大きいことが示され、Lower is Better という概念が確立した。そして、LDLコレステロール値と心血管イベントがほぼ直線的に低下するグラフが作られ、その直線を外挿するとLDLコレステロールを20~30 mg/dL程度まで低下させれば心血管イベントを0にすることができるのではないかと予想されていた。しかし、最大耐用量のストロングスタチンと小腸でのコレステロール吸収阻害薬であるエゼチミブを用いても、LDLコレステロールはせいぜい50 mg/dLまでしか下げられなかった。そして、至適薬物療法を施しても、冠動脈病変が進行していく症例が存在し、いわゆるスタチン投与後の残余リスクとして問題になっている。

日本と世界の平均寿命は2040年にどうなるか?(解説:有馬久富氏)-979

日本人の平均寿命は、戦後右肩上がりで延び続け、世界でもトップクラスの長寿国となった。2017年の平均寿命は、男性で81年、女性で87年と報告されている。先日、Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study(GBD)研究2016のデータを用いて、2040年の世界平均寿命を予測した成績がLancetに掲載された。その結果、世界の平均寿命は、男女ともに平均4.4年延び、日本の平均寿命も85年を超えて世界のトップクラスにあり続けると予測された。

海洋由来オメガ3脂肪酸サプリの心血管疾患・がん1次予防効果に厳しい判定?(解説:島田俊夫氏)-978

n-3脂肪酸(PUFAs)の摂取は心血管疾患・がん予防に好ましいとされてきたが、エビデンスに関しては必ずしもコンセンサスが得られていたわけでなく、議論の多いところである。この根拠の発端になったのが、グリーンランドのイヌイットに心筋梗塞が少ないとの報告である。これによりPUFA信仰が世界的に広がり、魚油、とくにその成分であるEPA、DHAなどがサプリとして広く普及し多くの人々に愛用されている。ところが、最近その効果に関して雲行きが怪しくなってきている。最近のビッグジャーナルに掲載された論文には、その効果に否定的な見解も多く見られるようになり、戸惑いが世の中に広がっている。2018年11月10日のNEJM誌に掲載された米国・Brigham and Women’s病院のManson JE氏らの論文は、無作為化二重盲検n-3脂肪酸群とプラセボ群との比較試験「VITAL試験」の結果報告であり、関心も高く時宜にかなっており私見をコメントする。

若年者に増加しているヒトパピローマウイルス陽性中咽頭がんに対する標準的放射線化学治療(解説:上村直実氏)-976

中咽頭がんは頭頸部がんの1つで、日本では年間の罹患者数が数千人であるのに対して、米国では毎年5万人が罹患し1万人が死亡する疾患である。生命予後とともに嚥下や発生などの機能の温存が重要で、手術療法とともに放射線化学療法が用いられる機会が多いのが特徴的である。近年、中咽頭がんの原因の1つとしてヒトパピローマウイルス(HPV)が同定された後、HPV関連(p16陽性)がんと非関連(p16陰性)がんに大別され、前者は後者に比べて若年者に多く、予後が良いのが特徴であり、罹患者が急増していることで注目されている。

MitraClipは低左心機能(HFrEF)に伴う二次性MR症例に有効(COAPT試験)(解説:許俊鋭 氏)-977

MitraClip僧帽弁形成術の臨床的有効性に関する先行のEVEREST II試験は、僧帽弁逆流(MR)3~4度の症例を対象としたMitraClip僧帽弁形成術と外科的僧帽弁形成術との無作為比較試験(RCT)である。EVEREST II試験の1年後までの経過観察ではMitraClip群のMR軽減効果は低く、MitraClip群では残存MRに対して外科的再修復をより高率に必要とした。しかし、その後の1~5年の経過では両群ともに外科的再修復を必要とした頻度は同程度に低く、死亡率にも有意差はなかったものの、MitraClipの外科手術に対する著明な有効性は示せなかった。

麻疹ウイルスをベクターとしたチクングニアウイルスワクチンの免疫原性・安全性・忍容性(解説:吉田敦氏)-975

チクングニア熱は、蚊媒介感染症として、いまや世界の大多数の地域に広まりつつある感染症である。以前にも増して大規模流行を来すようになっているが、これにはウイルスのエンベロープタンパク質が変異して媒介蚊であるネッタイシマカにより適応できるようになったことと、地球温暖化によってヒトスジシマカの生息域が拡大したことが関与している。チクングニア熱は急性熱性疾患であるが、治療法がなく、関節痛やうつ状態が後遺症として続く。一方、旅行者感染症としてウイルスを持ち帰り、帰国後に温帯地域の蚊に刺咬されることで、温帯地域の蚊がウイルスを保有することが大きな懸念となっている。実際に米国・欧州では媒介蚊が効率よくウイルスを増殖させる能力があることが判明しており、渡航者が増加している現在、その脅威も大きくなっている。このため自国内で伝播した例がないか厳重な監視が続いており、ワクチン開発は急務であるといえる。

免疫再構築症候群(IRIS)による結核発症・悪化の予防にprednisoneが有効(解説:吉田敦氏)-973

HIV感染者において、抗ウイルス療法(ART)開始後に併存している感染症が悪化することを経験するが、これはARTによって免疫再構築が生じることによるとされ、免疫再構築症候群(IRIS)と総称されている。ニューモシスチス肺炎やサイトメガロウイルス感染症、結核、クリプトコッカス髄膜炎が代表的であり、これらの感染症を発症した後にARTを開始する際には、IRISによる悪化ないし発症を少なくするために、感染症治療からある程度の時間をおいてからARTを開始するのがよいとされてきた。

STEMIでの至適DAPT期間は6ヵ月それとも12ヵ月?(解説:上田恭敬氏)-974

第2世代DESによって治療されたSTEMI症例で6ヵ月間イベントがなかった症例を、その時点でDAPTからSAPT(アスピリン単独)へ変更する群とそのままさらに6ヵ月間DAPTを継続する群に無作為に割り付け、その後18ヵ月(PCIからは24ヵ月)までの全死亡、心筋梗塞、血行再建術、脳卒中、出血(TIMI major)の複合頻度を主要評価項目として非劣性が検討された。432症例がSAPT群、438症例がDAPT群に割り付けられた。主要評価項目の発生頻度は、SAPT群で4.8%、DAPT群で6.6%となり、非劣性が示された。

HIV治療の簡素化は本当に可能か?(解説:岡慎一氏)-972

死の病であったエイズ治療の歴史は、抗HIV薬の開発に合わせ変遷してきた。1987年のAZT単剤療法から90年代前半の2剤療法までは、予後の改善はなかった。しかし、1997年以降3剤併用療法になってから、予後が劇的に改善された。少なくともこの20年は、3剤併用療法をゴールデンスタンダードとしてHIVをコントロールしてきた。ところが、今回の論文は、今までの流れに逆行するように、初回治療で2剤療法をスタンダードの3剤療法と比較した無作為割り付け試験である。しかもその2剤は、ドルテグラビル+ラミブジンという飛び切りの新薬というわけでもない。結果は、非劣性が証明された。この試験の結果をもとに、初回治療の第1選択の組み合わせとしてこの2剤が推奨されるようになるかもしれない。しかし、この臨床試験では、ラミブジン耐性ウイルスを持つ患者は除外されていた。危ない結果である。本当に危ない結果である。

予防的低体温療法vs.正常体温管理、6ヵ月後の神経学的転帰を評価(中川原譲二氏)-971

これまでの臨床研究から、重症外傷性脳損傷(traumatic brain injury:TBI)患者に対する予防的低体温療法導入は、脳神経を保護し、長期的な神経学的転帰を改善することが示唆される。本研究(POLAR-RCT)では、重症TBI患者に対する早期の予防的低体温療法の有効性を正常体温管理との比較から確認した。 研究グループは、2010年12月5日~2017年11月10日の期間で、6ヵ国にて院外および救急診療部で重症TBI患者計511例を登録し、予防的低体温療法群(266例)および正常体温管理群(245例)に無作為に割り付けた(追跡期間最終日2018年5月15日)。

BVSにまだ将来性はあるのか?(解説:上田恭敬氏)-970

BVS(Absorb bioresorbable vascular scaffolds)とDES(Xience everolimus-eluting stent)を比較した国際多施設RCTであるABSORB IV試験の結果である。1,296例がBVS群に1,308例がDES群に割り付けられ、主要評価項目を30日でのtarget lesion failure(TLF:cardiac death、target vessel myocardial infarction、ischaemia-driven target lesion revascularisation)、主要副次評価項目を1年でのTLFと狭心症症状として非劣性が検討された。

リバースリモデリングした拡張型心筋症の薬物治療は中止できるのか?(解説:絹川弘一郎氏)-969

高血圧の人に薬を出そうとしたら、「先生、一回飲みはじめたら、やめられないんですよね、それなら最初から飲みません」と言われたことがない医者はいないであろう。サプリメントを山盛り飲んでいても医者の処方薬の副作用が怖いとか言って、前記のような態度を取る人が後を絶たない。それくらい、患者の側はなんとか薬をやめようと考えているのかもしれないが、このTRED-HF試験はそんな患者側の意向に沿ったのではないであろうが、DCMでせっかくリバースリモデリングが得られた薬剤を切ってみたらどうなるかという、勇敢なRCTをやってくれた。実際、DCM患者において完全なリバースリモデリングが得られることも珍しくはないし、無症状になってしまう事例はもっとある。その中で勝手に怠薬した後、半年、1年経って心不全症状が悪化して再受診し、「もう二度とこんなことはしないでね」と言って処方を再開し、ある程度心機能がリバースしてホッとする、などという経験はたくさんではないにせよ片手では済まない。ただし、怠薬するようなアドヒアランスに問題のある患者だからこそ、薬剤をやめた後の自己管理がダメで再発するのだという考え方も一応は成り立つ。しかし、われわれ心不全でない人間がどんな毎日を送っているか一度よく考えてみたらどうであろうか。2~3種類の薬を飲んで普通の人と同じ生活ができるなら、めちゃめちゃ自己管理して薬なしで頑張るのはたいていの人は選択しないであろう。

健常者のアスピリン(解説:後藤信哉氏)-968

日本では薬局で売っている一般薬の価格が著しく高い。米国に旅行するとアスピリン、イブプロフェンなどが著しい安価で購入できる。製薬企業は革新的新薬を開発して短期間に独占的利益を得れば、その後は自社の開発品が価格競争により安価になり市場に普及し、その後さらに安全性が確立されて非処方薬の一般薬になれば著しい社会貢献をしたことになる。日本ではジェネリック、一般薬へのプロセスの壁がまだ高い。本研究では100mgアスピリンとプラセボをバイエルが供給しているほかには企業の関与はないと記載されている。もともと安価な市販薬であっても、「50%の確率で無料で薬をくれる」試験なら私も参加してみたい。服薬遵守率は1年間の錠剤の減りで評価されている。薬が瓶で供給される国ゆえにできる方法である。アスピリンが抗血小板作用を発揮すれば重篤な出血は増える。この事実は心血管病の既往の有無に影響を受けない。アスピリンの心筋梗塞、心血管死亡予防効果は2次予防の症例にて観察され、一部の1次予防の症例でも示唆されている。しかし、本研究のように健常な高齢集団で、必ずしも追跡率が高くはない試験では差異を示すことができなかった。

ダパグリフロジンによる心血管イベントの抑止-RCTとリアルワールド・データとの差異(解説:吉岡成人氏)-967

SGLT2阻害薬の投与によって2型糖尿病における心血管リスクが低下することが、EMPA-REG OUTCOME、CANVAS Programの2つの大規模臨床試験で示されている。それぞれ、SGLT2阻害薬であるエンパグリフロジン、カナグリフロジンが用いられ、心血管イベントの既往者およびハイリスク患者において、心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中を総合して「主要心血管イベント」とした際に、SGLT2阻害薬を使用した患者における統計学的に有意なイベント抑制効果が確認された。さらに、副次評価項目として、アルブミン尿の進展やeGFRの低下をも抑制し、腎保護作用を示唆するデータも示された。

とうとうCONSENSUS試験が古典になる日が来るのか?(解説:絹川弘一郎氏)-966

今年のAHAは豊作であった。Late breakingでDECLARE試験の発表があり、そしてsacubitril/バルサルタン(ARNi:アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)の新たなエビデンスがこのPIONEER-HF試験1)で加わった。2014年にARNiがACE阻害薬とのRCT(PARADIGM-HF試験)2)でHFrEFの予後を改善することが示されたのは衝撃であり、1987年CONSENSUS試験3)以来王座を死守してきたACE阻害薬の牙城が崩れたかに思えた。しかし、FDAの認可基準はあくまでもRAS阻害薬を含むGDMTを4週間以上施行してなお心不全症状の残ったHFrEF患者に対するACE阻害薬またはARBからの切り替え、というものであり、de novoの患者に最初から投与することはできなかった。

Harmony Outcomes試験はGLP-1受容体作動薬のポジショニングに調和をもたらしたのか?(解説:住谷哲氏)-965

GLP-1受容体作動薬を用いた心血管アウトカム試験(CVOTs)はこれまでにELIXA(リキシセナチド)、LEADER(リラグルチド)、SUSTAIN-6(セマグルチド)、そしてEXSCEL(weeklyエキセナチド)の4試験が報告されているので本試験が5試験目になる。これまでの試験の結果についてはすでにメタ解析が報告されており1)、おそらく週1回製剤albiglutideによる本試験を加えた5試験のメタ解析の結果が近日中に報告されると思われる。来年には同じく週1回製剤であるデュラグルチドのREWINDの結果が報告される予定であり、すべての試験を合わせると参加患者は合計50,000人以上になり1つのデータベースを形成すると言ってよい。

過剰処方の解消に薬剤師が一役買った(解説:折笠秀樹氏)-964

薬剤の過剰投与はポリファーマシーとも呼ばれ、日本でも社会問題になっている。とくに、高齢者で問題が大きい。なぜ問題かというと、過剰投与によってさまざまな有害事象が生じるからである。極論としては、薬剤の過剰投与が死因の上位にあるという意見も聞かれる。欧米では「ビアーズ(Beers)基準」が作られ、使用を避けるべき薬剤の一覧表が示されている。薬とお酒を掛けて「Beers」、ビール基準と洒落たのかとも思ったけど、実は「Beers」とは提唱した人の名前らしい。