CLEAR!ジャーナル四天王|page:60

新たなエビデンスを生み続けるMAMS(解説:榎本 裕 氏)-704

STAMPEDE試験といえば、2016年のLancet誌に出た報告が記憶に新しい。未治療の進行前立腺がんに対し、標準的なADTにドセタキセル(DTX)化学療法を6コース追加することで全生存率の有意な改善を示したものである。前年に同様の結果を報告したCHAARTED試験とともに、未治療進行前立腺がんの治療を変容しつつある(本邦では保険適応の問題から、普及にはまだ遠いが)。

急性脳卒中後の頭位、仰臥位 vs.頭部挙上のアウトカムを検討(中川原 譲二 氏)-703

急性脳卒中後の頭位について、仰臥位は脳血流の改善に寄与するが、一方で誤嚥性肺炎のリスクを高めるため、臨床現場ではさまざまな頭位がとられている。オーストラリア・George Institute for Global HealthのCraig S. Anderson氏らは、急性虚血性脳卒中患者のアウトカムが、脳灌流を増加させる仰臥位(背部は水平で顔は上向き)にすることで改善するかどうかを検討したHead Positioning in Acute Stroke Trial(HeadPoST研究)の結果をNEJM誌2017年6月22日号で報告した。

転移性前立腺がんの初期治療の行方は?(解説:榎本 裕 氏)-702

1941年のHuggins and Hodgesの報告以来、転移性前立腺がん治療の中心はアンドロゲン除去療法(ADT)であった。近年、去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)に対する治療薬が次々に登場し、治療戦略が大きく変容しているが、転移性前立腺がんの初期治療に関しては70年以上にわたってほとんど進歩がなかった。第1世代の抗アンドロゲン薬(ビカルタミド、フルタミドなど)を併用するMAB(maximum androgen blockade)療法が広く行われているが、OSに対するベネフィットを示す報告は少ない。

心不全の鉄補充治療において、経口剤ではフェリチンが上昇せず運動耐容能も改善しない(解説:原田 和昌 氏)-701

心不全はしばしば心臓外の臓器に合併症(併存症)を持つ。欧州心不全学会の急性、慢性心不全の診断と治療ガイドライン2012年版には、「ほとんどの併存症は心不全の状態が不良であることや予後不良因子と関係する。したがって貧血など一部の併存症はそれ自体が治療対象となる」と記載された。

敗血症に対する初期治療戦略完了までの時間と院内死亡率の関係(解説:小金丸 博 氏)-700

敗血症は迅速な診断、治療が求められる緊急度の高い感染症である。2013年に米国のニューヨーク州保健局は、敗血症の初期治療戦略として“3時間バンドル”プロトコールの実施を病院に義務付けた。“3時間バンドル”には、(1)1時間以内に広域抗菌薬を投与すること、(2)抗菌薬投与前に血液培養を採取すること、(3)3時間以内に血清乳酸値を測定すること、が含まれる。さらに収縮期血圧が90mmHg未満に低下していたり血清乳酸値が高値の場合は、“6時間バンドル”として急速輸液(30mL/kg)や昇圧剤の投与、血清乳酸値の再測定を求めている。これらの初期治療戦略が敗血症の予後を改善するかは、まだ議論のあるところだった。

アルツハイマー型認知症のセントラルドグマ(解説:岡村 毅 氏)-699

アミロイドが蓄積した無症候高齢者では、将来の認知機能低下が起きやすいことが報告された。将来MMSE得点は低下し、CDRのSum of Boxesは上昇し、ロジカルメモリも低下し、MCIへの進展も多く、FDG-PETでの代謝異常が進行し、海馬は萎縮し、脳室が拡大する。神経学の、そして人類の歴史において重要な論文である。

HER2陰性乳がん術前化学療法後のカペシタビン術後補助療法は生存率を改善する-CREATE-X(JBCRG-04)(解説:矢形 寛 氏)-698

これは、サン・アントニオ乳がんシンポジウム2015で報告された日韓合同第III相臨床試験の結果が論文化されたものである。本学会時には、あまり大きな話題として取り上げられなかったように思われる。それは過去のカペシタビン追加の臨床試験でその有効性が示されてこなかったことと、アジア人のみの報告だったからであろうか。今回正式に論文化されたことで、より注目を浴びてくる可能性はある。 そもそも過去の報告とは根本的に異なる試験であり、適格基準が異なる、トリプルネガティブ乳がんの割合が30%と高い、タキサンなどとの同時併用ではなく逐次投与である、カペシタビンの標準投与量が使われ、6から8サイクルと十分量の投与が行われている、といったことが挙げられる。この結果は今までの標準治療を変えるものである。

前治療歴のあるC型慢性肝炎に対するsofosbuvir、velpatasvir、およびvoxilaprevir療法の検討(解説:中村 郁夫 氏)-697

本論文は、direct-acting antiviral agents(DAA)を含む治療を受けたことのあるC型慢性肝炎の患者を対象として行った2種類の第III相試験(POLARIS-1、POLARIS-4)の結果の報告である。POLARIS-4では、NS5A阻害薬を含まない治療を受けたことのある、遺伝子型1型、2型、3型のHCV患者を対象とし、sofosbuvir(核酸型ポリメラーゼ阻害薬)・velpatasvir(NS5A阻害薬)・voxilaprevir(プロテアーゼ阻害薬)の3剤併用群とsofosbuvir・velpatasvirの2剤併用群に、無作為に1:1に割り付けたうえで、遺伝子型4型の19例を3剤併用群に加えた。その結果、sustained virologic response(SVR)を達成した率は3剤併用群では98%、2剤併用群では90%であった。

カナグリフロジンによる心血管・腎イベントの抑制と下肢切断、骨折の増加(解説:吉岡 成人 氏)-694

SGLT2阻害薬であるエンパグリフロジンが、心血管イベントの既往がある2型糖尿病患者において心血管死、総死亡、さらに腎イベント(顕性腎症の発症、血清クレアチニン値の倍増、腎代替療法の導入、腎疾患による死亡)を抑制するとEMPA-REG OUTCOME試験およびそのサブ解析で示されて以降、カナダ糖尿病学会、米国糖尿病学会の提唱するガイドラインでは、心血管リスクの高い患者におけるSGLT2阻害薬の使用を推奨している。

進行ALK遺伝子陽性肺がんの治療について(解説:小林 英夫 氏)-693

元来、anaplastic lymphomaや炎症性筋線維芽細胞性腫瘍で報告されていた受容体チロシンキナーゼであるALKは、肺がんの数%程度で遺伝子変異が認められ、とりわけ腺がんで検出されやすい。そして、ALK阻害薬は従来の化学療法に比べ、ALK遺伝子を有する肺がんに大きな治療効果をもたらしている。初めて上梓されたクリゾチニブ(ザーコリ)はマルチキナーゼ阻害薬でALK阻害活性も有する薬剤だが、一方、アレクチニブ(アレセンサ)はALKを標的として創薬された二番目のALK阻害薬である。日本肺癌学会編 肺癌診療ガイドライン2016では、ALK遺伝子転座陽性でPS(performance status)2までのIV期非小細胞肺がんに対する一次治療は、アレクチニブ(グレードA)またはクリゾチニブ(グレードB)が推奨されている。

高血圧家族歴を心血管病予防にどう生かすか?(解説:有馬 久富 氏)-695

高血圧は遺伝することがよく知られている。しかし、過去に行われた研究では、問診による家族歴(両親の高血圧の有無)を用いて高血圧の遺伝性が検討されてきた。問診による家族歴は、記憶に基づいているために不正確であることが少なくない。とくに、健診や降圧療法が今ほど普及していなかった時代には、高血圧の診断自体が不正確であったと推測される。したがって、高血圧の遺伝性に関する信頼性の高いエビデンスは非常に限られていた。

雑誌編集者や臨床研究者はCONSORT声明を熟読しておこう(解説:折笠 秀樹 氏)-692

2万920件のRCT(ランダム化比較試験)論文について、バイアスリスク(結論を歪める危険性)を調査した報告である。2011年3月~2014年9月の間に出版された論文に限定した。バイアスリスクは、コクラングループが提案している評価ツールRoBを用いた(現在ではその改訂版であるRoB 2.0 Toolが出ている)。それは、[1]割付順の作成法(Sequence generation)、[2]割付の隠蔵(Allocation concealment)、[3]二重盲検(Blinding of participants and personnel)、[4]アウトカム判定の盲検化(Blinding of outcome assessors)、[5]アウトカムデータの欠測値(Incomplete outcome data)、以上5つのチェック項目から成る。各バイアス項目は、3段階(高High・不明確Unclear・低Low)のリスクで評価される。

ネガティブスタディだが効果予測指標はPD-L1ではない!?(解説:倉原 優 氏)-696

CheckMate026試験は、腫瘍細胞の1%以上がPD-L1を発現している、未治療のIV期非小細胞肺がん患者に対して、初回治療としてのニボルマブ(商品名:オプジーボ)単剤治療とプラチナ併用療法を比較するランダム化比較試験である。ニボルマブは現時点では2次治療で一定の地位を確立している。それにしても、CheckMateと名の付く臨床試験が多いため、一臨床医にはなかなか覚えにくい。

蜂窩織炎の初期治療にMRSAカバーは必要か?(解説:小金丸 博 氏)-691

蜂窩織炎の原因微生物を特定することは一般的に困難であるが、膿瘍形成のない蜂窩織炎の原因菌で最も多いのはA群溶連菌などのβ溶血性レンサ球菌と考えられている。そのため米国感染症学会(IDSA)のガイドラインでは、貫通性の外傷や注射薬物使用者などでない場合、レンサ球菌をターゲットに初期抗菌薬を選択することを推奨している。しかしながら、近年、市中感染型MRSAの増加が問題となっており、蜂窩織炎の初期治療でMRSAをカバーできる抗菌薬を使用すべきか議論になっていた。

出血か、血栓か:それが問題だ!(解説:後藤 信哉 氏)-690

アスピリンは抗血小板薬として、心血管イベント後の2次予防に広く用いられている。安全性の高いアスピリンといえども、抗血小板薬なので重篤な出血イベントを惹起する。2次予防の症例であればアスピリンが惹起する出血よりも、アスピリンにより予防される血栓イベントの数が多いとの過去のランダム化比較試験が、2次予防の症例にアスピリンを使用する根拠であった。ランダム化比較試験に参加する症例は若い。世界は高齢化している。ランダム化比較試験ではメリットのほうが多いとされた2次予防の症例であってもアスピリンを長期服用すれば、ランダム化比較試験ではイベントの確認されていない「高齢者」になる。

肥満高齢者に対するダイエット+(有酸素運動+筋トレ)併用療法はフレイル防止に有効 ?(解説:島田 俊夫 氏)-689

肥満治療をダイエットのみで行えば高齢者では筋肉、骨量の減少を加速し、サルコペニア、オステオペニアが生じやすい。肥満は一般集団では多数の疾患の危険因子となる一方で、高齢者では肥満パラドックスが注目を浴びている。それゆえ過度な減量を避け、食事・運動療法を適宜組み合わせ、体力・筋力温存維持に努めることが健康寿命の延長につながる。本研究はDennis T. Villareal氏らによるNEJM誌2017年5月18日号に掲載された、高齢者肥満治療の重要ポイントを指摘した興味深い論文である。

DASHダイエットは、痛風・高尿酸血症にも有効な「長生きダイエット」!(解説:石上 友章 氏)-688

高血圧は、生活習慣病の代表的な疾患であり、重要な心血管リスクである。本邦では4,000万人が罹患している、国民病といっていい疾患である。生活習慣病というくらいなので、実のところ適切な生活習慣を守れば、血圧を上げることもなく、医師や降圧薬の厄介になる必要もなくなる可能性がある。医療費が増え続けるといっても、その源が、日々の乱れた食生活にあるのであれば、国をあげて節制すれば、医療費も節約できるはずだ。

潰瘍性大腸炎に対する抗MAdCAM-1抗体の有用性-第II相試験(上村 直実 氏)-687

潰瘍性大腸炎(UC)に関しては寛解導入および寛解維持を目的として、5-アミノサリチル酸(5-ASA)、ステロイド、免疫調節薬、抗TNFα薬、血球成分除去療法などによる治療が頻用されている。今回、従来治療に不耐容の中等症~重症活動性UCに対して、粘膜アドレシン細胞接着分子1(MAdCAM-1)を標的とする完全ヒトモノクローナル抗体(抗MAdCAM-1抗体)の有用性を検証した、国際間多施設共同第II相用量設定試験の結果が報告された。

大規模個別患者データに基づくBayes流メタ解析が“非ステロイド性消炎鎮痛薬(COX-2を含む)が総じて急性心筋梗塞発症リスクを増加させる”と報告(解説:島田 俊夫 氏)-685

本論文では、急性心筋梗塞(AMI)発症の既往歴を有する6万1,460例を含む44万6,763例(38万5,303例はコントロール)の信頼できる大規模個別データ(カナダおよび欧州)を対象にAMIを主な評価項目とし、COX-2選択的阻害薬と従来型NSAIDsの使用と非使用者でAMI発症リスク差を検証するためにBayes流メタ解析が行われた。