ランダム化比較試験(RCT)

対象者を2つ以上のグループに無作為に割り付け、それぞれに異なる介入(例:治療薬や治療法)を適用して追跡し、その効果を検証する試験方法。無作為に割り付けることで、バイアスを最小限に抑え、介入の効果を公平かつ正確に比較することができるため、最も信頼性の高い臨床試験とされる。日本語では「無作為化比較試験」とも呼ばれる。

システマティックレビュー

一定の基準や方法論に基づき、ランダム化比較試験(RCT)などの質の高い臨床研究を体系的に収集し、厳密に評価、分析、統合を行う手法。医療や臨床分野における意思決定を支える最上位レベルのエビデンスとされている。

コクラン

医学論文のシステマティックレビューを行う国際的な非営利団体。イギリスに本部を置き、医療分野における意思決定を支えるために、信頼性の高い良質なエビデンスを提供することを目的として活動している。コクランが作成する「コクランレビュー」は、質の高いシステマティックレビューとして国際的に広く評価されており、エビデンスに基づく医療(EBM)の推進に重要な役割を果たしている。

メタアナリシス

システマティックレビューと組み合わせて用いられる統計手法で、複数の研究結果を統合して量的に分析する方法。個々の研究結果を統計的に統合することで、全体的な効果の推定値や傾向を明らかにする。日本語では「メタ解析」や「メタ分析」とも呼ばれる。

ネットワークメタアナリシス

通常のメタアナリシスが2種類の介入(例:治療薬や治療法)の比較に限定されるのに対し、ネットワークメタアナリシスは3種類以上の介入を同時に比較できる解析手法である。直接比較の試験が存在しない場合でも、共通の比較対象を介して間接的に効果の差を推定することが可能であり、複数の治療法の相対的な有効性を包括的に評価できる。

信頼区間(Confidence Interval:CI)

母集団の代表値(例:平均値や割合)を推定するための指標であり、推定値の不確実性を示す範囲を表す。たとえば、95%信頼区間は、同じ母集団から無作為に抽出して計算を100回繰り返した場合、そのうち約95回は母集団の真の平均値がその区間内に含まれることを意味する。信頼区間は推定の精度や信頼性を示す重要な統計指標である。

リスク比(Relative Risk:RR)

曝露群と非曝露群におけるイベントリスク(例:発症率や有害作用)の比率を示す指標。これは、「ある危険因子に曝露した場合、曝露しなかった場合と比較して、アウトカム(例:発症率や有害作用、毒性など)がどれだけ起こりやすいか」を定量的に示す。日本語では「相対危険」とも呼ばれる。

リスク比の計算式は以下の通り:

リスク比 = 「危険因子の曝露群の罹患リスク」 ÷ 「危険因子の非曝露群の罹患リスク」

感度

実際の罹患者を検査で正しく陽性と判定できた割合を示す指標。検査が真に病気を見つける能力を測るものであり、見落とし(偽陰性)の少なさを評価するために用いられる。

感度の計算式  感度 = 真陽性 ÷ (真陽性 + 偽陰性)

特異度

実際に罹患していない人を検査で正しく陰性と判定できた割合を示す指標。検査が健康な人を正確に判定する能力を評価するものであり、過剰診断(偽陽性)の少なさを測るために用いられる。

特異度の計算式  特異度 = 真陰性 ÷ (真陰性 + 偽陽性)

尤度比・陽性尤度比

検査結果が陽性となった人において、実際の罹患者が非罹患者に比べてどの程度陽性である可能性が高いかを示す指標。陽性尤度比は、感度と特異度を組み合わせて算出され、以下の計算式で表される:

陽性尤度比 = 感度 ÷(1 − 特異度)

陽性尤度比の値が大きいほど検査の診断能力が優れているとされ、値が10を超える場合にはとくに有効な検査と判断される。感度や特異度が高いほど陽性尤度比も高くなる。

陰性尤度比

検査結果が陰性となった人において、実際の罹患者が非罹患者に比べてどの程度陰性である可能性が高いかを示す指標。陰性尤度比は、感度と特異度を組み合わせて算出され、以下の計算式で表される:

陰性尤度比 =(1 − 感度)÷ 特異度

陰性尤度比の値が小さいほど検査の診断能力が優れているとされ、値が0.1を下回る場合にはとくに有効な検査と判断される。感度や特異度が高いほど、陰性尤度比は小さな値となる。

異質性

複数の研究(論文)間で結果や方法論におけるばらつきを指す統計用語。異質性が大きい場合、各研究の結果にばらつきが生じやすくなり、全体の結果の解釈が難しくなる。メタアナリシスなどでは、異質性の有無や程度を評価することが重要である。

I2検定

メタアナリシスにおいて、研究間の異質性の程度を百分率(%)で表す指標。I2値が高いほど異質性が大きいことを意味する。一般的には、I2値が50%を超える場合に異質性が中等度以上と判断され、75%を超える場合には異質性が非常に高いとされる。異質性の有無を評価し、メタアナリシスの結果を適切に解釈するための重要な指標である。

累積順位曲線下面積(SUCRA)

ネットワークメタアナリシスにおいて、各治療の相対的な順位を定量的に評価する指標。SUCRA値は0から100%で表され、値が高いほど治療効果が優れていると評価される。治療の効果をランキングする際に、直感的かつ統計的に解釈しやすい基準として用いられる。

オッズ

「あるイベントが起きる確率」と「そのイベントが起きない確率」の比率を指す統計的指標。イベントの起こりやすさを評価する際に用いられる。

オッズは以下の式で表される:

オッズ = あるイベントが起きる確率 ÷ あるイベントが起きない確率

オッズ比

あるイベントの起こりやすさ(オッズ)を2つの群で比較した指標で、因子とイベント発生との関連の強さを示す統計指標。オッズ比が1を超える場合、因子がイベント発生リスクを増加させる可能性を示し、1未満の場合はリスクを減少させる可能性を示す。

コホート研究のオッズ比  オッズ比 = 罹患群のオッズ ÷ 非罹患群のオッズ

症例対象研究のオッズ比  オッズ比 = 曝露群のオッズ ÷ 非曝露群のオッズ

ハザード比(Hazard Ratio:HR)

ハザードとは「危険度」とも言い、ある瞬間におけるイベントの発生率(ハザード率)を指す。ハザード比(HR)は、2つの群間でイベントが発生するリスクの相対的な比率を示す指標であり、イベントが起こるまでの時間に基づいて評価される。

ハザード比が1より大きい場合 → 介入群のイベント発生リスクが対照群より高いことを示し、例えばHR=1.5の場合、「介入群のイベント発生リスクは対照群より50%高い」と解釈される。

ハザード比が1未満の場合 → 介入群のイベント発生リスクが対照群より低いことを示し、例えばHR=0.7の場合、「介入群のイベント発生リスクは対照群より30%低い」と解釈される。

ハザード比は生存時間解析(例:Cox比例ハザードモデル)において頻繁に使用され、治療やリスク因子の影響を時間経過に沿って評価する際に有用である。

標準偏差(Standard Deviation:SD)

データの散らばり(ばらつき)の程度を表す統計指標。標準偏差が大きいほどデータの分布が広がっており、標準偏差が小さいほどデータが平均値の周囲に集中していることを示す。標準偏差は分散の平方根として定義され、データの変動の大きさを定量的に測定するのに用いられる。

p値(p-value)

「probability(確率)」の頭文字をとったもので、帰無仮説が正しいと仮定した場合に、観察されたデータと同程度、またはそれ以上の極端な結果が得られる確率を示す指標。p値は0から1の間の値をとり、一般的にp値が小さいほど帰無仮説を棄却する根拠が強くなる。通常、有意水準(α)と比較し、p < 0.05であれば統計的に有意と判断されることが多い。ただし、p値が小さいことは「効果がある」ことを直接証明するものではなく、慎重な解釈が必要である。

標準誤差(Standard Error:SE)

標本から得られた推定値のばらつきを表す統計指標。母集団の真の値(母平均など)を推定する際に、標本ごとに推定値がどの程度変動するかを示す。標準誤差は標準偏差を標本サイズの平方根で割った値として計算され、標本サイズが大きいほど標準誤差は小さくなる。信頼区間の計算や統計的検定において重要な役割を果たす。

絶対差異(Absolute Difference)

2つの数値の単純な差(絶対値)を表す指標。特に、介入群と対照群のリスク(発生率や平均値など)の直接的な差を示す際に用いられる。絶対差異は、リスク差(Risk Difference:RD)とも呼ばれ、治療や介入の効果を評価する際の重要な指標となる。

コホート研究(Cohort Study)

ある集団(コホート)を、特定の曝露(例:仮説上のリスク因子や介入)を持つ群と持たない群に分類し、一定期間追跡して、両群の疾病の罹患率や死亡率などを比較する研究方法。前向き(プロスペクティブ)コホート研究と後ろ向き(レトロスペクティブ)コホート研究の2種類があり、因果関係の推定やリスク要因の評価に用いられる。

症例対照研究(Case-Control Study)

特定の疾病に罹患した患者群(症例群)と、その疾病に罹患していない集団(対照群)を選出し、過去の曝露歴を比較することで、仮説要因と疾病罹患との関連を推定する研究方法。後ろ向き(レトロスペクティブ)研究の一種であり、希少な疾患や長い潜伏期間を持つ疾患のリスク因子を調査するのに適している。ケースコントロール研究とも呼ばれる。

クラスターランダム化試験

地域や施設などの集団(クラスター)単位で無作為に割り付けを行う試験方法。個々の対象者ではなく、クラスター全体をランダムに介入群と対照群に分けることで、現実の医療や公衆衛生の場面に即した介入評価が可能となる。クラスター間のばらつきを考慮した統計解析が必要となる点が特徴である。

並行群間比較試験

対象者を異なる群に無作為に割り付け、それぞれに異なる介入(例:治療薬や治療法)を適用し、同時に観察を行って有効性や安全性を比較、評価する試験方法。各群が並行して試験を進行するため、交絡因子の影響を抑えつつ、介入の効果を客観的に評価できる。ランダム化比較試験(RCT)において一般的に用いられるデザインの一つである。

Intention to treat (ITT)解析

研究開始時に無作為に割り付けられた介入(例:治療薬や治療法)群と対照群の割付けを、研究終了時まで変更せずに解析を行う方法。介入計画から脱落した対象者や、実際に割り付けられた介入を完遂しなかった対象者も、当初の割付け群に従って分析する。ITT解析は、薬の服用忘れや治療方針の変更などが生じる臨床現場の実態に近い状況での効果評価を可能にし、治療の「実際の有効性(effectiveness)」を反映する利点がある。

Per protocol解析

研究開始時に設定された介入(例:治療薬や治療法)の計画を遵守した対象者のみを解析する方法。割り付けられた治療を適切に受けなかった症例や、脱落した症例は解析から除外される。Per protocol解析は、治療の「理想的な有効性(efficacy)」を評価するのに適しているが、選択バイアスの影響を受けやすい点に注意が必要である。On-treatment解析と同義で用いられることもある。

非劣性試験

新しい介入(例:治療薬や治療法)の有効性が、標準治療や対照群と比較して臨床的に許容される範囲内で劣っていないことを検証する試験方法。非劣性の判断には、非劣性マージン(新しい介入が標準治療と比較して許容できる最大限の劣化範囲)を事前に設定する。解析の結果、両群の信頼区間の上限がこのマージンを超えない場合、新しい介入が対照群と比較して「非劣性である」と判断される。

優越性試験

新しい介入(例:治療薬や治療法)の有効性が、対照群(標準治療やプラセボ)よりも統計学的に有意に優れていることを検証する試験方法。通常、帰無仮説(新しい介入と対照群の有効性に差がない)を棄却し、対立仮説(新しい介入が対照群よりも優れている)を支持することで、優越性が示される。結果の判定には、有意水準(p値)や信頼区間を用いる。

同等性試験

新しい介入(例:治療薬や治療法)の有効性が、対照群(標準治療や既存治療)と統計学的に同等であることを検証する試験方法。同等性の判断には、同等性マージン(対照群と比較して許容できる差の範囲)を事前に設定する。解析の結果、介入群と対照群の信頼区間の上限・下限がこの同等性マージン内に収まる場合、両者の有効性が同等であると判断される。

優越率

ある群の観測値が対照群の観測値を上回る確率を示す指標。主に、2群間の比較において、介入群の結果が対照群よりも優れている割合を評価する際に用いられる。優越率は、治療の有効性や介入の効果を直感的に理解しやすい形で表現するのに適している。

カプランマイヤー法(Kaplan-Meier Method)

イベント発生までの時間を解析するための生存分析の統計手法であり、特に生存期間解析に頻繁に用いられる。カプランマイヤー法は、時間の経過に伴う生存率やイベント発生率を推定し、生存曲線(Kaplan-Meier曲線)として視覚化することができる。

本手法では、時間経過とともに観察される1つの変数(例:生存の有無、疾患の発症の有無)に基づいて分析が行われる。検閲(イベントが発生しないまま観察が終了すること)を適切に考慮できる点が特徴である。

Cox比例ハザードモデル(Cox Proportional Hazards Model)

時間の経過とともに発生するイベント(例:死亡、疾患の発症)に影響を与える要因を解析するための生存分析手法。ハザード関数(イベント発生率)と複数の説明変数との関係をモデル化し、変数ごとのハザード比を推定することで、リスク要因の影響を評価する。Cox比例ハザードモデルの特徴は、ハザード比が時間に依存しない(比例ハザードの仮定)ことにあり、複数の要因を同時に解析できる点である。Cox回帰分析とも呼ばれる。

ランダム効果モデル(Random Effects Model)

メタアナリシスにおいて、研究間の異質性(例:研究環境や対象集団の違い)を考慮して効果を統合する統計手法。各研究の推定値が一定の母集団からのサンプルではなく、それぞれ異なる母集団からの推定値であると仮定し、研究間のばらつきを統計モデルに組み込む点が特徴である。固定効果モデルと比較して、異質性が大きい場合に適した解析方法とされる。

メタ回帰分析(Meta-Regression Analysis)

メタアナリシスにおいて、被験者の背景、研究デザイン、介入条件など、複数の研究間で生じる差異(異質性)に影響を与える要因を解析する統計手法。メタ回帰分析では、各研究の効果サイズを説明変数として、異質性を説明する因子との関係をモデル化し、どの要因が効果のばらつきに寄与しているかを明らかにする。これにより、メタアナリシス全体の結果の解釈がより精密になる。

ロジスティック回帰分析(Logistic Regression Analysis)

いくつかの要因(説明変数)を用いて、結果が2値(例:発症/非発症、成功/失敗など)のいずれかになる確率を予測する統計手法。通常、ロジット関数(対数オッズ)を用いて確率をモデル化し、説明変数と結果の関係を解析する。医療統計では、疾患の発症リスクや治療効果の予測などに広く活用される。