循環器内科/心臓血管外科の海外論文・最新ニュースアーカイブ|page:5

高齢者NSTEMI治療における標準的治療法確立の難しさを示した研究(解説:野間重孝氏)

本研究は英国心臓財団の助成によって行われ、結果は本年9月にロンドンで行われた欧州心臓病学会で発表された。その内容はInterventional Cardiology誌9月号に速報のかたちで掲載された。NEJM誌に掲載の論文が同じ9月に掲載されていること、また本文中にSENIOR-RITAという名称が付いても「はじめに」の部分で簡単に触れられているのみで論文の題名からも外されていることから、戸惑われた方も多かったのではないかと推察する。通常、正式発表の論文は学会発表からいくらか遅れるかたちで出版されるのが普通なのであるが、このあたり、研究グループが本研究成果を大きく報じたいと考えた意図がうかがえる。

末梢動脈疾患でがんリスク増、とくに注意すべき患者は?

 下肢末梢動脈疾患(PAD)に関連したがんリスクの増加が報告されているが、喫煙などの重要な交絡因子が考慮されておらず、追跡期間も10年未満と短い。今回、米国・ジョンズ・ホプキンス大学/久留米大学の野原 正一郎氏らは、ARIC(atherosclerosis risk in communities)研究の参加者を対象に、長期にわたってPADとがん発症の独立した関連を検討した。その結果、症候性PAD・無症候性PADとも交絡因子調整後もがんリスクと有意に関連し、とくに喫煙経験者ではがんリスクが1.4倍、肺がんリスクは2倍以上だった。International Journal of Cardiology誌オンライン版2024年9月19日号に掲載。

厳しい寒さは心筋梗塞リスクを高める

 厳しい寒さは短期的に心筋梗塞(MI)リスクを高めることが、新たな研究で明らかになった。低い気温や寒波がMI発症に与える短期的な影響について検討した、米ハーバード大学のWenli Ni氏らによるこの研究結果は、欧州心臓病学会年次総会(ESC Congress 2024、8月30日~9月2日、英ロンドン)で発表されるとともに、「Journal of the American College of Cardiology(JACC)」に9月1日掲載された。Ni氏は、「寒冷ストレスがかかっている間は特に、急性MIが生じやすい可能性がある」と述べている。  研究グループによると、過去の研究では、外気温が心血管に及ぼす負荷は、高温よりも低温の方が大きいことが明らかにされている。今回、Ni氏らは、より寒冷な地域において低温と寒波が心血管に及ぼす影響を検討するために、スウェーデンのSWEDEHEART登録者12万380人の転帰を追跡した。対象者は、2005年から2019年の寒冷期(10〜3月)にMIにより入院していた。機械学習を用いて1km2単位での日平均気温を推定し、同じ自治体に住む人が経験した日々の気温のパーセンタイルに基づいて、それぞれの自治体ごとの寒さに対する適応度を評価した。寒波は、各自治体の気温分布の10パーセンタイル以下の日平均気温が2日以上続く期間として定義された。低温と寒波の影響は、ラグ(低温や寒波の発生からその影響が現れるまでの時間差)0〜1日(即時)とラグ2〜6日(遅延)に分けて検討した。  その結果、低温になってから2〜6日後に外気温パーセンタイルが1単位低下すると、MI、非ST上昇型MI(NSTEMI)、およびST上昇型MI(STEMI)のリスクがそれぞれ有意に増加し、そのオッズ比は同順で、1.099(95%信頼区間1.057〜1.142)、1.110(同1.060〜1.164)、1.076(同1.004〜1.153)であると推定された。また、到来から2〜6日後の寒波もMI、NSTEMI、STEMIの有意なリスク増加と関連し、オッズ比は同順で1.077(同1.037〜1.120)、1.069(同1.020〜1.119)、1.095(同1.023〜1.172)であった。一方、ラグ0〜1日の低温と寒波は、MIのリスク低下と関連していた。これらの結果は、初発のMIであったかや、MIの既往歴の有無を考慮しても変わらなかった。  Ni氏らは、寒くなってすぐの時点ではMIの発生が減少していた理由について、「気温が下がり始めた当初は、人々が用心して屋内で過ごそうとしたためかもしれない。しかし、そのような行動を持続するのは難しく、数日のうちに外出して極寒の気温に身をさらし、それがMIリスクの上昇を招いたのではないか」との見方を示す。  本論文の付随論評を執筆した、米イェール大学公衆衛生大学院疫学分野のKai Chen氏と米ヒューストン・メソジスト病院心臓病学のKhurram Nasir氏は、気候変動により気温は極端に高くなったり低くなったりし続けていることを踏まえ、「医療システムが心血管の健康に対するこれらの課題を管理し、緩和するのに十分な備えを整えるには、両極端の気温に対処する必要がある」と述べている。

セマグルチドがHFpEF患者の心不全イベントを抑制/Lancet

 駆出率が軽度低下または保たれた心不全(HFpEF)患者の治療において、プラセボと比較してGLP-1受容体作動薬セマグルチドは、心血管死に対する効果は有意ではないものの、心血管死または心不全増悪イベントの複合エンドポイントと心不全増悪イベント単独のリスクを減少させ、忍容性も良好で重篤な有害事象の発現率は相対的に低いことが、米国・ミズーリ大学カンザスシティ校のMikhail N. Kosiborod氏らSELECT, FLOW, STEP-HFpEF, and STEP-HFpEF DM Trial Committees and Investigatorsの検討で示された。研究の成果は、Lancet誌2024年9月7日号で報告された。

新規非複雑病変へのDCB、DESに非劣性示せず/Lancet

 標的血管径を問わず新規の非複雑病変を有する患者において、薬剤コーティングバルーン(DCB)血管形成術とレスキューステント留置を併用する治療戦略は、計計画された薬剤溶出性ステント(DES)留置と比較し、2年後のデバイス指向複合エンドポイント(DoCE)に関して非劣性を示さなかった。中国・第四軍医大学のChao Gao氏らREC-CAGEFREE I Investigatorsが、同国43施設で実施した医師主導の無作為化非盲検非劣性試験「REC-CAGEFREE I試験」の結果を報告した。新規冠動脈病変を有する患者に対するDCB血管形成術の長期的な影響はわかっていない。Lancet誌2024年9月14日号掲載の報告。

コロナワクチン接種後心筋炎とコロナ感染後心筋炎の18ヵ月後予後〜関心はさらに長期的予後に(解説:甲斐久史氏)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、COVID-19 mRNAワクチン接種と抗SARS-CoV-2ウイルス薬の普及、さらには急性期における重症化予防と重症例治療法の確立により、パンデミックの収束を迎え、いまやCOVID-19と共生する時代“Withコロナ時代”となった。今後は、感染者の10〜20%に長期間認められる罹患後症状(PCC:post-COVID-19 condition)をはじめ、未知の後遺症など長期的・超長期的影響が大きな課題となる。その1つが、COVID-19罹患後心筋炎やCOVID-19ワクチン接種後心筋炎である。

インフルワクチンがCVD患者の予後を改善~メタ解析

 心血管疾患患者では、インフルエンザワクチンの接種は全死亡、心血管死および脳卒中の低下と関連していることが、米国・Lehigh Valley Heart and Vascular Institute のRahul Gupta氏らによるシステマティックレビューおよびメタ解析で明らかになった。Cardiology in Review誌2024年9・10月号掲載の報告。  これまでの研究により、インフルエンザの予防接種を受けた高齢者では急性心筋梗塞のリスクが下がる可能性や、急性冠症候群治療中のインフルエンザワクチン接種によって心血管転帰が改善する可能性が報告されるなど、インフルエンザワクチン接種による心保護効果が示唆されている。そこで研究グループは、心血管疾患患者におけるインフルエンザワクチン接種による心血管系疾患の予防効果に関するエビデンスを深めるために、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。

複雑病変へのPCI、OCTガイドvs.血管造影ガイド/Lancet

 複雑病変に対し薬剤溶出ステント(DES)の留置が必要な患者において、光干渉断層撮影(OCT)ガイド下の経皮的冠動脈インターベンション(PCI)は血管造影ガイド下PCIと比較し、1年後の主要有害心血管イベント(MACE)の発生率が有意に低下した。韓国・延世大学校のSung-Jin Hong氏らが、同国20病院で実施した医師主導の無作為化非盲検優越性試験「Optical Coherence Tomography-guided Coronary Intervention in Patients with Complex Lesions trial:OCCUPI試験」の結果を報告した。PCI施行中にOCTは詳細な画像情報を提供するが、こうした画像診断技術の臨床的有用性は不明であった。Lancet誌2024年9月14日号掲載の報告。

急性心筋梗塞による心原性ショック、MCSデバイス使用は有益か/Lancet

 急性心筋梗塞による心原性ショック(AMICS)の患者に対する積極的な経皮的機械的循環補助(MCS)デバイスの使用は、6ヵ月死亡を抑制せず、大出血および血管合併症を増加したことが、ドイツ・ライプチヒ大学ハートセンターのHolger Thiele氏らMCS Collaborator Scientific Groupが行った個別患者データのメタ解析の結果で示された。ただし、低酸素脳症のリスクがないST上昇型心筋梗塞(STEMI)による心原性ショックの患者では、MCS使用後に死亡率の低下が認められた。積極的な経皮的MCSは、死亡への影響に関して相反するエビデンスが示されているにもかかわらず、AMICS治療での使用が増加しているという。

HFpEFに2番目のエビデンスが登場―非ステロイド系MRAの時代が来るのか?(解説:絹川弘一郎氏)

ESC2024はHFpEFの新たなエビデンスの幕開けとなった。HFpEFに対する臨床試験はCHARM-preserved、PEP-CHF、TOPCAT、PARAGONと有意差を検出できず、エビデンスのある薬剤はないという時代が続いた。CHARM-preservedはプラセボ群の一部にACE阻害薬が入っていてなお、プライマリーエンドポイントの有意差0.051と大健闘したものの2003年時点ではmortality benefitがない薬剤なんて顧みられず、PEP-CHFはペリンドプリルは1年後まで順調に予後改善していたのにプラセボ群にACE阻害薬を投与される例が相次ぎ、2年後には予後改善効果消失、TOPCATはロシア、ジョージアの患者のほとんどがおそらくCOPDでイベントが異常に少なく、かつ実薬群に割り付けられてもカンレノ酸を血中で検出できない例がロシア人で多発したなど試験のqualityが低かった、PARAGONではなぜか対照にプラセボでなくARBの高用量を選んでしまうなど、数々の不運または不思議が重なってきた。