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短時間睡眠は女性のインスリン感受性を低下させる

 女性の短時間睡眠はインスリン感受性の低下につながることを示すデータが報告された。睡眠時間が90分短い状態が6週間続くと、空腹時インスリン値やインスリン抵抗性(HOMA-IR)が有意に上昇するという。米コロンビア大学アービング医療センターのFaris M. Zuraikat氏らの研究によるもので、詳細は「Diabetes Care」に11月13日掲載された。 これまでに、睡眠不足が糖代謝に悪影響を及ぼすとする研究結果が複数報告されている。それらの研究の中には、睡眠不足による悪影響は男性よりも女性でより強く現れることを示唆するものもある。そこでZuraikat氏らは、女性の睡眠不足の糖代謝に及ぼす影響に焦点を当てた研究を行った。 研究参加者は、習慣的に1日7~9時間の睡眠を取っている心血管代謝疾患のない20~75歳の女性38人で、うち11人は閉経後女性。研究デザインは無作為化クロスオーバー法とし、短時間睡眠(sleep restriction;SR)条件と十分な睡眠(adequate sleep;AS)条件をそれぞれ6週間継続。SR条件では、リアルワールドで起こりやすい1.5時間の睡眠不足を再現するため、就床時刻を1.5時間遅らせてもらった。実際の睡眠時間はウェアラブルデバイスによってモニタリングされ、SR条件では睡眠時間が1.34±0.04時間短縮されて(P<0.0001)、平均6.2時間であったことが確認された。 ベースライン特性を調整した線形モデルでの解析の結果、SR条件ではAS条件よりも空腹時インスリン値(β=6.8±2.8pmol/L、P=0.016)やHOMA-IR(β=0.30±0.12、P=0.016)がともに有意に高値であり、インスリン抵抗性の亢進が認められた。また、閉経後女性ではより強い影響が生じることが確認された。具体的には、HOMA-IRが全例では約15%の上昇であるのに対して、閉経後女性に限ると約20%の上昇であり、変動幅に有意な交互作用が観察された(閉経前後での交互作用P=0.042)。 交絡因子に体脂肪量を追加した場合、解析結果に有意な違いは認められず、睡眠時間短縮の糖代謝に及ぼす影響が肥満によって媒介される可能性は示されなかった。なお、血糖値に関しては参加者全員、研究期間を通して安定していた。 以上より著者らは、「医師は患者に対して、健康にとって睡眠が重要な役割を果たしていることを教育すべきだろう。特に女性に対しては、睡眠時間を増やすことがインスリン感受性の低下や2型糖尿病発症予防につながり、ひいては健康寿命を延伸する可能性があることを伝える必要がある」と述べている。 コロンビア大学発のリリースによると、成人に推奨される睡眠時間は7~9時間であるが、米国人の約3分の1はこの下限を下回っているという。論文の上席著者である同大学のMarie-Pierre St-Onge氏は、「女性は生涯を通して、出産、子育て、閉経などの要因によって、男性よりも睡眠衛生に影響が及びやすい」と解説。また、このテーマに関連する次のステップとして、「日常的に睡眠時間が不足している人や睡眠時間が変動しやすい生活を送っている人の睡眠パターンを安定化させることで、糖代謝や血糖管理を改善させ得るかを検討する予定」としている。

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古代人のDNAから多発性硬化症の起源が明らかに

 英ケンブリッジ大学およびコペンハーゲン大学(デンマーク)教授のEske Willerslev氏を中心とする国際的な研究グループが、アジアと西ヨーロッパで見つかった中石器時代から青銅器時代までの古代人の遺物のDNA解析により、世界で最大規模の古代人の遺伝子バンクを構築。これを用いて、時代の流れの中で人々の移動とともに遺伝子の変異や疾患などがどのように伝播したのかを明らかにした。この研究結果は、1月10日付の「Nature」に4本の論文として掲載された。 このうち、ケンブリッジ大学動物学分野のWilliam Barrie氏が筆頭著者を務めた1本の論文では、中枢神経系の自己免疫疾患である多発性硬化症(MS)の有病率が、世界的に見て北欧で高い理由の説明となる結果が得られた。 Barrie氏らは、古代人の歯や骨のサンプルを用いたDNAデータと既存の古代人のゲノムデータを組み合わせて作成された、1,600人以上の古代人のDNAプロファイルに中世以降(11〜18世紀)のデンマーク人86人のゲノム解析データを加え、「白人の英国人」を自称する約41万人のUKバイオバンク参加者のDNAデータと比較し、現代人の遺伝子における古代人の遺伝子の影響を調べた。 その結果、MSの発症リスクに関わる遺伝子変異は、約5,000年前に東方からポントスステップ(現在のウクライナ、ロシア南西部、カザフスタン西部の一部にまたがる地域)に移住してきたヤムナ族と呼ばれる牧畜民とともにヨーロッパにもたらされたことが明らかになった。牛や羊などを家畜化していたヤムナ族は、動物を介した感染症罹患の脅威に常にさらされていた。このことを踏まえてWillerslev氏は、「ヤムナ族がヨーロッパに移住した後もMSのリスク遺伝子を受け継いでいたことは、これらの遺伝子が、たとえMSリスクの上昇をもたらすとしても、感染症から身を守る上で有利だったからに違いない」と話す。 Willerslev氏は、「このMSに関する発見は、遠い過去を見る以上のものをもたらす。この知見は、MSの原因に関するわれわれの見方を変え、治療法にも影響を与えるものだ」と強調する。一方、Barrie氏は、「これらの結果はわれわれを驚かせた。MSや他の自己免疫疾患の進化についてのわれわれの理解を大きく飛躍させる結果だ。われわれの祖先のライフスタイルが現代の疾患リスクに及ぼす影響を明らかにすることで、現代人がいかに古代人の免疫システムの影響を受けているかが明確になる」と話している。 4本の研究で明らかにされたそのほかの主な結果は以下の通り。 身長:北欧の人は南欧の人より背の高い傾向があるが、その違いの背景にもヤムナ族の遺伝子が関係している可能性がある。 他の疾患のリスク:南欧の人は古代の農耕民族のDNAを色濃く受け継いでおり、双極性障害のリスクが高い傾向がある一方で、東欧の人が古代人から継承した遺伝子はアルツハイマー病や2型糖尿病の発症リスクを高める可能性がある。 乳糖に対する耐性:初期の人類は、離乳後に牛乳を消化する(牛乳に含まれている乳糖を分解する)ことができなかった。成人での乳糖に対する耐性は、約6,000年前にヨーロッパで獲得された可能性がある。 野菜の摂取:菜食のみで生活する能力と耐性は、おそらく約5,900年前にヨーロッパで獲得された可能性がある。 1本の論文の筆頭著者であるコペンハーゲン大学グローブ研究所のEvan Irving-Pease氏はニュースリリースの中で、「過去1万年にわたるユーラシア大陸の人々のライフスタイルが、現代人の身体的特徴や多くの疾患リスクに関わる遺伝的遺産をもたらしたことは驚くべきことだ」と述べている。■原著論文Allentoft ME, et al. Nature. 2024;625:301-311.Allentoft ME, et al. Nature. 2024;625:329-337.Irving-Pease EK, et al. Nature. 2024;625:312-320.Barrie W, et al. Nature. 2024;625:321-328.

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疲労と日中の過度な眠気、どちらがよりうつ病と関連しているか

 一般集団における疲労と日中の過度な眠気のどちらが、うつ病とより密接に関連しているかを明らかにするため、韓国・蔚山大学校のSoo Hwan Yim氏らは、調査を行った。Sleep & Breathing誌オンライン版2023年12月14日号の報告。 韓国の15の地区で本調査を実施した。日中の過度な眠気、疲労、うつ病の評価には、それぞれエプワース眠気尺度(ESS)、疲労症状の評価尺度(FSS)、こころとからだの質問票(PHQ-9)を用いた。うつ病はPHQ-9スコア10以上と定義し、疲労ありはFSSスコア36以上、日中の過度な眠気ありはESSスコア11以上とした。日中の過度な眠気と疲労との組み合わせにより、4群に分類した。 主な結果は以下のとおり。・調査参加者は2,493人(女性の人数:1,257人)、平均年齢は47.9±0.3歳であった。・うつ病、疲労、日中の過度な眠気の割合は、それぞれ8.4%(210人)、30.8%(767人)、15.3%(382人)であった。・各群におけるうつ病の有病率は、対照群と比較し、以下のとおりであった。【疲労あり、日中の過度な眠気あり】67人、31.9% vs. 7.3%(p<0.001)【疲労あり、日中の過度な眠気なし】71人、33.8% vs. 20.3%(p<0.001)【疲労なし、日中の過度な眠気あり】16人、7.6% vs. 5.8%(p=0.294)【疲労なし、日中の過度な眠気なし】56人、26.7% vs. 66.6%(p<0.001)・共変量で調整した後、疲労なし、日中の過度な眠気なし群を参照としたうつ病のオッズ比は、それぞれ以下のとおりであった。【疲労あり、日中の過度な眠気あり】8.804(95%信頼区間[CI]:5.818~13.132)【疲労あり、日中の過度な眠気なし】3.942(95%CI:2.704~5.747)【疲労なし、日中の過度な眠気あり】2.812(95%CI:1.542~5.131)・2群におけるロジスティック回帰分析では、疲労なし、日中の過度な眠気あり群(参照)と疲労あり、日中の過度な眠気なし群との間におけるうつ病との関連に有意な差は認められなかった(OR:1.399、95%CI:0.760~2.575)。 著者らは「疲労と日中の過度な眠気は、どちらがよりうつ病と密接に関連しているかは不明であったものの、それぞれが独立してうつ病と関連していることが示唆された」としている。

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不規則な入眠覚醒サイクルは認知症リスクを上昇させる?

 入眠と覚醒のサイクルがひどく不規則な人では、より規則的な人に比べて認知症の発症リスクが高い可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。モナシュ大学(オーストラリア)のMatthew Pase氏らによるこの研究結果は、「Neurology」1月23日号に発表された。 Pase氏は、「健康的な睡眠に関する推奨では、1日7~9時間の睡眠時間を確保することばかりに重点が置かれ、規則正しい睡眠スケジュールを維持することはあまり重視されていない」と指摘。「われわれの研究結果は、認知症リスクを回避するために規則正しい睡眠が重要な要素となることを示唆するものだ」と同大学のニュースリリースで述べている。 この研究では、UKバイオバンク参加者8万8,094人(平均年齢62歳、女性56%)を対象に、睡眠の規則性(毎日の入眠覚醒サイクルの一貫性)と認知症発症との関連が検討された。Pase氏らは、参加者が手首に装着するタイプのデバイスで7日にわたって測定した睡眠サイクルの測定値から睡眠規則性指数(sleep regularity index;SRI)を算出した。SRIは毎日の入眠覚醒サイクルの一貫性を示すもので、100であれば毎日の入眠と覚醒が同じ時間であることを、逆に0であれば入眠と覚醒の時間が常に異なることを意味する。睡眠の規則性が最も乱れている人(SRIスコアの5パーセンタイルに位置する人)の平均スコアは41点、最も規則正しい人(SRIスコアの95パーセンタイルに位置する人)の平均スコアは71点、スコアの中央値は60点であった。 中央値7.2年におよぶ追跡期間中に480人が認知症を発症した。解析の結果、SRIが5パーセンタイルの人では、SRIが中央値の人に比べて認知症発症のハザード比が1.53(95%信頼区間1.24〜1.89)であり、認知症リスクの増加が認められた。一方、SRIが95パーセンタイルの人でもハザード比が1.16(同0.89〜1.50)であり、認知症リスクは低下していなかった。 こうした結果を受けて研究グループは、「この結果は、規則正しい入眠覚醒サイクルの便益を得るために、機械のような規則正しさは必要ではないことを意味するものだ」との見方を示している。ただし、この研究では、不規則な睡眠スケジュールと認知症のリスク増大との関連が示されたに過ぎない点に注意が必要だ。 Pase氏は、「不規則な入眠覚醒サイクルは、効果的な睡眠健康の教育に行動療法を組み合わせることで改善できる。今回の知見に基づけば、睡眠スケジュールが乱れている人は、睡眠の規則性を、非常に高いレベルではなく平均的なレベルにまで改善することで、認知症予防の効果を得られる可能性がある。この結果を今後の研究で確認する必要がある」と話している。

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睡眠で認知症予防、良質な睡眠を誘う音楽とは?【外来で役立つ!認知症Topics】第13回

認知症予防の睡眠で注目される「グリンパティック系」多くの病気の予防因子として共通するのが、運動、栄養、休養である。認知症の場合は、これに知的刺激や社会交流が加わる。具体的な予防法に注目すると、運動なら有酸素運動やデュアルタスク、栄養なら地中海食など具体的な目玉項目がある。しかし休養ではそれがなかった印象がある。「そもそも休養とは何か?」も難しいのだが、これは睡眠のことと考えていいだろう。とはいえ、「認知症予防の睡眠とは?」となるとこれというものはなく、いまひとつであった。そこに現れたのが、「グリンパティック系」である。筆者が学生の頃には、代謝過程の老廃物の処分を担うリンパ系器官が脳にはないと教わった。確かに脳には解剖学的にリンパ系はないが、実は同じ役割を担うものがあると判明した。それがグリンパティック系である1)。これは血管周囲の星状膠細胞により形成されたトンネル様構造で、中枢神経系の廃棄物を脳脊髄液と共に除去する系である。アルツハイマー病等の変性疾患に関連する異常蓄積蛋白もこの系で除去される。そして除去は睡眠中に行われることがわかったことが重要だ。だから睡眠不足は悪者蛋白の除去効率を下げることになる。さて疫学的に睡眠時間と認知症発症の関係は注目され、7時間睡眠が最も発症に防御的だとした大規模メタアナリシスも報告されている。ところが、日本人は世界的にみて最も睡眠時間が短く、平均6時間程度とされる。このこともあってか、近年アルツハイマー病予防に関連して、グリンパティック系を軸にした睡眠に注目が集まりつつある。睡眠関連障害と認知症の関係ところで睡眠障害は不眠ばかりでない。たとえばレム睡眠行動障害、睡眠時無呼吸症候群、レストレスレッグス症候群(RLS)などいくつもの病気がある。こうしたさまざまな睡眠関連障害と認知症発症の関係もまた研究され、すでにメタアナリシスもある2)。そしてこれらの睡眠関連障害の多くが認知症発症に関係することが示されている。認知機能低下に関連する要因として代表的なものが、レム睡眠行動障害(リスク比[RR]=1.90、95%信頼区間[CI]=1.23~2.91、I2=0%)、睡眠時無呼吸症候群(RR=1.29、95%CI=1.12~1.48、I2=40%)、ベッドで長時間過ごすこと(RR=1.15、95%CI=1.02~1.30、I2=22%)である。なおレストレスレッグス症候群とは無関係であった。逆に認知症に防御的と思われるものもある。習慣的昼寝(high trend:RR=0.46、95%CI=0.21~1.01、I2=45%)については、有意に効果的な傾向が報告されている。良質な睡眠を誘う音楽さて認知症者における睡眠障害はありふれたものである。たとえば、睡眠の不連続性(中途覚醒)、日中の眠気、睡眠効率の悪さ(寝ている時間/ベッドにいる時間)がアルツハイマー病でみられやすい睡眠障害だとされる。そして症状の進行とともに睡眠・覚醒リズムが乱れ、昼夜逆転パターンに至る例が多い。それだけに睡眠の質を良くするという課題は、認知症当事者と家族、また医療者、ケアスタッフにとっても大切である。普通いわれるのは、就床に先立つ運動や入浴、寝室温度をいくらか低めに設定、適切な明るさの設定などである。これまであまり知られていないが、音楽によるスムーズな入眠への効果も検討されており、効果的だとしたメタアナリシスもある。ところが、「どのような音楽をどのように聴いたら、スムーズな入眠効果が生まれるのか?」はほとんど検討されておらず、エビデンスが乏しい3)。しかし経験論的には以下がポイントだとされる。耳に心地よい音楽歌詞のない音楽自然の音のヒーリングミュージック長調の音楽である。音楽の内容は、クラシックや歌謡曲などではない。チルアウト系、アンビエント・ミュージックなどが代表だが、波の音、雨音など自然で単調なものがいい人もいる。筆者の場合、炭がぱちぱちと燃える音を聴いていると自然に眠りに落ちやすい。さて就床してから睡眠への移行における自律神経の活動ぶりは、スムーズな入眠にとっておそらく生理学的な鍵だろう。ところが確立された所見は、意外なほど少ない。ただ副交感神経の働きが優位になることが重要なのは確かなようだ。睡眠と自律神経という観点から考えたとき、音楽的な規則性と不規則性の調和を意味する「1/fのゆらぎ」の音楽が注目され、これが心地よさを生み出すといわれる。そしてこの種の音楽が副交感神経活動を優位にするとの報告もある。マインドフルネス瞑想も認知症者の睡眠の質を向上させる一方で、現代社会で、ストレスを軽減する方法として、マインドフルネスなど自律神経に注目したものが有名である。つまり副交感神経の働きを高め、交感神経の働きを低下させることで、心身の安定を得ることが基本になる。マインドフルネスのみならず、ヨガ、瞑想、また座禅にも同様の効果があるとされる。これらに共通するのは、ペースド・ブリージング(paced breathing)と呼ばれる「1分間あたり10回以下」のゆったりとした呼吸方法である。この呼吸法によって、横隔膜に至る迷走神経が刺激を受けて、副交感神経の働きが高まるとされる。知的に正常の人はもとより、軽度認知障害や認知症の人でも、この方法は有効だとの報告がある。睡眠に関しては、マインドフルネス瞑想で睡眠の質が向上すると報告したメタアナリシスもある。こうした知見から、呼吸法、副交感神経という観点から、認知症者の不眠改善につながる音楽を追求するのも、これからの治療法になるかと思われる。参考1)Lohela TJ, et al. The glymphatic system: implications for drugs for central nervous system diseases. Nat Rev Drug Discov. 2022;21:763-779.2)Xu W, et al. Sleep problems and risk of all-cause cognitive decline or dementia: an updated systematic review and meta-analysis. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2020;91:236-244.3)Jespersen KV, et al. Music for insomnia in adults. Cochrane Database Syst Rev. 2015;2015:CD010459.

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不眠症の診断治療に関する最新情報~欧州不眠症ガイドライン2023

 2017年以降の不眠症分野の進歩に伴い、欧州不眠症ガイドラインの更新が必要となった。ドイツ・フライブルク大学のDieter Riemann氏らは、改訂されたガイドラインのポイントについて、最新情報を報告した。Journal of Sleep Research誌2023年12月号の報告。 主なポイントは以下のとおり。・不眠症とその併存疾患の診断手順に関する推奨事項は、臨床面接(睡眠状態、病歴)、睡眠アンケートおよび睡眠日誌(身体検査、必要に応じ追加検査)【推奨度A】。・アクチグラフ検査は、不眠症の日常的な評価には推奨されないが【推奨度C】、鑑別診断には役立つ可能性がある【推奨度A】。・睡眠ポリグラフ検査は、他の睡眠障害(周期性四肢運動障害、睡眠関連呼吸障害など)が疑われる場合、治療抵抗性不眠症【推奨度A】およびその他の適応【推奨度B】を評価するために使用する必要がある。・不眠症に対する認知行動療法は、年齢を問わず成人(併存疾患を有する患者も含む)の慢性不眠症の第1選択治療として、対面またはデジタルにて実施されることが推奨される【推奨度A】。・不眠症に対する認知行動療法で十分な効果が得られない場合、薬理学的介入を検討する【推奨度A】。・不眠症の短期(4週間以内)治療には、ベンゾジアゼピン系睡眠薬【推奨度A】、ベンゾジアゼピン受容体作動薬【推奨度A】、daridorexant【推奨度A】、低用量の鎮静性抗うつ薬【推奨度B】が使用可能である。利点と欠点を考慮して、場合により、これら薬剤による長期治療を行うこともある【推奨度B】。・いくつかのケースでは、オレキシン受容体拮抗薬を3ヵ月以上使用することができる【推奨度A】。・徐放性メラトニン製剤は、55歳以上の患者に対し最大3ヵ月間使用可能である【推奨度B】。・抗ヒスタミン薬、抗精神病薬、即放性メラトニン製剤、ラメルテオン、フィトセラピーは、不眠症治療に推奨されない【推奨度A】。・光線療法や運動介入は、不眠症に対する認知行動療法の補助療法として役立つ可能性がある【推奨度B】。

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出勤とテレワークの反復による時差ぼけで心理的ストレス反応が強まる可能性

 出勤日とテレワークの日が混在することによって生じる時差ぼけによって、心理的ストレス反応が強くなる可能性を示唆するデータが報告された。久留米大学の松本悠貴氏らをはじめとする産業医で構成された研究チームによるもので、詳細は「Clocks & Sleep」に10月16日掲載された。 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックとともに、新たな働き方としてテレワークが急速に普及した。テレワークによって、仕事と私生活の区別がつきにくくなることや孤独感を抱きやすくなることなどのため、以前の働き方にはなかったストレスが生じることが報告されている。また、テレワークの日と出勤日が混在している場合には睡眠時間が不規則になり、「ソーシャルジェットラグ(社会的時差ぼけ)」が発生しやすくなるとの指摘もある。 社会的時差ぼけとは、平日と休日の睡眠時間帯が異なることによって、週明けになるとあたかも海外から帰国した直後のような身体的・精神的不調が現れること。松本氏らは、テレワークと出勤の繰り返しによって生じる社会的時差ぼけを、「テレワークジェットラグ(テレワーク時差ぼけ)」と命名。社会的時差ぼけと同様にテレワーク時差ぼけも不調を来す可能性を想定し、オンラインアンケートによる検討を行った。 2021年10~12月に、東京都内にある企業4社の従業員2,971人(日勤者のみ)にアンケートへの協力を依頼。2,032人から回答を得て、過去1カ月以内にテレワークをしていない人や休職をしていた人などを除外して、1,789人(平均年齢43.2±11.3歳、男性68.8%)を解析対象とした(有効回答率60.2%)。出勤日とテレワークの日の就寝時刻と起床時刻の中央の時刻(睡眠中央値)の差が1時間以上ある場合を「テレワーク時差ぼけ」と定義。232人(13.0%)がこれに該当した。 心理的ストレス反応の評価には、「ケスラー6(K6)」という指標を用いた。K6は6項目の質問に対して0~4点で回答し、合計24点満点のスコアで評価する。本研究ではK6スコアが10点以上を「心理的ストレス反応が強い」と定義したところ、265人(14.8%)が該当した。 睡眠の時間帯に着目すると、テレワーク時差ぼけでない群の起床時刻は出勤日、テレワーク日ともに6時30分で、就床時刻は出勤日が0時30分、テレワーク日が23時30分だった。一方のテレワーク時差ぼけ群は、就床時刻はどちらも0時30分で変わらないものの、起床時刻は出勤日が6時30分であるのに対してテレワーク日は8時30分と2時間遅く起床していた。 心理的ストレス反応が強いと判定された人の割合は、テレワーク時差ぼけでない群は13.7%、テレワーク時差ぼけ群では22.0%であり、有意差が認められた(P<0.001)。 次に、結果に影響を及ぼし得る因子〔年齢、性別、テレワークの頻度や場所・期間、同居者の有無、職業、雇用形態、労働時間、仕事の裁量や他者からのサポート状況、通勤時間、飲酒・喫煙・運動習慣、カフェイン摂取量、睡眠時間、不眠症状(アテネ不眠尺度で評価)、仕事以外での電子端末等の使用など〕の影響を調整した上で比較。その結果、テレワーク時差ぼけと心理的ストレス反応の間には有意な関連性が示された〔オッズ比1.80(95%信頼区間1.16~2.79)〕。 著者らは本研究が横断研究であること、および交絡因子として収入や服薬状況が把握されていないことなどを限界点として挙げた上で、「出勤とテレワークが混在する『テレワーク時差ぼけ』が、心理的ストレス反応を増大させている可能性が示された」と結論付け、「労働者の健康を守りながらテレワークという新しい働き方を持続可能なものとするためにも、このトピックに関する縦断研究によって因果関係を確認することが望まれる」と述べている。 なお、時差ぼけによる不調には睡眠時間の長短自体が影響を及ぼしている可能性が考えられるが、本研究では上述のように交絡因子として睡眠時間を調整後にも有意なオッズ比上昇が観察された。この点について論文には、「テレワークの日の起床時刻が出勤日よりも遅くなることによって、起床直後に太陽光に当たる時間が遅くなり、メラトニンなどのホルモン分泌パターンが変動する。そのような変化も、テレワーク時差ぼけによってメンタルヘルス不調が生じる一因ではないか」との考察が加えられている。

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週末の寝だめ、健康への影響は?

 睡眠不足は心血管疾患(CVD)の発生や認知機能の低下、うつ病などさまざまな疾患のリスクとなる。週末のキャッチアップ睡眠は、週末に長時間の睡眠をとることで平日の睡眠不足を補うものであるが、このキャッチアップ睡眠がCVD発生のリスク因子である肥満、高血圧などの発生リスクを低下させたことが報告されている。そこで中国・南京医科大学のHong Zhu氏らの研究グループは週末のキャッチアップ睡眠とCVDの関連を検討した。その結果、平日の睡眠時間が6時間未満の集団において、週末のキャッチアップ睡眠が2時間以上であると、CVD発生のリスクが低下した。本研究結果は、Sleep Health誌オンライン版2023年11月23日号で報告された。 本研究は、2017~18年に実施された米国の国民健康栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey:NHANES)に参加した20歳以上の3,400例を対象とし、週末のキャッチアップ睡眠とCVDの関連を検討した。週末のキャッチアップ睡眠は、週末の睡眠時間が平日より1時間以上長いことと定義した。 主な結果は以下のとおり。・対象3,400例(男性:1,650例、女性:1,750例)のうち、333例(9.8%)がCVDを有していた。・CVDを有している参加者は、CVDを有さない参加者と比べて週末のキャッチアップ睡眠時間が短かった(p<0.01)。・週末のキャッチアップ睡眠がある参加者は、キャッチアップ睡眠のない参加者と比べてCVDの有病率が低かった(p<0.01)。・多変量解析において、週末のキャッチアップ時間は狭心症(p=0.04)、脳卒中(p<0.01)、冠動脈性心疾患(p=0.01)の有病率と関連していた。・平日の睡眠時間が6時間未満の集団では、週末のキャッチアップ睡眠がCVDの有病率の低下と関連し(p<0.01)、この集団において週末のキャッチアップ睡眠時間とCVDの有病率の関連を検討した結果、週末のキャッチアップ睡眠時間が2時間以上であるとCVDの有病率が低下した(p=0.01)。

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座って過ごすことは眠っているよりも心臓の健康に悪い

 心臓の健康にとって、座って過ごすことほど悪いことはないことが、新たな研究で確認された。研究論文の筆頭著者である、英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)スポーツ・運動・健康研究所のJoanna Blodgett氏は、「われわれの研究から得られた大きな収穫は、活動量を少し増やすだけでも心臓の健康に良い影響を与えることができるということと、その強度も重要だということだ」と述べている。Blodgett氏らの研究では、心臓の健康に最も効果的なのは、たとえ数分でも、座って過ごす時間をランニングや早歩きなどの心拍数と呼吸数を上げるような中等度から高強度の運動(moderate to vigorous physical activity;MVPA)に置き換えることであり、立っていることや眠っていることでさえ、座っているよりは良いことが示されたという。この研究結果は、「European Heart Journal」に11月10日掲載された。 心血管疾患は世界の死因の第1位を占める疾患だ。研究グループによると、2021年には3人に1人が心血管疾患により死亡し、1997年以来、世界中で心血管疾患の罹患者数は倍増しているという。 この研究では、Prospective Physical Activity, Sitting, and Sleep(ProPASS)コンソーシアムから6件の研究(5カ国の対象者の総計1万5,253人、平均年齢53.7±9.7歳)のデータを抽出し、5種類の身体活動と6種類の肥満度および心血管代謝の指標との関連を調べた。5種類の身体活動とは、睡眠、座位行動、立位行動、低強度の運動(light intensity physical activity;LIPA)、MVPAで、6種類の指標とは、BMI、ウエスト周囲径、HDLコレステロール(HDL-C)、総コレステロール(TC)とHDL-Cの比(TC/HDL-C比)、トリグリセライド(中性脂肪)、HbA1cであった。対象者は、太ももに装着するウェアラブルデバイスで1日の活動量を測定していた。 対象者は平均して、睡眠に7.7時間、座位行動に10.4時間、立位行動に3.3時間、LIPAに1.5時間、MVPAに1.3時間を費やしていた。解析からは、座位行動と比べた場合に心臓の健康に最も良い影響をもたらすのはMVPAであり、次いで、LIVP、立位行動、睡眠の順であることが明らかになった。また、1日の中に占める座位行動、立位行動、LIPA、睡眠の時間の一部をMVPAに置き換えるだけで、検討した指標の全てが改善することも示された。例えば、BMIが26.5の54歳女性の場合、30分の座位時間をMVPAに置き換えることで、BMIが0.64、ウエスト周囲径が2.5cm、HbA1cが1.33mmol/mol減少した(それぞれ、2.4%、2.7%、3.6%の減少)。心血管代謝を改善させるためにMVPA以外の身体活動をMVPAに置き換えるのに必要な最小の時間には、3.8分(LIPAをMVPAに置き換えることでHbA1cが改善)から12.7分(座位をMVPAに置き換えることで中性脂肪が改善)の幅があった。 本研究に資金を提供した英国心臓財団のアソシエイトメディカルディレクターであるJames Leiper氏は、「運動が心血管の健康に実質的な効果をもたらすことはすでに知られている。今回の研究結果は、毎日のルーチンを少し調整するだけで心筋梗塞や脳卒中の発症リスクを低下させられることを示したもので、励みになる」とコメントしている。 Leiper氏は、「毎日を活動的に過ごすのは、容易なことではない。どのようなものであれ心拍数が上がるような活動を長く楽しみながら続けるには、何らかの変化を加えることが重要となる。電話をかけながら歩く、時計のアラームをセットして1時間おきに立ち上がってスタージャンプをするなどの『運動スナック』を取り入れることは、1日の活動の中に身体活動を取り入れるための良い方法だろう」と述べている。

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妊婦の不眠症に対する認知行動療法の有用性~メタ解析

 妊婦の不眠症を改善するために、第一選択治療として認知行動療法(CBT-I)を用いることは、有用である可能性がある。しかし、フォローアップ時における妊婦に対するCBT-Iのコンポーネント、方法、回数、有効性については、明らかになっていない。中国・香港大学のXingchen Shang氏らは、妊婦に対するCBT-Iの有効性を評価し、効果的な介入のためのコンポーネント、方法、回数を特定するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。その結果、妊婦に対するCBT-Iは、短期的な不眠症改善に有効である可能性が示唆されたものの、長期的な有効性は依然として不明なままであり、今後の長期フォローアップを伴う研究が必要であることを報告した。Sleep Medicine誌2023年12月号の報告。 2023年1月10日までに6つの英語データベース(PubMed、Embase、Cochrane Library、Web of Science、PsycINFO、CINAHL)と4つの中国語データベース(CNKI、WanFang Data、SinoMed、CQVIP)より検索を行った。妊婦に対するCBT-Iについて、不眠症重症度指数(ISI)で測定した不眠症重症度またはピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)で測定した睡眠の質を、アウトカムとして評価したランダム化比較試験(RCT)を対象とした。2人の独立した査読者による選定、データ抽出、品質評価を行った。プール分析には、固定効果モデルまたは変量効果モデルを用いた。サブグループ解析は、各提供タイプと介入期間に基づき実施した。エビデンスの確実性の評価には、GRADEアプローチを用いた。メタ解析が適切でない場合には、ナラティブ分析を行った。主要アウトカムは、不眠症重症度および睡眠の質のスコアの95%信頼区間(CI)との平均差(MD)とした(高スコアほど重症度が高い)。 主な結果は以下のとおり。・選択基準を満たした9件のRCT(978例)をメタ解析に含めた。・研究の内訳は、個人ベース介入6件、グループベース介入3件であり、対面介入5件、デジタル介入3件、電話および電子メール介入3件であった。・妊婦に特有の介入コンポーネントについて検証された研究は、6件であった。・介入直後(1ヵ月未満)および短期(1ヵ月以上6ヵ月未満)のフォローアップにおいて、妊婦に対するCBT-Iは、不眠症の重症度と睡眠の質に対する改善を示した。●介入直後【不眠症重症度】MD:-2.69、95%CI:-3.41~-1.96、p<0.001、エビデンスの質:高【睡眠の質】MD:-2.85、95%CI:-4.73~-0.97、p=0.003、エビデンスの質:中程度●短期フォローアップ【不眠症重症度】MD:-3.69、95%CI:-5.91~-1.47、p=0.001、エビデンスの質:高【睡眠の質】MD:-1.88、95%CI:-2.89~-0.88、p<0.001、エビデンスの質:中程度・2件のRCTでは、中期(6ヵ月以上12ヵ月未満)フォローアップにおいて、不眠症重症度に対する有効性が報告されなかった。・長期(12ヵ月以上)のフォローアップにおいて、不眠症の軽減が認められた報告は1件のみであった。・1件のRCTでは、中期フォローアップでの睡眠の質の改善に対する有効性が報告されておらず、長期フォローアップでも有用性は報告されていなかった。

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ネモリズマブ、結節性痒疹のそう痒・皮膚病変を改善/NEJM

 ネモリズマブ単剤療法はプラセボとの比較において、結節性痒疹のそう痒と皮膚病変を有意に改善したことが、海外第III相二重盲検無作為化比較試験「OLYMPIA 2試験」で示された。結節性痒疹は、慢性の神経免疫疾患であり、重度のそう痒を伴い疾病負荷が大きいとされる。ネモリズマブは、インターロイキン(IL)-31受容体αを標的としたモノクローナル抗体で、結節性痒疹の発症に重要な経路を阻害する。第II相試験では、IL-31を介したシグナル伝達を阻害し、そう痒と皮膚病変の改善、Th2細胞(IL-13)とTh17細胞(IL-17)を介した免疫応答を抑制することが示されていた。本結果は、米国・ジョンズ・ホプキンス大学のShawn G. Kwatra氏らによって、NEJM誌2023年10月26日号で報告された。 OLYMPIA 2試験は、9ヵ国68施設において実施され、18歳以上の中等度~重度の結節性痒疹患者が対象となった。登録は2020年9月~2021年11月に行われた。対象患者は、ネモリズマブ群(初回用量60mg、その後は30mgまたは60mg[ベースライン時の体重[90kg未満または90kg以上]に基づく]を4週ごとに16週間皮下注射)、プラセボ群へ無作為に2対1の割合で割り付けられた。 有効性の主要評価項目は、16週目のPeak Pruritus Numerical Rating Scale(PP-NRS、スコア範囲:0~10点、スコアが高いほど重度)に基づくそう痒の改善(PP-NRSスコアが4点以上低下)と、16週目のInvestigator's Global Assessment(IGA、スコア範囲:0~4点)に基づく奏効(IGAスコア0点[消失]または1点[ほとんど消失]かつベースラインから2点以上低下)であった。 主要な副次評価項目は以下の5つ。(1)4週目のPP-NRSスコアがベースラインから4点以上低下(2)4週目の週間平均PP-NRSスコアが2点未満(3)16週目の週間平均PP-NRSスコアが2点未満(4)4週目のsleep disturbance numerical rating scale(SD-NRS、スコア範囲:0~10点、スコアが高いほど重度)スコアがベースラインから4点以上低下(5)16週目のSD-NRSスコアがベースラインから4点以上低下 主な結果は以下のとおり。・合計274例が無作為化された(ネモリズマブ群183例、プラセボ群91例)。・16週目において、2つの主要評価項目に関して治療効果が示された。・16週目においてそう痒の改善を達成した患者の割合は、ネモリズマブ群56.3%、プラセボ群20.9%であり、ネモリズマブ群が有意に改善した(調整群間差:37.4パーセントポイント[95%信頼区間[CI]:26.3~48.5]、p<0.001)。・16週目においてIGAに基づく奏効を達成した患者の割合も、ネモリズマブ群37.7%、プラセボ群11.0%であり、ネモリズマブ群が有意に改善した(調整群間差:28.5パーセントポイント[95%CI:18.8~38.2]、p<0.001)。・5つの主要な副次評価項目について、いずれもネモリズマブ群が有意に改善した(いずれもp<0.001)。(1)4週目のPP-NRSスコアがベースラインから4点以上低下:41.0% vs.7.7%(2)4週目の週間平均PP-NRSスコアが2点未満:19.7% vs.2.2%(3)16週目の週間平均PP-NRSスコアが2点未満:35.0% vs.7.7%(4)4週目のSD-NRSスコアがベースラインから4点以上低下:37.2% vs.9.9%(5)16週目のSD-NRSスコアがベースラインから4点以上低下:51.9% vs.20.9%・主な有害事象(ネモリズマブ群で5%以上に発現)は、頭痛(ネモリズマブ群6.6%、プラセボ群4.4%)、アトピー性皮膚炎(それぞれ5.5%、0%)であった。

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死亡リスクを低下させる睡眠のとり方、睡眠時間よりも〇〇!?

 睡眠は健康と密接な関係があることが知られているが、研究の多くは睡眠時間に焦点が当てられており、睡眠の規則性と死亡リスクの関係は明らかになっていない。そこで、オーストラリア・Monash UniversityのDaniel P. Windred氏らの研究グループは、英国のUKバイオバンクの6万人超のデータを用いて、睡眠時間および睡眠の規則性と死亡リスクとの関連を検討した。その結果、睡眠時間と睡眠の規則性はいずれも全死亡リスクの予測因子であることが示されたが、睡眠の規則性のほうがより強い予測因子であった。Sleep誌オンライン版2023年9月21日号に掲載の報告。 本研究では、UKバイオバンクに登録された40~69歳のうち、手首に加速度センサーを7日間装着し、データが取得できた6万977人が対象となった。睡眠時間と睡眠の規則性は加速度センサーのデータを基に推定した。対象を睡眠時間と睡眠の規則性でそれぞれ五分位に分類し、第1五分位群(0~20パーセンタイル)に対する第2~5五分位群(20~40、40~60、60~80、80~100パーセンタイル)の全死亡、原因別死亡(がん、心代謝性疾患、その他)のリスクを検討した。Cox比例ハザードモデルを用い、最小限の調整をしたモデル(年齢、性別、民族で調整)と完全調整モデル(最小限の調整をしたモデルに身体活動レベルなどの10因子を追加して調整)の2つのモデルで解析した。 主な結果は以下のとおり。・本研究の対象となった6万977人の平均年齢は62.8歳、平均睡眠時間は6.77時間、平均追跡期間は6.30年であった。・追跡期間中の死亡数は1,859人であった(1,000人年当たり4.3人)。・睡眠の規則性の第2~5五分位群は、最小限の調整をしたモデルおよび完全調整モデルのすべての群で全死亡リスクが有意に低下した(20~48%低下)。・同様に、がん死亡リスク(16~39%低下)、心代謝性疾患による死亡リスク(22~57%低下)もすべての群で有意に低下し、その他の原因による死亡リスクも完全調整モデルの第2五分位群を除くすべての群で有意に低下した。・睡眠時間の第2~5五分位群も、同様にすべての群で全死亡リスクが有意に低下したが(18~31%低下)、がん死亡リスクとの関連はいずれの群でも認められなかった。・赤池情報量基準(AIC)に基づくモデル比較において、睡眠の規則性は睡眠時間よりも全死亡リスクの強い予測因子であった。 本研究結果について、著者らは「死亡リスクの予測において、睡眠時間が重要な役割を果たしていることが確認されたが、睡眠の規則性は睡眠時間よりも強い予測因子であることが明らかになった。睡眠の規則性を向上させるためには、睡眠時間を増やすことよりも、毎日の睡眠時間をそろえることのほうが現実的かもしれない」とまとめた。

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第184回 熟睡を促す音刺激で心機能が向上しうる

熟睡を促す音刺激で心機能が向上しうる生きていくのに睡眠は不可欠で、ぐっすりと眠ることは健康を保つのにとりわけ重要です。より深い眠りに落ちていることを示す脳の活動である徐波(slow wave)を音で増やすことで高齢者の記憶を改善しうることが先立つ研究で示されています1)。また、軽度認知障害(MCI)患者の睡眠中にピンクノイズ※というかすかな音を流したところ徐波が増え、44の単語対を覚える記憶検査成績が改善しました2)。※ピンクノイズ:周波数が高いほどよりもの静か(周波数が1オクターブ上がるごとに音圧が3デシベルずつ下がる)という特性がある音(擦れる木の葉、雨、滝、心拍の音など)。そのピンクノイズがどうやら心臓機能の改善効果も有するらしいことがスイスの連邦工科大学やチューリッヒ大学のチームによる新たな試験で示されました3)。試験に参加した健康な男性18人には睡眠研究所で間を置いて3泊してもらい、そのうちの2泊ではピンクノイズを流し、1泊ではそうしませんでした。寝ている間の被験者の脳の活動、血圧、心臓の活動が記録され、深い睡眠に至ったことを示す合図があった時点から10秒間のピンクノイズが10秒間の間を挟んで4時間繰り返しコンピューターから発せられました。その結果、ピンクノイズが発せられている間は徐波が増え、翌朝の心エコー検査で左心室の伸縮機能の向上が示唆されました。今回の試験の被験者は全員男性で、年齢は30~57歳でした。男性に限ったのは女性に比べてより均一だからです。被験者と同年齢層の女性は睡眠に大きな影響を及ぼす月経周期や閉経があり、今回のような取っ掛かりの試験ではせっかくの効果がそれらの影響で検出できない恐れがありました4)。今後の試験では女性を含めた検討が必要なことを研究者は承知しています。睡眠や心血管の調子の明らかな性差が判明しつつあり、そういう性差を考慮した治療の開始が重要視されるようになっています。ピンクノイズやそれに似た脳刺激手段で将来的には心血管疾患の治療を向上させることができるかもしれません。また、心血管分野の治療のみならず運動選手にとっても意義があると研究者は考えています。ピンクノイズのような徐波睡眠の亢進手技で心機能を改善し、きつい練習や競技の後の回復を早めてより好調にできる可能性があります。研究者らはさらに先を見据えており、ピンクノイズよりもっと強力な刺激で心血管系を上向かせる手段も目指しています。今回の試験の筆頭著者であるStephanie Huwiler氏は試験を指揮したCaroline Lustenberger氏らとともに睡眠刺激の事業EARDREAMを立ち上げています。上述したとおり徐波睡眠を底上げすることは認知機能障害患者の記憶改善効果があるかもしれず、EARDREAMはアルツハイマー病患者の早期診断や睡眠不調を回復させる睡眠亢進手段に取り組んでいます5)。また、アルツハイマー病のみならず今回の成果の臨床応用に向けた開発も目指しています4)。参考1)Papalambros NA, et al. Front Hum Neurosci. 2017;11:109.2)Papalambros NA, et al. Ann Clin Transl Neurol. 2019;6:1191-1201.3)Huwiler S, et al. Eur Heart J. 2023 Oct 05. [Epub ahead of print]4)Increased deep sleep benefits your heart / ETH Zurich5)Startups developing tailored sleep interventions for Alzheimer disease, aquafarming using mycellium technology, regeneration through protein engineering, a vital patient data stream, and revolutionizing open source each win CHF 10,000 / Venture Kick

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労働者の不眠症に対し認知行動療法は有効か?~メタ解析

 不眠症に対する認知行動療法(CBT-I)は、第1選択の治療として推奨されているが、労働者の不眠症に対する有効性は、よくわかっていない。東京医科大学の高野 裕太氏らは、労働者の不眠症状のマネジメントにおけるCBT-Iの有効性を評価するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Sleep Medicine Reviews誌2023年10月号の報告。 3つの電子データベース(PubMed、PsycINFO、Embase)より文献検索を行った。 主な結果は以下のとおり。・21件の研究をメタ解析に含めた。・全体としてCBT-Iは、対照群と比較し、不眠症状の有意な改善が認められた。 ●不眠症重症度(g=-0.91) ●入眠潜時不眠症重症度(g=-0.62) ●中途覚醒不眠症重症度(g=-0.60) ●早朝覚醒不眠症重症度(g=-0.58) ●睡眠効率不眠症重症度(g=0.71)・対照群と比較し、総睡眠時間の改善は認められなかった。・CBT-Iは、対照群と比較し、うつ症状(g=-0.37)、不安症状(g=-0.35)、疲労(g=-0.47)の有意な軽減が認められた。 著者らは、「私たちの研究結果は、CBT-Iは、Webベースおよび対面のいずれにおいても日中労働者の不眠症状のマネジメントに効果的な介入であることが示唆しているが、臨床的に意味のある改善が認められたのは対面でのCBT-Iのみであることに注意することが重要である。なお、交代勤務の労働者に対するCBT-Iの有効性は、判断できなかった」としている。

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閉塞性睡眠時無呼吸のCPAP治療で長引く咳や胸焼けも改善か

 持続陽圧呼吸療法(CPAP)は閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)だけでなく、それに合併することの多い胸焼けや慢性的な咳にも効果がある可能性が、新たな研究で示された。この研究結果は、「ERJ Open Research」に8月31日掲載された。 研究論文の上席著者でアイスランド国立大学病院のThorarinn Gislason氏によると、OSAの患者では、OSAのない人と比べて胃食道逆流現象(GER)を発症するリスクが3倍高いという。しかしGislason氏は、GERがあるからといってOSAの検査を受けるべきだと考えているわけではない。「OSAは、日中の眠気や喘鳴などの呼吸器症状など、さまざまな症状や合併症を伴うことがある。これらの症状があるのなら、OSAの検査を受けることを考慮しても良いかもしれない」と同氏は言う。 OSAは、喉の奥の筋肉の過度な弛緩により気道が狭窄や閉塞を起こすことで生じる。これにより、睡眠中に十分な空気が取り込めなくなり、気道を広げるために目を覚ますが、この覚醒時間は非常に短く、目が覚めたことを忘れてしまっている場合が多い。また、OSAは、いびきや息の詰まり、息切れの原因ともなり、これらの症状が1時間に5~30回、あるいは30回以上のペースで一晩中繰り返される。 このようにコンスタントに眠りが妨げられると、健康にも深刻な影響が及ぶ。OSAは、日中の眠気や心血管の問題、2型糖尿病、肝臓の問題などのリスクを高める可能性が指摘されている。Gislason氏によると、最も効果的なOSAの治療法はCPAPで、「OSAのない人と同じ状態をもたらすため最も有効性が高い」という。 一方、米国肺協会(ALA)のスポークスパーソンを務める米イェール大学医学部臨床准教授のDavid Hill氏は、GERがOSAに関連する理由について、「OSAで気道の閉塞が生じると、閉塞を解消しようと強く呼吸することになる。それによって酸が食道を逆流し、場合によっては肺にまで流れ込むため、GERが悪化する可能性がある。OSAを解消することで呼吸が楽になり、GERの改善が促される」と説明する。 Gislason氏らは今回、アイスランドで中等症~重症のOSAと診断され、CPAPによる治療を開始する822人を対象に研究を行った。研究参加者はCPAP治療の開始前に1泊の睡眠検査を受け、夜間のGERや呼吸器の症状を含む睡眠に関する質問票に回答した。治療開始から2年後にフォローアップ評価が実施され、CPAPに記録されたデータが収集・評価された。フォローアップ評価を完了した対象者738人のうち732人(CPAPを日常的に使用:366人、部分的に使用/非使用:366人)はフォローアップ時にもGERに関する調査に回答していた。 その結果、日常的にCPAPを使用していたOSAの患者では、CPAPの使用頻度が低いか、使用していなかった患者と比べて夜間のGERのリスクが42%(オッズ比0.58、95%信頼区間0.40〜0.86)、喘鳴のリスクが44%(同0.56、0.35〜0.88)低下することが示された。また、GERが起こりにくくなったことで朝の咳のリスクが4倍以上低下し、慢性気管支炎のリスクもほぼ4倍低下していた。 CPAPは睡眠中に上気道を開いた状態に保つため、胃と食道の間の弁が閉じたままになり、胃から酸が漏れ出しにくくなるのではないかと研究グループは考察している。 睡眠専門医でSleepApnea.orgのシニア・メディカル・アドバイザーのJoseph Krainin氏は、「この研究結果は、われわれ睡眠の専門医の多くが経験から知っていることを裏付けるものだ。CPAPによるOSAの治療は胃食道逆流症(GERD)の症状の劇的な改善をもたらし得る」と話す。同氏はまた「この研究は夜間のGERについて調べたものだが、私の経験から、日中のGERも著明に改善する可能性がある」としている。 Hill氏は、OSAの治療では胃酸逆流を軽減するCPAPの効果にも注目すべきだとの考えを示す。同氏は、「GERや胸焼け、長引く咳といった症状を抱えているのであれば、CPAPによってOSAに関連する問題をコントロールしながら、そうした症状にも対処できる可能性がある」と付け加えている。

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1型糖尿病リスクの高い小児、コロナ感染で発症しやすいか/JAMA

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行の時期に、小児で糖尿病の増加が観察されている。ドイツ・ドレスデン工科大学のMarija Lugar氏らは、「GPPAD試験」において、1型糖尿病の遺伝的リスクが高い小児では、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)抗体が検出されなかった場合と比較して、検出された集団は膵島自己抗体の発生率が高く、とくに生後18ヵ月未満でリスクが増大していることを明らかにした。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2023年9月8日号に掲載された。生後4~7ヵ月の幼児を追跡した欧州のコホート研究 GPPADは、欧州の5ヵ国(ドイツ、ポーランド、スウェーデン、ベルギー、英国)の施設が参加した進行中の縦断的コホート研究である(米国・Leona M. and Harry B. Helmsley Charitable Trustなどの助成を受けた)。 この研究では、2018年2月~2021年3月に、1型糖尿病発症の遺伝的リスクが10%以上の生後4~7ヵ月児1,050人(女児517人)を登録したPrimary Oral Insulin Trial(POINT)のデータを用いた。 SARS-CoV-2の感染は、2018年4月~2022年6月に、被験児が2歳になるまでに2~6ヵ月の間隔で行われた追跡調査の受診時にSARS-CoV-2抗体の発現を特定することで確認した。 主要アウトカムは、2つの連続した検体または単一の検体における2つ以上の膵島自己抗体の発現と、1型糖尿病の発症であった。 生後6ヵ月からの抗体測定について、血液検体を保管するバイオバンクの同意が得られた885人(女児441人)を解析の対象とした。膵島自己抗体陽性者の33.3%が1型糖尿病発症 年齢中央値18ヵ月(範囲:6~25)の時点で、170人にSARS-CoV-2抗体の発現を認めた。膵島自己抗体は60人(6.8%)で発現し、このうち6人はSARS-CoV-2抗体陽性と同時に、6人はSARS-CoV-2抗体陽性後の診察時に、膵島自己抗体陽性であった。これら60人の小児は最終受診時まで膵島自己抗体が陽性で、このうち20人(33.3%)が1型糖尿病を発症した。 SARS-CoV-2抗体陽性時の膵島自己抗体発現の、性・年齢・国で補正したハザード比(HR)は3.5(95%信頼区間[CI]:1.6~7.7、p=0.002)であった。また、膵島自己抗体発現の累積リスクは、SARS-CoV-2抗体陰性の場合は2.9%(95%CI:1.8~4.8)であったのに対し、陽性の場合の6ヵ月以内の累積リスクは7.3%(4.2~12.7)だった(p=0.01)。 膵島自己抗体の発生率は、SARS-CoV-2抗体陰性の場合は100人年当たり3.5(95%CI:2.2~5.1)であったのに対し、陽性の場合は同7.8(5.3~19.0)と有意に高かった(p=0.02)。 さらに、SARS-CoV-2抗体陽性の幼児における膵島自己抗体が陽性となるリスクは、生後18~24ヵ月と比較して、生後18ヵ月未満で有意に高かった(HR:5.30、95%CI:1.50~18.30、p=0.009)。 著者は、「膵島自己抗体の発現が、COVID-19の世界的流行の初期における1型糖尿病発症率の急激な上昇の原因とは考えにくいが、将来の1型糖尿病の発症率に関連すると考えられる」とし、「生後12ヵ月ごろに膵島自己抗体の発現がピークに達したが、これは糖尿病原性障害の原因への初期曝露が相対的に多いか、またはこの年齢での膵島自己免疫に対する脆弱性の増加のいずれかを反映すると推測され、本研究はこれらの仮説の評価に道を開くものである」と指摘している。

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睡眠中のアロマセラピー、高齢者の記憶を200%超改善

 高齢者が睡眠中にエッセンシャルオイルの香りに曝露することで、記憶力が大幅に改善したという研究結果が報告された。高齢者の認知機能低下は重要な社会問題であり、安価かつ簡便に家庭内で実施可能な対処法が求められていることから、本研究の手法は非常に有用と考えられた。本研究結果は、米国・カリフォルニア大学アーバイン校のCynthia C. Woo氏らによって、Frontiers in Neuroscience誌2023年7月24日号で報告された。 認知機能障害や認知症のない60~85歳の男女43人を対象とした。睡眠時にエッセンシャルオイルの香りに曝露する群(嗅覚刺激群)、微量の匂い物質の香りに曝露する群(対照群)に1対1の割合で無作為に割り付け、6ヵ月間嗅覚刺激を実施した。嗅覚刺激群は、7種類のエッセンシャルオイルを用いて、毎晩1種類ずつ2時間曝露した。対照群は、同様に微量の匂い物質の香りに曝露した。ベースライン時と6ヵ月後において、神経心理学的評価と機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いた脳機能の解析を行った。記憶機能は、Rey Auditory Verbal Learning Test(RAVLT)を用いて評価した。また、Wechsler Adult Intelligence Scale 3rd edition(WAIS-III)を用いた知能検査も実施した。 主な結果は以下のとおり。・6ヵ月後におけるベースライン時からのRAVLTスコア(第5試行)の変化量(標準偏差)は、対照群が-0.73点(1.74)であったのに対し、嗅覚刺激群は0.92点(1.31)であり、嗅覚刺激群は対照群と比較して226%の有意な改善が認められた(p=0.02)。・知能検査については、両群間に有意差は認められなかった。・嗅覚刺激群は対照群と比較して、左鉤状束※の平均拡散能(mean diffusivity)が有意に増加した(p=0.02)。・ベースライン時の14日間の平均睡眠時間と6ヵ月後における14日間の平均睡眠時間を比較した結果、対照群は3分減少したのに対し、嗅覚刺激群は22分増加した。※ 鉤状束はエピソード記憶、言語、社会的感情処理などの機能を担っていることが示唆されており、加齢やアルツハイマー病によって機能が低下するとされている。

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第175回 コロナ後遺症への抗ウイルス薬パキロビッド長期投与の試験開始

コロナ後遺症への抗ウイルス薬パキロビッド長期投与の試験開始新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後症状(long COVID)を治療しうる手段をいくつかに分類して次々に検討する第II相試験の2つが米国で始まりました1)。それら試験はCOVID-19の長期経過の把握、治療、予防を目指す米国国立衛生研究所(NIH)の取り組みであるResearching COVID to Enhance Recovery(RECOVER)の一環として実施されています。早速始まった2試験の1つはRECOVER-VITAL2)と呼ばれます。ウイルス感染の持続、ウイルスの再活性化、過剰あるいは慢性的な免疫反応や炎症がlong COVIDに寄与し、ウイルスの除去や炎症の抑制をもたらす治療でlong COVIDが改善しうるという仮説の検証を目的としています。RECOVER-VITAL試験でプラセボと対決する治療の先鋒として白羽の矢が立てられたのはファイザーの抗ウイルス薬であるニルマトレルビル・リトナビル(日本での商品名:パキロビッドパック)です。より長期(25日間)の同剤投与によるlong COVID症状改善効果の検討への被験者組み入れはすでに始まっています。RECOVER-VITALとともに始まったRECOVER-NEURO3)という名称のもう1つの試験は遂行機能や注意などのlong COVID絡みの認知機能の低下を改善しうる治療手段の検討を目当てとしています。RECOVER-NEUROで検討される手段はすでに3つが決まっています。1つはインターネットを介した脳トレで、BrainHQと呼ばれます。BrainHQは認知障害の改善手段としてすでに普及しています。もう1つはPASC-Cognitive Recovery(PASC CoRE)と呼ばれ、BrainHQと同様にインターネットを介した脳トレであり、注意や遂行機能を改善する効果があります。3つ目は脳の活動や血流増加を助けることが知られるSoterix Medical社の製品を利用した脳の電気刺激です。同社の経頭蓋直流刺激(tDCS)製品は自宅で簡単にできるように作られています。睡眠や自律神経に注目した2つの試験RECOVER-SLEEPとRECOVER-AUTONOMICも準備段階にあり、間もなく始まります。RECOVER-SLEEPはコロナ感染後に変化した睡眠習慣や寝付きに対処しうる手段を検討します。同試験の一環として過眠や日中の過度の眠気への覚醒促進薬2種の効果がプラセボと比較されます。また、入眠や睡眠の維持の困難などの睡眠障害に睡眠の質を改善する手段が有効かどうかも検討されます。準備段階のもう1つの試験はRECOVER-AUTONOMICと呼ばれ、心拍、呼吸、消化などの生理機能ひとそろいを制御する自律神経系の失調と関連する症状への対処法を調べます。心拍異常、めまい、疲労などの症状を特徴とする体位性頻脈症候群の治療手段いくつかが手始めに検討されます。免疫疾患治療薬とプラセボの比較がその1つで、心拍亢進を伴う慢性心不全の治療薬とプラセボの比較も予定されています。運動できなくなることや疲労への手段を検討する試験も患者や専門家からの意見を取り入れて開発されています。今後次々に始まっていくRECOVER試験はlong COVIDの影響が最も大きい地域を含めて被験者を募っていきます。試験参加施設は自治体と協力してlong COVIDについての理解を促し、RECOVER試験への参加の普及に努めます。効果的な治療や手当てを検討する臨床試験はlong COVIDへの政府の取り組みの肝であり、苦労が絶えない患者やその家族が楽になるように努力していくと米国政府の役員は言っています1)。参考1)NIH launches long COVID clinical trials through RECOVER Initiative, opening enrollment / NIH 2)RECOVER-VITAL試験(ClinivalTrials.gov) 3)RECOVER-NEURO試験(ClinivalTrials.gov)

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ナルコレプシータイプ1、経口OX2受容体作動薬の第II相試験データ/NEJM

 ナルコレプシータイプ1の患者において、経口オレキシン(OX)2受容体選択的作動薬のTAK-994はプラセボと比較して8週間にわたり眠気およびカタプレキシー(情動脱力発作)を大きく改善したが、肝毒性との関連が認められた。フランス・モンペリエ大学のYves Dauvilliers氏らが、北米、欧州およびアジアで実施された第II相無作為化二重盲検プラセボ対照用量設定試験の結果を報告した。ナルコレプシーは、日中の過度の眠気を特徴とするまれで慢性的な中枢神経系の過眠障害で、カタプレキシー、入眠時または出眠時幻覚、睡眠麻痺などを伴うことがある。ナルコレプシーはタイプ1とタイプ2に大別され、タイプ1は視床下部外側野に局在するオレキシン産生ニューロンの著しい欠乏によって引き起こされることが明らかになっていた。NEJM誌2023年7月27日号掲載の報告。平均睡眠潜時をプラセボと比較 研究グループは、睡眠障害国際分類第3版に基づきナルコレプシータイプ1と診断された18~65歳の患者を、TAK-994の30mg群、90mg群、180mg群またはプラセボ群に1対1対1対1の割合に無作為に割り付け、それぞれ1日2回経口投与した。 主要エンドポイントは、覚醒維持検査(Maintenance of Wakefulness Test:MWT)による平均睡眠潜時(入眠に要する時間)(範囲:0~40分、正常:20分以上)のベースラインから8週目までの変化量であった。副次エンドポイントはエプワース眠気尺度(Epworth Sleepiness Scale:ESS)スコア(範囲:0~24、正常:10未満、スコアが高いほど日中の眠気が強いことを示す)の変化量、1週間当たりのカタプレキシー発現頻度、および安全性とした。有効性は認められるも、肝毒性により早期中止 2021年1月16日~2021年9月9日に154例がスクリーニングを受け、うち73例が無作為化され少なくとも1回試験薬を投与された(30mg群17例、90mg群20例、180mg群19例、プラセボ群17例)。 本試験は、後述のように肝毒性が数例に認められたため早期中止となり、主要エンドポイントのデータが入手できたのは41例(56%)であった。 評価可能症例において、MWTによる平均睡眠潜時の8週目までの変化量(最小二乗平均値)は、30mg群23.9分、90mg群27.4分、180mg群32.6分、プラセボ群-2.5分で、プラセボ群との差(最小二乗平均差)はそれぞれ26.4分、29.9分、35.0分であった(すべての比較でp<0.001)。 ESSスコアの8週目までの変化量(最小二乗平均値)は、30mg群-12.2、90mg群-13.5、180mg群-15.1、プラセボ群-2.1で、プラセボ群との差(最小二乗平均差)はそれぞれ-10.1、-11.4、-13.0であった(すべての比較でp<0.001)。8週目のカタプレキシー発現頻度は30mg群0.27、90mg群1.14、180mg群0.88、プラセボ群5.83であった(プラセボに対する発生率比はそれぞれ0.05、0.20、0.15)。 TAK-994投与群56例中44例(79%)に有害事象が認められ、主なものは尿意切迫感または頻尿であった。また、5例でALT値またはAST値の臨床的に重要な上昇を認め、Hy's Law(ALT/ASTの正常値上限の3倍を超える上昇とビリルビンの正常値上限の2倍を超える上昇)の基準を満たす薬物性肝障害が3例認められた。

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急性期うつ病治療における21種の抗うつ薬の睡眠への影響~ネットワークメタ解析

 抗うつ薬による急性期治療中に見られる睡眠関連副作用は、コンプライアンスの低下や寛解を阻害する要因となりうる。中国・北京大学のShuzhe Zhou氏らは、抗うつ薬の睡眠関連副作用の種類、抗うつ薬の用量と睡眠関連副作用との関連を評価するため、本検討を行った。その結果、ほとんどの抗うつ薬において、プラセボと比較し、不眠症または傾眠のリスクが高かった。また、抗うつ薬の用量と睡眠関連副作用との関係は、さまざまであった。結果を踏まえて著者らは、「抗うつ薬による急性期治療中には、睡眠関連副作用の発現に、より注意を払う必要がある」としている。Sleep誌オンライン版2023年7月9日号の報告。 2023年4月までに公表されたうつ病に対する二重盲検ランダム化比較試験をPubMed、Embase、Cochrane Central Register of Controlled Trials、Web of Scienceより検索した。短期間の抗うつ薬単剤療法中の睡眠関連副作用を報告した研究を解析に含めた。ネットワークメタ解析により睡眠関連副作用のオッズ比(OR)を算出した。用量反応性を評価するため、ベイジアンアプローチを用いた。研究間の不均一性の評価には、τ2およびI2統計を用いた。感度分析は、バイアスリスクの高い研究を除いて実施した。 主な結果は以下のとおり。・分析対象は、6万4,696例(216試験)であった。・13種類の抗うつ薬において、プラセボと比較し、傾眠の高いORが確認された。最も高いORが認められた薬剤は、フルボキサミンであった(OR:6.32、95%信頼区間[CI]:3.56~11.21)。・11種類の薬剤は、不眠症リスクが高く、最も高かった薬剤は、reboxetineであった(OR:3.47、95%CI:2.77~4.36)。・傾眠または不眠症との用量反応曲線は、直線形、逆U字形、その他が含まれていた。・研究間に有意な不均一性は認められなかった。・ネットワークメタ解析結果のエビデンスの質は、非常に低い~中程度(GRADE)であった。

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