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自宅の改造が脳卒中患者の自立を助け生存率を高める

 シャワーを浴びる、階段を上るなどの日常的な動作は、脳卒中発症後に後遺症の残った人にとっては危険を伴い得る。しかし、階段に手すりを設置したり、つまずき防止のためにスロープを設置したりといった安全対策を講じることで、多くの人が自立した生活を送れるようになり、早期死亡リスクを低下させられることが新たな研究で確認された。米ワシントン大学公衆衛生研究所のSusan Stark氏らによるこの研究結果は、「Archives of Physical Medicine and Rehabilitation」に5月18日掲載された。 脳卒中患者の8人に1人は退院後1年以内に死亡する。Stark氏は、「脳卒中患者にとって、数週間の入院中のリハビリを経て自宅に戻る移行期は重要だ。自宅の環境は、設備が整った施設とは違って、困難に満ちた場所に見えるだろう」と話す。脳卒中後には筋肉が衰えているため、例えば、洗濯かごからシャツを取り出すなどの簡単な作業にも労力を要する。また、バランス感覚に障害が生じていれば、トイレの使用が困難になり、階段の上り下りは障害物コースのように感じられるかもしれない。このような困難があると、友人や隣人とも疎遠になりがちになり、それが今度は抑うつの原因となる。 Stark氏らは今回の研究で、脳卒中後の患者のコミュニティーへの参加移行プログラム(Community Participation Transition after Stroke;COMPASS)の安全性と有効性を検討した。COMPASSでは、作業療法士が脳卒中患者の自宅を訪問し、高さの低いトイレや手すりのない階段など、自宅の中で患者にとって障害となるものを探し出し、患者の個々のニーズに対応して改造する。また、利用しやすい交通手段を見つけるなど、問題を解決する方法を患者に教えたりもする。 対象者は、入院中にリハビリを受け、退院後は自宅で自立した生活を送ることになっていた50歳以上の脳卒中患者183人。これらの患者は、自宅の改造と作業療法士によりセルフマネジメントの訓練を自宅で4回受ける介入群(85人)と、脳卒中に関する教育を自宅で4回受ける対照群(98人)にランダムに割り付けられた。 その結果、研究期間中に対照群では10人が死亡したのに対し、介入群で死亡した人はいなかったことが明らかになった。また、高度看護施設に入居した対象者の数も、対照群での19人に対し介入群では8人と少なかった。 2021年に脳卒中を発症したDonna Jonesさんは、本研究への参加を通してバランス感覚を取り戻し、自立した生活を送るための新たなスキルを学んだ。また、自宅の改造により、自立した生活を送ることに対する自信を得たという。Jonesさんは、「改造された浴室は、自分の人生が正しい方向に向かっているという希望を与えてくれる。私に授けられた実用的なツールとサービスは、私の新たな人生の基盤になっている。私はこれまでとは違う人生を歩んでいて、それをとても気に入っている」と話す。 Stark氏は、「もっと多くの人を対象にこの介入の効果を検証する必要があり、保険会社を納得させるためには、住宅の改造に関連するコストと改造により節約されるコストを明確にしなければならない。現状では、このコストをカバーできる制度はない」と話す。同氏はさらに、「このプログラムを実施するための最大の障壁は、住宅改造費用を保険会社に払い戻させることだ。500ドル(1ドル160円換算で8万円)の住宅改造で病院や高度看護施設を利用せずに済むのなら、私には何の問題もないように思われる」と付け加えている。

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ASCO2024 レポート 老年腫瘍

レポーター紹介昨今、ASCOで老年腫瘍に関する重要な臨床研究の結果が発表されるようになった。高齢がん患者を対象とする臨床研究の枠組みとしては、(1)高齢がん患者を対象とした治療開発(特定の治療の有用性を検証)に関する臨床試験、(2)特定の因子、とくに高齢者機能評価が予後因子になるか否かを評価する臨床研究、(3)「高齢者機能評価+脆弱性に対するサポート」の有用性を評価する臨床試験に大別されるだろう。ASCO2024では、それぞれの枠組みの中で、日常診療の参考になる臨床研究が多数発表されていた。その中から、興味深い研究を紹介する。転移性膵がんを患う「脆弱な」高齢者を対象としたランダム化比較試験(GIANT study: #40031))近年、高齢者という集団は不均一であり、暦年齢だけで治療方針を決めるべきではない、という認識が浸透しつつあるように思う。とくに欧州では、高齢者という集団を全身状態の良いほうから順番に、fit、vulnerable、frailに分類するという考え方が提唱されている。すなわち、“fit”は、積極的ながん治療の恩恵を受けられるような全身状態の良い患者、“frail”はベストサポーティブケアの適応となるような全身状態の悪い患者、“vulnerable”は、その中間に位置することが提唱されている2)。しかし、それぞれの分類の線引きは定まっておらず、がん種ごと、病態ごとに定義が異なっているのが現状である。米国のECOG-ACRINグループが実施したGIANT試験は、“vulnerable”な高齢者を独自に定義し、GEM+nab-PTX vs.5FU/LV+nal-IRIの有用性を比較したランダム化比較第II相試験である。70歳以上、転移性膵管腺がんを有する、ECOG-PS:0~2かつ高齢者機能評価(生活機能、併存症、認知機能、暦年齢、老年症候群[転倒、失禁])の結果で“vulnerable”な高齢者と判断された患者が本試験に登録された(表1)。登録患者は、ゲムシタビン(1,000mg/m2)とナブパクリタキセル(125mg/m2)を14日ごとに投与するA群および5-フルオロウラシル(2,400mg/m2)、ロイコボリン(400mg/m2)、リポソームイリノテカン(50mg/m2)を14日ごとに投与するB群に無作為に割り付けられた。Primary endpointは全生存期間、secondary endpointsは、無増悪生存期間、奏効割合、有害事象などであった。A群の生存期間中央値を7.7ヵ月、B群を10.7ヵ月(HR:0.72)、片側α:0.10、検出力80%とした場合、予定登録患者数は184例であった。本試験は想定よりも予後が悪すぎたため、第1回目の中間解析で無効中止となった。92施設から176例の患者が登録され、年齢中央値は両群とも77歳。登録はしたものの治療を開始できなかった患者はA群で10.2%、B群で14.8%、1~3コースしか治療ができなかった患者はA群で34.2%、B群で42.7%であった。全生存期間は、A群で4.7ヵ月、B群で4.4ヵ月(HR:1.12、0.76~1.66、p=0.72)であり、無増悪生存期間はA群3.0ヵ月、B群2.4ヵ月であった。Grade3以上の有害事象発生割合は、A群45.6%、B群58.7%であった。残念ながら早期中止となってしまったが、“vulnerable”な高齢者を対象として治療開発を試みた意欲的な試験である。高齢者機能評価を用いて高齢者を分類するという手法を用いた臨床試験は過去にも複数存在3)するが、このタイプの臨床試験では試験結果がnegativeになった場合、「試験治療が適切なのか」という問題以外にも、「そもそも高齢者機能評価を用いた分類方法が適切なのか」という問題がつきまとう。本試験の場合、両群で治療強度を弱め過ぎたのかもしれないという問題と、本試験で定義した“vulnerable”という分類方法が適切ではなかったのではないかという問題が生じる。治療が開始できなかった患者や治療期間が極端に短かった患者が多かったことを踏まえると、本試験で定義した“vulnerable”の大部分が本当は“frail”なのではないかという疑問を持ってしまう。患者の大多数は、認知機能障害(46%)、暦年齢が80歳以上(36%)、併存疾患(31.4%)により“vulnerable”と判断されており、これらの患者は、より慎重に化学療法を実施、またはベストサポーティブケアを提案してもよいのかもしれない。一方、サブグループ解析では、75歳以上と75歳未満の集団の生存曲線に大きな違いはなかったため、やはり暦年齢だけで治療方法を決めるのは避けるべきなのだろう。本試験は早期中止となり、また“vulnerable”な高齢者を定義することの難しさを改めて知ることになったが、このような意欲的な試験のデータが蓄積されていくことで、より適切な集団を設定することができ、その集団に適切な治療を提供できるようになると考えている。画像を拡大する日本発の高齢者機能評価+介入のランダム化比較試験の副次的解析(NEJ041/CS-Lung001: #15024))“vulnerable”な高齢者をどう定義するのか、という議論は以前からある。生理的予備能が乏しい高齢者が全身化学療法などで重篤な有害事象が生じると全身状態が悪化することが予想されるため、重篤な有害事象が生じうる集団を“vulnerable”な高齢者とするという考え方もある。化学療法の毒性を予測するツールで有名なものとして、米国の高齢がん研究グループ(Cancer and Aging Research Group:CARG)が作成したChemo Toxicity Calculator(以下、CARGスコア)がある。CARGスコアは簡単な11項目(年齢、がんの種類、予定されている化学療法の投与量、予定されている化学療法の薬剤数、ヘモグロビン、クレアチニンクリアランス、聴力、転倒、服薬管理、身体活動、社会活動)を評価するだけでGrade3以上の有害事象の出現頻度を予測できるとされている5,6)。CARGスコアは米国では妥当性が検証されており、また正式な手順で翻訳されたCARGスコア日本語版があるため日本でも使用しやすいツールである(当該URLのlanguageをJapaneseにすれば日本語になる)7)。しかし、日本人での有用性が評価されていないこと、また分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬などは予測式を作成する際の対象集団に含まれていなかったことから、その使用には注意が必要であるとされていた。今回、日本発の高齢者機能評価+介入のランダム化比較試験の副次的解析の中で、日本人におけるCARGスコアの有用性が評価された。NEJ041/CS-Lung001は、非小細胞肺がんを患う75歳以上の患者を対象とした、高齢者機能評価+介入の患者満足度における有用性を評価したクラスターランダム化比較試験であり、主たる解析の結果はASCO2023で報告された。1,021例が登録され、そのうち911例がCARGスコアで評価された。CARGスコアは19点満点であり、0~5点を「低い」、6~9点を「中間」、10~19点を「高い」とした場合、米国のデータでは、それぞれのカテゴリーとGrade3以上の有害事象の発生割合に関連がみられたため、CARGスコアは重篤な有害事象を予測できるという結論に至ったが、今回の日本人データではそれらに関連がみられなかった。また、CARGスコアの対象外とされていた分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬を受けている集団でもCARGスコアの有用性を評価したものの、いずれもCARGスコアのカテゴリーと重篤な有害事象に明らかな関連はみられなかった。欧米のKey opinion leaderが提唱しているツールをそのまま日本に流用することなく、日本人データで妥当性を検証し、日本人でのCARGスコアの有用性をきちんと否定するという重要な研究である。CARGスコアの日本語版はCARGのホームページに掲載してもらっているのだが、日本人でも毒性を予測できるか否かの評価がされていなかったため、研究目的以外でのCARGスコアの使用は推奨してこなかった。今回、副次的解析ではあるものの、日本人ではCARGスコアの有用性が示せなかったことは、臨床上重要である。ただし、欧米でもCARGスコアは絶対的なツールではない。実際、「全がん種」を対象として生まれたCARGスコアでは予測精度が低いという理由で、「乳がん」に特化した予測ツールCARG-BC(Breast Cancer)が作成されている8)。このように、それぞれのがん種、人種に特化した予測ツールが望まれており、今後、日本独自の毒性予測ツールが求められる。『高齢者機能評価+脆弱な部分をサポートする診療』モデルの費用対効果分析(#15099))欧米の老年腫瘍ガイドラインでは、高齢者機能評価(Geriatric Assessment:GA)を実施するのは当然であり、「高齢者機能評価+脆弱な部分をサポートする診療」、いわゆるGeriatric Assessment and Management (GAM)の実施までもが推奨されるようになった。これは、世界中で「高齢者機能評価+脆弱な部分をサポートする診療」の有用性を検証するランダム化比較試験が公表されたためである。ただ、それぞれの試験におけるGAMの診療モデルはまったく異なるため、どの診療モデルが最適なのかはわかっていない。このため今回、GAMの有用性を検証したpivotal study 4試験のデータを基に、費用対効果分析が行われた(表2)。これらの試験のGAMモデルを概説すると、(1)The 5C試験は「老年医学の訓練を受けたチームによる電話を用いてフォローアップするモデル」10)、(2)GAIN試験は「老年医学の訓練を受けたチームによる脆弱な部分をサポートする方法を提示するモデル」11)、(3) GAP70+試験は「老年医学の訓練を受けたチームがいない状態でのGA実施および脆弱な部分をサポートする方法を提示するモデル」12)、(4)INTEGERATE試験は「適宜、老年科医にコンサルトしながら診療を行うモデル」13)である。本試験はカナダの研究者が実施したため、カナダの医療費をベースとして、さまざまなシナリオの下でそれぞれの試験における12ヵ月以内の、がん薬物療法に伴う費用、有害事象に伴う費用、入院/救急外来受診に伴う費用、GAM実施に伴う費用を推定し、質調整生存年(Quality-adjusted life years:QALY)当たりの医療費および増分純金銭便益(incremental monetary benefit、INMB)を計算した(INMB=[λ*ΔQALY]-ΔCosts、閾値は50,000ドル)。患者当たりの平均QALYはGAM群で0.577~0.662、通常診療群(GAMを実施しない通常診療)で0.606~0.665、平均総費用は、GAM群で3万1,234~3万9,432ドル、通常診療群で2万9,261~4万1,756ドルであった。がん薬物療法の費用は総費用の46~66%を占めていた。INTEGERATE試験およびGAP70+試験では、INMBが3,975ドルおよび1,383ドルと正の値だったが、GAIN試験、The 5C試験では、INMBの値がそれぞれ-3,492ドル、-2,125ドルと負の値であった。INTEGERATE試験の診療モデル(適宜、老年科医にコンサルトしながら診療を行うモデル)は最も高価なモデルであったが、入院の減少(GAM群での入院/救急外来受診割合:26.6%、通常診療群:40.2%)により費用対効果が良好になったと考察されている。結果の解釈には慎重になる必要がある研究である。すなわち、12ヵ月のみのデータであること、カナダの医療費を基に計算されたものであること、入院/救急外来受診のしやすさは環境によって変わりうることなど、多くのlimitationがある。しかし、それぞれの診療モデルの一長一短は推察できるため、どの診療モデルが自施設に適していそうかの考察には使えると考えている。欧米の老年腫瘍ガイドラインがGAMを推奨しており、また日本老年医学会が発刊した『高齢者総合機能評価(CGA)に基づく診療・ケアガイドライン2024』でも悪性腫瘍を患う患者に高齢者総合機能評価(ほぼGAMと同じ意味)は推奨しているが、これらガイドラインはGAMを推奨しているにもかかわらず、具体的にどのようなモデルを用いればよいかは提示していない。日本では現状、がん治療に携わる老年科医が少ないため、「老年医学の訓練を受けたチームがいない状態でのGA実施および脆弱な部分をサポートする方法を提示するモデル」、すなわちGAP70+モデルが費用対効果の意味でも適しているのかもしれない。しかし、将来的には老年科医と協働して高齢がん患者の診療を進めてゆける環境がつくられることを祈っている。画像を拡大する参考1)Dotan E, et al. A randomized phase II study of gemcitabine and nab-paclitaxel compared with 5-fluorouracil, leucovorin, and liposomal irinotecan in older patients with treatment-naive metastatic pancreatic cancer (GIANT): ECOG-ACRIN EA2186.J Clin Oncol.2024;42:s4002)Ferrat E, et al. Performance of Four Frailty Classifications in Older Patients With Cancer: Prospective Elderly Cancer Patients Cohort Study. J Clin Oncol. 2017;35:766-777.3)Corre R, et al. Use of a Comprehensive Geriatric Assessment for the Management of Elderly Patients With Advanced Non-Small-Cell Lung Cancer: The Phase III Randomized ESOGIA-GFPC-GECP 08-02 Study. J Clin Oncol. 2016;34:1476-1483.4)Furuya N, et al. Geriatric assessment in older patients with non-small cell lung cancer: Insights from a cluster-randomized, phase III trial―ENSURE-GA study (NEJ041/CS-Lung001).J Clin Oncol.2024.42:s15025)Hurria A, et al. Predicting chemotherapy toxicity in older adults with cancer: a prospective multicenter study. J Clin Oncol. 2011;29:3457-3465.6)Hurria A, et al. Validation of a Prediction Tool for Chemotherapy Toxicity in Older Adults With Cancer. J Clin Oncol. 2016;34:2366-2371.7)Cancer and Aging Research Group, Chemo-Toxicity Calculator.8)Magnuson A, et al. Development and Valida39tion of a Risk Tool for Predicting Severe Toxicity in Older Adults Receiving Chemotherapy for Early-Stage Breast Cancer. J Clin Oncol. 2021;39:608-618.9)Selai A, et al.Cost-utility of geriatric assessment (GA) in older adults with cancer: A model-based economic evaluation of four randomized controlled trials (RCTs). J Clin Oncol.2024;42.16:s150910)Puts M , et al. Comprehensive geriatric assessment and management for Canadian elders with Cancer: The 5C study. 2021. J Geriatr Oncol. 2021;12:s40.11)Li D, et al. Geriatric Assessment-Driven Intervention (GAIN) on Chemotherapy-Related Toxic Effects in Older Adults With Cancer: A Randomized Clinical Trial. JAMA Oncol.2021;7:e214158.12)Mohile SG, et al. et al. Evaluation of geriatric assessment and management on the toxic effects of cancer treatment (GAP70+): a cluster-randomised study. Lance. 2021;398:1894-904.13)Soo WK, et al. Integrated Geriatric Assessment and Treatment Effectiveness (INTEGERATE) in older people with cancer starting systemic anticancer treatment in Australia: a multicentre, open-label, randomised controlled trial.Lancet Healthy Longev. 2022;3:e617-e627.

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人間のペニスから初めてマイクロプラスチックを検出

 人間のペニスから7種類のマイクロプラスチックが初めて検出されたことを、米マイアミ大学ミラー医学部のRanjith Ramasamy氏らが、「IJIR: Your Sexual Medicine Journal」に6月19日発表した。この研究では、5点のペニスの組織サンプルのうちの4点でマイクロプラスチックが検出されたという。研究グループは本年5月に人間の精巣から驚くべきレベルのマイクロプラスチックが検出されたことを報告したばかりであった。研究グループは、マイクロプラスチックは主要臓器の細胞や組織に浸潤する可能性があると話している。 Ramasamy氏はCNNの取材に対し、「今回の研究は、人間の心臓の中からマイクロプラスチックが見つかったことを明らかにした先行研究を土台にしている」と述べ、「ペニスは心臓と同様、非常に血管の多い臓器であるため、ペニスからマイクロプラスチックが見つかったことに驚きはなかった」と語っている。 Ramasamy氏らは今回、勃起不全(ED)と診断され、2023年8月から9月の間に陰茎インプラント手術を受けるためにマイアミ大学の病院に入院していた6人の患者から採取したペニスの組織サンプルを用いて、赤外イメージングシステムによる分析を行った。組織サンプルは陰茎体部から採取され、うち5点のサンプルは洗浄済みのガラス器具に保存された。残る1点は、プラスチック容器に保存して対照サンプルとした。 その結果、ガラス器具に保存した5点のサンプルのうちの4点と対照サンプルから7種類のマイクロプラスチックが見つかった。最も多く検出されたのはポリエチレンテレフタレート(PET、47.8%)、次いで多かったのはポリプロピレン(PP、34.7%)であった。また、マイクロプラスチックのサイズは20〜500µmであった。 このような結果を踏まえた上でRamasamy氏は、「今後は、マイクロプラスチックがEDに関係しているのか、病理学的症状を引き起こすレベルはどの程度のものなのか、どのような種類のマイクロプラスチックが病理学的症状を引き起こすのかを明らかにする必要がある」と述べている。 Ramasamy氏は、この研究が「人間の臓器内に異物が存在することについての認識を深め、このテーマをめぐる研究の促進につながる」ことを願っていると付け加えている。同氏はさらに、「われわれは、ペットボトルやプラスチック製の容器から水や食品を摂取することに留意し、今後の研究で病理学的症状を起こし得るレベルが特定されるまでは、そうしたものの使用を制限するよう努めるべきだ」と述べている。 米ニューメキシコ大学薬学部教授のMatthew Campen氏はCNNの取材に対し、「プラスチックが体内の至る所に入り込んでいることを裏付ける興味深い研究だ」と話す。同氏は、「プラスチックは一般的に、人間の体の細胞や化学物質と反応はしないが、勃起や精子の生成に関与する機能を含め、体が正常に機能するためのプロセスに対して物理的に破壊的である可能性はある」と指摘する。 Campen氏は、共著者として参加した人間の精巣に関する研究において、人間の精巣中で検出されたマイクロプラスチックのレベルが、犬の精巣や人間の胎盤で検出されたレベルより3倍高かったことに言及。「われわれは、体内のマイクロプラスチックがもたらし得る脅威にようやく気付き始めたところだ。マイクロプラスチックが不妊症や精巣がん、その他のがんに関与しているのかどうかを明確にするためにも、このテーマに関する研究の急増が必要だ」と述べている。 一方、米国小児科学会(AAP)の食品添加物と子どもの健康に関する政策声明の筆頭著者である、米ニューヨーク大学ランゴンヘルスのLeonardo Trasande氏は、マイクロプラスチックがもたらす脅威が明らかになるまでの間にわれわれがやるべきこととして、「まず、可能な限りステンレスやガラスの容器を使い、プラスチックの使用量を減らすこと。また、乳幼児用の粉ミルクや搾乳した母乳を含め、プラスチック製の容器に入った食品や飲料を電子レンジで温めるのはやめること。さらに、熱により化学物質が溶出する可能性があるので、プラスチックを食器洗浄機に入れないようにすること」とCNNに対して語っている。

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診療科別2024年上半期注目論文5選(呼吸器内科編)

Clarithromycin for early anti-inflammatory responses in community-acquired pneumonia in Greece (ACCESS): a randomised, double-blind, placebo-controlled trialGiamarellos-Bourboulis EJ, et al. Lancet Respir Med. 2024 Apr;12:294-304.<ACCESS試験>:全身性炎症反応を認める市中肺炎においてβラクタム系抗菌薬へのマクロライドの追加は早期臨床反応を改善市中肺炎の治療においてβラクタム系抗菌薬へのマクロライド追加の上乗せ効果については、観察研究で証明されてきました。今回、全身性炎症反応症候群、SOFAスコア2点以上、プロカルシトニン0.25ng/mL以上を有する市中肺炎の入院成人患者を対象として、無作為化比較試験としては初めて、マクロライドの有益性が示されました。Perioperative Nivolumab in Resectable Lung CancerCascone T, et al. N Engl J Med. 2024 May 16;390:1756-1769.<CheckMate 77T試験>:非小細胞肺がんへの術前ニボルマブ併用化学療法+術後ニボルマブ単剤で無イベント生存期間を改善切除可能な非小細胞肺がん患者を対象とした無作為化比較試験で、術前ニボルマブ併用化学療法+術後ニボルマブ単剤投与が、無イベント生存期間を有意に改善することが明らかとなりました。新たな安全性シグナルは認められませんでした。Dupilumab for COPD with Blood Eosinophil Evidence of Type 2 InflammationBhatt SP, et al. N Engl J Med. 2024 May 20.<NOTUS研究>:タイプ2炎症を有するCOPDにおいてデュピルマブで増悪が減少タイプ2炎症を有するCOPD患者に対するヒト型抗ヒトIL-4/13受容体モノクローナル抗体デュピルマブの有効性を評価した二重盲検無作為化比較試験です。末梢血好酸球数300/uL以上のCOPD患者において、デュピルマブはプラセボに比べて中等度または重度の増悪の減少と有意に関連していました。Bisoprolol in Patients With Chronic Obstructive Pulmonary Disease at High Risk of Exacerbation: The BICS Randomized Clinical TrialDevereux G, et al. JAMA. 2024 May 19.<BICS研究>:ハイリスクCOPD患者へのビソプロロールで増悪は減少せずCOPD患者において、β1受容体選択性遮断薬ビソプロロールがCOPD増悪を減少させるかどうかを検証した無作為化比較試験です。増悪リスクの高いCOPD患者において、ビソプロロールによる治療はCOPD増悪を減少させませんでした。しかし、呼吸器系を含む有害事象の増加をビソプロロールで認めることはなく、ビソプロロールの安全性が示されました。Morphine for treatment of cough in idiopathic pulmonary fibrosis (PACIFY COUGH): a prospective, multicentre, randomised, double-blind, placebo-controlled, two-way crossover trialWu Z, et al. Lancet Respir Med. 2024 Apr;12:273-280. <PACIFY COUPH試験>:特発性肺線維症患者においてモルヒネで咳嗽が減少特発性肺線維症(Idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)患者の咳嗽に対する低用量徐放性モルヒネの効果を検証した無作為化比較試験です。モルヒネはプラセボと比較して、客観的覚醒時咳嗽頻度を39%減少させました。この研究は、IPF患者の咳嗽に対するモルヒネの有用性を報告した初めての研究です。

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抗精神病薬誘発性体重増加に対する薬理学的介入〜ネットワークメタ解析

 抗精神病薬誘発性体重増加は、第1世代および第2世代抗精神病薬による治療において重要な問題となるが、しばしば軽視されて、心血管疾患を引き起こす可能性につながる。インド・全インド医科大学のNaveen Chandrashekar Hegde氏らは、抗精神病薬誘発性体重増加に対する利用可能な治療オプションの有効性を評価および比較するため、ネットワークメタ解析を実施した。General Hospital Psychiatry誌オンライン版2024年6月11日号の報告。 MEDLINE/PubMed、Embase、Scopus、Cochraneデータベース、臨床試験レジストリより関連する臨床試験を抽出した。ベースラインからの体重変化に対する介入の全体的な効果をプールするため、ランダム効果ベイジアンネットワークメタ解析を実施した。ネットワークグラフ作成、一貫性モデルの実行、ノード分割分析の実施、SUCRAスコアに従った治療のランク付けを行った。治療期間、ベースライン時の体重、治療戦略を予測変数とし、メタ回帰を行った。エビデンスの確実性に基づき結果を分類した。 主な結果は以下のとおり。・関連する臨床試験は、68件抽出された。・有意な体重減少を示した薬剤および用量は、エフェクトサイズ順に次のとおりであった。●sibutramine 10mg:−8.0kg(−16.0〜−0.21)●メトホルミン 750mg+生活習慣の改善:−7.5kg(−12.0〜−2.8)●トピラマート 200mg:−7.0kg(−10.0〜−3.4)●メトホルミン 750mg:−5.7kg(−9.3〜−2.1)●トピラマート 100mg:−5.7kg(−8.8〜−2.5)●トピラマート 50mg:−5.2kg(−10.0〜−0.57)●リラグルチド 1.8mg:−5.2kg(−10.0〜−0.080)●sibutramine 15mg:−4.5kg(−8.9〜−0.59)●ニザチジン 300mg:−3.0kg(−5.9〜−0.23)●メトホルミン 1,000mg:−2.3kg(−4.6〜−0.0046)・抗精神病薬誘発性体重増加の体重減少に対し、治療期間、ベースライン時の体重、予防と治療戦略の影響は認められなかった。 著者らは、「抗精神病薬誘発性体重増加に対する治療法として、メトホルミン750mg+生活習慣の改善が最も効果的であり、トピラマート200mg、メトホルミン750mg、トピラマート100mgによる治療が中程度の確実性でこれに続くことが確認された」としている。

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第104回  血培ボトル出荷制限が現場に与える影響

ベクトン・ディッキンソン(BD)の血液培養ボトルが出荷制限にわかに信じがたいニュースが飛び込んできました。毎日のように病院で提出される血液培養ボトルが、な、な、なんと出荷制限…!プラスチックボトルの供給が遅延し、少なくとも3ヵ月程度の納期がズレてしまい、しばらくは平時の50%程度になるとのことです(表)。「BD バクテックTM 血液培養ボトル」出荷調整のお知らせとお詫び(第一報)画像を拡大する表. 出荷制限対象製品対象商品は8種類ですが、BD社の血培ボトルを使っている病院も多く、この出荷制限は甚大な影響を与えるでしょう。他社の血培ボトルを採用している病院も、間接的に影響するかもしれないので楽観視はできません。対象を制限せざるを得ない日本感染症学会・日本臨床微生物学会から合同のステートメントが出ています。具体的には、菌血症・敗血症患者への2セット採取は必要とはしつつも、(1)菌血症の陰性化確認は対象を限定(2)1セットでの採取はやむを得ない(3)状態が比較的安定している患者や他の培養検査で原因菌の検索が可能と思われるような患者においては、血液培養の対象からはずすというのが具体案として提案されています。培養陰性化の確認はそこまで数自体が多くないので、現状焼け石に水になるかもしれません。なので、(2)を適用せざるを得ないのかもしれません。喀痰、尿、皮膚軟部組織の膿のように、直接検体が確保できる感染症かどうかも重要かと思います。深部感染症で何が菌血症を起こしているのか想定しにくい場合に、血液培養の優先度を上げていく必要があるでしょう。院内で早急に対応を強いられ、このコラムが出る頃にはある程度スタンスが決まっていると思いますが、今回の件で「どういった症例に血液培養を検査すべきか」「1セットでよいのか」「Candidaや黄色ブドウ球菌の菌血症の陰性確認は必要か」といった議論が進むとよいですね。

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診療科別2024年上半期注目論文5選(循環器内科編)

Microaxial flow pump or standard care in infarct-related cardiogenic shockMøller JE, et al. N Engl J Med 2024;390:1382-1393.<DanGer Shock>:心原性ショックのSTEMI患者で、Impellaは死亡を減らすが合併症を増やす経皮的左室補助装置であるImpellaにより、標準治療に比して全死亡を18%減らすことが示されました。心原性ショックのSTEMI患者は、虚血性心疾患治療に残された課題であっただけに、この肯定的なデータは意義深いと思われます。一方で、重度の出血、四肢虚血、溶血、機器故障、または大動脈弁逆流の悪化などの安全性評価のイベントは4倍に増加しており、この合併症低減がいっそうの普及の鍵となるでしょう。RNA Interference With Zilebesiran for Mild to Moderate Hypertension: The KARDIA-1 Randomized Clinical TrialBakris GL, et al. JAMA. 2024;331:740-749.<KARDIA-1>:zilebesiranをシランと!高血圧治療のゲームチェンジャーとなるか血圧調節の重要な経路であるレニン-アンジオテンシン系の最上流の前駆体であるアンジオテンシノーゲンの肝臓での合成を標的とするRNA干渉治療薬がzilebesiranです。RNA干渉治療薬は「~シラン」と呼称され各領域で開発が進展しており、2023年以降zilebesiranの有効性と安全性が実証する試験結果が続いています。降圧治療のゲームチェンジャーとして心臓病や腎臓病の治療に役立つ可能性が示されました。Long-term outcomes of resynchronization-defibrillation for heart failureSapp JL, et al. N Engl J Med. 2024;390:212-220.<RAFT Long-Term>:心不全患者に対するCRT-DはICDのみに比して心不全患者予後を長期的に改善するNYHAクラスIIまたはIIIのEF<30%でQRS幅広の心不全患者で、CRT-Dによる心臓再同期療法はICD単独よりも中央期間14年にわたる長期追跡においても予後改善を持続することが報告されました。一方で、デバイスまたは手技に関連した合併症発生率が高いことや、CRT-DはICDに対する費用対効果などの課題もあります。Intravascular imaging-guided coronary drug-eluting stent implantation: an updated network meta-analysisStone GW, et al. Lancet. 2024;403:824-837.<Intravascular imaging-guided PCI, メタ解析>:血管内イメージングを用いたPCIの有効性がメタ解析で示されたIVUSやOCTなどの血管内イメージングをガイドにすることで、血管造影のみをガイドにするよりもPCIの安全性と有効性を改善することが報告されました。このメタ解析の素材の各研究は、日本に加えて中国や韓国などアジア諸国からのデータも多く含まれています。血管内イメージングガイド下のPCIは日常臨床で定着し、日本のお家芸ともいえるものです。その領域のエビデンス構築においては日本のイニシアチブを期待します。Randomized Trial for Evaluation in Secondary Prevention Efficacy of Combination Therapy-Statin and Eicosapentaenoic Acid (RESPECT-EPA)Miyauchi K, et al. Circulation. 2024 Jun 14. [Epub ahead of print]<RESPECT-EPA>:日本発のエビデンス、スタチン上乗せのEPA製剤は心血管イベントを減少させるも有意差なし慢性冠動脈疾患でEPA/AA比の低い日本人患者で、スタチンに追加投与の高純度EPAによる心血管イベント再発予防の可能性を検討した試験です。心血管イベントは減少したものの、統計学的に有意に至る差異はありませんでした(HR:0.79、95%CI:0.62~1.00、p=0.055)。冠動脈イベントの複合は、EPA群で有意に少なかったものの、心房細動の新規発症は有意に増加していました。今後の詳細なサブ解析に注目したいところです。

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診療科別2024年上半期注目論文5選(消化器内科編)

Durvalumab plus gemcitabine and cisplatin in advanced biliary tract cancer (TOPAZ-1): patient-reported outcomes from a randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 3 trialBurris HA 3rd, et al. Lancet Oncol. 2024 May;25:626-635.<進行胆道がんGCD療法のQOL>:進行胆道がんにおける1次治療としてGCD療法は忍容される進行胆道がんに対する GCD療法は、良好な治療効果に加え、 QOLに有害な影響を及ぼさないことが示されました。進行胆道がんにおいて、GCD療法が1次治療における第一選択薬として支持される結果となっています。Factors Affecting Nonfunctioning Small Pancreatic Neuroendocrine Neoplasms and Proposed New Treatment StrategiesHijioka S, et al. Clin Gastroenterol Hepatol. 2024;22:1416-1426.<非機能性PNENに対する治療戦略>:PNENは悪性度、サイズによっては経過観察が推奨されるPNENは従来外科的治療が画一的に推奨されてきましたが、その侵襲性の大きさから手術の絶対的な必要性は明らかではありませんでした。本結果により腫瘍の悪性度、サイズによっては経過観察が適切な可能性が示唆されました。Neoadjuvant Immunotherapy in Locally Advanced Mismatch Repair-Deficient Colon CancerChalabi M, et al. N Engl J Med. 2024;390:1949-1958. <NICHE-2 試験>:局所進行dMMR結腸がん腫瘍に対してニボルマブ+イピリムマブによる術前補助療法の有効性が報告されたミスマッチ修復機構欠損(dMMR)腫瘍は、転移のない結腸がん患者の 10~15%に認められます。ニボルマブ+イピリムマブによる術前補助療法により病理学的著効が95%に、病理学的完全奏功が68%に確認されました。dMMR結腸がんに対する術前補助療法は今後の標準治療になる可能性が示唆された結果です。Aspirin for Metabolic Dysfunction-Associated Steatotic Liver Disease Without Cirrhosis: A Randomized Clinical TrialSimon TG, et al. JAMA. 2024;331:920-929.<MASLDに対するアスピリンの有用性>:MASLDへの低用量アスピリンで肝脂肪量が減少基礎研究や観察研究からアスピリンはMASLDの治療薬として有望視されていましたが、この第II相試験により低用量アスピリンが肝脂肪量を有意に減少することが証明されました。臨床的アウトカムの結果も出れば、すぐに臨床に活用できる結果です。Tirzepatide for Metabolic Dysfunction-Associated Steatohepatitis with Liver Fibrosis Loomba R, et al. N Engl J Med. 2024 Jun 8. [Epub ahead of print]<SYNERGY-NASH trial>:線維化F2/F3を伴うMASH患者に対するチルゼパチドの安全性と有効性が証明された第II相試験でGIP/GLP-1のデュアルアゴニストであるチルゼパチドは、すべての容量においてMASH消失効果(15mg群62% vs.プラセボ群10%)、1ステージ以上の線維化改善効果を認めました。すでに市場にある薬での卓越した奏効率であり、今後の第III相試験結果が期待されます。a

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スマホのツールによる顔のスキャンで脳卒中を検出

 救急隊員がスマートフォン(以下、スマホ)のツールを使って患者の顔をスキャンすることで、数秒以内に脳卒中の有無を判定できる可能性のあることが、RMIT大学(オーストラリア)のGuilherme Camargo de Oliveira氏らの研究で示された。人工知能(AI)で駆動するこのツールは、顔の対称性と特定の筋肉の動きを分析し、脳卒中のわずかな兆候を検出することができるという。研究の詳細は、「Computer Methods and Programs in Biomedicine」6月号に掲載された。 脳卒中は、動脈の閉塞により脳への血流が止まったり、血管が破裂して脳内で出血したりすることで発症する。脳卒中の症状には、錯乱、身体の一部または全身の運動コントロールの喪失、言語障害、表情の消失などがある。 De Oliveira氏は、「脳卒中患者に認められる重要な特徴の1つとして、顔の筋肉の動きが通常は片側性となり、左右で異なる動きをすることが挙げられる」と言う。さらに同氏は、「われわれは、笑顔の非対称性に変化があるかどうかを検出できるAIツールと画像処理ツールを手に入れた。こうした非対称性を検出することは、患者の脳卒中を見つける鍵となる」と同大学のニュースリリースの中で付け加えている。 研究グループが、脳卒中を発症した14人の患者と11人の健康な人の動画を用いてこのAIツールの脳卒中検出能を検証したところ、82%の精度で脳卒中を検出できることが示された。この結果について、論文の上席著者でRMIT工学部教授のDinesh Kumar氏は、「われわれのスクリーニングツールは、救急隊員と比較しても遜色のない検出率を示した」と説明している。 Kumar氏は、「われわれは、患者が脳卒中を発症しているかどうかを救急隊員が瞬時に判断し、救急車が患者の自宅から出発する前に病院に情報提供することを可能にするシンプルなスマホのツールを開発した」と話す。ただし、このツールは病院で行われている診断目的の臨床検査の代わりにはならないことをde Oliveira氏らは強調している。それでも、症状から脳卒中発症の可能性を見極めることで、治療が必要な患者の特定につなげることができる可能性がある。 Kumar氏は、「これまでの研究から、救急外来や地域の病院で脳卒中の13%近くが見逃されている一方で、神経学的検査を受けた記録がない患者の65%が未診断の脳卒中を経験していることが示唆されている」と言う。また同氏は、「多くの場合、その兆候は極めて微妙なものだ。その上、ファーストレスポンダーが自分と同じ人種や性別ではない人、特に女性や有色人種の人に対応する場合には、脳卒中の兆候が見逃される可能性が高くなる」と付け加えている。 De Oliveira氏らは、次の段階として、このスマホのツールをアプリとして開発する予定だ。また、同氏らは表情に影響を与える他の脳の状態もこのアプリによって検出できるようにするため、医療従事者と連携していきたいとの意向も示している。Kumar氏は、「われわれは、感度と特異度を可能な限り高めたいと考えており、現在、さらなるデータを使い、脳卒中以外の疾患も考慮したAIツールの開発に向けて取り組んでいるところだ」と話している。

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第222回 結核薬ベダキリンを米国と欧州が本承認

結核薬ベダキリンを米国と欧州が本承認欧米で10年以上前にひとまず許可されたJohnson & Johnsonの結核薬ベダキリン(商品名:サチュロ錠)がそれら地域で本承認にこぎ着けました1,2)。第II相試験で良い結果が得られたことを受けて、米国FDAは10年以上前の2012年に同剤を取り急ぎ承認(accelerated approval)しました。欧州はその2年後の2014年にやはり第II相試験結果に基づいてFDAと同様に同剤を条件付き承認(conditional approval)しています。米国での2012年の承認の際の同剤使用は成人に限られていました。2019年になって12歳以上の小児への使用も許可され、その翌年2020年には5歳以上の小児への使用も認められました。そして今回第III相STREAM Stage 2試験でベダキリンを含む経口薬治療の臨床的有用性(clinical benefit)が示されたことを受けて、米国と欧州の両方で本承認に至りました。2022年にLancet誌に結果が報告されたSTREAM Stage 2試験は7ヵ国の13の病院で実施され、15歳以上のリファンピシン耐性結核患者588例が参加しました3)。76週時点で結核菌が見当たらず(培養検査陰性)、それまでを死なずに無事に過ごした経過良好患者の割合の比較で、ベダキリンを含む経口薬治療群が対照の注射薬治療群に勝りました。経過良好の患者割合は、ベダキリンを含む経口薬治療群では83%、同剤を含まない対照群では71%でした。米国と欧州のどちらも、少なくともリファンピシンとイソニアジドに耐性のある結核菌が原因の肺結核の併用療法(combination therapy)の一環としてベダキリンを使うことを認めています。日本では2018年1月に承認され、同年5月に発売されました4)。いまやベダキリンは世界保健機関(WHO)が推奨する薬剤耐性結核治療の要となっており、ベダキリンを含む経口薬のみの投与が多剤耐性結核患者4例に3例の治療を担っています。昨年Johnson & Johnsonは結核治療普及の取り組みであるStop TB Partnershipがベダキリンの後発医薬品を世界のほとんどの低~中所得国(LMIC)に提供するのを許可しました。また、134のLMICでベダキリンの特許を行使しないとの意向も同社は示しています。参考1)Johnson & Johnson Receives Approval from U.S. FDA and European Commission for SIRTURO? (bedaquiline) / J&J2)FDA Roundup: June 25, 2024 / PRNewswire3)Goodall RL, et al. Lancet. 2022;400:1858-1868.4)新規抗結核薬「サチュロ錠100mg」新発売のお知らせ/ヤンセン

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感情認識・表現療法はCBTよりも慢性疼痛の軽減に効果的

 高齢者の慢性疼痛に対する治療法として、新しいタイプの心理療法が現行の標準的な治療法である認知行動療法(CBT)よりも効果的な可能性のあることが、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)医学部精神医学・生物行動科学のBrandon Yarns氏らが実施したランダム化比較試験(RCT)で示された。米国の退役軍人を対象とした同試験では、CBTを受けた人と比べて感情認識・表現療法(EAET)と呼ばれる治療を受けた人では慢性疼痛が有意に軽減し、軽減効果がより長期にわたって持続したという。詳細は、「JAMA Network Open」に6月13日掲載された。 Yarns氏らによると、CBTは、患者が痛みの引き金となるものを認識し、効果的な方法でそれに対処できるようにするためのエクササイズによって痛みに耐える能力を高める手助けをすることに重点を置いた治療法だ。 一方、2010年代に開発されたEAETは、感情に焦点を当てた治療法という点でCBTとは異なる。EAETは、ストレスに関連した感情が脳による疼痛の知覚に強く影響しているとの考えに基づいた治療法だ。EAETを受ける患者は、ストレスフルな経験に意識を向けるよう促される。ストレスフルな経験には、運転中に他の車が前に割り込んできたといった日常的な出来事も、性的暴行や心的外傷などのより深刻な出来事も含まれる。その目的は、そのような感情を心と体の双方に体験させた上で立ち向かい、それらに対する自分の反応を表出し、最終的には解放することだとYarns氏は説明する。 Yarns氏は、「傷ついたりストレスを感じたりすると、自然に感情的な反応が引き起こされるのものだ。その感情は、怒り、罪悪感、悲しみなどさまざまだ。これらの感情は痛みを伴うため、人はしばしばその感情から目を背けるが、EAETは患者が正直さとセルフコンパッション(自分への慈しみ)を持ちながら難しい感情に向き合うことを助ける」と言う。また、「セラピーで患者は、それまで抱えてきた怒りや痛み、罪悪感を解放することができ、最後にはセルフコンパッションが残る」と説明している。 今回の臨床試験には、慢性疼痛を抱える60~95歳の退役軍人126人(平均年齢71.9歳、男性92%)が登録された。このうちの3分の2以上(69%)は精神疾患の診断歴を有し、また3分の1程度(37%)には心的外傷後ストレス障害(PTSD)があった。 試験では、66人がCBTを受け、残る60人はEAETを受けた。その結果、CBTまたはEAETの治療終了時と6カ月後の時点で、CBT群と比べてEAET群では疼痛軽減の度合いがより大きいことが示された。治療終了時に臨床的に有意と考えられる30%以上の疼痛軽減を報告した対象者の割合は、EAET群で63%であったのに対し、CBT群ではわずか17%であった。また、治療から6カ月時点で疼痛の軽減が持続していた人の割合は、CBT群の14%に対してEAET群では41%とより高かった。さらにEAET群では、不安や抑うつ、PTSD、生活満足度の面でもより大きな改善効果を報告していたとYarns氏らは付け加えている。 Yarns氏は、「慢性疼痛を抱える人のほとんどは、心理療法を受けることなど考えもしない。彼らが考えるのは、薬や注射、時には手術や理学療法のような身体的な治療法のことばかりだ」と話す。その上で同氏は、「心理療法は慢性疼痛に対するエビデンスに基づいた治療法の1つだが、今回の臨床試験から、心理療法のタイプも重要であることが分かった」とUCLAのニュースリリースの中で説明している。 なお、今回の研究では、治療セッションは全て対面で行われた。Yarns氏は今後の研究課題として、バーチャルセッションでも同様の結果が得られるかどうかを検討することを挙げている。また、EAETとCBTを受けた患者の脳の変化を明らかにするため、脳画像研究も行う予定であるという。

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第75回 確率分布とは?【統計のそこが知りたい!】

第75回 確率分布とは?確率分布とは、「ある確率変数が取りうる値とその値が起こる確率を表す数学的なモデル」のことです。医学論文でも、さまざまな現象やデータを解析するために確率分布が利用されています。今回はこの「確率分布」について解説します。■確率(probability)とは確率とは、「ある事象が起こる度合の大きさを表す数値」のことです。そして、0~1までの実数値をとる値です。また、%を用いて表現する場合は0~100%となります。■確率変数(random variable)とは確率変数とは、「試行の結果に対応してある、確率をもって定まる量」のことです。2つのサイコロを振って、出た目の和に値する量です。■確率分布(probability distribution)とは確率分布とは、「確率変数の各々の値に対し、その起こりやすさを記述するもの」です。■医学論文での事例以下に代表的な確率分布とその医学論文での事例を紹介します。(1)正規分布正規分布とは、「平均値と標準偏差によって特徴付けられる分布」であり、多くの自然現象やデータが正規分布に従うことが知られています。たとえば、身長や体重などの身体測定値が正規分布に従うことが多く、医療分野でも利用されています。ある病気の治療効果を測定するために、患者の病状に関するスコアを正規分布と仮定し、治療前後でのスコアの変化を比較する研究が行われることがあります。(2)二項分布二項分布とは、「2つの結果(成功と失敗)がある繰り返し試行を行った場合に、成功がk回起こる確率を表す確率分布」のことです。この試行をn回行った場合、各試行は互いに独立であり、成功確率がpであるとします。二項分布も、医療や経済学などの分野で、ある試行における成功確率が既知であり、その成功回数の分布を求めるためによく使われます。たとえば、ある病院で、ある種のがんを患っている患者に対して新しい治療法を試みた研究が行われました。治療法の効果を評価するため、治療群と対照群に分けて、それぞれのグループで治療が成功した人数を比較しました。治療群には100例、対照群には100例が含まれていました。治療群で成功した人数は70例で、対照群で成功した人数は50例でした。この場合、治療法の有効性を検証するために二項検定を行うことができます。二項分布を用いることで、治療群と対照群での治療成功率の差を比較することができます。(3)ポアソン分布ポアソン分布とは、「ある時間内に起こる事象の数が従う分布」であり、まれな事象が起こる確率を表すことで有名な分布です。たとえば医療分野では、ある地域での1日当たりの新型コロナウイルス感染症患者数がポアソン分布に従うと仮定し、感染者数の予測を行うことができます。他にも、ベルヌーイ分布やガンマ分布などが医療分野でもよく使われています。次回は「二項分布」を解説します。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ統計のそこが知りたい!第31回 検定の落とし穴とは?第56回 正規分布とは?第70回 カイ二乗分布とは「わかる統計教室」第3回 理解しておきたい検定 セクション1第4回 ギモンを解決!一問一答質問7 ノンパラメトリックの検定とは?(その1)

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座位時間を減らすことが健康的な老化につながる

 テレビは、ついだらだらと見てしまうものだが、健康的な老化のためにはソファーに座っている時間は短い方が良いことを明らかにした研究結果がまた1件報告された。米ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院疫学分野のMolin Wang氏らによる研究で、詳細は「JAMA Network Open」に6月11日掲載された。 この研究は、Nurses' Health Studyに参加した4万5,176人の女性の20年間の追跡データを用いて、座位行動および低強度の運動(light-intensity physical activity;LPA)と健康的な老化との関連を調査したものである。全参加者が1992年時点で50歳以上であり(平均年齢59.2歳)、慢性疾患は持っていなかった。座位行動の指標として、座位でテレビを見ている時間、座位で仕事をしている時間、その他の家庭での座位時間、LPAの指標として、家庭(LPA-HOME)と仕事(LPA-WORK)でそれぞれ立ったり歩いたりして過ごす時間を調べた。健康的な老化とは、主要な慢性疾患に罹患しておらず、主観的認知機能・身体機能・メンタルヘルス障害がない状態で70歳以上に達している場合と定義された。 20年にわたる追跡期間中に、3,873人(8.6%)が健康的な老化を達成していた。結果に影響を与える因子を調整して解析した結果、座位でテレビを見る時間が1日当たり2時間増えるごとに健康的な老化を達成するオッズが12%低下するが、LPA-WORKが1日当たり2時間増えるごとに同オッズは6%上昇することが示された。また、座位でテレビを見る時間のうちの1時間をLPA-HOME、LPA-WORK、または中強度から高強度の運動に置き換えることで、健康的な老化を達成するオッズがそれぞれ8%、10%、28%上昇することも明らかになった。さらに、夜間の睡眠時間が7時間未満の人は、テレビの視聴時間を睡眠に置き換えることで、健康的な老化を達成するオッズが高まることも示された。 この研究には関与していない、米ナショナル・ジューイッシュ・ヘルスで心血管の予防と健康を担当するAndrew Freeman氏はCNNの取材に対し、「テレビを見ることは、特に不健康な行為だ。その理由は、動かないからというだけではない。テレビを見るという行為には、ジャンクフードやTVディナー(温めるだけでそのまま食べられるワンプレートタイプの冷凍食品)を食べたり、人とコミュニケーションを取る機会を失ったり、睡眠が妨げられたりといったことを伴いがちだ」と指摘する。 Freeman氏は、「運動は、どんな方法でも、どんな時間でも、全てを好転させることができる。運動は、心血管系のリスクと血圧を下げる、本当に素晴らしい方法だ」と話す。同氏は、「私が強く勧めたいのは、職場でのスタンディングデスクやトレッドミルデスクの使用だ。私の考えでは、一度に30分以上座っているのであれば、それはおそらく長過ぎであり、少しでも動くように努めるべきだ」と述べている。

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8年間レーザーポインタを自分の眼球に当て続けた男の子【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第260回

8年間レーザーポインタを自分の眼球に当て続けた男の子12歳の男の子が、少なくとも1年間続く両眼性の視力低下を訴えて来院しました。しかし、どうやらただの調節障害というわけではないようです。どういうことでしょう。Coombs RA, et al. Sneeze and burn: Macular scars secondary to sun- and laserbeam-staring to induce photic sneeze reflex.Am J Ophthalmol Case Rep. 2024 Jun;34:102018.彼には太陽や光を見たときにくしゃみが誘発される反射がありました。俗にいう、「光くしゃみ反射」です。花粉症のようにずっとくしゃみが起こるわけではなく、まぶしさを感じたときに1回か2回くしゃみが出るだけで終わります。彼にとってはそれが心地よかったのでしょうか、小さいころからその反射を誘発しようとしていたみたいです。赤いレーザーポインタが出てくる猫のおもちゃをこよなく愛し、それを眼球に当てるとくしゃみが出るので、日課にしていたようです。来院時、視力は右目20/30、左目20/40でした。細隙灯生体顕微鏡検査と眼圧は両目とも正常でしたが、眼底検査では萎縮性瘢痕がみられました。光干渉断層計(OCT)では、視野欠損部位に一致して網膜外層の構造異常(ellipsoid zoneの欠損、interdigitation zoneの消失)が確認されています。彼には、抗精神病薬を使用する注意欠陥多動性障害(ADHD)の既往がありましたが、内服している薬剤に光線障害の感受性を上昇させるものはなかったそうです。なので、純粋に8年間当て続けたがゆえの視力障害だったといえます。ちなみに今回の症例でみられた光くしゃみ反射ですが、ある調査では日本人の約4人に1人がこの反射を持っていることがわかっています1)。少し甘い基準で調査したこともあって、ほぼ確実に光くしゃみ反射を起こすのはこの半分くらい、約8人に1人と考えられています。顕性遺伝で親から子へ受け継がれていくこともわかっていて、くしゃみ反射を持つ家系では他の家族も光くしゃみ反射を持っていることが多いです。決して、眼球にレーザーポインタを当ててくしゃみを誘発させるといった真似はしないように。1)児玉正志、他. 東北地方における光刺激によって誘発されるくしゃみ反射に関するアンケート調査.医学と生物学. 1992;125(6):2159.

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polypharmacy(ポリファーマシー)【病名のルーツはどこから?英語で学ぶ医学用語】第7回

言葉の由来高齢者医療の分野でよく耳にするようになった用語「ポリファーマシー」は、英語の“polypharmacy”をカタカナにしたものです。“polypharmacy”という言葉は、ギリシャ語由来の2つの部分から成り立っています。接頭辞の“poly-”は、ギリシャ語由来の“polys”から来ており、「多い」「複数の」という意味があります。たとえば、“polyarthritis”は「多関節炎」を意味しますし、“polyuria”は「多尿」を意味します。このように医療現場でもいろいろな単語の中に登場するので、ご存じの方も多いかもしれません。一方、後半の“-pharmacy”はギリシャ語の“pharmakeia”から来ており、「薬」や「薬学」を意味します。単独の“pharmacy”で「薬局」という意味で日本でもよく用いられていますので、こちらもぴんとくる方が多いかもしれません。これら2つの要素が合わさって形成された“polypharmacy”という単語、意味としては「多くの薬を使用した状態」を指します。とくに高齢者や慢性疾患を持つ患者で、薬の相互作用や副作用に対して注意が必要な状況で重要となる言葉です。ただし、過去のシステマティックレビュー1)によれば、ポリファーマシーの定義(1日何錠以上から該当するのかなど)は厳密には定まっておらず、それが研究や臨床現場での評価を困難にしている、という指摘もあります。併せて覚えよう! 周辺単語薬物相互作用drug interaction脱処方deprescribing併存疾患comorbidity用量調整dose adjustment薬剤の照合と調整medication reconciliation(よくmed recと略して用いられる)この言葉、英語で説明できますか?Polypharmacy refers to the use of multiple medications by a patient, often to manage several health conditions at the same time. This is common in older adults who may have several chronic illnesses. While taking several medications can be necessary, it also increases the risk of side effects and drug interactions.参考1)Masnoon N, et al. BMC Geriatr. 2017;17:230.講師紹介

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小児期の睡眠障害、若年期の精神病リスクにつながる可能性

 短時間睡眠は、短期・中期・長期的に子どもの発達に有害な影響を及ぼす可能性があることがこれまでも報告されているが、新たな報告によると、小児期に持続的に睡眠時間が短いと、若年期の精神病発症リスクが上がる可能性があるという。英国・バーミンガム大のIsabel Morales-Munoz氏らによる本研究結果は、JAMA Psychiatry誌オンライン版2024年5月8日号に掲載された。 研究者らは小児期における持続的な夜間睡眠時間の短さと、24歳時点での精神病体験(PE)および/または精神病性障害(PD)との関連、および炎症マーカー(C反応性蛋白[CRP]およびインターロイキン6[IL-6])が関連するかを検討するコホート研究を実施した。 英国の出生コホート研究であるAvon Longitudinal Study of Parents and Childrenのデータを用い、6ヵ月、18ヵ月、30ヵ月、3.5歳、4~5歳、5~6歳、6~7歳の時点の夜間睡眠データを収集した。24歳時にPEとPDをPsychosis-like Symptoms Interview(PLIKSi)で評価した。RP値とIL-6値は9歳・15歳時に血液採取で測定した。夜間睡眠時間の軌跡を検出するために潜在クラス成長分析(LCGA)を適用し、24歳時点の精神病転帰との縦断的関連についてロジスティック回帰を、CRP値とIL-6値が潜在的な媒体因子であることを検証するためにパス解析を行った。データ解析は2023年1月30日~8月1日に実施した。 主な結果は以下のとおり。・小児1万2,394例(女児6,254例[50.5%])、ロジスティック回帰とパス分析では若年成人3,962例(女性2,429例[61.3%])のデータが得られた。・LCGAにより、小児期を通じて夜間の睡眠時間が4クラスに分けられた。持続的睡眠時間が最も短い群(301例[2.4%])は、24歳時のPD(オッズ比[OR]:2.50、95%信頼区間[CI]:1.51~4.15、p<0.001)およびPE(OR:3.64、95%CI:2.23~5.95、p<0.001)のリスクが有意に高かった。・9歳時のIL-6値の上昇は、持続的な睡眠時間の短さとPD(バイアス補正推定値=0.003、95%CI:0.002~0.005、p=0.007)およびPE(バイアス補正推定値=0.002、95%CI:0~0.003、p=0.03)との関連を部分的に媒介していた。9歳時または15歳時のCRP値にこうした関連は見られなかった。 研究者等は「乳児期から小児期までの睡眠時間が持続的に短い群は、24歳時の精神病の有病率が有意に高かった。さらに、9歳時のIL-6値の上昇がこれらの関連を部分的に媒介しており、IL-6値で測定される炎症が潜在的な機序経路の1つである可能性がある。この結果は小児期における短時間睡眠への対処の必要性を強調しており、睡眠と炎症反応の両方に対する、将来的な介入に関する予備的な証拠ともなる」とした。

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中等度~重度の外傷性脳損傷アウトカム、非制限輸血vs.制限輸血/NEJM

 貧血を伴う重度の外傷性脳損傷患者において、非制限輸血戦略は制限輸血戦略と比較して6ヵ月後の不良な神経学的アウトカムのリスクを改善することはなかった。カナダ・ラヴァル大学のAlexis F. Turgeonらが、無作為化比較試験「Hemoglobin Transfusion Threshold in Traumatic Brain Injury Optimization pragmatic trial(HEMOTION試験)」の結果を報告した。重度の外傷性脳損傷患者のアウトカムに対する制限的輸血戦略と非制限輸血戦略の有効性は不明であった。NEJM誌オンライン版、2024年6月13日号掲載の報告。6ヵ月後の神経学的アウトカム不良について比較検証 HEMOTION試験は、カナダ、イギリス、フランス、ブラジルの神経集中治療専門の外傷センター34施設で実施された、PROBE(Prospective Randomized Open Blinded End-Point)デザインの試験である。 研究グループは、中等度または重度の外傷性脳損傷(グラスゴー昏睡尺度[GCS、スコア範囲3~15で低スコアほど意識レベルが低いことを示す]スコア3~12)および貧血(ヘモグロビン値10g/dL以下)の18歳以上の患者を、非制限輸血戦略群(非制限群)と制限輸血戦略群(制限群)に1対1の割合で無作為に割り付けた。 非制限群では、ヘモグロビン値が10g/dL以下で、制限群ではヘモグロビン値が7g/dL以下で赤血球輸血を行った。 主要アウトカムは、拡張グラスゴー転帰尺度(Glasgow Outcome Scale-Extended[GOS-E]、スコア範囲:1[死亡]~8[上位の良好な回復])の評価に基づく6ヵ月後の不良なアウトカムであった。ベースライン時点で各患者の予後を3つのリスクレベル(最悪、中間、最良)に分類し、6ヵ月後のGOS-Eスコアがそれぞれ3、4、5以下であった場合に不良なアウトカムと定義した。 副次アウトカムは、6ヵ月以内の死亡、機能的自立度(Functional Independence Measure[FIM])、QOL(EQ-5D-5Lなど)、うつ病(Patient Health Questionnaire-9[PHQ-9])などであった。主要アウトカムに両群で有意差なし 2017年9月1日~2023年4月13日に、計742例が無作為化され(各群371例)、722例が主要アウトカムの解析対象集団となった。集中治療室(ICU)におけるヘモグロビン値(中央値)は、非制限群では10.8g/dL、制限群では8.8g/dLであった。 不良なアウトカムは、非制限群では364例中249例(68.4%)、制限群では358例中263例(73.5%)に認められた(制限群と非制限群の補正後絶対群間差:5.4%、95%信頼区間[CI]:-2.9~13.7)。 6ヵ月死亡率は非制限群26.8%、制限群26.3%(ハザード比:1.01、95%CI:0.76~1.35)であった。6ヵ月時の生存例において、非制限群は制限群と比較し機能的自立度やQOLの一部で良好なスコアが得られたが、輸血戦略と死亡率またはうつ病との間に関連性は認められなかった。 静脈血栓塞栓症の発現率は各群8.4%で、急性呼吸窮迫症候群は非制限群で3.3%、制限群で0.8%に発現した。 なお、著者は研究の限界として、貧血患者のみを募集し、より重度の外傷脳損傷患者を対象としたこと、ベースラインでいくつかの予後変数を含む両群間の不均衡が確認されたこと、治療の割り付けに関して診療チームに対する盲検化はできなかったことなどを挙げている。

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ポスト・パンデミック期:コロナ抗ウイルス薬は無効?(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

ポスト・パンデミック期におけるコロナ抗ウイルス薬の実態 2023年夏以降、コロナ感染症はポスト・パンデミックの時代に突入した。この時期に注目されているのが間断なく継続しているウイルスの遺伝子変異に対して、オミクロン株以前のパンデッミク期に開発された抗ウイルス薬が、その効果を維持しているかどうかという点である。 今回論評するHammond氏らの論文は、2021年8月から2022年7月にかけて、播種しているコロナウイルスがデルタ株からオミクロン株に切り替わりつつある過渡期に集積された症例を対象としたものである。Hammond氏らはこれらの対象をもとに3-キモトリプシン様プロテアーゼ阻害薬ニルマトレルビル・リトナビル(商品名:パキロビッドパック、本邦承認:2022年2月10日、5日分の薬価[成人]:9万9,000円)に関するEPIC-SR試験(Evaluation of Protease Inhibition for COVID-19 in Standard-Risk Patients trial)の結果を報告した。 ニルマトレルビルの効果に関する最初の大規模臨床試験であるEPIC-HR試験(Evaluation of Protease Inhibition for COVID-19 in High-Risk Patients trial)は、ワクチン未接種でコロナ感染による重症化リスクを少なくとも1つ以上有する非入院成人コロナ感染者を対象として施行された(Hammond J, et al. N Engl J Med. 2022;386:1397-1408.)。EPIC-HR試験はEPIC-SR試験とは異なり、2021年7月から12月にかけてデルタ株優勢期に集積されたデータを基にした解析であることに注意する必要がある。EPIC-HR試験の結果、重症化リスクを有するワクチン未接種患者において、ランダム化から1ヵ月以内のニルマトレルビル投与による入院/死亡予防効果は非常に高く、87.8%であることが示された。しかしながら、EPIC-HR試験ではワクチン未接種のコロナ感染者を対象としていたため実際の臨床現場、すなわち、Real-Worldでの状況を十分に反映していない可能性があった。そこで、EPIC-SR試験では重症化リスクを有さないワクチン未接種者(1年以上前のワクチン接種者を含む)に加え、重症化リスクを少なくとも1つ以上有するワクチン接種者を対象としてニルマトレルビルの臨床効果が検討された。その結果、ニルマトレルビル投与によって症状緩和までの時間、コロナ関連入院/死亡率はプラセボ群に比べ有意差はなく、ニルマトレルビルはオミクロン株が主流を占める現在の臨床現場では、ワクチンの予防効果を相加的に上昇させるものではないことが判明した。 同様の結果はRNA-dependent RNA polymerase(RdRp)阻害薬として開発されたモルヌピラビル(商品名:ラゲブリオカプセル、本邦承認:2021年12月24、5日分の薬価[成人]:9万4,000円)においても報告されている。ワクチン未接種者におけるモルヌピラビルの投与28日以内のコロナに起因する入院/死亡予防効果は31%であった(MoVe-OUT Trial, Jayk Bernal A, et al. N Engl J Med. 2022;386:509.)。この値はニルマトレルビルとの直接比較で得られたものではないが、値としてはニルマトレルビルの予防効果に比べ低いものと考えてよい。さらに、ワクチン接種者におけるモルヌピラビルの入院/死亡予防効果は、ほぼゼロであり(PANORAMIC Study, Butler CC, et al. Lancet. 2023;401:281-293.)、モルヌピラビルを実際の臨床現場で投与する医学的必然性がないことが判明した。以上のような結果を踏まえ、2023年2月25日、欧州医薬品庁(EMA)は実際の臨床現場でのモルヌピラビルの使用中止を勧告した(https://www.sankei.com/article/20230225-VRWSG7G2DJMWDI2TA3WTWIK7KI/)。EMAの勧告を受け、欧州、米国、豪州などの先進諸国ではモルヌピラビルは実際臨床の現場で投与されなくなっている。本邦でもEMAの勧告に従うべきであろう。 RdRpとして重要な薬物としてコロナ・パンデミック初期の2020年に開発されたレムデシビル(商品名:ベクルリー点滴静注用100mg、本邦承認:2020年5月7日、5日分の薬価[成人]:27万9,000円)が存在する。本邦においては、レムデシビルは重症化因子を有する軽症から重症までのコロナ感染症に対して投与でき、コロナ・パンデミックの制御に対して多大の貢献をしてきた。しかしながら、レムデシビルがオミクロン派生株によるポスト・パンデミック期においても有効であるか否かに関しては十分なる検証がなされていない。 本邦の塩野義製薬が開発したエンシトレルビル(商品名:ゾコーバ)はニルマトレルビルと同様にMain protease阻害薬である。本剤に関し、厚労省は2022年6月22日に臨床効果が不十分との理由で一度承認を見送ったが、最終的には2022年11月22日に緊急承認した(5日分の薬価[成人]:5万2,000円)。緊急承認であるので、その後1年以内に有効性に関する総括的データの提出が義務付けられており、承認後も臨床治験が続行されている(SCORPIO-SR試験、SCORPIO-HR試験)。臨床治験の対象は初期のオミクロン株(BA.1、BA.2)優勢期に集積された。それ故、BA.2以降の多数の派生株に対しても真に阻害作用を有するかは確実ではない。本論評で取り上げたニルマトレルビルのオミクロン株に対する増殖抑制作用が適切なワクチン接種者においては否定されつつある現在、それと同様の作用を有するエンシトレルビルを臨床現場で使用することは費用対効果の面からは問題がある。以上まとめると、オミクロン株のBA.2を源流とする多数の派生株(2024年5月現在、KP.3、JN.1、XDQ.1など)が重要な位置を占めるポスト・パンデミック期において、パンデミック期に開発された高価な抗ウイルス薬を安易に投与することは、医学的ならびに費用対効果の面から慎むべきだと論評者は考えている。とくに、2023年秋にXBB1.5対応1価ワクチンを接種した人がBreak-through感染を起こした場合には、抗ウイルス薬を追加投与したとしても重症化予防の上乗せ効果は期待できない。一方、この1年以内に適切なワクチンを接種していない人がコロナに感染した場合には、内服抗ウイルス薬としてニルマトレルビルを投与することは、臨床的に間違った判断ではないと考えている。ポスト・パンデミック期において抗ウイルス薬の効果を規定する遺伝子変異 抗ウイルス薬はワクチン、モノクローナル抗体薬とは異なりS蛋白を標的とするものではなく、ウイルスのOpen reading frame (ORF)-1aに遺伝子座を有するMain proteaseあるいはORF-1bに遺伝子座を有するRdRpを標的としたウイルス増殖抑制薬である。オミクロン株にあってはORF-1aならびにORF-1bにMain proteaseとRdRpの作用を修飾する遺伝子変異の存在が報告されており(Main protease:P3395H変異、RdRp:P314L変異など)、それらが抗ウイルス薬の効果にどのような影響を及ぼすかは重要な問題である。これらの問題については、オミクロン株の初期株であるBA.1(BA.1.1を含む)、BA.2(BA.2.12.1、BA.2.75を含む)、BA.4、BA.5を対象として試験管内で検討され、ニルマトレルビル、モルヌピラビル、レムデシビルの抗ウイルス作用は共に維持されていることが証明されている(Takashita E, et al. N Engl J Med. 2022 ;387:468-470.、Takashita E, et al. New Engl J Med 2022;387:1236-1238.)。しかしながら、これらの検討はあくまでも試験管内のものであり、実地臨床面でのオミクロン初期株に対する抗ウイルス効果が証明されているわけではない。さらに、現在世界を席巻しているBA.2からの種々の派生株に対する抗ウイルス薬の試験管内ならびに臨床的抑制効果は検証されておらず、今後、喫緊の課題として取り組む必要がある。エンシトレルビルに関しては、先行3剤に比べ臨床効果に関する検証レベルが低いことも追記しておきたい。

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手術部位感染予防、ポビドンヨードvs.クロルヘキシジン/JAMA

 心臓手術または腹部手術後の手術部位感染(SSI)の予防において、術前の皮膚消毒薬としてのポビドンヨードのアルコール溶液はクロルヘキシジングルコン酸塩のアルコール溶液に対し非劣性で、心臓と腹部の手術のいずれにおいてもSSI発生率に有意な差はないことが、スイス・バーゼル大学のAndreas F. Widmer氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2024年6月17日号で報告された。スイス3施設のクラスター無作為化クロスオーバー非劣性試験 本研究は、スイスの3つの大学病院で実施したクラスター無作為化クロスオーバー非劣性試験であり、2018年9月~2020年3月の期間に患者を登録した(スイス国立科学財団[SNSF]の助成を受けた)。 心臓または腹部の待機的手術が予定されている成人患者を対象とした。各施設は、連続18ヵ月間にわたり、毎月、ポビドンヨードまたはクロルヘキシジングルコン酸塩のいずれかのアルコール溶液を使用する群(クラスター)に無作為化された。治療の割り付け情報は、アウトカムの評価者や各施設の責任医師、統計解析の担当者などにはマスクされたが、試験薬の固有の色の違いのため患者と外科医のマスクは不可能だった。 主要アウトカムは、腹部手術後30日以内のSSIと心臓手術後1年以内のSSIの発生とした。非劣性マージンは2.5%に設定した。SSI発生率:5.1% vs.5.5% 3,360例を登録し、ポビドンヨード群に1,598例(26クラスター)、クロルヘキシジングルコン酸塩群に1,762例(26クラスター)を割り付けた。平均年齢は、いずれの群も65.0歳で、女性はそれぞれ32.7%および33.9%であった。 SSIは、ポビドンヨード群で1,570例中80例(5.1%)、クロルヘキシジングルコン酸塩群で1,751例中97例(5.5%)に発生し、群間差は0.4%(95%信頼区間[CI]:-1.1~2.0)であり、CIの下限値は事前に規定した非劣性マージン(-2.5%)を超えておらず、ポビドンヨード群はクロルヘキシジングルコン酸塩群に対して非劣性であった。 クラスタリングで補正しても結果は同様であった。また、クロルヘキシジングルコン酸塩群に対するポビドンヨード群の未補正の相対リスク(RR)は0.92(95%CI:0.69~1.23)だった。SSIの3種の深さでも、有意な差はない 心臓手術におけるSSI発生率はポビドンヨード群で高く(4.2% vs.3.3%、RR:1.26、95%CI:0.82~1.94)、腹部手術では同群で低かった(6.8% vs.9.9%、0.69、0.46~1.02)が、いずれも有意な差を認めなかった。 また、SSIの深さ別の解析では、表層切開創(ポビドンヨード群2.1% vs.クロルヘキシジングルコン酸塩群1.7%、RR:1.22、95%CI:0.74~2.01)、深部切開創(1.0% vs.1.2%、0.84、0.43~1.63)、臓器・体腔(1.9% vs.2.3%、0.81、0.51~1.30)のいずれにおいても、SSI発生率に関して両群間に有意な差はなかった。 著者は、「本試験では、退院後の患者の追跡調査がきわめて良好で、アウトカムが適切に特定されたことが重要である」と述べつつ、「2021年のメタ解析では、ポビドンヨードは整形外科手術や腹部手術に適しているが、帝王切開にはあまり適さない可能性があるとの仮説が提示され、外科的介入の種類も消毒薬の効果に影響を及ぼす可能性が示唆されている」と指摘している。

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生活習慣の改善でアルツハイマー病の進行が抑制か

 食事や運動などの健康的な生活習慣を組み合わせて取り入れることが、軽度認知障害(MCI)や初期の認知症の患者の認知機能維持に役立つことが、米国の非営利団体である予防医学研究所(Preventive Medicine Research Institute)所長のDean Ornish氏らが実施したランダム化比較試験(RCT)で示された。このRCTでは、健康的な食事、定期的な運動、ストレスマネジメントなどを組み合わせた生活習慣改善プログラムを受けた患者の約71%で認知症の症状が安定、または薬剤を使わずに改善していた。それに対し、こうした生活習慣の改善を行わなかった対照群では約68%の患者で症状の悪化が認められたという。この試験の詳細は、「Alzheimer’s Research and Therapy」に6月7日掲載された。Ornish氏らは、「生活習慣の改善が認知症やアルツハイマー病の進行に影響を与えることを示した研究は、これが初めてだ」と説明している。 Ornish氏らはこのRCTで、MCIまたは初期のアルツハイマー型認知症と診断された51人を登録し、生活習慣を改善するプログラムを受ける群と対照群のいずれかにランダムに割り付けた。生活習慣改善プログラムは、以下の4つの要素で構成されていた。1)有害な脂質や精製された穀類、アルコール、甘味料の摂取を抑え、ホールフード(加工や精製をしないか極力抑えた野菜や果物、穀類、魚など)と植物性食品を中心としたプラントベース食を基本とする食事の摂取、2)低強度の筋力トレーニングを週に3回以上と有酸素運動を1日に30分以上実施、3)瞑想やストレッチ、呼吸法、誘導イメージ療法などによるストレスマネジメントを1日1時間実施、4)患者とそのパートナーのためのサポートグループの1時間の活動を週3回実施。 その結果、20週間後の時点で、Clinical Global Impression of Change(CGIC)での認知機能の評価において、生活習慣改善プログラム群では17人(約71%)が改善か状態を維持していると評価されたのに対し、対照群では17人(68%)が最小限〜中等度の悪化と評価されたことが明らかになった。また、認知機能とアミロイドタンパク質などのアルツハイマー病の血中マーカーの双方において、生活習慣改善プログラム群と対照群の間に有意差が認められた。例えば、生活習慣改善プログラム群ではアミロイド値の改善が認められたが、対照群では同値は悪化していた。さらに、生活習慣改善プログラムの遵守度が高いほどアミロイド値の低下の幅も大きくなることが示された。このほか、生活習慣改善プログラム群ではアルツハイマー病リスクを高める微生物が有意に減少し、アルツハイマー病に対して保護的に働く可能性が指摘されている微生物が増加していることも確認されたという。 Ornish氏は、「今回のRCTの結果は極めて心強いものであり、慎重に受け止めてはいるが楽観視している。この結果は、多くの人々に新たな希望と選択肢をもたらすことになるかもしれない」と話す。 このRCTの参加者の一人は、以前は1冊の本を読み終えるのに何週間もかかっていたが、RCT終了後は3~4日で読み終えることができ、しかも読んだ内容のほとんどを覚えていたという。また、自身の資金や退職後の生活を管理する能力を取り戻した元経営者の参加者もいた。さらに、ある女性参加者は、それまで5年間にわたってできていなかった家業の財務レポートを、現在では正確に作成できるようになったと話している。 今回のRCTに参加した米マサチューセッツ総合病院McCance Center for Brain HealthのRudolph Tanzi氏は、「アルツハイマー病の新たな治療法は切実に求められている。バイオファーマ企業はアルツハイマー病の治療薬を開発するために数十億ドルもの資金を投じてきたが、過去20年間に承認に至ったアルツハイマー病治療薬はわずか2剤だけだ。このうちの1剤は、最近、市場から回収され、もう1剤は効果が限定的で価格は極めて高く、脳浮腫や脳出血などの重篤な副作用を引き起こすこともある」と指摘。「それに対して、今回の試験で実施した集中的な生活習慣の改善は、わずかな費用で認知機能と日常生活機能の改善をもたらすなど、良い効果しかないことが示された」と述べている。

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