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高血圧への第1選択としての利尿薬vs.他の降圧薬~コクランレビュー

 高血圧患者における死亡率、心血管イベントの発生率、有害事象による中止率などについて、第1選択薬としてのサイアザイド系利尿薬と他のクラスの降圧薬を比較したシステマティックレビューの結果を、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学のMarcia Reinhart氏らがThe Cochrane Database of Systematic Reviews誌2023年7月13日号に報告した。 2021年3月までのCochrane Hypertension Specialized Register、CENTRAL、MEDLINE、Embase、および臨床試験登録が検索された。対象は1年以上の無作為化比較試験で、第1選択薬としての利尿薬と他の降圧薬の比較、および死亡率とその他のアウトカム(重篤な有害事象、総心血管系イベント、脳卒中、冠動脈性心疾患[CHD]、うっ血性心不全、有害作用による中止)が明確に定義されているものとした。 主な結果は以下のとおり。・9万例超が対象の、26の比較群を含む20件の無作為化試験が解析された。・今回の結果は、2型糖尿病を含む複数の合併症を有する50〜75歳の男女高血圧患者における第1選択薬に関するものである。・第1選択薬としてのサイアザイド系およびサイアザイド系類似利尿薬が、β遮断薬(6試験)、Ca拮抗薬(8試験)、ACE阻害薬(5試験)、およびα遮断薬(3試験)と比較された。・他の比較対照には、アンジオテンシンII受容体遮断薬(ARB)、アリスキレン(直接的レニン阻害薬)、およびクロニジン(中枢作用薬)が含まれていたが、データが不十分だった。・重篤な有害事象の総数に関するデータを報告した研究は3件のみで、利尿薬とCa拮抗薬を比較した研究が2件、直接的レニン阻害薬と比較した研究が1件だった。β遮断薬と比較したサイアザイド系利尿薬:・全死亡率(リスク比[RR]:0.96[95%信頼区間:0.84~1.10]、5試験/1万8,241例/確実性:中程度)。・総心血管イベント(5.4% vs.4.8%、RR:0.88[0.78~1.00]、絶対リスク減少[ARR]:0.6%、4試験/1万8,135例/確実性:中程度)。・脳卒中(RR:0.85[0.66~1.09]、4試験/1万8,135例/確実性:低)、CHD(RR:0.91[0.78~1.07]、4試験/1万8,135例/確実性:低)、心不全(RR:0.69[0.40~1.19]、1試験/6,569 例/確実性:低)。・有害作用による中止(10.1% vs.7.9%、RR:0.78[0.71~0.85]、ARR:2.2%、5試験/1万8,501例/確実性:中程度)。Ca拮抗薬と比較したサイアザイド系利尿薬:・全死亡率(RR:1.02[0.96~1.08]、7試験/3万5,417例/確実性:中程度)。・重篤な有害事象(RR:1.09[0.97~1.24]、2試験/7,204例/確実性:低)。・総心血管イベント(14.3% vs.13.3%、RR:0.93[0.89~0.98]、ARR:1.0%、6試験/3万5,217例/確実性:中程度)。・脳卒中(RR:1.06[0.95~1.18]、6試験/3万5,217例/確実性:中程度)、CHD(RR:1.00[0.93~1.08]、6試験/3万5,217例/確実性:中程度)、心不全(4.4% vs.3.2%、RR:0.74[0.66~0.82]、ARR:1.2%、6試験/3万5,217例/確実性:中程度)。・有害作用による中止(7.6% vs.6.2%、RR:0.81[0.75~0.88]、ARR:1.4%、7試験/3万3,908例/確実性:低)。ACE阻害薬と比較したサイアザイド系利尿薬:・全死亡率(RR:1.00[0.95~1.07]、3試験/3万961例/確実性:中程度)。・総心血管イベント(RR:0.97[0.92~1.02]、3試験/3万900例/確実性:低)。・脳卒中(4.7% vs.4.1%、RR:0.89[0.80~0.99]、ARR:0.6%、3試験/3万900例/確実性:中程度)、CHD(RR:1.03[0.96~1.12]、3試験/3万900例/確実性:中程度)、心不全(RR:0.94[0.84~1.04]、2試験/3万392例/確実性:中程度)。・有害作用による中止(3.9% vs.2.9%、RR:0.73[0.64~0.84]、ARR:1.0%、3試験/2万5,254例/確実性:中程度)。α遮断薬と比較したサイアザイド系利尿薬:・全死亡率(RR:0.98[0.88~1.09]、1試験/2万4,316例/確実性:中程度)。・総心血管イベント(12.1% vs.9.0%、RR:0.74[0.69~0.80]、ARR:3.1%、2試験/2万4,396例/確実性:中程度)。・脳卒中(2.7% vs.2.3%、RR:0.86[0.73~1.01]、ARR:0.4%、2試験/2万4,396例/確実性:中程度)、CHD(RR:0.98[0.86~1.11]、2試験/2万4,396例/確実性:低)、心不全(5.4% vs.2.8%、RR:0.51[0.45~0.58]、ARR:2.6%、1試験/2万4,316例/確実性:中程度)。・有害作用による中止(1.3% vs.0.9%、RR:0.70[0.54~0.89]、ARR:0.4%、3試験/2万4,772例/確実性:低)。 著者らは、本結果を以下のようにまとめている。・利尿薬と他のクラスの降圧薬の間で、おそらく死亡率に差はない。・利尿薬はβ遮断薬と比較して、心血管イベントをおそらく減少させる。・利尿薬はCa拮抗薬と比較して、心血管イベントと心不全をおそらく減少させる。・利尿薬はACE阻害薬と比較して、脳卒中をおそらくわずかに減少させる。・利尿薬はα遮断薬と比較して、心血管イベント、脳卒中、心不全をおそらく減少させる。・利尿薬はβ遮断薬、Ca拮抗薬、ACE阻害薬、α遮断薬と比較して、有害作用による中止がおそらく少ない。

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ドライアイス中毒にご注意を【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第239回

ドライアイス中毒にご注意をillust ACより使用ドライアイスは昇華すると二酸化炭素が発生します。通常のモクモクとした煙ではそこまで量が多くないのですが、たとえば熱湯などをかけると大量の二酸化炭素が発生し、致死的な二酸化炭素中毒に至ることが知られています。今日はドライアイス中毒の2例を紹介しましょう。Gonzales L, et al. Dry ice (solid carbon dioxide) exposure with disastrous consequences. QJM. 2017 Nov 1;110(11):757-758.息切れやふらつきを訴えた62歳の女性が、「心臓が原因じゃないか」ということで受診しました。症状が起きたシーンから原因は明白でした。密閉していない容器にドライアイスを入れて、アイスクリームを輸送するために車を運転していたのです。エアコンをつけて、窓を閉め切っていました。運転中に意識もうろうとなり、30分後に横転した車の外で目が覚めたそうです。びっくりしますよね、起きたら車が横転しているんですから。救助者が車の窓ガラスを割って彼女を車から救出した直後に彼女は目を覚ましたそうです。Righi FA, et al. Suicide by Gaseous Displacement of Atmospheric Oxygen With Carbon Dioxide From Dry Ice Sublimation. Am J Forensic Med Pathol. 2022 Dec 1;43(4):369-371.次は死亡例です。とくに病歴のない38歳の男性が、浴室内で死亡しているのが発見されました。内側から毛布とタオルがドアの下に押し込まれており、何らかの中毒と思われましたが、すでにその原因物質は消えていました。死亡者の携帯電話を調べたところ、二酸化炭素やドライアイスを使った窒息に関する検索履歴が見つかりました。また、日記には大量のドライアイスを使った自殺計画について記載されていました。浴槽に大量のドライアイスを入れることで二酸化炭素中毒から窒息に至り、自殺を完遂したと結論付けられました。ちなみに、自殺例はこのほかにも報告があります1)。大気中の二酸化炭素濃度は世界平均で約0.04%です。二酸化炭素濃度は2~5%で頭痛、めまい、呼吸困難などを生じ、6~10%で頻脈、頻呼吸、11~17%で意識消失、17%以上で昏睡や死亡に至ります2)。皆さんも浴室で子供とドライアイスで遊ぶ場合には、ご注意を。1)Rupp WR, et al. Suicide by carbon dioxide. Forensic Sci Int. 2013 Sep 10;231(1-3):e30-e32.2)Langford NJ. Carbon dioxide poisoning. Toxicol Rev. 2005;24:229−235.

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『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』改訂のポイント/日本腎臓学会

 6月9日~11日に開催された第66回日本腎臓学会学術総会で、『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』が発表された。ガイドラインの改訂に伴い、「ここが変わった!CKD診療ガイドライン2023」と題して6名の演者より各章の改訂ポイントが語られた。第1章 CKD診断とその臨床的意義/小杉 智規氏(名古屋大学大学院医学系研究科 腎臓内科学)・実臨床ではeGFR 5mL/分/1.73m2程度で透析が導入されていることから、CKD(慢性腎臓病)ステージG5※の定義が「末期腎不全(ESKD)」から「高度低下~末期腎不全」へ変更された。・国際的に用いられているeGFRの推算式(MDRD式、CKD-EPI式)と区別するため、日本人におけるeGFRの推算式は「JSN eGFR」と表記する。・一定の腎機能低下(1~3年間で血清Cr値の倍化、eGFR 40%もしくは30%の低下)や、5.0mL/分/1.73m2/年を超えるeGFRの低下はCKDの進行、予後予測因子となる。※GFR<15mL/分/1.73m2第2章 高血圧・CVD(心不全)/中川 直樹氏(旭川医科大学 内科学講座 循環・呼吸・神経病態内科学分野)・蛋白尿のある糖尿病合併CKD患者においては、ACE阻害薬/ARBの腎保護に関するエビデンスが存在するが、蛋白尿のないCKD患者においては、糖尿病合併の有無にかかわらず、ACE阻害薬/ARBの優位性を示す十分なエビデンスがない。したがって、ACE阻害薬/ARBの投与は糖尿病合併の有無ではなく、蛋白尿の有無を参考に検討する。・CKDステージG4※、G5における心不全治療薬の推奨クラスおよびエビデンスレベルが次のとおり明記された。ACE阻害薬/ARB:2C、β遮断薬:2B、MRA:なしC、SGLT2阻害薬:2C、ARNI:2C、イバブラジン:なしD。※eGFR 15~29mL/分/1.73m2第3章 高血圧性腎硬化症・腎動脈狭窄症/大島 恵氏(金沢大学大学院 腎臓内科学)・2018年版では「腎硬化症・腎動脈狭窄症」としていたが、本ガイドラインでは「高血圧性腎硬化症・腎動脈狭窄症」としている。高血圧性腎硬化症とは、持続した高血圧により生じた腎臓の病変である。・片側性腎動脈狭窄を伴うCKDに対する降圧薬として、RA系阻害薬はそのほかの降圧薬に比べて末期腎不全への進展、死亡リスクを抑制する可能性がある。ただし、急性腎障害発症のリスクがあるため注意が必要である。・動脈硬化性腎動脈狭窄症を伴うCKDに対しては、合併症のリスクを考慮し、血行再建術は一般的には行わない。ただし、治療抵抗性高血圧などを伴う場合には考慮してもよい。第4章 糖尿病性腎臓病/和田 淳氏(岡山大学 腎・免疫・内分泌代謝内科学)・尿アルブミンが増加すると末期腎不全・透析導入のリスクが有意に増加することから、糖尿病性腎臓病(DKD)患者では定期的な尿アルブミン測定が強く推奨される。・DKDの進展予防という観点では、ループ利尿薬、サイアザイド系利尿薬の使用について十分なエビデンスはない。体液過剰が示唆されるDKD患者ではループ利尿薬、尿アルブミンの改善が必要なDKD患者ではミネラルコルチコイド受容体拮抗薬が推奨される。・糖尿病患者においては、DKDの発症、アルブミン尿の進行抑制が期待されるため集約的治療が推奨される。・DKD患者に対しては、腎予後の改善と心血管疾患発症抑制が期待されるため、SGLT2阻害薬の投与が推奨される。第9章 腎性貧血/田中 哲洋氏(東北大学大学院医学系研究科 腎・膠原病・内分泌内科学分野)・PREDICT試験、RADIANCE-CKD Studyの結果を踏まえて、腎性貧血を伴うCKD患者での赤血球造血刺激因子製剤(ESA)治療における適切なHb目標値が改定された。本ガイドラインでは、Hb13g/dL以上を目指さないこと、目標Hbの下限値は10g/dLを目安とし、個々の症例のQOLや背景因子、病態に応じて判断することが提案されている。・「HIF-PH阻害薬適正使用に関するrecommendation(2020年9月29日版)」に関する記載が追記された。2022年11月、ロキサデュスタットの添付文書が改訂され、重要な基本的注意および重大な副作用として中枢性甲状腺機能低下症が追加されたことから、本剤投与中は定期的に甲状腺機能検査を行うなどの注意が必要である。第11章 薬物治療/深水 圭氏(久留米大学医学部 内科学講座腎臓内科部門)・球形吸着炭は末期腎不全への進展、死亡の抑制効果について明確ではないが、とくにCKDステージが進行する前の症例では、腎機能低下速度を遅延させる可能性がある。・代謝性アシドーシスを伴うCKDステージG3※~G5の患者では、炭酸水素ナトリウム投与により腎機能低下を抑制できる可能性があるが、浮腫悪化には注意が必要である。・糖尿病非合併のCKD患者において、蛋白尿を有する場合、腎機能低下の進展抑制、心血管疾患イベントおよび死亡の発生抑制が期待できるため、SGLT2阻害薬の投与が推奨される。・CKDステージG4、G5の患者では、RA系阻害薬の中止により生命予後を悪化させる可能性があることから、使用中のRA系阻害薬を一律には中止しないことが提案されている。※eGFR 30~59mL/分/1.73m2 なお、同学会から、より実臨床に即したガイドラインとして、「CKD診療ガイド2024」が発刊される予定である。

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添付文書改訂:アメナリーフに再発性単純疱疹が追加/ミチーガが在宅自己注射可能に ほか【下平博士のDIノート】第125回

アメナリーフに再発性の単純疱疹が追加<対象薬剤>アメナメビル(商品名:アメナリーフ錠200mg、製造販売元:マルホ)<改訂年月>2023年2月<改訂項目>[追加]効能・効果再発性の単純疱疹[追加]効能・効果に関連する注意単純疱疹(口唇ヘルペスまたは性器ヘルペス)の同じ病型の再発を繰り返す患者であることを臨床症状および病歴に基づき確認すること。患部の違和感、灼熱感、そう痒などの初期症状を正確に判断可能な患者に処方すること。<Shimo's eyes>本剤の適応症はこれまで帯状疱疹のみでしたが、2023年2月から「再発性の単純疱疹」が追加されました。帯状疱疹の場合は1日1回2錠を原則7日間投与ですが、再発性の単純疱疹では1回6錠の単回投与となります。初発例は適応になりません。用法・用量に関連する注意には「次回再発分の処方は1回分に留めること」とあり、患者さんの判断で服用するPIT(Patient Initiated Therapy)分を前もって1回分処方することができます。患者さん自身が単純疱疹の症状の兆候を認識した際に速やかに服用することで、早期の対応が可能となります。パキロビッド:パック600と中等度腎機能障害用のパック300が承認<対象薬剤>ニルマトレルビル・リトナビル(商品名:パキロビッドパック600/同300、製造販売元:ファイザー)<承認年月>2022年11月<改訂項目>[変更]医薬品名、規格パキロビッドパック600、同300が承認<Shimo's eyes>パキロビッドパックは、モルヌピラビル(商品名:ラゲブリオ)に続く、2番目の新型コロナウイルス感染症の経口薬として2022年2月に承認されました。2023年3月21日以前は、登録センターに登録することで特定の医療施設に配分されていました。今回パキロビッドパック600/同300が薬価収載され、2023年3月22日以降は一般流通されています。パキロビッドパック600は従来のパキロビッドパックと同等の製剤で通常用のパッケージです。一方、パキロビッドパック300は中等度の腎機能障害(eGFR30mL/min以上60mL/min未満)の患者さん用のパッケージです。600と300はブースターであるリトナビルの投与量は同じですが、抗ウイルス薬であるニルマトレルビルが300では半分の量になっています。ミチーガ:在宅自己注射が可能に<対象薬剤>ネモリズマブ(遺伝子組換え)(商品名:ミチーガ皮下注用60mgシリンジ、製造販売元:マルホ)<在宅自己注射の保険適用日>2023年6月1日<改訂項目>[追加]重要な基本的注意自己投与の適用については、医師がその妥当性を慎重に検討し、十分な教育訓練を実施した後、本剤投与による危険性と対処法について患者が理解し、患者自ら確実に投与できることを確認したうえで、医師の管理指導のもと実施すること。自己投与の適用後、本剤による副作用が疑われる場合や自己投与の継続が困難な状況となる可能性がある場合には、ただちに自己投与を中止させ、医師の管理のもと慎重に観察するなど適切な処置を行うこと。また、本剤投与後に副作用の発現が疑われる場合は、医療施設へ連絡するよう患者に指導を行うこと。使用済みの注射器を再使用しないように患者に注意を促し、すべての器具の安全な廃棄方法に関する指導を行うと同時に、使用済みの注射器を廃棄する容器を提供すること。[追加]薬剤交付時の注意患者が家庭で保管する場合は、光曝露を避けるため外箱に入れたまま保存するよう指導すること。<Shimo's eyes>本剤は、4週間の間隔で皮下投与する抗体医薬品のアトピー性皮膚炎治療薬として2022年8月に発売され、2023年6月から在宅自己注射が可能となりました。近年、新しい作用機序のアトピー性皮膚炎治療薬が続々と開発されています。経口薬としては、関節リウマチへの適応から始まったJAK阻害薬、本剤のような抗体医薬品、外用薬ではPDE4阻害薬が発売され、難治性の患者さんにも選択肢が増えています。RA系阻害薬:妊娠禁忌について再度注意喚起<対象薬剤>RA系阻害薬<改訂年月>2023年5月<改訂項目>[新設]妊娠する可能性のある女性、妊婦妊娠する可能性のある女性に投与する場合には、本剤の投与に先立ち、代替薬の有無なども考慮して本剤投与の必要性を慎重に検討し、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。また、投与が必要な場合には次の注意事項に留意すること。(1)本剤投与開始前に妊娠していないことを確認すること。本剤投与中も、妊娠していないことを定期的に確認すること。投与中に妊娠が判明した場合には、ただちに投与を中止すること。(2)次の事項について、本剤投与開始時に患者に説明すること。また、投与中も必要に応じ説明すること。妊娠中に本剤を使用した場合、胎児・新生児に影響を及ぼすリスクがあること。妊娠が判明したまたは疑われる場合は、速やかに担当医に相談すること。妊娠を計画する場合は、担当医に相談すること。<Shimo's eyes>RA系阻害薬に関しては、2014年9月に妊婦や妊娠の可能性がある女性には投与しないこと、投与中に妊娠が判明したらただちに中止することなどが注意喚起されていましたが、それ以降も妊娠中のRA系阻害薬投与により、胎児や新生児への影響が疑われる症例(口唇口蓋裂、腎不全、頭蓋骨・肺・腎の形成不全、死亡など)が継続的に報告されていました。医師が妊娠を把握せずにRA系阻害薬を使用していた例が複数存在していたため、RA系阻害作用を有する降圧薬32成分(ACE阻害薬、ARB、レニン阻害薬、アンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害薬)の添付文書改訂が指示されました。

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第171回 米国でフル承認のアルツハイマー病薬lecanemabの患者負担のほどは?

病状進行を抑制し、認知機能や日常生活機能の低下を遅らせることが第III相試験(Clarity AD)で裏付けられたことを受けて、エーザイとバイオジェンのアルツハイマー病薬lecanemab(商品名:LEQEMBI)が米国で晴れて承認されました1,2,3)。これまでは取り急ぎの承認でしたが、今回フル承認(traditional approval)に至ったことで同国政府の公的保険メディケアの支払対象になる道が開けます4)。メディケアの受給者は65歳以上の高齢者です。ゆえに、高齢者に多いアルツハイマー病の治療のほとんどはメディケアの支払い対象となります。lecanemabの取り急ぎの承認が不動になったら、医師が治療の経過を記録して提出することを条件に同剤の費用を負担するとメディケアは先月発表しています。ただし全額負担ではありません。同剤の薬価は1年当たり2万6,500ドル(約378万円)です。メディケアは同剤の費用の約80%を支払います。残りの20%ほどを患者は自腹か何らかの手段で捻出する必要があります。米国のもう1つの公的保険メディケイドの受給対象でもある一部の低所得の患者は自己負担が一切なく同剤を使えますが、保険がメディケアだけという患者の同剤使用の1年あたりの自腹出費は6,600ドル(約94万円)にも達します5,6,7)。その額はメディケア受給者の所得中央値の5分の1ほどに相当します。日本でlecanemabは今年1月16日に承認申請されて承認審査段階にあります。今回の米国フル承認までのFDAの扱いと同様に国内でも優先審査されており、間もなく9月までには承認される見込みです。いわゆる“太り過ぎ”レベルのBMIのほうがむしろ死亡率が低い話は変わって肥満未満の太り過ぎの人の死亡率は高くなく、どちらかというとむしろ低いことを示した試験結果を紹介します。試験では米国の成人約50万人を体重指標BMIで9つに区切って中央値9年(0~20年)の経過を比較しました。その結果、BMIが30以上で肥満の域の人では適正とされるBMI範囲(22.5~24.9)の人に比べてさすがに死亡率が高かったものの、肥満域未満の太り過ぎの範囲のBMIの人の死亡率は高くありませんでした8)。BMIが肥満の域に達していない範囲で高い人の死亡率はむしろ低く、BMIが25~27.4の人の死亡率はBMIが22.5~24.9の人より5%低いことが示されました9)。BMIが肥満域により近い27.5~29.9の人はなんともっと死亡率が低く、22.5~24.9の人の死亡率を7%下回りました。病気が原因の体重減少の影響を排除することを目的として追跡開始2年以内の死亡例を除外して解析しても同様の結果となりました。目下の分類で太り過ぎの域にあるBMIの人がそれ以下のBMIの人に比べてより健やかと今回の結果をもって結論するのは時期尚早であり、さらなる検討が必要です。今回の結果から言えることは、BMIは死亡率のうってつけの指標というわけではなさそうということであり、脂肪の体内分布などの他の指標の考慮も必要なようです9,10,11)。カロリー制限時の代謝低下を防ぐホルモンを同定太っていることを一概に不健康と決めつけることはできませんが、体重を減らすことは病気治療の有効な手段の1つでもあります。たとえば、食事のカロリーを抑えて体重を減らすことは非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)治療の有効な手立ての1つですし、2型糖尿病患者のインスリンの効きを良くする効果もあります。しかし多くの人の体重減少はたいてい長続きしません。エネルギー消費を抑えるように体が順応してしまうことがその一因ですが、その順応の仕組みはこれまでよくわかっていませんでした。GDF15というホルモンを高脂肪食のネズミに与えると肥満が減り、GDF15の受容体であるGFRALを介した摂食(あるいは食欲)抑制のおかげで血糖値推移が改善することが先立つ研究で知られています。エネルギー消費を抑えてしまう順応をそのGDF15が食い止め、カロリー制限中でもエネルギー消費が維持されるようにする働きを担うことがカナダ・マクマスター大学のチームによる研究で示されました12)。GDF15を与えたマウスの体重は摂取カロリーが同じのGDF15非投与マウスに比べて減り続け、その作用は脂肪ではなく筋肉でのエネルギー消費亢進によることが判明しました。人ではどうかを今後の研究で検証する必要があります。人でのGDF15の働きを調べることで食事に気を付けても体重がなかなか減らない人に有益な手立てをやがて生み出せるかもしれません13)。また、肥満治療として注目を集めるGLP-1標的薬との相乗効果も期待できそうです。今回の研究には肥満治療のGLP-1標的薬を他に先駆けて世に送り出したNovo Nordiskが協力しています。参考1)「LEQEMBI®」(レカネマブ)、アルツハイマー病治療薬として、米国FDAよりフル承認を取得 / エーザイ2)FDA Converts Novel Alzheimer's Disease Treatment to Traditional Approval / PRNewswire3)FDA Grants Traditional Approval for LEQEMBI? (lecanemab-irmb) for the Treatment of Alzheimer's Disease / PRNewswire4)US FDA grants standard approval of Eisai/Biogen Alzheimer's drug / Reuters5)Annual Medicare spending could increase by $2 to $5 billion if Medicare expands coverage for dementia drug lecanemab / UCLA Health6)Explainer: Who is eligible for the new FDA-approved Alzheimer's drug? / Reuters7)Arbanas JC, et al. JAMA Intern Med. 2023 2023 May 11. [Epub ahead of print]8)Visaria A, et al. PLoS One. 2023;18:e0287218. 9)Having an 'overweight' BMI may not lead to an earlier death / New Scientist10)‘Overweight’ BMI might be set too low / Nature11)No increase in mortality for most overweight people, study finds / Eurekalert12)Dongdong Wang D, et al. Nature. 2023;619:143-150.13)Having an 'overweight' BMI may not lead to an earlier death / New Scientist

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事例027 アムロジピン錠の査定【斬らレセプト シーズン3】

解説事例ではレザルタス配合錠HD(一般名:オルメサルタンメドキソミル/アゼルニジピン、以下「配合錠HD」)とアムロジピン錠(一般名同じ)を組み合わせて処方をしたところ、アムロジピン錠がB事由(医学的に過剰・重複と認められるものをさす)にて査定となりました。査定の理由を調べるために、まずはアムロジピンの添付文書を参照しました。持続性Ca拮抗薬に分類され、通常5mgを1日1回経口投与する。また、「効果不十分な場合は10mgまで増量できる」と記載されています。とくに、問題は見当たりません。次に、配合錠HDの添付文書を参照しました。高親和性ARB(アンジオテンシンII受容体阻害剤)オルメサルタンメドキソミル20mgと持続性Ca拮抗薬アゼルニジピン16mgの配合薬と記載があります。また、1日最大量はそれぞれ40mgと16mgまで増量可能と記載があります。ARBに対しては、1日最大量以内ですが、アゼルニジピンをみると、配合錠HD1錠に最大量が含まれていることがわかります。したがって、配合剤HDでは効果が不十分であったことを理由にアムロジピン5mgを追加したところ、持続性Ca拮抗薬の1日量上限を超えてしまったことが、査定の理由だと推測できます。薬剤処方システムに対して、同一分類の薬剤処方にはアラートを表示させるように改修し、レセプトチェックシステムにも事例のパターンを登録して査定対策としました。

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早期発見、早期治療!心アミロイドーシス治療の今とこれから【心不全診療Up to Date】第10回

第10回 早期発見、早期治療!心アミロイドーシス治療の今とこれからKey Points早期発見がなぜ重要か?心アミロイドーシスに対して今できる治療は?心アミロイドーシス治療のこれから早期発見がなぜ重要か?〜心アミロイドーシス治療の今とこれから〜前回は心アミロイドーシスの種類や特徴、有病率などに触れた。今回は早期発見の意義について触れていこう。早速だが、心アミロイドーシスの早期発見がなぜ必要なのだろうか。その理由はただ一つ、早期に治療を開始すればするほど、治療のメリットが大きいからである。ではなぜ早期治療のメリットが大きいかというと、アミロイドが沈着する過程を治療するには、『アミロイド前駆蛋白の産生やアミロイド線維の集積を阻害するか』『臓器に一旦沈着したアミロイドの除去を促すか』が標的となるが、現在われわれができる治療は前者のみで、後者は最近ようやく第I相試験の結果が出たところで1)、まだ日常診療には使用できない。つまり、今できる治療は今以上にアミロイドを沈着させないようにするしかないため、まだ臓器へのアミロイド沈着が少ない早期から治療を開始したほうが、予後改善効果が高いというわけである。それでは、具体的な治療法をみていこう。心アミロイドーシスの治療は、(1)合併症の治療と予防、(2)特異的な治療によるアミロイド沈着の停止または遅延、の2つに大きく分けられる。心アミロイドーシスの合併症への対策は、心不全以外にも、不整脈、伝導障害、血栓塞栓症、重度大動脈狭窄症に対する治療など、注意すべきものがさまざまあり、詳細は図5をご覧いただきたい。(図5)心アミロイドーシスの心臓合併症と併存疾患の治療画像を拡大するとくに、心不全を伴う場合、『心不全予後改善薬の投与をどうするか』はとても重要なポイントである。実臨床において、どの薬剤がどのように使用され、予後との関連はどうであるか、という点について、最近イギリスから興味深い報告があった2)。この研究は、2000~22年にNational Amyloidosis CentreでATTR心アミロイドーシスと診断された2,371例(平均年齢:78歳、男性:90%、ATTRwt:78%、平均LVEF:48%)を対象に、心不全予後改善薬(β遮断薬、RAS阻害薬[ACEi/ARB]、MR拮抗薬)の処方パターン、用量、中断率と予後との関連を調べたものである。その結果は図6の通りであるが、とくに予後との関連が興味深い。それぞれの処方率は、β遮断薬が55%、RAS阻害薬が57%、MR拮抗薬が39%で、β遮断薬とRAS阻害薬はしばしば中断されていたが、低用量のβ遮断薬は、HFrEF(EF≦40%)患者の死亡リスク軽減と関連していた。一方、MR拮抗薬はほとんどの症例で継続されており、すべての心不全症例(とくにEF>40%)に対して死亡リスク軽減と関連していた。もちろん、前向きRCTで確認する必要があるが、とても重要な報告であると考える。(図6)ATTR心アミロイドーシスに対する心不全従来治療と予後の関連画像を拡大するそして、近年の医学の進歩により、心アミロイドーシスに対する特異的な治療も出てきている。その治療法は心アミロイドーシスの病型により異なるため、病型ごとに説明していく。ALアミロイドーシスまず、ALアミロイドーシスに対する特異的な治療の基本は、アミロイド前駆蛋白であるFLC(free light chain)の産生を抑制することであり、基礎となる血液疾患に対する治療法に大きく依存している3,4)。具体的には、骨髄でモノクローナルに増殖しているCD38陽性形質細胞を選択的に攻撃する抗体薬であるダラツムマブ、プロテアソームを阻害する分子標的薬であるボルテゾミブ、シクロホスファミド、デキサメタゾン、メルファランなどの薬剤や自己末梢血幹細胞移植も治療の選択肢になるが、さらなる詳細は成書に譲ることとする。ATTRアミロイドーシス次に、ATTRアミロイドーシスに対する治療について、TTRの歴史とTTRアミロイド線維生成経路を見ながら考えていこう(図7)。(図7)ATTR心アミロイドーシス治療の今とこれから画像を拡大するTTRは127アミノ酸残基からなる血漿タンパク質で、ホモ四量体として肝臓で産生され、血液中においても四量体として存在する。1940年代後半から1950年代前半にかけて発見されたTTRは、栄養状態の指標として用いられていたことから、以前はプレアルブミンと呼ばれていた。この名前は、ゲル電気泳動でアルブミンよりも先に移動することに由来する。プレアルブミンはサイロキシンとレチノール結合タンパク質の輸送を行うことがその後にわかり、1980年にTTRという名称が正式に採用された5)。TTRがアミロイドを形成するには、自然構造である四量体から単量体への解離と単量体の変性が必要であることから、ATTRアミロイドーシスに対する特異的な治療としては、変異型および野生型TTRの産生を特異的に抑制する薬剤(TTR silencers)と、TTRの四量体を安定化し、単量体への解離を抑制する薬剤(TTR stabilizers)がある。なお、アミロイド線維を除去し、組織浸潤を回復させる薬剤(抗TTR抗体製剤)は現在第I相試験が終了1)したところで、まだ実用化には至っていないが、画期的な薬剤であり、今後の展開が大変期待されている(図7)。ちなみに、従来のTTR(プレアルブミン)測定法は、四量体のみを測定するものであるため、ATTRアミロイドーシス症例では血中TTR濃度は低下し、後で述べるTTR安定化薬投与後は上昇することになり、早期診断や予後予測に有用となる可能性があるという報告もある6,7)。これらの薬剤のなかで、RCTで効果が検証された最初の薬剤がタファミジスであり、現在本邦でも生存期間が十分に見込まれるATTR心アミロイドーシス患者に対して2019年3月から保険適用されている。タファミジスは、TTR四量体の2つのサイロキシン結合部位に結合し、その四量体構造を安定化させ、アミロイド形成を抑制するTTR安定化薬(TTR stabilizers)である。第III相ATTR-ACT試験(年齢中央値:75歳、男性:90%)では、ATTRvまたはATTRwt心筋症患者(ATTRwt:76%)において、プラセボと比較して、治療30ヵ月後に全死亡および心血管関連入院が30%減少し、QOL低下が緩やかになることが示された9)。つまり、ATTR-ACT試験は、(1)HFpEFにおける死亡率および心不全入院の減少が初めて示された薬物療法(2)ATTRアミロイドーシスにおける死亡率と病的状態の減少が初めて示された薬物療法(3)末梢性や神経ホルモン調節ではなく心筋に対して中心的に作用してハードエンドポイントへの効果を実証した初めての心不全治療薬これら“3つの初めて”を成し遂げた試験と言える8)。ただし、タファミジスはかなり高額な薬剤(2020年当時、1カプセル43,672.8円、年間の薬剤費は1人あたり6,376万円)であり、米国からも費用対効果に関する論文が発表9)され、費用対効果を高めるためには、92.6%(ビックリ!)の薬価引き下げが必要との報告もあるくらいであり、費用対効果もしっかり考えて処方すべき薬剤であろう。なお、同じTTR安定化薬であるAG10についても、症候性ATTR心筋症患者を対象に、第III相試験(ATTRibute-CM)が現在進行中である。また、TTR silencersとしては、TTR mRNAを選択的に分解して、遺伝子レベルでTTRの産生を特異的に抑制するsiRNA製剤(核酸医薬)であるパチシランが、ATTRvアミロイドーシスの治療薬として本邦でも2019年6月から保険適用されている。そして、現在ATTRwtも含めたATTR心筋症患者に対するパチシランの有効性を検証する第III相試験(APOLLO-B)が進行中である。そして、冒頭でも少し述べた通り、最も切望されている図7の(3)に相当する治療、つまり、抗体を介したATTR線維の貪食と組織からのATTR沈着物の除去を誘導することにより、ATTRを消失させる画期的な治療薬(遺伝子組換えヒト抗ATTRモノクローナルIgG1抗体)の研究も進みつつあり、今年5月に第I相試験(first-in-human)の結果がなんとNEJM誌に掲載され、安全性が確認された1)。その論文には実際に薬剤を使用した患者の画像所見が掲載されているが、沈着したアミロイドが除去されていることを示唆する所見が認められており、今後の第II相、第III相試験の結果が期待される。以上、今回は、早期診断、早期治療がきわめて重要な心アミロイドーシスを取り上げてみた。ぜひ明日からの診療に活かしていただければ幸いである。1)Garcia-Pavia P, et al. N Engl J Med. 2023 May 20.[Epub ahead of print]2)Ioannou A, et al. Eur Heart J. 2023 May 22. [Epub ahead of print]3)Palladini G, et al. Blood. 2016;128:159-168.4)Garcia-Pavia P, et al. Eur Heart J. 2021;42:1554-1568.5)Robbins J, et al.Clin Chem Lab Med. 2002;40:1183-1190.6)Hanson JLS, et al. Circ Heart Fail. 2018;11:e004000.7)Greve AM, et al. JAMA Cardiol. 2021;6:258-266.8)Maurer MS, et al. N Engl J Med. 2018;379:1007-1016.9)Kazi DS, et al. Circulation. 2020;141:1214-1224.

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HR+/HER2-転移乳がんへのSG、より長い追跡期間でも有用性持続(TROPiCS-02)/ASCO2023

 複数の治療歴があるHR+/HER2-転移乳がん患者に対して、sacituzumab govitecan(SG)を医師選択治療(TPC)と比較した第III相TROPiCS-02試験において、SGが無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)を有意に改善し、HER2低発現例においても改善がみられたことがすでに報告されている。今回、探索的解析として、より長い追跡期間(12.75ヵ月)におけるPFSとOS、さらにHER2低発現におけるPFSとOSの解析結果を、米国・Dana-Farber Cancer InstituteのSara M. Tolaney氏が、米国臨床腫瘍学会年次総会(2023 ASCO Annual Meeting)で発表した。 本試験において、SGがPFSを有意に改善(ハザード比[HR]:0.66、95%信頼区間[CI]:0.53~0.83)したことはASCO2022で、OSについてはプロトコールでの最終解析である第2回中間解析の結果、有意に改善(HR:0.79、95%CI:0.65~0.96)したことがESMO2022で発表されている。また、HER2低発現例においてPFSが有意に改善(HR:0.58、95%CI:0.42~0.79)したこともESMO2022で発表されている。今回、探索的解析として、追跡期間を延長し解析した結果が発表された。・対象:転移または局所再発した切除不能のHR+/HER2-乳がんで、転移後に内分泌療法またはタキサンまたはCDK4/6阻害薬による治療歴が1ライン以上、化学療法による治療歴が2~4ラインの成人患者・試験群:SG(1、8日目に10mg/kg、21日ごと)を病勢進行または許容できない毒性が認められるまで静注 272例・対照群:TPC(カペシタビン、ビノレルビン、ゲムシタビン、エリブリンから選択)271例・評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央評価委員会によるPFS[副次評価項目]OS、奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、臨床的有用率(CBR)、安全性など 主な結果は以下のとおり。・データカットオフ(2022年12月1日)時点で、追跡期間中央値は12.75ヵ月となった。・PFS中央値はSG群5.5ヵ月、TPC群4.0ヵ月で、引き続きPFSの改善を示した(HR:0.65、95%CI:0.53~0.81、nominal p=0.0001)。・OS中央値はSG群14.5ヵ月、TPC群11.2ヵ月で、OSも引き続き改善を示した(HR:0.79、95%CI:0.65~0.95、nominal p=0.0133)。12ヵ月OS率は、SG群60.9%、TPC群47.1%、18ヵ月OS率はSG群39.2%、TPC群31.7%、24ヵ月OS率はSG群25.7%、TPC群21.1%であった。・HER2 IHC別のPFSは、HER2低発現(HR:0.60、95%CI:0.44~0.82)およびHER2ゼロ(HR:0.70、95%CI:0.51~0.98)ともSG群で有意に改善がみられた。・HER2 IHC別のOSは、HER2低発現(HR:0.75、95%CI:0.57~0.97)およびHER2ゼロ(HR:0.85、95%CI:0.63~1.14)ともSG群で改善がみられた。・ORR、CBRも引き続き改善を示し、DORは延長した。・延長された追跡期間に新たな安全性シグナルはみられなかった。 Tolaney氏は「本試験の追加された追跡期間においてもSGの有用性が持続したことにより、治療歴のある内分泌療法抵抗性のHR+/HER2-転移乳がんに対して、SGが重要で新たな治療であることがさらに補強された」と結論した。

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降圧薬による血圧低下度に薬剤差、個人差があるのか?(解説:石川讓治氏)

 降圧薬の投与によって速やかに降圧目標に達することで、投与開始後早期の患者の心血管イベント抑制につながると考えられている。そのため、それぞれの患者に最も有効な降圧薬を選択していくことが重要である。 本研究は、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(リシノプリル20mg)、アンジオテンシンII受容体阻害薬(カンデサルタン16mg)、サイアザイド利尿薬(ハイドロクロロサイアザイド25mg)、カルシウムチャンネル阻害薬(アムロジピン10mg)の4種類の降圧薬をクロスオーバーデザインで繰り返し投与し、降圧度の薬剤差、個人差を検討している。ダブルブラインドではあるが、1例の患者が繰り返しこれらの薬剤を内服したり中止したりするプロトコールであり、参加に同意した患者および医師の大変さが想像された。結果として薬剤間で最大4.4mmHgの収縮期血圧の低下度に差が認められたことが報告された。 降圧の効果に患者間で差があることは重要であるが、本研究の降圧投与量は我が国の最大投与量に近い。血圧低下度の差は設定投与量の差でもあり、日常臨床では4.4mmHg程度の差は投与量の増減で調整すればいいのではないかと感じる。本研究においては、どういった特徴の患者において各降圧薬の降圧度がより大きかったのかといったことは示されていないが、日常臨床においてはそういった情報のほうがより重要に思われた。 英国のNICEガイドランにおいては、年齢によって、カルシウムチャンネル阻害薬と、アンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシンII受容体阻害薬のどちらを第一選択にするのかを規定している。プライマリケア医においては、このような明確な指標のほうが有用に思われる。日本高血圧学会の高血圧治療ガイドラインにおいては、4つの種類の降圧薬を医師の判断で第一選択薬として選択可能になっているが、英国同様にプライマリケア医に対するより簡便な指針も検討する時期が来たのかもしれない。また、欧米のガイドラインにおいては、降圧薬間の降圧度の差を考慮し、速やかに降圧目標に到達する目的で、第一選択薬として合剤を使用する基準が記載されている。わが国においては、そういったガイドラインの記載はなく、今後の検討が必要である。

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進行乳がんへのHER3-DXd、効果予測因子は?(ICARUS-BREAST01)/ESMO BREAST 2023

 HR+/HER2-の進行乳がん患者に対し、HER3を標的としたpatritumab deruxtecan(HER3-DXd)を投与した第II相ICARUS-BREAST01試験において、ベースライン時のHER3+の血中循環腫瘍細胞(CTC)数が多い患者、または1サイクル目でHER3+のCTC数が大きく減少した患者では、治療反応が早期に得られやすい傾向にあったことを、フランス・Gustave RoussyのBarbara Pistilli氏が欧州臨床腫瘍学会乳がん(ESMO Breast Cancer 2023、5月11~13日)で報告した。 これまで、HER3+の再発/転移乳がん患者(HR+/HER2-、HER2+、トリプルネガティブ)に対する第I/II相U31402-A-J101試験において、HER3-DXdの有効性と安全性が示されている。この有用性はすべてのサブタイプで同様であり、HER3-DXdはHER3の発現量にあまり依存しない可能性が示唆されており、HER3-DXdに対する反応性/抵抗性のバイオマーカーは不明である。 そこで、本試験は複数治療歴のあるHR+/HER2-進行乳がん患者におけるHER3-DXdの予測因子を明らかにすることを目的として現在行われている。データカットオフは2023年2月15日で、今回は3ヵ月奏効率と安全性データが報告された。なお、IHCでのHER3発現状況の登録は、2022年4月21日より削除された。・対象:CDK4/6阻害薬+内分泌療法歴、1ラインの化学療法歴のあるHR+/HER2-またはHER2低発現の進行乳がん(切除不能の局所進行もしくは転移を有する乳がん)患者・試験群:HER3-DXd 5.6mg/kg 3週間ごとに静脈内投与(治療前、治療中、治療終了時に腫瘍生検) ・評価項目:[主要評価項目]奏効率[副次評価項目]無増悪生存期間、奏効期間、クリニカルベネフィット率、全生存期間、安全性 主な結果は以下のとおり。・データカットオフの時点で85例の患者が試験に参加し、うち56例が評価可能であった。・ベースライン時の患者特性は、年齢中央値56歳(範囲:28~82歳)、全例が女性、HER3+が51.8%、前治療のライン数中央値2(範囲:1~4)、HER3-DXdのサイクル数中央値8(範囲:1~20)であった。・3ヵ月奏効率は、部分奏効が28.6%(16例)、病勢安定が53.6%(30例)、進行が17.8%(10例)であった。・HER3-DXd投与1~2サイクル後に、主にHER3+のCTC数の中央値が減少した。・HER3-のCTC数と治療効果に関連はなく、病勢進行時もHER3-のCTC数の増加はみられなかった。・ベースライン時のHER3+のCTC数が多い患者、または1サイクル目でHER3+のCTC数が大きく減少した患者では、治療反応が早期に得られやすい傾向にあったが、統計学的な有意差は認められなかった。・治療関連有害事象(TRAE)は100%に生じ、多かったものは疲労89.3%、悪心75.0%、下痢46.4%、脱毛44.6、便秘26.8%であった。Grade3以上のTRAEは48.2%で、疲労14.3%、悪心3.6%、下痢3.6%、便秘5.3%であった。間質性肺疾患は1例(1.8%)報告された。 ICARUS BREAST01試験は現在も進行中であり、さらなる有効性と効果予測因子の解析が行われる予定である。

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進行CLLの1次治療、ベネトクラクス併用療法vs.免疫化学療法/NEJM

 進行慢性リンパ性白血病(CLL)で全身状態が良好な患者(すなわち併存病態の負担が少ない患者:fit patient)の1次治療として、ベネトクラクス+抗CD20抗体オビヌツズマブの併用療法は、イブルチニブ併用の有無にかかわらず、免疫化学療法よりも優れることが、ドイツ・ケルン大学のBarbara Eichhorst氏らによる第III相非盲検無作為化試験で示された。これまでに、同患者への1次治療としてのベネトクラクスと抗CD20抗体の併用について評価した無作為化試験は行われていなかった。NEJM誌2023年5月11日号掲載の報告。15ヵ月時点の微小残存病変陰性とPFSを評価 試験はGerman CLL Study Group、HOVON CLL Study Group、Nordic CLL Study Groupによって行われ、欧州9ヵ国とイスラエルの159ヵ所で実施された。 研究グループは、TP53変異陰性の全身状態が良好なCLL患者を1対1対1対1の割合で無作為に4群に割り付け、(1)6サイクル免疫化学療法(フルダラビン+シクロホスファミド+リツキシマブ、またはベンダムスチン+リツキシマブ)、(2)12サイクルのベネトクラクス+リツキシマブの投与、(3)ベネトクラクス+オビヌツズマブの投与、(4)ベネトクラクス+オビヌツズマブ+イブルチニブの投与をそれぞれ行った。イブルチニブは、微小残存病変が2回連続して検出不能(陰性)後は中止し、そうでない場合は延長可能とした。 主要評価項目は、15ヵ月時点でのフローサイトメトリーで評価した微小残存病変の陰性(感度が<10-4[すなわちCLL細胞が1万個中1未満])および無増悪生存期間(PFS)であった。微小残存病変陰性、免疫化学療法群52.0%、ベネトクラクス+オビヌツズマブ群86.5% 2016年12月13日~2019年10月13日に、合計926例が4群に無作為化された(免疫化学療法群229例、ベネトクラクス+リツキシマブ群237例、ベネトクラクス+オビヌツズマブ群229例、ベネトクラクス+オビヌツズマブ+イブルチニブ群231例)。 15ヵ月時点で、微小残存病変陰性であった患者の割合は、免疫化学療法群(52.0%、97.5%信頼区間[CI]:44.4~59.5)と比べて、ベネトクラクス+オビヌツズマブ群(86.5%、80.6~91.1)、ベネトクラクス+オビヌツズマブ+イブルチニブ群(92.2%、87.3~95.7)の両群で、統計学的に有意に高率であった(両群比較のp<0.001)。ベネトクラクス+リツキシマブ群は高率であったが有意ではなかった(57.0%、49.5~64.2、p=0.32)。 3年PFS率は、ベネトクラクス+オビヌツズマブ+イブルチニブ群90.5%、免疫化学療法群75.5%であった(病勢進行または死亡に関するハザード比[HR]:0.32、97.5%CI:0.19~0.54、p<0.001)。また、3年時のPFSはベネトクラクス+オビヌツズマブ群でも有意に高率であった(87.7%、HR:0.42[97.5%CI:0.26~0.68]、p<0.001)が、ベネトクラクス+リツキシマブ群は高率ではあったが有意ではなかった(80.8%、0.79[0.53~1.18]、p=0.18)。 Grade3/4の感染症が、免疫化学療法群(18.5%)およびベネトクラクス+オビヌツズマブ+イブルチニブ群(21.2%)で、ベネトクラクス+リツキシマブ群(10.5%)やベネトクラクス+オビヌツズマブ群(13.2%)よりも多くみられた。

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リアルワールドにおけるフレマネズマブの長期有用性~FRIEND2試験

 イタリア・IRCCS San Raffaele RomaのPiero Barbanti氏らは、高頻度の反復性片頭痛(HFEM:1ヵ月当たりの片頭痛日数8日以上)または慢性片頭痛(CM:1ヵ月当たりの頭痛日数15日以上)患者を対象に、フレマネズマブの長期(24週間)有効性、安全性、忍容性の評価を実施した。その結果、フレマネズマブは、過去に複数の片頭痛の予防的治療に奏効しなかったHFEMおよびCM患者に対し早期かつ持続的な有効性を示し、安全性および忍容性プロファイルも良好であることが確認された。The Journal of Headache and Pain誌2023年3月23日号の報告。 対象は、過去に複数の片頭痛の予防的治療に奏効せず、フレマネズマブ皮下投与(1ヵ月ごとに225mg/3ヵ月ごとに675mg)を24週間以上実施したHFEMまたはCM患者。28の頭痛センター施設で連続登録方式により対象患者を募集し、プロスペクティブコホート・リアルライフ研究を実施した。HFEMおよびCM患者における主要評価項目は、それぞれベースライン時と比較した21~24週目における1ヵ月当たりの片頭痛日数(MMD)および1ヵ月当たりの頭痛日数(MHD)とした。副次的評価項目は、ベースライン時と比較した21~24週目における1ヵ月当たりの鎮痛薬使用の変化、治療反応率(50%以上、75%以上、100%)、NRS(Numerical Rating Scale)、HIT-6(Headache Impact Test-6)、MIDAS(片頭痛評価尺度)スコアの変化とした。すべての評価項目は、4週目にもモニタリングを行った。 主な結果は以下のとおり。・フレマネズマブを1回以上使用した患者410例を安全性分析対象に含め、24週間以上治療を継続した患者148例を有効性分析対象に含めた。・フレマネズマブ使用後21~24週目では、ベースライン時と比較し、HFEMおよびCM患者のいずれにおいても、MMD、MHD、1ヵ月当たりの鎮痛薬使用の変化、NRS、HIT-6、MIDASスコアの有意な減少が確認された(p<0.001)。・21~24週目における治療反応率は、以下のとおりであった。【HFEM】50%以上:75.0%、75%以上:30.8%、100%:9.6%【CM】50%以上:72.9%、75%以上:44.8%、100%:1.0%・HFEMおよびCM患者のいずれにおいても、4週目からMMD、MHD、1ヵ月当たりの鎮痛薬使用の変化、NRS、HIT-6、MIDASスコアの有意な減少が認められた(p<0.001)。・4週目における治療反応率は、以下のとおりであった。【HFEM】50%以上:67.6%、75%以上:32.4%、100%:11.8%【CM】50%以上:67.3%、75%以上:40.0%、100%:1.8%・CM患者では、反復性片頭痛(24週目:83.3%、4週目:80.0%)および薬物乱用から非薬物乱用(24週目:75%、4週目:72.4%)への寛解が認められた。・有害事象の発現率は2.4%と稀であり、軽度および一過性であった。・すべての理由における投与中止例は、認められなかった。

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RA系阻害薬やアンピシリン含有製剤など、使用上の注意改訂

 厚生労働省は5月9日、RA系阻害薬(ACE阻害薬、ARB含有製剤、直接的レニン阻害薬)、アンピシリン水和物含有製剤およびアンピシリンナトリウム含有製剤(アンピシリンナトリウム・スルバクタムナトリウムを除く)の添付文書について、使用上の注意改訂指示を発出した。RA系阻害薬-妊娠する可能性のある女性への注意事項を追加 RA系阻害薬の添付文書には「9.4 生殖能を有する者」の項が新設され、“妊娠する可能性のある女性には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与する旨、及び妊娠する可能性がある女性に投与が必要な場合の注意事項”を以下のように追記した。(1)本剤投与開始前に妊娠していないことを確認すること。本剤投与中も、妊娠していないことを定期的に確認すること。投与中に妊娠が判明した場合には、直ちに投与を中止すること。(2)次の事項について、本剤投与開始時に患者に説明すること。また、投与中も必要に応じ説明すること。・妊娠中に本剤を使用した場合、胎児・新生児に影響を及ぼすリスクがあること。 ・妊娠が判明した又は疑われる場合は、速やかに担当医に相談すること。 ・妊娠を計画する場合は、担当医に相談すること。[妊娠していることが把握されずアンジオテンシン変換酵素阻害剤又はアンジオテンシンII受容体拮抗剤を使用し、胎児・新生児への影響(腎不全、頭蓋・肺・腎の形成不全、死亡等)が認められた例が報告されている] 今回、妊娠中の調査対象医薬品の曝露による児への影響が疑われる症例(児の副作用関連症例)の集積状況を評価した結果、添付文書で妊婦に投与しないよう注意喚起しているにもかかわらず症例の報告が継続していることが明らかとなり、妊娠する可能性のある女性への使用に関する注意が必要であると判断された。抗菌薬のアンピシリンなどは肝機能障害に注意 また、アンピシリン水和物含有製剤およびアンピシリンナトリウム含有製剤については、投与後の肝機能検査値の最悪値が有害事象共通用語規準(CTCAE v5.0)Grade3以上に該当する肝機能障害関連の国内症例を評価し、本剤と肝機能障害との因果関係の否定できない国内症例が集積したことから、以下のように使用上の注意を改訂することが適切と判断された。1.「重要な基本的注意」(新記載要領)又は「重大な副作用」(旧記載要領)の項に定期的な肝機能検査を行う旨を追記する。2. 「重大な副作用」の項に「肝機能障害」を追記する。

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最適な降圧薬は人によって異なるのか/JAMA

 高血圧患者における最適な降圧療法は個人によって異なるか、個別に目標を定めた降圧療法は有益性を最大化できるかという問いには、いまだ明確な解答は得られていないという。スウェーデン・ウプサラ大学のJohan Sundstrom氏らは「PHYSIC試験」において、高血圧に対する4つの異なるクラスの降圧薬による単剤療法の血圧反応にはかなりの異質性があり、これは高血圧治療における個別化治療の進展の可能性を示唆するものであることを示した。研究の成果は、JAMA誌2023年4月11日号に掲載された。スウェーデンの無作為化反復クロスオーバー試験 PHYSIC試験は、いくつかの降圧薬による治療を反復することで、患者内および患者間の血圧反応の差を定量化するようデザインされた二重盲検無作為化反復クロスオーバー試験であり、2017年2月~2020年5月の期間に、ウプサラ大学病院内科の外来研究クリニックで参加者のスクリーニングが行われた(Swedish Research Councilなどの助成を受けた)。 対象は、年齢40~75歳の男女で、試験開始前の5年以内にI度高血圧(収縮期血圧[SBP]140~159mmHg)と診断され、未治療または1剤による降圧治療を受けており、試験期間中に降圧治療の中止が可能な患者であった。混合効果モデルを用いて、1つの治療が他の治療よりも、どの程度効果が高いかを評価し、個別化治療によって達成可能な付加的な血圧の低下量を推定した。 被験者は、4つのクラスの降圧薬(リシノプリル[ACE阻害薬]、カンデサルタン[ARB]、ヒドロクロロチアジド[サイアザイド系利尿薬]、アムロジピン[Caチャネル拮抗薬])の投与を受ける群に無作為に割り付けられ、2つのクラスの薬剤による反復治療が行われた。1剤の投与期間は7~9週で、6期間の治療が実施された。 主要アウトカムは、各治療期間終了時における日中の外来SBPであった。個別化によりSBPがさらに4.4mmHg低下の可能性 280例(平均年齢64歳、男性54.3%)が無作為化の対象となり、合計1,680回の治療が行われた。このうち270例における1,468回の治療(治療期間中央値56日)が主解析に含まれた。高血圧の平均罹患期間は3年、62.1%が降圧薬単剤療法の治療歴があり、平均診察室血圧は154/89mmHgだった。 初回治療期間終了時の平均SBPは、ヒドロクロロチアジド(136.1[SD 10.3]mmHg)が他の薬剤に比べて高く、アムロジピン(130.9[8.6]mmHg)はリシノプリル(129.7[12.7]mmHg)よりも、カンデサルタン(131.8[12.8]mmHg)はリシノプリル(129.7[12.7]mmHg)よりも高かった。 個々の治療に対する血圧反応は、患者間でかなり異なっていた(p<0.001)。血圧反応の差は、とくにリシノプリルとヒドロクロロチアジド(p<0.001)、リシノプリルとアムロジピン(p<0.001)、カンデサルタンとヒドロクロロチアジド(p=0.03)、カンデサルタンとアムロジピン(p<0.001)の間で顕著であった。 一方、リシノプリルとカンデサルタン(p=0.46)、ヒドロクロロチアジドとアムロジピン(p=0.10)には大きな差はなかった。 また、降圧薬を固定した場合と比較して、個別化治療により個々の患者にとって最良の降圧薬を選択すると、SBPをさらに平均4.4mmHg低下させる可能性が示された。 著者は、「これらの知見は、個別化治療の可能性を示唆するものである。今後、複数の降圧薬による治療の個別化の可能性を検証し、日常臨床において降圧療法の個別化を可能にするメカニズムを解明するための研究を進める必要がある」としている。

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IgA腎症の病態に根差した治療(解説:浦信行氏)

 CLEAR!ジャーナル四天王-1535「高リスクIgA腎症に対する経口ステロイドの効果と有害事象を勘案した治療法」の稿で低用量ステロイド群の優位性を解説したが、用量の多寡にかかわらず治療終了後の追跡期間で効果が減弱することが明らかであり、より一層病態に根差した治療法の開発の必要性を述べた。 このたびLancet誌に掲載された新規の非免疫抑制性単分子エンドセリン受容体・アンジオテンシンII受容体デュアル拮抗薬のsparsentanのデータは、病態に根差した有用な治療法であることを期待させるものである。 エンドセリン受容体拮抗薬は血管拡張作用を発揮するが、従来はボセンタンを皮切りに複数の薬剤の臨床使用が可能で、肺動脈性肺高血圧症や、静脈投与に限られるがくも膜下出血術後の脳血管攣縮の抑制に用いられていた。加えて心臓や血管、腎臓に対するエンドセリンの血管収縮作用などに基づく臓器障害作用から、受容体拮抗薬の臓器保護の可能性が期待されていた。A受容体は腎においては糸球体血流低下、レニン分泌増加、メサンギウム細胞収縮、ポドサイト障害による蛋白透過性亢進、糸球体硬化などを惹起するが、B受容体はそれらに拮抗する作用を示す。したがって、受容体の選択性を考慮する必要がある。 sparsentanはA受容体に特異性の高い拮抗薬であり、このたびはIgA腎症を対象として対照群はARB使用群として、第III相二重盲検試験の36週目の中間報告として結果が公表された。結果はジャーナル四天王に示すとおり、49.8%の尿蛋白減少効果を示し、ARB群より41%有意に低下させた。また、尿蛋白の完全寛解率は21%、部分寛解率は70%に及び、いずれもARB群より有意に高値であった。これまでの臨床成績としては糖尿病性腎症や巣状糸球体硬化症で同様の成績が報告されているが、いずれも症例数が少なく、また短期間のデータである。巣状糸球体硬化症に関しては、現在第III相試験が進行中である。果たして試験終了までの2年間の治療で尿蛋白減少作用と腎機能保護作用が確実なものとなるか、期待をもって注目したい。

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重症コロナ患者、ACEI/ARBで生存率低下か/JAMA

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症成人患者において、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)やアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)の投与は臨床アウトカムを改善せず、むしろ悪化させる可能性が高いことを、カナダ・University Health NetworkのPatrick R. Lawler氏ら「Randomized, Embedded, Multifactorial, Adaptive Platform Trial for Community-Acquired Pneumonia trial:REMAP-CAP試験」の研究グループが報告した。レニン-アンジオテンシン系(RAS)の中心的な調節因子であるACE2は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の受容体であることから、RASの過剰活性化がCOVID-19患者の臨床アウトカム不良につながると考えられていた。JAMA誌2023年4月11日号掲載の報告。RAS阻害薬または非RAS阻害薬による治療で21日間の無臓器補助日数を評価 REMAP-CAP試験は、現在も進行中の、重症市中肺炎およびCOVID-19を含む新興・再興感染症に対する複数の治療を評価する国際多施設共同無作為化アダプティブプラットフォーム試験で、今回はその治療ドメインの1つである。 研究グループは、2021年3月16日~2022年2月25日の期間に、7ヵ国69施設において18歳以上のCOVID-19入院患者を登録し、重症群と非重症群に層別化するとともに、参加施設をACEI群、ARB群、ARB+DMX-200(ケモカイン受容体2型阻害薬)群、非RAS阻害薬(対照)群に無作為に割り付け、治療を行った。治療は最大10日間または退院までのいずれか早いほうまでとした。 主要評価項目は、21日時点における無臓器補助日数(呼吸器系および循環器系の臓器補助を要しなかった生存日数)で、院内死亡は「-1」、臓器補助なしでの21日間の生存は「22」とした。 主解析では、累積ロジスティックモデルのベイズ解析を用い、オッズ比が1を超える場合に改善と判定した。無臓器補助日数はACEI群10日、ARB群8日、対照群12日 2022年2月25日で、予定された564例の安全性データの評価に基づき、対照群と比較しACEI群およびARB群で死亡および急性腎障害が高頻度であることが懸念されたため、データ安全性モニタリング委員会の勧告により重症患者の登録が中止された。非重症患者の登録も同時に一時中断され、その後、2022年6月8日に試験は中止となった。最終追跡調査日は2022年6月1日であった。 全体で779例が登録され、ACEI群に257例、ARB群に248例、ARB+DMX-200群に10例、対照群に264例が割り付けられた。このうち、同意撤回やアウトカム不明、ならびにARB+DMX-200群を除く各群の重症患者計679例(平均年齢56歳、女性35.2%)が解析対象となった。 重症患者における無臓器補助日数の中央値(IQR)は、ACEI群(231例)で10日(-1~16)、ARB群(217例)で8日(-1~17)、対照群(231例)で12日(0~17)であった。 対照群に対する改善の調整オッズ比中央値は、ACEI群0.77(95%信用区間[CrI]:0.58~1.06)、ARB群0.76(0.56~1.05)であり、治療により無臓器補助日数が対照群より悪化する事後確率はそれぞれ94.9%および95.4%であった。 入院生存率は、ACEI群71.9%(166/231例)、ARB群70.0%(152/217例)、対照群78.8%(182/231)であり、対照群と比較して入院生存率が悪化する事後確率は、ACEI群95.3%、ARB群98.1%であった。

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IgA腎症での尿蛋白減少、sparsentan vs.イルベサルタン/Lancet

 IgA腎症の成人患者において、新規の非免疫抑制性単分子エンドセリン受容体・アンジオテンシン受容体デュアル拮抗薬sparsentanの1日1回投与は、イルベサルタンとの比較において尿蛋白を有意に減少させ、安全性はイルベサルタンと類似していた。オランダ・フローニンゲン大学のHiddo J. L. Heerspink氏らが、18ヵ国134施設で実施された無作為化二重盲検第III相試験「PROTECT試験」の、事前に規定された中間解析結果を報告した。結果を踏まえて著者は、「今後、2年間の二重盲検期間完了後の解析により、今回示されたsparsentanの有益な効果が長期的な腎保護作用につながるかどうかが示されるだろう」と述べている。Lancet誌オンライン版2023年4月1日号に掲載の報告。sparsentan vs.イルベサルタン、尿蛋白/クレアチニン比の変化量で検証 研究グループは、2018年12月20日~2021年5月26日に、生検でIgA腎症と確定診断されACE阻害薬またはARBの最大用量による治療を少なくとも12週間受けているが、スクリーニング時の尿蛋白が1.0g/日以上、推定糸球体濾過量(eGFR)が≧30mL/分/1.73m2の18歳以上の成人患者を登録し、スクリーニング時のeGFR(30~<60mL/分/1.73m2、≧60mL/分/1.73m2)および尿蛋白(≦1.75g/日、>1.75g/日)で層別化して、sparsentan(400mg1日1回投与)群またはイルベサルタン(300mg1日1回投与)群に無作為に割り付けた。 有効性の主要エンドポイントは、36週時における24時間蓄尿による尿蛋白/クレアチニン比のベースラインからの変化量とし、反復測定混合効果モデルを用いて評価した。安全性のエンドポイントは、治療下で発現した有害事象(TEAE)とした。 本稿は事前に規定された中間解析の結果を報告したもので、カットオフ日は、有効性が2021年8月1日、安全性が2022年2月1日であった。sparsentan群で尿蛋白/クレアチニン比が有意に減少 スクリーニングを受けた合計671例中406例が無作為化され、このうち2例(各群1例)が試験薬を投与されず、404例が解析対象となった(sparsentan群202例、イルベサルタン群202例)。 36週時における尿蛋白/クレアチニン比のベースラインからの変化率(幾何最小二乗平均値)は、sparsentan群-49.8%、イルベサルタン群-15.1%であり、sparsentan群がイルベサルタン群より41%有意に低下した(最小二乗平均比率:0.59、95%信頼区間[CI]:0.51~0.69、p<0.0001)。 TEAEは、sparsentan群とイルベサルタン群で類似していた。重度浮腫、心不全、肝毒性、浮腫に関連した投与中止は認められなかった。ベースラインからの体重変化は、sparsentan群とイルベサルタン群で差はなかった。

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収縮期血圧とCOVID-19重症化リスクの用量反応関係

 高血圧患者の血圧管理状況と、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患時の重症化リスクとの間に、有意な用量反応関係があるとする研究結果が報告された。英ケンブリッジ大学のHolly Pavey氏らが、同国の大規模ヘルスケア情報ベース「UKバイオバンク」のデータを解析した結果であり、詳細は「PLOS ONE」に11月9日掲載された。 高血圧はCOVID-19患者の基礎疾患として最も多く見られ、かつ重症化リスクとの関連が示唆されている。ただし、血圧管理状況と重症化リスクとの関連は、必ずしも十分明らかになっていない。Pavey氏らはこの点について、UKバイオバンクのビッグデータを用いた検討を行った。 解析に必要なデータ欠落のない43万8,400人のうち、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)陽性判定やCOVID-19の診断、またはCOVID-19による死亡が記録されていた1万6,134人(平均年齢65.3±8.7歳、男性47.4%)を解析対象とした。このうち6,517人(40.4%)が高血圧であり、その67.4%は降圧薬が処方されていた。 世界保健機関(WHO)のCOVID-19重症度分類の4~10(入院を要する状態~死亡)を重症と定義すると、3,584人(22.2%)が該当。そのうち29.6%は死亡していた。 まず、高血圧でないCOVID-19患者と高血圧患者を比較すると、高血圧患者の重症化リスクは交絡因子未調整でオッズ比(OR)2.33(95%信頼区間2.16~2.51)であり、年齢と性別で調整してもOR1.52(同1.40~1.65)であって、高血圧患者で有意なリスク上昇が認められた。さらに、調整因子にBMI、人種/民族、喫煙習慣、糖尿病、CRP、タウンゼント指数を追加してもOR1.22(1.12~1.33)、心血管疾患や脳卒中の既往を加えた場合もOR1.15(1.05~1.26)であり、有意性は保たれていた。 次に、研究の主題である、血圧管理状況と重症化リスクとの用量反応関係を検討。収縮期血圧(SBP)120~129mmHgに管理されていた患者を基準とすると、血圧がより低く管理されている場合と管理不良の場合の双方で、以下のように重症化リスクの上昇が認められた。SBP120mmHg未満ではOR1.40(1.11~1.78)、150~159mmHgではOR1.91(1.44~2.53)、160~169mmHgでOR1.77(1.21~2.58)、170~179mmHgでOR1.90(1.09~3.31)、180mmHg以上でOR1.93(1.06~3.51)。なお、SBP130~149mmHgの範囲は非有意だった。 著者らは結論を、「高血圧はCOVID-19重症化のリスク因子である。また、降圧治療を受けている患者では、血圧がコントロールされていない場合に、重症化リスクがより高いことが示された」とまとめている。 なお、SARS-CoV-2はアンジオテンシン変換酵素II(ACEII)を足場として体内に侵入するため、パンデミック当初、ACE阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)が重症化リスクに影響を与えるとの懸念が指摘され、その後、そのような可能性を否定する研究が複数報告されていたが、本研究においても、ACE阻害薬やARBによる重症化リスクへの影響は認められなかった。

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HFpEF診療はどうすれば…?(後編)【心不全診療Up to Date】第7回

第7回 HFpEF診療はどうすれば…?(後編)Key Points簡便なHFpEF診断スコアで、まずはHFpEFの可能性を評価しよう!HFpEF治療、今できることを整理整頓、明日から実践!HFpEF治療の未来は、明るい?はじめに近年、HFpEF(heart failure with preserved ejection fraction)は病態生理の理解、診断アプローチ、効果的な新しい治療法の進歩があるにもかかわらず、日常診療においてまだ十分に認識されていない。そのような現状であることから、前回はまず最新の定義、病態生理についてレビューした。そして、今回は、その後編として、HFpEFの診断、そして治療に関して、最新情報を含めながら皆さまと共有したい。 HFpEFの診断スコアってご存じですか?呼吸苦や倦怠感などの心不全徴候を認め、EF≥50%でうっ血を示唆する客観的証拠を認めた場合、HFpEFと診断される1)。そのため、エコーでの拡張障害の評価はHFpEFを診断する上では必要がなく、またNa利尿ペプチド(NP)値が正常であっても、HFpEFを除外することはできないと前回説明した。では、具体的にどのようにして診断を進めていくとよいか、図1を基に考えていこう。(図1)HFpEFが疑われる患者を評価するためのアプローチ方法画像を拡大するまず、原因不明の労作時息切れを主訴に来院された患者に対して、病歴、身体所見、心エコー検査、臨床検査などからHFpEFである可能性を検討するわけであるが、その際に大変参考になるのが、診断のためのスコアリングシステムである。たとえば、米国で開発されたH2FPEFスコアでは、スコア5点以上であれば、HFpEFが強く疑われ(>80% probability)、1点以下であれば、ほぼ除外できる2)。ただし、NP値上昇や心不全徴候を認めるにも関わらず、H2FPEFスコアが低い場合は、アミロイドーシスやサルコイドーシスのような浸潤性心筋症など非典型的なHFpEFの原因疾患を疑う姿勢が重要である点も強調しておきたい(図2)。(図2)HFpEFを発症し得る治療可能な疾患画像を拡大するこれらのスコア算出の結果、HFpEFの可能性が中程度の患者に対しては、運動負荷検査が推奨される。運動負荷検査には、心エコー検査と右心カテーテル検査があるが、診断のゴールドスタンダードは、右心カテーテル検査による安静時および運動時の血行動態評価であり、安静時PAWP≥15mmHgもしくは労作時PAWP≥25mmHg(spine)、もしくは労作時PAWP/心拍出量slope>2mmHg/L/min(upright)を満たせば、HFpEFと診断できる3)。ただ、侵襲的な運動負荷検査は、どの施設でも気軽にできるものではなく、受動的下肢挙上や容量負荷といった代替的な検査法の有用性に関する報告もある4-6)。とくに心エコー検査にて下肢挙上後の左房リザーバーストレインの低下は、運動耐容能の低下とも関連していたという報告もあり、非侵襲的であることから一度は施行すべき検査手法と考えられる7)。なお、脈拍応答不全の診断については、Heart rate reserve([最大心拍数-安静時心拍数]/[220-年齢-安静時心拍数])を算出し、0.8未満(β遮断薬内服時は0.62未満)であれば、脈拍応答不全あり、と一般的に定義される8)。なお、私自身も現在、HFpEF早期診断のためのウェアラブルデバイス開発に取り組んでいるが、今後はより非侵襲的に診断できるようになることが切望される。そして、HFpEFであると診断した後、まず考えるべきことは『原因は何だろうか?』ということである。なぜなら、その鑑別疾患の中には治療法が存在するものもあるからである(図2)。アミロイドーシスを疑うような手根管症候群や脊柱管狭窄症を示唆する身体所見はないか、頚静脈もしっかり観察してKussmaul徴候はないか、心エコーにて中隔変動(septal bounce)や肝静脈血流速度の呼気時の拡張期逆流波はないか、スペックルトラッキングエコーによる左室長軸方向ストレイン(GLS, global longitudinal strain)のbullseye mapに特徴的なパターンがないか…など、ぜひご確認いただきたい9)。HFpEF治療の今、そして今後は?かかりつけ医の先生方にもご承知いただきたいHFpEF治療の流れを図でまとめたので、これを基にHFpEF治療の今を説明する(図3)。(図3)HFpEF治療 2023画像を拡大するHFpEFの診断が確定し、図2に記載してあるような疾患を除外した上で、まず考慮すべき処方は、SGLT2阻害薬である。なぜなら、EMPEROR-Preserved試験およびDELIVER試験において、SGLT2阻害薬であるエンパグリフロジンおよびダパグリフロジンが、EF>40%の心不全患者において、主要エンドポイントである心不全入院または心血管死が20%減少することが示されたからである(ただし、eGFR<20mL/min/1.73m2、1型糖尿病、糖尿病性ケトアシドーシスの既往がある場合は避ける。そのほかSGLT2阻害薬使用時の注意事項は、「第3回 SGLT2阻害薬」を参照)10, 11)。そして、それと同時に身体所見、臨床検査、画像検査などマルチモダリティを活用して体液貯留の有無を評価し、体液貯留があれば、ループ利尿薬や利水剤(五苓散、牛車腎気丸、木防已湯など)を使用し12)、TOPCAT試験の結果から心不全入院抑制効果が期待され、薬価が安いMR拮抗薬の投与をできれば考慮いただきたい13)。とくにカリウム製剤が投与されている患者では、それをMR拮抗薬へ変更すべきであろう。そして、忘れてはならないのが、併存疾患に対するマネージメントである。高血圧があれば、130/80mmHg未満を達成するように降圧薬(ARB、ARNiなど)を投与し、鉄欠乏性貧血(transferrin saturation<20%など)があれば、骨格筋など末梢の機能障害へのメリットを期待して鉄剤(カルボキシマルトース第二鉄[商品名:フェインジェクト])の静注投与を検討する。そのほか、肥満、心房細動、糖尿病、冠動脈疾患、慢性腎臓病、COPD、睡眠時無呼吸症候群などに対してもガイドライン推奨の治療をしっかり行うことが重要である。(表1)画像を拡大するそれでも心不全症状が残存し、EFが55~60%未満とやや低下しており、収縮期血圧が110~120mmHg以上ある患者に対しては、ARNiの追加投与を検討する(詳細は第4回 「ARNi」を参照)。なお、HFrEFにおいて必要不可欠なβ遮断薬については、虚血性心疾患や心房細動がなければ、HFpEFに対しては原則投与しないほうが良い。なぜなら、HFpEFでは運動時に脈拍を早くできない脈拍応答不全の合併が多く、投与されていたβ遮断薬を中止することで、peak VO2が短期で大幅に改善したという報告もあるからである14)。なお、脈拍応答不全に対して右房ペーシングにより運動時の心拍数を上げることで運動耐容能が改善するかを検証した試験の結果が最近公表されたが、結果はネガティブで、現時点では脈拍応答不全に対して、心拍数を落とす薬剤を中止する以外に明らかな治療法はなく、今後さらに議論されるべき課題である15)。これらの治療以外にも、mRNA医薬、炎症をターゲットとした薬剤、代謝調整薬(ATP産生調整など)といった、さまざまなHFpEF治療薬の開発が現在進められている16)。また、近年HFpEFは、肥満や座りがちな生活と密接に結びついた運動不耐性の原因としても着目されており、心不全患者教育、心臓リハビリテーションもエビデンスのあるきわめて重要な治療介入であることも忘れてはならない17, 18)。最近は大変ありがたいことに心不全手帳(第3版)が心不全学会サイトでも公開されており、ぜひ活用いただきたい(http://www.asas.or.jp/jhfs/topics/shinhuzentecho.html)。非薬物治療に関しても、今まで欧米を中心に多くの研究が実施されてきた。例えば、症候性心不全患者に対する肺動脈圧モニタリングデバイスガイド下の治療効果を検証したCHAMPION試験のサブ解析において、肺動脈モニタリングデバイス(商品名:CardioMEMS HF System)を使用することで、HFpEF患者において標準治療よりも心不全入院が50%減少し、心不全管理における有用性が報告されている(本邦では未承認)19)。また、HFpEF(EF≥40%)に対する心房シャントデバイス(商品名:Corvia)治療の効果を検証したREDUCE LAP-HF II試験の結果もすでに公表されている20)。心血管死、脳卒中、心不全イベント、QOLを含めた主要評価項目において、心房シャントデバイスの有効性を示すことができなかったが、本試験では全患者に対して運動負荷右心カテーテル検査を実施しており、ポストホック解析において、運動時肺血管抵抗(PVR, pulmonary vascular resistance)が上昇しなかった群(PVR≤1.74 Wood units)では臨床的便益が得られる可能性が見いだされ21)、この群にターゲットを絞ったレスポンダー試験が現在進行中である。また、血液分布異常を改善させるための右大内臓神経アブレーション(GSN ablation)の有効性を検証するREBALANCE-HF試験も現在進行中であるが、非盲検ロールイン段階における予備的解析では、運動時の左室充満圧とQOL改善効果が認められたことが報告されており22)、今後本解析(sham-controlled, blinded trial)の結果が期待される。そのほかにも多くのHFpEF患者を対象とした臨床試験、橋渡し研究が進行中であり(表2)、これらの結果も大変期待される。(表2)HFpEFについて進行中の臨床試験 画像を拡大する以上HFpEF治療についてまとめてきたが、現時点ではHFpEFの予後を改善する治療法はまだ確立しておらず、さらに一歩進んだ治療法の確立が喫緊の課題である。つまり、HFpEFのさらなる病態生理の解明、非侵襲的に診断するための技術開発、個別化治療に結びつくフェノタイピング戦略を活用した新たな次世代の革新的研究が必要であり、その実現に向けて、前回紹介した米国HeartShare研究など、現在世界各国の研究者が本気で取り組んでいるところである。ただ、それまでにわれわれにできることも、図3の通り、しっかりある。ぜひ、目の前の患者さんに今できることを実践していただき、またかかりつけ医の先生方からも循環器専門施設の先生方へフィードバックいただきながら、医療従事者皆が一眼となってより良いHFpEF治療をわが国でも更新し続けていければと強く思う。1)Borlaug BA, et al. Nat Rev Cardiol 2020;17:559-573.2)Reddy YNV, et al. Circulation. 2018;138:861-870.3)Eisman AS, et al. Circ Heart Fail. 2018;11:e004750.4)D'Alto M, et al. Chest. 2021;159:791-797.5)Obokata M, et al. JACC Cardiovasc Imaging. 2013;6:749-758.6)van de Bovenkamp AA, et al. Circ Heart Fail. 2022;15:e008935.7)Patel RB, et al. J Am Coll Cardiol. 2021;78:245-257.8)Azarbal B, et al. J Am Coll Cardiol 2004;44:423-430.9)Marwick TH, et al. JAMA Cardiol. 2019;4:287-294.10)Anker SD, et al. N Engl J Med. 2021;385:1451-1461.11)Solomon SD, et al. N Engl J Med. 2022;387:1089-1098.12)Yaku H, et al. J Cardiol. 2022;80:306-312.13)Pitt B, et al. N Engl J Med. 2014;370:1383-1392.14)Palau P, et al. J Am Coll Cardiol. 2021;78:2042-2056. 15)Reddy YNV, et al. JAMA;2023:329:801-809.16)Pugliese NR, et al. Cardiovasc Res. 2022;118:3536-3555.17)Kamiya K, et al. Circ Heart Fail. 2020;13:e006798.18)Bozkurt B, et al. J Am Coll Cardiol. 2021;77:1454-1469.19)Adamson PB, et al. 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リンパ節転移のないHER2+乳がん、術後PTX+トラスツズマブでの10年生存率/Lancet Oncol

 リンパ節転移のないHER2陽性(HER2+)乳がんに対するパクリタキセル+トラスツズマブでの術後補助療法の長期アウトカムを調査した非盲検単群第II相試験の10年間の解析結果について、米国・Dana-Farber Cancer InstituteのSara M. Tolaney氏らがLancet Oncology誌2023年3月号で報告した。著者らはこの結果から、「腫瘍サイズが小さくリンパ節転移のないHER2+乳がんの術後補助療法の標準治療として、パクリタキセル+トラスツズマブが妥当である」としている。 本試験は、米国13都市16施設から、腫瘍の大きさが3cm以下でリンパ節転移のない18歳以上のHER2+乳がんでPS 0~1の患者を対象とした。適格患者には、パクリタキセル(80mg/m2)+トラスツズマブ(負荷量4mg/kg、維持量2mg/kg)の静脈内投与を12週、その後トラスツズマブ(毎週2mg/kgもしくは3週ごとに6mg/kg)を40週投与した。主要評価項目は3年無浸潤疾患生存(iDFS)率で、今回はプロトコールで規定された治療を受けた患者すべてを対象とした10年生存率と、HER2DXゲノムツールを用いた探索的解析の結果を報告した。 主な結果は以下のとおり。・2007年10月29日~2010年9月3日に登録された410例中406例がパクリタキセル+トラスツズマブの術後補助療法を受けた。・登録時の平均年齢は55歳(標準偏差:10.5)、406例中女性が405例(99.8%)、白人が350例(86.2%)、ホルモン受容体陽性が272例(67.0%)だった。・追跡期間中央値10.8年(四分位範囲:7.1~11.4)で、解析集団406例においてiDFSイベントが31例に観察され、局所同側再発6例(19.4%)、新規の対側乳がん9例(29.0%)、遠隔再発6例(19.4%)、死亡10例(32.3%)であった。・10年iDFS率は91.3%(95%信頼区間[CI]:88.3~94.4)、10年無再発率は96.3%(95%CI:94.3~98.3)、10年全生存率は94.3%(95%CI:91.8~96.8)、10年乳がん特異的生存率は98.8%(95%CI:97.6~100)であった。・HER2DXリスクスコアは、iDFS率(10単位増加当たりのハザード比[HR]:1.24、95%CI:1.00~1.52、p=0.047) および無再発期間(HR:1.45、95%CI:1.09~1.93、p=0.011)と有意に関連していた。

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