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第132回 エーザイのアルツハイマー病薬の第III相試験成功

エーザイのアルツハイマー病薬lecanemab(レカネマブ)が第III相試験(Clarity AD)で有望な認知機能低下抑制効果を示し、試験の主要目標やその他の副次目標一揃いを達成しました1,2)。lecanemabはアルツハイマー病の特徴として知られる脳のアミロイドβ(Aβ)病理の解消を目指すモノクローナル抗体です。-0.45点の意義Clarity AD という名称の同試験は2019年3月に始まり3)、早期アルツハイマー病患者1,795人が参加しています。lecanemabは2週間に1回静注され、18ヵ月時点の主要評価項目・CDR-SB点数上昇(悪化)をプラセボに比べて有意に抑制しました。CDR-SBは数ある認知症検査の1つで、もともとはアルツハイマー病の初めの病状を把握する検査として使われていましたが、10年ほど前の米国FDA方針以降臨床試験の転帰として受け入れられるようになっています4)。医師は患者自身、その介護者、家族からの情報や記憶や問題解決能力などの患者向け検査結果に基づいてCDR-SBの点数を計算します。CDR-SBの点数の幅は0~18点で、点数が高いほど病状が悪いことを意味します。そのCDR-SB得点の上昇をプラセボに比べて差し引きで0.45点、率にして27%減少させたことをエーザイは有意義(clinically meaningful)な結果であるとみなしました3)。一方、University College Londonの精神科医Rob Howard氏に言わせるとその差は小さすぎてプラセボとほとんど見分けが付きません5)。以前に同氏等は患者の日常に有意義な結果とみなすにはプラセボと少なくとも0.5かそれ以上の差が必要と主張していました5,6)。また、lecanemabが今回の第III相試験で示した認知機能低下の抑制を患者やその家族がどれほど実感したかはまだ判断不可能であり6)、そのためにはさらに情報が必要です。今後の追加情報はさておき、アナリストが成功水準とした率にして20~25%以上の対プラセボCDR-SB上昇抑制を上回る27%抑制をlecanemabは達成していますし、同剤が米国FDA承認を逃すというのはおよそありえなさそうです4)。影の立役者・北方の変異他のAβ標的抗体が軒並み難抗する中でlecanemabが大一番の第III相試験の成功にとうとう漕ぎ着けたのはなぜか? それは遡ること20年以上前に発表されたAβ前駆タンパク質変異の発見がだいぶ貢献しているようです。北方の(Arctic)国スウェーデンの人から見つかったその変異はアークティック変異(E693G)と呼ばれ、Aβのアミノ酸配列の22番目を変える変異であり、Aβ凝集(Aβプロトフィブリル)形成を促してアルツハイマー病を誘発します7)。Aβプロトフィブリルを除去するlecanemabは他でもないそのアークティック変異の発見者であるLars Lannfelt氏等が設立したスウェーデン拠点のBioArctic社とエーザイの共同研究によって誕生しました。lecanemabが認識するAβアミノ酸配列(エピトープ)は最初から16番目と、プロトフィブリルを形成したときの21~29番目領域です。その性質ゆえlecanemabは神経にどうやら有毒らしい可溶性Aβプロトフィブリルをより容易に優先して認識します3)。ライバルの足音lecanemabはClarity AD試験結果を含まない第II相試験結果を拠り所に取り急ぎの承認申請(Accelerated Approval)が米国FDAに提出されており、その審査結果は来年2023年1月6日までに判明します。取り急ぎではない不動の承認(traditional/full approval)を目指す申請も来年3月31日までになされる予定です。来月11月29日にはClarity AD試験結果の詳細がアルツハイマー病臨床試験会議(CTAD:Clinical Trials on Alzheimer‘s Disease)で発表されます。その会議ではRoche(ロシュ)の抗Aβ抗体gantenerumab(ガンテネルマブ)の第III相試験結果も発表され、さらに来年2023年中にはEli Lilly(イーライ・リリー)の抗Aβ抗体donanemabの大一番(ピボタル)試験結果も明らかになる見込みです4)。興味深いことに、lecanemabと同様にロシュのgantenerumabもアークティック変異を反映するAβアミノ酸22番目を含む領域を認識します。ただしlecanemabがAβプロトフィブリルに特異的なのに比べてgantenerumabはより非特異的であり、Aβ単量体にもより結合します8)。lecanemabの課題Clarity AD試験の被験者選択基準の1つは脳にアミロイド病変があることであり、その確認にはたいていPET撮影を必要とします。そういう画像診断の要件は同剤普及の足かせになるかもしれません4)。lecanemabの用法である隔週での静注も使用を諦める理由になるかもしれませんが、エーザイは投与がより容易なその皮下注射の臨床試験をすでに始めています1,2)。参考1)抗アミロイドβ(Aβ)プロトフィブリル抗体「レカネマブ」について、1,795人の早期アルツハイマー病当事者様を対象としたグローバル大規模臨床第III相CLARITY AD検証試験において、統計学的に高度に有意な臨床症状の悪化抑制を示し、主要評価項目を達成 / エーザイ2)LECANEMAB CONFIRMATORY PHASE 3 CLARITY AD STUDY MET PRIMARY ENDPOINT, SHOWING HIGHLY STATISTICALLY SIGNIFICANT REDUCTION OF CLINICAL DECLINE IN LARGE GLOBAL CLINICAL STUDY OF 1,795 PARTICIPANTS WITH EARLY ALZHEIMER'S DISEASE / PRNewswire3)Topline Results of Clarity AD Conference for Media and Investors / Eisai4)Lecanemab can; now the wait for details begins / Evaluate5)Alzheimer’s drug slows mental decline in trial - but is it a breakthrough? / Nature6)Alzheimer’s drug results are promising - but not a major breakthrough / NewScientist7)Nilsberth C, et al. Nat Neurosci. 2001;4:887-93. 8)Science of the amyloid-b cascade and distinct mechanisms of action of lecanemab / BioArctic

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HIV感染と心血管疾患に関連はあるか/JAMA

 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に関連した心血管疾患の有病率は増加しているが、そのメカニズムはまだ十分に理解されていないという。英国・キングス・カレッジ・ロンドンのJonathan A. Hudson氏らは、HIV感染者と非感染者を高度な心血管画像法で比較した研究のデータを解析した。その結果、HIV感染者の画像ベースの心血管系病変に関する利用可能なデータの要約を提供することはできたものの、解析の対象となった研究は異質性が大きく、HIV感染率の高い低所得国のデータは含まれていないため、結果の解釈は限定的とならざるをえないことが示された。研究の詳細は、JAMA誌2022年9月13日号に掲載された。感染の有無で心血管画像を比較した研究の系統的レビュー 研究グループは、HIV感染者と非感染者をCT冠動脈造影、心臓MR、PETを用いて比較検討した高度な心血管画像研究について系統的なレビューを行った(英国心臓財団の助成を受けた)。 3つのデータベース(MEDLINE、EMBASE、Global Health)とGoogle Scholarを用い、開設時から2022年2月11日までに発表された論文が検索された。「computed tomographic coronary angiography」「cardiac MR」「PET」「HIV」を検索語とし、これらの画像法で心血管の病理所見を評価した研究が対象となった。 主要アウトカムは、CT冠動脈造影で描出された中等度~重度(≧50%)の冠動脈狭窄、ガドリニウム遅延造影による心臓MRで描出された心筋線維症、PETによる血管と心筋の放射能濃度比とされた。ほとんどが北米と欧州の研究 45の論文が解析の対象となった。HIV感染者5,218例(平均年齢48.5歳)と非感染者2,414例(49.1歳)が解析に含まれた。16試験(5,107例)はCT冠動脈造影による評価を、16試験(1,698例)は心臓MR、10試験(681例)は血管PET、3試験(146例)はCT冠動脈造影と血管PETの双方による検討を行っていた。 45の研究のうち38件は高所得国(49%が米国)、7件は高中所得国で行われたもので、低所得国で実施された研究はなかった。横断研究が85%、前向きコホート研究が13%、無作為化臨床試験が2%だった。バイアスのリスクは、22%が低、47%が中、31%は高に分類された。 中等度~重度の冠動脈疾患の有病率の範囲は、HIV感染者が0~52%、非感染者は0~27%で、有病率比の範囲は0.33(95%信頼区間[CI]:0.01~15.90)~5.19(同:1.26~21.42)であった。この統合解析では、中等度の統計学的異質性(I2=62%、p=0.05)が認められた。 心筋線維症の有病率の範囲は、HIV感染者が5~84%、非感染者は0~68%で、有病率比の範囲は1.01(同:0.85~1.21)~17.35(同:1.10~274.28)であった。この統合解析では、高度の統計学的異質性(I2=88%、p<0.005)がみられた。 また、PETによる血管の放射能濃度比の、HIV感染者と非感染者の差の範囲は、0.06(同: 0.01~0.11)~0.37(同:0.02~0.72)だった。この統合解析では、中等度の異質性(I2=64%、p=0.07)が観察された。 著者は、「この研究により、HIV感染者における高度な心血管画像研究のほとんどが北米と欧州のHIV集団(世界のHIV感染者の6%にすぎない)を対象としていることが示され、サハラ以南のアフリカなどの感染率の高い地域のHIV集団への、得られた知見の一般化には限界があることが明らかとなった」としている。

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NSTE-ACS患者の死亡リスク評価、GRACE 2.0には限界が/Lancet

 非ST上昇型急性冠症候群(NSTE-ACS)の患者における、Global Registry of Acute Coronary Events(GRACE)2.0スコアによる死亡リスクの評価では、女性患者の院内死亡を過小評価するという限界があるが、新たに開発されたGRACE 3.0スコアの性能は性別を問わず良好で、リスク層別化における男女間の差を削減することが、スイス・チューリヒ大学のFlorian A. Wenzl氏らの検討で示された。研究の成果は、Lancet誌2022年9月3日号で報告された。英国とスイスの外的妥当性の検証を含む研究 研究グループは、NSTE-ACS患者におけるGRACE 2.0スコアの性特異的な性能を評価し、疾患特性における性別を考慮した新たなスコア(GRACE 3.0と呼ぶ)の開発を目的に検討を行った(スイス国立科学財団などの助成を受けた)。 2005年1月~2020年8月の英国とスイスの全国的なコホートにおいて、NSTE-ACS患者42万781例(英国40万54例、スイス2万727例)を対象にGRACE 2.0スコアの評価が実施された。 イングランド、ウェールズ、北アイルランドの38万6,591例(訓練コホート30万9,083例[80.0%]、検証コホート7万7,508例[20.0%])の性別データを用いて、GRACEの変数から院内死亡を予測する機械学習モデルが作成された。 GRACE 3.0の外的妥当性の検証には、スイスの2万727例のデータが使用された。GRACE 3.0により、男女ともAUCが向上 GRACE 2.0スコアによる院内死亡の判別は、男性患者では良好であった(受信者動作特性曲線[AUC]:0.86、95%信頼区間[CI]:0.86~0.86)のに対し、女性患者では著しく低かった(AUC:0.82、95%CI:0.81~0.82)(p<0.0001)。 GRACE 2.0スコアは女性患者の院内死亡を過小評価しており、その結果として、早期の侵襲的治療を示唆しない低~中リスク群へと、正しくない層別化を助長していた。 これに対し、性差を考慮したGRACE 3.0スコアは、外的妥当性の検証コホートにおいて優れた判別(discrimination)と良好な較正(calibration)を示し、AUCは男性患者が0.91(95%CI:0.89~0.92)、女性患者は0.87(0.84~0.89)と、いずれも改善された。また、GRACE 3.0は、女性患者を高リスク群に適切に再分類するという、臨床的に意義のある結果をもたらした。 著者は、「新たに開発された機械学習に基づくGRACE 3.0スコアにより、男女ともに予測性能が向上し、リスク層別化において性差を考慮することで、NSTE-ACS患者の個別化治療の最適化と、管理における構造的不公平の克服を実現できることが示された。この研究結果は、NSTE-ACS患者を対象とした将来の試験のデザインに役立つと考えられる」としている。

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抗体薬物複合体SG、HR+/HER2-転移乳がんのOSを改善(TROPiCS-02)/ESMO2022

 複数の治療歴があるHR+/HER2-転移乳がん患者に対して、抗体薬物複合体sacituzumab govitecan(SG)と医師選択治療(TPC)を比較した第III相TROPiCS-02試験において、SGが無増悪生存期間(PFS)を有意に改善(HR:0.66、95%CI:0.53~0.83)したことはASCO2022で報告されている。今回、事前に予定されていた全生存期間(OS)の第2回中間解析の結果について、米国・UCSF Helen Diller Family Comprehensive Cancer CenterのHope S. Rugo氏が欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2022)で報告した。 本試験におけるOSの第1回中間解析(293イベント発生時点)では、SGによる改善傾向がみられたもののデータがmatureしていなかった。今回発表された第2回中間解析(データカットオフ:2022年7月1日)は、390イベントの発生後に行われ、追跡期間中央値は12.5ヵ月だった。・対象:転移または局所再発した切除不能のHR+/HER2-乳がんで、転移後に内分泌療法またはタキサンまたはCDK4/6阻害薬による治療歴が1ライン以上、化学療法による治療歴が2~4ラインの成人患者 543例・試験群:SG(1、8日目に10mg/kg、21日ごと)を病勢進行または許容できない毒性が認められるまで静注 272例・対照群:TPC(カペシタビン、エリブリン、ビノレルビン、ゲムシタビンから選択)271例・評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央評価委員会によるPFS[副次評価項目]OS、客観的奏効率(ORR)、奏効持続期間(DOR)、クリニカルベネフィット率(CBR)、患者報告アウトカム(PRO)、安全性 主な結果は以下のとおり。・OS中央値は、SG群(14.4ヵ月)がTPC群(11.2ヵ月)より3.2ヵ月長く、死亡リスクが21%低かった(HR:0.79、95%CI:0.65~0.96、p=0.020)。・TPCに対するSGのベネフィットは、化学療法3ライン以上の症例、内臓転移症例を含む事前に規定されたサブグループで同様だった。・SG群はTPC群と比較して、ORR(オッズ比:1.63、95%CI:1.03~2.56、p=0.035)、CBR(オッズ比:1.80、95%CI:1.23~2.63、p=0.003)が有意に高かった。・DOR中央値は、SG群(8.1ヵ月)がTPC群(5.6ヵ月)より延長した。・SG群では健康関連QOLが有意に良好で、疲労およびglobal health status/QOLスケールの悪化までの時間(TTD)をTPCより有意に延長した。・本解析におけるSGの安全性プロファイルは、これまでの試験と同様であり、新たな安全性シグナルは確認されなかった。 Rugo氏は、「本試験におけるTPCに対するSGの統計学的に有意で臨床的に意味のあるベネフィットは、前治療歴のあるHR+/HER2-転移乳がん患者に対する新たな治療としてSGを支持する」とした。

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第129回 ワクチン接種でlong COVID 4大症状が大幅減少/ long COVIDの国際的な取り組みが発足

英国での試験と同様に、イスラエルの試験でもワクチン接種が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)罹患後症状(long COVID)をどうやら防ぐことが示されました。昨年9月にLancet Infectious Diseases誌に掲載された英国での試験ではワクチン2回接種済みだとSARS-CoV-2感染後28日過ぎの症状全般が生じ難いという結果が得られています1)。SARS-CoV-2感染成人およそ千人(951人)の経過を調べた今回のイスラエルでの試験ではlong COVIDの10の主症状それぞれの生じやすさとワクチン接種の関連が調べられました。951人のうち340人(36%)はPfizer/BioNTechのワクチンBNT162b2を1回接種済み、294人(31%)は少なくとも2回接種済みでした。SARS-CoV-2感染後に特に多かった症状は疲労、頭痛、四肢の虚弱、筋痛の持続で、それぞれ22%、20%、13%、10%に認められました。それら4大症状の他に6つの症状―集中力欠如、脱毛、睡眠障害、めまい、咳、息切れも多く認められました。年齢やもとの症状などを考慮した解析の結果、ワクチン2回接種済みの人の4大症状―疲労、頭痛、四肢の虚弱、筋痛の持続の割合は非接種の人よりそれぞれ62%、50%、62%、66%低いことが示されました2,3)。2回のBNT162b2接種は脱毛、めまい、呼吸困難が生じ難くなることとも関連し、long COVIDを防ぐ効果があるようだと著者は結論しています。COVID-19後遺症を調べて治療候補の臨床試験を仕切る国際的な取り組みが発足すでに1億5,000万人を数え、増え続けているlong COVIDを調べて候補の治療の臨床試験を仕切る国際的な取り組みLong Covid Research Initiative(LCRI)が発足しました4)。科学投資事業BalviがLCRIに1,500万ドルを寄付しています。また、抗癌剤アブラキサンの発明者として知られるPatrick Soon-Shiong氏が率いる基金もLCRIを支援します。LCRIがまず目指すのはLong COVID患者にSARS-CoV-2が存続しているかどうかや、もしそうなら居座るSARS-CoV-2が症状の要因かどうかを明らかにすることです5)。SARS-CoV-2が体内を巡り続けているなら抗ウイルス薬で症状を減らせそうであり、LCRIを主導する非営利事業PolyBio首脳陣の1人Amy Proal氏はそういう治療の臨床試験が早く始まることを望んでいます。上述のSoon-Shiong 氏やProal氏を含む20人を超える屈指の研究者がLCRIの取り組みを担います。エール大学の岩崎明子(Akiko Iwasaki)氏も名を連ねます。LCRIは1億ドルを集めることを目指しており、その半分は臨床試験に使われます。参考1)Antonelli M,et al. Lancet Infect Dis. 2022 Jan;22:43-55.2)Kuodi P, et al. NPJ Vaccines. 2022 Aug 26;7:101.3)Vaccines dramatically reduce the risk of long-term effects of COVID-19 / Eurekalert4)Introducing a Global Initiative to Address Long Covid / Long Covid Research Initiative5)New private venture tackles the riddle of Long Covid―and aims to test treatments quickly /Science

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がん負担の世界最大のリスク因子は喫煙/Lancet

 2019年の世界におけるがん負担に寄与した最大のリスク因子は喫煙であり、また、2010年から2019年にかけて最も増大したのは代謝関連のリスク因子(高BMI、空腹時高血糖)であることが、米国・ワシントン大学のChristopher J. L. Murray氏ら世界疾病負荷研究(Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study:GBD)2019 Cancer Risk Factors Collaboratorsの解析で明らかとなった。Lancet誌2022年8月20日号掲載の報告。GBD 2019を用いリスク因子に起因するがん負担について解析 研究グループは、GBD 2019の比較リスク評価フレームワークを用い、行動、環境・職業および代謝に関連したリスク因子に起因するがん負担について、2019年のがん死亡および障害調整生存年(DALY)を推定するとともに、これらの2010年から2019年までの変化を検討した。 比較リスク評価フレームワークには、23のがん種と世界がん研究基金の基準を用いて特定した34のリスク因子から成る82のがんリスクと転帰の組み合わせが含まれている。リスク因子起因がん死亡数は10年で約20%増加、主なリスク因子は喫煙、飲酒、高BMI 2019年の推定されたすべてのリスク因子に起因する世界のがん死亡数は、男女合わせて445万人(95%不確定区間[UI]:401万~494万)で、全がん死亡の44.4%(95%UI:41.3~48.4)を占めた。男女別では、男性288万人(95%UI:260万~318万)、女性158万人(95%UI:136万~184万)であり、それぞれ男性の全がん死亡の50.6%(95%UI:47.8~54.1)、女性の全がん死亡の36.3%(95%UI:32.5~41.3)であった。 また、推定されたすべてのリスク因子に起因する世界のがんDALYは、男女合わせて1億500万(95%UI:9,500万~1億1,600万)で、全がんDALYの42.0%(95%UI:39.1~45.6)を占めた。 2019年のリスク因子に起因するがん死亡とがんDALYに関して、世界全体でこれらに寄与する主なリスク因子は、男女合わせると、喫煙、飲酒、高BMIの順であった。リスク因子によるがん負担は、地域および社会人口統計学的指標(SDI)によって異なり、低SDI地域では2019年のリスク因子によるがんDALYの3大リスクは喫煙、危険な性行為、飲酒の順であったが、高SDI地域では世界のリスク因子の上位3つと同じであった。 2010~19年に、リスク因子に起因する世界のがん死亡数は20.4%(95%UI:12.6~28.4)、DALYは16.8%(95%UI:8.8~25.0)増加した。これらの増加率が最も高かったリスク因子は、代謝関連リスク(高BMI、空腹時血糖高値)であり、これらに起因する死亡数は34.7%(95%UI:27.9~42.8)、DALYは33.3%(95%UI:25.8~42.0)増加した。 著者は、「世界的にがん負担が増加していることを踏まえると、今回の解析結果は、世界、地域および国レベルでがん負担を減らす努力目標となる重要で修正可能なリスク因子を、政策立案者や研究者が特定するのに役立つと考えられる」とまとめている。

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朝食時刻と乳がんリスクが関連

 1日の食事のサイクルと乳がんの関連が指摘されている。スペイン・Barcelona Institute for Global HealthのAnna Palomar-Cros氏らが朝食時刻および夜間絶食時間と乳がんリスクとの関連について検討したところ、閉経前女性では朝食時刻が遅いほど乳がんリスクが高いことが示唆された。Frontiers in Nutrition誌2022年8月11日号に掲載。 本研究では、2008~13年に実施されたスペインのマルチケースコントロール研究(MCC-Spain)における乳がん症例1,181例と対照1,326例のデータを解析した。中年期の毎日の食事のサイクルは電話インタビューで聴取した。朝食時刻および夜間絶食時間と乳がんリスクとの関連について、ロジスティック回帰を用いてオッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)を推定した。年齢、センター、教育、乳がん家族歴、初経年齢、子供の数、母乳育児、初産年齢、BMI、避妊薬使用、ホルモン補充療法で調整し、閉経状態で層別した。 主な結果は以下のとおり。・朝食時刻が遅くなるほど乳がんリスクが増加したが、有意ではなかった(1時間当たりのOR:1.05、95% CI:0.95~1.16)。・この関連は閉経前女性で強く、朝食時刻が1時間遅くなるごとに乳がんリスクが18%増加した(OR:1.18、95%CI:1.01~1.40)。閉経後女性ではこの関連はみられなかった。・朝食時刻を調整しても、夜間絶食時間と乳がんリスクとの関連はみられなかった。

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アトピー性皮膚炎患者へのデュピルマブ、治療継続率と関連因子が明らかに

 中等症~重症のアトピー性皮膚炎(AD)患者におけるデュピルマブによる治療継続率と関連因子が、オランダ・ユトレヒト大学のLotte S. Spekhorst氏らが行った多施設前向き日常臨床BioDayレジストリのデータを解析したコホート試験により示された。デュピルマブ治療継続率は、1年時90.3%、3年時も78.6%と良好であったこと、また、ベースラインで免疫抑制剤を使用していた患者や4週目で治療効果が示されない患者は、治療中断となる傾向があることなどが明らかにされた。著者は、「今回示されたデータは、アトピー性皮膚炎のデュピルマブ治療に関する、より多くの洞察と新しい視点を提供するもので、患者に最適なアウトカムをもたらすことに寄与するだろう」と述べている。JAMA Dermatology誌オンライン版2022年8月10日号掲載の報告。 研究グループは、これまで不足していたアトピー性皮膚炎患者におけるデュピルマブ治療の継続率と、関連因子を特定するコホート試験を、多施設前向き日常臨床BioDayレジストリのデータをベースに行った。BioDayレジストリには、オランダの大学病院4施設および非大学病院10施設で被験者が募集され、解析には、4週以上追跡を受けていた18歳以上の患者が包含された。BioDayレジストリで、デュピルマブ治療を受けた最初の患者が記録されたのは2017年10月であった。2020年12月時点でデータをロックし、データ解析は2017年10月~2020年12月に行われた。 治療継続率はカプランマイヤー生存曲線で、また関連特性を単変量および多変量Cox回帰法を用いて解析した。 主な結果は以下のとおり。・合計715例の成人AD患者(平均年齢41.8[SD 16.0]歳、男性418例[58.5%])が解析に含まれた。・デュピルマブの治療継続率は1年時90.3%、2年時85.9%、3年時78.6%であった。・無効性により治療の継続が短期となった特性として、ベースラインでの免疫抑制剤の使用(ハザード比[HR]:2.64、95%信頼区間[CI]:1.10~6.37)、4週時点で非レスポンダー(8.68、2.97~25.35)が特定された。・有害事象により治療の継続が短期であった特性としては、ベースラインでの免疫抑制剤の使用(HR:2.69、95%CI:1.32~5.48)、65歳以上(2.94、1.10~7.87)、そしてInvestigator Global Assessmentスコアできわめて重症なAD(3.51、1.20~10.28)が特定された。

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コロナ禍で離婚は増えたのか?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第216回

コロナ禍で離婚は増えたのか?pixabayより使用日本では少子高齢化がどんどん進んでおり、このままだとあまり明るい未来が期待できない状況です。COVID-19の流行が結婚と出生の減少を加速させ、離婚までも増加させているのではないかと懸念されています。そんな日本の結婚・離婚・出生について扱った論文が、BMJ Gobal Health誌から発表されました。Ghaznavi C, et al.Changes in marriage, divorce and births during the COVID-19 pandemic in Japan.BMJ Glob Health. 2022 May;7(5):e007866.2011年12月~2021年5月の日本の人口動態統計データを収集しました。コロナ禍を含む任意の月に、有意な過不足が発生していないかどうかを判断するために、Farringtonアルゴリズムを使用して、結婚・離婚・出生数を観察しました。Farringtonアルゴリズムは、アウトブレイク検出法としても広く用いられている手法です。さて、1度目の緊急事態宣言中(2020年4〜5月)に、結婚数と離婚数に減少が見られることがわかりました。さらに、2020年12月〜2021年2月には出生数の減少が確認されました。つまり、1度目の緊急事態宣言の8〜10ヵ月後に当たるわけで、その時期に妊娠を控えていた夫婦が多かったということを意味します。この報告で興味深かったのは結婚と出生数はともかく、離婚数の減少も見られていたことです。意外な結果でした。コロナ禍で自宅にいる人が増えたため、夫婦で話し合う時間が増えたから離婚が減ったのでしょうか。あるいは、「本当は離婚したいけど、新型コロナがこんな感じだし、ちょっと保留にしようか」ということでしょうか。…神のみぞ知る。

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コロナ罹患後症状、約13%は90~150日も持続/Lancet

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後の持続する全身症状(いわゆる後遺症)としての呼吸困難、呼吸時の痛み、筋肉痛、嗅覚消失・嗅覚障害などの長期(90~150日)発生率は12.7%と推定されることが、オランダで約7万6,000例を対象に行われた観察コホート試験で示された。オランダ・フローニンゲン大学のAranka V. Ballering氏らが、同国北部在住者を対象にした、学際的前向き住民ベース観察コホート試験で、健康状態や健康に関連する生活習慣などを評価するLifelines試験のデータを基に、COVID-19診断前の状態や、SARS-CoV-2非感染者のマッチングコントロールで補正し、COVID-19に起因する罹患後症状の発生率を明らかにした。Lancet誌2022年8月6日号掲載の報告。23項目の身体症状を繰り返し調査 これまでのコロナ罹患後症状に関する検討では、COVID-19診断前の状態や、SARS-CoV-2非感染者における同様の症状の有病率や重症度を考慮した検討は行われておらず、研究グループは、SARS-CoV-2感染前の症状で補正し、非感染者の症状と比較しながら、COVID-19に関連する長期症状の経過、有病率、重症度の分析を行った。 検討はLifelines試験のデータを基に行われた。同試験では、18歳以上の参加者全員に、COVID-19オンライン質問票(digital COVID-19 questionnaires)が送達され、COVID-19診断に関連する23項目の身体症状(SARS-CoV-2アルファ[B.1.1.7]変異株またはそれ以前の変異株による)について、2020年3月31日~2021年8月2日に、24回の繰り返し評価が行われた。 SARS-CoV-2検査陽性または医師によるCOVID-19の診断を受けた被験者について、年齢、性別、時間をCOVID-19陰性の被験者(対照)とマッチングした。COVID-19の診断を受けた被験者については、COVID-19前後の症状と重症度を記録し、マッチング対照と比較した。90~150日時点の持続症状、陽性者21.4%、非感染者8.7% 7万6,422例(平均年齢53.7[SD 12.9]歳、女性は4万6,329例[60.8%])が、合計88万3,973回の質問に回答した。このうち4,231例(5.5%)がCOVID-19の診断を受けた被験者で、8,462例の対照とマッチングされた。 COVID-19陽性だった被験者において、COVID-19後90~150日時点で認められた持続する全身症状は、胸痛、呼吸困難、呼吸時の痛み、筋肉痛、嗅覚消失・嗅覚障害、四肢のうずき、喉のしこり、暑さ・寒さを交互に感じる、腕・足が重く感じる、疲労感で、これらについてCOVID-19前およびマッチング対照と比較した。 一般集団のCOVID-19患者のうち12.7%が、COVID-19後にこれらの持続症状を経験すると推定された。また、これらの持続症状の少なくとも1つを有し、COVID-19診断時またはマッチング規定時点から90~150日時点で中等度以上に大幅に重症度が増していた被験者は、COVID-19陽性被験者では21.4%(381/1,782例)、COVID-19陰性の対照被験者では8.7%(361/4,130例)だった。 これらの結果を踏まえ著者は、「検討で示された持続症状は、COVID-19罹患後の状態と非COVID-19関連症状を区別する最も高い識別能を有しており、今後の研究に大きな影響を与えるものである。COVID-19罹患後の関連症状を増大する潜在的メカニズムを明らかにする、さらなる研究が必要である」と述べている。

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有害量のアルコール摂取、若年男性で多い:GBD2020/Lancet

 アルコール摂取に関する勧告は年齢および地域によって異なることを支持する強いエビデンスがあり、とくに若年者に向けた強力な介入が、アルコールに起因する世界的な健康損失を減少させるために必要であることが、米国・ワシントン大学のDana Bryazka氏らGBD 2020 Alcohol Collaboratorsの解析で明らかとなった。適度なアルコール摂取に関連する健康リスクについては議論が続いており、少量のアルコール摂取はいくつかの健康アウトカムのリスクを低下させるが他のリスクを増加させ、全体のリスクは地域・年齢・性別・年によって異なる疾患自然発生率に、部分的に依存することが示唆されていた。Lancet誌2022年7月16日号掲載の報告。年齢・男女・年別にTMRELとNDEを推定 解析には、204の国・地域における1990~2020年の死亡率と疾病負担を年齢別、性別に推計した世界疾病負担研究(Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study:GBD)のデータを用いた。22の健康アウトカム(虚血性心疾患、脳梗塞、がん、2型糖尿病、結核、下気道感染症など)に関する疾患重み付け用量反応相対リスク曲線を構築し、21地域の15~95歳の個人について1990~2020年の期間で、5歳ごとの年齢階級別、男女別および年別に、アルコールの理論的最小リスク曝露量(theoretical minimum risk exposure level:TMREL、アルコールによる健康損失を最小化する摂取量)と非飲酒者等価量(non-drinker equivalence:NDE、飲酒者の健康リスクが非飲酒者の健康リスクと同等時点でのアルコール摂取量)を推定するとともに、NDEに基づき有害な量のアルコールを摂取している人口を定量化した。有害量のアルコール摂取は若年男性で多い アルコールに関する疾患重み付け相対リスク曲線は、地域および年齢で異なっていた。2020年の15~39歳では、TMREL(ドリンク/日:1ドリンクは純粋エタノール10g相当)は0(95%不確実性区間[UI]:0~0)から0.603(0.400~1.00)、NDEは0.002(0~0)から1.75(0.698~4.30)とさまざまであった。 40歳以上の疾患重み付け相対リスク曲線はすべての地域でJ字型であり、2020年のTMRELは0.114(95%UI:0~0.403)から1.87(0.500~3.30)、NDEは0.193(0~0.900)から6.94(3.40~8.30)の範囲であった。 2020年における有害量のアルコール摂取は、59.1%(95%UI:54.3~65.4)が15~39歳、76.9%(73.0~81.3)が男性であり、主にオーストララシア、西ヨーロッパ、中央ヨーロッパに集中していた。

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テオフィリン鼻洗浄でコロナの嗅覚障害は改善するか

 気管支喘息治療薬でおなじみのテオフィリンは、細胞内のcAMP濃度を上昇させることで神経の興奮性を高める作用があり、これを利用した嗅覚の改善効果が以前より立証されている1)。また、最近の研究では生理食塩水鼻洗浄(SNI)にテオフィリンを追加することで、新型コロナウイルス感染後の嗅覚機能障害(OD:olfactory dysfunction)の効果的な治療になり得ることが示唆されている。 そこで、米国・ワシントン大学・セントルイス校のShruti Gupta氏らは新型コロナウイルス関連のODに対し、テオフィリン鼻洗浄の有効性と安全性を評価した。その結果、テオフィリン鼻洗浄の臨床的利点は決定的ではないことが示唆された。JAMA Otolaryngology-Head&Neck Surgery誌オンライン版2022年7月7日号掲載の報告。 本試験は三重盲検プラセボ対照第II相ランダム化試験で、2021年3月15日~8月31日にミズーリ州またはイリノイ州に居住し新型コロナによるODが持続する成人(コロナ感染疑いから3〜12ヵ月が経過した者)を対象に実施された。生理食塩水とテオフィリン400mgのキットを治療群用に、生理食塩水と乳糖粉末500mgのキットを対照群用として用意し、参加者はカプセル内容物を生理食塩水に溶解し、6週間にわたり朝と晩の1日2回の鼻腔洗浄を行った。 主要評価項目は治療群・対照群間で反応した人の割合の差で、CGI-I(Clinical Global Impression-Improvement)で少なくともわずかに改善を示す反応として定義した。副次評価の測定には、ペンシルベニア大学の嗅覚識別テスト(UPSIT)、嗅覚障害に関する質問、一般的な36項目の健康調査、新型コロナ関連の質問が含まれた。 主な結果は以下のとおり。・51例が研究に登録され、平均年齢±SDは46.0±13.1歳で、女性は36例(71%)。テオフィリン鼻洗浄群(n=26)とプラセボ鼻洗浄群(n=25)にランダムに割り付けられた。・参加者のうち45例が研究を完遂した。治療後、テオフィリン群13例(59%)はプラセボ群10例(43%)と比較して、CGI-Iスケール(反応した人)でわずかな改善を報告した(絶対偏差:15.6%、95%信頼区間[CI]:13.2~44.5%)。・ベースラインと6週間の嗅覚識別テストUPSITでの中央値の差は、テオフィリン群で3.0(95%CI:-1.0~7.0)、プラセボ群で0.0(95%CI:-2.0~6.0)だった。・混合モデル分析により、UPSITスコアの変化は2つの研究群間で統計学的に有意差が得られなかったことが明らかになった。・テオフィリン群の11例(50%)とプラセボ群の6例(26%)は、ベースラインから6週間までにUPSITスコアで4ポイント以上の変化があった。また、UPSITで反応した人の割合の差は、テオフィリン群で24%(95%CI:-4~52%)だった。

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ブタ心臓のヒトへの異種移植手術、初期の経過は良好/NEJM

 米国・メリーランド大学医療センターのBartley P. Griffith氏らの研究チームは、2022年1月7日、実験的なブタ心臓のヒトへの異種移植手術を世界で初めて行った。患者は、自発呼吸が可能になるなど良好な経過が確認されたが、約2ヵ月後の3月8日に死亡した。臓器不足の解消につながると期待された遺伝子編集ブタ心臓の移植の概要が、NEJM誌オンライン版2022年6月22日号に短報として掲載された。ECMO導入重症心不全の57歳男性 患者は、慢性的な軽度の血小板減少症、高血圧症、非虚血性心筋症を有し、僧帽弁形成術の既往歴がある57歳の男性で、左室駆出率(LVEF)10%の重症心不全により入院となった。複数の強心薬の投与が行われたが、入院11日目には大動脈内バルーンポンプが留置され、23日目には末梢静脈-動脈体外式膜型人工肺(ECMO)が導入された。 患者は、4つの心臓移植プログラムの審査を受けたが、いずれも許可されなかった。研究チームは、実験的な異種移植が、内科的治療や静脈-動脈ECMOの継続に劣る可能性はないと考え、米国食品医薬品局(FDA)に申請を行い、承認を得た。 今回、実施された異種移植の方法は、拒絶反応を起こさないよう10の遺伝子が編集されたブタドナー(Revivicor製)、免疫抑制薬であるヒト化抗CD40モノクローナル抗体KPL-404(Kiniksa Pharmaceuticals製)、XVIVO心臓灌流システム(XVIVO Perfusion製)を組み合わせた心臓保存療法である。移植後の初期経過:洞調律維持、拒絶反応なし 移植後、乏尿性急性腎不全が持続したため、腎代替療法が施行された。2日目には気管チューブが抜管され、胸部X線写真では肺野が明瞭に描出された。強心薬投与の必要はなく、移植後4日目にECMOから離脱した。 移植後6日目のSwan-Ganzカテーテル抜去前に、低用量ニカルジピンの投与下で、平均収縮期血圧は130~170mmHg、平均拡張期血圧は40~60mmHgで、肺動脈圧は収縮期32~46mmHg、拡張期18~25mmHgであり、中心静脈圧は6~13mmHgだった。心拍出量は5.0~6.0L/分で、体表面積当たりの1回拍出量は65~70mL/m2であった。また、異種移植心は70~90拍/分で洞調律を維持し、LVEFは55%以上を保持していた。 移植後12日目に腹膜炎が発症し、回復したものの非経口栄養に移行した。悪液質が悪化し、体重は入院時の85kgから術後の最低値で62kgまで減少した。 免疫抑制薬として、KPL-404のほかに、移植後1日目からミコフェノール酸モフェチルが投与されたが、顆粒球コロニー形成刺激因子(G-CSF)による治療で重度の好中球減少症が発現したため21日目に中止され、35日目からはタクロリムスの投与が開始された。 ドナー特異的抗体の値は、免疫抑制薬の導入後もベースラインを下回っており、移植後47日目まで低値で推移したが、43日目の免疫グロブリンの静脈内投与でIgG値が急激に上昇し、IgM値も上昇した。血清トロポニンI値は移植後に上昇したが、24日目にはベースラインの値に戻り、その後35日目に急激に上昇し始めた。 移植後34日目の心内膜心筋生検では、拒絶反応は認められなかった。患者は、心血管系のサポートなしにリハビリテーションが可能であり、異種移植心は拒絶反応を示すことなく正常に機能した。 移植後43日目に、傾眠が強くなり、気管挿管が行われた。予防対策を行っていたにもかかわらず、胸部X線と気管支鏡検査でウイルスまたは真菌感染を示唆する所見が得られた。また、微生物無細胞DNA(mcfDNA)検査では、ブタサイトメガロウイルス(pCMV)(suid herpesvirus 2とも呼ばれる)の顕著な増加が認められ、ウイルス感染の可能性が懸念された。ドナーの脾臓と患者の末梢血単核細胞(PBMC)を用いて定量的ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)による検証を行ったところ、両方の検体ともpCMV陽性であり、ドナーがpCMVに潜伏感染していた可能性が示唆された。47日目には、気管抜管が行われ、患者は室内でのリハビリテーションを再開した。異種移植の失敗:検死所見は典型的な異種移植の拒絶反応とは一致せず 移植後48日目、患者は109日ぶりにベッドから解放された。しかし、49日目、軽度の腹部不快感と膨満感に伴い、血清乳酸値が8時間で4mg/dLから11.2mg/dLに上昇し、低血圧が発生したため気管挿管が行われた。肢端チアノーゼが発現し、移植後初めて心拍出量の低下が示唆された。 心エコー図検査でLVEFは65~70%を示したが、左室壁厚(1.7cm)と右室壁厚(1.4cm)の著明な増大、および左室内腔サイズ(3.2~3.5cm)の縮小が認められ、global longitudinal strainの値は劇的に低下(悪化)した。患者家族と相談し、49日目の夕方、静脈-動脈ECMOが再導入された。 移植後50日目の2回目の心内膜心筋生検では、抗体関連型拒絶反応や急性細胞性拒絶反応はみられなかったが、赤血球漏出および浮腫による局所毛細血管損傷が認められた。トロポニンI値は上昇していた。異種移植心由来無細胞DNA(xdcfDNA)値は、異種移植心特異的IgG値やIgM値と共にピークに達していたことが、後に判明した。抗体関連型拒絶反応の非典型的な発現を疑い、治療が開始された。 移植後56日目の3回目の心内膜心筋生検では、病理学的抗体関連型拒絶反応(国際心肺移植学会[ISHLT]のGrade1)が確認された。間質への赤血球漏出や浮腫は、前回の生検時に比べて少なかったが、心筋細胞の40%が壊死していた。 研究チームは、異種移植心に不可逆的な損傷が生じていると判断し、患者家族と相談して移植後60日目に生命維持装置を停止させた。検死では、心臓の重量が移植時の328gから600gに増加していた。心筋細胞や心臓内皮細胞などの所見は、典型的な異種移植の拒絶反応とは一致せず、このような損傷をもたらした病態生理学的なメカニズムの解明に向けた研究が進行中だという。 著者は、「異種移植心の機能不全に、患者の重度の体力減退と術後の複雑な経過が重なり、移植後60日目に、それ以上の高度な支持療法は行わないこととなった」と結んでいる。

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統合失調症患者の第一度近親者の神経認知機能障害

 統合失調症患者だけでなく、その第一度近親者(FDR)も神経認知機能障害を有している可能性が示唆されているものの、これまで十分に評価されていなかった。インド・Topiwala National Medical CollegeのSachin P. Baliga氏らは、統合失調症患者のFDRにおける認知的洞察と客観的認知機能、精神病的体験歴、社会的機能との関連について評価を行った。その結果、統合失調症患者のFDRは、統合失調症患者と同様に認知的洞察が不良であることが確認された。Indian Journal of Psychological Medicine誌2022年3月号の報告。 3次医療教育病院の外来部門で横断的研究を実施した。対象は、統合失調症患者のFDR 100人。評価項目は、精神病的体験歴、Subjective Scale to Investigate Cognition in Schizophrenia(SSTICS)を用いた主観的な認知機能障害(SCC)、National Institute of Mental Health and Neurosciences評価バッテリーの神経認知機能テストを用いた客観的認知機能、SCARF Social Functioning Indexを用いた社会的機能とした。 主な結果は以下のとおり。・規範的データと比較し、最も多く認められた認知機能障害はエピソード記憶(FDRの最大72%)であり、次いで作業記憶、注意、実行機能であった。・対応する認知領域におけるSCCと神経心理学的検査スコアとの間に相関は認められず、認知的洞察が不良であることが示唆された。・FDRの15%に精神病的体験歴が認められた。・精神病的体験歴を有するFDRでは、有さないFDRと比較し、SCCが有意に高かった(U=0.366、p=0.009、r=0.26)。・回帰分析では、SCCが1単位増えるごとに社会的機能が0.178単位減少することが確認された(F[1,98]=5.198、p=0.025)。・SCCの重症度および進行は、FDRの精神疾患リスクのスクリーニングおよびモニタリングに役立つ可能性が示唆された。・現在影響を受けていないと考えられるFDRであっても、SCCは社会職業的機能に影響を及ぼす可能性がある。

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小児の中等症~重症尋常性乾癬、イキセキズマブは長期で有効・安全

 世界中の小児・青少年の約1%が尋常性乾癬にさらされているというが、また1つ朗報がもたらされた。中等症~重症の尋常性乾癬を有する小児に対し、生物学的製剤イキセキズマブの投与について、108週の長期的な有効性と安全性が確認されたことを、米国・ノースウェスタン大学フェインバーグ校のAmy S Paller氏らが報告した。 患者報告に基づくアウトカム改善と客観的測定による完全な皮膚クリアランスが示され、得られた奏効率は試験期間中維持されていた。また安全性は、同一集団において以前に報告された所見と一致しており、イキセキズマブ治療の既知の安全性プロファイルと一致していたという。JAMA Dermatology誌2022年5月号掲載の報告。 研究グループは、中等症~重症の尋常性乾癬を有する小児におけるイキセキズマブの有効性と安全性を評価する多施設共同無作為化試験「IXORA-PEDS試験」を行った。 被験者は、6~18歳未満、中等症~重症の尋常性乾癬を有し、スクリーニング時およびベースラインにおいてPsoriasis Area and Severity Index(PASI)スコア12以上、static Physician's Global Assessment(sPGA)スコア3以上、乾癬の影響を受ける体表面積(BSA)が10%以上で、光線療法または全身療法の対象患者であり、局所療法ではコントロール不良の乾癬を有している患者を適格とした。 被験者は、体重ベース用量のイキセキズマブを4週ごとに投与する群またはプラセボ投与群に、2対1の割合で無作為に割り付けられた。12週間のプラセボとの比較検討後に、患者は48週間の非盲検下でのイキセキズマブ維持療法を受けた(12~60週)。その後に最終的に108週まで試験は延長された。またサブ試験として、60週以降のイキセキズマブ無作為化中止試験の評価が行われた。 108週時点の有効性のアウトカムは、ベースラインからの75%(PASI 75)、90%(PASI 90)、100%(PASI 100)改善の達成患者の割合、sPGAスコア0~1または0達成患者の割合、およびItch Numeric Rating Scaleスコアがベースラインから4ポイント以上の改善であった(いずれも対レスポンダーで算出)。安全性アウトカムは、有害事象(AE)の評価(治療関連の緊急的AE、重篤AE、とくに注目すべきAEなどを含む)、および症状を認める身体領域のベースラインからの改善などであった(いずれも対レスポンダーで算出)。 カテゴリーアウトカムに関する紛失データは、修正nonresponder imputation(NRI)法を用いて補完が行われた。データ解析はintention-to-treatを原則とし、2021年5月~10月に行った。 主な結果は以下のとおり。・総計171例(平均年齢13.5歳[SD 3.04]、女児99例[57.9%])が、イキセキズマブ群(115例)またはプラセボ群(56例)に無作為に割り付けられた。・166例が維持療法期に組み込まれ、うち139例(83.7%)が108週の試験を完了した。・主要および副次エンドポイントは108週まで維持された。PASI 75を達成した患者割合は91.7%(86/94例)、PASI 90は79.0%(74/94例)、PASI 100は55.1%(52/94例)、sPGA0または1達成割合は78.3%(74/94例)およびsPGA0達成割合は52.4%(49/94例)であった。Itch Numeric Rating Scaleスコア4ポイント以上改善を報告した患者は55/70例(78.5%)であった。・108週時点で、爪乾癬の消失を報告した患者割合は68.1%(19/28例)、掌蹠乾癬の消失は90.0%(9/10例)、頭皮乾癬の消失は76.2%(63/83例)、性器乾癬の消失は87.5%(21/24例)であった。・試験期間の48週~108週の間に、炎症性腸疾患やカンジダ感染症の新規症例などは報告されず、新しい安全性に関する所見は認められなかった。

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世界の健康維持に必要な人的資源、医師は640万人不足か/Lancet

 2019年の世界の医師密度は人口1万人当たり約17人、看護師・助産師の密度は約39人と、ユニバーサルヘルスカバレッジ(UHC:すべての人が適切な保健医療サービスを、支払い可能な費用で受けられる状態)の達成に要する、健康のための人的資源(HRH)としては不十分で、医師は640万人、看護師・助産師は3,060万人が足りておらず、今後、世界の多くの地域で保健人材の拡充を進める必要があることが、米国・ワシントン大学のAnnie Haakenstad氏らGBD 2019 Human Resources for Health Collaboratorsの調査で示された。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2022年5月23日号で報告された。GBD研究の一環の系統的解析 研究グループは、比較可能で標準化されたデータ源を用いて世界のHRH密度を推定し、HRHの中核となる最小限の保健人材とUHCの有効なカバレッジの遂行能力との関係を評価する目的で、「世界の疾病負担(GBD)研究」の一環として系統的な解析を行った(Bill & Melinda Gates財団の助成を受けた)。 国際労働機関(ILO)とGlobal Health Data Exchangeのデータベースを用いて、労働力調査から1,404ヵ国年のデータと、国勢調査から69ヵ国年のデータが特定され、医療関連の雇用に関する詳細なマイクロデータが収集された。また、世界保健機関(WHO)のNational Health Workforce Accountsから2,950ヵ国年のデータが同定された。 すべての職業コーディングシステムのデータを、国際標準職業分類1988(ISCO-88)にマッピングすることで、全時系列で医療従事者の16項目のカテゴリーについて、その密度の推定が可能となった。 204の国と地域のうち196(GBDの7つの広域圏と21の地域を網羅)の1990~2019年のデータを用い、時空間ガウス過程回帰(ST-GPR)を適用することで、1990~2019年のすべての国と地域のHRH密度がモデル化された。 また、UHCの有効カバレッジインデックスと、持続可能な開発目標(SDG)の指針3.c.1のHRHにかかわる保健人材の4つのカテゴリー(医師、看護師・助産師、歯科医師等[歯科医、歯科衛生士等(dental assistants)]、薬剤師等[薬剤師、pharmaceutical assistants])の密度との関係が、確率的フロンティアメタ回帰(SFM)でモデル化された。 UHCの有効カバレッジインデックスに関して、特定の目標の達成(100のうち80)に要する保健人材の最小限の密度の閾値が同定され、これらの最小閾値に関して国ごとの保健人材の不足分が定量化された。過小評価の可能性を考慮 2019年に、世界には1億400万人(95%不確実性区間[UI]:8,350万~1億2,800万)の保健人材が存在し、このうち医師が1,280万人(970万~1,660万)、看護師・助産師が2,980万人(2,330万~3,770万)、歯科医師等が460万人(360万~600万)、薬剤師等は520万人(400万~670万)であった。 2019年の世界の医師密度は、人口1万人当たり平均16.7人(95%UI:12.6~21.6)で、看護師・助産師は1万人当たり38.6人(30.1~48.8)であった。日本は人口1万人当たり、それぞれ23.5人(17.8~30.1)および119.2人(94.7~148.8)で、高所得国(それぞれ33.4人[26.9~41.0]および114.9人[94.7~137.7])の中では医師密度が低かった。 GBDの7つの広域圏のうち、サハラ以南のアフリカ(人口1万人当たりの医師密度2.9人[95%UI:2.1~4.0]、看護師・助産師密度18.3人[13.6~24.0])、南アジア(6.5人[4.8~8.5]、9.7人[7.3~12.8])、北アフリカ/中東(10.8人[8.0~14.3]、25.8人[19.6~33.5])でHRH密度が低かった。 UHC有効カバレッジインデックスの100のうち80の目標を達成するのに要する最小限の保健人材は、人口1万人当たり、医師が20.7人、看護師・助産師が70.6人、歯科医師等が8.2人、薬剤師等は9.4人であった。2019年に、この最小限の閾値の達成に不足していた保健人材数は各国の合計で、医師が640万人、看護師・助産師が3,060万人、歯科医師等が330万人、薬剤師等は290万人だった。 著者は、「中核となる保健人材の最小限の閾値は、人的資源を最も効率的にUHCの達成に結び付ける保健システムを基準としているため、実際のHRHの不足は推定よりも大きい可能性がある。この過小評価の可能性を考慮すると、UHCの有効カバレッジを向上させるには、多くの地域で保健人材の拡充を進める必要がある」としている。

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RSウイルスによる死亡率、生後6ヵ月未満で高い/Lancet

 2019年に、5歳未満(生後0~60ヵ月)の小児における呼吸器合胞体(RS)ウイルス(RSV)への罹患とこれによる死亡の負担は、とくに生後6ヵ月未満の乳幼児および低~中所得国の小児において世界的に大きく、生後0~60ヵ月の小児では50件の死亡のうち1件が、28日~6ヵ月の乳幼児では28件の死亡のうち1件がRSVに起因しており、RSV関連の急性下気道感染症による院内死亡1件につき、市中では約3件のRSV関連死が発生していると推定されることが、英国・エディンバラ大学のYou Li氏らが実施したRESCEU研究で示された。研究の成果は、Lancet誌2022年5月28日号に掲載された。最新データを加え、系統的な解析で罹患率と死亡率を更新 研究グループは、生後0~60ヵ月の小児におけるRSV関連の急性下気道感染症の罹患率と死亡率を、2019年の時点での世界、地域、国のレベルで更新することを目的に、最新のデータを加えて系統的に解析を行った(欧州連合革新的医薬品イニシアチブの欧州RSウイルスコンソーシアム[RESCEU]による助成を受けた)。 医学データベース(MEDLINE、Embase、Global Health、CINAHL、Web of Science、LILACS、OpenGrey、CNKI、Wanfang、ChongqingVIP)を用いて、2017年1月1日~2020年12月31日に発表された論文をあらためて検索して新たなデータを収集し、これまでの世界的なRSV疾病負担のデータセットを拡張した。また、このデータセットには、Respiratory Virus Global Epidemiology Network(RSV GEN)の共同研究者による未発表データも含まれた。 対象は、次の3つのデータを報告している研究とした。(1)1次感染としてRSVによる市中の急性下気道感染症または入院を要する急性下気道感染症に罹患した生後0~60ヵ月の小児のデータ、(2)院内の症例死亡率(CFR)を除き少なくとも連続12ヵ月間のデータ、またはRSVの季節性が明確に定義されている地域(温暖な地域など)のデータ、(3)急性下気道感染症の発生率、入院率、急性下気道感染症による入院者におけるRSV陽性割合、または院内CFRのデータ。 リスク因子に基づくモデルを用いて、国レベルでのRSV関連の急性下気道感染症の罹患率が推定された。また、RSVによる総死亡数を推定するために、RSVによる市中死亡率の最新データを組み込んだ新たなモデルが開発された。新データ164件を加えた解析、院内死亡の97%以上が低~中所得国 以前のレビューに含まれた317件の研究に、新たに適格基準を満たした113件と未発表51件の研究の164件を加えた合計481件のデータが解析に含まれた。 RSV関連の急性下気道感染症の罹患率が最も高い年齢は、低所得国~低中所得国が生後0~3ヵ月であったのに対し、高中所得国~高所得国は生後3~6ヵ月であった。 2019年の生後0~60ヵ月の小児における世界的な推定値として、RSV関連の急性下気道感染症のエピソードが3,300万件(不確実性範囲[UR]:2,540万~4,460万)、RSV関連の急性下気道感染症による入院が360万件(290万~460万)、RSV関連の急性下気道感染症による院内死亡が2万6,300件(1万5,100~4万9,100)、RSVに起因する全死亡は10万1,400件(8万4,500~12万5,200)との結果が得られた。 生後0~6ヵ月の乳幼児では、RSV関連の急性下気道感染症エピソードが660万件(UR:460万~970万)、RSV関連の急性下気道感染症による入院が140万件(100万~200万)、RSV関連の急性下気道感染症による院内死亡が1万3,300件(6,800~2万8,100)、RSVに起因する全死亡は4万5,700件(3万8,400~5万5,900)と推定された。 生後0~60ヵ月の小児の死亡の2.0%(UR:1.6~2.4)(50件に1件)、生後28日~6ヵ月の乳幼児の死亡の3.6%(3.0~4.4)(28件に1件)が、RSVに起因していた。また、いずれの年齢層の小児における、RSV関連の急性下気道感染症エピソードの95%以上、およびRSVに起因する院内死亡の97%以上が、低~中所得国で発生していた。 著者は、「RSVによる院内死亡と全死亡の推定値に基づくと、生後0~60ヵ月の小児のRSV関連の院内死亡率は26%にすぎず、したがって、RSV関連の急性下気道感染症による院内死亡1件につき、市中では3件の死亡が発生していると推定される」とし、「多くのRSV予防薬の開発が予定されている現状において、これらの年齢層を絞った推定値は、製品の導入、優先順位の決定、評価に重要な基本的情報をもたらす。生後6ヵ月未満の乳幼児にRSV予防薬を投与すると、RSV負担の頂値が、より高い年齢に移行する可能性があるが、この意味を理解するにはさらなるエビデンスが必要とされる」と指摘している。

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高リスクIgA腎症への経口ステロイドで転帰改善、用量は?/JAMA

 高リスクIgA腎症患者において、経口メチルプレドニゾロンによる6~9ヵ月の治療は、プラセボと比較して、腎機能低下・腎不全・腎疾患死亡の複合アウトカムのリスクを有意に低下させた。ただし、経口メチルプレドニゾロンの高用量投与では、重篤な有害事象の発現率が増加した。中国・北京大学第一医院のJicheng Lv氏らが、オーストラリア、カナダ、中国、インド、マレーシアの67施設で実施された多施設共同無作為化二重盲検比較試験「Therapeutic Effects of Steroids in IgA Nephropathy Global study:TESTING試験」の結果を報告した。本試験は、重篤な感染症が多発したため中止となったが、その後、プロトコルが修正され再開されていた。JAMA誌2022年5月17日号掲載の報告。メチルプレドニゾロンの用量を0.6~0.8mg/kg/日から0.4mg/kg/日に減量し、試験を再開 研究グループは、2012年5月~2019年11月の期間に、適切な基礎治療を3ヵ月以上行っても蛋白尿1g/日以上、推定糸球体濾過量(eGFR)20~120mL/分/1.73m2のIgA腎症患者503例を、メチルプレドニゾロン群またはプラセボ群に1対1の割合に無作為に割り付けた。 メチルプレドニゾロン群は、当初、0.6~0.8mg/kg/日(最大48mg/日)を2ヵ月間投与、その後4~6ヵ月で減量・離脱(8mg/日/月で減量)するレジメンであったが、メチルプレドニゾロン群に136例、プラセボ群に126例、計262例が無作為化された時点で重篤な感染症の過剰発生が認められたため、2015年11月13日に中止となった。その後、プロトコルを修正し、メチルプレドニゾロン群は、0.4mg/kg/日(最大32mg/日)を2ヵ月間投与、その後4~7ヵ月で減量・離脱(4mg/日/月で減量)するレジメンに変更するとともに、ニューモシスチス肺炎に対する抗菌薬の予防的投与を治療期間の最初の12週間に追加した。 2017年3月21日に修正プロトコルで試験が再開され、2019年11月までに241例(メチルプレドニゾロン群121例、プラセボ群120例)が登録された。 主要評価項目はeGFR40%低下・腎不全(透析、腎移植)・腎疾患死亡の複合で、副次評価項目は腎不全などの11項目とし、2021年6月まで追跡調査した。メチルプレドニゾロン群で複合アウトカムが有意に減少、高用量では有害事象が増加 無作為化された503例(平均年齢:38歳、女性:198例[39%]、平均eGFR:61.5mL/分/1.73m2、平均蛋白尿:2.46g/日)のうち、493例(98%)が試験を完遂した。 平均追跡期間4.2年において、主要評価項目のイベントはメチルプレドニゾロン群で74例(28.8%)、プラセボ群で106例(43.1%)に認められた。ハザード比(HR)は0.53(95%信頼区間[CI]:0.39~0.72、p<0.001)、年間イベント率絶対群間差は-4.8%/年(95%CI:-8.0~-1.6)であった。 メチルプレドニゾロン群の各用量について、それぞれのプラセボ群と比較して主要評価項目に対する有効性が確認された(異質性のp=0.11、HRは高用量群0.58[95%CI:0.41~0.81]、減量群0.27[95%CI:0.11~0.65])。 事前に規定された11項目の副次評価項目のうち、腎不全(メチルプレドニゾロン群50例[19.5%]vs.プラセボ群67例[27.2%]、HR:0.59[95%CI:0.40~0.87]、p=0.008、年間イベント率群間差:-2.9%/年[95%CI:-5.4~-0.3])などを含む9項目で、メチルプレドニゾロン群が有意に好ましい結果であった。 重篤な有害事象の発現は、メチルプレドニゾロン群がプラセボ群より多く(28例[10.9%]vs.7例[2.8%])、とくに高用量群で高頻度であった(22例[16.2%]vs.4例[3.2%])。

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オミクロン株とデルタ株の流行時期における、COVID-19に伴う症状の違いや入院リスク、症状持続時間について(解説:寺田教彦氏)

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、流行株の種類により感染力や重症化率、ワクチンの効果が変化していることはニュースでも取り上げられている。これらのほかに、流行株により臨床症状が変わってきたことも医療現場では感じることがあるのではないだろうか? 例えば、2020年にイタリアから報告されたCOVID-19に伴う症状では、味覚・嗅覚障害が新型コロナウイルス感染症の50%以上に認められ、特徴的な症状の1つと考えられていたが、それに比して咽頭痛や鼻汁などの上気道症状は少なかった(Carfi A, et.al. JAMA 2020;324:603-605.)。ところが、2022年4月現在の臨床現場の感覚としては、COVID-19に伴う症状は咽頭痛や声の変化を訴える患者が増えてきており、味覚・嗅覚障害を理由に検査を新型コロナウイルスのPCR検査を受ける人はほとんどいなくなったように思われる。 本研究は、英国において、新型コロナウイルス感染症の検査結果や症状を報告するアプリ「ZOE COVID」の使用者を対象に、オミクロン株とデルタ株の流行時期のデータを比較している。 オミクロン株の症状の特徴としては、下気道症状や嗅覚異常が少なく、咽頭痛がデルタ株より多いことが報告されている(オミクロン株患者の症状報告、喉の痛みや嗅覚障害の割合は?/Lancet)。そして、Supplementary appendixのTbale S2に個々の症状についてワクチン2回接種後と3回接種後(ブースター接種済み)の患者による症状の違いもまとめられている。 デルタ株、オミクロン株の症状を比較すると、発熱は2回接種後で(44.1% vs.36.7%、[OR]:0.82、95%信頼区間[CI]:0.75~0.9)、3回接種後で(25.8% vs.39.2%、OR:1.09、95%CI:0.9~1.33)。 嗅覚障害は2回接種後で(41.9% vs.22.3%、OR:0.53、95%CI:0.48~0.58)、3回接種後で(32.4% vs.27.7%、OR:0.6、95%CI:0.49~0.73)。味覚障害は2回接種後で(56.7% vs.17.6%、OR:0.16、95%CI:0.14~0.18)、3回接種後で(38% vs.13.2%、OR:0.24、95%CI:0.2~0.3)と味覚・嗅覚症状はオミクロン株で減少傾向。鼻水は2回接種後で(80.9% vs.82.6%、OR:0.66、95%CI:0.59~0.74)、3回接種後で(81.8% vs.74.9%、OR:1.11、95%CI:0.89~1.39)。 嗄声は2回接種後で(39.6% vs.42.8%、OR:1.15、95%CI:1.05~1.26)、3回接種後で(31.1% vs.42%、OR:1.62、95%CI:1.35~1.94)。咽頭痛は2回接種後で(63.4% vs.71%、OR:1.42、95%CI:1.29~1.57)、3回接種後で(51% vs.68.4%、OR:2.11、95%CI:1.76~2.53)と咽頭痛や嗄声はオミクロン株で増加傾向だった。 もちろん、デルタ株とオミクロン株を比較することも重要ではあるが、本邦の患者さんやCOVID-19を診療する機会の少ない医療従事者の中には2020年ごろにニュースで取り上げられていた症状をCOVID-19の典型的な症状と捉えている方もおり、昨今の新型コロナウイルス感染症は、いわゆる風邪(急性ウイルス性上気道炎)の症状に合致し、検査を実施する以外に鑑別は困難であることも理解しておく必要があると考える。今回の報告は、オミクロン株では2020年ごろよりも発熱や味覚・嗅覚障害の症状は減少してきており、咽頭痛や鼻水などの上気道症状が多いことを実感することのできるデータであると考える。 急性期症状の持続日数についてもまとめられているが、デルタ株では平均値が8.89で中央値が8.0、95%CI:8.61~9.17に比して、オミクロン株では平均値が6.87、中央値が5.0、95%CI:6.58~7.16とオミクロン株で短縮が認められていた。本邦でも増えてきている3回接種後(ブースター接種済み)の場合では、デルタ株感染で平均7.71日、オミクロン株では4.40日が症状持続期間であった。 入院率はオミクロン変異株流行中の入院率(1.9%)のほうが、デルタ変異株流行中の入院率(2.6%)よりも有意に低下したことを指摘されているが、これも過去の報告や現場の臨床感覚に合致する内容だろう。 本論文は、全体を通して現場の臨床感覚に一致した内容だったと考える。 今回の論文では、オミクロン株では、とくにワクチン接種後では症状持続期間が短くなっていることが確認されている。適切な感染管理を行うために現場と調整する際、新型コロナウイルス感染症で難しさを感じる点に濃厚接触者となった場合や、感染した場合に一定の休業期間を要する点がある。症状持続期間が短くなっていることからは、場合によっては、感染力を有する期間も短くなっているかもしれない。 新型コロナウイルス感染症と診断された場合や、濃厚接触者となった場合でも、感染力を有する期間も短くなっていることが明らかになれば、今後の感染対策が変わりうるだろう。他に、この論文のLimitationsの4つ目に、年齢やワクチン接種状況、性別は一致させたが、他の交絡因子は一致していないことが指摘されている。流行株も変化したが、抗ウイルス薬も臨床現場で使用されることが増えている。これらの抗ウイルス薬による、症状改善時間の短縮や、感染力期間が短縮されることが明らかになれば、新型コロナウイルス感染症に対する公衆衛生上の方針にも影響を及ぼしてゆくかもしれない。

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統合失調症に対する持続性注射剤抗精神病薬の使用推進要因

 米国・Janssen Global ServicesのAlexander Keenan氏らは、精神科医と統合失調症患者との疾患マネジメントに関する考え方の違いを評価し、持続性注射剤(LAI)抗精神病薬の使用要因について、調査を行った。BMC Psychiatry誌2022年3月17日号の報告。 2019年、精神科医と担当する統合失調症患者を対象に実施したリアルワールドの国際的調査「Adelphi Schizophrenia Disease Specific Programme」で収集したデータを分析した。精神科医は、統合失調症のマネジメントに関する調査を完了し、担当する成人患者10例の患者プロファイルを提供した。自己記入式調査票を用いて、対象患者から情報を収集した。症状重症度は医師から報告された臨床全般印象度(CGI)で評価し、患者の治療アドヒアランスは3段階評価で評価した(1:アドヒアランス不良~3:アドヒアランス良好)。 主な結果は以下のとおり。・精神科医466人より統合失調症患者4,345例(LAI治療患者:1,132例、非LAI治療患者:3,105例、未治療患者:108例)のデータが収集された。・LAIは、より重度な統合失調症患者に使用されており、その使用理由はさまざまであった。・精神科医と患者との間で、CGI重症度(k=0.174)と治療改善レベル(k=0.204)について、わずかな一致のみが観察された。・治療アドヒアランスレベルに関しては、中程度の一致が観察された(k=0.524)。・アドヒアランス不良の理由に関しては、明確な示唆を得られるレベルに達しなかった。 著者らは「今回のリアルワールドデータ分析により、LAIは重度の統合失調症患者に使用されることが多く、アドヒアランス改善が使用促進要因であることが明らかとなった。しかし、精神科医は統合失調症患者と比較し、疾患の重症度を過小評価している可能性、逆にアドヒアランスを過大評価する傾向が確認された」としている。

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