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緑茶は血圧を1mmHgだけ下げる【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第168回

緑茶は血圧を1mmHgだけ下げるpixabayより使用緑茶は体にいい!それは間違いないと思うのですが、血圧に対してはどうでしょうか。緑茶に含まれるカフェインの利尿作用が血圧を下げることに加えて、抗酸化作用があるとかないとか……。こうなったらメタアナリシスを実施して、血圧がどのくらい下がるか調べてみよう!というのが今回の研究。Xu R, et al.Effect of green tea supplementation on blood pressure: A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials.Medicine (Baltimore). 2020 Feb;99(6):e19047. doi: 10.1097/MD.0000000000019047.過去の観察研究や動物の研究では、緑茶によって収縮期血圧を下げられることが示されていますが、ランダム化比較試験ではいまだに結論が出ていません。今回、ランダム化比較試験を集めたメタナアリシスをおこない、緑茶が収縮期血圧を低下させるかどうかを調べました。電子データベースにおいて、2019年8月までの文献を検索しました。研究の質はJadadスコアによって評価され、出版バイアスについても評価しました。週2回以上の緑茶摂取の習慣があることが前提とされました(量は規定されず)。1,697人の被験者を対象とした24試験がメタアナリシスに含まれました。これらをプール解析したところ、緑茶の摂取は収縮期血圧(平均差-1.17 mmHg、95%信頼区間[CI]:-2.18~-0.16mmHg、p=0.02)および拡張期血圧(平均差-1.24 mmHg、95%CI:-2.07~-0.40mmHg、p=0.004)を有意に低下させることが示されました。……平均差が1mmHgちょいなので、もうぶっちゃけほとんど変わらないといっても過言ではない気がしますが。いずれの血圧パラメータも異質性がみられたものの、出版バイアスは明らかではありませんでした(p=0.674およびp=0.270)。というわけで、ちょびーーっとだけ血圧が下がる効果はあるかもしれません。それに何を期待すればよいのかはともかく。

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米国Moderna社の新型コロナワクチン、サルでの有効性確認/NEJM

 開発中の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン「mRNA-1273」は、非ヒト霊長類において、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の中和活性と上気道・下気道の速やかな保護を誘導し、肺組織の病理学的変化は認められなかった。米国・ワクチン研究センターのKizzmekia S. Corbett氏らが、アカゲザルにおけるmRNA-1273の評価結果を報告した。mRNA-1273は、SARS-CoV-2の膜融合前安定化スパイクタンパク質をコードするmRNAワクチンで、第I相試験を含むいくつかの臨床試験において安全性および免疫原性が確認されているが、上気道・下気道でのSARS-CoV-2増殖に対するmRNA-1273の有効性を、ヒトと自然免疫やB細胞・T細胞レパートリーが類似している非ヒト霊長類で評価することが重要とされていた。NEJM誌オンライン版2020年7月28日号掲載の報告。mRNA-1273の2用量を4週間間隔で2回筋肉内投与し有効性を評価 研究グループは、米国国立衛生研究所(NIH)の規定を順守し、ワクチン研究センターの動物実験委員会(Animal Care and Use Committee of the Vaccine Research Center)ならびにBioqualの承認を得て本試験を実施した。 インド原産アカゲザル(雄と雌各12匹)を3群に割り付け(性別、年齢、体重で層別化)、0週目および4週目にmRNA-1273の10μg、100μgまたはリン酸緩衝生理食塩水1mL(対照)を右後脚に筋肉内投与した。その後、8週目に、すべてのサルにSARS-CoV-2(合計7.6×105PFU)を気管内および鼻腔内投与した。 抗体およびT細胞応答をSARS-CoV-2投与前に評価するとともに、PCR法を用いて気管支肺胞洗浄(BAL)液および鼻腔スワブ検体中のウイルス複製とウイルスゲノムを評価し、肺組織検体にて病理組織学的検査とウイルス定量化を実施した。高い免疫応答の誘導と感染抑制効果を確認 mRNA-1273を2回投与後4週時の生ウイルス中和抗体価幾何平均値(reciprocal 50% inhibitory dilution:log10)は、10μg投与群で501、100μg投与群で3,481であり、ヒトの回復期血清のそれぞれ12倍および84倍高値であった。ワクチン投与によって、1型ヘルパーT細胞(Th1)に依存したCD4 T細胞応答が誘導されたが、Th2またはCD8 T細胞応答は低いかまたは検出できなかった。 10μg投与群および100μg投与群のいずれも8匹中7匹で、SARS-CoV-2投与2日目にはBAL液中のウイルス複製が検出されず、100μg投与群の8匹は、SARS-CoV-2投与2日目には鼻腔スワブ検体でもウイルス複製が検出されなかった。また、いずれのワクチン投与群も、肺検体における炎症、検出可能なウイルスゲノムや抗原は限られていた。

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緑茶は乳がんの予防になる?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第166回

緑茶は乳がんの予防になる?ぱくたそより使用最近緑茶にハマッてまして、個人的にもいろいろ調べているんです。緑茶って万物の長かっていうくらいたくさんの臨床試験が実施されています。PubMedで「Green Tea」で検索してみてください。恐ろしい数の文献がヒットしますから。もちろん、論文の質自体は玉石混交なのですが、乳がんに対するメタアナリシスを報告したのがこちら。Yu S, et al.Green tea consumption and risk of breast cancer: A systematic review and updated meta-analysis of case-control studies. Medicine (Baltimore). 2019 Jul;98(27):e16147. doi: 10.1097/MD.0000000000016147. なんでもかんでも論文を登録するとワケがわからなくなるので、オッズ比やリスク比を報告している中国語か英語の症例対照研究で、緑茶と乳がんリスクの低減効果を調べたものを対象としました。14研究がメタアナリシスの選択基準を満たし、計1万4,058人の乳がん患者と1万5,043人の対照被験者が登録されました。結果、緑茶を飲む習慣のある個人は、将来の乳がんリスクと負の関連があることが判明しました(オッズ比:0.83、95%信頼区間:0.72~0.96)。ただ、異質性がかなり高いことが、本メタアナリシスのリミテーションです(P<0 .00001、I2=84%)。Newcastle-Ottawa Scale(NOS)、研究実施地域、登録患者数などで層別化したサブグループ解析でも、同様の結果が得られました。なお、日本の乳癌診療ガイドライン1)においては、「これまでの研究結果にばらつきがあり、近年の信頼性の高い論文はその関連を否定するものが多く、日本人の研究に限ってもそれは同様である。以上より、緑茶の摂取が乳癌発症リスクを減少させるかどうかは、結論付けられないと判断した。」と記載されており、今回のメタアナリシスが、今後のガイドラインに影響を与えるのかどうかは不明です。いずれにしても、保護的な効果は臨床で実感するほどのものではないと確信しています。1)日本乳癌学会. 乳癌診療ガイドライン.

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経口JAK1阻害薬、中等症~重症ADに有用

 中等症~重症アトピー性皮膚炎(AD)に対する、1日1回服用の経口JAK1阻害薬abrocitinibの、第III相プラセボ対照無作為化試験の結果が発表された。米国・ジョージ・ワシントン大学のJonathan I. Silverberg氏らによる報告で、12歳以上の同患者における有効性および忍容性が確認された。JAMA Dermatology誌オンライン版2020年6月3日号掲載の報告。 試験は青年および成人について、同一試験デザインを用いて、二重盲検・並行群間比較にて行われた。被験者は12歳以上で、少なくとも1年以上の中等症~重症ADと臨床診断され、直近6ヵ月以内に4週間以上の外用薬治療を受けたが十分な奏効が得られなかった患者とした。オーストラリア、ブルガリア、カナダ、中国、チェコ、ドイツ、ハンガリー、日本、韓国、ラトビア、ポーランド、英国、米国の計115施設で2018年6月29日~2019年8月13日に被験者の登録が、2019年9月13日~10月25日にデータ解析が行われた。 適格患者は、2対2対1の割合で(1)経口abrocitinib(1日1回)200mg群、(2)同100mg群、(3)プラセボ群に無作為に割り付けられ、12週間投与を受けた。 主要評価項目は2つで、12週時点でInvestigator Global Assessment(IGA)反応(0:クリア、1:ほぼクリアのうち2グレード以上の改善を伴う)を達成した患者の割合、同じくEczema Area and Severity Indexスコア75%以上改善(EASI-75)を達成した患者の割合であった。 主な副次評価項目は、12週時点のPeak Pruritus Numerical Rating Scale(PP-NRS)反応(4ポイント以上の改善)を達成した患者の割合。その他の副次評価項目は、EASIスコア90%以上改善(EASI-90)を達成した患者の割合であった。安全性は、有害事象および検査室モニタリングにより評価した。 主な結果は以下のとおり。・計391例(男性229例[58.6%]、平均年齢35.1[SD 15.1]歳)が、解析に含まれた(abrocitinib 200mg群155例、同100mg群158例、プラセボ群78例)。・12週時点でデータが入手できた被験者において、200mgおよび100mg群は、プラセボ群と比べて、2つの主要評価項目がいずれも有意に高かった。 IGA達成の割合:59/155例(38.1%)・44/155例(28.4%)vs.7/77例(9.1%)、p<0.001 EASI-75達成の割合:94/154例(61.0%)・69/155例(44.5%)vs.8/77例(10.4%)、p<0.001・PP-NRS達成の推定割合も有意に高かった(55.3%[95%CI:47.2~63.5]・45.2%[37.1~53.3]vs.11.5%[4.1~19.0]、p<0.001)。・EASI-90達成の割合も高かった(58/154例[37.7%]・37/155例[23.9%]vs.3/77例[3.9%])。・有害事象は200mg群102例(65.8%)、100mg群99例(62.7%)、プラセボ群42例(53.8%)で報告され、重篤な有害事象は2例(1.3%)、5例(3.2%)、1例(1.3%)で報告された。・200mg群で、血小板数の減少(2例[1.3%])、検査室で確認された血小板減少症(5例[3.2%])が報告された。

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カリウムイオンを補足する非ポリマー型高K血症治療薬「ロケルマ懸濁用散分包5g/10g」【下平博士のDIノート】第53回

カリウムを便中に出す非ポリマーの高カリウム血症治療薬「ロケルマ懸濁用散分包5g/10g」今回は、高カリウム血症改善薬「ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム水和物(商品名:ロケルマ懸濁用散分包5g/10g、製造販売元:アストラゼネカ)」を紹介します。本剤は、体内に吸収されない非ポリマーの無機陽イオン交換化合物で、消化管内のカリウムイオンを選択的に捕捉して便中に排泄させることにより、血清カリウム値を低下させます。<効能・効果>本剤は高カリウム血症の適応で、2020年3月25日に承認され、2020年5月20日より発売されています。なお、本剤は効果発現が緩徐であるため、緊急の治療を要する高カリウム血症には使用できません。<用法・用量>通常、成人には開始用量として1回10gを水で懸濁して1日3回、2日間(血清カリウム値や患者の状態に応じて最長3日間まで)経口投与します。以後の維持量は1日1回5gですが、血清カリウム値や患者の状態に応じて1日1回15gを超えない範囲で適宜増減できます。なお、増量を行う場合は5gずつとし、1週間以上の間隔を空けます。血液透析施行中の場合は、初回から1回5gを水で懸濁して、非透析日に1日1回経口投与します。なお、最大透析間隔後の透析前の血清カリウム値や患者の状態に応じて、1日1回15gを超えない範囲で適宜増減します。<安全性>本剤承認の根拠となった主要な第III相試験(非透析患者を対象としたHARMONIZE Global試験、J-LTS試験および慢性血液透析患者を対象としたDIALIZE試験)において確認された主な副作用は、浮腫、体液貯留、全身性浮腫、末梢性浮腫、末梢腫脹、便秘(いずれも10%未満)などでした(承認時)。なお、重大な副作用として、低カリウム血症(11.5%)、うっ血性心不全(0.5%)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.このお薬は、消化管内で吸収される前のカリウムを吸着し、便とともに排泄することで、血液中のカリウム値を低下させます。2.分包された薬剤を容器にすべて出してから、約45mL(大さじ3杯)の水と合わせて服用します。この薬は水に溶けないため、よくかき混ぜて、沈殿する前に飲んでください。飲んだ後に容器に薬が残っていたら、水を追加して再度かき混ぜてすべて服用してください。3.飲み忘れた場合は、1回飛ばして、次に飲む時間に1回分を飲んでください。絶対に2回分を一度に飲まないでください。4.いつもと違う手足のだるさ、力が抜ける感じ、筋肉のこわばり、呼吸のしにくさ、めまい、動悸などがある場合は、薬が効き過ぎている可能性があるため、すぐにご連絡ください。<Shimo's eyes>通常、カリウムは腎臓から排泄されて血中のカリウム値は一定の範囲に保たれますが、慢性腎臓病患者や透析患者では、腎機能の低下によりカリウム排泄が低下するため、高カリウム血症を発症しやすくなります。高カリウム血症に用いる既存のカリウム吸着薬としては、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム製剤(商品名:ケイキサレート)およびポリスチレンスルホン酸カルシウム製剤(同:カリメート、アーガメイトゼリーなど)があり、いずれもポリマーで構成された陽イオン交換樹脂製剤です。既存薬には独特の味と舌触りがあり、投与量が多いことも相まって、患者さんが継続服用するのが困難な場合があります。飲みにくさを改善するために、ゼリー製剤やフレーバーが開発されているだけでなく、複数の医療機関から飲みやすさの工夫に関する研究結果も報告されています。また、ポリマー性吸着薬は水分によって膨張するため、便秘や腹痛、腹部膨満感などの懸念があります。本剤は国内初となる非ポリマー無機陽イオン交換化合物で、消化管内のカリウムイオンを選択的に捕捉して便中に排泄させます。無味無臭の白色粉末で、開始時は10gを1日3回経口投与であるものの、3日目からは通常5gを1日1回となり、服用量・回数共に比較的少ないため、アドヒアランスの向上が期待できます。本剤の相互作用については、胃内pHの上昇によって、アゾール系抗真菌薬、チロシンキナーゼ阻害薬などの溶解性低下が起きることがあるので、注意が必要です。生活指導としては、腎臓への負担を少しでも減らすために、カリウムを多く含む食品の過剰摂取に注意することや、茹でたり水にさらしたりするなどの調理方法の工夫を伝えましょう。参考1)PMDA 添付文書 ロケルマ懸濁用散分包5g/ロケルマ懸濁用散分包10g

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ASCO2020レポート 消化器がん(胆膵がん)

レポーター紹介2020年のASCOは、2020年5月29日からWebで開催された。これは、COVID-19の影響で、Virtual meetingとなったためである。Virtual meetingとは、Oral presentation、Poster discussion、Poster presentationもすべてASCOのWeb site上にスライドがUploadされ、発表者が発表内容を録音しているものを聞くだけで、相互のDiscussionがあるわけではない。Oral presentationとPoster discussionにはDiscussantが付いていて、それぞれの演題にコメントをしているが、質疑応答があるわけでもなく、ちょっと物寂しい感じが否めなかった。私も気合を入れて、現地時間の朝8時(日本時間の5月30日の夜中12時)からの開催に胸を弾ませスタンバっていたが、その前からスライドは閲覧可能であり、先んじて見ることができた。むしろ夜中12時からはアクセスが集中し過ぎて、ASCOのサイトに入れない状況であり、なんだか肩透かしを食らった感じであった。今年のASCOのテーマは「Unite & Conquer: Accelerating progress together」で、「皆で団結して、がんを征服しよう:共に進歩を加速させよう」ということで、がん研究を一緒に分かち合い、国際的な共同研究を行い、がんの克服を目指して、協力していこうという、会長の意思がよくわかる学会である。そして、本学会の会長はHoward A. Burris III先生であり、膵がんを担当している先生なら知らない人はいないはず。そうです、1997年にゲムシタビンと5FUの比較試験の報告をした先生であり、とうとう会長にまで登り詰めたんだと、非常に感慨深いものがあった。さて、今年の胆膵領域では、Oral presentationで膵がんが2演題、Poster discussionで膵がんが2演題、胆道がんが1演題、胆膵がんその他が1演題、取り上げられていた。Poster発表では、膵がんが28演題、胆道がんは14演題、神経内分泌腫瘍は8演題などであった。やはり膵がんは全世界的にも患者は増加傾向であり、治療成績も十分ではないため、喫緊の課題である。このことを反映してか演題数も多かった。とくに、Trial in progressの発表は膵がんが14演題と圧倒的に多く、次いで胆道がんが5演題、神経内分泌腫瘍が1演題であった。やはり、今後の開発は膵がんが圧倒的に注目されていることを表す結果だと思われた。膵がんmFOLFIRINOX療法とゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法による周術期化学療法の比較試験(SWOG S1505) 1)膵がんの周術期の治療は、日本ではPrep02/JSAP05試験により、ゲムシタビン(Gem)+S-1併用療法による術前補助化学療法と、S-1による術後補助化学療法が標準治療となったが、世界的には術前化学療法は標準治療としては確立していない。しかし、術前補助化学療法は、早期から遠隔転移を抑制することができ、化学療法を効率よく行うことができ、切除を行ってもすぐに再発するような予後不良な患者を除外することができ、真に切除が必要な患者を選択できるため、臨床試験としてさまざまな取り組みが世界中で試みられている。本試験は、術前術後の補助化学療法として、modified FOLFIRINOX(mFFX)とGem+ナブパクリタキセル(Gem+nab-PTX)を比較したランダム化第II相試験(SWOG S1505)であった。主な適格規準は、膵がんに対する治療歴がない切除可能膵がん患者である。mFFX(フルオロウラシル 2,400mg/m2、オキサリプラチン 85mg/m2、イリノテカン 180mg/m2、2週ごと)とGem+nab-PTX(Gem 1,000mg/m2、ナブパクリタキセル 125mg/m2、3投1休)に1対1の割合で割り付けられた。術前化学療法を12週行った後に画像評価し、切除可能と判断された場合は切除を行い、さらに術後に術前と同じレジメンの化学療法を12週間行った。主要評価項目は2年生存割合として、閾値を40%とし、検出力88%、片側αを0.05として、期待値58%を超えた治療を有望な治療と判断することとした。2015年10月から登録を開始し、2018年4月に147例の集積が完了し、最終的に102例の適格症例が登録された。mFFX群に55例、Gem+nab-PTX群に47例が割り付けられた。2年生存割合はmFFX群が43.1%、Gem+nab-PTX群が46.9%であり、両群とも閾値の40%を統計学的有意に超えることができなかった。全生存期間(中央値)は22.4ヵ月および23.6ヵ月であった。外科切除を行った患者のうち、R0切除割合は両群ともに85%であり、N0で切除できた症例はそれぞれ40%および45%であった。病理学的奏効割合はmFFX群が25%に対して、Gem+nab-PTX群が42%と若干良好であり、その分、術後の無病生存期間もmFFX群10.9ヵ月に対して、Gem+nab-PTX群14.2ヵ月と良好であった。有害事象は両群ともに同様であり、忍容可能と考えられた。コメント本試験の結果、両群ともに期待値に到達せず、“no winner(勝者はなし)”という結果になった。病理学的奏効割合はGem+nab-PTX群が40%と、mFFXの25%よりも良好であった。術後補助療法では有意な結果を示せなかったGem+nab-PTXであるが、術前補助療法としての有用性はまだ期待できる可能性が示された。本試験では、術前化学療法の有効性を示すことはできなかったが、現在、mFFXの術後治療6ヵ月と術前4ヵ月+術後2ヵ月を比較したAlliance 021806試験が進行中であり、その結果が待たれるところである。切除境界可能膵がんに対するImmediate surgeryとゲムシタビン+カペシタビン、mFFX、化学放射線療法の術前治療のランダム化第II相試験 2)切除境界可能膵がん(BR膵がん)に対するImmediate surgery(術前治療を行わない群)とゲムシタビン+カペシタビン(Gem+Cape)、mFFX、化学放射線療法の4群を比較し、どの術前治療が有効かを明らかにするランダム化第II相試験であった。主要評価項目は、R1+R0切除割合と症例集積割合で、副次評価項目は、R0切除割合、有害事象と全生存期間であった。主要評価項目のR1+R0切除割合は、Immediate surgery群で62%、術前治療群(Gem+Cape、mFFX、化学放射線療法をあわせた群)で55%であり、有意差は認めなかった(p=0.668)。また、R0切除割合もImmediate surgery群で15%、術前治療群で23%であり、有意差は認めなかった(p=0.721)。症例集積割合は、1年当たり20.74例であり、症例集積にはかなりの時間を要することが示された。12ヵ月生存割合は、Immediate surgery群で42%、術前治療群で77%であり、有意に良好であった(ハザード比:0.28、95%信頼区間[CI]:0.14~0.57、p<0.001)。また、術前治療別の12ヵ月生存割合は、Gem+Capeが79%、mFFXが84%、化学放射線療法が64%であり、mFFXが最も良好であった。Immediate surgery群と術前治療群で、切除率に差は認めなかったが、12ヵ月生存割合は術前治療で有意に良好であり、なかでもmFFXが最も良好な治療成績であった。BR膵がんに対しては、術前治療を行うことを考慮すべきであり、レジメンとしてはmFFXが良好な可能性が示された。コメント著者らは術前治療推しの結語にしているが、実際には主要評価項目は達成しておらず、副次評価項目である生存期間が良好であったのが、術前治療であったため、BR膵がんに対しては術前治療を行うことを考慮すべきと結論付けている。少しずるい感じは否めないが、BR膵がんに対するUpfront surgeryと術前化学放射線療法を比較したランダム化比較試験の結果も術前治療群で有意に良好な結果が報告されているため、その結果に引っ張られる形での結語になっている。世の中の流れ的にも、BR膵がんは術前治療ありきだし、レジメンとしても最強なレジメンであるmFFXを考慮することは十分考えられうることであり、この結語に対する皆の受け入れは良いと思われる。ESPAC-4:術後補助化学療法Gem+Cape vs.Gemの第III相試験の5年後の経過観察 3)術後補助化学療法の第III相試験(ESPAC-4)において、Gem+Cape群は、Gem群と比べて有意に良好な生存期間が示され、標準的な術後補助化学療法として確立している。今回は、ESPAC-4試験の5年の長期経過観察後の結果の発表であった。Gem群366例、Gem+Cape群364例が解析対象であり、生存期間(中央値)はGem群26.0ヵ月、Gem+Cape群27.7ヵ月であり、有意差が得られたままであった(ハザード比:0.84、95%CI:0.70~0.99、p=0.049)。多変量解析においても、切除断端陽性、術後CA19-9高値、術前CRP高値、低分化型、リンパ節転移陽性、最大腫瘍径と共に、有意な予後因子として、術後補助化学療法が選択された。術後補助化学療法のGem+CapeはGemと比べて有意に生存期間の延長に寄与することが、長期経過観察の結果からも示された。コメント大規模な術後補助化学療法の5年の長期経過観察後の発表であるが、とくに驚くことのない試験結果であり、この演題がPoster discussionであることのほうがむしろ驚きである。今年はあまり採択すべき演題がなかったのかなと思ってしまった。膵がん切除後補助化学療法Gem+nab-PTX vs.Gem aloneの第III相試験(APACT)の生存期間のUpdateと地域ごとの治療成績 4)ちょうど1年前のASCOで発表された、膵がん切除後の補助化学療法としてのGem+nab-PTXとGem aloneを比較した第III相試験(APACT)の結果は、主要評価項目である中央判定による無病生存期間の延長は認めなかったため、標準的な術後補助化学療法としては位置付けられていない。しかし、副次評価項目である全生存期間の延長を認めており、担当医判断の無病生存期間においても有意な差が認められていたため、中央判定が良くなかったのではないかとまで言われている試験であった。この試験は、全世界179施設、21ヵ国で行われたGlobal試験であり、今回、このAPACT試験の生存期間のUpdateと地域ごとの治療成績の違いについて発表された。膵がん(T1-3、N0-1、M0)に対してR0またはR1切除を行い、術後に再発を認めず、CA19-9が100 U/mL未満に低下した患者をGem+nab-PTX群432例とGem alone群434例にランダムに割り付けた。Updateされた全生存期間(中央値)は、Gem+nab-PTX群41.8ヵ月とGem alone群37.7ヵ月であり、ハザード比0.82(95%CI:0.687~0.973、p=0.232)と、主解析時点と同様の結果が得られた。欧州、北米、アジア、オーストラリアの4地域における患者背景、生存期間、有害事象の違いも報告された。患者背景では、オーストラリアの患者でPerformance statusが0の患者とR0切除割合がGem+nab-PTX群で低率であったこと以外は両群で有意差は認めなかった。また、地域ごとの違いでは、アジアの患者で、R0切除、N0の患者が最も多く認められ、投与状況では累積投与量がアジアの患者でやや多かった。生存期間は、どの地域でもGem+nab-PTX群で良好な傾向が認められており、地域によらず一定の効果が認められた。Gem+nab-PTXの生存期間(中央値)は、欧州41.8ヵ月、北米38.5ヵ月、アジア46.8ヵ月、オーストラリア31.5ヵ月と患者背景を反映してか、アジアで良好であった。有害事象に関しては、これまでの報告と同様にGem+nab-PTX群でGrade3以上の治療関連有害事象発現割合が高く、その内訳は好中球減少、貧血、白血球減少、末梢神経障害、疲労など、既知のものだった。また、地域ごとの違いはほぼ認められなかった。このように、4年の追跡調査結果は主解析と同様の結果であり、地域別の解析でも、全体での解析結果と同様の結果だった。コメント膵がん切除後の補助化学療法として、Gem+nab-PTXとGemを比較した第III相試験(APACT)の生存期間のUpdateの結果と地域による治療成績の違いを検討した結果が報告された。くしくも、このAPACT試験の生存期間のハザード比は0.82であり、ESPAC-4試験でPositiveな結果となったGem+Capeのハザード比0.84と同等からやや良好な結果が示されており、生存期間(中央値)もGem+nab-PTXは41.8ヵ月、Gem+Capeは27.7ヵ月であり、患者背景が違うため、単純に比較はできないが、APACT試験の結果が良好であった。あえてこのように並べて発表したのかはわからないが、Gem+nab-PTXの術後補助化学療法の有効性を示唆する結果であった。また、地域による治療成績の違いの検討は、肝細胞がんでは地域による違いが問題になることもあるが、膵がん切除後の補助化学療法においては、地域による患者背景や治療成績に違いはほぼないことがわかり、今後、Global試験を行ううえで、非常に重要な結果が示されたと考えている。胆道がん進行胆道がんの初回治療例に対するGem+Cisplatin+Durvalumab+Tremelimumab vs.Gem+Cisplatin+Durvalumabの第II相試験 5)切除不能または再発胆道がんの初回治療例に対して、Gem+Cisplatin(GC)+Durvalumab(D)+Tremelimumab(T)のバイオマーカーコホート30例とGC+Dコホート45例、GC+D+Tコホート46例の第II相試験の結果が韓国から報告された。奏効割合は、バイオマーカーコホート50.0%、GC+Dコホート73.4%、GC+D+Tコホート73.3%と非常に良好であり、奏効までの期間(中央値)も2.3ヵ月と良好であった。無増悪生存期間(中央値)と生存期間(中央値)はそれぞれ、バイオマーカーコホート13.0ヵ月と15.0ヵ月、GC+Dコホート11.0ヵ月と18.1ヵ月、GC+D+Tコホート11.9ヵ月と20.7ヵ月と、まだ打ち切り例が多いが、非常に良好な結果が報告された。バイオマーカーコホートで、1サイクル後のPD-L1の発現によって無増悪生存期間に違いが出る可能性が示唆された。全Gradeの有害事象は、悪心59.5%、好中球減少54.5%、掻痒55.4%に認めたが、忍容性は良好であったと解釈された。現在、GC+D vs.GCの第III相試験(TOPAZ-1: NCT03875235)が進行中であることが報告された。コメント胆道がんにおける免疫チェックポイント阻害剤は期待されており、GC+免疫チェックポイント阻害剤の併用療法の第III相試験がいくつか進行中である。今回、GCにDまたはD+Tを併用することで非常に良好な治療成績が報告されているが、現在、進行中の第III相試験は、GC+D vs.GC+プラセボの第III相試験(TOPAZ-1)であり、Tの併用はない。今後、GC+T+Dのレジメンの開発がどうなるのかは、まったくわからない状況であった。胆道がんに対するその他の治療開発は、1次治療としてGC+ペムブロリズマブvs.Gem+プラセボの第III相試験(KEYNOTE-966)、GC+Bintrafusp alfa(M7824)vs.GC+プラセボの第II/III相試験(Trap0055)が進行中であり、2次治療以降では、ゲムシタビン、シスプラチンおよびS-1の前治療歴がある胆道がん患者を対象としたニボルマブの治験、職業関連胆道がん患者を対象としたニボルマブ単剤による医師主導治験などが進行中であり、やはり注目度は高い。胆膵がんその他ctDNAと組織でのクリニカルシーケンスの比較:SCRUM-Japan GI-Screen vs. GOZILA 6)SCRUM-Japanで行われてきた組織でのクリニカルシーケンス(GI-Screen)と血液でのctDNA(GOZILA)を比較した検討結果が、JCOG肝胆膵グループの若手のホープである国立がん研究センター中央病院の大場先生から報告された。SCRUM-Japanでは、消化器がんを中心にがん遺伝子のクリニカルシーケンスの研究として行ってきた。今回、組織でのクリニカルシーケンスであるGI-Screen研究に参加された2,952例と、リキッドバイオプシーであるctDNAによるがん遺伝子検査のGOZILA研究に参加された632例の患者背景、検査結果が判明するまでの時間、同定されたActionable遺伝子異常、臨床試験への参加割合と参加までの期間、臨床試験での奏効割合と無増悪生存期間を比較検討した。患者背景では、GOZILA研究に膵がんの患者が多く登録されており、膵がんは組織が採取しにくく、リキッドバイオプシーが好まれる傾向にあることが示された。検査結果が判明するまでの時間(中央値)は、GI-Screenでは37日、GOZILAでは12日と、GOZILAで有意に短かった(p1)Davendra Sohal, Mai T. Duong, Syed A. Ahmad, et al. SWOG S1505: Results of perioperative chemotherapy (peri-op CTx) with mfolfirinox versus gemcitabine/nab-paclitaxel (Gem/nabP) for resectable pancreatic ductal adenocarcinoma (PDA). J Clin Oncol 38: 2020 (suppl; abstr 4504)2)Paula Ghaneh, Daniel H. Palmer, Silvia Cicconi, et al. ESPAC-5F: Four-arm, prospective, multicenter, international randomized phase II trial of immediate surgery compared with neoadjuvant gemcitabine plus capecitabine (GEMCAP) or FOLFIRINOX or chemoradiotherapy (CRT) in patients with borderline resectable pancreatic cancer. J Clin Oncol 38: 2020 (suppl; abstr 4505)3)John P. Neoptolemos, Daniel H. Palmer, Paula Ghaneh, et al. ESPAC-4: A multicenter, international, open-label randomized controlled phase III trial of adjuvant combination chemotherapy of gemcitabine (GEM) and capecitabine (CAP) versus monotherapy gemcitabine in patients with resected pancreatic ductal adenocarcinoma: Five year follow-up. J Clin Oncol 38: 2020 (suppl; abstr 4516)4)Michele Reni, Hanno Riess, Eileen Mary O'Reilly, et al. Phase III APACT trial of adjuvant nab-paclitaxel plus gemcitabine (nab-P + Gem) versus gemcitabine (Gem) alone for patients with resected pancreatic cancer (PC): Outcomes by geographic region. J Clin Oncol 38: 2020 (suppl; abstr 4515)5)Do-Youn Oh, Kyung-Hun Lee, Dae-Won Lee, et al. Phase II study assessing tolerability, efficacy, and biomarkers for durvalumab (D) ± tremelimumab (T) and gemcitabine/cisplatin (GemCis) in chemo-naive advanced biliary tract cancer (aBTC). J Clin Oncol 38: 2020 (suppl; abstr 4520)6)Akihiro Ohba, Yoshiaki Nakamura, Hiroya Taniguchi, Masafumi Ikeda, et al. Utility of circulating tumor DNA (ctDNA) versus tumor tissue clinical sequencing for enrolling patients (pts) with advanced non-colorectal (non-CRC) gastrointestinal (GI) cancer to matched clinical trials: SCRUM-Japan GI-SCREEN and GOZILA combined analysis. J Clin Oncol 38: 2020 (suppl; abstr 3516)

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急性間欠性ポルフィリン症、RNAi薬givosiranが有効/NEJM

 急性間欠性ポルフィリン症患者の治療において、RNAi(RNA interference:RNA干渉)治療薬givosiranはプラセボに比べ、ポルフィリン症発作をはじめとする諸症状の抑制に高い効果を発揮する一方で、肝臓や腎臓の有害事象の頻度が高いことが、米国・マウントサイナイ・アイカーン医科大学のManisha Balwani氏らが実施した「ENVISION試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2020年6月11日号に掲載された。急性肝性ポルフィリン症の急性発作と慢性症状の病因の中心となるのは、δ-アミノレブリン酸(ALA)とポルフォビリノーゲン(PBG)の蓄積をもたらす肝臓のδ-アミノレブリン酸合成酵素1(ALAS1)のアップレギュレーションと考えられている。givosiranは、ALAS1のmRNAを標的とするRNAi治療薬であり、ALAとPBGの蓄積を防止するという。18ヵ国36施設のプラセボ対照第III相試験 本研究は、日本を含む18ヵ国36施設が参加した二重盲検プラセボ対照第III相試験であり、2017年11月16日~2018年6月27日に患者登録が行われた(Alnylam Pharmaceuticalsの助成による)。 対象は、年齢12歳以上、症候性の急性肝性ポルフィリン症で、尿中ALAとPBG濃度が正常上限値の4倍以上に上昇した患者であった。 被験者は、givosiran(2.5mg/kg体重)を月1回皮下投与する群、またはプラセボを投与する群に無作為に割り付けられ、6ヵ月の治療が行われた。 主要エンドポイントは、急性間欠性ポルフィリン症(急性肝性ポルフィリン症の最も頻度の高いサブタイプ)患者における複合ポルフィリン症発作の年間発生率とした。複合ポルフィリン症発作は、入院、医療施設への緊急受診、自宅での静脈内ヘミン投与を行った場合とした。 重要な副次エンドポイントは、急性間欠性ポルフィリン症患者におけるALAとPBGの濃度、ヘミンの使用日数、1日最大疼痛スコア、および急性肝性ポルフィリン症患者における発作の年間発生率などであった。主要エンドポイントが74%低下、ALAは86%、PBGは91%低下 94例が登録され、givosiran群に48例、プラセボ群には46例が割り付けられた。全体の平均年齢は38.8±11.4歳、女性が84例(89%)であった。94例中89例が急性間欠性ポルフィリン症だった。 急性間欠性ポルフィリン症患者における6ヵ月後の複合ポルフィリン症発作の平均年間発生率は、givosiran群が3.2、プラセボ群は12.5であり、givosiran群で74%低かった(p<0.001)。複合発作の3つの構成要素である入院、緊急受診、静脈内ヘミン投与はいずれも、givosiran群で低下の程度が大きかった。また、複合発作の年間発生率の中央値では、givosiran群が1.0、プラセボ群は10.7であり、givosiran群で90%低かった。急性肝性ポルフィリン症でも、ほぼ同様の結果だった。 急性間欠性ポルフィリン症患者では、givosiran群はプラセボ群に比べ、尿中のALA(3ヵ月、6ヵ月)およびPBG(6ヵ月)の濃度が低く(いずれもp<0.001)、ヘミンの使用日数が少なく(p<0.001)、1日最大疼痛スコアが良好だった(p=0.046)。また、急性肝性ポルフィリン症患者における発作の年間発生率も、givosiran群で低かった(p<0.001)。ALAとPBG濃度の低下は、介入期間中を通じて持続し、6ヵ月時のベースラインからの低下の割合中央値は、ALA濃度が86%、PBG濃度は91%だった。 givosiran群で頻度が高かった重要な有害事象は、アラニン・アミノトランスフェラーゼ(ALT)値上昇(8% vs.2%)、血清クレアチニン値上昇または推定糸球体濾過量低下(15% vs.4%)、注射部位反応(25% vs.0%)であった。givosiran群の10%に、慢性腎臓病が発現した。 重篤な有害事象の割合は、givosiran群で高かった(21% vs.9%)。また、ALT値が正常上限値の3倍以上の患者の割合はgivosiran群で高く(15% vs.2%)、投与開始から3~5ヵ月後に発生した。ALT値が正常上限値の9.9倍に達した1例は、治療中止となったが、6ヵ月後には正常値に回復した。これ以外に、治療中止や脱落した患者はなかった。 著者は、「肝臓や腎臓の有害事象が多かったものの、安全性プロファイルは許容できるものであった」としている。これらの知見に基づき、givosiranは急性肝性ポルフィリン症の成人患者の治療薬として、2019年11月20日に米国食品医薬品局(FDA)の、2020年3月3日に欧州医薬品庁(EMA)の承認を得ており、EMAは12歳以上での使用を承認しているという。

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MRワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第1回

ワクチンで予防できる疾患(疾患について・疫学)ワクチンで予防できる疾患、VPD(Vaccine Preventable Disease)は、数えられるほどしかない。しかし、世界ではいまだに多くの子供や大人(時に胎児も)が、ワクチンで予防できるはずの感染症に罹患し、後遺症を患ったり、命を落としたりしている。わが国では2012~2013年の風疹大流行(感染者約17,000人)に引き続き1)、2018~2019年にも流行した(感染者5,000人以上)。その影響もあり、日本は下記期間において世界3位の風疹流行国となっている2)(図1、表1)。風疹ワクチンのもっとも重要な目的は先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrom:CRS)の予防である。それには、風疹が流行しないよう、風疹含有ワクチン接種により集団免疫を高めることが何より重要である。図1 2019年3月~2020年2月(1年間)の風疹発生数と発生率(100万人当たり)画像を拡大する表1 風疹患者数(上位10ヵ国)Global Measles and Rubella Monthly Update (Accessed on April 24, 2020)より引用画像を拡大する一方、麻疹は、世界で約14万人の命を奪う(2018年推計)ウイルス感染症である。麻疹の死亡率は先進国でさえも約1,000人に1人といわれており、重症度の高い感染症である。感染力も強いため、風疹と同様、予防接種により高い集団免疫を獲得する必要がある。しかし、日本国内での麻疹の散発的流行はいまだ絶えない。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に係る緊急事態宣言が解除された今なお、予防接種は不要不急だと考え接種を控えるケースが見受けられる。しかし「ワクチンと新型コロナウイルスと検疫」でも述べられているように、予防接種(特に小児)は適切な時期に受けることが重要であり、接種を延期する必要はない。過度な制限や自粛により、予防できるはずの感染症に罹患してしまうことは避けなければならない3)。麻疹・風疹の概要VPDの第1弾として、「麻疹・風疹」を取り上げる。麻疹・風疹ワクチンともに、経済性、安全性、有効性に優れており費用対効果も高い。日本国内における麻疹・風疹の感染流行の首座は、小児よりも青年・成人である。そのため、あらゆる年代、あらゆる受診機会に触れるプライマリケア医からの啓発が、非常に重要かつ効果的である。麻疹について1)麻疹の概要感染経路:空気感染、飛沫感染、接触感染潜伏期:10~12日周囲に感染させうる期間:症状出現1日前~解熱後3日間感染力(R0:基本再生産数):12-18感染症法:5類感染症(全数報告、直ちに届出が必要)学校保健安全法:第2種(出席停止期間:解熱後3日経過するまで)注)R0(基本再生産数):集団にいるすべての人間が感染症に罹る可能性をもった(感受性を有した)状態で、一人の感染者が何人に感染させうるか、感染力の強さを表す。つまり、数が多い方が感染力は強いということになる。2)麻疹の臨床症状麻疹の特徴は、感染力の強さと重症度の2つである。空気感染する感染症は、麻疹以外では結核と水痘がある。感染力を表すR0(アールノート)は、インフルエンザが1-2、COVID-19が1.3-2.5(5月時点)なので、麻疹はこれらの約10倍に相当する極めて強い感染力をもつ。典型的な麻疹の臨床経過は、10~12日程度の潜伏期ののち、3つの病期を経る。感染力がもっとも強いカタル期(2~4日間)には、高熱、上気道症状、目の充血、コプリック斑などが出現する。その後、一旦解熱し、再度高熱(二峰性発熱)と全身性の紅斑(発疹期)が拡がる(3~5日間)。発疹が出て3~4日後に徐々に解熱し回復する(回復期)。麻疹に対する免疫をもたない人が感染すると、約3割に合併症が生じ、肺炎や脳炎、中耳炎、心筋炎などを来す。肺炎や脳炎は2大死亡原因と言われ、乳児では麻疹による死亡例の6割が肺炎に起因する。まれではあるが罹患してから数年後に発症する亜急性硬化性全脳炎(SSPE)という重篤な合併症を来すこともある。病歴や臨床症状から疑い、血清学的検査(IgM抗体、IgG抗体など)やPCR検査(咽頭、尿など)などにより確定診断をする(詳細は「医療機関での麻疹対応ガイドライン 第7版」4)を参照)。特異的な治療法はないため、対症療法が中心である。3)麻疹の疫学麻疹の感染者は、全数報告が開始された2008年が約1万1,000例だったが、2009年以降は、毎年数十~数百例の報告数である。2016年は165例、2017年は186例、2018年282例と続き、2019年は744例と多かった。かつては5歳未満の小児が主な感染者であったが、2011年頃からは20~30代の患者が半数以上占めている5)。2019年は感染者の56%が20~30代であり、主な感染者は接種歴のない乳児を除いて、30代をピークとした成人であることがわかる(図2、3)。図2 年齢群別接種歴別麻疹累積報告数 2019年第1~52週(n=744)画像を拡大する図3 年齢別麻疹累積報告数割合 2019年第1~52週(n=744)国立感染症研究所 感染症発生動向調査 2020年1月8日現在より引用画像を拡大する4)麻疹の抗体保有率抗体保有率は麻疹の感受性調査として、ほぼ毎年国立感染症研究所より報告されている。抗体価はあくまで免疫能の一部を表しているに過ぎないため、抗体価が基準を満たせば良い、という単純な話ではない(総論第4回 「抗体検査」参照)。しかし、年代と抗体保有率との相関性をみることで、ある程度の傾向が把握できるため紹介する。麻疹の抗体保有率(PA法16倍以上:図4赤線)は1歳以上の全年代で95%以上を維持しているが、修飾麻疹を含めた発症予防可能レベルは128倍以上が望ましい6)(図4:緑線)。10代と60代以上で128倍の抗体価を下回る人が多く、注意が必要である。また、すべての年代で128倍未満のものがいることから、輸入麻疹による感染拡大の危機は常につきまとうことになる。図4 麻疹の抗体価保有状況 2019年感染症流行予測調査より(2020年2月暫定値)国立感染症研究所 2019年感染症流行予測調査(2020年2月暫定値)より引用画像を拡大するわが国は2015年3月27日にWHOによる麻疹排除認定を受けた。麻疹排除認定の定義とは「質の高いサーベイランスが存在するある特定の地域、国等において、12ヵ月間以上継続した麻疹ウイルスの伝播がない状態」とされている。これは土着の麻疹ウイルスが国内流行しなくなった状態を意味するだけであり、土着でない、海外から持ち込まれた“輸入麻疹”は、麻疹排除認定後も、2020年現在まで国内で散発的にみられている(図5)。近年の代表的な事例として、2018年には海外からの旅行者を発端とした沖縄での集団感染(101例)や、2019年にはワクチン接種率の低い三重県の宗教団体関係者を中心とした集団感染(49例)などがある。その感染力の高さから4次や5次感染を来した事例も複数報告されている7)。その他、医療関係者、教育関係者、空港職員などが感染した事例も多く、不特定多数の人に接触しうる職種は特に、あらかじめワクチン接種により免疫を獲得しておくことが重要である。図5 麻疹累積報告数の推移 2013~2020年第15週 (2020年4月15日現在)国立感染症研究所 感染症発生動向調査より引用画像を拡大する麻疹はアジア・アフリカ諸国を始め、世界各国で流行が続いており、2019年は40万人以上が罹患したと報告されている。一方で、わが国への出入国者数は年々増加し、年間5,000万人を超えている。つまり、日本全体が麻疹に対する強固な集団免疫を獲得しないと、世界各国とのアクセスが容易な現代においては、“ふと”やってくる輸入麻疹を防げないのである。風疹について1)風疹の概要感染経路:飛沫感染、接触感染潜伏期:14~21日周囲に感染させうる期間:発疹出現前後1週間感染力(R0:基本再生産数):5-7感染症法:5類感染症(全数報告、直ちに届出が必要)学校保健安全法:第2種(出席停止期間:発疹が消失するまで)2)風疹の臨床症状風疹は、比較的予後の良い急性ウイルス感染症である。しかし、妊婦が風疹に罹患すると、その胎児に感染し、先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrome:CRS)が発生する可能性がある(後述)。風疹の主な感染様式は、風邪やインフルエンザと同様に飛沫感染であり、感染力は比較的強い(R0は5-7)。風疹の臨床経過について。2~3週間の潜伏期の後、軽い発熱と淡い全身性発疹が同時に出現する。その他、耳下や頸部リンパ節腫脹も特徴的で、関節痛を伴うこともある。発疹は3~5日程度で消失するため、風疹は“三日はしか”とも言われる。風疹ウイルスに感染した成人の約15%は不顕性感染(感染していても症状がでない)であり、たとえ症状がでても軽度なことも多い。そのため、自分が感染していることに気付かず、他人に感染させてしまう可能性がある。診断方法:臨床症状から疑い、血清検査(IgMやIgGなど)にて確定診断を行う。治療:CRSも含め、風疹に特異的な治療法はなく対症療法が中心となる。そのため、ワクチンがもっとも有効な予防方法となる。予後は基本的には良好だが、時に血小板減少性紫斑病や脳炎を合併することがある。3)先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrome:CRS)冒頭で述べたように、日本では2012~13年および2018~19年に風疹が流行した。2012~13年には17,000人以上の風疹感染者と45人のCRSが、2018~19年には5,000人以上の風疹感染者と5人のCRSが届出された。妊婦の風疹感染により流産や胎児死亡が起こりうることから、より多くの妊婦と胎児が風疹感染の犠牲となった可能性がある。CRSとは、風疹に対する免疫が不十分な妊婦が、妊娠中に風疹に罹患し、経胎盤感染により胎児が罹患する症候群である。3大症状は難聴、先天性心疾患、白内障であり、その他、肝脾腫、糖尿病、精神運動発達遅滞などを来す。妊婦(風疹に対する免疫が不十分な場合)の風疹感染によるCRS発生率は妊娠週数によって異なり、妊娠初期の感染は80%以上と非常に高率である(妊娠4~6週で100%、7~12週で約80%、13~16週で45~50%、17~20週で6%、20週以降で0%8))。2012~13年に発生したCRS45人の追跡調査で、11人が死亡していたことがわかり、致死率は24%と報告された。そのほとんどが重度の先天性疾患が死因となった1)。一方、CRS児の母親の年代は14~42歳と幅広く、風疹含有ワクチン接種歴が2回確認された母親はいなかった(接種歴1回が11例、なしが19例、不明が15例)。妊娠可能年齢の女性に対する風疹ワクチンの2回接種がいかに重要であるかがわかる。また、4例の母親には妊娠中に感染症状がなかった(31例は症状あり、10例は不明)ことから、不顕性感染によるCRSであったことが推測される。CRSもワクチンで予防できるVPDである。また、風疹流行は、妊婦にとって脅威である。妊娠可能年齢の女性やそのご家族には、積極的に風疹ワクチン2回の接種歴を確認し、不足回数分の接種を推奨いただきたい。4)風疹の疫学と抗体保有率近年の風疹流行の首座は成人(感染者の9割以上)であり、中でも20~50代の男性が約7~8割を占める9)。これらの年代は働き盛り、かつ子育て世代でもあることから、職場や家族内感染が主な感染源と推定された10)。一方、女性の感染者では妊娠可能年齢の20~30代が女性感染者全体の6割を占め、CRS予防の観点からも、憂慮すべきデータである。抗体保有率も上記の年代で低いことがわかる(図6)。風疹抗体価についてはHI法8倍以上(図6:赤線)で陽性とされるが、感染予防には16倍以上(図6:黄線)、さらにはCRS予防には32倍以上(図6:青線)が望ましい。男性については30~50代において抗体価が低いことがよくわかる。近年の風疹流行の首座の年代である。この年代で抗体価が低いのは、後述する過去の予防接種制度の煽りを受けたことが原因であり、昨年度から全国で開始された「風疹第5期定期接種」の対象年齢(1962~1979年生まれ)が含まれる。一方、女性では、HI法8、16倍以上の抗体保有率は高いものの、CRS予防に望ましい32倍以上(図6:青線)の抗体保有率は妊娠可能年齢(10~40代)では7~8割にとどまる。やはり小児期に2回の定期接種が義務付けられていなかった年代が含まれており、男性のように成人に対する定期接種制度はないため、日常診療における接種歴の確認が重要となる。図6 男女別の風疹抗体保有率 2018年画像を拡大する国立感染症研究所 年齢別/年齢群別の風疹抗体保有状況、2018年より引用画像を拡大する妊娠可能年齢の女性やその家族には、あらかじめ風疹ワクチンでの予防措置を講じておくことが非常に重要である。ワクチンの概要(効果・副反応、生または不活化、定期または任意、接種方法) 1)麻疹・風疹ワクチン(表2)画像を拡大する効果(免疫獲得率)麻疹ワクチン:1回接種により免疫獲得率93~95%以上、2回接種で97~99%3)風疹ワクチン:1回接種による免疫獲得率は95%、2回接種では約99%11)副反応:一部(10~30%)に軽度の麻疹様発疹や風疹様症状(発熱、発疹、リンパ節腫脹、関節痛など)を伴うことがあるが、いずれも軽度で数日中に消失する一過性のものである。その他、ワクチン接種による一般的な副作用以外に、MRワクチンに特異的な副反応報告はない。禁忌:発熱や急性疾患に罹患中の人、妊婦、明らかな免疫抑制状態にある人、このワクチンによる重度のアレルギー症状(アナフィラキシーなど)を呈した既往がある人注意事項:生ワクチン接種後は、2ヵ月間は妊娠を避ける。ただし、この期間に妊娠しても、母体や胎児に問題が生じた報告はない。また、輸血製剤またはガンマグロブリン製剤投与後は6ヵ月の間隔をあけてから接種する。麻疹風疹(MR)ワクチンは、2006年から小児に対して2回の定期接種(1期、2期)が定められた。1期(1歳)の接種率は目標の95%以上を維持しているが、2期(5~6歳)についてはいまだ93~94%で推移している12)。あらゆる機会を利用してキャッチアップを行うことにより、すべての人が生涯で計2回のワクチン接種が受けられるような啓発や取り組みが喫緊の課題である。2)麻疹の緊急ワクチン接種麻疹患者との接触者で、麻疹に対する免疫がない人は、接触後72時間以内に麻疹含有ワクチンを接種することで、発症を予防できる可能性がある(緊急ワクチン接種)4)。1歳未満の乳児でも、生後6ヵ月以降であれば曝露後接種は可能である(自費)。しかし、この場合は母親からの移行抗体によりワクチンウイルスが中和されてしまう可能性もあるため、必ず1歳以降で2回の定期接種を受ける必要がある。3)接種のスケジュール(小児/成人)麻疹・風疹ワクチンは、いずれも1歳以上で生涯計2回接種することで、麻疹・風疹ウイルスに対する免疫能を高率に獲得できる。血清検査で診断された罹患歴がなければ、不足回数分の接種を推奨する。ウイルス抗体価の測定は必須ではない。理由は前述の「抗体検査」で述べられたとおりであり、改定された日本環境感染学会のワクチンガイドラインでも同様の考えに基づくアルゴリズムが提示されている13)。抗体価は参考値として測定することはあっても、あくまで接種歴の方が重要度としては高い。よって、抗体価を測定せずに、接種歴の情報を元に接種回数を決めてよい。接種歴がわからない(もしくは、接種した記憶はあるが、記録がない)場合は、接種しすぎることによる害はないため「接種歴なし」として、1ヵ月以上の間隔をあけて、2回の接種を推奨する。4)小児期に2回の麻疹・風疹ワクチン接種が定期接種となった年代麻疹・風疹(それぞれ単独)ワクチン:2000年4月2日生まれ以降の人(表3)は、小児期に麻疹・風疹含有ワクチンが定期接種化されている年代である。ただし、1990年4月2日生まれ~2000年4月1日生まれまでの人(特例措置の年代)の接種率は80%台と低かった。どの年代においても接種歴の確認が重要である。特例措置:麻疹または風疹ワクチンの2回目を、中学1年生(第3期)と高校3年生相当(第4期)に対象者を拡大して5年間の期間限定で接種が行われた。表3 出生年月日および性別別の早見表:麻疹(上段)、風疹(下段)画像を拡大する5)成人に対する風疹第5期定期接種14)1962年4月2日生まれ以降~1979年4月1日生まれの年代(41~58歳)は、小児期の予防接種制度の影響で、小児期に風疹含有ワクチンを2回接種する機会がなかった。そのため、先述したように風疹抗体保有率が低く、風疹流行の首座となってしまった。この世代に対して、2019年度から全国で該当者(風疹含有ワクチンの接種歴がなく罹患歴もないなど)には無料で風疹の抗体価測定を行い、抗体価が不足している場合(HI法8倍以下)は、無料でMRワクチンを接種できる“風疹第5期定期接種”が開始された。しかし、2020年4月時点でクーポン券を使用した抗体検査実施率は16.2%、予防接種実施割合は3.4%と低迷している15)。プライマリケア医による能動的な情報提供、啓発が望まれる。日常診療で役立つ接種のポイント(例:ワクチンの説明方法や接種時の工夫)繰り返しになるが、麻疹・風疹ともに、罹患歴がなければ1歳以上で生涯2回の接種が必要である。接種歴がないまたは不明の場合は、接種しすぎることによる害はないため、任意接種であれば、1ヵ月あけて2回の接種を推奨する。麻疹または風疹のいずれか一方のみの接種を希望する人がいた場合、2回の接種歴が記録で確認できなければ、MRワクチンでの接種を推奨する。下記、MRワクチン接種を負担なく啓発できる工夫について何点かご紹介する。1)外来における工夫(1)小児の受診時受診理由に関わらず、母子手帳の提出をルーチン化する。電話予約時に一言添える、受付時や看護師の予診時などに提出をお願いする。これを習慣化すると、受診者全体に徐々にその文化が根付いていく。医師が診療前後に母子手帳の接種記録を確認し、不足しているものがあれば推奨する。ワクチンスケジュールの知識がある看護師などが担当してもよい。(2)カルテ記録プロブレムリストに「ヘルスメンテナンス」または「予防接種歴」を追加する。医師自身がリマインドできるシステムを作る。外来で扱う主要なプロブレムが落ち着いたときに、患者さんに一言接種歴の確認をするだけでも良い。余裕ができたときに、不足しているワクチンについて紹介、接種の推奨をする。(3)ポスターを掲示するワクチン接種についてのポスターを待合室に掲示する。リーフレットとして配布してもよい15)。2)積極的にワクチン接種を推奨したい対象者(1)妊娠可能年齢の女性とその家族あらゆる感染症は、妊婦の流産早産に関連しうる。CRSを含めたVPDとそのワクチンについて情報提供する。特に、妊娠中は接種が禁忌となる生ワクチン(風疹・麻疹・水痘・ムンプス)について、妊娠前にあらかじめ免疫をつけておくことが重要であることを情報提供する。妊娠希望の女性に対して、MRワクチン接種の助成がある自治体も多い。自治体によっては、そのパートナーにも助成を出しているところもある。あらかじめ自身の自治体の助成制度の確認を行い、該当者がいれば渡せるように当該ページを印刷しておくとよい。(2)風疹第5期定期接種の対象者(41~58歳:2020年4月中旬時点)接種率の低さから、自宅に風疹対策のクーポン券(無料で受けられる風疹抗体検査の受診券)が届いていても、それに気付いていない、またはその重要性を知らず放置している例も多いことが考えられる。定期接種の対象である年代については、受付などで、対象者であることを示す札や目印を作成し、受診時に医療スタッフから制度利用の推奨・案内をできるようにしておくとよい。自宅に定期接種のクーポン券が届いていないかどうか事前に確認し、検査を推奨する。届いていなければ地域の保健所に問い合わせるよう促せば対応してくれる。(3)海外渡航予定のある人海外では麻疹流行国が多数ある。渡航先に関わらず、海外渡航時はルーチンワクチンをキャッチアップする良い機会である。あれば母子手帳をもとに、なければ麻疹を含めたVPDについてしっかり話し合う。長期出張の場合は会社からの補助がでないか、家族同伴の場合は家族の予防接種状況も含めて、安心かつ安全な海外渡航となるよう、サポートする。(4)不特定多数の人と接触する職業(空港など)・医療職・教育関係者などこれらの職業の人は、感染リスクが高く、感染した場合の公衆衛生学的なインパクトも大きい。これらの職業に携わる人には、積極的にワクチン接種歴の確認をし、不足回数分の接種を推奨する。今後の課題・展望世界では、世界保健機関(WHO)などにより、麻疹および風疹排除を加速させる活動が進められている(Global Vaccine Action Plan 2011-2020)。わが国では、2015年に認定された麻疹排除認定を取り消されることがないよう、小児定期接種の高い接種率(1、2期ともに95%以上)を目指すと同時に、海外から麻疹ウイルスを持ち込まれても、国内流行につながらない高い集団免疫を目標にしなければいけない。風疹については、2014年3月に厚生労働省が「風疹に関する特定感染症予防指針」を策定した。この指針は、早期にCRSの発生をなくし、2020年度までに風疹排除(適切なサーベイランス制度のもと、土着株による感染が1年以上確認されないこと)を達成することを目標としている(なお、2020年1~4月の風疹感染者数は73人とCRSが1人、4~5月は3人、CRSは0人15,17))。プライマリケア医には、既存の制度(自治体の助成制度や風疹第5期定期接種など)の積極的利用の促進、また、日常診療内で幅広い年代に対する能動的な啓発および接種歴の確認・推奨を行うことが望まれる。参考となるサイト(公的助成情報、主要研究グループ、参考となるサイト)こどもとおとなのワクチンサイト予防接種啓発ツール 厚生労働省1)2012~2014年に出生した先天性風疹症候群45例のフォローアップ調査結果報告(IASR;Vol.39:p33-34.)2)Global Measeles and Rubella Monthly Update(pptx). Measeles and Rubella Surveillansce Data WHO (Accessed on March,2020)3)新型コロナウイルス感染症に対するQ&A 日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会(2020年4月20日更新)4)医療機関での麻疹対応ガイドライン第7版 国立感染症研究所 感染症疫学センター (2018年4月17日)5)国立感染症研究所 病原微生物検出情報 麻疹[2019年2月現在](IASR Vol.40.p.49-51.)6)国立感染症研究所 病原微生物検出情報 麻疹の抗体保有状況2018年(IASR.Vol.40.p.62-63.)7)多屋馨子. モダンメディア. 2019;65:29-37.8)Ghidini A,et al. West J Med. 1993;159:366-373.9)風疹および先天性風疹症候群の発生に関するリスクアセスメント第3版(国立感染症研究所 2018年1月24日)10)風疹流行に関する緊急情報:2019年12月25日現在(国立感染症研究所 感染症疫学センター)11)風疹Q&A[2018年1月30日改定](国立感染症研究所)12)麻疹風疹予防接種の実施状況(厚生労働省)13)医療関係者のためのワクチンガイドライン 第3版(日本環境感染学会)14)風疹の追加的対策 専用ページ(厚生労働省)15)風疹に関する疫学情報 2020年4月8日現在(国立感染症研究所 感染症疫学センター )16)予防接種啓発ツール(厚生労働省)17)風疹に関する疫学情報 2020年6月3日現在(国立感染症研究所 感染症疫学センター)講師紹介

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第11回 COVID-19試験を仲良く取り下げた2大誌LancetとNEJMはお咎めなし?

抗マラリア薬ヒドロキシクロロキンとCOVID-19患者死亡率上昇の関連を示した、注目のLancet報告が発表されてから2週間後の6月4日、米国企業Surgisphere社が解析したとされるその情報源が確認不可能であるとして、1人を除く3人の著者がその報告を取り下げました1)。さらに同日、降圧薬のCOVID-19患者への影響を調べたNew England Journal of Medicine(NEJM)報告も同じ理由により取り下げられました。この2つの一大事のせいで研究者や医学誌のデータ解析の在り方は酷く怪しまれ、目下進行中のCOVID-19に関する臨床試験の取り組みは困難になるかもしれません1)。「論文を撤回したジャーナルも、科学も、薬も、臨床試験やその裏付けの評判もすべて損なわれた」とオーストラリア・シドニー大学の倫理学者Ian Kerridge氏はNatureに話しています。情報源が不明である以上もはやすべて推測になりますが、撤回された2つの報告はSurgisphere社が世界中の数百もの病院から集めたとされる電子カルテデータを解析した結果に基づくとされています。Surgisphere社を設立してCEOとして指揮するSapan Desai氏は、Lancet報告とNEJM報告のどちらの著者でもあり、Lancet報告の撤回には同意していませんがNEJM報告の撤回にはどういうわけか同意しています。すでに報じられている通り、Lancet報告が発表されるやその報告で危険性が示唆されたヒドロキシクロロキンの試験のいくつかは停止に追い込まれました。ヒドロキシクロロキンの検討を一翼とする英国での無作為化試験RECOVERYは続行されましたが、残念ながら同剤のCOVID-19入院患者死亡抑制効果は認められなかったと先週金曜日に発表され2)、COVID-19入院患者にヒドロキシクロロキンは無効とのひとまずの決着を見ました。同試験を率いたオックスフォード大学教授Martin Landray氏は、今回の結果を受けて世界の治療方針は変わるだろうと言っています。Surgisphere社が関与してLancet報告やNEJM報告以上の影響を及ぼしたかもしれないCOVID-19関連の試験報告がもう1つあります。抗寄生虫薬イベルメクチンを使用したCOVID-19患者の大幅な死亡率低下を記したその報告は、プレプリント登録サイトSSRNに4月初めにいったん登録され、暫く公開された後に削除されました。削除の理由をNatureがその著者Mandeep Mehra氏に尋ねたところ、まだ査読には早いと思ったとの回答がありました。米国屈指の病院Brigham and Women’s Hospitalの循環器科医・Mehra氏は取り下げられたLancet報告とNEJM報告の筆頭著者でもあります。束の間の公開でしたが、スペインの研究者Carlos Chaccour氏によるとその結果は南アメリカの国々でのイベルメクチン使用の急増を後押ししました1,3)。ペルー政府はSSRNに掲載されてから数日後に同国の治療ガイドラインにイベルメクチン治療を取り入れました。続いてボリビア政府も1週間後にはペルー政府に倣って同じく同剤を治療方針に加えています。パラグアイではイベルメクチンの販売を制限しなければならないほど需要が増えました。査読後に出版された報告の撤回後に、その報告の影響の波及を防ぐような安全措置は査読前公開の報告にはなく、査読前に一瞬姿を見せて消えたイベルメクチン報告の南アメリカでの影響は断ち切られていません。「ラテンアメリカで続くイベルメクチン報告の亡霊は誰が追い払うのか? それが間違いだったと著名雑誌は言ってくれない」とChaccour氏はNatureに話しています。LancetやNEJMはひとまず論文を取り下げて影響の波及を断ち切ったとはいえ、COVID-19へのヒドロキシクロロキン高用量投与を調べている試験ASCOTのリーダーSteven Tong氏に言わせれば、両誌の編集者も査読者も著者と同じ穴のむじなであり、ことごとく酷い仕打ちを受けたとScienceのニュースに話しています4)。ASCOT試験でのヒドロキシクロロキン投与群はLancet報告を受けて停止されましたが、幸い再開の運びとなっています5)。Natureの調べによると、LancetもNEJMも査読結果がどのようなものだったかを示すつもりはなく秘密としています。そんなことでは、情報源を出さなかったSurgisphere社と変わりないではないかと思われても仕方ないかもしれません。 LancetやNEJMは著者等の撤回声明を掲載するのみで、何ら自省も反省も示していないが、出版までの手続きで何がまずかったのかを自問してみせるべきだったとミネソタ大学の倫理学者Leigh Turner氏はScienceに話しています。英国の医学研究信頼性支持団体Reproducibility Networkを率いるChis Chambers氏も同じ考えで、両誌は自ら主張するように再現性と完全性を大事と思うならば、出版に至るまでのやり取りをいますぐに第三者に調査してもらう必要があると言っています。参考1)Ledford H, Van Noorden R.Nature.2020 Jun 5. [Epub ahead of print]2)No clinical benefit from use of hydroxychloroquine in hospitalised patients with COVID-19 / RECOVERY3)Ivermectin and COVID-19: How a Flawed Database Shaped the Pandemic Response of Several Latin-American Countries / Barcelona Institute for Global Health4)Two elite medical journals retract coronavirus papers over data integrity questions / Science5)AustralaSian COVID-19 Trial to proceed with hydroxychloroquine arm

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ロケルマ:45年ぶりに誕生した高カリウム血症改善薬

2020年5月20日、高カリウム血症改善薬ロケルマ懸濁用散分包5gおよび10g(一般名:ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム水和物)(以下、ロケルマ)がアストラゼネカ株式会社より発売された。ロケルマは、同疾患改善薬としては45年ぶりの新有効成分含有薬となる。アンメットニーズが高い高カリウム血症高カリウム血症は、CKD例や心不全例に高頻度に合併し、日本の300床超の病院にて治療中の患者では、全例、CKD例、心不全例、RA系抑制薬服用例のうち、6.8、22.8、13.4、14.2%に合併していると報告されている1)。そして、血清カリウムが異常高値になると致死性不整脈や心停止を引き起こしうる臨床上重大な疾患である。しかし、現在の主な治療法(食事制限、原因薬剤の減量・休止、利尿薬、陽イオン交換樹脂)では、効果発現までの時間や忍容性の問題から期待した効果が得られないこともある。ロケルマは速やかな血清カリウム値の低下を実現ロケルマは、非ポリマー無機陽イオン交換化合物の経口剤である。消化管内でカリウムイオンを選択的に捕捉し、初回投与開始後1時間から血清カリウム値の低下を示し、水分による膨潤をしないという特徴を有している。透析例および非透析例への試験結果から効果発現、持続性、安全性に期待ロケルマは、2つの国内試験(第II/III相試験、長期投与試験)および2つの国際共同試験(HARMONIZE Global試験、DIALIZE試験)の結果に基づき承認された。HARMONIZE Global試験は、高カリウム血症患者267例(うち日本人68例)を対象に、ロケルマ10gを48時間投与し、正常カリウム値に達した患者に同剤10g、同剤5gまたはプラセボのいずれかを1日1回28日間投与した試験である。補正期において、投与24および48時間後に正常カリウム値に達した患者の割合は、それぞれ63.3%および89.1%であった。主要評価項目である22日間の血清カリウム値の最小二乗幾何平均は、同剤10g群、5g群およびプラセボ群それぞれ4.4、4.8、5.3mmol/Lであり、プラセボ群と比較していずれも有意に低値となった(いずれもp<0.001)。DIALIZE試験は、血液透析患者196例(うち日本人56例)を対象に、最大透析間隔(血液透析日以外の2日間)後の血液透析前のカリウム値を4.0~5.0mmol/Lに維持するよう、ロケルマを4週間、適宜増減投与し、その後用量を変更せずさらに4週間投与した。ロケルマ群はプラセボ群と比較して奏効例(後半4週間における最大透析間隔後の4回中3回で透析前血清カリウム値が4.0~5.0mmol/Lで、レスキュー治療を受けなかった患者の割合)が有意に高かった(41.2% vs1.0%、p<0.001)。副作用としては、両試験ともに浮腫、便秘、低カリウム血症が認められている。高カリウム血症治療の指針策定を期待させる新薬高カリウム血症に45年ぶりに新有効成分含有薬が登場し、CKD例や心不全例の高カリウム血症の是正による不整脈や突然死の抑制はもちろん、ARB/ACEIの減量や厳しい食事制限の負担軽減が可能となるケースも考えられ、今後、高カリウム血症治療が変貌することは想像に難くない。一方、45年間新有効成分含有薬が出なかったということは、それだけ治療に大きな進歩がなかったことの裏返しでもある。はたして、高カリウム血症は治療開始カリウム値、目標値の明確な指針が示されておらず、医師個人個人の判断によって治療が行われている。学会から新たに高カリウム血症の治療指針が示されるかもしれない。そのような期待を抱かせる新薬が誕生した。1)Kashihara N, et al. Kidney Int Rep. 2019;4:1248-1260.

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ディズニー映画、がん患者のQOLに寄与

 腫瘍学において、治療効果に加え、有害事象および生活の質(QOL)の評価が重要になってきている。オーストリア・ウィーン医科大学のSophie Pils氏らは、がん化学療法中のディズニー映画観賞は婦人科がん患者の感情的機能、社会的機能、および疲労症状の改善に関連している可能性があることを明らかにした。JAMA Network Open 5月1日号掲載の報告。 研究者らは、2017年12月~2018年12月、がん化学療法中にディズニー映画の鑑賞と、感情的・社会的機能および疲労症状との関連の評価を目的とし、オーストリア・ウィーンのcancer referral centerにて無作為化試験を実施。対象者は2018年7月までに募集した婦人科がん患者で、適格基準は18歳以上、インフォームドコンセントへの同意、カルボプラチン・パクリタキセル療法またはカルボプラチン・ペグ化リポソームドキソルビシン(PLD)のいずれかを6サイクル実施予定であった。 参加者はディズニー映画観賞群と観賞しない群に割り付けられ、各サイクル実施前後に、欧州癌研究治療機関(EORTC)の調査票に回答した。主要評価項目は、がん化学療法6サイクル中のQOLの変化(EORTC Core-30[version 3]で定義)と、疲労症状(EORTC Quality of Life Questionnaire Fatigueで定義)だった。 主な結果は以下のとおり。・女性56人が研究に参加、50例が調査を完了した。・調査完了者の内訳は、ディズニー映画観賞群:25人(平均年齢±SD:59±12歳)と観賞しない群(対照群):25人(平均年齢±SD:62±8歳)だった。・感情機能に関する質問では、がん化学療法6サイクルの過程で観賞群は対照群よりも緊張感が低く、不安も少なくなった(平均スコア±SD:86.9±14.3 vs.66.3±27.2、maximum test p=0.02)。・社会的機能の質問では、ディズニー映画を観賞することで患者の家庭生活や社会活動への影響が少なくなった(平均スコア±SD:86.1±23.0 vs.63.6±33.6、maximum test p=0.01) 。・この介入により疲労症状が軽減した(平均スコア±SD:85.5±13.6 vs.66.4±22.5、maximum test p=0.01)。・Global health statusについては、ディズニー映画の観賞と関連がなかった(平均スコア±SD:75.9 ±17.6 vs.61.0±25.1、maximum testp=0.16)。

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第10回 COVID-19へのヒドロキシクロロキン、決着を付ける無作為化試験は計画通り続行

抗マラリア薬ヒドロキシクロロキンと新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者死亡率上昇の関連を示した5月22日のLancet誌掲載の観察試験1)は発表後すぐに疑問視され始め2)、この週末の日曜日5月28日にはとうとう世界の専門家120人以上3)がその方法やデータを懸念する公開書簡の通知に踏み切りました。幸い、英国で進行中の無作為化試験(RECOVERY)はこれまでのデータを検討したところMehra氏等によるLancet報告の結果とは異なっており、安全性懸念による患者組み入れ停止の必要はないとして計画通り続行されています4)。対照的に、世界保健機関(WHO)はRECOVERYと同様の無作為化試験(Solidarity)のヒドロキシクロロキン投与群被験者組み入れをいったん停止しました5)。Mehra氏等によるLancet掲載の試験は臨床研究の絶対的な拠り所である無作為化試験(RCT)ではなく観察試験であるとはいえ、患者数が約9万6,000人と多数であることなどを、WHOは重く見たのです。WHOは検討の後にヒドロキシクロロキン群の今後の扱いを来週頃までに決める予定です。一方、英国のRECOVERY試験運営者の対応は息を呑むほど素早く、22日のLancet報告から24時間と経たない翌日23日に急遽データが検討され、明くる日の24日には患者組み入れ続行が試験担当医師に通知されています6)。RECOVERY試験のヒドロキシクロロキンと死亡率の関連はMehra氏等のLancet報告に似つかず、ヒドロキシクロロキン群の被験者組み入れ停止を要するような安全性懸念はないと判断されました。英国医薬品庁(MHRA)もその判断に同意しています。多数の専門家が声を上げたことが示すようにMehra氏等のLancet報告に対する疑問点は多く、たとえばどういうわけか世界のどこでも肥満率や喫煙率がほぼ同じです7)。また、人工知能(AI)技術・機械学習や統計の標準的な手法を守っておらず、倫理レビューがなされていません。データを提供した国や病院の説明が不足しています。データ提供への謝辞もありません3)。残念ながらそれら数々の疑問を調べる手立てはありません。Natureのニュース7)によると試験の原資料は占有物となっており、データやプログラムが公表されていないため、他の研究者が手に入れて検証することが今のところ不可能です。データを提供した国や病院を開示することを著者は拒否しています。ただし、それらデータを所有している米国ミシガン州のSurgisphere社は29日のニュース8)で情報提供に向けて準備を進めていると言っており、その説明が本当なら喜ばしいことに他の研究者による検証はやがて可能になるでしょう。それにしてもMehra氏の報告はWHOも言及しているように被験者数が多く、一流誌とみなされているLancetに掲載されたことも手伝ってか影響が大きく、低用量ヒドロキシクロロキンによるCOVID-19予防を検討しているオックスフォード大学主催の国際試験COPCOVも被験者組み入れ停止に追い込まれています9)。これまでの観察試験ですでに旗色が軒並み悪いヒドロキシクロロキンが、Mehra氏等のLancet報告でいよいよ無作為化試験停止を強いられるほど窮地に立たされているのです。しかしそのように無作為化試験を停止に追いやっているMehra氏等のLancet報告で、皮肉にも無作為化試験なしでは何も決まらないと結論されているように、ヒドロキシクロロキンや別のマラリア薬クロロキンによるCOVID-19治療の益害の決着を付けるには同氏等のLancet報告のような観察試験ではなく、無作為化試験が必要です。試験続行を早々に決めたRECOVERY試験の運営者もそれはよく分かっています。RECOVERYはヒドロキシクロロキンやその他のCOVID-19薬候補の世界最大の無作為化試験であり、その被験者組み入れを継続することこそ確かな結論を導く最善手だと、同試験を率いるオックスフォード大学教授の2人・Peter Horby氏とMartin Landray氏は言っています4)。参考1)Mehra MR, et al. Lancet. May 22, 2020. [Epub ahead of print]2)Disputed Hydroxychloroquine Study Brings Scrutiny to Surgisphere3)Concerns regarding the statistical analysis and data integrity4)Recruitment to the RECOVERY trial continues as planned5)WHO Halts Hydroxychloroquine Trial Over Safety Concerns6)Recruitment to the RECOVERY trial (including the Hydroxychloroquine arm) REMAINS OPEN7)Safety fears over hyped drug hydroxychloroquine spark global confusion8)Response to Widespread Reaction to Recent Lancet Article on Hydroxychloroquine9)COPCOV study paused

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第7回 緊急事態宣言解除、補正予算案で医療機関は救われるか?

<先週の動き>1.緊急事態宣言解除、補正予算案で医療機関は救われるか?2.感染予防と経済活性化の両立を目指し、提言が取りまとめられた3.新型コロナ感染の第二波に備え、大都市で病床整備の動き4.マスクに続き、消毒液なども転売禁止に5.国内の新型コロナウイルスによる超過死亡とは1.緊急事態宣言解除、補正予算案で医療機関は救われるか?政府は、大都市などを除く39県において緊急事態宣言の解除を行った一方で、解除されなかった地域における、宣言解除の基準を検討している。感染状況や医療提供体制などから総合的な判断を行うとされ、「直近1週間で人口10万人当たりの新規感染者が0.5人以下」が目安となる見込み。今回の新型コロナ感染拡大は、国民の生活基盤にも大きな影響が出ており、医療機関の定期受診や検診などが延期され、遠隔診療などが普及するきっかけとなった。今後の影響についは、定期的な検査を含め、受診が必須となる患者のアクセス向上が予想される一方、病状が安定している患者については、診療間隔が開いたことで、疾病管理やアドヒアランスの低下など、患者が不利益を被ることがないようにサポートする必要があると考えられる。また、経営悪化による閉院・廃業に追い込まれる医療機関や介護施設が増えることで、地域医療体制の悪化が懸念されており、政府は今後、第二次補正予算案の取りまとめに動く。日本医師会は医療機関の窮状を訴え、財政的な支援を求めている。(参考)39県で“宣言解除” 「解除基準」提言へ(日テレNEWS24)首相、第2次補正予算案は経済対策と医療体制の充実を柱に 参院本会議(毎日新聞)第2次補正予算に向けた医療機関等への支援に関する要望について(日本医師会)2.感染予防と経済活性化の両立を目指し、提言が取りまとめられた緊急事態宣言が解除された翌日に開催された内閣府の経済財政諮問会議では、「攻めの政策運営で感染予防と経済活性化の両立を図る~経済活動の再起動と将来見通し明確化への提言~」が取りまとめられた。経済活動の再起動に向けて、感染拡大防止のための医療体制のボトルネック解消に全力を挙げつつ、より経済活動を拡大させる必要があるとし、国民や企業が安心できる将来見通しを示すことを目指し、骨太の方針に盛り込まれる見込み。「新型コロナウイルス感染症を踏まえた科学技術・イノベーション政策」における具体的な施策として、新型コロナ追跡アプリなどによる感染拡大防止に資するIT活用や、研究のデジタル化・リモート化、AIなどへの研究開発投資が盛り込まれている。これらが実現されれば、今後の日本社会には大きな変革がもたらされるだろう。(参考)令和2年 第7回経済財政諮問会議 資料(内閣府)資料3-1 攻めの政策運営で感染予防と経済活性化の両立を図る資料7 新型コロナウイルス感染症を踏まえた科学技術・イノベーション政策3.新型コロナ感染の第二波に備え、大都市で病床整備の動き4月の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大ピーク時、大都市圏の自治体において、患者の受け入れに際して病床不足があったため、第二波の襲来に備え、大阪や神奈川県、千葉県などで独自の動きが見られる。大阪府では、他疾患で入院していた患者を他院に転院させた上で、大阪市立十三市民病院をCOVID-19専門病院として稼働させ、22日より本格的に始動させる方針である。神奈川県では、COVID-19重点医療機関を受託した湘南鎌倉総合病院が、県の指示下、敷地に隣接する湘南ヘルスイノベーションパークに180床の仮設専用病床を新たに建設し、千葉県においても、千葉西総合病院が、新型コロナ患者を受け入れるための独立した伝染性感染症病棟を3週間で建設するなど、受け入れ態勢を整えている。(参考)「新型コロナウイルス感染症」中等症患者を専門的に受入れることに伴う影響について(大阪市立十三市民病院)COVID-19重点医療機関受託に関して(湘南鎌倉総合病院)伝染性感染症病棟について(千葉西総合病院)4.マスクに続き、消毒液なども転売禁止に民間における高額取引が問題となり、3月15日にマスクの転売禁止が行われているが、医療・介護現場において不足が続く消毒液についても、転売規制がかかることになった。消毒液やアルコール含有ジェルのほか、除菌シート、消毒用に代用できるアルコール濃度の高い酒などが対象となる見通しで、この法律に違反すると、1年以下の懲役か100万円以下の罰金が科せられる。政令は22日に閣議決定する見通し。(参考)消毒液の転売禁止へ、経済活動再開で品薄拍車を懸念(福井新聞)5.国内の新型コロナウイルスによる超過死亡とは世界では、新型コロナウイルスによる死亡者数がすでに31万人を超えるとされているが、検査体制の不備などがあり、実態を反映していないという指摘もある。このため、各国の死亡統計を元に全死亡数を前年などと比較して「超過死亡」を調べ、新型コロナウイルスの影響を評価する動きがある。超過死亡には、新型コロナとは直接関連のない死亡(医療崩壊などによってほかの疾患の治療を受けられなかった患者などの死亡)を含む。わが国においては、最も感染者数の多い東京都の4月1日時点の推計人口データが公表され、それを元に横浜市立大学の五十嵐 中准教授らが考察している。国内の状況を例年と比較すると、インフルエンザの収束が早かったことも影響するかもしれないが、現在のデータからは、海外のような急速な死亡者数の増加は認められていない。今後、4月以降の死亡数などを含めた検討が必要だろう。(参考)東京都の人口(推計)トップページ(東京都の統計)東京都内の死亡者数、新型コロナ感染症拡大局面でも急増見られず(ブルームバーグ)東京都の死亡率、3月も超過はみられず(横浜市立大学 五十嵐 中准教授)Global coronavirus death toll could be 60% higher than reported

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重症AKIの腎代替療法、開始遅延でも死亡率に影響なし/Lancet

 生命を脅かす合併症がない重症の急性腎障害(AKI)患者への腎代替療法(RRT)の開始時期については、活発な議論が続いている。フランス・AP-HP Avicenne HospitalのStephane Gaudry氏らは、RRTの緊急適応のない重症AKI患者において、RRTを待機的に開始する遅延的戦略は、早期開始戦略と比較して生存への影響に差はなく、緊密な患者モニタリングの下で安全に延期が可能であることを示した。研究の詳細は、Lancet誌2020年5月9日号に掲載された。RRTの早期開始により、代謝異常や、死亡増加に関連する他の合併症のコントロールが改善する可能性があるが、医原性の合併症(低血圧症、出血、感染症、低体温症)をもたらす可能性がある。一方、RRTの開始を意図的に遅らせることで、腎機能が自然に回復するまでの時間を確保でき、RRTの必要性を除去する可能性があるという。2つのRRT開始戦略の28日死亡率を評価するメタ解析 研究グループは、重症AKIを有する重篤な病態の成人患者において、RRTの開始時期の違いが28日死亡に及ぼす影響を評価する目的で、系統的レビューとメタ解析を行った(特定の研究助成は受けていない)。 MEDLINE(PubMed経由)、EmbaseおよびCochrane Central Register of Controlled Trialsを用い、2008年4月1日~2019年12月20日の期間に報告された文献を検索した。対象は、年齢18歳以上の重症AKIを有する患者において遅延(delayed)と早期(early)のRRT開始戦略を比較した無作為化試験とした。 AKIは、Kidney Disease: Improving Global Outcomes(KDIGO)のステージが2または3とし、KDIGOが使用できない場合はSequential Organ Failure Assessment(SOFA)の腎機能スコアが3点以上と定義された。 各試験の主任研究者に連絡を取り、個々の患者のデータの提供を求めた。AKIのない患者や無作為割り付けされなかった患者はメタ解析から除外された。 主要アウトカムは、無作為割り付けから28日までの全死因死亡とした。28日死亡率:44% vs.43%、医療資源節約の可能性 10件(欧州5件、アジア4件、北米1件)の試験(2,143例)が解析に含まれた。個々の患者データは9件の試験(2,083例)から得られ、このうち1,879例が重症AKIであった。遅延群が946例(平均年齢64.3[SD 15.9]歳、男性64%)、早期群は933例(63.5[15.4]歳、63%)だった。 データが得られなかった215例を除く1,664例で主要アウトカムの解析が行われた。28日までに死亡した患者の割合は、遅延群が44%(366/837例)、早期群は43%(355/827例)であり、両群間に有意な差は認められず(リスク比:1.01、95%信頼区間[CI]:0.91~1.13、p=0.80)、全体のリスク差は0.01(95%CI:-0.04~0.06)であった。Kaplan-Meier法による28日死亡の解析では、統合ハザード比(HR)は1.01(95%CI:0.87~1.17)だった。 全試験で異質性はみられなかった(I2=0%、τ2=0)。また、バイアスのリスクは、ほとんどの試験で低かった。 60日および90日の死亡率、院内死亡率、入院期間、退院時RRT依存、退院時血清クレアチニン値、機械的換気が不要な日数、昇圧薬が不要な日数には、両群間に有意差はなかった。 有害事象にも両群間に差はなく、高カリウム血症が、遅延群5%、早期群3%にみられ、重症心臓調律異常がそれぞれ9%および8%、重症出血イベントが14%および12%で発現した。 著者は、「緊密な患者モニタリングの下でRRTの開始を延期することで、RRTの使用が削減され、医療資源の節約につながる可能性がある」としている。

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カリウム代用塩の使用で心血管死が9割減?/BMJ

 中国において全国的に、食事で摂取する塩をカリウム代用塩にすることで、心血管疾患死の約9分の1を予防できるとの推定結果が示された。オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学のMatti Marklund氏らが、任意の塩(卓上または料理で使用する塩)をカリウムが豊富な塩(カリウム代用塩)へ全国的に置き換えることが、中国における死亡率および心血管疾患死にどのような影響を及ぼすかを推定した研究結果を報告した。ナトリウムの摂取が多く、カリウムの摂取が少ない中国や他の国において、カリウム代用塩の使用は血圧を低下させ心血管疾患を予防する有望な戦略と考えられている。しかし、相対的な有益性や有害性について、とくに慢性腎臓病(CKD)患者における高カリウム血症や心臓死のリスクにおいては明らかになっておらず、カリウム代用塩の普及は限定的となっている。結果を踏まえて著者は、「高カリウム血症のリスクを考慮にいれても、相当の有益性がCKD患者にとってもあると推定された」と述べている。BMJ誌2020年4月22日号掲載の報告。カリウム代用塩への置き換えによる心血管疾患死への影響を、モデルを用いて解析 研究グループは、comparative risk assessment modelを用い、中国における成人集団、とくにCKD患者(約1,700万人)を対象に、カリウム代用塩(塩化カリウム20~30%)への置き換えの全国的な介入の影響を推定するモデル解析を行った。モデルは、無作為化試験、China National Survey of Chronic Kidney Disease、Global Burden of Disease StudyおよびChronic Kidney Disease Prognosis Consortiumから得たこれまでのデータと、対応する不確実性を組み合わせたものであった。 主要評価項目は、カリウム代用塩への置き換え後の、避けられた心血管疾患死、非致死的イベントおよび血圧低下による障害調整生命年の推定値で、CKD患者におけるカリウム摂取量増加による高カリウム血症関連心血管疾患死も算出した。心血管疾患死への正味の影響は、心血管疾患死の避けられた死と追加の死の差および比として推定した。心血管死が実質年間約45万例減少 全国的なカリウム代用塩の使用は、年間約46万1,000例(95%不確定区間[UI]:19万6,339~70万4,438)の心血管疾患死を防ぐことができると推定された。これは中国における、年間心血管疾患死の11.0%(95%UI:4.7~16.8%)、年間非致死的心血管イベント74万3,000例(95%UI:30万5,803~127万3,098)、心血管疾患に関連する障害調整生命年790万(95%UI:330万~1,290万)に相当した。CKD患者では、高カリウム血症関連死が推定1万1,000例(95%UI:6,422~1万6,562)増加すると推定された。 したがって、正味の影響として、心血管疾患死が全体集団で年間約45万例(95%UI:18万3,699~69万7,084)、CKD患者でも2万1,000例(95%UI:1,928~4万2,926)減少する可能性が示された。 感度分析においても正味の有益性は全体集団とCKD患者において一貫しており、避けられる死が追加の死を上回った。

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HPVワクチン+検診で子宮頸がん撲滅可能−日本はまず積極的勧奨中止以前の接種率回復を(解説:前田裕斗氏)-1222

 子宮頸がんはヒトパピローマウイルス(HPV)の感染によって生じることがわかっている、いわば「感染症」の1つである。2018年のデータによれば全世界で約57万件の新規発生と約31万人の死亡が報告されており、女性において4番目に頻度の多いがんである。この子宮頸がんを予防するうえで最も効果的なのがHPVワクチンだ。当初はがんを起こしやすいHPV16、18を対象とした2価ワクチンのみであったが、現在では9価のワクチンが開発され、海外では主に使用されている。ワクチンの効果は高く、接種率の高い国ではワクチンの対応する型のHPVを73~85%、がんに進展しうる子宮頸部の異形成(中等度以上)を41~57%減少させたと報告されている。 今回の論文では数理モデルを用いて、どのような閾値をもって根絶と定義するか、根絶に至るのはいつなのか、どのくらいの死が避けられるのか、そして最も効果的でコスト面に優れた戦略はどのようなものかについて検討している。モデルの詳しい内容はさておき結果を把握することが大事だ。詳細は別記事に譲るが、重要な結果として、根絶の定義を新規発症が1年当たり4例/10万人未満とした場合、HPVワクチンの女性への投与のみでは中低所得国の約60%のみが達成できるのに対し、生涯に1回の検診を加えれば約96%、2回の検診を加えればほぼすべての国で子宮頸がんの根絶が可能であるということが挙げられる。また、HPVワクチンのみで根絶不可能な国は年齢調整した新規発症が1年当たり25例/10万人以上であった。こうした新規発症が多い国では、90%以上の接種率でないと根絶は難しいと本文中で述べられている。 日本では子宮頸がんの年齢調整罹患率は14.7例/10万人で、先進国の中では高いほうである。また、その推移は横ばいで、減少傾向にない。HPVワクチンの接種率についてはご存じのとおり副反応報道による積極的勧奨中止から1%未満にまで落ち込み、これからの回復が期待される。検診率は約42%であり、こちらもWHOが示す目標である70%以上(35、45歳で1回ずつ)には達していない。では、日本ではどの程度のワクチン接種率・検診率を目指せばよいだろうか。2020年2月にLancet Global Healthで報告された論文では、日本におけるHPVワクチンの接種率が、副反応報道による積極的勧奨中止以前の接種率である70%に速やかに回復し、検診率も最低1回を70%、2回を40%の人口が受けることで接種率の減少による2万4,600~2万7,300例の発生および5,000~5,700例の死亡のうち、1万4,800~1万6,200例の発生および3,000~3,400例の死亡を防ぐことができると報告されている。この報告からも示唆されるように、まずは積極的勧奨中止以前の水準へ回復するだけでも効果を期待できる。これからの接種率上昇に期待したい。

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COVID-19とインフルの重感染例/CDC

 呼吸器疾患に影響するウイルスが共検出される可能性は周知の事実である。今回、中国・中日友好医院のXiaojing Wu氏らは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)とA型インフルエンザウイルスに重感染した症例について報告。上気道の検体検査が偽陰性になる、または、ほかの呼吸器ウイルスとの重感染によって新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が過少診断される可能性を示唆した。研究者らは「明らかな病因が特定された場合、とくに臨床マネジメントの決定に影響を及ぼす場合は、より広範なウイルス検査が必要になるかもしれない」としている。CDCのEMERGING INFECTIOUS DISEASES誌オンライン版2020年3月11日号のリサーチレターに報告された。 今回報告された症例は2019年12月18日~2020年1月22日まで武漢に滞在していた69歳男性で、この症例の臨床経過は以下のとおり。<帰宅後1月23日>発熱と空咳が出現、同日に中日友好医院の診療所を受診。血液検査:白血球数5.70×109/L(参照範囲3.5~9.5×109/L)およびリンパ球数2.18×109/L(参照範囲1.1~3.2×109/L)。胸部CT:肺の右下葉にすりガラス状結節を認めた。鼻咽頭スワブによる採取検体をrRT-PCR検査した結果、SARS-CoV-2陰性、A型インフルエンザウイルス陽性だったため、オセルタミビルによる治療を行った。その後退院し、自宅待機した。<退院後1月30日>発熱が持続し呼吸困難の悪化を訴え、病院を再受診。急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を呈していたことから、A型インフルエンザウイルスによる重度の肺炎として治療が行われた。血液検査:白血球数8.23×109/L、リンパ球数0.77×109/L。胸部レントゲン:両側肺に滲出期のびまん性陰影を認めた。<再入院から4日後>酸素化と胸部症状は改善。潜在的な病原体を特定するため、気管支鏡検査を実施しメタゲノム解析(mNGS)用の 気管支肺胞洗浄液(BALF)を得た。<2月5日>同時に採取された鼻咽頭スワブは陰性だったが、mNGSはSARS-CoV-2ゲノムの98.69%をカバーし、99.8%の同一性を示したため、翌日、患者はクリティカルケアを行うために指定病院に移送された。この症例から研究者らはCOVID-19診断における2つの課題を強調した。1)上気道検体からのSARS-CoV-2検出感度は不十分な可能性がある。今回、鼻咽頭スワブ検体によるrRT-PCR法では、患者が集中治療室入室前はSARS-CoV-2が陰性だったが、mNGSを併用したことで特定された。したがって、臨床的に疑いが強い場合には、BALFのような適切な検体が必要かもしれない。2)COVID-19の一般的な臨床症状(発熱、咳、呼吸困難など)がインフルエンザの症状に類似するため、他の呼吸器疾患とCOVID-19の区別は困難である。COVID-19患者の血液検査では白血球とリンパ球の減少、胸部CTではすりガラス状の混濁と両側肺病変が見られる。しかし残念ながら、A型インフルエンザウイルスおよび他ウイルスによる呼吸器感染症もこれらの特性を有している。この場合のSARS-CoV-2とA型インフルエンザウイルスの同時検出は、とくにSARS-CoV-2が陰性であるが別のウイルスが陽性である患者の場合、検出に対する追加の課題が残っていると考えられる。

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COVID-19治療薬スクリーニングのための原薬提供など、各社対応/製薬協

 日本製薬工業協会(製薬協)は3月18日、治療薬スクリーニングのための原薬提供など、会員各社の新型コロナウイルス感染対策への取り組み(3月10日時点の会員会社の開示情報)について発表した。 会員各社は、厚生労働省事務連絡「新型コロナウイルス感染症の治療に用いる医薬品のスクリーニングに用いる原薬の提供依頼について」を受け、国立感染症研究所(感染研)における「新型コロナウイルス感染症の治療に用いる医薬品の基礎的なスクリーニング計画」に協力し、感染研での治療薬スクリーニングのために化合物原薬または関連論文を提供している。 また、厚生労働省事務連絡「新型コロナウイルスに関連した感染症発生に伴う医薬品原料等の確保について」の要請に応じ、医療用医薬品の安定供給のために、中国で製造されている医薬品の原料などの在庫状況および今後の製造の見通しなどの確認、必要に応じた別の製造ルートの確保など、安定供給に向けて尽力している。 なお、日本製薬工業協会では、新型コロナウイルス感染による被災救済の一環として、COVID19治療・予防研究開発を支援するためにGISAID(Global Initiative on Sharing All Influenza Data、所在地:ドイツ)に5万ユーロ(約600万円)を拠出した。

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COVID-19、PCR検査検体採取の実際/日本臨床微生物学会

 2020年3月5日、日本臨床微生物学会は「COVID-19緊急Webセミナー」を行った(司会は舘田 一博氏[東邦大学医学部 微生物・感染症学講座 教授]・大塚 喜人氏[亀田総合病院 臨床検査部 部長])。 Web配信形式で行われた本セミナーは、臨床検査に関わる医療従事者(医師、臨床検査技師、看護師等)を対象として、PCR検査の検体採取時の注意点、保管・輸送方法、検査結果の解釈等について周知を図る目的で開催された(準備ができ次第、 学会サイトで動画公開予定)。 最初に、細川 直登氏(亀田総合病院感染症科 部長)が「診断に必要な検査と検体採取時の注意点」について発表を行い、COVID-19の下記の基本事項を確認した。・初期症状は、一般の感冒症状と区別がつかない・潜伏期は2~14日と推測(米疾病対策センター[CDC]データによる)・潜伏期にも感染性がある・無症状病原体保有者も存在・発症後1週間程度で、呼吸困難を発症する症例に注意(胸部単純レントゲンで浸潤影が見られない肺炎が多い) そのうえで、細川氏は「COVID-19疑いの確度を上げるには胸部CTが有効。これまでに発表された論文によると両肺の胸膜側にすりガラス影が出ることが特徴的で、問診とCTで疑い患者を絞り込むことが大切だ」と強調した。鼻腔からの上気道検体採取が現実的 PCR検査の検体には上気道検体と下気道検体がある。・上気道検体-鼻咽腔スワブ…咽頭スワブよりも感度が高い。-咽頭スワブ…鼻咽腔スワブができない場合に実施。・下気道検体-喀痰…乾性咳嗽が多く、そもそも出ないことが多い。-気管支肺胞洗浄(BAL)…感染リスクがあり、ほとんど行われていない。 この状況を踏まえ、「現段階では鼻咽腔から採取することが多いと考えられる」(細川氏)。【検体採取時の注意点】 検体採取は感染防止手技のトレーニングを受けたものが行うことが原則となる。・スワブは「ウイルス培養用」を使う(「細菌培養用」は不可)。 ・検体採取前に患者情報(氏名・年齢・性別・検体種別)を記入する。 ・鼻咽腔検体採取の場合…鼻腔に対してまっすぐに挿入。咽頭後壁にあたった状態で5秒間待つ。・ラインを目安に綿棒を試験管のフチで折る(折った後の検体側を手で触れないように注意する)。キャップをして完了。 細川氏は「厚労省通知にある発熱等の要件は『PCR検査をしなければならない基準』ではない。臨床経過が合致し、CTで肺炎を疑う症例にはPCR検査を行い、検査結果と患者の状況が矛盾するときはほかの鑑別を検索し、それが否定されたときPCR再検査を選択する、という流れになるだろう。当院でも、すりガラス影が出た患者のPCR検査結果が陰性で、その後に心不全だったことがわかった、という症例を経験した」と述べた。採取後の保管・搬送時にも注意 続いて、三澤 成毅氏(順天堂大学医学部附属順天堂医院 臨床検査技師長)が「臨床検体の取り扱いと各検査時の対応」を発表した。【検体採取後の注意点】・検体採取後の環境は0.1%次亜塩素酸ナトリウムで浸したペーパータオルで拭き取る。・使用済み器材やPPEはビニール袋に入れ、感染性産廃用ボックスに廃棄する。・採取後の検体は診療エリアに保管せず、臨床検査部門へ提出する(提出できない場合は、汚染物専用保冷庫を準備)【検体搬送時の注意点】・検体は3重包装(一次容器:検体容器、二次容器:密閉できるプラスチック袋[吸収剤を入れる]、三次容器:プラスチック製の堅牢な容器)・容器には、新型コロナウイルス感染症疑い患者の検体であることを明示し、ほかの医療スタッフが認識できるようにする。・新型コロナウイルス感染症疑いの患者検体は、世界保健機構(WHO)による「感染性物質の輸送規制に関するガイダンス」分類の「カテゴリーB」にあたり、その搬送規定に従う(厚生労働省「病原体等の国内輸送について)。・輸送ルートは、ほかの患者とできるだけ接触しない導線を選ぶ。採取前にPPE着脱法の確認を 検体採取前にはPPE(個人防護服)を装着する必要がある。とくに外す際に感染が起きやすいので事前に練習が必要である。【装着時の順番と注意点】1)ガウン・手指衛生をする・長袖、膝までの長さのものを使用・袖はまくりあげない2)マスク・鼻あて部を小鼻にフィットさせる・プリーツを伸ばし、鼻から顎までを覆う。3)ゴーグル・フェイスシールド・眼と顔が完全に覆われるように装着。4)手袋・手首が露出しないようガウンの袖口までを覆う。【外す時の順番と注意点】1)手袋・手首部分の外側をつまみ、手袋を中表にして外す。・手袋を外した指先でもう一方の手袋の内側に差し入れ、手袋を引き上げるように外す。・2枚の手袋をひとかたまりにして破棄する。2)ゴーグル・フェイスシールド・外側は汚染されているので、フレーム部分や両側をつまんで外す。・そのまま破棄する。3)ガウン・ひもを外し、ガウンの外側に触れないように首と肩の内側から手を入れて中表にしながら脱ぐ。・脱いだガウンは小さく丸めて破棄する。4)マスク・外側は汚染されているので決して触れず、ゴムやひもをつまんで外し、そのまま破棄する。・手指衛生を行う。※気管吸引液を採取するようなエアロゾルが発生する手技の場合はN95マスク着用を推奨N95マスクは、フィットテストにより最適な製品を選び、使用時シールチェックで確認する。(三澤氏の資料より抜粋)・セミナー動画では9分30秒前後から細川氏による装着解説動画あり。・日本環境感染学会「医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド第2版」においては脱着時に手袋とガウンを一緒に脱ぐとされているが、いずれの方法でも可●マニュアル・教育ツール・手引き【日本臨床微生物学会】医療者向け動画配信/新型コロナウイルス感染症に対する個人防護具の適切な着脱方法~医療従事者が新型コロナウイルス感染症に感染しないために~・臨床材料の取扱いと検査法に関するバイオセーフティーマニュアル-SARS疑い患者-・新型コロナウイルス(2019-nCoV)感染(疑いを含む)患者検体の取扱いについて【国立感染症研究所】・2019-nCoV (新型コロナウイルス)感染を疑う患者の検体採取・輸送マニュアル【日本環境感染学会】・日本環境感染学会教育ツールVer.3(感染対策の基本項目改訂版)【職業感染制御研究会】・安全器材と個人用防護具【WHO】・Rational use of personal protective equipment for coronavirus disease 2019 (COVID-19): Interim guidance, 27 February 2020・Laboratory biosafety guidance related to coronavirus disease 2019 (‎COVID-19)‎: interim guidance, 12 February 2020

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クローン病〔CD : Crohn’s disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義クローン病(Crohn’s disease: CD)は消化管の慢性肉芽腫性炎症性疾患であり、発症原因は不明であるが、免疫異常などの関与が考えられる。小腸、大腸を中心に浮腫や潰瘍を認め、腸管狭窄や瘻孔など特徴的な病態を生じる。■ 疫学主として若年者(10代後半~30代前半)に好発する。年々増加傾向にあり、わが国のCDの有病率は最近15年間で約4倍に増加、患者数4万人以上と推測され、日本では1.8:1.0の比率で男性に多い。現在も増加していると考えられる。■ 病因原因はいまだ不明であるが、遺伝的素因と食事などの環境因子の両者が関与し、消化管局所の免疫学的異常により、慢性の肉芽腫性炎症が持続する多因子疾患である。喫煙が増悪因子とされている。ほかに長鎖脂肪酸、多価不飽和脂肪酸、精製糖質の過剰摂取などが増悪因子として想定されている。■ 症状主症状は腹痛(70%)、下痢(80%)、体重減少・発熱(40~70%)である。肛門病変はCD患者の半数以上にみられ、先行する場合も多い(36~81%)。検査値の異常として、炎症所見(白血球数、CRP、血小板数、赤沈)の上昇、低栄養(血清総蛋白、アルブミン、総コレステロール値の低下)、貧血を示す。■ 分類正しい治療を考える上で、病変部位、疾患パターン、活動度・重症度の把握が重要である。病変部位は小腸型、小腸大腸型、大腸型の3つに大きく分類される。日本では小腸型20%、小腸大腸型50%、大腸型30%とされている。疾患パターンとして炎症型、狭窄型、瘻孔形成型の3通りに分類することが国際的に提唱されている。さらに疾患活動性として、症状が軽微もしくは消失する寛解期と、症状のある活動期に分けられる。重症度を客観的に評価するために、CD活動指数CDAI(表1)、IOIBDなどがあるが、日常診療に適した重症度分類は現在のところまだないため、患者の自覚症状、臨床所見、検査所見から総合的に評価する。画像を拡大する■ 予後CDは再燃、寛解を繰り返し慢性に経過する疾患である。病初期は消化管の炎症が中心であるが、徐々に狭窄型・瘻孔型へ移行し、手術が必要となる症例が多い。2000年に提唱されたCDの分類法であるモントリオール分類(表2)では発症時年齢、罹患範囲、病気の性質により分類されている。病型や病態は罹患期間により比率が変化し、Cosnes氏らは診断時に炎症型が85%であっても、20年後には88%が狭窄型から瘻孔型へ移行すると報告している 。累積手術率は発症後経過年数とともに上昇し、生涯手術率は80%以上になるという報告もある。海外での累積手術率は10年で34~71%である。わが国の累積手術率も、10年で70.8%、初回手術後の5年再手術率は16~43%、10年で26~67%と報告されている。とくに瘻孔型では手術率、術後再発率とも高くなっている。死亡率に関しては、Caravanらのメタ解析によるとCDの標準化死亡率は1.5(1.3~1.7)と算出されている。死亡率は過去30年で減少傾向にあるが、CDの死亡率比は一般住民よりやや高いとの報告がある。わが国では、やや高いとする報告と変わらないとする報告があり、死亡因子としては肝胆道疾患、消化管がん、肺がんが挙げられている。画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 診断基準厚生労働省の診断基準(表3)に沿って診断を行う。2018年に改訂した診断基準(案) ではCDAI(Crohn’s disease activitiy index)や合併症、炎症所見、治療反応に基づくECCO(European Crohn’s and colitis organisation )(表4)の分類に準じた重症度分類(軽症、中等症、重症)が記載されている。画像を拡大する■ 診断の実際若年者に、主症状である腹痛(70%)、下痢(80%)、体重減少・発熱(40~70%)が続いた場合CDを念頭に置く。肛門病変はCD患者の半数以上にみられ、先行する場合も多い(36~81%)。血液検査にて炎症所見、低栄養、貧血がみられたら、CDを疑い終末回腸を含めた下部消化管内視鏡検査および生検を行う。診断基準に含まれる特徴的な所見および生検組織にて、非乾酪性類上皮肉芽腫が検出されれば診断が確定できる。病変の範囲、治療方針決定のためにも、上部消化管内視鏡検査、小腸X線造影検査を行うべきである。CDと鑑別を要する疾患として、腸結核、腸型ベーチェット病、単純性潰瘍、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)潰瘍、感染性腸炎、虚血性腸炎、潰瘍性大腸炎などがあるため、服薬歴の確認・便培養・ツベルクリン反応およびクォンティフェロン(QFT)、病理組織検査を確認する。診断のフローチャートを図に示す。画像を拡大する1)画像検査所見(1)下部消化管内視鏡検査、小腸バルーン内視鏡検査検査前に、問診やX線にて強い狭窄症状がないか確認する。60~80%の患者では大腸と終末回腸が罹患する。病変は非連続性または区域性に分布し、偏側性で介在部はほぼ正常である。活動性病変として、縦走潰瘍と敷石像が特徴的な所見である。小病変としてはアフタや不整形潰瘍が認められる。(2)上部消化管内視鏡検査胃では、胃体上部小弯側の竹の節状外観、前庭部のたこいぼびらん・不整形潰瘍が認められる。十二指腸では、球部と下行脚に好発し、多発アフタ、不整形潰瘍、ノッチ様陥凹、結節状隆起が認められる。(3)消化管造影検査(X線検査)病変の大きさや分布、狭窄の程度、瘻孔の有無について簡単に検査ができる。所見の特徴は、縦走潰瘍、敷石像、非連続性病変、瘻孔、非対称性狭窄(偏側性変形)、裂孔、および多発するアフタがある。(4)その他近年、機器の性能向上および撮影技法の開発により、超音波検査、CT、MRIにより腸管自体を詳細に描出することが可能となった。小腸病変の診断に、経口造影剤で腸管内を満たし、造影CT検査を行うCT enterography(CTE)や、MRI撮影を行うMR enterography(MRE)が欧米では広く用いられており、わが国の一部の医療施設でも用いられている。撮影法の工夫により大腸も同時に評価ができるMR enterocolonography(MREC)も一部の施設では行われており、検査が標準化されれば、繰り返し行う場合も侵襲が少なく、内視鏡が到達できない腸管の評価にも有用と考えられる。2)病理検査所見CDには病理診断上、絶対的な基準となるものがなく、種々の所見を組み合わせて診断する。生検診断をするにあたっては、その有無を多数の生検標本で連続切片を作成し検討する。組織学的所見として重要なものは(1)全層性炎症像、(2)非乾酪性類上皮肉芽腫の検出、(3)裂溝、(4)潰瘍である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)CDは発症原因が不明であり、経過中に寛解と再燃を繰り返すことが多い。CDの根治的治療法は現時点ではないため、治療の目標は病勢をコントロールし、炎症を繰り返すことによる患者のQOL低下を予防することにある。そのため薬物療法、栄養療法、外科療法を組み合わせて症状を抑えるとともに、栄養状態を維持し、炎症の再燃や術後の再発を予防することが重要である。■ 内科治療(主に薬物治療として)活動期の治療と寛解期の治療に大別される。活動期CDの治療方針は、疾患の重症度、病変範囲、合併症の有無、患者の社会的背景を考慮して決定する。初発のCDでは、診断および病変範囲、重症度の確定と疾患に関する教育や総合的指導のため、専門医にコンサルトすることが望ましい。また、ステロイド依存や免疫調節薬の投与経験がない場合においても、生物学的製剤の投与に関しては専門医にコンサルトすべきである。わが国における平成30年度 CD治療指針、および各治療法の位置づけ(表5)を示す。画像を拡大する1)5-ASA製剤CDに適応があるのはメサラジン(商品名:ペンタサ)、サラゾスルファピリジン(同:サラゾピリン)の経口薬である。治療指針においては軽症~中等症の活動期の治療、寛解維持療法、術後再発予防のための治療薬として推奨されている。CDの寛解導入効果および寛解維持効果は限定的であるが有害性は低い。腸の病変部に直接作用し炎症を抑えるため、製剤の選択には薬剤の放出機序に注意して病変範囲によって決める必要がある。2)ステロイド(GS)5-ASA製剤無効例、全身症状を有する中等症以上の症例で寛解導入に有効である。関節症状、皮膚症状、眼症状などの腸管外合併症を有する場合や、発熱、CRP高値などの全身症状が著明な場合は、最初からステロイドを使用する。寛解維持効果はないため、副作用の面からも長期投与は避けるべきである。ステロイド依存となった場合は、少量の免疫調節薬(アザチオプリン〔AZA〕、6-メルカプトプリン〔6-MP〕)を併用し、ステロイドからの離脱を図る。軽症あるいは中等症例の回盲部病変の寛解導入には、全身性副作用を軽減し局所に作用するブデソニド(同:ゼンタコート)9mg/日の投与が有効である。3)免疫調節薬(AZA、6-MPなど)免疫調節薬として、AZA(同:イムラン、アザニン)、6-MP(同:ロイケリン)が主なものであり、AZAのみ保険適用となっている。AZAと6-MPは寛解導入、寛解維持に有効であり、ステロイド減量効果を有する。欧米の使用量はAZA 2.0~3.0mg/kg/日、6-MP 50mg/日または1.5mg/kg/日であるが、日本人は代謝酵素の問題から用量依存性の副作用が生じやすく、欧米より少量のAZA(50~100mg/日)、6-MP(20~50mg/日)が投与されることが多い。チオプリン製剤の副作用の中で、服用開始後早期に発現する重度の急性白血球減少と全脱毛がNUDT15遺伝子多型と関連することが明らかとされている。2019年2月よりNUDT15遺伝子多型検査が保険適用となっており、初回チオプリン製剤治療前には本検査を施行し、表6に従ってチオプリン製剤の適応を判断することが推奨される。AZA/6-MPの効果発現は緩徐で2~3ヵ月かかることが多いが、長期に安定した効果が期待できる。適応としてステロイド減量効果、難治例の寛解維持目的、瘻孔病変、術後再燃予防、抗TNF-α抗体製剤を使用する際の相乗効果があげられる。画像を拡大する4)抗体製剤(1)抗TNF-α抗体製剤わが国ではインフリキシマブ(同:レミケード)、アダリムマブ(同:ヒュミラ)が保険適用となっている。抗TNF-α抗体製剤は、CDの寛解導入、寛解維持に有効で外瘻閉鎖維持効果を有する。適応として、中等症~重症のステロイド・栄養療法が無効な症例、重症例で膿瘍や狭窄がない治療抵抗例、抗TNF-α抗体製剤で寛解導入された症例の寛解維持療法、膿瘍がコントロールされた肛門病変が挙げられる。早期に免疫調節薬と併用での導入が治療成績がよいとの報告があるが、副作用と医療費の問題もあり、全例導入は避けるべきである。早期導入を進める症例として、肛門病変を有する症例、穿孔型の症例、若年発症が挙げられる。(2)抗IL12/23p40抗体製剤2017年5月より中等症から重症の寛解導入および維持療法としてウステキヌマブ (同:ステラーラ)が使用可能となっている。導入時のみ点滴静注(体重あたり、55kg以下260㎎、55kgを超えて85kg以下390㎎、85kgを超える場合520㎎)、その後は12週間隔の皮下注射もしくは活動性が高い場合は8週間隔の皮下注射であり、投与間隔が長くてもよいという特徴がある。また、安全性が高いことも特徴である。腸管ダメージの進行があまりない炎症期の症例に有効との報告がある。肛門病変への効果については、まだ統一見解は得られていない。(3)抗α4β7インテグリン抗体製剤2018年11月より中等症から重症の寛解導入および維持療法としてベドリズマブ (同:エンタイビオ)が使用可能となっている。インフリキシマブ同様0週、2週、6週で投与後維持療法として8週間隔の点滴静注 (30分/回)を行う。抗TNF-α抗体製剤failure症例よりもnaive症例で寛解導入および維持効果を示した報告が多い。日本での長期効果の報告に関してはまだ症例数も少なく、今後のデータ集積が必要である。5)栄養療法活動期には腸管の安静を図りつつ、栄養状態を改善するために、低脂肪・低残渣・低刺激・高蛋白・高カロリー食を基本とする。糖質・脂質の多い食事は危険因子とされている。「クローン病診療ガイドライン(2011年)」では、栄養療法はステロイドとともに主として中等症以上が適応となり 、痔瘻や狭窄などの腸管合併症には無効である。1日30kcal/kg以上の成分栄養療法の継続が再発防止に有効であるが、長期にわたる成分栄養療法の継続はアドヒアランスの問題から困難であることも少なくない。総摂取カロリーの半分を成分栄養剤で摂取すれば、寛解維持に有効であることが示されており、1日900kcal以上を摂取するhalf EDが目標となっている。6)抗菌薬メトロニダゾール、シプロフロキサシンなどの抗菌薬は中等度~重症の活動期の治療薬として、肛門部病変の治療薬として有効性が示されている。病変部位別の比較では小腸病変より大腸病変に対して有効性が高いとされる。7)顆粒球・単球吸着療法(granulocyte/monocyte apheresis: GMA)2010年より大腸病変のあるCDに対しGMAが適応拡大となった。GMAは単独治療の適応はなく、既存治療の有効性が乏しい場合に併用療法として考慮すべきである。施行回数は週1回×5回を1クールとして、最大2クールまで施行する。8)内視鏡的バルーン拡張術(endoscopic balloon dilatation: EBD)CDは、経過中に高い確率で外科手術を要する疾患であり、手術適応の半数以上は腸管狭窄である。EBDは手術回避の目的として行われる内視鏡的治療であり、治療指針にも取り上げられている。適応としては、腸閉塞症状を伴う比較的短く(3cm以下)屈曲が少ない良性狭窄で、深い潰瘍や瘻孔を伴わないものである。適応外としては、細径内視鏡が通過する程度の狭窄、強度に屈曲した狭窄、長い狭窄、瘻孔合併例、炎症や潰瘍が合併している狭窄である。■ 外科的治療CDの外科的治療は内科的治療で改善しない病変のみに対して行い、QOLの改善が目的である。腸管病変に対する手術では、原則として切除をなるべく小範囲とし、小腸病変に対しては可能な症例では狭窄形成術を行い、腸管はなるべく温存する。5年再手術率16~43%、10年で32~76%と高く、可能な症例では腹腔鏡下手術が有効である。緊急手術、穿孔、広範囲膿瘍形成、複数回の開腹手術既往、腸管外多臓器への複雑な瘻孔などは開腹手術が選択される。厚生労働省研究班治療指針によるCDの手術適応は表7の通りである。完全な腸閉塞、穿孔、大量出血、中毒性巨大結腸症は緊急に手術を行う。狭窄病変については、活動性病変は内科治療、線維性狭窄で口側拡張の著しいもの、短い範囲に多発するもの、狭窄の範囲が長いもの、瘻孔を伴うもの、狭窄症状を繰り返すものは手術適応となる。肛門病変は、難治性で再発を繰り返す痔瘻・膿瘍が外科的治療の対象となる。治療として、痔瘻根治術、シートン法ドレナージ、人工肛門造設(一時的)、直腸切断術が選択される。治療の目標は症状の軽減と肛門機能の保持となる。画像を拡大する4 今後の展望現在、各種免疫を ターゲットとした治験が行われており、進行中の治験を以下に示す。グセルクマブ(商品名:トレムフィア):抗IL-23p19抗体(点滴静注および皮下注射製剤)Upadacitinib:JAK1阻害薬(経口)E6011:抗フラクタルカイン抗体(静注)Filgotinib:JAK1阻害薬(経口)BMS-986165:TYK2阻害療法(経口)5 主たる診療科消化器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療・研究に関するサイト難病情報センター CD(一般利用者と医療従事者向けの情報)東京医科歯科大学消化器内科 「潰瘍性大腸炎・クローン病先端治療センター」(一般利用者向けの情報)JIMRO IBD情報(一般利用者と医療従事者向けの情報)患者会に関するサイトIBDネットワーク(IBD患者と家族向け)1)日比紀文 監修.クローン病 新しい診断と治療.診断と治療社; 2011.2)難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班プロジェクト研究グループ 日本消化器病学会クローン病診療ガイドライン作成委員会・評価委員会.クローン病診療ガイドライン: 2011.3)NPO法人日本炎症性腸疾患協会(CCFJ)編.潰瘍性大腸炎の診療ガイド. 第2版.文光堂; 2011.4)日比紀文.炎症性腸疾患.医学書院; 2010.5)渡辺守.IBD(炎症性腸疾患を究める). メジカルビュー; 2011.公開履歴初回2013年04月11日更新2020年03月09日

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