運動で認知機能が改善する一方、ビタミンDは効果なし?

提供元:HealthDay News

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公開日:2023/09/05

 

 認知機能が軽度に低下している高齢者を対象とする研究から、運動と認知機能トレーニングによって認知機能が改善する可能性のあることが明らかになった。一方、それらにビタミンD摂取を追加しても、上乗せ効果は見られないという。モントリオール心臓研究所(カナダ)のLouis Bherer氏らが行ったランダム化比較試験の結果であり、詳細は「JAMA Network Open」に7月20日掲載された。論文の上席著者であるBherer氏は、「認知症の確立された治療法はまだないが、ライフスタイルの改善は認知症の予防に役立ち、加齢や慢性疾患が脳の健康に及ぼす影響を部分的に打ち消すことができる」と話している。

 この研究は、認知機能が正常な状態と認知症との中間にあたる「軽度認知障害(MCI)」の患者175人(年齢73.1±6.6歳、女性49.1%)を対象に行われた。全体を無作為に5群に分類して20週間介入し、認知機能の変化を調査。設定されていた5群では、有酸素運動、バランス力を高める運動、認知機能トレーニング、偽りの認知機能トレーニング、ビタミンD摂取(1万IUを週3回)、ビタミンDのプラセボ摂取が組み合わせて行われており、それらの介入効果を比較できるという研究デザインだった。

 介入6カ月後、認知機能トレーニングやビタミンD摂取にかかわりなく、有酸素運動が行われていた群では認知機能が有意に改善していた。また、運動のみの群と、運動に認知機能トレーニングを追加した群の比較では、後者の認知機能の方が有意に大きく改善していた。ビタミンD摂取の有無では、認知機能に有意差が認められなかった。

 この結果を基にBherer氏は、「運動が認知症の予防効果があると言われているが、運動だけでなく認知機能トレーニングを加えることで、MCI患者の認知機能をより大きく改善できる可能性がある」と述べている。なお、同氏によると運動は、糖尿病、高血圧、肥満などの脳に影響を与える慢性疾患の予防と管理に有用であり、それによって間接的に認知機能の維持に役立ち、かつ、脳への血流を増加させたり血管機能を改善したりすることで、直接的にも脳の健康維持に役立つという。また、この効果を得るために、運動を始めるのが遅すぎるということはなく、「高齢者を対象としたわれわれの研究でも、運動を行った群では介入3カ月後からメリットが示され始めた」とのことだ。

 本報告について、米ホフストラ/ノースウェルのドナルド・アンド・バーバラザッカー医科大学のEdith Burns氏は、「運動が認知症発症リスクを抑制することについては既に多くの報告があるが、今回の研究結果によりさらにそのエビデンスが蓄積された。本研究では認知機能トレーニングのメリットも示されているが、認知機能に対する効果の多くは運動介入によるものではないか。アルツハイマー病の治療薬として話題になっている最新の薬でさえ、習慣的な運動を上回るほどの効果はない」と解説。また、「運動が認知症予防につながるメカニズムはまだあまり明確ではないが、運動がメリットをもたらすというエビデンスは強固である」と話している。

 一方でBurns氏は、「人々にどのように運動を始めさせ、その習慣を維持させるかが問題だ。特に、既に認知機能が低下している人では、そのような介入がより困難になりやすい」と、運動介入のハードルを指摘している。

[2023年7月20日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら