Y染色体ハプログループIの男性は、他のY染色体系統の男性に比べ冠動脈疾患リスクが50%以上高いことが、オーストラリア・バララト大学のFadi J Charchar氏らの検討で示された。冠動脈疾患の発生率や有病率には性差がみられ、男性は女性に比べて頻度が高い。Y染色体の主要部分(男性特異的領域:MSY)は父親から息子へと完全なかたちで伝えられるが、Y染色体が心血管系(心血管死や血圧など)や血中コレステロール濃度に影響を及ぼすことを示すデータが報告されているという。Lancet誌2012年3月10日号(オンライン版2012年2月9日号)掲載の報告。
約3,200人の男性で冠動脈疾患とY染色体の関連を評価
研究グループは、性差による不均衡に基づき、冠動脈疾患におけるY染色体の役割について検討した。対象は、3つのコホート(British Heart Foundation Family Heart Study[BHF-FHS]、West of Scotland Coronary Prevention Study[WOSCOPS]、Cardiogenics Study)に登録された生物学的に血縁関係のないイギリス人男性3,233人。
Y染色体のハプログループと冠動脈疾患のリスクの関連を評価し、次いでこのY染色体の系統と冠動脈疾患の発現の関連について検討した。さらに、単球やマクロファージのトランスクリプトーム(特定の状態にある細胞内のすべての遺伝子転写産物[mRNA]を要素とする集合)に及ぼすY染色体の影響について機能分析を行った。
炎症や免疫関連遺伝子との相互関連も
同定された9つのハプログループのうち2つ(R1b1b2とI)が、Y染色体の約90%に認められた。ハプログループIのキャリアは、他のY染色体系統に比べ冠動脈疾患の年齢調整リスクが50%以上高かった(BHF-FHSコホート:オッズ比[OR];1.75、95%信頼区間[CI];1.20~2.54、p=0.004、WOSCOPSコホート:OR;1.45、95%CI;1.08~1.95、p=0.012、2つのコホートの統合解析:OR;1.56、95%CI;1.24~1.97、p=0.0002)。
ハプログループIと冠動脈疾患リスクの増加の関連には、従来の冠動脈リスク因子や社会経済的リスク因子の影響はなかった。Cardiogenics Studyコホートにおけるマクロファージのトランスクリプトーム解析では、ハプログループIと他のY染色体系統の男性間で発現状況が著しく異なる19の分子経路が同定されたが、これらは炎症や免疫関連遺伝子と相互関連を示し、そのうちいくつかはアテローム性動脈硬化と強い関連を示した。
著者は、「ヒトのY染色体はヨーロッパ系の男性の冠動脈疾患リスクと関連しており、この関連性は免疫系や炎症との相互作用を介する可能性がある」と結論付けている。
(菅野守:医学ライター)