「世界貿易センター健康レジストリ」登録者のがん発生リスクは増大したか?/JAMA

提供元:ケアネット

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公開日:2013/01/09

 

 2001年9月11日の世界貿易センタービルへのテロ攻撃は、周辺環境に発がん性物質を拡散したといわれており、市民の間に、その曝露により、がん罹患の可能性が増大したとの懸念があった。ニューヨーク市保健・精神衛生部のJiehui Li氏らは、「世界貿易センター健康レジストリ」に登録された人におけるがん発生状況を調べた。その結果、救急隊員/復旧作業員について、一般レジストリ者と比べて2007-2008年に前立腺がん、甲状腺がん、骨髄腫の過剰リスクがみられたが、発生数は少なく、この年にすべてのがんが増大したということではなかった。著者は、「曝露の強さの違いによる関連は認められなかった」と述べた上で、「潜伏期間が長期にわたるがんもあるので、長期のフォローアップと特異的がんについては注意が必要である」と結論している。

曝露の違い(救急・復旧作業員とその他)でがん発生との関連を調査、標準発生比も検証
 Li氏らは、2003-2004年に「世界貿易センター健康レジストリ」に登録されたニューヨーク州の住民5万5,778人を対象とする観察研究を行った。レジストリには、救急隊員・復旧作業員(2万1,850人)とそれ以外の救出・復旧作業に関わらなかった人(3万3,928人)が登録されていた。登録から2008年12月31日までフォローアップした。

 Cox比例ハザードモデルを用いてレジストリ内コホート比較を行い、世界貿易センター曝露の強さと各種がん(11種類)との関連を評価した。

 レジストリ者のがん症例は、標準発生比(SIR)を用いてニューヨーク州一般集団とで比較し、予想されたがん発生に対し実際に観察された症例を検証した。SIRは、年齢(5歳階級群)、人種/民族、性、期間別(2003-2006年と2007-2008年:9.11後とその後の期間での曝露に対する関連を調べるため)について算出した。

 また、2007~2008年のレジストリ群とニューヨーク州一般集団の、10万人・年当たりの全体および特異的がん発生率の差(RD)も算出した。

曝露の強さの違いによる関連は認められず
 レジストリ累計25万3,269人・年のうち、がんと診断された人は1,187人だった(救急隊/復旧作業者439人、その他748人)。

 2007~2008年のすべてのがん統合SIRについて、有意な上昇は認められなかった。救急隊/復旧作業者群の同SIRは1.14(95%信頼区間:0.99~1.30)であり、2003-2006年の統合SIRの0.94(同:0.82~1.08)と有意な差はなかった。また、その他群の同SIRは、それぞれ0.92(同:0.83~1.03)、0.92(同:0.83~1.02)であった。

 各種がん別にみると、救急隊/復旧作業者群において、2007-2008年に3種のがんで有意な増大がみられた。SIRは、前立腺がん1.43(同:1.11~1.82)、甲状腺がん2.02(同:1.07~3.45)、多発性骨髄腫2.85(同:1.15~5.88)だった。それぞれの症例数およびRDは、前立腺がんが67例、61/10万人・年、甲状腺がんが13例、16/10万人・年、多発性骨髄腫が7例、11/10万人・年であった。

 一方、その他群において2007-2008年に増大がみられたがんはなかった。

 コホート内比較において、世界貿易センター曝露の強さの違いによる、肺がん、前立腺がん、甲状腺がん、非ホジキンリンパ腫、血液がんとの有意な関連は認められなかった。

(武藤まき:医療ライター)