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検索結果 合計:4246件 表示位置:561 - 580

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ウパダシチニブ、中等~重症クローン病に有効/NEJM

 中等症~重症のクローン病患者において、ウパダシチニブによる寛解導入療法および維持療法はプラセボと比較し優れることが、43ヵ国277施設で実施された第III相臨床開発プログラム(2件の寛解導入療法試験「U-EXCEL試験」「U-EXCEED試験」と1件の維持療法試験「U-ENDURE試験」)の結果で示された。米国・Mayo Clinic College of Medicine and ScienceのEdward V. Loftus氏らが報告した。ウパダシチニブは経口JAK阻害薬で、潰瘍性大腸炎、関節リウマチ、関節症性乾癬、アトピー性皮膚炎および強直性脊椎炎に対して承認されており、クローン病治療薬としても開発中であった。NEJM誌2023年5月25日号掲載の報告。ウパダシチニブvs.プラセボ、寛解導入療法と維持療法の有効性および安全性を比較 研究グループは、中等症~重症のクローン病で18~75歳の患者を対象とし、「U-EXCEL試験」では1剤以上の既存治療または生物学的製剤で効果不十分または不耐容の患者を、「U-EXCEED試験」では1剤以上の生物学的製剤で効果不十分または不耐容の患者を、ウパダシチニブ45mg群またはプラセボ群に2対1の割合で無作為に割り付け、1日1回12週間投与する寛解導入療法試験を行った(二重盲検期)。さらに、両試験において臨床的奏効が認められた患者は、維持療法試験「U-ENDURE試験」に移行し、ウパダシチニブ15mg、同30mgまたはプラセボ群に1対1対1の割合で無作為に割り付けられ、1日1回52週間の投与を受けた。 主要エンドポイントは、寛解導入療法(12週)、維持療法(52週)のいずれにおいても、臨床的寛解および内視鏡的改善とした。臨床的寛解は、クローン病活動指数(CDAI、スコア範囲:0~600、高スコアほど疾患活動性が重症であることを示す)のスコアが150点未満と定義した。内視鏡的改善は、中央判定による簡易版クローン病内視鏡スコア(SES-CD、スコア範囲:0~56、高スコアほど重症度が高いことを示す)が、ベースラインから50%超減少(ベースラインのSES-CDが4点の患者ではベースラインから2点以上の減少)と定義した。 U-EXCEL試験では526例、U-EXCEED試験では495例、U-ENDURE試験では502例が各群に無作為に割り付けられた。臨床的寛解、内視鏡的改善ともにウパダシチニブが有意に優れる 臨床的寛解を達成した患者の割合(ウパダシチニブ45mg群vs.プラセボ群)は、U-EXCEL試験で49.5% vs.29.1%、U-EXCEED試験で38.9% vs.21.1%、同じく内視鏡的改善は、U-EXCEL試験で45.5% vs.13.1%、U-EXCEED試験で34.6% vs.3.5%であり、プラセボ群と比較してウパダシチニブ45mg群で有意に高かった(すべての比較でp<0.001)。 また、U-ENDURE試験の52週時において、臨床的寛解を達成した患者の割合はウパダシチニブ15mg群37.3%、同30mg群47.6%、プラセボ群15.1%、同じく内視鏡的改善はそれぞれ27.6%、40.1%、7.3%であり、いずれもウパダシチニブの両用量群がプラセボ群より有意に高かった(すべての比較でp<0.001)。 安全性については、帯状疱疹の発現率は、ウパダシチニブ45mg群および30mg群がプラセボ群より高く、肝障害ならびに好中球減少症の発現率は、ウパダシチニブ30mg群が他の維持療法群より高かった。消化管穿孔が、ウパダシチニブ45mg群で4例、ウパダシチニブ30mg群ならびに15mg群で各1例に発現した。

562.

米CDCが今夏のサル痘再流行の可能性について警告

 米疾病対策センター(CDC)は5月15日、ヘルス・アラート・ネットワークを通して、サル痘ウイルスに感染するリスクのある人にワクチンを接種するよう呼びかけた。背景には、2022年夏にピークに達して以降、徐々に減少していたサル痘(2023年2月にエムポックスに名称変更)の罹患者数が再び増加に転じる可能性に対する危惧がある。CDCは、「人々が集うフェスティバルやその他のイベントを通して、2023年の春から夏にかけてサル痘が再び流行する可能性がある」と述べている。 米ワイル・コーネル大学医学部パンデミック予防・対策センターのディレクターであるJay Varma氏はCNNに対し、「今後数カ月の間にサル痘患者が急増する可能性がある。しかし、リスクのある人の多くはすでに感染したか、あるいはワクチンが普及してきたため、おそらく昨年ほどの規模にはならないだろう」と語った。ただ、同氏によると、過去の感染歴やワクチン接種による保護がどの程度続くかについては不明だという。 CDCは目下、2023年4月17日から5月5日の間に、米シカゴで確認された12例のサル痘確定症例と1例のサル痘疑い症例について調査を進めている。これらの症例は、全て男性(24〜46歳)である。13人中9人は、サル痘のワクチンとして承認された天然痘ワクチンの「ジンネオス」を2回接種済みであった。また、4人は直近で、ニューヨーク、ニューオリンズ、メキシコへ旅行していた。 過去のサル痘のアウトブレイクのほとんどは海外旅行と関連していたが、2022年の春には、人と人との接触によってウイルスは世界中に急速に広まった。CDCは、感染者はゲイやバイセクシュアルの男性、MSM(男性と性行為をする男性)、トランスジェンダーの人に偏っていたと述べている。このアウトブレイクがきっかけとなり、感染リスクのある人々にワクチン接種を呼びかける活動が行われた。CDCによると、ワクチンを接種してもブレイクスルー感染は起こり得るが、重症度を下げることは可能だという。 CNNによると、サル痘リスクが高いと考えられる人のうち、ワクチンの2回接種を完了したのはわずか23%だという。米National Association of County and City Health Officialsの最高経営責任者であるLori Tremmel Freeman氏はCNNに対し、「最もリスクの高い人々のワクチン接種が必要なレベルに達していないことが大きな懸念だ。現在、米国中西部で新たな感染例が発生しているが、ワクチン接種済みの人では症状が軽いようだ」とワクチン接種の有効性に言及している。Varma氏も、「ワクチンは安全で効果的だ。昨年は、感染を抑えるのに役立った。ワクチンの有効率や効果の持続期間に不明な点があるにせよ、接種しないよりは接種した方が良いのは確実だ」と主張する。 サル痘の主な症状は、水疱のような発疹、発熱、悪寒、リンパ節腫脹、痛み、倦怠感など。免疫力が低下している人が罹患すると、致命的になることもある。世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム・ゲブレイエスス事務局長は5月11日、「WHOはサル痘の緊急事態宣言終了を宣言したが、これは、われわれの仕事が終わったことを意味するものではない。サル痘は、あらゆる地域のコミュニティーに今も影響を与え続けている」と語った。 米National Coalition of STD Directorのエグゼクティブ・ディレクターであるDavid Harvey氏は、サル痘は依然として「重大な懸念」であり、地域社会や医療提供者は監視を続ける必要があると語った。同氏は、「予想されたこととはいえ、シカゴの症例は気にかかる」と話しつつも、「ただ、昨年と違って、われわれは今や、何がサル痘に対して有効なのかを知っているし、再びサル痘患者が発生した際には、感染者の増加を抑制するための手段も持っている。ワクチンは安全で効果的であり、症例を減らし、症状の重症度を軽減するのにも役立つ」と話している。

563.

抗菌薬の長期使用で肺がんリスクが増加

 近年の研究で、抗菌薬によるマイクロバイオーム異常および腸と肺の相互作用が肺がん発症の引き金になる可能性が指摘されている。今回、韓国・ソウル国立大学のMinseo Kim氏らが抗菌薬の長期使用と肺がんリスクの関連を調べたところ、抗菌薬の累積使用日数および種類の数が肺がんリスク増加と関連することが示された。Journal of Infection and Public Health誌2023年7月号に掲載。 本研究は後ろ向きコホート研究で、韓国国民健康保険サービスのデータベースから2005~06年に健康診断を受けた40歳以上の621万4,926人について調査した。抗菌薬の処方累積日数と種類数で層別し、多変量Cox比例ハザード回帰を用いて、抗菌薬使用に対する肺がんリスクの調整ハザード比(aHR)および95%信頼区間(CI)を評価した。 主な結果は以下のとおり。・抗菌薬処方累積日数が365日以上の参加者の肺がんリスクは、抗菌薬非使用者より有意に高く(aHR:1.21、95%CI:1.16~1.26)、1~14日の参加者よりも有意に高かった(aHR:1.21、95%CI:1.17~1.24)。・5種類以上の抗菌薬を処方されていた参加者の肺がんリスクは、抗菌薬非使用者より有意に高かった(aHR:1.15、95%CI:1.10~1.21)。

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せっけん手洗いで、低中所得国の急性呼吸器感染症が減少/Lancet

 低中所得国において、せっけんによる手洗い励行の介入は急性呼吸器感染症(ARI)を減少可能であることが示された。英国・ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のIan Ross氏らが、システマティックレビューとメタ解析の結果を報告した。ARIは、世界的に罹患および死亡の主な原因で、ARIによる死亡の83%は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック以前の低中所得国で発生していたという。結果を踏まえて著者は、「低中所得国においてせっけんによる手洗いはARIによる大負荷を防ぐのに役立つと考えられる」とまとめている。Lancet誌2023年5月20日号掲載の報告。低中所得国におけるせっけん手洗いに関する研究26件についてメタ解析 研究グループは、MEDLINE、Embase、Web of Science、Scopus、Cochrane Library、Global Health、Global Index Medicusを用いて、2021年5月25日までに発表された低中所得国におけるせっけんによる手洗いに関する研究を検索し、家庭、学校または保育の場で実施された介入の無作為化および非無作為化比較研究を特定し、システマティックレビューとメタ解析を行った。せっけんによる手洗い以外の手指衛生励行の介入、および医療施設や職場における介入は除外された。 主要アウトカムは、あらゆる病原体に起因するARI罹患率。副次アウトカムは、下気道感染症、上気道感染症、診断検査で確認されたインフルエンザ、診断検査で確認されたCOVID-19、および全死因死亡であった。 研究結果の統合にはランダム効果メタ解析を、異質性の評価にはメタ回帰を用い、相対リスク(RR)を算出した。個々の研究のバイアスリスクはNewcastle-Ottawaスケールを用いて評価し、GRADE(Grading of Recommendations, Assessment, Development, and Evaluation)を用いてエビデンスの確実性を評価した。 適格基準を満たした26件の研究(合計16万1,659例)から、27件の比較(無作為化比較は21件)が解析に組み込まれた。せっけん手洗い励行で、急性呼吸器感染症罹患率は低下 せっけんによる手洗い励行の介入は、手洗いなしと比較してARIを減少させた(RR:0.83、95%信頼区間[CI]:0.76~0.90、I2:88%、27件)。 副次アウトカムについては、下気道感染症(RR:0.78、95%CI:0.64~0.94、I2:64%、12件)および上気道感染症(0.74、0.59~0.93、91%、7件)は減少したが、インフルエンザ(0.94、0.42~2.11、90%、3件)、COVID-19(比較なし)および全死亡(死亡率比:0.95、95%CI:0.71~1.27、1件)は抑制しなかった。 ARIの異質性共変量に有意性は認められなかった(p<0.1)。GRADE評価によるエビデンスの質は「中」であった。

565.

頭の中の思考を文章化する新たなデコーダーを開発

 何らかの話を頭の中で想像したり聞いたりしている人の脳の機能的MRI(fMRI)のデータから、その人が考えている内容を文章に置き換えることができるデコーダーの開発に成功したことを、米テキサス大学オースティン校のJerry Tang氏らが報告した。研究グループは、このシステムが、脳卒中などで意識はあるものの話すための身体的な能力を失った人に有益な可能性があると見ている。研究の詳細は、「Nature Neuroscience」に5月1日掲載された。 Tang氏らが開発した新しいデコーダーは、脳に電極を埋め込む必要がない、非侵襲的なアプローチを採用している点で、これまでのシステムとは異なる。デコーダーの開発ではまず、3人の試験参加者に16時間にわたってさまざまな話を聞かせ、その間の脳のfMRIデータを取得。このデータを用いて、単語の連なりに対する脳の反応を予測するためのエンコーディングモデルのトレーニングを行った。次いで、このエンコーディングモデルが予測した脳の反応を基に、ニューラルネットワーク言語モデルと探索アルゴリズムを用いたデコーダーが、最適な単語の連なりを生成するようにした。 Tang氏らは、試験参加者に新しい話を聞かせて、このデコーダーの精度を調べた。その結果、デコーダーはfMRIで記録された試験参加者の脳活動から、新しい話の意味を捉えた単語の連なりを生成することができ、また、話に出てくるいくつかの単語やフレーズを正確に再現できることが示された。以下はその一例だ。 実際の話:「I got up from the air mattress and pressed my face against the glass of the bedroom window expecting to see eyes staring back at me but instead finding only darkness.(私はエアマットから起き上がり、寝室の窓ガラスに顔を押し当てた。そこに自分を見つめ返す目が見えるかと思ったが、暗闇があるだけだった。)」 デコーダーが生成した話:「I just continued to walk up to the window and open the glass I stood on my toes and peered out I didn't see anything and looked up again I saw nothing.(私はそのまま窓に近づき、窓ガラスを開け、つま先立ちで外をのぞき込んだが何も見えなかった。もう一度見上げても、何も見えなかった。)」 次に、このデコーダーが、話されている言葉ではなく思考を捉えているのかを確認するため、試験参加者にサイレントムービーを見てもらい、fMRIで脳波を取得した。このfMRIデータをデコーダーに解読させた結果について、研究論文の上席著者である同大学のAlxander Huth氏は、「この映画に音声は一切出てこない。試験参加者は、これらの映画を見ている間、何かを行うよう指示されることはなかった。しかし、fMRIデータをデコーダーにかけると、映像の中で起きていることを説明するような文章が生成された」と説明している。さらに、試験参加者に、頭の中で何らかの話を想像してもらい、その間のfMRIデータをデコーダーにかけると、想像したその話の意味を予測できることも確認された。 Huth氏は、「今回の研究での出力フォーマットは言語であるが、われわれが得ようとしているのは、必ずしも言語そのものではない。このデコーダーは、言語よりももっと深いところにあるものを捉えて、それを言語に変換しているのだ。これは、非常に高いレベルで言語が果たしている役割だと言えるだろう」と話す。 ただし、このデコーダーにはまだ多くの不備があり、実用化に移せる段階にはない。例えば、デコーダーは代名詞が「ひどく苦手」であり、適切な単語やフレーズを正確に再現するためには、微調整やさらなるテストが必要だという。また、脳波を測定するために大型のMRI装置が必要な点も実用的とはいえないとTang氏らは指摘している。同氏らは目下、脳波計や機能的近赤外分光法のような、より安価で持ち運び可能な装置を使って、fMRIと同程度の脳活動を把握することができるかどうかを検討しているとのことだ。 さらに研究グループは、このデコーダーが想像以上にうまく機能したことに衝撃を受け、脳のプライバシーに関する懸念が生じたことを認めている。Tang氏は、「この技術はまだ発展途上だが、脳のデータに関して規制を設けることは非常に重要だと考えている。いつか本人の協力を得ることなく正確に頭の中の思考を解読できるようになったときには、その規制を新たな規制の基盤にすることができるだろう」と話している。

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小児喘息の罹患率や症状、居住環境が影響/JAMA

 米国都市部の貧困地域に居住する子供たちにおける、不釣り合いに高い喘息罹患率には、構造的人種主義が関与しているとされる。米国・ジョンズ・ホプキンズ大学ブルームバーグ公衆衛生大学院のCraig Evan Pollack氏らは、MAP研究において、住宅券(housing voucher)と低貧困地域への移住支援を提供する住宅移動プログラムへの参加が、小児の喘息罹患率や症状日数の低下をもたらすことを示した。研究の成果は、JAMA誌2023年5月16日号で報告された。ボルチモア郡の前向きコホート研究 MAP研究は、2016~20年に家族がBaltimore Regional Housing Partnership(BRHP)の住宅移動プログラムに参加した、持続型喘息を有する5~17歳の小児123例を対象とする前向きコホート研究である(米国国立環境健康科学研究所[NIEHS]の助成を受けた)。 ボルチモア郡の低貧困地域への引っ越しが、小児の喘息の増悪および症状に及ぼす影響を評価した。また、傾向スコアを用いて、Urban Environment and Childhood Asthma(URECA)の出生コホートに登録された小児とマッチングした解析も行われた。 123例の年齢中央値は8.4歳、58例(47.2%)が女児、120例(97.6%)が黒人であった。81%(89/110例)が引っ越し前は高貧困地域(貧困線を下回る家族が20%以上の地域)に居住しており、引っ越し後のデータが得られた小児のうち高貧困地域に住んでいたのは0.9%(1/106例)のみだった。傾向スコアマッチング解析でも、有意差を保持 このコホートにおいては、引っ越し前の3ヵ月間に、少なくとも1回の喘息の増悪がみられた患児は15.1%であったのに対し、引っ越し後は8.5%に低下し、補正後の引っ越し前後の差は-6.8ポイント(95%信頼区間[CI]:-11.9~1.7、p=0.009)と、有意な改善が認められた。 また、過去2週間の最大症状日数(患児が全身症状、活動性低下、夜間覚醒を訴えた最大の日数)は、引っ越し前が5.1日であったのに対し、引っ越し後は2.7日に減少し、補正後の引っ越し前後の差は-2.37日(95%CI:-3.14~-1.59、p<0.001)であり、有意な改善がみられた。 これらの結果と同様に、URECAデータを用いた傾向スコアマッチング解析でも、有意差が保たれていた。 さらに、社会的結束(social cohesion)、日中および夜間の近隣の安全性、都市のストレスなどのストレス指標は、いずれも引っ越しによって改善し、引っ越しと喘息増悪との関連の29~35%、引っ越しと症状発現の減少との関連の13~34%を、これらの指標が媒介すると推定された。 著者は、「政策立案者や臨床医が、1世紀以上に及ぶ住宅差別(housing discrimination)の遺産を抱える地域の家族を支援するプログラムを開発し検証する際に、これらの知見は子供の健康に有益な可能性を示唆するエビデンスとなる」としている。

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歯科治療の中断が全身性疾患の悪化と有意に関連

 歯科治療の中断と、糖尿病や高血圧症、脂質異常症、心・脳血管疾患、喘息という全身性慢性疾患の病状の悪化が有意に関連しているとする研究結果が報告された。近畿大学医学部歯科口腔外科の榎本明史氏らの研究によるもので、詳細は「British Dental Journal」に4月11日掲載された。 近年、口腔疾患、特に歯周病が糖尿病と互いに悪影響を及ぼしあうことが注目されている。その対策のために、歯科と内科の診療連携が進められている。また、糖尿病との関連に比べるとエビデンスは少ないながら、心・脳血管疾患や高血圧症なども、歯周病と関連のあることが報告されている。歯周病とそれらの全身性疾患は、どちらも治療の継続が大切な疾患であり、通院治療の中断が状態の悪化(歯周病の進行、血糖値や血圧などのコントロール不良)につながりやすい。榎本氏らは、歯科治療を中断することが全身性疾患の病状に影響を及ぼす可能性を想定して、以下の横断的研究を行った。 研究には、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの社会・医療への影響を把握するために実施された大規模Web調査「JACSIS(Japan COVID-19 and Society Internet Survey)研究」のデータが用いられた。パンデミック第5波に当たる2021年9月27日~10月30日に、Web調査登録者パネルを利用して、年齢、性別、居住都道府県を人口構成にマッチさせた上で無作為に抽出した3万3,081人に回答協力を依頼。2万7,185人(年齢範囲15~79歳、男性49.7%)から有効回答を得た。 このトピックに関する質問は、「過去2カ月間に、全身性疾患の病状は悪化したか」、「過去2カ月間に、歯科治療を受けることができたか」という二つで構成されていた。前者は「はい」か「いいえ」、後者は歯科治療を「継続していた」、「中断した」、および「該当しない(以前から継続的な歯科治療は受けていない)」から選んでもらった。 全身性疾患の検討対象者は、もともと内科疾患を放置している人やコロナ禍のもと内科疾患の通院を中断した人は除外。最終的には、糖尿病1,719人、高血圧症5,130人、脂質異常症2,998人、心・脳血管疾患833人、喘息677人、アトピー性皮膚炎792人、うつ病などの精神疾患1,638人を対象者とした。これら各疾患の患者のうち、50~60%は歯科治療を継続しており、4~8%は中断していた。いずれの疾患においても、歯科治療継続群より中断群の方が、病状が悪化したとの回答が多かった。 糖尿病患者を例にとると、1,719人のうち88人が歯科治療を中断しており、そのうち16人(18.2%)が糖尿病の悪化を報告。歯科治療を継続していた1,043人ではその割合が5.6%だった。年齢、性別、喫煙習慣、教育歴、収入、居住環境(独居か否か、持ち家か否か)を共変量として調整した解析でも、病状悪化率の群間差は有意だった(P=0.0006)。 同様の解析で、高血圧症(P=0.0003)、脂質異常症(P=0.0036)、心・脳血管疾患(P=0.0007)、喘息(P=0.0094)も、歯科治療を中断した群の病状悪化率の方が有意に高かった。アトピー性皮膚炎とうつ病などの精神疾患に関しては、有意差が見られなかった。 著者らは「本研究は横断研究であるために因果関係は不明」とした上で、「歯科治療の中断がいくつかの全身性疾患の状態を悪化させる可能性が示された。つまり、歯科治療の継続が全身性疾患の進展を抑制し得るのではないか。また、全身の内科的疾患の症状悪化によって、将来的に医療において必要となる人的労力や経済的負担が、口腔の健康の維持のための比較的軽度な負担によって抑制可能かもしれない。この結果はわが国における医歯学連携の推進を後押しする、有意義な知見と考えられる」と結論付けている。

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英語で「服用禁忌」は?【1分★医療英語】第82回

第82回 英語で「服用禁忌」は?Hi Dr. Smith, the patient has a history of angioedema and ACE are contraindicated.(スミス先生、患者さんは血管浮腫の病歴があるのでACE剤は服用禁忌です)Oh okay, let’s change the med then.(そうか、では、処方を変えましょう)《例文1》A bleeding disorder is a contraindication for taking aspirin.(出血性疾患はアスピリンの服用禁忌です)《例文2》Are steroids contraindicated in cancer?(ステロイドはがん患者に服用禁忌でしょうか?)《解説》薬剤を処方するときにお馴染みの「適応」という表現。英語では“indication”で表現します。これに「反対、逆」の接頭語である“contra”を付けた“contraindication”が「禁忌」という意味になります。形容詞的に“contraindicated”として使う場合もあります。米国の場合、添付文書に記載されている警告は3段階あります。注意warnings and precautions禁忌contraindications最大級の警告boxed warning(black box warning)“black box warning”とは文字どおり「黒枠で囲まれた警告」であり、添付文書の一番初めに強調して記載されている、特筆すべき警告です。ちなみに、添付文書は“package insert”といいます。これも文字どおりで、「パッケージに挿入(insert)されたもの」だからですね。医薬品情報収集はスピードが命。私も多岐にわたる医薬品情報については、スマホからでもすぐに見つけられるよう、普段から準備をしています。講師紹介

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睡眠時間のばらつきが双極性障害の再発リスクと関連~APPLEコホート研究

 双極性障害でみられる睡眠障害は、気分症状と密接に関連しているといわれている。愛知・桶狭間病院の江崎 悠一氏らは、双極性障害患者のアクチグラフによる睡眠パラメータと気分エピソードの再発との関連を調査した。その結果、双極性障害患者の気分エピソードの再発または再燃を予防するための補助療法として、睡眠時間を一定に保つ治療が有用である可能性が示唆された。Psychiatry and Clinical Neurosciences誌オンライン版2023年4月24日号の報告。 日常生活における光曝露と双極性障害の病状との関連を調査したコホート研究「APPLEコホートスタディ」に参加した双極性障害外来患者193例を対象に、分析を行った。対象患者の睡眠状態は、連続7日間にわたりアクチグラフを用いて客観的に評価し、その後2年間にわたり気分エピソードの再発をフォローアップした。睡眠パラメータは、7日間の各睡眠パラメータの平均値と変動性(標準偏差)により評価した。 主な結果は以下のとおり。・193例中110例(57%)においてフォローアップ期間中に気分エピソードが確認された。・総睡眠時間の変動が大きかった患者は、変動が小さかった患者と比較し、気分エピソードの再発までの平均推定期間が有意に短かった(12.5ヵ月vs.16.8ヵ月、p<0.001)。・Cox比例ハザードモデルでは、潜在的な交絡因子で調整した後、総睡眠時間の変動性が気分エピソードの再発率の増加と有意に関連していることが明らかとなった(1時間当たりのハザード比[HR]:1.407、95%信頼区間[CI]:1.057~1.873)。再発した主な気分エピソードはうつ病エピソードであった(1時間当たりのHR:1.477、95%CI:1.088~2.006)。

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心臓病の家族歴がありながら運動習慣により長期間健康を保った女性

 米国カリフォルニアに住んでいたJana Turnerさんは、自分の人生を常にコントロールしているという感覚を楽しみながら生活していた。結婚せず子供のいない彼女は、仕事のキャリアを最優先事項とし、企業の経営を担う身ともなっていた。 彼女はまた、自分の健康もコントロールしていた。両親と4人の祖父母の全員が心臓病で亡くなっていたため、健康的な食事を取り、身体活動を維持し、痩せ気味の体型を保っていた。ゴルフやサイクリング、ハイキング、ウエートトレーニングも続けていたし、コレステロールを下げる薬も服用していた。 2020年5月、当時65歳だった彼女は、自宅付近を歩いている時に胸の痛みを感じ始めた。彼女は息を鎮めるために15分ほど縁石に座っていた。心臓発作が起きたのではないかと考え主治医の診察を受けたが、心電図上にその兆候は見られないとの結果だった。主治医は消化器系の問題と判断しその薬を処方。しかし症状は数週間持続。そのため次に、消化器科を受診すると、小さな潰瘍が発見された。ただし、ほかにも多くの症状があったため、さらに別の消化器専門医に診てもらったところ、その医師はニトログリセリンを処方した上で、心臓専門医に診てもらった方が良いとアドバイスした。 心臓専門医は、心臓核医学検査を施行。その翌朝、医師から伝えられたのは、「冠動脈の少なくとも1カ所に閉塞がある」という結果だった。さらに詳しい検査が行われ、1本の冠動脈主幹部に99%以上の閉塞があり、別の冠動脈にも閉塞が見つかった。それら2カ所にバイパスを作成するための開心術が必要と判断された。Turnerさんの現在の主治医であるAnne-Marie Feyrer-Melkさんは、「閉塞が99%の場合、猶予はほとんどない。もしプラークが破裂したら、その先はほんの一瞬のことだ」と解説する。Turnerさんはセカンドオピニオンを求めようとしたが、医師は「その時間はない」と彼女に答えた。彼女は涙をこらえきれなくなった。それはコロナパンデミック中に起きたことであり、病院の訪問規制のために誰も相談できる人はなく、彼女は1人で決断しなければならなかった。 手術はうまくいった。6日後に自宅退院し、それからは心臓リハビリテーションに励み、近所の散歩や階段の昇降もした。「私の場合、回復は順調だった」と彼女は語る。Feyrer-Melkさんによると、Turnerさんの若い時からの運動療法の継続が、彼女の迅速な回復に役立ったという。そして、「彼女がもし成人後の45年間、ジムなどで運動をしていなかったとしたら、恐らく数十年前にバイパス術が必要な状態になっていただろう」と解説する。 約1年後、彼女はカリフォルニアからアリゾナに引っ越し、新しい心臓専門医を予約した。そこで受けた検査の結果、バイパスの狭窄を指摘された。バイパス手術では、体の別の部分から採取した血管を使って血行を再建するが、その血管もまた狭くなってしまうことがある。「死にたいと思ったのは、それが初めてのことだった」とTurnerさんは振り返る。しかし医師は楽観的で、それほど深刻な問題ではないと伝えた。結局、再度バイパス手術を行うのではなく、ステントを留置することでこの問題をクリアできた。 完全な健康状態に戻ったTurnerさんは、自分に起こった問題の原因を探した。心臓病の濃厚な家族歴があったにもかかわらず、症状発現から正しい診断を受けるまでに、とても長い時間がかかったことが腹立たしく感じた。彼女は今、自分の経験からほかの人に学んでもらいたいと思っている。「あなたの症状を無視しないでほしい。心臓に何か問題があると感じた時は、心臓専門医に診てもらうことが重要だ。それがあなたの命を救うことになる」と語る。 心臓病を経験したことでTurnerさんは一時期、以前のように人生をコントロールできるという感覚を失っていた。不安に苛まれたり、緊張して動悸を感じたり、感情的になりやすくなった。しかし、仕事量を減らし、広大な風景に囲まれた家を売却して手ごろなコンドミニアムに転居したことで状況が変わった。「現在の私はこの新居に夢中だ。心臓病を経験したことは、今を自由に生きる術を私に与えてくれたと感じている」。[2023年4月20日/American Heart Association] Copyright is owned or held by the American Heart Association, Inc., and all rights are reserved. If you have questions or comments about this story, please email editor@heart.org.

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白内障手術の有効性・安全性、両眼同時vs.片目ずつ/Lancet

 高齢者の白内障手術において、両眼同時手術(immediate sequential bilateral cataract surgery:ISBCS)は片眼ずつを別の日に行う従来の待機的手術(delayed sequential bilateral cataract surgery:DSBCS)との比較において、有効性は非劣性、安全性は同等であり、費用対効果は優れることが、オランダ・マーストリヒト大学医療センターのLindsay Spekreijse氏らによる多施設共同無作為化非盲検非劣性試験「bilateral cataract surgery in the Netherlands study:BICAT-NL試験」の結果で示された。著者は、「厳格な適格基準を適用すれば、国家のコストは年間2,740万ユーロ(3,450万米ドル)削減できる可能性があり、ISBCSが支持される」とまとめている。高齢化が進む中、将来、白内障治療を確実に受けられるようにするためには、効率性の改善が必要とされていた。Lancet誌オンライン版2023年5月15日号掲載の報告。ISBCSとDSBCSに無作為化、有効性・安全性・費用対効果を検討 研究グループは、オランダの10病院において、単純な両眼の乳化吸引白内障手術が予想され、眼内炎または術後の眼内レンズ度数ずれ(refractive surprise)のリスクが高くない18歳以上の患者を対象に試験を行った。施設および眼軸長で層別化したウェブシステムを用いて、ISBCS群またはDSBCS群のいずれかに1対1の割合で患者を無作為に割り付け、ISBCS群では両眼の手術を同日に、DSBCS群では片眼手術の2週間後にもう片眼の手術を行った。 主要アウトカムは、術後4週時の目標屈折率が1.0ジオプトリー(D)以下の第2眼(2番目に手術した眼)の割合とし、ISBCS vs.DSBCSの非劣性マージンは-5%とした。また、試験に基づく経済評価では、質調整生存年(QALY)当たりの増分社会的費用を主要エンドポイントとした。すべての解析は、修正intention-to-treat(ITT)解析にて行った。費用は、資源使用量と単価を乗じて計算し、2020年のユーロおよび米ドルに換算した。有効性は非劣性、安全性は同等、費用対効果は優れる 2018年9月4日~2020年7月10日の期間に、計865例がISBCS群(427例[49%]、854眼)およびDSBCS群(438例[51%]、876眼)に無作為に割り付けられた。 修正ITT解析において、目標屈折率が1.0 D以下の第2眼の割合は、ISBCS群97%(404/417例)、DSBCS群98%(407/417例)であった。群間差は-1%(90%信頼区間[CI]:-3~1、p=0.526)で、DSBCS群に対するISBCS群の非劣性が示された。 眼内炎は、いずれの群においても認められなかった。有害事象は、不同視を除き両群で同等であった。DSBCS群で第1眼と第2眼の手術の間に不同視が生じたと報告した患者が有意に多かった(13例vs.0例)。 社会的費用は、DSBCS群と比較してISBCS群で403ユーロ(507米ドル)低く、DSBCSに対するISBCSの費用対効果の確率が100%である支払意思額(willingness to pay)の範囲は、2,500~8万ユーロ/QALY(3,145~10万629米ドル/QALY)であった。

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高齢化の進む米国、在宅介護利用者の増加に介護士の数が追いつかず

 高齢化が進む米国では過去10年間、老人ホームよりも自宅で介護士の手を借りながら日常生活動作をこなすこと(Home and Community-Based Services;HCBS、自宅およびコミュニティーに根差したサービス)を好む人が増加している。しかし、そのようなHCBSのニーズが大きな高まりを見せる一方で、それに対応できる介護士の増加の幅はわずかであることが、新たな調査から明らかになった。米ペンシルベニア大学Leonard Davis Institute of Health EconomicsのAmanda Kreider氏とRachel Werner氏らによるこの調査結果は、「Health Affairs」に4月19日掲載された。 Kreider氏は、「自宅で長期介護を受けたいと考える人の数が経時的に増加していることは分かっている。この一因は米国の人口の高齢化にある。その上、介護施設ではなく自宅で長期介護を受ける高齢者や障害者も実際に増えている」と話す。同氏によると、この変化は主に、長期介護保険の担い手であるメディケイドが徐々にHCBSを低料金または無料でカバーするようになってきたことに起因するという。同氏は、「長期介護が必要な人は、できる限り自宅で生活することを望む傾向があることから、理論上はこのシフトは好ましい傾向だ」と述べる。 このような現状を踏まえた上で、Kreider氏とWerner氏は、現在利用可能な訪問介護士の供給が目下の需要を満たすのかどうかを、2種類のデータを用いて調べた。データの一つは、米国国勢調査局が毎年実施する「米国コミュニティー調査」の2008年から2020年のデータである。この調査では、米国の350万世帯の特性に関する情報が集められ、在宅で仕事をしていた医療従事者の数が推計されている。もう一つは、非営利的な医療政策団体であるカイザー・ファミリー財団(KFF)が収集した調査データで、1999年から2020年にかけて、各州で在宅ケアを求めるメディケイド加入者の数が追跡されていた。 データを分析した結果、在宅介護業界の労働力は、2008年の約84万人から2013年の122万人へと増加し、2013年以降は増加のペースが鈍化したものの、2019年には142万人に達したことが明らかになった。これに対して、HCBSを求めるメディケイド受給者の数は2008年から2020年にかけて継続的な増加を示し、特に2013年から2020年にかけてはその増加のペースが加速していたことが判明した。その結果、2013年から2019年にかけて、HCBSを利用する患者100人当たりの訪問介護士の数は11.6%減少したと推定された。 Kreider氏は、「2020年以降に需要と供給の間の差がさらに拡大している可能性は大いにあるが、われわれは、この点に関しては、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの影響を踏まえて慎重に解釈している」と述べている。 在宅介護業界の成長が鈍い理由についてKreider氏は、その負の側面に言及する。同氏は、「在宅介護の仕事は過酷であり、給料は安くて手当も少ない。介護士の多くは貧困状態にあり、半数以上がメディケイドやSNAP(補助的栄養支援プログラム)などの公的なサービスや支援に頼っている。介護業界は労働者を集めるのに苦心しており、より賃金の高いファストフード業界に労働者を奪われているとの逸話さえある。このような現状は、COVID-19によるバーンアウト(燃え尽き症候群)が原因で悪化している可能性もある」と話す。 こうした問題を解決するための現実的な方法は賃金の上昇だとKreider氏は指摘する。同氏によると、介護業界が、労働者の給料を上げられない理由としてよく挙げるのが、メディケイドの支払い率の低さだという。同氏は、「メディケイドは長期在宅介護の主要な保険者であるため、賃金を上げるためにはメディケイドの支払い率の上昇も必要になる可能性がある」との見方を示している。さらに同氏は、「介護業界では、訓練や成長、キャリアアップの機会、予測可能なスケジュール、介護業界の文化や人材紹介業者の改善も必要だ」と付け加えている。

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認知症の人に配偶者の死を伝えるべきか?

 認知症の人の配偶者が亡くなった場合に、その事実を伝えるべきだろうか。また、伝えた場合や伝えなかった場合に、どのような問題が発生し得るのだろうか。このような疑問について、国内のケアマネージャーを対象に行った調査の結果が、「European Journal of Investigation in Health, Psychology and Education」に2月8日掲載された。東京大学医学部医学倫理学分野・秩父市立病院の加藤寿氏らの研究によるもの。 認知症の人に対しても自律的な人間として接し、患者本人の知る権利に配慮する必要がある。一方で、配偶者の死という人生で最大級のつらい出来事を知らされることで、認知症に伴う行動・心理症状(BPSD)が悪化したり、うつリスクが増大したり、記憶力低下のために配偶者の死という情報の伝達が繰り返されるという状況も起こり得る。介護の現場では、こうした問題への対応は、しばしばケアマネージャー(CM)がキーパーソンとなって判断されている。そこで加藤氏らは、2019年3~12月に国内で開催された介護関連学会の会場で、CM対象の質問紙調査を行った。 質問紙は、3人の臨床医と24人のCMによるパイロット研究によって妥当性を確認した後に使用した。回答方法は自記式で匿名とした。707人に配布され、513人(72.6%)から回答を得られ、508人の回答を解析対象とした。75.8%が女性であり、7割以上が10年以上の経験を有していた。 CMの81.3%が、認知症の人の配偶者の死の経験を有していた。その中で、本人への配偶者の死の伝達(以下、情報開示)をした割合は、0~30%が28.1%、40~70%が30.5%、80~100%が34.9%であり、広い範囲に均等に分布していた。情報開示経験のある人の中で、BPSDの悪化に遭遇した経験のある割合は18.4%、うつ病悪化に遭遇した経験のある割合は26.0%だった。 次に、情報開示に関する考え方を問うと、「開示すべき」が39.6%、「開示した方が良い」が43.1%、「開示の必要はない」が14.4%、「開示しない方が良い」が1.2%となった。情報開示の際に考慮すべき事柄を複数回答で選択してもらうと、家族の意向(51.0%)、患者の知る権利(48.2%)、認知症のステージ(25.0%)、本人の性格(24.8%)、うつ病の有無(24.4%)、BPSDの有無(23.2%)、夫婦関係(20.1%)、家族構成(6.1%)、医療提供者の意見(5.3%)などとなった。また、家族が開示に否定的な場合の対応については、「家族の意向を尊重する」が38.6%、「開示のメリットとデメリットを伝えて再考を促す」が39.8%、「患者の知る権利を尊重して開示を提案・説得する」が15.4%だった。 続いて、認知症の人の配偶者の死の経験を有するCMを、情報を開示する頻度が高い(60%以上)群と低い(50%以下)群に二分した上で、属性や上記の質問への回答の傾向を検討。その結果、年齢や性別、CM経験年数に有意差はなく、また、配偶者の死の経験数、開示によるBPSDやうつ病の悪化に遭遇した経験を有する割合にも有意差が見られなかった。 ただし、情報開示の際に考慮すべき事柄として、「本人の性格」を挙げた割合は、開示頻度が高い群は21.7%であるのに対して、開示頻度が低い群は37.2%であり、後者で多く選択された(P=0.007)。同様に「BPSDの有無」を考慮する割合も17.1%、38.8%の順であり、開示頻度が低い群で高かった(P<0.001)。反対に「夫婦関係」を挙げた割合は、開示頻度が高い群が34.9%、開示頻度が低い群は19.8%であり、前者の群で高かった(P=0.007)。 著者らによると本研究は、認知症の人の配偶者の死の情報開示に関する初のCM対象調査だという。結論としては、「情報開示は家族の意向が反映されることが多いが、BPSDやうつ病悪化のリスクも考慮されているようだ。回答者の8割以上が開示に肯定的であるにもかかわらず、実際に開示する頻度はそこまで高くなかったことは、現場のジレンマを表しているのではないか」と総括されている。

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リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その7【「実践的」臨床研究入門】第32回

検索式で研究デザインを限定する その2前回は、「研究デザイン」を「ランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)」に限定するための検索式について説明しました。ただ、われわれのClinical Question(CQ)とResearch Question(RQ)(下記)の「研究デザイン」は「RCT」ではなく「観察研究」です。CQ:食事療法を遵守すると非ネフローゼ症候群の慢性腎臓病患者の腎予後は改善するのだろうかP(対象):非ネフローゼ症候群の慢性腎臓病(CKD)患者E(曝露要因):食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の遵守C(比較対照):食事療法(低たんぱく食 0.5g/kg標準体重/日)の非遵守O(アウトカム):1)末期腎不全(透析導入)、2)eGFR低下速度の変化そこで、今回からは「研究デザイン」を「観察研究」に限る方法について解説したいと思います。まずは、PubMedの「Filterサイドバー」(連載第31回参照)の"ARTICLE TYPE"で"Observational Study"のFilterを使用する方法を紹介しましょう。デフォルトでは"Observational Study"は"ARTICLE TYPE"のリストには挙げられていません。したがって、初めに「Filterサイドバー」の下側にある"Additional filters"をクリックし、"ARTICLE TYPE"のリストから"Observational Study"を追加で選択します。それでは、われわれのRQの検索式に、"Observational Study"のFilterを加えてみましょう。PubMed Advanced Search Builderを用いて、これまで改訂してきたP、Eそれぞれの構成要素のブロック(下記)の検索式をANDでつなぎます(連載第27回参照)。PのブロックKidney Disease[mh:noexp] OR “diabetic nephropathy”[tiab] OR Diabetic Nephropathies[mh] OR Renal Insufficiency[mh:noexp] OR Renal Insufficiency, Chronic[mh:noexp] OR "chronic kidney disease*"[tiab] OR "chronic renal disease*"[tiab] OR CKD[tiab] OR predialysis[tiab] OR pre-dialysis[tiab]EのブロックDiet, Protein-restricted[mh] OR "low-protein diet*"[tiab] OR "protein-restricted diet*"[tiab]まずPubMed Advanced Search Builderで #1 AND #2 のResultsでヒットした論文数をクリックします。そして、メイン画面左側の「Filterサイドバー」の"ARTICLE TYPE"から、先ほど追加した"Observational Study"のFilterを選択します。すると、検索結果は表のとおりとなります(本稿執筆2023年5月時点)。表画像を拡大する最終的にヒットした論文の文献情報を確認すると、当たり前ですが、すべての論文で"Observational Study"であるという情報がPublication typeとして与えられています。それゆえ、Publication typeの情報が付与されていない論文は検索から漏れてしまう恐れがあります。そこで、次回は「観察研究」をさらに網羅的に捕捉するための「観察研究フィルター」の検索式を紹介します。

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高サポートのスポーツブラ着用でランニングパフォーマンスが向上

 良質なスポーツブラの長所は、そのサポート力だけではないようだ。サポート力の高いスポーツブラを着用している女性ではランニングパフォーマンスも向上する可能性が、新たな研究で示唆された。米メンフィス大学ブレストバイオメカニクス研究センターのDouglas Powell氏らによる研究で、「Frontiers in Sports and Active Living」に4月21日掲載された。 Powell氏は、「この研究は、胸部のサポートと全身のバイオメカニクスに関する一連の研究調査の一つだ。われわれは、運動中の女性に生じる乳房の痛みを軽減するための方法を見つけたかった」と話している。 この研究では、趣味でランニングを行っている18〜35歳の女性13人を対象に、ランニング中の膝関節のスティフネス(硬さ)に対する胸部サポートの影響を調べた。対象者には、1)スポーツブラの着用なし、2)サポート力の低いスポーツブラを着用、3)サポート力の高いスポーツブラを着用、の3つの条件下でトレッドミルでのランニングを3分間行ってもらった。10台のカメラから成るモーションキャプチャシステムと床反力を測定できるトレッドミルで試験参加者の運動力学的特性や床反力を調べ、また、動作解析ソフトのVisual3Dにより各条件下での膝関節の可動域やモーメントなどを、さらにカスタムソフトウェアで立脚期の膝関節スティフネスや胸部の変位などを計算した。 膝関節スティフネスは力が加わったときの動きに対する膝の抵抗力を示す指標である。Powell氏らは過去の研究で、トレッドミルでのランニングでは、サポート力の高いスポーツブラの着用時にはサポート力の低いスポーツブラ着用時と比べて、ケイデンス(1分当たりの足の回転数)や歩幅、接地数は同じでも、酸素消費量が7%程度減り、ランニングエコノミーが改善することを報告している。 実験の結果、胸部のサポートレベルが高くなると、関節可動域が狭まり、膝関節スティフネスが高くなることが明らかになった。対照条件(サポートなし)と比較して、低サポートは関節スティフネスの2%の増加、高サポートは5%の増加と関連していた。こうした結果と、Powell氏らの以前の研究結果を総合して、研究グループは、サポート力の高いスポーツブラの装着により、女性のランニングパフォーマンスは7%向上し得ると見ている。 Powell氏は、「今回の研究結果は、ランニング時の胸部のサポートは胸の動きだけでなく、体全体に影響を及ぼすことを示している。適切に胸をサポートせずにランニングを行うことは、パフォーマンスの低下やけがのリスクの増加、さらには背中や胸の痛みなどの慢性的な痛みの発生につながる可能性がある」とジャーナルのニュースリリースで述べている。 Powell氏は、「今回の研究結果と過去の研究結果を合わせて考えると、スポーツブラは単なるアパレルとしてだけでなく、パフォーマンスの向上とけがのリスクの低減を両立できるスポーツ用品として、女性の健康に一役買っていると考えるべきだ」と述べている。

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絵を用いた簡単なテストで認知症リスクをスクリーニング可能

 簡単なテストの結果を基にかすかな認知障害を検出するSOMI(Stages of Objective Memory Impairment、客観的記憶障害のステージ)システムにより、記憶障害や思考障害の兆候が現れる何年も前に、高齢者の認知症リスクをスクリーニングできるという研究結果が報告された。米アルベルト・アインシュタイン医学校神経学部のEllen Grober氏らによるこの研究結果は、「Neurology」に4月19日掲載された。 SOMIでは、認知症の症状がない患者に絵を見せた後に、必要であればヒントをもらいながら見たものを思い出す、自由および手掛かりによる選択的想起検査テスト(Free and Cued Selective Reminding Test;FCSRT)の結果に基づき、患者をステージ0(現時点で記憶に問題がなく将来的な認知症リスクも低い)からステージ4(記憶の信頼性が最も低く、将来の認知症リスクが最も高い)までの5段階に分類する。 今回の研究では、認知機能が正常な969人(平均年齢69.35±9.75歳、女性59.6%)にFCSRTを行い、その結果に基づきSOMIステージに分類した〔ステージ0:452人(46.6%)、ステージ1:342人(35.3%)、ステージ2:128人(13.2%)、ステージ3/4:47人(4.9%)〕。このうちの555人では、試験開始から2年以内に脳脊髄液の採取と脳の構造的MRI画像が撮影され、うち144人にはアミロイドの蓄積が確認されていた。対象者は最長10年間追跡された(平均追跡期間は6.36±3.17年)。 性別、年齢、遺伝的要因など、認知症リスクに関与する多くの因子を考慮して解析した結果、認知症を発症するリスクはSOMIステージ0の人に比べて、ステージ2の人で約2倍(ハザード比2.07、95%信頼区間1.32〜3.01)、ステージ3/4の人で約3倍(同3.11、1.94〜4.97)であることが明らかになった。研究グループは、ステージ3/4の人の72%、ステージ2の人の57%、ステージ1の人の35%、ステージ0の人の21%が、10年後に認知障害に悩まされることになると見積もっている。 こうした結果を受けてGrober氏は、「SOMIシステムには、現時点では認知機能が正常ではあるが、臨床的に認知症へ進行するリスクが高い人を特定する力があると自信を持って言える」と述べている。 Grober氏は、この種の検査はいくつかの点で有用であると説明する。その一つとして、認知症リスクが早期に発見されたのなら、「そのリスクを軽減するためにできることが、過去10年間の脳の健康的な老化に関する研究によって明らかにされている」と述べる。また、「長期的な認知症リスクを正確に予測するツールは、認知機能低下の進行を遅らせたり予防したりするための新しい治療法の開発を目標に現在行われている研究活動の“補助”となる可能性もある」と付け加えている。 本研究の共同出資者の一人であり、アルツハイマー病協会のグローバルサイエンスイニシアチブディレクターを務めているChristopher Weber氏は、SOMIが他の検査と異なる点として、「アルツハイマー病のごく初期にしばしば見られるかすかな記憶障害を検出できる点」であると指摘。「このような早期発見は、個人と医療提供者が症状を管理し、今後の計画を立て、薬物による介入やライフスタイルへの介入により認知機能低下の進行を遅らせるのに役立つ」と強調している。 ただしWeber氏は、本研究が主に白人と高学歴の人を対象にしたものであり、より多様な患者集団に一般化できる結果ではない点にも注意を促している。同氏はまた、「認知症の発症を確実に予測できる単一の検査は存在しない。正確な診断を得るには、記憶力の検査だけでなく、神経学的検査や画像検査を含む包括的な評価が必要だ」と述べている。

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誤嚥性肺炎予防に黒こしょうが効く?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第234回

誤嚥性肺炎予防に黒こしょうが効く?Unsplashより使用咳嗽を誘発するものは、誤嚥性肺炎に対して予防的に働くことが知られています。ACE阻害薬は、副作用の咳嗽が誤嚥性肺炎を予防する効果があるとされています。さて今回紹介する論文で検証されたのは、黒こしょうです。黒こしょうは咽頭へのサブスタンスPの放出を増加させることによって、嚥下反射を改善して誤嚥を予防することが示されています。山口 学ほか.療養型病棟における黒胡椒を用いた誤嚥性肺炎予防.日本気管食道科学会会報. 2018;69(1):13-16.この研究では、療養型病床群に入院している患者32例を2群に分け、60日ごとに黒こしょうを使用する群と非使用群にクロスオーバーして黒こしょうを使用し、誤嚥性肺炎の発生率を調べました。研究期間中に37.5℃以上の発熱があった症例は28例で、2日以上の発熱と誤嚥性肺炎があり、抗菌薬を使用した症例は11例でした。黒こしょうを使用した群は、発熱例11例、抗菌薬使用例は2例であり、有意に抗菌薬の使用頻度および治療日数を抑制することが示されました。これと同じメカニズムで、黒こしょうオイルを吸入してもらうことで、脳卒中後遺症の105例に嚥下反射の改善がみられたという報告があります1)。なんかクシャミ出そうなので、個人的には、あまり黒こしょうは吸いたくない気もしますが…。1)Ebihara T, et al. A randomized trial of olfactory stimulation using black pepper oil in older people with swallowing dysfunction. J Am Geriatr Soc. 2006 Sep;54(9):1401-1406.

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リアルワールドにおけるフレマネズマブの長期有用性~FRIEND2試験

 イタリア・IRCCS San Raffaele RomaのPiero Barbanti氏らは、高頻度の反復性片頭痛(HFEM:1ヵ月当たりの片頭痛日数8日以上)または慢性片頭痛(CM:1ヵ月当たりの頭痛日数15日以上)患者を対象に、フレマネズマブの長期(24週間)有効性、安全性、忍容性の評価を実施した。その結果、フレマネズマブは、過去に複数の片頭痛の予防的治療に奏効しなかったHFEMおよびCM患者に対し早期かつ持続的な有効性を示し、安全性および忍容性プロファイルも良好であることが確認された。The Journal of Headache and Pain誌2023年3月23日号の報告。 対象は、過去に複数の片頭痛の予防的治療に奏効せず、フレマネズマブ皮下投与(1ヵ月ごとに225mg/3ヵ月ごとに675mg)を24週間以上実施したHFEMまたはCM患者。28の頭痛センター施設で連続登録方式により対象患者を募集し、プロスペクティブコホート・リアルライフ研究を実施した。HFEMおよびCM患者における主要評価項目は、それぞれベースライン時と比較した21~24週目における1ヵ月当たりの片頭痛日数(MMD)および1ヵ月当たりの頭痛日数(MHD)とした。副次的評価項目は、ベースライン時と比較した21~24週目における1ヵ月当たりの鎮痛薬使用の変化、治療反応率(50%以上、75%以上、100%)、NRS(Numerical Rating Scale)、HIT-6(Headache Impact Test-6)、MIDAS(片頭痛評価尺度)スコアの変化とした。すべての評価項目は、4週目にもモニタリングを行った。 主な結果は以下のとおり。・フレマネズマブを1回以上使用した患者410例を安全性分析対象に含め、24週間以上治療を継続した患者148例を有効性分析対象に含めた。・フレマネズマブ使用後21~24週目では、ベースライン時と比較し、HFEMおよびCM患者のいずれにおいても、MMD、MHD、1ヵ月当たりの鎮痛薬使用の変化、NRS、HIT-6、MIDASスコアの有意な減少が確認された(p<0.001)。・21~24週目における治療反応率は、以下のとおりであった。【HFEM】50%以上:75.0%、75%以上:30.8%、100%:9.6%【CM】50%以上:72.9%、75%以上:44.8%、100%:1.0%・HFEMおよびCM患者のいずれにおいても、4週目からMMD、MHD、1ヵ月当たりの鎮痛薬使用の変化、NRS、HIT-6、MIDASスコアの有意な減少が認められた(p<0.001)。・4週目における治療反応率は、以下のとおりであった。【HFEM】50%以上:67.6%、75%以上:32.4%、100%:11.8%【CM】50%以上:67.3%、75%以上:40.0%、100%:1.8%・CM患者では、反復性片頭痛(24週目:83.3%、4週目:80.0%)および薬物乱用から非薬物乱用(24週目:75%、4週目:72.4%)への寛解が認められた。・有害事象の発現率は2.4%と稀であり、軽度および一過性であった。・すべての理由における投与中止例は、認められなかった。

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新型コロナとがん併発、死亡リスクに性差はあるか

 がん患者と非がん患者のCOVID-19による死亡リスクを比較した研究はあるが、そこに性差はあるのか。米国・南カリフォルニア大学・産婦人科腫瘍部門の松尾 高司氏らによる大規模コホート研究の結果が、JAMA Oncology誌オンライン版2023年4月27日号に掲載された。 研究者らは48州およびコロンビア特別区の参加病院によるHealthcare Cost and Utilization ProjectのNational Inpatient Sample(米国人口の95%以上の退院データをカバー)を用い、2020年4月~12月にCOVID-19感染の診断を受けて入院した患者を、世界保健機関(WHO)の分類コードによって特定した。データ解析は2022年11月~2023年1月にかけて行い、人口特性、併存疾患、および病院パラメータで層別化したうえで性別、がん種別にCOVID-19院内症例の死亡率を評価した。 主な結果は以下のとおり。・2020年4月1日~12月31日にCOVID-19の入院患者は162万2,755例であった。全体のCOVID-19院内症例の死亡率は12.9%、死亡までの期間中央値は5日(四分位範囲[IQR]:2~11日)であった。・162万2,755例のうち、7万6,655例(4.7%)が悪性新生物と診断された。多変量解析後、性別(男性対女性:14.5%対11.2%、調整オッズ比[aOR]:1.28、95%信頼区間[CI]:1.27~1.30)、悪性新生物診断(17.9%対12.7%)はともに死亡リスク上昇と関連していた。・女性患者群で死亡リスクが2倍以上となったがん種は、肛門がん(23.8%、aOR:2.94、95%CI:1.84~4.69)、ホジキンリンパ腫(19.5%、aOR:2.79、95%CI:1.90~4.08)、非ホジキンリンパ腫(22.4%、aOR:2.23、95%CI:2.02~2.47)、肺がん(24.3%、aOR:2.21、95%CI:2.03~2.39)、卵巣がん(19.4%、aOR:2.15、95% CI:1.79~2.59)の5つだった。これらに続き、膵がん、骨髄性白血病、多発性骨髄腫、肝がんの4つで死亡リスクが1.5倍以上となった。・男性患者群で死亡リスクが2倍以上となったがん種は、カポジ肉腫(33.3%、aOR:2.08、95%CI:1.18~3.66)と小腸の悪性新生物(28.6%、aOR:2.04、95%CI:1.18~3.53)の2つだった。これらに続き、大腸がん、肺がん、食道がん、骨髄性白血病、膵がんの5つで死亡リスクが1.5倍以上となった。 著者らは「本コホート研究の結果、米国における2020年のパンデミック初期において、COVID-19院内症例の死亡率が高かったことが確認された。死亡リスクは女性よりも男性のほうが高かったが、がん併発による死亡リスクとの関連は女性のほうが強く、併発によって死亡リスクが2倍以上になるがん種が多かった」としている。

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ユニバーサルインフルエンザワクチンの開発に向けて一歩前進

 あらゆるインフルエンザウイルスに有効な「ユニバーサルインフルエンザワクチン」の開発に向けて、研究が前進している。ユニバーサルインフルエンザワクチンは、将来のインフルエンザのパンデミックと戦う武器になる可能性を秘めている。米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)ワクチン研究センターのSarah Andrews氏らは、第1相臨床試験において、実験段階にあるインフルエンザワクチンによってさまざまな種類のA型インフルエンザウイルス株に対して交差反応性を示す抗体が誘導されたことを確認。その詳細を、「Science Translational Medicine」4月19日号に発表した。 A型インフルエンザウイルスは、ウイルス表面のヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)と呼ばれるタンパク質の抗原性の違いを基に、いくつかの亜型に分類されている。一方、B型インフルエンザウイルスには亜型はないが、HAの抗原性の違いから2種類の系統に分けられている。現在使用されているインフルエンザワクチンは、A型ウイルスの2種類の亜型と、B型ウイルスの2系統のウイルスの計4種類に対して効果のあるワクチンだ。ワクチンには、弱毒化あるいは不活化されたインフルエンザウイルスのHAが複数種類含まれている。HAの構造は頭部とステム(茎)領域に分けられ、インフルエンザワクチンを接種したり、インフルエンザウイルスに感染したりすると、免疫システムがHAの頭部に対する抗体を作る。しかし、HAの頭部は抗原変異を起こしやすい。そのため、そのシーズンに主に流行すると予測される4種類のウイルス株を選び出し、それらを用いたワクチンをシーズンごとに製造する必要がある。 これに対してHAのステム領域は、さまざまなインフルエンザウイルス株の間で比較的安定的に保存されている。ただ、Andrews氏によると、人間の免疫反応はHAのステム領域には向かわず、頭部を標的にするようになっているという。そこで、同氏らはHA頭部の可変領域を切り落として免疫システムの攻撃が頭部に向かわないよう設計した蓋のようなものに付け替え、「免疫システムにはステム領域のみが見えるようにした」ワクチンを開発した。 ヒトを対象とした初の臨床試験において、Andrews氏らはこの頭部の欠落したHAを用いたワクチン(H1ssF)を52人の健康な成人に投与した。ワクチンは、20μgを1回(5人)、または60μgを2回(47人)の2パターンで投与され、60μgのワクチンを接種する群では35人(74%)が2回の接種を完了した。 その結果、ワクチンを接種した人の19%(10人)が注射部位の痛みまたは頭痛といった通常のインフルエンザワクチンでも生じる副作用を経験したのみであり、ワクチンは安全であると考えられた。免疫反応に関しては、A型インフルエンザウイルス株に対してワクチン接種により幅広い抗体反応が示され、接種から1年後もA型インフルエンザウイルス株に対する中和抗体が維持されていることが確認された。ただし、ワクチンはA型インフルエンザウイルス株のHAを用いたものであるため、B型インフルエンザウイルスに対する抗体反応は確認されなかったが、「これは予測されていた結果であった」とAndrews氏は説明している。 研究グループは、この段階の臨床試験で望み通りの成果が得られたという点では、希望の持てる結果であると話している。ただしAndrews氏は、実際にこのワクチンが人々をインフルエンザから守ることができるかどうかについては、現時点では不明だとしている。また、今後の研究が全て順調に進んだとしても、ワクチンの実用化には5~10年はかかると予測している。 米ワイル・コーネル大学医科大学院准教授で米国感染症学会(IDSA)のスポークスパーソンでもあるMirella Salvatore氏は、Andrews氏らのワクチンが今回、初期試験をクリアしたと指摘。「ユニバーサルインフルエンザワクチンは、シーズンごとに流行株を予測する必要性をなくすだけでなく、今後起こり得るインフルエンザのパンデミックから人々を守ることができる可能性を秘めている」と今後の展開に期待を寄せている。

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