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オキシトシンは本当に「愛情ホルモン」?

 「愛情ホルモン」と呼ばれるオキシトシンは、これまで考えられてきたほど社会的絆の形成に必要不可欠なものではない可能性のあることが、プレーリーハタネズミを用いた研究で示された。研究論文の上席著者である米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)ワイル神経科学研究所のDevanand Manoli氏は、「この研究結果は、オキシトシンが複雑な遺伝的プログラムの一つに過ぎないことを示すものだ」と述べている。この知見は、「Neuron」に1月27日掲載された。 プレーリーハタネズミは、一度つがいになると、その相手と生涯を共に過ごす数少ない哺乳類であるため、社会的絆を生物学的に研究するのに適している。1990年代に実施された研究では、プレーリーハタネズミにオキシトシン受容体の活性化を阻害する薬剤を投与すると、つがいを形成できないことが示されており、このことからオキシトシンは愛着の形成に必要不可欠なホルモンだと考えられるようになった。 今回の研究では、遺伝子編集技術を用いてオキシトシン受容体遺伝子が欠損したプレーリーハタネズミを作製し、その個体が他の個体との関係を維持できるかどうかを観察した。すると意外にも、遺伝子改変したハタネズミも正常な個体と同じようにつがいを形成できることが明らかになった。Manoli氏は、「パートナーと密接に過ごして他の異性を拒絶することや、父母で子育てすることなどのオキシトシンに依存すると思われていた主要な行動特性は、オキシトシン受容体がなくても全く損なわれることはないように見えた」と話している。 また、オキシトシンは出産時に陣痛を起こして分娩を促進し、出産後には乳汁の分泌を促す働きを持つと考えられている。しかし、本研究では、遺伝子改変された雌のプレーリーハタネズミでも出産と授乳が可能であることが示され、半数の雌は、離乳まで子を育て上げることができた。研究論文の共著者の1人である米スタンフォード・メディシンのNirao Shah氏は、「オキシトシンと出産および授乳との関連性は、つがい形成との関連性よりもはるか以前から唱えられてきたが、今回の研究結果はこの通念を覆すものだ。医学の教科書には、オキシトシンが射乳反射に介在すると書かれているのが通常だが、それだけではないようだ」と述べている。 人間の間に絆が生まれる機序は、社会的愛着の形成を妨げる、自閉症や統合失調症などの精神疾患の治療において鍵になると考えられてきた。オキシトシンを用いた精神疾患の治療に関する臨床試験に期待が寄せられているが、現状では、一貫した結果は得られていない。 動物実験の結果がそのままヒトにも当てはまるわけではないが、今回の結果は、オキシトシンのような単一の因子が社会的愛着の全体を担っていると単純に考えることはできないことを強く示唆している。Manoli氏は、「つがいの形成、出産、授乳などの行動は生存に極めて重要であるため、それを可能にする経路は複数存在する可能性が高い。オキシトシン受容体によるシグナリングはその一つと考えられるが、必ずしも不可欠なものではないようだ」と述べている。

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ハチミツでなくとも甘くてトロリとしたものなら鎮咳効果がある?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第229回

ハチミツでなくとも甘くてトロリとしたものなら鎮咳効果がある?Pixabayより使用ハチミツって咳をおさめる効果があるとされる唯一の食材なのですが、実はかなり議論の余地があります。私はハチミツの味が苦手なので使いませんが、子供の咳に対して有効とする報告はこれまでいくつもあります。たとえば、就寝前に「スプーン1杯(2.5mL)のハチミツを取るグループ」、「咳止めを飲むグループ」、「何もせず様子をみるグループ」のいずれかにランダムに割り付けた研究では、ハチミツを与えられた患児で、有意に咳が減少することが示されました1)。コクランレビューでも2018年の時点では、急性の咳に対するハチミツは、何もしないよりは咳止めの効果があり、「既存の咳止めと大差がないほど効果的だ」という結論になっています2)。Nishimura T, et al.Multicentre, randomised study found that honey had no pharmacological effect on nocturnal coughs and sleep quality at 1-5 years of age.Acta Paediatr. 2022 Nov;111(11):2157-2164.これは上気道炎による急性咳嗽を呈した1~5歳児を対象としたランダム化二重盲検プラセボ対照試験です。日本国内の複数の小児科クリニックから患児を登録しました。参加者には、ハチミツまたはハチミツ風味のシロップ(プラセボ)を2晩連続で、眠前1時間のタイミングで摂取してもらいました。夜間咳嗽と睡眠について、7段階のリッカート尺度で評価しました。161人が登録され、78人がハチミツ群、83人がプラセボ群にランダム化されました。この分野ではかなり多い登録数だと思います。結果、確かに夜間の咳嗽の改善はみられたのですが、ハチミツ群とプラセボ群の有意差が観察されなかったのです。つまり、ハチミツによる有効性はプラセボ効果をみているのか、あるいはシロップのような甘いものであれば鎮咳効果があるのか、どちらかの可能性が高そうです。過去の研究が正しいとするなら、後者のほうが妥当な解釈かなと思います。となると、甘くてトロリとしたものであれば、ハチミツでなくてもよいのかもしれませんね。1)Paul IM, et al. Effect of honey, dextromethorphan, and no treatment on nocturnal cough and sleep quality for coughing children and their parents. Arch Pediatr Adolesc Med. 2007 Dec;161(12):1140-1146.2)Oduwole O, et al. Honey for acute cough in children. Cochrane Database Syst Rev. 2018 Apr 10;4(4):CD007094.

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日本人・小中高校生の頭痛有病率~糸魚川紅ズワイガニ研究

 新潟・糸魚川総合病院の勝木 将人氏らは、小児および青年期の頭痛、片頭痛、薬物乱用頭痛の有病率を調査するため、小学校から高校までの日本人学生を対象に、学校ベースのオンラインアンケートを実施した。また、片頭痛を引き起こすトリガーについて調査するとともに、頭痛頻度に対するCOVID-19パンデミックの影響も併せて検討を行った。その結果、小児および青年期において、頭痛による生活への支障は大きいことが明らかとなった。結果を踏まえ著者らは、頭痛の臨床診療におけるアンメットニーズを修正する必要があるとしている。Clinical Neurology and Neurosurgery誌オンライン版2023年1月20日号の報告。 2022年4月~8月に、新潟県糸魚川市内の小中高の学生(6~17歳)に対しオンラインアンケートを実施した。片頭痛および薬物乱用頭痛の定義には、国際頭痛分類第3版を用いた。片頭痛を引き起こすトリガーを調査するため、因子分析およびクラスタリングを実施した。頭痛頻度へのCOVID-19パンデミックの影響についての回答も収集した。 主な結果は以下のとおり。・有効回答数2,489例のうち、頭痛は907例(36.44%)、片頭痛は236例(9.48%)、薬物乱用頭痛は11例(0.44%)で認められた。・頭痛の回答者の最大70%は日常生活への支障を訴え、約30%は医師に相談していた。・片頭痛のトリガーは、因子分析により5つの因子にグループ化され、因子に対する片頭痛患者の感受性は、3つのクラスターに分類された。 ●クラスター1は、さまざまなトリガーに対し強い感受性を示していた。 ●クラスター2は、天気、スマートフォン、ビデオゲームに対し敏感な反応がみられた。 ●クラスター3は、トリガーに対する感受性が低かった。・クラスター2は、片頭痛による支障が非常に大きいにもかかわらず、医師の診察を受けていない傾向が認められた。・COVID-19パンデミック下では、頭痛の回答者の10.25%で頭痛の発作が増加し、3.97%で減少していた。

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体外受精と自然妊娠、生まれた子供に違いや特徴は?

 体外受精(IVF)で授かった子供の学齢期の発達と教育の成果は、自然妊娠の子供と同等であることを、オーストラリア・メルボルン大学のAmber L. Kennedy氏らが明らかにした。著者らは、「この結果は、現在および将来の両親と臨床医に大きな安心感を与えるものである」とまとめている。PLOS Medicine誌2023年1月24日号の報告。 体外受精は生体外での一般的な受胎の方法であるが、生まれた子供への長期的な影響を理解することは重要である。研究者らは、体外受精による妊娠が小学校在学中の児童期の発達および教育の成果に及ぼす影響を、自然妊娠と比較し明らかにする目的で本研究を行った。体外受精と発達上の脆弱性の因果関係を評価 対象者は、自然妊娠または体外受精で妊娠した単胎児で、2005年から2014年の間にオーストラリアのビクトリア州で生まれた41万2,713人の児童である。4~6歳の発達上の脆弱性(developmental vulnerability)、7~9歳の教育の成果を2つのアウトカム指標で評価した。1つ目の4~6歳の発達上の脆弱性は、オーストラリア幼児発達人口調査(AEDC)を用いて評価し(17万3,200人)、身体の健康と幸福感、社会性、感情的成熟、言語と認知スキル、コミュニケーションスキルと一般知識の5つの発達領域のうち2つ以上で10パーセンタイル未満のスコアが認められた場合と定義した。2つ目の7~9歳の教育の成果は、National Assessment Program-Literacy and Numeracy(NAPLAN)のデータを用いて評価し(34万2,311人)、5領域(文法と句読法、読み、書き、スペル、計算能力)における総合zスコアで定義した。母集団の平均因果効果を推定するために、回帰調整を伴う逆確率加重を用いた。因果推論法を用いて、対象となる無作為化臨床試験を模した方法で観察データを分析した。州全体でリンクされた母親と子供の行政データも使用された。 体外受精による妊娠が小学校在学中の児童期の発達および教育の成果に及ぼす影響を、自然妊娠と比較した主な結果は以下のとおり。・AEDC指標において、自然妊娠の子供と比較して、4~6歳の発達上の脆弱性のリスクに対する体外受精の因果関係はなく、調整リスク差は-0.3%(95%信頼区間[CI]:-3.7%~3.1%)、調整リスク比は0.97(95%CI:0.77~1.25)であった。・7~9歳の時点で、NAPLANの総合zスコアに体外受精の因果関係はなく、体外受精による妊娠で生まれた子供と自然妊娠で生まれた子供の調整平均差は0.030(95%CI:-0.018~0.077)であった。

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第34回 経鼻インフルワクチン使いますか?

フルミストが承認へ厚生労働省の薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会は2月27日、第一三共の経鼻弱毒生インフルエンザワクチン「フルミスト点鼻液(以下フルミスト)」の承認を了承しました。3月に承認される見通しです。フルミストは、鼻に噴霧するインフルエンザワクチンです。「これまでにない剤型でナウい!」と思われるかもしれませんが、2003年にアメリカで承認されており、日本は20年遅れの承認となっています。2016年あたりに承認に向けた話し合いが進められたのですが、事務的な手続きやら何やらで、いろいろと後ずれしてしまったそうです。フルミストは、2013/14シーズン以降ワクチン効果の低下を指摘されており、米国疾病予防管理センター(CDC)でも一時推奨リストから取り下げられていました。そのため、現在も「いまいちかも…」と思っている医師は多いかもしれません。A型インフルエンザ(H1N1)の流行時に、小児で有効性が検証されています1)。この研究では、不活化ワクチンに非劣性という結果が得られています。具体的には、調整済みの有効性(VE)が、H1N1に対してフルミスト69%(95%信頼区間[CI]:56~78%)、不活化ワクチン79%(95%CI:70~86%)、H3N2に対してそれぞれ36%(95%CI:14~53%)、43%(95%CI:22~59%)、B型インフルエンザに対してそれぞれ74%(95%CI:62~82%)、56%(95%CI:41~66%)という結果でした。現在CDCはフルミストをインフルエンザワクチンの選択肢の1つとして位置づけています2)。CDCの推奨と接種対象国際的には2~49歳へ接種が可能ですが、日本国内はおそらく2~19歳未満に限定されることになります。ほぼ子供のワクチンと言えるでしょう。2歳未満で喘鳴が増えた経緯があり、接種対象外となっています。上述しましたが、CDCはインフルエンザワクチン全般について、不活化ワクチンとそれ以外のどちらがよいか、断言していません3)。ただ、フルミストについては接種対象が限定されており、それには注意すべきと書いています。生ワクチンなので、喘息発作の既往が1年以内にある人、免疫不全者、妊婦では接種を回避する必要があります。また、自宅に免疫不全者がいる場合も避けるべきとされています。なお、卵アレルギーについてはそこまで懸念しなくてよいとされています2)。CDCの推奨は「卵アレルギーの既往歴があり、蕁麻疹のみを経験したことがある人は、インフルエンザワクチンの接種は可能。蕁麻疹以外の症状(血管浮腫、呼吸困難、ふらつき、再発性嘔吐など)があったり、アドレナリン(エピネフリン)投与を要したりした人についても、年齢や健康状態に応じたワクチン接種を受けることが可能」となっています。インフルエンザワクチンと卵アレルギーの関係については、堀向 健太先生がYahoo!のニュース記事に詳しくまとめられているので、そちらを参考にするとよいでしょう3)。フルミストは弱毒生ワクチンなので、接種後、鼻汁や咳などの症状が出ることがあります。とはいえ、低温馴化された弱毒化されたものを使っていますので、基本的にはそこまで問題にならないでしょう。おそらく国内では、来シーズンから経鼻インフルワクチンが使われることになると予想されます。参考文献・参考サイト1)Buchan SA, et al. Effectiveness of Live Attenuated vs Inactivated Influenza Vaccines in Children During the 2012-2013 Through 2015-2016 Influenza Seasons in Alberta, Canada: A Canadian Immunization Research Network (CIRN) Study. JAMA Pediatr. 2018;172:e181514.2)Grohskopf LA, et al. Prevention and Control of Seasonal Influenza with Vaccines: Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices - United States, 2022-23 Influenza Season. MMWR Recomm Rep. 2022;71:1-28.3)インフルエンザワクチン製造時に鶏卵を使用 卵アレルギーの子どもは予防接種できる?

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HFpEF診療はどうすれば…?(前編)【心不全診療Up to Date】第6回

第6回 HFpEF診療はどうすれば…?(前編)Key Points原因不明の息切れ、実はHFpEFかもしれないですよ!BNP値が上昇していないのにHFpEF?HFpEFの病態生理、今どこまでわかっている? 最新の情報をUpDateはじめに今回は、発症率、有病率ともに上昇の一途をたどっている左室駆出率の保たれた心不全HFpEF (Heart Failure with preserved Ejection Fraction)を取り上げる1,2)。 近年のHFpEFの病態生理の理解、診断アプローチ、効果的な新しい治療法の進歩にもかかわらず、日常診療においてHFpEFはまだ十分に認識されていないのが現状である。『原因不明の息切れ、それはHFpEFかも』をキャッチフレーズに、まずはぜひ疑っていただきたい。そのために、本稿では、HFpEFの病態生理、診断、治療に関する最新情報を皆さまと共有したい。HFpEFの“いまどき”の定義HFpEFとは、呼吸苦や倦怠感、浮腫などの心不全徴候を認め、左室駆出率(EF, Ejection Fraction)が50%以上で、安静時もしくは労作時のうっ血(左房圧上昇)を示唆する客観的証拠※を認めるものと定義される(※:Na利尿ペプチド[NP, Natriuretic Peptide]値上昇、左房機能障害・左房拡大、安静時/労作時の肺動脈楔入圧[PAWP, Pulmonary Artery Wedge Pressure]上昇など)3-5)。つまり、BNP/NT-proBNP値正常範囲内であっても、労作時息切れがあり、何らかのうっ血を示唆する所見があれば、それはHFpEFの早期段階をみている可能性があるということである6)。とくにHFpEFでは、労作時にのみ左房圧が上昇し、肺うっ血を来すという症例が約30%と決してまれではなく、“NP値が正常範囲内のHFpEF”があるということをぜひご理解いただきたい7)。しかも、この“NP値正常のHFpEF”群(息切れあり)は、非HFpEF群(息切れの原因がHFpEFではない集団)と比較して、死亡または心不全入院のリスクが約2.7倍高かったという報告もあり、この表現型(フェノタイプ)の重要性が最近とくに注目されている8)。つまり、『息切れを主訴に来院された患者、実はその原因がHFpEFかも』と考えていただき、必要あれば循環器専門施設へご紹介いただくことが、HFpEFを早期の段階(心不全Stage C早期)で診断することにつながり、その患者の予後やQOLを改善するうえでも大切といえるわけである。では、なぜそのようなことが起きるのか。キーワードは“予備能低下”である。HFpEFの病態生理、今どこまでわかっている?HFpEFを一言で説明すると、心臓だけではない多臓器の予備能が低下したヘテロな全身性の症候群といえよう9)。そして、HFpEFすべてに共通しているのは、“まずは労作時に左房圧が上昇し、その後病期が進行すると安静時まで左房圧が上昇してしまう”ということである(これ重要!)。では、それを引き起こす機序はどこまでわかっているのか、少し歴史を紐解きつつ解説していきたい。遡ること約35年前、HFpEFの初期の記述の1つとして、Topolらが高齢者の高血圧性肥大型心筋症についてNEJMへ報告したが10)、これはMモード、ドップラー心エコー図検査が急速に普及し、広く使われるようになっていた当時、拡張機能障害の概念にうまく合致するものであった。つまり、左室腔が小さく、左室壁が肥厚し、左室拡張末期圧容積関係が上方および左方にシフトし、拡張機能障害と左室充満圧の上昇を来すというものであった11)。2000年代初頭、拡張期心不全の古典的な説明が多くの患者に当てはまらないことが明らかになった12,13)。多くの患者で左室腔の大きさは正常で、明らかな左室肥大を有しておらず、拡張機能障害以外の異常が次第に確認され始めた(図1)14-16)。このような経緯で、HFpEFという用語が生まれ、その定義と特徴をより明確にすることに焦点が当てられるようになったわけである。画像を拡大する時は2023年、HFpEFは拡張機能障害だけではなく、糖尿病、肥満、高血圧、心房細動、腎機能障害、冠動脈疾患、COPD、貧血、睡眠時無呼吸症候群といった併存疾患、そして加齢が複雑に絡み合って生じる全身性炎症、内皮機能障害、心筋エネルギー代謝や骨格筋の異常などによる左室収縮・拡張予備能低下、肺血管障害、末梢での酸素利用能低下、動脈スティフネス、心室-血管カップリング異常、自律神経機能障害によって引き起こされる症候群であるという認識に至った(図2)17-19)。なお、このHFpEFの病期進行がどのような時間経過で進展していくのか、まだ結論は出ていないが、図3のような仮説が提唱されている20)。もちろん順序などには個人差があり、まだ議論の余地はあるが、病態生理を理解するうえではわかりやすく、参考にされたい。画像を拡大する画像を拡大するこのように、多臓器にわたる予備能低下を特徴とするHFpEFであるが、まずは一番重要な心臓、そして肺における異常について考えていきたい。心臓における構造的・機能的異常は、病期が進行すれば、両心房両心室に及ぶとされている4)。HFpEFでは、左室弛緩障害、スティフネス増大などにより、持続的または断続的に左室充満圧が上昇しており、それが左房のリモデリング、機能障害(左房コンプライアンスの低下)を引き起こす9-12)。HFpEFでは心房細動の合併がしばしば認められるが、これは左房機能障害がより進んだHFpEFの指標と考えられる21-23)。また、心エコー図検査(スペックルトラッキング法)で評価する左房リザーバーストレインの低下によって診断される左房機能障害が、左室機能障害よりも予後の強い予測因子とされているし22)、左房ストレインの低下が、息切れの原因精査(HFpEFが原因かどうかの区別)に最も有用であったという報告もあり24-26)、HFpEFの病態生理を理解するうえで、左房の機能評価がかなり重要な役割を担っているといえる。なお、HFpEFの多くは、左室機能障害が左房機能障害に先行するが、左室機能障害よりも左房機能障害が全面に出る(左房圧上昇があるも左室機能は保持されている)サブタイプ(primary LA myopathy)も存在するので、この点からも左室だけをみていてはいけないといえる27)。そして、左房圧の持続的な上昇は、全肺血管(肺静脈、肺毛細血管、肺小動脈)に負担をかけ、肺高血圧(PH, Pulmonary Hypertension)、右室機能障害を来し、さらには右房にまで負荷が及ぶことになる28)。実際HFpEF患者の約80%にPHが合併しており、PHのないHFpEFと比べて予後は悪く、また右室機能障害も約30%に合併し、死亡率上昇に寄与することが報告されている29-31)。つまり、HFpEFをみれば、必ず“左房さん、肺血管さん、そして右心系さん、大丈夫?”と早めから気にかけてあげることがきわめて重要なのである32-35)。早めに誰も気が付けず、この肺血管への負担が持続すると、全肺血管のリモデリング、血管収縮が生じ始め、最終的には肺血管抵抗(PVR, Pulmonary Vascular Resistance)が上昇し、肺血管疾患(PVD, Pulmonary Vascular Disease)を引き起こすことになる36,37)。PVDを伴うことで、右室-肺動脈カップリングが損なわれ、肺動脈コンプライアンスは低下し、右心機能がさらに増悪し、軽労作でも容易に右室充満圧が上昇するようになる38)。それにより、心室中隔が左室側へ押され、左室充満圧も血流のわずかな増加で容易に上昇するようになり、さらに肺うっ血が増悪するという負のサイクルがより回るようになり、”Stage D” HFpEFへと移行してしまう39)。このように、決して甘く見てはいけないのが、PVDの合併である。そうならないための糸口として、最近の研究で、HFpEFにおけるPVD進行の初期段階でこの病態を捉える重要性が認識されるようになってきた。それは、労作時にのみPVRが上昇する“Latent PVD”という概念で、左房障害の時間経過と同じように、PVDも初期段階では労作時にのみPVRが上昇、病期が進行すると、安静時でもPVRが上昇するようになる。Latent PVDの段階であっても、PVDのない群と比較して予後は不良で40)、心房間シャントデバイスのような新たな治療法への反応もlatent PVDの有無で異なることもわかってきている(HFpEF最新治療の詳細は次回説明予定)41)。ここまでHFpEFにおける心臓、肺の病態生理について述べてきたが、HFpEFでの多臓器にわたる異常を理解するうえでもう一つ重要になってくるのが、肥満や代謝ストレスなどによって誘導される全身性の炎症、内皮機能障害である42-45)。これは、心臓、肺、肝臓、腎臓、骨格筋などに対して悪影響を及ぼすが、たとえば、心臓においてはこの影響で冠微小循環障害を来すとされており、HFpEFの約75%に冠微小循環障害が合併しているという報告もある46)。この炎症反応において重要な役割を担っているE-selectinやICAM-1などの細胞接着分子(炎症細胞の炎症組織への接着に関与)の心筋発現レベルが、HFpEF患者において上昇しているという報告もあり47)、ICAM-1などをターゲットとした薬剤が今後出てくるかもしれない。また、欧米諸国では、肥満が関連したHFpEFが大きな問題となっており、字数足りず詳細は省くが、肥満とHFpEFに関してもかなり多くの研究が行われており、ご興味ある方はぜひ参考文献をご確認いただきたい17,48-52)。 画像を拡大するそのほか、自律神経機能に関する異常(脈拍応答不全、圧受容器反射感受性低下、血液分布異常)もHFpEFでは一般的であり53)、これらに対する治療として、最近いくつかのデバイス治療に関する臨床試験が進行している。たとえば、脈拍応答不全(chronotropic incompetence)に対するペーシング治療や血液分布異常(impaired systemic venous capacitance)に着目した右大内臓神経アブレーション治療(unilateral greater splanchnic nerve ablation)がそれにあたり、私自身も現在この分野の研究に携わっており、今後出てくる結果に注目いただきたい。このように多臓器にわたるさまざまな病態が複雑に絡み合うHFpEFであるが、最近報告されたゲノムワイド関連解析(GWAS, Genome Wide Association Study)の結果で、HFrEFとHFpEFの遺伝的構造には大きな違いがあり、HFpEFのgenetic discoveryは非常に限られていることが報告された54)。このことからも、HFpEF患者それぞれにおいて、異なる病態がいくつか融合する形で存在している可能性が高い。しかしながら、「HFpEF患者それぞれにおいて、どの病態の異常が、どれくらいの割合で融合しているのか、そしてそれぞれの病態の異常がどの程度進行した状態となっているのか」という点についてはまだわかっておらず、これは今後の大きな課題の1つである。最近の研究で、臨床データ、画像・バイオマーカー・オミックスデータを人工知能/機械学習技術を用いて解析することで、より適切なサブフェノタイピングが確立できるかどうかが検討されているが、これが確立すれば、上記の問題に加え、HFpEF患者それぞれの根底にある遺伝的シグナルとその要因の解明も可能となるかもしれない。この“治療に結びつくより一歩進んだフェノタイピング戦略”の開発は私自身も米国で関わっているNHLBI HeartShare Studyの主な目的の1つでもあり55)、必ず明るいHFpEF診療の未来がやってくると信じてやまないし、自分もそれに貢献できるよう、努力を続けたい。そして、次回は、いよいよHFpEFの診断、そして治療について深堀りしてきたい。1)Dunlay SM, et al. Nat Rev Cardiol. 2017;14:591-602.2)Steinberg BA, et al. Circulation. 2012;126:65-75.3)Bozkurt B, et al. Eur J Heart Fail. 2021;23:352-380.4)Pfeffer MA, et al. Circ Res. 2019;124:1598-1617.5)Borlaug BA. Nat Rev Cardiol. 2020;17:559-573.6)Sorimachi H, et al. Circulation. 2022;146:500-502.7)Borlaug BA, et al. Circ Heart Fail. 2010;3:588-595.8)Verbrugge FH, et al. Eur Heart J. 2022;43:1941-1951.9)Shah SJ, et al. Circulation. 2016;134:73-90.10)Topol EJ, et al. N Engl J Med. 1985;312:277-283.11)Aurigemma GP, et al. N Engl J Med. 2004;351:1097-1105.12)Burkhoff D, et al. Circulation. 2003;107:656-658.13)Kawaguchi M, et al. Circulation. 2003;107:714-720.14)Maurer MS, et al. J Card Fail. 2005;11:177-187.15)Maurer MS, et al. J Am Coll Cardiol. 2007;49:972-981.16)Petrie MC, et al. Heart. 2002;87:29-31.17)Shah SJ, et al. Circulation. 2020;141:1001-1026.18)Shah AM, et al. Nat Rev Cardiol. 2012;9:555-556.19)Burrage MK, et al. Circulation. 2021;144:1664-1678.20)Lourenco AP, et al. Eur J Heart Fail. 2018;20:216-227.21)Melenovsky V, et al. Circ Heart Fail. 2015:295-303.22)Freed BH, et al. Circ Cardiovasc Imaging. 2016;9.23)Reddy YNV, et al. J Am Coll Cardiol. 2020;76:1051-1064.24)Telles F, et al. Eur J Heart Fail. 2019;21:495-505.25)Reddy YNV, et al. Eur J Heart Fail. 2019;21:891-900.26)Backhaus SJ, et al. Circulation. 2021;143:1484-1498.27)Patel RB, et al. Sci Rep. 2021;11:4885.28)Verbrugge FH, et al. Circulation. 2020;142:998-1012.29)Melenovsky V, et al. Eur Heart J. 2014;35:3452-3462.30)Mohammed SF, et al. Circulation. 2014;130:2310-2320.31)Obokata M, et al. Eur Heart J. 2019;40:689-697.32)Lam CS, et al. J Am Coll Cardiol. 2009;53:1119-1126.33)Iorio A, et al. Eur J Heart Fail. 2018;20:1257-1266.34)Miller WL, et al. JACC Heart Fail. 2013;1:290-299.35)Vanderpool RR, et al. JAMA Cardiol. 2018;3:298-306.36)Fayyaz AU, et al. Circulation. 2018;13:1796-1810.37)Huston JH, et al. Circ Res. 2022;130:1382-1403.38)Melenovsky V, et al. Eur Heart J 2014;35:3452-3462.39)Borlaug BA, et al. JACC: Heart Fail. 2019;7:574-585.40)Ho JE, et al. J Am Coll Cardiol. 2020;75:17-26.41)Berry N, et al. Am Heart J. 2020;226:222-231.42)Schiattarella GG, et al. Cardiovasc Res. 2021;117:423-434.43)Schiattarella GG, et al. Nature. 2019;568:351-356.44)Borlaug BA, et al. J Am Coll Cardiol. 2010;56:845-854.45)Shah SJ, et al. Circulation. 2016;134:73-90.46)Shah SJ, et al. Eur Heart J. 2018;39:3439-3450.47)Franssen C, et al. JACC Heart Fail.2016;4:312-324.48)Borlaug BA. Nat Rev Cardiol. 2014;11:507-515.49)Rao VN, et al. Eur J Heart Fail. 2020;22:1540-1550.50)Koepp KE, et al. JACC Heart Fail. 2020;8:657-666.51)Obokata M, et al. Circulation. 2017;136:6-19.52)Borlaug BA, et al. Cardiovasc Res. 2022;118:3434-3450.53)Maurer MS, et al. Eur J Heart Fail. 2020;22:173-176.54)Joseph J, et al. Nat Commun. 2022;13:7753.55)Shah SJ, et al. Nat Rev Drug Discov. 2022;21:781-782.

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デュピルマブ、紅皮症性アトピー性皮膚炎にも有効

 紅皮症性アトピー性皮膚炎(AD)は、広範な皮膚病変によって定義され、合併症を引き起こし、場合によっては入院に至る重症ADである。米国・ノースウェスタン大学のAmy S. Paller氏らは、デュピルマブの有効性と安全性を検討した6つの無作為化比較試験の事後解析において、紅皮症性AD患者に対するデュピルマブ治療は、全体集団と同様にADの徴候・症状の迅速かつ持続的な改善をもたらし、安全性は許容できるものであったと報告した。JAMA Dermatology誌オンライン版2023年2月1日号掲載の報告。 中等症~重症のAD患者を対象にデュピルマブの有効性と安全性を検討した6つの国際共同、多施設共同、無作為化、二重盲検、プラセボ対照比較試験について、事後解析が行われた。対象は、AD病変が体表面積(BSA)の90%以上かつ全般症状スコア(Global Individual Sign Score)の紅斑のスコアが1以上を満たした患者とした(紅皮症性AD)。 対象患者は、デュピルマブ(週1回または隔週)またはプラセボを、単剤または局所コルチコステロイド(TCS)との併用で投与された。 16週目における有効性(病変のBSAに対する割合、Eczema Area and Severity Index[EASI]スコア、Peak Pruritus Numerical Rating Scale[そう痒NRS]スコア)、血清中バイオマーカー(TARC[thymus and activation-regulated chemokine]、総IgE、LDH[乳酸脱水素酵素])の変化、安全性(有害事象の発現頻度)などを評価した。 データはレジメンごとにプールされ、デュピルマブ単剤投与とTCS併用投与で層別化された。 主な結果は以下のとおり。・無作為化された3,075例中、209例がベースライン時に紅皮症性ADの基準を満たした。・紅皮症性AD患者集団の年齢中央値はデュピルマブ単剤群31歳、TCS併用群39歳で、全体集団(それぞれ34歳、36歳)と類似していた。また、紅皮症性AD患者集団の男性の割合は、デュピルマブ単剤群71.3%(97例)、TCS併用群74.0%(54例)であった(全体集団はそれぞれ58.7%、60.6%)。・紅皮症性AD患者集団において、デュピルマブ投与群(週1回投与、隔週投与)はプラセボ群と比べて、有効性の指標がいずれも有意に改善した。・病変のBSAに対する割合(最小二乗平均変化率[標準誤差[SE]]):デュピルマブ単剤群は週1回投与-42.0% [7.7]、隔週投与-39.9%[6.5]であったのに対し、プラセボ群は-17.2%[11.0]であった(いずれもp=0.03)。TCS併用群は週1回投与-63.2% [6.7]、隔週投与-56.1%[9.1]であったのに対し、プラセボ群は-14.5%[7.3]であった(いずれもp<0.001)。・EASIスコア(最小二乗平均変化率[SE]):デュピルマブ単剤群は週1回投与-58.5% [9.0]、隔週投与-58.3%[7.9]であったのに対し、プラセボ群は-22.3%[12.4]であった(それぞれp=0.004、p=0.003)。TCS併用群は週1回投与-78.9%[7.8]、隔週投与-70.6%[10.1]であったのに対し、プラセボ群は-19.3%[8.2]であった(いずれもp<0.001)。・そう痒NRSスコア(最小二乗平均変化率[SE]):デュピルマブ単剤群は週1回投与-45.9% [7.8]、隔週投与-33.9%[6.6]であったのに対し、プラセボ群は-0.6% [9.4]であった(いずれもp<0.001)。TCS併用群は週1回投与-53.0% [8.1]、隔週投与-55.7%[10.8]であったのに対し、プラセボ群は-26.0%[8.8]であった(それぞれp=0.006、p=0.01)。・名目上の統計学的に有意な改善は、早ければ1週目からみられた(デュピルマブ単剤群のEASIスコアとそう痒NRSスコア[それぞれp<0.05、p<0.001])。・バイオマーカー値はプラセボと比べて有意に低下した(いずれもp<0.001)。・デュピルマブ治療を受けた患者で最もよくみられた有害事象は、注射部位反応、結膜炎、上咽頭炎であった。

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米国は高い医療費の支出に見合う成果を得られていない

 米国が費やす医療費は、他の裕福な国々の最大で4倍に上るが、それに見合う成果を得られていないようだ。非営利団体の米コモンウェルス基金が1月31日に発表した報告書によると、米国の医療費がGDPに占める割合は約18%に上るが、米国人の平均寿命は低下し続けているという。 この報告書を執筆した同財団のInternational Program in Health Policy and Practice InnovationsのMunira Gunja氏は、「OECD(経済協力開発機構)加盟国の中で、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)が整っていないのは米国だけだ。われわれの平均寿命は低下し続けており、他の国々に比べて回避可能な死亡率も高い」と話す。さらに同氏は、「加えて、米国ではプライマリケア医不足も深刻であり、プライマリケアに投入される資金も潤沢ではない。このような状況は人々が基本的な予防医療を受ける妨げとなり、結果的に慢性疾患を誘発している」と指摘する。 今回の報告書の作成にあたり、Gunja氏らは、2020年1月から2021年12月の間の米国の医療費とその成果を、OECD加盟国(全38カ国)のうちの高所得国(12カ国)や全加盟国の平均値と比較した。その結果、米国の2021年の医療費は対GDP比17.8%であり、比較した国々の中では最も高いことが明らかになった。また、1人当たりの医療費も最も高く、最も低い韓国の約4倍の支出額であった。 それにもかかわらず、米国人の2020年の平均寿命は77歳であり、これはOECD加盟国の平均寿命の平均値(80.4歳)と3歳の差があった。また米国では、予防や治療により回避可能な死亡率と、複数の慢性疾患を併発している人の割合についても最も高かった。さらに、米国では他の高所得国と比べて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による死亡率も高かった(100万人当たり3,253人、最も低いのはニュージーランドの100万人当たり470人)ほか、銃による暴力などの身体的暴行による死亡率や乳幼児および妊産婦死亡率についても、OECD諸国の平均および12カ国の高所得国よりも高かった。その一方で、乳がんと大腸がんのスクリーニング検査受診率とインフルエンザの予防接種率はOECD加盟国の中でも高い方であった。ただし、COVID-19ワクチン接種率は、多くの国に遅れを取っていた。 研究グループは、「米国では近年、健康保険へのアクセス拡大に若干の進展があったものの、格差を是正し、必要な医療を全ての人に提供するには、さらなる努力が必要である」と述べる。2010年に国民皆保険を念頭に制定されたアフォーダブルケア法(ACA)、いわゆる「オバマケア」は、手頃な価格の健康保険を購入するための市場の開拓につながった。それでも、いまだに何百万人もの米国人が保険料を支払えず、医師の診察を受けられない状況に置かれたままになっている。 こうした状況についてGunja氏は、「多くの州はメディケイドを拡大していないため、手頃な価格の選択肢がないままというのが現状だ」と指摘。「誰もが手頃な価格の健康保険プランにアクセスでき、予防医療を自己負担なしで受けられるようにしなければならない。そのためには、プライマリケアの労働力に資金を投入し、インセンティブによりプライマリケア医を増やし、医学部生の奨学金の返済を免除する必要がある。そうでもしない限り、米国のこの危機を解決することは不可能だ」と主張する。 Gunja氏は、米国のこの危機的状況を好転させることはまだ可能だとし、「他の国でやってきたことなのだから、われわれにだってできるはずだ」と述べている。

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ペムブロリズマブの肺がんアジュバントの(FDA)承認で考えること【侍オンコロジスト奮闘記】第144回

第144回:ペムブロリズマブの肺がんアジュバントの(FDA)承認で考えること参考FDA approves pembrolizumab as adjuvant treatment for non-small cell lung cancerImfinzi and Imjudo with chemotherapy approved in the US for patients with metastatic non-small cell lung cancerReijers ILM, et al.Nat Med.202;28:1178-1188. Personalized response-directed surgery and adjuvant therapy after neoadjuvant ipilimumab and nivolumab in high-risk stage III melanoma: the PRADO trial

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第152回 欧州医薬品評価委員会がモルヌピラビル承認を支持せず

Merck社がRidgeback Biotherapeutics社と組んで開発した新型コロナウイルス感染症(以下「コロナ」)治療薬モルヌピラビル(商品名:ラゲブリオ)を、欧州連合(EU)の医薬品審査の実質的な最終意思決定の場である欧州医薬品評価委員会(CHMP)が承認すべきでないと判断しました1)。クリニカルベネフィットが示されていないとCHMPは判断していますが、Merck社は不服を申し立てて再検討を求める予定です2)。高リスクのコロナ患者の入院/死亡リスクがモルヌピラビルでおよそ半減することを示した2021年10月発表の試験結果3)は世間を沸かせました。その翌月にはPfizer社もコロナ薬ニルマトレルビル・リトナビル(日本での商品名:パキロビッドパック)の有望な試験成績を発表します。ニルマトレルビル・リトナビルはコロナ患者の入院/死亡率を89%低下させました4)。モルヌピラビルは今では25を超える国々で認可/承認されており、400万人を超える患者に投与され2)、昨年の売り上げは約57億ドルでした。しかし今年のモルヌピラビルの売り上げは約10億ドルになるとMerck社は予想しています5)。一方、Pfizer社は今年のニルマトレルビル・リトナビルの売り上げは約80億ドルになると見込んでいます6)。米国は取り急ぎの認可の6ヵ月ほど前の2021年6月にモルヌピラビル170万回治療分を12億ドルで購入する約束を交わし7)、今月19日時点までに取得した290万回治療分のうち約120万回分を使っています8)。Pfizer社のニルマトレルビル・リトナビルはというと約1,228万回治療分のうち約821万回分が使われています。昨夏2022年7月に米国FDAは薬剤師がPfizer社のニルマトレルビル・リトナビルを処方できるようにしましたが9)、モルヌピラビルはそうではありません。昨秋2022年10月に発表されたコロナワクチン接種患者を主とする英国での試験結果では、モルヌピラビルの入院や死亡の予防効果が認められませんでした10)。その翌月に英国は公的医療でのモルヌピラビル使用を却下する暫定方針を示しています11)。昨春2022年4月にPfizer社はコロナ患者の同居人にニルマトレルビル・リトナビルを投与しても感染を防げなかったという試験結果を発表しました12)。Merck社のモルヌピラビルも残念ながら同じ結果で、先週発表された国際試験結果でコロナ患者の同居人の感染を減らすことができませんでした13)。参考1)Meeting highlights from the Committee for Medicinal Products for Human Use (CHMP) 20 - 23 February 2023 / EMA2)Merck and Ridgeback Provide Update on EU Marketing Authorization Application for LAGEVRIO? (Molnupiravir) / BUSINESS WIRE3)Merck and Ridgeback’s Investigational Oral Antiviral Molnupiravir Reduced the Risk of Hospitalization or Death by Approximately 50 Percent Compared to Placebo for Patients with Mild or Moderate COVID-19 in Positive Interim Analysis of Phase 3 Study / BUSINESS WIRE4)Pfizer’s Novel COVID-19 Oral Antiviral Treatment Candidate Reduced Risk of Hospitalization or Death by 89% in Interim Analysis of Phase 2/3 EPIC-HR Study / BUSINESS WIRE5)Merck Announces Fourth-Quarter and Full-Year 2022 Financial Results BUSINESS WIRE6)PFIZER REPORTS RECORD FULL-YEAR 2022 RESULTS AND PROVIDES FULL-YEAR 2023 FINANCIAL GUIDANCE BUSINESS WIRE7)Merck Announces Supply Agreement with U.S. Government for Molnupiravir, an Investigational Oral Antiviral Candidate for Treatment of Mild to Moderate COVID-19 / BUSINESS WIRE8)COVID-19 Therapeutics Thresholds, Orders, and Replenishment by Jurisdiction9)Coronavirus (COVID-19) Update: FDA Authorizes Pharmacists to Prescribe Paxlovid with Certain Limitations FDA10)Molnupiravir Plus Usual Care Versus Usual Care Alone as Early Treatment for Adults with COVID-19 at Increased Risk of Adverse Outcomes (PANORAMIC): Preliminary Analysis from the United Kingdom Randomised, Controlled Open-Label, Platform Adaptive Trial. Posted: 17 Oct 202211)NATIONAL INSTITUTE FOR HEALTH AND CARE EXCELLENCE Draft guidance consultation Therapeutics for people with COVID-1912)Pfizer Shares Top-Line Results from Phase 2/3 EPIC-PEP Study of PAXLOVID? for Post-Exposure Prophylactic Use / Pfizer13)Merck Provides Update on Phase 3 MOVe-AHEAD Trial Evaluating LAGEVRIO? (molnupiravir) for Post-exposure Prophylaxis for Prevention of COVID-19 / BUSINESS WIRE

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通院先の病院までの距離と下肢切断リスクが有意に関連

 末梢動脈疾患(PAD)で治療を受けている患者の自宅から病院までの距離と、下肢切断リスクとの関連を検討した結果が報告された。病院までの距離が長いほど切断リスクが高いという有意な関連が認められたという。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野の藤原武男氏らの研究によるもので、詳細は「International Journal of Environmental Research and Public Health」に10月12日掲載された。 PADは心筋梗塞や脳卒中と並ぶ動脈硬化性疾患の一つ。下肢の疼痛や潰瘍などの主要原因であり、進行すると下肢切断を余儀なくされる。高齢化や糖尿病の増加などを背景に、国内でもPADが増加傾向にあるとされている。PADに対しては、動脈硬化リスク因子の管理に加えてフットケアなどの集学的な治療が行われるため、地域の中核病院への通院が必要なことが多い。一方でPADは高齢者に多い疾患であり、遠方の医療機関へのこまめな通院が困難なこともある。PAD以外の外科領域では、自宅から病院までの距離が疾患の転帰に影響を与える可能性を示唆する研究結果が報告されている。しかしPADに関するそのような視点での研究は少なく、特に日本発の報告は見られない。 藤原氏らの研究は、千葉県の南房総地域にある地域中核病院2施設の患者データを後方視的に解析するという手法で行われた。2010~2019年度に904人のPAD患者が記録されており、必要なデータがそろっている630人(平均年齢73.4±10.9歳、男性72.2%)を解析対象とした。なお、同地域は人口の高齢化率が42%と国内平均の28.4%(2020年)より高く、またPADの集学的治療および下肢切断を行っているのはこの2施設に限られている。 自宅から通院先病院までの直線距離の中央値は18.9kmだった。これを基準に対象者全体を二分すると、近距離群の方が高齢(74.5±11.3対72.4±10.4歳、P=0.017)で通院歴が長い(3.24±2.72対2.67±2.68年、P=0.009)という有意差が見られた。 つま先の切断も含む下肢切断は92人(14.6%)に施行されていて、近距離群が12.4%、遠距離群が16.8%であり、後者に多いものの有意差はなかった(P=0.114)。 一方、自宅から病院までの距離を連続変数として解析すると、距離が四分位範囲(22.1km)長いごとに下肢切断リスクが46%上昇するという有意な関連が認められた〔ハザード比(HR)1.46(95%信頼区間1.08~1.98)〕。下肢切断リスクに影響を及ぼし得る因子〔年齢、性別、喫煙歴、虚血重症度(フォンテイン分類)、併存疾患(糖尿病、高血圧、脂質異常症)、血管内治療・透析の施行、アスピリン投与など〕を調整後も、この関連は有意性が保たれていた〔HR1.35(同1.01~1.82)〕。 このほか、前記の近距離群と遠距離群とで生存率をカプランマイヤー法とログランク検定により比較すると、わずかに有意水準未満ながら、近距離群の方が高い生存率で推移していた(P=0.0537)。 著者らは本研究の限界点として、自宅から病院までの距離を直線距離で判断しており、実際のルートや移動手段を考慮していないことなどを挙げた上で、「高齢者人口の多い地域では、自宅から病院までの距離が長いほどPAD患者の下肢切断リスクが高い可能性がある」と結論付けている。さらに、「このような地域に住むPAD患者の転帰改善には、病院までのアクセスを改善する必要があり、また臨床医は、患者が通院に支障を来していないか確認する必要があるのではないか」と付け加えている。

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高齢女性の4人に3人が加齢による視機能低下「アイフレイル」

 高齢女性の4人に3人は「アイフレイル」であり、その該当者は「基本チェックリスト」のスコアが高く、要介護ハイリスク状態であることを示す研究結果が報告された。国際医療福祉大学保健医療学部理学療法学科の糸数昌史氏、視機能療法学科の新井田孝裕氏、医学部老年病学の浦野友彦氏らの研究によるもので、詳細は「International Journal of Environmental Research and Public Health」に10月11日掲載された。 アイフレイルは、日本眼科啓発会議により「加齢に伴って眼が衰えてきた上に、さまざまな外的ストレスが加わることによって目の機能が低下した状態、また、そのリスクが高い状態」と定義されており、簡単な10項目の質問によるスクリーニングツールも既に開発されている。ただし、アイフレイルの有病率やスクリーニングツールの妥当性はまだ十分検討されていない。糸数氏らは、介護予防のために実施されている「フレイル健診」受診者を対象とする調査によって、それらの点を検討した。 2021年6月~2022年1月の栃木県大田原市が主催するフレイル健診を受診した地域在住高齢者のうち、研究協力の呼びかけに応じた225人が研究に参加。そのうち、解析に必要なデータを得られなかった人を除外した192人の女性を解析対象とした。また男性は解析に十分な参加者数に達しなかったため、女性のみで検討した。 アイフレイルのスクリーニングツールの10項目(目が疲れやすくなった、夕方になると見えにくくなることがある、信号や道路標識を見落としたことがある、など)のうち2問項目以上に「はい」と答えた場合をアイフレイルと判定すると、74.5%とほぼ4人に3人が該当した。アイフレイルでない群と比較すると、年齢やBMI、骨格筋指数(SMI)、ふくらはぎ周囲長、握力には有意差がなかったが、歩行速度はアイフレイル群の方が有意に遅かった(1.30±0.22対1.20±0.34m/秒、P=0.02)。 次に、二項ロジスティック回帰分析により、アイフレイルと関連のある因子を検討した結果、フレイル健診での「基本チェックリスト」のスコアと有意な正の相関が認められた(β=0.326、P=0.000)。一般に基本チェックリストのスコアが高いことは、要介護リスクの高さを表すとされていることから、明らかになった結果はアイフレイルが要介護のリスク因子である可能性を示すものと考えられる。なお、既報文献で示されている定義に基づき判定した、身体的フレイル、社会的フレイル、および過去の転倒経験などは、アイフレイルの有無との有意な関連が見られなかった。 続いて、基本チェックリストに含まれている7種類の具体的なリスクとアイフレイルとの関連を検討。すると、閉じこもり(β=0.891、P=0.021)、認知機能(β=0.716、P=0.035)、うつ気分(β=0.599、P=0.009)という3種類のリスクの高さとアイフレイルとの有意な関連が認められた。 このほか、アイフレイルのスクリーニングツールの回答の分析からは、視力低下、コントラスト感度低下(明暗のはっきりしないものや輪郭のぼんやりしたものが見えにくい状態)、視野障害が、アイフレイルを有することに強く影響を及ぼしていることが分かった。 著者らはこれらの結果を基に、「地域在住高齢者のアイフレイルの有病率は74.5%であり、社会的引きこもり、認知機能低下、抑うつとの関連が認められた」と総括している。その一方で、フレイル健診に自主的に参加した女性のみを対象としていること、視機能に関する眼科学的な検査を行っておらず、疾患の影響なども検討されていないことなどを研究の限界点として挙げ、アイフレイルの背景因子および、身体的・社会的・精神的フレイルとの関連について、さらなる研究の必要性があるとしている。

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リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その4【「実践的」臨床研究入門】第29回

前回、われわれのResearch Question(RQ)の関連研究レビューのために暫定的に作成した検索式の検索能力を検証しました。以前に挙げていた、われわれのRQの「Key論文」(連載第16回参照)が、この仮の検索式によって漏れなくヒットするかを確かめました。その結果は、「Key論文」10本中3本しかヒットしなかったという、少し残念なものでした。今回からは、検索式を修正する方法について解説します。検索式でヒットしなかった論文のMeSH termsをチェックする前回と同様に、PubMed Advanced Search BuilderでP(対象)とE(曝露)の検索式ブロックをANDでかけ合わせた後に、「Key論文」のブロックとNOTでつなぎます。すると、暫定検索式でヒットしなかった「Key論文」が、下の表のように7本であることがわかります。ちなみに、本稿執筆時点(2023年2月)では前回検索時から約1ヵ月経っているので、それぞれの検索式ブロックでヒットする論文数が増えていることに気が付きます。画像を拡大するそれはさておき、ヒットしなかった「Key論文」のMesH terms(連載第21回参照)などの情報をPubMed Advanced Search BuilderのResultsのリンクからチェックしてみましょう。7本の論文が表示されているはずなので、まずこれら7本の論文を、PubMedページ画面右上方の"Display options"を用いて出版日順に並べ替えてみます。7本の中で最も古く出版されたコクラン・システマティックレビュー(SR:systematic review)論文1)のMeSH termsは、リンク(右側「PAGE NAVIGATION」下の「MeSH terms」をクリック)および下記のとおりです。Diabetic Nephropathies / diet therapyDiet, Protein-RestrictedDietary Proteins / administration & dosageHumansRandomized Controlled Trials as TopicRenal Insufficiency / etiologyRenal Insufficiency / prevention & control※MeSH termsの後のスラッシュ(/)以下はサブヘディングという機能で、テーマの絞り込みに利用されます(リンク参照)。暫定検索式のEの構成要素ブロックに含まれるMeSH terms "Diet, Protein-Restricted"は、このコクランSR論文1)にも付与されています。ですので、Eのブロックの検索結果には、この論文も含まれています(お時間ある方は確認してみてください)。しかし、暫定検索式のPの構成要素ブロックのMeSH termsやテキストワード(連載第26回参照)は、この論文のタイトルやアブストラクト、付与されているMeSH termsに含まれていません。その結果、この論文は検索から漏れてしまったようです。前述のとおり、暫定検索式でヒットしなかったコクランSR論文1)に付与されているMeSH termsには”Renal Insufficiency”があります。これは、暫定検索式のPの構成要素ブロックに組み込まれているMeSH terms ”Renal Insufficiency, Chronic”の上位概念(連載第25回参照)にあたり、リンクおよび下記の階層構造となっています。Renal Insufficiency○Acute Kidney Injury■Kidney Tubular Necrosis, Acute○Cardio-Renal Syndrome○Renal Insufficiency, ChronicこのコクランSR論文1)を捕捉するため、Pの構成要素ブロックにMeSH terms ”Renal Insufficiency”を加えたい。一方、その下位概念は”Renal Insufficiency, Chronic”以外は含まないようにしたいので、[mh: noexp]の「タグ」を指定します(連載第24回参照)。したがって、太字部分を追加して、以下のようにPのブロックの検索式を改変します。Renal Insufficiency[mh:noexp] OR Renal Insufficiency, Chronic[mh:noexp] OR "chronic kidney disease*"[tiab] OR "chronic renal disease*"[tiab] OR CKD[tiab] OR predialysis[tiab] OR pre-dialysis[tiab]1)Robertson L, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2007;2007:CD002181.

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コロナワクチン接種者と未接種者、死亡率の差は?/CDC

 米国疾病予防管理センター(CDC)は、米国の24地域において、12歳以上に対する新型コロナウイルスワクチンの効果について、デルタ株からオミクロン株BA.4/BA.5流行期にかけて、未接種者と接種者の比較調査を行った。本結果によると、2価ワクチン接種者は、1価ワクチン接種者やワクチン未接種者と比べて、感染に対する予防効果が高く、とくに高齢者において、死亡に対する予防効果が未接種者の10.3~23.7倍と有意に高いことが示された。本結果はCDCのMorbidity and Mortality Weekly Report誌2023年2月10日号に掲載された。コロナワクチン未接種者と接種者の死亡率の差は高齢者ほど高かった 本研究は、2021年10月3日~2022年12月24日の期間(このうち2022年9月1日以降は2価ワクチンのブースター接種推奨)で、米国の24地域におけるCOVID-19罹患2,129万6,326例、およびCOVID-19関連死11万5,078例のデータを基に、1価および2価のコロナワクチンの効果を評価した。 調査期間を、デルタ期(2021年10月3日~12月18日)、オミクロンBA.1期(2021年12月19日~2022年3月19日)、BA.2期(3月20日~6月25日)、BA.4/BA.5前期(6月26日~9月17日)、BA.4/BA.5後期(9月18日~12月24日)に層別化し、年齢層別(12~17歳、18~49歳、50~64歳、65~79歳、80歳以上)、および最後にブースター接種を受けてからの期間別に、人口10万人当たりの週平均の感染率と死亡率を、コロナワクチン未接種者とブースター接種者で比較し、感染率比と死亡率比(rate ratio:RR)を算出した。 コロナワクチン未接種者と接種者の比較調査を行った主な結果は以下のとおり。・すべての期間において、10万人当たりの週平均の感染数と死亡数は、コロナワクチン未接種者(範囲:感染216.1~1,256.0、死亡1.6~15.8)のほうが1価ワクチン接種者(範囲:感染86.4~487.7、死亡:0.3~1.4)より常に高かった。・BA.4/BA.5後期では、ワクチン未接種者のコロナ関連死亡率は、2価ワクチンブースター接種者と比較して14.1倍、感染率は2.8倍高く、1価ワクチンブースター接種者と比較して5.4倍、2.5倍高かった。・BA.4/BA.5後期では、とくに高齢者において、ワクチン未接種者と接種者のコロナ関連死亡率の差が大きかった。コロナワクチン未接種者の死亡率は、2価ブースター接種者と比較して、65~79歳で23.7倍、80歳以上で10.3倍高く、1価ブースター接種者と比較して、65~79歳で8.3倍、80歳以上で4.2倍高かった。・ブースター接種後の期間で層別化した解析では、コロナワクチン未接種者の死亡率は、1価ブースター接種を2週間~2ヵ月以内に受けた人と比較して、デルタ期は50.7倍高かったが、BA.4/BA.5前期では7.4倍まで差が縮まった。・BA.4/BA.5前期では、1価ブースター接種後6~8ヵ月(RR:4.6)、9〜11ヵ月(RR:4.5)、12ヵ月以上(RR:2.5)で死亡予防効果の低下が認められた。一方、BA.4/BA.5後期では、2週間~2カ月以内に2価ブースター接種を受けた人のほうが、死亡予防効果が高かった(RR:15.2)。 いずれの解析でも、コロナワクチン未接種者と比較すると、2価ブースター接種者は、1価ブースター接種者よりも死亡に対する予防効果が強化されていた。死亡予防効果は高齢者で最も高かった。著者は、ウイルスの新たな変異に対しても、ワクチンの効果を継続的に観察する必要があるとしている。

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英語プレゼン、接続詞を効果的に使おう【学会発表で伝わる!英語スライド&プレゼン術】第10回

英語プレゼン、接続詞を効果的に使おう英語でのプレゼンテーションをレベルアップさせるうえで、接続詞の使い方は重要な要素の一つといえるでしょう。接続詞は効果的に使うことで、聴衆の関心を引き寄せるツールにもなります。プレゼンテーションでよく用いられる接続詞には、〈図1〉のようなものがあります。〈図1〉プレゼンテーションでよく用いられる接続詞(一部副詞を含む)これらの使い方について、順を追って見ていきましょう。順接、補足の接続詞これらの接続詞は、同じスライドの中で文章と文章をつなぐ際に、効果的な接続詞になるでしょう。ただし、英語は繰り返しを嫌う言語ですので、何度も同じ接続詞を使うのはあまり好ましくありません。日本人のプレゼンテーションで、“and”であらゆる文章をつないでしまうパターンを見掛けますが、これはあまり美しいものではなく、印象を残すうえで効果的ともいえません。たとえば、何かの説明をした後には“therefore”(そういうわけで)のような言葉を使うことで、より効果的に「次に大切な一文が来る」ということを伝えられるでしょう。また、補足説明を加えたいときには、“additionally”、“furthermore”などの副詞を用いることで、スムーズに補足ができるでしょう。移行の際の接続詞“now”、“then”などの接続詞は、次のトピック、スライドに移る際のサインとして使用することができます。“now”は「今」という意味で用いられることが多いですが、文頭に置くことで、「それでは」というようなニュアンスで使うことができます。たとえば、こんな感じです。“Now, let me talk about the main results.”(それでは、主要な結果について説明します)逆接の接続詞逆接の接続詞はうまく使用すると、その後に来る文章を強調することができます。よく見る“but”よりも言いたいことを強調しやすいのは“however”かもしれません。あるいは、“on the other hand”なども同様のシチュエーションで使うことができるでしょう。“with that being said”はあまり馴染みがないかもしれませんが、ここでの“that”は直前に言ったセリフの内容を指しており、「そうは言っても」と前のセリフの内容を受けて逆接的に何かを強調するための表現です。逆に、直前のセリフを受けて「そういうわけで」と前の文章の内容をまとめるという意味で使うこともできますが、逆接でより使われやすいと思います。ただ文章を並べるのと異なり、“with that being said”という前置きを作ることによって、聞いている人の気を惹くことができるのです。そしてその直後に重要なことを伝えます。たとえば、こんな使い方ができます。“Medication A has various side effects, including nausea and vomiting. With that being said, medication A is still a better option than medication B.”(治療薬Aには嘔気や嘔吐といったさまざまな副作用があります。そうは言っても、治療薬Aは治療薬Bより優れた選択肢です)ただし、効果的だからといって頻用してしまうと、その効果は落ちてしまいます。あくまで、重要な部分に限って使用するのがよいでしょう。結論の接続詞これらは、厳密には接続詞とは言えないかもしれませんが、「これから大切な結論を言います」というアラートを出すべく用いられるのが、“in conclusion”などの表現です。端的に言えば、とそれまでの説明をまとめる際には、“in brief”、“in short”などという表現を用いることもできます。これらの接続詞は、いずれもスライド上ではあえて見せないほうがよいでしょう。口頭のみで、とくに強調したい文章の前に用いることで、効果的に聴衆の関心を引き寄せることができます。スライドで見せてしまうと、スライドを読んだだけという印象を与え、効果は半減してしまうのです。講師紹介

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アリピプラゾール長時間作用型注射剤切り替えの有効性

 急性期および慢性期の統合失調症患者を対象に、パリペリドンパルミチン酸エステルの長時間作用型注射剤(LAI)を含む第2世代抗精神病薬から月1回のアリピプラゾールLAIへ切り替えた場合の有効性について、韓国・全南大学校のSung-Wan Kim氏らが検討を行った。その結果、他の抗精神病薬からアリピプラゾールLAIへの切り替え成功率は高く、アリピプラゾールLAIの優れた忍容性と有効性が示唆された。また、精神病理や社会的機能の改善は、罹病期間が短い統合失調症患者においてより顕著に認められ、代謝異常の改善は、慢性期患者でより顕著に認められた。Clinical Psychopharmacology and Neuroscience誌2023年2月28日号の報告。 統合失調症患者82例を対象に、24週のプロスペクティブ・オープンラベル・フレキシブルドーズ切り替え試験を実施した。陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)、個人的・社会的機能遂行度尺度(PSP)、臨床全般印象度(CGI)、主観的ウェルビーイング評価尺度短縮版(SWN-K)、コンピュータ化されたemotional recognition test(ERT)を用いて評価した。対象患者は、5年間の罹病期間に基づいて急性期群と慢性期群に分類した。 主な結果は以下のとおり。・82例中67例(81.7%)が24週間の試験を完了した。・アリピプラゾールLAIに切り替えた後の中止率において、切り替え前の抗精神病薬の種類を含む臨床的特徴による差は認められなかった。・アリピプラゾールLAIに切り替え後、PANSS、PSP、CGI、SWN-K、ERTスコアの有意な改善が認められた。また、代謝パラメータや体重の増加は認められなかった。・急性期群は慢性期群よりも、PANSS、PSP、CGIスコアの改善が有意に高く、慢性期群は急性期群よりも、代謝パラメータの有意な改善が認められた。

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急性脳梗塞、rt-PAへのアルガトロバン併用は有用?/JAMA

 急性虚血性脳卒中の患者へのアルガトロバン+アルテプラーゼ併用投与は、アルテプラーゼ単独投与と比べて、90日後の優れた(excellent)機能的アウトカム達成に関して有意差をもたらす可能性はないことが示された。中国・General Hospital of Northern Theatre CommandのHui-Sheng Chen氏らが、808例を対象に行った多施設共同非盲検エンドポイント盲検化無作為化試験の結果を、JAMA誌オンライン版2023年2月9日号で発表した。先行研究では併用療法のベネフィットが示唆されたが、サンプルサイズが大きな試験では確たるエビデンスは得られていなかった。90日後の修正Rankinスケールスコア0~1の達成率を比較 研究グループは2019年1月18日~2021年10月30日に、中国の50病院を通じて、急性虚血性脳卒中の患者を対象に試験を行った。最終フォローアップは2022年1月24日。 試験適格被験者を発症から4.5時間以内に、アルガトロバンとアルテプラーゼを併用投与する群(併用群402例)またはアルテプラーゼのみを投与する群(単独群415例)に無作為に2群に割り付けた。併用群には、アルガトロバンを投与(100μg/kgを3~5分でボーラス投与の後、毎分1.0μg/kgで48時間静注)し、その後1時間以内にアルテプラーゼを投与(0.9mg/kgで最大投与量は90mg、10%を1分でボーラス投与、残りを1時間静注)。単独群にはアルテプラーゼのみを同用量、同様の方法で静脈内投与した。 両群ともに、ガイドラインに沿った治療を併せて行った。 主要エンドポイントは優れた機能的アウトカムで、90日後の修正Rankinスケールスコア(範囲:0[症状なし]~6[死亡])が0~1と定義した。修正RSS 0~1のアウトカム達成、両群ともに64~65% 被験者817例は、年齢中央値65歳(四分位範囲[IQR]:57~71)、女性238例(29.1%)、NIH脳卒中スケール中央値9(IQR:7~12)。760例(93.0%)が試験を完了した。 90日時点で優れた機能的アウトカムを達成したのは、併用群329例中210例(63.8%)、単独群367例中238例(64.9%)だった(群間リスク差:-1.0%、95%信頼区間[CI]:-8.1~6.1、リスク比:0.98、95%CI:0.88~1.10、p=0.78)。 症候性頭蓋内出血を呈した患者は併用群2.1%(8/383例)、単独群1.8%(7/397例)、2型脳内血腫はそれぞれ2.3%(9/383例)、2.5%(10/397例)、全身性の大出血はそれぞれ0.3%(1/383例)、0.5%(2/397例)だった。

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第33回 オミクロン株とインフルエンザ、どちらが強い?

小波で終わるか?インフルエンザの流行、どうやら小波で終わりそうです。ピークが後ずれする可能性はありますが、3年前の水準をやや下回る程度の定点医療機関あたりの報告数に落ち着いています(図)。2月17日速報分で、全国平均で12.91人、沖縄県も30.25人と少しピークアウトし、落ち着いてきたみたいです。反面、石川県と福井県が40人以上と多い状況です。いずれの3県も「警報レベル」を超えているため、注意が必要です。とはいえ、さすがに3月にピークが来るとは思ってないので、過去のインフルエンザの波よりは低く終わると予想しています。予想が外れたらごめんなさい。画像を拡大する図. 定点医療機関あたりのインフルエンザ報告数(参考資料1より作成)インフルエンザvs.オミクロン株インフルエンザとオミクロン株、どちらにも感染したくないのですが、どのくらい公衆衛生学的なインパクトがあるかを比較した論文が出ています2)。スイスの15医療機関で実施された研究で、2022年1月15日~3月15日に入院したオミクロン株優勢時期の入院COVID-19例と、2018年1月1日~2022年3月15日までの入院インフルエンザ例を比較検討したものです。それぞれの院内死亡率とICU入室率を評価項目としています。3,066例のCOVID-19と2,146例のインフルエンザが登録されました。解析の結果、オミクロン株例はインフルエンザ例よりも死亡率が高いことがわかりました(7.0% vs.4.4%、調整ハザード比:1.54、95%信頼区間:1.18~2.01、p=0.002)。ICU入室率はオミクロン株8.6%、インフルエンザ8.3%と有意差はありませんでした。ハザード比もこれについては上昇していません。どちらにも感染したくないですが、やはり新型コロナのほうが公衆衛生学的なインパクトはまだ大きいのかなと思っています。参考文献・参考サイト1)インフルエンザに関する報道発表資料 2022/2023シーズン2)Portmann L, et al. Hospital Outcomes of Community-Acquired SARS-CoV-2 Omicron Variant Infection Compared With Influenza Infection in Switzerland. JAMA Netw Open. 2023 Feb 1;6(2):e2255599.

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第20回日本臨床腫瘍学会の注目演題/JSMO2023

 2023年2月16日、日本臨床腫瘍学会はプレスセミナーを開催し、会長の馬場 英司氏(九州大学)らが、第20回学術集会(2023年3月16~18日)の注目演題などを発表した。 今回のテーマは「Cancer, Science and Life」で、科学に基づいた知⾒ががん医療の進歩を支え、患者さんが満⾜できる⽣活、実りある⼈⽣を送る助けになることを目的とする。演題数は1,084であり、うち海外演題数は289と過去2番⽬の多さになる。プレジデンシャルセッション プレジデンシャルセッションでは発表者の他に、国内外の専門家がディスカッサントとして研究成果の意義を解説する。演題は学術企画委員会が厳正に審査を行い、全分野より合計19演題が選定された。<呼吸器>2023年3月16日(木)15:10〜17:101.既治療の進行・再発非小細胞肺癌に対するニボルマブ(NIV)対NIV+ドセタキセルのランダム化比較第II/III相試験:TORG1630 古屋 直樹氏(聖マリアンナ医科大学病院呼吸器内科)2.First Report of Cohort3 and Mature Survival Data From the U31402-A-U102 Study of HER3-DXd in EGFR-Mutated NSCLC  林 秀敏氏(近畿大学医学部腫瘍内科)3.完全切除されたII-IIIA期の非扁平上皮非小細胞肺癌に対するPEM/CDDPとVNR/CDDPを比較する第III相試験:JIPANG最終解析 山崎 宏司氏(国立病院機構九州医療センター呼吸器外科)4.Adjuvant osimertinib in resected EGFR-mutated stageII-IIIA NSCLC:ADAURA Japan subgroup analysis 釼持 広知氏(静岡県立静岡がんセンター呼吸器内科)5.Sotorasib versus Docetaxel for Previously Treated Non-Small Cell Lung Cancer with KRAS G12C Mutation:CodeBreaK 200 Phase3 Study 岡本 勇氏(九州大学大学院医学研究院呼吸器内科学)<その他がん>2023年3月17日(金)8:20〜10:201.MOMENTUM:Phase3 Study of Momelotinib vs Danazol in Symptomatic and Anemic Myelofibrosis Patients post-JAK Inhibition Jun Kawashima氏(Sierra Oncology, a GSK company, San Mateo, CA, USA)2.Brexucabtagene Autoleucel in Relapsed/Refractory Mantle Cell Lymphoma(R/R MCL) in ZUMA-2:Durable Responder Analysis  Javier Munoz氏(Banner MD Anderson Cancer Center, Gilbert, AZ, USA)3.Pembrolizumab+chemoradiation therapy for locally advanced head and neck squamous cell carcinoma(HNSCC):KEYNOTE-412 田原 信氏(国立がん研究センター東病院頭頸部内科)4.APOBEC signature and the immunotherapy response in pan-cancer Ya-Hsuan Chang氏(Institute of Statistical Science, Academia Sinica, Taipei, Taiwan)5.FGFR2融合/再構成遺伝子を有する肝内胆管がん患者に対するFutibatinibの第2相試験:FOENIX-CCA2試験の日本人サブグループ解析結果 森実 千種氏(国立がん研究センター中央病院肝胆膵内科)<乳腺>2023年3月17日(金)16:25〜18:051.Overall survival results from the phase3 TROPiCS-02 study of sacituzumab govitecan vs chemotherapy in HR+/HER2-mBC Hope Rugo氏(Department of Medicine, University of California-San Francisco, Helen Diller Family Comprehensive Cancer Center, San Francisco, CA, USA)2.HER2低発現の手術不能又は再発乳癌患者を対象にT-DXdと医師選択治療を比較したDESTINY-Breast04試験のアジアサブグループ解析 鶴谷 純司氏(昭和大学先端がん治療研究所)3.T-DM1による治療歴のあるHER2陽性切除不能及び/又は転移性乳癌患者を対象にT-DXdと医師選択治療を比較する第III相試験(DESTINY-Breast02) 高野 利実氏(がん研究会有明病院乳腺内科)4.Phase1/2 Study of HER3-DXd in HER3-Expressing Metastatic Breast Cancer:Subgroup Analysis by HER2 Expression 岩田 広治氏(愛知県がんセンター乳腺科部)<消化器>2023年3月18日(土)9:45〜11:451.切除不能局所進行食道扁平上皮癌に対する化学放射線療法後のアテゾリズマブの有効性・安全性をみる第II相試験:EPOC1802 陳 勁松氏(がん研究会有明病院消化器化学療法科)2.PD-1 blockade as curative intent therapy in mismatch repair deficient locally advanced rectal cancer Andrea Cercek氏(Memorial Sloan Kettering Cancer Center, USA)3.RAS野生型切除不能進行再発大腸癌に対するm-FOLFOXIRI+cetuximab vs. bevacizumabの生存解析:DEEPER試験(JACCRO CC-13) 辻 晃仁氏(⾹川⼤学医学部臨床腫瘍学講座)4.PARADIGM試験における早期腫瘍縮小割合および最大腫瘍縮小割合に関する検討 室 圭氏(愛知県がんセンター薬物療法部)5.Efficacy and safety of fruquintinib in Japanese patients with refractory metastatic colorectal cancer from FRESCO-2  小谷 大輔氏(国立がん研究センター東病院消化管内科) また、プレスセミナーでは、他の注目演題として下記が紹介された。がん免疫療法ガイドライン 下井 ⾠徳氏(国⽴がん研究センター中央病院)によるがん免疫に関するレクチャーの後、3月発刊予定の「がん免疫療法ガイドライン第3版」のアウトラインが紹介された。昨今注目されているがん免疫療法において、医療者へ適切な情報を提供するためのがん種横断的な治療ガイドラインの改訂版である。学術大会では委員会企画として、第3版改訂のポイント、新しいがん免疫療法、がんワクチン療法と免疫細胞療法のエビデンスが解説される。委員会企画4(ガイドライン委員会2)第1部:がん免疫療法ガイドライン改訂第3版の概要3⽉16⽇(⽊)15:50〜17:20(第1部 15:50〜16:35)がんゲノム医療 田村 研治氏(島根大学医学部附属病院)によって、がん治療におけるゲノム医療の流れや課題などが紹介された。学術大会では、マルチコンパニオン検査とCGP検査の使い分けについて解説した上で、近未来の「がんゲノム医療」はどうあるべきかを専門医が討論する。解決すべき問題の例として「コンパニオン診断薬として承認されている遺伝子異常と、ゲノムプロファイリング検査としての遺伝子異常を同じ遺伝子パネルで検査すべきか?区別すべきか?」などが挙げられた。シンポジウム8遺伝子異常特異的かつ臓器横断的な薬剤の適正使用、遺伝子パネルの在り方とは?3月16日(木)8:30〜10:00患者支援の最前線 佐々木 治一郎氏(北里大学医学部附属新世紀医療開発センター)によって、わが国におけるがん患者支援の現状が紹介された。より総合的ながん患者支援が求められる中、支援活動の質の担保や最低限のルールの確立などのための教育研修が必要となっている。学術大会では、国、学会、NPOの演者ががん患者支援者への教育研修について発表・議論される。会長企画シンポジウム4患者支援者の教育研修:我が国における現状と課題3月16日(木)14:00〜15:30デジタル化が進めるがん医療 佐竹 晃太氏(日本赤十字医療センター)によって、治療用アプリとヘルスケアアプリとの違い、実臨床における活用方法、国内における開発状況などが紹介された。治療用アプリの活用により、重篤な有害事象の減少、QOLの改善、生存期間の改善などが期待されている。学術大会では、新しい治療アプローチの昨今の動向や、臨床導入する上での潜在的課題について議論される。シンポジウム4将来展望:予防・治療を目的としたモバイルアプリの開発3月16日(木)15:50~17:20

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食生活を少しずつ改善していくためのアドバイス―AHAニュース

 新年を迎えるに当たって多くの人が「減量」を目標に掲げる。しかし、結局なにも始められなかったり、いったん体重が減っても年末までにリバウンドしてしまったりという人が少なくない。専門家は、はやりのダイエットに飛びつこうとする前に、栄養の質を改善することを勧めている。健康的な食事に向けて段階的に改善していくと新たな食生活が定着しやすく、その結果、心臓病や脳卒中のリスクが抑制され長年にわたって恩恵を受けられる確率が高くなり、死亡リスクも低下する。 米国フィラデルフィアを拠点に活動している栄養士のAlexis Newman氏は、「私は、食べる量を減らすという食事療法の考え方には固執しない。なぜなら、そのような食事療法はうまくいかないことが多いからだ。『何を食べないか』ではなく、より健康的な食品を食べるように勧めることが多い」と話す。より健康的な食品とは、玄米などの食物繊維を含む全粒穀物、果物、野菜などであり、それに加えて積極的な水分摂取も大切だという。 Newman氏が勧める食品は、地中海式ダイエットや高血圧改善のための食事パターンであるDASH食でも推奨される食品だ。米国心臓協会(AHA)が2021年に発表した「心臓のための食事ガイダンス」でも、全粒穀物の摂取を推奨し、タンパク源としては植物性食品や魚介類を主体として、肉類が必要な場合は赤身の未加工肉の摂取を推奨。反対に、砂糖や塩分が添加された食品や飲料の摂取は、最小限に抑えることを奨励している。ある研究によると、このような心臓の健康に良い食生活を実践している人は、そうでない人よりも心血管疾患による死亡リスクが最大28%低いことが示されている。 AHAの食事ガイダンスの執筆メンバーの1人であり、米マサチューセッツ総合病院とハーバード大学で心臓病医療を専門としているAnne Thorndike氏は、「人々は自分が好きな食べ物、あるいは家族との食事や文化的背景のある食品の摂取をあきらめる必要はなく、それらも健康的な食生活に取り入れることが可能」と話す。具体的には、「何か特別な理由があって健康的でない食品を口にしたら、そのような食品を続けて食べないようにすることだ。そして、多様性を模索して新しい食品を試してみてほしい。バナナが好きで毎日バナナを食べているなら、リンゴ、オレンジ、ブドウを試してみると良い。緑やオレンジ、黄色、赤など、色とりどりの野菜も忘れずに」とアドバイスを送る。 またNewman氏は、食品の調理法の重要性を指摘する。「揚げ物を食べることが習慣的になっている人は、週に1食や2食は揚げ物ではない食事を追加してはどうか」と提案する。Thorndike氏も、「魚や鶏肉は揚げる代わりに焼いたりソテーにもできる」と話し、そのような料理の際にはバターやトロピカルオイルではなく、オリーブ油などの植物性油で調理することを勧めている。同氏はさらに、精製度の高い白パンや、塩分が添加されパッケージ化されたライスなどの加工食品を避けるよう助言。もし、味を少し変えたいと思った時は、ニンニク、コショウ、クミンなどの塩分を含んでいない調味料を試すと良いとしている。 新鮮な果物や野菜へのアクセスが限られていたり、食費に余裕がないなどの理由で、健康的な食品を常に取り入れることが困難なケースもある。その対策としてNewman氏は、缶詰や冷凍食品で代用することを提案。缶詰野菜に含まれている塩分は、水洗いすれば減らすことができるという。 Newman氏、Thorndike氏はともに、健康的な食生活の「全体像」を大切にするアプローチの重要性を指摘している。全体像を見失わないようにすることで、人々はより多くの健康的な選択肢を用いることができ、それらを段階的に採用して、食事パターンを徐々に変更していくことが可能になる。Thorndike氏は、「私たちは、みなさんの今後数週間のことについて話しているのではない。みなさんの残りの人生について話をしている」とも語っている。[2023年1月6日/American Heart Association] Copyright is owned or held by the American Heart Association, Inc., and all rights are reserved. If you have questions or comments about this story, please email editor@heart.org.利用規定はこちら

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