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2024/07/10
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心肺持久力が大腸がん・肺がん・前立腺がんの発症と死亡リスクに関連

 約18万人のスウェーデン人男性を平均9.6年間追跡調査したコホート研究の結果、心肺持久力(CRF)が高いと大腸がん罹患リスクが低く、また肺がんおよび前立腺がんによる死亡リスクが低いことが示された。この結果から、これらのがんの罹患リスクおよび死亡リスクの低減に、CRFが潜在的に重要な役割を果たしている可能性が示唆された。スウェーデン・The Swedish School of Sport and Health SciencesのElin Ekblom-Bak氏らが、JAMA Network Open誌2023年6月29日号に報告。 本研究は、スウェーデンにおいて1982年10月~2019年12月に労働衛生健康プロファイル評価を完了した男性を対象とした前向きコホート研究。CRFは最大下サイクルエルゴメーター試験を用いて推定した最大酸素消費量(mL/分/kg)として評価した。また、がんの罹患率および死亡率のデータは全国登録から取得した。ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)はCox比例ハザード回帰を用いて算出した。さらにCRFを4群(非常に低い:25以下、低:25~35、中等度:35~45、高:45超)に層別化し、非常に低い群を基準としてHRと95%CIを算出した。 主な結果は以下のとおり。・男性17万7,709人(年齢:平均42歳[範囲:18~75歳]、BMI:平均26、平均追跡期間:9.6年)のデータを解析した。・罹患リスクは、CRFが高いほど、大腸がん(HR:0.98、95%CI:0.96~0.98)および肺がん(HR:0.98、95%CI:0.96~0.99)では有意に低く、前立腺がん(HR:1.01、95%CI:1.00~1.01)では高かった。・死亡リスクは、CRFが高いほど、大腸がん(HR:0.98、95%CI:0.96~1.00)、肺がん(HR:0.97、95%CI:0.95~0.99)、前立腺がん(HR:0.95、95%CI:0.93~0.97)ともに低かった。・4群に層別化し完全調整した場合、大腸がん罹患率については、非常に低いCRFに比べ、中等度CRFでのHRが0.72(95%CI:0.53~0.96)、高CRFでのHRが0.63(95%CI:0.41~0.98)と関連が残った。前立腺がん死亡率については、低CRF(HR:0.67、95%CI:0.45~1.00)、中等度CRF(HR:0.57、95%CI:0.34~0.97)、高CRF(HR:0.29、95%CI:0.10~0.86)で関連が残った。肺がん死亡率では、高CRF(HR:0.41、95%CI:0.17~0.99)で有意であった。

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標準治療に不応・不耐の若年性特発性関節炎、バリシチニブが有効/Lancet

 標準治療で効果不十分または不耐の若年性特発性関節炎患者の治療において、JAK1/2阻害薬バリシチニブはプラセボと比較して、再燃までの期間が有意に延長し、安全性プロファイルは成人のほかのバリシチニブ適応症で確立されたものと一致することが、英国・ブリストル大学のAthimalaipet V. Ramanan氏らが実施した「JUVE-BASIS試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年7月6日号で報告された。20ヵ国の無作為化プラセボ対照第III相試験 JUVE-BASISは、日本を含む20ヵ国75施設で実施された二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2018年12月~2021年3月に患者の登録が行われた(Incyteのライセンス下にEli Lilly and Companyの助成を受けた)。 対象は、年齢2~<18歳で、若年性特発性関節炎(リウマトイド因子陽性の多関節型、リウマトイド因子陰性の多関節型、進展型少関節炎型、付着部炎関連関節炎型、乾癬性関節炎型)と診断され、1剤以上の従来型合成疾患修飾性抗リウマチ薬(csDMARD)または生物学的疾患修飾性抗リウマチ薬(bDMARD)による少なくとも12週間の治療で効果不十分、または不耐の患者であった。 安全性/薬物動態の評価を行う期間(2週間)に年齢に基づくバリシチニブの用量(1日1回)が確定され、非盲検下の導入期間(12週間)として全例に成人(4mg)との等価用量のバリシチニブ(錠剤、懸濁剤)の投与が行われた。 導入期間の終了時に、若年性特発性関節炎-米国リウマチ学会(JIA-ACR)の30基準を満たした患者(JIA-ACR30レスポンダー)が、二重盲検下に同一用量のバリシチニブを継続投与する群またはプラセボに切り換える群に、1対1の割合で無作為に割り付けられ、疾患が再燃するか、二重盲検期間(最長32週[バリシチニブは導入期間と合わせて44週])が終了するまで投与した。 主要エンドポイントは、二重盲検期間中の疾患再燃までの期間であった。また、二重盲検期間中の有害事象の曝露補正発生率を算出した。健康関連QOLも良好 220例(年齢中央値14.0歳[四分位範囲[IQR]:12.0~16.0]、女児152例[69%]、診断時年齢中央値10.0歳[IQR:6.0~13.0]、診断後の経過期間中央値2.7年[IQR:1.0~6.0])が登録された。このうち219例が非盲検下の導入期間にバリシチニブの投与を受け、12週時に163例(74%)がJIA-ACR30基準を満たした。二重盲検期間に、81例がプラセボ群、82例がバリシチニブ群に割り付けられた。 二重盲検期間中の疾患再燃例(最小二乗平均)は、プラセボ群が41例(51%)、バリシチニブ群は14例(17%)であった(p<0.0001)。また、再燃までの期間は、バリシチニブ群に比べプラセボ群で短く(補正後ハザード比[HR]:0.241、95%信頼区間[CI]:0.128~0.453、p<0.0001)、再燃までの期間中央値はプラセボ群が27.14週(95%CI:15.29~評価不能[NE])、バリシチニブ群はNE(95%CI:NE~NE)(再燃例が50%未満のため)だった。 疾患活動性(JADAS-27など)や健康関連QOL(CHQ-PF50、CHAQ疼痛重症度スコア[視覚アナログ尺度])に関する有効性の副次エンドポイントも、プラセボ群に比べバリシチニブ群で良好であった。 バリシチニブの安全性/薬物動態評価期間または非盲検導入期間中に、220例中6例(3%)で重篤な有害事象が発現した。二重盲検期間中には、重篤な有害事象はバリシチニブ群の82例中4例(5%)(100人年当たりの発生率:9.7件、95%CI:2.7~24.9)、プラセボ群の81例中3例(4%)(10.2件、2.1~29.7)で報告された。 治療関連の感染症が、安全性/薬物動態評価期間または非盲検導入期間中に220例中55例(25%)で発現し、二重盲検期間中にはバリシチニブ群の31例(38%)(100人年当たりの発生率:102.1件、95%CI:69.3~144.9)、プラセボ群の15例(19%)(59.0件、33.0~97.3)で報告された。また、重篤な有害事象として二重盲検期間中にバリシチニブ群の1例で肺塞栓症が報告され、試験治療関連と判定された。 著者は、「バリシチニブによるJAKシグナルの阻害は、若年性特発性関節炎に関連する複数のサイトカイン経路を標的とし、既存の治療法に代わる1日1回投与の経口治療薬となる可能性がある」としている。

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徒歩で生活しやすいデザインの地域は人々の交流を高める

 徒歩で生活しやすい地域に住んでいる人は、移動に車が必要な地域に住んでいる人に比べて、近隣住民との交流が多く、コミュニティー意識も強いことが、新たな研究で明らかになった。米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)Herbert Wertheim School of Public Health and Human Longevity ScienceのJames F. Sallis氏らによるこの研究の詳細は、「Health & Place」7月号に掲載された。 米国の公衆衛生政策を指揮する医務総監のVivek Murthy氏は2023年5月に、「孤独や孤立は高齢者での心疾患リスクを29%、脳卒中リスクを32%、認知症リスクを50%、早期死亡リスクに至っては60%以上増加させる要因となる」と述べた。そして、この公衆衛生危機への対応として、人と人とのつながりを促進する環境デザインにより社会基盤を強化することを推奨している。 Sallis氏は、「人との交流や身体活動、自然との触れ合いなどは公衆衛生に影響を与えるが、そうした経験が可能かどうかは、われわれが作り上げる環境に左右される」と話す。そして、「米国での交通政策と土地利用政策は、車での移動と郊外開発を強く優先してきた。その結果、何百万人もの米国人が、どこへ行くにも車が必要な地域に住み、近隣住民と交流する機会がほとんどない状態に置かれている」と指摘する。 Sallis氏らは今回の研究で、米シアトル、ボルチモア、ワシントン周辺の32地域に住む20〜66歳の成人1,745人(平均年齢46歳)が参加したNeighborhood Quality of Life Study(近隣地域QOL調査)のデータを分析した。試験参加者の自宅周辺(自宅から半径1kmの範囲内の道路ネットワーク)の歩きやすさ(ウォーカビリティ)を、居住密度、交差点密度、土地の複合利用状況、および小売・商業用地総面積に対する小売・商業用地の容積率に基づき、ウォーカビリティ指数で数値化した。その上で、参加者の報告した近隣住民との交流やコミュニティー意識との関連を検討した。 その結果、ウォーカビリティ指数は、社会的交流の高さ(P<0.001)、およびコミュニティー意識の高さ(P=0.009)と有意に関連することが明らかになった。居住地の自己選択を考慮して解析すると、ウォーカビリティ指数は社会的交流の高さとは有意に関連したままであったが(P=0.008)、コミュニティー意識の高さとの関連は有意ではなくなった(P=0.518)。 こうした結果を受けて、論文の筆頭著者で、UCSD Herbert Wertheim School of Public Health and Human Longevity ScienceのJacob R. Carson氏は、「徒歩で生活しやすい場所に住んでいると、手を振ってあいさつをしたり、手助けを求めたり、屋内に人を招いて交流したりといった、近隣住民との社会的交流が促される可能性がある」と述べる。これに対して、車での移動が必要な地域は、住民同士のつながりを希薄にする効果を持っているかもしれないと同氏は指摘する。 Carson氏は、「社会的交流の促進は、公衆衛生の重要な目標である。地域デザインの役割を理解することで、地域社会とそこに住む人々の健康を守るためのわれわれの能力も強化される」と話す。その上で、「徒歩で生活しやすい環境のデザインは、われわれの生活を豊かにする。交通事故の減少、身体活動の増加、近隣の社会的健康の改善などは、そのような地域をデザインすることで得られる結果のほんの一部に過ぎない」と述べている。 なお、本研究は、米国立衛生研究所(NIH)から一部資金提供を受けて実施された。

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妊婦の親子関係の不良は妊娠中高血糖の予測因子

 両親との親子関係にあまり満足していない妊婦は、妊娠中に高血糖を来すリスクが高いというデータが報告された。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野の藤原武男氏らの研究によるもので、詳細は「BMC Pregnancy and Childbirth」に4月4日掲載された。藤原氏は、「妊婦健診の際に親子関係を尋ねることが、妊娠中高血糖のリスク評価に役立つのではないか」と述べている。 妊娠中に血糖値の高い状態が続いていると、難産や巨大児出産などのリスクが高くなるため、妊娠中の積極的な血糖管理を要する。また、妊娠以前から糖代謝異常のリスク因子を有する女性は、妊娠糖尿病などの妊娠中高血糖(HIP)のリスクが高く、その糖代謝異常のリスク因子の一つとして、子ども期の逆境体験(ACE)が挙げられる。そのためACEのある女性は、HIPになりやすい可能性がある。とはいえ、妊婦健診などにおいて全妊婦のACEの有無を把握することは現実的でない。 一方、成人後の親子関係が良くないことは、ACEの表現型の一つと考えられている。よって、妊婦の現在の親子関係を確認することでACEの有無を推測でき、それによってHIPリスクを評価できる可能性が想定される。以上を背景として藤原氏らは、妊婦に対して親子関係の良し悪しを質問し、その答えとHIPリスクとの間に関連があるか否かを検討した。なお、HIPには、妊娠糖尿病(妊娠中に生じる高血糖)と、妊娠前からの糖尿病、および妊娠時に判明した糖尿病を含めた。 解析対象は、2019年4月~2020年3月に、4府県(大阪、宮城、香川、大分)の産科施設58件を受診した全妊婦から、データ欠落者などを除外した6,264人。初診時に行った「両親との関係について満足しているか?」との質問に対して、93.3%が「満足している」、5.5%が「あまり満足していない」、1.2%が「全く満足していない」と回答。この3群間に、年齢、未婚者の割合には有意差がなかった。親子関係の満足度が高い群ほど教育歴(高卒以上の割合)は有意に高く、自己申告による精神疾患既往者の割合(全体で5.6%)は低かった(いずれもP<0.01)。 HIPは4.4%に認められた。「親子関係に満足している」群を基準とするロジスティック回帰分析の結果、交絡因子未調整の粗モデルでは、「あまり満足していない」群のHIPのオッズ比(OR)が1.77(95%信頼区間1.11~2.63)であり有意に高かった。ただし、年齢、教育歴、精神疾患の既往を調整すると、OR1.53(同0.98~2.39)でありわずかに非有意となった(P=0.06)。「全く満足していない」群は、粗モデルでも有意な関係が認められなかった。 次に、HIPの既知のリスク因子である精神疾患の既往の有無で層別化して検討。すると、精神疾患の既往がなく親子関係に「あまり満足していない」群のHIPリスクは、粗モデルでOR1.85(1.17~2.95)、年齢と教育歴を調整後にもOR1.77(1.11~2.84)であり、独立した有意な関連が認められた。一方、精神疾患の既往があり親子関係に「あまり満足していない」群では、有意なオッズ比上昇は認められなかった。なお、親子関係に「全く満足していない」群は、精神疾患の既往の有無にかかわらず非有意だった。 著者らは既報研究に基づく考察から、親子関係の不良がHIPリスクを高めるメカニズムとして、喫煙や体重管理の悪化などの不健康な行動が関与している可能性があると述べている。また、親子関係に「あまり満足していない」群でHIPリスクが高いのに対して「全く満足していない」群はそうでなかった理由については、後者の群にはACEリスクがより高いために児童福祉支援を受けて育った女性が多く含まれており、逆説的にACEによるHIPリスクを高めるような行動増加などの影響が小さくなった可能性が考えられるとしている。 以上より論文の結論は、「精神疾患の既往のない妊婦では親子関係の良くないことがHIPリスクと有意に関連していた。妊婦の診察においてACEの有無を直接評価することは困難だが、親子関係を問うだけでACEの影響により生じるHIPリスクを推測できるのではないか」とまとめられている。なお、研究の限界点として、BMIや喫煙習慣、妊娠中の体重増加、血圧など、HIPの既知のリスク因子を考慮していないことなどを挙げ、さらなる研究が必要としている。

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TTP診療ガイド2023改訂のポイント~Minds方式の診療ガイドラインを視野に

「血液凝固異常症等に関する研究班」TTPグループの専門家によるコンセンサスとして2017年に作成され、2020年に部分改訂された、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)の診療ガイドライン、『血栓性血小板減少性紫斑病診療ガイド2023』が7月に公開された。2023年版では、Minds方式の診療ガイドラインを視野に、リツキシマブに対してclinical question(CQ)が設定され、エビデンスや推奨が掲載された。主な改訂ポイント・リツキシマブの推奨内容の追加・変更とCQの掲載・カプラシズマブが後天性TTP治療の第一選択に・抗血小板薬、FFP輸注に関する記述を追加・FrenchスコアとPLASMICスコアに関する記述を追加・増悪因子に関する記述を追加リツキシマブを後天性TTPの急性期、寛解期にも推奨 難治例を中心に広く使用されているリツキシマブであるが、2023年版では、後天性TTPの急性期に投与を考慮しても良い(保険適用外、推奨度2B)としている。ただし、とくに初回投与時のインフュージョンリアクションに注意が必要としている。また、難治例、早期再発例(推奨度1B)や寛解期(保険適用外)でのリツキシマブ使用についての記載も追加された。再発・難治例では、治療の効果と安全性が確認されており、国内で保険適用もあることから推奨するとし、後天性TTPの寛解期では、ADAMTS13活性が10%未満に著減した場合、再発予防にリツキシマブの投与を検討しても良いとした。リツキシマブの使用に関するCQを掲載 上述のとおり、2023年版ではリツキシマブの使用に関する記載が大幅に追加されたが、さらに巻末には、リツキシマブの急性期、難治例・早期再発例、寛解期における使用に関するCQも掲載されている。これらのCQに対するAnswerおよび解説を作成するに当たり、エビデンス収集のため、2022年1月7日時点で過去10年間にPubMedに登録されたTTPに関するリツキシマブの英語論文の精査が行われた。各CQに対する解説では、国際血栓止血学会TTPガイドライン2020などのガイドラインや臨床試験、システマティックレビュー、症例報告の有効性に関する報告を詳細に紹介したうえで、各CQに対し以下のAnswerを記載している。・後天性TTPの急性期に、リツキシマブ投与を考慮しても良い(推奨度2B)(保険適用外)・後天性TTPの再発・難治例にリツキシマブ投与を推奨する(推奨度1B)・後天性TTPの寛解期にADAMTS13活性が10%未満に著減した場合、再発予防にリツキシマブの投与を検討しても良い(推奨度2B)(保険適用外)カプラシズマブが後天性TTP治療の第一選択として記載 2023年版では、カプラシズマブが2022年9月に日本でも販売承認されたことが報告された。本ガイドでは、カプラシズマブを推奨度1Aの後天性TTP急性期の治療としている。投与30日以降もADAMTS13活性が10%を超えない場合は、追加で28日間継続可能であること、ADAMTS13活性著減を確認する前に開始可能であるが、活性が10%以上でTTPが否定された場合は速やかに中止すべきであることが述べられている。その他の治療に関する改訂ポイント(抗血小板薬、FFP輸注) 急性期の治療として用いられる抗血小板薬(推奨度2B)については、血小板とvon Willebrand因子(VWF)を中心とした血小板血栓によってTTPが発症することからTTP治療に有効である可能性があるとしたが、急性期での使用により出血症状が認められたとの報告、チクロピジンやクロピドグレルの使用はTTP患者では避けられていること、アスピリンとカプラシズマブの併用は出血症状を助長する可能性があり避けるべきである等の内容が加えられた。先天性TTPの治療へのFFP輸注の使用(推奨度1B)の記載についても追加がなされた。国際血栓止血学会のTTPガイドラィンで推奨する用量(10~15mL/kg、1~3週ごと)は日本人には量が多く困難な場合があることや、長期的な臓器障害の予防に必要なFFPの量は現状では明らかではない等の内容が加えられた。TTPの診断に関する改訂ポイント ADAMTS13検査やインヒビター検査は結果が得られるまで時間がかかり、TTP治療の早期開始の妨げになっている。そこで、2023年版では、ADAMTS13活性著減の予想に用いられる、FrenchスコアとPLASMICスコアに関する記述が追加された。これら2つのスコアリングシステムについて、ADAMTS13活性著減を予測するが、血栓性微小血管症(TMA)が疑われる症例においてのみ用いられるべきことを明示した。増悪因子に関する記述を追加 2023年版では、TTP発作を誘発する因子についての項目が加えられた。増悪因子として、出生直後の動脈管の開存、ウイルス/細菌感染症、妊娠およびアルコール多飲などが知られており、妊娠期にはFFP定期輸注を行うことが、妊娠管理に不可欠と考えられるとした。

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乳児の遺伝子検査、迅速全ゲノムvs.標的遺伝子/JAMA

 遺伝的疾患が疑われる乳幼児の遺伝子検査として、迅速全ゲノムシークエンスと標的乳幼児遺伝子パネルの分子診断率および結果が得られるまでの時間は同等なのか。米国・Women and Infants Hospital of Rhode IslandのJill L. Maron氏らは、400例を対象に多施設共同前向き比較試験「Genomic Medicine for Ill Neonates and Infants(GEMINI)試験」を行い、ゲノムシークエンスの分子診断率は高率だが、臨床に有用な結果が得られるまでの時間は標的乳幼児遺伝子シーケンス検査よりも遅かったことを示した。乳幼児への遺伝子検査は医療上の決定を導き健康アウトカムの改善を可能とするが、分子診断率や結果が得られるまでの時間が同等なのかについて明らかになっていなかった。JAMA誌2023年7月11日号掲載の報告。1歳未満児400例に両検査を行い、分子診断率と結果発表までの時間を評価 研究グループは2019年6月~2021年11月に米国の6病院で、入院中の1歳未満児とその保護者400例を対象に、ゲノムシークエンスと標的乳幼児遺伝子シーケンス検査のアウトカムを比較した。 試験登録された患児に、ゲノムシークエンスと標的乳幼児遺伝子シーケンス検査を同時に実施。それぞれの検査室で、患児の表現型に関する知識に基づく解釈が行われ、臨床ケアチームに結果が伝えられた。家族には、両検査からの遺伝学的所見に基づき、臨床管理と提供する治療の変更、ケアの方向性の転換が伝えられた。 主要エンドポイントは、分子診断率(病的バリアントが1つ以上または臨床的意義が不明[VUS]のバリアントを有する患児数と関連する割合で定義)と結果が返ってくるまでの時間(患児の検体を受け取ってから最初の所見が発表されるまでの時間と定義)、臨床的有用性とした。臨床的有用性は、患者への医学的、外科的および/または栄養学的管理の変化や治療目標の変化と定義し、記録担当医(集中治療担当医または遺伝学者)が5ポイントのリッカート尺度(1[まったく無用]~5[非常に有用])で測定評価した。検査室間のバリアント解釈の違いに留意が必要 分子診断上の変異は、51%の患児(204例)で同定された。297個のバリアントが同定され、そのうち134個は新規バリアントであった。 分子診断率は、ゲノムシークエンス49%(95%信頼区間[CI]:44~54)vs.標的乳幼児遺伝子シーケンス検査27%(23~32)であった。標的乳幼児遺伝子シーケンス検査で検出されたがゲノムシークエンスで報告されなかったバリアントは19個であった。一方で、ゲノムシークエンスで診断されたが標的乳幼児遺伝子シーケンス検査で報告されなかったバリアントは164個であった。標的乳幼児遺伝子シーケンス検査で同定されなかったバリアントには、構造的に1kb超のもの(25.1%)や、検査から除外された遺伝子(24.6%)が含まれていた(McNemarオッズ比[OR]:8.6[95%CI:5.4~14.7])。 検査室間のバリアントの解釈は、43%で違いがみられた。 結果が返ってくるまでの時間中央値は、ゲノムシークエンスは6.1日、標的乳幼児遺伝子シーケンス検査は4.2日であった。なお緊急症例(107例)では、それぞれ3.3日、4.0日だった。 臨床ケア変更への影響は、患児の19%でみられた。 76%の臨床担当医が、診断にかかわらず、臨床上の意思決定に遺伝子検査は有用またはとても有用と見なしていた。 これらの検討結果を踏まえて著者は、「研究室でのバリアント解釈が、分子診断率の違いに寄与し、臨床管理に関する重要なコンセンサスに関係する可能性があるようだ」と指摘。また、「今回の検討では、分子診断率の違いが臨床アウトカムの改善につながるかどうかの正式な評価を行っていないことを含め、いくつかの限界がある。分子診断率の統計学的優越性の検討は行っておらず、将来の研究で良性であることが明らかになる可能性のあるVUSバリアントも含まれたことが分子診断率の上昇に寄与した可能性もある」と述べている。

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クレバスに落ちたらどのくらい死亡するのか?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第238回

クレバスに落ちたらどのくらい死亡するのか?Unsplashより使用冬山を歩いていると、クレバスに落ちたら死ぬぞ!みたいなことをよく言われることがあります。いや、私が言われるわけではなくて、そういうシーンを映画などで見かける気がするだけで。実際にクレバスに落ちたらどのくらいの人が致命的になるのでしょうか。Klocker E, et al.Crevasse accidents in the Swiss Alps Epidemiology and mortality of 405 victims of crevasse accidents from 2010 to 2020.Injury. 2022 Jan;53(1):183-189.クレバスの種類にもよりますが、一番つらいのは、真っ逆さまに何十メートルも落ちてしまう事故です。私が愛読していた漫画の『岳』では結構しんどいクレバス事故が多かったイメージです。この研究は、2010~20年にスイスで発生したクレバス事故を含む山岳救助活動を後ろ向きに分析したものです。落下傷害の重症度はNACA(National Advisory Committee for Aeronautics)スコアに従って評価しました。スコアが高いほうが重症です。結果、321人のクレバス転落の犠牲者が研究に含まれました。犠牲者の年齢中央値は41.2歳で、82%(n=260)が男性、59%(n=186)が外国人という結果でした。救助活動が行われた典型的な標高は3,000~3,499m(全症例の44%)というシビアな環境であり、救助は難航を極めました。クレバスの落下深度の中央値は、夏季が8m(IQR 5~10)であったのに対し、冬季は15m(IQR 8~20)でした(p<0.001)。ちょっとこの理由はわかりません。全体の死亡率は6.5%で、死亡した人の9.4%(n=30)のNACAスコアは4以上でした。55%(n=177)のNACAスコアは0または1と軽症でした。クレバスの落下の深さとNACAスコアの重症度の間には有意な正の相関が観察されました(r=0.35、95%信頼区間:0.18~0.51、p<0.001)。以上のことから、クレバスに落下した場合、半数以上は軽症なのですが、落下深度が深いとそれなりに重症になりやすいため、10人に1人くらいはエライコッチャな事態になることを想定しながら冬山を歩く必要がありそうです。

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ASCO2023 レポート 乳がん

レポーター紹介2023年6月2日から6日まで5日間にわたり、米国臨床腫瘍学会年次総会(2023 ASCO Annual Meeting)がハイブリッド形式で開催された。リアルタイムのライブ配信も設けられたものの、多くのセッションは現地開催+オンデマンド配信(以前のvirtual meeting)であり、以前の学会形式にかなり近い形になっているのを実感できた。私も3年の時を経て、ついにシカゴの地に再び降り立つことができた。米国国内からの参加者はほぼコロナ以前に戻っているようであったし、コロナ前ほどではないにしても、日本からも多数参加されていた。各国の旧知の研究者と、すれ違いざまにあいさつするなど、かつてのコミュニケーションが戻ってきたことを強く実感した。今回のASCOのテーマは“Partnering With Patients: The Cornerstone of Cancer Care and Research”であった。乳がんの演題は日本の臨床にインパクトを与えるものは少なく、とくにホルモン受容体陽性HER2陰性乳がんで日本と諸外国の標準治療の違いが今後大きな問題になる可能性を予見させるものであった。日本からの演題も含め4演題を概説する。NATALEE試験本試験はStageIIAからIIIまでのホルモン受容体陽性HER2陰性(HR+HER2-)乳がん術後を対象として、非ステロイド性アロマターゼ阻害薬(NSAI、5年以上、閉経前および男性はゴセレリンを併用)にribociclib 400mg/日を3年間内服することの上乗せを検証した試験である。ribociclib群に2,549例、ホルモン療法単独群に2,552例が割り付けられた。主要評価項目は無浸潤疾患生存(invasive disease free survival:iDFS)で、3年時点(観察期間中央値27.7ヵ月)でribociclib群90.4%、ホルモン療法単独群87.1%(ハザード比[HR]:0.748、95%CI:0.618~0.906、p=0.0014)と統計学的有意にribociclib群で良好であった。副次評価項目の3年無遠隔再発生存もribociclib群で90.8%、ホルモン療法単独群で88.6%(HR:0.739、95%CI:0.603~0.905、p=0.0017)とribociclib群で良好であった。全生存期間(overall survival:OS)についてはribociclib群で良さそうな傾向はあったもののイベントも少なく有意差は観察されなかった。有害事象は好中球減少、肝機能障害、QT延長、悪心、頭痛、倦怠感、下痢、血栓症などがホルモン療法単独と比較して増加した。ホルモン療法へのCDK4/6阻害薬(CDK4/6i)追加のメリットを証明した試験としてアベマシクリブのmonarchE試験がある。NATALEE試験とmonarchE試験の違いとしては、NATALEE試験はN0症例を含むなど範囲が広い(リスクの低い症例が含まれている)ことが大きい。ハイリスク症例でどちらの薬剤がより有効かは不明であるが、N0かついくつかのリスク因子を持っている症例はribociclibが治療選択肢になるであろう。一方、400mg/日と転移乳がんに対する用量よりも少ないものの(転移乳がんでは600mg/日)、それなりの毒性のある薬剤を3年間内服することのハードルは高いと思われる。もっと残念なことは、ribociclibの日本の推奨用量は400mgにも及ばず、現在国内での開発は停止していることである。ホルモン受容体陽性HER2陰性乳がんの術後治療においても(タモキシフェンが標準ということも含めて)、日本と海外の標準治療の違いが目立ち始めている。SONIA試験CDK4/6iはHR+HER2-乳がん治療における重要な薬剤の1つである。NATALEE試験でも述べたようにribociclibは日本では使用できないが、パルボシクリブ、アベマシクリブについては標準治療である。ホルモン療法併用での1次治療、2次治療のエビデンスがあるが、いずれのラインでもOSを延ばすというエビデンスがあり、「いつ使うべきか」についてはまだ議論の余地があるところである。SONIA試験は前治療歴のないHR+HER2-進行乳がんを対象に、1次治療としてNSAI+CDK4/6iを、2次治療としてフルベストラントを行う(First-line CDK4/6i)群と、1次治療としてNSAIを行い2次治療としてフルベストラント+CDK4/6iを行う(Second-line CDK4/6i)群を比較するランダム化比較第III相試験である。主要評価項目は2次治療までのPFS(PFS2)とされた。1,050例の症例が、First-line CDK4/6iに524例、second-line CDK4/6iに526例割り付けられた。観察期間中央値37.3ヵ月時点で1次治療におけるPFSはAI+CDK4/6iで24.7ヵ月、AI単独で16.1ヵ月(HR:0.59、95%CI:0.51~0.69、p<0.0001)とAI+CDK4/6i群で良好であったが、主要評価項目のPFS2はfirst-line CDK4/6iで31ヵ月、second-line CDK4/6iで26.8ヵ月(HR:0.87、95%CI:0.74~1.03、p=0.10)と両群間に差を認めなかった。またOSについても両群間の差を認めなかった。また、安全性についてはfirst-line CDK4/6iでGrade3以上の有害事象が多いと報告され、演者らは1次治療における内分泌単剤療法は“excellent”なオプションであると結論付けている。本試験結果はCDK4/6iの適切な使用について一石を投じるものであるが、本試験の解釈には注意を要する。それは、CDK4/6iとして使用された薬剤である。両群ともに、パルボシクリブが91%、ribociclibが8%、アベマシクリブに至っては1%しか含まれておらず、基本的にはパルボシクリブの試験として解釈すべきである。いずれの薬剤も1次治療、2次治療におけるPFSのベネフィットは示されているが、OSについては薬剤によって異なる。1次治療におけるOSベネフィットは、ribociclibでは証明されており、アベマシクリブでは良好であるものの統計学的有意差は証明されていない(最終解析未)。パルボシクリブは1次治療におけるOSベネフィットが否定されており、かつ2次治療では良好な傾向にあるものの統計学的有意差は示されていない。したがって、日本以外の国では広く使われているribociclibや、あるいはアベマシクリブが多く含まれていれば、結果が異なっている可能性がありうる。SONIA試験の結果のみをもって、CDK4/6iは1次治療で使用しなくてよいとは結論付けられないであろう。PATHWAY試験もう一題、CDK4/6iについての発表を取り上げたい。これまでに閉経前の患者を含む1次治療のCDK4/6iのエビデンスはribociclibのMONALEESA-7試験しかなく、日本では使いづらい面があった。そこで実施されたのが国立がん研究センター中央病院を中心にアジア共同で行われたPATHWAY試験である。本試験は、HR+HER2-乳がんの1次もしくは2次治療を対象として、タモキシフェン(TAM)にパルボシクリブを上乗せすることのメリットを検証したプラセボ対象ランダム化比較第III相試験である。184例の症例が登録され、パルボシクリブ群に91例、プラセボ群に93例が割り付けられた。主要評価項目はPFSとされた。PFSは、パルボシクリブ群で24.4ヵ月に対し、プラセボ群で11.1ヵ月(HR:0.602、95%CI:0.428~0.848、p=0.002)とパルボシクリブ群で良好であり、TAM+パルボシクリブ療法の有用性が証明された。サブグループ解析ではいくつか興味深い結果が見られた。1次治療(112例)ではパルボシクリブ群でPFSが良好だったが、2次治療(72例)では両群間の差を認めなかった。また、閉経前(52例)ではパルボシクリブ群のPFSが良好であったが、閉経後では両群間の差を認めなかった。したがって、TAM+パルボシクリブは閉経前の1次治療でより積極的に考慮できると言えよう。ただ、世界的には閉経前の1次治療はAI+ribociclib+LHRHアゴニストである。NATALEE試験と同様、世界で標準となっているにもかかわらず日本では使用できないために標準治療が異なる患者集団が存在することは、今後の日本での治療開発において大きなハードルになりうるだろう。JCOG1017試験最後に外科系の演題、JCOGからのものをご紹介したい。JCOG1017試験は初発IV期乳がんに対する原発巣切除の意義を検証した試験である。これまで、インドやトルコ、あるいはECOG、ABCSGなど、さまざまな国、臨床試験グループから原発巣切除の意義を検証した試験が公表されている。ただ、それぞれの試験ごとに、薬剤感受性を見たうえでランダム化、あるいは診断時点でランダム化し手術を実施など、かなり背景が異なっていた。それに伴い、トルコの研究以外はいずれも原発巣切除の意義を示せていない。JCOG1017では1次登録のうえで初期薬物療法を実施し、病勢進行とならなかった症例を2次登録し、手術群、非手術群にランダム化した第III相試験である。570例が1次登録され、407例が2次登録、非手術群に205例、手術群に202例が割り付けられた。手術群のうち、実際に手術が実施された症例は173例であった。切除は乳房病変のみであり、腋窩郭清は実施されなかった。主要評価項目である生存期間(OS)中央値は非手術群で68.7ヵ月、手術群で74.9ヵ月(HR:0.857、95%CI:0.686~1.072、p=0.3129)と両群間の差は認めなかった。手術群において、断端陽性は断端陰性と比較して有意にOSが不良であった。5年局所制御率は非手術群で18.7%、手術群で53.2%(HR:0.415、95%CI:0.327~0.527、p<0.0001)と手術群で良好であった。OSに対するサブグループ解析では、閉経前症例、転移臓器が1個までの症例で良好な傾向であった。以上から、ECOG2108試験などと同様、原発巣切除はすべての初発IV期乳がんに推奨できるものではないと結論付けられた。しかしながら、一部の症例においては、とくに局所制御において原発巣切除がオプションになりうると考えられ、今後この重要な結果をどのように臨床で活かしていくかについて深い議論が必要であろう。

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植物由来cytisinicline、禁煙効果を第III相試験で検証/JAMA

 行動支援との併用によるcytisiniclineの6週間および12週間投与は、いずれも禁煙効果と優れた忍容性を示し、ニコチン依存症治療の新たな選択肢となる。米国・ハーバード大学医学大学院のNancy A. Rigotti氏らが米国内17施設で実施した無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験「ORCA-2試験」の結果を報告した。cytisinicline(cytisine)は植物由来のアルカロイドで、バレニクリンと同様、ニコチン依存を媒介するα4β2ニコチン性アセチルコリン受容体に選択的に結合する。米国では未承認だが、欧州の一部の国では禁煙補助薬として使用されている。しかし、従来の投与レジメンと治療期間は最適ではない可能性があった。JAMA誌2023年7月11日号掲載の報告。cytisinicline 6週間投与と12週間投与の有効性をプラセボと比較検証 研究グループは2020年10月~2021年6月に、現在1日10本以上タバコを吸っており、呼気一酸化炭素(CO)濃度が10ppm以上で、禁煙を希望する18歳以上の成人810例を、cytisinicline 3mgを1日3回12週間投与(12週間投与群、270例)、cytisinicline 3mgを1日3回6週間投与後プラセボ1日3回6週間投与(6週間投与群、269例)、プラセボ1日3回12週間投与(プラセボ群、271例)の3群に、1対1対1の割合で無作為に割り付けた。全例が無作為化から12週目までにカウンセラーによる10分間の禁煙行動支援を受け(最大15回)、16週、20週および24週時には短いセッションが行われた。 主要アウトカムは、投与期間の最終4週間における生化学的に確認された禁煙継続(すなわち、6週間投与では3~6週目、12週間投与では9~12週目)。副次アウトカムは、投与期間の最終4週間から24週目まで(すなわち、6週間投与では3~24週目、12週間投与では9~24週目)の禁煙継続とした。 2週目から12週目までの禁煙継続は、毎週評価した前回受診時からの禁煙の自己申告と呼気CO濃度10ppm未満で確認し、16週、20週および24週目の禁煙は、判定基準のRussell Standard(前回の受診時から5本以上喫煙していない)を用いて自己申告で確認した。禁煙継続率はcytisinicline群でプラセボ群の約3~6倍 無作為化された810例(平均年齢52.5歳、女性54.6%、1日平均喫煙数19.4本)のうち、618例(76.3%)が試験を完遂した。 禁煙継続率は、cytisinicline 6週間投与群とプラセボ群との比較では、3~6週目で25.3% vs.4.4%(オッズ比[OR]:8.0、95%信頼区間[CI]:3.9~16.3、p<0.001)、3~24週目で8.9% vs.2.6%(3.7、1.5~10.2、p=0.002)であった。また、cytisinicline 12週間投与群とプラセボ群との比較では、9~12週目で32.6% vs.7.0%(OR:6.3、95%CI:3.7~11.6、p<0.001)、9~24週目で21.1% vs.4.8%(5.3、2.8~11.1、p<0.001)であった。 主な有害事象は悪心、頭痛、異常な夢、不眠症であったが(各群10%未満)、そのうち異常な夢と不眠症のみプラセボ群よりcytisinicline群で発現率が高かった。 有害事象による投与中止は、cytisinicline群で539例中16例(2.9%)(6週間投与群:2.2%、12週間投与群:3.7%)、プラセボ群で270例中4例(1.5%)であった。試験薬に関連する重篤な有害事象は認められなかった。 なお、著者は研究の限界として、参加者が主に白人であったこと、有害事象の検証が短期間であったこと、本試験における行動支援の強度等は一般的な医療現場で提供できるものを超えている可能性があることなどを挙げている。

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ASCO2023 レポート 老年腫瘍

レポーター紹介ここ数年、ASCO annual conferenceにおいて高齢がん患者に関するpivotal trialが次々と発表され、老年腫瘍の領域を大いに盛り上げている。これに伴い、高齢者機能評価(Geriatric Assessment)という用語が市民権を得てきたように感じる。今年のASCOでは、高齢者機能評価を単に実施するのではなく、その結果をどのように使うべきかを問うような試験が多かったように思う。その中から、興味深い研究を抜粋して紹介する。『高齢者機能評価+脆弱な部分をサポートする診療』の費用対効果分析(THE 5C STUDYの副次的解析: #120121))THE 5C STUDYは、ASCO 2021 annual conferenceで発表されたランダム化比較試験である2)。70歳以上の高齢がん患者を対象として、標準診療である「通常の診療(Standard of Care:SOC)」と比較して、試験診療である「高齢者機能評価を実施し、通常の腫瘍学的な治療に加えて老年医学の訓練を受けたチームによるサポートを行う診療(Geriatric Assessment and Management:GAM)」が、健康関連の生活の質(EORTC QLQ-C30のGlobal health status)において、優越性を示すか否かを検証したランダム化比較試験である。残念ながら、QOLスコアの変化は両群で差がなくnegative trialであった。今回、事前に設定されていた費用対効果分析の結果が公表された。カナダの8つの病院から350例の参加者が登録され、SOC群に177例、GAM群に173例が割り付けられた。EQ-5D-5Lは、登録時、登録6ヵ月後、9ヵ月後、12ヵ月後に評価され、医療費(入院費、救急外来受診費、検査や手技の費用、化学療法や放射線治療の費用、在宅診療の費用、保険外医療費)は患者の医療費用ノートなるものから抽出された。Primary endpointは増分純金銭便益(incremental monetary benefit:INMB)とした(INMB=(λ*ΔQALY)−ΔCosts、閾値は5万ドル)。結果として、患者当たりの総医療費は、SOC群で4万5,342ドル、GAM群で4万8,396ドルであった。全適格患者におけるINMBはマイナス(-3,962ドル、95%CI:-7,117ドル~-794ドル)であり、SOCと比較してGAMの費用対効果は不良という結果であった。サブグループ解析では、根治目的の治療をする集団におけるINMBはプラス(+4,639ドル、95%CI:61ドル~8,607ドル)、緩和目的の治療をする集団におけるINMBはマイナス(−13,307ドル、95%CI:-18,063ドル~-8,264ドル)であった。以上から、根治目的の治療をする集団においては、SOCと比較してGAMの費用対効果は良好であったと結論付けている。「高齢者機能評価+脆弱な部分をサポートする診療」の費用対効果分析を行った初めての試験である。個人的な意見だが、とても勇気のある研究だと思う。これまで、高齢者機能評価+脆弱な部分をサポートする診療の有用性を評価するランダム化比較試験の結果が複数公表されており、NCCNガイドラインなどの老年腫瘍ガイドラインでもこれが推奨されている。つまり、老年腫瘍の領域において、高齢者機能評価を実施すること、また高齢者機能評価+脆弱な部分をサポートする診療を浸透させることは、暗黙の了解であった。しかし、このタイミングでGAMの費用対効果分析を実施するあたり、THE 5C STUDYの研究代表者であるM. Putsは物事を客観的に見ることができる研究者であることがわかる(高齢者機能評価を浸透することに尽力している研究者でもある)。本研究では、根治目的の治療を実施する場合はGAMの費用対効果が悪いこと、緩和目的の治療を実施する場合はGAMの費用対効果が良いことが示された。もちろん費用対効果分析の研究にはlimitationが付き物であり、またサブグループ解析の結果をそのまま受け入れるべきではないが、この結果はある程度は臨床的にも理解可能である。すなわち、根治を目的とする治療ができるような高齢者は早期がんかつ元気であることが想定され、この集団はGAMに鋭敏に反応するかもしれない。たとえば、手術や根治的(化学)放射線治療などの根治を目的とする治療を実施する場合、早期のリハビリ(術前リハビリを含む)や栄養管理などはADLの自立に役立つだろうし、有害事象の予防・早期発見に役立つだろう。一方、緩和を目的とする治療を実施するような高齢者は進行がんかつフレイルな高齢者あることが想定され、この集団はGAMをしても反応が鈍いのかもしれない。GAMには人材や時間という医療資源もかかるため、GAMを導入する場合、優先順位は手術などを受ける患者から、という議論をする際の参考資料になりうる結果である。老年科医によるコーチングの有用性を評価した多施設ランダム化比較試験(G-oncoCOACH study: #120003))明鏡国語辞典によると、「コーチング」とは、「(1)教えること。指導・助言すること。(2)コーチが対話などのコミュニケーションによって対象者から目的達成のために必要となる能力を引き出す指導法。」とある。G-oncoCOACH studyは、「G(Geriatrician、老年科医)」が「oncoCOACH(腫瘍学も含めたコーチング)」することの有用性を検証したランダム化比較試験である。本試験はベルギーの2施設で実施された。主な適格規準は、70歳以上、固形腫瘍の診断を受け、がん薬物治療が予定されており(術前補助化学療法、術後補助化学療法は問わず、また分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬も対象)、余命6ヵ月以上と予測されている集団であった。登録後は、高齢者機能評価によるベースライン評価ができた患者のみが、標準診療群(腫瘍科医が主導して患者指導[コーチング]する診療)と試験診療群(老年科医が主導して患者指導[コーチング]する診療)にランダム化された。具体的には、標準診療群では、登録時に実施された高齢者機能評価の結果と非常に簡素なケアプランが提示されるのみで、それを実践するか否かは腫瘍科医に委ねられていた。一方、試験診療群では、登録時に実施された高齢者機能評価の結果と非常に詳細なケアプランが提示され、また老年科医チームによる集中的な患者指導、綿密なフォローアップにより、ケアプランを診療に実装し、再評価および継続できるようなサポートが徹底された。primary endpointはEORTC QLQ-C30のGlobal health status(GHS)。登録時から登録6ヵ月時点での臨床的に意味のある差を10ポイントと定義し、α5%(両側)、検出力80%とした場合の必要登録患者数は195例。ベースラインからの差として、3ヵ月、6ヵ月のデータを基に、6ヵ月時点の両群の最小二乗平均値を推定し、その群間差をベースラインの因子を含めて調整したうえでprimary endpointが解析された。結果として、背景因子で調整した登録時から登録6ヵ月後のGHSの変化は、標準診療群で-8.2ポイント、試験診療群で+4.5ポイントであり、その差は12.8ポイントであった(95%CI:6.7~18.8、p<0.0001)。この結果から、高齢がん患者の診療において、老年科医が患者指導(コーチング)をする診療を推奨すると結論付けている。いくら高齢者機能評価を実施して、それに対するケアプランを提示しても、それが実践されていなかったり継続的なサポートがなされていなかったりすれば意味がないだろう、という考えの下に行われた研究である。つまり、「腫瘍科医による患者指導(コーチング)」 vs.「老年科医による患者指導(コーチング)」を比較した試験ではあるが、その実、「ケアプランの実践と、その後のサポートを徹底するか否か」を評価している試験である。実際、本試験が実施されたベルギーでは、ケアプランを策定しても、それを日常診療に使用する腫瘍科医は46%程度と低いものだったようである。腫瘍科医に任せると完全にはケアプランが実践されないが、老年科医に任せればケアプランが実践され、継続性もサポートされるだろうということである(筆者が研究代表者から個人的に聞いた内容も含まれる)。結果、高齢者機能評価は単に実施するだけでは十分ではなく、その使い方に精通した医療者(本試験の場合は老年科医)がリーディングするのが良いというものであった。本邦には、がん治療に精通した老年科医が少ないため、現時点では「老年科医による患者指導(コーチング)」を取り入れるのは難しいだろう。しかし、腫瘍科医では想像できないような老年科医の「コツ」なるものがあるのは容易に想像できる。老年腫瘍を発展するために老年科医の存在は必須であり、老年科医らとの協働は引き続き進めてゆくべきであろう。日本発の高齢者機能評価+介入のクラスターランダム化比較試験(ENSURE-GA study: #4094))非小細胞肺がん患者を対象とした、高齢者機能評価+介入の有用性を患者満足度で評価した日本発のクラスターランダム化比較試験*である。*地域や施設を1つのまとまり(クラスター)としてランダム化する研究デザイン主な適格規準は、75歳以上、非小細胞肺がんの診断を受けている、根治的治療ができない、PS 0〜3、初回化学療法未実施、登録時の高齢者機能評価で脆弱性を有するとされた患者であった。本試験は、病床数とがん診療連携拠点病院の指定の有無および施設の所在地域で層別化し、同層の中で「施設」のランダム化が行われた。標準診療群は「通常の診療(高齢者機能評価の結果は医療者に伝えない)」、試験診療群は「高齢者機能評価の結果に基づき脆弱な部分をサポートする診療」である。primary endpointは、治療開始「前」の患者満足度(HCCQ質問指標で評価:35点満点[点数が高いほど満足度が高い])。必要患者登録数は1,020例であった。結果、治療開始「前」の患者満足度は、標準診療群で29.1ポイント、試験診療群で29.9ポイントであった(p<0.003)。米国の老年腫瘍学の大家にS. Mohileがいる。本試験は、彼女が2020年にJAMA oncologyに公表した試験の日本版である(がん種のみ異なる)5)。Mohileらの試験と同じとはいえ、「患者」ではなく「施設」をランダム化(クラスターランダム化)したところが本試験の特徴である。通常のランダム化、すなわち「患者」をランダム化する場合、同じ施設、同じ主治医が、異なる群に割り付けられた患者を診療する可能性がある。薬物療法の試験であれば、またprimary endpointが全生存期間などの客観的な指標であれば、この設定でも問題ないだろう。しかし、本試験のように、高齢者機能評価を実施するか否かを評価するような試験、また、primary endpointが主観的な指標である場合は、この設定だと問題が生じる可能性がある。すなわち、通常の「患者」をランダム化するデザインにすると、ある登録患者で高齢者機能評価の有用性を実感した医療者がいた場合、次の登録患者が標準診療群だとしても臨床的に高齢者機能評価を実施してしまうことはありうる(その逆もありうる)。そうなると、両群で同じことをしていることになり、その群間差は薄まってしまうのである。これを解決するのが「施設」のランダム化、すなわちクラスターランダム化であるが、その方法が煩雑であること、サンプルサイズが増えてしまうことなどから、それほど日本では一般的ではない6)。しかし、本試験では、クラスターランダム化デザインを選択したことにより、その科学性が高まったといえる。一方、primary endpointを治療開始「前」の患者満足度(HCCQ質問指標)としたことについては疑問が残る。Mohileらの試験でもprimary endpointを治療開始「前」の患者満足度にすることの是非は問われたが、老年腫瘍の黎明期でもあり、高齢者機能評価のエビデンスを蓄積するためにやむを得ないと考えていた。しかし、時代は変わり、高齢者機能評価のエビデンスが蓄積されつつある現在で、primary endpointを治療開始「前」の患者満足度にすることの意義は変わってくる。登録から治療開始前までに高齢者機能評価を実施し、それについてサポートを受けられるのであれば、患者の満足度が高いことは自明であろう。また、本試験では、HCCQの群間差は0.8ポイントであるが、この差が臨床的に意味のある差か否かは不明である。さらに、ポスターに掲載されているFigureを見る限り、登録3ヵ月後のHCCQは両群で差がないように見える。しかし、本邦から1,000例を超す老年腫瘍のクラスターランダム化比較試験が発表されたことは称賛に値する。参考1)Cost-utility of geriatric assessment in older adults with cancer: Results from the 5C trial2)Impact of Geriatric Assessment and Management on Quality of Life, Unplanned Hospitalizations, Toxicity, and Survival for Older Adults With Cancer: The Randomized 5C Trial3)A multicenter randomized controlled trial (RCT) for the effectiveness of Comprehensive Geriatric Assessment (CGA) with extensive patient coaching on quality of life (QoL) in older patients with solid tumors receiving systemic therapy: G-oncoCOACH study4)Satisfaction in older patients by geriatric assessment using a novel tablet-based questionnaire system: A cluster-randomized, phase III trial of patients with non-small-cell lung cancer (ENSURE-GA study; NEJ041/CS-Lung001)5)Communication With Older Patients With Cancer Using Geriatric Assessment: A Cluster-Randomized Clinical Trial From the National Cancer Institute Community Oncology Research Program6)小山田 隼佑. “クラスター RCT”. 医学界新聞. 2019-07-01. (参照2023-07-03)

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適度な飲酒で心血管リスクが低減する理由とは?

 適度な飲酒が心臓の健康に良いことは多くの研究で示唆されているが、その理由については明らかになっていない。こうした中、飲酒には脳をリラックスさせる効果があり、それが主要心血管イベント(MACE)発生リスクの低下をもたらしている可能性が、新たな研究で示された。米マサチューセッツ総合病院(MGH)心血管イメージング研究センターのAhmed Tawakol氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of the American College of Cardiology」6月号に掲載された。 適度な飲酒とは、一般に、男性では1日2杯以下、女性では1日1杯以下の飲酒とされている〔注:日本での適度な飲酒は純アルコール20g(ビール500mL相当)程度で、女性ではその半分程度にとどめることが推奨されている〕。ただし、このような節度ある飲酒は心臓の健康に良い可能性があるとはいえ、健康増進のために飲酒が勧められることはない。なぜなら、アルコールには乱用や依存のリスクがあるほか、がん発症リスクの増加など健康に悪影響を及ぼす可能性もあるからだ。Tawakol氏は、「飲酒量に安全なレベルなどない」と強調する。 今回の研究でTawakol氏らは、適度な飲酒がなぜ心血管リスクの低減につながるのか、その理由を探ろうとした。対象者は、Mass General Brigham Biobankへの参加者5万3,064人(平均年齢60歳、女性60%)。このうちの713人は、主にがんのサーベイランスのために、18F-FDG(18F-フルオロデオキシグルコース)を用いたPETによる脳検査を受けていたため、ストレスに関連する脳内の神経ネットワークの活性(stress-related neural network activity;SNA)の評価が可能だった。対象者を1週間のアルコール摂取量に応じて、1杯未満の「飲まない/最低限の飲酒」、1〜14杯の「軽度/適度の飲酒」、14杯超の「大量飲酒」に分類したところ、2万3,920人が「飲まない/最低限の飲酒」、2万7,053人が「軽度/適度の飲酒」に該当した。 中央値3.4年にわたる追跡期間中に1,914人にMACEが生じた。解析からは、心血管リスク因子を調整した後でも、「飲まない/最低限の飲酒」に比べて「軽度/適度の飲酒」ではMACE発生リスクが22%弱低いことが示された(ハザード比0.786、95%信頼区間0.717〜0.862、P<0.0001)。一方、脳の検査を受けた713人を対象にした解析からは、「飲まない/最低限の飲酒」に比べて「軽度/適度の飲酒」はSNAの減少、具体的にはストレス反応に重要な役割を果たしている扁桃体でのシグナル伝達が有意に減少することが明らかになった。また、SNAの減少は「軽度/適度の飲酒」がMACEリスクを低下させる効果の一部を媒介していることも示された。 周囲からの脅威に対して適切に反応するためには、扁桃体を抜け目なく働かせる必要がある。しかし、扁桃体が常に活発に活動していると、血圧の上昇や血管の炎症などが生じて心血管系に負担をかけることになると研究グループは説明している。 今回の研究には関与していない、米National Jewish Healthで心血管疾患の予防とウェルビーイングを指導するAndrew Freeman氏は、「この研究の興味深い点は、ストレス軽減の重要性を指摘していることだ」と話す。そして、「アルコールのような害をもたらすことのない別のもので、今回の研究結果を再現できるだろうか」と疑問を呈した上で、「マインドフルネスの実践や運動なら再現できる可能性が高い」との考えを示している。Tawakol氏もFreeman氏と同様の考えを持っており、同氏らは実際に、運動とマインドフルネスに基づくストレス軽減の効果を研究している最中だという。 Tawakol氏はこの研究結果から伝えたいメッセージとして、「脳と心臓のつながり」の重要性と、ストレス要因への健康的な対処法を持つことの大切さを挙げている。

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質の高い保育は高校でのSTEM科目の良好な成績と関連

 乳幼児期に質の高い保育を受けた小児は、高校生のときの科学、技術、工学、数学(STEM)科目の成績が良好であり、特に低所得世帯の小児でその傾向が強いという研究結果が、米カリフォルニア大学アーバイン校のAndres S. Bustamante氏らにより、「Developmental Psychology」に6月15日掲載された。Bustamante氏は、「この結果は、STEM分野での成功につながる強力な基盤が、乳幼児期の保育の質により形成され得ることを示唆するものだ」と述べている。 低所得世帯の小児では、質の高い保育が、学校で学ぶための心身の準備性(レディネス)と関連することが、過去の研究で示されている。しかし、質の高い保育が高校でのSTEM科目の成績に及ぼす影響を検討した研究はほとんどない。 今回の研究では、米国立小児保健・人間発達研究所(NICHD)が実施した発達初期の保育と小児の発育に関する研究に、小児が出生した1991年から2006年まで参加した979家族のデータが用いられた。同研究では、訓練を受けた観察者が、対象小児が月齢6、15、24、36、54カ月のときに、小児の保育園や幼稚園、在宅保育の現場を1週間当たり10時間以上訪れて、保育について以下の2点の観点で評価を行った。それは、1)保育者がどの程度思いやりのある支援的な環境を提供し、またどの程度小児の興味や感情に反応しているか、2)保育者が、多様な言葉や表現の使用、小児の考えを探るための質問出し、概念に対する小児の理解を深めるためのフィードバックの提供を通して、どの程度子どもに認知刺激を与えているか、の2点だった。 その後、対象小児の小学校と高校(15歳時)でのSTEM科目の成績を調べた。具体的には、小学校での成績は、3年生から5年生までの数学と論理的思考の共通テストの点数を調べ、高校での成績は、共通テストの点数、科学と数学の上級コースの修了状況とGPA(Grade Point Average;成績評価の平均値)を調べた。その上で、乳幼児期の保育の質と高校でのSTEM科目の成績との関連について検討した。 その結果、小児が受け取る認知刺激が多く、また保育者の感受性と応答性が高い保育環境は、小学校3年生から5年生の間のSTEM科目の良好な成績の予測因子であり、それがひいては高校でのSTEM科目の良好な成績の予測因子になることが明らかになった。また、保育者の高い感受性や応答性と、高校でのSTEM科目の良好な成績の関連は、高所得世帯の小児よりも低所得世帯の小児でより強いことも示された。 Bustamante氏は、「われわれの立てた仮説は、認知刺激がSTEM科目の成績とより強く関連するというものだった。なぜなら、保育者と小児との間のそのようなやりとりが、STEM学習で鍵となる探求心や探究心の基礎となるからだ。しかし、この研究では、保育者の高い感受性と応答性も、認知刺激と同程度にSTEM科目の良好な成績を予測する因子であることが示された。この結果は、小児の社会的感情の発達と、認知的スキルおよび社会感情的スキルをサポートする環境の重要性を強調している」と述べている。 その上でBustamante氏は、「今回の研究により、幼児期に保育者が与える認知刺激、および保育者の感受性と反応性は、特に低所得世帯の小児にとっては、STEM分野に進んで良好な成績を得るためのパイプラインであり、その強化のために投資すべき分野であることがはっきりと示された」と結論付けている。

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英語で「避妊薬」は?【1分★医療英語】第89回

第89回 英語で「避妊薬」は?There are several methods of contraception.(いくつかの避妊方法があります)I prefer oral contraceptives.(経口避妊薬がいいです)《例文1》How effective are the contraceptive devices?(避妊具の成功率はどれくらいですか?)《例文2》Most contraceptive pills contain a combination of estrogen and progestin.(多くの避妊薬にはエストロゲンとプロゲスチンが含まれています)《解説》“contraception”(避妊)の語源は前置詞の“contra”(妨げる)と名詞の“conception”(妊娠・受胎)を合わせたものです。さらに“-ive”を付けると“contraceptives”(避妊具・避妊薬)を意味します。避妊薬は“birth control pill”とも表現します。例文にありますが、ホルモンの“estrogen”は日本語では「エストロゲン」ですが、英語の発音は「エストロジェン」(「エ」にアクセント)とかなり異なります。同様に“progestin”は「プロゲスチン」ではなく「プロジェスティン」(「ジェ」にアクセント)です。日本でもアフターピルの市販化について議論がされていますね。アフターピルは日本語と同じように“after pill”、“morning after pill”とも言いますが、“emergency contraceptive pill”(緊急避妊薬)、あるいは有名な商品名から“Plan B”(Plan B One-Stepという緊急避妊薬がある)と表現することもあります。米国の全州でアフターピルは薬局やオンラインで処方箋なしに「OTC(over-the-counter)薬」として購入できます。また、私のいるカリフォルニアでは2016年より薬剤師の権限が広がり、通常の避妊薬も薬局で薬剤師から購入できるようになりましたが、これは「BTC(behind-the-counter)薬」扱いとなっています。BTCとは言葉どおり「カウンターの後ろ」に置かれる薬剤であり、年齢や量を確認したうえでないと販売できない仕組みです。素早くアクセスできることが大事である“emergency contraception”や“immunization”(ワクチン接種)などは、日本でも薬局での販売や実施が早期に実現すればよいと思います。講師紹介

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ASCO2023 レポート 消化器がん

レポーター紹介本年も世界最大級の腫瘍学学会の1つであるASCO2023が、6月2日から6日に現地米国シカゴとオンラインのハイブリッドで開催された。消化器がんの注目演題について、いくつか取り上げていきたい。ATTRACTION-5: A phase 3 study of nivolumab plus chemotherapy as postoperative adjuvant treatment for pathological stage III (pStage III) gastric or gastroesophageal junction (G/GEJ) cancer. #4000本試験は胃切除術+D2郭清以上の手術を受けたStageIIIの胃がんもしくは食道胃接合部がんに対する術後治療として、化学療法に対するニボルマブの上乗せを検証した第III相試験であり、本邦の静岡県立がんセンターの寺島先生より報告された。主要評価項目は中央判定の無再発生存期間、副次評価項目は研究者判定の無再発生存期間、全生存期間(OS)および安全性であった。日本、韓国、台湾、中国の東アジアの4ヵ国から755例が登録され、377例が化学療法+ニボルマブ群に、378例が化学療法群に登録された。患者背景は65歳以上が約40%、男性が約70%、PS0が約80%、StageIIIA〜Cが3分の1ずつ、胃全摘が43%、病理diffuse typeが56%、日本からの登録が48%あった。化学療法の内訳はS-1が35%でcapeOXが65%、PD-L1発現(腫瘍における発現)は1%以上が10%程度で、両群の患者背景に偏りは認められなかった。主要評価項目である中央判定の3年無再発生存率は、化学療法+ニボルマブ群で68.4%、化学療法群で65.3%と統計学的な有意差を認めなかった(HR:0.90、95%CI:0.69〜1.18、p=0.4363)。サブグループ解析ではニボルマブの上乗せ効果はPS0、食道胃接合部/噴門部、StageIIIA/IIIB、intestinal typeおよびS-1群で乏しい傾向があった。副次評価項目である研究者判定の3年無再発生存率は64.9% vs.59.3%(HR:0.87、95%CI:0.69〜1.11)、3年生存率が81.5%vs.78.0%(HR:0.88、95%CI:0.66〜1.17)であった。新規の有害事象は認められなかった。Perioperative PD-1 antibody toripalimab plus SOX or XELOX chemotherapy versus SOX or XELOX alone for locally advanced gastric or gastro-oesophageal junction cancer: Results from a prospective, randomized, open-label, phase II trial.  #4001前述のATTRACTION-5試験に続き、中国から周術期化学療法における抗PD-1抗体薬の上乗せを探索したランダム化第II相試験が報告された。本研究ではcT3a-4aでN因子陽性かつM0の胃がんおよび食道胃接合部がんを対象にして、SOXもしくはcapeOXに抗PD-1抗体薬であるtoripalimabを上乗せする試験であった。通常治療群は術前治療としてcapeOX/SOXを3コース、術後にcapeOX/SOXを5コース行った。試験治療群は周術期capeOX/SOXにtoripalimabを上乗せした後に、6ヵ月間toripalimab単剤が継続された。主要評価項目はtumor regression grade rate(TRG rate)でTRG0(腫瘍細胞なし)もしくはTRG1(1細胞もしくは小グループの腫瘍細胞残存)の割合であり、副次評価項目は原発巣の病理学的完全奏効率、完全切除率、無再発生存率、event free survival、全生存期間および安全性であった。各群54例、108例が登録され、今回、主要評価項目のTRG rateと安全性が報告された。化学療法+toripalimab群と化学療法群の割合は、食道胃接合部がんでは31%と37%、diffuse typeでは33%と37%、cT3では39%と31%、cN3では22%と11%、SOX治療群では61%と46%であった。TRG rateは試験治療群44%、通常治療群20%であり、試験治療群で統計学的に有意な改善を認めた(p=0.01)。また、化学療法+toripalimab群でのTRG rateの上乗せは、腫瘍部位や病理Lauren分類にかかわらず認められた。術後の病理学的評価を見ると、ypT0~2の割合は、化学療法+toripalimab群46%、化学療法群22%と、化学療法+toripalimab群で良い傾向を認めたが、yp0~1の割合は57% vs.59%と大きな差は認められなかった。周術期合併症や治療強度は両群に有意差はなかった。有害事象について見ると、免疫関連有害事象は化学療法群に比べ、化学療法+toripalimab群で多く認めたが(全Gradeでは13% vs.2%、Grade3以上では2% vs.0%)、重篤な治療関連有害事象に関しては大きな差がなかった(Grade3/4で36% vs.30%)。胃がんにおける今学会の注目演題は周術期の試験である。ATTRACTION-5は胃がんにおいて最も注目されていた発表だったが、StageIII胃がんにおける術後化学療法へのニボルマブの上乗せ効果は認められなかった。現在、周術期の免疫チェックポイント阻害薬の併用療法は多数行われている。この試験では、術前化学療法への免疫チェックポイント阻害薬toripalimabの上乗せによって、TRG rateは改善を認めた。しかし本研究はまだ観察期間が短く、無再発生存期間や全生存期間のデータはない。欧米では周術期のFLOT療法にアテゾリズマブの上乗せを検証するDANTE試験、FLOT療法にデュルバルマブの上乗せを検証するMATTERHORN試験などが行われている。DANTE試験は2022年のASCOで中間解析が報告され、副次評価項目であるTRG rateはPD-L1がCPSで高値の群やMSI-High集団で、アテゾリズマブの上乗せ効果が強く認められた。またMSI-Highの胃がんの術前治療としてイピリムマブ+ニボルマブの有効性を探索した第II相試験(GERCOR NEONIPIGA)も行われており、pCR率58.6%、TRG1は73%で認められている。今回の両研究ではバイオマーカー解析の結果はないため、今後の解析が待たれる。また、周術期化学療法へのペムブロリズマブの上乗せ効果を検証するKEYNOTE-585試験において、病理学的完全奏効率は有意に改善したものの、主要評価項目であるevent free survivalは統計学的有意な改善が示されなかったことが、MSD社のプレスリリースで報告された。現在進行中の試験も、いまだ全生存期間や無再発生存期間のデータはないため、今後、周術期治療の免疫チェックポイント阻害薬が胃がん患者の本当の予後改善につながるのかも含め、いずれの試験においても慎重な検討が必要であると考えられる。Liposomal irinotecan + 5-fluorouracil/leucovorin + oxaliplatin (NALIRIFOX) versus nab-paclitaxel + gemcitabine in treatment-naive patients with metastatic pancreatic ductal adenocarcinoma (mPDAC): 12- and 18-month survival rates from the phase 3 NAPOLI 3 trial. #40062023年のASCO-GI で発表されたNAPOLI-3試験において、リポソーマルイリノテカン+5-FU+レボホリナート療法のNALIRIFOX療法は、主要評価項目の全生存期間中央値11.1ヵ月vs.9.2ヵ月と、ゲムシタビン+ナブパクリタキセル(GnP)療法に対する統計学的に有意な改善が報告された。今回、追加解析の結果がASCO2023で報告された。主要評価項目である全生存期間は11.1ヵ月vs.9.2ヵ月(HR:0.83、p=0.04)であり、12ヵ月生存率は45.6% vs.39.5%、18ヵ月生存率は26.2% vs.19.3%と、いずれもNALIRIFOX群で良好な結果であった。事前に設定されたサブグループ解析結果も報告され、PS、肝転移の有無、年齢にかかわらず無増悪生存期間と全生存期間の双方でNALIRIFOX療法の有効性が示された。重篤な有害事象については骨髄抑制には大きな差はないものの、Grade3/4の有害事象で下痢(20.3% vs.4.5%)、嘔気(11.9% vs.2.6%)、低K血症(15.1% vs.4.0%)などがNALIRIFOX群で多い傾向であった。本研究よりNALIRIFOX療法はGnP療法への優越性が示されているが、ディスカッサントも触れていたように、有効性はFOLFIRINOX療法の第III相PRODIGE/ACCORD試験と同等で(全生存期間11.1ヵ月、12ヵ月生存率48.4%および18ヵ月生存率18.6%)、下痢はNALIRIFOXでより高率であった。NALIRIFOX療法の有効性と安全性に関する本邦のデータはないが、使用対象は全身状態良好な症例になると思われる。本邦における現状を考えると、全身状態の良好な膵がん症例にはGnP療法およびFOLFIRINOX療法(もしくはリポソーマルイリノテカン+5-FU+レボホリナート)を使い切る戦略を考慮することが肝要と考える。NALIRIFOX療法については、今後、QOLやバイオマーカー解析の結果も待たれる。Tucatinib and trastuzumab for previously treated HER2-positive metastatic biliary tract cancer (SGNTUC-019): A phase 2 basket study.  #4007Results from the pivotal phase (Ph) 2b HERIZON-BTC-01 study: Zanidatamab in previously-treated HER2-amplified biliary tract cancer (BTC).  #4008今回、HER2陽性の胆道がんに対して2つの研究が発表された。1つ目のSGNTUC-019試験は、国立がん研究センター東病院の中村先生より報告された。本研究は、HER2陽性例に対するHER2 チロシンキナーゼ高選択的経口阻害薬であるtucatinibとトラスツズマブの併用療法の有効性を探索する、臓器横断的なバスケット試験(第II相試験)における胆道がんコホートの報告である。対象は、抗HER2療法の既往がない1レジメン以上の全身化学療法を受けた、病理組織でIHC/FISHでHER2陽性症例もしくは組織か血液におけるNGS検査でHER2増幅を認めた症例であり、30例が登録された。奏効率は46.7%、病勢制御率は76.7%、無増悪生存期間中央値は5.5ヵ月で、全生存期間中央値は15.5ヵ月であった。主なGrade3以上の有害事象は嘔気、食欲不振および胆管炎であった。zanidatamabはHER2タンパクの細胞外ドメインであるECD2とECD4の2ヵ所に結合するbispecific antibodyで、前臨床研究ではトラスツズマブとペムブロリズマブの併用療法よりも期待される有効性を示した。HERIZON-BTC-01試験はゲムシタビンを含むレジメンに不応となり、中央判定で組織学的にHER2陽性と判定された胆管がんを対象にzanidatamabの有用性を探索した第II相試験である。80例が登録され、奏効率は41.3%、病勢制御率は68.8%、無増悪生存期間中央値は5.5ヵ月であった。主なGrade3以上の有害事象は下痢、心機能低下および貧血であった。HER2高発現の胆道がんは5~30%程度といわれており、注目される治療標的の1つである。バスケット型試験であるMyPathway試験のHER2陽性胆道がんコホートでは、ペルツズマブ+トラスツズマブで奏効率が23.1%と報告されている。また、昨年のASCO2022では、本邦からトラスツズマブ デルクステカンの第II相試験(HERB試験)も報告され、奏効率は36.4%であった。今回の新たな2つの治療もHER2陽性例に対し有用性を示したことから、胆道がんにおける抗HER2療法の一日も早い臨床導入が期待される。PROSPECT: A randomized phase III trial of neoadjuvant chemoradiation versus neoadjuvant FOLFOX chemotherapy with selective use of chemoradiation, followed by total mesorectal excision (TME) for treatment of locally advanced rectal cancer (LARC) (Alliance N1048). #LBA2ASCO2023消化器がんにおける、唯一のplenary session発表である。欧米では遠隔転移を伴わない進行直腸がんに対する標準治療は、術前化学放射線療法、Total Mesorectal Excision(TME:直腸間膜全切除)を伴う手術、そして術後補助化学療法である。しかし、術前化学放射線療法に伴う晩期毒性(腸管・膀胱・性機能障害、骨盤骨折、2次発がんなど)も問題となっていた。今回、cT2でN因子陽性もしくはcT3の直腸がんに対する術前治療として、骨盤内化学放射線療法(50.4Gy)群に対するFOLFOX±選択的化学放射線療法群の非劣性を検証するランダム化第III相試験(PROSPECT試験)が報告された。主要評価項目は無再発生存期間、副次評価項目は局所再発率、全生存期間、R0切除率、病理学的完全奏効率、PROによる毒性、QOLであった。非劣性マージンは片側α0.049、power85%で、1.29と設定された。対象群では術前化学放射線療法後に手術と術後補助化学療法が施行された。試験治療群では、FOLFOX6サイクル施行後20%以上の腫瘍縮小が得られた症例には、手術と術後化学療法が、腫瘍縮小20%未満およびFOLFOX不耐例には、術前化学放射線療法が施行され、その後手術と術後補助化学療法が行われた。FOLFOX±選択的化学放射線療法群に585例、化学放射線療法群に543例が登録された。患者背景に大きな偏りはなく、術前MRI施行例は84%、cT3N(+)症例が約50%、肛門縁から腫瘍までの距離は中央値で8cmであった。5年無再発生存率はFOLFOX±選択的化学放射線療法群で80.8%、化学放射線療法群で78.6%であり、非劣性マージンの1.29を95%信頼区間の上限が超えず、統計学的有意に非劣性が証明された(HR:0.92、95%CI:0.74〜1.14)。また、年齢とN因子の有無で調整しても同様に非劣性が証明された。局所再発なしに5年生存した症例の割合は、FOLFOX±選択的化学放射線療法群で98.2%、化学放射線療法群で98.4%、5年生存率は89.5%と90.2%であった。病理学的完全奏効率はFOLFOX±選択的化学放射線療法群で22%、術前化学放射線療法群で24%であった。術後化学療法も両群とも約80%で施行された。また、FOLFOX±選択的化学放射線療法で化学放射線療法を受けた症例は9%であった。術前治療における毒性は、FOLFOX±選択的化学放射線療法群で倦怠、嘔気、食欲不振などが多く、化学放射線療法群では下痢が多かった。QOLに関する有意差はなく、腸管機能や性機能に関してはFOLFOX±選択的化学放射線療法群で良好であった。以上の結果より、cT2N(+)、cT3N(-)、cT3N(+)症例に対してFOLFOX±選択的化学放射線療法は治療選択肢の1つとなりうると報告された。今回の報告では、FOLFOX±選択的化学放射線療法群では、約90%の症例で術前化学放射線療法を回避できた。腸管機能や性機能への影響も軽減されている。本研究の適格基準を満たす直腸がんの術前治療として、FOLFOX±選択的化学放射線療法は治療選択肢となりうる。ただ、cT4症例、リンパ節転移が本試験の基準より高度であるなど、さらに進行した局所直腸がんでの有効性は明らかではない。より進行した局所進行直腸がんに対しては放射線療法も含めたTotal Neoadjuvant Therapy(TNT)が注目されている。本邦でも、T3〜4/N(-)もしくはTanyN(+)の局所進行直腸がんに対して、short courseの放射線治療(5Gy×5回)からcapeOXを行う群とcapeOXIRIを行う群を比較するランダム化第III相試験(ENSEMBLE試験)が進行している。TNTでは、化学療法と放射線療法を組み合わせて行うことにより手術を避けるNon Operative Management(NOM)も注目されており、局所進行直腸がんに対する、さらなる治療開発が期待される。Efficacy of panitumumab in patients with left-sided disease, MSS/MSI-L, and RAS/BRAF WT: A biomarker study of the phase III PARADIGM trial. #3508最後に、本邦で行われたPARADIGM試験のバイオマーカー解析について報告する。RAS/BRAFのみならずMSIのステータスも含めて解析された結果であり、より実臨床に近い対象に絞った報告であった。MSI-HighもしくはRAS/BRAF変異を認める症例は、左側で10.3%、右側で43.2%と、右側で多く認められ、治療開始前のctDNAのBRAF V600E変異も左側4.3%、右側31.3%と、右側で多く認められた。左側のMSSかつRAS/BRAF変異野生型の全生存期間は、FOLFOX+パニツムマブ群40.6ヵ月に対しFOLFOX+ベバシズマブ群34.8ヵ月と、パニツムマブ群で良好であったが、MSI-HighもしくはRAS/BRAF変異型では15.4ヵ月 vs.25.2ヵ月と、ベバシズマブ群で良好であった。右側でもMSSかつRAS/BRAF野生型では全生存期間37.9ヵ月 vs.30.9ヵ月および奏効率70.7% vs.63.6%とパニツムマブ群で良好であったが、MSI-HighもしくはRAS/BRAF変異型では全生存期間13.7ヵ月 vs.17.9ヵ月および奏効率37.8% vs.69.4%と、ベバシズマブ群で良好であった。PFSも左側、右側にかかわらず、MSI-HighもしくはRAS/BRAF変異型ではベバシズマブ群で良好な傾向があった。奏効率もMSI-HighもしくはRAS/BRAF変異型では左側、右側にかかわらず、ベバシズマブ群で統計学的有意に高かった。本結果より、抗EGFR抗体薬を使用する前にRAS/BRAF変異のみならずMSIを測定することが重要であることが示唆される。また本研究を含め複数の研究で、組織検査のRASは野生型であっても、ctDNAでRAS変異を認める症例が10%程度存在することが示唆され、このような症例では抗EGFR抗体薬の効果が乏しいことが、PARADIGM試験を含め報告されている。将来的には組織だけでなく、ctDNAによるゲノム検査が治療前に行えるようになることが期待される。

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第172回 long COVIDと関連する遺伝子領域を同定

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後症状(long COVID)と関連する6番染色体の遺伝子領域が見つかりました。16ヵ国での24試験のlong COVID患者6千人超(6,450人)とそうでない約110万人(1,09万3,995人)が全ゲノム関連解析(GWAS)で検討され、ほぼどの組織でも発現することが知られる転写因子FOXP4の遺伝子領域rs9367106地点の塩基がシトシン(rs9367106-C)の人のlong COVIDの発現率はそうでない人に比べて1.6倍高いことが示されました1,2)。rs9367106地点とlong COVIDの関連はFOXP4遺伝子発現の変化を介するらしく、遺伝子発現データベースGTExを解析したところrs9367106-Cの代理役rs12660421-Aと肺や脳の視床下部のFOXP4遺伝子発現亢進の関連が認められました。先立つ研究でFOXP4とCOVID-19重症度の関連が示されています。今回の研究でも同様の結果が得られており、COVID-19重症度がlong COVID発生におそらく一枚かむことがさらに裏付けられました。ただし、FOXP4遺伝子座とlong COVIDの結び付きはより強く、重症度だけで説明がつくものではなく、重症度とは独立したFOXP4とlong COVIDの関連がどうやら存在するようです。long COVIDの快復のほどは?世界の少なくとも6,500万人がlong COVIDを患っており、その数は日々増えています3)。頭痛、疲労、脳のもやもやなどの症状を特徴としますが、long COVIDの定義はいまだに議論されています。上述したような遺伝子解析の成果が出始めてはいるもののlong COVIDの生理学的な仕組みもこれから調べていく必要があります。しかしわかってきたこともあります。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が世界に広まり始めてから3年以上が過ぎ、long COVID患者のどれほどが快方に向かうかの目安となる試験結果2つがこの5月に報告されています。5月25日にJAMA誌に掲載された報告では米国の成人約1万人が調べられ、感染から6ヵ月時点でlong COVIDだった人の3人に1人が9ヵ月時点ではlong COVIDを脱していました4)。その約1週間後の5月31日にBMJ誌に掲載された別の報告はワクチン普及前にSARS-CoV-2感染した成人約千人の追跡結果です。それら感染者のうち5人に1人を超える22.9%は感染から6ヵ月経っても不調が続いていましたが、1年後のその割合は5人に1人に満たない18.5%に低下しました5)。2年後の不調患者の割合は17.2%であり、1年後とあまり変わりませんでした。すなわち感染から1年経つと不調の解消は頭打ちとなるようです。感染から1年後までは快方がより期待できるものの1年を過ぎるといよいよ慢性病態に陥るとBMJ報告の著者は言っています6)。参考1)Genome-wide Association Study of Long COVID. July 01 2023. medRxiv.2)Gene linked to long COVID found in analysis of thousands of patients / Nature3)Davis HE, et al. Nat Rev Microbiol. 2023;21:133-146.4)Thaweethai T, et al. JAMA. 2023;329:1934-1946.5)Ballouz T, et al. BMJ. 2023;381:e074425.6)Long COVID: answers emerge on how many people get better / Nature

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GIP/GLP-1/グルカゴン受容体作動薬retatrutideの有効性・安全性/Lancet

 2型糖尿病患者の治療において、グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)、グルカゴン様ペプチド1(GLP-1)、グルカゴンの3つの受容体の作動活性を有する新規単一ペプチドretatrutideは、プラセボと比較して、血糖コントロールについて有意かつ臨床的に意義のある改善を示すとともに、頑健な体重減少をもたらし、安全性プロファイルはGLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬とほぼ同様であることが、米国・Velocity Clinical Research at Medical CityのJulio Rosenstock氏らの検討で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年6月26日号で報告された。米国の無作為化プラセボ/実薬対照第II相試験 本研究は、米国の42施設が参加した二重盲検無作為化ダブルダミー・プラセボ/実薬対照第II相試験であり、2021年5月~2022年6月の期間に患者のスクリーニングと無作為化が行われた(Eli Lilly and Companyの助成を受けた)。 年齢18~75歳、HbA1c値7.0~10.5%(53.0~91.3mmol/mol)、BMI値25~50の2型糖尿病患者が、スクリーニング前の少なくとも3ヵ月間、食事療法と運動療法のみの治療、または安定用量のメトホルミン(≧1,000mg、1日1回)による治療を受けた後、次の8つの群(いずれも週1回皮下投与)に、2対2対2対1対1対1対1対2の割合で無作為に割り付けられた。 (1)プラセボ、(2)デュラグルチド1.5mg、(3)retatrutide 0.5mg、(4)同4mg(開始用量2mg)、(5)同4mg(漸増せず)、(6)同8mg(開始用量2mg)、(7)同8mg(開始用量4mg)、(8)同12mg(開始用量2mg)。 主要エンドポイントは、ベースラインから24週時点までのHbA1cの変化であり、副次エンドポイントには、36週時点までのHbA1cおよび体重の変化が含まれた。 281例が登録され、プラセボ群に45例、デュラグルチド1.5mg群に46例、retatrutide 0.5mg群に47例、同4mg漸増群に23例、同4mg群に24例、同8mg緩徐漸増群に26例、同8mg急速漸増群に24例、同12mg漸増群に46例が割り付けられた。全体の平均年齢は56.2(SD 9.7)歳、女性が156例(56%)で、平均糖尿病罹患期間は8.1(SD 7.0)年、白人が235例(84%)であり、平均HbA1cは8.3%(SD 1.1)、平均BMI値は35.0(SD 6.3)、平均体重は98.2kg(SD 21.1)であった。脂質プロファイルを改善し、血圧を低下させる効果も 24週時におけるHbA1cのベースラインからの最小二乗平均変化は、プラセボ群が-0.01%(SE 0.21)、デュラグルチド1.5mg群が-1.41%(0.12)であったのに対し、retatrutide 0.5mg群は-0.43%(0.20)、4mg漸増群は-1.39%(0.14)、4mg群は-1.30%(0.22)、8mg緩徐漸増群は-1.99%(0.15)、8mg急速漸増群は-1.88%(0.21)、12mg漸増群は-2.02%(0.11)であった。 retatrutideによるHbA1cの低下は、プラセボ群と比較して0.5mg群を除く5つの群で有意に大きく(いずれもp<0.0001)、デュラグルチド1.5mg群との比較では8mg緩徐漸増群(p=0.0019)と12mg漸増群(p=0.0002)で有意に大きかった。36週時にも、これらと一致した知見が得られた。 また、体重は36週の時点でretatrutideの用量依存性に減少し、減少率は0.5mg群3.19%(SE 0.61)、4mg漸増群7.92%(1.28)、4mg群10.37%(1.56)、8mg緩徐漸増群16.81%(1.59)、8mg急速漸増群16.34%(1.65)、12mg漸増群16.94%(1.30)であった。プラセボ群の体重減少率は3.00%(0.86)、デュラグルチド1.5mg群は2.02%(0.72)だった。 体重減少は、プラセボ群と比較してretatrutideの用量が4mg以上の群ではいずれも有意に大きく(4mg漸増群:p=0.0017、これ以外のすべての群:p<0.0001)、デュラグルチド1.5mg群との比較でも4mg以上の群で有意に大きかった(いずれもp<0.0001)。 軽度~中等度の消化器系の有害事象(吐き気、下痢、嘔吐、便秘など)が、retatrutide群の35%(67/190例、0.5mg群の13%[6/47例]から8mg急速漸増群の50%[12/24例]までの範囲)、プラセボ群の13%(6/45例)、デュラグルチド1.5mg群の35%(16/46例)で発現した。試験期間中に重篤な低血糖の報告はなく、死亡例もなかった。 著者は、「同時に、retatrutideは脂質プロファイルを改善し、血圧を低下させ、心代謝系のアウトカムを全般的に改善した」とし、「これら第II相試験の知見は、2型糖尿病および他の肥満関連合併症を有する肥満患者を対象とする第III相試験において、retatrutideの有効性と安全性をさらに検討することを支持するものである」と指摘している。

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36歳で脳卒中を体験したエクササイズインストラクター―AHAニュース

 米国人女性、Jessica Diazさんは、エクササイズ教室に通い始めてからの自分の体調の変化に驚いた。そのエクササイズは、約1kgの重りを使いながら、ヨガやピラティス、バレエなどを組み合わせた動作を行うものだった。ほかの人たちにはかなりの疲労となる運動だが、彼女はレッスン後にいつも新たな活力を感じていた。 それが変わったのは第二子を出産してからだった。妊娠中に体重が約36kg増え、そのような出産直後の体にはこのエクササイズは適していないと感じた。そこでDiazさんは減量を行い、さらには自分自身がインストラクターとなって、ボストンのスタジオやオンラインで指導するまでになった。そして約1年後には元の体重に戻り、以前にも増して健康的になっていた。そのため、ある日、クラスの指導後に起きたことは彼女にとって不可解なことだった。 Diazさんはシャワーを浴びている最中に、体の左半身に鋭い痛みを感じた。左腕に力が入らず、足はビリビリしびれた。浴槽の段差をどうにかまたいだ後、激しい頭痛に襲われた。「それまでに経験したどの片頭痛よりも、10倍ひどかった」と彼女は語る。症状が治まるのを期待して数時間安静にしていたが、改善しないため救急外来を受診した。 医師の診断は脳卒中だった。「私は当時、脳卒中は高齢者か、何かしら病気のある人にしか起こらないと思っていた。36歳でも脳卒中が起きることがあるという事実を受け入れるには時間を要した」と彼女は振り返る。いつ帰宅できるかを医師に尋ねると、リハビリ施設での入院も含めて約5週間との予測だった。夫や幼い2人の子どもが心配になり、涙があふれるのを止められなかった。 ところがすぐに状況が変わった。翌朝目覚めると、症状は消失しており、わずか4日の入院で自宅へ戻ることができた。詳しい検査の結果、Diazさんに起きた脳卒中は、彼女が生まれた時から潜んでいた二つの問題によるものの可能性が高いと判明した。問題の一つは、血栓が形成されやすくなる第V因子ライデンという遺伝子変異であり、もう一つは卵円孔開存症(PFO)だった。PFOは、通常は出生後に塞がれる心房中隔の一部が開いたままになっている状態であり、どこかに血栓が形成された場合はそれが脳に到達しやすくなる。 数カ月後、Diazさんは、メッシュを用いてPFOを閉鎖する手術を受けた。術後に医師は、メッシュが安定するまで数カ月間は激しく動き回らないようにアドバイスをした。ただし、彼女にそれを説得する必要はなかった。Diazさんは脳卒中の再発が心配で、医師のアドバイスを守らないなど思いもよらないことだった。数日後に彼女はめまいとともに頭痛と左脚の鈍痛を感じて119番通報し、救急処置室で数時間を過ごすことになった。医師の診断は、おそらく不安によるものだとのことだった。 そんなDiazさんに対して主治医のNatalia Rostさんは、彼女が以前の生活を取り戻す一助になればと思い、米国心臓協会(AHA)が行っている脳卒中サバイバーのためのイベントへの参加を勧めてみた。初めは気が進まなかったDiazさんだが、参加した結果はRostさんの思惑どおりになった。「自分以外の脳卒中体験者の話を聞いてみて、彼らと私が同じような考え方をしていることに驚かされた。そして、とても助けられた」と彼女は話す。 これをきっかけにDiazさんは、今後は自分がほかの人を助けるべきだと考えるようになり、それを使命とした。彼女は、AHA主催イベントに積極的に参加したり、募金活動を主導したり、地元のテレビやソーシャルメディアで自分の体験を語るようになった。その活動を目にした、近所に暮らす脳卒中後の女性から、アドバイスを求める電話を受けるようなこともあった。 2021年11月、Diazさんはマサチューセッツ州議会で証言を行った。その場で彼女は、脳卒中の疑いがある患者を救急隊員が最寄りの病院ではなく、脳卒中治療認定病院に直接搬送できるようにすることや、医師の経口避妊薬処方に際して第V因子ライデンの検査を義務付けることを訴えた。それらの法案はまだ可決されていないが、彼女はこの問題に関する人々の認識を高めることができたと自負している。 Diazさんの体験談は、脳卒中は年齢を問わず誰にでも起こり得るという事実を、人々に伝える際にも役立つ。Rostさんによると、脳卒中の症状に関する長年にわたる啓発活動にもかかわらず、顔のゆがみ、ろれつが回らない、脱力、しびれ、めまい、視力低下、歩行困難、話したい言葉が出てこないといった症状が脳卒中によるものと認識していない人が、依然として少なくないという。そして、「いつもと違うこと、何だかおかしいと感じることがあれば、ためらわずに助けを求めてほしい」とアドバイスする。 Diazさんは、現在46歳だ。脳卒中が自分の人生のターニングポイントだったと感じている。彼女は今、食べるものや健康により気を配るようになった。そして「人々の見た目は、その人の真の健康状態とは何の関係もない」と、過信に注意を呼び掛けている。[2023年6月9日/American Heart Association] Copyright is owned or held by the American Heart Association, Inc., and all rights are reserved. If you have questions or comments about this story, please email editor@heart.org.利用規定はこちら

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ASCO2023 レポート 血液腫瘍

レポーター紹介はじめにASCO2023の年次総会(6月2日~6日)は、ようやくCOVID-19が感染症法上の5類扱いとなったことで海外への渡航もしやすくなり、米国シカゴで現地参加された日本人の先生方もおられたと思います。今年も現地参加に加えWEBでの参加(視聴)も可能であり、私は昨年と同様に、現地まで行かずに通常の病院業務をしながら、業務の合間や終了後に時差も気にせず、オンデマンドで注目演題を聴講したり発表スライドを閲覧したりしました。それらの演題の中から、今年も10の演題を選んで、発表内容をレポートしたいと思います。以下に、悪性リンパ腫(慢性リンパ性白血病含む)関連4演題、多発性骨髄腫関連3演題、白血病/MDS関連3演題を紹介します。悪性リンパ腫(慢性リンパ性白血病含む)関連SWOG S1826, a randomized study of nivolumab(N)-AVD versus brentuximab vedotin(BV)-AVD in advanced stage (AS) classic Hodgkin lymphoma (HL). (Abstract #LBA4)本臨床試験は、プレナリーセッションで発表された注目演題である。昨年のASCO2022にて、進展期の未治療ホジキンリンパ腫に対し、それまでの標準治療であったABVD療法と、ブレンツキシマブ ベドチンとブレオマイシンを置き換えたA-AVD療法を比較したECHELON-1試験の6年のフォローアップの結果が示され、全生存率でもA-AVDがABVDよりも優れていたという結果が発表された。今回の試験では、進展期の未治療ホジキンリンパ腫に対し、抗PD-1抗体薬ニボルマブとAVDを併用したN-AVDと、新たな標準治療となったA-AVDを比較した試験の中間解析結果が報告された。N-AVD(496例)、A-AVD(498例)に割り付けられた。本試験では、ECHELON-1試験には組み入れられなかった12~17歳の未成年患者が約4分の1含まれていた。主要評価項目のPFS(1年時点)は、94%と86%でHRは0.48と有意にN-AVDが優れていた。また、副作用として、G-CSFの1次予防の実施がA-AVDではほぼ全例、N-AVDでは約半数だったことで、好中球減少はN-AVDで多く認められたが、感染症の発症率はほぼ同等であった。末梢性神経障害はA-AVDで多く認められた一方、ニボルマブによる免疫関連の副作用(IrAE)は、ほとんど問題なかった。今後、フォローアップを継続し、晩期の副作用の発現や再発後の治療選択なども見ていく必要がある。Results of a phase 3 study of IVO vs IO for previously untreated older patients (pts) with chronic lymphocytic leukemia (CLL) and impact of COVID-19 (Alliance). (Abstract #7500)未治療高齢CLL患者に対し、イブルチニブ(I)とオビヌツズマブ(O)併用後のI治療継続(IO)と、IOにベネトクラクス(V)を12ヵ月間併用し、MRD陰性の場合は治療を終了し、MRDが残存する場合はI治療を継続する(IVO)治療を比較する第III相試験の中間解析結果が報告された。465例(IO群:232例、IVO群233例)がエントリーされ、18ヵ月時点でのPFSは、IO群87%、IVO群85%で差を認めなかった。14サイクル終了時点でのCR率とMRD陰性率は、IO群で31.3%と33.3%、IVO群で68.5%と86.8%であり、IVO群で高かった。18ヵ月時点でのIVO群のMRD陰性例と陽性例のPFSには差がみられなかった。有害事象としては、両群ともCOVID-19による死亡例が最も多く(IVO群>IO群)、COVID-19の流行により、臨床試験の結果は大きな影響を受けることとなった。今後、長期のフォローアップにより、MRD陰性例(治療中止例)のPFSのデータが出た時点で、Vの併用の意義が明らかになると考える。A phase 2 trial of CHOP with anti-CCR4 antibody mogamulizumab for elderly patients with CCR4-positive adult T-cell leukemia/lymphoma. (Abstract #7504)日本からの発表。同種移植の適応とならない高齢アグレッシブCCR4陽性ATL患者に対するモガムリズマブ(Moga)とCHOP-14の併用療法(Moga-CHOP-14)の第II相試験の結果である。アグレッシブATLは難治性の疾患であり、同種移植の適応とならない患者の生命予後はきわめて不良である。寛解導入療法のCHOP療法は、奏効率も低く、生命予後の改善も乏しい。50例のATL患者(年齢中央値74歳)にMoga-CHOP-14×6サイクル+Moga×2サイクルが実施された。1年PFSが36.2%、ORRが91.7%(CRが64.6%)、1年OSが66.0%であった。主な有害事象は、血球減少とFN(G3以上64.6%)、皮疹(G3以上20.8%)であった。Moga-CHOP-14療法は、高齢ATL患者に対する治療オプションとして有用と考えられる。Epcoritamab + R2 regimen and responses in high-risk follicular lymphoma, regardless of POD24 status. (Abstract #7506) 再発・難治の濾胞性リンパ腫(FL)に対し、CD20×CD3の二重特異性抗体薬epcoritamab(Epco)とリツキシマブ・レナリドミド(R2)を併用した治療の第II相試験(Epcoの投与スケジュールが異なる2群)の統合解析結果が報告された。2つの試験の対象となった111例が解析された。患者の年齢中央値は65歳で、CS III/IVが22%/60%であり、FLIPIの3〜5が58%であった。57%は前治療のライン数が1であり、POD24は38%が該当した。全奏効率は98%、完全代謝奏効(CMR)は87%であった。POD24に該当するハイリスク患者においてもそれぞれの奏効率は98%/75%と、治療効果は良好であった。有害事象は、CRSと好中球減少をそれぞれ48%で認めたが、CRSは46%がGrade1〜2であり、Grade3は2%であった。また、有害事象によって治療中止となった例はなかった。現在、第III相試験(EPCORE FL-1試験、EPCORE NHL-2試験)が行われている。多発性骨髄腫関連Carfilzomib, lenalidomide, and dexamethasone (KRd) versus elotuzumab and KRd in transplant-eligible patients with newly diagnosed multiple myeloma: Post-induction response and MRD results from an open-label randomized phase 3 study. (Abstract #8000)未治療の多発性骨髄腫(MM)患者に対するKRd療法とエロツズマブ(E)を併用したE-KRd療法の第III相比較試験(DSMM XVII試験)が行われた。試験デザインは6サイクルの寛解導入後、1回の自家移植(CRが得られない場合あるいはハイリスク染色体異常の場合は2回)を実施し、4サイクルの地固め実施後、レナリドミド(R)あるいはエロツズマブ+レナリドミド(ER)の維持療法を行うこととなっている。579例がランダム化された。寛解導入後の効果について、主要評価項目の1つでもあるVGPR以上でMRD陰性例の割合は、KRd/E-KRdで、35.4/49.8%であり、Eの併用効果を認めた。Grade3以上の有害事象もE併用により、66.3%から75.3%に増えているが、感染症による死亡例はそれぞれ0.3/1.2%で差はなく、COVID-19例も4.4/3.2%で差を認めなかった。未治療MMに対し、Eの併用の有用性が初めて示された試験である。First results from the RedirecTT-1 study with teclistamab (tec) + talquetamab (tal) simultaneously targeting BCMA and GPRC5D in patients (pts) with relapsed/refractory multiple myeloma (RRMM). (Abstract #8002)トリプルクラス抵抗性のMM患者の生命予後は、きわめて不良であり、それらの患者に二重特異性抗体薬が高い有効性を示すことが報告され、欧米では承認されている。標的分子が異なるそれらの治療薬を併用することで、さらなる治療効果の増強が期待される。本発表では、BCMA×CD3の二重特異性抗体薬のteclistamab(Tec)とGPRC5D×CD3の二重特異性抗体薬のtalquetamab(Tal)の併用治療の第Ib相試験(RedirecTT-1試験)の結果が報告された。93例の再発・難治MM患者(前治療のライン数:4、33.3%がハイリスクの染色体異常を有し、79.6%がトリプルクラスレフラクトリー、37.6%が髄外腫瘤を有していた)が参加している。本試験は用量設定試験であり、用量は4段階あるが、有効性は全奏効率が86.6%、CR以上が40.2%であり、第II相の推奨用量(Tec:3.0mg/kg+Tal:0.8mg/kg Q2W)では、全奏効率が96.3%、CR以上が40.7%と、優れた治療成績が示された。また、CRSや骨髄抑制などの有害事象は単剤治療とほぼ変わりなかった。今後のさらなる開発が期待される。Talquetamab (tal) + daratumumab (dara) in patients (pts) with relapsed/refractory multiple myeloma (RRMM): Updated TRIMM-2 results. (Abstract #8003)再発・難治MM患者に対するGPRC5D×CD3の二重特異性抗体薬のtalquetamab(Tal)とダラツムマブ(Dara)を併用した試験(TRIMM-2試験)のアップデート成績が報告された。65例(前治療のライン数:5、トリプルクラス抵抗性:60%、抗CD38抗体薬抵抗性:78%、二重特異性抗体薬抵抗性:23%、BCMA標的治療歴:54%)が参加した。追跡期間中央値16ヵ月時点の成績は、全奏効率81%(VGPR以上:70%、CR以上:50%)であり、奏効が得られた症例の80.9%で、12ヵ月時点で奏効が持続しており、PFSの中央値は19.4ヵ月、1年PFS率は70%、1年OS率は92%であった。有害事象は既知のものであり、CRSも78%で認められたが、すべてGrade1〜2であった。TalとDaraの併用は、トリプルクラス抵抗性(とくに抗CD38抗体薬抵抗性)のMMに対し、新たな治療オプションとして注目される。白血病/MDS関連Efficacy and safety results from the COMMANDS trial: A phase 3 study evaluating lus patercept vs epoetin alfa in erythropoiesis-stimulating agent (ESA)-naive transfusion dependent (TD) patients (pts) with lower-risk myelodysplastic syndromes (LR-MDS). (Abstract #7003)赤血球輸血依存のLow-リスクMDS患者に対するluspatercept(Lus)とエリスロポエチン製剤(ESA)との第III相比較試験の中間解析結果が報告された。対象となった患者は、IPSS-RでのLow-リスクであり、環状鉄芽球の有無は問わず、血清Epo値が500U/L未満であり、ESAの投与歴がない輸血依存(4~12単位の輸血を8週間以上継続している)状態の患者であった。Lusは3週に1回の皮下注、ESAは週1回の皮下注にて投与され、24週以上継続した。Lusは178例、ESAは176例の患者が割り付けられた。主要評価項目である開始24週以内における12週以上の輸血非依存の達成率(Hb 1.5g/dL以上上昇を伴う)は、Lusで58.5%、ESAで31.2%であった。治療薬関連の副作用は、Lusで30.3%、ESAで17.6%に認められ、副作用による中止はLusで4.5%、ESAで2.3%であった。また、AMLへの進行は、それぞれ2.2%と2.8%であった。Lusは、輸血依存のLow-リスクMDSに対し、貧血の改善効果がESAよりも優れていることが示された。A first-in-human study of CD123 NK cell engager SAR443579 in relapsed or refractory acute myeloid leukemia, B-cell acute lymphoblastic leukemia, or high-risk myelodysplasia. (Abstract #7005)CD123(IL-3レセプターのα鎖)を発現している細胞とNK細胞を結び付けるSAR443579(SAR)の再発・難治AML、およびCD123陽性HighリスクMDS、B-ALL患者に対する第I/II相試験の結果が発表された。SARは、週2回と週1回の静脈内投与で2週間投与され(10~3,000μg/kg/dose)、その後、週1回(100~3,000μg/kg)の投与スケジュールとなり、寛解導入期は3ヵ月、その後、維持療法期には約28日ごとの投与となる。23例の患者(全員AMLの診断)が登録され、最高用量の3,000μg/kgまで用量制限毒性は認められなかった。有害事象で最も多かったのはIRR(13例)であり、CRSは1例(Grade1)のみに認められた。有効性は、3例でCR/CRiが得られており、その3例は1,000μg/kgの投与量であった(1,000μg/kgでは8例中3例がCR/CRi:37.5%)。新たなNK細胞エンゲージャー治療薬の今後の開発の進展が期待される。Chemotherapy-free treatment with inotuzumab ozogamicin and blinatumomab for older adults with newly diagnosed, Ph-negative, CD22-positive, B-cell acute lymphoblastic leukemia: Alliance A041703. (Abstract #7006)未治療Ph陽性のALLに対し、TKIとブリナツモマブ(Blina)を併用したケモフリーレジメンの有用性が示されているが、本研究では、未治療Ph陰性、CD22陽性のB-ALLの同種移植の適応とならない高齢患者に対し、イノツズマブ オゾガマイシン(Ino)とBlinaの併用によるケモフリーレジメンが試験されている。Inoを1~2サイクル投与し、その後、Blinaで地固めを行う。33例(年齢中央値:71歳)が試験に参加し、最良治療効果のCRcは96%、1年EFS率が75%、1年OS率が84%であった。主な有害事象は骨髄抑制(Grade3以上の好中球減少:87.9%、血小板減少:72.7%)で、FNは21.2%にみられ、有害事象での死亡例は2例(脳症と呼吸不全)のみにみられた。通常の化学療法と比較し、とくに寛解期での死亡例が少なく、移植非適応のPh陰性ALL患者には、安全性の高い治療法である。おわりに以上、ASCO2023で発表された血液腫瘍領域の演題の中から10演題を紹介しました。ASCO2021、ASCO2022でも10演題を紹介しましたが、今年も昨年、一昨年と同様、どの演題も今後の治療を変えていくような結果であるように思いました。来年以降も現地開催に加えてWEB開催を継続してもらえるならば、ASCO2024にオンライン参加をしたいと考えています(1年前にも書きましたが、もう少しWEBでの参加費を安くしてほしい、円安が続く今日この頃[笑])。

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ワインは心血管に良い影響?22試験のメタ解析

 アルコール摂取と心血管イベントにはJ字型、U字型の関連があるという報告もあり、多量のアルコール摂取は心血管に悪影響を及ぼす一方、少量であれば心血管に良い影響を及ぼす可能性が指摘されているが、結果は一貫していない1-3)。また、ワインの摂取が心血管の健康に及ぼす効果についても、意見が分かれている。そこで、スペイン・Universidad de Castilla-La ManchaのMaribel Luceron-Lucas-Torres氏らは、ワインの摂取量と心血管イベントとの関連について、システマティックレビューおよび22試験のメタ解析を実施した。その結果、ワインの摂取は、心血管イベントのリスク低下と関連していた。また、年齢や性別、追跡期間、喫煙の有無はこの関連に影響を及ぼさなかった。Nutrients誌2023年6月17日号の報告。 Pubmed、Scopus、Web of Scienceを用いて、2023年3月26日までに登録されたワインの摂取量と冠動脈疾患(CVD)、冠動脈性心疾患(CHD)、心血管死との関連を検討した研究を検索した。その結果25試験が抽出され、22試験についてDerSimonian and Laird Random Effects Modelを用いてメタ解析を実施した。また、ワインの摂取量と心血管イベント(CVD、CHD、心血管死)との関連に影響を及ぼす因子を検討した。異質性はτ2値を用いて評価した(0.04未満:小さい、0.04~0.14:中等度、0.14~0.40:大きい)。 主な結果は以下のとおり。・ワイン摂取はCHD、CVD、心血管死のリスクをいずれも有意に低下させた。リスク比(95%信頼区間)およびτ2値は以下のとおり。 -CHD:0.76(0.69~0.84)、0.0185 -CVD:0.83(0.70~0.98)、0.0226 -心血管死:0.73(0.59~0.90)、0.0510・試験参加者の平均年齢、性別(女性の割合)、追跡期間、喫煙の有無はワイン摂取とCHD、CVD、心血管死との関連に影響を及ぼさなかった。・メタ解析を実施した研究のバイアスリスクはいずれの研究も良好であった。出版バイアスについては、CVDに関する研究において認められたが(p=0.003)、CHD、心血管死に関する研究では認められなかった(それぞれp=0.162、0.762)。 著者らは、「年齢、薬物、病態の影響によりアルコールに対する感受性が高い患者では、ワインの摂取量を増やすことが有害となる可能性があるため注意が必要である」と指摘しつつも、「システマティックレビューおよびメタ解析によって、ワイン摂取はCVD、CHD、心血管死のリスクを低下させることが示された。今後、ワインの種類によってこれらの効果を区別する研究が必要である」とまとめた。

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高齢者の片頭痛患者に対する抗CGRP抗体の安全性・有効性

 抗CGRPモノクローナル抗体は、片頭痛治療において顕著な有効性および忍容性が認められているが、高齢者に対する使用データについては、臨床試験では暗黙の年齢制限があり、リアルワールドのエビデンスも限られていることから、十分であるとは言えない。スペイン・バルセロナ大学のAlbert Munoz-Vendrell氏らは、65歳以上の片頭痛患者を対象に抗CGRPモノクローナル抗体であるエレヌマブ、ガルカネズマブ、フレマネズマブの安全性および有効を評価するため、検討を行った。その結果、リアルワールドにおける65歳以上の片頭痛患者に対する抗CGRPモノクローナル抗体による治療は、安全かつ効果的な治療法であることを報告した。The Journal of Headache and Pain誌2023年6月2日号の報告。 本研究は、スペインの頭痛治療施設18施設からプロスペクティブにデータを収集し、レトロスペクティブに分析を実施した観察研究である。対象は、抗CGRPモノクローナル抗体による治療を開始した65歳以上の片頭痛患者。主要エンドポイントは、治療6ヵ月後の1ヵ月当たりの片頭痛に数の減少および副作用の発生とした。副次的エンドポイントは、頭痛の軽減、治療3ヵ月および6ヵ月後の薬剤投与頻度、治療反応率、患者報告による転帰の変化、治療中止理由とした。サブ分析として、1ヵ月当たりの片頭痛日数の減少と副作用発現率を薬剤間で比較した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者数は162例(年齢中央値:68歳、範囲:65~87歳、女性の割合:74.1%)であり、脂質異常症(42%)、高血圧症(40.3%)、糖尿病(8%)、心血管虚血性疾患(6.2%)などの既往歴が認められた。・治療6ヵ月後の1ヵ月当たりの片頭痛の数の減少は、10.1±7.3日であった。・副作用が認められた患者の割合は25.3%、いずれも軽症で、血圧上昇は2例のみであった。・患者報告では、頭痛および薬剤の投与頻度の有意な減少が報告され、転帰の改善が認められた。・1ヵ月当たりの片頭痛日数の減少率別の患者割合は、以下のとおりであった。 ●1ヵ月当たりの片頭痛日数30%以上減少:68% ●1ヵ月当たりの片頭痛日数50%以上減少:57% ●1ヵ月当たりの片頭痛日数75%以上減少:33% ●1ヵ月当たりの片頭痛日数100%減少:9%・治療6ヵ月後の治療継続率は、72.8%であった。・片頭痛日数の減少は、各薬剤同様であったが、フレマネズマブの副作用発現率は低かった(7.7%)。

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