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2024/07/10
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4つの症状に要注意!50歳未満の大腸がんの初期症状

 近年、50歳未満で発症する大腸がん(早期発症大腸がん)が世界的に急増している。また、早期発症大腸がんは診断が遅れることが多く、診断時には進行していることも多い。そこで、米国・ワシントン大学セントルイス校のCassandra D. L. Fritz氏らは、ケースコントロール研究を実施し、早期発症大腸がんに関連する徴候・症状を検討した。その結果、直腸出血、鉄欠乏性貧血、下痢、腹痛を早期に発見することで、早期発症大腸がんの早期発見と適時診断につながる可能性が示された。本研究結果は、Journal of the National Cancer Institute誌オンライン版2023年5月4日号で報告された。 18~64歳の米国の民間保険加入者1億1,300万例のうち、2年以上継続加入している早期発症大腸がん患者5,075例を対象として、2006~15年の期間にマッチドケースコントロール研究を実施した(対照は2万2,378例)。事前に規定した17個の徴候・症状について、大腸がん診断前3ヵ月~2年の徴候・症状と早期発症大腸がんの関係を検討した。 主な結果は以下のとおり。・事前に規定した17個の徴候・症状のうち、早期発症大腸がん患者の診断前3ヵ月~2年の症状として多くみられたものは、腹痛(11.6%)、直腸出血(7.2%)であった。・直腸出血(オッズ比[OR]:5.13、95%信頼区間[CI]:4.36~6.04)、鉄欠乏性貧血(OR:2.07、95%CI:1.61~2.66)、下痢(OR:1.43、95%CI:1.14~1.78)、腹痛(OR:1.34、95%CI:1.19~1.49)の4個が早期発症大腸がんの独立した関連因子として特定された。・上記の4個の徴候・症状を多く有しているほど、早期発症大腸がんのリスクが高かった(1個の場合のOR:1.97、95%CI:1.80~2.15、2個の場合のOR:3.66、95%CI:2.97~4.51、3個以上の場合のOR:6.96、95%CI:4.07~11.91、p for trend<0.001)。・上記の傾向は、若年(p for interaction<0.001)、直腸がん(p for heterogeneity=0.012)で強く認められた。・上記の4個の徴候・症状が診断前3ヵ月~2年に発現した患者の割合は19.3%(診断間隔中央値:8.7ヵ月)、診断後3ヵ月以内に発現した患者の割合は49.3%(診断間隔中央値:0.53ヵ月)であった。

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重症アルコール性肝炎に抗菌薬予防投与は有効か?/JAMA

 重症アルコール性肝炎の入院患者に対する抗菌薬の予防的投与のベネフィットは明らかになってないが、フランス・Lille大学のAlexandre Louvet氏らが292例を対象に行った多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験で、60日全死因死亡率を改善しないことが示された。著者は、「今回示された結果は、重症アルコール性肝炎で入院した患者の生存改善に対して抗菌薬の予防的投与を支持しないものであった」とまとめている。JAMA誌2023年5月9日号掲載の報告。Maddrey機能スコア32以上、MELDスコア21以上の患者を対象 研究グループは2015年6月13日~2019年5月24日に、フランスとベルギーの医療センター25ヵ所で、生検で確認された重症アルコール性肝炎の患者292例を対象に試験を開始した。被験者のMaddrey機能スコアは32以上、末期肝疾患モデル(MELD)スコアは21以上だった。 被験者を無作為に2群に分け、一方にはプレドニゾロン+アモキシシリン・クラブラン酸(145例)、もう一方にはプレドニゾロン+プラセボ(147例)をそれぞれ投与した。追跡期間は180日で、最終フォローアップは2019年11月19日だった。 主要アウトカムは、60日時点の全死因死亡率だった。副次アウトカムは、90日、180日時点の全死因死亡率、60日時点の感染症、肝腎症候群、MELDスコア17未満のいずれも発生率、および7日時点のLilleスコア0.45未満の患者の割合だった。60日全死因死亡率、アモキシシリン群17%、プラセボ群21%で有意差なし 被験者292例の平均年齢は52.8歳、女性80例(27.4%)で、284例(97%)が解析に含まれた。 60日死亡率は、アモキシシリン群17.3%、プラセボ群が21.3%で統計的有意差はなかった(補正前絶対群間差:-4.7ポイント[95%信頼区間[CI]:-14.0~4.7]、ハザード比[HR]:0.77[95%CI:0.45~1.31]、p=0.33)。 60日時点の感染症発生率は、アモキシシリン群(29.7%)がプラセボ群(41.5%)より有意に低かった(補正前絶対群間差:-11.8ポイント[95%CI:-23.0~-0.7]、サブHR:0.62[95%CI:0.41~0.91]、p=0.02)。その他の副次的アウトカムは、両群で有意差はなかった。 最も多くみられた重篤有害イベントは、肝不全関連(アモキシシリン群25例、プラセボ群20例)、感染症(同23例、46例)、胃腸障害(同15例、21例)だった。

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閉経後の骨粗鬆症治療薬、69試験のネットワークメタ解析で効果比較/BMJ

 閉経後女性への骨粗鬆症治療薬の大部分にベネフィットがあることが、デンマーク・Bispebjerg and Frederiksberg HospitalのMina Nicole Handel氏らによる69試験・被験者総数8万例超を対象としたシステマティックレビューとメタ解析で明らかにされた。骨形成促進薬はビスホスホネートよりも、ベースラインのリスク指標にかかわらず、臨床的骨折および脊椎骨折の予防に有効であることが示された。著者は、「今回の分析結果は、骨折リスクの高い患者への骨形成促進薬による治療を制限する、臨床的エビデンスはないことを示すものであった」とまとめている。BMJ誌2023年5月2日号掲載の報告。ビスホスホネートやSERM、PTH受容体作動薬などのRCTをレビュー・解析 研究グループはMedline、Embase、Cochrane Libraryを基に、1996年1月1日~2021年11月24日に発表され、ビスホスホネート、デノスマブ、選択的エストロゲン受容体修飾薬(SERM)、副甲状腺ホルモン(PTH)受容体作動薬、ロモソズマブをプラセボまたは実薬と比較した無作為化試験を特定し、システマティックレビューとネットワークメタ解析およびメタ回帰分析を行った。適格試験は、全年齢の非アジア人閉経後女性を対象に、介入時に骨質について幅広い要素を評価したものだった。 主要アウトカムは、臨床的骨折とした。副次アウトカムは、脊椎、非脊椎、腰、その他の主な骨粗鬆症骨折と、全死因死亡、有害イベント、重篤な心血管有害事象だった。骨吸収抑制薬治療、ベースライン時の年齢増加と共に予防効果増大 69試験(被験者総数8万人超)を対象に解析が行われた。臨床的骨折の統合結果は、ビスホスホネート、PTH受容体作動薬、ロモソズマブが、いずれもプラセボに比べ、予防的効果があることを示した。 その中でビスホスホネートはPTH受容体作動薬に比べ、臨床的骨折を軽減する効果が低かった(オッズ比[OR]:1.49、95%信頼区間:1.12~2.00)。デノスマブは、PTH受容体作動薬とロモソズマブに比べ、臨床的骨折の軽減効果が低かった(デノスマブvs.PTH受容体作動薬のOR:1.85[95%CI:1.18~2.92]、デノスマブvs.ロモソズマブのOR:1.56[95%CI:1.02~2.39])。 脊椎骨折リスクについては、すべての薬剤で、プラセボと比べ軽減効果が認められた。実薬の比較では、デノスマブ、PTH受容体作動薬、ロモソズマブが、経口ビスホスホネートに比べ、脊椎骨折の予防効果が高かった。 骨吸収抑制薬による治療は、ベースラインの平均年齢が高くなるにつれ、対プラセボの臨床的骨折リスクの減少幅が増大したが(試験数17、β=0.98、95%CI:0.96~0.99)、それ以外のすべての治療の効果は、ベースラインのリスク指標による影響を受けなかった。 有害アウトカムはみられなかったが、個々のアウトカムに関する効果予測の確実性については、深刻なバイアスリスクや不正確性が示され、評価は中等度~低度であった。

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補完代替医療を利用している2型糖尿病患者は健康関連QOLが低い

 通院中の2型糖尿病患者の4割弱が何らかの補完代替医療を利用しており、利用者は非利用者に比べて健康関連QOLが有意に低いという調査結果が報告された。香川大学医学部衛生学教室の森喜郎氏らの研究によるもので、詳細は「Epidemiologia」に1月20日掲載された。 補完代替医療(complementary and alternative medicine;CAM)は、標準的な現代医療と合わせて、または単独で実施される、非標準的な医療のこと。具体的には、健康食品やサプリメント、マッサージ、アロマセラピー、ヨガ、処方によらない漢方、鍼灸、温熱療法、音楽療法、森林療法などが該当し、一般的に医師の判断ではなく患者自身の意思によって利用される。 これらのCAMのうち漢方や鍼灸などの一部はエビデンスが存在するものの、総じて有効性の根拠が乏しい。それにもかかわらず、標準的な現代医療でも治癒が見込めない疾患や経過が長期に及ぶ慢性疾患の患者などは、CAM利用率が高いことが報告されている。ただし国内の2型糖尿病患者のCAM利用状況については不明点が多い。森氏らは、その実態の把握と、CAM利用と健康関連QOL(HRQOL)との関係性を探るため、以下の調査を行った。 調査対象は、2021年7月12日~9月17日に坂出市立病院の外来を受診した2型糖尿病患者のうち、CAMおよびHRQOLに関する自記式アンケートに回答した421人。HRQOLは、国際的に用いられている「EQ-5D」という質問票の日本語版を用いて評価した。これは、痛み、不快感、不安、うつなどの程度、日常生活活動などを0~1点の範囲にスコア化して判定するもの。数値が高いほど健康であることを意味し、完全に健康な状態の場合は1となる。 対象者の主な特徴は、平均年齢67.3±12.8歳、男性58.7%、BMI25.3±4.6、糖尿病罹病期間5,863.9±3,711.7日、HbA1c7.5±1.5%、eGFR61.3±19.6mL/分/1.73m2で、46.3%がインスリン療法を行っており、HRQOLは0.860±0.200だった。 全体の38.2%の患者が、何らかのCAMを利用していた。最も利用率が高かったのは、サプリメントや健康食品であり、26.6%が利用していた。性別に見た場合、男性のCAM利用率は32.8%、女性は46.0%であり、女性の方が有意に高かった(P=0.006)。ただし、年齢、BMI、罹病期間、HbA1c、eGFRには、CAM利用の有無による有意な群間差は観察されなかった。 次に、CAMの種類ごとに、利用している患者と利用していない患者のHRQOLを比較すると、漢方や磁気療法、カイロプラクティック、温熱療法、スパセラピーについては、それらを利用している患者群の方がHRQOLが有意に低かった。また、何らかのCAMを利用している患者群のHRQOLは0.829±0.221、利用していない患者群は0.881±0.189であり、前者の方が低値だった。HRQOLに影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、BMI、罹病期間、HbA1c)を調整後の比較でも、有意な群間差が認められた(P=0.014)。 喘息患者や炎症性腸疾患などの患者を対象に海外で実施された同様の調査では、CAM利用患者はHRQOLが低いことが報告されている。今回の国内2型糖尿病患者を対象とした研究も、それらの既報研究と同様の結果となった。この理由について論文中には、「CAMを利用したことでHRQOLが低下したのではなく、HRQOLを低下させるような併存疾患や症状がある患者が、標準的な治療に加えてCAMを必要としているという実態を反映しているのではないか」と記されている。 これらの結果と考察に基づき、著者らは、「CAMを利用している2型糖尿病患者は、利用していない患者よりもHRQOLが有意に低かった。CAMの健康転帰への寄与に関するエビデンスは限られているため、CAMに関する適切な情報提供が重要と考えられる」と総括。また、本研究が単施設で実施された横断研究であるため、「因果関係の理解や他の地域・医療機関の患者群での実態を把握可能なデザインでの研究が必要」と付け加えている。

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急速に進行する認知症(前編)【外来で役立つ!認知症Topics】第5回

急速に進行する認知症(前編)患者さんが認知症だと診断されたら、その次にご家族が期待されるのは治療効果である。つまり進行しないこと、進行が遅いことである。認知症の進行ぶりを客観的に評価するために、私のクリニックでは、定期的にMMSEや改訂長谷川式などの神経心理学的なテストをやっていただく。普通は緩徐に低下していくが、3、4割の人では意外ながらも前回よりも高得点が得られる。それを伝えると本人はにっこりされる。だが家族は怪訝そうな表情で、「家では、やることなすことみな悪化したのに」と述べられる。こうした経験から、とくにMCI(軽度認知障害)レベルでは、臨床経過において認知機能と日々の生活機能(IADL:道具的な日常生活機能)は平行しないと考えるようになった。対応に最も窮するのは、ご家族から、「うちの場合、認知症の進行がとくに速いのではないか?」と言われることだ。こうした場合、当方への批判や不信感がありありと伝わってくる。このとき筆者の胸に浮かぶのは、少なからず経験する急速進行性のアルツハイマー病や、まれながら絶対に見逃せないプリオン病である。そこで過去のカルテを読み返すが、症状や脳画像所見が否定型的だったり、どうも普通とは違うなと思われる過去の記述を発見したりした場合、「やだな」と不吉な思いが走る。確かに急速に進行する認知症(RPD:Rapid Progressive Dementia)という用語に合致しそうなケースはある。RPDの定義の1つに、MMSE得点の年間低下が6点以上というものがある。平均的な低下は2~3点(調査によって1.8点~4.5点と大きな開き)とされるだけに、確かに6点以上だと速いと実感する。急速進行性認知症に多い3タイプRPDにはいくつかタイプがある。まずこれまで4例経験したのが、古典的な狂牛病など致死的なプリオン病である。次に脳炎など炎症性疾患である。さらに、確かにアルツハイマー病など変性疾患なのに、というものである。これは2つに大別され、まず脳血管障害、硬膜下血種や正常圧水頭症などほかの病理が加わってくるもの、次にそうしたものがないのにぐんぐん悪化するものである。さて2022年のNature Reviews Neurology誌でRPDに関するレビューがあった1)。それを参考に概要をまとめた。まずその定義は最初の異常から認知症の診断までが1年以下としたものが多い。認知症一般を扱う病院からの報告で、RPDが認知症全体に占める割合を3.7%としたものがあった。当院の経験でも5%以内かと思う。またRPDの基礎疾患としては、プリオン病、変性疾患、炎症性疾患はそれぞれ3分の1を占めるとされる。そこで以下では、認知症一般を診る医師の立場で、こうしたRPDの鑑別のプロセスを示してみたい。プリオン病プリオン病では、自験例で早いものでは数ヵ月で死に至ったこともあり、まず早期の致死が基本である。当初はアルツハイマー病など普通の認知症と思えても、数ヵ月以内に認知機能も身体症状も急速に悪化する。担当医としては、ここで「おかしい、違うぞ!」と思わなければならない。診断根拠としてほぼ確実なのは、早期から見られるMRIの拡散強調画像における大脳皮質の高信号である。なお教科書的に有名な脳波の周期性同期性放電は中・後期にならないと認められない。そこでプリオン病が疑わしいと思ったら、放射線専門医に、皮質の変化を中心に読影してほしいと紹介状を依頼すべきだろう。炎症性脳炎次に各種の脳炎である。最も多いヘルペス脳炎、帯状疱疹脳炎は定型的な症状をもって急性発症することが多いが、ときにRPDのような認知症の1タイプを思わせるケースもある。炎症性疾患として古典的な神経梅毒は近年増加しているのに、見逃されがちであり、無治療例も多いとされる。さらにあるメタアナリシスでは、ヘルペス脳炎患者の42.6%に認知障害が見られると報告している。自己免疫性脳炎免疫介在性の脳炎は、全脳炎の20%余りにも上るとしたイギリスの報告があるように、RPDの鑑別疾患として重要である。自己免疫性脳炎は、その病態に自己免疫学的な機序が介在する脳炎・脳症である。腫瘍を合併し(腫瘍随伴性)、その遠隔効果、すなわち傍腫瘍性神経症候群(paraneoplastic neurological syndrome)として発症するものもある。これは、腫瘍に関連する神経筋障害のうち、免疫介在性の機序によるものをいう。傍腫瘍性免疫介在性は、神経抗原を異所性に発現した腫瘍に対する液性免疫反応(自己抗体)と細胞性免疫反応(細胞傷害性T細胞)が自己の神経組織を傷害すると考えられている。自己抗体には、細胞内抗原を認識する抗体、シナプス受容体、細胞膜表面抗原に対する抗体がある。いずれの自己免疫性脳炎においても、早期の腫瘍検索と腫瘍に対する治療が重要であることに変わりはない。そのほかでは、中枢神経領域の悪性腫瘍、繰り返す低血糖、また重度の甲状腺機能低下症などもRPDになりうることに留意したい。最後に、アルコール性認知症は代謝性のRPDとして最も重要ではないかと思われる。これはいわゆる若年性認知症の1割を占め、栄養の偏りや低栄養を伴うことも多い。筆者の経験でも、飲酒をやめてもこうした変性性認知症を思わせるような急速悪化が続いた印象深い症例がある。参考1)Hermann P, et al. Rapidly progressive dementias - aetiologies, diagnosis and management. Nat Rev Neurol. 2022 Jun;18(6):363-376.

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英語で「病棟を任せます」は?【1分★医療英語】第80回

第80回 英語で「(病棟などを)任せます」は?I will eat a quick lunch. Please hold down the fort while I am away from the floor unit.(簡単に昼食を済ませてきます。その間、[病棟を]任せますよ)Sure, enjoy your lunch!(もちろんです。昼食楽しんできてください!)《例文1》医師AI will hold down the fort because she has a vacation and is off work next week.(彼女は来週休暇で職場に来ないので、その間は私が責任を持って対応する予定です)医師BOkay I will keep that in mind.(わかりました。覚えておきますね)《解説》“hold(down)the fort”という慣用句について解説します。「Cambridge Dictionary」によると、“to have responsibility for something while someone is absent”という訳になっています。元々の英語の直訳では“the fort”(砦)を“hold down”(護る、保つ)という意味から来ているようですね。それが慣用句となり、日本語で訳すならば、「誰かがいない間に、その場の責任を任せます」といった意味ですね。一見使える場面が限られるように思われますが、実は米国の医療現場で働く際に使われる場面にたびたび出くわし、私もそこでこの表現を学びました。日本人は聞き慣れなくても、ネイティブの方々がよく使う表現の一つといえるでしょう。医療現場において、「自分が一時的にその場を離れないといけないが、誰かに患者や状況を見ていてもらう必要がある際」にぴったり当てはまる表現です。さらに具体的にいうと、夜間救急当直などでチームメンバーや上司が少し休憩をとる際に「その間、頼んだよ」といった感じで使います。また、この表現は一般慣用句で医療場面以外でも使えますので、もっと幅広く「留守番を頼んだよ」というようなニュアンスでも使えます。そう捉えると、日本語でも頻繁に使われる表現ですよね。また、使い方としては“hold down the fort”そのままの表現で聞くことが多い印象ですが“down”を省略した“hold the fort”でも使用できます。こうした英語の慣用句をさらりと日常で使いこなせるようになると格好良いですね。講師紹介

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第163回 GLP-1薬でがん予防? / アルツハイマー病アジテーション治療薬を米国が初承認

GLP-1受容体作動薬は肥満患者のがん予防効果も担いうるGLP-1受容体作動薬(以下、GLP-1薬)が肥満患者の体重を減らすことに加えて、ともするとがん予防効果も担いうることが被験者20例の免疫細胞を調べた試験で示唆されました1)。肥満成人は今や世界で6億人を超えます。肥満は2型糖尿病、心血管疾患、多くのがん(乳房・腎臓・大腸がんなど)と関連します。また、インフルエンザや新型コロナウイルスなどの感染症の害を被りやすくします。ナチュラルキラー(NK)細胞は体内を巡るリンパ球の約10%を占める免疫細胞であり、病原体の侵略を食い止め、がんの発現を防ぐ役割を担います。しかし肥満はどうやらNK細胞を害するらしく、その数を減らし、機能を妨げることが先立つ研究で示されています。たとえばマウスの実験によると肥満のNK細胞は代謝が行き詰まっていて腫瘍と戦えず、腫瘍増殖を食い止めることができません2)。また、肥満小児のNK細胞を調べたところ合図に応じる能力が劣っており、増殖して腫瘍を除去するという本来の働きを全うできませんでした3)。すなわち肥満だとNK細胞は目当ての細胞に取り付いて除去することができなくなるようであり、肥満患者はそれゆえがんや感染症を被りやすいのかもしれません。先立ついくつかの研究でGLP-1薬はマクロファージやT細胞などの免疫細胞に手を加えることが知られています。アイルランドの2人の研究者・Andrew Hogan氏やDonal O’Shea氏などが携わった2016年の報告はそれらの1つで、脂肪組織のインバリアントナチュラルキラーT細胞(iNKT細胞)の活性化作用がGLP-1薬の体重減少効果に寄与しうることが示唆されました4)。その両氏が率いるチームは続いてNK細胞へのGLP-1薬の作用の検討にも乗り出し、体重管理のためにGLP-1薬投与を始める肥満患者を募ってNK細胞の変化を調べました。投与されたGLP-1薬はノボ ノルディスク ファーマのリラグルチドで、うれしいことに同剤投与はNK細胞のサイトカイン生成や目当ての細胞を壊す効果の向上と関連しました。リラグルチドでNK細胞機能が改善するのは体重減少のおかげというわけではなさそうで、同剤はNK細胞の代謝を底上げすることで体重減少とは関係なく直接的にその働きを回復させるようです。世界保健機関(WHO)の推定によると世界の成人の13%が肥満です5)。上述のとおり肥満は種々のがんを生じやすくし、たとえば米国で毎年診断されるがんの40%が太り過ぎや肥満と関連します6)。今回の発見はGLP-1薬を使う肥満患者を勇気づけるものであり、それら薬剤ががんを生じ難くするという効果さえ担うことを示唆しているとO’Shea氏は言っています7)。アルツハイマー病患者の行動障害治療薬を米国FDAが初めて承認アルツハイマー型認知症患者の暴言、暴力、錯乱などの行動障害(アジテーション)治療のFDA承認を抗精神病薬ブレクスピプラゾール(商品名:レキサルティ)が先週11日に取得し、米国でその用途を有する初めてにして唯一の薬剤となりました8)。大塚製薬のアルツハイマー型認知症アジテーション治療の取り組みはブレクスピプラゾールにとどまりません。10年ほど前の2014年に発表されたAvanir社買収で大塚製薬の手に権利が渡った別の薬剤AVP-786のその用途の第III相試験が進行中であり、来年2024年4月に完了する見込みです9)。参考1)De Barra C, et al. Obesity. 2023 May 9. [Epub ahead of print]2)Michelet X, etal. Nat Immunol. 2018;19:1330-1340.3)Tobin LM, et al. JCI Insight. 2017;2:e94939.4)Lynch L, et al. Cell Metab. 2016;24:510-519.5)Obesity and overweight / WHO6)Cancers Associated with Overweight and Obesity Make up 40 percent of Cancers Diagnosed in the United States / CDC7)Maynooth University research reveals cancer-killing benefits of popular obesity treatment / Eurekalert8)FDA Approves First Drug to Treat Agitation Symptoms Associated with Dementia due to Alzheimer's Disease / PRNewswire9)大塚ホールディングス株式会社 2022年度決算説明会

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ナノプラスチックは血液脳関門を突破して脳に到達する可能性

 微小なプラスチック粒子が血液脳関門を突破する仕組みについて研究を進めている研究グループが、その答えを見つけたことを報告した。マウスとコンピューターモデリングを使った実験により、体内に取り込まれたマイクロプラスチックや1μm(0.001mm)未満のナノプラスチック(micro- and nanoplastics;MNP)が脳に到達するためには、その表面に形成される生体分子コロナと呼ばれる複合体が重要な役割を果たしていることを突き止めたのだ。研究グループは、「プラスチック粒子が血液脳関門を突破する仕組みを明らかにした今回の研究結果を受け、この分野の研究が前進する可能性がある」と期待を示している。デブレツェン大学(ハンガリー)物理化学分野のOldamur Holloczki氏らによるこの研究の詳細は、「Nanomaterials」に4月19日掲載された。 MNPは、包装された食品や液体を通して食物連鎖に入り込む。過去の研究では、1日に1.5〜2Lのペットボトル入りの水を飲む人は、1年間に約9万個のプラスチック粒子を摂取することになることが報告されている。場所による違いはあるが、ペットボトル入りの水の代わりに水道水を飲むことで、これを4万個に減らすことができるという。 血液脳関門は、血液から脳組織への物質の輸送を制限する仕組みであり、血液から病原体や有害物質が脳に到達するのを防ぐ役割を果たしている。MNPが人間の健康にどのような影響を及ぼすのかについては、目下、熱心に研究が進められており、すでに、消化管内のMNPが局所的な炎症反応や免疫反応、さらにはがんの発生に関係していることなどが示唆されている。論文の上席著者である、ウィーン医科大学(オーストリア)病理学分野のLukas Kenner氏は、「脳内では、プラスチック粒子が炎症、神経障害、あるいはアルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患のリスクを高める可能性がある」と懸念を示している。 今回の研究では、食品の包装材などに多用されているプラスチックであるポリスチレンのMNPを6匹のマウスに経口投与し、MNPが血液脳関門を通過するかどうかを確かめる実験が行われた。MNPのサイズは、9.55μm、1.14μm、0.293μmの3種類が用意された。 その結果、最も小さなMNPは投与後わずか2時間で、マウスの脳内で検出された。Kenner氏らはMNPが体内でどのようにして輸送されるのかを検討するために、細胞膜のモデルとして人体の主要なリン脂質であるDOPCからなる脂質二重膜、ナノプラスチックとしてそれぞれの鎖が100個のスチレンモノマーから成る4本のポリスチレン鎖を折り畳んだものを用意した。その上で、コロナを持たないナノプラスチックとコレステロールやタンパク質のコロナを持つナノプラスチックをモデル粒子とし、脂質二重膜とナノプラスチックとの相互作用を粗視化分子動力学シミュレーションにより解析した。 その結果、ナノプラスチックが脂質膜内に取り込まれるには、コロナを構成する分子が重要であることが明らかになった。すなわち、コレステロール分子から成るコロナはナノプラスチックの膜への取り込みを促進するのに対して、タンパク質分子から成るコロナを有するナノプラスチックは膜を通過できないことが示された。 ただし、動物を対象とした研究が人間で同じ結果をもたらすとは限らない。Kenner氏は、「MNPが人間や環境に与える潜在的な害を最小限に抑えるには、今後の研究によりMNPの影響が明らかにされるまではプラスチックへの曝露を控え、その使用を制限することが極めて重要だ」と述べている。

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包括的高度慢性下肢虚血、血管内治療が有望/Lancet

 下肢灌流回復のために膝下血行再建術を必要とする包括的高度慢性下肢虚血患者では、初回の血行再建術として至適な血管内治療を行う戦略は、静脈バイパス手術と比較して、大切断回避生存率が有意に優れ、これは主に血管内治療で死亡数が少なかったためであることが、英国・University Hospitals Birmingham NHS Foundation TrustのAndrew W. Bradbury氏らが実施した「BASIL-2試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年4月25日号に掲載された。3ヵ国の無作為化第III相試験 BASIL-2試験は、3ヵ国、41の血管外科(英国39、スウェーデンとデンマーク各1)が参加した非盲検無作為化第III相試験であり、2014年7月~2020年11月の期間に患者の登録が行われた(英国国立衛生研究所[NIHR]医療技術計画の助成を受けた)。 動脈硬化性疾患による包括的高度慢性下肢虚血で、膝下血行再建術(鼠径靱帯以下の再建術を加えてもよい)を要する患者が、初回の血行再建術として静脈バイパス手術または至適な血管内治療を受ける群に1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは大切断回避生存であり、intention-to-treat集団における初回の大切断(足首より上部)または全死因死亡までの期間と定義された。COVID-19で早期中止となったが、アウトカムの差との関連はない 包括的高度慢性下肢虚血患者345例(年齢中央値72.5歳[四分位範囲[IQR]:62.7~79.3]、女性19%)が登録され、バイパス群に172例、血管内治療群に173例が割り付けられた。追跡期間中央値は40.0ヵ月(IQR:20.9~60.6)だった。 大切断または死亡は、バイパス群では172例中108例(63%)で発生したのに対し、血管内治療群では173例中92例(53%)で発生し、バイパス群の大切断回避生存率が有意に低かった(補正後ハザード比[HR]:1.35、95%信頼区間[CI]:1.02~1.80、p=0.037)。 このうち、全死因死亡は、バイパス群が91/173例(53%)、血管内治療群は77/172例(45%)であり(補正後HR:1.37、95%CI:1.00~1.87)、大切断はそれぞれ35/173例(20%)、32/172例(18%)であった(1.23、0.75~2.01)。 両群とも、最も多い死因は心血管イベント(バイパス群61例、血管内治療群49例)と呼吸器イベント(25例、23例)であった(心血管と呼吸器イベントによる死亡数は相互排他的ではない)。 著者は、「本試験の患者の募集はCOVID-19の世界的流行により早期に中止された。COVID-19は、とくに対面での評価が必要なエンドポイントに関してフォローアップに大きな悪影響を及ぼしたが、観察された群間のアウトカムの差がCOVID-19と関連することを示すエビデンスはみられなかった」としている。

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第44回 WHO緊急事態宣言解除、「コロナ禍終了」でOK?

緊急事態宣言が解除コロナ禍3年経って、ようやくWHOの緊急事態宣言が解除されました。感染症としての動向・予防策・治療の予測が可能となり、また以前ほど肺への毒性が強くないということで、国際的に脅威として対応し続けるよりもウィズコロナを選択するという意味合いが含まれています。しかし、「もう怖い感染症ではない」と誤認を招くのではないかという懸念もあります。実際、WHOは緊急事態宣言の解除に当たって注意を付記しています。それは以下のようなものです。「“The worst thing any country could do now is to use this news as a reason to let down its guard, to dismantle the systems it has built, or to send the message to its people that COVID19 is nothing to worry about”(今、どの国も一番やってはいけないことは、このニュースを理由に警戒を解き、構築したシステムを解いて、国民にCOVID-19は心配ないとメッセージを送ることだ)」"The worst thing any country could do now is to use this news as a reason to let down its guard, to dismantle the systems it has built, or to send the message to its people that #COVID19 is nothing to worry about"-@DrTedros— World Health Organization (WHO) (@WHO) May 5, 2023 日本では結構「緊急事態宣言が終了」というニュースが好意的に報道されたため、「5類」移行期とぴったりマッチしたこともあり、「もう大丈夫」という希望を持った人が多いと思います。ウィズコロナを続けていく上で、感染したら大変なことになるという警戒は以前ほど必要ありませんが、「一気に感染対策をゼロに」という時代が戻ってきたわけではありません。「希望は持ってよいが、油断はできない」というのがWHOの本音でしょう。日本は、欧米と違って非常に低い致死率でCOVID-19を抑えることができました。これはひとえに、日本国民の感染予防意識の高さと医療アクセスの良さによるものだろうと思っています。しかしその反作用として、苦しめられたという思いを持っている国民が多いのも事実です。患者数が増えれば、同じような医療逼迫を繰り返すことになる構図は変わりませんが、もはやそれは「禍」ではなく、1つの日常と受け取られることになるのかもしれません。医療従事者の努力私たち医療従事者は、まさに力戦奮闘、よく頑張りました。不気味な肺炎を起こす感染症には、二度と遭遇したくありません。「“At one level, this is a moment for celebration. We have arrived at this moment thanks to the incredible skill and selfless dedication of health and care workers; The innovation of vaccine researchers and developers; The tough decisions governments have had to make in the face of changing evidence; And the sacrifices that all of us have made as individuals, families, and communities to keep ourselves and each other safe”(ある意味、祝福の瞬間です。私たちがこの瞬間に立つことができたのは、医療・介護従事者の驚くべき技術と献身のおかげです。ワクチンの研究者や開発者の革新性、変化するエビデンスに直面しながらも政府が下した難しい決断、そして、私たち全員が、自身とお互いの安全を守るために、個人として・家族として・コミュニティとして、犠牲を払ってきたことによるものです)」"At one level, this is a moment for celebration.We have arrived at this moment thanks to the incredible skill and selfless dedication of health and care workers;The innovation of vaccine researchers and developers;The tough decisions governments have had to make in the face…— World Health Organization (WHO) (@WHO) May 5, 2023 コロナ禍を締めくくって感傷的になっているさなか、第9波がやってきてまた国内が混乱するということもあるかもしれません。感染対策も一気にゼロというわけではないため、各医療機関で少しずつ引き算していく苦労がしばらくは続くでしょう。とりあえず、情報発信する側に立ってきた人間として、コロナ禍はできるだけ後世に伝えていきたいと思っています。

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釣り針が刺さった【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第2回

皆さんは釣りをしますか? 私は学生時代に釣りの楽しさを知り、よく遠征していました。「魚の引き」に快感を覚えるタイプで、学生時代はカジキマグロ、福井で働いているときは玄達瀬でアジ科最大種のヒラマサを釣り上げました。地域にもよると思いますが、救急外来で働いていると釣り針が刺さった患者を診る機会がしばしばあります。一般の方は釣り針が刺さったときに何科を受診したらよいかわからないため、かかりつけ医や意外な診療科にふらっとやって来ることもあります。そういうときに対処方法やコツを知らないと本当に困ることになりますよ! 下記は私が経験した苦い経験です。指に釣り針の刺さった強面のお兄さんが受診。疑似餌を用いて釣りをしていたようで、ゴム製の疑似餌が付いたままであった。除去しようとして疲れたのか、ややイライラしながら「痛くないようにしてくださいよ!」とプレッシャーをかけてくる。String pull technique(後述)による抜去に慣れてきたころだったのでトライしてみたが、緊張のためか変な力が入って釣り針はうまく抜けない。激しい痛みが生じたようで、顔をゆがめながらものすごい目つきでこちらを見てくる…。皆さんなら初めの段階に、もしくはこの後どうされますか? このようなことにならないように、今回は釣り針が刺さったときの対処方法とそのコツを紹介します。釣り針の構造釣りをされる方であれば一度は経験すると思いますが、釣り中に釣り針が服に引っ掛かって取れなくなってしまうことがあります。服を傷つけないように取ろうとしてもなかなか難しいですよね。釣り針には下図のように「カエシ」という突起があり、釣り針を抜こうとするとカエシが引っかかって抜けない仕組みになっています。強引に抜こうとすると皮下組織を損傷してしまい、かなりの痛みが伴います。また、餌が外れにくくするための突起である「ケン」にも注意しなければいけません。これらの複雑な構造が釣り針の抜去を難しくしています。画像を拡大する釣り針の抜去方法4選一般的に指に刺さった釣り針を抜去する手法は4つあります1)。(1)Retrograde techniqueRetrograde techniqueは、釣り針を刺さった方向と逆向きにそのまま引き抜くという方法です。釣り針を指側に押して、カエシが引っかからないように抜去します。報告によると成功率は74%とありますが、私の印象ではなかなかこの方法で釣り針を抜去することは難しいです2)。魚を簡単に逃がさないための人類の工夫ですので簡単に取れても困りますもんね…。画像を拡大する(2)String pull techniqueString pull techniqueは、最も傷が小さいと言われる方法です。釣り針を糸で結び、指側に押しながら、釣り針が刺さった方向と逆向きに糸を引っ張ります。屋外でもできることが利点ですが、しっかりとした固定が必要なので耳たぶなどの固定が難しい部位では行えません。画像を拡大する(3)Needle cover techniqueNeedle cover techniqueは、釣り針の針穴に18Gの注射針を挿入し、内腔にカエシを入れ、カエシが皮下組織に引っ掛からないようにカバーしながら抜去する方法です。注射針の先端を直接見ることができないのが難点で、成功率は高くない(47%)という報告があります。私は一度トライしましたが、カエシに注射針が入っているのかよくわからず、「かぶさった」という感覚があったものの結局皮下で引っかかって断念しました。それ以降はやっていません。画像を拡大する(4)Advance and cut techniqueAdvance and cut techniqueは、釣り針を刺さった方向に押し進め、カエシを皮膚から出してペンチなどで切断する方法です。カエシの手前で釣り針を切りますが、切った瞬間に断端が飛んでしまう危険があるため、私は釣り針をガーゼなどで覆ってから切るようにしています。カエシがなくなれば釣り針は逆向きから簡単に抜けるようになります。デメリットは釣り針による穴が2ヵ所できることでしょうか。画像を拡大するケンがある釣り針の場合は注意が必要で、刺さった方向に押し進める際に最初の針穴にケンが入り込んでしまうとそこで抜けなくなります。そのため、あらかじめケンを切っておくか、釣り針の根元を切断して、そのまま刺さった方向に押し進めて針先側から釣り針を抜く方法もあります。画像を拡大する私は基本的には(1)か(2)をトライしてダメなら(4)で抜去しています。(4)で抜けないということはまずないです。鎮痛釣り針の抜去の手技には痛みが生じることが多いため、私は処置の前に局所麻酔(1%キシロカイン)で鎮痛しています。(2)の処置では鎮痛は必要ないとも言われていますが、失敗したときの痛みはかなりのものなので私は鎮痛しています。インターネットで「String pull technique, fish hook」と検索すると動画が見れますが、なかなか簡単にはいきません。なお、痛みを抑えるコツは釣り針を素早く引っ張ることです!抗菌薬と創部処置抗菌薬に関しては基本的に推奨されていません。しかし、免疫抑制状態や糖尿病、肝硬変がある場合や、釣り針が関節内や靭帯や皮下の深いところまで到達している場合は予防投与が検討されます。予防の目的の1つに最近注目を集めるようになったエロモナス・ハイドロフィラ(Aeromonas hydrophila)があります。これは淡水、河口部、海水に広く常在するグラム陰性の通性嫌気性桿菌であり、治療にはフルオロキノロンが適応となります。海や川で使用した釣り針で傷を負い、抗菌薬の予防投与が必要な場合はフルオロキノロンを検討しましょう。また、患者の予防接種歴を確認し、基礎免疫がある場合は最終接種から5年以上経過している場合は破傷風トキソイドを投与し、基礎免疫がない場合は破傷風トキソイドに加えて抗破傷風人免疫グロブリンの投与を検討します3)。創部処置では、針穴を密閉すると感染リスクが高まるので控え、軟膏を塗布もしくは通気性がよいガーゼなどで保護します1)。もし、院外で釣り針が刺さった患者に遭遇した場合、私は(2)のString pull techniqueはあまり推奨しません。冒頭の苦い経験のように、うまくいかないとどうしても強い痛みが生じるからです。院外で遭遇したら無理をせず病院受診を促し、院内ではどの手法を使うにしても鎮痛をしっかりしたほうがよいでしょう。ちなみに、冒頭の強面のお兄さんの釣り針は、結局(4)のadvance and cut techniqueで抜去しましたが、最後に一言「最初からこれでやれよ」と言われてしまいました。ものすごい目つきでにらまれた記憶が今でも残っています…。1)Gammons MG, et al. Am Fam Physician. 2001:63;2231-2236.2)McMaster S, et al. Wilderness Environ Med. 2014:25;416-424.3)Callison C, et al. In:StatPearls [Internet]. Tetanus Prophylaxis. Treasure Island(FL):StatPearls Publishing. 2022.

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第162回 Lillyのアルツハイマー病治療抗体も第III相試験成功 / 英国成人の5人に1人が音嫌悪症

Lillyの抗Aβ抗体もアルツハイマー病患者の認知や所作の衰えを抑制Eli Lilly and Company(以下、Lilly)の抗アミロイドβ(Aβ)抗体donanemabもエーザイのlecanemabと同様に初期アルツハイマー病患者対象の第III相試験で成功を収め、認知や身のこなしの指標であるiADRSの悪化をプラセボに比べて遅らせました1)。今回の発表ではiADRSを含む各転帰の経過のプラセボとの相対的な比較結果がひとまず示され、詳しい結果は再来月7月の学会Alzheimer's Association International Conferenceで報告される見込みです。donanemab投与群の各転帰の絶対的経過や同剤の効果がアルツハイマー病患者自身やその家族が察知できるほどのものであったかどうか2)はその学会報告を受けて検討されるでしょう。安全性はどうだったかというと、発作や出血へと至りうるアミロイド関連画像病変(amyloid-related imaging abnormalities:ARIA)の懸念が専門家の間で取り沙汰されているようです。ARIAの一種である一過性の脳浮腫(ARIA-E)はdonanemab治療群のほうがプラセボ群より4倍ほど多く、それぞれ24%と6.1%に認められました。小出血や血鉄素沈着を特徴とするARIA-Hも同様にdonanemab群で多く、プラセボ群では13.6%だったのがその2~3倍多い約3例に1例(31.4%)に認められました。LillyによるとARIAのほとんどは軽~中等度で、治療によって解消するか安定化しました。ただし、重度のARIAが1.6%に生じ、うち2例はそのために死亡しました。また、別の1例が重度ARIAの後に亡くなっています。認知症治療を研究する英国の精神科医Robert Howard氏はARIAを重くみており、donanemabはエーザイのlecanemabと同じぐらい危険なようだ(Looks as dangerous as lecanemab)とTwitterに投稿しています3)。lecanemabの試験に携わったソルボンヌ大学の神経科医Nicolas Villain氏の懸念はさらに大きいようで、donanemabのほうがより有害かもしれないと心配しています4)。そのような心配の声が上がる一方で、いわゆるアミロイド仮説を支持する科学者の多くはAβがアルツハイマー病の少なくとも有意な要因であることがdonanemabの今回の第III相試験でさらに確実になったとみるでしょう4)。たとえ害を差し引いた価値がいまひとつだったとしてもアミロイド蓄積を除去あるいは防ぐより有効で安全な手段の発案へと通じると期待できます。英国成人の5人に1人が不快な音をやり過ごせない音嫌悪症英国成人の約5人に1人(18%)は他の人がくちゃくちゃ言わせて物を食べたり鼻をすすったりするなどして生じる特定の不快な音をやり過ごせずに苦しむ音嫌悪症と推定されました5)。不快な音への一般的な反応は「いらつき」ですが、音嫌悪症の人は不快な音の出どころから離れられないと行き詰まってどうしようもなくなって何も手につかなくなります。また、音に過敏すぎることは自分に非があるとして自分を責めます6)。5人に1人もが音嫌悪症と推定されたにもかかわらず、そうと自覚していた人はほとんどおらずたった2.3%のみでした。不快な音で行き詰まってしまう音嫌悪症の人をそれが自分だけではないと今回の結果は安心させるに違いありません7)。音嫌悪症がよくある現象であることを今回の結果は示しました。音嫌悪症がどれほどひどいと体に差し障るかや治療が必要になるかなどを今後の研究で調べる必要があります。参考1)Lilly's Donanemab Significantly Slowed Cognitive and Functional Decline in Phase 3 Study of Early Alzheimer's Disease / PRNewswire2)Alzheimer’s drug donanemab: what promising trial means for treatments / Nature3)Robert Howard氏Twitter投稿4)‘It’s not a miracle drug’: Eli Lilly’s antibody slows Alzheimer’s disease but safety issues linger / Science5)Vitoratou S, et al. PLoS One. March 22, 2023. [Epub ahead of print]6)About a Fifth of Us Are Hypersensitive to Sounds / MedScape7)Nearly one in five UK adults may have misophonia, experiencing significant negative responses to sounds / Eurekalert

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コロナに感染した医療従事者の3割は未診断―国立国際医療研究センター

 国立国際医療研究センターの職員を対象とする血清疫学調査の結果、2022年12月時点で4割近くの職員がこれまでに新型コロナウイルスに感染しており、その3割は未診断、すなわち感染に気付いていないことが明らかになった。同センター臨床研究センター疫学・予防研究部の溝上哲也氏らの研究によるもので、詳細は「Epidemiology and Infection」に3月8日掲載された。 国内の感染症治療の基幹病院である同センターは、COVID-19パンデミック発生以来、東京都新宿区の本院と千葉県市川市の国府台病院とで、職員の抗体陽性率を定期的に調査してきている。その調査には毎回、職員のほぼ80%が参加しており、悉皆性の高いデータを得られている。 医療従事者はCOVID-19患者と接する機会が多いため感染リスクが高いと考えられるものの、パンデミック初期の同調査では、同センター職員の抗体陽性率はむしろ一般住民よりも低く、感染防御対策の徹底が奏功していることが示されていた。ただしその後、感染力の強いオミクロン株が出現するという状況の変化が生じている。今回の論文は、昨年12月に実施された調査データを含めた最新の報告。 この調査では、自己申告に基づき院内レジストリと照合して確認されたCOVID-19の診断歴がある場合と、ロシュ社またはアボット社の定性試薬を用いて測定した血中のヌクレオカプシドタンパク質に対する抗体が陽性の場合のいずれかに該当する場合を、「新型コロナウイルス感染歴あり」と定義している。その定義による累積感染率は、2021年6月時点では2.0%だったが、デルタ株が優勢になった後の2021年12月では5.3%に増加した。2022年1月からのオミクロン株による流行拡大を受け、累積感染率は3月には8.7%、6月には16.9%に達した。 オミクロン株はその後も少しずつ変異を繰り返していたが、同年(昨年)夏にはオミクロンBA.5が大流行し、患者数の急拡大を招いた。そして、同年12月の最新の調査では、同センター職員の累積感染率は39.0%と、ほぼ4割となった。また、新型コロナウイルスの感染歴ありとされた職員の約3割(29.7%)が、自分自身が感染していたことを自覚していなかった。 職種別に見た場合、オミクロン株出現以前は、特に感染率の高い職種は特定されていなかった。しかしオミクロン株出現以降は、若年の職員、事務職より医師や看護師、感染リスクが高い部門に勤務する職員で、感染率が高くなる傾向が認められた。 以上の結果に基づいて著者は、「都心に位置する当センターでは、オミクロン株出現後に職員の間で感染が急速に拡大したことが示された。2022年12月の時点で、職員の4割近くが感染していた可能性がある」とまとめている。また、感染の既往が再感染リスクや再感染時の重症化リスクを低下させる可能性があることを踏まえ、同センターで継続的に行っている職員対象の血清疫学調査が、「未診断を含めた新型コロナウイルス感染のモニタリングにとどまらず、いわゆる『ウィズコロナ』時代に向けて、個人および集団の免疫の評価にも役立つのではないか」と付け加えている。

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クルーズ船に乗船後、脳卒中を発症した作業療法士の女性―AHAニュース

 米国アリゾナ州に住む女性、Shelley Davisさんは、夫のGregさんや13歳と15歳になる娘たちとともに、1週間分の着替えや水着、日焼け止めなどの荷造りをしていた。彼女たち一家は1週間のクルーズ船の旅を目前に控えていた。 フロリダ州の港町に移動し、船に乗る日の朝は出港までの間、一家で日差しの中を散策した。やがて時間になり、クルーズ船ターミナル行きのバスに乗ろうとした時、Shelleyさんは頭痛を感じた。ターミナルに到着して乗船後に彼女は、横になるために自分たちの部屋へ直行した。夫のGregさんは、娘たちと船内を一巡。そして、「部屋に戻った時、妻はとても具合が悪そうにしていた」と話す。 それでもShelleyさんは、救命胴衣の着け方の講習を受けるため、メインデッキで家族と合流した。講習が終わり次第、看護師を探すつもりだった。Gregさんは、妻に話しかけても「Yes」か「No」しか言わないので何かおかしいと感じ、「あなたの名前は?」と尋ねてみた。Shelleyさんはまた「Yes」とつぶやいた。「あなたの名前を教えてください」とGregさんが重ねて問うと、彼女はただ夫を見ているだけだった。 Gregさんは直ちに助けを求めに走った。クルーズ船の医療スタッフは、Shelleyさんを船内の診療所に誘導した。診察の結果、高度な医療が必要な状態であると分かった。幸いにも船はまだ停泊中だった。救急車が要請され、Shelleyさんは最寄りの病院に搬送された。救急治療室に到着するまでに、彼女の顔の右側は垂れ下がり、右半身を動かすことができなくなっていた。 Shelleyさんの職業は作業療法士であり、普段は脳卒中後の人々の回復をサポートしていた。しかし当時46歳だった彼女はそれまで、自分自身が脳卒中になると思ったことなどなかった。 検査によって、頸動脈の層が解離して脳への血流が阻害されていることが明らかになった。解離した箇所で血流が100%遮断されていた。より高度な治療を行うため、彼女は近くの専門病院に空輸された。「病院到着時の彼女は生死の境目にいた」とGregさんは語る。医師から、救命できる確率は20%との予測が伝えられた。 脳への血流を回復するために緊急手術が行われた。脳卒中のより詳細な原因は、線維筋性異形成という、まれな疾患によるものであることが分かった。 カリブ海の島々を巡りながら船上生活を楽しむ予定だった1週間は、集中治療室で過ごすことになった。ただ、彼女は自分が生きているのは運に恵まれた結果であることを理解していた。「目が覚めたとき、右腕を少し動かすことができたのを覚えている。私はそれが脳卒中後の回復にとって良い兆候であることを知っていた。船が港を出た後ではなく、停泊中に発症したという幸運に感謝している」と彼女は話す。 手術は長い回復過程の最初のステップに過ぎなかった。彼女はアリゾナに戻り、外来治療を数カ月続けた。右半身の筋力は戻ったが会話は依然として困難で、人とのコミュニケーションを取る際には家族の助けが必要だった。「家にいて電話が鳴ると、とてもイライラした。買い物に行くことはできたが、欲しいものを店員に注文することができなかった。それらの体験が、より多くの会話訓練を行うよう私を駆り立てた」。 2015年に脳卒中を発症してから3年後、Shelleyさんは仕事に復帰。脳卒中サバイバーが日常生活を送るためのトレーニングを支援し始めた。彼女は、彼らのやる気を引き出すために、自分の体験を話すこともある。「私の患者は、できるだけ早く完全に回復したいとの願いのために、イライラしていることが多い。しかし私は、回復のためには、1日1日少しずつ前進していくしかないことを知っている。私自身、今でも徐々に会話力と筋力が改善してきている。自分が医療提供者であり脳卒中サバイバーであるために、他者にない視点を持つことができる点は素晴らしいことだと感じている。なぜなら、患者に共感し、かつ、回復が可能であるという事実を、自ら示すことができるからだ」とShelleyさんは語っている。[2023年4月11日/American Heart Association] Copyright is owned or held by the American Heart Association, Inc., and all rights are reserved. If you have questions or comments about this story, please email editor@heart.org.

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尿酸値の低さが腎機能の急速な低下リスクと関連――日本人の健診データの解析

 尿酸値が基準範囲内であっても低値の場合は、腎機能が急速に低下するリスクが高いという関連を示すデータが報告された。ただし、高齢者ではこの関連が見られないという。帝京大学ちば総合医療センター腎臓内科の寺脇博之氏らの研究によるもので、詳細は「Clinical and Experimental Nephrology」に2月11日掲載された。 尿酸値が高すぎる状態「高尿酸血症」は、痛風だけでなく腎機能低下のリスクとなる。しかし、それとは反対に尿酸値が低いことの腎機能への影響はよく分かっていない。尿酸には強力な抗酸化作用があるため、理論的には、尿酸値が低いことも腎機能低下リスクとなる可能性も考えられるが、そのような視点での研究報告は少ない。そこで寺脇氏らは、健診受診者のビッグデータを用いてこの点に関する検討を行った。 都内の健診センターの1998~2001年度の4年間の受診者のうち、2002~2005年度にも受診していて4年以上の追跡が可能だった1万1,129人から、低尿酸血症(2.0mg/dL未満)、積極的な治療が必要とされる高尿酸血症(8.0mg/dL以上)、および糖尿病の治療を受けている患者を除外した1万547人を解析対象とした。対象者の主な特徴は、平均年齢53.3±11.6歳、男性50.4%で、BMIは22.9±2.99、尿酸値5.22±1.23mg/dL、eGFR83.1±10.1mL/分/1.73m2。なお、治療中の糖尿病患者を除外したにもかかわらず、501人(4.8%)は糖尿病ないし糖尿病疑いと判定された。 eGFRが1年間に3mL/分/1.73m2以上の速度で低下していた場合を「急速な腎機能低下」と定義すると、5.4±1.6年の追跡で333人(3.2%)がこれに該当した。急速な腎機能低下群と対照群のベースラインデータを比較すると、年齢や性別(男性の割合)、BMI、尿酸値には有意差がなく、血圧やeGFRは前者が高値、アルブミンは後者が高値という有意差が見られた。 ベースラインの尿酸値を基に全体を6群に分けると、急速な腎機能低下の発生率は以下のように、4.0~4.9mg/dLの群が最も低かった。2.0~2.9mg/dLでは4.5%、3.0~3.9mg/dLは4.0%、4.0~4.9mg/dLは2.4%、5.0~5.9mg/dLは3.3%、6.0~6.9mg/dLは3.1%、7.0~7.9mg/dLは3.4%。 尿酸値4.0~4.9mg/dLの群を基準として、他群での急速な腎機能低下の発生リスクを検討。その結果、交絡因子未調整では、2.0~2.9mg/dLの群〔オッズ比(OR)1.93(95%信頼区間1.01~3.70)〕と、3.0~3.9mg/dLの群〔OR1.72(同1.20~2.45)〕、および5.0~5.9mg/dLの群〔OR1.43(同1.05~1.96)〕で有意なオッズ比の上昇が認められた。 腎機能の低下速度に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、BMI、収縮期血圧、ヘモグロビン、ALT、血清アルブミン、eGFR、HDL-C、TG、CRP、糖尿病・高血圧・脂質異常症・脳卒中・虚血性心疾患の既往)を調整後も、3.0~3.9mg/dLの群では有意性が保たれていた〔OR1.73(同1.20~2.50)〕。ベースライン登録後に判明した糖尿病(ないし疑い)患者を除外した解析の結果も同様だった。 性別のサブグループ解析からは、男性、女性ともに全体解析と同様の結果が示された。一方、年齢で層別化したサブグループ解析からは、65歳以上の高齢者では、尿酸値が低いことと急速な腎機能低下のリスクとの関連が非有意となることが分かった。 著者らは本研究の特徴の一つとして、尿酸値や腎機能に関連のある、血清アルブミンを含む多くの交絡因子を調整していることを挙げている。なお、血清アルブミンについては、著者らの研究グループが、基準範囲内でも低値の場合、急速な腎機能低下が発生しやすい可能性を既に報告している。一方、研究の限界点としては、腎機能低下との関連のある尿アルブミンや処方薬の情報が把握されていないこと、対象が健診受診者であるため健康リテラシーの高い集団と考えられることなどが挙げられるという。 論文の結論は、「われわれの研究により、特に若年から中年の成人において、基準範囲内で低レベルの尿酸値が腎機能の急速な低下のリスクと独立して関連していることが示された」とまとめられている。なお、その機序については文献的考察から、「尿酸はビタミンCを上回る抗酸化作用を有しており、そのレベルが低いことで、血管内皮細胞での酸化ストレスの亢進、アポトーシスの誘導、接着分子の発現などが生じることの影響が考えられる」と述べられている。また、高齢者では尿酸値低値の影響が非有意であることについては、「活動性が高い若年~中年期には酸化ストレス抑制のため尿酸の需要が高いのに対して、高齢期にはその需要が減るためではないか」と推察している。

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第43回 重症コロナのステロイドパルス、正しかった?

呼吸不全が多発したアルファ株・デルタ株オミクロン株になってから、めっきり減った重症のCOVID-19。ちらほら当院にもまだ入院が続いていますが、軽症例がほとんどであり、中等症I・IIはおろか、重症例は非常にレアな疾患となってしまいました。新型コロナワクチン接種率が高いだけでなく、既感染率が高いこと、ウイルスが変異したことが病毒性に大きな影響を及ぼしているとされています。さて、私の勤務する大阪府ではアルファ株の第4波のときが最も呼吸不全例が多い状況で、入院してくる症例のほとんどが中等症IIというありさまでした。戦乱のようなコロナ禍では、当院では稼働病床60床のうち30床がARDSという状況で、悪化を待っていられないという症例にステロイドを多用していたのも事実です。酸素不要で入院したのに短期間で呼吸不全になるケースが本当に多く、ほかに有効な手がありませんでした。ステロイドパルス療法は正しかったかそんな重症COVID-19に対して本当にステロイドパルス療法はよかったのかどうか、大阪大学の社会医学講座公衆衛生学を中心としたグループによる、日本全国のCOVID-19入院患者約6万7,000例の医療データの分析結果が報告されました1)。私たちが苦労したアルファ株・デルタ株の時期も含まれています。結果、重症例におけるステロイドパルス療法(1日当たりのメチルプレドニゾロン500mg以上)は、低用量ステロイドやステロイド非使用例と比較すると、院内死亡リスク低下と関連していることが示されました。反面、比較的軽症患者に対するステロイドパルス療法は死亡リスクを増加してしまうということも本研究で明らかにされています。子細なデータをみると、メチルプレドニゾロン40mg/日でさえも死亡リスクの上昇に関連しているので、気管挿管を必要としない症例では全身性ステロイド投与はかなり慎重になったほうがよいということになります。ステロイドパルス療法というのは、諸外国ではメチルプレドニゾロン250mg/日程度を指すことが多いと思いますが2)、日本の場合1,000mg/日とかなり多い量を投与することがあります。ウイルス性肺炎でステロイド受容体を飽和する以上の用量が本当に必要なのかどうか、国内外でもう少し腹を割った議論が必要と考えています。参考文献・参考サイト1)Moromizato T, et al. Intravenous methylprednisolone pulse therapy and the risk of in-hospital mortality among acute COVID-19 patients: Nationwide clinical cohort study. Crit Care. 2023 Feb 8;27(1):53.2)Edalatifard M, et al. Intravenous methylprednisolone pulse as a treatment for hospitalised severe COVID-19 patients: results from a randomised controlled clinical trial. Eur Respir J. 2020 Dec 24;56(6):2002808.

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Life's Essential 8を遵守している人は長寿の可能性―AHAニュース

 心血管の健康に関係のある一連の目標を守っている人は、そうでない人よりも寿命が約9年長い可能性のあることを示唆する報告が、「Circulation」に4月10日掲載された。 この研究では、米国心臓協会(AHA)が開発した「Life's Essential 8」と呼ばれる健康スコアと余命との関連が検討された。Life's Essential 8には、タバコを吸わないこと、身体的に活動的であること、健康的な食事をすること、適切な睡眠を取ること、体重を管理すること、および、血圧・血糖値・コレステロールの良好なコントロールが、推奨事項として掲げられている。以前の研究では、これらの推奨事項を遵守しており評価スコアが高い人は、スコアが低い人よりも、人生の中で慢性疾患に罹患していない期間が長いことが示されていた。そして今回の研究によって、「ライフスタイルの変更が、長生きにつながるというエビデンスが示された」と、論文の上席著者で米テュレーン大学肥満研究センター長のLu Qi氏は語っている。 Qi氏らは、2005~2018年の米国国民健康栄養調査に参加した成人2万3,003人(年齢範囲は20~79歳)を、2019年12月31日まで追跡し、Life's Essential 8の遵守状況と死亡リスクとの関連を検討した。Life's Essential 8の遵守状況は、0~100ポイントで評価し、スコア50点未満を「低い」、50~79点を「中程度」、80点以上を「高い」と分類した。 中央値7.8年の追跡で1,359人が死亡。50歳時点の平均余命は、スコアが低い群は27.3年、中程度の群は32.9年、高い群は36.2年であり、低い群と高い群との間には8.9年の差のあることが明らかになった。Life's Essential 8の推奨事項の中で、平均余命への影響力の大きい因子は、非喫煙、睡眠、身体活動、血糖管理だった。 平均余命の延長の約42%は、心血管死の減少に起因していた。ただしそれは逆に言えば、余命延長の58%近くは心血管疾患リスクの減少を介さずに生じたことを意味している。この結果について米カリフォルニア大学アーバイン校のNathan Wong氏は、「Life's Essential 8の推奨に基づく総合的な評価が重要であり、心血管の健康を維持することの好ましい影響が、心血管疾患以外での死亡リスクも抑制することを示している」と解説している。 また、Wong氏は、「この知見は、年1回の健康診断の結果やAHAの『My Life Check』(Life's Essential 8に基づく健康スコアを把握可能)をはじめとするオンラインツールの使用を通じて、人々が自分自身の心血管の健康リスクを理解する動機付けに役立つだろう。これらの評価結果を参考に、心血管の健康状態の改善に向けて、自分が何をすべきかを知ることができる」と付け加えている。 ただし同氏によると、Life's Essential 8には心血管の健康に関する多くの重要な事項が含まれているが、今後の研究では、さらに他の要因がどの程度、心血管の健康に関与しているのかを調べる必要があるとしている。「ストレスや抑うつなどの心理的因子や、ヘルスケアへのアクセスの良否などの社会的因子が、心血管疾患、あるいはその他の疾患の転帰に与える影響を考慮しなければならない。また今回の研究は死亡率に焦点を当てているが、非致死的な心血管転帰への影響の評価も求められる」とのことだ。[2023年4月11日/American Heart Association] Copyright is owned or held by the American Heart Association, Inc., and all rights are reserved. If you have questions or comments about this story, please email editor@heart.org.

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CGRPモノクローナル抗体に反応しやすい日本人片頭痛患者の特徴

 抗カルシトニン遺伝子関連ペプチドモノクローナル抗体(CGRPmAb)は、頭痛障害が従来の予防的治療オプションに奏効しない片頭痛患者にとって有用な薬剤であると考えられる。しかし、日本国内におけるCGRPmAbの使用実績は2年と短く、治療反応が得られやすい患者とそうでない患者を治療前に判別することは困難である。慶應義塾大学の井原 慶子氏らは、CGRPmAbに奏効した日本人片頭痛患者の臨床的特徴を明らかにするため、リアルワールドデータに基づいた検討を行った。その結果、年齢が高く、過去の予防薬治療失敗の合計回数が少なく、免疫リウマチ性疾患の病歴のない片頭痛患者は、CGRPmAbに対する良好な治療反応が期待できることが示唆された。The Journal of Headache and Pain誌2023年3月9日号の報告。 対象は、2021年8月12日~2022年8月31日に慶應義塾大学病院を受診し、3種類のCGRPmAb(エレヌマブ、ガルカネズマブ、フレマネズマブ)のいずれかを3ヵ月以上処方された日本人片頭痛患者。痛みの質、1ヵ月当たりの片頭痛日数(MMD)、1ヵ月当たりの頭痛日数(MHD)、過去の予防薬治療失敗の回数など、対象患者の基本的な片頭痛の特徴を収集した。治療反応者の定義は、治療3ヵ月後にMMDが50%以上低下した患者とした。治療反応者と非反応者におけるベースライン時の片頭痛の特徴を比較し、ロジスティック回帰分析を用いて、統計学的な有意差を検証した。 主な結果は以下のとおり。・分析対象の患者数は、合計101例(ガルカネズマブ:57例、フレマネズマブ:31例、エレヌマブ:13例)であった。・治療3ヵ月後の治療反応者は55例(54%)であった。・治療反応者と非反応者を比較すると、治療反応者は非反応者よりも年齢が有意に高く(p=0.003)、MHD(p=0.027)および過去の予防薬治療失敗の合計回数(p=0.040)が有意に少なかった。・日本人片頭痛患者におけるCGRPmAb治療反応の正の予測因子は年齢であり、負の予測因子は過去の予防薬治療失敗の合計回数、免疫リウマチ性疾患の病歴であった。

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交通騒音の多い道路の近くに住むと血圧が上昇?

 交通騒音の激しい道路の近くに住んでいる人は、高血圧の発症リスクが高いことが報告された。騒音に大気汚染の影響が加わると、そのリスクはさらに高くなるという。北京大学(中国)のJing Huang氏らの研究の結果であり、詳細は「JACC. Advances」3月発行号に掲載された。同氏はジャーナル発のリリースの中で、「交通騒音と高血圧リスクとの関連性が、大気汚染を調整した後でも強固であったことにやや驚いた」と述べている。 交通騒音が血圧に及ぼす影響を調べるためHuang氏らは、英国の大規模ヘルスケア情報ベース「UKバイオバンク」の24万人以上のデータを利用した前向き研究を行った。解析対象者は40~69歳で、高血圧の既往のある人は除外されている。交通騒音は、欧州で用いられている標準的な評価指標に基づいて推定した。 中央値8.1年の追跡で、2万1,140人が高血圧を発症。解析結果に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、民族、喫煙・飲酒・運動習慣、HbA1c、HDL-C、中性脂肪、塩分摂取量、睡眠時間、教育歴、経済状況、居住地域、居住期間、難聴、タウンゼント剥奪指数など)を調整後、24時間の平均的な交通騒音の音量が10デシベル高いごとに、高血圧の発症リスクが7%有意に高いという関連のあることが明らかになった〔ハザード比(HR)1.07(95%信頼区間1.02~1.13)〕。調整因子に、大気汚染の影響(PM2.5または二酸化窒素レベル)を追加してもこの関連は有意だった〔いずれもHR1.06(同1.00~1.12)〕。 交通騒音に大気汚染が加わった場合には、高血圧発症リスクがより高くなることも分かった。例えば、交通騒音が55デシベル以下でPM2.5が9.9μg/m3以下を基準とすると、PM2.5レベルが同じなら交通騒音が65デシベル超でも高血圧発症HRは1.02(95%信頼区間0.85~1.23)で有意なリスク上昇は見られなかった。それに対して、PM2.5レベルが10.6μg/m3超で交通騒音が65デシベル超の場合は、HR1.22(1.06~1.40)と有意なリスク上昇が認められた。 Huang氏は、「われわれの研究結果は、交通騒音の悪影響を抑制するという公衆衛生対策を推し進めることの十分な根拠となり得る。その対策には、現状よりも厳格な基準の騒音規制ガイドラインの施行、道路計画の改善、より静かな車両を作り出すための先進技術への投資などが含まれるだろう」と話している。 本論文の付随論評を寄せている、米ノースカロライナ大学チャペルヒル校のJiandong Zhang氏は、「この研究は、心血管の健康状態を向上させるためには、個人レベルと社会レベルの双方で、交通騒音と大気汚染への対策を講じる必要のあることを示す、質の高いエビデンスと言える」と評している。なお、研究グループでは現在、交通騒音が血圧にどのような影響を及ぼすのかをより詳細に把握するためのフィールド調査を行っている。

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SNSの使い過ぎが摂食障害のリスクを高める可能性

 TikTok、Twitter、Instagramなどのソーシャルメディア(SNS)に投稿されている若年女性の画像は、洗練された完璧なボディーであることが多い。若い女性が、それらの非現実的とも言える画像にオンラインで絶え間なく接することが、摂食障害のリスクを高めている可能性のあることが分かった。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のAlexandra Dane氏とKomal Bhatia氏らの研究によるもので、詳細は「PLOS Global Public Health」に3月22日掲載された。 摂食障害は、時に命に関わることもある精神疾患の一つ。体重増加に対する強い恐怖、極度の食事制限あるいは過食、食事と嘔吐を繰り返す、食欲不振といった症状や行為が生じる。SNSが一般的に利用されるようになって以降、SNS上にあふれている極端に痩せた人の画像、またはそのように加工された画像が、それらを閲覧した人たち自身のボディーイメージの評価を低下させてしまい、摂食障害のリスクを高める懸念が指摘されている。ただし、公衆衛生上の問題としてはまだ十分に研究されていない。 そこでBhatia氏らは、このトピックに関するスコーピングレビューを行った。スコーピングレビューとは、メタ解析などの詳細な検討をするほど十分な研究報告がない、比較的新しいトピックについて、全体像を把握するために行うレビューのこと。文献検索にはMEDLINE、PyscINFO、Web of Scienceというデータベースを利用。2016年1月~2021年7月に、それらに公開された、SNS利用とボディーイメージの懸念や摂食障害との関連に関する研究論文を検索。計17カ国から報告された50件の研究を抽出した。 それらの研究の多くは経済的に豊かな国で行われており、半数近くは米国とオーストラリアからの報告だった。研究対象者の年齢は10~24歳で、約半数は女性のみを対象としていた。抽出された文献を解析した結果、SNSの利用が、極端な痩せ体型を理想的なものとして捉え、自分のボディーイメージに自信を失い始め、乱れた食行動(disordered eating)や摂食障害(eating disorder)、およびメンタルヘルスの悪化につながる可能性のあることが明らかになった。一方、自分自身の外見に自信を持っている若者や、メディアリテラシーが高くSNSというメディアの特性を把握している若者は、マイナスの影響を受けにくいことも明らかになった。 ただし、このスコーピングレビューからは、SNS利用が自分自身のボディーイメージへの懸念や摂食障害のリスクをどのくらい高めるのか、定量的な把握はできない。またBhatia氏は、「卵が先か鶏が先かという問いの答えも得られていない」と述べている。つまり本研究は、ボディーイメージへの懸念や摂食障害のリスクが高い若者が、そのような画像が投稿されているSNSをより頻繁に閲覧しているという結果を見ている可能性も否定できない。そのため同氏は、「さらなる研究が必要とされる」としている。

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