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本研究の目的は、米国における原発性脳腫瘍の外科治療における人種的格差あるいは社会経済的格差について検討することにある。主要アウトカムを外科的切除の非実施を推奨するオッズ比とした 検討では、Surveillance, Epidemiology, and End Results(SEER)データベース(1975~2016年)と、American College of Surgeons National Cancer Database(NCDB、2004~17年)のデータが用いられた。新たに髄膜腫、膠芽腫、下垂体腺腫、聴神経鞘腫、星細胞腫、乏突起膠腫の診断を受けた20歳以上で、腫瘍サイズと手術に関する推奨についての情報が得られた患者を対象に分析を行った。主要アウトカムは、外科医が原発性脳新生物の診断時に、外科的切除の非実施を推奨するオッズ比(OR)とした。臨床要素や人口統計学的要因、社会経済的要素を盛り込み、多重ロジスティック回帰分析で評価した。黒人患者に対して、外科医が手術の非実施を推奨する確率が高い SEERとNCDBのデータにおいて、髄膜腫はSEERに6万3,674例、NCDBに22万2,673例、膠芽腫はそれぞれ3万5,258例と10万4,047例、下垂体腺腫は2万7,506例と8万7,772例、聴神経鞘腫は1万1,525例と3万745例、星細胞腫は5,402例と1万631例、乏突起膠腫は3,977例と9,187例が含まれていた。 SEERデータセットによると、保険の状況や居住地域(農村部か都市部か)などを含む臨床要素および人口統計学的要因とは独立して、黒人患者に対しては外科医が手術の非実施を推奨する確率が高く、白人患者と比較した補正後ORは、髄膜腫が1.13(95%信頼区間[CI]:1.06~1.21、p<0.0001)、膠芽腫が1.14(1.01~1.28、p=0.038)、下垂体腺腫が1.13(1.05~1.22、p<0.0001)、聴神経鞘腫は1.48(1.19~1.84、p<0.0001)だった。さらに、人種が不明の患者に対しても、外科医が手術の非実施を推奨する確率は、下垂体腺腫(補正後OR:1.80、95%CI:1.41~2.30、p<0.0001)、聴神経鞘腫(1.49、1.10~2.04、p=0.011)で高かった。NCDBデータセットを用いた検証解析でも、黒人患者に対し外科医が手術非実施を推奨する確率が高いことが確認され、補正後ORは、髄膜腫が1.18(95%CI:1.14~1.22、p<0.0001)、膠芽腫が1.19(1.12~1.28、p<0.0001)、下垂体腺腫が1.21(1.16~1.25、p<0.0001)、聴神経鞘腫が1.19(1.04~1.35、p=0.0085)であり、患者の合併症とは独立していた。SEERデータセットで直近10年間に限定し分析したところ、黒人患者に対する手術の非実施を推奨する確率は、髄膜腫(補正後OR:1.18、95%CI:1.08~1.28、p<0.0001)、下垂体腺腫(1.20、1.09~1.31、p<0.0001)、聴神経鞘腫(1.54、1.16~2.04、p=0.0031)で高かった。米国では原発性脳腫瘍患者への手術推奨において人種間格差が存在する 米国では、臨床的、人口統計学的、特定の社会経済的要因とは無関係に、原発性脳腫瘍患者への手術推奨において人種間格差が存在する。さらなる研究で、こうした偏見の原因を明らかにし、手術における平等性を強化する必要がある。わが国とは無関係といえるのか? 人種間格差に関するこれまでの実質的な研究は、転帰に焦点が当てられていたが、外科医の推奨が患者の人種によってどのように影響されるかについては、ほとんど知られていない。米国では、原発性脳腫瘍患者への手術推奨において人種間格差が存在することが明らかになった。わが国は、米国のような多民族・多人種国家ではないが、日本国内で生活する外国人労働者とその家族が増加しており、彼らが医療機関を訪れる機会も増えている。その際に、主治医として親身になれない、できれば責任を回避したい、といった差別的意識や偏見が働くことはないであろうか? 外科医による手術の非実施の推奨は、はたしてわが国とは無関係といえるのか。わが国でも、医療環境の国際化が進む中で、医療者による他人種への差別的意識や偏見の克服が課題となる。