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不定愁訴に伴う疲労の関連因子が明らかに

 「不定愁訴」と称される、医学的に説明できない症状のある人の「疲労」を悪化させる因子が明らかになった。めまいや頭痛という身体症状と、不安や抑うつという精神症状が、疲労の強さに独立して関連しているという。東邦大学医学部心身医学講座の橋本和明氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of General and Family Medicine」1月号に掲載された。 さまざまな検査を行っても患者の訴える症状につながる異常が見つからない場合、「医学的に説明不能な症状(medically unexplained symptoms;MUS)」または「不定愁訴」と診断される。MUSでは複数の身体・精神症状が現れることが多く、原因を特定できないために効果的な治療が困難であることから医療者の負担になりやすい。その影響もあり、医師はMUSの診療を避けようとする傾向のあることが報告されている。 「疲労」もMUSとされやすい症状の一つ。疲労がMUSとされやすい理由として、疾患のない健康な人にも疲労は高頻度に見られるために、患者の訴えを医療者が重視せずにMUSと判断しやすいことが関係しているとする報告がある。ただ、疲労は生活の質(QOL)を大きく低下させる因子であり、経済的損失にもつながることもあって、患者の苦痛は小さくない。仮に、疲労の強さに関連があり、かつ、治療が可能な身体的または精神的症状があるとすれば、それらに対する介入によってMUS患者の疲労とQOLを改善できる可能性がある。このような背景から橋本氏らは、MUS患者の疲労に関連する因子の横断的検討を行った。 解析対象は、2021年1~3月に、東邦大学医療センター大森病院心療内科を受診した20~64歳の患者のうち、複数の医師によって症状に見合う器質的疾患の可能性が除外され、解析に必要なデータがそろっている120人。疲労の程度はチャルダー疲労スケール(CFS)で評価し、そのほかに身体症状スケール-8(SSS-8)、不安・抑うつスケール(HADS)を用いて身体・精神症状を評価した。対象者の平均年齢は47.7±11.3歳、男性が35.8%で、抗うつ薬が62.5%、睡眠薬が24.2%、抗不安薬が41.7%に処方されていた。 まず、CFSとSSS-8およびHADSの相関を検討。すると、SSS-8で把握した消化器症状、背部痛、関節痛、頭痛、胸痛・呼吸困難、めまい、活力低下、不眠症という身体症状と、HADSで把握した不安、抑うつという精神症状の全てが、CFSスコアと有意に正相関していた。特に抑うつレベルとCFSスコアの強い相関が観察された(r=0.71)。 次に、CFSスコアを従属変数、SSS-8およびHADSの各因子を独立変数とする重回帰分析を施行。その結果、CFSスコアに独立して有意に関連する因子として、頭痛(β=0.14)、めまい(β=0.18)という身体症状と、不安(β=0.35)、抑うつ(β=0.38)という精神症状が抽出された。一方、睡眠薬の処方は負の有意な関連因子であることが分かった(β=-0.12)。年齢や性別および前記以外の症状は、独立した有意な関連が示されなかった。 著者らは本研究が単一施設で実施したものであること、症状の程度を自己評価で判定していることなどの限界点があるとした上で、「MUS患者の疲労には、頭痛、めまい、不安、抑うつが関連している」と結論付けている。なお、疲労は睡眠障害との関連性が知られているが、本研究で睡眠障害はCFSスコアの有意な関連因子として抽出されず、睡眠薬の処方が負の関連因子として抽出されたことから、「既に治療が導入されていた患者が含まれていたため、疲労と睡眠障害の関連については再検討が必要」と考察している。

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原発性脳腫瘍の手術推奨における人種間格差(解説:中川原譲二氏)

 本研究の目的は、米国における原発性脳腫瘍の外科治療における人種的格差あるいは社会経済的格差について検討することにある。主要アウトカムを外科的切除の非実施を推奨するオッズ比とした 検討では、Surveillance, Epidemiology, and End Results(SEER)データベース(1975~2016年)と、American College of Surgeons National Cancer Database(NCDB、2004~17年)のデータが用いられた。新たに髄膜腫、膠芽腫、下垂体腺腫、聴神経鞘腫、星細胞腫、乏突起膠腫の診断を受けた20歳以上で、腫瘍サイズと手術に関する推奨についての情報が得られた患者を対象に分析を行った。主要アウトカムは、外科医が原発性脳新生物の診断時に、外科的切除の非実施を推奨するオッズ比(OR)とした。臨床要素や人口統計学的要因、社会経済的要素を盛り込み、多重ロジスティック回帰分析で評価した。黒人患者に対して、外科医が手術の非実施を推奨する確率が高い SEERとNCDBのデータにおいて、髄膜腫はSEERに6万3,674例、NCDBに22万2,673例、膠芽腫はそれぞれ3万5,258例と10万4,047例、下垂体腺腫は2万7,506例と8万7,772例、聴神経鞘腫は1万1,525例と3万745例、星細胞腫は5,402例と1万631例、乏突起膠腫は3,977例と9,187例が含まれていた。 SEERデータセットによると、保険の状況や居住地域(農村部か都市部か)などを含む臨床要素および人口統計学的要因とは独立して、黒人患者に対しては外科医が手術の非実施を推奨する確率が高く、白人患者と比較した補正後ORは、髄膜腫が1.13(95%信頼区間[CI]:1.06~1.21、p<0.0001)、膠芽腫が1.14(1.01~1.28、p=0.038)、下垂体腺腫が1.13(1.05~1.22、p<0.0001)、聴神経鞘腫は1.48(1.19~1.84、p<0.0001)だった。さらに、人種が不明の患者に対しても、外科医が手術の非実施を推奨する確率は、下垂体腺腫(補正後OR:1.80、95%CI:1.41~2.30、p<0.0001)、聴神経鞘腫(1.49、1.10~2.04、p=0.011)で高かった。NCDBデータセットを用いた検証解析でも、黒人患者に対し外科医が手術非実施を推奨する確率が高いことが確認され、補正後ORは、髄膜腫が1.18(95%CI:1.14~1.22、p<0.0001)、膠芽腫が1.19(1.12~1.28、p<0.0001)、下垂体腺腫が1.21(1.16~1.25、p<0.0001)、聴神経鞘腫が1.19(1.04~1.35、p=0.0085)であり、患者の合併症とは独立していた。SEERデータセットで直近10年間に限定し分析したところ、黒人患者に対する手術の非実施を推奨する確率は、髄膜腫(補正後OR:1.18、95%CI:1.08~1.28、p<0.0001)、下垂体腺腫(1.20、1.09~1.31、p<0.0001)、聴神経鞘腫(1.54、1.16~2.04、p=0.0031)で高かった。米国では原発性脳腫瘍患者への手術推奨において人種間格差が存在する 米国では、臨床的、人口統計学的、特定の社会経済的要因とは無関係に、原発性脳腫瘍患者への手術推奨において人種間格差が存在する。さらなる研究で、こうした偏見の原因を明らかにし、手術における平等性を強化する必要がある。わが国とは無関係といえるのか? 人種間格差に関するこれまでの実質的な研究は、転帰に焦点が当てられていたが、外科医の推奨が患者の人種によってどのように影響されるかについては、ほとんど知られていない。米国では、原発性脳腫瘍患者への手術推奨において人種間格差が存在することが明らかになった。わが国は、米国のような多民族・多人種国家ではないが、日本国内で生活する外国人労働者とその家族が増加しており、彼らが医療機関を訪れる機会も増えている。その際に、主治医として親身になれない、できれば責任を回避したい、といった差別的意識や偏見が働くことはないであろうか? 外科医による手術の非実施の推奨は、はたしてわが国とは無関係といえるのか。わが国でも、医療環境の国際化が進む中で、医療者による他人種への差別的意識や偏見の克服が課題となる。

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若年性ポリポーシス症候群〔JPS:Juvenile Polyposis Syndrome〕

1 疾患概要■ 定義若年性ポリポーシス症候群(Juvenile polyposis syndrome:JPS)は消化管に若年性ポリープが多発する常染色体顕性遺伝(優性遺伝)性の遺伝性ポリポーシス症候群である。臨床診断基準および2つの原因遺伝子の生殖細胞系列の遺伝子検査により診断する。本疾患は小児慢性特定疾病に指定されており、医療費助成の対象となる(20歳未満まで)。■ 頻度と平均発症年齢発症頻度は10~16万人に1人程度。わが国の推定患者数は750~1,200人。平均発症年齢は18.5歳とされる1)。■ 原因遺伝子JPSの原因遺伝子にはSMAD4遺伝子あるいはBMPR1A遺伝子の2つが知られている。臨床的若年性ポリポーシス症例において、この2つの遺伝子に病的バリアントが同定されるのは約60%とされる。SMAD4遺伝子は遺伝性出血性末梢血管拡張症(hereditary hemorrhagic telangiectasia:HHT[オスラー病])の原因遺伝子でもあり、SMAD4病的バリアント症例では、若年性ポリポーシスとHHTの症状を併発していることもある。また、BMPR1A遺伝子は染色体10q23に位置しており、カウデン病(現在ではPTEN過誤腫性症候群と包括的に呼称されることが多い)の原因遺伝子であるPTEN遺伝子と隣接している。このためこの領域に欠失が生じた場合には、若年性ポリポーシスとPTEN過誤腫症候群を併発し、幼少期に発症することがある。この欠失の診断は染色体Gバンド法あるいはマイクロアレイ検査により行う。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 臨床診断基準臨床的に、(1)大腸に5個以上の若年性ポリープが認められる(2)全消化管(2臓器以上)に複数の若年性ポリープが認められる(3)個数を問わずに若年性ポリープが認められ、かつ、JPSの家族歴が認められるのいずれかを満たしている場合を臨床的にJPSと診断する。■ 遺伝学的検査SMAD4遺伝子およびBMPR1A遺伝子のシークエンスおよび再構成の解析(MLPA:Multiplex Ligation-dependent Probe Amplification)を行う。臨床的に若年性ポリポーシスと診断されても約40%の症例には病的バリアントが認められていない。現在では、がんパネル検査を実施したときに、偶然に両遺伝子に病的バリアントが検出される場合があるが、ほとんどの場合がん細胞のみに生じている体細胞変異である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)以下に各疾患の臨床的所見とその治療について述べる。1)若年性ポリープ(Juvenile Polyp:JP)遺伝性ではない孤発性の若年性ポリープについて概要を述べる。孤発性の若年性ポリープは病理学的には過誤腫性ポリープに属し、小児の腸管ポリープの90%以上を占め、3~5歳に好発するとされる2)。孤発性の若年性ポリープは、多くが有茎性あるいは亜有茎性で、易出血性、子供の下血の原因として重要である。表面は比較的平滑で赤色調で、びらんを認めることが多い。病理学的には、異型のない腺管が嚢胞状に拡張したり、間質に浮腫と炎症細胞浸潤や毛細血管の増生を認める(図1)。図1 若年性ポリープの臨床所見画像を拡大する(a)孤発性の若年性ポリープの内視鏡像。亜有茎性の発赤調ポリープ。表面にはびらんを認める。(b)若年性ポリープの病理組織像。弱拡大像。嚢胞状に拡張した腺管と間質の浮腫を認める。(c)同強拡大像。腺管は異型性を示さず、間質には炎症細胞浸潤と血管の増生を認める。若年性ポリープでは腺腫との混在例もあることから、治療は内視鏡切除により病理学的診断も行うことが一般的である。孤発性の若年性ポリープは一般には非遺伝性であり悪性病変のリスク上昇とは関連がないと考えられている。2)若年性ポリポーシス(JPS)一方で、遺伝性の若年性ポリポーシスでは、単に若年性ポリープが複数発症している状態であるほかに、消化管が悪性化のポテンシャルを有していると考えられるため、生涯にわたり消化管病変のマネジメントを行う。病型としてポリポーシスの発生部位により全消化管型、大腸限局型、胃限局型に分けられる。わが国の病型別の頻度は全消化管型が27.4%、大腸限局型が36.3%、胃限局型が36.3%とされる3)。胃限局型であっても大腸にポリープが数個認められることが多い。また、SMAD4遺伝子に病的バリアントを認める症例では、胃限局型の表現型となることが多い(図2)。図2 胃限局型の若年性ポリポーシスの臨床所見画像を拡大する(a)胃限局型の若年性ポリポーシス例の手術標本。特に胃の体下部から前庭部にかけて、丈の高いポリープが密集している。(b)手術標本の断面像(c)ポリープの病理組織。弱拡大像。(d)同拡大像(×40)。腺管の嚢胞状の拡張および間質の浮腫、炎症細胞浸潤を認める。消化管の若年性ポリポーシスについては、孤発性の若年性ポリープと異なり、ポリポーシスの発生部位や分布および病理所見により、局所の内視鏡切除だけではなく、広範な胃全摘術あるいは大腸全摘術を考慮しなければならない場合もある。JPSが貧血や低蛋白血症の原因であるためだけではなく、将来的にも悪性腫瘍を併発しているリスクがあるためでもある。胃限局型で著明な貧血や低蛋白血症を発症している場合、胃全摘術によりこれらの症状は改善する。若年性ポリポーシス患者の悪性腫瘍の70歳時点での生涯罹患リスクは86%、臓器別では胃がんが73%、大腸がんが51%と高くなっているが、これはポリープの分布に依存する3)。■ その他のがん消化管以外のがんについては、若年性ポリポーシスにおいてはリスク上昇の報告はない4)。SMAD4遺伝子の変異は膵がんの55%にみられるが、わが国のポリポーシスセンターの171例の登録をみても、消化管以外のがんでは小腸がんや乳がんの登録が各1例ずつあるのみで膵がんの登録はない3)。■ 血管病変SMAD4遺伝子はオスラー病の原因遺伝子でもあるため、SMAD4変異症例では、オスラー病の一分症として、鼻出血や毛細血管の拡張、肺動静脈瘻を認める場合がある。とくに鼻出血は頻度が高い。■ 血縁者の対策若年性ポリポーシスと診断された発端者の第1度近親者は50%、第2度近親者は25%の確率で同じ体質を有する可能性があるので、血縁者への医療介入の機会を提供することは極めて重要である。米国のNCCNガイドラインでは、胃や大腸の内視鏡を12~15歳で開始して2~3年ごとに実施すること、また、SMAD4遺伝子に病的バリアントがある場合には、生後6ヵ月から鼻出血や肺動静脈瘻などの血管病変のスクリーニングを行うことを推奨している5)。未発症の血縁者に発端者と同じ変異があるかを検査する未発症者のキャリア診断は、原則として遺伝カウンセリングの実施体制が整備されている医療機関で行う。また、病的バリアントが認められた場合に具体的なマネジメントを提案できるなど実行可能な医療が提供できることが前提となる。4 今後の展望現在、化学予防など実施中の臨床試験は検索しうる限りない。また、リスク低減のための大腸全摘術やSMAD4病的バリアント変異例におけるリスク低減胃全摘術の有効性は不明である。そのほか、SMAD4遺伝子やBMPR1A遺伝子に病的バリアントを有するがんにおいて、有効性が期待できる分子標的薬は現時点ではない。若年性ポリポーシスは、消化管ポリポーシスがコントロールでき、当事者の疾患に対する適切な認識を持つことができれば、十分に対応可能な病態である。そのために継続的な家族との関わりを保てられる診療体制が必要である。5 主たる診療科若年性ポリポーシスは多数の診療科が連携してマネジメントを行う。消化管ポリポーシスのマネジメントが喫緊の診療なので、消化器内科がコアになることが多い。手術適応があれば消化器外科が対応する。その他、鼻出血には耳鼻咽喉科、肺動静脈瘻の塞栓療法は呼吸器内科や放射線科が対応する。未発症の血縁者へのサーベイランスや遺伝子診断は遺伝カウンセリング部門が担当する。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報消化管ポリポーシス難病班 若年性ポリポーシス症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)小児慢性特定疾病情報センター 若年性ポリポーシス(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)GeneReviews Japan 若年性ポリポーシス症候群(医療従事者向けのまとまった情報)1)松本主之、新井正美、岩間達、他. 遺伝性腫瘍. 2020;20:79-92.2)日本小児外科学会ホームページ. 消化管ポリープ、ポリポーシス.(最終アクセス日:2023年4月2日)3)Ishida H, et al. Surg Today. 2018;48:253-263.4)Boland CR, et al. Gastrointest Endosc. 2022;95:1025-1047.5) National Comprehensive Cancer Network. NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology. Genetic/Familial High-Risk Assessment: Colorectal. Version2. 2022.Detection, Prevention, and Risk Reduction.(最終アクセス日:2023年4月2日)公開履歴初回2023年4月19日

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片頭痛予防、日本人患者と医師の好みは?

 現在、日本における片頭痛の予防には、自己注射可能なカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)モノクローナル抗体(mAb)のオートインジェクター(AI)製剤、非CGRPの経口剤などが利用可能である。米国・EvideraのJaein Seo氏らは、CGRP mAbのAI製剤と非CGRPの経口剤に対する日本人患者および医師の好みを調査し、両者にとってのAI製剤の相対的な重要性の違いを測定しようと試みた。その結果、多くの片頭痛患者および医師は、非CGRP経口剤よりもCGRP mAbのAI製剤を好むことが確認された。本結果から著者らは、日本人医師が片頭痛の予防治療を勧める際には、患者の好みを考慮する必要性が示唆されるとしている。Neurology and Therapy誌2023年4月号の報告。 反復性(EM)または慢性(CM)の片頭痛を有する日本人の成人患者および片頭痛を治療する医師を対象に、オンラインによる離散選択実験(DCE)を実施し、自己注射可能なCGRP mAbのAI製剤と非CGRP経口剤の2つについて好ましい仮説的な治療法を選択するよう依頼した。治療法は7つの治療属性で記述され、質問ごとに属性レベルは異なっていた。CGRP mAbの治療プロファイルの相対帰属重要度(RAI)スコアおよび予測選択確率(PCP)を推定するため、ランダム定数ロジットモデルを用いてDCEデータを分析した。 主な結果は以下のとおり。・片頭痛を有する601人(EMの割合:79.2%、女性の割合:60.1%、平均年齢:40.3歳)および医師219人(平均勤続年数:18.3年)がDCEを完了した。・患者の約半数(50.5%)がCGRP mAbのAI製剤を支持しており、他の患者は同製剤に懐疑的(20.2%)または嫌悪感(29.3%)を示していた。・患者が最も重視した項目は、針の除去(RAI:33.8%)、注射時間の短縮(同:32.1%)、オートインジェクターの形状および皮膚圧迫の必要性(同:23.2%)であった。・多くの医師(87.8%)は、非CGRP経口剤よりもCGRP mAbのAI製剤を好んでいた。・医師が最も重視した項目は、投与頻度の少なさ(RAI:32.7%)、注射時間の短縮(同:30.4%)、冷蔵庫外での保管期間の延長(同:20.3%)であった。・治療プロファイルは、ガルカネズマブ(PCP:42.8%)が、エレヌマブ(同:28.4%)およびフレマネズマブ(同:28.8%)より、患者に選択される可能性が高かったが、医師の評価では3製剤のプロファイルのPCPは同程度であった。

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地中海食とMIND食がアルツハイマー型認知症の予防に有効か

 緑色の葉野菜や魚などの健康的な食品をたくさん食べる習慣のある高齢者は、「脳年齢」が若い可能性のあることが、米ラッシュ大学のPuja Agarwal氏らの研究で示唆された。健康的な食事法である地中海食とMIND食のいずれかに近い食事を取っていた高齢者では、アルツハイマー型認知症に特徴的な、脳内でのアミロイドβの蓄積とリン酸化タウタンパク質の凝集(神経原線維変化)が少なかったという。この研究結果は、「Neurology」に3月8日掲載された。 魚やオリーブ油、野菜、豆類、ナッツ類、食物繊維が豊富な穀物を多く摂取する地中海食が、心疾患や脳卒中のリスク低下につながることは広く知られている。一方、MIND食は、地中海食によく似ているが、野菜や果物のうち緑色の葉野菜やベリー類の摂取をより重視している点が特徴だ。これは、これらの食品が脳の健康に良いことを示した研究結果に基づいている。 Agarwal氏らによると、地中海食とMIND食ではいずれも、体内の炎症を抑え、細胞をダメージから守る作用を持つさまざまな栄養素や化学物質を含む植物性食品を多く摂取する。また、赤肉や砂糖、加工度の高い食品の摂取は避けるという点も、これらの食事法に共通した特徴の一つである。 今回報告された研究では、ラッシュ大学で進行中の認知機能と加齢変化に関する疫学研究(Rush Memory and Aging Project)の参加者581人の剖検脳組織の調査が行われた。参加者は研究登録時に、死後の脳提供に同意していた。その後、毎年食事に関する質問票に回答。その情報からAgarwal氏らは、死亡した581人の食事が地中海食およびMIND食の要素をどの程度満たしているかをスコア化し、3群に分けた。 その結果、地中海食スコアが最も高かった群では、同スコアが最も低かった群と比べてアミロイドβの蓄積量と神経原線維変化に基づく脳年齢が18年低かった。MIND食スコアに関しても、最高スコア群と最低スコア群の間に認められた脳年齢の差は12歳であることが示された。また、Agarwal氏によると、特に緑色の葉野菜の摂取量が週7サービング(サービングは食事の提供量の単位で、1食分として食べる量)以上だった人では、週1サービング以下だった人と比べて脳年齢が約19年低いことが示された。 Agarwal氏らは、先行研究で地中海食とMIND食はいずれも認知機能の低下を遅らせるとともに、アルツハイマー型認知症のリスク低下に関連することが示されていたと説明。その上で、「われわれが得た研究結果は、アルツハイマー型認知症の客観的な兆候で、認知症の症状が現れる何年も前から脳内に現れ始めるアミロイドβの蓄積や神経原線維変化に、食事が関係していることを示したものである」と述べている。またAgarwal氏は、食事を変化させるだけで大きな差が生まれることを示唆したという点で、この研究結果は「エキサイティングだ」と話している。 専門家らは、「この研究結果は、ホウレンソウや魚を食べれば認知症を予防できることを示したものではない」として、慎重な解釈を求めている。その上で、「ただし、健康的な食事が脳の老化の抑制に関連するというエビデンスは増えつつあり、今回の研究結果がそうしたエビデンスを補強したことは確かだ」との見解を示している。

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米国で危険な薬剤耐性真菌感染症が増加

 ある真菌の感染が米国全土に広がりつつあるとして、米疾病対策センター(CDC)の研究グループが警鐘を鳴らしている。Candida auris(カンジダ・アウリス)と呼ばれるこの真菌はカンジダ属の新興菌種であり、感染すると生命が脅かされる可能性があるという。研究グループは、2013年にカンジダ・アウリスの初の感染者が報告されて以降、全米で急激に感染者が増加していることを、「Annals of Internal Medicine」3月21日号で報告した。 論文の筆頭著者でCDC真菌感染症部門メディカルオフィサーのMeghan Lyman氏によると、カンジダ・アウリスは触れただけで簡単に感染する。また、一度感染すると除去することは難しく、何カ月間にもわたって生存し続けるという。この真菌は、健康な人には無害だが、何らかの疾患が原因で免疫機能が低下している人が感染すると、重篤で生命を脅かす感染症を引き起こす可能性がある。 米国ではカンジダ・アウリス感染症が年々増加しており、2019年には前年比44%の増加だったのが、2021年には95%の増加となっている。また、血液や心臓、脳に菌が感染するなどした侵襲性カンジダ・アウリス感染症の患者では、3人中1人以上が死亡している。さらに、カンジダ・アウリス感染症の報告があった州の数が増加しているだけでなく(2016年には4州、2021年には28州とコロンビア特別区)、同菌が定着した州では感染者も増加しているとLyman氏は指摘している。本論文では、2021年にカンジダ・アウリスの保菌スクリーニングを受けて陽性だった健康な人の数が209%もの増加となったことが記されており、こうした人々がカンジダ・アウリスの感染を他者に広げている可能性も示唆された。 さらに懸念すべき問題として、カンジダ・アウリスが抗真菌薬に対して耐性を獲得しつつあることをLyman氏は挙げている。カンジダ・アウリスは当初より、抗真菌薬の主要な3クラスのうちの2つに対して耐性を示していた。しかし現在、カンジダ・アウリスは3つ目のカテゴリーの薬で、新しい半合成化合物であるキャンディン系抗真菌薬に対しても耐性を獲得しつつあることが今回、明らかになったのだ。 キャンディン系抗真菌薬に耐性を示すカンジダ・アウリス感染症の2021年の患者数は、過去2年間と比べて約3倍に増加している。Lyman氏は、「キャンディン系抗真菌薬は、カンジダ・アウリス感染症やその他のカンジダによる侵襲性感染症に対する第一選択薬だ。米国での抗真菌薬耐性カンジダ・アウリス感染症の患者数は今のところ少ないが、増加傾向にあることは分かっている。こうした患者に対する治療選択肢は特に限られているため、この点は明らかに懸念すべき問題だ」と話す。 Lyman氏によると、米国でカンジダ・アウリス感染症の初の症例が報告されたのは2013年であったが、その後2016年までは報告がなかった。米国では複数の異なるカンジダ・アウリス株が検出されており、いずれも異なるタイミングで海外から入ってきたと考えられている。一説には気候変動がカンジダ・アウリスの増加に影響しているともいわれており、Lyman氏も、「カンジダ・アウリスは実際、他の属の真菌よりもやや高い気温で増えやすい」と指摘している。また、抗真菌薬の使い過ぎによって他の属の真菌が死滅する中で、耐性を獲得したカンジダ・アウリスが増える要因となった可能性を唱える説もあるという。ただ同氏は、「近年の米国における感染拡大には、医療現場での不十分な感染対策が関係している」との考えを示している。 一方、米マウントサイナイ・サウス・ナッソーの感染症部門長のAaron Glatt氏は、「医師たちは今、カンジダ・アウリスが定着しているが感染はしていない患者に対する処置の判断に苦慮している」と話す。そして、「カンジダ・アウリスが定着しているだけの場合、治療は推奨されない。その代わりに適切な感染対策が推奨される。不適切な抗真菌薬の使用によってさらに薬剤耐性を獲得させるわけにはいかないからだ」と説明する。ただ、こうした対策は、患者を医療からつまはじきにしてしまう可能性がある。それでも、Lyman氏は、「適切な感染対策と新しい抗真菌薬の使用とともに、早期にカンジダ・アウリスの保菌者を見つけ出すことは、その後の感染拡大を防ぐ最善の方法である」と主張している。

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英語で「非常にまれですが」は?【1分★医療英語】第76回

第76回 英語で「非常にまれですが」は?On rare occasions, we see the recurrence of this type of cancer.(非常にまれですが、このがんは再発することがあります)I see, but hopefully not.(そうなんですね。でもそうならないことを願います)《例文1》医師On rare occasions, you will experience fever with this medication.(非常にまれですが、この薬で発熱することがあります)患者I understand. (わかりました)《例文2》医師On rare occasions, we have to change the plan during surgery.(非常にまれですが、手術中に方針を変えることがあります)患者Please do whatever you think is the best.(先生が一番だと思う方針でお願いします)《解説》“On rare occasions”(非常にまれですが)、この表現は、治療方針や病状を説明するときに頻用されます。通常の治療経過から外れて予測される事態を説明する際に前置きすることで、「まれである」ことを強調でき、患者さんに余計な不安を与えずに予測される事態を伝えられるので有用です。“On rare occasions”で始めることで、その後に続く内容のインパクトを和らげる効果があります。使用できる場面は限られますが、便利な表現ですので、ぜひ使ってみてください。講師紹介

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第159回 アルツハイマー病行動障害の初の承認薬誕生近し?/コロナ肺炎患者への欧米認可薬の効果示せず

アルツハイマー型認知症の難儀な振る舞いの初の承認薬誕生が近づいているアルツハイマー型認知症患者の半数近い約45%、多ければ60%にも生じうる厄介な行動障害であるアジテーション(過剰行動、暴言、暴力など)の治療薬が米国・FDAの審査を順調に進んでいます。大塚製薬がデンマークを本拠とするLundbeck社と開発した抗精神病薬ブレクスピプラゾール(商品名:レキサルティ)は昨夏2022年6月に速報された第III相試験結果でアルツハイマー型認知症に伴うアジテーション(agitation associated with Alzheimer’s dementia、以下:AAD)を抑制する効果を示し1)、今年初めにその効能追加の承認申請がFDAに優先審査扱いで受理されました2)。アジテーションは誰もが生まれつき持つ感情や振る舞いが過度になることや場違いに現れてしまうことであり、多動や言動・振る舞いが攻撃的になることを特徴とします。アジテーションは患者本人の生きやすさを大いに妨げるのみならずその親しい人々をも困らせます。第III相試験では徘徊、怒鳴る、叩く、そわそわしているなどの29のアジテーション症状の頻度がプラセボと比較してどれだけ減ったかがCohen-Mansfield Agitation Inventory(CMAI)という採点法によって調べられました。29のアジテーション症状それぞれの点数は1~7点で、点数が大きいほど悪く、症状がない(Never)場合が1点で、1時間に繰り返し認められる場合(Several times an hour)は最大の7点となります。試験にはAAD患者345例が参加し、ブレクスピプラゾール投与群の12週時点のCMAI総点がプラセボ群に比べて5点ほど多く低下し、統計学的な有意差を示しました(22.6点低下 vs.17.3点低下)3)。同試験結果をもとに承認申請されたその用途での米国審査は順調に進んでおり、先週14日に開催された専門家検討会では同剤が有益な患者が判明しているとの肯定的判断が得られています4)。FDAの審査官も肯定的で、同剤の効果はかなり確からしいとの見解を検討会の資料に記しています5)。AADを治療するFDA承認薬はありません。ブレクスピプラゾールのその用途のFDA審査結果は間もなく来月5月10日までに判明します。首尾よく承認に至れば、同剤はFDAが承認した初めてのAAD治療薬の座につくことになります。その承認は歴史的価値に加えて経済的価値もどうやら大きく、その効能追加で同剤の最大年間売り上げが5億ドル増えるとアナリストは予想しています6)。重症コロナ肺炎患者へのIL-1拮抗薬anakinraの効果示せずスペインでの非盲検の無作為化第II/III相試験でIL-1受容体拮抗薬anakinraが重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)肺炎患者の人工呼吸管理への移行を防ぐことができませんでした7)。ANA-COVID-GEASという名称の同試験は炎症指標の値が高い(hyperinflammation)の重症コロナ肺炎患者を募り、179例がanakinraといつもの治療(標準治療)または標準治療のみの群に割り振られました。プラセボ対照試験ではありません。主要転帰は15日間を人工呼吸なしで過ごせた患者の割合で、解析対象の161例のうちanakinra使用群では77%、標準治療のみの群では85.9%でした。すなわちanakinraなしのほうがその割合はむしろ高く、人工呼吸の出番を減らすanakinraの効果は残念ながら認められませんでした。侵襲性の人工呼吸を要した患者の割合、集中治療室(ICU)を要した患者の割合、ICU滞在期間にも有意差はありませんでした。それに死亡率にも差はなく、28日間の生存率はanakinra使用群と標準治療のみの群とも93%ほどでした。試験の最大の欠点は非盲検であることで、他に使われた治療薬の差などが結果に影響した恐れがあります。同試験の結果はanakinraが有効だった二重盲検のプラセボ対照第III相試験(SAVE-MORE)の結果と対照的です。欧州は600例近くが参加したそのSAVE-MORE試験結果に基づいてコロナ肺炎患者へのanakinraの使用を2021年12月に承認しています8)。SAVE-MORE試験は重度呼吸不全か死亡に至りやすいことと関連する可溶性ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子受容体(suPAR)上昇(6ng/mL以上)患者を対象としました。今回発表されたスペインでの試験結果と異なり、SAVE-MORE試験では重症呼吸不全への進展か死亡がanakinra使用群ではプラセボ群に比べて少なく済みました(20.7% vs.31.7%)9)。また、生存の改善も認められ、anakinraは28日間の死亡率をプラセボ群の半分以下に抑えました(3.2% vs.6.9%)。SAVE-MORE試験の被験者選定基準にならい、欧州はsuPARが6ng/mL以上の酸素投与コロナ肺炎患者への同剤使用を認めています10)。米国もsuPARが上昇しているコロナ肺炎患者への同剤使用を取り急ぎ認可しています11)。参考1)Otsuka Pharmaceutical and Lundbeck Announce Positive Results Showing Reduced Agitation in Patients with Alzheimer’s Dementia Treated with Brexpiprazole / BusinessWire 2)Otsuka and Lundbeck Announce FDA Acceptance and Priority Review of sNDA for Brexpiprazole for the Treatment of Agitation Associated With Alzheimer’s Dementia / BusinessWire3)Otsuka Pharmaceutical and Lundbeck present positive results showing reduced agitation in patients with Alzheimer’s dementia treated with brexpiprazole at the 2022 Alzheimer's Association International Conference / BusinessWire4)Otsuka and Lundbeck Issue Statement on U.S. Food and Drug Administration (FDA) Advisory Committee Meeting on REXULTI® (brexpiprazole) for the Treatment of Agitation Associated with Alzheimer’s Dementia / BusinessWire5)FDA Briefing Document6)Otsuka, Lundbeck head into key FDA panel meeting with agency support for their Rexulti application / FiercePharma7)Fanlo P, et al. JAMA Netw Open. 2023;6:e237243.8)COVID-19 treatments: authorised / EMA9)Kyriazopoulou E, et al. Nature Medicine. 2021;27:1752-1760.10)Kineret / EMA11)Kineret® authorised for emergency use by FDA for the treatment of COVID-19 related pneumonia / PRNewswire

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肺機能と認知症リスク~43万人超のコホート研究

 脳の認知的な健康に、肺機能が他の因子と独立して影響を及ぼすかはよくわかっていない。中国・青島大学のYa-Hui Ma氏らは、肺機能と脳の認知的な健康の縦断的な関連性を評価し、根底にある生物学的および脳の構造的なメカニズムを明らかにしようと試みた。その結果、認知症発症の生涯リスクに対する個々の肺機能の影響が確認され、著者らは、「最適な肺機能の維持は、健康的な加齢や認知症予防に有用である」としている。Brain, Behavior, and Immunity誌2023年3月号の報告。 UK Biobankのデータより、肺機能検査を実施した非認知症の43万1,834人を対象に、人口ベースのコホート研究を実施した。肺機能低下の認知症発症リスクを推定するため、Cox比例ハザードモデルを用いた。炎症マーカー、酸素運搬指数、代謝物、脳の構造によって引き起こされる根本的なメカニズムの調査には媒介分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・373万6,181人年のフォローアップ期間中(平均:8.65年)に、すべての原因による認知症は5,622人(1.30%)であった(アルツハイマー型認知症:2,511人、血管性認知症:1,308人)。・単位時間当たりの肺機能測定値の低下は、すべての原因による認知症リスクの増加と関連が認められた。 【1秒量(努力肺活量の1秒量)】ハザード比[HR]:1.24、95%信頼区間[CI]:1.14~1.34、p=1.10×10-07 【努力肺活量】HR:1.16、95%CI:1.08~1.24、p=2.04×10-05 【最大呼気流量】HR:1.0013、95%CI:1.0010~1.0017、p=2.73×10-13・肺機能の低下は、アルツハイマー型認知症および血管性認知症のリスクにおいても、同様の推定ハザード比を示した。・根底にある生物学的メカニズムとして、炎症マーカー、酸素運搬指数、特定の代謝産物は、認知症リスクに対する肺機能の影響を媒介する因子であった。・認知症で主に影響を受ける脳の灰白質および白質のパターンは、肺機能により大きな変化が認められた。・最適な肺機能を維持することは、健康的な加齢や認知症予防に役立つ可能性が示唆された。

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高齢の急性心筋梗塞患者、所得格差が生存率に影響か/JAMA

 高齢の急性心筋梗塞患者では、高所得者層は低所得者層と比較して、生存率が実質的に良好で、救命のための血行再建術を受ける可能性も高く、入院期間が短く再入院が少ないことが、米国・ハーバード大学医学大学院のBruce E. Landon氏らの調査で示された。研究の成果は、JAMA誌2023年4月4日号に掲載された。66歳以上を対象とする6ヵ国の連続横断コホート研究 研究グループは、急性心筋梗塞の高齢患者では、治療パターンとアウトカムが、低所得者層と高所得者層で異なるかを明らかにする目的で、6ヵ国(米国、カナダ[オンタリオ州、マニトバ州]、イングランド、オランダ、イスラエル、台湾)において連続横断コホート研究を行った(米国国立老化研究所[NIA]などの助成を受けた)。 対象は、2013~18年に急性心筋梗塞で入院した年齢66歳以上の患者であった。五分位の最富裕層と最貧困層を国別に比較した。 主要アウトカムは30日および1年死亡率であった。副次アウトカムには、心臓カテーテル検査や血行再建術の実施率、入院期間、再入院率などが含まれた。皆保険の国でも所得による格差が存在 ST上昇型心筋梗塞(STEMI)による入院患者28万9,376例と、非STEMI(NSTEMI)による入院患者84万3,046例が解析の対象となった。補正済み30日死亡率と1年死亡率は、STEMIおよびNSTEMIの双方とも、台湾を除く5ヵ国では高所得者層で低かった。 30日死亡率は、全般的に高所得者層で1~3ポイント低く、たとえばオランダのSTEMIの30日死亡率は、高所得者層が10.2%、低所得者層は13.1%だった(群間差:-2.8ポイント、95%信頼区間[CI]:-4.1~-1.5)。 STEMIの1年死亡率の差は、30日死亡率よりもさらに大きく、イスラエルで差が最も大きかった(高所得者層16.2% vs.低所得者層25.3%、群間差:-9.ポイント、95%CI:-16.7~-1.6)。 心臓カテーテル検査と経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の実施率は、すべての国で高所得者層が低所得者層よりも高く、群間差の幅は1~6ポイントであった。たとえば、イングランドのSTEMIにおけるPCIの実施率は、高所得者層が73.6%、低所得者層は67.4%であった(群間差:6.1ポイント、95%CI:1.2~11.0)。 STEMIにおける冠動脈バイパス(CABG)術の実施率は、6ヵ国とも高所得者層と低所得者層で同程度であったが、NSTEMIでは全般的に高所得者層で1~2ポイント高かった。たとえば、米国のNSTEMIでは高所得者層が12.5%、低所得者層は11.0%だった(群間差:1.5ポイント、95%CI:1.3~1.8)。 30日以内の再入院率は、全般的に高所得者層で1~3ポイント低く、在院日数も全般的に高所得者層で0.2~0.5日短かった。 結果を踏まえて著者は、「この結果は、皆保険や強固な社会的セーフティネットが整備されている国であっても、所得に基づく格差が存在することを示唆する」とまとめている。

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歯を失うと糖尿病に伴う認知機能低下に拍車がかかる可能性

 糖尿病患者が歯を失うと、認知機能低下リスクがより上昇するかもしれない。その可能性を示唆する、米ニューヨーク大学ローリーマイヤーズ看護学部のBei Wu氏らの研究結果が、「Journal of Dental Research」に3月12日掲載された。この研究のみでは因果関係の証明にはならないが、強固な関連が認められるという。 糖尿病が認知症のリスク因子の一つであることや、残っている歯の数が少ないほど認知症リスクが高くなることが知られている。ただし、糖尿病患者が歯を失うことにより認知症リスクがより高まるのか否かは明らかでない。Wu氏らはこの点について、同大学が行っている、就労や定年退職と健康に関する研究(Health and Retirement Study;HRS)のデータを用いて検討した。 解析対象は、2006~2018年にHRSに参加登録された高齢者9,948人(65~74歳5,440人、75~84歳3,300人、85歳以上1,208人)。研究参加者は、ベースライン時と2年ごとに認知機能が評価され、糖尿病の有無および無歯症(歯が全くない状態)に該当するか否かで群分けし、認知機能が比較された。 ベースライン時点でのデータの横断的な解析からは、糖尿病と無歯症が併存している84歳以下の高齢者は、それらが一つも該当しない同じ年齢層の高齢者(対照群)よりも、認知機能が有意に低下していることが分かった〔65〜74歳はβ=-1.12(95%信頼区間−1.56~−0.65)、75~84歳はβ=-1.35(同-2.09~-0.61)〕。 縦断的な解析からも、糖尿病と無歯症が併存している65~74歳の高齢者は、対照群より認知機能の低下速度が速いことが分かった〔β=-0.15(-0.20~-0.10)〕。なお、糖尿病のみが該当する場合は、65~74歳で認知機能低下速度が対照群より有意に速く〔β=-0.09(-0.13~-0.05)〕、無歯症のみが該当する場合は、65~74歳〔β=-0.13(-0.17~-0.08)〕と75~84歳〔β=-0.10(-0.17~-0.03)〕で、認知機能低下速度が有意に速いことが示された。 一方、85歳以上では、糖尿病と無歯症の併存による認知機能への有意な影響は観察されなかった。この理由について研究者らは、糖尿病と無歯症の両者が併存している場合、80代前半までに死亡する人が多いため、もしくは、この世代では糖尿病や無歯症の有無にかかわらず、認知機能が大きく低下している人が多いためではないかと推測している。 今回の研究についてWu氏は、「これは観察研究であるため、因果関係について述べることはできない」とした上で、メカニズムに関して以下のような考察を述べている。まず、糖尿病、および歯を失う主要な原因である歯周病の病態には、ともに炎症が関与しており、さらに炎症は認知機能の低下の一因である可能性が指摘されているという。また、そのほかのメカニズムとして、歯を失うことで食事の摂取量が減り栄養不良になりやすいことや、それに伴う低血糖の影響、あるいは歯周病を起こす一部の細菌が認知機能に影響を及ぼす可能性もあるとのことだ。「高齢者、特に糖尿病患者の歯科治療は非常に重要だ。米国糖尿病学会(ADA)も糖尿病患者の定期的な歯科検診を推奨しているが、この点についての認識をさらに高める必要がある」と同氏は語っている。 本研究には関与していない米イェール大学のCyprien Rivier氏は、「糖尿病と歯周病は相互に影響を及ぼし、慢性的な炎症を起こすことが知られている。全身の慢性炎症と脳の白質という部分の変化に関連があることも示されている。口の中の健康は、全身の健康にとっても非常に重要な問題だ」と指摘。また「これらの関連性をより明確にするためにさらなる研究が必要ではあるものの、口の中の健康を維持・改善すること自体が明快で重要な目標であり、そのためのコストもほとんど発生しない」と述べている。

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PM2.5曝露で認知症リスク増加の可能性~メタ解析/BMJ

 直径2.5ミクロン未満の微小粒子状物質(PM2.5)への曝露が認知症リスクの増加と関連する可能性があり、ややデータが少ないものの二酸化窒素と窒素酸化物への曝露にも同様の可能性があることが、米国・ハーバード大学公衆衛生大学院のElissa H. Wilker氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2023年4月5日号に掲載された。認知症リスクと大気汚染物質の関連をメタ解析で評価 研究グループは、認知症リスクにおける大気汚染物質の役割の調査を目的に、文献の系統的レビューとメタ解析を行った(Harvard Chan National Institute of Environmental Health Sciences Center for Environmental Healthなどの助成を受けた)。 成人(年齢18歳以上)を対象に長期の追跡調査を行い、1年以上の曝露を平均化し、環境汚染物質と臨床的な認知症の関連を報告した研究を対象とした。 2人の研究者が別個に、所定のデータ抽出書式を用いてデータを抽出し、Risk of Bias In Non-randomised Studies of Exposures(ROBINS-E)の方法を用いてバイアスリスクを評価。結果に影響を与える可能性がある試験因子による違いが考慮された。オゾンには関連がない 2,080件の記録から51件の研究が適格基準を満たし、メタ解析には16件が含まれた。積極的症例確認を行った研究が9件、受動的症例確認を行った研究が7件で、それぞれ4件および7件はバイアスリスクが高いと判定された。 PM2.5については、14件の研究がメタ解析の対象となった。PM2.5の曝露量2μg/m3当たりの認知症のハザード比(HR)は1.04(95%信頼区間[CI]:0.99~1.09)であった。積極的症例確認を行った7件の研究では、HRは1.42(1.00~2.02)であり、受動的症例確認を行った7件の研究では、HRは1.03(0.98~1.07)だった。 また、二酸化窒素10μg/m3当たりのHRは1.02(95%CI:0.98~1.06)(9研究)、窒素酸化物10μg/m3当たりのHRは1.05(0.98~1.13)(5研究)であった。 一方、オゾン5μg/m3当たりのHRは1.00(95%CI:0.98~1.05)(4研究)であり、認知症との明確な関連は認めなかった。 著者は、「本研究におけるメタ解析によるハザード比には限界があり、解釈には注意が必要である」とし、「今回示された知見は、PM2.5やその他の大気汚染物質への曝露を制限することの公衆衛生上の重要性を支持し、疾病負担の評価や施策の審議を行う際に、環境汚染物質の認知症への影響に関する最良の推定値を提供するものである」と述べている。

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遺髪のゲノム解析でベートーヴェンの健康状態や家系の解明が進む

 作曲家ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770〜1827年)の遺髪のゲノム解析から、ベートーヴェンの死因について新たな情報が得られた。ベートーヴェンはB型肝炎に罹患しており、肝疾患が原因で死亡した可能性が示唆されたのだ。また、解析を通して、ベートーヴェンの家族の「スキャンダル」の証拠も得られたという。英ケンブリッジ大学などの国際共同研究グループが実施したこの研究の詳細は、「Current Biology」に3月22日掲載された。 ベートーヴェンの聴力は20代半ばから低下し始めた。「交響曲第9番」などのいくつかの代表作は、彼が完全に聴力を失った後に作曲されたと考えられている。また、本研究の背景情報によると、ベートーヴェンは、少なくとも22歳以降から腹痛や下痢といった胃腸の問題にも苦しめられていた。1821年の夏には肝疾患の兆候である黄疸を経験。これを含めて少なくとも2回の黄疸を発症した。この肝疾患が原因で、ベートーヴェンは1827年3月26日に56歳で死去したと専門家の間では考えられている。 ベートーヴェンが亡くなった翌日、机の中から彼の弟たちに宛てた手紙が見つかった。この手紙は1802年に書かれたもので、そこには聴力低下が進んでいることや、聴力低下に思い悩んで自殺を考えたこと、死後には自分の病気についての記録を残し、公開してほしいとの要望が記されていた。この手紙をきっかけに、その後何世紀にもわたってベートーヴェンの健康問題が議論されてきた。 研究グループは今回、ベートーヴェンのものとされていた8束の遺髪のゲノム解析を実施した。その結果、5束の遺髪はヨーロッパ系の1人の男性に由来するが、残りの3束のうちの2束はベートーヴェンのものではないと判定され、1束はDNAの保存状態が悪く真贋性を決められないとされた。偽物とされた2束のうちの一つは女性のもので、そのハプログループ(父系または母系から受け継がれる染色体の遺伝子配列に基づき分類される集団)はアシュケナージ系ユダヤ人に一般的なものだったという。ベートーヴェンの健康問題の一因として示唆されている鉛中毒は、この遺髪の分析結果に基づくものだったため、研究グループは、「われわれは今回、過去の研究で示唆された鉛に関わる知見は、ベートーヴェンには当てはまらないとの結論に達した」と話す。 本物とされた5束の遺髪の解析からは、ベートーヴェンが死の少なくとも数カ月前にB型肝炎ウイルスに感染していたことを裏付ける遺伝的エビデンスが得られた。また、肝疾患に関係するとされる遺伝子変異の存在から、ベートーヴェンは遺伝的に肝疾患になりやすかったことも推定された。研究グループは、「B型肝炎への感染、および遺伝的な肝疾患リスクにベートーヴェン自身が記録に残した飲酒習慣が組み合わさって肝臓にダメージが及び、死に至ったのではないか」と結論付けている。一方で、残念ながら研究グループは、有名なベートーヴェンの進行性の難聴に関する遺伝的要因や、胃腸障害の遺伝的要因については、成果を得ることができなかった。 このほか、遺髪から分離したY染色体とベートーヴェンの家系に属する現存する5人の男性のY染色体の構造が一致しないことが判明し、ベートーヴェンが誕生するまでの約200年の間に、父方の先祖に、どこかの時点で婚外子が生まれていた可能性が示唆された。これについて、論文の筆頭著者で英ケンブリッジ大学のTristan James Alexander Begg氏は、「ベートーヴェン自身がその婚外子だった可能性も否定できない」との見方を示している。 ただ、Begg氏は、「われわれはこのゲノム解析に8年もの歳月を費やしたが、ベートーヴェンのゲノムの3分の2しかマッピングできなかった」と言う。上席研究員でマックス・プランク進化人類学研究所(ドイツ)のJohannes Krause氏も、毛髪は骨と比べて劣化する速度が速いため、「ゲノム解析に十分な量のDNAを抽出することが極めて難しい」と説明している。 Krause氏によると、ベートーヴェンの遺髪は、今回対象にした8束以外に、まだ24束も存在するという。そのため、今後、これらの遺髪を用いたゲノム解析によって、ベートーヴェンの健康状態に関する謎が解明される可能性もある。

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「AYA世代」の緩和ケア、特有の難しさって?【非専門医のための緩和ケアTips】第49回

第49回 「AYA世代」の緩和ケア、特有の難しさって?緩和ケアを提供する患者さん、高齢の方が大半、というケースが多いのではないでしょうか。しかし、長く緩和ケアに関わっていると、終末期の若年者をケアする機会も出てきます。こうしたケースでは、高齢者へのケアとは異なる難しさを感じる方も多いのではないかと思います。今日の質問30歳の子宮頸がん患者さんへの訪問診療の依頼がありました。大学病院に通っていたそうですが、病状の進行に伴い訪問診療が必要になったとのこと。まだお子さんが5歳と小さく、多方面の支援が必要になりそうです。こうした若い方への緩和ケアは、どのような観点から考えればよいでしょうか?若年の終末期患者さんに対するケア、支援者自身が負担を感じることも多いでしょう。私も同世代のがん患者さんや、年下の患者さんを受け持った経験があり、今でも時々思い出します。若年患者は、がん領域ではしばしば「AYA(Adolescent and Young Adult:アヤ)世代」と呼ばれ、このカテゴリーで議論されることも多くあります。一般的には思春期の15歳ごろから30代までを指します。日本においては、年間約2万人のAYA世代ががんに罹患するとされ、罹患全体の2%程度を占めています。割合としてはそれほど多くないものの、総数はそれなりになるので、大学病院やがんセンター勤務でなくても、若年のがん患者さんと接する機会のある方は多いでしょう。AYA世代のがんとして多いのは、白血病などの血液腫瘍や生殖細胞から発生する胚細胞腫瘍・性腺腫瘍、脳腫瘍など小児に多い腫瘍や、乳がん・子宮頸がんなどの婦人科腫瘍です。希少がんと呼ばれる悪性腫瘍も含まれます。こうした点から基幹病院の専門医との連携も重要になります。また、今回のご質問のように、患者さんが小さい子供を抱えていたり、収入基盤が脆弱だったりすることもしばしばです。とくに「子供にどう病状を伝えるか」について、誰にも相談できずにいるというケースが多くあります。AYA世代の患者さんは、小さなお子さんを含めた家族や周囲の方との関わり方、仕事や収入の確保、時には通学といった、高齢者ではあまり経験しない幅広い支援が必要になることが特徴です。基幹病院や大学病院であれば、認定看護師や臨床心理士など、経験ある専門職と連携してケアに取り組むことができますが、プライマリ・ケアの現場では現実的に難しいことも多いでしょう。つまり、日常的に対応しない方ほど、この分野についてあらかじめ学んでおく必要があるのです。この機会に国立がん研究センターが運営するサイト「がん情報サービス」を確認するだけでも、とても役立つと思います。今回のTips今回のTipsAYA世代の緩和ケア、日常的に対応しない人ほど勉強が必要。

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第5回AYAがんの医療と支援のあり方研究会学術集会の開催について【ご案内】

 一般社団法人AYAがんの医療と支援のあり方研究会は、5月13~14日に『第5回 AYAがんの医療と支援のあり方研究会学術集会』を開催する。今回は、「Co-Creation ―対話からはじめる共創―」とし、長期的健康管理や身体活動性の維持、新規就労など社会とのつながりにおける課題、AYA世代と家族、終末期医療などAYA世代のがん医療を取り巻く多様な課題について取り上げる。大会長の渡邊 知映氏(昭和大学 保健医療学部)は、「この学術集会を通して、当事者と家族・医療者・支援者それぞれが向き合いながら、ときには立場を超えた対話をすることに挑戦したい」としている。 本研究会は、思春期・若年成人(Adolescent and Young Adult,:AYA)のがん領域の学術活動、教育活動、社会啓発および人材育成などを行うことにより、わが国の思春期・若年成人がん領域における医療と支援の向上に寄与することを目的としている。 開催概要は以下の通り。【日時】現地開催:2023年5月13日(土)~14日(日)オンデマンド配信:5月下旬~6月末 予定※一部プログラムをオンデマンド配信【会場】昭和大学上條記念館〒142-0064 東京都品川区旗の台1丁目1番地20アクセスはこちら【会長】渡邊 知映氏(昭和大学 保健医療学部)【テーマ】Co-Creation ―対話からはじめる共創―【参加登録】下記URLから参加登録が可能https://eat-sendai.heteml.net/jcs/ayaken-cong5/regist/index.html【プログラム(抜粋)】会期前日5月12日(金) 19:00~20:30 ライブ配信(後日オンデマンド配信あり)市民公開講座 「AYA研ラジオ」AYA世代でがんを経験した患者さんから、そのエピソードを大会長と副大会長をMCに進行する予定。オンラインでどこからでもつながることができる。また、スペシャルなゲストも招く企画も進行中のため、乞うご期待!<5月13日(土)>シンポジウム1 「AYAがん患者における運動器障害マネジメント~がんであっても動きたい!」塚本 泰史氏(大宮アルディージャクラブアンバサダー 事業本部 社会連携担当)五木田 茶舞氏(埼玉県立がんセンター整形外科/希少がん・サルコーマセンター)岡山 太郎氏(静岡県立静岡がんセンター リハビリテーション科)パネルディスカッション1 「AYA世代がん患者と家族 親との関わりに着目して」前田 美穗氏(日本医科大学)山本 康太氏(東京ベイ・浦安市川医療センター 事務部総務課)枷場 美穂氏(静岡県立静岡がんセンター 緩和医療科)国際連携委員会企画米国におけるAYAがん支援プログラムの活動体制、支援内容、活動評価についてProf. Bradley J. Zebrack氏(University of Michigan School of Social Work)<5月14日(日)>シンポジウム2 「青年期および若年成人(AYA)がんサバイバーの長期的健康管理」三善 陽子氏(大阪樟蔭女子大学 健康栄養学部健康栄養学科 臨床栄養発育学研究室)志賀 太郎氏(がん研究会有明病院 腫瘍循環器・循環器内科)理事長企画おばさん(おじさん)どもに思春期なんてわかるもんか~コロナ世代のコミュニケーションと未来~大野 久氏(立教大学名誉教授)【主催】一般社団法人AYAがんの医療と支援のあり方研究会【お問い合わせ】運営事務局 第5回AYAがんの医療と支援のあり方研究会学術集会E-mail: ayaken-cong.5@convention.co.jp

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地中海式のライフスタイルは食事以外にも健康に良い

 地中海式ダイエット(全粒穀物、果物、野菜、魚、健康的な油脂類を中心とする食事)は心臓の健康に多くのベネフィットをもたらすことが知られている。しかし、例えば、家族との食事や午睡、地域社会との強い絆などの食事以外の地中海式のライフスタイルも健康に良いのだろうか? 地中海から1,500マイル(約2,400km)以上離れた英国に住む中高年に、食事も含めた地中海式のライフスタイルを取り入れてもらったところ、がんや心血管疾患、その他の原因で死亡するリスクが低減することが明らかになった。 この研究結果は、米国心臓協会の疫学・予防・生活様式・心臓代謝健康会議(EPI|Lifestyle Scientific Sessions 2023、2月28日〜3月3日、米ボストン)で発表された。研究を主導したマドリード自治大学(スペイン)のMercedes Sotos-Prieto氏は、「この研究から、地中海以外の地域に暮らす人々でも地中海式のライフスタイルを取り入れることは可能であり、健康的なライフスタイルの一部になり得ることが示唆された」と述べている。 地中海式ダイエットが心筋梗塞や脳卒中のリスク低下など、心血管疾患の予防につながることは、過去の研究で明らかにされている。今回の研究では、身体活動や休息、社会的習慣、社交などの食事以外の地中海式のライフスタイルが、イングランド、スコットランドおよびウェールズ在住の中高年11万799人(40〜69歳)に及ぼす影響が検討された。これらの人々は、集団ベースの多施設共同研究であるUKバイオバンクへの参加者であり、2009〜2012年の研究登録時にがんと心血管疾患がなく、2020年まで追跡されていた。 地中海式のライフスタイルの遵守度は、MEDLIFE指数(Mditerranean Lifestyle Index)を用いて評価した。MEDLIFE指数は、食事内容(13項目)、食事習慣(7項目)、その他のライフスタイル因子(6項目)の3区分について問うもの。食事習慣には、間食や食事への塩分追加の習慣、精製穀物よりも全粒穀物を選ぶかなどに関する質問が含まれる。また、その他のライフスタイル因子には、社交性に関する質問として「家族や友人と食事を取っているか」、社会習慣に関する質問として「誰かと一緒に散歩に行くなどの身体活動を行っているか」「家族や友人と会う頻度はどの程度か」、休息に関する質問として「昼寝と夜間の睡眠時間はどれくらいか」などが含まれている。 中央値で9.4年の追跡後、MEDLIFE指数のスコア別にがん、心血管疾患、その他の全死因による死亡率を比較した。その結果、地中海式のライフスタイルを忠実に守っている人ほど、がんまたはあらゆる原因による死亡リスクが低いことが明らかになった。具体的には、スコアに応じて4群に分けたうちのスコアが最も高い群では、スコアが最も低い群に比べて全死亡リスクが29%、がんによる死亡リスクが28%低かった。3つの区分それぞれのスコアの高さは、がんによる死亡リスクと全死亡リスクの低さに関連しており、その他のライフスタイル因子のスコアが高い人では、心血管疾患による死亡リスクも低かった。 米コロンビア大学、睡眠・概日リズム研究教育拠点の代表であるMarie-Pierre St-Onge氏は、「この結果は、地域や社会との関わりが健康に果たす役割の重要性を明らかにするものだ」と述べる。同氏は、地中海式のライフスタイルが他者との関わりを伴うものであることを指摘し、「この研究により、身体活動以外のライフスタイルにもっと目を向けるべきことが明示された」としている。一方、同氏は、地中海式のライフスタイルといえば、ゆったりとした暮らしを思い浮かべるが、今回の研究では、ストレスの影響について深く検討されていないことを指摘している。[2023年3月1日/American Heart Association] Copyright is owned or held by the American Heart Association, Inc., and all rights are reserved. If you have questions or comments about this story, please email editor@heart.org.利用規定はこちら

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田舎生活は人々を幸せにする?

 都会の喧騒を離れて田舎に移り住むことは、穏やかで幸福な暮らしをもたらすように思うかもしれないが、必ずしもそうではないようだ。米ヒューストン大学心理学分野のOlivia Atherton氏らが実施した研究で、農村部に住んでいる人は都会に住んでいる人よりも、生活に対する満足度が高いわけではなく、また、生きていく上でより多くの目的や意味を見出しているわけでもないことが示された。さらにこれらの人では都会の人よりも、不安や抑うつを抱えやすく、神経症的傾向も強いことも示唆されたという。この研究結果は、「Journal of Personality」に2月1日掲載された。 この研究では、Midlife in the United States(MIDUS)とHealth and Retirement Study(HRS;健康と退職に関する研究)の2件の大規模縦断研究のデータを用いて、都会に住む人と農村部に住む人との間で、人間の性格分析理論であるビッグファイブ理論を構成する5つの因子(以下、ビッグファイブ)やウェルビーイング〔心理的ウェルビーイング(目的意識や自己受容、環境制御力などで評価)、生活満足度〕のレベルや推移に違いがあるのかが検討された。ビッグファイブとは、開放性、誠実性(セルフコントロールや責任感に関する因子)、外向性、協調性、神経症的健康を指す。それぞれの試験期間中に試験参加者は、ビッグファイブに基づく性格特性の自己診断と、心理的ウェルビーイングおよび生活満足度に関する自己測定を、MIDUSでは3回、HRSでは4回行い、その結果を報告していた。 その結果、全体的な傾向として、農村部に住む人では都会に住む人に比べて、開放性、誠実性、心理的ウェルビーイングのレベルが低く、神経症的傾向が強いことがうかがわれた。農村部に住む人と都会に住む人との間の差は、心理的ウェルビーイングについては、HRS参加者とMIDUS参加者の双方で有意であったが、開放性、誠実性、神経症的傾向についてはHRS参加者でのみ有意であった。社会人口学的特性(性別や年齢など)と社会的ネットワーク(配偶者/パートナーの有無など)を考慮して解析すると、開放性と誠実性については有意ではなくなったが、神経症的傾向については有意なままであった。心理的ウェルビーイングの差は、社会人口学的特性と社会的ネットワークを考慮して解析すると、HRS参加者とMIDUS参加者の双方で有意ではなくなった。その他の因子(外交性、協調性、生活満足度)については、農村部に住む人と都会に住む人との間で有意な差は認められなかった。 研究グループは、このような結果となった理由の一つとして、農村部でのメンタルヘルスの専門家の不足を挙げている。また、農村部では2010年以来、病院の閉鎖が相次いだことが原因で、メンタルヘルスの専門家を含む医療従事者の数が減少したことも指摘している。研究グループによると、本研究では、農村部に住む人の方が心理的サービスを必要としていることが示されたが、米国では農村部の85%でメンタルヘルスの専門家が不足しているという。 Atherton氏は、「遠隔地でのメンタルヘルス関連サービスへのアクセスを改善し、農村コミュニティーの特徴と価値をどのように活用すれば、心理的健康を促進することができるのかを特定することが重要だ」と語る。 さらにAtherton氏は、「農村の健康格差が個人、家族、コミュニティーに与える広範囲な影響を考慮すると、格差の原因となっている心理的、社会的、構造的メカニズムを明らかにし、そのようなメカニズムに対する介入方法を特定して、農村部に住む米国人の健康を改善することが急務だ」と同大学のニュースリリースで述べている。

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肺がん・上部消化器がん、オランザピンが食欲・体重を改善/JCO

 食欲減退は進行がん患者の30~80%にみられ、化学療法により悪化することがある。そこで、インド・Jawaharlal Institute of Postgraduate Medical Education and ResearchのLakshmi Sandhya氏らは、がん患者の化学療法に伴う消化器症状の改善に用いられるオランザピンについて、食欲亢進・体重増加効果を検討した。肺がん患者、上部消化器がん患者に対して、化学療法中に低用量のオランザピンを毎日投与することで、食欲亢進および体重増加が認められた。本研究結果は、Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2023年3月28日号に掲載された。 18歳以上で、未治療の進行または転移を有する胃がん患者(68例)、肺がん患者(43例)、肝がん・膵がん・胆道がん患者(13例)計124例を対象とした。対象患者を化学療法とともに低用量オランザピン(2.5g/日)を投与する群(オランザピン群)またはプラセボを投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付け、12週間投与した。両群とも、標準的な栄養評価と食事のアドバイスを受けた。主要評価項目は、5%以上の体重増加が認められた患者の割合と食欲改善であった。食欲については、VAS(visual analog scale)およびFAACT ACS(Functional Assessment of Chronic Illness Therapy system of Quality-of-Life questionnaires Anorexia Cachexia subscale)で評価した。副次評価項目は、栄養状態の変化、QOL、化学療法の毒性であった。 主な結果は以下のとおり。・対象患者124例(年齢中央値:55歳[範囲:18~78]、オランザピン群63例、プラセボ群61例)のうち、112例(オランザピン群58例、プラセボ群54例)が解析可能であった。・5%以上の体重増加が認められた患者の割合は、プラセボ群が9%(5/54例)であったのに対し、オランザピン群は60%(35/58例)であり、オランザピン群で有意に高率であった(p<0.001)。・VASに基づく食欲改善が認められた患者の割合は、プラセボ群が13%(7/54例)であったのに対し、オランザピン群は43%(25/58例)であり、オランザピン群で有意に高率であった(p<0.001)。・FAACT ACSに基づく食欲改善(37点以上)が認められた患者の割合は、プラセボ群が4%(2/54例)であったのに対し、オランザピン群は22%(13/58例)であり、オランザピン群で有意に高率であった(p=0.004)。・オランザピン群では、栄養状態、QOLが良好であり、化学毒性も少なかった。 著者らは、「低用量オランザピンは、未治療患者におけるがん化学療法中の食欲と体重を改善する、安価かつ忍容性の高い治療である。低用量オランザピンには、栄養状態の改善やQOLの改善、化学療法の毒性の低減といった副次的なベネフィットもみられた」とまとめた。

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英語で「鼻うがい」は?【1分★医療英語】第75回

第75回 英語で「鼻うがい」は?My hay fever(seasonal allergy)is getting worse…(花粉症が悪化してきています)Nasal irrigation might help with your symptoms.(鼻うがいが良いかもしれません)《例文1》Gargling and nasal irrigation may ease sinus inflammation.([喉の]うがいと鼻うがいは、炎症を和らげる効果があります)《例文2》The idea behind nasal irrigation is that it helps flush out the nasal cavity.(鼻うがいは、鼻腔を洗い流す作業です)《解説》「鼻うがい」は“nasal irrigation”や“nasal rinse”と言いますが、うがいは“gargle”と言うので、“nasal gargle”と表現することもあります。日本では「手洗い・うがい」が習慣化されていますが、海外ではあまりうがいの習慣がないため、私が塩水でガラガラとうがいをしていたら、ルームメイトに注目されたこともありました。小規模な研究ですが、「1日2回の鼻うがいが新型コロナの感染後の入院や死亡率を下げる」という報告1)もあり、このときは米国でも鼻うがいが話題に上がりました。鼻孔のことを“nostril”と言います。鼻うがいのやり方の説明としては、“Pour the saline solution slowly into one nostril and let it drain out of the other nostril.”(片方の鼻孔から液体をゆっくり入れ、反対の鼻孔から流し出します)となります。“hay fever”(花粉症)の季節は毎年やってくるので、“personal hygiene”(清潔習慣)の一つである 鼻うがいの説明を覚えておくと、役に立つかもしれません。<参考>1)Baxter AL, et al. Ear Nose Throat J. 2022 Aug 25. [Epub ahead of print]講師紹介

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第158回 胎児脳のコロナ感染 / コロナ入院患者死亡率は依然として高い

妊婦感染コロナの胎児脳への移行が初めて判明妊婦に感染した新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の胎児の脳への移行とその害が、米国・マイアミ大学の研究者いわく初めて認められました1,2,3)。調べられたのはコロナに感染した妊婦から生まれ、生まれてすぐに発作を起こし、出産時には認められなかった小頭症をやがて呈し、発達の大幅な遅れを示した小児2例です。2例の出産時の鼻ぬぐい液のPCR検査ではSARS-CoV-2は検出されませんでした。しかし2例とも抗コロナ抗体を有しており、血液中の炎症指標が有意に上昇していました。母親2例の胎盤を調べたところSARS-CoV-2のタンパク質が認められ、生まれた小児の血液と同様に炎症指標の亢進が認められました。小児の1例は1歳を迎えて間もない生後13ヵ月で不慮の死を遂げました。その脳を免疫染色で調べたところSARS-CoV-2に感染していたことを示すタンパク質が脳全域で認められました。亡くなったその小児が生前そうであったようにもう1例の小児も出生時には認められなかった小頭症をやがて呈し、発達もかなり遅れました。1歳になっても寝返りを打ったり支えなしで座ったりすることができず、報告の時点でホスピスを利用していました。妊娠半ばに感染したSARS-CoV-2は胎児と胎盤、さらには胎児の脳に至って胎盤と胎児の両方に炎症反応を誘発しうることを今回の調査結果は示しています。そうして生じた炎症反応は生後間もないころを過ぎても続く脳損傷や進行性の神経不調とどうやら関連しそうです。今回報告された2例の小児はコロナ流行が始まって間もない2020年のデルタ株優勢のころに妊娠第2期で感染した母親から生まれました。母親の1例は肺炎や多臓器疾患で集中治療室(ICU)に入り、そこでSARS-CoV-2感染が判明します。胎児の経過はその後も正常でしたが、妊娠32週時点で帝王切開による出産を要しました。死後脳に感染の痕跡が認められたのはこの母親の子です。一方、もう1例の母親のコロナ感染は無症状で、妊娠39週に満期出産に至っています。それら2例の母親が感染したころはワクチンが普及した現在と状況が違っていますが、胎児の経過観察の目下の方針は不十分であると著者は言っています。胎児の脳がSARS-CoV-2による影響を受けるのであればなおさら慎重な様子見が必要です。それは今後の課題でもあり、脳の発達へのコロナ感染の長期の影響を検討しなければなりません。コロナ入院患者の死亡率はインフル入院患者より依然として高いコロナ流行最初の年のその入院患者の死亡率はインフルエンザによる入院患者より5倍近く高いことが米国での試験で示唆されています。さてウイルスそのもの、治療、集団免疫が様変わりした今はどうなっているのでしょうか?この秋冬の同国のコロナ入院患者のデータを調べたところ、幸いにも差は縮まっているもののインフルエンザ入院患者の死亡率を依然として上回っていました4,5,6)。調べられたのは2020年10月1日~2023年1月31日にコロナまたはインフルエンザの感染前後(感染判明の2日前~10日後)に入院した退役軍人のデータです。いわずもがな高齢男性を主とするそれら1万1,399例のうちコロナ入院患者8,996例の30日間の死亡率は約6%(5.97%)であり、インフルエンザ入院患者2,403例のその割合である約4%(3.75%)を1.6倍ほど上回りました。他のコロナ転帰の調査がおおむねそうであるようにワクチンの効果がその解析でも認められています。ワクチン非接種者に比べて接種済みのコロナ入院患者の死亡率は低く、追加接種(boosted)も受けていると死亡率はさらに低くて済んでいました。コロナによる死を防ぐワクチンの価値を今回の結果は裏付けています。参考1)Benny M, et al. Pediatrics. 2023 Apr 06. [Epub ahead of print]2)COVID caused brain damage in 2 infants infected during pregnancy -US study / Reuters3)SARS-CoV-2 Crosses Placenta and Infects Brains of Two Infants: 'This Is a First' / MedScape4)Xie Y, et al. JAMA. 2023 Apr 06. [Epub ahead of print]5)COVID-19 patients were more likely to die than flu patients this past flu season: study / NMC6)Covid Is Still Deadlier for Patients Than Flu / Bloomberg

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