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精神科病棟の認知症患者に対する音楽療法~レトロスペクティブ研究

 音楽療法は、地域および施設でケアされている認知症患者の気分を高め、興奮を軽減し、苦痛を伴う行動の減少が期待できる治療法である。しかし、精神科病棟に入院している認知症患者に対する音楽療法の影響はあまり知られていない。英国・アングリア・ラスキン大学のNaomi Thompson氏らは、2つの精神科病棟において認知症患者に対する音楽療法の影響を調査した。その結果、音楽療法を実施した日は実施しなかった日と比較し、苦痛を伴う行動が有意に減少し、音楽療法が患者の気分および興奮の軽減をサポートする価値ある介入であることが報告された。BJPsych Open誌2023年2月23日号の報告。 本研究には混合研究法を用いた。COVID-19パンデミックにより音楽療法の実施が変化した2020年、「破壊的および攻撃的(disruptive and aggressive)」として報告された行動を含むインシデントについて統計分析を行った。音楽療法士3人、病棟スタッフ8人を対象にオンラインによる半構造化インタビューを実施し、分析には再帰的テーマティック分析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・定量的な調査では、対面での音楽療法を実施した日(14日ごと)は、音楽療法を実施しなかった日(3.3日ごと)またはオンラインでの音楽療法を実施した日(3.1日ごと)と比較し、破壊的および攻撃的として報告された行動の頻度の有意な減少が確認された。・定性的な調査においてもこれは裏付けられ、音楽療法士および病棟スタッフは、音楽療法はアクセスが簡便で意義があり、患者の気分を高め興奮を軽減し、1日中持続するベネフィットおよび病棟環境への影響の可能性があることを報告した。・音楽療法の影響と最適な実施方法を調査するためには、介入研究が必要である。

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44歳で脳卒中発症後にヨガインストラクターとして復帰した女性

 米国に住む韓国人女性、LeeAnn Waltonさんは当時、オフィスワークのほかに、ヨガのインストラクターをしていた。彼女のヨガクラスは大変な人気で、オフィスでの仕事が終わり次第、マンハッタンやその周辺のフィットネスクラブに駆けつけて指導するという毎日だった。 その日もウォームアップに続いて、いつものように指導を始めた。部屋の中を歩きながら生徒のフォームを手直ししている時、突然、頭の中で輪ゴムを鳴らしたような音がした。「変だな」とは思ったが、特に異常は感じなかった。しかし数分後、右手が不自然にねじれて発語も不明瞭になり始め、ついにはバランスを崩して生徒の上に倒れこみ、嘔吐した。 Waltonさんの次の記憶は2日後のことだ。集中治療室で目を覚ました。体にはさまざまな医療機器が取り付けられていた。彼女は体の右側をほとんど動かせなくなっていた。まるで誰かに右腕と右足に重いおもりを縛り付けられたように感じた。医師から、「あなたは脳卒中を起こした」と告げられた。医師の説明によると、原因は不明だが、脳の中で血管が破裂して出血が起き、その出血によって脳が圧迫されるのを抑えるための緊急手術を行ったとのことだった。 しかし当時44歳だったWaltonさんは、そのような脳卒中が今後の自分にどのような影響を及ぼすのか、よく分からなかった。ただ、病室の外で医師たちが交わす会話が耳に入ることがあった。その中の1人が、「彼女はおそらく再び歩くことはできず、ヨガの指導は無理だろう」と話す声が聞こえた。その時、Waltonさんは心の中でつぶやいた。「よし。だったら見せてあげよう」。 1週間後、彼女は急性期リハビリテーション施設に転送された。その時すでに、手すりを握り、一歩一歩止まりながら歩くことができるようになっていた。彼女が左利きであることは幸運だった。脳卒中前の記憶も、全部ではないが少しずつ戻ってきていた。 リハビリ施設では毎日、理学療法と作業療法を受け、さらにセラピストと相談の上、自分自身の方法でのエクササイズも追加した。2週目には、杖を使って歩けるようになり、さらに10日後には右半身の筋力が回復して自宅退院した。退院の際、セラピストは、「あなたの前途は非常に困難なものかもしれないが、頑張って」と語った。 一人暮らしだったWaltonさんは自分のペースで治療を続け、障害はゆっくりと改善していったが、加入している健康保険の関係で3カ月以内に復職する必要があった。会社側は彼女に配慮し、ラッシュアワーを避けて遅めに出社して、早めに退社することを許可した。それでも歩行速度が遅いために地下鉄内で人にぶつかって、ののしられたりした。帰宅すると、ベッドに倒れこむように横になった。ソファーの下に置いてあったヨガマットが目に入り、涙が止まらなくなった。 脳卒中が起きてから約1年後、新型コロナウイルス感染症パンデミックが発生した。自宅勤務となり、彼女は落ち着いてリハビリを続けられるようになった。ただし、パンデミックに伴いアジア人に対する差別や暴力が増加したため、韓国人である彼女は恐怖を感じ、同じニューヨーク市内でもより多様なコミュニティーが形成されている地区に転居した。 昨年の春、脳卒中後に何度か現れて、その都度、対症的な治療を受けていた右腕の震えが再発した。彼女は仕事を辞めてリハビリに専念することを決めた。集中的な歩行訓練を含む、新しい理学療法プログラムを受け、歩き方が正常に近づいたように感じた。彼女のセラピストは、シンプルで優しい動きのヨガを試してみるように助言。それを受けて、ヨガの簡単なフォームから、練習をするようになった。 そして今年に入り、Waltonさんはついに、ヨガの基礎クラスのインストラクターとしての活動を再開した。「二度とこんなことができるとは思っていなかったので、今は感謝の気持ちで毎日泣いている」と彼女は話す。 Waltonさんの親友の1人、Amber Harrisonさんは看護師だ。そのため、Waltonさんが脳卒中になった時、彼女がそれから直面するに違いない苦難の大きさを知っていた。しかし今、Harrisonさんは、「LeeAnnはファイターだ。脳卒中は彼女の人生の全てを変えたが、彼女はその後、完璧な奇跡をやってのけた」と語っている。[2023年3月14日/American Heart Association] Copyright is owned or held by the American Heart Association, Inc., and all rights are reserved. If you have questions or comments about this story, please email editor@heart.org.利用規定はこちら

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統合失調症長期入院患者の半数でみられる非アルコール性脂肪性肝疾患

 長期入院の統合失調症患者は身体的な疾患を呈しやすく、平均余命や治療アウトカムを害することにつながるとされる。しかし、長期入院患者における非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の影響に関する研究はほとんどない。中国・安徽医科大学のXuelong Li氏らは、統合失調症入院患者のNAFLDについて、有病率と影響を及ぼす因子を調査した。その結果、重度の統合失調症による長期入院患者はNAFLDの有病率が高く、糖尿病、抗精神病薬の多剤併用、過体重や肥満、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)およびアポリポ蛋白B(ApoB)の高値などが負の影響を及ぼす因子として特定された。Neuropsychiatric Disease and Treatment誌2023年2月18日号の報告。 長期入院を経験していた統合失調症患者310例を対象に、横断的レトロスペクティブ研究を実施した。NAFLDは腹部超音波検査の結果に基づき診断した。NAFLDに影響を及ぼす因子を特定するため、t検定、マン・ホイットニーのU検定、相関分析、ロジスティック回帰分析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・NAFLDの有病率は54.84%であった。・NAFLD群と非NAFLD群で有意差が認められた因子は、抗精神病薬の多剤併用、BMI、高血圧、糖尿病、総コレステロール、ApoB、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、ALT、トリグリセライド(TG)、尿酸、血清グルコース、γ-GTP、HDL、好中球/リンパ球比、血小板/リンパ球比であった(各々、p<0.05)。・NAFLDと正の相関が認められた因子は、高血圧、糖尿病、抗精神病薬の多剤併用、BMI、TG、総コレステロール、AST、ApoB、ALT、γ-GTPであった(各々、p<0.05)。・ロジスティック回帰分析の結果では、統合失調症患者のNAFLDに影響を及ぼす因子は、抗精神病薬の多剤併用、糖尿病、BMI、ALT、ApoBであることが示唆された。・これらの知見は、統合失調症患者のNAFLDの予防および治療の理論的な基礎を提供し、新たな標的治療の開発に役立つ可能性がある。

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進行・再発子宮体がん、ペムブロリズマブ追加でMMRによらずPFS延長(NRG-GY018)/NEJM

 進行または再発子宮体がん患者において、標準化学療法+免疫チェックポイント阻害薬ペムブロリズマブの併用療法は、標準化学療法単独と比較して無増悪生存期間(PFS)が有意に延長し、有害事象の発現状況は両群とも予想どおりであったことが、米国・カリフォルニア大学のRamez N. Eskander氏らが実施した「NRG-GY018試験」で示された。研究結果は、NEJM誌オンライン版2023年3月27日号に掲載された。dMMRとpMMRで層別化した無作為化プラセボ対照試験 NRG-GY018試験は、4ヵ国(米国、カナダ、日本、韓国)の395施設が参加した二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2019年7月~2022年12月に患者の登録が行われた(米国国立がん研究所[NCI]などの助成を受けた)。 年齢18歳以上で、測定可能なStageIII/IVA、または測定可能病変の有無を問わずStageIVBあるいは再発病変を有し、新規に診断された子宮体がん患者が、標準化学療法であるパクリタキセル+カルボプラチンに加え、ペムブロリズマブまたはプラセボを投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。なお、前回化学療法からの期間が12ヵ月以上の場合は組み入れ可能とした。 ペムブロリズマブとプラセボは、化学療法と併用で3週ごとに6サイクルを静脈内投与したのち、維持療法として単剤で6週ごとに最大14サイクルが投与された。被験者は、ミスマッチ修復機能欠損(dMMR)とミスマッチ修復機能正常(pMMR)の2つのコホートに層別化された。 主要評価項目は、2つのMMRコホートにおけるPFSとされた。中間解析は、dMMRコホートで少なくとも84件の死亡または進行のイベントが発生、およびpMMRコホートで少なくとも196件のイベントが発生した後に行うことが計画された。dMMRコホートでの無増悪生存率:74% vs.38% 816例が登録され、このうち225例がdMMRコホート、591例がpMMRコホートであり、有効性の解析には、それぞれ225例(ペムブロリズマブ群112例、プラセボ群113例)、588例(293例、295例)が含まれた。年齢中央値はdMMRコホートが66歳、pMMRコホートは65.5歳であり、前治療として化学療法を受けた患者がそれぞれ5.8%、25.3%、放射線治療が42.7%、39.6%、手術が90.2%、86.1%であった。 dMMRコホートでは、追跡期間中央値12ヵ月時点でのPFS中央値は、ペムブロリズマブ群が未到達(95%信頼区間[CI]:30.6~未到達)、プラセボ群は7.6ヵ月(6.4~9.9)であり、ペムブロリズマブ群で有意に長かった。Kaplan-Meier法により推定した無増悪生存率は、それぞれ74%、38%であり、病勢進行または死亡のリスクは、ペムブロリズマブ群がプラセボ群より70%低かった(ハザード比[HR]:0.30、95%CI:0.19~0.48、p<0.001)。 同様に、pMMRコホートの追跡期間中央値7.9ヵ月時点のPFS中央値は、ペムブロリズマブ群が13.1ヵ月(95%CI:10.5~18.8)、プラセボ群は8.7ヵ月(8.4~10.7)と、有意な差が認められた(HR:0.54、95%CI:0.41~0.71、p<0.001)。 有害事象の発現状況は、ペムブロリズマブ群、プラセボ群とも予想どおりであった。dMMRコホートでは、ペムブロリズマブ群98.2%、プラセボ群99.1%で有害事象が発現し、pMMRコホートではそれぞれ93.5%、93.4%で認められた。Grade3以上の有害事象は、dMMRコホートではペムブロリズマブ群63.3%、プラセボ群47.2%、pMMRコホートではそれぞれ55.1%、45.3%で発現した。 注目すべき有害事象(インフュージョンリアクション、甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症、大腸炎、肺臓炎など)は、dMMRコホートではペムブロリズマブ群38.5%、プラセボ群26.4%、pMMRコホートではそれぞれ33.3%、19.7%で発現し、Grade3以上はdMMRコホートではペムブロリズマブ群8.3%、プラセボ群5.7%、pMMRコホートではそれぞれ3.6%、2.6%でみられた。 著者は、「これらのデータは、進行・再発子宮体がん患者の1次治療への免疫療法の導入が、MMRの状態や組織学的所見にかかわらず、腫瘍学的アウトカムの改善につながることを示唆するものである」としている。

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治療選択のないCLTI、経カテーテル的深部静脈動脈化が肢切断を回避/NEJM

 包括的高度慢性下肢虚血の患者の約20%は、血行再建の選択肢がなく、足関節より近位での肢切断に至るという。カテーテルを用いて深部静脈を動脈化する治療は、動脈と静脈を接続して酸素を含む血液を虚血肢に送ることで、肢切断を予防する経皮的なアプローチである。米国・University Hospitals Harrington Heart and Vascular InstituteのMehdi H. Shishehbor氏らは、従来の外科的血行再建や血管内血行再建による治療の選択肢がない包括的高度慢性下肢虚血の患者において、この経カテーテル的深部静脈動脈化術は安全に施行可能であり、下肢の切断を回避する可能性があることを「PROMISE II試験」において示した。研究の成果は、NEJM誌2023年3月30日号で報告された。米国の前向き単群試験 PROMISE II試験は、米国の20施設が参加した前向き単群試験であり、2019年12月~2022年3月に患者のスクリーニングが行われた(米国・LimFlowの助成を受けた)。 難治性潰瘍を有し、外科的血行再建術または血管内血行再建術の治療選択肢がない包括的高度慢性下肢虚血の患者に対し、経カテーテル的深部静脈動脈化術が施行された。 主要複合エンドポイントは、6ヵ月時の切断回避生存率(足関節より近位での肢切断がない、または全死因死亡がない状態と定義)とされ、事前に規定された目標の54%との比較が行われた。施術成功率99%、下肢救済・創治癒も良好 105例が登録された。年齢中央値は70歳(四分位範囲[IQR]:38~89)で、33例(31.4%)が女性であった。ほとんどの患者は、包括的高度慢性下肢虚血関連の複数の既存疾患(糖尿病77.1%、高血圧91.4%、脂質異常症69.5%)を有し、78例(74.3%)は下肢の治療目標部位への血行再建の既往歴があった。経カテーテル的動脈化術は104例(99.0%)で成功した。 6ヵ月時点の切断回避生存率は66.1%であった。ベイズ解析では、6ヵ月時の切断回避生存率が目標の54%を上回る事後確率は0.993であり、事前に規定された閾値である0.977よりも高かった。 下肢救済(足関節より近位での肢切断の回避)は67例(Kaplan-Meier解析で76.0%)で達成された。6ヵ月時点で、63例中16例(25%)で治療目標の創部が完全に治癒し、86例中24例(28%)ですべての創部が完全治癒した。63例中32例(51%)では、治療目標創部が治癒過程にあると判定された。予期せぬデバイス関連有害事象の報告はなかったが、105例中98例で有害事象が認められた。 著者は、「深部静脈を動脈化することで虚血を解消する方法は新しい概念ではなく、100年以上前に仮説が立てられ、さまざまな手術法の評価が行われてきたが、感染症や深い切開を要するなど、種々の合併症を伴うものであった。経カテーテル的動脈化術は大きな切開を回避し、動脈血を直接的に下肢の遠位部の静脈弓に導くことが可能であり、合併症のリスク低減も期待される」としている。

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Fire and Forget vs.Treat to Target(解説:平山篤志氏)

 これまでの欧米での心血管イベントを低下させるためのガイドラインでは、ハイリスク患者に対してはLDL-コレステロール(LDL-C)を治療するために強力なスタチンの高用量をまず投与するというFire and Forgetの戦略が推奨されてきた。これはスタチンを用いた大規模臨床試験で、高用量と低用量を比較する、あるいはStrongとMildの高用量を比較する試験のメタ解析から得られた結論であった。また、管理目標値を設定するより、初期投与によるLDL-C低下の割合がイベント抑制には必要であるという考えもあった。 ただ、これまでのメタ解析からLDL-C達成値により心血管イベントが低下していること、また冠動脈プラークの退縮が認められることから、LDL-Cの管理目標値を目指す治療が重要であるとされていた(Treat to Target)。さらに、スタチン以外のコレステロール低下薬の有効性が示されると、リスクに応じたLDL-C管理目標値がガイドラインに記載されるようになった。 本試験は、Fire and Forget vs.Treat to Targetを検証するための試験であった。結果としては、両群で達成LDL-C値に差がなく、イベントにも差がなかったという結果であった。これまでのTreat to Targetを検証した試験では、目標値を達成することができず不十分な結果であったが、本試験では十分なコレステロール低下がTreat to Target群で達成できていたことが本試験成功の背景として挙げられる。これは管理目標値を設定しているガイドラインを後押しする結果である。ただ、わが国で通常使用可能なStrongスタチンの高用量は本試験の半量であるため、Treat to Targetで調整するよりはハイリスクの患者では、まずわが国の通常の高用量のStrongスタチンで治療を開始し、管理目標値を達成できない場合に薬剤を追加するFire and Forgetの戦略を選択するほうが実臨床に即していると考えられる。

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メタアナリシスで示される心血管系への緑茶の有効性【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第231回

メタアナリシスで示される心血管系への緑茶の有効性イラストACより使用緑茶が心血管系に対して保護的に働くことは数多くの研究で示されています。昔はペットボトルで飲むものといえば麦茶が主流でしたが、ここ最近、本当に緑茶が広く浸透しているなと思います。伊藤園によると、緑茶飲料の国内市場規模は、20年前と比較して約1.5倍伸長しているそうです(図)。図. 緑茶飲料の国内市場規模(伊藤園ウェブサイトを参考に筆者作成)Zamani M, et al.The effects of green tea supplementation on cardiovascular risk factors: A systematic review and meta-analysis.Front Nutr. 2023 Jan 10;9:1084455.このメタアナリシスは、PubMed、Medline、Scopus、Web of Science、Embaseなどのオンラインデータベースにおいて、緑茶と心血管危険因子の検索語を組み合わせて、心血管リスク因子に対する緑茶摂取の効果を検討したランダム化比較試験のシステマティックレビューによるものです。55件のランダム化比較試験が適格とされました。ランダム効果メタアナリシスの結果、緑茶摂取は、総コレステロール値(加重平均差[WMD]:-7.62、95%信頼区間[CI]:-10.51~-4.73、p≦0.001)、LDL-C(WMD:-5.80、95%CI:-8.30~-3.30、p≦0.001)、空腹時血糖(WMD:-1.67、95%CI:-2.58~-0.75、p≦0.001)、HbA1c(WMD:-0.15、95%CI:-0.26~-0.04、p=0.008)、拡張期血圧(WMD:-0.87、95%CI:-1.45~-0.29、p=0.003)を有意に減少させる効果があり、一方でHDL-Cは有意に上昇させました(WMD:1.85、95%CI:0.87~2.84、p=0.010)。血圧については、健康な個人において、緑茶摂取において収縮期血圧を2.99mmHg、拡張期血圧を0.95mmHg減少させるという別のメタアナリシスもあります1)。また、このほか、摂取量に応じての脳卒中のリスクが低下するというメタアナリシスも報告されています2)。したり顔で緑茶の有効性を書いてきましたが、個人的には緑茶の有無にこだわるよりも、そのほかの食生活や運動のほうが重要ではないかと思っています。1)Yildirim Ayaz E, et al. Effect of Green Tea on Blood Pressure in Healthy Individuals: A Meta-Analysis. Altern Ther Health Med. 2023 Jan 23;AT7623. [Epub ahead of print]2)Wang ZM, et al. Green tea consumption and the risk of stroke: A systematic review and meta-analysis of cohort studies. Nutrition. 2023 Mar;107:111936. [Epub ahead of print]

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妊娠中の抗うつ薬使用、リスクとベネフィットは?~メタ解析

 妊娠中の抗うつ薬使用は数十年にわたり増加傾向であり、安全性を評価するため、結果の統計学的検出力および精度を向上させるメタ解析が求められている。フランス・Centre Hospitalier Universitaire de Caen NormandieのPierre Desaunay氏らは、妊娠中の抗うつ薬使用のベネフィットとリスクを評価するメタ解析のメタレビューを行った。その結果、妊娠中の抗うつ薬使用は、ガイドラインに従い第1選択である心理療法後の治療として検討すべきであることが示唆された。Paediatric Drugs誌オンライン版2023年2月28日号の報告。 2021年10月25日までに公表された文献を、PubMed、Web of ScienceデータベースよりPRISMAガイドラインに従い検索した。対象研究は、妊娠中の抗うつ薬使用と、妊婦、胎芽、胎児、新生児、発育中の子供などの健康アウトカムの関連を評価したメタ解析とした。研究の選択およびデータの抽出は、2人の独立した研究者により重複して実施した。研究の方法論的質の評価にはAMSTAR-2ツールを用いた。各メタ解析の重複部分は、修正された対象エリアを算出することにより評価した。4段階のエビデンスレベルを用いて、データの統合を行った。主な結果は以下のとおり。・51件のメタ解析をレビューに含め、1件を除くすべてのリスク評価を行った。・各リスクの有意な増加は以下のとおりであった。 ●主な先天性奇形(メタ解析8件:SSRI、パロキセチン、fluoxetine) ●先天性心疾患(11件:パロキセチン、fluoxetine、セルトラリン) ●早産(8件) ●新生児の適応症状(8件) ●新生児遷延性肺高血圧症(3件)・分娩後出血の有意なリスク増加および、死産、運動発達障害、知的障害の有意なリスク増加については高いバイアスリスクで、限られたエビデンスが認められた(各々1件のみ)。・自然流産、胎児週数や出生時低体重による児の小ささ、呼吸困難、痙攣、摂食障害のリスク増加および、早期抗うつ薬曝露による自閉症のその後のリスク増加に関して、矛盾した不確実なエビデンスが確認された。・妊娠高血圧、妊娠高血圧腎症のリスク増加および、ADHDのその後のリスク増加に関するエビデンスはみられなかった。・重度または再発性のうつ病の予防について、1件の限られたエビデンスのみで、抗うつ薬使用のベネフィットが評価されていた。・新生児の症状(小~大)を除きエフェクトサイズは小さかった。・結果の方法論的な質は低く(AMSTAR-2スコア:54.8±12.9%[19~81%])、バイアスリスク(とくに適応バイアス)が高いメタ解析に基づいていた。・修正された対象エリアは3.27%であり、重複はわずかであった。・妊娠中の抗うつ薬治療は、第2選択として用いられるべきであることが示唆された(ガイドラインに従い心理療法後に検討)。・ガイドラインを順守し、パロキセチンやfluoxetineの使用をとどまらせることで、主要な先天性奇形リスクを防ぐことが可能である。・今後の研究では、不均一性やバイアス減少のため、母体の精神疾患と抗うつ薬の投与量を調整し、曝露のタイミングで分析を実行することが求められる。

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アルツハイマー病治療薬lecanemab、病態進行を2~3年遅延/エーザイ

 エーザイは4月4日付のプレスリリースにて、同社の早期アルツハイマー病(AD)治療薬lecanemabについて、長期的な健康アウトカムへの影響をシミュレーション評価した結果が、Neurology and Therapy誌オンライン版2023年4月2日号1)に掲載されたことを発表した。本シミュレーションでは、lecanemabによる治療により、AD病態進行を既存治療よりも平均2~3年遅らせ、患者が早期AD段階に留まる期間が延長され、QOL改善の可能性が示された。また、より早期の軽度認知障害(MCI)の段階で投与を開始した場合、病態進行を遅らせる効果がより大きい可能性も明らかとなった。 今回掲載となった論文は、2022年4月に発表された臨床第IIb相試験(201試験)の結果を用いた長期的健康アウトカムのシミュレーション評価を、臨床第III相Clarity AD試験データによってアップデートしたもので、アミロイド病理を有する早期AD患者において、標準治療群(アセチルコリンエステラーゼ阻害剤もしくはメマンチンの安定投与を含む)とlecanemab群(標準治療+lecanemab投与)の長期的臨床アウトカムが比較された。 解析は、lecanemabの有効性と安全性を評価したClarity AD試験のデータおよび公表文献を用い、ADの自然な進行をシミュレートした、疾患シミュレーション・モデル(AD ACEモデル)に基づいている。 主な結果は以下のとおり。・lecanemab群では、標準治療群と比較し、軽度、中等度、高度ADへの病態進行の推定生涯リスクがそれぞれ7.5%、13.7%、8.8%減少する可能性が示された。・lecanemab投与により約5%の患者が介護施設への入所を回避できる可能性が示された。・標準治療群と比較して、lecanemab群では軽度ADへの進行は2.71年(標準治療群vs. lecanemab群:2.35年vs.5.06年)、中等度への進行は2.95年(同:5.69年vs.8.64年)、高度への進行は2.24年(同:8.46年vs.10.79年)遅延することが示された。・介護施設への入所は0.60年(同:6.25年vs.6.85年)遅延することが示された。・質調整生存年(QALY)*は、標準治療群と比較して、lecanemab群では0.71QALY(同:3.68QALY vs.4.39QALY)増加した。・ベースライン時の年齢や病態の進行度別のサブグループ解析を行った結果、より早期の軽度認知障害(MCI)の段階で投与を開始した場合、病態進行を遅らせる効果がより大きい可能性が明らかとなった。lecanemab群では標準治療群と比較して、軽度への進行が2.55年(同:2.46年vs.5.01年)、中等度への進行は3.15年(同:6.02年vs.9.17年)遅延した。*質調整生存年(QALY)は、健康アウトカムの価値を示す指標で、生存年(=量)と生命の質(QOL)を1つの指標数値にまとめたもの(QALY=QOLスコア×生存年)。1QALYは、完全に健康な状態での1年間に相当。

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死亡・CVリスクを低下させる食事法は?40試験のメタ解析/BMJ

 カナダ・マニトバ大学のGiorgio Karam氏らが7つの代表的な食事プログラムに関する試験についてメタ解析を行い、地中海式食事と低脂肪食を推奨するプログラムは、身体活動やその他の介入の有無にかかわらず、心血管疾患リスクが高い患者の全死因死亡および非致死的心筋梗塞を低減するという、中程度のエビデンスが示されたことを明らかにした。地中海式食事プログラムは、脳卒中リスクも低減することが示唆された。概してその他の食事プログラムは、最低限の介入(食事パンフレット配布など)に対する優越性は示されなかったという。BMJ誌2023年3月29日号掲載の報告。有名な構造的食事プログラム7つについてメタ解析で評価 研究グループは、心血管疾患リスクが高い患者の死亡および主要心血管イベントの予防について、名の知れた構造的食事療法と健康的な行動プログラム(食事プログラム)の相対的有効性を、無作為化比較試験のシステマティックレビューとネットワークメタ解析で評価した。 2021年9月時点でAMED(Allied and Complementary Medicine Database)、CENTRAL(Cochrane Central Register of Controlled Trials)、Embase、Medline、CINAHL(Cumulative Index to Nursing and Allied Health Literature)、ClinicalTrials.govを検索。心血管疾患リスクが高い患者について、食事プログラムと最低限の介入(健康的な食事に関するパンフレット配布など)または代替プログラムを比較した、9ヵ月以上追跡し、死亡または主要心血管イベント(脳卒中や非致死的心筋梗塞など)に関する報告のある無作為化試験を選択した。食事プログラムには、食事介入に加えて、運動や行動支援を含むものもあり、また副次的介入として薬による治療も含んだ。 アウトカムは、全死因死亡、心血管死、および個々の心血管イベント(脳卒中、非致死的心筋梗塞、予定外の心血管インターベンション)。 2人のレビュアーがそれぞれデータを抽出しバイアスリスクを評価。頻度主義的推定とGRADE(grading of recommendations assessment, development and evaluation)法を用いてランダム効果ネットワークメタ解析を行い、各アウトカムのエビデンスの確実性を評価した。 7つの食事プログラムに関する40件の適格試験(低脂肪食18、地中海式食事12、超低脂肪食6、加工脂肪食4、低脂肪+低ナトリウム食3、オーニッシュ食3、プリティキン食1)、被験者総数3万5,548例が解析に包含された。地中海式食事、全死因死亡28%減、心血管死45%減、非致死的心筋梗塞52%減 最終追跡報告時点で、中程度のエビデンスとして、地中海式食事プログラムは最低限の介入に対して、全死因死亡(オッズ比[OR]:0.72、95%信頼区間[CI]:0.56~0.92、中程度リスク患者のリスク差:追跡5年で-17/1,000例)、心血管死(0.55、0.39~0.78、-13/1,000例)、脳卒中(0.65、0.46~0.93、-7/1,000例)、非致死的心筋梗塞(0.48、0.36~0.65、-17/1,000例)の予防について優れることが示された。 また、中程度のエビデンスとして、低脂肪食プログラムは最低限の介入に対して、全死因死亡(OR:0.84、95%CI:0.74~0.95、中程度リスク患者のリスク差:追跡5年で-9/1,000例)、非致死的心筋梗塞(0.77、0.61~0.96、-7/1,000例)の予防について優れることが示された。 地中海式および低脂肪の両食事プログラムの絶対的有効性は、リスクがより高い患者で顕著だった。死亡と非致死的心筋梗塞のリスクについて、両食事プログラム間で証拠に基づく差はなかった。 その他の5つの食事プログラムについては概して、最低限の介入と比較してもベネフィットはほとんど、またはまったくないことが低~中程度のエビデンスで認められた。

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潰瘍性大腸炎の寛解導入および維持療法におけるetrasimodの有用性(解説:上村直実氏)

 潰瘍性大腸炎(UC)の治療に関して、基準薬である5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤に変化はないが、有害事象が危惧されているステロイドは総使用量と使用期間が可能な限り控えられるようになり、新たな生物学的製剤や低分子化合物の分子標的治療が主流になりつつある。抗TNF-α抗体薬、インターロイキン阻害薬、インテグリン阻害薬、ヤヌスキナーゼ阻害薬などの開発により難治性のUCが次第に少なくなってきているものの、いまだに十分な効果が得られない患者や副作用により治療が中断される重症患者も少なくなく、新たな治療薬の追加が求められている。 今回、ozanimodに続く2番目の低分子スフィンゴシン1-リン酸(S1P)受容体調節薬であるetrasimodの活動性UCに対する有効性と安全性を示す研究結果が、2023年3月のLancet誌に掲載された。本試験の維持療法部分のデザインは、通常の導入試験において寛解できた症例を対象とするResponder re-randomisation designではなく、寛解導入試験開始時の割り付けのままで維持療法終了時まで一貫して評価するTreat through designを採用している点が特徴的であり、今後、論議される点と思われる。 本試験の主要評価項目である活動性UCの臨床的寛解導入率および寛解維持率がプラセボに比べて統計学的に有意に高いことが示されているが、実薬の寛解導入および維持率は25%ないしは33%程度であり、対象の70%くらいの症例にとっては著明な効果が得られたとはいえない結果である。すなわち、臨床現場において従来の治療に抵抗性の重症UC患者に対してetrasimodを使用しても、十分な寛解効果を得ることができない患者が多く存在することを意味している。次々と開発されている分子標的治療薬の臨床治験の結果は、ほぼ同様の寛解率が報告されており、有効性の高い新規薬剤のさらなる開発が希求されている。 一方、安全性に関して本薬剤は免疫能低下の有害事象が少なく、重篤な感染症のリスク上昇を伴う他の新規治療薬とは異なる利点を有している。さらに、UC患者に使用される薬剤は長期使用が必要であるため、今後、長期使用の有用性と安全性に関する成績が必須であり、そのためには日本でも全国的な患者データベースの構築が待たれる。 最後に、これだけ高価な分子標的治療薬が次々と出現するたびに、学会発の診療ガイドラインに新たな選択肢として追記されるが、プラセボ対照試験ではなく市販後の新規薬剤同士の試験により、実際の臨床現場で困っている患者個人個人にとって適切な生物学的製剤や低分子化合物の選択を可能とするエビデンスが必要と思われる。

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第155回 日本はパワハラ、セクハラ、性犯罪に鈍感、寛容すぎる?WHO葛西氏解任が日本に迫る意識改造とは?(後編)

パンデミック以前の日常が完全に戻ってきたこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末、関東はお花見日和でした。近所の公園では、葉桜となってきた桜の木の下で多くの人がノーマスクで宴会をしていました。パンデミック以前の日常が完全に戻ってきたわけですが、数週間前からこれだけ飲んで騒いでいるのに、新型コロナウイルス感染症の患者数は目立った増加となってはいません。感染症は本当に不思議な病気だなと思いながら、私も桜が舞い散る公園で、タコスにコロナビールを楽しみました。さて今回も、前回に引き続き、WHO(世界保健機関)の西太平洋地域事務局(フィリピン・マニラ)の葛西 健・事務局長が解任されたニュースを取り上げます。「The Lancet」が「グローバルヘルスの専門家たち葛西氏解任を歓迎」と報道WHOは3月8日、職員らへの人種差別的な発言などがあったとして内部告発され、昨年8月から休職中だった葛西・西太平洋地域事務局長を解任したと発表しました。日本国内では「解任理由がきちんと説明されていない」といった批判もあるようですが、国際的にはどうやら今回の解任を歓迎する声の方が大きいようです。医学雑誌の「The Lancet」は3月18日、「Global health experts welcome Kasai dismissal(グローバルヘルスの専門家たちが葛西氏解任を歓迎)」と題する記事を掲載しています1)。「葛西氏はWHO労働者への嫌がらせを行っていた」刺激的なタイトルのこの記事は、世界の複数のグローバルヘルスの専門家が、今回の調査や決定が適正に行われ、処分も妥当と考え、解任決定を歓迎していると報じています。記事によれば、WHOは虐待行為を一切容認しないという方針に沿って今回の内部告発を調査、すべてのWHOスタッフに適用される通常の手順に従って検討が行われたとのことです。その結果、葛西氏が「攻撃的なコミュニケーション、公の場での侮辱と人種的中傷」を含む、WHO労働者へのハラスメントを行っていたことが判明したとしています。これら結果を踏まえ、西太平洋地域委員会の投票が行われ、解任賛成13票、反対11票、棄権1票という結果となり、その後、非公開の理事会で葛西氏の解任が決定したとのことです。WHOの不正行為や虐待行為に対するチェックの目は一層厳しくなる同記事は、米国ジョージタウン大学のグローバルヘルス法の研究者の次のような発言も報じています。「この決定を行ったWHOに拍手を送る。その決定は正しかったが、もっと早く行われるべきだった。WHOは、誰もが尊重される安全で敬意に満ちた職場を作るために、可能な限り最高の基準を設定する必要があると考える」。同記事は、その他の世界のグローバルヘルスの専門家たちの今回の決定に対する賛意も伝えています。それらはある意味、日本が期待を持って送り込んでいた葛西氏の”評判”とも言えるもので、日本政府にはなかなか手厳しい内容となっています。ところで、WHO内部では葛西氏の事例のようなハラスメントだけではなく、エボラ出血熱発生中に起きたWHO労働者や援助労働者に対する性的虐待なども問題視されており、同記事は、葛西氏に行われた内部調査や解任決定を機に、WHOの組織内におけるその他のさまざまな不正行為や虐待行為に対するチェックの目は一層厳しくなるに違いない、と書いています。横浜DeNAに現役バリバリのMLBの投手入団そう言えば、WBC開催中の3月14日、横浜DeNAベイスターズは3年前の2020年、シンシナティ・レッズ時代にサイ・ヤング賞を獲得(同年に同じく候補となったダルビッシュ有投手と争いました)したMLB投手、前ロサンゼルス・ドジャースのトレバー・バウアー投手と契約を結んだことを発表しました。現役バリバリのMLBの投手がNPBに来るということで大きなニュースになりました。実は彼、2021年に知人女性に対するドメスティックバイオレンスの禁止規定違反でメジャーリーグ機構から324試合の長期の出場停止処分を受け(その後、異議申し立てをし、処分は194試合に短縮)、今年1月にドジャースとの契約が解除された選手です。契約解除後、MLBでは新たな契約をする球団は現れず、うまくDeNAが獲得したというわけです。MLBが獲得に動かなかった理由は多々あるようです。ヒューストン・アストロズの投手陣が強力な粘着物質を使っている疑いがあることを”チクリ”、粘着物質使用厳格化のきっかけを作ったことでMLBの選手たちから裏切り者扱いされた、という説も流れていますが、女性に対するドメスティックバイオレンスの一件も少なからず影響していることは確かでしょう。そうした”問題”選手を、トラブルにはとりあえず目をつぶって獲得し、大喜びしているのも日本人のパワハラ、セクハラへに対する鈍感さ、寛容さのなせる業かもしれません。DeNAは3月24日に横浜市内で華々しくバウアー投手の入団会見を行いましたが、その5日後の29日に同選手が「右肩の張りを訴えた」と球団が発表、4月中の一軍デビューは先送り濃厚となってしまいました。「バウアー投手はMLB復帰のために日本にリハビリに来ただけ。もとより真剣に投げる気はない」という声もあるようです。BBC制作ジャニーズのドキュメンタリーをほぼ黙殺の日本マスコミパワハラ、セクハラ関連の話題ということでは、英国のBBCが制作、公開したドキュメンタリー「Predator:The Secret Scandal of J-Pop」(J-POPの捕食者:秘められたスキャンダル)を日本のマスコミのほとんどが黙殺したことも挙げておきたいと思います。2019年に死去したジャニーズ事務所の創業者、ジャニー喜多川氏によるジャニーズJr.の少年への性的虐待を追ったこのドキュメンタリー、日本ではBBCワールドニュースで3月18日、19日に配信放送されました。この件について日本のマスコミで報道したのはかねてからジャニーズ問題を追ってきた週刊文春と、FRIDAYデジタル、日刊ゲンダイDIGITALなどごく一部でした。香港や韓国、台湾のメディアも大きく取り上げたというのに、日本のマスコミの沈黙ぶりは、異常と言えるかもしれません。こうした鈍感さ、時代遅れの寛容さや忖度は、葛西氏のパワハラ同様、国際社会ではもう認められなくなってきています。そうした自覚と意識改造が日本人には早急に求められていると思いますが、皆さんいかがでしょう。「ジャニー喜多川氏の性的虐待の事実と、メディアに与えた強い影響力を調査し、社会が見て見ぬふりをすることの残酷な結果を明らかにする」(BBCワールドニュースのWebサイトより)というこの番組、4月18日までAmazonプライム・ビデオで視聴可能です。興味のある方はご覧下さい。参考1)Zarocostas J, Lancet. 2023 Mar 18. [Epub ahead of print]

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低炭水化物ダイエットはメタボになりやすい?

 炭水化物の摂取量について、推奨量を下回るとメタボリックシンドローム(MetS)の発症が低下するかどうか、現時点では関係性を示す一貫した証拠はない。今回、米国・オハイオ州立大学のDakota Dustin氏らが炭水化物の摂取量とMetSの有病率について研究した結果、炭水化物の推奨量を満たしている人よりも下回っている人のほうがMetSの発症率が高いことが明らかになった。Journal of the Academy of Nutrition and Dietetics誌オンライン版2023年3月23日号掲載の報告。 本研究は、1999~2018年の国民健康栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey:NHANES)の回答者から、食物と栄養摂取量とMetSのマーカーに関するデータを取得。そのデータを炭水化物・総脂肪・脂肪酸(飽和脂肪酸[SFA]、一価不飽和脂肪酸[MUFA]、および多価不飽和脂肪酸[PUFA])の摂取量で層別化し、MetSとの関連性を評価した横断研究である。 食品および栄養素(サプリメントからの摂取含む)の通常の摂取量は、米国・国立がん研究所(NCI)での摂取方法から推定された。炭水化物からのエネルギーが45%未満を「炭水化物の摂取推奨量を下回る」、炭水化物からのエネルギーが45~65%を「炭水化物の摂取推奨量を満たす」と定義した。MetSの診断基準は米国の診療ガイドライン1)に基づき、参加者をMetSと判定するには、8.5時間以上断食した朝に次の状態(腹囲の拡大、TG値の上昇、HDL-C値の低下、血圧上昇、血漿グルコース濃度の上昇)のうち3つが該当した場合とした。解析には多変量ロジスティック回帰モデルを用い、食事パターンとMetSの関連性をオッズ比で評価した。 主な結果は以下のとおり。・本研究には20歳以上の妊娠・授乳していない1万9,078例の回答者が含まれ、炭水化物摂取量が推奨量を下回った群と満たした群の平均年齢はそれぞれ48歳だった。・炭水化物の摂取量が推奨量を下回ったのは女性が半数以上(53%)で、推奨量を満たしている人よりも、エネルギーの割合としてより多くのアルコールを摂取していた。・炭水化物の摂取量が推奨量を下回った人は、推奨量を満たした人に比べてMetSの有病率が1.067倍高かった(95%信頼区間[CI]:1.063~1.071、p

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新規ワクチンMV-LASV、ラッサ熱の予防に有望/Lancet

 ラッサ熱の予防において、遺伝子組み換え弱毒生麻疹ベクターラッサ熱ワクチン(MV-LASV)は、安全性と忍容性が許容範囲内であり、免疫原性はベクターに対する既存の免疫の影響を受けないと考えられ、さらなる開発の有望な候補であることが、オーストリア・Themis Bioscience(米国・Merckの子会社)のRoland Tschismarov氏らの検討で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年3月16日号で報告された。単一施設でのヒトで初めての第I相試験 研究グループは、年齢18~55歳の健康な成人を対象に、MV-LASVのヒトで初めての第I相試験を実施した(感染症流行対策イノベーション連合[CEPI]の助成を受けた)。本研究は、非盲検用量漸増試験(漸増期)と観察者盲検無作為化プラセボ対照比較試験(治療期)の2段階から成り、2019年9月~2020年1月に単一施設(ベルギー・アントワープ大学)で参加者の登録が行われた。 用量漸増試験では、参加者は低用量群(組織培養細胞感染量中央値×2×104を2回接種)または高用量群(組織培養細胞感染量中央値×1×105を2回接種)に、非無作為に連続的に割り付けられた。無作為化プラセボ対照試験では、参加者は低用量群、高用量群、プラセボ群に、2対2対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは、試験開始から56日目までの非自発的または自発的に報告された有害事象とされた。局所有害事象の頻度はプラセボより高い 漸増期には、低用量群と高用量群に4例ずつが、治療期には、低用量群に25例(平均年齢27.3歳、男性56%)、高用量群に23例(33.9歳、30%)、プラセボ群に12例(33.6歳、33%)が割り付けられた。 ほとんどの有害事象は治療期に発現し、非自発的または自発的に報告された有害事象の頻度は3群で同程度であった。非自発的に報告された有害事象の割合は、低用量群が96%、高用量群が100%、プラセボ群が92%であり(p=0.6751)、自発的に報告された有害事象の割合は、それぞれ76%、70%、100%だった(p=0.1047)。 有意差が認められたのは非自発的に報告された局所の有害事象のみで、プラセボ群(12例中6例[50%])に比べ、MV-LASV接種群(低用量群:25例中24例[96%]、高用量群:23例中23例[100%])で高頻度であった(p=0.0001[Fisher-Freeman-Halton検定])。 有害事象のほとんどは軽度または中等度で、56日目までに重篤な有害事象やとくに注意すべき有害事象、死亡の報告はなかった。 全体として、最も頻度の高い非自発的に報告された局所有害事象は、注射部位の痛み(触れるか否かは問わず)、注射部位硬結、注射部位紅斑/発赤であり、全身性有害事象は、頭痛、インフルエンザ様症状、倦怠感、筋肉痛、下痢であった。また、最も頻度の高い自発的に報告された有害事象は、上咽頭炎、前失神、注射部位出血、筋骨格系のこわばりであった。 一方、MV-LASVは、2つの用量群とも高濃度のLASV特異的IgGを誘導し、最高値を示した42日目の幾何平均抗体価は、低用量群が62.9EU/mL(プラセボ群[6.1EU/mL]との比較でp<0.0001)、高用量群は145.9EU/mL(p<0.0001)であった。 著者は、「今後は、組織培養細胞感染量中央値の1×105倍量の高用量MV-LASVに焦点を当てて開発を進める必要がある」としている。

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英語で「痛みはどれくらいですか」は?【1分★医療英語】第74回

第74回 英語で「痛みはどれくらいですか」は?On a scale of 1 to 10, how would you score your pain?(1から10のスケールでいうと、痛みはどれくらいですか?)I would say 7.(7くらいです)《例文1》Could you describe your pain for me?(痛みはどのような感じですか?)《例文2》Could you rate your pain?(痛みを評価してもらえますか?[どのくらい痛いですか?])《解説》「痛みスケール」を使って患者さんに痛みの強度を表現してもらうとき、“Could/Would you rate/score your pain on a scale of 1 to 10, 1 being the lowest and 10 being the highest? ”(1が最も弱くて、10が最大の痛みとすると、あなたの痛みはどれくらいですか?)という言い方をよく使います。“score”や“rate”は、共に「点数を付ける」といった意味で、数字で答えてもらうスケールの質問に使いやすい動詞です。スケールを0~10として“0 means no pain and 10 is the worst pain that you can imagine. How are you feeling?”(痛みがないのがゼロ、想像できる最大の痛みが10だとすると、今はどんな感じですか?)という聞き方も可能です。 どのような種類の痛みなのかを詳しく知りたいときには“Could you describe/explain your pain?”(どんな痛みなのか説明してもらえますか?)と尋ねます。この時の患者さんからの期待される回答としては、“It is a sharp/dull/stubbing pain.”(鋭い/鈍い/刺すような 痛み)などとなります。講師紹介

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第157回 抗肥満薬の体重減少効果と維持期間は?

ノボ ノルディスク ファーマによると、肥満症を治療する同社のGLP-1受容体作動薬(以下、GLP-1薬)セマグルチド(商品名:ウゴービ皮下注)で体重は有意に減るものの、一般的に肥満症治療薬は使用を止めると多くの場合2~3年後には体重減少は半分ほどとなり、5年ほどもすると残念ながらほぼ元通りの体重に逆戻りしてしまうようです1,2,3)。医療の進歩について話し合うConsumer News and Business Channel(CNBC)主催の会議Healthy Returns Summitで同社の創薬部門リーダーKarin Conde-Knape氏がそう述べました。ノボ ノルディスク ファーマはもともとGLP-1薬による2型糖尿病治療を開発し、その過程で同剤の生理作用がかなり多岐にわたることを見出し、肥満治療としての検討にも着手しました。その甲斐あって誕生したのが先月末に日本で承認された肥満症治療薬ウゴービです。肥満は2型糖尿病の主因の1つであり、ウゴービは2型糖尿病の予防を担う薬剤になりつつあるとノボ ノルディスク ファーマのCEO・Lars Fruergaard Jorgensen氏は同会議で言っています。われわれの体に備わる生来のGLP-1は腸から放出され、空腹感や満腹感をもたらす脳の食欲調節領域に至って信号を伝達します。しかし肥満になりやすい人はどうやらその伝達に支障があり、それゆえ生来のGLP-1の働きを助けるウゴービのような薬剤が有用です。週1回皮下注射するウゴービの成分セマグルチドのアミノ酸配列は生来のGLP-1と94%同一で、生来のGLP-1と同様にGLP-1受容体を活性化し、カロリー摂取を抑えて体重減少をもたらします4)。半減期は投与間隔と同じ約1週間で、最後の投与から5~7週間は血液循環に残存します。Conde-Knape氏によるとウゴービ治療患者の約30%が体重の20%減少を達成しており、他のこれまでの治療にはるかに勝ります。Conde-Knape氏は肥満症治療薬を止めたあとの体重リバウンドの一般的な傾向をCNBCの会議で話しましたが、ウゴービに限った解析結果も同社はすでに把握済みです。昨春2022年4月に論文報告されたその解析結果は後にウゴービとして世に出るセマグルチド2.4mg週1回皮下注射の効果を調べた第III相試験STEP 1の被験者の追跡結果に基づきます。STEP 1試験には糖尿病ではない肥満成人2千人近く(1,961人)が参加し、68週間のセマグルチド2.4mg投与で体重が平均17.3%減少しました。その体重減少の70%ほど(11.6%)がセマグルチド投与を止めてから120週後までに悲しいかな復活し、17.3%だった体重の下げ幅はわずか5.6%に縮小していました。肥満症治療薬を止めたあとに体重が戻ってしまう仕組みについてさらなる研究が必要ですが、ともあれ肥満は頑固であり、体重減少の維持には治療を継続しなければいけないようです。ウゴービ投与で体重減少を維持できるのは今のところ最長で2~3年だとデータで示されていますが、さらに長期の治療の経過が依然として必要だとConde-Knape氏は言っています。肥満対策は生活習慣の改善だけに委ねるだけではもはや不十分との認識がウゴービのような肥満症治療薬の普及を背景にして世界で共有されつつあるようであり、低~中所得国政府の薬剤調達の指針となる必須薬一覧(essential medicines list)への肥満症治療薬の追加の検討を世界保健機関(WHO)が始めています5)。近々特許が失効して安価な後発品が作れるようになるノボ ノルディスク ファーマの肥満症治療薬Saxendaの有効成分liraglutideを必須薬一覧に含めることを米国の研究者と医師3人は要請しており、WHOに助言する専門家一同が今月中に検討に当たります。新たな必須薬一覧は今秋9月には完成する見込みです。参考1)People taking obesity drugs Ozempic and Wegovy gain weight once they stop medication / CNBC2)Novo Nordisk says stopping obesity drug may cause full weight regain in 5 years / Reuters3)CNBC Transcript: Novo Nordisk A/S CEO Lars Fruergaard Jorgensen & Global Drug Discovery SVP Karin Conde-Knape Speak with CNBC’s Meg Tirrell During CNBC’s Healthy Returns Summit Today / CNBC4)Wegovy Prescribing Information5)Exclusive: WHO to consider adding obesity drugs to 'essential' medicines list Reuters

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スマホ依存になりやすい性格とは

 近年、スマートフォンの利用頻度が急速に増加しており、スマートフォン依存(以下、スマホ依存)が問題となっている。スマホ依存は、特定の性格特性を有する人において有病率が高いことが示唆されている。イラン・Shahid Beheshti Medical UniversityのAli Kheradmand氏らは、スマホ依存と性格特性との関連を評価するため、相関研究を行った。その結果、スマホ依存者は、自己愛性パーソナリティ障害の特徴である新規性追求、損害回避、自己超越の高さ、持続および自己志向の低さの性格特性を有していることを報告した。Frontiers in Psychiatry誌2023年2月8日号の報告。 テヘラン大学の学生382人を対象に、スマートフォン中毒尺度(SAS)およびペルシャ語版Cloningerのtemperament and character inventory(TCI)の質問票に対する回答を求めた。SASによる評価後、スマホ依存者を特定し、非スマホ依存症者との性格特性の違いを評価した。 主な結果は以下のとおり。・スマホ依存の傾向が確認された学生は、110人(28.8%)であった。・スマホ依存者は、非スマホ依存者と比較し、新規性追求、損害回避、自己超越の平均スコアが統計学的に有意に高かった。・スマホ依存者は、非スマホ依存者と比較し、持続、自己志向の平均スコアが統計学的に有意に低かった。・スマホ依存者は、報酬依存が高く、協調が低かったが、統計学的に有意な差は認められなかった。・新規性追求、損害回避、自己超越が高く、持続および自己志向が低いことは自己愛性パーソナリティ障害を示すものであり、これがスマホ依存と関連している可能性が示唆された。

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スコットランド、P4P廃止でプライマリケアの質が低下/BMJ

 Quality and Outcomes Framework(QOF)は、英国の国民保健サービス(NHS)におけるプライマリケア向けの「pay-for-performance(P4P)」制度であり、2004年に英国の4つのカントリー(イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランド)のすべてに導入されたが、2016年にスコットランドはこれを廃止した。英国・ダンディー大学のDaniel R. Morales氏らは、この経済的インセンティブを継続したイングランドと比較して、スコットランドではQOF廃止後に多くのパフォーマンス指標に関してケアの質の低下が認められたと報告した。研究の詳細は、BMJ誌2023年3月22日号に掲載された。16指標を分割時系列試験で評価 研究グループは、2016年のスコットランドにおけるQOFの廃止がケアの質に及ぼした影響を、QOFを継続したイングランドとの比較において評価する分割時系列対照比較試験を実施した(筆頭著者は、英国・Wellcome Trust Clinical Research Career Development Fellowshipの助成を受けた)。 解析には、2013~14年にスコットランドの979ヵ所の診療所に登録された559万9,171例と、イングランドの7,921ヵ所の診療所に登録された5,627万628例のデータが含まれ、2018~19年のデータとの比較が行われた。 2015~16年の会計年度末にQOFを廃止したスコットランドにおける、廃止から1年後および3年後のケアの質の変化を、16項目のパフォーマンス指標(「複雑なプロセス」2項目、「中間的アウトカム」9項目、「治療」5項目)について評価した。治療5項目については有意差なし イングランドと比較して、QOF廃止から1年後のスコットランドでは、16項目のケアの質に関するパフォーマンス指標のうち12項目で、3年後には10項目で有意な低下が認められた。 廃止から3年の時点で、スコットランドとイングランドで絶対差が最も大きかった指標は、複雑なプロセスの2項目、精神的健康のケアプランニング(-40.2ポイント、95%信頼区間[CI]:-45.5~-35.0)と糖尿病性足病変のスクリーニング(-22.8、-33.9~-11.7)であり、いずれもスコットランドで著明に低かった。 また、スコットランドではイングランドと比べ、3年後の中間的アウトカムにも大幅な低下がみられた。なかでも、末梢動脈疾患(絶対差:-18.5ポイント、95%CI:-22.1~-14.9)・脳卒中/一過性脳虚血発作(-16.6、-20.6~-12.7)・高血圧(-13.7、-19.4~-7.9)・冠動脈疾患(-12.8、-14.9~-10.8)それぞれの患者の血圧管理(≦150/90mmHg)のほか、糖尿病患者の血圧管理(≦140/80mmHg)(-12.7、-15.0~-10.4)および糖化ヘモグロビン(HbA1c)管理(≦75mmol/mol)(-5.0、-8.4~-1.5)の低下が顕著だった。 治療の5項目(脳卒中/一過性脳虚血発作・慢性閉塞性肺疾患・冠動脈疾患・糖尿病それぞれの患者へのインフルエンザワクチン接種、冠動脈疾患患者への抗血小板療法/抗凝固療法)には、スコットランドとイングランドで有意な差はなかった。 著者は、「P4P制度を変更する際は、ケアの質の低下を監視し、それに対応できるように、慎重な制度設計と実施が求められる」としている。

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軽度熱傷【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第1回

はじめまして!聖マリアンナ医科大学病院 救急医学の沼田と申します。主に救急科で勤務しながら、総合診療医、小児救急、集中治療を勉強してきました。最近は緩和ケアを勉強しています。オフ・ザ・ジョブトレーニングでは、外科系救急初期診療を学ぶ「T&Aマイナーエマージェンシーコース」のコアメンバーとして活動しています。このコラムでは、かかりつけ医が診る機会の多い軽症救急疾患の治療を、救急医の視点でわかりやすく解説していきます。初回は熱傷の中でもI、II度の軽度熱傷の治療についてです。熱傷にはさまざまな原因がありますよね。天ぷらを揚げていた、子供が電気ケトルを倒した、カセットコンロが爆発した…など。熱傷の加療の方向性はほぼ同一ですが、医師によって使用する薬剤や被覆材にはばらつきがあると感じています。大まかな治療に関してはAmerican family physicianの「Outpatient burns: prevention and care」と日本熱傷学会の「熱傷診療ガイドライン(改訂第3版)」を基に、私の経験も交えながらポイントを解説します1,2)。22歳男性。夜間にカップラーメンを食べようとして、カップに熱湯を入れて移動した際に転倒し、熱湯が両腕にかかり受診。既往歴なし、内服歴なし、アレルギー歴なし、バイタル特記事項なし。右前腕に5cm程度の発赤、左前腕に3cm程度の発赤と水疱が2ヵ所ある。水疱の1つは1cm程度、もう1つは3cm程度で破れている。これは、私が近くに皮膚科がない地方の内科外来で働いていたときに経験した症例です。熱傷の治療は、ステップを踏んで診察をしていくことが重要ですので、今回はこの症例を基にどういう判断や対応を行ったかお話しします。1. すぐに入院が必要かどうかの判断(1)受傷部位私の専門が救急であり、火災などによる熱傷に遭遇することもありますが、その場合に最も警戒するのは気道熱傷です。火災が関連している熱傷では、顔面熱傷がないかどうかを確認し、気道熱傷がある場合は人工呼吸管理を行うため入院が必要です。今回の症例は、両腕に熱湯がかかったことによる熱傷ですので気道熱傷はありません。(2)熱傷面積熱傷の面積によっては病院や熱傷センターなどへの搬送が必要になりますので、熱傷の範囲を把握します。よく使われるのが「9の法則」です。頭部、右上肢、左上肢をそれぞれ9%、体幹部の前面、後面をそれぞれ18%、右下肢、左下肢をそれぞれ18%、陰部を1%として熱傷面積を推定します。画像を拡大するまた、熱傷面積が小さく、散在しているときは「手掌法」を用います。これは、手のひらの大きさを体表面積の1%と換算して熱傷面積を推定します。患者の入院の必要性を判断するにあたっては、「Artzの基準」がよく用いられます。II度熱傷の面積が15~30%、III度熱傷の面積が2~10%で一般病院での入院加療が必要とされています。逆に言えば、この面積以下であれば外来通院でよいでしょう。今回の症例の熱傷範囲は1~2%程度ですので、外来通院としました。2. 後日専門医への相談が必要かどうかの判断(1)受傷部位受傷部位で専門的な加療が必要かどうか変わってきます。顔面、手指、肛門、陰部の熱傷や、大関節(肩、膝、股関節)を超える熱傷は、美容や機能予後に影響を与えるので、可能であればなるべく早く専門医に診察してもらいましょう。(2)深達度熱傷には、I度、II度、III度があります。I度は発赤のみ、II度(浅達)は水疱を形成して水疱底の真皮が赤色、II度(深達)は水疱を形成して水疱底の真皮が白色、III度は白色皮革様もしくは褐色皮革様で感覚が消失します。III度熱傷は、適切に治療したとしても拘縮して植皮が必要になる可能性が高いため、専門医に紹介するべきです。II度の浅達か深達かの判別は専門医でなくては困難ですが、治療もとくに変わらないので必ずしも判別する必要性はないと考えます。この患者は、右前腕は発赤のみでI度、左前腕は水疱を形成していてII度熱傷となります。3. 治療(1)冷水での洗浄ここからは、症例のような軽症熱傷を通院加療する流れを記載します。どこで受傷したとしてもまず推奨されるのが冷水での洗浄です。実は強いエビデンスはないと言われていますが、熱傷を負った人の治療で「水で洗う vs.水で洗わない」の検証は倫理的に問題があり行えないため、実際の効果を検証することは困難です。どこでも、すぐに、安価にできるので、受傷後なるべく早く10分程度洗ってもらいましょう。ただし、20分以上の冷水での洗浄や氷水の使用は組織障害や低体温を起こすことがあるため控えます。●右腕(I度)右腕のI度熱傷の治療は、基本的には適切な鎮痛薬の内服のみで完了します。しかし、熱傷は時間とともに進行することがあり、今日はI度であったとしても翌日には水疱を形成してII度に進行していることはしばしば経験するので、進行する可能性があることをしっかりと説明しましょう。進行した場合はII度として治療を行います。●左腕(II度)II 度熱傷の場合は、まずは水疱が保たれているかどうかを確認しましょう。水疱内は清潔ですので、破れていなければ基本的には保存的に加療します。American Family physicianでは水疱のサイズが6mmを超える場合は破膜するよう指導されていますが、私は2~3cmでも保存的に加療しています。重要なのは、患者自身が水疱を保護できるかどうかで、難しいようであれば破膜します。保存的に加療する場合は、ガーゼをかぶせて保護し、もし破れてしまった場合は受診するよう指導します。この症例では、3cmの大きいほうの水疱が破れていました。水疱が破けている場合や、水疱を破膜した場合の治療はどうでしょうか? 私はまずリドカイン塩酸塩ゼリー(商品名:キシロカインゼリー)を塗布してから創部を洗浄しています。その後、破れた水疱の膜を残しておくと感染のリスクがあるため除去します。なお、アルコールやポビドンヨード液などによる消毒は組織障害が生じるため、参考文献2つはいずれも推奨していません。私も創部がよほど汚染されていない限り使用はしません。(2)創部の被覆被覆材にはさまざまなものがあります。メディカルオンラインで「創傷・熱傷被覆材(ドレッシング材)」と検索すると、サイズや用途はさまざまですが130個ほど出てきます。これらの有意性に関する報告は限られていますが、元々熱傷にはスルファジアジン銀が使用されており、それに対する非劣性や有意性を示した論文はあるため、どれを選択しても大きくは変わらないと考えます。その中で、私は基本的には白色ワセリン+ガーゼを使用しています。理由はどこの施設でも置いていて、安価で簡便だからです。患者には、ワセリンをたっぷりと塗って、最低1日1回交換するよう指導して帰宅とします。私がインストラクターとして参加しているT&Aマイナーエマージェンシーコースでは、ガーゼ1枚の範囲を覆う場合、約20gの白色ワセリンの使用を推奨しています。画像のとおり「ぷにゅっとする」くらい厚塗りします。画像を拡大する熱傷の範囲に合わせて調節しますが、熱傷の初期は浸出液が多く、頻回にガーゼ交換が必要ですので、私は患者に白色ワセリンを最低100g渡しています。以前、とある外来で、軟膏がすぐになくなったのでガーゼのみを張って、乾燥して創部に引っ付いてしまった患者がいて、剥ぐのに苦労したことがありました。必ず「軟膏なしでガーゼのみを張るのは控えましょう」と伝えてください。ちなみに、白色ワセリンはドラッグストアでも販売しているので、必ずしも病院を受診して受け取る必要はありません。(4)ステロイド軟膏ステロイド軟膏は、有用性を示すエビデンスに乏しく、安易に使用するべきではないという意見がある一方で、局所の炎症兆候に対して推奨する意見もあるのが現状です。American Family physicianでは使用を推奨せず、本邦の熱傷診療ガイドラインでは「専門医が抗炎症効果を期待して使用する際は、ステロイドの副作用に十分注意しながら、受傷早期(2日間程度)に使用することが望ましい」とされているので、非専門医である私は原則使用しません。(5)外来フォロー推奨された通院間隔はなく、あくまで私のプラクティスを紹介させていただきます。I度熱傷であれば通院の必要はなく、鎮痛薬の処方で終診です。しかし、II度へ移行した場合は再診するよう指導しています。II度熱傷は状況により通院間隔が異なります。その見極めは自力で被覆交換ができるかどうかです。自力で被覆交換が可能であれば、患者の症状に合わせて3~7日程度のサイクルで通院してもらいます。自力での被覆交換が難しい場合は1~3日ごとに通院してもらいます。被覆終了のタイミングは、「ガーゼに浸出液が付かなくなったとき」と伝えています。フォロー中に患者からよく訴えられる症状は、疼痛と掻痒感です。疼痛は初期から生じますので、私は初めからNSAIDsかアセトアミノフェンで対応しています。ただし、数日経って急激に痛みが増悪する、創部に熱感が生じる場合は感染した可能性があるため受診するよう指導します。かゆみが出た場合は抗ヒスタミン薬の有効性が示されているため処方します。今回は、軽度熱傷の症例を例に挙げながら、どういう判断や対応を行ったかお話ししました。軽度熱傷はかかりつけ医が診る機会がありますが、美容や機能予後に影響を与えることも多々あるので、重症度や受傷部位によっては専門医へ相談しましょう。これから定期的に非専門医向けの軽症救急処置のコラムを連載いたします。可能な限り根拠に基づきながら、自身の経験を織り交ぜていこうと思いますのでどうぞよろしくお願いします!1)Lanham JS, et al. Am Fam Physician. 2020;101:463-470.2)日本熱傷学会編. 熱傷診療ガイドライン(改訂第3版).2021.

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最低価格制限で、飲酒による死亡・入院が減少/Lancet

 スコットランドで販売されるアルコール飲料は、2018年5月1日以降、法律で1単位(純アルコール10mLまたは8g)当たりの最低単位価格(MUP)が0.5ポンドに設定されている。これにより販売量が3%減少したことが先行研究で確認されているが、今回、英国・スコットランド公衆衛生局(Public Health Scotland)のGrant M. A. Wyper氏らは、MUP法の施行により、アルコール摂取に起因する死亡と入院が大幅に減少し、その効果はとくに社会経済的に最も恵まれない層で顕著に高いことを示した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年3月21日号に掲載された。MUP法施行前後で比較した分割時系列試験 本研究は、アルコール摂取に起因する死亡と入院へのMUP法施行の影響の評価を目的に、スコットランド(人口約550万人)で行われた分割時系列対照比較試験であり、対照として同法が施行されていないイングランドのデータが使用された(スコットランド政府の助成を受けた)。 スコットランドにおける同法施行前(2012年1月1日~2018年4月30日)と施行後32ヵ月間(2018年5月1日~2020年12月31日)のアルコール摂取に起因する死亡と入院のデータを比較し、同時期のイングランドとの比較が行われた。アルコール性肝疾患や依存症による死亡を有意に抑制 スコットランドでは、MUP法施行前と比較して、同法施行後32ヵ月間でアルコール摂取に起因する死亡が13.4%(95%信頼区間[CI]:-18.4~-8.3、p=0.0004)低下し、これは年間平均156件(95%CI:-243~-69)のアルコール摂取による死亡の回避に相当した。 また、MUP法の施行は慢性的な原因に起因する死亡の低下にも寄与しており(-14.9%、95%CI:-20.8~-8.5、p<0.0001)、アルコール性肝疾患による死亡(-11.7%、-16.7~-6.4、p<0.0001)やアルコール依存症による死亡(-23.0%、-36.9~-6.0、p=0.0093)を有意に抑制した。 一方、アルコール摂取に起因する入院は4.1%低下(95%CI:-8.3~0.3、p=0.064)し、アルコール性肝疾患による入院は9.8%低下(-17.5~-1.3、p=0.023)したが、アルコール依存症による入院は7.2%(95%CI:0.3~14.7、p=0.039)増加した。 さらに、MUP法の施行により、アルコール摂取に起因する死亡は、男性(-14.8%)、女性(-12.0%)、35~64歳(-10.0%)、65歳以上(-26.7%)、社会経済的な貧困度を10段階に分けた場合の最も恵まれない上位4群(-17.5~-33.6%)で低下がみられた。また、アルコール摂取に起因する入院は、男性(-6.2%)、35~64歳(-4.8%)、最も貧困度の高い上位4群(-4.5~-6.9%)で低下がみられた。 著者は、「MUP法実施の効果は社会経済的に貧困度が高い層で最も大きく、これは、この施策がアルコール摂取に起因する健康被害において、貧困に基づく不平等に積極的に取り組んでいることを示すものである」としている。

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