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カフェイン入りコーヒー、期外収縮への影響は?/NEJM

 カフェイン入りコーヒーの摂取はカフェインを摂取しない場合と比較し、毎日の心房期外収縮が有意に増加することはないことが、米国・カリフォルニア大学のGregory M. Marcus氏らが実施した単施設での前向き無作為化ケースクロスオーバー試験「Coffee and Real-time Atrial and Ventricular Ectopy trial:CRAVE試験」で確認された。コーヒーは、世界で最もよく消費されている飲料の1つであるが、コーヒーの摂取による健康への急性の影響は依然として不明であった。NEJM誌2023年3月23日号掲載の報告。カフェイン入りコーヒー摂取vs.カフェイン非摂取で、心房期外収縮を評価 研究グループは、カフェイン入りコーヒーが期外収縮と不整脈、毎日の歩数、睡眠時間、および血清グルコース値に及ぼす影響を調べるため、チラシ、口コミ、ソーシャルメディアにより年1回以上カフェイン入りコーヒーを摂取する18歳以上の成人を募集し、計100人を対象に検討を行った。 14日間にわたって毎日テキストメッセージを送信することにより、「2日間カフェイン入りコーヒーを摂取」群または「2日間カフェインを摂取しない」群に無作為に割り付けた。蓄積効果を回避しつつ試験への参加と継続を高めるため、参加者が3日以上連続してコーヒーを摂取するまたは摂取しないことがないよう、摂取-非摂取または非摂取-摂取の対で無作為化を構築した。 参加者には、パッチ型持続心電図レコーダ、手首装着型加速度計、持続血糖測定システムを装着してもらうとともに、コーヒーショップへの訪問を追跡するためスマートフォンアプリケーションをダウンロードしてもらい地理的位置情報データを収集した。 主要アウトカムは、毎日の心房期外収縮の平均回数で、intention-to-treat解析で評価した。無作為割り付けの順守は、参加者が記録したリアルタイム指標、毎日の質問票、コーヒー購入の日付入り領収書の払い戻し、コーヒーショップ訪問のバーチャルモニタリング(ジオフェンシング)を用いて評価した。心房期外収縮の1日平均回数に有意差なし 参加者の平均(±SD)年齢は39±13歳、女性が51%、非ヒスパニック系白人が51%であった。無作為割り付けの順守度は高かった。 心房期外収縮は、カフェイン入りコーヒー摂取群で1日平均58回に対し、カフェイン非摂取群で1日平均53回であった(率比:1.09、95%信頼区間[CI]:0.98~1.20、p=0.10)。 また、心室期外収縮はそれぞれ1日平均154回、102回(率比:1.51、95%CI:1.18~1.94)、歩数は1日平均1万646歩、9,665歩(平均群間差:1,058、95%CI:441~1,675)、睡眠時間は397分、432分(平均群間差:36、95%CI:25~47)、血清グルコース値は95mg/dL、96mg/dL(平均群間差:-0.41、95%CI:-5.42~4.60)であった。

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血小板無力症〔GT:Glanzmann thrombasthenia〕

1 疾患概要■ 定義血小板無力症(Glanzmann thrombasthenia:GT)は、1918年にGlanzmannにより初めて報告された1)一般的な遺伝性血小板障害(Inherited platelet disorders:IPD)であり、その中でも最もよく知られた先天性血小板機能異常症である。血小板インテグリンαIIbβ3(alphaIIbbeta3:いわゆる糖蛋白質[glycoprotein:GP]IIb/IIIaとして知られている)の量的欠損あるいは質的異常のため、血小板凝集機能の障害により主に中等度から重度の粘膜皮膚出血を伴う出血性疾患である。インテグリンαIIbβ3機能の喪失により、血小板はフィブリノーゲンや他の接着蛋白質と結合できなくなり、血小板による血栓形成不全、および多くの場合に血餅退縮が認められなくなる。 ■ 疫学血液凝固異常症全国調査では血液凝固VIII因子の欠乏症である血友病Aが男性出生児5,000人に約1人,また最も頻度が高いと推定される血漿蛋白であるvon Willebrand factor(VWF)の欠損症であるvon Willebrand病(VWD)については出生児1,000人に1人2、3)と報告される(出血症状を呈するのはその中の約1%と考えられている)。IPDは、これらの遺伝性出血性疾患の発症頻度に比べてさらに低くまれな疾患である。UK Haemophilia Centres Doctors Organisation(UKHCDO)に登録された報告2)では、VWDや血友病A・Bを含む凝固障害(87%)に比較して血小板数・血小板機能障害(8%)である。その8%のIPDの中ではGTは比較的頻度が高いが、明らかな出血症状を伴うことから診断が容易であるためと想定される(GT:5.4%、ベルナール・スーリエ症候群:3.7%、その他の血小板障害:90.1%)。凝固異常に比較して、IPDが疑われる症例ではその分子的な原因を臨床検査により正確に特定できないことも多く、その他の血小板障害(90.1%)としてひとくくりにされている。GTは、常染色体潜性(劣性)遺伝形式のために一般的にホモ接合体変異で発症し、ある血縁集団(民族)ではGTの発症頻度が高いことが知られている。遺伝子型が同一のGT症例でも臨床像が大きく異なり、遺伝子型と表現型の相関はない1、4)。血縁以外では複合ヘテロ接合によるものが主である。■ 病因(図1)図1 遺伝性血小板障害に関与する主要な血小板構造画像を拡大するインテグリンαIIbサブユニットをコードするITGA2B遺伝子やβ3サブユニットをコードするITGB3遺伝子の変異は、インテグリンαIIbβ3複合体の生合成や構造に影響を与え、GTを引き起こす。片方のサブユニットの欠落または不完全な構造のサブユニット生成により、成熟巨核球で変異サブユニットと残存する未使用の正常サブユニットの両方の破壊が誘導されるが、例外もありβ3がαvと結合して血小板に少量存在するαvβ3を形成する5)。わが国における血小板無力症では、欧米例とは異なりβ3の欠損例が少なく、αIIb遺伝子に異常が存在することが多くαIIbの著減例が多い。また、異なる家系であるが同一の遺伝子異常が比較的高率に存在することは単民族性に起因すると考えられている6)。このほかに、血小板活性化によりインテグリン活性化に関連した構造変化を促す「インサイドアウト」シグナル伝達や、主要なリガンドと結合したαIIbβ3がさらなる構造変化を起こして血小板形態変化や血餅退縮に不可欠な「アウトサイドイン」シグナル伝達経路を阻害する細胞内ドメインの変異体も存在する。細胞質および膜近位ドメインのまれな機能獲得型単一アレル変異体では、自発的に受容体の構造変化が促進される結果、巨大血小板性血小板減少症を引き起こす。「インサイドアウト」シグナルに重要な役割を果たすCalDAG-GEFI(Ca2+ and diacylglycerol-regulated guanine nucleotide exchange factor)[RASGRP2遺伝子]およびKindlin-3(FERMT3遺伝子)の遺伝子変異により、GT同様の臨床症状および血小板機能障害を発症する。この機能性蛋白質が関与する他の症候としては、CalDAG-GEFIは他の血球系、血管系、脳線条体に存在し、ハンチントン病との関連も指摘されており、Kindlin-3の遺伝子変異では、白血球接着不全III(leukocyte adhesion deficiency III:LAD-III)を引き起こす。LAD-III症候群は常染色体潜性(劣性)遺伝で、白血球減少、血小板機能不全、感染症の再発を特徴とする疾患である5)。■ 症状GTでは鼻出血や消化管出血など軽度から重度の粘膜皮膚出血が主症状であるが、外傷・出産・手術に関連した過剰出血なども認める。男女ともに罹患するが、とくに女性では月経や出産などにより明らかな出血症状を伴うことがある。実際、過多月経を訴える女性の50%がIPDと診断されており、さらにIPDの女性は排卵に関連した出血を起こすことがあり、子宮内膜症のリスクも高いとされている7)。■ 分類GTの分類では、インテグリンαIIbβ3の発現量により分類される。多くの症例が相当するI型では、ほとんどαIIbβ3が発現していないため、血小板凝集が欠如し血餅退縮もみられない。発現量は少ないがαIIbβ3が残存するII型では、血小板凝集は欠如するが血餅退縮は認める。また、非機能的なαIIbβ3を発現するまれなvariant GTなどがある1、5)。■ 予後GTは、消化管出血や血尿など重篤な出血症状を時折引き起こすことがあるが、慎重な経過観察と適切な支持療法により予後は良好である。GTの出血傾向は小児期より認められその症状は顕著であるが、一般的に年齢とともに軽減することが知られており、多くの成人症例で本疾患が日常生活に及ぼす影響は限られている。診断された患者さんが出血で死亡することは、外傷や他の疾患(がんなど)など重篤な合併症の併発に関連しない限りまれである1)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)血小板機能障害は1次止血の異常であり、主に皮膚や粘膜に発現することが多い。出血症状の状況(部位や頻度、期間、再発傾向、出血量)および重症度(出血評価ツール)を評価することは、出血症状を呈する患者の評価における最初の重要なステップである。出血の誘因が年齢や性別(月経)に影響するかどうかを念頭に、患者自身および家族の出血歴(術後または抜歯後の出血を含む)、服薬状況(非ステロイド性抗炎症薬)について正確な問診を行う。また、IPDを疑う場合は、出血とは無関係の症状、たとえば眼病変や難聴、湿疹や再発性感染、各臓器の形成不全、精神遅滞、肝腎機能など他器官の異常の可能性に注意を払い、血小板異常機能に関連した症候群型の可能性を評価できるようにする7)。【遺伝性血小板障害の診断】症候学的特徴(出血症状、その他症状、家族歴)血小板数/形態血小板機能検査(透過光血小板凝集検査法)フローサイトメトリー免疫蛍光法、電子顕微鏡法分子遺伝学的解析(Boeckelmann D, et al. Hamostaseologie. 2021;41:460-468.より作成)出血症状に対するスクリーニング検査は、比較的簡単な基礎的な臨床検査で可能であり非専門施設でも実施できる。血液算定、末梢血塗抹標本での形態観察、血液凝固スクリーニング、VWDを除外するためのVWFスクリーニング(VWF抗原、VWF活性[リストセチン補因子活性]、必要に応じて血液凝固第VIII因子活性)などを行う(図2)。上記のスクリーニング検査でIPDの可能性を検討するが、IPDの中には血小板減少を伴うものもあるので、短絡的に特発性血小板減少性紫斑病と診断しないように注意する。末梢血塗抹標本の評価では、血小板の大きさ(巨大血小板)や構造、他の血球の異常の可能性(白血球の封入体)について情報を得ることができ、これらが存在すれば特定のIPDが示唆される。図2 遺伝性血小板障害(フォン・ヴィレブランド病を含む)での血小板凝集のパターン、遺伝子変異と関連する表現型画像を拡大する血小板機能検査として最も広く用いられている方法は透過光血小板凝集検査法(LTA)であり、標準化の問題はあるもののLTAはいまだ血小板機能検査のゴールドスタンダードである。近年では、全自動血液凝固測定装置でLTAが検査できるものもあるため、LTA専用の検査機器を用意しなくても実施できる。図3に示すように、GTではリストセチンを除くすべてのアゴニスト(血小板活性化物質)に対して凝集を示さない。GTやベルナール・スーリエ症候群などの血小板受容体欠損症の診断に細胞表面抗原を測定するフローサイトメトリー(図4)は極めて重要であり、インテグリンαIIbβ3の血小板表面発現の欠損や減少が認められる。インテグリンαIIbβ3活性化エピトープ(PAC-1)を認識する抗体では、活性化不全が認められる8)。図3 血小板無力症と健常者の透過光血小板凝集検査法での所見(PA-200を用いて測定)画像を拡大する図4 血小板表面マーカー画像を拡大するGTでは臨床所見や上記の検査の組み合わせで確定診断が可能であるが、その他IPDを診断するための検査としては、顆粒含有量および放出量の測定(血小板溶解液およびLTA記録終了時の多血小板血漿サンプルの上清中での血小板因子-4やβトロンボグロブリン、セロトニンなど)のほか、血清トロンボキサンB2(TXB2)測定(アラキドン酸由来で生理活性物質であるトロンボキサンA2の血中における安定代謝産物)、電子顕微鏡による形態、血小板の流動条件下での接着および血栓形成などの観察、細胞内蛋白質のウェスタンブロッティングなどが参考となる。遺伝子検査はIPDの診断において、とくに病態の原因と考えられる候補遺伝子の解析を行い、主に確定診断的な役割を果たす重要な検査である。今後は、次世代シーケンサーの普及によるジェノタイピングにより、遺伝子型判定を行うことが容易となりつつあり、いずれIPDでの第一線の診断法となると想定される。ただしこれらの上記に記載した検査については、現段階では保険適用外であるもの、研究機関でしか行えないものも数多い。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)予防や治療の選択肢は限られているため、日常生活での出血リスクを最小限に抑えること、出血など緊急時の対応に備えることが必要である(図5)。図5 出血性疾患に対する出血の予防と治療画像を拡大する罹患している病名や抗血栓薬など避けるべき薬剤などの医療情報(カード)を配布することも有効である。この対応方法は、出血性疾患でおおむね同様と考えられるが、たとえばGTに対しては血小板輸血による同種抗体生成リスクを可能な限り避けるなど、個々の疾患において特別な注意が必要なものもある。この抗血小板抗体は、輸血された血小板除去やその機能の阻害を引き起こし、輸血効果を減弱させる血小板不応の原因となる。観血的手技においては、出血のリスクと処置のベネフィットなど治療効率の評価、多職種(外科医、血栓止血専門医、看護師、臨床検査技師など)による出血に対するケアや止血評価、止血対策のためのプロトコルの確立と遵守(血小板輸血や遺伝子組み換え活性化FVII製剤、抗線溶薬の使用、観血術前や出産前の予防投与の考慮)が不可欠である。IPD患者にとって妊娠は、分娩関連出血リスクが高いことや新生児にも出血の危険があるなどの問題がある。最小限の対策ですむ軽症出血症例から最大限の予防が必要な重篤な出血歴のある女性まで状況が異なるために、個々の症例において産科医や血液内科医の間で管理を計画しなければならない。重症出血症例に対する経膣分娩や帝王切開の選択なども依然として難しい。4 今後の展望出血時の対応などの臨床的な役割を担う医療機関や遺伝子診断などの専門的な解析施設へのアクセスを容易にできるようにすることが望まれる。たとえば、血友病のみならずIPDを含めたすべての出血性疾患について相談や診療可能な施設の連携体制の構築すること、そしてIPD診断については特殊検査や遺伝子検査(次世代シーケンサー)を扱う専門施設を確立することなどである。遺伝性出血性疾患の中には、標準的な治療では対応しきれない再発性の重篤な出血を伴う若い症例なども散見され、治療について難渋することがある。こうした症例に対しては、遺伝性疾患であるからこそ幹細胞移植や遺伝子治療が必要と考えられるが、まだ選択肢にはない。近い将来には、治療法についても革新的技術の導入が期待される。5 主たる診療科血液内科(血栓止血専門医)※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報小児慢性特定疾病情報センター 血小板無力症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)国立成育医療研究センター 先天性血小板減少症の診断とレジストリ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)大阪大学‐血液・腫瘍内科学 血小板疾患研究グループ山梨大学大学院 総合研究部医学域 臨床検査医学講座(医療従事者向けのまとまった情報)1)Nurden AT. Orphanet J Rare Dis. 2006;1:10.2)Sivapalaratnam S, et al. Br J Haematol. 2017;179:363-376.3)日笠聡ほか. 日本血栓止血学会誌. 2021;32:413-481.4)Sandrock-Lang K, et al. Hamostaseologie. 2016;36:178-186.5)Nurden P, et al. Haematologica. 2021;106:337-350.6)冨山佳昭. 日本血栓止血学会誌. 2005;16:171-178.7)Gresele P, et al. Thromb Res. 2019;181:S54-S59.8)Gresele P, et al. Semin Thromb Hemost. 2016;42:292-305.公開履歴初回2023年3月30日

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不眠症に対する認知療法、行動療法、認知行動療法の長期有効性比較

 不眠症を軽減するためには、長期的な治療が重要である。米国・カリフォルニア大学バークレー校のLaurel D. Sarfan氏らは、不眠症治療に対する認知療法(CT)、行動療法(BT)、認知行動療法(CBT)の長期的な有効性について、相対的に評価した。その結果、セラピストによるCBT、BT、CTの提供は、長期にわたり不眠症による夜間および日中の症状を改善させる可能性が示唆された。Journal of Consulting and Clinical Psychology誌オンライン版2023年2月23日号の報告。 対象は、不眠症患者188例(女性:62.2%、白人:81.1%、ヒスパニックまたはラテン系:6.5%、平均年齢:47.4歳)。対象患者を、不眠症に対するCT、BTまたはCBTの8つのセッションにランダムに割り付けた。不眠症の重症度、不眠症に対する治療反応/寛解、睡眠日誌のパラメータ、日中の機能を、治療前および12ヵ月間のフォローアップ期間に測定し評価を行った。 主な結果は以下のとおり。・いずれかの治療を行った患者で、不眠症の重症度、入眠潜時、中途覚醒、総睡眠時間、睡眠効率、仕事や社会への適応、メンタルヘルスの改善が認められた(各々、p<0.05)。・各治療群において、実質的な割合で寛解や治療反応の達成が確認された。・CBTは、CTと比較し不眠症の重症度を大きく改善し、CTおよびBTと比較し、より一層の寛解や身体的健康の改善が認められた(各々、p<0.05)。・精神疾患を合併している患者では、CBTはCTと比較し、仕事や社会への適応、メンタルヘルスを大きく改善した(各々、p<0.05)。・CTには、就寝時間の変化との関連が認められず、日中の疲労の変化に関連する治療条件もみられなかった(各々、p>0.05)。・セラピストによるCBT、BT、CTの提供は、長期にわたり不眠症による夜間および日中の症状を改善させる可能性が示唆された。

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糖尿病患者、女性は男性より静脈血栓塞栓症を発症しやすい

 糖尿病患者は非糖尿病者よりも静脈血栓塞栓症(VTE)のリスクが高いこと、特に女性患者でリスク差が大きく、かつ男性糖尿病患者との比較でもリスク差がある可能性を示すデータが報告された。ウィーン医科大学(オーストリア)のCarola Deischinger氏らの研究によるもので、詳細は「Diabetes Research and Clinical Practice」12月号に掲載された。 糖尿病と心血管疾患(CVD)リスクとの関連については豊富なエビデンスがあり、糖尿病に伴う凝固亢進状態はCVDのみならずVTEリスクも押し上げることが想定される。ただし、糖尿病とCVDの関連に比べ、糖尿病とVTEに関するエビデンスはまだ十分でない。特に、性差についてはほとんど分かっていない。 Deischinger氏らの研究は、オーストリアの1997~2014年の医療費請求データベースを用いたレトロスペクティブなコホート研究として行われた。20~79歳の糖尿病患者18万34人と、年齢・性別が一致する糖尿病でない54万102人を対照群として設定し、VTEリスクを糖尿病の有無および性別・年齢層別に比較した。 その結果、非糖尿病群のVTEリスクは男女間で類似しているのに対して、糖尿病患者では男性より女性の方が、年齢にかかわらずほぼ一貫して相対リスクが高かった。具体的には、男性糖尿病患者は非糖尿病男性に比べてVTE診断のオッズ比(OR)が1.30(95%信頼区間1.26~1.35)であるのに対して、女性糖尿病患者は非糖尿病女性に比べてOR1.52(同1.46~1.58)だった(いずれもP<0.001)。女性糖尿病患者のオッズ比は男性糖尿病患者の1.17倍(同1.11~1.23)であり、女性糖尿病患者のVTE発症が有意に多かった。 年齢層別に見ると、20代は男性・女性ともに、糖尿病であっても有意なオッズ比の上昇は認められず、女性糖尿病患者と男性糖尿病患者との比較でも有意差はなかった。30代では男性・女性ともに、糖尿病患者で有意なオッズ比の上昇が認められたが、女性患者と男性患者の比較では有意差がなかった。40~70代は全て、男性・女性ともに糖尿病患者で有意なオッズ比の上昇が認められ、かつ女性患者は男性患者よりも有意にオッズ比が高かった。性別によるオッズ比の差が最も著しい年齢層は50代であり、女性糖尿病患者は女性非糖尿病者に対してOR2.14(1.91~2.40)、男性糖尿病患者は男性非糖尿病者に対してOR1.30(1.20~1.41)であって、女性糖尿病患者のオッズ比は男性糖尿病患者の1.65倍(1.43~1.89)に上った。 このほかに、処方されている血糖降下薬のカテゴリー別の解析も実施され、DPP-4阻害薬を処方されている女性患者は、同薬が処方されていない女性糖尿病患者に比較してVTE診断のオッズ比が有意に高いことが示された〔OR2.3(P=0.0096)〕。男性については、DPP-4阻害薬の処方の有無による有意差は見られなかった。また、インスリン、ビグアナイド薬、SU薬、チアゾリジン薬の処方の有無では、男性・女性ともに有意差がなかった。 著者らは、「われわれの研究結果は、女性糖尿病患者、特に閉経期の患者はVTEの発症を、より注意深く監視する必要があることを示唆している」と述べている。

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コロナ疾患後症状患者、1年以内の死亡/重篤心血管リスク増

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染から1年間のコロナ罹患後症状(Post-COVID-19 Condition:PCC[いわゆるコロナ後遺症、long COVID])について、米国の商業保険データベースを用いて未感染者と比較した大規模調査が、保険会社Elevance HealthのAndrea DeVries氏らによって実施された。その結果、コロナ後遺症患者は心血管疾患や呼吸器疾患のリスクが約2倍上昇し、1年間の追跡期間中の死亡率も約2倍上昇、1,000人あたり16.4人超過したことが明らかとなった。JAMA Health Forum誌2023年3月3日号に掲載の報告。コロナ後遺症群の死亡率は2.8%で未感染群は1.2% 米国50州の18歳以上の健康保険会員において、2020年4月1日~7月31日の期間にCOVID-19に罹患し、その後コロナ後遺症と診断された1万3,435例と、未感染者2万6,870例をマッチングし、2021年7月31日まで12ヵ月追跡してケースコントロール研究を実施した。評価項目は、心血管疾患、呼吸器疾患、死亡など。コロナ後遺症の診断は、疲労、咳嗽、痛み(関節、喉、胸)、味覚・嗅覚の喪失、息切れ、血栓塞栓症、神経認知障害、うつ病などの症状に基づいて行われた。統計学的有意性はカイ2乗検定とt検定で評価し、相対リスク(RR)と95%信頼区間(CI)を算出した。Kaplan-Meier法を用いて死亡率を算出した。 コロナ後遺症について未感染者と比較した大規模調査の主な結果は以下のとおり。・コロナ後遺症群(1万3,435例)の平均年齢は50.1歳(SD 15.1)、女性7,874例(58.6%)。PCC群のうち3,697例がCOVID-19診断後1ヵ月以内に入院していた(平均年齢57.4歳[SD 13.6]、女性44.7%)。未感染群(2万6,870例)の平均年齢は50.2歳(SD 15.4)、女性1万5,672例(58.3%)。・コロナ後遺症群はCOVID-19を発症する前に、高血圧(39.2%)、うつ病(23.7%)、糖尿病(20.5%)、COPD(19.1%)、喘息(中等症/重症)(13.3%)、高度肥満(10.3%)などの慢性疾患を有する人が多かった。・コロナ後遺症群の追跡期間中によく観察された症状は、息切れ(41%)、不安(31%)、筋肉痛/脱力(30%)、うつ病(25%)、疲労(21%)だった。・コロナ後遺症群において、未感染群と比較して医療利用が増加した疾患は次のとおり。 -不整脈の発症率:PCC群29.4% vs.未感染群12.5%、RR:2.35(95%CI:2.26~2.45) -肺塞栓症:8.0% vs.2.2%、RR:3.64(95%CI:3.23~3.92) -虚血性脳卒中:3.9% vs.1.8%、RR:2.17(95%CI:1.98~2.52) -冠動脈疾患:17.1% vs.9.6%、RR:1.78(95%CI:1.70~1.88) -心不全:11.8% vs.6.0%、RR:1.97(95%CI:1.85~2.10) -末梢血管疾患:9.9% vs.6.3%、RR:1.57(95%CI:1.48~1.70) -COPD:32.0% vs.16.5%、RR:1.94(95%CI:1.88~2.00) -喘息(中等症/重症):24.2% vs.12.4%、RR:1.95(95%CI:1.86~2.03)・追跡期間中の死亡率はコロナ後遺症群2.8% vs.未感染群1.2%で、コロナ後遺症群は1,000人あたり16.4人の超過死亡となる。・COVID-19発症初期に入院を経験したコロナ後遺症群において、未感染群と比較して医療利用が増加した疾患は次のとおり。 -不整脈:51.7% vs.17.4%、RR:2.97(95%CI:2.81~3.16) -肺塞栓症:19.3% vs.3.1%、RR:6.23(95%CI:5.36~7.15) -虚血性脳卒中:8.3% vs.2.7%、RR:3.07(95%CI:2.59~3.66) -冠動脈疾患:28.9% vs.14.5%、RR:1.99(95%CI:1.85~2.15) -心不全:25.6% vs.10.1%、RR:2.53(95%CI:2.32~2.76) -末梢血管疾患:17.3% vs.8.9%、RR:1.94(95%CI:1.75~2.15) -COPD:43.1% vs.19.2%、RR:2.24(95%CI:2.11~2.38) -喘息(中等症/重症):31.6% vs.14.7%、RR:2.15(95%CI:2.00~2.31) コロナ罹患後症状に関する米国での最大規模の追跡調査において、コロナ後遺症患者は死亡率だけでなく心血管疾患や呼吸器疾患のリスクが有意に増加し、とくにCOVID-19発症初期に入院した人では肺塞栓症が6倍、脳卒中が3倍以上など、さらにリスクが高くなることが示された。また、本研究はワクチン利用可能以前のサンプルを用いているため、ワクチン普及後では、ワクチンのコロナ後遺症緩和効果により、個人の医療利用パターンが変化する可能性もあると著者は指摘している。

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米国心臓病学会と米国心臓協会が大動脈疾患の診断・管理のためのガイドラインを発行

 米国心臓病学会(ACC)と米国心臓協会(AHA)が発表した「大動脈疾患の診断と管理に関するガイドライン2022年版(2022 ACC/AHA Guideline for the Diagnosis and Management of Aortic Disease)」で、集学的な大動脈疾患治療チームの重要性に焦点を当てた勧告が発表され、「Circulation」12月13日号に掲載された。 米マサチューセッツ総合病院のEric M. Isselbacher氏らは、大動脈疾患患者の診断、遺伝的評価、家族のスクリーニング調査、薬物療法、血管内治療と外科的治療、および長期的なサーベイランスに関するガイドラインを作成するために、2019年5月~9月にPubMed、EMBASE、Cochrane Collaboration、CINHL Completeなどのデータベースの包括的な文献検索を実施した。今回のガイドラインでは、胸部大動脈疾患、末梢動脈疾患および二尖大動脈弁疾患の項目が更新された。概要として、以下のテイクホームメッセージが発表された。 大動脈疾患患者の転帰は、多数の手術症例数の実績に基づいた治療プログラム、高いスキルを持った開業医、多領域にわたる管理能力などによって改善されるため、介入の適切なタイミングを決定する際には、集学的な大動脈疾患治療チームによる治療を検討すべきである。 最適な内科治療、血管内治療、および開胸手術の実施を決定する際には、患者と集学的学治療チームとの間で意思決定を共有することを推奨する。妊娠中または妊娠を希望している大動脈疾患患者にとって、意思決定を共有することは特に重要である。 集学的な大動脈疾患治療チームと経験豊富な外科医が在籍する施設で外科的介入を行う場合に、散発性大動脈瘤および上行性大動脈瘤に対する外科的介入開始の目安となる瘤径を、従来の5.5cmから5.0cmに設定し直した。遺伝性胸部大動脈瘤の患者を対象とした特定の条件では、外科的介入の開始基準としての瘤径はさらに小さく設定される可能性がある。 外科的介入開始の指標として、大動脈基部または上行大動脈の血管径の指標は、患者の体表面積または身長に合わせた調整が必要となることがあり、大動脈の断面積の指標は、平均身長と比べて有意に低身長または高身長の患者に適用する場合に、患者の身長に合わせた調整が必要となることがある。 著者は、「大動脈疾患患者に最善な治療を提供できるように尽力している集学的な治療チームにとって、この新しいガイドラインに掲載された最新かつ総合的な勧告が、臨床診療に有用な情報源となることを望んでいる」と述べている。 なお、数名の著者が、バイオ薬品企業およびヘルスケア企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その5【「実践的」臨床研究入門】第30回

検索式を改訂する今回は前回からの続きで、検索式の能力を検証しながら改訂していきます。前回解説したとおり、P(対象)の構成要素ブロックにRenal Insufficiency[mh:noexp] OR(太字部分)を加え、E(曝露)のブロックとANDでかけ合わせ、再度「Key論文」のブロックとNOTでつなぐと、表1の結果になります(本稿執筆2023年3月時点)。表1画像を拡大するPのブロックには、MeSH termsを加えた結果、ヒットした論文数が大幅に増えています(Search #1)。前回検索時から約1ヵ月経っているので、Eのブロックで検索された論文数もわずかに増加し(Search #2)、改訂検索式でのヒット論文数も数10編増えています(Search #3)。この改訂検索式と「Key論文」のブロックをかけ合わせた結果、ヒットする論文数は7編から6編と1つ減っています。当初ヒットしなかったコクラン・システマティックレビュー(SR:systematic review)論文1)が、改訂検索式ではヒットするようになったのです(お時間ある方は確認してみてください)。それでは同じ要領で、ヒットしなかった「Key論文」すべてが捕捉できるように、検索式をさらに改訂してみましょう。残りのヒットしなかった「Key論文」のMeSH termsなどの情報をチェックします(連載第29回参照)。たとえば、現時点の検索式に含まれるMeSH termsやテキストワードは、ヒットしなかった「Key論文」の1つである非コクランSR2)のMeSH termsやタイトルおよびアブストラクトに含まれていません。非コクランSR2)の書誌情報(リンク)から、この論文に付与されているMeSH terms"Diabetic Nephropathies"をPの構成要素ブロックに追加します。Diabetic Nephropathies[mh]同様に、ヒットしなかった非コクランSR3)の書誌情報(リンク)を見ると、この論文にはMeSH termsが付与されていません。そこで、論文タイトルに含まれている"diabetic nephropathy"をテキストワードとしてPのブロックに追加してみます。"diabetic nephropathy"[tiab]※[mh]や[tiab]という「タグ」については、連載第24回で解説していますので、ご参照ください。すると、さらに改訂した検索式とその結果は表2のようになります。表2画像を拡大する「Key論文」4-6)は再改訂検索式でヒットするようになり、残りはとうとう非コクランSR1編7)になりました。この論文7)のMeSH termsを見てみると(リンク)、再改訂検索式のEのブロックに含まれている"Diet, Protein-restricted"は付与されています。しかし、再改訂検索式Pのブロックに含まれるMeSH termsはいずれも付与されていません。したがって、この論文7)のMeSH termsの中から、新たに"Kidney Disease"を検索式Pのブロックに加えることにします。MeSH terms"Kidney Disease"の階層構造はリンクのとおりですが、その下位概念は含まれないように、[mh: noexp]の「タグ」を付けます(連載第24回参照)。Kidney Disease[mh: noexp]再々改訂検索式の検索結果は表3となり、すべての「Key論文」がヒットするようになりました。表3画像を拡大する1)Robertson L, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2007:2007:CD002181.2)Pan Y, et al. Am J Clin Nutr. 2008;88:660-666.3)Nezu U, et al. BMJ Open. 2013;3:e002934.4)Koya D, et al. Diabetologia. 2009;52:2037-2045.5)Li XF, et al. Lipids Health Dis. 2019;18:82.6)Zhu HG, et al. Lipids Health Dis. 2018;17:141.7)Yue H, et al. Clin Nutr. 2020;39:2675-2685.

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前立腺がん15年後の転帰、監視vs.手術vs.放射線/NEJM

 英国・オックスフォード大学のFreddie C. Hamdy氏らは、Prostate Testing for Cancer and Treatment(ProtecT)試験の追跡調査期間中央値15年時点における、PSA監視療法vs.根治的前立腺全摘除術vs.内分泌療法併用根治的放射線療法の有効性を比較し、いずれの治療法でも前立腺がん特異的死亡率は低いことを明らかにした。著者は、「新たに限局性前立腺がんと診断された患者に対しては、治療の有益性と有害性のバランスを慎重に検討して治療法を選択する必要がある」とまとめている。NEJM誌オンライン版2023年3月11日号掲載の報告。限局性前立腺がん患者約1,600例で、15年間の予後を解析 ProtecT試験では、1999~2009年に英国の9施設において、PSA検査を受けた50~69歳の男性8万2,429例が登録された。余命が10年以上で治療の対象となる限局性前立腺がんと診断されたのは2,664例で、このうち1,643例が有効性を評価する試験に登録され、PSA監視療法群(545例)、根治的前立腺全摘除術群(553例)、ネオアジュバントアンドロゲン除去療法併用放射線療法群(545例)に無作為に割り付けられた。 研究グループは、追跡期間中央値15年(範囲:11~21)時点で、同割り付け治療集団について評価を行った。主要評価項目は、前立腺がん死。副次評価項目は全死因死亡、転移(画像診断またはPSA≧100ng/mL)、臨床的病勢進行(転移、cT3/T4、長期アンドロゲン除去療法の開始、尿管閉塞、直腸瘻、腫瘍増殖による尿道カテーテルの複合)、および長期アンドロゲン除去療法とした。前立腺がん死、治療法で有意差なし 追跡調査を完遂したのは、1,643例中1,610例(98.0%)であった。診断時のリスク層別化解析(D'Amico、CAPRA、Cambridge Prognostic Group)では、3分の1以上が中間リスクまたは高リスクであった。 前立腺がん死は45例(2.7%)であった。内訳は、PSA監視療法群17例(3.1%)、前立腺全摘除術群12例(2.2%)、放射線療法群16例(2.9%)であり、各群で有意差は認められなかった(p=0.53)。 全死因死亡は356例(21.7%)で、3群ともほぼ同数(それぞれ124例、117例、115例)であった。転移は、PSA監視療法群で51例(9.4%)、前立腺全摘除術群26例(4.7%)、放射線療法群27例(5.0%)に認められた。長期アンドロゲン除去療法は、それぞれ69例(12.7%)、40例(7.2%)、42例(7.7%)で開始され、臨床的病勢進行が報告されたのはそれぞれ141例(25.9%)、58例(10.5%)、60例(11.0%)であった。PSA監視療法群では、133例(24.4%)が追跡調査終了時に根治的治療ならびにアンドロゲン除去療法を受けることなく生存していた。 事前に規定されたサブグループ解析の結果、3群の前立腺がん死の相対リスクは、診断時の年齢で異なることが示された。65歳未満では、PSA監視療法群または前立腺全摘除術群は、放射線療法群より前立腺がん死のリスクが低く、65歳以上では前立腺全摘除術群または放射線療法群が、PSA監視療法群より前立腺がん死のリスクが低かった。一方、ベースラインのPSA値、臨床病期、グリソングレード、腫瘍長、またはリスク層別化スコアは、3群の前立腺がん死亡相対リスクに影響しなかった。

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幹線道路の近くに住むとアトピー性皮膚炎のリスクが上昇か

 幹線道路からどの程度離れた場所に住んでいるかがアトピー性皮膚炎のリスクに関係することが、米ナショナル・ジューイッシュ・ヘルスのMichael Nevid氏らの研究で示唆された。住んでいる場所が幹線道路から遠く離れている人では、アトピー性皮膚炎を発症するリスクが低い可能性があるという。この研究結果は、米国アレルギー・喘息・免疫学会(AAAAI 2023、2月24~27日、米サンアントニオ)で発表され、要旨は、「The Journal of Allergy and Clinical Immunology」2月号(増刊号)に掲載された。 Nevid氏らはこの研究で、米コロラド州デンバーの小児科を受診した0~18歳の男女の13年間の医療記録から、アトピー性皮膚炎の患者7,384人と、年齢や性別をそろえたアトピー性皮膚炎のない患者7,241人の計1万4,000人超を抽出。これらの患者の住んでいる場所から年間通行台数の1日平均が1万台以上の幹線道路までの距離を調べ、その距離によりアトピー性皮膚炎の発症を予測できるのかを検討した。なお、Nevid氏らは、アジアの都市部に住んでいる人たちの間で、交通関連の大気汚染とアトピー性皮膚炎に関連が認められたとする最近の研究結果を知り、今回の研究を実施することにしたという。 検討の結果、幹線道路からの距離が10倍延びるごとにアトピー性皮膚炎の発症リスクが21%低下することが示された。またNevid氏は、「最終的に、幹線道路からの距離が1,000m以上離れた場所に住んでいた子どもでは、幹線道路から500mの圏内に住んでいた子どもと比べて、アトピー性皮膚炎の発症リスクが27%低いことが明らかになった」と説明している。 Nevid氏はAAAAIのニュースリリースの中で、「今回の結果は、早期の観察研究から得られたものであるため、今後さらなる研究でこれらの関連に影響する病態生理学的な機序について検討する必要がある」との見解を示している。

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質の低い教育は高齢期の認知症リスクと関連か

 人種と早期教育は高齢者の認知症リスクと関連するようだ。新たな研究で、子どもの頃に教育の質が低い州の学校に通っていた人と、質の低い教育環境で育てられがちな黒人では、高齢期の認知症発症リスクの高いことが示された。米カイザー・パーマネンテ・北カリフォルニア(KPNC)のYenee Soh氏らによるこの研究結果は、「JAMA Neurology」に2月13日掲載された。 この研究では、1997年1月1日から2019年12月31日までの23年間の縦断データが用いられた。このデータは、米国の大規模なヘルスケアシステムであるKPNCの会員のうち、1964〜1972年に実施された任意調査に参加し、1996年1月1日時点で65歳以上であり、同年には認知症と診断されていなかった、米国出身の非ヒスパニック系の黒人と白人2万788人から収集されたものだった。対象者の平均年齢は74.7歳で、56.5%が女性、18.8%が黒人、81.2%が白人であり、41.0%は高等教育を受けていなかった。対象者の電子カルテから認知症の診断の有無を確認し、認知症の発症と対象者が6歳時に受けた州の教育の質との関連を検討した。教育の質は、学校年度の長さ、生徒と教師の比率、出席率で評価し、三分位値で3つの群(「低い」「中程度」「高い」)に分けた。 質の低い教育を提供する州で育った人の割合は、白人では20.8~23.3%だったのに対し、黒人では76.2~86.1%と大幅に高かった。教育の質と認知症の発症リスクとの関連を検討したところ、質の高い教育を受けた人では、質の低い教育を受けた人に比べて後の認知症発症リスクが12〜21%有意に低いことが明らかになった〔ハザード比は、「生徒と教師の比率」で0.88、95%信頼区間0.83〜0.94)、「出席率」で0.80(同0.73〜0.88)、「学校年度の長さ」で0.79(同0.73〜0.86)〕。質の低い教育を受けた人と、質が中程度の教育を受けた人を比較した場合でも、後者で8〜17%の有意なリスク低下が認められた。 Soh氏は、「これらの結果は、教育、人種、および認知症発症リスクの関連を示したに過ぎない」と強調。その上で、質の低い教育を受ける子どもに認められがちな、医療全般へのアクセスの低さや、肥満、喫煙、高血圧リスクの高さなどが、認知症の発症を後押ししている可能性があると考察している。同氏はまた、「この知見から、州レベルの教育への投資が認知症発症リスクにとって重要なことは確実だ。また、人種・民族的マイノリティに属する人々における投資の不平等をもたらすシステム上の要因に対処するべきことも示唆される」と指摘している。 米ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生学部のAndrea Roberts氏は、「この研究から、教育の質の低さが認知症発症の原因であることが明らかになったわけではないが、出席率を向上させ、十分な就学期間を設け、教員1人当たりの生徒数を低く抑えるなどの取り組みが、認知症だけでなく、それに関連する他の健康問題の予防になる可能性があることが示唆された」と述べている。 ただしRoberts氏は、「受けた教育の質が低くても、後年の認知症発症リスクを低減させるためにできることはある」と述べ、十分な量の運動、全粒穀物・果物・野菜・ナッツ類の豊富な食事、十分な睡眠、社会的つながりの増加、抑うつ症状の治療などを勧めている。

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週1回の投与で血友病に効果を発揮する新しい血液凝固第VIII因子製剤/サノフィ

 サノフィは2023年3月7日、米国食品医薬品局(FDA)が血液凝固第VIII因子製剤efanesoctocog alfaを承認したと発表した。米国におけるefanesoctocog alfaの適応症は、血友病Aの成人患者と小児患者における定期補充療法、出血管理を目的とする出血時補充療法、ならびに周術期管理。血友病Aに対する第VIII因子製剤の課題 血友病Aは、生涯続く希少疾患であり、血液凝固因子が欠乏する。その結果、血液凝固能の低下による関節での出血によって、関節障害や慢性疼痛が引き起こされ、生活の質(QOL)が低下する恐れがある。 これまで、第VIII因子製剤は何の加工もないと半減期が12時間程度であり、2日に1回の注射でもトラフを1%保つことが困難だった。第VIII因子の半減期はvon Willebrand因子(VWF)の半減期に規定されており、第VIII因子をいくら加工しても半減期の上限があり、既存の半減期延長製剤では半減期は一律1.5倍程度である。 efanesoctocog alfaは、VWFによる半減期の上限を克服するためVWFの一部を第VIII因子に結合させるという発想のもと設計された新たなクラスの第VIII因子製剤である。週1回の投与で1週間の大半にわたり血液凝固因子の活性レベルを正常値もしくは正常値に近い(40%以上)範囲に維持することができ、従来の第VIII因子製剤に比べ有意に優れた出血抑制効果が期待される。efanesoctocog alfaのXTEND-1試験は日本を含む19ヵ国で実施 重症血友病A患者に対するefanesoctocog alfaの有効性、安全性、薬物動態の評価を目的とするXTEND-1試験1)は、第VIII因子補充療法を受けた経験のある12歳以上の重症血友病Aの患者(159例)を対象に、efanesoctocog alfaの週1回投与の安全性、有効性、薬物動態の評価を目的とした第III相非盲検介入試験であり、日本を含む19ヵ国48施設で患者の登録が行われた。 被験者はefanesoctocog alfa(50 IU/kg体重)の週1回静脈内投与による定期補充療法を52週間行うA群(133例)、efanesoctocog alfa(50 IU/kg体重)のオンデマンド療法を26週間施行後に同薬(50 IU/kg体重)の週1回の定期補充療法を26週間行うB群(26例)の2つの群に分けられた。 主要エンドポイントは、A群の平均年間出血回数(annualized bleeding rate:ABR)とされた。主な副次エンドポイントは、A群における定期補充療法中のABRと、試験開始前の第VIII因子製剤による定期補充療法中のABRとの患者内比較であった。 主要評価項目であるA群のABRの平均値は0.70(95%信頼区間[CI]:0.5~1.0)、ABRの中央値は0.0(Q1、Q3:0.0、1.0)であった。また、試験開始前の第VIII因子製剤による定期補充療法との患者内比較ではABRが77%減(95%CI:58~87)と有意な減少を示した。 関節内出血の抑制効果も認められ、出血が繰り返し発生する関節(例:膝、足首、肘)を対象とした評価では、efanesoctocog alfaにより100%の標的関節消失効果が得られた。 安全性プロファイルは許容できるものであった。第VIII因子インヒビターの発現は認められず、比較的高頻度(10%超)で認められた副作用は、頭痛と関節痛であった。efanesoctocog alfaは血友病患者の生活を変える薬剤 efanesoctocog alfaは世界で初めての週1回の投与で出血抑制効果が得られる血液凝固因子製剤である。 efanesoctocog alfaは2022年5月にFDAによって、第VIII因子製剤として初のブレークスルーセラピー(画期的治療薬)に指定されており、2021年にはファストトラック審査の対象であった。EUにおける承認申請は、2023年下半期の予定。日本での承認申請が待たれる。

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複雑な冠動脈病変のPCI、血管内イメージングガイドvs.造影ガイド/NEJM

 複雑な冠動脈病変を有する患者において、血管内超音波(IVUS)または光干渉断層法(OCT)を用いた血管内イメージングガイド下の経皮的冠動脈インターベンション(PCI)は、血管造影ガイド下PCIと比較して、心臓死・標的血管関連心筋梗塞・臨床所見による標的血管血行再建術の複合イベントのリスクを低下させることが示された。韓国・成均館大学校医科大学のJoo Myung Lee氏らが、同国20施設で実施した医師主導の前向き無作為化非盲検試験「Randomized Controlled Trial of Intravascular Imaging Guidance versus Angiography-Guidance on Clinical Outcomes after Complex Percutaneous Coronary Intervention:RENOVATE-COMPLEX-PCI試験」の結果を報告した。複雑病変に対する血管内イメージングガイド下PCI後の臨床転帰に関するデータは、血管造影ガイド下PCIと比較して限られていた。NEJM誌オンライン版2023年3月5日号掲載の報告。1,639例を対象に、心臓死・標的血管関連心筋梗塞・標的血管血行再建の複合を比較 研究グループは、2018年5月~2021年5月の期間に、複雑な冠動脈病変を有しPCIを実施予定の19歳以上の患者1,639例を、血管内イメージング(IVUSまたはOCT)ガイド下PCI群(血管内イメージング群1,092例)または血管造影ガイド下PCI群(造影群547例)に、2対1の割合で無作為に割り付けた。 複雑な冠動脈病変とは、Medina分類による真の分岐部病変(側枝径2.5mm以上)、慢性完全閉塞、非保護の左冠動脈主幹部病変、ステント長が38mm以上となる病変、多枝病変、3本以上のステント留置が要する病変、ステント内再狭窄病変、高度石灰化病変、入口部病変とした。また、血管内イメージング群において、IVUSかOCTかの選択は術者の自由裁量とした。 主要エンドポイントは、心臓死、標的血管に関連する心筋梗塞、臨床所見による標的血管血行再建術の複合とした。安全性も評価した。統計には、intention-to-treat解析が使用された。血管内イメージングガイド下PCIで複合イベントリスクが36%低下 追跡調査期間中央値2.1年(四分位範囲1.4~3.0)において、主要エンドポイントのイベントの発生は、血管内イメージング群76例(累積発生率7.7%)、造影群60例(12.3%)に確認された(ハザード比[HR]:0.64、95%信頼区間[CI]:0.45~0.89、p=0.008)。 心臓死の発生は血管内イメージング群で16例(累積発生率1.7%)、造影群で17例(3.8%)、標的血管に関連する心筋梗塞はそれぞれ38例(3.7%)、30例(5.6%)、標的血管血行再建術は32例(3.4%)、25例(5.5%)であった。 手技に関連する安全性イベントの発生率に両群間で差はなかった。

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医師以外の医療従事者による厳格降圧、地域住民のCVDを低減/Lancet

 高血圧患者における心血管疾患の予防では、医師以外の地域医療従事者による厳格降圧治療は標準降圧治療と比較して、降圧効果が高く、心血管疾患や死亡の抑制に有効であることが、米国・Tulane University School of Public Health and Tropical MedicineのJiang He氏らが実施した「CRHCP試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年3月2日号で報告された。中国の326村落でクラスター無作為化試験 CRHCPは、中国の非盲検エンドポイント盲検化クラスター無作為化試験であり、2018年5月~11月にクラスターとして326の村落が登録された(中国科学技術部などの助成を受けた)。 対象は、年齢40歳以上、未治療の場合は収縮期血圧≧140mmHgまたは拡張期血圧≧90mmHgの患者、心血管疾患のリスクが高い場合や、降圧治療を受けている場合は、収縮期血圧≧130mmHg、拡張期血圧≧80mmHgの患者であった。 326の村落は、非医師の地域医療従事者が厳格降圧治療を行う群(163村落)、または標準降圧治療を行う群(163村落)に無作為に割り付けられた。 厳格降圧群では、訓練を受けた非医師の地域医療従事者が、プライマリケア医の指導の下で、収縮期血圧<130mmHg、拡張期血圧<80mmHgの達成を目標に、簡略な段階的治療プロトコルに従って降圧治療を開始し、薬剤の用量を漸増した。また、降圧薬を割引または無料で提供したり、生活様式の改善や家庭での血圧測定、服薬アドヒアランスなどについて指導を行った。 標準降圧群では、非医師の地域医療従事者は標準的な血圧測定の訓練を受けたが、プロトコルに基づく血圧管理の訓練は受けず、非医師の地域医療従事者またはプライマリケア医が標準治療を行った。 有効性の主要アウトカムは、36ヵ月の時点における心筋梗塞、脳卒中、入院を要する心不全、心血管疾患による死亡の複合とされた。重篤な有害事象は少ないが、低血圧の発生が増加 3万3,995例が登録され、厳格降圧群が1万7,407例、標準降圧群は1万6,588例であった。ベースラインの全体の平均年齢は63.0歳で、61.3%が女性であり、20.9%が自己申告による心血管疾患の既往歴を有しており、57.6%が降圧薬の投与を受けていた。 厳格降圧群では、収縮期血圧がベースラインの平均157.0mmHgから36ヵ月後には126.1mmHgへ低下し、拡張期血圧は87.9mmHgから73.1mmHgへと低下した。また、標準降圧群では、それぞれ155.4mmHgから147.6mmHgへ、87.2mmHgから82.3mmHgへと低下した。 36ヵ月の時点における降圧の正味の群間差は、収縮期血圧が-23.1mmHg(95%信頼区間[CI]:-24.4~-21.9)、拡張期血圧は-9.9mmHg(95%CI:-10.6~-9.3)であり、いずれも厳格降圧群で降圧効果が有意に優れた(いずれも、p<0.0001)。使用された降圧薬の種類の数は、平均で厳格降圧群が3.1種、標準降圧群は1.1種だった。 主要アウトカムの年間発生率は、厳格降圧群が1.62%と、標準降圧群の2.40%に比べて有意に低かった(ハザード比[HR]:0.67、95%CI:0.61~0.73、p<0.0001)。サブグループ解析では、主要アウトカムのリスク低下は年齢や性別、学歴、ベースラインの降圧薬使用の有無、心血管疾患リスクの高さにかかわらず、一貫して厳格降圧群で優れた。 副次アウトカムも厳格降圧群で良好であり、心筋梗塞(厳格降圧群0.2%/年vs.標準降圧群0.3%/年、HR:0.77[95%CI:0.60~0.98]、p=0.037)、脳卒中(1.3% vs.1.9%、0.66[0.60~0.73]、p<0.0001)、心不全(0.1% vs.0.2%、0.58[0.42~0.81]、p=0.0016)、心血管疾患による死亡(0.4% vs.0.6%、0.70[0.58~0.83]、p<0.0001)、全死因死亡(1.4% vs.1.6%、0.85[0.76~0.95]、p=0.0037)の発生率は、いずれも厳格降圧群で低かった。 重篤な有害事象は、厳格降圧群が21.1%、標準降圧群は24.1%で発生した(リスク比:0.88[95%CI:0.84~0.91]、p<0.0001)。低血圧の発生率は、厳格降圧群が標準降圧群に比べて高かった(1.75% vs.0.89%、1.96[1.62~2.39]、p<0.0001)。 著者は、「この医師以外の地域医療従事者の主導による戦略は、中国の農村部などの医療資源が乏しい環境において血圧関連の心血管疾患や全死因死亡を減少させるために、その規模の拡大が可能と考えられる」としている。

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第155回 コロナ罹患後症状をメトホルミンが予防 / コロナで父親の顔がわからなくなった女性

long COVIDを糖尿病治療薬メトホルミンが予防昔ながらの糖尿病治療薬メトホルミンの新型コロナウイルス感染症罹患後症状(long COVID)予防効果が米国の無作為化試験で認められ1)、「画期的(breakthrough)」と評するに値する結果だと有力研究者が称賛しています2)。COVID-OUTと呼ばれる同試験では駆虫薬として知られるイベルメクチンとうつ病治療に使われるフルボキサミンも検討されましたが、どちらもメトホルミンのようなlong COVID予防効果はありませんでした。COVID-OUT試験は2020年の暮れ(12月30日)に始まり、被験者はメトホルミン、イベルメクチン、フルボキサミン、プラセボのいずれかに割り振られました。被験者、医師、その他の試験従事者がその割り振りを知らない盲検状態で実施されました。また、被験者をどこかに出向かせることがなく、試験従事者と直接の接触がない分散化(decentralized)方式の試験でもあります。募ったのは肥満か太り過ぎで年齢が30~85歳、コロナ発症から7日未満、検査でコロナ感染が判明してから3日以内の患者です。箱に入った服用薬一揃いは試験参加決定の当日または翌日に被験者に届けられ、結果的に試験参加同意から最初の服用までは平均して1日とかかりませんでした。メトホルミンの服用日数は14日間で、用量は最初の日は500mg、2~5日目は500mgを1日に2回、6~14日目は朝と晩にそれぞれ500mgと1,000mgです。メトホルミン投与群とプラセボ群合わせて1,125例がlong COVIDの検討に協力することを了承し、1ヵ月に1回連絡を取ってlong COVIDの診断があったかどうかが300日間追跡されました。その結果、およそ12例に1例ほどの8.4%がその診断に至っていました。肝心のメトホルミン投与群のlong COVID発生率はどうかというと約6%であり、プラセボ群の約11%に比べて40%ほど少なく済んでいました。発症からより日が浅いうちからのメトホルミン開始はさらに有効で、発症から4日未満で開始した人のlong COVID発現率は約5%、4日以上経ってから開始した人では約7%でした。上述のとおりイベルメクチンやフルボキサミンのlong COVID予防効果は残念ながら認められませんでした。COVID-OUT試験のlong COVID結果報告はまだプレプリントであり、The Lancet on SSRNに提出されて審査段階にあります。メトホルミンの効果はlong COVIDの枠にとどまらずコロナ感染の重症化予防も担いうることが他でもないCOVID-OUT試験で示されています。その結果はすでに査読が済んで昨夏2022年8月にNEJM誌に掲載されており、第一の目的である低酸素血症、救急科(ED)受診、入院、死亡の予防効果は認められなかったものの、メトホルミン投与群のED受診、入院、死亡は有望なことにプラセボ群より42%少なくて済みました3)。さらに試験を続ける必要はあるものの、値頃で取り立てるほど副作用がないことを踏まえるにメトホルミンが用を成すことは今や確からしいことをCOVID-OUT試験結果は示していると米国屈指の研究所Scripps Research Translational Instituteの所長Eric Topol氏は述べています2)。Topol氏はbreakthroughという表現を安易に使いませんが、安価で安全なメトホルミンのCOVID-OUT試験での目を見張る効果はその表現に見合うものだと讃えています。メトホルミンの効果を重要と考えているのはTopol氏だけでなく、たとえばハーバード大学病院(Brigham and Women's Hospital)の救急科医師Jeremy Faust氏もその1人であり、「コロナ感染が判明したらすぐにメトホルミン服用を開始する必要があるかと肥満か太り過ぎの患者に尋ねられたら、COVID-OUT試験結果を根拠にして “必要がある”と少なくとも大抵は答える」と自身の情報配信に記しています4)。コロナ感染で顔がわからなくなってしまうことがあるコロナ感染で匂いや味がわからなくなることがあるのはよく知られていますが、顔が区別できなくなる相貌失認(prosopagnosia)が生じることもあるようです。神経系や振る舞いの研究結果を掲載している医学誌Cortexに相貌失認になってしまった28歳のコロナ感染女性Annie氏の様子や検査結果などをまとめた報告が掲載されました5,6)。Annie氏は2020年3月にコロナ感染し、その翌月4月中ごろまでには在宅で働けるほどに回復しました。コロナ感染してから最初に家族と過ごした同年6月に彼女は父親が誰かわからず、見た目で叔父と区別することができませんでした。そのときの様子をAnnie氏は「誰か知らない顔の人から父親の声がした(My dad's voice came out of a stranger's face)」と説明しています。相貌失認に加えて行きつけのスーパーまでの道で迷うことや駐車場で自分の車の場所が分からなくなるという方向音痴のような位置把握障害(navigational impairment)もAnnie氏に生じました。また、long COVIDの主症状として知られる疲労や集中困難などにも見舞われました。Annie氏のような症状はどうやら珍しくないようで、long COVID患者54例に当たってみたところ多くが視覚認識や位置把握の衰えを申告しました。脳損傷後に認められる障害に似た神経精神の不調がコロナ感染で生じうるようだと著者は言っています。参考1)Outpatient Treatment of COVID-19 and the Development of Long COVID Over 10 Months: A Multi-Center, Quadruple-Blind, Parallel Group Randomized Phase 3 Trial. The Lancet on SSRN :Received 6 Mar 2023.2)'Breakthrough' Study: Diabetes Drug Helps Prevent Long COVID / WebMD3)Carolyn T, et al. N Engl J Med. 2022;387:599-610.4)Metformin found to reduce Long Covid in clinical trial. Jeremy Faust氏の配信5)Kieseler ML, et al. Cortex. 9 March 2023. [Epub ahead of print]6)Study Says Long COVID May Cause Face Blindness / MedScape

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医師への問い合わせメールはいずれ有料になる?

 電子メール(以下、メール)はその手軽さから、医師と患者間の重要なコミュニケーションの一形態となり、医師の元には毎日、患者から大量のメッセージが届く。こうした状況を受け、米国の一部の病院や医療システムが、患者からのメールへの対応に要する医師の仕事の内容や量に応じて、料金を請求し始めている。 ただし現状では、このような制度を採用している医療機関はごく一部であり、また、請求が発生する医師の返信メールもわずかな割合を占めるに過ぎない。しかし、一部の患者支援者からは、このような請求が、医療へのアクセス拡大のための選択肢の制限につながりかねないとの懸念が示されている。そのような患者支援者の一人である、米Patient Advocate Foundation(患者支援基金)のCaitlin Donovan氏は、「少額の費用負担でも、患者のサービスの利用減少につながることはすでに明らかになっている」と話す。 そうした中、Donovan氏の懸念が事実に基づいたものであることを示唆する研究結果が、米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)臨床情報学・改善研究センターのA. Jay Holmgren氏らにより、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に1月6日掲載された。UCSFヘルスにおいて、医師からの返信メールの一部に対して料金を請求する制度を導入した直後に、患者からのメールの件数が、前週の平均(約5万6,600件)から4,600件程度減少したことが明らかになったという。 Holmgren氏は、「われわれは、UCSFヘルスのウェブサイトや患者ポータルに、参考情報として、医師へのメールの内容が臨床的質問の要件を満たす場合には、料金の請求が発生し得ることを掲載し始めた。その後、患者から送られてくるメールは、わずかながらも統計学的に有意に減少した」と話す。 Holmgren氏によると、米国では1950年代の健康保険の普及に伴い、医療機関を30分程度訪れて医師の診察を受け、それに対して支払いをするという医療提供体制が整えられた。しかし、技術が進歩し、医師が患者からのメールを時間とは無関係に受け取るようになった今日では、受診ごとに支払いをするという仕組みは過去のものになったと同氏は指摘する。そして、「1950年代に作られた医療システムに、患者からのメールをどうやって押し込めようというのか」と疑問を投げかける。 実は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック発生前の段階では、医師たちは、Holmgren氏が「非同期的な遠隔医療」と呼ぶ、メールを介した医師と患者のコミュニケーションの取り方に希望を見出していた。実際に2020年以前の関連文献は、ほぼ全てが患者ポータルや非同期的なメッセージシステムを利用する患者の数をいかにして増やすかなどに関する内容だったという。 しかし、パンデミックに伴うロックダウンによりこのような状況は一変し、患者からの医師へのメールはパンデミック前の平均の157%に跳ね上がった。Holmgren氏は、「急増するメールへの返信が、医師の就業外の時間の大部分を侵食し始めていた」と指摘する。UCSFヘルスが医師の時間と注意を要するメールに対して料金を請求し始めたのは、こうした医師の状況に鑑みてのことだった。 では、どのようなメールが料金請求の対象となるのか。UCSFヘルスと同様に、メールに対する請求システムを導入している米クリーブランドクリニックでは、処方薬の変更、新たに出現した症状、慢性疾患に生じた変化、慢性疾患に対するケアの精査、医療関係の書類への記入に関わる内容のメールには料金が発生する。一方で、予約取りや薬の再処方、過去7日以内の診療内容に関する質問などの内容は、請求の対象にならない。同クリニック食物アレルギーセンターのSandra Hong氏は、「料金が発生するのは、医療に関わる意思決定が必要な場合と、資格のある医師がケアを行う場合のみだ」と強調する。 Holmgren氏とHong氏は、今後も、それぞれの医療システムにおいて医師と患者間のメールの送受信の傾向を追跡し続け、発生し得る潜在的な格差について検討していく予定だとしている。

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中年期から心臓の健康に気を付けると脳の健康も維持される―AHAニュース

 心臓の健康状態が良好であることは脳の健康にとっても重要であり、脳血管疾患や認知症のリスクの抑制につながることが明らかになっている。では、そのような違いを生み出すための行動を、人生の中盤以降に始めたのでは遅すぎるのだろうか? 新たに報告された研究によると、その疑問の答えは「NO」のようだ。 米国脳卒中協会(ASA)主催の国際脳卒中学会(ISC2023、2月8~10日、ダラス)で報告されたこの研究により、心臓の健康状態を改善するための中年期以降の行動が、約20年後の脳血管疾患や認知症のリスクの低さと関連のあることが分かった。発表者である米ミネソタ大学のSanaz Sedaghat氏は、「わずかな改善であっても将来的に効果が現れる可能性がある」と述べている。なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものとみなされる。 心血管疾患のリスク因子(肥満や過体重、運動不足、高血圧など)が、脳血管疾患や認知症のリスク因子でもあることが、多くの研究から示されている。しかし、中年期以降にそれらのリスク因子の改善や悪化が見られた場合に、その後の加齢に伴う脳血管疾患や認知症のリスクがどのように変化するのかという点は、ほとんど明らかになっていない。 今回報告された研究は、一般住民のアテローム性動脈硬化リスク因子に関する大規模疫学研究「ARICスタディ」のデータを解析したもの。ARICスタディの参加者1,638人の中年期の2時点(平均年齢53歳と59歳)のデータ、および高齢期の1時点(同76歳)のデータが解析に用いられた。研究参加者はこの3時点に、米国心臓協会(AHA)が提唱していた、心臓と脳の健康を守るための7種類の行動「Life's Simple 7」の順守状況が評価された。なお、Life's Simple 7には、食事、身体活動、体重、喫煙、コレステロール、血圧、血糖に関連する因子が行動目標として掲げられていたが、AHAは2022年、新たに「睡眠」を留意すべき事柄として追加し、現在は「Life's Essential 8」として提唱している。 研究参加者は、Life's Simple 7の順守状況を項目ごとに0~2点の間で判定された。また、高齢期の追跡調査では、画像検査による脳の白質高信号域と微小出血・梗塞、および細胞死を含む脳血管疾患のリスクマーカーが評価された。これらの検査により、脳血管疾患や認知症のリスクの程度を把握できる。その結果、中年期と高齢期にLife's Simple 7の健康スコアがともに高かった人や、中年期以降に健康スコアが上昇した人は、脳血管疾患や認知症のリスクが低いことが分かった。健康スコアが1点上昇するごとに、リスクは約7%低下していた。「私にとって興味深いことは、健康スコアがわずか1点異なるだけでリスクに大きな違いが生じることだ」とSedaghat氏は語っている。 この研究では、Life's Simple 7を構成している個々のスコアの変化が、脳の健康にどのような影響を与えるかという視点での解析はされていない。一方、健康スコアの変化と、脳血管疾患のタイプ別のリスクとの関連が検討された。Sedaghat氏によると、「例えば、中年期から高齢期にかけて、健康スコアが理想的なレベルに維持されていた人は、スコアが低下した人に比べて、脳微小出血のリスクは33%、脳梗塞のリスクは37%低いことが示された」という。 本研究には関与していないウエスタン大学(カナダ)のVladimir Hachinski氏は、「この研究結果は、心血管の健康状態を改善する行動を取ることで、脳のダメージも防ぐことができることを示している。この研究の次のステップは、脳の健康に最も寄与していたのが、どの心血管リスク因子の管理なのかを明らかにすることだ」としている。また同氏は、「心血管疾患専門医と脳血管疾患専門医の互いの協力が必要であることを示すエビデンスが増えている。心臓病と脳血管疾患、認知症が、全て同じリスク因子によって発症する一連の疾患であるのなら、それらを包括的に予防することが理にかなっている」と付け加えている。[2023年2月7日/American Heart Association] Copyright is owned or held by the American Heart Association, Inc., and all rights are reserved. If you have questions or comments about this story, please email editor@heart.org.利用規定はこちら

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ペニシリンアレルギー陰性の結果は薬局にきちんと伝わっていない可能性

 ペニシリンアレルギーがあると考えられていた患者が、検査で実際にはアレルギーはないと判定された場合、ペニシリンアレルギーに関する警告は診療記録や薬局の登録情報から削除されるはずである。しかし、そのようなラベルが常に外されているわけではないことが、新たな研究で明らかにされた。NYUランゴン・ロングアイランド病院のAlthea Marie Diaz氏らによるこの研究結果は、米国アレルギー・喘息・免疫学会(AAAAI 2023、2月24〜27日、米サンアントニオ)で発表され、要旨は、「The Journal of Allergy and Clinical Immunology」2月号(増刊号)に掲載された。 Diaz氏は、「ペニシリンアレルギーのラベルは医療費の増加や有害事象と関連している。ペニシリンアレルギーがあるとラベル表示されている患者であっても、多くの場合、ペニシリンを服用しても問題は生じない。しかし、たとえアレルギー検査で陰性が確認された後でも、そのラベルが残ったままになっている例をわれわれは目にしている」と話す。 この現状を調査するために、Diaz氏らはNYUランゴン・ロングアイランド病院で2019年5月から2022年5月の間に皮膚検査と経口負荷テストで陰性と判定され、電子医療記録(EMR)からペニシリンアレルギーのラベルを外された11歳以上の患者を対象に、後ろ向き研究を実施した。患者には、検査結果の記されたカードが付与されていた。また、検査結果を伝える書状が、患者のプライマリケア医と患者が利用している薬局宛に送付されていた。研究グループは、EMRを再調査するとともに、患者と薬局に対してペニシリンアレルギーの状況や抗菌薬の処方内容に関する電話調査を行った。 EMRからペニシリンアレルギーのラベルを外された患者として78人が特定され、その99%は再調査時にもラベルが外されたままであった。しかし、薬局の登録情報では、24人(31%)がペニシリンアレルギーのある患者として登録されたままであった。 78人のうち、68人が電話での調査に応じた(その他は、9人が追跡不可、1人が死亡)。調査では、ペニシリンアレルギーの検査で陰性だったことを思い出した人が66人(97%)に上った。このうちの30人(44%)は陰性の結果後に、ペニシリンを服用したことを報告したが、31人(46%)はペニシリンを処方されないままであること、4人(6%)はペニシリンを回避していることを報告した。また、残る3人は使用した抗菌薬が不明であった。 Diaz氏は、「ペニシリンアレルギーのラベルを外すことに関して、これまでに大きな進歩を遂げてきたが、まだまだ改善の余地が多く残されている。われわれは、ペニシリンを服用しても安全な患者に貼られたペニシリンアレルギーのラベルが完全に外されないのはなぜなのか、その妨げとなっているものについて今後も調査を進め、それに対処するための戦略を練る必要がある」とAAAAIのニュースリリースで語っている。

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IL-13を特異的に中和するアトピー性皮膚炎治療薬「アドトラーザ皮下注」【下平博士のDIノート】第117回

IL-13を特異的に中和するアトピー性皮膚炎治療薬「アドトラーザ皮下注」今回は、アトピー性皮膚炎治療薬「トラロキヌマブ(遺伝子組換え)製剤(商品名:アドトラーザ皮下注150mgシリンジ、製造販売元:レオファーマ)」を紹介します。本剤は、アトピー性皮膚炎の増悪に関与するIL-13を特異的に中和するモノクローナル抗体であり、中等症~重症のアトピー性皮膚炎患者の新たな治療選択肢となることが期待されています。<効能・効果>既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎の適応で、2022年12月23日に製造販売承認を取得しました。本剤は、ステロイド外用薬やタクロリムス外用薬などの抗炎症外用薬による適切な治療を一定期間受けても十分な効果が得られず、強い炎症を伴う皮疹が広範囲に及ぶ患者に使用します。<用法・用量>通常、成人にはトラロキヌマブ(遺伝子組換え)として初回に600mgを皮下投与し、その後は1回300mgを2週間隔で皮下投与します。本剤による治療反応は、通常使い始めてから16週までには効果が得られるため、16週までに効果が得られない場合は投与の中止を検討します。<安全性>全身療法が適用となる中等症~重症のアトピー性皮膚炎患者を対象とした臨床試験において、5%以上の頻度で認められた副作用は、上気道感染(上咽頭炎、咽頭炎を含む)、結膜炎、注射部位反応(紅斑、疼痛、腫脹など)でした。重大な副作用として、重篤な過敏症(頻度不明)が設定されています。<患者さんへの指導例>1.アトピー性皮膚炎の増悪に関与し、過剰に発現しているインターロイキン-13(IL-13)を特異的に中和するモノクローナル抗体です。2.この薬を投与中も、症状に応じて保湿外用薬などを併用する必要があります。3.寒気、ふらつき、汗をかく、発熱、意識の低下などが生じた場合は、すぐに連絡してください。<Shimo's eyes>本剤は、末梢での炎症を誘導する2型サイトカインであるIL-13を選択的に阻害することで、中等症~重症のアトピー性皮膚炎(AD)に効果を発揮する生物学的製剤です。IL-13は皮膚の炎症反応の増幅、皮膚バリアの破壊、病原体の持続性増強、痒みシグナルの伝達増強などに作用し、IL-13の発現量とADの重症度が相関するとされています。そのため、IL-13を阻害することによって、皮膚のバリア機能を回復させ、炎症や痒み、皮膚肥厚を軽減することが期待されています。現在、ADの薬物療法としては、ステロイド外用薬およびタクロリムス外用薬(商品名:プロトピックほか)が中心的な治療薬として位置付けられています。近年では、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害作用を有するデルゴシチニブ外用薬(同:コレクチム)、ホスホジエステラーゼ(PDE)4阻害作用を有するジファミラスト外用薬(同:モイゼルト)も発売されました。さらに、これらの外用薬でも効果不十分な場合には、ヒト型抗ヒトIL-4/IL-13受容体モノクローナル抗体のデュピルマブ皮下注(遺伝子組換え)(同:デュピクセント)、ヒト化抗ヒトIL-31受容体Aモノクローナル抗体のネモリズマブ皮下注(遺伝子組換え)(同:ミチーガ)、JAK阻害薬のバリシチニブ錠(同:オルミエント)などが発売され、治療選択肢が広がっています。本剤は、医療施設において皮下に注射され、原則として本剤投与時もADの病変部位の状態に応じて抗炎症外用薬を併用します。IL-13を阻害することにより2型免疫応答を減弱させ、寄生虫感染に対する生体防御機能を減弱させる恐れがあるため、本剤を投与する前に寄生虫感染の治療を行います。また、本剤投与中の生ワクチンの接種は、安全性が確認されていないため避けます。臨床効果としては、16週目にEASI75(eczema area and severity index[皮膚炎の重症度指標]が75%改善)を達成した割合は、ステロイド外用薬+プラセボ群では35.7%でしたが、ステロイド外用薬+本剤併用群では56.0%でした。また、32週目のEASI-75達成率は92.5%でした。16週時までのステロイド外用薬の累積使用量はステロイド外用薬+プラセボ群では193.5gでしたが、ステロイド外用薬+本剤併用群では134.9gでした。初期投与期間での主な有害事象はウィルス性上気道感染、結膜炎、頭痛などですが、アナフィラキシーなど重篤な過敏症の可能性があるので十分注意する必要があります。投与は大腿部や腹部、上腕部に行い、腹部へ投与する場合はへその周りを外し、同一箇所へ繰り返しの注射は避けます。遮光のため本剤は外箱に入れたまま、30℃を超えない場所で保存し、14日間以内に使用します。使用しなかった場合は廃棄します。本剤は、海外ではEU諸国、イギリス、カナダ、アラブ首長国連邦、アメリカ、スイスで承認を取得しており、中等度~重度のAD療薬として使用されています(2022年8月現在)。参考1)Silverberg JI. et al. Br J Dermatol. 2021;184:450-463.2)レオファーマ社内資料:アトピー性皮膚炎患者を対象とした国際共同第III相TCS併用投与試験(ECZTRA3試験)

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循環器の世界的な権威に推薦状を書いてもらうまで【臨床留学通信 from NY】第45回

第45回:循環器の世界的な権威に推薦状を書いてもらうまで前回まではマサチューセッツ総合病院(MGH)の面接から、そこのポジションをゲットするに至るまでをご説明いたしました。今回はそのなかでも重要な推薦状についてご説明いたします。推薦状は、多くのレジデントまたはフェローの出願で必要になるのが4通。現在の施設のボス(レジデント、フェローであればプログラムディレクターと呼ばれる人)から1通、臨床的なレターを2通、研究のレターを1通、というのが一般的です。とくに私のように米国経験がない状態でレジデントに入る際は、レターをもらうのが大変です。海軍病院など含めた米国経験がないと、月単位で米国での病院実習をしてレターをもらうのが通例です。しかし、私はそのような時間があまり取れなかったので、東京海上日動メディカルサービス主催のNプログラムのような仕組みは合理的でした。いざ米国に来れば、いろいろなレターをもらう機会があります。私の場合は日本の専門医等の臨床的な能力にアドバンテージがあるため、今回はまずプログラムディレクターに臨床的なレターを書いてもらいました。プログラムディレクター以外には、カテ室のトップの先生から、日本での経験を鑑みてカテーテルの経験に問題がないことを示してもらい、あと2通は、研究レターを2人の大御所から書いてもらうことにしました。1人は世界的に有名な循環器内科医のGregg Stones先生で、先日のACC(American College of Cardiology)でCOAPT trial(機能性MR[僧帽弁閉鎖不全症]に対するMitraClipの有効性を調べた論文)の筆頭著者です1)。ひょんなことから渡米直後より面倒を見ていただき、EXCEL trialという左主幹部病変に対する経皮的冠動脈インターベンション(PCI)vs.冠動脈バイパス術(CABG)のサブ解析でご指導もいただきました2,3)。現時点でも数個のプロジェクトのご指導をいただいています。もう1人は同じく世界的に有名な循環器内科医のDeepak Bhatt先生で、Roxana Mehran先生の研究室にいた時に書いた論文4)の共著者で、2年半前の循環器フェローの面接の時期に親身になって相談に乗っていただきました。そしてCirculation誌の姉妹誌に1件の論文が掲載されたこともあり5)、推薦状を書いていただきました。現在この方はMount Sinaiにいるのですが、それまではBrigham and Women’s Hospitalに在籍されていたため、MGHの方々にコネクションがあり、採用に至ったのだと思います。このようなResearch Giantとの研究はもちろん、繋がりを今後も大切にして米国での展開をしていきたいと思います。Column画像を拡大する2023 ACC/WCC @ニューオーリンズの写真です。Moderated Posterで発表した演題は先ほどのDeepak Bhatt先生に共著者に入っていただき、JACC Advances誌に同時発表となりました6)。ニューヨークからの便が5時間遅れて、あやうく空港泊かと思いましたが、なんとかニューオーリンズに着いての発表でした。参考1)Stone GW, et al. N Engl J Med. 2023 Mar 5. [Epub ahead of print]2)Stone GW, et al. N Engl J Med. 2019;381:1820-1830.3)Kuno T, et al. J Invasive Cardiol. 2021;33:E619-E627.4)Kuno T, et al. J Thromb Thrombolysis. 2021;52:419-428.5)Kuno T, et al. Circ Cardiovasc Interv. 2022;15:e011990.6)Kuno T, et al. JACC Adv. 2023 Mar 13. [Epub ahead of print]

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英語で「声が途切れ途切れです」は?【1分★医療英語】第72回

第72回 英語で「声が途切れ途切れです」は?Your voice is breaking up.(あなたの声が途切れ途切れです)Sorry. Let me fix my microphone.(ごめんね。マイクを直させて)《例文1》You are breaking up a bit.(あなたの音声がちょっと途切れ途切れです)《例文2》Your voice is breaking up a lot and I can’t hear you well.(あなたの声がかなり途切れ途切れで、よく聞こえません)《解説》“break up”は恋愛のシーンで恋人同士が別れてしまったときに使うフレーズとして記憶している人も多いかもしれません。その場合には、“We recently broke up.”(私たちは最近別れてしまった)なんていうふうに用いられます。しかし、ここではそういう意味ではなく、「音声が途切れ途切れである」ことを示すために用いられています。新型コロナのパンデミック以降、リモート会議が増えた人も多いでしょう。そんな折に、電波が悪くて相手の声が聞き取りにくい、なんていうシーンにも頻繁に遭遇します。そんなときによく用いる表現がこの“Your voice is breaking up.”です。このように表現することで、相手の音声が割れてしまっていることを伝えることができます。また、単に“You are breaking up.”と言うだけでも同じ意味で用いることができます。加えて、その後に“a lot”や“a bit”などを付けることにより、「ひどく」「ちょっと」というような音声の途切れ方の程度を示すこともできます。これらの表現は、リモート会議だけでなく、電話中などにも使うことができ、比較的登場頻度の高い表現です。これがうまく伝えられないと、話し相手はどんどん話を続けてしまい、コミュニケーションエラーのもとになります。“break up”、ぜひマスターしてくださいね。講師紹介

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