サイト内検索|page:40

検索結果 合計:4321件 表示位置:781 - 800

781.

etrasimod、中等~重症の活動期UCの導入・維持療法に有効/Lancet

 開発中のetrasimodは、中等症~重症の活動期潰瘍性大腸炎(UC)の導入および維持療法として有効であり、忍容性も良好であることが示された。米国・カリフォルニア大学サンディエゴ校のWilliam J. Sandborn氏らが、2つの第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験の結果を報告した。etrasimodは、1日1回経口投与のスフィンゴシン1-リン酸(S1P)受容体モジュレーターであり、S1P受容体サブタイプの1、4および5を選択的に活性化し(2、3は活性化しない)、UCを含む免疫系疾患の治療のために開発が進められている。今回の結果を踏まえて著者は、「etrasimodは独自の組み合わせでUC患者のアンメットニーズに応える治療オプションとなる可能性がある」と述べている。Lancet誌オンライン版2023年3月2日号掲載の報告。2つの試験で導入療法と維持療法としての有効性・安全性を評価 2つの第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験「ELEVATE UC 52試験」と「ELEVATE UC 12試験」は独立して行われた。 被験者は、中等症~重症の活動期UCで、1つ以上の承認されたUC治療効果が不十分または減弱が認められる、もしくは不耐の成人患者であり、無作為に2対1の割合で、etrasimodを1日1回2mgまたはプラセボを経口投与する群に割り付けられた。ELEVATE UC 52試験の患者は40ヵ国315施設から、ELEVATE UC 12試験の患者は37ヵ国407施設から登録された。無作為化では、生物学的製剤またはJAK阻害薬の既治療有無、ベースラインでのコルチコステロイド使用有無、およびベースラインの疾患活動性(修正Mayoスコア[MMS]4~6 vs.7~9)で層別化が行われた。 ELEVATE UC 52試験は、12週の導入療法期間+40週の維持療法期間からなる治療を完了するデザインで構成された。ELEVATE UC 12試験では、12週時に独自に導入療法を評価した。 主要な有効性エンドポイントは、ELEVATE UC 52試験では12週時と52週時に、ELEVATE UC 12試験では12週時に、臨床的寛解を示した患者の割合であった。安全性は両試験で評価された。臨床的寛解を達成した患者の割合はetrasimod群で有意に高率 ELEVATE UC 52試験の患者は2019年6月13日~2021年1月28日に登録され、ELEVATE UC 12試験の患者は2020年9月15日~2021年8月12日に登録された。それぞれ821例、606例の患者がスクリーニングを受け、433例、354例の患者が無作為化を受けた。 ELEVATE UC 52試験の完全解析セットでは、etrasimod群に289例、プラセボ群に144例が割り付けられ、ELEVATE UC 12試験の同セットでは、238例、116例が割り付けられた。 ELEVATE UC 52試験で、臨床的寛解を達成した患者の割合は、12週の導入期間終了時(74/274例[27%]vs.10/135例[7%]、p<0.0001)、および52週時(88/274例[32%]vs.9/135例[7%]、p<0.0001)のいずれにおいても、プラセボ群と比較してetrasimod群で有意に高かった。 ELEVATE UC 12試験で、12週の導入期間終了時に臨床的寛解を達成した患者は、プラセボ群17/112例(15%)に対して、etrasimod群は55/222例(25%)であった(p=0.026)。 有害事象は、ELEVATE UC 52試験ではetrasimod群206/289例(71%)、プラセボ群81/144例(56%)、ELEVATE UC 12試験ではetrasimod群112/238例(47%)、プラセボ群54/116例(47%)で報告された。死亡や悪性腫瘍の報告例はなかった。

782.

DOAC時代のVTE診療の国内大規模研究、再発リスクの層別化評価と出血リスク評価の重要性が明らかに/日本循環器学会

 日本では過去に静脈血栓塞栓症 (肺塞栓症および深部静脈血栓症、以下VTE)の患者を対象とした多施設共同の大規模観察研究:COMMAND VTE Registry(期間:2010年1月~2014年8月、対象:3,024例)が報告されていた。しかしながら、同研究はワルファリン時代のデータベースであり、抗凝固薬の88%がワルファリンであった。現在はVTE患者の治療には直接経口抗凝固薬(DOAC)が広く普及しており、そこでDOAC時代における日本のVTE診療の実態を明らかにすることを目的としたCOMMAND VTE Registry-2が実施され、3月10~12日に開催された第87回日本循環器学会学術集会の「Late Breaking Cohort Studies Session」にて、同研究班の金田 和久氏(京都大学大学院医学研究科 循環器内科学)が、その主解析の結果を報告した。DOAC時代のVTE患者を対象とした大規模な観察研究 COMMAND VTE Registry-2は、日本の31施設において2015年1月~2020年8月の期間に、急性の症候性の肺塞栓症および深部静脈血栓症と診断された患者5,197例を登録した多施設共同の観察研究である。本研究の特徴は、1)DOAC時代に特化したデータベースであること、2)世界的にみてもDOAC時代を対象とした最大規模のリアルワールドデータであること、3)詳細な情報収集かつ長期的なフォローアップが実施されたレジストリであることだ。 日本循環器学会が発行するガイドライン最新版1)では、VTE再発リスクを3つのグループに分類し検討されていたが、近年は国際血栓止血学(ISTH)よりさらなる詳細なリスク層別化が推奨され、世界中の多くの最新のVTEガイドラインでは、VTE再発リスクに応じて5つのグループに分類している(メジャーな一過性リスク群[大手術や長期臥床、帝王切開など]、マイナーな一過性リスク群[旅などで長時間姿勢保持、小手術、ホルモン療法、妊娠など]、VTE発症の誘因のない群、がん以外の持続的なリスク因子を有する群[自己免疫性疾患など]、活動性のがんを有する群)。 今回の主解析では、ISTHで推奨されている詳細な5つのグループに分類し、患者背景、治療の詳細、および予後が評価された。 DOAC時代における日本のVTE診療の実態を明らかにすることを目的としたCOMMAND VTE Registry-2の主な結果は以下のとおり。・全対象者は5,197例で、平均年齢は67.7歳、女性は3,063例(59.0%)、平均体重は58.9kgだった。・PE(肺塞栓症)の症例は、2,787例(54.0%)で、DVTのみの症例は2,420例(46.0%)であった。・初期治療において経口抗凝固薬が使用されたのは4,790例(92.0%)で、そのうちDOACが処方されたのは4,128例(79%)だった。DOACの処方状況は、エドキサバン2,004例(49%)、リバーロキサバン1,206例(29%)、アピキサバン912例(22%)、ダビガトラン6例(0.2%)であった。・治療開始1年間の投与中止率は、グループ間で大きく異なっていた(メジャーな一過性リスク群:57.2%、マイナーな一過性リスク群:46.3%、VTE発症の誘因のない群:29.1%、がん以外の持続的なリスク因子を有する群:32.0%、活動性のがんを有する群:45.6%、p<0.001)。・メジャーな一過性リスク群(n=475[9%])はVTE再発リスクの5年間の累積発生率が最も低かった(2.6%、p<0.001)。・マイナーな一過性リスク群(n=788[15%])では、メジャーな一過性リスク群と比較するとVTE再発リスクの5年間の累積発生率が比較的高かった(6.4%、p<0.001)。・VTE発症の誘因のない群(n=1,913[37%])では長期にわたり再発リスクがかなり高かった(5年時点にて11.0%、p<0.001)。・活動性のがんを有する群(n=1,507、29%)では再発リスクが高く(5年時点にて10.1%、p<0.001)、また、大出血の5年間の累積発生率は最も高く(20.4%、p<0.001)、抗凝固療法の中止率も高かった。 発表者の金田氏は「欧米の最新のVTEガイドラインでもマイナーな一過性リスク群に対する抗凝固療法の投与期間は、短期vs.長期で相反する推奨の記載があるが、今回の結果を見る限り、日本人でも出血リスクの低い患者においては長期的な抗凝固療法を継続するベネフィットがあるのかもしれない。欧米のVTEガイドラインでは、VTE発症の誘因のない群では、半永久的な抗凝固療法の継続を推奨しているが、日本人でも同患者群での長期的な高い再発リスクを考えると、出血リスクがない限りは長期的な抗凝固療法の継続が妥当なのかもしれない。活動性がんを有する患者では、日本循環器学会のガイドラインでもより長期の抗凝固療法の継続が推奨されているが、DOAC時代となっても出血イベントなどのためにやむなく中止されている事が多く、DOAC時代となっても今後解決すべきアンメットニーズであると考えられる」と述べた。 最後に同氏は「今回、日本全国の多くの共同研究者のご尽力により実施されたDOAC時代のVTE患者の大規模な観察研究により、日本においても最新のISTHの推奨に基づいた詳細な再発リスクの層別化が抗凝固療法の管理戦略に役立つ可能性があり、一方で、より長期の抗凝固療法の継続が推奨されるようになったDOAC時代においては、その出血リスクの評価が益々重要になっていることが明らかになった」と話し、「本レジストリは非常に詳細な情報収集を行っており、今後、さまざまなテーマでのサブ解析の検討を行い共同研究者の先生方とともに情報発信を行っていきたい」と結論付けた。 なお、本学術集会ではCOMMAND VTE Registry-2からサブ解析を含めて総数20演題の結果が報告された。(下記、一部を列記)―――Actual Management of Venous Thromboembolism Complicated by Antiphospholipid AntibodySyndrome in Japan. From the COMMAND VTE Registry-2久野 貴弘氏(群馬大学医学部附属病院 循環器内科)Risk Factors of Bleeding during Anticoagulation Therapy for Cancer-associated Venous Thromboembolism in the DOAC Era: From the COMMAND VTE Registry-2平森 誠一氏(長野県厚生連篠ノ井総合病院 循環器科)Chronic Thromboembolic Pulmonary Hypertension after Acute Pulmonary Embolism in the Era of Direct Oral Anticoagulants: From the COMMAND VTE Registry-2池田 長生氏(東邦大学医療センター大橋病院 循環器内科)Clinical Characteristics and Outcome of Critical Acute Pulmonary Embolism Requiring Extracorporeal Membrane Oxygenation: From the COMMAND VTE Registry-2高林 健介氏(枚方公済病院 循環器内科)Clinical Characteristics, Anticoagulation Strategies and Outcomes Comparing Patients with and without History of Venous Thromboembolism: From the COMMAND VTE Registry-2土井 康佑氏(京都医療センター 循環器内科)Risk Factor for Major Bleeding during Direct Oral Anticoagulant Therapy in Patients with Venous Thromboembolism: From the COMMAND VTE Registry-2上野 裕貴氏(長崎大学循環病態制御内科学)Utility and Application of Simplified PESI Score for Identification of Low-risk Patients withPulmonary Embolism in the Era of DOAC西川 隆介氏(京都大学医学研究科 循環器内科学)Management Strategies and Outcomes of Cancer-Associated Venous Thromboembolism in the Era of Direct Oral Anticoagulants: From the COMMAND VTE Registry-2茶谷 龍己氏(倉敷中央病院 循環器内科)Clinical Characteristics and Outcomes in Patients with Cancer-Associated Venous Thromboembolism According to Cancer Sites: From the COMMAND VTE Registry-2坂本 二郎氏(天理よろづ相談所病院 循環器内科)Direct Oral Anticoagulants-Associated Bleeding Complications in Patients with Gastrointestinal Cancer and Venous Thromboembolism: From the COMMAND VTE Registry-2西本 裕二氏(大阪急性期・総合医療センター 心臓内科)Influence of Fragility on Clinical Outcomes in Patients with Venous Thromboembolism and Direct Oral Anticoagulant: From the COMMAND VTE Registry-2荻原 義人氏(三重大学 循環器内科学)Comparison of Clinical Characteristics and Outcomes of Venous Thromboembolism(VTE)between Young and Elder Patients: From the COMMAND VTE Registry-2森 健太氏(神戸大学医学部附属病院 総合内科)Off-Label Under- and Overdosing of Direct Oral Anticoagulants in Patients with VenousThromboembolism: From the COMMAND VTE Registry-2辻 修平氏(日本赤十字社和歌山医療センター 循環器内科)The Association between Statin Use and Recurrent Venous Thromboembolism: From theCOMMAND VTE Registry-2馬渕 博氏(湖東記念病院 循環器科)Clinical Characteristics and Outcomes of Venous Thromboembolism Comparing Patients with and without Initial Intensive High-dose Anticoagulation by Rivaroxaban and Apixaban大井 磨紀氏(大津赤十字病院 循環器内科)Initial Anticoagulation Strategy in Pulmonary Embolism Patients with Right Ventricular Dysfunction and Elevated Troponin Levels: From the COMMAND VTE Registry-2滋野 稜氏(神戸市立医療センター中央市民病院 循環器内科)Current Use of Inferior Vena Cava Filters in Japan in the Era of DOACs from the COMMAND VTE Registry-2高瀬 徹氏(近畿大学 循環器内科学)Patient Characteristics and Clinical Outcomes among Direct Oral Anticoagulants for Cancer Associated Venous Thromboembolism: From the COMMAND VTE Registry-2末田 大輔氏(熊本大学大学院生命科学研究部 循環器内科)―――

783.

抗精神病薬とプロラクチンレベル上昇が骨折リスクに及ぼす影響

 抗精神病薬による治療が必要な患者は、骨粗鬆症関連の脆弱性骨折を含む骨折リスクが高いといわれている。これには、人口統計学的、疾患関連、治療関連の因子が関連していると考えられる。インド・National Institute of Mental Health and NeurosciencesのChittaranjan Andrade氏は、抗精神病薬治療と骨折リスクとの関連を調査し、プロラクチンレベルが骨折リスクに及ぼす影響について、検討を行った。The Journal of Clinical Psychiatry誌2023年1月30日号掲載の報告。 主な結果は以下のとおり。・たとえば、認知症患者では、認知機能低下や精神運動興奮により転倒リスクが高く、統合失調症患者では、身体的に落ち着きがない、身体攻撃に関連する外傷リスクが高く、抗精神病薬服用患者では鎮静、精神運動興奮、動作緩慢、起立性低血圧に関連する転倒リスクが高くなる。・抗精神病薬は、長期にわたる高プロラクチン血症により生じる骨粗鬆症に関連する骨折リスクを高める可能性がある。・高齢者中心で実施された36件の観察研究のメタ解析では、抗精神病薬の使用が大腿骨近位部骨折リスクおよび骨折リスクの増加と関連していることが示唆された。この結果は、ほぼすべてのサブグループ解析でも同様であった。・適応疾患と疾患重症度の交絡因子で調整した観察研究では、統合失調症患者の脆弱性骨折は、1日投与量および累積投与量が多く、治療期間が長い場合に見られ、プロラクチンレベルを維持する抗精神病薬よりも、上昇させる抗精神病薬を使用した場合との関連が認められた。また、プロラクチンレベル上昇リスクの高い抗精神病薬を使用している患者では、アリピプラゾール併用により保護的に作用することが示唆された。・骨折の絶対リスクは不明だが、患者の年齢、性別、抗精神病薬の使用目的、抗精神病薬の特徴(鎮静、精神運動興奮、動作緩慢、起立性低血圧に関連するリスク)、1日投与量、抗精神病薬治療期間、ベースライン時の骨折リスク、その他のリスク因子により異なると考えられる。・社会人口統計学的、臨床的、治療に関連するリスク因子に関連する転倒および骨折リスクは、患者個々に評価し、リスクが特定された場合には、リスク軽減策を検討する必要がある。・プロラクチンレベルの上昇リスクの高い抗精神病薬による長期的な治療が必要な場合、プロラクチンレベルをモニタリングし、必要に応じてプロラクチンレベルを低下させる治療を検討する必要がある。・骨粗鬆症が認められた場合には、脆弱性骨折を予防するための調査やマネジメントが求められる。

784.

新型コロナワクチン、米国政府の投資額はいくら?/BMJ

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のmRNAワクチンの開発、製造、購入に関連した米国政府の投資額を調べた結果、少なくとも319億ドルに上ることを、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のHussain S. Lalani氏らが明らかにした。このうち、COVID-19パンデミック前の30年間(1985~2019年)にわたり基礎的研究に投じmRNAワクチンの重要な開発に直接寄与した投資額は、3億3,700万ドルだったという。また、2022年3月までのパンデミック中に投じた金額は少なくとも316億ドルで、臨床試験(6%)、ワクチン開発(2%)、ワクチン購入(92%)に充てられていた。著者は「これらの公的投資は何百万人もの命を救うことにつながり、また将来のパンデミックへの備えとCOVID-19をしのぐ疾患を治療する可能性ももたらし、mRNAワクチン技術の開発に見合ったものであった」と述べ、「社会全体の健康を最大化するために、政策立案者は、公的資金による医療技術への公平かつグローバルなアクセスを確保しなければならない」とまとめている。BMJ誌2023年3月1日号掲載の報告。NIHデータやRePORTERなどでワクチン開発への研究助成金などを算出 研究グループは1985年1月~2022年3月にかけて、米国国立衛生研究所(NIH)の資金提供に関するデータや研究成果を収載したReport Portfolio Online Reporting Tool Expenditures and Results(RePORTER)などを基に、米国政府がmRNA COVID-19ワクチンの開発に投じた公的資金を算出した。 政府の助成金を、mRNA COVID-19ワクチン開発の4つの重要なイノベーション(脂質ナノ粒子、mRNA合成または改良、融合前スパイクタンパク質構造、mRNAワクチンバイオテクノロジー)への主任研究者、プロジェクトのタイトルおよびアブストラクトをベースとした直接的または間接的な関与、あるいは関与が認められないもので評価した。 同ワクチン開発研究に対する直接的な公的投資額について、パンデミック前の1985~2019年と、パンデミック後の2020年1月~2022年3月で分類し評価した。COVID-19パンデミック後、ワクチン購入に292億ドル投資 NIHによるmRNA COVID-19ワクチンの開発に直接関連した研究助成金は、34件だった。これらの助成金と、その他の米国政府助成金・契約金の合計は、319億ドルだった。そのうち、COVID-19パンデミック前の投資額は3億3,700万ドルだった。 パンデミック前、NIHはmRNAワクチン技術の基礎的研究や橋渡し(translational)科学研究に対し1億1,600万ドル(35%)を投資。米国生物医学先端研究開発局(Biomedical Advanced Research and Development Authority:BARDA)は1億4,800万ドル(44%)、米国国防総省は7,200万ドル(21%)を、それぞれワクチン開発に投資した。 パンデミック後には、米国公的資金はワクチン購入に292億ドル(92%)を、臨床試験支援に22億ドル(7%)を、製造に加え基礎的研究および橋渡し科学研究に1億800万ドル(1%未満)を費やしていた。

785.

「マザリーズ」への関心の程度で自閉症の診断が可能に?

 母親などが、高いトーンで、ゆっくりと、抑揚をつけて乳幼児に話しかける話し方を「マザリーズ」という。このようなマザリーズへの関心の程度が、自閉症スペクトラム障害(ASD)の診断や予後の指標となり得ることが、乳幼児を対象にした研究で示された。米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)神経科学分野のKaren Pierce氏らが実施したこの研究の詳細は、「JAMA Network Open」に2月8日掲載された。 この研究では、生後12〜48カ月の乳幼児653人(平均月齢26.45カ月、男児73.51%)を対象に、乳幼児がマザリーズへ注意を向ける程度をASD診断の指標にできるのかどうか、また、それが社会的スキルや言語能力と関連しているのかどうかを調べた。マザリーズに注意を向ける程度は、Pierce氏らが開発したアイトラッキングテストにより測定した。これは、対象者に2本の動画を一つの画面に提示し、どちらをどれだけ見るのかを視線でコントロールさせることで、動画に対する対象者の関心を定量化するものである。提示される2本の動画のうちの1本は常にマザリーズを話す女優の動画(以下、「マザリーズ」)とし、もう1本は、1)高速道路を走る車とその騒音(以下、「高速道路」)、2)音楽とともに動く抽象的な形や数字(以下、「図形や数字」)、3)「マザリーズ」と同じ女優が同じセリフを抑揚のない口調で話すもの(以下、「抑揚のない口調」)のいずれかとした。 その結果、ASDのない児は一様にテスト時間の80%以上を「マザリーズ」の視聴に費やしたのに対して(「高速道路」とともに提示した場合で中央値82.85%、「形や数字」とともに提示した場合で中央値80.75%)、ASD児が「マザリーズ」に費やした時間の割合は0〜100%とさまざまだった。また、「高速道路」または「形や図形」と「マザリーズ」を提示した場合に「マザリーズ」の視聴に費やした時間が30%未満だった児では、この検査法だけで正確にASDを有すると診断できることが明らかになった(特異度と陽性的中率は、「高速道路」とともに提示した場合で98%と94%、「形や数字」とともに提示した場合で96%と94%)。これに対して、「マザリーズ」を「抑揚のない口調」とともに提示した場合のASD児とそれ以外の児の間で「マザリーズ」に注意を向ける程度の差はわずかであった。さらに、「マザリーズ」への関心が最も低かったASD児では、言語能力と社会的スキルも低かった。 このアイトラッキングテストは、まだ臨床の現場で利用されるには至っていないが、Pierce氏は、「ASDに対する早期治療は、成長に伴い遭遇する問題への対処や、場合によってはその克服に役立つことが示されている」と述べ、このテストが将来、ASDの診断と治療を早期に開始するための手段として活用されることに期待を寄せている。 Pierce氏によると、親が子どものASDの初期兆候を見つけることは可能であるという。同氏は、「生後12〜48カ月の子どもが親の語りかけに興味を示さないように見える場合、それはASDの警戒すべき初期兆候の可能性がある。このような兆候が認められた場合には、資格のある専門家とともに経過観察する必要がある」と説明している。 一方、この研究結果をレビューした、米国精神医学会(APA)のCouncil on Children, Adolescents and Their Families(小児、青少年、およびその家族の評議会)の会長を務めるAnish Dube氏は、「アイトラッキング技術は、ASDの早期発見に役立つツールになるだけでなく、言語の発達遅延のリスクが高い乳幼児や早期介入が必要な乳幼児の特定にも役立つかもしれない」との見方を示す。その上で、「親は子どもの行動に常に関心を持ち、子どもが取り得るさまざまな正常および異常な行動について知り、親とのやりとりも含めてその行動に疑問を感じた場合には、専門家のアドバイスを求めるべきだ」と助言している。

786.

SJS/TENの28%が抗菌薬に関連、その内訳は?

 抗菌薬に関連したスティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)および中毒性表皮壊死症(TEN)は、全世界における重大なリスクであることを、カナダ・トロント大学のErika Yue Lee氏らがシステマティックレビューおよびメタ解析で明らかにした。抗菌薬関連SJS/TENは、死亡率が最大50%とされ、薬物過敏反応のなかで最も重篤な皮膚障害として知られるが、今回の検討において、全世界で報告されているSJS/TENの4分の1以上が、抗菌薬関連によるものであった。また、依然としてスルホンアミド系抗菌薬によるものが主であることも示され、著者らは「抗菌薬の適正使用の重要性とスルホンアミド系抗菌薬は特定の適応症のみに使用し治療期間も限定すべきであることがあらためて示唆された」とし、検討結果は抗菌薬スチュワードシップ(適正使用)、臨床医の教育と認識、および抗菌薬の選択と使用期間のリスク・ベネフィット評価を重視することを強調するものであったと述べている。JAMA Dermatology誌オンライン版2023年2月15日号掲載の報告。 研究グループは、全世界の抗菌薬に関連したSJS/TENの発生率を調べるため、システマティックレビューを行った。著者によれば、初の検討という。 MEDLINEとEmbaseのデータベースを提供開始~2022年2月22日時点まで検索し、SJS/TENリスクを記述した実験的研究と観察研究を抽出。SJS/TENの発症原因が十分に記述されており、SJS/TENに関連した抗菌薬を特定していた試験を適格とし抽出した。 2人の研究者が、各々試験選択とデータ抽出を行い、バイアスリスクを評価。メタ解析は、患者レベルの関連が記述されていた試験についてはランダム効果モデルを用いて行い、異質性を調べるためサブグループ解析を行った。バイアスリスクは、Joanna Briggs Instituteチェックリストを用いて、エビデンスの確実性はGRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)アプローチを用いて評価した。 抗菌薬関連SJS/TENの発生率(プール割合)を95%信頼区間(CI)とともに算出した。 主な結果は以下のとおり。・システマティックレビューで64試験が抽出された。メタ解析は患者レベルの関連が記述された38試験・2,917例(単剤抗菌薬関連SJS/TEN発生率が記述)が対象となった。・抗菌薬関連SJS/TENのプール割合は、28%(95%信頼区間[CI]:24~33)であった(エビデンスの確実性は中程度)。・抗菌薬関連SJS/TENにおいて、スルホンアミド系抗菌薬の関連が最も多く、32%(95%CI:22~44)を占めていた。次いで、ペニシリン系(22%、95%CI:17~28)、セファロスポリン系(11%、6~17)、フルオロキノロン系(4%、1~7)、マクロライド系(2%、1~5)の順であった。・メタ解析において、統計学的に有意な異質性が認められた。それらは大陸別のサブグループ解析で部分的に説明がついた。Joanna Briggs Instituteチェックリストを用いてバイアスリスクを評価したところ、全体的なリスクは低かった。

787.

ホルモン注射で男女の性欲が高まる?

 性欲減退に悩む人に、新しいホルモン注射が役立つかもしれない。キスペプチンと呼ばれるホルモンの注射により男性と女性の性欲を高められる可能性が、英国の2件の研究で示唆された。キスペプチンは、脳の視床下部のニューロンから放出されるペプチドで、生殖機能の制御において中心的な役割を果たすと考えられている。これらの研究結果は、「JAMA Network Open」に2月3日掲載された。 1件目の研究は、英インペリアル・カレッジ・ヘルスケアNHSトラストのAlexander Comninos氏らが、性的関心興奮障害(HSDD)の女性40人を対象に実施したランダム化比較試験(RCT)である。対象者には、2回にわたってキスペプチンとプラセボを投与した。投与方法は、まず半数にキスペプチンを、残る半数にプラセボを投与し、その後、1カ月以上の間隔を空けた2回目の投与時には投与内容を入れ替えるというものだった。いずれも投与時に、性的な動画や魅力的な顔写真を対象者に見せ、脳活動を機能的MRI(fMRI)で測定した。また、複数の調査票を用いて性欲と性的興奮の心理・行動面での変化を調べ、さらに、血液検査によりキスペプチンや黄体形成ホルモン(LH)などのホルモンレベルを測定した。 両群ともに16人ずつの計32人(平均年齢29.2歳)が試験を完了した。その結果、fMRIから、キスペプチンが投与された女性では、性的な関心や魅力的な顔への関心に関わる脳領域の活性が高まることが示された。また、性欲の低さに対する悩みが大きい女性では、キスペプチンの投与により、性的な動画に反応して、女性の性欲に関わる重要な脳領域である海馬の活性化が認められた。さらに、魅力的な男性の顔に反応して、キスペプチンが後帯状皮質(恋愛や認知的処理能力に関わる)を活性化するほど、対象者の性的嫌悪が減少することも確認された。重要なことに、キスペプチンを投与された女性では、プラセボを投与された女性と比べて、「よりセクシー」な気分になることを報告した。 2件目の研究は、英インペリアル・カレッジ・ロンドン(ICL)内分泌・代謝学分野のWaljit Dhillo氏らが、HSDDの男性37人(平均年齢37.9歳)を対象に実施したRCTである。このRCTも前述のRCTと同様、7日間の間隔を空けてキスペプチンとプラセボの両方を対象者に投与するクロスオーバーデザインを採用した。また、血液検査でのホルモンレベルの測定と調査票を用いての心理・行動的評価も行った。性的刺激は性的動画の視聴とした。 その結果、キスペプチンを投与された男性では、性的な動画を視聴している間に、性的な関心に関わる脳のネットワークの重要な部位での活動が大幅に高まり、プラセボと比較して陰茎硬度が最大56%増加することが確認された。また、1件目のRCTと同様に、キスペプチンは性欲減退に悩んでいる男性の主要な脳領域により大きな効果をもたらすことが確認された。さらに、キスペプチン投与により「セックスに関する幸福度」が改善することも明らかになった。 こうした結果についてComninos氏は、「キスペプチンは、女性と男性の両方に効果をもたらす点が非常に素晴らしい」と話す。 ただし、HSDDに対するキスペプチンを用いた治療はいまだ実験段階にあり、より多くの人を対象にした試験でも同じ結果が得られるのかを確認する必要がある。Comninos氏はこの点を踏まえた上で、「5〜10年後には、性欲減退に悩む男性と女性に対する治療としてキスペプチンが用いられるようになるかもしれない」との展望を示す。 米Hillsborough Townshipの産婦人科医であるCarolyn DeLucia氏は、「思い当たる理由もないのにパートナーとのセックスや自慰行為への興味を不意に失うのは珍しいことではない。しかし、それに対する効果的な治療法がないため、医師も多くの場合は治療を却下する」と現状について説明する。その上で同氏は、「研究が進めば、キスペプチンがこのような現状を大きく変える可能性がある。キスペプチンは、男性と女性双方の性欲を安全かつ心地よく高める初めてのホルモンとなるのではないか」と期待を示している。

788.

「神経保護薬」で脳卒中後の転帰が改善する可能性

 脳卒中を発症した患者に対し、機械的血栓回収療法と呼ばれる標準的な治療に加え、「神経保護薬」を使用することで、その後の死亡リスクや後遺症のリスクが低下する可能性を示した臨床試験の結果が報告された。この神経保護薬はApTOLLと呼ばれるもので、炎症を抑えることで脳の組織を保護する作用があるという。バルデブロン病院(スペイン)のMarc Ribo氏らが実施したこの試験の結果は、国際脳卒中学会(ISC 2023、2月8~10日、米ダラス)で発表された。 脳卒中には、血栓によって脳の血管が詰まり、脳の一部の血流が途絶えて起こる虚血性脳卒中と、脳の血管が破れて血液が漏れ出ることで起こる脳出血がある。発生頻度は、虚血性脳卒中の方が脳出血よりも大幅に高い。 Ribo氏らが今回報告した臨床試験は、2021年7月~2022年4月にフランスとスペインの15施設の病院で治療を受けた150人以上の虚血性脳卒中患者(平均年齢70歳)を対象に実施された。試験参加者は、ApTOLLを0.05mg/kg投与する群(低用量ApTOLL群)、同薬を0.2mg/kg投与する群(高用量ApTOLL群)、プラセボを投与する群(プラセボ群)のいずれかにランダムに割り付けられた。全ての参加者が、脳卒中の発症から6時間以内に血管内の血栓を取り除き、血流を再開させることを目的とした機械的血栓回収療法と、必要に応じてt-PA(組織型プラスミノーゲンアクチベーター)の投与(血栓溶解療法)を受けていた。 その結果、治療から90日後の死亡率は、プラセボ群の18%に対して高用量ApTOLL群では4%と、ほぼ4分の1以下に低下していた。また、治療から72時間後の脳画像検査では、ダメージを受けた脳組織の容積がプラセボ群と比べて高用量ApTOLL群では40%減少していることも確認された。さらに治療から90日後に障害が認められなかった患者の割合は、高用量ApTOLL群では64%に上ったが、プラセボ群では47%にとどまっていた。一方、低容量ApTOLL群では、プラセボ群に対して目立った効果は認められなかった。 これらの結果についてRibo氏は、「神経保護薬に関する試験で、ダメージを受けた脳組織の容積を減少させるという生物学的な有益性だけでなく、長期的な障害と死亡のリスク低減も示されたのは今回が初めて」と報告している。 ただし、ApTOLLの実用化までにはさらなる研究が必要だ。Ribo氏は、「より大規模な集団で検証的試験を実施する必要がある。われわれは、そのような試験を2023年の第4四半期に開始することを目指している」と明かし、「もし全てがうまくいき、今回の結果が再現されれば、数年以内にこの薬が使えるようになるかもしれない」と期待を示す。 なお、今回の臨床試験では、参加者の一部はt-PA療法も受けていた。t-PAは、脳卒中を発症した患者の麻痺や言語障害などの後遺症に対する予防効果が極めて高いが、発症後4.5時間以内の投与が必要であり、投与が早ければ早いほど転帰も改善することが分かっている。Ribo氏は、「ApTOLLは脳にダメージが及ぶ一連の流れを停止させることで、t-PA療法、あるいは機械的血栓回収療法が実施可能な時間枠の延長に寄与するのではないか」との見方を示している。 一方、脳卒中の専門家らは、ApTOLLが実際に使用できるようになるには、乗り越えるべき数多くのハードルが残されていることを指摘し、今回の報告を慎重に受け止めるよう呼びかけている。 米クリーブランド・クリニック脳卒中プログラムのAndrew Russman氏は、「早期段階では有用性を示しながらも、大規模な後期段階の臨床試験では効果を示すことができなかった神経保護薬は数えきれないほどある」と話し、「この新しい薬のポテンシャルはまだ証明されていない。より大規模で信頼性の高い臨床試験が完遂されるまで、まだ数年はかかるのではないか」との見方を示している。

789.

第154回 両親とも雄の健康なマウスが誕生/精子を増やす仕事

親がどちらも雄のマウスができた雄マウスの細胞から作成した卵細胞を使って両親とも雄のマウスを誕生させ、先立つ研究とは一線を画して生殖可能な成獣に成長させることができました1,2)。生殖研究の世界で名を馳せ、2021年から大阪大学に籍を置く3)林 克彦教授らの研究成果です。英国のロンドンでの学会「Third International Summit on Human Genome Editing」で先週8日に発表されました。まだ論文にはなっていませんが、Nature誌に投稿済みとBBCニュースは伝えています4)。両親とも雄のマウスを作ったのは実は林教授らが初めてではありません。4年半ほど前の2018年10月に中国の研究チームが両親とも雌または雄のマウスの誕生をすでに報告しています5)。両親とも雌のマウスは幸いにも生殖可能な成獣に成長できたのに対して、両親とも雄のマウスは長くは生きられず残念ながら生後数日で死んでしまいました。林教授らが作った両親とも雄のマウスはそうではなく、仔を授かれる成獣へと正常に成長することができたことが中国のチームの成果とは一線を画します。雄のマウスの細胞もヒトと同様にたいていX染色体とY染色体を1つずつ有します。林教授らはまず雄マウスの細胞一揃いを幹細胞様の細胞に作り変え、いくつかがY染色体を失うまで培養しました。Y染色体はしばしばおのずと失われることが知られています。そうしてY染色体を失った細胞から次はX染色体を2つ持つ細胞を作ります。そのためにはリバーシン(reversine)という化合物が使われました。細胞分裂の際の染色体配分にちょっかいを出すリバーシンの働きによってX染色体を2つ備えた細胞(XX細胞)を見つけ出し、続いてそれらXX細胞が卵細胞へと作り変えられました。そうしてできた卵細胞が雄の精子と受精してできた胚が雌マウスの子宮に移植され、待望の仔マウス誕生を研究者は目にすることができました。ただし成功率は低く、630もの胚を移植して誕生したマウスはわずか7匹のみでした。とはいえ7匹はどうやら正常で、生殖可能な成体に発育しました。今後の課題の1つとして両親とも雄のマウスを注意深く調べ、普通に生まれたマウスと比較して違いがあるかどうかを検討する必要があると林教授は言っています。さらなる研究の積み重ねで安全性や効率などの課題が解消してヒトでも通用するようになればX染色体を全部または部分的に欠くターナー症候群の女性の不妊やその他の性染色体関連の不妊の治療に林教授らの染色体介入技術は役立ちそうです。ターナー症候群は林教授の今回の成果のきっかけを成すものであり、それら女性の不妊治療手段の研究がそもそもの始まりでした2)。林教授らの技術は不妊治療の枠を超えた用途もありそうです。たとえば男性同士のカップルがその2人の血を引く子を代理母の助けを借りて授かれるようになるかもしれません。もっというと、1人の男性が自身の血のみを引く子をいわば“自家受精”によって授かることを遠い未来には可能にするかもしれません。とはいえそのような利用法は技術うんぬんの枠を超えたものであり、倫理や意義について手広い話し合いが必要でしょう。技術面だけに限って言うと両親とも男性の子を産むことは理論上可能でしょうが2)、人間社会に果たしてその技術が馴染むかどうかはわからない1)と林教授は言っています。精子を増やす仕事もろもろの課題が解決していつの日か男性同士のカップルが子を授かれるようになったとして、卵細胞になる細胞を提供する側と精子を提供する側を決めるのは悩ましいかもしれません。しかしいずれにせよ精子を十分に備えているに越したことはないでしょう。本連載第139回でも紹介したように世界の男性の精子数は心配なことにどうやら減っていますが、先月2月前半に発表された報告で精子数が多いことに関連する仕事の特徴が見つかっています。それは重いものを繰り返し持ち上げたり動かしたりすることです。不妊治療を求めるカップルを募って実施されているEnvironment and Reproductive Health (EARTH)試験の男性被験者の解析によって判明しました。EARTH試験は日頃接する化学物質や生活習慣の生殖への影響を調べることを目的としており、1,500人を超える男女の検体やデータが集められています。今回発表されたのはEARTH試験の男性被験者377人の解析結果であり、仕事で重いものをしばしば持ち上げたり動かしたりしている男性は仕事で体をあまり動かさない男性に比べて精子濃度が46%高く、射精中の全精子数が44%多いことが示されました6,7)。仕事でより体を動かしていると答えた男性は男性ホルモンであるテストステロン濃度が高く、意外にも、女性ホルモンであるエストロゲン濃度も高いという結果が得られています。そのエストロゲン濃度の上昇は豊富なテストステロンがエストロゲンに変換されたことによるのではないかと研究者は想定しています。それら2つのホルモンを正常範囲に保つためにテストステロンがエストロゲンに変わる仕組みがあることが知られています。不妊は増え続ける一方で、その原因は多岐にわたりますが、およそ40%は男性側の要因にあるようです。精子数と精液の質は男性が原因の不妊が増えていることに大いに寄与しているようです。EARTH試験の男性936人を調べた先立つ解析では精子濃度と精子数が2000年から2017年にそれぞれ37%と42%低下していました8)。EARTH試験に参加しているのは不妊治療を求める男性であり、今回の解析で示されたような体を動かすことと生殖指標の関連が一般男性にも当てはまるかどうかを調べる必要があります。また、体を動かすことと生殖を関連付ける生理的な仕組みがさらなる試験で明らかになることが期待されます。参考1)The mice with two dads: scientists create eggs from male cells / Nature2)Mice have been born from eggs derived from male cells / NewScientist3)大阪大学NEWS & TOPICS4)Breakthrough as eggs made from male mice cells / BBC5)Li ZK, et al. Cell stem cell. 2018;23:665-676.6)Minguez-Alarcon L, et al. Human reproduction. 2023 Feb 11. [Epub ahead of print]7)Study shows higher sperm counts in men who lift heavy objects / Harvard University8)Minguez-Alarcon L, et al. Environ Int. 2018;121:1297-1303.

790.

日本人の認知症リスクに対する喫煙、肥満、高血圧、糖尿病の影響

 心血管リスク因子が認知症発症に及ぼす年齢や性別の影響は、十分に評価されていない。大阪大学の田中 麻理氏らは、喫煙、肥満、高血圧、糖尿病が認知症リスクに及ぼす影響を調査した。その結果、認知症を予防するためには、男性では喫煙、高血圧、女性では喫煙、高血圧、糖尿病の心血管リスク因子のマネジメントが必要となる可能性が示唆された。Environmental Health and Preventive Medicine誌2023年号の報告。 対象は、ベースライン時(2008~13年)に認知症を発症していない40~74歳の日本人2万5,029人(男性:1万134人、女性:1万4,895人)。ベースライン時の喫煙(喫煙歴または現在の喫煙状況)、肥満(過体重:BMI 25kg/m2以上、肥満:BMI 30kg/m2以上)、高血圧(SBP140mmHg以上、DBP90mmHg以上または降圧薬使用)、糖尿病(空腹時血糖126mg/dL以上、非空腹時血糖200mg/dL以上、HbA1c[NGSP値]6.5%以上または血糖降下薬使用)の状況を評価した。認知機能障害は、介護保険総合データベースに基づき要介護1以上および認知症高齢者の日常生活自立度IIa以上と定義した。心血管リスク因子に応じた認知症予防のハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)は、Cox比例回帰モデルを用いて推定し、集団寄与危険割合(PAF)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・フォローアップ期間中央値9.1年の間に認知症を発症した人は、1,322例(男性:606例、女性:716例)であった。・現在の喫煙および高血圧は、男女ともに認知機能障害の高リスクと関連していたが、過体重または肥満は男女ともに認知機能障害のリスクと関連が認められなかった。・糖尿病は、女性のみで認知機能障害の高リスクと関連していた(p for sex interaction=0.04)。・有意なPAFは、男性では喫煙(13%)、高血圧(14%)、女性では喫煙(3%)、高血圧(12%)、糖尿病(5%)であった。・有意なリスク因子の合計PAFは、男性で28%、女性で20%であった。・年齢層別化による解析では、男性では中年期(40~64歳)の高血圧、女性では老年期(65~74歳)の糖尿病は、認知機能障害のリスク増加と関連していた。

791.

進行悪性黒色腫、術前・術後のペムブロリズマブは有効か/NEJM

 切除可能なIII/IV期の悪性黒色腫患者の治療では、ペムブロリズマブの投与を術前と術後の双方で受けた患者は、術後補助療法のみを受けた患者と比較して、無イベント生存期間が有意に長く、新たな毒性作用は検出されなかった。米国・テキサス大学MD AndersonがんセンターのSapna P. Patel氏らが実施した第II相無作為化試験「S1801試験」で示された。NEJM誌2023年3月2日号掲載の報告。米国の第II相無作為化臨床試験 S1801試験は、米国の90施設で実施され、2019年2月~2022年5月の期間に患者の登録が行われた(米国国立がん研究所[NCI]とMerck Sharp and Dohmeの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、臨床的に検出可能で測定可能なIIIB~IVC期の悪性黒色腫を有し、外科的切除が適用と考えられる患者であった。 被験者は、術前補助療法としてペムブロリズマブを3回投与したのち手術を行い、術後補助療法としてペムブロリズマブを15回投与する群(術前・術後補助療法群)、または手術を行い、術後にペムブロリズマブ(3週ごとに200mgを静脈内投与、合計18回)を約1年間、あるいは疾患の再発か、許容できない毒性が発現するまで投与する群(術後補助療法単独群)に無作為に割り付けられた。 主要評価項目は、intention-to-treat集団における無イベント生存であった。イベントは、手術が不可能な増悪または毒性の発現、すべての肉眼的病変の切除が不可能な場合、術後84日以内に術後補助療法の開始が不可能な増悪・手術合併症・治療による毒性作用、悪性黒色腫の術後の再発、全死因死亡と定義された。2年無イベント生存率:72% vs.49% 313例が登録され、術前・術後補助療法群に154例(年齢中央値64歳[範囲:19~90]、女性40%)、術後補助療法単独群に159例(62歳[22~88]、30%)が割り付けられた。追跡期間中央値は両群とも14.7ヵ月であった。 合計105件のイベントが発生し、このうち術前・術後補助療法群が38件、術後補助療法単独群は67件であった。無イベント生存期間は、術前・術後補助療法群が術後補助療法単独群よりも長かった(log-rank検定のp=0.004)。 ランドマーク解析では、2年時の無イベント生存率は、術前・術後補助療法群が72%(95%信頼区間[CI]:64~80)、術後補助療法単独群は49%(41~59)であった。 ベースラインの患者特性に基づくサブグループのすべてで、術前・術後補助療法群の有益性が認められたが、いくつかサブグループは症例数が少ないため確定的ではなかった。 術前・術後補助療法群のうち、142例が術前補助療法終了後に画像による奏効の評価を受け、9例(6%)で完全奏効が、58例(41%)で部分奏効が得られた。 補助療法中のGrade3以上の有害事象の発現率は両群で同程度で、術前・術後補助療法群が12%、術後補助療法単独群は14%であった。両群とも、ペムブロリズマブによる新たな毒性作用は認められず、死亡例はなかった。術前補助療法後に手術を受け、有害事象のデータが得られた127例のうち、9例(7%)で手術関連のGrade3/4の有害事象が発現した。 著者は、「本試験の結果は、手術との関連において、免疫チェックポイント阻害薬の投与のタイミングが、患者の転帰に大きな影響を及ぼす可能性があることを示すものである」としている。

792.

ゴルフは高齢者の健康維持に最適

 老後も健康でいたい人は、ゴルフクラブを持ってグリーンに出ると良いようだ。新たな研究から、心臓の健康を向上させるという点で、ゴルフはウォーキングやノルディックウォーキング(特殊なポールを用いたウォーキングによる全身運動)よりも優れていることが明らかにされた。研究論文の筆頭著者で、東フィンランド大学(フィンランド)生物医学/スポーツ・運動医学研究所のJulia Kettinen氏は、「ゴルフは体を動かす意欲を高め、あまり距離を意識せずに長く歩けるという点でも優れた運動方法である」と述べている。この研究は、「BMJ Open Sport & Exercise Medicine」に2月6日掲載された。 この研究では、ゴルフを行う65歳以上の健康な25人(男性16人、平均年齢68.4±4歳)を対象に、18ホールのゴルフコースを回った場合の心臓への効果を、6kmのノルディックウォーキングまたは通常のウォーキングと比較した。試験参加者の血圧、血糖値、コレステロール値を評価したほか、心臓モニターで心拍数を、手首に装着するフィットネスデバイスで運動による移動距離、持続時間、ペース、歩数、消費カロリーを追跡した。 その結果、3種類の運動はいずれも対象者の心臓の健康に有益であることが示された。ただしゴルフは、運動強度は低いものの、ノルディックウォーキングや通常のウォーキングよりも、運動に要する時間(210±30分)と距離(8.8±1.2km)が長く、歩数(1万3,446±1,314歩)と消費カロリー(1,377±301kcal)が多かった。またゴルフは、ノルディックウォーキングや通常のウォーキングに比べて、HDLコレステロールとトリグリセライド(中性脂肪)に、また通常のウォーキングに比べて血糖値に有益な影響を及ぼすことが示された。血圧については、収縮期血圧はいずれの運動後でも有意に低下していたが、ノルディックウォーキングと通常のウォーキングでは拡張期血圧にも有意な低下が認められた。 こうした結果を受けてKettinen氏は、「徒歩で行うゴルフは、健康な人に対しては心血管疾患の予防手段として、また、すでに心血管疾患を有している人に対しては心臓の健康状態を改善する手段として、高齢者に推奨できる運動だ」と述べている。ただし、ウォーキングやノルディックウォーキングでも十分に効果はあるという。同氏は、「今回の研究は小規模であり、またゴルフをする人のみを対象としていたため、ほとんどの試験参加者はノルディックウォーキングに慣れておらず、技術が伴わなかった。そのため、ノルディックウォーキングは、実際より効果が低く見積もられた可能性もある」との見方を示している。 英エディンバラスポーツ・健康医学研究ネットワークの共同代表であるAndrew Murray氏は、「ゴルフが有効である理由の一つは、年齢に関係なくできる点にある。3歳でも103歳でもゴルフは健康に良い。ゴルフのように生涯にわたって続けられるスポーツは、他にあまりない」と述べる。さらに同氏は、「ゴルフはメンタルヘルスの健康にも有益であり、人との関わりを維持することで認知症の発症リスクも低減できる可能性がある」と話している。

793.

認知症になってから何年生きられるのか?【外来で役立つ!認知症Topics】第3回

認知症臨床の場において、「あるある質問」として代表的なものには、筆者の場合、3つある。まずアルツハイマー病と認知症が同じか否かというもの。次に遺伝性の有無と、では自分は?という質問。そして今回のテーマ、「認知症になってから何年生きられるか?」という質問である。長年この問題に関して、正解とまでは言わずとも、エビデンスがしっかりした答えを知りたいと思ってきた。またこの質問の意図はそう単純ではない。長生きを望む人もあれば、逆に…という場合もありうる。今さらではあるが、2021年にLancet Healthy Longevity誌1)で優れたメタアナリシスが報告されていることを知り、丁寧に読んだ。その概要を臨床の場を鑑みながら解説する。メタアナリシスでの認知症平均余命まずメタアナリシスの素材となったのは、78の研究である。ここでは6.3万人余りの認知症があった人、15.2万人余りの認知症がなかった人のコントロールデータが扱われた。なお原因疾患はアルツハイマー病、血管性認知症、レビー小体型認知症と前頭側頭葉変性症である。アウトカムとして、まずあらゆる原因による「死亡率:mortality rate」、すなわち一定期間における死亡者数を総人口で割った値が用いられた。次に、認知症の診断もしくは発症から亡くなるまでの年数も用いられた。まず認知症全体としての死亡率は、認知症のない者に比べて5.9倍も高い。また全体では、発症の平均年齢が68.1±7.0歳、診断された年齢は72.7±5.9歳、初発から死亡までが7.3±2.3年。さらに診断から死亡までが4.8±2.0年となされている。全体の3分の2を占めるアルツハイマー病では、初発から死亡まで7.6±2.1年、診断から死亡までが5.8±2.0年になっている。つまりアルツハイマー病の診断がついた患者さんやその家族から「余命は何年か?」の質問を受けたなら、4~8年程度と答えることになる。もっとも本論文の対象は、われわれが対応する患者さんの年齢より、少し若いかなという印象がある。最も生命予後が良い/悪い認知症性疾患は?さて注目すべきは、4つの認知症性疾患の中でアルツハイマー病の生命予後が一番良いという結果である。逆にレビー小体型認知症(パーキンソン病に伴う認知症を含む)では、認知症のなかったコントロールに比べて、死亡率は17.88倍も高く、4つの認知症性疾患の中で最悪である。アルツハイマー病に比べても余命は1.12年も短い。その理由として以下に述べられている。1つには幻覚や妄想などの精神症状を伴うことである。それにより危険行為や衝動性に結び付きやすいことをよく経験する。また従来のデータでも示されてきたように、認知症性疾患のなかで、認知機能の低下率が大きく、合併疾患の割合が高く、QOLも悪いとされる。こうしたものが高い死亡率に結び付いているのではと考察している。確かにと納得できる。次に血管性認知症は、アルツハイマー病に比べて、死亡率が1.26倍高く、余命は1.33年短い。恐らくは心血管系の問題が大きく寄与していると考えられている。さらに前頭側頭葉変性症も生命予後は良くない。その理由として、運動障害に注目した面白い報告がある。近年よく知られるようになったが、前頭側頭型認知症では、パーキンソニズム、錐体外路徴候などによる運動障害を示す例が少なくない。さらにジストニアや失行も見られる。筆者はこれらによる転倒・転落を経験してきた。一方で、ある程度以上進むと、いわゆる早食いや詰め込み食いも見られることがある。こうしたことによる窒息や誤嚥性肺炎が死亡率を高めていると考察されている。自分の臨床経験では、このような突然死の多くは、盗んだり隠れたりして食べていたのである。治療のためにも早期受診が不可欠以上について、論文の著者らは注目していないが、いくつか感想がある。まず初発から診断までに、4年余りかかっているという結果である。疾患修復薬が前駆期・早期なら有用かと期待されるようになった今日、これでは治療の好機を逃してしまう。早期受診の重要性を再度認識する。次に自分が対応するアルツハイマー病の患者さんに限っても、何年経ってもほとんど変わらない人もいるが、1年以内に急速に悪化してしまう人もいる。こうしたケースはrapidly progressive Alzheimer diseaseと呼ばれることもあり、認知機能のみならず生命予後も不良である。そして現場では、主治医である筆者がその責任を厳しく問われることもある。けれども遺伝子、併存疾患、または症候学等からみて、この急速悪化群の関連因子はまだ定まっていない。こうしたsubtypeの予想も臨床的には不可欠な観点だろう。終わりに。アルツハイマー病以外の認知症性疾患に対しては、今のところこれという薬物治療法はない。それだけにこれらの疾患のある人に対する治療の場では、上に示した余命を短縮させてしまう因子に注意を払い、少しでもQOLが高く健やかな生活を実現する努力がこれまで以上に望まれる。参考1)Liang CS, et al. Mortality rates in Alzheimer's disease and non-Alzheimer's dementias: a systematic review and meta-analysis. Lancet Healthy Longev. 2021;2:e479-e488.

794.

SLEへのバリシチニブ、SLE-BRAVE-II試験での有効性は?/Lancet

 全身性エリテマトーデス(SLE)の治療において、選択的ヤヌスキナーゼ(JAK)1/2阻害薬バリシチニブはプラセボと比較して、疾患活動性を改善せず、グルココルチコイド漸減の達成や初回の重度フレア発現までの時間の延長をもたらさないことが、米国・ジョンズホプキンズ大学のMichelle Petri氏らが実施した「SLE-BRAVE-II試験」で示された。Lancet誌オンライン版2023年2月24日号掲載の報告。15ヵ国の無作為化プラセボ対照第III相試験 SLE-BRAVE-II試験は、日本を含む15ヵ国162施設で実施された二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2018年8月~2020年8月の期間に参加者のスクリーニングが行われた(Eli Lilly and Companyの助成を受けた)。 年齢18歳以上で、スクリーニングの少なくとも24週前に臨床的にSLEと診断された患者が、標準治療に加え、バリシチニブ4mg、同2mg、プラセボを1日1回、52週間、経口投与する群に、1対1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは、52週の時点における、プラセボ群と比較したバリシチニブ4mg群のSLE Responder Index 4(SRI-4)レスポンダーの割合とされた。安全性プロファイルは既知のものと一致 775例が登録され、バリシチニブ4mg群に258例、同2mg群に261例、プラセボ群に256例が割り付けられた。全体の94%が女性で、ベースラインの平均年齢は42.8(SD 12.9)歳であり、平均SLE罹患期間は8.72(SD 7.9)年だった。 52週時のSRI-4レスポンダーの割合は、バリシチニブ4mg群が47%(121/258例)、同2mg群が46%(120/261例)、プラセボ群は46%(116/256例)であった。プラセボ群と比較したバリシチニブ4mg群のSRI-4レスポンダーの割合のオッズ比(OR)は1.07(95%信頼区間[CI]:0.75~1.53)であり、両群間に有意な差は認められなかった(群間差:1.5、95%CI:-7.1~10.2、p=0.71)。また、プラセボ群と比較したバリシチニブ2mg群のORは1.05(95%CI:0.73~1.50)であった(群間差:0.8、95%CI:-7.9~9.4、p=0.79)。 24週時のSRI-4レスポンダーの割合やグルココルチコイド漸減の達成、初回の重度フレア発現までの時間の延長などの主要な副次エンドポイントでも、プラセボ群に比べてバリシチニブの2つの用量群で改善はみられなかった。 少なくとも1件の有害事象が発現した患者の割合は、バリシチニブ4mg群が78%(200例)、同2mg群が76%(199例)、プラセボ群は77%(198例)であり、多くは軽度または中等度であった。重篤な有害事象は、それぞれ11%(29例)、13%(35例)、9%(22例)で認められた。SLE患者におけるバリシチニブの安全性プロファイルは、既知のものと一致しており、新たな安全性シグナルは観察されなかった。 著者は、「第II相試験および第III相SLE-BRAVE-I試験で示されたバリシチニブの有効性は、本試験では再現されなかったことから、SLEにおける本薬の有効性のエビデンスについては結論が出ていない。事後解析により、本試験の失敗の原因が解明され、今後の臨床試験のデザインに有益な情報をもたらす可能性がある」としている。

795.

レムデシビル、コロナ入院患者の死亡リスクを低減/ギリアド

 ギリアド・サイエンシズ(日本)は3月6日付のプレスリリースにて、入院後2日以内の抗ウイルス薬レムデシビル(商品名:ベクルリー)投与により、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による入院患者において、重症度にかかわらず死亡率および再入院率が低下したことを示すデータが、50万人超のリアルワールド試験から得られたことを発表した。死亡率の低下は、免疫不全者の集団においても認められた。米国本社が2月21日に英語で発表したものの邦訳版。本結果は2月19~22日に米国・シアトルで開催された第30回レトロウイルス・日和見感染症会議(Conference on Retroviruses and Opportunistic Infections)にて発表された。 プレスリリースによると、U.S. Premier Healthcareデータベースに登録された臨床診療情報を基に、米国の病院800施設以上における成人のCOVID-19入院患者50万人超のデータが解析された。 主な結果は以下のとおり。・全体解析では、COVID-19入院患者の14日目および28日目の死亡率を検証した。入院後2日以内にレムデシビルを投与された患者群と、投与されなかった対照群を比較したところ、すべての酸素レベルにおいて、投与群の死亡率が有意に低かった。・ベースライン時に酸素療法使用の記録がない患者では、レムデシビル投与により、28日目の死亡リスクが19%(p<0.001)低下した。・低流量酸素療法を受けている患者では、28日目の死亡リスクが21%(p<0.001)低下し、高流量酸素療法を受けている患者では12%(p<0.001)低下した。・ベースライン時に侵襲的機械換気(IMV)/ECMOを必要とする患者では、28日目の死亡リスクが26%(p<0.001)低下した。・これらの結果は、オミクロン株を含む全変異株の流行期を通じて、すべてのレベルの酸素療法を受けている患者において認められた。・免疫不全者においても、レムデシビルの投与による死亡率の低下が認められた。28日目の死亡率は、入院後2日以内にレムデシビルを投与された場合、非投与群と比較して、すべての変異株の期間において、死亡リスクが25%(デルタ株以前35%、デルタ株期21%、オミクロン株期16%)有意に低下した。・レムデシビルを投与されたCOVID-19入院患者が30日以内に同じ病院に再入院する確率も27%有意に低下した。・in vitro解析によると、レムデシビルは、XBB、BQ.1.1、BA.2.75、BA.4/BA.5を含むオミクロン株亜種に対しても、抗ウイルス活性を保持していた。 今回の解析で認められたレムデシビルの死亡率低下に関する有効性は、2021年に同社が発表した約10万人のCOVID-19入院患者のリアルワールド解析において得られた生存率改善のエビデンスと一貫性を示している。

796.

SLEへのバリシチニブ、第III相SLE-BRAVE-I試験の結果/Lancet

 オーストラリア・モナシュ大学のEric F. Morand氏らは、活動性全身性エリテマトーデス(SLE)患者を対象としたバリシチニブの無作為化二重盲検プラセボ対照第III相試験「SLE-BRAVE-I試験」の結果、主要エンドポイントは達成されたものの、主要な副次エンドポイントは達成されなかったことを報告した。ヤヌスキナーゼ(JAK)1/JAK2の選択的阻害薬であるバリシチニブは、関節リウマチ、アトピー性皮膚炎および円形脱毛症の治療薬として承認されている。SLE患者を対象にした24週間の第II相試験では、バリシチニブ4mgはプラセボと比較して、SLEの疾患活動性を有意に改善することが示されていた。Lancet誌オンライン版2023年2月24日号掲載の報告。SLE患者760例をバリシチニブ4mg群、2mg群、プラセボ群に無作為化 SLE-BRAVE-I試験は、アジア、欧州、北米、中米、南米の18ヵ国182施設で実施された。 研究グループは、スクリーニングの24週間以上前にSLEと診断され、標準治療を行うも疾患活動性が認められる18歳以上の患者を、バリシチニブ4mg群、バリシチニブ2mg群またはプラセボ群に1対1対1の割合で無作為に割り付け、標準治療との併用で52週間1日1回投与した。グルココルチコイドの漸減が推奨されたが、プロトコールで必須ではなかった。 主要エンドポイントは、52週時のSLE Responder Index-4(SRI-4)レスポンダーの割合で、ベースラインの疾患活動性、コルチコステロイド量、地域および治療群をモデルに組み込んだロジスティック回帰分析により、バリシチニブ4mg群とプラセボ群を比較した。 有効性解析対象集団は修正intention-to-treat(ITT)集団(無作為化され少なくとも1回治験薬の投与を受けたすべての患者)、安全性解析対象集団は無作為化され少なくとも1回治験薬を投与され、ベースライン後の最初の診察時に追跡調査不能の理由で試験を中止しなかったすべての患者とした。 760例が無作為に割り付けられ、修正ITT集団はバリシチニブ4mg群252例、バリシチニブ2mg群255例、プラセボ群253例であった。52週時のSRI-4レスポンダー率はバリシチニブ4mg群57%、プラセボ群46% 52週時のSRI-4レスポンダー率は、バリシチニブ4mg群57%(142/252例)、プラセボ群46%(116/253例)であり、オッズ比(OR)1.57(95%信頼区間[CI]:1.09~2.27)、群間差10.8(95%CI:2.0~19.6)で有意差が認められた(p=0.016)。バリシチニブ2mg群は50%(126/255例)で、プラセボ群との有意差はなかった(OR:1.14[95%CI:0.79~1.65]、群間差:3.9[95%CI:-4.9~12.6]、p=0.47)。 初回の重度SLE flareが発現するまでの時間やグルココルチコイド漸減など主要副次エンドポイントに関しては、バリシチニブ群のいずれにおいてもプラセボ群と比較して有意差は認められなかった。 重篤な有害事象は、バリシチニブ4mg群で26例(10%)、バリシチニブ2mg群で24例(9%)、プラセボ群で18例(7%)に発現した。SLE患者におけるバリシチニブの安全性プロファイルは、既知の安全性プロファイルと一致していた。

797.

第35回 新型コロナの入院時スクリーニング検査のやめどきは?

「5類」化によって間引くべきところを考えているご存じのとおり5月8日から「5類感染症」にスイッチするわけですが、どう引き算をしていけばよいのか迷われている医療機関は多いのではないでしょうか。当院でも侃々諤々と議論が交わされています。コロナ禍におけるその象徴が「入院時スクリーニング検査」です。そもそもPCR検査やそれに準ずる検査は、スクリーニングに用いる意義はそこまで大きくないというのが定説でしたし、コロナ禍当初、私もそう理解していました。基本的には確定診断にこそ用いるべき技術であろう、と。当たり前になった入院時スクリーニングしかし、急速な検査キャパシティの拡大により、どこの病院でもスクリーニング検査を行うことが当たり前になりました。これにより入院時スクリーニングが可能になりました。検査入院で入院してきた人が陽性になり、入院できなくなった事例、また陰性だったのに院内で発症した事例が、あるのも事実。2つ研究を紹介しましょう。1つ目は、2020年12月3日~2021年3月20日に東京都内の急性期病院に入院し、鼻咽頭スワブを用いたSARS-CoV-2の抗原定量検査(ルミパルス)と、症状・ウイルス曝露を評価するアンケート調査です1)。5,000例を超える患者のうち、抗原定量が陽性になったのは、わずか53例(1.02%)でした。判定保留は19例です。抗原定量陽性だった53例のうち、37例は典型的な症状などがあり、COVID-19と診断がついています。検査しておいてよかったね、という症例です。ただこの研究は、無症状の人にやみくもに採取した研究ではありません。抗原定量陽性であったものの入院時にCOVID-19と診断されなかった16例と、判定保留の19例については、全員隔離した後、3日以内にPCR検査を実施しました。このうち、PCR陽性は8例でした。残り27例はPCR陰性で、COVID-19ではありませんでした。他方、抗原定量陰性だった大多数のうちCOVID-19だったのはわずか2人でした(2人ともPCR陽性)。しかしこの2人についても、問診時点でCOVID-19が疑わしかったので、しっかりと隔離できていました。つまり、しっかり問診・診療しておれば、スクリーニング検査があってもなくても院内に広めるリスクはそれほど高くないのでは…ということも言えます。2つ目の研究は、実際に入院時スクリーニングを行っている患者のその後の感染を追跡した観察研究です。症例数は約1,100例です2)。この研究では、上記と違って当然COVID-19の事前確率がかなり低いわけです。PCR陽性で感染性があると判断されたのは、10例のみという結果でした。PCR陽性はちょいちょい引っかかるのですが、蓋を開けてみるとほとんどは感染性がない事例でした。となると、COVID-19の事前確率が高い場合はともかくとして、無症状の入院患者にスクリーニング検査を行う費用対効果はそこまで高くない印象を持っています。基本的に入院時に陰性を確認しても、その翌日や翌々日などにCOVID-19を発症することがありうるため、「その瞬間の陰性をみること」にどのくらいの価値を見出せるかどうか、でしょうか。参考文献・参考サイト1)Morishima M, et al. Universal admission screening for COVID-19 using quantitative antigen testing and questionnaire screening to prevent nosocomial spread. PLoS One. 2022;17:e0277426.2)山室亮介, 他. 新型コロナウイルスの入院時スクリーニングにおける抗原定性検査およびRT-PCR検査が院内感染に与える影響. 感染症学雑誌. 2023;97:1-5.

798.

米国では長年減少し続けていた脳卒中による死亡が再び増加傾向

 米国では過去40年間で脳卒中による死亡が劇的に減ったものの、最近は再び増加する傾向にあることが分かった。肥満や糖尿病の増加がそのような変化に影響を与えていると考えられ、ミレニアル世代が歳を取るにつれて、脳卒中による死亡がさらに増加することが予測されるという。米ラトガース・ニュージャージー医科大学のCande Ananth氏らの研究によるもので、詳細は「International Journal of Epidemiology」に11月7日掲載された。論文の筆頭著者である同氏は、「われわれの研究結果は、脳卒中による死亡が増加するという憂慮すべき傾向に対応して、いま新たな戦略が必要であることを強調している」と述べている。 Ananth氏らはこの研究に、1975~2019年の44年間の米国の死亡統計データを利用。同期間に、18~84歳の脳卒中による死亡が433万2,220人記録されていた。脳卒中による年齢調整死亡率は、女性では1975年が10万人当たり87.5だったものが、2019年には同30.9にまで低下していた〔発生率比(IRR)0.27(95%信頼区間0.26~0.27)、1年当たり-2.78%(同-2.79~-2.78)〕。同様に男性も1975年が10万人当たり112.1で、2019年には38.7と大幅に減少していた〔IRR0.26(0.26~0.27)、1年当たり-2.80%(-2.81~-2.79)〕。 ただし、脳卒中による年齢調整死亡率は、2014年に底を打ち、解析対象期間の最後の5年間では再び上昇する傾向を示していた。Ananth氏は大学発のリリースの中で、「本研究のみでは、再上昇の傾向が見られる原因を特定することはできないが、ほかの研究からは、肥満と糖尿病の増加が脳卒中による死亡率上昇の主な原因であることが示唆されている」と話している。そして、「脳卒中の予防や治療が現状より改善されない限り、ミレニアル世代が歳を取るにつれて脳卒中による死亡者数が増加する可能性がある」と付け加えている。なお、ミレニアル世代とは、およそ1980~1990年代にかけて出生した世代を指す。 脳卒中のタイプ別に比較すると、出血性脳卒中による死亡率は研究対象期間中に約65%の低下だったのに対して、虚血性脳卒中による死亡率は約80%低下と、より大きく減っていた。ただ、虚血性脳卒中の年齢調整罹患率の推移に着目すると、1950年代後半から1990年代前半にかけて、着実に上昇していたことが分かった。Ananth氏は、「1960年ごろ以降に生まれ、より最近になって生まれた世代ほど、虚血性脳卒中を患うリスクが高くなる」と話している。 このほか、本研究からは、性別での比較では、男性の方が脳卒中による死亡リスクが高いものの、その性差は高齢になると少なくなることが分かった。例えば55歳の男性が脳卒中により死亡するリスクは女性の2倍以上だが、85歳ではほぼ等しいレベルになっていた。

799.

英語で「因果関係があるとは言えない」は?【1分★医療英語】第70回

第70回 英語で「因果関係があるとは言えない」は?More patients got better blood pressures with this drug in the new study.(この新しい研究によると、この薬剤で、より多くの患者さんの血圧が改善すると示されています)Well, correlation is not causation. This result might have been confounded by other factors.(薬剤による相関関係が示されても、因果関係があるとはいえないね。その研究では交絡因子があるかもしれないから)《例文1》A significant correlation does not mean significant causation.(有意な相関関係があることは、有意な因果関係があることを意味しない)《例文2》I know there is correlation between A and B, but causation is not established yet.(AとBとの間には相関があることは知っているけれど、因果関係はまだ確立されていない)《解説》“correlation is not causation”は、よく引用される有名なフレーズです。“correlation”(コリレーション)は「相関関係」を意味します。同じ意味で使われる、“association”の方が医学文献などでは、より一般的かもしれませんが、このフレーズでは語呂を合わせるために、“correlation”を使います。一方で“causation”(コーゼイション)は「因果関係」を意味し、「原因」という意味でよく目にする“cause”に関連する名詞です。専門家同士での議論で頻用される表現ですが、コロナ禍で臨床試験の結果が広く議論される機会が増えたので、一般人向けのニュースでも耳にするようになりました。このフレーズとセットで、“confound”(交絡する)、“confounder”(交絡因子)という単語も覚えておくと便利です。講師紹介

800.

87歳で脳卒中になるも周囲を説得し独居を続けた女性が見事に回復―AHAニュース

 8月のある日曜日の朝、米国カリフォルニア州に住む87歳の女性、Barbara Bartelsさんは、自宅近くのカフェで友人とコーヒーを飲んでいた。彼女はミクストメディアアーティスト(複数の素材を組み合わせた作品を創造する芸術家)だが、自分自身のことを“隠者”と呼び、アーティスト仲間以外との交流はほとんどなかった。 そんなBartelsさんは元ファッションデザイナーでもあり、自分の身体的・精神的健康をよく気遣っていた。毎日ヨガを続けていたし、最近は気功も始めた。かつて、多くのアーティストがそうであったように、彼女も以前は喫煙者だったが50代前半で禁煙した。唯一の気がかりは体質的なものによる高血圧で、降圧薬を服用していた。 カフェでの友人との会話の最中、自分が口にしている言葉が意味をなしていないことに気付いた。脈絡のない言葉が口をついて出てきて、支離滅裂だった。心配になった友人は、Bartelsさんの携帯電話の「お気に入り」リストの最初の番号に電話をした。電話に出たのはBartelsさんの姪だった。 状況を聞いたBartelsさんの姪は、「すぐに119番に通報して」と頼んだ。友人は「本当に必要? 家に帰って休めば治るのでは?」と確認したが、言葉をスムーズに話せないという症状が脳卒中によって起きることを知っていた姪は、「すぐに救急要請を」と再度頼んだ。 Bartelsさんは、確かに脳卒中を起こしていた。友人の的確な行動のおかげで、血栓溶解薬を使える時間内に病院に搬送され、治療された。病院に駆けつけた娘や親戚に対して医師は、「専門施設での集中的なリハビリテーションに、数カ月とは言わないまでも、数週間を要するのではないか」と語った。ところが麻酔から目を覚ましたBartelsさんは、歩くことも話すこともでき、麻痺も認知障害も起きていなかった。 3日後に退院し帰宅。医師は筋肉を強化するために外来リハビリテーションを勧めたが、彼女は「自宅で運動する」というアイデアに固執した。家族にはそのアイデアが正しいものとは思えなかった。医師が語った「数週間の専門的なリハビリが必要」との言葉と大きく異なるし、脳卒中後の高齢者の状況は悲惨なものだと信じ込んでいたからだ。 「お母さんは脳卒中になったのよ。誰かがいつも見守っていないと」と娘は語り、介護施設への入所を勧めた。これに対して、30歳で離婚し、子どもが親元を離れてからは自分一人で全てに対処してきたBartelsさんはこう答えた。「ちょっと待って。私がこれからどれだけしっかりやっていけるか見ていてほしい。私にはできるはず」。 この家族の会話を、Bartelsさんのアーティスト仲間で長年の友人であるAndrea Borsukさんが、たまたま横で聞いていた。Borsukさんは、自分と同世代の高齢者が自立した生活を続けたいと主張することを、素晴らしいことだと感じた。その考え方は、かつてBorsukさんの90歳になる母親を介護施設に入所させるべきか否かをBartelsさんに相談した時、Bartelsさんが語った考え方だった。結局、BartelsさんとBorsukさんの主張を家族は受け入れた。しばらくの間、Bartelsさんの仲間の誰かが毎日彼女の自宅を訪問し、しっかり生活できているか、異常がないかを確認することにした。そのためBorsukさんは、アーティストグループで共用するオンラインのスケジュール帳を作成した。 それからというもの、日々、Bartelsさんのもとを友人や近所の人たちが交代で訪ね、食事の準備をしたり用事を代行するようになった。Borsukさんは、「心配してくれる多くの人々に囲まれて生活していることが、彼女のモチベーションを高めたに違いない」と語る。 一方、Bartelsさんは、医師が当初語った彼女の回復に関する悲惨な予測を、その後も修正しようとしないことにフラストレーションを感じていた。彼女がどれだけうまくやっているかを見て、医師が早期に見通しを修正していたなら、Bartelsさんの家族も「高齢者が脳卒中になったら回復しない」という思い込みを、早いうちに捨てていただろうと彼女は振り返る。 Bartelsさんの考え方の正しさは、その後の事実が物語っている。脳卒中から6週間後、医師は彼女に運転を許可した。6カ月がたち、彼女は今、よりエネルギッシュに、強くなったと感じている。「ただ、自分自身にプレッシャーもあった。私は自分が言った通りに回復可能であることを、子どもたちに証明しなければならなかったのだから」とBartelsさんは語っている。[2023年1月26日/American Heart Association] Copyright is owned or held by the American Heart Association, Inc., and all rights are reserved. If you have questions or comments about this story, please email editor@heart.org.利用規定はこちら

検索結果 合計:4321件 表示位置:781 - 800