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若年性認知症と紛らわしい、初老期のADHD【外来で役立つ!認知症Topics】第8回

認知症専門クリニックの当院を訪れる患者さんの平均年齢は75歳、偏差は10歳くらいかと思う。だから40~65歳の患者さんが来られると、「若年性認知症か?」とまずは疑う。実際にはそれもあるが、複雑部分発作のようなてんかん性疾患や、睡眠時無呼吸症候群だと診断される人も少なくない。ところがここ数年、認知機能についても脳画像などの生物学的な診断指標についても問題なく、最終的に正常と診断する例が増えてきた印象がある。そこでこうした患者さんには、何か共通する背景があるのではないかと思うようになった。理系の学校卒、技術職で働いてきた人で、いわゆる理屈屋さんの傾向があるか?とまず思い当たった。そこで「そもそもどうして来院されたのですか?」と改めて尋ねると、「実は自分でも悪いとは思っていない。上司(あるいは女房)が認知症かどうか専門医に調べてもらうように言ったから」という回答が多いことがわかった。たまたまこの頃、「60歳以上の注意欠如・多動症ADHD(Attention Deficit Hyperactivity Disorder)にご注意を」という主旨の英文記事1)を読んだ。「60歳以上のADHD」という言葉に、「ほーっ」と感心した。実は20年ほど前に「大人になったADHD」という言葉を知ったとき、まず驚いたものだ。というのは、子供の頃の同級生や知友を思い浮かべても、ADHDは児童期には目立っても成長とともに改善し、多くの場合、成人になると治るものとずっと私は思っていたからである。ADHDは大人になってから表面化することもその専門家である岩波 明氏によると、「ADHDは、成人の3〜4%が持っているといわれており、診断を受ける大人が増えている。とくに症状が軽い場合、また周囲の環境によっては見過ごされることもある。しかし大人になると、就職や結婚などによって行動の範囲や人間関係が複雑になるため、それに対処しきれなくなったときに問題が表面化し、症状に気付くことがある」と述べられている。そして注意に関わる特徴として、「注意を持続するのが難しい」、「ケアレスミスが多い」、「片付けが苦手・忘れ物が多い」などを指摘されている2)。それを思い出した上で、60歳以上のADHDの特徴を丁寧に読み返してみた。(1)スイスチーズ記憶:覚えているものもあるが、スコンと抜けるものもある、いわゆる斑ぼけ。(2)気を逸らされるとやりかけの仕事を忘れてしまう。(3)物を定位置に戻さない。(4)くり返し、真っ白になる。(5)家計などの金銭収支を合わせられない。(6)周りに配慮せずしゃべり過ぎる。(7)他者を遮る。(8)他者と安定した関係が保てない。とあった。こうした目で認知症疑いの受診者を見直してみると、先ほどは最終的に知的正常とした中にも、ADHDと考え直すケースが少なくないと考えた。だから最近では、テストが正常であっても、ADHDでは?と思い直して、そのチェックのためにAQ(自閉症スペクトラム指数)3)を施行している。上記の症状のうち、とくに(1)~(5)は認知機能がらみである。一方で(6)~(8)は、従来からのいわゆる「キャラ」関連であろう。そもそもどうして初老期以降になってADHDが顕在化するのか? 答えはわからないのだが、やはり加齢化による機能低下は重要だろう。認知症は、以前は「痴呆症」と呼ばれたように、知性や知識の病である。ところで精神現象を包括する語に「知情意」がある。「情」とは心、「意」とは意欲である。ADHD の素因がある人は、年齢を重ねた時に、ミニメンタルステート検査(MMSE)、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDSR)などで定量化しやすい知のみならず、情意についても、ほころびを生じやすいのではなかろうか。(6)~(8)は、本来の傾向が、この情意のほころびによって強められた現れなのかもしれない。こうしたことで、当事者の周囲が見て取る「知情意」の変化が認知症の初期症状と捉えられ、認知症専門外来という話になるのかもしれない。初老期のADHD治療さて治療においては、まず自分にはどんな問題があるかを、初老期になった当事者に自覚してもらう必要がある。上記報告1)はこれを簡潔に述べている。(1)先送りにしがちだ。(2)苛つきやすい自分をコントロールする必要がある。(3)制限時間を意識した段取りと進行が求められる。(4)落ち着かなさ、雑念が頭の中を駆け巡る、しゃべり過ぎ。などは過活動の残骸と考えよう。またADHDに適応がある薬物には、メチルフェニデート(商品名:コンサータ)、アトモキセチン(ストラテラ)、グアンファシン(インチュニブ)、リスデキサンフェタミン(ビバンセ)の4剤がある。いずれも副作用など危険性も高く、その処方にはADHDに精通した医師の関わりが求められているだけに、医師なら誰でもとはいかないだろう。終わりに、初老期以降のADHDと思しき人の病識、あるいは自覚について。それがある人と、まったくといっていいほどない人にきれいに二分されるという印象がある。筆者がADHD疑いと思っても本人が否定する場合は、本人と近しい人にもAQをやってもらう。それと本人の回答が明らかに乖離することが、こうしたケースの特徴のようだ。参考1)Nadeau K. A Critical Need Ignored: Inadequate Diagnosis and Treatment of ADHD After Age 60. ADDITUDE. 2022 July 14.2)NHK健康チャンネル 大人の「注意欠如・多動症(ADHD)」とは?特徴や治療を解説!(2023年7月21日)3)若林明雄ほか. 自閉症スペクトラム指数(AQ)日本語版の標準化. 心理学研究. 2004;75:78-84.

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リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップーP(対象)設定の要点と実際 その2【「実践的」臨床研究入門】第35回

P(対象)をより具体的で明確なものにする今回は前回に引き続き、P(対象)を設定する際の要点について解説します。Pを設定する際、PがResearch Question(RQ)で設定したO(アウトカム)のat risk集団(Oを発生する可能性のある集団)であることも、押さえるべきポイントです。前述のとおり(連載第34回参照)、プライマリのOは末期腎不全(透析導入)と設定しました。したがって、すでに末期腎不全に至り、透析導入(もしくは腎臓移植)された患者さんはat risk 集団にならず、除外されることになります。できればPは設定したOを起こしやすい集団とするのもコツのひとつです。なぜなら、Oを発症しやすい集団を対象とした方が研究の「効率が良い」からです。ここで言う「効率が良い」の意味は、より少ないサンプル数や短い観察期間で興味のあるOの発生数を確保することができる、ということです。その結果、研究の実施可能性や統計的な検出力が高まります。筆者が米国留学以来関わっている、DOPPS(Dialysis Outcomes and Practice Patterns Study)という血液透析患者さんを対象とした国際的な臨床疫学研究があります。血液透析患者さんは健常人と較べて、死亡や心血管イベント発症などハードエンドポイント(連載第3回参照)を起こすリスクがかなり高い集団です。ハイリスクな血液透析患者集団の中でも、その予後には国際間で大きな差があることが知られています。日本の血液透析患者さんの予後は、米国の患者さんのそれより圧倒的に良好なことが、DOPPSなどの研究成果から示されています。米国留学中にご指導頂いていたミシガン大学の腎臓内科と臨床疫学の名誉教授であるFK Port先生が、"US data are bad for patients but good for statistical analysis."と日本から来た筆者に自虐的に? おっしゃっていたことを覚えています。また、「研究対象集団」のデータ取得の場である「セッティング」についてキチンと明記することも重要です(連載第34回参照)。われわれのRQの「標的母集団」は慢性腎臓病(CKD)集団全体です。しかし、本研究で実際に診療データにアクセスできるのは自施設の外来に通院中の患者のみであったとすると、「セッテイング」は単施設外来ということになります。単施設の「セッテイング」で行われた臨床研究では、その施設の特性やそこに通院する患者背景などの偏り(選択バイアス)が結果に影響を及ぼす可能性があります(連載第34回参照)。ちなみに、このような「選択バイアス」の影響を出来るだけ減らすために、DOPPSでは「2段階無作為抽出法」というサンプリング手法がとられています。第1段階として、研究施設を所在地や経営母体(公立・私立など)、施設規模(患者数)を考慮して無作為に抽出。第2段階で、施設規模に合わせて研究対象患者を施設毎に無作為抽出。このようなサンプリング手法を用いることにより、「研究対象集団」の代表性を担保しているのです。さて、ここで、われわれのRQのPをあらためて以下のように整理してみました。P(対象):慢性腎臓病(CKD)患者組み入れ基準診療ガイドライン1)で定義されるCKD患者除外基準  ネフローゼ症候群、透析導入(または腎移植)された患者S(セッティング):単施設外来このように組み入れ基準、除外基準、セッテイングも含めて、Pをより具体的で明確なものにします。そうすることにより、研究結果の解釈が容易となり、またその研究結果を他の状況に適用する際の判断もしやすくなるのです。1)日本腎臓学会編集. エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023. 東京医学社;2023.

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前庭機能障害は認知機能低下の修正可能なリスク因子である可能性

 前庭機能障害は認知機能低下の修正可能なリスク因子かもしれないとする研究結果が、「Frontiers in Neuroscience」に4月4日掲載された。 北京清華長庚医院および清華大学医学部(中国)のJiake Zhong氏らは、メニエール病(MD)患者において、治療前および治療後3、6、12カ月時点の認知機能、および回転性めまい症状とそれによる身体活動、社会的機能、感情への影響を評価した。アウトカムは、モントリオール認知評価尺度(MoCA)およびめまい問診票(Dizziness Handicap Inventory)を用いて評価した。 その結果、MD患者では、治療前の認知機能、中でも記憶機能が健康成人対照群と比較して低下していた。認知機能障害は効果的な治療の実施後に改善しており、この改善は回転性めまい症状の重症度の低下、特に社会的機能、身体活動に対する影響の低下に関連していた。 著者らは「中後期のMD患者に回復困難な進行性難聴が多く見られることを考慮すると、前庭機能は認知機能低下の潜在的に修正可能なリスク因子である可能性が高い。今後は、回転性めまい発作の回数、持続時間、頻度、さまざまな下位領域における認知課題、神経電気生理学的指標などの、より客観的かつ包括的な評価を実施し、より大きなサンプルにおいてそれらの関連性をさらに探索する予定である」と述べている。

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29歳で2カ所の脳梗塞を発症した女性

 当時29歳の米国ニュージャージー州の女性、Bethany Moeddelさんは、夜のパーティーに参加した翌日、吐き気と頭痛を感じた。二日酔いだと判断した。とはいえ、ボーイフレンドの弟が、カトリック教徒になるための重要な儀式である初聖体が予定されていたため、寝て過ごすわけにはいかなかった。 教会に到着しいったんは礼拝堂の席に着いたが不快感は続いていた。礼拝堂の中で嘔吐してしまわないように、席を外して車に戻った。暑い日だったので、車のドアを開けたままにして休んだ。次に彼女が覚えているのは、救急隊員の声である。「リビング・ウィルはありますか?」と隊員が尋ねた。彼女が「なぜ? 私は死ぬの?」と聞き返すと、「分かりません」という答えが返ってきた。 2日後、Moeddelさんは集中治療室(ICU)で目覚めた。左半身を動かすことができなかった。ベッドサイドに親友が座っていて、脳卒中が起きたことを伝えられた。より正確には、脳の右側の額の近くに1カ所、耳の後ろ辺りに1カ所、計2カ所の梗塞巣が確認されていた。医師から「腕を上げてみて」などの指示が立て続けに出され、Moeddelさんは混乱し、苛立ちと怒りを感じた。彼女は自分の体に何が起こっているのかをまだ十分理解していなかった。 ICUで1週間強過ごし、その後、リハビリテーション病院で約2カ月間を過ごした。退院に際しては車椅子と杖が用意され、介護施設で生活するか、両親とともに生活するかという選択肢が示された。結局、オハイオ州から車で来た両親とともに、実家に戻ることになった。「私は数週間もすれば回復すると思っていた。まさか、その状態が永久に続くとは考えていなかった」と彼女は振り返る。 15年の時が経過した。現在44歳のMoeddelさんは、まだ左半身の部分的な麻痺が残っているものの、自力で歩けるし、階段を上ったり車を運転することもできる。ただ、今もオハイオ州の実家暮らしだ。数年前にニュージャージー州に戻ろうと試みたが、長くは続けられなかった。 脳卒中を発症前、Moeddelさんは弁護士補助の資格取得を目指し、仕事と勉強を両立させていた。現在は電子メールとライブチャットを利用したリモートワークで、顧客サービス業務に携わっている。それだけでなく、脳卒中の啓発活動にボランティアとして参加し、学校を訪問して子どもたちに脳卒中の症状について教えている。また、米国心臓協会(AHA)主催のミニマラソン・ウォーキング大会にエントリーして、それをリハビリ継続のモチベーションとしている。昨年は8マイル(約15km)以上歩き、今年も同じくらいの距離を歩き切った。 この15年の間に、父親が亡くなった。2012年のことだった。一方、母親のRuth Moeddelさんは、「われわれ親子は役割があべこべだ。成人した子どもが年老いた親の世話をする代わりに、年老いた親が成人した子どもの世話をするのだから」と言いながらも、娘の健康を心配している。彼女は、新型コロナウイルス感染症のために、息子も亡くした。 そんなRuthさんは、「Bethanyはタフで立ち直る力を持っている。彼女がリハビリ病院を退院する時、私の娘が車椅子から離れられることは決してないだろうと誰もが言った。しかし今、娘は驚くほど元気に過ごしている」と語っている。[2023年7月19日/American Heart Association] Copyright is owned or held by the American Heart Association, Inc., and all rights are reserved. If you have questions or comments about this story, please email editor@heart.org.利用規定はこちら

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2cm未満の前庭神経鞘腫、放射線治療が有効/JAMA

 小~中型の片側性前庭神経鞘腫の治療において、早期の放射線治療(upfront radiosurgery)は経過観察(wait and scan)と比較して、4年後の腫瘍体積が有意に減少し、聴力や単語認知の変化には差がなかったことが、ノルウェー・Haukeland大学病院のDhanushan Dhayalan氏らが実施した「V-REX試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌2023年8月1日号に掲載された。ノルウェーの医師主導無作為化臨床試験 V-REXは、ノルウェーの単一施設(Haukeland大学病院)で実施された優越性を検証する医師主導の無作為化臨床試験であり、2014年10月~2017年10月の期間に患者を登録し、2021年10月に4年間の追跡調査を終了した(同病院神経外科などによる研究支援を受けた)。 対象は、年齢18~70歳、新規に診断(6ヵ月以内)された片側性の前庭神経鞘腫で、MRIで測定した小脳橋角部の腫瘍径が2cm未満の患者であった。被験者を、早期に放射線治療(ガンマナイフを用いた定位手術的照射)を受ける群、または経過観察(画像上で腫瘍の増殖が認められた場合にのみ治療を行う)を受ける群に無作為に割り付けた。 主要評価項目は、4年後の試験終了時とベースライン時の腫瘍体積の比(V4:V0)であった。副次評価項目は、患者報告による症状や臨床検査、聴力検査、生活の質(QOL)を含む26の項目だった。副次評価項目は、1つを除き差がない 98例を登録し、放射線治療群に48例(平均年齢54[SD 12]歳、女性46%)、経過観察群に50例(54[SD 10]歳、38%)を割り付けた。放射線治療群の3例(6%)が、介入から3年後に持続性の腫瘍増殖により追加治療を要した(再放射線治療1例、サルベージ・マイクロサージャリー2例)。経過観察群では、21例(42%)が腫瘍増殖時に放射線治療を、1例(2%)がサルベージ・マイクロサージャリーを受け、28例(56%)は無治療だった。 4年後の幾何平均V4:V0は、経過観察群が1.51(95%信頼区間[CI]:1.23~1.84)であったのに対し、放射線治療群は0.87(0.66~1.15)と、腫瘍体積が有意に減少した(両群の比:1.73、95%CI:1.23~2.44、p=0.002)。 一方、26の副次評価項目のうち、非対称性の顔面の感覚異常(6件[12%]vs.0件[0%])の発現が放射線治療群で多かったが、残りの25項目は有意差を認めなかった。 たとえば、純音聴力検査による聴力は試験期間中に両群とも低下し、4年後の平均値は放射線治療群が60dB、経過観察群が61dBであり、ベースラインからの悪化の程度はそれぞれ18dBおよび20dBであった(平均群間差:-2dB、95%CI:-8~5)。また、4年後の単語認知スコアの平均値は、放射線治療群が42%、経過観察群が47%であり、ベースラインからの低下はそれぞれ35%および29%だった(-6%、-19~7)。 死亡および放射線関連の合併症(水頭症、脳幹壊死、放射線誘発腫瘍、悪性形質転換など)は発現しなかった。 著者は、「これらの知見は、前庭神経鞘腫患者の治療方針の決定に有益な情報をもたらす可能性があり、今後、長期的な臨床アウトカムの調査が求められる」としている。

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高齢コロナ感染者の退院後死亡率、インフルより高い/BMJ

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で入院後に生存退院した米国の65歳以上の高齢者(メディケア受給者)88万3,394人を含む後ろ向きコホート研究で、インフルエンザで入院後に生存退院した高齢者と比較した結果、COVID-19で入院した高齢者の生存退院後の死亡リスクが高率であったことが、米国・ベス・イスラエル・ディーコネス医療センターのAndrew S. Oseran氏らにより明らかにされた。ただし、両者の差は退院後の早期においてみられるものであり、同死亡リスクはパンデミックの経過と共に漸減していたという。BMJ誌2023年8月9日号掲載の報告。インフルエンザ生存退院の対照と比較、退院180日以内の全死因死亡などを評価 研究グループは後ろ向きコホート研究にて、高齢者におけるCOVID-19入院後の長期にわたる死亡および再入院のリスクを調査した。 2020年3月1日~2022年8月31日にCOVID-19で入院後に生存退院した65歳以上のメディケア出来高払い制プランの加入者88万3,394人(COVID-19コホート)を、2018年3月1日~2019年8月31日にインフルエンザで入院後に生存退院した対照5万6,409人(インフルエンザコホート)と比較した。観察された特性の違いは、重み付け法(weighting methods)を用いて解釈した。 主要アウトカムは、退院180日以内の全死因死亡とし、副次アウトカムは、180日以内のあらゆる原因による初回再入院、死亡または再入院の複合などとした。180日間にわたり死亡リスクはCOVID-19コホートが高率 COVID-19コホートはインフルエンザコホートと比較して、平均年齢が若く(77.9 vs.78.9歳、標準化平均差:-0.12)、女性の割合が低かった(51.7% vs.57.3%、-0.11)。両群の黒人加入者(10.3% vs.8.1%、0.07)、メディケイドとメディケア両方の適格者(20.1% vs.19.2%、0.02)の割合は類似していた。なお、COVID-19コホートのほうが次の併存疾患による負荷が低かった。心房細動(24.3% vs.29.5%、-0.12)、心不全(43.4% vs.49.9%、-0.13)、慢性閉塞性肺疾患(39.2% vs.52.9%、-0.27)。 重み付けで調整後、COVID-19コホートはインフルエンザコホートと比較して、退院後の全死因死亡リスク(累積発生率)が、30日時点(10.9% vs.3.9%、標準化リスク差:7.0%[95%信頼区間[CI]:6.8~7.2])、90日時点(15.5% vs.7.1%、8.4%[8.2~8.7])、180日時点(19.1% vs.10.5%、8.6%[8.3~8.9])のいずれの評価時点でも高率であった。 再入院リスクもCOVID-19コホートが、30日時点(16.0% vs.11.2%、標準化リスク差:4.9%[95%CI:4.6~5.1])と90日時点(24.1% vs.21.3%、2.8%[2.5~3.2])では高率であったが、180日時点では同等であった(30.6% vs.30.6%、-0.1%[-0.5~0.3])。 なお試験期間中に、COVID-19コホートの30日死亡リスクは17.9%から7.2%に低下していた。

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学校でのコロナ感染対策、マスクとワクチン完全接種が有用

 学校の生徒と職員を対象に、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の学校内での感染リスクについて、2年間の接触追跡データに基づいた調査が、米国・マサチューセッツ総合病院のSandra B. Nelson氏らの研究チームによって行われた。その結果、学校生活において、マスクの使用状況やワクチン接種状況、校内の活動や地域の社会的状況など、感染リスクが高くなる要因が明らかになった。JAMA Health Forum誌2023年8月4日号に掲載の報告。 本調査は、マサチューセッツ州の幼稚園から中等教育までの学校を対象に、2020年秋~21年春学期(F20/S21、従来株の優勢期)および2021年秋学期(F21、デルタ株の優勢期)の2つの期間にわたって行われた。F20/S21は70校3万3,000人以上、F21は34校1万8,000人以上が参加した。学校内でSARS-CoV-2に2次感染した割合をSAR(Secondary Attack Rate)と定義した。SARは検査によって確認された値で算出した。感染と関連する可能性のある要因(学年、マスクの着用、曝露した場所、ワクチン接種歴、社会的脆弱性指数[SVI]など)について、ロジスティック回帰モデルを用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・F20/S21期での学校関連SARは2.2%、F21期での学校関連SARは2.8%となり、両期間ともに低かった。・F20/S21期では、昼食時(未調整SAR:11.1%)、初発症例者と接触者の両方がマスクを着用していない(11.7%)、学校内での至近距離での接触(18.2%)の場合に、SARが有意に高かった。・F21期では、高学年や職員よりも低学年(未調整SAR:4.6%)、教室内での曝露(3.4%)、接触者がTTSプログラム(毎日の迅速抗原検査)に参加していない場合や、接触者がワクチン接種未完了(5.3%)もしくは未接種(3.6%)、および指標症例が未接種(3.5%)である場合に、SARが有意に高かった。社会的脆弱性指数(SVI)スコアが高いほどSARも高かった(8.0%)。・多変量解析では、F20/S21期において、マスクの着用は、マスクを着用しない場合と比較して、伝播のオッズが低かった(オッズ比[OR]:0.12、95%信頼区間[CI]:0.04~0.40、p<0.001)。・F21期では、教室内の曝露は、教室外の曝露と比較して、伝播のオッズが高かった(OR:2.47、95%CI:1.07~5.66、p=0.02)。ワクチンを完全に接種した接触者は、未接種と比較して、オッズが低かった(OR:0.04、95%CI:0.00~0.62、p<0.001)。・F20/S21期とF21期の両期間とも、SVIスコアが高い地区ほど、伝播のオッズが高かった。 著者らは本結果について、「SVIスコアの高い低所得地域では、教室の密度が高くなる可能性があり、感染リスクが高くなることが示された。感染リスクの高い地域には、感染対策のためのリソースをより多く配分することで、健康と教育の格差を減少させることができるかもしれない」としている。

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2型糖尿病の肝硬変、GLP-1受容体作動薬により死亡リスク減

 肝硬変は2型糖尿病と関連していることが多いものの、肝硬変患者を対象とした2型糖尿病治療に関する研究はほとんどない。今回、台湾・Dr. Yen's ClinicのFu-Shun Yen氏らは2型糖尿病の肝硬変患者を対象にGLP-1受容体作動薬による治療の長期アウトカムを調査した。その結果、2型糖尿病の肝硬変(代償性)患者がGLP-1受容体作動薬を使用した場合、死亡、心血管イベント、非代償性肝硬変、肝性脳症、肝不全のリスクが有意に低くなることが示された。Clinical Gastroenterology and Hepatology誌オンライン版2023年6月16日号掲載の報告。2型糖尿病の肝硬変患者はGLP-1受容体作動薬による治療で死亡リスク減 研究者らは台湾の国民健康保険研究データベースを用い、傾向スコアマッチング法により2008年1月1日~2019年12月31日のGLP-1受容体作動薬の使用者と未使用者467組を選定した。 2型糖尿病の肝硬変患者を対象にGLP-1受容体作動薬による治療の長期アウトカムを調査した主な結果は以下のとおり。・平均追跡期間は、GLP-1受容体作動薬の使用者で3.28年、未使用者で3.06年だった。・それぞれの死亡率は、1,000人年当たり27.46例と55.90例だった。・多変量解析の結果、GLP-1受容体作動薬の使用者は未使用者に比べ、死亡(調整ハザード比[aHR]:0.47、95%信頼区間[CI]:0.32~0.69)、心血管イベント(aHR:0.6、95%CI:0.41~0.87)、非代償性肝硬変(aHR:0.7、95%CI:0.49~0.99)、肝性脳症(aHR:0.59、95%CI:0.36~0.97)、肝不全(aHR:0.54、95%CI:0.34~0.85)のリスクが低いことが示された。・GLP-1受容体作動薬の累積使用期間が長いほど、GLP-1受容体作動薬を使用しなかった場合よりもこれらのリスクが低くなった。

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子宮頸管20mm以下の妊婦、ペッサリーで胎児死亡増/JAMA

 単胎妊娠で子宮頸管長が20mm以下の妊婦に対する子宮頸管ペッサリーは、早産リスクを低下せず、胎児または新生児/乳児の死亡率が増加したことが、米国・コロンビア大学のMatthew K. Hoffman氏らによる多施設共同無作為化非盲検試験「The randomized Trial of Pessary in Singleton Pregnancies With a Short Cervix:TOPS試験」で示された。経腟超音波検査で評価した子宮頸管短縮は早産のリスク因子として確立されているが、その単胎妊娠における早産予防のための子宮頸管ペッサリーに関する研究では、これまで相反する結果が示されていた。JAMA誌2023年7月25日号掲載報告。子宮頸管ペッサリー群vs.通常ケア群に無作為化 研究グループは、2017年2月~2021年11月5日に米国の12施設において、単胎妊娠で妊娠週数16週0日~23週6日の経腟超音波検査で子宮頸管長が20mm以下であった陣痛のない妊婦を登録し、訓練を受けた医師による子宮頸管ペッサリー留置群、または通常ケア群のいずれかに1対1の割合で無作為に割り付けた。自然早産歴のある妊婦は除外した。 プロゲステロン膣剤の使用、子宮頸管縫縮術を含むその後の産科ケアは、担当医の裁量に任された。 主要アウトカムは、妊娠37週0日より前の早産または胎児死亡とした。子宮頸管ペッサリー群で、胎児または新生児/乳児の死亡率が上昇 2,105例がスクリーニングを受け、適格であった1,019例のうち544例(予定症例数の64%)が、ペッサリー群(280例)または通常ケア群(264例)に無作為化された。平均年齢(±SD)は29.5±6歳、98.9%の症例がプロゲステロン膣剤の投与を受けており、ベースラインの患者背景はペッサリー群と通常ケア群で類似していた。 3回目の中間解析において、胎児または新生児/乳児死亡が高頻度にみられ、安全性の懸念と無益性のため試験は中止された。 解析対象集団(各群追跡不能の1例を除く無作為化されたすべての参加者)において、主要アウトカムのイベントは、ペッサリー群で127例(45.5%)、通常ケア群で127例(45.6%)発生した(相対リスク:1.00、95%信頼区間[CI]:0.83~1.20)。 胎児または新生児/乳児の死亡は、ペッサリー群37例(13.3%)、通常ケア群18例(6.8%)であった(相対リスク:1.94、95%CI:1.13~3.32)。

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HIV感染者の心血管イベント、ピタバスタチンで35%減/NEJM

 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染者において、ピタバスタチンはプラセボと比較し、追跡期間中央値5.1年で主要有害心血管イベントのリスクを低下することが示された。米国・マサチューセッツ総合病院のSteven K. Grinspoon氏らが12ヵ国145施設で実施した無作為化二重盲検第III相試験「Randomized Trial to Prevent Vascular Events in HIV:REPRIEVE試験」の結果を報告した。HIV感染者は、一般集団と比較して心血管疾患のリスクが最大2倍高いことが知られており、HIV感染者における1次予防戦略に関するデータが求められていた。NEJM誌オンライン版2023年7月23日号掲載の報告。HIV感染者約7,800例において、主要有害心血管イベントの発生を評価 研究グループは2015年3月26日~2019年7月31日に、抗レトロウイルス療法を受けている心血管疾患リスクが低~中等度の40~75歳のHIV感染者7,769例を登録し、ピタバスタチン群(ピタバスタチンカルシウム1日4mgを1日1回経口投与)またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付けた。過去90日以内のスタチン使用歴があり、アテローム性動脈硬化症が認められた患者は除外した。 主要アウトカムは、主要有害心血管イベント(心血管死、心筋梗塞、不安定狭心症による入院、脳卒中、一過性脳虚血発作、末梢動脈虚血、冠動脈・頸動脈・末梢動脈の血行再建術、原因不明の死亡の複合と定義)とし、出生時の性別およびスクリーニング時のCD4数で層別化したCox比例ハザードモデルを用いたtime-to-event解析を行った。ピタバスタチンで心血管イベントが35%低下 7,769例(ピタバスタチン群3,888例、プラセボ群3,881例)の年齢中央値は50歳(四分位範囲[IQR]:45~55)、CD4数の中央値は621個/mm3(IQR:448~827)であった。また、HIV RNA量は、利用可能なデータを有する5,997例中5,250例(87.5%)で定量未満であった。 本試験は、追跡期間中央値5.1年(IQR:4.3~5.9)時点の2回目の中間解析の結果、有効性が認められ安全性の懸念はなかったことから早期に打ち切りとなった。 主要有害心血管イベントの発生頻度は、ピタバスタチン群が1,000人年当たり4.81、プラセボ群は1,000人年当たり7.32で、ハザード比(HR)は0.65(95%信頼区間[CI]:0.48~0.90、p=0.002)であった。 有害事象については、Grade3以上または治療変更を要した筋肉痛またはミオパチーがピタバスタチン群で91例(2.3%)、プラセボ群で53例(1.4%)、糖尿病がそれぞれ206例(5.3%)、155例(4.0%)に認められ、いずれもピタバスタチン群では発現率が高かった。 なお、著者は、「今回はピタバスタチンを用いた結果ではあるが、LDLコレステロールを低下させる他の戦略も同様に有用である可能性があり、さらなる大規模臨床試験においてスタチン療法単独で得られた結果と比較検証する必要がある」とまとめている。

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コロナ2価ワクチンのブースター接種、安全性が示される/BMJ

 50歳以上の成人において、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する4回目ブースター接種ワクチンとしてのオミクロン株対応2価mRNAワクチンは、事前規定の27種の有害事象に関するリスク増大との関連は認められなかったことが、デンマーク・Statens Serum InstitutのNiklas Worm Andersson氏らによる同国の50歳以上の接種者を対象に行った試験で示された。BMJ誌2023年7月25日号掲載の報告。接種後28日間の27種の有害事象による病院受診率を評価 研究グループは2021年1月1日~2022年12月10日に、COVID-19ワクチンを3回接種した50歳以上の成人222万5,567人を対象とするコホート試験を行った。 主要アウトカムは、オミクロン株対応2価mRNAワクチンの4回目ブースター接種後28日間(主要リスク期間)の27種の有害事象による病院受診率で、同ワクチン3回目あるいは4回目接種後29日以降(参照期間)の同受診率と比較した。27種の有害アウトカムいずれも増大せず 2価mRNAワクチンの4回目接種者は、174万417人(平均年齢67.8[SD 10.7]歳)だった。 2価mRNAワクチンの4回目接種は、参照期間と比較して、主要リスク期間の全27種の有害アウトカムの統計学的に有意な増大と関連していなかった。たとえば、虚血性心イベントの発生件数は、主要リスク期間で672件、参照期間では9,992件で、発生率比は0.95(95%信頼区間[CI]:0.87~1.04)だった。 年齢や性別、ワクチンタイプに基づく解析や、別の解析手法を用いた場合でも、同様の結果が得られた。 ただし事後分析で、心筋炎のリスクが検出されたが(女性被験者では統計学的に有意に関連)、発現はまれで少数の症例に基づく所見だった。また、脳梗塞リスクの増大はみられなかった(主要リスク期間644件vs.参照期間9,687件、発生率比:0.95、95%CI:0.87~1.05)。

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ネモリズマブ、6~12歳のアトピー性皮膚炎にも有用

 ネモリズマブは、アトピー性皮膚炎(AD)に伴うそう痒を有し、外用薬や経口抗ヒスタミン薬で効果不十分な6~12歳の小児患者にとって、新たな治療選択肢となる可能性が示された。いがらし皮膚科東五反田院長(前NTT東日本関東病院 皮膚科部長)の五十嵐 敦之氏らが、6~12歳の日本人AD患者を対象に行った第III相多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験の結果を報告した。ヒト化抗IL-31受容体Aモノクローナル抗体ネモリズマブは、13歳以上のAD患者において外用薬との併用でそう痒を軽減し、QOLを改善することが示されていたが、13歳未満のAD患者における有効性および安全性に関するデータは不足していた。British Journal of Dermatology誌オンライン版2023年7月31日号掲載の報告。ネモリズマブによるそう痒の改善は投与2日目から観察された 研究グループは、ADに伴う中等度~重度のそう痒を有し、外用薬や経口抗ヒスタミン薬で効果不十分な6~12歳の日本人小児患者を対象とした試験を2020年9月より実施し、外用薬との併用投与によるネモリズマブの有効性と安全性を評価した。 被験者を1対1の割合で無作為にネモリズマブ30mgを投与する群(ネモリズマブ群)またはプラセボを投与する群(プラセボ群)に割り付け、4週ごとに投与し、16週間追跡比較した。 ネモリズマブの有効性の主要エンドポイントは、かゆみスコア(範囲:0~4、点数が高いほどそう痒が重度、3点以上を効果不十分と定義)の週平均値のベースライン時から16週時までの変化とした。ネモリズマブの有効性の副次エンドポイントは、そう痒(かゆみスコアのベースライン時から2週時までの変化、16週時における1点以下の達成率など)、AD指標(Eczema area and severity index[EASI]のベースライン時から16週時までの変化など)およびQOLであった。安全性は、有害事象および臨床検査値によって評価した。 ネモリズマブの有効性と安全性を評価した主な結果は以下のとおり。・合計で89例が無作為化され試験を完了した(ネモリズマブ群45例、プラセボ群44例)。・ベースライン時のネモリズマブ群とプラセボ群の患者特性は類似していた。被験者の平均年齢(標準偏差[SD])は9.1歳(1.9)、AD平均罹病期間(SD)は8.5年(2.7)であった。・かゆみスコアのベースライン時から16週時までの変化は、ネモリズマブ群-1.3点、プラセボ群-0.5点であり、ネモリズマブ群がプラセボ群と比較して有意に改善した(最小二乗平均差:-0.8、95%信頼区間[CI]:-1.1~-0.5、p<0.0001)。・ネモリズマブによるそう痒の改善は、投与2日目から観察された。・副次エンドポイントについても、ネモリズマブ群が良好であった。・投与中止に至った有害事象は報告されなかった。また、6~12歳のAD患者における安全性プロファイルは、13歳以上のAD患者におけるものと一貫していた。

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英語で「難しい天秤です」は?【1分★医療英語】第93回

第93回 英語で「難しい天秤です」は?I wonder if we should stop anticoagulation given recent GI bleeding.(最近あった消化管出血を考えると、抗凝固薬をやめるべきなのか悩んでいます) It is a difficult balancing act between risks and benefits.(それはリスクとベネフィットの難しい天秤ですよね)《例文1》The decision to proceed with the surgery requires a careful balancing act.(手術に進むかの決断には注意深いバランスが必要です)《例文2》We need to think about a delicate balancing act between pain control and sedation.(疼痛コントロールと鎮静の間で繊細な天秤を考える必要があります)《解説》医療現場では、相反する2つの事実を天秤に掛け、バランスを取らなければならないことはしばしばです。治療の益と害、手術をすべきかどうか。そんなときに、「対立する2つの間でバランスを取らなければならない=難しい天秤に掛けなければならない」という状況に置かれます。そういった際、患者さんへの説明、あるいは医療者同士の議論の場で有用な表現が、この“balancing act”です。“balancing act”は、本来は「曲芸における綱渡り」を意味する言葉だそうです。綱渡りは、絶妙なバランスを取りながら綱の上を渡る曲芸。医療者にも医療上の絶妙なバランスを求められることがありますが、そのようなバランスを取って決断していくことを“balancing act”という言葉で表現し、「両立させること」「バランスを取ること」という意味を持ちます。たとえば、冒頭の会話のシチュエーションはこのような感じです。心房細動の既往があり、血栓症のリスクが高い患者に消化管出血が起こった。血栓のリスクも、出血のリスクも高く、今後の抗凝固薬をどうすべきか…。この血栓リスク、出血リスクの両者は難しい天秤だと思いますが、それらを慎重に測りながら、どこかに線引きをして決断をしなければなりません。そんなシチュエーションを表現するのに、この“It is a balancing act”は最適な表現です。一般英会話の教科書で見ることは少ないかもしれませんが、医療現場ではよく登場する表現ですので、そのまま覚えてしまうとよいでしょう。講師紹介

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転移乳がんへのT-DXd、有効性に関わる因子はあるか(DAISY)

 HER2発現レベルに従って転移乳がん患者におけるT-DXdの有効性を評価し、複数時点での腫瘍検体のバイオマーカー分析を通じて治療反応と治療耐性に関わる因子を調査することを目的とした第II相DAISY試験の結果を、フランス・Gustave RoussyのFernanda Mosele氏らがNature Medicine誌オンライン版2023年7月24日号に報告した。 参加者はベースライン時のバイオプシー結果に基づき、HER2高発現群(IHC 3+またはISH+、72例)、HER2低発現群(IHC 2+/ISH-またはIHC 1+、74例)、およびHER2陰性群(IHC 0、40例)に割り付けられた。 主要評価項目は奏効率(ORR)で、副次評価項目には安全性などが含まれた。その他探索的解析として、HER2発現パターンと治療反応、T-DXdの作用機序および耐性機序が調べられた。 主な結果は以下のとおり。・ORRはHER2高発現群では70.6%(95%信頼区間[CI]:58.3~81)、HER2低発現群では 37.5%(95%CI:26.4~49.7)、HER2陰性群では29.7%(95%CI:15.9~47)だった。・HER2陰性群の患者において、ERBB2発現が中央値未満であった患者(14例中5例[35.7%]、95%CI:12.8~64.9)は、ERBB2発現が中央値を上回っていた患者(10例中3例[30%]、95%CI:6.7~65.2)と比較して奏効率に差はみられなかった。 またベースライン検体を外部の病理学者が検査した結果、15例(48%)でHER2発現が確認された。・治療中、HER2発現腫瘍(4例)では強いT-DXd反応が示された一方、HER2陰性腫瘍(3例)ではT-DXd反応がまったくまたはほとんど示されなかった(ピアソン相関係数r=0.75、p=0.053)。・ベースライン検体におけるドライバー変異には耐性と有意に関連しているものはなかった(FDR補正p>0.54)。ただし、ベースライン時の89例中6例(7%)にERBB2ヘミ接合型欠失が検出され、うち4例はT-DXdに反応がなかった。・T-DXd耐性となった検体の21例中3例(14%)にSLX4変異が検出された。・新たな安全性シグナルは確認されていない。 著者らは、HER2発現レベルはT-DXdの有効性の決定要因と言えるが、本研究ではそれ以外のメカニズムも関与している可能性が示唆されたとまとめている。

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コロナ急性期、葛根湯+小柴胡湯加桔梗石膏の症状消失までの期間は?/東北大

 コロナウイルス感染症(COVID-19)の急性期症状を有する患者に、対症療法に加えて葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏を投与した結果、有意差はなかったもののすべての症状の消失までの期間は対照群よりも早い傾向にあり、息切れの消失は補足的評価において有意に早かったことを、東北大学の高山 真氏らが明らかにした。Journal of Infection and Chemotherapy誌オンライン版2023年7月26日号の報告。 高山氏らが2021年2月22日~2022年2月16日にかけて実施した多施設共同ランダム化比較試験1)において、葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏の併用により、軽症~中等症I患者の発熱が早期に緩和され、とくに中等症I患者では呼吸不全への悪化が抑制傾向にあったことが報告されている。COVID-19の症状や病状悪化のリスクはワクチン接種の有無によって異なる可能性があるため、今回はこのランダム化比較試験のデータを用いて、ワクチン接種の有無も加味した症状の消失に焦点を当てた事後分析を行った。 研究グループは、20歳以上で軽症~中等症IのCOVID-19患者を対象に、通常の対症療法(解熱薬、鎮咳薬、去痰薬投与)を行うグループ(対照群)と、対症療法に加えて葛根湯2.5g+小柴胡湯加桔梗石膏2.5gを1日3回14日間経口投与するグループ(漢方群)の風邪様症状(発熱、咳、痰、倦怠感、息切れ)が消失するまでの日数を解析した。 主な結果は以下のとおり。・解析には、漢方群73例(男性64.4%、年齢中央値35.0歳)、対照群75例(65.3%、36.0歳)が含まれた。そのうち、ワクチン接種者は、漢方群7例(9.6%)、対照群8例(10.7%)であった。初回診察時のリスク因子や重症度は両群で同等であった。・少なくとも1つ以上の症状が消失した割合は、漢方群84.9%、対照群84.0%であった。消失までに要した日数の中央値は漢方群2日(90%信頼区間[CI]:2.0~3.0)、対照群3日(90%CI:3.0~4.0)で、有意差は認められなかったものの漢方群のほうが短い傾向にあった(ハザード比[HR]:1.28、90%CI:0.95~1.72、p=0.0603)。ワクチン接種の有無別では、ワクチン未接種の漢方群のHRは1.31(90%CI:0.96~1.79、p=0.0538)でほぼ同等であった。・すべての症状が消失した割合は、漢方群47.1%、対照群9.1%であった。消失までに要した日数の中央値は、漢方群9日(6.0~NA)、対照群NAで、同様に漢方群のほうが短い傾向にあった(HR:3.73、95%CI:0.46~29.98、p=0.1763)。ワクチン未接種の漢方群のHRは4.17(95%CI:0.52~33.64、p=0.1368)であった。・競合リスクを考慮した共変量調整後の補足的評価において、息切れの消失は漢方群のほうが対照群よりも有意に早かった(HR:1.92、95%CI:1.07~3.42、p=0.0278)。ワクチン未接種の漢方群では、発熱(HR:1.68、95%CI:1.00~2.83、p=0.0498)および息切れ(HR:2.15、95%CI:1.17~3.96、p=0.0141)の消失が有意に早かった。 これらの結果より、研究グループは「軽症~中等症IのCOVID-19患者に対する漢方治療の分析において、すべての症状の評価においても各症状の評価においても、対照群よりも漢方群のほうが早く症状が消失していた。これらの結果は、急性期のCOVID-19患者に対する漢方治療の利点を示すものである」とまとめた。

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習慣的に運動をしていた健康な53歳の男性を襲った心臓発作

 53歳の米国人男性、Ed Frauenheimさんは、サンフランシスコの丘陵地帯をしばしばウォーキングしていた。ある夏の日、彼はお気に入りの公園の急な坂を、いつものように大股で上った。上りは息が切れたが下りは楽だった。しかし、下り坂の途中で胸が締め付けられ、吐き気とめまい、立ちくらみに襲われた。そのまま気を失ってしまうのではないかと心配になり、歩道の脇にそれて数分間休んだ。すると、それらの症状はなくなった。 家に帰り、妻のRowena Richieさんにそのことを話すと、彼女は深刻に捉えず、「朝食が少なかったか、水分が不足していたのでは?」と答えた。Frauenheimさんも「そうかもしれない」と思い、一度は仕事にとりかかったが、やはり気になり、健康保険会社が提供している電話相談に電話してみた。応対した看護師は、直ちに救急外来を受診するように勧めた。 血液検査の結果、トロポニンの上昇が分かり、心臓発作を起こしている可能性が示唆された。心電図の所見も同じことを示していた。医師は、「軽い心臓発作を起こしたようです」と話した。Frauenheimさんは、医師の目を見つめ次の言葉を待った。「あなたが今、多くのことを理解し受け入れるのは大変なことだと思います。大丈夫、われわれが付いています。あなたは最も安全な場所にいます」と医師は説明した。その瞬間まで、Frauenheimさんは、自分は強くあるべきだとストイックに考え続けていた。しかし、その感情のせきが切れると同時に、涙があふれ始めた。 彼は引き締まった体格を維持し、ウォーキングに加えて水泳やヨガも続けていた。心臓発作という診断に驚きつつ、恐怖が体を駆け巡った。妻と2人の10代の子どもを残して、自分は死ぬのだろうか? 翌日の心臓カテーテル検査の結果、Frauenheimさんの心臓発作は冠動脈の攣縮(血管の痙攣による閉塞)によるものと判明した。冠攣縮が長時間続くと心筋にダメージが生じることがある。Frauenheimさんの心臓にもそれが起きていた。少量のニトログリセリンの投与によって、冠攣縮が解除されることも確認された。 医師は、一般的な冠攣縮の原因として、薬物、喫煙、ストレスが挙げられると話した。最初の二つは彼には当てはまらなかったが、ストレスは確かに抱えていた。彼は長年、不安症を患っており、パニック発作を起こしたこともあった。また、半年ほど前に会社勤めをやめて、個人事業主として働くようになっていた。数多くのやりがいのあるプロジェクトに取り組んでいたが、その結果、仕事に膨大な時間を充てるようになっていた。 退院後にもFrauenheimさんの心臓発作再発に対する不安は続いた。その不安からパニック発作が起きてしまった。医師による徹底的な検査を受け、ようやく彼は、その症状の原因が心臓ではなく、不安によるものだと納得した。妻のRichieさんは、夫が悪循環に陥っていると感じていた。「Edは、『ストレスを感じてはいけない、絶対に感じてはいけない』と考え続けていた。もちろん、そのように考えることはストレスになる」。 Frauenheimさんはその後、仕事を減らして運動量を増やすなど、ライフスタイルをアレンジした。薬の服用を続けるとともに、精神科医の診察も受けた。彼は、男性はタフで疲れを知らない存在であるべきだという考え方にとらわれないことが、健康を取り戻す鍵だと考えている。昨年には、男性がより健康で充実した生活を送るための方法について、共著による本を出版した。その内容は、彼自身が周囲のアドバイスを受け入れる過程で経験したことだった。今では、以前とは態度や行動が変わり、人生がより充実して、より幸せになったという。「恐れを感じることが減って、家族や友人、同僚に対してより正直に、そして深く接するようになり、自分の夢を追いかけられるようになった」と彼は話している。 一方で、FrauenheimさんとRichieさんは、心臓発作を体験した後の精神的な面への影響について、もっと医師から情報を提供してほしかったと感じている。Frauenheimさんは現在、執筆活動などを通じて、心臓病を体験した男性に手を差し伸べ、“健全といえない男らしさ”を追求するために生じる問題を乗り越えるサポートをしている。「研究によると、心臓発作を含む冠動脈疾患は、男性としての自信を低下させやすいという。私の場合も、健康に対する不安を取り除くために、ただ薬を飲んでライフスタイルを変える以上のことが必要だった」とFrauenheimさんは話している。[2023年7月5日/American Heart Association] Copyright is owned or held by the American Heart Association, Inc., and all rights are reserved. If you have questions or comments about this story, please email editor@heart.org.利用規定はこちら

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出生前母体ステロイド投与、児の重篤な感染症のリスク大/BMJ

 出生前ステロイド投与1コースが行われた母親から生まれた児は、生後12ヵ月間、重篤な感染症のリスクが有意に高いことが、台湾・長庚記念病院のTsung-Chieh Yao氏らによる全国コホート研究の結果で示された。新生児の死亡率および罹患率の減少における出生前ステロイド投与の有益性が多くの研究で報告されているが、小児の重篤な感染症に対する出生前ステロイド曝露の潜在的な有害性に関するデータは乏しく、とくに地域住民を対象とした大規模なコホートに基づく厳密なエビデンスは不足していた。著者は今回の結果について、「治療を開始する前に、出生前ステロイド投与による周産期の有益性と、まれではあるが重篤な感染症の長期的リスクについて慎重に比較検討する必要がある」とまとめている。BMJ誌2023年8月2日号掲載の報告。生後12ヵ月以内の重篤な感染症の発生率を出生前ステロイド曝露児と非曝露児で比較 研究グループは、台湾のNational Health Insurance Research Database、Birth Reporting DatabaseおよびMaternal and Child Health Databaseを用い、2008年1月1日~2019年12月31日における台湾のすべての妊婦とその出生児を特定し解析した。 主要アウトカムは、出生前に副腎皮質ステロイド曝露があった児と非曝露児における、生後3ヵ月、6ヵ月および12ヵ月時の入院を要する重篤な感染症、とくに敗血症、肺炎、急性胃腸炎、腎盂腎炎、髄膜炎または脳炎、蜂窩織炎または軟部組織感染症、敗血症性関節炎または骨髄炎、心内膜炎の発生率で、Cox比例ハザードモデルを用い補正後ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を算出して評価した。 台湾において一般的な母体出生前ステロイド投与は、ベタメタゾン12mgを24時間間隔で2回筋肉内投与、またはデキサメタゾン6mgを12時間間隔で4回筋肉内投与である。すべての重篤な感染症、敗血症、肺炎、急性胃腸炎のリスクが有意に増加 解析対象は、196万545組の妊婦(単胎妊娠)とその出生児で、出生前に副腎皮質ステロイド曝露があった児が4万5,232例、非曝露児が191万5,313例であった。 生後6ヵ月において、出生前ステロイド曝露児は非曝露児と比較し、すべての重篤な感染症、敗血症、肺炎および急性胃腸炎の補正後HRが有意に高かった。補正後HRは、すべての重篤な感染症1.32(95%CI:1.18~1.47、p<0.001)、敗血症1.74(1.16~2.61、p=0.01)、肺炎1.39(1.17~1.65、p<0.001)、急性胃腸炎1.35(1.10~1.65、p<0.001)であった。 同様に、生後12ヵ月において、すべての重篤な感染症(p<0.001)、敗血症(p=0.02)、肺炎(p<0.001)、急性胃腸炎(p<0.001)の補正後HRも有意に高かった。 きょうだいをマッチさせたコホートにおいても、コホート全体で観察された結果と同様、生後6ヵ月(p=0.01)および12ヵ月(p=0.04)において敗血症のリスクが有意に高かった。

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手のひらのにおいで男女を識別可能か

 手のひらのにおいは、男性と女性とで異なるとする研究結果を、米フロリダ国際大学Global Forensic and Justice CenterのKenneth Furton氏らが、「PLOS ONE」に7月5日報告した。手のひらのにおい成分を使って、約97%という高い精度で個人の性別を予測することができたという。研究グループは、この研究結果が犯罪者の追跡に役立つ可能性があるとの見方を示している。 Furton氏らは論文の背景説明で、強盗、傷害、強姦などの犯罪はいずれも、犯人が手を使って行うため、犯人と犯罪現場との間で生物学的物質と無機物質の交換が行われることになると述べている。これは、犯人の手が何かに触れるたびに、その痕跡が犯行現場に残されるということである。指紋やDNAは、犯行現場に残される最も一般的な痕跡である。しかし、これらの証拠が必ずしも残されているわけではないし、残されていても採取可能な量が十分ではないなどの理由で法医学的証拠として使えない場合もある。 研究グループは今回、たとえ指紋やDNAなどが証拠として使えない場合でも、人間のにおいのエビデンスを集めることで、犯人の特徴を割り出し、犯罪捜査に役立てることができるのではないかという発想の下、研究を実施した。 まず、18〜46歳の黒人、ヒスパニック系、白人の男女それぞれ10人ずつ(計60人)の手のひらからガーゼで試料を採取し、ヘッドスペース固相マイクロ抽出/ガスクロマトグラフ質量分析(HS-SPME/GC-MS)法により、試料中の揮発性有機化合物(VOC;大気中で気体となる有機化合物の総称)を分析した。HS-SPME/GC-MS法では、HS-SPMEにより試料中の揮発性成分を抽出し、GC-MSでその質量を分析する。得られたVOCの特徴は、事前学習によりクラス分類を最適化させた部分最小二乗判別分析(PLS-DA)モデルや線形判別分析(LDA)モデルなどを用いて評価した。その結果、VOCの分析により、においの主の性別を96.67%の精度で識別できることが示された。 研究グループは、犬はにおいを手がかりに人間を、その人の生死の状態に関わりなく識別できるが、今回の研究は、においを研究室で分析して、その性別を正確に識別した初めてのものであることを強調している。論文の筆頭著者である、Global Forensic and Justice CenterのChantrell Frazier氏は、「この技術は、犬の嗅覚による捜査と組み合わせて使うことができるだろう」と述べている。 今回の研究結果は、今後さらに検証する必要があるものの、Furton氏らは、「将来的には、手のにおいの特徴を基に、犯人の詳細が割り出されるようになる可能性がある」と述べている。

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糖尿病予備群は食後高血糖是正により心血管転帰が改善

 食後高血糖への介入が転帰改善につながる可能性を示唆するデータが報告された。国内で実施された多施設共同研究「DIANA研究」終了後の追跡観察調査が行われ、国立循環器病研究センター心臓血管内科部門冠疾患科の片岡有氏らによる論文が、「Journal of Diabetes and its Complications」5月号に掲載された。 糖尿病では食後のみでなく食前の血糖値も高くなるが、糖尿病予備群と言われる75gブドウ糖負荷試験にて診断可能な耐糖能異常(impaired glucose tolerance;IGT)や初期の糖尿病は、食前の血糖値は正常だが食後の高血糖を伴う。食後の高血糖は心血管疾患発症のリスク因子であることを示唆する多くの疫学研究結果が報告されている。しかしながら、食後高血糖への治療介入により、心血管疾患発症リスクが抑制されるかという点については、いまだ十分に明らかになっていない。 大阪府済生会富田林病院の宮崎俊一氏は、冠動脈疾患(CAD)を合併したIGTあるいは初期糖尿病患者を対象として、食後高血糖を改善させる薬剤による冠動脈硬化の進展抑制効果を食事・運動療法と比較する前向き無作為化試験「DIANA研究」を実施した。その研究では、食事・運動療法と比較して1年間の食後高血糖に対する薬物治療の冠動脈硬化進展抑制効果は認められなかった。しかしながら、薬物あるいは食事・運動療法いずれの治療下においても、治療開始から1年後に食後高血糖が改善していた症例は、冠動脈硬化進展が有意に抑制されていた。今回の報告は、DIANA研究終了後に実施された追跡観察調査の結果であり、1年間の食後高血糖への治療介入が、その後の約10年間の心血管疾患発症に及ぼす効果について検討された。 DIANA研究では302人の患者を、α-グルコシダーゼ阻害薬(ボグリボース)群、グリニド薬(ナテグリニド)群、あるいは食事・運動療法群の3群に無作為に割り付け、1年間の介入終了後は主治医の裁量による治療が継続されていた。このうち、243人が追跡調査の解析対象とされ、その平均年齢は64.6±9.3歳、女性が13.6%であり、IGTが58.9%、初期の2型糖尿病は41.1%であった。主要評価項目は、観察期間中の全死亡、非致死性心筋梗塞、緊急冠動脈血行再建術を含めた主要心血管イベント(MACE)の発生率と定義された。 中央値9.8年(範囲7.1~12.8)の観察期間におけるMACE発生件数は91件であった。DIANA研究において食後血糖改善を目指した薬物治療群のMACE発生率は、食事・運動療法群と有意差を認めなかった〔ボグリボース群はハザード比(HR)1.07(95%信頼区間0.69~1.66)、ナテグリニド群はHR0.99(同0.64~1.55)〕。MACEを構成する全死亡、非致死性心筋梗塞、血行再建術それぞれの発生率についても、薬物治療群と食事・運動療法群の間に有意差は見られなかった。IGT、初期糖尿病それぞれにおいても、薬物治療群のMACE発生率は食事・運動療法群と同等であった。 本研究では、薬物あるいは食事・運動療法いずれの治療下においても、治療開始から1年後における糖代謝改善の有無(IGTから正常耐糖能への変化、糖尿病からIGTあるいは正常耐糖能への変化)により対象症例を2群に分類しMACEの発生率が比較された。対象症例の55.9%は糖代謝改善を認めたが、MACE発生率は非改善群と有意差を認めなかった〔HR0.78(0.51~1.18)〕。 対象症例を、IGT、初期糖尿病に層別化して検討を行った。IGTの症例においては、IGTから正常耐糖能へ改善していた群は、非改善群に比して観察期間中のMACE発生率が有意に低率であった〔HR0.55(0.31~0.97)〕。年齢、性別、インスリン抵抗性(HOMA-IR)、血圧、スタチンやβ遮断薬使用を調整後も、結果は同様であった〔HR0.44(0.23~0.86)〕。一方、初期糖尿病症例では、IGTあるいは正常耐糖能へ改善していた群のMACE発生率は、非改善群と比較して有意差を認めなかった〔HR1.49(0.70~3.19)〕。 著者らは本研究の限界点として、post-hocの事後解析であること、無作為化割り付けによる介入期間が1年間と比較的短いこと、観察期間中の糖代謝の変化のデータは収集していないことなどを挙げている。α-グルコシダーゼ阻害薬のアカルボースによる心血管イベント発生率の減少を報告した先行研究「STOP-NIDDM」は介入期間が長く、IGTのみを対象としており、CADを有する症例は4.8%のみであった。一方、本研究はCADをすでに有しているIGTあるいは初期糖尿病症例を対象としていることから、著者らは、α-グルコシダーゼ阻害薬の心血管疾患発症に対する効果が異なった可能性を述べている。これらの考察の上で論文の結論は、「CADのあるIGT患者の長期予後改善においては、正常耐糖能への改善を目指した介入治療が必要と考えられる」と記されている。

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英語プレゼン、数字の基本的な口語表現のコツ(5)乗数・累乗の表現【学会発表で伝わる!英語スライド&プレゼン術】第21回

英語プレゼン、数字の基本的な口語表現のコツ(5)乗数・累乗の表現今回は、使う頻度はやや低くはなりますが、重要な数字表現として「累乗」を紹介します。日常会話で使うことは滅多にないですが、学会発表などではしばしば耳にすることがあるので、ぜひこの機会に覚えてしまいましょう。1)“WBC 5 × 103/μL (= 5 × 109/L)”はどう読む?たとえば、「白血球数」を記載する際には「5×103/μL」もしくは、「5×109/L」の単位を使用することが一般的です。この数字はどのように読めばよいのでしょうか?「乗数」(multiplication)の記号である“×”は“times”と読みます。例外的に、四角形の縦横の辺の長さを表すときなどには、“2 × 2”と表記して、“two by two”と読みます。“103”のような累乗の表示は、exponential (or power) expressionと呼び、右上の小さい数字は指数(exponent)と呼びます。これを読むときは、“ten to the third (power)”となります。この表現は、数学的な意味(103=10×10×10)を考えて、「10という数字が3番目まで掛け算されている」と考えるとわかりやすいでしょう。同様に、109は“ten to the ninth (power)”(=10×10×10×10×10×10×10×10×10)と読みます。どちらの場合も、“five thousand (5,000)”、“five billion (5,000,000,000)”と読むことも可能です。2)“m”、“m2”、“m3”はどう読む?これらは長さ、面積、容積の単位ですが、医学系の発表でも目にする表現です。個人的によく使う場面は、「体表面積」(body surface area)です。発表スライドに“BSA 1.2 m2”と記載したものを、“body surface area is 1.2 square meters”と読み上げます。この応用として、薬剤投与量における“10 mg/m2”は“ten milligram per square meters”となります。また“BMI 20 kg/m2”は、“body mass index is twenty kilogram per square meter-s”となります。講師紹介

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