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糖尿病のある人を知らずに傷つける糖尿病スティグマ/糖尿病学の進歩

 2月17日・18日に東京・東京国際フォーラムで「第57回 糖尿病学の進歩」(世話人:馬場園 哲也氏[東京女子医科大学 内科学講座 糖尿病・代謝内科学分野 教授・基幹分野長])が開催された。 近年、「糖尿病」という病名について患者や医療者から疑問の声が出され、糖尿病というネガティブなイメージからさまざまな不利益を受けていることも表面化している。そこで本稿では、「糖尿病診療に必要な知識」より「糖尿病スティグマとアドボカシー活動」(田中 永昭氏[国家公務員共済組合 枚方公済病院 内分泌代謝内科])の内容をお届けする。医療者は糖尿病のある人を知らずに傷つけているかもしれない 糖尿病という「スティグマ=烙印」は、マイナスイメージであり、今では「『恥』や『不信用』の烙印となっている」と田中氏は指摘する。また、糖尿病というだけで就職できない、保険への加入ができないなど糖尿病のある人には社会的な不利益が起こっているだけでなく、本人の自尊感情の低下や治療機会の喪失なども散見されるという。 これらの偏見や差別は、社会の糖尿病の知識と理解の不足から起こるものであり、実際、糖尿病のある人の多くは決して「食べ過ぎ」などの不健康な生活習慣が起因するものではなく、最近の調査では40歳からの平均余命も糖尿病のない人と変わらないと報告されている。 そして、「医療者から糖尿病のある人へのスティグマもみられることも重要な課題である」と田中氏は指摘する。たとえば、いわゆる「療養指導」がうまくいかないときに「やっぱり糖尿病だから」と相手をみてしまったり、口走ってしまったりすることがみられるという。糖尿病のある人と話し合うときに、医療者が理想の患者像を勝手に創造し、糖尿病のある人を低くみていることが問題とされる。そして、こうした行動や発言がされることで、糖尿病のある人に自己スティグマを負わせ、自分は誰かに相談したり、誰かの助けを求めたりするに値しない人間だと思わせてしまい、ひいては糖尿病治療の中断や医療機関への通院を止めるなど、さらに糖尿病治療へ悪い影響をもたらすと田中氏は懸念を示す。 実際、田中氏らが信頼性と妥当性を担保したスティグマ質問票「KISS(Kanden Institute Stigma Scale)」を開発・調査したところ、糖尿病のある人は糖尿病のない人と比べてKISSの総スコアが有意に高値であったことから、糖尿病のある人は糖尿病というスティグマに苦しんでいる状況がうかがえたという。糖尿病スティグマ解消のためにできること こうした、病気へのスティグマへの解決方法の1つに“Shared decision-making”がある。これは、医療者と糖尿病のある人がエビデンスに基づく治療や糖尿病のある人の人生観を共有することで、一緒に治療方針や目標を決定するというものである。「糖尿病のある人との面談の際、医療者は尊厳を持ち、相手の話をよく聞き、行動の禁止や拒否、指示、命令などは避けるように心がける必要がある」と田中氏は提案する。 アドボカシー(提言)活動については、日本糖尿病協会が行っており、糖尿病の特性などについて社会に認知してもらうために数々の提言を行っている。とりわけ近年では、「糖尿病」という病名に対して、糖尿病のある人にとって心理的な負担が大きいことから、見直しの議論が始められている。同会ではそのほかにも、糖尿病という病気の誤った認識の是正や正しい理解の内容を発信している。また、すぐにできることとして医療用語の改訂なども提案している。たとえば、「アドヒアランス」を「実施率」へ、「血糖コントロール」を「血糖マネジメント」などへの言い換えである。「血糖マネジメント」については、「『糖尿病のある人と医師が共通の目標を立てて、その達成のための計画を話し合うこと』という、本来医療者が実施したいことを適切に表現する言葉を使うべきだ」と田中氏は提言する。 最後に田中氏は、「糖尿病スティグマを認識することで、医療者も糖尿病のある人を模範的な患者像に押し込めるような関わり方は止めて、スティグマ解消に立ち上がってもらいたい」と期待を寄せた。

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仕事依存症になりやすい人の特徴

 リトアニア・ビータウタス・マグヌス大学のModesta Morkeviciute氏らは、完璧主義・タイプA性格・仕事依存症の関係性を、仕事に対する外因性のモチベーション、親の仕事依存度および要求が厳しい組織の影響を介し調査した。その結果、仕事依存症は個人の性格的な要因を発端とし、家族や組織の状況などが個人の性格的な要因の表出を高め、仕事依存症の発現を促進する可能性が示唆された。International Journal of Environmental Research and Public Health誌2023年3月4日号の報告。 対象は、リトアニアのさまざまな組織の従業員621人。オンラインの自記式アンケートを用いて、横断的研究を実施した。仮説検証前に、状況変数に基づき対象者のサブグループを特定するため、潜在プロファイル分析(LPA)を実施した。仮説検証には、構造方程式モデリングを用いた。 主な結果は以下のとおり。・LPAでは、親の仕事依存に関する2つのプロファイル(親の仕事依存度が低い/高い)および要求が厳しい組織に関する3つのプロファイル(要求の厳しさがわずか/中程度/強い)が確認された。・要求の厳しさが強い組織の従業員では、完璧主義・タイプA性格・仕事依存症との直接的な関連性は、ポジティブかつ、より強力であった。・完璧主義・タイプA性格・仕事依存症の間接的な(外因性のモチベーションを介した)関係性は、親の仕事依存度が高い場合、ポジティブかつ、より強力であった。

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新たなRSウイルスワクチン、高齢者と乳児の双方で効果を発揮

 ファイザー社が開発したRS(呼吸器合胞体)ウイルスワクチンは、高齢者と乳児の双方でRSウイルス感染症を安全かつ効果的に予防するという2件の臨床試験の結果が報告された。ファイザー社は、同ワクチンの高齢者に対する接種が5月までに、妊婦に対する接種が8月までに米食品医薬品(FDA)により承認されるものと見ている。これらの臨床試験の結果は、「The New England Journal of Medicine(NEJM)」に4月5日掲載された。 RSウイルスに感染しても、通常は風邪様の症状が現れる程度だ。しかし米国では、1歳未満の子どもの気管支炎と肺炎の最も一般的な原因ウイルスがRSウイルスである。また、このウイルスは高齢者、特に健康状態が不良な人にリスクをもたらす。米疾病対策センター(CDC)によると、毎年、5万8,000〜8万人の5歳未満の子ども、および6万〜16万人の高齢者がRSウイルス感染症で入院し、さらに6,000〜1万人の高齢者が同感染症により死亡しているという。 RSウイルスワクチンの臨床試験は1960年代に実施されたが、ワクチンにより産生された抗体が、ウイルスへの感染や重症化を促してしまう「抗体依存性感染増強」を引き起こし、失敗に終わった。しかし、2010年代初頭、米国国立衛生研究所(NIH)の研究グループが、RSウイルスのヒト細胞への侵入に関わるウイルス表面のFタンパク質がヒト細胞の受容体と結合し、ウイルス粒子が細胞膜と融合した後に構造を変えることを突き止めた。そして、RSウイルスワクチンが効果を発揮するには、融合前のFタンパク質の構造をターゲットにする必要があることを報告した。この画期的な発見により、ファイザー社やグラクソ・スミスクライン(GSK)社をはじめとする製薬企業が、安全で効果的なRSウイルスワクチンの開発をめぐって競争を繰り広げている。 2件の臨床試験のうち、高齢者を対象にした第3相試験では、中間解析の時点で60歳以上の高齢者3万4,284人がファイザー社のRSウイルスワクチン(1万7,215人)、またはプラセボ(1万7,069人)のいずれかを接種する群にランダムに割り付けられていた。解析の結果、RSウイルスワクチン接種群では、3種類以上の兆候や症状を伴うRSウイルス感染に関連した下気道疾患の予防に85.7%、2種類以上の兆候や症状を伴う同疾患の予防に66.7%の効果を有することが明らかになった。 米ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院国際保健学分野教授のRuth Karron氏は、「重症化においては入院に関心が集まるが、この中間解析では、入院に対する有効性を示すことはできなかった。しかし、2種類以上よりも3種類以上の兆候や症状を伴うRSウイルス感染症に対する有効性の方が高かったことから、重症化の予防効果も期待できるのではないか」と述べている。 一方、妊婦を対象に18カ国で実施された第3相試験では、妊娠24〜36週の妊婦にファイザー社のRSウイルスワクチン(3,682人)、またはプラセボ(3,676人)がランダムに投与された。その後、生まれた子どもの追跡調査を行い、ワクチンによって産生された母親の抗体が子どもに保護効果をもたらすのかどうかを確認した。 RSワクチン接種群の子ども3,570人、プラセボ接種群の子ども3,558人を対象にした中間解析の結果、入院を要するような重症の下気道感染症が生じたのは、生後90日以内ではRSワクチン接種群の子どもで6人、プラセボ接種群の子どもで33人(ワクチンの有効性81.8%)、生後180日以内では同順で19人と62人(ワクチンの有効性69.4%)であることが明らかになった。ファイザー社の副社長であり臨床ワクチン研究の長を務めるBill Gruber氏は、「乳児を守るためには、妊娠中の母親がワクチンを接種し、抗体を子どもに受動的に移行させる必要がある。FDAの承認が早ければ早いほど、RSウイルスワクチンを接種できる妊婦の数が増え、保護される乳児の数も増える」と話している。 なお、Gruber氏によると、ファイザー社は、ワクチン接種後の副作用の有無と、接種による保護効果の持続期間を確認するために、今後もワクチン接種者を追跡調査する予定とのことだ。

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早期の転移性セミノーマ患者に対してはリンパ節切除が第一選択肢に?

 精巣がん患者のうち、初期の転移性セミノーマ患者では、化学療法や放射線療法は必要ではなく、後腹膜(腹膜の外側と腹壁の間の腔)にあるリンパ節の切除〔後腹膜リンパ節郭清術(RPLND)〕だけで十分であるという研究結果が報告された。研究論文の筆頭著者である、米南カリフォルニア大学ケック医学校の泌尿器科腫瘍医Siamak Daneshmand氏は、「試験対象者の大多数がRPLNDのみで治癒し、従来の化学療法や放射線療法に付随する毒性を回避できることが本研究で示された。われわれは、セミノーマに対するこの手術が、近い将来、治療ガイドラインに組み込まれることを確信している」と話している。研究の詳細は、「Journal of Clinical Oncology」に3月13日掲載された。 精巣がんは15〜35歳の若い男性に最も多く発生するがんであり、たいていの場合、治療可能である。精巣がんでは、まず精巣の摘出手術を行う。その後、腫瘍組織の病理組織検査により、セミノーマ(精上皮腫)と非セミノーマに分類した上で、それぞれに適した治療を行う。がんの転移が腹部大動脈と腹部大静脈周囲のリンパ節にとどまっている早期転移性(ステージ2)セミノーマに対しては通常、リンパ節のがんを化学療法と放射線療法により小さくしたり、がん細胞を死滅させたりする治療が行われる。RPLNDは、そのような治療が奏効しない際に実施されるが、転移性セミノーマに対する単独の治療法としては実施されていない。 しかし、化学療法や放射線療法は、心疾患や二次がんなどの長期的な副作用を伴う。この問題に対処するために、Daneshmand氏らは、後腹膜のリンパ節腫脹の程度が小さい(1〜3cm)セミノーマ患者55人を今回の試験に登録。ファーストライン治療としてRPLNDを実施し、その安全性と有効性を検討した。主要評価項目は、2年無増悪生存率とした。 その結果、RPLND後、中央値33カ月の追跡期間中に12人でがんが再発したが(再発率22%)、対象患者の81%は2年間がんが再発することなく生存していた。2年時点での全生存率は100%を達成した。がんが再発した10人には化学療法が、残る2人には再手術が行われた。最後の追跡調査時にこれらの再発患者は、病状が悪化することなく生存していた。安全性に関しては、短期的な合併症が4人に生じ、長期的な合併症として、切開ヘルニア(1人)と無射精(3人)が生じた。 Daneshmand氏は、「100%の全生存率は、手術後に再発した患者でも治癒可能であることを示唆している」とケック医学校のニュースリリースで、述べている。さらに同氏は、「早期の転移性セミノーマは、生存率が極めて高いものの、化学療法や放射線療法で治療した場合、治癒には高い犠牲を伴う可能性がある。それに対して手術による治療では、患者は治癒を見込めるだけでなく、闘病後の高いQOLを得ることもできるだろう」と述べている。

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オンライン学会、質疑応答中に使える表現【学会発表で伝わる!英語スライド&プレゼン術】第14回

オンライン学会、質疑応答中に使える表現コロナ禍で急増したオンライン学会。オンラインのプレゼンでは、オフライン(現地)とはまた違った特有の言い回しを知っておく必要があります。ここでは、前回のトラブル編に続いて、「オンライン学会ならでは」のフレーズを取り上げます。質疑応答の際のフレーズCould you type it in the chat?(チャット欄に書き込んでもらえますか?)これも、プレゼンテーションに限らず、オンライン会議をしている時には頻出のフレーズです。質問が十分聞き取れなかったなどの場合には、こうやって文字に誘導できるのもオンライン会議の強みですね。May I chime in?(お話し中ですが、一言いいですか?)“chime in”の“chime”は音の通り「チャイム(鐘)」を意味する言葉です。しかし、ここでは“chime”に“in”が付いているので、「チャイムを鳴らして入り込む」という意味合いを持つことになります。ここで入り込むのは家ではなく、会話や議論。そこから転じて、「会話に入り込む」、「口を挟む」などの意味合いで用いることができるフレーズになります。Please feel free to unmute yourself and stop me anytime for questions or comments.(質問やコメントがあれば、いつでも音声をオンにしてプレゼンを遮ってください)先に出てきた“mute”とは逆に、音声を「オン」にするというときには、“mute”に“un-”という否定の接頭辞を付けて、“unmute”という動詞を使います。“Please feel free to”というのは「ご自由にどうぞ」という意味を持つフレーズで、使い勝手がいいので合わせて覚えてしまいましょう。In the interest of time, please save your questions till the end.For the sake of time, I would like to take questions at the end of my talk.(時間の都合上、質問は最後にしてください)質問を途中では取らずに、最後に取りたいことを伝えたい時には、このような表現もできます。“In the interest of time”や“For the sake of time”で「時間の都合上」という意味になります。途中退室が必要な際のフレーズ“Sorry, I need to jump off for another session at 3 pm.”(申し訳ないのですが、次のセッションのために3時に退出します)オンラインの画面で“jump”という動詞はなかなか出てこないかもしれませんが、とても自然でよく使われる表現です。知らないとなかなか使いこなせないので、こういった表現も覚えておくと便利です。講師紹介

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静脈を動脈の代用として下肢切断を回避

 米ペンシルベニア州ハーミテージ市のCynthia Elfordさん(63歳)は、1型糖尿病が原因で左脚を失った。日焼けした足の親指がその後黒っぽく変色し、切断を余儀なくされたのだ。そして彼女は、右脚も同じ状態になりつつあると言われていた。 手足に血液を送る動脈が狭くなる末梢動脈疾患(PAD)があると、下肢の切断を要する状態になりやすい。治癒を促す血流があまりにも少ないと、小さな傷などでも壊死してしまうことがあるためだ。しかし、侵襲性が極めて低い"LimFlow"と呼ばれるシステムを用いた実験段階の治療法のおかげで、Elfordさんは今のところ右脚を切断することなく過ごしている。この治療法は、虚血状態にある脚に新鮮な血液を送るために、静脈を動脈にかえるというものだ。LimFlowの安全性と有効性について調べる目的で実施された臨床研究では、治療を受けた患者の76%が下肢切断を回避できたという。この結果は、「The New England Journal of Medicine(NEJM)」3月30日号に発表された。 ElfordさんがLimFlowによる治療を受けたのは2018年4月だった。その5年後、彼女の右脚は治癒し、痛みが消失した。Elfordさんの主治医で研究を主導した米ユニバーシティ・ホスピタルズ・ハリントン心臓血管研究所のMehdi Shishehbor氏は、「研究参加者は、もしこの研究に参加していなければ、膝下、あるいは膝上から脚を切断しなくてはならなかっただろう。彼らの脚を残せたのは、私にとっても喜びだ」と話す。 LimFlowでは、まず、閉塞した動脈と、新たな動脈として使う近くの静脈に1本ずつカテーテルを挿入する。次に、これらのカテーテルを使って、ステントグラフトで動脈と静脈をつなげて、静脈を動脈の代わりとなる血管にする。治療は鎮静下で行われるが全身麻酔は不要で、翌日には帰宅できるという。 Shishehbor氏らは今回、治療選択肢のない(ノーオプション)包括的高度慢性下肢虚血(CLTI)の患者105人(平均年齢70歳)を米国内の20施設で試験に登録し、LimFlowによる治療を実施した。その結果、104人で静脈の経カテーテル動脈化に成功し、治療6カ月後の時点での切断回避生存率は66.1%と推定された。また、6カ月後の時点で足関節より上での切断を回避できた患者は67人(Kaplan-Meier解析で76.0%と推定)であり、傷が完全に治癒した患者の割合は25%(16/63人)、傷が治癒の過程にあることが確認された患者の割合は51%(32/63人)であった。 さらに、一部の患者では血流が回復したことにより、新たな毛細血管や小さな動脈が作られていることが確認され、これにはShishehbor氏らも驚かされたという。一方、副作用に関しては、体液の貯留によってある程度のむくみが出ることが予想されていたが、動脈化した静脈以外の静脈のおかげで広範な体液の貯留は起こらなかったという。また、デバイス関連の有害事象の報告はなかった。 LimFlowによる治療は、ノーオプションのCLTI患者にとって、新たな希望となる治療法として期待されているとShishehbor氏は言う。「こうした患者では、残念ながら約20~30%の確率で重症化かつ石灰化が進んでいるため、バイパス術や血管内手術を施行しても効果が得られない」と同氏は説明する。 PAD以外のCLTIのリスク因子は、慢性腎臓病、高血圧、脂質異常症などだ。今回の研究の背景情報によると、米国での下肢切断件数は年間約18万5,000件に上る。Shishehbor氏は、「米国では毎日約500人の患者が脚を失っている」と言う。 ただし、この治療は痛みを伴う。Elfordさんは「医師たちから、治療後にひどい痛みが出ることは伝えられていた」と振り返る。そして、「実際、それは経験したことのないような痛さだった。乗り越えるのは簡単ではなかったが、脚のない人生を送るのと、ある程度の痛みを耐えて私が経験したような結果を得るのと、どちらが良いだろうか?」と語っている。

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リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 1次情報源の活用 実際にPubMed検索式を作ってみる その6【「実践的」臨床研究入門】第31回

検索式で研究デザインを限定するこれまで解説してきたように、検索式作成のポイントは、P(対象)とI(介入)またはE(曝露)の構成要素で構築する、ということでした。実際には、さらに「研究デザイン」を限定する検索式を加えることがよくあります(「研究デザイン」については連載第6回で簡単に説明しましたので、ご参照ください)。たとえば、システマティック・レビュー(SR:systematic review)では、「研究デザイン」としてランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)のみを対象とすることがよくあります。今回は、「研究デザイン」をRCTに限定する検索式について解説します。MEDLINE(PubMed)では、すべてのRCTが"Randomized Controlled Trial as Topic"というMeSH terms(連載第21回参照)が付与されるなどして、RCTとしてインデックス化されているわけではありません。そこで、コクラン・ハンドブックでは「研究デザイン」をRCTに限定する検索式(PubMedで検証済み)を、下記およびリンクのとおり2種類公開しています。Sensitivity-maximizing version (2008 revision); PubMed format(randomized controlled trial[pt] OR controlled clinical trial[pt] OR randomized[tiab] OR placebo[tiab] OR drug therapy[sh] OR randomly[tiab] OR trial[tiab] OR groups[tiab] NOT (animals [mh] NOT humans [mh]))Sensitivity- and precision-maximizing version (2008 revision); PubMed format(randomized controlled trial[pt] OR controlled clinical trial[pt] OR randomized[tiab] OR placebo[tiab] OR clinical trials as topic[mesh:noexp] OR randomly[tiab] OR trial[ti] NOT (animals[mh] NOT humans [mh]))それぞれの検索式のPubMedへのダイレクトリンク(Sensitivity-maximizing version、Sensitivity- and precision-maximizing version)も公開されています。本稿執筆時点(2023年4月)では、Sensitivity-maximizing versionおよびSensitivity- and precision-maximizing versionのヒット論文数は、それぞれ498万2,019件と140万7,761件でしたので、その名のとおり、感度はSensitivity-maximizing versionのほうが高いことがわかります。それでは、この「研究デザイン」をRCTに限定する検索式を、これまで改訂を重ねてきた、われわれのResearch Question(RQ)の関連研究レビューの検索式に加えてみましょう。検索結果は下記の表1および2のようになりました(本稿執筆2023年4月時点)。表1画像を拡大する表2画像を拡大する「研究デザイン」をRCTに限定するとヒット論文数は、Sensitivity-maximizing version(表1)で834件から291件、Sensitivity- and precision-maximizing version(表2)では166件に減っていることがわかります。ちなみに、PubMedでは、「Filterサイドバー」から、Clinical trialやRandomized Controlled Trialなど”article type”で「絞り込み検索」を行うこともできます。「Filterサイドバー」は、検索窓に何らかのキーワードを入力し、”search”をクリックした後に表示されるメイン画面左側に表示されます。しかし、この「絞り込み検索」が機能するには、対象となる論文にPublication type[pt]の「タグ」情報が付与されていることが前提となり(連載第23回参照)、付与されていない場合は漏れてしまいます。したがって、今回解説した、「研究デザイン」を限定する検索式を使用したほうが、より網羅的に検索することができるのです。

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アトピー性皮膚炎、抗IL-13抗体薬lebrikizumabが有効/NEJM

 インターロイキン13(IL-13)を標的とするIgG4モノクローナル抗体lebrikizumabは、中等症~重症アトピー性皮膚炎(AD)の成人・青少年患者を対象とした2つの第III相試験において、16週の導入療法期間での有効性が確認された。米国・ジョージ・ワシントン大学のJonathan I. Silverberg氏らがNEJM誌2023年3月23日号で報告した。 研究グループが実施した「ADvocate1試験」と「ADvocate2試験」は、個別にデザインされた52週の国際共同第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験で、いずれも16週の導入療法期間と36週の維持療法期間で構成された。 中等症~重症ADの成人(18歳以上)および青少年(12歳以上18歳未満、体重40kg以上)を対象とし、lebrikizumab群とプラセボ群に2対1の割合で割り付けた。lebrikizumabの用量は、ベースライン時と2週目に500mgの負荷投与、以降は250mgとし、隔週皮下投与した。 本稿では、16週までに評価された導入療法期間の結果が報告されている。主要アウトカムは、16週時におけるIGA(Investigator's Global Assessment)スコア0または1(皮膚病変の消失またはほとんど消失)かつベースライン時からの2点以上減少とした。副次アウトカムは、16週時におけるEczema Area and Severity Indexスコアの75%改善(EASI-75)、2、4、16週時におけるそう痒NRS(Numerical Rating Scale)、16週時におけるそう痒による睡眠障害などであった。安全性も評価された。 主な結果は以下のとおり。・ADvocate1試験において、主要アウトカムを達成した患者の割合は、lebrikizumab群(283例)が43.1%、プラセボ群(141例)が12.7%であり、有意差が認められた(p<0.001)。EASI-75達成率はそれぞれ58.8%、16.2%であり、有意差が認められた(p<0.001)。・ADvocate2試験において、主要アウトカムを達成した患者の割合は、lebrikizumab群(281例)が33.2%、プラセボ群(146例)が10.8%であり、有意差が認められた(p<0.001)。EASI-75達成率はそれぞれ52.1%、18.1%であり、有意差が認められた(p<0.001)。・そう痒およびそう痒による睡眠障害の評価結果は、lebrikizumab治療による改善を示唆するものであった。・結膜炎の発生率が、プラセボ群(ADvocate1試験:2.8%、ADvocate2試験:2.1%)よりlebrikizumab群(それぞれ7.4%、7.5%)で高率であった。・導入療法期間中にみられた有害事象のほとんどは軽度または中等度で、試験中止に至ったものはなかった。

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過去のSARS-CoV-2感染に伴う再感染に対する防御効果:系統的レビューとメタアナリシス(解説:寺田教彦氏)

 本研究は、2022年9月31日まで(原文ママ)に報告されたプレプリントを含む、後ろ向きコホート研究、前向きコホート研究および検査陰性症例対照研究の中で、SARS-CoV-2罹患歴の有無によるCOVID-19感染のリスクを比較した研究を特定し、システマティックレビューおよびメタ解析を行っている。 結果の要約は、「コロナ感染による免疫、変異株ごとの効果は~メタ解析/Lancet」で紹介されているが、簡潔に研究結果をまとめると、「再感染や症候性再感染は、初期株、アルファ株、ベータ株、デルタ株に対しては高い予防効果を示したが、オミクロンBA.1株では再感染や症候性再感染の予防効果が低かった。ただし、重症化予防効果については、既感染1年後までアルファ株、ベータ株、デルタ株、オミクロンBA.1株のいずれも維持していた」と筆者は論じている。 現在、SARS-CoV-2の主流株は世界でも本邦でも、オミクロン株であり、COVID-19患者が増加した際の対策を考える場合は、オミクロン株を対象に想定するべきであろう。 さて、医療現場の感覚としても、本研究結果のとおり、オミクロン株では、COVID-19に罹患してから数ヵ月で再感染するケースが増えたことを実感しているのではないだろうか。また、オミクロン株の1年以内の再感染患者で、高齢者などの余力が乏しい患者やワクチン未接種のリスク患者でなければ、重症化することがほとんどなくなったことも感覚と合致するのではないだろうか。 今後のCOVID-19再流行に備える場合に、本研究を参考にすることができる事項として、(1)新型コロナワクチンの追加接種タイミング、(2)抗ウイルス薬の投与判断、(3)病院や高齢者施設における感染対策があると考える。 1つ目の、新型コロナワクチンの接種タイミングについて考える。 直近の本邦における、COVID-19に対するワクチン接種は、「厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会の議論を踏まえた方針」を参考にすると、高齢者(65歳以上)、基礎疾患を有する者(5~64歳)、医療従事者・介護従事者等(5~64歳)を対象に5~8月以降の追加接種が議論されている(https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001069231.pdf)。WHOの方針では、高優先集団である高齢者や高度な免疫不全のある若年者や医療従事者では4回目以降の追加ブースターは12ヵ月おき、超高齢者や重症化リスクのある高齢者、月齢6ヵ月以上の小児と中等度以上の免疫不全を伴う成人では6ヵ月おきでの定期接種を推奨している(WHO SAGE Roadmap for prioritizing uses of COVID-19 vaccines.https://www.who.int/publications/i/item/WHO-2019-nCoV-Vaccines-SAGE-Roadmap,(参照2023-04-02).)。 新型コロナウイルスワクチンの効果は、感染予防効果や発症予防効果もあるが、オミクロン株流行以降はこれらに対するワクチンの効果も時間経過とともに低下し、重症化予防効果を期待して接種する面も大きいように思われる。本研究の結果を参考にすると、オミクロン株流行下におけるCOVID-19罹患後は、再感染時の重症化リスクは低下していると考えられる。本論文の筆者も指摘しているように、ワクチンのメリットと副反応のデメリットを勘案のうえ、COVID-19に罹患した場合、その患者のリスクの程度によってはワクチン接種をするタイミングを遅らせるという選択肢もでてくるのではないかと考える。 次に2つ目の抗ウイルス薬治療対象の判断について考える。 NIHガイドラインでは、軽症から中等症Iで治療薬の使用を優先させるべきリスク集団として3つの優先度を設けている(Prioritization of Anti-SARS-CoV-2 Therapies for the Treatment and Prevention of COVID-19 When There Are Logistical or Supply Constraints. https://www.covid19treatmentguidelines.nih.gov/overview/prioritization-of-therapeutics/ Last Updated: December 1, 2022, (参照2023-04-02).)。このガイドラインでは、ワクチン接種の有無はリスク評価に用いられているが、COVID-19罹患歴はリスク評価に用いられていない。抗ウイルス薬のニルマトレルビル/リトナビルやモルヌピラビルは、重症化予防効果を期待して投与されているが、本研究を参考にすると、COVID-19罹患後は、1年近く重症化予防効果が低下することを期待できる。抗ウイルス薬の投与目的が、重症化予防効果である場合は、過去の感染歴の有無も抗ウイルス薬投与の判断時に参考としてよいかもしれない。 さて、上記の2つについては重症化リスク軽減の観点のみから議論を展開したが、COVID-19がインフルエンザなどの他のウイルス感染症と異なる点として後遺症や自己免疫疾患のリスク増加(Chang R, et al. EClinicalMedicine. 2023;56:101783.)といった問題がある。後遺症に関しては、オミクロン株になり、デルタ株より頻度は低下したものの(Antonelli M, et al. Lancet. 2022;399:2263-2264.)、生活に影響を与える後遺症のために通院を要する患者もいる。COVID-19後遺症は、ワクチンや(Tsampasian V, et al. JAMA Intern Med. 2023 Mar 23. [Epub ahead of print])、抗ウイルス薬(Suran M. JAMA. 2022;328:2386.)(Xie Y, et al. JAMA Intern Med. 2023 Mar 23. [Epub ahead of print])の効果も報告されている。現時点では、COVID-19罹患後後遺症を主目的にワクチン接種や抗ウイルス薬の投与はされていないと思うが、今後、COVID-19罹患後後遺症や免疫異常のハイリスク患者グループが特定され、ワクチンや抗ウイルス薬に伴う明らかなメリットが判明したり、薬剤の費用が安価になったりする場合は、重症化予防効果以外の目的で投与されることがあるかもしれない。 最後に、病院や高齢者施設における感染対策について考える。 かつては、COVID-19感染後、3ヵ月間は再感染しないと考えられていた時期があった。しかし、プレプリントではあるが、デンマークのグループから、オミクロン株であるBA.1やBA.2では1ヵ月以内でも再感染を起こしうることが報告された(Stegger M, et al. medRxiv. 2022 Feb 22.)。同時期頃から本邦でも、短期間で再燃を来す患者の診療をする機会がみられるようになったように感じている。PCR検査は、COVID-19の診断に有用な検査ではあるが、一度罹患すると、高齢者や幼児、細胞性免疫が低下している患者で、陰性化にしばらく時間がかかることがある。かつてのように、原則90日間は再感染しないと考えることができた場合は、罹患後90日以内の発熱、感冒様症状はCOVID-19以外を考えることができたが、短期間で再感染すると考える場合は、PCR検査だけではなく、患者の症状や行動歴、COVID-19接触歴などを把握し、他の鑑別疾患も考慮しながら総合的に判断する必要がでてくる。 今後、オミクロン株の再流行がみられた際には、2~3ヵ月以内に感染を起こしたからといって、安易にCOVID-19の再感染ではないだろうと考えるのは、病院や高齢者施設の感染管理としては避けたほうがよいだろう。 さて、本邦の第8波も落ち着いてきたが、今後はXBB.1.5を含めたXBB系統などの株が流行する可能性もあるだろう(CLEAR!ジャーナル四天王-1648「2022年11月以降の中国・北京における新型コロナウイルス流行株の特徴」)。米国(Vogel L. CMAJ. 2023;195:E127-E128.)やシンガポール(Ministry of Health,Shingapore. UPDATE ON COVID-19 SITUATION AND MEASURES TO PROTECT HEALTHCARE CAPACITY. 15 OCTOBER 2022.)でXBB.1.5が流行したころのデータからは、重症化リスクに大きな変化はなさそうだが、再感染を起こしやすい株であることが想定される。新型コロナウイルス感染症は、オミクロン株となって、重症化リスクは低下したとはいえ、感染力はインフルエンザなどの呼吸器感染症よりも強く、また高齢者、免疫不全者を含めたハイリスク患者ではいまだに重症化しうる感染症であることも考えると、医療機関では、新型コロナウイルス感染症が院内で流行することがないよう、適切な感染対策を継続する必要がある。

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薄味なアメリカンコーヒーと、内容が濃いNEJMのCPCを楽しむ【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第59回

第59回 薄味なアメリカンコーヒーと、内容が濃いNEJMのCPCを楽しむ米国には魅力的な都市がたくさんあり、それぞれ個性を発揮しています。政治の中心がワシントンD.C.、ビジネスの中心がニューヨークです。その中でも、自分が一番好きな都市はボストンです。米国北東部に位置する6つの州をニューイングランド地方と呼び、その中のマサチューセッツ州の州都がボストンです。ボストンと京都市は、歴史的な古都としての位置付けが似ていることから姉妹都市です。両都市には大学の街・学問の街としての共通点があります。ボストン大学のほか、郊外にハーバード大学、マサチュ-セッツ工科大学などの名門大学を擁しています。ボストン大学は1839年に設立されたボストンでも最大規模の私立大学で、留学生が多い大学として知られます。マサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of Technology:MIT)は、1865年創立の世界トップクラスの工科大学です。MITの近代的な建築の校舎群の中を散策したことがありますが、有名な芸術家のオブジェも多く配置され、キャンパス歩きが美術館巡りのように楽しめます。何と言っても有名なのがハーバード大学です。1636年に設立されたアイビーリーグ大学です。多くのノーベル賞受賞者や著名人を輩出している、世界大学ランキングの上位が定席の名門校です。ここもキャンパスを散策するとアカデミックな雰囲気に浸ることができます。医学領域でも、ハーバード大学医学部は世界に君臨しています。ハーバード大学附属病院という名称の病院はありません。複数の病院が連携してハーバード大学附属病院群として役割を担っています。その中でも、もっとも有名なのがマサチューセッツ総合病院(Massachusetts General Hospital: MGH)です。MGHは、世界中の医学生に最も有名な病院です。日本の医学生もMGHという名前を知っていると思います。医学誌の最高峰といわれるThe New England Journal of Medicine(NEJM)に掲載されているCase Records of the Massachusetts General Hospitalの抄読会が、医学生の共通の学習手段となっているからです。NEJM誌は、ハーバード大学医学部の医師たちが中心となり1812年に創刊された、世界で最も権威ある週刊の総合医学雑誌です。Journal Citation Reportsが公開するインパクトファクターにおいて、NEJM誌は176.079(2022年6月28日発表)ときわめて高い水準です。日本では江戸時代後期にあたる時代に米国で創刊された医学雑誌が、200年を超えて発行され、今も世界で最も権威ある医学雑誌であり続けていることに敬意を表します。病院において残念ながら患者さんが亡くなられた場合には病理解剖をお願いします。病理解剖とは、病気のために亡くなられた患者さんのご遺体を解剖し、臓器、組織、細胞を直接観察して詳しい医学的検討を行うことです。病理解剖をさせていただいた場合には、その後に病院の中でCPCと呼ばれる会が開かれます。CPCはclinico-pathological conferenceの略語で、臨床病理検討会とも訳されます。病理解剖で得られた所見から、精度の高い病理診断ができ、死因を正しく解明することができます。患者さんの経過を振り返り医者同士で批判的に検討し合うのです。その患者さんに関わった医者だけでなく、関与しなかった他科の医者も加わります。もっと良い治療法がなかったのか、この患者さんが死に至ることは本当に避けられなかったことなのかを検証するために白熱した議論がなされます。CPCが定期的に開催されていることは、その病院の医療レベルを推し量る一つの材料とされます。NEJM誌の中でも不動の人気コンテンツが、1924年から連載開始になったCase Records of the Massachusetts General Hospitalです。具体的には、MGHで開催されているCPCを提示したもので、一流医師が診断に難渋した症例でどのように診断を進めたのか、その思考過程を学ぶことができます。このコンテンツに触れることで、医学的知識が豊富になるだけでなく、日常臨床における論理的思考法を身に付ける上で役に立ちます。国内外の大学や病院において、医学生の勉強会・論文抄読会の教材として活用されており、多くの医師の支持を得ています。ぜひともNEJM誌を手に取り、このMGHのCPCに眼を通していただくようお願いします。このコンテンツのタイトル部分には、古い建築物のイラストが描かれています。これはMGHの創立時から現存する建物のブルフィンチ棟で、その最上階がエーテル・ドームと呼ばれ、1846年に世界最初のエーテル麻酔を行った場所です。今もこの講堂でCPCが開催されているそうです。NEJM誌の「Case Records of the Massachusetts General Hospital」のタイトル部分に描かれているMGHブルフィンチ棟のイラスト(左)と、現在のブルフィンチ棟(右)英文雑誌の抄読会は、継続して参加することが大切で、そこには大きなエネルギーが必要です。ここで紹介した、NEJM誌やMGHのウンチクを知っていると少しは楽しく感じるようになるかもしれません。さらに追加でウンチクを紹介します。ボストンで起きた大事件が1773年のボストン茶会事件です。東インド会社に紅茶の専売権を与える茶法に反対して、ボストン港で東インド会社の茶葉を海中投棄したことから起こった反英闘争で、アメリカ独立戦争のきっかけです。英国の植民地だったことから、アメリカ人にとって紅茶はとても馴染み深い嗜好品でした。ボストン茶会事件などを契機に不買運動が広がり、紅茶の代わりにコーヒーが普及するようになったのです。その一方で、紅茶への愛着も強いものがありました。コーヒーを薄味にして、ミルクや砂糖を加えるなど、紅茶の味に似せようとした工夫が現在につながるアメリカンコーヒーの誕生秘話だそうです。NEJM誌の内容は非常に濃いのですが、薄味なアメリカンコーヒーの原点がボストンにあるのは不思議です。

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英語で「治療方針には影響しません」は?【1分★医療英語】第77回

第77回 英語で「治療方針には影響しません」は?What do you think about sending more tests to rule out Disease A, B, and C?(検査を追加して、疾患A、B、Cなどを除外してはいかがでしょうか?)We could do it, but its results will not change our management. So, I cannot agree with that idea.(そうすることはできるけど、その結果は治療方針には影響しないから、その考えに同意はできません)《例文1》Don't worry, your positive COVID test will not change our management of your cancer.(心配しないで、あなたが新型コロナ陽性であることは、あなたのがんの治療方針には影響しません)《例文2》Let's not consult ID team for now. Screening of that infection will not directly affect our current management.(感染症科へのコンサルトはまだ控えましょう。その感染症をスクリーニングすることは、現在の治療方針に直接的には影響しませんから)《解説》日本でも同様だと思いますが、医療費が高額な米国では、日本以上に患者の経済負担軽減に意識的になることが重要です。また、一つひとつの検査の意義を事前に十分に把握していることは、良医の条件でもあると思います。“it will not change our management”は医師同士、時には医師と患者さんとの会話でも頻用される表現です。医学生や研修医、もしくは患者さんから、必要のない検査を提案されたときに、この返答が有効になることが多くあります。この言葉の後に、検査結果が陽性の場合、陰性の場合で、具体的にどのような状況になるのか、補足説明するのもよいでしょう。逆に、一見関係がなさそうに見える検査でも、“this test result can change our management”(検査結果で、治療方針が変わります)と、自信を持って意見を述べることで、周囲に検査の重要性を認識してもらうことができるでしょう。講師紹介

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ビタミンD不足で認知症リスク上昇~コホート研究

 ビタミンD活性代謝物は、神経免疫調節や神経保護特性を有する。しかし、ヒドロキシビタミンDの血清レベルの低さと認知症リスク上昇の潜在的な関連については、いまだ議論の的である。イスラエル・ヘブライ大学のDavid Kiderman氏らは、25-ヒドロキシビタミンD(25(OH)D)の血清レベルの異なるカットオフ値において、ビタミンD欠乏症と認知症との関連を調査した。その結果、不十分なビタミンDレベルは認知症との関連が認められ、ビタミンDが不足または欠乏している患者においては、より若年で認知症と診断される可能性が示唆された。Journal of Geriatric Psychiatry and Neurology誌オンライン版2023年3月8日号の報告。 イスラエル最大の医療保険組織Clalit Health Services(CHS)のデータベースより、患者データを収集した。各被験者について、調査期間中(2002~19年)の利用可能なすべての25(OH)D値を取得した。認知症の発症率は、25(OH)Dレベルの異なるカットオフ値で比較した。 主な結果は以下のとおり。・本コホート研究の対象は、患者4,278例(女性:2,454例[57%])であった。・フォローアップ開始時の平均年齢は、53±17歳であった。・17年間のフォローアップ期間中に認知症と診断された患者は133例(3%)であった。・完全に調整された多変量解析では、血清25(OH)Dの平均値が75nmol/L未満(ビタミンD欠乏)の患者は、同75nmol/L以上(基準値)の患者と比較し、認知症リスクが約2倍高かった(オッズ比:1.8、95%信頼区間:1.0~3.2)。・ビタミンDの欠乏(77 vs.81、p=0.05)および不足(77 vs.81、p=0.05)が認められる患者は、基準値の患者と比較し、より若年で認知症と診断された。

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患者集団を対象とした医療からの脱却法は?(解説:後藤信哉氏)

 ランダム化比較試験は、患者集団の標準治療の確立に役立った。しかし、新型コロナウイルス感染症などの病名にて患者集団を規定しても、集団を構成している個別症例の病態、予後には不均一性がある。たとえば、新型コロナウイルス感染症の入院例においてヘパリン治療がECMOなどを避けるために有効であることはランダム化比較試験にて示されたが、標準治療が集団を構成する全例に対して有効・安全なわけではない。 本研究はヘパリン治療の不均一性を検証するために3つの方法を利用した。(1)は通常のサブグループ解析である。新薬開発の臨床試験では事前に設定した年齢、性別、腎機能などにより分けたサブグループにて不均一性がないことを示している。本研究ではサブグループ解析にて結果の不均一性に注目した。(2)はrisk based model法である。集団からリスクに寄与する因子を抽出して、その因子により個別症例のリスクを事前に予測してグループ分けした。(3)はEffect-Based Approachである。いわゆるrandom forest plotにて効果を予測してグループ分けする方法である。 集団の不均一性を定量化する(1)~(3)の方法とも、新型コロナウイルス感染症による入院例に対するヘパリンの効果の不均一性を示した。 ランダム化比較試験は患者集団に対する標準治療の確立には効果があった。今後は、集団の不均一性に注目して、未来の個別最適化医療を目指すことになる。

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術前AC抵抗性TN乳がん、アテゾリズマブ+nab-PTXが有望/第II相試験

 トリプルネガティブ乳がん(TNBC)では、抗PD-(L)1抗体による術前療法で病理学的完全奏効(pCR)率が改善されるが、免疫関連有害事象(irAE)の長期持続リスクのためリスク・ベネフィット比の最適化が重要である。最初の術前療法で臨床効果が不十分な場合はpCR率が低い(2~5%)ことから、免疫チェックポイント阻害薬が選択可能かもしれない。今回、米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのClinton Yam氏らは、術前ドキソルビシン+シクロホスファミド(AC)抵抗性のTNBC患者に対して、第2の術前療法としてアテゾリズマブ+nab-パクリタキセルを投与する単群第II相試験を実施し、有望な結果が得られた。Breast Cancer Research and Treatment誌オンライン版2023年4月15日号に掲載。 本試験の対象は、StageI~IIIのAC抵抗性(AC 4サイクル後に病勢進行もしくは腫瘍体積の80%未満の減少)のTNBCで、第2の術前療法としてアテゾリズマブ(1,200mg、3週ごと4回)+nab-パクリタキセル(100mg/m2、1週ごと12回)を投与後、アテゾリズマブ(1,200mg、3週ごと4回)を投与した。 主な結果は以下のとおり。・2016年2月15日~2021年1月29日にAC抵抗性TNBCを37例登録した。・pCR/residual cancer burden(RCB)-I率は46%だった(ヒストリカルコントロール群:5%)。・新たな安全性シグナルは観察されなかった。・7例(19%)がirAEによりアテゾリズマブを中止した。

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統合失調症患者が地域社会で生活し続けるためには

 地域在住の統合失調症患者における身体的、精神的、社会的な併存症は、日常生活を妨げ、再入院リスクを上昇させる可能性がある。しかし、日本において、統合失調症患者の併存症に関する調査は、包括的に行われていない。藤田医科大学の松永 眞章氏らは、日本人統合失調症患者のさまざまな併存症の有病率を調査するため、有病率ケースコントロール研究を実施した。その結果、統合失調症患者が地域社会で生活し続けるためには、身体的、精神的、社会的な併存症を管理する効果的な介入が必要であることが示唆された。International Journal of Environmental Research and Public Health誌2023年2月28日号の報告。 2022年2月に、有病率ケースコントロール研究として、統合失調症の有無にかかわらず20~75歳の日本人を対象とした自己申告によるインターネット調査を実施した。統合失調症患者と統合失調症でない対照群の身体的(過体重、高血圧、糖尿病など)、精神的(抑うつ症状、睡眠障害など)、社会的(雇用状態、世帯収入、社会的支援など)併存症の有病率を比較した。 主な結果は以下のとおり。・統合失調症患者223例および対照群1,776例が特定された。・統合失調症患者は対照群よりも、過体重である可能性が高く、高血圧症、糖尿病、脂質異常症の有病率が高かった。・統合失調症患者は対照群と比較し、抑うつ症状、失業状態、非正規雇用の割合が高かった。・本結果は、地域在住の日本人統合失調症患者の身体的、精神的、社会的な併存症に対処する包括的な支援や介入の必要性を強調するものである。・統合失調症患者が地域社会で生活し続けるためには、併存症を管理する効果的な介入が必要である。

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重症化リスクの高いコロナ患者、ニルマトレルビルで入院・死亡減/BMJ

 重症化リスクの高いSARS-CoV-2感染者へのニルマトレルビル投与は非投与と比較して、ワクチン非接種者・接種者、ブースター接種者、再感染者において、30日時点の入院または死亡のリスクが低下していたことが明らかにされた。米国・VA Saint Louis Health Care SystemのYan Xie氏らが、米国退役軍人省の全国ヘルスケアデータベースを活用し、電子カルテを用いた無作為化ターゲット模倣試験(emulation of a randomized target trial)で明らかにした。ニルマトレルビルの有効性の検証は、オミクロン変異株が優勢となる前、ワクチン非接種のSARS-CoV-2感染者とSARS-CoV-2感染歴のない人々を対象に行われたものであった。BMJ誌2023年4月11日号掲載の報告。非投与と比較、検査陽性から30日以内の入院/死亡の発生を評価 検討は、米国退役軍人省の全国ヘルスケアデータベースを用いて、2022年1月3日~11月30日に、COVID-19重症化リスク因子を1つ以上有するSARS-CoV-2感染陽性者25万6,288例を対象に行われた。このうち3万1,524例は、SARS-CoV-2検査陽性から5日以内にニルマトレルビル投与を受け、22万4,764例は同投与を受けなかった。 検討では、SARS-CoV-2検査陽性から30日以内の入院または死亡の複合アウトカムが評価された。 SARS-CoV-2検査陽性から5日以内にニルマトレルビルを開始した場合の有効性を非投与と比較して推定。有効性は、30日時点の入院または死亡リスクの低下とし、ワクチン接種を受けていない人、1回または2回接種を受けた人、ブースター接種を受けた人、およびSARS-CoV-2初回感染者または再感染者それぞれにおいて推定した。 評価では、逆確率加重法を用いてグループ間の個人・健康特性を平均化した。また、相対リスクと絶対リスクの低下を、30日時点の累積発生率から算出した。有効性は、加重Kaplan-Meier推定量で推算した。オミクロン変異株感染者でもリスク低下 ワクチン非接種者(7万6,763例:投与群5,338例、非投与群7万1,425例)において、非投与と比較したニルマトレルビル投与による30日時点の入院または死亡の相対リスクは、0.60(95%信頼区間[CI]:0.50~0.71)、絶対リスク低下は1.83%(95%CI:1.29~2.49)であった。 ワクチン1回または2回接種者(8万4,620例:投与群7,989例、非投与群7万6,631例)ではそれぞれ0.65(95%CI:0.57~0.74)、1.27%(95%CI:0.90~1.61)、ブースター接種者(9万4,905例:1万8,197例、7万6,708例)では0.64(0.58~0.71)、1.05%(0.85~1.27)、SARS-CoV-2初回感染(22万8,081例:2万6,350例、20万1,731例)では0.61(0.57~0.65)、1.36%(1.19~1.53)、再感染者(2万8,207例:5,174例、2万3,033例)では0.74(0.63~0.87)、0.79%(0.36~1.18)であった。 ニルマトレルビルと入院または死亡のリスク低下との関連は、65歳以下および65歳超の人々で、男性および女性、黒人および白人の参加者で、また、COVID-19重症化リスク因子が1~2、3~4、5以上の人々、そしてオミクロン変異株BA.1またはBA.2およびBA.5の優勢期の感染者で認められた。

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社会的孤立と糖尿病を含む既知のアルツハイマー型認知症リスク因子が関連

 社会的な孤立が、アルツハイマー型認知症を予防するための修正可能なリスク因子の可能性があるとする、マギル大学(カナダ)のKimia Shafighi氏らの研究結果が「PLOS ONE」に2月1日掲載された。社会的孤立や周囲からのサポートの欠如と、糖尿病を含む身体疾患をはじめとする、アルツハイマー病の種々のリスク因子との関連が明らかになったという。 アルツハイマー病とそれに関連する認知症(alzheimer’s disease and related dementias;ADRD)の増加は、多くの国で公衆衛生上の重要な課題となっている。ADRDの治療法はいまだ確立されていないが、予防に関しては、修正可能なリスク因子の管理によって、最大40%程度、発症を抑制できる可能性が報告されている。修正可能なリスク因子として、これまでのところ、喫煙、運動不足、肥満、聴力や視力の低下、糖尿病や高血圧の管理不良などとともに、近年、社会的な孤立と周囲からのサポートの欠如の関与も指摘されている。 これらのリスク因子は相互に影響を及ぼしてADRDリスクをより高める可能性が想定されるが、社会的な孤立と周囲からのサポートの欠如と、ADRDの既知のリスク因子との関連については、十分明らかになっているとは言えない。Shafighi氏らはこの点について、英国の大規模ヘルスケアデータベース「UKバイオバンク」と、カナダで行われている加齢に関する縦断研究「CLSAコホート」のデータを用いて検討した。 研究対象者数は、UKバイオバンクが50万2,506人(女性54.4%)、CLSAコホートは3万97人(同50.9%)。「孤独だと感じる頻度は?」、「悩みを打ち明けられる人はいるか?」などの質問によって、社会的孤立と周囲からのサポートレベルを評価し、それらの結果とADRDの既知のリスク因子との関連の有無を調べた。 ベイジアンモデルという統計学的手法による解析の結果、社会的孤立を感じていたり周囲からのサポートが欠如している人は、喫煙量や飲酒量が多く、身体活動量が少なく、睡眠障害を有することが多いという関連が浮かび上がった。例えばUKバイオバンクでは、喫煙本数が多いほど社会的孤立を感じる割合が19.7%増え、喫煙頻度が高いほど周囲からのサポートが欠如した状態が10.2%増加するという関連が見られた。 CLSAコホートでは、ほかの人と運動をする機会が増えると社会的孤立を感じる割合が20.1%減少し、周囲からのサポートが欠如した状態は26.9%減少するという関連が認められた。また、テレビの視聴は社会的孤立の増加や周囲からのサポートの欠如と強い関連があり、反対にパソコンの使用は社会的孤立の減少と周囲からのサポートの増加と関連していた。 認知症のリスク因子として位置付けられている糖尿病と聴覚障害は、UKバイオバンクとCLSAコホートの双方で、社会的孤立および周囲からのサポートの欠如と強固な関連が認められた。そのほかにも、心血管疾患、視覚障害、抑うつ様行動など、既知の身体的・精神的リスク因子との関連性も観察された。 著者らは、「一般住民を対象とする疫学データに基づくわれわれの研究結果は、神経変性疾患の多くのリスク因子が、孤独やサポートの欠如と関連していることを示している。孤独を感じている個人への社会的な介入が、ADRDリスク抑制のための有望な戦略となるのではないか」と語っている。

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児童虐待相談が多い都道府県は?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第232回

児童虐待相談が多い都道府県は?Unsplashより使用日本の児童虐待の現状について調べた北海道大学の研究です。Seposo X, et al.Child Abuse Consultation Rates Before vs During the COVID-19 Pandemic in Japan.JAMA Netw Open. 2023 Mar 1;6(3):e231878.一般公開されている2019~21年の月別児童虐待相談件数を入手し、47都道府県の児童虐待相談率を推定しました。この研究では、身体的虐待だけでなく、ネグレクトや心理的な虐待も含めています。コロナ禍の影響を考察するため、2019年をパンデミック前、2020~21年をパンデミック期間としています。2019~21年に、日本では年間平均で18万2,549件の児童虐待相談が記録されていました。相談率の中央値が最も高かった都道府県はどこでしょう。最も多かったのは、大阪でした(パンデミック期:人口10万人当たり134.85件[四分位範囲[IQR]:132.06~154.53]、パンデミック前:人口10万人当たり144.89件[136.60~159.46])。私が住んでいる都道府県なので、ちょっぴりショックでした。反対に、最も低かったのは鳥取県(パンデミック期:人口10万人当たり8.97件[IQR:7.57~13.73]、パンデミック前:人口10万人あたり7.29件[4.48~11.77])でした。パンデミックの間、児童虐待相談率が減少していることも示されました。これは救急外来受診率が低下したことと同じロジックで、コロナ禍で相談の閾値が高くなってしまったことが影響しているでしょう。児童虐待相談件数は、イコール児童虐待の件数というわけではありません。これについては本来であれば相関があるか検討されるべきですが、なかなか検証が難しいですよね。

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重症コロナ患者、ACEI/ARBで生存率低下か/JAMA

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症成人患者において、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)やアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)の投与は臨床アウトカムを改善せず、むしろ悪化させる可能性が高いことを、カナダ・University Health NetworkのPatrick R. Lawler氏ら「Randomized, Embedded, Multifactorial, Adaptive Platform Trial for Community-Acquired Pneumonia trial:REMAP-CAP試験」の研究グループが報告した。レニン-アンジオテンシン系(RAS)の中心的な調節因子であるACE2は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の受容体であることから、RASの過剰活性化がCOVID-19患者の臨床アウトカム不良につながると考えられていた。JAMA誌2023年4月11日号掲載の報告。RAS阻害薬または非RAS阻害薬による治療で21日間の無臓器補助日数を評価 REMAP-CAP試験は、現在も進行中の、重症市中肺炎およびCOVID-19を含む新興・再興感染症に対する複数の治療を評価する国際多施設共同無作為化アダプティブプラットフォーム試験で、今回はその治療ドメインの1つである。 研究グループは、2021年3月16日~2022年2月25日の期間に、7ヵ国69施設において18歳以上のCOVID-19入院患者を登録し、重症群と非重症群に層別化するとともに、参加施設をACEI群、ARB群、ARB+DMX-200(ケモカイン受容体2型阻害薬)群、非RAS阻害薬(対照)群に無作為に割り付け、治療を行った。治療は最大10日間または退院までのいずれか早いほうまでとした。 主要評価項目は、21日時点における無臓器補助日数(呼吸器系および循環器系の臓器補助を要しなかった生存日数)で、院内死亡は「-1」、臓器補助なしでの21日間の生存は「22」とした。 主解析では、累積ロジスティックモデルのベイズ解析を用い、オッズ比が1を超える場合に改善と判定した。無臓器補助日数はACEI群10日、ARB群8日、対照群12日 2022年2月25日で、予定された564例の安全性データの評価に基づき、対照群と比較しACEI群およびARB群で死亡および急性腎障害が高頻度であることが懸念されたため、データ安全性モニタリング委員会の勧告により重症患者の登録が中止された。非重症患者の登録も同時に一時中断され、その後、2022年6月8日に試験は中止となった。最終追跡調査日は2022年6月1日であった。 全体で779例が登録され、ACEI群に257例、ARB群に248例、ARB+DMX-200群に10例、対照群に264例が割り付けられた。このうち、同意撤回やアウトカム不明、ならびにARB+DMX-200群を除く各群の重症患者計679例(平均年齢56歳、女性35.2%)が解析対象となった。 重症患者における無臓器補助日数の中央値(IQR)は、ACEI群(231例)で10日(-1~16)、ARB群(217例)で8日(-1~17)、対照群(231例)で12日(0~17)であった。 対照群に対する改善の調整オッズ比中央値は、ACEI群0.77(95%信用区間[CrI]:0.58~1.06)、ARB群0.76(0.56~1.05)であり、治療により無臓器補助日数が対照群より悪化する事後確率はそれぞれ94.9%および95.4%であった。 入院生存率は、ACEI群71.9%(166/231例)、ARB群70.0%(152/217例)、対照群78.8%(182/231)であり、対照群と比較して入院生存率が悪化する事後確率は、ACEI群95.3%、ARB群98.1%であった。

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「話しながら歩く」が難しいのは忍び寄る認知症のサイン?

 中年期でも歩きながら会話をしたり考え事をしたりといったことが難しくなっている場合、それは認知症が忍び寄っていることのサインかもしれない。二重課題(デュアルタスク)下で歩行する能力の低下は、65歳以上の高齢者での認知機能の低下や転倒と関連付けられているが、この能力は、実際には50代の半ばから低下し始めることが新たな研究で明らかにされた。米Hinda and Arthur Marcus Institute for Aging ResearchのJunhong Zhou氏らによるこの研究の詳細は、「The Lancet Healthy Longevity」3月号に掲載された。 Zhou氏らの研究は、バルセロナ脳健康イニシアチブ(Barcelona Brain Health Initiative;BBHI)の参加者のうち、本試験での解析時に歩行と認知機能の評価を完了した640人(男性53.4%、年齢42〜64歳)のデータを2次解析したもの。歩行の評価は、任意のスピードで静かに45秒間歩くテストと、ランダムに選ばれた3桁の数字から3を引いた数字を答えてもらう課題をこなしながら45秒間任意のスピードで歩く(二重課題下の歩行)テストの2種類を実施。これらのテストで重複歩時間(踵接地から同側の足の踵が再び接地するまでの時間)と重複歩時間変動性を測定し、二重課題コスト(DTC;通常の歩行から二重課題下での歩行への移行により増加した歩行アウトカムの率)を算出した。また認知機能については、神経心理学的テストにより、包括的認知機能スコアと処理速度や作業記憶などの5つの領域の複合スコアを算出した。 その結果、通常の歩行テストにおいては、対象者の年齢に関係なくほぼ一定の結果が得られた。しかし、二重課題下での歩行テストでは、54歳を境に年齢が上がるにつれ、重複歩時間および重複歩時間変動性のDTCが増加していた。また、54歳以降の人では、包括的認知機能の低下は重複歩時間および重複歩時間変動性のDTCの増加と関連していた。 こうした結果を受けてZhou氏は、「比較的健康な本研究の対象者においてでさえ、引き算をしながらの歩行となると、60代半ばの人で現れ始めるような重要な変化が、かすかではあるが認められた」と述べる。また研究グループは、「この結果から、認知機能のスクリーニング検査の実施時期を早めるべきだとする意見が出てくる可能性がある」と述べている。 Zhou氏は、「二重課題下での歩行能力は脳の健康の指標となる可能性がある。認知機能をターゲットにした介入を行うことで、二重課題下での歩行能力の維持や向上がもたらされ、後年の認知症の発症リスクを低減できるかもしれない」と示唆している。 米アルツハイマー協会のClaire Sexton氏は「加齢に伴い生じる記憶力や反応速度などの認知機能の変化に気付くのは普通のことだが、二重課題下でのパフォーマンスが低下し始める年齢については、これまで特定されていなかった」と話す。そして、「認知機能を維持するために二重課題訓練を行うことで得られる潜在的なベネフィットについては、目下、研究が活発に進められている。この研究結果は、そうした研究において焦点を当てるべき年齢枠を特定するのに役立つだろう」と述べている。

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