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検索結果 合計:4227件 表示位置:481 - 500

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IL-6R阻害薬、irAE改善効果とICIの効果への影響

 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は、広範ながん種において生存率の向上をもたらし、使用が拡大している。しかし、ICIによって生じる免疫関連有害事象(irAE)が治療の中断・中止の原因となるため、その管理が重要である。irAEに対する標準治療は副腎皮質ステロイドであるが、高用量かつ長期間の使用は、抗腫瘍免疫の減弱や有害事象の原因となる可能性がある。そこで、米国・Laura and Isaac Perlmutter Cancer CenterのFaisal Fa'ak氏らは、後ろ向き研究によりIL-6受容体(IL-6R)阻害薬のirAEに対する有効性と、ICIの抗腫瘍効果への影響を検討した。その結果、IL-6R阻害薬は、ICIの抗腫瘍効果を減弱せずにirAEを改善することが示唆された。本研究結果は、Journal for ImmunoTherapy of Cancer誌2023年6月11日号で報告された。 がん治療のためにICIを投与された患者のうち、ICI投与後にirAEが発現または自己免疫疾患が再燃し、IL-6R阻害薬(トシリズマブまたはサリルマブ)が投与された患者92例を対象に、後ろ向き解析を実施した。主要評価項目は、irAEの臨床的改善(irAEや自己免疫疾患の再燃の消失、またはGrade1以下への改善)であった。副次評価項目は、IL-6R阻害薬に関連する有害事象、RECIST v1.1に基づくICIの奏効率(ORR)であった。 主な結果は以下のとおり。・主な患者背景は、ICI投与開始時の年齢中央値61歳、男性63%で、ICIによる治療は抗PD-1抗体薬単剤が69%、抗CTLA-4抗体薬と抗PD-1抗体薬の併用療法が26%であった。主ながん種(5%以上)は、悪性黒色腫(46%)、泌尿生殖器がん(35%)、肺がん(8%)であった。・IL-6R阻害薬投与の理由となった主なirAE(2例以上に発現)は、炎症性関節炎(73%)、胆管炎/肝炎(7%)、筋炎/重症筋無力症/心筋炎(5%)、脳炎(5%)、リウマチ性多発筋痛症(4%)であった。・irAEの発現からIL-6R阻害薬投与開始までの期間の中央値は3ヵ月(範囲:0.03~51.0)であった。対象患者のうち91%は、副腎皮質ステロイドや疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDs)による十分な治療効果が得られなかったことから、IL-6R阻害薬が投与された。・IL-6R阻害薬によりirAEの臨床的改善に至った患者の割合は73%であり、IL-6R阻害薬による治療開始からirAEの臨床的改善までの期間の中央値は2.0ヵ月(範囲:0.03~23.0)であった。・ICIのORRは、IL-6R阻害薬投与前66%、投与後66%であったが、完全奏効の割合はIL-6R阻害薬投与後が投与前と比較して8%高かった。・IL-6R阻害薬投与後のICIのORRは、50歳超が50歳以下と比較して高かった(調整オッズ比:3.53、95%信頼区間:1.17~10.65、p=0.02)。同様に、IL-6R阻害薬を24週間以上投与した群は24週間未満の群と比較してICIのORRが高かった(同:3.21、1.03~9.96、p=0.04)・評価可能な病変を有する悪性黒色腫患者34例におけるICIのORRは、IL-6R阻害薬投与前56%から投与後68%に上昇した(p=0.04)。・IL-6R阻害薬の投与中止に至った有害事象は6例(7%)に認められた。 著者らは、「IL-6Rを標的としたアプローチは、抗腫瘍免疫を減弱させることなくirAEを効果的に治療することが可能な手法であると考えられる。本研究結果は、抗IL-6R抗体薬トシリズマブとICIの併用の有効性および安全性の評価を目的とした、現在進行中の臨床試験を支持するものである」とまとめた。

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軽症脳梗塞、4.5時間以内DAPT vs.アルテプラーゼ/JAMA

 日常生活や仕事上の障害につながらない(非障害性)軽症脳梗塞患者において、発症後4.5時間以内の抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)は90日後の機能的アウトカムに関して、アルテプラーゼ静注に対して非劣性であることが示された。中国・General Hospital of Northern Theatre CommandのHui-Sheng Chen氏らが、多施設共同無作為化非盲検評価者盲検非劣性試験「Antiplatelet vs R-tPA for Acute Mild Ischemic Stroke study:ARAMIS試験」の結果を報告した。軽症脳梗塞患者において、静脈内血栓溶解療法の使用が増加しているが、軽症非障害性脳梗塞患者における有用性は不明であった。JAMA誌2023年6月27日号掲載の報告。中国38施設で760例を、DAPT群とアルテプラーゼ群に無作為化 研究グループは中国の38施設において、18歳以上で発症後4.5時間以内、米国国立衛生研究所脳卒中スケール(NIHSS)スコア(範囲:0~42)が5以下およびNIHSSのいくつかの主要項目スコアが1以下、かつ無作為化時に意識項目スコアが0の軽症非障害性の急性脳梗塞患者を、DAPT群またはアルテプラーゼ群に1対1の割合で無作為に割り付け、追跡評価した。 DAPT群では、クロピドグレルを1日目に300mg負荷投与、その後75mgを1日1回12(±2)日間投与+アスピリンを1日目に100mg、その後100mgを12(±2)日間、以降90日目まではガイドラインに基づいた抗血小板薬単剤療法またはDAPTを行った。 アルテプラーゼ群では、ガイドラインに従いアルテプラーゼ0.9mg/kg、最大90mgを静脈内投与し、その24時間後からガイドラインに基づいた抗血小板療法を行った。 主要エンドポイントは、無作為化され1回以上の有効性評価を受けた全患者(full analysis set:FAS)における90日時点の修正Rankinスケール(mRS)スコア(範囲:0~6)が0~1で定義される優れた機能的アウトカムで、DAPT群のアルテプラーゼ群に対する非劣性マージンは群間リスク差の片側97.5%信頼区間(CI)下限値が-4.5%とした。 安全性エンドポイントは、90日間の症候性頭蓋内出血およびあらゆる出血とした。 2018年10月~2022年4月に760例がDAPT群(393例)またはアルテプラーゼ群(367例)に無作為化された。最終追跡調査日は2022年7月18日であった。mRSスコア0~1のアウトカム達成、DAPTの非劣性を確認 無作為化された適格患者760例(年齢中央値64歳[四分位範囲[IQR]:57~71]、女性223例[31.0%]、NIHSSスコア中央値2[IQR:1~3])で、同意撤回者などを除く719例(94.6%)が試験を完遂した。 90日時点で優れた機能的アウトカムを達成したのは、DAPT群93.8%(369例中346例)、アルテプラーゼ群91.4%(350例中320例)で、両群のリスク差は2.3%(95%CI:-1.5~6.2)、粗相対リスクは1.38(95%CI:0.81~2.32)であった。片側97.5%CI(両側95%CI)の補正前下限値は-1.5%で、非劣性マージン-4.5%を上回っていた(非劣性のp<0.001)。 90日時点での症候性頭蓋内出血の発現は、DAPT群で371例中1例(0.3%)、アルテプラーゼ群で351例中3例(0.9%)であった。

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第52回 「電動キックボード外傷」が急増しませんか?

電動キックボード解禁Unsplashより使用7月1日から改正道路交通法が施行され、最高時速20km以下で一定の要件を満たす電動キックボードに関して新制度がスタートしました。これまでは電動キックボードは「原動機付自転車」(原付バイク)の位置付けでしたが、今回から「特定小型原動機付自転車」となり、自転車と同じ交通ルールが適用されるようになります(図)。図.電動キックボード新ルール(政府広報オンライン)図.電動キックボード新ルール(政府広報オンライン)つまり、運転免許は不要で、車道を走行し、自転車と同じようにヘルメット着用については努力義務扱いとなっています。街中を走る電動キックボードがノーヘルで走ることになり、自転車が逆走してもよい一方通行も逆走可能になります。要は時速20kmが出る原付が、自転車と同じ扱いになる点が懸念材料とされており、世間は賛否両論です。私個人としては電動キックボードを車で轢きそうになったことがあるので、解禁する方向へ動くのは、どちらかといえば反対なんですよね。いや私見で申し訳ないんですが。外傷リスク上記の速度で歩道を走ることはできず、最高時速を6km以下に設定し、緑色のライトを点滅させれば走行可能です。でも現時点で歩道をビュンビュン走っている電動キックボードが多いので、無法地帯になるのではと懸念しています。電動キックボードはタイヤが小径です。段差などの衝撃の影響は自転車よりもはるかに受けやすく、転倒リスクが高いです。自転車が乗れなくなった高齢者が電動キックボードを利用するようにならないか不安もあります。「今後高齢者の足として電動キックボードを利用してみたらどうか」という声もありますが、自転車に乗れなくなった人がスケボーに乗れるはずがないので、外傷リスクが増すだけだと思います。そして、電動キックボードで頭頚部外傷を起こした症例の2~3割は飲酒運転とされており1,2)、これが一番懸念されることかなと思っています。自転車も当然飲酒運転はダメなのですが、「まいっか」みたいな風潮がどこかにあります。参考文献・参考サイト1)Clough RA, et al. Major trauma among E-Scooter and bicycle users: a nationwide cohort study. Inj Prev. 2023 Apr;29(2):121-125.2)Kowalczewska J, et al. Characteristics of E-Scooter-Related Maxillofacial Injuries over 2019-2022-Retrospective Study from Poznan, Poland. J Clin Med. 2023 May 26;12(11):3690.

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暑くても脳卒中が増加?~メタ解析

 暑さと寒さの両方が脳卒中の罹患率および死亡率を増大させ、発展途上国よりも先進国のほうが暑さによるリスクが高いことが、中国・Tongji Medical CollegeのJing Wen氏らによって明らかになった。Brain and Behavior誌オンライン版2023年6月2日号掲載の報告。 これまでの研究で、気温は脳卒中の罹患率および死亡率と関連することが示唆されているが、そのエビデンスは十分ではない。そこで研究グループは、気温と脳卒中の罹患率および死亡率との関連を評価するためにメタ解析を行った。 研究グループは、PubMed、Embase、Web of Scienceを用いて、データベース開設から2022年4月13日までに発表された研究を検索した。高温環境と低温環境のプール推定値は、ランダム効果モデルを用いて算出した。 主な結果は以下のとおり。・20件の研究が解析に含まれた。12件はアジアで実施され、6件はヨーロッパと北米、南米とオーストラリアは1件ずつであった。すべての研究における気温は-33.1℃(カナダ)~40.9℃(中国)で、高温環境は90パーセンタイル以上、低温環境は10パーセンタイル以下とされた。ほとんどの研究で気温のラグ効果は0~28日であると考えられていた。・高温環境では、脳卒中罹患率の相対リスク(RR)は1.10(95%信頼区間[CI]:1.02~1.18、I2=74.2%)、脳卒中死亡率のRRは1.09(1.02~1.17、85.6%)で有意な関連を示した。・低温環境では、脳卒中罹患率のRRは1.33(95%CI:1.17~1.51、I2=72.4%)、脳卒中死亡率のRRは1.18(1.06~1.31、85.5%)で有意な関連を示した。・サブグループ解析では、社会経済的地位で層別化すると、高温環境における脳卒中の罹患率および死亡率は、発展途上国よりも先進国で高かった。しかし、低温環境では、先進国よりも発展途上国のほうが罹患率および死亡率が高かった。 これらの結果より、研究グループは「本研究は、暑さと寒さの両方が脳卒中の罹患率および死亡率と正の相関があるという仮説を支持している。脳卒中リスクを低減するために、公衆衛生において的を絞った対策を推進すべきである」とまとめた。

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双極性障害ラピッドサイクラーの特徴

 双極性障害(BD)におけるラピッドサイクリング(RC、1年当たりのエピソード回数:4回以上)の存在は、1970年代から認識されており、治療反応の低下と関連する。しかし、1年間のRCと全体的なRC率、長期罹患率、診断サブタイプとの関連は明らかになっていない。イタリア・パドヴァ大学のAlessandro Miola氏らは、RC-BD患者の臨床的特徴を明らかにするため、プロスペクティブに検討を行った。その結果、BD患者におけるRC生涯リスクは9.36%であり、女性、高齢、BD2患者でリスクが高かった。RC患者は再発率が高かったが、とくにうつ病では罹患率の影響が少なく、エピソードが短期である可能性が示唆された。RC歴を有する患者では転帰不良の一方、その後の再発率の減少などがみられており、RCが持続的な特徴ではなく、抗うつ薬の使用と関連している可能性があることが示唆された。International Journal of Bipolar Disorders誌2023年6月4日号の報告。 RCの有無にかかわらずBD患者1,261例を対象に、記述的および臨床的特徴を比較するため、病例および複数年のフォローアップによるプロスペクティブ調査を実施した。 主な結果は以下のとおり。・1年前にRCであったBD患者の割合は9.36%(BD1:3.74%、BD2:15.2%)であり、男性よりも女性のほうが若干多かった。・RC-BD患者の特徴は以下のとおりであった。 ●年間平均再発率が3.21倍高い(入院なし) ●罹患率の差異は小さい ●気分安定に対する治療がより多い ●自殺リスクが高い ●精神疾患の家族歴なし ●循環性気質 ●既婚率が高い ●兄弟や子供がより多い ●幼少期の性的虐待歴 ●薬物乱用(アルコール以外)、喫煙率が低い・多変量回帰モニタリングでは、RCと独立して関連した因子は、高齢、抗うつ薬による気分変調、BD2>BD1の診断、年間エピソード回数の増加であった。・過去にRC-BDであった患者の79.5%は、その後の平均再発率が1年当たり4回未満であり、48.1%は1年当たり2回未満であった。

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第170回 糖尿病の細胞移植治療を米国が承認

死亡した人の膵臓から単離したランゲルハンス島を成分とする1型糖尿病の細胞治療Lantidra(donislecel-jujn)が専門家一堂の承認賛成から約2年の歳月を経て米国FDA承認に漕ぎ着けました1)。Lantidraの開発はさかのぼること20年ほど前の2004年に米国・イリノイ大学で始まり2)、同大学育ちの細胞治療研究会社CellTrans社に2016年に引き継がれ、締めて30例ばかりが参加した第I~III相試験の結果をよりどころにして今から3年前の2020年にFDAに承認申請されました。その申請の翌年2021年4月15日に米国FDAが招集した専門家17人のうち大半の12人がLantidraの効果は害を押して余りあると判断し3)、それから2年後の先週6月28日についに承認されました。Lantidraを使えるのは徹底的な治療や教育にも関わらず重度低血糖を繰り返すがためにHbA1c目標未達成の1型糖尿病患者に限られます。第I~III相試験もそのような1型糖尿病患者を募って実施されました。第I~III相試験では30例にLantidraが1~3回肝門脈に投与されました。残念ながら5例はインスリン不要になった日がありませんでしたが、大半の21例がインスリン要らずで1年以上を過ごしました。また、それら21例の約半数10例は5年を超えてインスリン不要な状態を保っており、移植細胞の10年間体内生存率は60%超と推定されています4)。幹細胞起源の治療の開発も進むFDAはシカゴにあるイリノイ大学病院の一画でLantidraを作ることを認可しています5)。Lantidraは死亡者の膵臓から作るゆえ供給は限定的になりそうです。一方、嚢胞性線維症治療薬で一時代を築いて今や屈指のバイオテクノロジー企業へと成長したVertex Pharmaceuticals社はよりあまねく供給しうる細胞治療を目指しており、先月末の米国糖尿病協会(ADA)年次総会で有望な第I/II相試験途中成績を披露しています。Vertex社の開発品はVX-880と呼ばれ、患者以外の他者の幹細胞(同種幹細胞)から作るインスリン生成島細胞を成分とします。第I/II相試験ではこれまでに1型糖尿病患者7例にVX-880が投与されています。そのうち1例は途中で同意を撤回して試験を離脱しましたが、残りの6例の体内には島細胞が定着してインスリンを生成しました。6例中2例は移植から1年が経過し、両者とも重度低血糖なしでHbA1c低下(7.0%未満に落ち着いているか元から差し引きで少なくとも1%減少)を達成し、さらにはインスリンに頼らず過ごせています6)。有望な成績を上げているVX-880ですがLantidraと同様の欠点もあります。それは免疫に排除されないようにするために免疫抑制薬がずっと必要ということです。そこでVertex社はさらに先を見据え、免疫抑制薬の継続が不要の細胞治療VX-264の開発も進めています。VX-264もVX-880と同様に同種幹細胞から作った島細胞を成分としますが、免疫が手出しできないようにする包みで覆うという一工夫が施されています。VX-264もVX-880と同様に第I/II相試験が進行中で、被験者の組み入れが行われています。およそ17例が組み入れられる予定です。参考1)FDA Approves First Cellular Therapy to Treat Patients with Type 1 Diabetes / PRNewswire2)Piemonti L, et al. Transpl Int. 2021;34:1182-1186. 3)Food and Drug Administration Center for Biologics Evaluation and Research Office of Tissues and Advanced Therapies Cellular, Tissue and Gene Therapies Advisory Committee Meeting April 15, 2021 69th Meeting Summary Minutes OPEN Session / FDA4)Cellular, Tissue, and Gene Therapies Advisory Committee April 15, 2021 Meeting Presentation- Clinical / FDA5)June 28, 2023 Approval Letter - LANTIDRA / FDA6)Vertex Presents Positive VX-880 Results From Ongoing Phase 1/2 Study in Type 1 Diabetes at the American Diabetes Association 83rd Scientific Sessions / BUSINESS WIRE

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臨床試験で有意差なし、本当に効果なし?/JAMA

 無作為化臨床試験の多くは統計学的に有意でない結果をもたらすが、このような知見は一般的な統計学的枠組みで解釈することは困難とされる。スイス・ジュネーブ大学のThomas Perneger氏らは、尤度比を適用することで、有意でない主要アウトカムの結果のうち、効果なしとする帰無仮説を支持するエビデンスの強度と、事前に規定された有効であるとする対立仮説を支持するエビデンスの強度を推定した。その結果、対立仮説(尤度比<1)が支持されたのは8.9%に過ぎず、91.1%では帰無仮説(尤度比>1)が支持された。研究の成果は、JAMA誌2023年6月20日発行号に掲載された。2021年の有意でないアウトカム169件の横断研究 研究チームは、2021年に主要医学ジャーナル6誌(JAMA、New England Journal of Medicine[NEJM]、PLoS Medicine、BMJ、Lancet、Annals of Internal Medicine)に掲載された無作為化臨床試験の論文130件の、統計学的に有意でない主要アウトカムの結果169件について横断研究を行った。 これら169件の結果について、効果なしとする帰無仮説と、試験プロトコールに記載された有効性の仮説(対立仮説)の尤度比を算出した。また、ベイズの定理を用いて治療が有効でない事後確率を計算した。 尤度比は、これらの仮説に対する支持を定量化するもので、>1の場合は帰無仮説を、<1の場合は対立仮説を支持し、たとえば尤度比5はそのデータが対立仮説の5倍の強度で帰無仮説を支持することを意味する。尤度比10は「強いエビデンス」、100は「決定的なエビデンス」であり、尤度比100以上の場合は一般的な事前信念(prior belief)のレベルでは特定の対立仮説ではなく、帰無仮説が真である事後確率が高いことを示唆する。約7割で強い、約5割で決定的な帰無仮説のエビデンス 130件の論文のうち掲載数が最も多かったジャーナルはJAMA(41件[31.5%])で、次いでNEJM(26件[20.0%])であった。105件(80.8%)は2群の比較試験で、62件(47.7%)は化学物質(薬剤、栄養補助食品、バイオ医薬品、ワクチン)、52件(40.0%)は薬物以外の介入(デバイス、手術、診断法、行動介入など)に関する試験であり、49件(37.7%)は通常治療との比較、45件(34.6%)はactive controlとの、36件(27.7%)はプラセボ/シャムとの比較だった。 解析の結果、有意でない主要アウトカム169件のうち、15件(8.9%)は有効であるとする対立仮説(尤度比<1)を支持し、154件(91.1%)は効果なしの帰無仮説(尤度比>1)を支持した。117件(69.2%)では尤度比が10(強いエビデンス)を超え、88件(52.1%)では100(決定的なエビデンス)を、50件(29.6%)では1,000を上回った。 一方、尤度比とp値との間には弱い相関しかなかった(Spearman相関係数 r=0.16、p=0.45)。また、信頼区間(CI)内に対立仮説の有効性のパラメータが含まれたのは39件(23.1%)で、残り130件(76.9%)では含まれていなかった。95%CI内に両仮説のパラメータの値が含まれる場合の尤度比は0.2~6.2の範囲であり、含まれない場合の範囲は3.0~10146だった。 著者は、「多くの統計学的に有意でない臨床試験の結果は、新たな治療法は効果がないという決定的なエビデンスを示している」と結論し、「主要アウトカムの差に統計学的有意差がない場合は、尤度比を報告することで、臨床試験の解釈が改善される可能性がある」と指摘している。

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カナダ政府がタバコ1本1本に健康被害警告の表示を義務化

 カナダ政府でメンタルヘルス・依存症担当大臣兼保健副大臣を務めるCarolyn Bennett氏は、世界禁煙デーに当たる5月31日に、カナダでは間もなく、紙巻きタバコ1本1本への健康被害警告の表示が義務付けられるようになると発表した。このような警告表示の義務化に踏み切るのは、世界でカナダが初めての国となる。 Bennett氏は、「この思い切った措置により、タバコ製品を使用する誰もが健康被害に関する警告を目にすることになる。こうした警告は、パッケージにともに表示される最新画像とともに、喫煙がもたらす健康被害について、リアルで衝撃的な注意を喚起することになるだろう」と述べる。同氏はさらに、「われわれは今後も、より多くの人が喫煙をやめ、また、若者がタバコを吸うことなく健康的な生活を送るのに役立つことは、何であれするつもりだ」と話した。 カナダでは、喫煙により毎年約4万8,000人が死亡しているとBennett氏は指摘する。今回の「Tobacco Products Appearance, Packaging and Labelling Regulations(タバコ製品の外観、パッケージ、表示に関する規制)」は、成人の禁煙を支援し、また若者や非喫煙者をニコチン中毒から守り、さらにはタバコ製品の魅力を減じるようとする、カナダ政府のたゆまぬ努力の成果の一つだ。また、この規制は、Canada’s Tobacco Strategy(カナダのタバコ戦略)と2035年までに喫煙率を5%未満にするという同戦略の目標を支援するものでもある。 規制は、2023年8月1日より段階的に施行される。小売業者は、2024年4月末までに新しい健康に関するメッセージを付したタバコ製品のパッケージを取り扱うことになる。次いで、2024年7月末までにキングサイズのタバコで健康被害警告の表示が義務化される予定だ。その後、2025年4月末までに、同様の警告が表示されたレギュラーサイズのタバコ、チッピングペーパー付きリトルシガー(葉巻の一種)、およびチューブ(手巻きタバコ用のさや紙)も販売されることになる。 AP通信は、メッセージには、「タバコの煙は子どもに有害」「吸うごとに毒も吸入」などの文言が使われる予定だと報じている。そのほか、健康被害に関わるメッセージの義務化には、1)タバコ製品のパッケージへのメッセージを強化・更新すること、2)健康被害のメッセージをあらゆるタバコ製品のパッケージに表示すること、3)メッセージを定期的に変えること、の要件を満たすことが求められる。 カナダ肺協会の会長兼CEOであるTerry Dean氏は、「本日発表されたタバコ製品の表示強化のための大胆な措置は、肺の健康に対するタバコ製品の危険性を喫煙者が確実に目にするようにするためのものだ。紙巻きタバコの1本1本に直接、警告を表示することには、タバコの魅力を減じる効果があり、特に若者に対する効果は高いだろう」と述べる。そして、「カナダは、タバコの使用を減らすために断固とした行動を取り続ける必要がある」と強調している。

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危険な心筋梗塞は月曜日に多く発生する

 週末が休みの人にとって、仕事や学校に戻らなければならない月曜日は憂うつなものだ。しかし、月曜日は人を憂うつにさせるだけではないようだ。アイルランドの患者データを分析した新たな研究で、月曜日は、緊急性の高いST上昇型心筋梗塞(STEMI)が1週間のうちで最も多く発生する曜日である可能性が示された。英Belfast Health and Social Care Trustの循環器専門医であるJack Laffan氏らによるこの研究結果は、英国心臓血管協会(BCS)年次会議(6月5〜7日、英マンチェスター)で発表された。 STEMIは血栓により冠動脈が閉塞して生じる心筋梗塞で、閉塞した血管を速やかに開通させなければ、心筋全層に壊死が生じる。英国でのSTEMIによる入院患者数は、毎年3万人以上に上る。STEMIでは、患者の心臓へのダメージを最小限に抑えるために、緊急度を迅速に評価し、必要に応じて閉塞した冠動脈を再開通させるための治療(経皮的冠動脈形成術)を行うことが必要だ。 今回の研究では、2013年1月から2018年3月の間にSTEMIを発症して入院した、アイルランド共和国と北アイルランドの患者1万528人のデータが分析された。対象者は、入院した日の曜日によりグループ分けされた。 STEMIの各曜日の発生件数と1週間の平均発生件数を比較すると、STEMIは月曜日と日曜日に有意に多く発生していることが明らかになった。また、各曜日のSTEMI発生のオッズを当該曜日以外の6日の平均と比べたところ、月曜日のみSTEMI発生のオッズが有意に高いことが示された(オッズ比1.13、P=0.015)。 ただし、この研究では、なぜ月曜日にSTEMIの発生が増えるのか、その理由は明確になっていない。過去の研究では、1日ごとの周期で繰り返される概日リズム(体内時計)が関わっていることが示唆されている。 Laffan氏は、「われわれの研究から、1週間の仕事を開始する日である月曜日は、STEMI発生と統計学的に強い関連を示すことが明らかになった。このような結果は以前にも報告されているが、今でも好奇心をそそるものであることに変わりはない。月曜日にSTEMIの発生が多い理由には複数の要因が絡んでいる可能性が高いが、過去の研究で示唆されたように、概日リズムを一要因として検討するのは妥当ではないかと思う」と述べている。 一方、英国心臓財団(BHF)のメディカルディレクターを務めるNilesh Samani氏は、「英国では、5分に1人が命を脅かす心筋梗塞により入院している。そのため、今後も研究を続け、心筋梗塞がどのように、また、なぜ起こるのかを解明することが重要だ」と述べる。その上で同氏は、「今回の研究結果は、特に緊急性の高い心筋梗塞の発生時期に関する新たなエビデンスとなるものだ。今後は、1週間のうちの特定の曜日になぜ心筋梗塞が起こりやすいのか、その理由を明らかにする必要がある。それにより、この致命的な疾患に対する医師の理解が深まり、それがより多くの命を救うことにつながるかもしれない」と話している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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COVID-19緊急事態は過ぎたが依然として対策意識の維持・向上を―AHAニュース

 世界保健機関(WHO)と米国政府の公式見解によると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)はもはや緊急事態には当たらないという。これは大きな変化ではあるが、誰もがパンデミックを意に介さずに行動できるようになったわけではないと、多くの専門家が指摘している。その1人、米ミシガン大学のPreeti Malani氏は、「誰にとってもリスクがなくなったわけではない。ただ、3年以上前に緊急事態宣言が発出された時とは、大きく状況が変化した」と語る。 WHOが2020年1月30日に初めて「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言した時点で、COVID-19による死亡者はわずか213人しか判明していなかった。しかしその後、その数は世界中で700万人近くに増加した。WHOは今年5月5日に、緊急事態の終了を宣言し、5月11日には米国で公衆衛生上の緊急事態宣言が解除された。これに伴い、COVID-19のモニタリング体制や検査・ワクチン接種費用の公費負担も終了しつつある。とはいえ、COVID-19のウイルスが消え去ったわけではなく、WHOのMaria Van Kerkhove氏も、「緊急事態は終了したがCOVID-19の流行はまだ終わっていない」と、警戒の継続を呼びかけている。 米疾病対策センター(CDC)は、今年5月13日までの1週間で、米国内で281人がCOVID-19で死亡し、9,204人が入院したと報告している。週当たりの死亡者数が約2万6,000人だったピーク時から著減しているがゼロではない。一部の人々は依然、COVID-19重症化や死亡リスクが高い。CDCによれば、高齢者や心臓病、糖尿病、肥満、慢性腎臓病などの基礎疾患を抱えている人、および現喫煙者・元喫煙者がそれに該当するという。 米ヒューストン・メソジスト・デベイキー心臓血管センターのSafi U. Khan氏は、「健康を守るためにすべきことの中で、ワクチン接種はリストの最上位にある」と話す。CDCは、生後6カ月以上の全ての人に対してCOVID-19のワクチン接種を推奨している。これまでに米国人口の81%が少なくとも1回は接種を受けているが、最新の2価ワクチンのブースター接種を受けた人はわずか17%だという。 ワクチン接種以外にも、「屋内の混雑した空間でのマスク着用、手指衛生の実践は良い習慣であり、継続すべきだ」とKhan氏は語る。COVID-19流行の動向監視も忘れてはならない。Malani氏は、「CDCはモニタリングを放棄したわけではないが、緊急事態の終了によりデータ収集方法が変化し、以前より報告が遅れることになるだろう」と話す。ただ、Malani氏自身、「以前は毎日、検査陽性率などの指標を確認していたが、今はもう見ることはない」と述べ、それらのデータの価値が時とともに低下しているとしている。一方で同氏は今、下水中のウイルスレベルのモニタリングデータに注目しており、「多くの地域社会では依然として下水の監視が続けられていて、医療現場からの報告で症例数の増加が明らかになる前に、感染拡大を把握できるだろう」とのことだ。 Malani氏は、「ワクチン接種やCOVID-19感染によって免疫を有している人が増えたことを考えれば、人々がパンデミックの初期の頃ほど厳格に警戒する必要はないが、注意は必要であり、『前に進め。ただし、賢く行動せよ』というメッセージが適切ではないか」と語っている。例えば、混雑した空間で誰かが咳をした時に、すぐにマスクを着けられるように常時携帯するといった対策を提案している。またこのような対策とともに、外出を控え続けることによって社会的孤立の状態に陥り、健康上の懸念をかえって高めたりしないよう注意を呼び掛けている。同氏によると、孤独感を訴える高齢者の割合は、いまだパンデミック以前の水準より高いという。 Malani氏はまた、COVID-19の感染リスクに配慮して人生の大事なイベントを取りやめるという判断は、今後は慎重に行うように呼び掛けている。「誰もこの病気を永遠に避け続けることはできないし、家族との特別な行事、卒業式、結婚式などの重要なライフイベントを、感染リスクがあるから中止するという判断は適切でなく、その時の状況によって判断すべき」と語る。そして、「COVID-19のリスクは依然として残っているが、リスクをコントロールしながら人生に重要なことを行えるようにはなった。これは3年前にはできなかったことだ」と付け足している。 一方、Khan氏は、「COVID-19のパンデミックは、いくつかの重要な教訓をもたらした」と総括している。具体的には、「第1に、ワクチン接種や定期的な医師の診察など、予防医療の重要性を明確に示したことであり、第2に、健康的なライフスタイルの重要性も以前に増して明確に示された。体に良い食事、習慣的な運動、十分な睡眠は全て、免疫システムの良好な状態の維持に役立つ」としている。その上で同氏は、「しかし、おそらく最も強調されるべき点は、公衆衛生対策の重要性が再確認されたことだ。マスクの着用、ワクチン接種などが自分自身の安全を守るだけでなく、周囲の人々の安全にもつながることが明確になった」と述べている。[2023年5月25日/American Heart Association] Copyright is owned or held by the American Heart Association, Inc., and all rights are reserved. If you have questions or comments about this story, please email editor@heart.org.利用規定はこちら

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認知症患者に処方される抗精神病薬と併用薬の分析

 さまざまな問題が指摘されているにもかかわらず、抗精神病薬が認知症患者に対し、依然として一般的に処方されている。北里大学の斉藤 善貴氏らは、認知症患者に対する抗精神病薬の処方状況および併用薬の種類を明らかにするため、本検討を行った。その結果、認知症患者への抗精神病薬の処方と関連していた因子は、精神科病院からの紹介、レビー小体型認知症、NMDA受容体拮抗薬の使用、多剤併用、ベンゾジアゼピンの使用であった。著者らは、抗精神病薬の処方の最適化には、正確な診断のための地域の医療機関と専門医療機関の連携強化、併用薬の効果の評価、処方カスケードの解決が必要であるとしている。Dementia and Geriatric Cognitive Disorders誌オンライン版2023年5月26日号の報告。 対象は、2013年4月~2021年3月に受診した認知症外来患者1,512例。初回外来受診時に、人口統計学的データ、認知症のサブタイプ、定期処方薬の調査を行った。抗精神病薬の処方と、紹介元、認知症のサブタイプ、抗認知症薬の使用、多剤併用、潜在的に不適切な薬物(PIM)の使用との関連性を評価した。 主な結果は以下のとおり。・抗精神病薬が処方されていた認知症患者は11.5%であった。・認知症のサブタイプで比較すると、レビー小体型認知症患者は、他のすべての認知症サブタイプの患者よりも、抗精神病薬の処方率が有意に高かった。・併用薬については、抗認知症薬使用、多剤併用、PIM使用の患者において、これらの薬物を使用していない患者と比較し、抗精神病薬処方の可能性が高かった。・多変量ロジスティック回帰分析では、精神科病院からの紹介、レビー小体型認知症、NMDA受容体拮抗薬の使用、多剤併用、ベンゾジアゼピンの使用が、抗精神病薬の処方と関連していることが示された。

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英語で「難しい選択でした」は?【1分★医療英語】第86回

第86回 英語で「難しい選択でした」は?Though I said yes to surgery, I’m still quite anxious.(手術を受けますとは言ったものの、まだかなり不安です)I understand your concern. It was a tough call.(お気持ちお察しします。難しい選択でしたよね)《例文1》Making a medical decision can often be a tough call.(医療上の意思決定はしばしば難しくなり得るものです)《例文2》We needed to continue a blood thinner despite the stomach bleeding. That was a tough call.(胃からの出血がありながらも、血をサラサラにする薬を続ける必要がありました。難しい選択でした)《解説》“call”といえば、真っ先に「電話をかける」を思い浮かべる方が多いかもしれません。“I’ll make a quick phone call.”と言えば、「ちょっと短い電話をしてきます」という意味になります。この“call”という単語を名詞で使った場合、電話のほかに「選択肢」という意味で用いることができます。たとえば、“It’s your call.”と言えば、「それはあなたの選択です」という意味になりますし、“good”や“bad”と合わせて、“good call”(良い選択肢)、“bad call”(悪い選択肢)といった使い方もできます。医療の現場では、しばしば難しい選択を迫られるシーンに出合います。たとえば、「治療法Aと治療法Bのどちらを選択するか」、「相反する2つの病態をどう治療していくか、そもそも治療をするのかしないのか」…。こういった場面で、「難しい選択です」と伝えたいとき、“tough”という形容詞と合わせて、“It is a tough call.”と表現することもできます。講師紹介

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第169回 4億6千万円の筋ジストロフィー遺伝子治療を米国が承認

4億6千万円の筋ジストロフィー遺伝子治療を米国が承認静注投与1回きりでその値段約4億6千万円(320万ドル)1)の筋ジストロフィー遺伝子治療を米国食品医薬品局(FDA)が承認しました2,3)。米国のバイオテクノロジー企業Sarepta Therapeutics社が開発し、4~5歳の歩けるデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)小児に使うことが承認されました。商品名はELEVIDYS(delandistrogene moxeparvovec-rokl)です。DMDは筋肉が痩せ衰えていく難病で、筋肉細胞が正常でいられるようにするのを助ける蛋白質ジストロフィン(dystrophin)を失わせる遺伝子変異を原因とします。歩行や走ることが困難になる、よく転ぶようになる、疲労、学習障害/困難、心筋の支障による心臓の不調、肺機能を担う呼吸筋の衰えによる呼吸困難などの症状がジストロフィンの欠損のせいで生じます。DMDと関連する筋肉の衰えはたいてい3~6歳で見受けられるようになり、重症度や予後は一様ではありませんが、20~30歳代の若さで心臓や呼吸器の不全で命を落とすことが少なくありません。承認されたELEVIDYSはジストロフィンのいくつかの部分を寄せ集めた小振りなジストロフィン(shortened form of dystrophin)を作る遺伝子を筋肉細胞に届けてジストロフィン機能の不足を補います。ELEVIDYSが作る小振りなジストロフィンはその商品名を冠してElevidys micro-dystrophinと呼ばれます。4億円を優に超える値段であるからにELEVIDYSはDMD小児の気の持ちよう、身のこなし、移動の自由などをよほど改善することが確認済みなのかといえばそうではなく、患者を生きやすくしうるそのような臨床的有用性(clinical benefit)はまだ立証されていません。ではFDAは何をよりどころにしたかというとElevidys micro-dystrophin発現の様子です。4~5歳のDMD小児の骨格筋でのElevidys micro-dystrophin発現上昇が無作為化試験結果で裏付けられており、その年齢のDMD小児のElevidys micro-dystrophin発現上昇は臨床的有用性とどうやら結びつくとFDAは判断してELEVIDYSを取り急ぎ承認しました。承認申請に含まれる唯一の二重盲検無作為化試験の被験者全般の結果では運動機能の検査NSAA総点数の変化は残念ながらプラセボと有意差がつきませんでした。NSAAは立位、歩行、椅子や床から立ち上がること、片足立ち、段差の上り下り、仰向けから座った状態に移ること、跳躍、走ることなどの17項目を検査します。しかし4~5歳の被験者に限るとNSAA改善はプラセボをより上回っており、Elevidys micro-dystrophinの発現が多いこととNSAAの改善の関連を支持する結果が得られています4)。とはいえその結果はあらかじめ計画されていたわけではない後付(Post hoc)解析に基づくものです。よってせいぜいが仮説を生み出す試みに過ぎず解釈には注意を要するとの慎重な立場をFDAのスタッフは示しました。ところが、FDAの新薬承認審査部門を仕切るPeter Marks氏にとってその結果はもはや説得力十分(compelling)なものでした。4~5歳のDMD小児のElevidys micro-dystrophin発現上昇と予後がどうやら関連しうることがそのサブグループ解析で支持されており、総合的に見てELEVIDYSの取り急ぎの承認は妥当であると同氏は結論づけました5)。ELEVIDYSの予後改善効果を立証するための試験をFDAはSarepta社に課しており、EMBARKという名称のその試験6)はすでに進行中です。被験者組み入れはすでに目標数に達しており、結果は今年中に判明します。EMBARK試験の主要転帰は投与後1年(52週後)時点のNSAA総点数の変化です。NSAAは点数が大きいほど良好なことを意味し、最低は0点で最高は34点です。0点は17の検討項目のどれもできない最悪な状態、34点はどれも難なくこなせる最良の状態です。FDAはEMBARK試験の結果が判明したら急いで検討し、必要とあらば用途の変更や承認の取り消しなどの手段が講じられます。もしEMBARK試験が目標を達成したらELEVIDYSを年齢制限なく使えるようにするつもりだとFDAはSarepta社に先立って通知しており、来年早くにその用途拡大を実現させたいとSarepta社のかじ取り役のDoug Ingram氏は言っています7)。参考1)US FDA approves Sarepta's gene therapy for rare muscular dystrophy in some kids / Reuters2)FDA Approves First Gene Therapy for Treatment of Certain Patients with Duchenne Muscular Dystrophy / PRNewswire3)Sarepta Therapeutics Announces FDA Approval of ELEVIDYS, the First Gene Therapy to Treat Duchenne Muscular Dystrophy / BUSINESS WIRE4)FDA Briefing Document / FDA5)CENTER DIRECTOR DECISIONAL MEMO / FDA6)EMBARK試験(Clinical Trials.gov)7)Spotlight On: Elevidys eking past FDA for DMD is d?j? vu all over again for Sarepta / FirstWord

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低リスク骨髄異形成症候群の貧血にluspaterceptは?/Lancet

 赤血球造血刺激因子製剤(ESA)による治療歴のない低リスクの骨髄異形成症候群(MDS)患者の貧血治療において、エポエチンアルファと比較してluspaterceptは、赤血球輸血非依存状態とヘモグロビン増加の達成率に優れ、安全性プロファイルは全般に既知のものと一致することが、ドイツ・ライプチヒ大学病院のUwe Platzbecker氏らが実施した「COMMANDS試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年6月10日号に掲載された。26ヵ国の第III相無作為化対照比較試験 COMMANDSは、26ヵ国142施設が参加した第III相非盲検無作為化対照比較試験であり、2019年1月~2022年8月の期間に患者の登録が行われた(CelgeneとAcceleron Pharmaの助成を受けた)。今回は、中間解析の結果が報告された。 対象は、年齢18歳以上、ESAによる治療歴がなく、WHO 2016基準でMDSと診断され、国際予後判定システム改訂版(IPSS-R)で超低リスク、低リスク、中等度リスクのMDSと判定され、赤血球輸血を要し、骨髄芽球割合<5%の患者であった。 被験者は、luspaterceptまたはエポエチンアルファの投与を受ける群に1対1の割合で無作為に割り付けられた。luspaterceptは3週間に1回皮下投与され、1.0mg/kg体重から開始して可能な場合は最大1.75mg/kgまで漸増した。エポエチンアルファは週1回皮下投与され、450IU/kg体重から開始して可能な場合は最大1,050IU/kgまで漸増した(最大総投与量8万IU)。 主要エンドポイントは、intention-to-treat集団において、試験開始から24週までに、12週以上で赤血球輸血非依存状態が達成され、同時に平均ヘモグロビン量が1.5g/dL以上増加することであった。 356例(年齢中央値74歳[四分位範囲[IQR]:69~80]、男性 56%)が登録され、luspatercept群に178例、エポエチンアルファ群にも178例が割り付けられた。中間解析には、24週の投与を完遂、および早期に投与中止となった301例(luspatercept群147例、エポエチンアルファ群154例)が含まれた。主要エンドポイント達成率はluspatercept群59%、エポエチンアルファ群31% 主要エンドポイントを達成した患者は、エポエチンアルファ群が48例(31%)であったのに対し、luspatercept群は86例(59%)と有意に高率であった(奏効率の共通リスク差:26.6、95%信頼区間[CI]:15.8~37.4、p<0.0001)。 また、(1)24週のうち12週以上で赤血球輸血非依存状態を達成した患者(luspatercept群67% vs.エポエチンアルファ群46%、名目p=0.0002)、(2)24週のすべてで赤血球輸血非依存状態を達成した患者(48% vs.29%、名目p=0.0006)、(3)国際作業部会(IWG)基準で8週間以上持続する赤血球系の血液学的改善効果(HI-E)(74% vs.51%、名目p<0.001)は、いずれもluspatercept群で有意に良好だった。 投与期間中央値は、エポエチンアルファ群(27週[IQR:19~55])よりもluspatercept群(42週[20~73])が長かった。最も頻度の高いGrade3/4の治療関連有害事象(患者の≧3%)として、luspatercept群では高血圧、貧血、呼吸困難、好中球減少症、血小板減少症、肺炎、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、MDS、失神が、エポエチンアルファ群では貧血、肺炎、好中球数減少症、高血圧、鉄過剰症、COVID-19肺炎、MDSがみられた。 luspatercept群の1例(78歳)が、3回目の投与後に急性骨髄性白血病と診断されて死亡し、担当医により試験薬関連と判定された。 著者は、「これらの結果をより強固なものにし、低リスクMDSの他のサブグループ(SF3B1遺伝子の変異なし、環状鉄芽球なしなど)に関する知見をさらに精緻なものにするために、今後、長期のフォーアップと追加データが求められるだろう」としている。

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高い身体活動レベルは慢性疼痛の軽減に役立つ?

 余暇の時間に行う身体活動(physical activity;PA)が慢性疼痛を軽減する上で有効な可能性を示した研究結果が、ノルウェーの研究グループにより報告された。身体的に活発な人では、座りがちな人よりも痛みに対する耐性(以下、疼痛耐性)が高く、また、PAレベルが高い人ほど、疼痛耐性レベルも高いことが明らかになったという。北ノルウェー大学病院(ノルウェー)のAnders Arnes氏らによるこの研究の詳細は、「PLOS ONE」に5月24日掲載された。 Arnes氏らは、ノルウェーで定期的に実施されている大規模な人口調査(トロムソ研究)のデータを用いて、余暇の時間に行う習慣的なPAレベルの経時的な変化が疼痛耐性に影響を及ぼすのか、また、疼痛耐性の経時的な変化がPAレベルにより異なるのかを検討した。用いたデータは第6次調査(2007〜2008年、ベースライン)と第7次調査(2015〜2016年)のもので、成人1万732人(女性51%)が参加していた。余暇に行うPAレベルは、調査参加者の報告に基づき「座りがち」「軽度」「中強度」「高強度」の4群に分類した。また疼痛耐性については、冷水の中に手を浸水させていられる時間を測定するコールドプレッサーテスト(CPT)で評価した。 その結果、2回の調査を通じて活動的だった人では、いずれの調査時も「座りがち」であった人に比べて、疼痛耐性が有意に向上することが示された。最も著しい向上が認められたのは2回の調査を通じてPAレベルが「中強度から高強度」であった人で、これらの人は、いずれの調査時も「座りがち」であった人よりも20.4秒長く冷水の中に手を浸していられるものと推定された。また、ベースラインよりも2回目の調査時にPAレベルが上昇していた人でも、疼痛耐性が向上する傾向が認められた。 2回の調査間で、対象者が冷水の中に手を浸していられる時間は平均54.7秒短縮していた。解析の結果、疼痛耐性の総体的なレベルはベースラインのPAレベルと有意な正の相関を示すことが明らかになった。ベースラインのPAレベルが「高強度」だった人が冷水の中に手を浸していられる時間は、「座りがち」だった人よりも16.3秒長いと推定された。ただし、PAレベルと2回の調査時期との間に統計学的に有意な交互作用は確認されず、疼痛耐性の経時的な変化がベースライン時のPAレベルにより異なるわけではないことが示唆された。 研究グループは、「これらの結果は、高いPAレベルの維持やPAレベルを高めることが疼痛耐性の向上につながり得ることを示唆するものだ」との見方を示す。そして、このことを踏まえ、「PAレベルを高めることは、慢性疼痛を和らげたり、食い止めたりするための戦略となる可能性がある」と述べている。 一方、Arnes氏も、「徐々にPAレベルを高めるか、高いPAレベルを維持することで、疼痛に対する耐性を高められる可能性がある。何よりも重要なのは、何であれ何かをすることだ」と強調している。 研究グループは、「PAレベルと疼痛耐性が本当に因果関係にあるのかどうかは、今後の研究で解明されていくだろう」と述べている。

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感染対策義務のない学会参加、コロナ感染はどれくらい?

 対面式の学術集会参加後の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染率を調べた報告はあるが1,2)、オミクロン株流行期に開催された感染対策義務のない学術集会参加後のSARS-CoV-2感染率は報告されていない。そこで、Saarland University Medical CenterのAlaa Din Abdin氏らは、オミクロン株流行期に感染対策義務なしで開催された、ドイツ眼科学会年次総会2022の参加者4,463人を対象として、学術集会参加後のSARS-CoV-2感染率と感染に関連する因子を検討した。その結果、調査対象者の8%が学術集会後にSARS-CoV-2検査陽性となり、ほかの研究1,2)で報告されている割合(0~1.7%)よりも高かった。また、過去にSARS-CoV-2感染歴があると学術集会での感染は少なく、民泊利用者は感染が多かった。本研究結果は、JAMA Network Open誌2023年6月13日号のリサーチレターで報告された。 ドイツ眼科学会年次総会2022は、2022年9月28日~10月2日にドイツ・ベルリンで開催された。参加にあたり、SARS-CoV-2感染の自己検査やワクチン接種、マスク着用などは求められなかった。学術集会後の2022年10月22日に、参加者にオンラインでアンケートを送付し、SARS-CoV-2検査陽性率、SARS-CoV-2感染に関連する因子を検討した。 主な結果は以下のとおり。・学術集会参加者4,463人のうち、38.2%(1,709人)がアンケートに回答し、有効回答率は30.4%(1,355人)であった。・学術集会後にSARS-CoV-2陽性になったと回答したのは8.0%(109人)であった。・SARS-CoV-2検査を実施した786人の検査実施時期は、学術集会後1週間以内が88%(690人)であった。・SARS-CoV-2感染歴ありは、学術集会後にSARS-CoV-2陽性になった参加者の17.4%(19人)であったのに対し、陰性の参加者では62.5%(423人)であり、学術集会後のSARS-CoV-2陰性と関連していた(p<0.001)。・民泊の利用は、学術集会後のSARS-CoV-2検査陽性と関連していた(p=0.01)。・ワクチン接種者(2回以上の接種)の割合は97.8%(1,342人)であり、ワクチン接種歴は、学術集会後のSARS-CoV-2検査結果と関連がなかった。・移動手段、移動中・学術集会中のマスク着用、学術集会への参加期間は、いずれも学術集会後のSARS-CoV-2検査結果と関連がなかった。

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肝細胞がんデュルバルマブ+トレメリムマブの1次治療、免疫介在性有害事象とOS の関係(HIMALAYA)/ASCO2023

 切除不能肝細胞がん(uHCC)に対する1次治療として抗PD-L1抗体デュルバルマブと抗CTLA-4抗体トレメリムマブの併用は、免疫介在性有害事象(imAE)発生の有無にかかわらず、全生存期間(OS)の延長を示していた。第III相のHIMALAYA試験の探索的解析の結果として、香港humanity and health clinical trial centerのGeorge Lau氏が米国臨床腫瘍学会年次総会(2023 ASCO Annual Meeting)にて発表した。 HIMALAYA試験はuHCCを対象とした国際多施設共同オープンラベル第III相試験である。デュルバルマブとトレメリムマブを併用するSTRIDEレジメンはソラフェニブに比べて有意なOS改善を、デュルバルマブ単剤はソラフェニブに対して非劣性を示していた。・対象:局所療法の適応とならない未治療のuHCC・試験群1:トレメリムマブ300mg 単回+デュルバルマブ1,500mg 4週ごと(STRIDE群、388例)・試験群2:デュルバルマブ1,500mg 4週ごと(Dur群、389例)・対照群:ソラフェニブ400mg×2/日(Sora群、389例)・評価項目:[主要評価項目]OS(STRIDE群対Sora群)[副次評価項目]OS(Dur群対Sora群、非劣性)、無増悪生存期間(PFS)、奏効期間(DOR)、全奏効率(ORR)、安全性など 今回は、HIMALAYA試験の探索的解析から、imAEとOSの関連について、STRIDE群とDur群で検討されている。 主な結果は以下のとおり。・STRIDE群およびDur群のimAEの多くは低Gradeであり、ほとんどが治療開始から3ヵ月以内に発現していた。・STRIDE群でのimAE発現は139例(35.8%)、非発現は249例(64.2%)、Dur群のimAE発現は64例(16.5%)、非発現は324例(83.5%)であった。・STEIDE群のimAE発現グループにおけるOS中央値は23.2ヵ月、非発現グループでは14.1ヵ月であり、ハザード比(HR)は0.727(95%信頼区間[CI]:0.557~0.948)であった。・STRIDE群におけるimAE発現および非発現グループの6ヵ月OS率は、それぞれ36.2%と27.7%であった。・Dur群でのimAE発現グループにおけるOS中央値は17.8ヵ月、非発現グループでは16.5ヵ月であり、HRは1.136(95%CI:0.820〜1.574)であった。 Lau氏は「imAEの発現はSTRIDEレジメンによるOSの延長を妨げず、また、STRIDEレジメンでは、imAE発現の有無にかかわらず長期生存が観察された」と述べた。

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難治性うつ病に対するケタミンの効果、ショック療法に劣らず

 治療抵抗性の大うつ病性障害(以下、うつ病)に対する治療法として、ケタミンの静脈内投与が電気けいれん療法(ECT)の代わりになり得る可能性のあることが、米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のAmit Anand氏らによる臨床試験で示された。詳細は、「The New England Journal of Medicine(NEJM)」に5月24日掲載された。 現在、さまざまな薬物療法や精神療法を試しても奏効しない治療抵抗性のうつ病患者に対しては、「ショック療法」とも呼ばれているECTが施行されることがある。これは、脳に電気刺激を与えて一時的なけいれんを誘発する治療法だ。ECTは、これまで80年にわたってうつ病の治療に用いられてきており、有効かつ即効性があると考えられている。しかし、認知面への副作用や社会的スティグマなどが原因で十分に活用されていない。その一方で、強力な麻酔薬であり、以前から違法な「パーティードラッグ」としても使用されてきた静注用ケタミンを抗うつ薬として使用できるかどうかについても、これまで研究が行われてきた。 今回報告された臨床試験には、2017年3月から2022年9月の間に治療抵抗性のうつ病患者403人が登録された。Anand氏によると、本試験は、ケタミンとECTを比較した臨床試験の中では最大規模であるという。参加者は、1週間に3回ECTを施行する群と、1週間に2回、体重1kg当たり0.5mgのケタミンを40分かけて投与する群のいずれかにランダムに割り付けられた。最終的に195人がケタミンの投与、170人がECTを3週間にわたって受け、その後、6カ月にわたって追跡された。主要評価項目は治療に対する反応とし、これは、治療終了時の自己報告による簡易抑うつ症状尺度16項目(QIDS-SR-16)のスコアの初回治療時から50%以上の改善とした。QIDS-SR-16のスコアは0〜27点で、高スコアほど抑うつ症状が重いことを意味する。 その結果、抑うつ症状が50%以上改善した患者の割合は、ECT施行群の41.2%に対してケタミン投与群では55.4%と半数を超えていた。また、ケタミン投与群では治療中の一過性の解離感を除けば副作用は認められなかった。一方、ECT施行群には、ホプキンス言語学習テスト改訂版による評価で想起力に低下が認められ、また、筋骨格系の問題と関連していた。 研究責任者で米マウントサイナイ・アイカーン医科大学のJames Murrough氏は、「これらは驚くべき結果だったと言わざるを得ない」と話す。ただし、この試験では、ECTに対するケタミンの優位性の評価は行われておらず、結果が意味するのは「数値上は、ケタミンの成績は極めて良好であったこと」として、慎重な解釈を求めている。 うつ病患者の多くでは、フルオキセチン(米国での商品名プロザック、日本国内未承認)といった選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などのファーストライン(第一選択薬)の抗うつ薬による治療が奏効する。しかし、残念ながら一部の患者はファーストライン治療薬による治療を繰り返してもうつ病を克服できない。 解離性麻酔薬のケタミンは現在、鎮痛薬および全身麻酔薬として米食品医薬品局(FDA)に承認されているが、抗うつ薬としては未承認であるため、うつ病に対しては適応外使用となる。また、ケタミンは規制薬物であり、「乱用につながる危険性もある」とMurrough氏は言う。さらに、うつ病治療として使用可能な期間がどの程度なのかについても現時点では不明であるほか、今回の試験は精神病のないうつ病患者を対象としていたが、ケタミンは精神病を悪化させる可能性がある点にも留意しておく必要がある。 この臨床試験には関与していない米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)精神医学教授のAndrew Leuchter氏は、治療抵抗性うつ病患者が家庭や仕事、生活の中での機能を取り戻す上でケタミンにどの程度の効果があるのか、また効果の持続期間がどの程度であるのかを知りたいという。その背景について同氏は、「ECTの臨床試験では、再発予防を目的とした適切な薬物治療が行われない限り、最初の6カ月間の再発率は驚くほど高いことが示されている」と説明している。

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早期乳がんの死亡率、どのくらい下がったのか/BMJ

 英国・オックスフォード大学のCarolyn Taylor氏らは、National Cancer Registration and Analysis Service(NCRAS)のデータを用いた観察コホート研究を行い、早期浸潤性乳がん女性の予後は1990年代以降大幅に改善され、ほとんどの人が長期がんサバイバーとなっているものの、依然として少数例で予後不良リスクが伴うことを報告した。早期浸潤性乳がん診断後の乳がん死亡リスクは、過去数十年間で低下しているが、その低下の程度は不明であり、また低下は特定の特性を持つ患者に限定されるのか、すべての患者に当てはまるのか不明であった。BMJ誌2023年6月13日号掲載の報告。英国の早期浸潤性乳がん患者約51万例について解析 研究グループは、NCRASのデータを用いて、1993年1月~2015年12月に英国において早期浸潤性乳がん(乳房のみ、または腋窩リンパ節陽性であるが遠隔転移なし)の診断で登録された患者51万2,447例を特定し、2020年12月まで追跡調査を行った。 主要評価項目は、乳がん年間死亡率および累積死亡リスクとした。診断時暦年、診断時年齢、エストロゲン受容体(ER)陽性/陰性、HER2陽性/陰性、腫瘍径、腫瘍悪性度、リンパ節転移数、スクリーニングの有無などにより層別し解析を行った。診断時暦年は1993~99年、2000~04年、2005~09年、2010~15年のカテゴリーに分けた。診断特性の違いで、5年累積乳がん死亡率は3%未満群~20%以上群とばらつき 乳がん年間粗死亡率は、いずれの診断年カテゴリーでも、診断後2年間に増加し3年目にピークとなり、その後は低下した。また、乳がん年間死亡率ならびに累積死亡リスクは、診断時暦年が近年になるほど低下した。 乳がん5年粗死亡率は、1993~99年に診断された女性で14.4%(95%信頼区間[CI]:14.2~14.6)であったが、2010~15年に診断された女性では4.9%(4.8~5.0)であった。 ER陽性/陰性別の補正後乳がん年間死亡率も、全体およびほぼすべてのサブグループ(診断時年齢層、スクリーニングの有無、腫瘍径、リンパ節転移数、悪性度別)で診断時暦年が近年になるほど低下し、1993~99年に診断された群に比べて2010~15年に診断された群では、ER陽性で約3分の1、ER陰性で約2分の1であった。 2010~15年に診断された女性のみについて解析した場合、5年累積乳がん死亡率は異なる特性の組み合わせによって大きなばらつきがあり、女性の62.8%(15万3,006例中9万6,085例)を占める特性群の5年累積乳がん死亡率は3%未満である一方、4.6%(15万3,006例中6,962例)の特性群では20%以上であった。 これらの結果を踏まえて著者は、「より最近の年代に診断された患者群の5年乳がん死亡リスクは、今日の患者の乳がん死亡リスクの推定に使用できるだろう」とまとめている。

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COPD患者の生存率向上につながり得る治療標的が明らかに

 慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の多くに気道の閉塞をもたらす粘液栓(粘液の塊)が、COPD治療の新たな標的となり得ることが、米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院呼吸器・救命医療部門のAlejandro Diaz氏らによる研究で示された。この研究結果は、米国胸部学会(ATS 2023、5月19〜24日、米ワシントン)で発表され、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に5月21日同時掲載された。 米国では、COPDは4番目に多い死因であり、その有病者数は1590万人に上る。COPDの原因としては、喫煙や長期間にわたる大気汚染への曝露などが挙げられる。COPDはそうしたものへの曝露を避けることで進行を遅らせることはできるが、治癒は不可能だ。さらに、研究グループによると、COPD患者の死亡に影響を与える要因に関しては、現時点ではほとんど分かっていない。その上、死亡に関係する要因の全てが症状として現れるわけではないという。 研究グループは今回、COPDに関する遺伝疫学研究(Genetic Epidemiology of COPD;COPDGene)に2007年から2011年の間に登録された、喫煙歴が10パックイヤー以上の1万198人のうち、4,363人のさまざまな重症度のCOPD患者のデータを用いて解析を行い、初診時の胸部CT検査で確認された気道の粘液栓と全死亡リスクとの関係について調べた。対象者は、年齢中央値が63歳(四分位範囲57〜70歳)で、女性が44%を占めていた。粘液栓が検出された肺の区域数(0〜18区域)で患者を分類すると、0区域が2,585人(59.3%)、1〜2区域が953人(21.8%)、3区域以上が825人(18.9%)だった。 中央値9.5年に及ぶ追跡期間中に1,769人(40.6%)が死亡した。粘液栓が検出された肺の区域数が0区域だった患者の全死亡率は34%だったのに対して、1〜2区域の患者では46.7%、3区域以上の患者では54.1%と高かった。粘液栓が検出された肺の区域数が0区域の患者と比べた全死亡の調整ハザード比は、1〜2区域の患者で1.15(95%信頼区間1.02〜1.29)、3区域以上の患者で1.24(同1.10〜1.41)だった。 Diaz氏は、「これらは粘液栓の増加と全死亡率に関連があることを示した説得力のあるデータだ。ただし、その関連要因については、現時点では何も明らかになっていない」と指摘する。その上で、「COPDを治癒に導くことはできないが、われわれの研究では、粘液栓を壊す治療によってCOPD患者の予後を改善できる可能性のあることが示された。これは、治癒の次に良いことだ」と述べている。 Diaz氏によると、粘液が作られるのは体の正常な免疫反応の一つであるが、通常、作られた粘液は回復過程で咳によって吐き出される。しかしCOPDでは、粘液が過剰に分泌されて排出されにくい状態になり、その結果、粘液栓が形成される。こうした粘液栓は、特定の症状とは強く関連しないため、看過されやすいのだという。 Diaz氏は、「過去40年間にわたってCOPDの治療にはわずか二つの標的しかなかった。一つは気管支拡張の促進、もう一つは気管支の炎症の抑制だ」と言う。一方、粘液に関しては、「COPD以外の疾患に対しては、粘液を標的とした治療法が既に数多く存在しており、開発段階のものもある。したがって、粘液はCOPDの治療標的としても極めて有望だ」との見方を示す。 研究グループは、既存の治療法をCOPD患者に試し、粘液栓を標的とした治療が患者の予後に影響を与えるかどうかを検討する研究を計画中だ。

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