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検索結果 合計:4227件 表示位置:321 - 340

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日本人薬物乱用頭痛に対するフレマネズマブの有効性~多施設共同RCT事後分析

 慢性片頭痛(CM)患者は、急性頭痛薬を服用していることが多く、その結果として薬物乱用(MO)状態に至ることが少なくない。静岡赤十字病院の今井 昇氏らは、MOの有無を問わない日本人CM患者に対するフレマネズマブの有効性を評価するため、第IIb/III相試験の事後分析を実施した。その結果、フレマネズマブはMOの有無にかかわらず、日本人CM患者の片頭痛予防に有効であり、MOの軽減にも有益であることが示唆された。Neurology and Therapy誌オンライン版2023年9月11日号の報告。 多施設共同二重盲検並行群間第IIb/III相試験では、患者を月1回フレマネズマブ皮下投与群(初回投与量:675mg、2回目・3回目投与量:225mg)、四半期ごとフレマネズマブ皮下投与群(初回投与量:675mg、2回目・3回目投与:プラセボ)、プラセボ群(いずれの投与もプラセボ)に1:1:1でランダムに割り付け、3ヵ月間投与を行った。本事後分析では、MOの有無を問わず日本人CM患者(1ヵ月当たりの使用:急性頭痛薬15日以上、片頭痛特異的急性治療薬10日以上、10日以上の併用)のデータを分析した。アウトカムには、オリジナルのエンドポイントである中等度以上の平均頭痛日数、平均頭痛日数が50%以上減少した患者の割合、MOのない状態に変化した患者の割合を含めた。 主な結果は以下のとおり。・登録患者479例のうち、ベースライン時にMOが認められた患者は320例(66.8%)であった。・1ヵ月当たりの平均頭痛日数は、MOの有無にかかわらず、フレマネズマブ群においてプラセボ群よりも有意な減少が認められた。【MOあり】月1回群:-2.0±0.6(p=0.0012)、四半期ごと群:-1.8±0.6(p=0.0042)【MOなし】月1回群:-1.6±0.8(p=0.0437)、四半期ごと群:-1.5±0.8(p=0.0441)・平均頭痛日数が50%以上減少した患者の割合は、MOの有無にかかわらず、フレマネズマブ群においてプラセボ群よりも有意な減少が認められた。【MOあり】月1回群:28例/108例、25.9%(p=0.0040)、四半期ごと群:25例/99例、25.3%(p=0.0070)、プラセボ群:12例/111例、10.8%【MOなし】月1回群:18例/50例、36.0%(p=0.0132)、四半期ごと群:21例/60例、35.0%(p=0.0126)、プラセボ群:7例/49例、14.3%・MOのない状態に変化した患者の割合は、フレマネズマブ群のほうがプラセボ群よりも有意に高かった(月1回群:50例/108例、46.3%[p=0.0115]、四半期ごと群:44例/99例、44.4%[p=0.0272]、プラセボ群:33例/111例、29.7%)。

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転移乳がんへのDato-DXd、医師選択化療よりPFS延長(TROPION-Breast01)/ESMO2023

 化学療法の前治療歴のある手術不能または転移を有するHR陽性(+)/HER2陰性(-)の乳がん患者を対象とした第III相TROPION-Breast01試験の結果、抗TROP2抗体薬物複合体datopotamab deruxtecan(Dato-DXd)は、医師選択化学療法よりも有意に無増悪生存期間(PFS)を延長し、かつGrade3以上の治療関連有害事象(TRAE)は半数以下であったことを、米国・Massachussetts General Hospital/Harvard Medical SchoolのAditya Bardia氏が欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2023)のPresidentialで報告した。・対象:HR+/HER2-、1~2ラインの全身化学療法歴、内分泌療法で進行または不適、ECOG PS 0~1の手術不能または転移を有する乳がん患者 732例・試験群:Dato-DXd(6mg/kg、3週ごと)を進行または許容できない毒性が発現するまで継続(Dato-DXd群:365例)・対照群:医師が選択した化学療法(エリブリン、ビノレルビン、カペシタビン、ゲムシタビン)を進行または許容できない毒性が発現するまで継続(化学療法群:367例)・評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央判定(BICR)によるPFS、全生存期間(OS)[副次評価項目]治験担当医評価によるPFS、安全性・層別化因子:前治療のライン数、地域、CDK4/6阻害薬の治療歴の有無 Dato-DXdは、第I相TROPION-PanTumor01試験において、手術不能または転移を有するHR+/HER2-の前治療歴のある乳がん患者において有望な活性を示している。今回は、グローバル第III相TROPION-Breast01試験の主要評価項目の1つであるPFSの結果が報告された。 主な結果は以下のとおり。・Dato-DXd群と化学療法群の年齢中央値は56歳(範囲:29~86)/54歳(28~86)、白人が49%/46%、アジア系が40%/41%、1ラインの前治療歴が63%/61%、CDK4/6阻害薬の治療歴ありが82%/78%、タキサン系and/orアントラサイクリン系の治療歴ありが90%/92%で、両群でバランスがとれていた。・データカットオフ(2023年7月17日)時点の追跡期間中央値は10.8ヵ月で、Dato-DXdの93例と化学療法群の39例が治療を継続していた。・主要評価項目であるBICRによるPFSは、Dato-DXd群6.9ヵ月(95%信頼区間[CI]:5.7~7.4)、化学療法群4.9ヵ月(95%CI:4.2~5.5)であり、Dato-DXd群で有意にPFSが改善された(HR:0.63[95%CI:0.52~0.76]、p

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切除不能または転移を有する尿路上皮がん1次治療、化療へのニボルマブ追加でOS改善(CheckMate 901)/ESMO2023

 切除不能または転移を有する尿路上皮がんの1次治療として、シスプラチンベースの化学療法へのニボルマブの追加が全生存期間(OS)および無増悪生存期間(PFS)を有意に改善した。日本も参加している第III相CheckMate 901試験の結果を、オランダ・Netherlands Cancer InstituteのMichiel S. van der Heijden氏が欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2023)で報告した。なお本結果は、2023年10月22日にNEJM誌オンライン版へ同時掲載されている。・対象:シスプラチン適格、未治療の切除不能または転移を有する尿路上皮がん患者(18歳以上、ECOG PS 0~1)・試験群:ニボルマブ(360mg、1日目)+ゲムシタビン(1,000mg/m2、1日目・8日目)+シスプラチン(70mg/m2、1日目)を3週ごとに最大6サイクルまで→ニボルマブ(480mg)を4週ごとに疾患進行/許容できない毒性の発現または最大2年まで 304例・対照群:ゲムシタビン+シスプラチン 304例・評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央判定(BICR)によるOS、PFS[副次評価項目]PD-L1≧1%におけるOS、PFS、健康関連QOL(HRQOL)[探索的評価項目]BICRによる奏効率(ORR)、安全性・層別化因子:PD-L1発現状況(≧1% vs.

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第186回 手術不要の狙いどおりの脳深部刺激がヒトに初めて施された

手術不要の狙いどおりの脳深部刺激がヒトに初めて施された手術で脳内に移植した電極による脳深部刺激(DBS)はパーキンソン病などの重度の運動疾患や強迫性障害(強迫症)などの気分障害の治療手段として世界で広く使われています。用途の拡大も期待され、たとえば治療抵抗性うつ病やアルツハイマー病へのDBSの試験が実施されています。しかし脳手術につきものの危険性や合併症がDBSの可能性を狭めています。手術不要のDBSの実用化を目指し、頭の外側からの磁気や電気を送る手段が多くの臨床試験で検討されてきました。そのような経頭蓋磁気/電気刺激を基底核や海馬などの脳の奥深くの領域に到達させるにはそれらを覆う脳領域も広く一緒に刺激してしまうことが避けられず、余計な副作用の心配があります。そこで英国のImperial College Londonの認知症研究者Nir Grossman氏らは脳に置いた電極が発する電場によって脳の奥深くのみを遠隔刺激しうる手段を編み出し、その意図どおりの効果を示したマウス実験成果を2017年に報告しました1)。Grossman氏らがtemporal interference(TI)と呼ぶその手術不要の手段はマウスの海馬をそれに被さる領域に手出しすることなく刺激することができました。検討はその後さらに進み、先週Nature Neuroscience誌に発表された臨床試験の結果、いまやTIはマウスと同様にヒトの脳の奥深くも刺激しうることが裏付けられました2)。Grossman氏らはまず死者の脳を使った検討で電場が海馬のみ相手しうることを確認し、続いて健康な20例を募ってTIによる海馬刺激を試みました。被験者には顔と名前の組み合わせを記憶する課題をしてもらい、その最中の被験者の脳にTIを施しました。海馬は言わずもがな記憶や学習を司る脳領域であり、被験者がした課題は海馬の働きを必要とします3)。fMRIで被験者の脳の活動を測定したところ、TIは海馬の活性のみ調節し、記憶の正確さが改善しました。Nature Neuroscience誌に時を同じくして発表された別の報告4)ではヒトの線条体をTIによって活性化し、運動記憶機能が改善したことが確認されています。スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)が率いた研究の成果です。Grossman氏らの成果はまったく新しいアルツハイマー病治療の道を切り開くものです。初期段階のアルツハイマー病患者へのTIの臨床試験が早くもGrossman氏の指揮の下で始まっており、被験者集めが進行中です5)。アルツハイマー病で侵された脳領域の活動がTIを繰り返すことで正常化し、記憶障害の症状が改善することを期待しているとGrossman氏は述べています3)。参考1)Grossman N, et al. Cell;169:1029-1041.2)Violante IR, et al. Nat Neurosci. 2023 Oct 19. [Epub ahead of print]3)Surgery-free brain stimulation could provide new treatment for dementia / Imperial College London4)Wessel MJ, et al. Nat Neurosci. 2023 Oct 19. [Epub ahead of print]5)Recruiting to a new landmark trial to treat dementia by sending electrical currents deep into the brain.

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1型DM妊婦の血糖コントロール、クローズドループ療法vs.標準療法/NEJM

 1型糖尿病の妊婦において、ハイブリッドクローズドループ(HCL)療法は標準インスリン療法と比較し妊娠中の血糖コントロールを有意に改善することが示された。英国・Norfolk and Norwich University Hospitals NHS Foundation TrustのTara T. M. Lee氏らが、同国9施設で実施した無作為化非盲検比較試験「Automated insulin Delivery Amongst Pregnant women with Type 1 diabetes trial:AiDAPT試験」の結果を報告した。HCL療法は、非妊娠成人および小児において血糖コントロールを改善することが報告されているが、妊娠中の1型糖尿病の管理における有効性は明らかになっていなかった。NEJM誌オンライン版2023年10月5日号掲載の報告。1型糖尿病妊婦124例を、妊娠16週までに無作為化 研究グループは、1型糖尿病の罹病期間が12ヵ月以上の18~45歳の妊婦で、妊娠初期の糖化ヘモグロビン(HbA1c)値が6.5%以上の妊婦を、妊娠16週までにHCL群または標準インスリン療法(1日複数回の注射またはインスリンポンプによる強化インスリン療法)群に無作為に割り付け、両群とも持続血糖モニタリング(CGM)を行い追跡評価した。 主要アウトカムは、妊娠16週から出産までのCGMによる妊娠期特有目標血糖値範囲(63~140mg/dL)内の時間の割合とし、ITTの原則に従って解析した。 重要な副次アウトカムは、高血糖状態(血糖値>140mg/dL)の時間の割合、夜間における目標血糖値範囲内の時間、HbA1c値および安全性であった。 2019年9月~2022年5月の期間に、334例がスクリーニングされ、このうち124例が無作為化された(HCL群61例、標準療法群63例)。平均(±SD)年齢は31.1±5.3歳で、ベースライン時の平均HbA1c値は7.7±1.2%であった。目標血糖値範囲内の時間の割合は68% vs.56%で、HCL療法群が有意に高率 主要アウトカムである目標血糖値範囲内の時間の平均割合は、HCL群68.2±10.5%、標準インスリン療法55.6±12.5%、平均補正後群間差は10.5%(95%信頼区間[CI]:7.0~14.0、p<0.001)であった。 副次アウトカムの結果は主要アウトカムの結果と一致しており、HCL群が標準療法群より高血糖状態の時間の割合が少なく(群間差:-10.2%、95%CI:-13.8~-6.6)、夜間における目標範囲内の時間の割合が多く(12.3%、8.3~16.2)、HbA1c値が低かった(-0.31%、-0.50~-0.12)。 重度低血糖症イベントはHCL群で6件(被験者4例)、標準療法群で5件(5例)に、糖尿病性ケトアシドーシスは各群1例に認められた。HCL群におけるデバイス関連有害事象の発現頻度は24.3件/100人年で、HCLの使用に関連した事象が7件、CGMに関連した事象が7件であった。

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予測能の高い認知症リスクスコアが英国で開発

 認知症発症を予測するリスクスコアが英国で新たに開発され、既存のリスクスコアより高い予測能を有することが確認された。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のMelis Anaturk氏らの研究によるもので、詳細は「BMJ Mental Health」に8月21日掲載された。 認知症患者数が世界的に増加し、その対策が各国の公衆衛生上の喫緊の課題となっている。認知症発症リスクを予測し予防介入を強化することが、疾病負担の抑制につながると考えられることから、種々のリスクスコアが開発されてきている。ただし、いずれも予測能の限界が存在する。これを背景としてAnaturk氏らは、英国の大規模ヘルスケア情報データベース「UKバイオバンク」のデータを用いて新たなリスクスコアを開発し、その予測能を検証した。 UKバイオバンクのデータの8割に当たる17万6,611件をリスクスコア開発用、残り2割に当たる4万4,151件を検証用に用いた。また、英国におけるUKバイオバンクとは別の大規模コホートである「Whitehall II」のデータ2,934件を用いた外部検証も行った。 UKバイオバンクにデータが収載されていて、かつプライマリケアで簡便に評価可能な28項目の認知症発症に関わる因子を抽出した上で、LASSO回帰モデルなどの統計学的手法により構築されたリスクスコアを「UKBDRS(U.K. Biobank Dementia Risk Score)」と命名。UKBDRSで評価する項目は、年齢、性別、家族歴(親の認知症)、教育歴、タウンゼント剥奪指数、糖尿病、脳卒中、うつ病、高血圧、高コレステロール血症、独居であり、遺伝子検査が可能な場合はこれにApoE4を加えた「UKBDRS-APOE」でリスクを評価する。 ROC解析で検討したUKBDRSの認知症発症予測能〔ROC曲線下面積(AUC)〕は、UKバイオバンク開発コホートで0.79(95%信頼区間0.78~0.79)、同検証コホートで0.80(同0.78~0.82)、Whitehall IIでは0.77(0.72~0.81)だった。UKBDRS-APOEでは同順に、0.81(0.81~0.81)、0.83(0.81~0.84)、0.80(0.75~0.85)だった。 これらの値は、現在臨床で使われている3種類のリスクスコアより優れていた。例えば、CAIDE(Cardiovascular Risk Factors, Aging and Dementia)はUKバイオバンク検証コホートでのAUCが0.60(0.58~0.63)、Whitehall IIでは0.69(0.64~0.74)であり、DRS(Dementia Risk Score)は同順に0.77(0.76~0.79)、0.74(0.69~0.78)、ANU-ADRI(Australian National University Alzheimer’s Disease Risk Index)は0.57(0.54~0.59)、0.52(0.45~0.58)だった。 論文共著者の1人である英オックスフォード大学のRaihaan Patel氏は、「異なる2種類の集団で高い予測能が確認されたことから、われわれはUKBDRSの精度に関して自信を深めているが、英国内のより多様な人々での精度検証も必要とされる」と述べている。

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「人生をエンジョイ」する人は認知症発症リスクが低い~JPHC研究

 人生をエンジョイすることは、自身の環境と楽しく関わる能力と関連しており、これは認知症リスクとも関連しているといわれている。順天堂大学の田島 朋知氏らは、日本の地域住民における人生のエンジョイレベルと認知症発症との関連を調査した。The Journals of Gerontology. Series B, Psychological Sciences and Social Sciences誌オンライン版2023年9月18日号の報告。 対象は、Japan Public Health Center-based(JPHC)研究に参加した5年間のフォローアップ調査時点で45~74歳の日本人3万8,660例。心理的状態およびその他の交絡因子の特定には、自己記入式アンケートを用いた。認知症発症は、2006~16年の日本の介護保険(LTCI)制度に基づき評価した。Cox比例ハザードモデルを用いた、ハザード比[HR]および95%信頼区間[CI]を算出した。 主な結果は以下のとおり。・フォローアップ期間中央値9.4年の間に認知症を発症した患者は4,462例であった。・人生のエンジョイレベルは、認知症リスクとの反比例が認められた。・多変量HRは、エンジョイレベルが低い人と比較し、中程度の人で0.75(95%CI:0.67~0.84、p<0.001)、高い人で0.68(同:0.59~0.78、p<0.001)であった。・人生のエンジョイレベルの増加と認知症リスク低下との関連性は、低~中程度の精神的ストレスを抱えている人で最も強かった。・精神的ストレスレベルが高い人では、脳卒中後の身体障害性認知症において関連性が明らかであったが、脳卒中歴のない身体障害性認知症では認められなかった。 結果を踏まえ、著者らは「人生のエンジョイレベルが高い人は、とくに低~中程度の精神的ストレスを抱える人において、認知症発症リスクが低いことが示唆された。認知症リスクを軽減するためにも、精神的ストレスをマネジメントし、人生をエンジョイすることが重要である」としている。

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マルウェア、ランサムウェアとは【サイバー攻撃の回避術】第5回

ランサムウェアを始めとするマルウェアは、サイバー攻撃の目立つ部分であるため、そこのみに注目が集まりやすいが、実際に攻撃を防ぐためには、アンチウイルスソフトなどの直接的なマルウェア対策のみでは不十分であり、地道ではあるが脆弱性対策を優先すべきことを再確認されたい。はじめに医療機関に限らず、ランサムウェア1)などを用いたサイバー攻撃は後を絶たない。医療ISACの把握している範囲では、全世界で1日10件程度のランサムウェア被害が発生しており、日本でも2022年には過去最高の230件の被害が報告された2)。そもそもランサムウェアとは何か、また、ほかのさまざまなコンピュータウイルス3)などにはどのようなものがあり、どのような使い方をされており、われわれは何を知ってどのように対処すればよいか、といった点について、一般ユーザが最低限知っておくべき知識を概説する。マルウェア4)とはコンピュータやその利用者に被害をもたらすことを目的とした、悪意のあるソフトウェアをマルウェアと呼ぶ。もともとコンピュータウイルスやワーム5)などと呼ばれていたが、悪意のあるソフトウェアを総称する用語としてマルウェアが一般的になっているので、本稿では以降、悪意があるプログラムの総称として「マルウェア」を用いる。マルウェアの代表的なものとしては、以下のようなものが挙げられる。プログラムやファイルの一部を書き換えて自己複製するコンピュータウイルス独立したプログラムとして実行され、ネットワークなどを介してほかのコンピュータに拡散するワーム攻撃者の命令に従ってDDoS攻撃6)や迷惑メールの送信などを行うボット暗号化などによってファイルを利用不能な状態にして、元に戻すことと引き換えに金銭を要求するランサムウェアさらに、自己増殖能力はなく、深く潜伏して一定の条件下にて活性化する、トロイの木馬7)などもマルウェアの一種である。マルウェアは攻撃者が用いるツールの一つであり、マルウェア感染のみで身代金要求などの重大なサイバー被害を生じることは通常ない。それはハッカーらの攻撃手法の段階を示すサイバーキルチェーン8)を見ればよくわかる。攻撃者は攻撃候補を探すために、インターネット上に公開されているサーバやGlobal IP9)などのうち、脆弱性が存在するものを探索する。攻撃候補を決定したら、その脆弱性を利用してシステム内に侵入し、外部の攻撃用のサーバ(Command&Control Server:C2 Server)10)から、手動で内部探索を行う。その際に管理者の権限(ID/PW)を奪取する水平移動という行動をとり、攻撃を防御するような仕組みを次々と無効化していく。たとえば、アンチウイルスソフトの無効化などは常套手段である。その上で、システム内およびネットワークで接続された機器などの中から攻撃対象となり得るファイルサーバなどを定め、データを窃取した上で、ランサムウェアに感染させ、時限的に発動するように設定する。その猶予時間内に攻撃者は自分の侵入した痕跡を消し去った上で撤収するのである。マルウェア感染の防止方法とその意義サイバー攻撃においてマルウェアは重要なツールの一つだが、マルウェア感染を防げばすべての被害を防げるわけではない。まずは侵入を防ぐこと、次にマルウェア感染しないように脆弱性対策をいち早く行うことが重要である。従ってアンチウイルスソフトの意義は限定的となる。さらにアンチウイルスソフトの限界として1.一般に知られていない脆弱性を利用した攻撃(ゼロデイ攻撃)11)に用いられるマルウェアについては無効2.最近のトレンドとして、マルウェアの亜種や新種が一日に数十万~数百万件発生している12)ため、定義ファイルとのパターンマッチングでマルウェアを同定するアンチウイルスソフトが無効なケースが増えていること3.さらに最近流行しているファイルレスマルウェア13)は、直接メモリ上に展開して感染するため、最小するマルウェアのプログラムファイル自体が存在しないため、アンチウイルスソフトは無効であることなどが指摘できる。このような状況を考えれば基本的なスタンスとして、アンチウイルスソフトに一定の効果は期待できるものの過信は禁物であり、やはり根本的な対策として脆弱性対策に力を入れるべきことがわかる。市販されている各種アンチウイルスソフトについては機能的に大差なく14)、適用可能であればWindows標準のWindows Defenderでも問題はない。脆弱性対策については、OS、ブラウザ、Adobeなどのアプリケーション、VPN装置をはじめとするファームウェア15)を中心に考える必要がある。WindowsについてはMicrosoft社が月に一回、定期的な更新プログラムを公開しており、可能であれば自動的に更新する設定が好ましい。しかしながら、医療機関の業務系システムはインターネットには直接接続していないことも多く、その場合にどのように更新プログラムを適用するかは、事業者側とよく協議して確実に実行できる体制を構築する必要がある。2023年5月に改正された厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第6.0版」16)でも、脆弱性対策について、ベンダー側と協議して責任分界点を明確にした上で確実に実行するように求めている。ほかのアプリケーションや、VPN装置などの脆弱性対策についても同様であるが、とくに後者については、実際の侵入経路となった被害実績があるため、重要性は高い。ランサムウェアの最新状況ランサムウェアはマルウェアの一種であるが、ランサムウェアを用いた身代金窃取を目的とした行動は、犯罪エコシステムを形成している17)。すなわち、ランサムウェアを開発し利用料を取って販売するグループ、実際に攻撃を行うグループ(アフィリエイト)18)、脆弱性などが存在する攻撃対象候補のリスト(Initial Access List)19)を販売するグループ、さまざまな攻撃用のツールを販売するグループ、身代金受け取りのため仮想通貨口座を貸し出すグループなど、さまざまな役割のグループが暗躍しているのが実態である。いわゆるRaaS(Ransomware as a Service)である(図1)。(図1)Ransomware as a Service:(RaaS)画像を拡大する以下に、最近活発に活動しているランサムウェアの代表的なグループとその特徴を列挙する。1)LockBit 3.020)ロシアの代表的なランサムウェアグループの一つ。楕円関数暗号を用いた高度の暗号化を図る。2021年の半田病院の事例を含め、日本にも被害事例は多い。二重脅迫を行うことも有名で、独自のLeak siteで被害者名と公表までのカウントダウンを行う。一部情報では幹部が「医療機関は狙わない、万が一、被害に遭った場合は無料で復号化キーを提供する」と発言しているようだが21)、実際にはアフィリエイトが独自にターゲットを選定するため、医療機関の被害も後を絶たないのが現実である。2)ALPHV(別名:BlackCat)22)2021年より活動を続けるロシアのランサムウェアグループの一つ。多数のアフィリエイトを用いた一大グループを形成している。上述の暗号化の復元、窃取データの公開に加え、DDos攻撃を行うとして脅迫する三重脅迫の手口でも知られる。2022年に日本の玩具メーカーのバンダイナムコが、2023年にはファイル転送・無害化サービスなどを行うクラウド事業者であるPlottが被害に遭っている。3)Conti23)2020年より活動を続けるロシアのランサムウェアグループ。多数の医療機関を問答無用で標的にするなどその凶悪さが注目を集めている。アメリカのセキュリティ企業Palo Alto Networks24)は「私たちが追跡している数十のランサムウェアギャングの中でも際立って冷酷なランサムウェアの一つ」と表現している。 FBIが発表したフラッシュアラートによると、医療機関や救急医療機関のネットワークシステムを標的にした攻撃が1年間に少なくとも16件確認されている。4)Stormous25)ロシアのランサムウェアグループの一つ。2022年のロシアによるウクライナ侵攻に前後して活動を活発化し、Contiランサムウェアにならい、ロシアへの支持を表明するとともに、ウクライナおよび西側諸国をターゲットに活動することを宣言した。これまでにウクライナ外務省やゲーム会社大手Epic Games、コカ・コーラ、ベトナム企業などを攻撃し、データを盗んだと主張しているが、一部の専門家は、Stormousが実際に攻撃したわけではなく、ダークウェブに以前から出回っていた流出データを再利用しただけの詐欺ではないかと疑っている。DDos(Distributed Denial of Service)DDos攻撃とは、攻撃対象となるWebサーバなどに対し、複数のコンピュータから大量のパケットを送りつけることで、正常なサービス提供を妨げる行為を指す。サイバーキルチェーンロッキード・マーティン社が確立したサイバーセキュリティーフレームワークのこと。 攻撃者が攻撃を達成するまでの活動を7ステップにわけることで、敵の戦術・技術・手順を分析し、攻撃を可視化することを可能にする。ファームウェア家電製品や、パソコン、周辺機器、携帯電話などのように、コンピュータシステムを組み込んだ電子機器本体(組み込みシステム)に所望の動作をさせるためのソフトウェアであり、ハードウェアに密接に結び付いていて、むやみに書き換えることのない媒体に書き込まれた物を指す。ほかのソフトウェアと同じく脆弱性が発見されることがあり、その対策を怠ると不正アクセスやマルウェア感染を惹起する可能性があり、セキュリティ対策の対象として重要である。参考1)NTTコミュニケーションズ:ICT Business Online. ランサムウェアとは2)警察庁:令和4年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について(令和5年3月16日)3)kikakurui.com:コンピュータウイルス. JIS X0008「情報処理用語-セキュリティ」4)NTTコミュニケーションズ:マルウェアとは?ウイルスとの違いは?5)Cyber Security.com:ワームとは?その種類・感染原因・対策・駆除・削除方法について徹底解説6)Cyber Security.com:DDoS攻撃とは?読み方や意味・最新事例と対策方法7)norton:トロイの木馬とは?ウイルスとの違いや感染被害例について8)AMIYA:サイバーキルチェーンとは9)NTTコミュニケーションズ:グローバルIPアドレスとは? プライベートIPとの違いや確認方法10)e-Words:C&Cサーバ11)NTT東日本:ゼロデイ攻撃についてわかりやすく解説_手口から被害事例・対策まで12)FORTINET:フォーティネットグローバル脅威レポート13)cyberreason:ファイルレスマルウェアとは?〜ファイルレス攻撃(非マルウェア型攻撃)を理解する~14)the比較:セキュリティソフトの比較202315)e-Words:ファームウェア16)厚生労働省:医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第6.0版(令和5年5月)17)Canon:キャノンサイバーセキュリティ情報局. RaaS(Ransomware as a Service)18)FORTINET:アフィリエイト向けマニュアル:Contiが直接教えるその攻撃の手法19)MOTEX:NO MORE情報漏えい. 漏えいした個人情報が取引されるブラックマーケットとは?20)NHK:サイカルJournal. LockBit3.0とは何者か?21)TechTarget Japan:コロナ禍で「医療機関は狙わない」と宣言した攻撃者の新たな標的とは?22)Paloalto:脅威の評価:BlackCatランサムウェア23)MBSD:Contiランサムウェアの内部構造を紐解く24)Palpalto:Palo Alto Networks25)SOMPO CYBER SECURITY:サイバーセキュリティお役立ち情報

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膀胱がんリスク、仕事での立位/歩行は座位より5割減~日本人集団

 身体活動と膀胱がんリスクとの関連については、アジア人集団では一貫していない。今回、大阪大学のHang An氏らが日本人の大規模コホートで検討したところ、とくに男性において、レクリエーションスポーツへの参加や仕事での立位/歩行の身体活動が膀胱がんリスクと逆相関していたことが示された。Cancer Research and Treatment誌オンライン版2023年10月6日号に掲載。 本研究は集団ベースの前向きコホート研究で、がん/心血管疾患の既往のない40~79歳の日本人5万374人について自己記入式質問票で身体活動に関する情報を取得し解析した。Cox比例ハザードモデルを用いて、潜在的交絡因子を調整後の膀胱がん発症のハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値17.5年で、膀胱がん(男性116例、女性37例)が153例に発症した。・レクリエーションスポーツの参加時間が1週間に1~2時間、3~4時間、5時間以上の人における膀胱がんの多変量調整後のHR(95%CI)は、順に0.67(0.38~1.20)、0.79(0.36~1.74)、0.28(0.09~0.89)であった(傾向のp=0.017)。・仕事での立位/歩行の身体活動は、仕事でほとんど座っている状況と比べて、膀胱がんリスクが低かった(HR:0.53、95%CI:0.32~0.85)。・1日の歩行時間は膀胱がんリスクと関連していなかった。・膀胱がんリスクが顕著に低かったのは、男性におけるレクリエーションスポーツ(HR:0.33、95%CI:0.10~1.00)および仕事での立位/歩行の身体活動(HR:0.57、95%CI:0.33~0.98)であった。

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筋肉量の多寡にかかわらずタンパク質摂取量が高齢者の全死亡リスクに関連

 日本人高齢者を対象とする研究から、タンパク質の摂取量が多いほど全死亡(あらゆる原因による死亡)のリスクが低いという関連が示された。この関連は、筋肉量や血清アルブミンなどの影響を統計学的に調整してもなお有意であり、独立したものだという。東京都済生会中央病院糖尿病・内分泌内科の倉田英明氏(研究時点の所属は慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科)らの研究によるもので、詳細は「BMC geriatrics」に8月9日掲載された。 タンパク質摂取量と健康リスクとの関連については、動脈硬化や腎機能、またはサルコペニア(筋肉量・筋力の低下)、フレイル(要介護予備群)などの観点から研究されてきている。しかし、食文化の違いによるタンパク源の相違などの影響のため、それらの研究結果は一貫性が見られない。また、国内発の知見はいまだ少なく、かつサルコペニアやフレイルリスクを有する高齢者の筋肉量とタンパク質摂取量との関連を検討した研究が主体であって、地域在住一般高齢者の死亡リスクとの関連は明らかになっていない。 以上を背景として倉田氏らは、慶應義塾大学と川崎市が共同で行っている「川崎元気高齢者研究(Kawasaki Aging and Wellbeing Project;KAWP)」のデータを用いて、この関連を縦断的に解析した。KAWPは、日常生活動作(ADL)が自立した身体障害のない85~89歳の地域住民対象前向きコホート研究として2017年にスタート。今回の研究ではKAWP参加者のうち、簡易型自記式食事歴質問票(BDHQ)を正しく回答でき、認知機能の低下(MMSE24点未満)がなく、解析に必要なデータに欠落のない833人を対象とした。主な特徴は、平均年齢86.5±1.36歳、女性50.6%、BMI23.1±3.16で、骨格筋量指数(SMI)は7.33kg/m2、血清アルブミンは4.16±0.28mg/dL。BDHQにより把握された摂取エネルギー量は2,038±606kcal/日であり、その17.0±3.18%をタンパク質から摂取していた。 摂取エネルギー量に占めるタンパク質の割合の四分位で全体を4群に分類して比較すると、その割合が高い群ほど高齢(傾向性P=0.042)で女性が多い(同0.002)という有意な関連が認められた。一方、BMI、腎機能(eGFR)やそのマーカー(BUN、尿アルブミン)、心血管疾患(CVD)既往者の割合には有意差がなかった。血清アルブミンは傾向性P値が0.056と非有意ながら、タンパク質エネルギー比が高い群で高値となる傾向にあった。SMIについては全体解析では、タンパク質エネルギー比が高い群ほどSMIが低いという負の有意な関連があったが(傾向性P=0.018)、性別に解析すると、男性、女性ともに非有意となった。 タンパク質の摂取源に着目すると、タンパク質エネルギー比が最も低い(平均13.1%)第1四分位群は、魚の摂取量が20.3g/1,000kcalであるのに対して第4四分位群(同21.2%)は68.6g/1,000kcalと、約3.5倍であった。タンパク質以外の主要栄養素については、タンパク質エネルギー比が高い群ほど炭水化物摂取量が少なく、脂質の摂取量が多かった(いずれも傾向性P<0.001)。 平均1,218日(約3.5年)の観察で、89人の死亡が記録されていた。タンパク質エネルギー比の第1四分位群を基準として、共変量(年齢、性別、SMI、血清アルブミン、教育歴、がん・CVDの既往)を調整したCox回帰モデルにより、タンパク質摂取量が多いほど全死亡リスクが低いという有意な関連が明らかになった。具体的には第4四分位群ではハザード比(HR)0.44(95%信頼区間0.22~0.90)と56%低リスクであり、全体の傾向性P値が0.010だった。共変量のSMIをBMIに置き換えた場合も結果は同様だった。 魚の摂取量の多寡の影響に着目して、その四分位数で4群に群分けして検討すると、第4四分位群で有意なリスク低下が認められたが〔HR0.48(95%信頼区間0.23~0.97)〕、全体の傾向性は非有意だった(傾向性P=0.13)。その他、肉類、卵、乳製品に分けて行った解析からは、全死亡リスクとの有意な関連は示されなかった。 著者らは、本研究が観察研究であるために解釈に限界があるとした上で、「ADLが自立している85歳以上の高齢者では、タンパク質摂取量が多いことが全死亡リスクの低下と関連しており、この関連は筋肉量にかかわらず認められた」と結論付けている。また、タンパク質エネルギー比が高い群ほど魚の摂取量が多かったことから、「魚には抗炎症作用や発がん抑制作用が報告されているn-3系多価不飽和脂肪酸が豊富に含まれており、健康に対して多面的なプラス効果を期待できる。高齢アジア人の健康アウトカム改善には、魚を中心とするタンパク質の摂取量を増やすことも重要なポイントではないか」と述べている。

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英語で「任せます」は?【1分★医療英語】第101回

第101回 英語で「任せます」は?《例文1》Please leave it to me.(私に任せてください)《例文2》I’ll leave it to you whether you start the medication today or not.(この薬を今日から飲み始めるかどうかは、あなたにお任せします)《解説》“leave”には「離れる」や「置いておく」といった意味がありますが、これに関連して「任せる」という意味もあります。同じく“leave”の動詞を使って「仕事を託す」といったイメージで、”I'll leave it to you.” または“I’ll leave it in your hands.”(あなたにお任せします)といったように使います。また、何か仕事を進めてもらうような状況では、“Please go ahead.”(どうぞ進めてください)という表現もよく使われます。また、「仕事を引き継いでもらう」といった状況では、“Over to you.”(よろしく)という表現もよく使われますが、目上の人にはやや失礼に当たるので注意しましょう。「任せる」という意味の表現には、“It’s up to you”というものもあります。これは「あなた次第です」と訳されることが多いですが、言い方によっては突き放した表現にも聞こえてしまうため、使う際には注意が必要です。上の表現にも出てきた“hand”を使って「仕事を託す」というイメージで、“It’s in your hands now.”(今からお任せします)という言い方も可能です。講師紹介

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eplontersen、遺伝性ATTRvアミロイドーシスに有効/JAMA

 ポリニューロパチーを伴う遺伝性トランスサイレチン型(ATTRv)アミロイドーシス患者の治療において、アンチセンスオリゴヌクレオチドであるeplontersenはプラセボと比較して、血清トランスサイレチン濃度を有意に低下させ、ニューロパチーによる機能障害を軽減し、良好なQOLをもたらすことが、ポルトガル・Centro Hospitalar Universitario de Santo AntonioのTeresa Coelho氏らが実施した「NEURO-TTRansform試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2023年9月28日号で報告された。historical placeboと比較する単群第III相試験 NEURO-TTRansform試験は、過去の臨床試験のプラセボ群(historical placebo)との比較を行う非盲検単群第III相試験であり、2019年12月~2021年6月に日本を含む15ヵ国40施設で患者のスクリーニングを実施した(米国・Ionis Pharmaceuticalsの助成を受けた)。 対象は、18~82歳、Coutinhoの病期分類でステージ1または2のATTRvポリニューロパチーと診断され、Neuropathy Impairment Score(0~244点、点数が高いほど身体機能が不良)が10~130点で、TTR遺伝子配列のバリアントを有する患者であった。 本試験と類似の適格基準およびエンドポイントが設定されたNEURO-TTR試験(inotersenの二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験、2013年3月~2017年11月)でプラセボの投与を受けた患者をプラセボ群(週1回、皮下投与)とした。eplontersen群は本薬45mgを4週ごとに皮下投与した。 有効性の主要エンドポイントは次の3つで、ベースラインから65週目または66週目までの変化量を評価した。(1)血清トランスサイレチン濃度、(2)修正Neuropathy Impairment Score +7(mNIS+7)の複合スコア(-22.3~346.3点、点数が高いほど身体機能が不良)、(3)Norfolk Quality of Life Questionnaire-Diabetic Neuropathy(Norfolk QoL-DN)の総スコア(-4~136点、点数が高いほどQOLが不良)。 eplontersen群144例(平均年齢53.0歳、男性69%)のうち136例(94.4%)、NEURO-TTR試験のプラセボ群60例(59.5歳、68%)のうち52例(86.7%)が66週のフォローアップを完了した。有効性の副次エンドポイントも良好 65週の時点で、血清トランスサイレチン濃度のベースラインからの補正後平均変化量は、プラセボ群が-11.2%であったのに対し、eplontersen群は-81.7%と有意に優れた(群間差:-70.4%、95%信頼区間[CI]:-75.2~-65.7、p<0.001)。 また、mNIS+7の複合スコアのベースラインから66週までの補正後平均変化量は、プラセボ群の25.1点に比べ、eplontersen群は0.3点と有意に低かった(群間差:-24.8点、95%CI:-31.0~-18.6、p<0.001)。 さらに、Norfolk QoL-DNの総スコアのベースラインから66週までの補正後平均変化量は、プラセボ群の14.2点に比し、eplontersen群は-5.5点であり有意に良好だった(群間差:-19.7点、95%CI:-25.6~-13.8、p<0.001)。 有効性の副次エンドポイントのうち、35週目と66週目のneuropathy symptom and change(NSC)総スコア、65週目のSF-36 PCSスコア、65週目の栄養状態(修正BMI)は、いずれもeplontersen群で有意に優れた(すべてp<0.001)。65週目のpolyneuropathy disability(PND)スコアI(介助なしでの歩行)は、eplontersen群ではベースラインから変化がなかった。 試験薬投与中の有害事象(TEAE)のうち、重篤なTEAEはeplontersen群が21例(15%)、プラセボ群は12例(20%)で発生した。66週目までに試験薬の投与中止をもたらした有害事象は、eplontersen群が6例(4%)、プラセボ群は2例(3%)で発現した。 eplontersen群の2例がATTAvアミロイドーシスの既知の続発症(心不整脈、脳内出血)で死亡したが、試験薬関連死は認めなかった。とくに注意すべき有害事象の1つである血小板減少症は、eplontersen群の3例(2%)、プラセボ群の1例(2%)でみられた。 著者は、「eplontersen群と過去の臨床試験のプラセボ群のアウトカムの結果の差は、ベースラインの種々の患者背景因子とは関連がなかった」とし、「現在進行中の非盲検延長試験では、eplontersenの長期的な安全性と忍容性の評価が行われている」と付言している。

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超加工食品に含まれる人工甘味料がうつ病のリスクを高める?

 調理済みで加工度の高い食べ物や飲み物は、手軽で、安く、おいしいかもしれない。しかし新たな研究の結果、高度に加工された「超加工食品」が、うつ病のリスクと関連していることが示唆された。超加工食品を大量に摂取する人は、うつ病のリスクが約50%高くなる可能性があり、特に人工甘味料との関連が大きいという。米マサチューセッツ総合病院の消化器科副医長で、米ハーバード大学医学大学院教授のAndrew Chan氏らによるこの研究の詳細は、「JAMA Network Open」に9月20日掲載された。 Chan氏が特に問題としているのは、「水素添加のような工業的処理によって、高度に加工された食品」だ。水素添加は化学的な食品製造工程の一つで、食品に含まれるトランス脂肪酸の量を著しく増加させる。トランス脂肪酸の摂取と心疾患リスク増加との関連については、これまでに繰り返し指摘されてきた。また、食事がうつ病リスクに影響することが過去の研究から示唆されていた。これらのことからChan氏らは今回、超加工食品がうつ病リスクに及ぼす影響を調べた。 この研究は、米国の看護師健康調査II(Nurses' Health Study II)の参加者から、研究開始時点でうつ病のない3万1,712人の中年女性(研究開始時42~62歳、非ヒスパニック系白人95.2%)を対象として行われた。2003年から2017年にわたり4年ごとに食事内容を調査し、超加工食品に相当する穀物食品、スナック菓子、調理済み食品、デザート、油脂・ソース、加工乳製品、加工肉、飲料、人工甘味料の摂取量を調べた。Chan氏によると、これらの食品には着色料、安定剤、乳化剤などの添加物が含まれていることが多く、食品の例として、いわゆるファストフード、クッキー、ポテトチップスなどが該当するという。 解析の結果、研究終了時までに2,122人がうつ病を発症した。1日当たりの超加工食品の摂取量が上位20%のカテゴリーに含まれた対象者は、下位20%の対象者と比べて、うつ病のリスクが49%高かった(ハザード比1.49、95%信頼区間1.26~1.76)。超加工食品の内容ごとに検討すると、うつ病のリスク上昇と関連していたのは人工甘味料のみだった。超加工食品の摂取量が多いほどうつ病のリスクは高くなり、反対に、摂取量を4年間で1日当たり3サービング以上減らした人は、摂取量が変化しなかった人と比べてうつ病のリスクが低下していた。 研究チームによると、本研究で超加工食品とうつ病との関連が示されたが、因果関係が証明されたわけではなく、超加工食品がうつ病のリスクを高める正確な仕組みも解明されてはいないという。Chan氏は、うつ病患者がこれらの食品に引き寄せられる可能性にも言及した上で、研究のデザインから、「今回の発見が、うつ病のせいで超加工食品を選択することになった結果だという可能性は低い」と説明している。 さらにChan氏は、「超加工食品は慢性炎症に関連しており、それがうつ病など、多くの潜在的な健康への悪影響につながる」と指摘。超加工食品は腸内細菌叢を乱すことも知られており、「腸内細菌叢は、脳内で活性を示すタンパク質の代謝・産生に関与し、気分に影響を及ぼす」と付け加えている。以上を踏まえ、「できるだけ超加工食品の摂取を制限するように生活習慣を改善すると、特にメンタルヘルスに悩む人にとって重要な利益となる可能性がある」と話している。 今回の研究をレビューした、米セントルイスの栄養コンサルタントで、米国の栄養と食事のアカデミーの元会長であるConnie Diekman氏は、「特に女性では、栄養に限らず、ホルモン、家庭と仕事の両立、経済状況など、さまざまな要因がうつ病に関与している」と解説。食生活がメンタルヘルスに影響する可能性は高いが、超加工食品や人工甘味料の特有の役割を判断するのは難しいという。また、「これまでの研究では、一つの食品が健康全体に与える影響を解明するまでには至っていない。まずは、栄養素の必要量を満たすことを優先すると良い」と助言している。

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感染対策の体温報告や出張制限は「不当な扱い」と捉えられがち

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック中に職場で実施された対策の中で、毎日の体温測定の結果報告や出張制限などは、労働者から「不当な扱い」と捉えられがちだったことが分かった。産業医科大学第2内科の塚原慧太氏、同大学環境疫学研究室の藤野善久氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of Occupational and Environmental Medicine」に7月7日掲載された。著者らは、「パンデミックが長期化して職場では対策疲れが生じている。Withコロナとなった今、労働者にあまり負担をかけずに持続可能な感染対策を策定する必要があり、本研究の結果を生かせるのではないか」と語っている。 この研究は、同大学が行っている「COVID-19流行下における労働者の生活、労働、健康に関する調査(CORoNaWork研究)」の一環として実施された。CORoNaWork研究はインターネットアンケートによる全国規模の前向きコホート研究で、ベースラインデータは2020年12月の国内第3波の時期に取得されている。今回の研究では、その1年後に当たる2021年12月の第6波で行われた追跡調査のデータが解析された。アンケートの内容は、毎日の体温測定結果の報告、出張の制限、リモートワークの推奨など9項目の対策について、「勤務先で実施しているか?」、および、「感染対策の目的で、職場で不当な扱いを受けたことがあるか?」などの質問項目で構成されていた。 解析対象者数は1万8,170人(平均年齢48.5±9.8歳、男性57.2%)で、56.4%が既婚であり、職種はデスクワーク中心が51.4%と最多であって、対人応対中心が24.5%、身体労働中心が24.1%。年収は500万円未満が38.5%、500~700万円未満21.3%、700~900万円未満17.2%、900万円以上が23.0%。勤務先の従業員数は10人未満が23.6%、10~50人未満が16.3%、50~1,000人未満が34.9%、1,000人以上が25.2%。教育歴は専門学校・短大・大学卒以上が72.9%、高校卒が25.8%、中学卒が1.3%。 職場で行われていた感染対策の実施率は、高いものから順に、「マスク着用」77.1%、「体調不良時の出勤自粛」73.5%、「接待などの制限」69.6%、「毎日の体温測定結果の報告」61.8%、「パーテーション設置、机の配置の変更などの環境整備」56.9%、「対面での面談の制限」53.3%、「出張の制限」52.9%、「訪問の制限」44.3%、「リモートワークの推奨」29.3%。 「職場で不当な扱いを受けた」と回答したのは、全体の1.5%に当たる276人だった。そのように回答した労働者の勤務先の感染対策実施率は、上記9項目全て、全体平均より高値だった。 次に、9項目の感染対策それぞれについて、それを実施していない職場の労働者を基準とし、対策を実施している職場の労働者が「不当な扱いを受けた」と回答するオッズ比(OR)を検討。交絡因子(年齢、性別、職種、勤務先の従業員数、収入、教育歴、婚姻状況)を調整後、毎日の体温測定結果の報告〔OR1.43(95%信頼区間1.02~2.02)〕や、訪問の制限〔OR1.43(同1.02~2.01)〕という対策の実施は、有意なオッズ比上昇と関連していた。また、出張の制限はわずかに非有意ながら、オッズ比は1.45(同0.99~2.10)と高かった。 一方、接待などの制限〔OR0.52(0.35~0.79)〕と、体調不良時の出勤自粛〔OR0.62(0.42~0.90)〕は、オッズ比の有意な低下と関連していた。そのほかの対策は有意な関連がなかった。 以上より著者らは、「職場での感染対策の中には、労働者の負担を増やすものと減らすものがある。この知見は、感染症拡大リスクが存在する状況において、労働者が心身ともに健康な状態で働く環境を整備するために有用と考えられる」と述べている。なお、毎日の体温測定が不当な扱いと捉えられやすいことの理由として、「勤務時間外で自宅にいる時に、しかも多忙な朝に勤務先の指示に従い体温を測定して、その結果を報告しなければいけないことが、ストレスとなりやすいのではないか」との考察が加えられている。

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多くの人は受動喫煙に気が付いていない

 自分は副流煙(他人が吸っているタバコの燃焼部分から立ち上る煙)にさらされていないと思っている人の多くが、実際には副流煙にさらされている(受動喫煙)ことが、米国成人を対象に行われた新たな研究で明らかになった。血液検査では、調査対象者の半数以上が過去数日内に副流煙にさらされていたことが示されたにもかかわらず、大半はその自覚がなかったのだ。米フロリダ大学College of Public Health and Health ProfessionsのRuixuan Wang氏らによるこの研究の詳細は「Nicotine & Tobacco Research」に8月30日掲載された。 Wang氏は、「副流煙曝露に安全なレベルはなく、長期間の曝露は、冠動脈疾患や呼吸器疾患、がんなどの多くの慢性疾患のリスクを高める可能性がある。われわれは、人々が防御措置を講じることができるように、自分が副流煙に曝露していることに気付いてほしいと思っている」と同大学のニュースリリースで述べている。 今回の研究では、2013年から2020年にかけての米国国民健康栄養調査(NHANES)への参加者から抽出した非喫煙者1万3,503人のデータが分析された。参加者のうち、あらゆるタバコ製品への曝露(ニコチン曝露)はないと報告したが、血清中のコチニン(ニコチンの体内での代謝産物)が検出可能な値(>0.015ng/mL)であった場合を「ニコチン曝露の過小報告」と見なし、これに関連する社会人口統計学的因子や慢性疾患について検討した。 その結果、参加者の22.0%がニコチン曝露のあったことを自己報告し、51.2%で血清コチニンレベルからニコチン曝露が確認され、34.6%がニコチン曝露を過小報告していたことが明らかになった。血清中のコチニンが検出可能レベルだった参加者に占める過小報告者の割合は67.6%に上った。男性、非ヒスパニック系の黒人、その他の人種(アジア系米国人、ネイティブ・アメリカン、太平洋諸島系米国人)、心血管疾患のない人は、ニコチン曝露を過小報告する傾向が強かった。血清コチニンレベルの中央値は、ニコチン曝露を自己報告した人で0.107ng/mLであったのに対し、ニコチン曝露を過小報告した人で0.035ng/mLだった。 Wang氏は、「この研究結果は、ニコチン曝露リスクのあるグループに的を絞った介入の考案に役立つと思われる」と話す。 なぜ、参加者の多くがニコチンに曝露していることに気が付かなかったのだろうか。その理由について、論文の上席著者であるフロリダ大学健康アウトカム・生物医学情報学分野のJennifer H. LeLaurin氏は、「低レベルの曝露であれば、気付かない可能性もある。公共の場で、周囲の誰かがタバコを吸っていることに気が付かなかったという状況は考えられる。あるいは、わずかな曝露であれば、忘れてしまう可能性もある」と分析する。同氏はさらに、「研究参加者の中には、スティグマに対する懸念から、自分が副流煙にさらされていることに気付いていたにもかかわらず、それを報告しなかった人がいる可能性もある」と述べている。 なお、研究グループによると、今回の結果を米国全土に当てはめると、およそ5600万人が、気付かないうちに有害な副流煙に日常的にさらされていると計算されたとのことだ。

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クロザピン治療中の治療抵抗性統合失調症の喫煙患者、再発リスクにバルプロ酸併用が影響

 喫煙習慣とバルプロ酸(VPA)併用がクロザピンによる維持療法の臨床アウトカムに及ぼす影響を調査した研究は、これまでなかった。岡山県精神科医療センターの塚原 優氏らは、クロザピンを投与している治療抵抗性統合失調症患者の退院1年後の再発に対する喫煙習慣とVPA併用の影響を調査するため、本研究を実施した。Acta Psychiatrica Scandinavica誌オンライン版2023年9月8日号の報告。 日本国内の2つの3次精神科病院において入院中にクロザピン投与を開始し、2012年4月~2022年1月に退院した治療抵抗性統合失調症患者を対象に、レトロスペクティブコホート研究を実施した。再発の定義は、退院1年間の精神疾患増悪による再入院とした。喫煙習慣とVPA併用が再発に及ぼす影響の分析には、多変量Cox比例ハザード回帰分析を用いた。喫煙習慣とVPA併用との間の潜在的な相互作用を調査するため、サブグループ解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・対象患者192例中、69例(35.9%)が再発基準を満たした。・喫煙習慣は、独立して再発リスクを増加させたが(調整ハザード比[aHR]:2.27、95%信頼区間[CI]:1.28~4.01、p<0.01)、喫煙習慣とVPA併用の有無との間に再発リスクに関する有意な相互作用が認められた(p-interaction=0.015)。・VPAの併用を避けることで、喫煙習慣に関連する再発リスク増加を効果的に修正する可能性が示唆された。・喫煙患者のうち、VPAを併用している患者(aHR:5.32、95%CI:1.68~16.9、p<0.01)では、併用していない患者(aHR:1.41、95%CI:0.73~2.70、p=0.30)と比較し、再発リスクが高かった。 著者らは「この結果により、喫煙習慣とVPA併用により、退院後の再発リスクが高まる可能性が示唆された。クロザピンの血中濃度低下など、これらの所見の根底にあるメカニズムを解明するためにも、さらなる研究が求められる」としている。

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腫瘍径の小さいER+/HER2-乳がんへの術後ホルモン療法は必要か

 マンモグラフィ検査の普及により、腫瘍径の小さな乳がんの検出が増加した。エストロゲン受容体(ER)陽性HER2陰性(ER+/HER2-)のT1a/bN0M0乳がんにおける術後内分泌療法(ET)の必要性は明らかでない。広島大学の笹田 伸介氏らは同患者における術後ETの有効性を評価、Breast Cancer Research and Treatment誌オンライン版2023年9月9日号に報告した。 本研究では、2008年1月~2012年12月にJCOG乳がん研究グループ42施設で手術を受けたER+/HER2-のT1a/bN0M0乳がん患者のデータを後ろ向きに収集した。術前補助全身療法を受けた患者とBRCA陽性患者は除外された。主要評価項目は遠隔転移の累積発生率で、両側検定が用いられた。 主な結果は以下のとおり。・適格患者4,758例(T1a:1,202例、T1b:3,556例)中3,991例(83%)に標準的な術後ETが実施された。・追跡期間中央値は9.2年。遠隔転移の9年累積発生率はETありで1.5%、ETなしで2.6%だった(部分分布ハザード比[SHR]:0.54、95%信頼区間[CI]:0.32~0.93)。・多変量解析の結果、遠隔転移の独立したリスク因子は、ET歴なし、乳房切除術、高悪性度、およびリンパ管侵襲だった。・9年全生存率はETありで97.0%、ETなしで94.4%だった(調整ハザード比:0.57、95%CI:0.39~0.83)。・術後ETは同側(9年発生率:1.1% vs.6.9%、SHR:0.17)および対側の乳がん発生率を減少させた(9年発生率:1.9% vs.5.2%、SHR:0.33)。 ER+/HER2-のT1a/bN0M0乳がん患者の予後は良好であり、臨床リスクによって層別化されることが確認された。また術後ETは、小さな絶対リスク差で遠隔転移の発生率と全生存率を改善した。著者らは、とくに低悪性度でリンパ管侵襲のない患者において、術後ET省略の検討を支持する結果とまとめている。

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治療抵抗性うつ病、esketamine点鼻薬vs.クエチアピン/NEJM

 治療抵抗性うつ病に対し、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)またはセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)との併用において、esketamine点鼻薬はクエチアピン徐放剤と比較して8週時の寛解率が有意に高かった。ドイツ・Goethe University FrankfurtのAndreas Reif氏らが、24ヵ国171施設で実施された第IIIb相無作為化非盲検評価者盲検実薬対照試験「ESCAPE-TRD試験」の結果を報告した。治療抵抗性うつ病(一般的に、現在のうつ病エピソード中に2つ以上の連続した治療で有効性が得られないことと定義される)は、寛解率が低く再発率が高い。治療抵抗性うつ病患者において、SSRIまたはSNRIとの併用投与下で、クエチアピン増強療法と比較したesketamine点鼻薬の有効性と安全性は明らかになっていなかった。NEJM誌2023年10月5日号掲載の報告。SSRIまたはSNRIへのesketamine点鼻薬併用をクエチアピン増強療法と比較 試験対象者は、30項目の観察者評価によるうつ病症候学評価尺度(IDS-C)(スコア範囲:0~84、高スコアほど重症)のスコアが34以上、現在使用中のSSRIまたはSNRIを含め、少なくとも2つの異なるクラスの抗うつ薬による治療を2~6回連続して受けるも無効(症状の改善が25%未満)の、18~74歳の治療抵抗性うつ病患者であった。 研究グループは、被験者をesketamine群またはクエチアピン群に1対1の割合で割り付け、現在使用中のSSRIまたはSNRIと併用投与した(初期治療期8週間、維持期24週間、計32週間)。esketamine群への点鼻薬投与(鼻腔内噴霧)は可変用量(製品特性の概要に即して)にて、クエチアピン群には徐放剤を投与した。 主要エンドポイントは、無作為化後8週時点における寛解で、Montgomery Asbergうつ病評価尺度(MADRS)(範囲:0~60、高スコアほど重症)のスコアが10点以下と定義した。また、重要な副次エンドポイントは、8週時点で寛解後32週時まで再発がないこととした。 有効性解析対象集団は無作為化されたすべての患者(ITT)集団とし、治療を中止した患者は非寛解または再発とみなした。主要エンドポイントおよび重要な副次エンドポイントの解析は、年齢(18~64歳vs.65~74歳)および前治療数(2 vs.3以上)で調整したCochran-Mantel-Haenszelカイ二乗検定を用い治療群間を比較した。8週時点の寛解率、esketamine群27.1%vs.クエチアピン群17.6% 2020年8月26日~2021年11月5日の間に、676例がesketamine群(336例)およびクエチアピン群(340例)に割り付けられた。 8週時の寛解率は、esketamine群27.1%(91/336例)、クエチアピン群17.6%(60/340例)であり、esketamine群が有意に高かった(補正後オッズ比[OR]:1.74、95%信頼区間[CI]:1.20~2.52、p=0.003)。また、8週時に寛解後32週時まで再発が確認されなかった患者も、esketamine群が336例中73例(21.7%)、クエチアピン群が340例中48例(14.1%)で、esketamine群が多かった(補正後OR:1.72、95%CI:1.15~2.57)。 32週間の治療期間において、寛解した患者の割合、奏効(MADRSスコアがベースラインから50%以上の改善、またはMADRSスコアが10点以下)した患者の割合、およびベースラインからのMADRSスコアの変化量も、esketamine群のほうが好ましい結果であった。 有害事象の発現率はesketamine群91.9%、クエチアピン群78.0%、重篤な有害事象の発現率はそれぞれ5.7%および5.1%で、安全性プロファイルは既報と一致していた。

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早期静脈栄養なしのICU患者、厳格な血糖コントロールは有用か?/NEJM

 集中治療室(ICU)に入室した早期静脈栄養を受けていない重症患者では、非制限的で寛容な血糖コントロールと比較して厳格な血糖コントロールは、ICUでの治療を要した期間や死亡率に影響を及ぼさないことが、ベルギー・ルーベン・カトリック大学病院のJan Gunst氏らが実施した「TGC-Fast試験」で示された。研究の詳細は、NEJM誌2023年9月28日号に掲載された。ベルギーの医師主導型の無作為化対照比較試験 TGC-Fast試験は、ベルギーの2つの大学病院と1つの地区病院の11のICUで実施された医師主導型の無作為化対照比較試験であり、2018年9月~2022年8月に参加者のスクリーニングを行った(Research Foundation-Flandersなどの助成を受けた)。 早期静脈栄養を受けていないICU入室患者を、非制限的血糖コントロール群または厳格血糖コントロール群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。非制限的血糖コントロール群では、血糖値が215mg/dL(11.9mmol/L)を超えた場合にのみインスリンの投与を行い、厳格血糖コントロール群では、LOGICインスリンアルゴリズムを用い、目標血糖値を80~110mg/dL(4.4~6.1 mmol/L)に設定した。静脈栄養は両群とも、1週間実施しなかった。 主要アウトカムは、ICUでの治療を要した期間とし、ICUから生存退室するまでの期間に基づいて算出した。安全性アウトカムは90日死亡率であった。 9,230例を登録し、4,622例を非制限的血糖コントロール群(年齢中央値67歳[四分位範囲[IQR]:56~75]、男性62.8%)、4,608例を厳格血糖コントロール群(67歳[57~75]、63.6%)に割り付けた。ベースラインの血糖値中央値は、非制限的血糖コントロール群が143 mg/dL(IQR:120~170)、厳格血糖コントロール群は142mg/dL(121~168)であった。朝の血糖値が低く、1日インスリン用量が多い 非制限的血糖コントロール群に比べ厳格血糖コントロール群は、ICU入室中の朝の血糖値中央値が低く(140mg/dL[IQR:122~161]vs.107mg/dL[98~117]、群間差:-32mg/dL[95%信頼区間[CI]:-33~-32])、インスリンの用量中央値が高かった(0.0単位/日[IQR:0.0~5.6]vs.24.8単位/日[14.8~39.9]、群間差:21.0単位/日[95%CI:20.5~21.5])。 重症低血糖(<40mg/dL[<2.2mmol/L])の発生は、非制限的コントロール群のほうが少なかった(31例[0.7%]vs.47例[1.0%]、相対リスク:1.52[95%CI:0.97~2.39])。 ICUでの治療を要した期間(主要アウトカム)は、両群間に差を認めなかった(厳格血糖コントロールで生存退室が早くなるハザード比[HR]:1.00、95%CI:0.96~1.04、p=0.94)。また、90日死亡率にも差はなかった(非制限的血糖コントロール群468例[10.1%]vs.厳格血糖コントロール群486例[10.5%]、HR:1.04、95%CI:0.92~1.17、p=0.51)。 事前に規定された8項目の副次アウトカムの解析では、新規感染症の発生率、呼吸補助の時間、血行動態補助の時間、生存退院までの期間、ICU内死亡、院内死亡は、いずれも両群間に差はなかったのに対し、重症急性腎障害および胆汁うっ滞性肝機能障害は、厳格血糖コントロール群で少ないことが示唆された。 著者は、「本研究でICUに入室した早期静脈栄養を受けていない重症患者では、先行研究で静脈栄養を受けた重症患者に比べ、低血糖の重症度が軽度であった。また、コンピュータアルゴリズムによって空腹時血糖値を正常範囲に低下させることで、ICUでの治療を要した期間や死亡率に影響を及ぼさずに、医原性低血糖を回避できた」としている。

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仕事のストレスは男性の心疾患リスクを高める

 過酷なのにやりがいの感じられない仕事は、男性の心臓の健康に大きな打撃を与える可能性のあることが、6,400人以上を対象にした大規模研究で示唆された。仕事にストレスを感じている男性の心疾患発症リスクは、仕事への満足度がより高い同世代の男性の最大で2倍に達することが明らかになったという。CHU de Quebec-Universite Laval Research Center(カナダ)のMathilde Lavigne-Robichaud氏らによるこの研究の詳細は、「Circulation: Cardiovascular Quality and Outcomes」に9月19日掲載された。 この研究は、心疾患のない6,465人(男性3,118人、女性3,347人)のホワイトカラー(平均年齢45.3±6.7歳)を2000年から2018年まで追跡して、職場ストレイン(仕事の要求度は高いが裁量権や支援が不足している状態)や、努力報酬不均衡(effort-reward imbalance;ERI、努力が適切な報酬や昇進に結び付いていないと感じている状態)と心疾患発症との関連を検討したもの。職場ストレインとERIはそれぞれ信頼性と妥当性が示されている質問票により評価された。 中央値18.7年の追跡期間中に男性571人と女性265人に冠動脈疾患(CHD)が生じた。解析の結果、職場ストレインまたはERIのいずれかを感じている男性では、仕事のストレスに曝露していない(軽度の職場ストレインはあるが報酬は低くない)男性に比べて、CHDの発症リスクが49%(ハザード比1.49、95%信頼区間1.07〜2.09)、職場ストレインとERIの両方を感じている男性では103%(同2.03、1.38〜2.97)、有意に高かった。これらの結果は、教育レベルや婚姻状態、喫煙や飲酒の習慣、糖尿病や高血圧などの健康状態を考慮しても変わらなかった。これに対して、女性では、職場ストレインやERIとCHD発症との間に有意な関連は認められなかった。 研究グループは、これらの結果は、仕事のストレスが男性の心臓には打撃を与えるが、女性の心臓には影響を及ぼさないことを証明するものではないと話す。それでも、成人が1日の大半の時間を費やす職場でのストレスが心疾患の原因になり得る理由はあるという。その一つとしてLavigne-Robichaud氏は、慢性的なストレスが心血管系に直接的に影響を及ぼし得ることを指摘する。「職場ストレインとERIは、心拍数の増加、血圧の上昇、心血管の狭窄を含む身体的反応を引き起こす。これらが直接的に心臓に負荷をかけ、血流や心拍リズムに問題が生じ、最終的に心疾患の発症リスクが高まる」と説明する。 仕事のストレスが、それほど直接的でない方法で心臓に害を与えることもあるという。Lavigne-Robichaud氏は、「仕事でストレスを抱えていると、健全な食生活を送り、定期的に運動を行い、リラックスする時間を見つける能力が妨げられる可能性がある」と指摘し、「健康的なライフスタイルを送ることが困難な状況下では、ストレスが心血管系に及ぼす直接的な影響がいっそう顕著になる可能性がある」と付け加えている。同氏は、この研究結果は、職場は従業員の心臓の健康を促進することができ、また促進すべきであるとする、すでに山と積み上げられたエビデンスに加わるものだと述べている。 なお、本研究で、女性では仕事のストレスとCHDとの間に関連が認められなかった点についてLavigne-Robichaud氏は、「この研究での女性のCHD症例が男性の半分程度だったように、女性は、人生の後半に心疾患を発症する人が男性よりも多い。そのため、仕事のストレスと心疾患との間に明確な関連性を見出しにくくなっている可能性がある」と説明している。 Lavigne-Robichaud氏によると、米国心臓協会(AHA)などの団体は、すでに雇用主に対して、健康診断の実施や栄養価の高い食事選択肢の提供などを含む「包括的なウェルネスプログラム」を推奨しているとのことだ。「われわれの研究は、これらのプログラムに仕事のストレス軽減を目的とした介入を取り入れることが、心疾患の予防に役立つ可能性を示唆するものだ」と述べている。

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