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2024/07/10
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検索結果 合計:4245件 表示位置:321 - 340

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血圧の大きな変動が認知症や動脈硬化リスクを高める?

 血圧変動は認知症や心血管疾患のリスク増加を知らせるサインである可能性が、オーストラリアの研究グループによる研究で示唆された。24時間以内に、あるいは数日にわたって認められた大きな血圧変動は認知機能の低下と関連し、さらに、収縮期血圧(上の血圧)の大きな変動は動脈硬化と関連することが示されたという。南オーストラリア大学(オーストラリア)Cognitive Ageing and Impairment Neuroscience LaboratoryのDaria Gutteridge氏らによるこの研究結果は、「Cerebral Circulation - Cognition and Behavior」に9月1日掲載された。 Gutteridge氏は、「通常の治療では高血圧に焦点が置かれ、血圧変動は無視されているのが現状だ。しかし、血圧は短期的にも長期的にも変動し得るものであり、そうした変動が認知症や動脈硬化のリスクを高めているようだ」と話している。 この研究は、認知症のない60〜79歳の高齢者70人(年齢中央値70歳、女性66%)を対象に、短期的(24時間)および中期的(4日間)な血圧変動と認知機能や動脈壁の硬化度との関連を検討したもの。対象者は初回の研究室への訪問時に、modified mini-mental state(3MS)、およびCambridge Neuropsychological Test Automated Battery(CANTAB)による認知機能検査を受けた。その後、24時間自由行動下血圧測定の方法で、日中(7〜22時)と夜間(22〜7時)の血圧を測定し、次いで、家庭用血圧計で4.5日間、朝(起床後1時間以内、朝食前)と夜(就寝の1時間前、夕食から1時間以上後)の血圧を3回ずつ測定した。また、経頭蓋超音波ドプラ法により対象者の中大脳動脈の拍動性指数を算定するとともに、脈波解析と脈波速度の測定により動脈硬化度も評価した。 解析の結果、収縮期と拡張期の大きな血圧変動は、それが短期的な場合でも中期的な場合でも、平均血圧値にかかわりなく認知機能低下と関連することが明らかになった。短期的に大きな血圧変動は注意力の低下や精神運動速度の低下と関連し、日々の大きな血圧変動は遂行能力の低下と関連していた。また、収縮期血圧の短期的に大きな変動は動脈硬化度の高さと関連し、拡張期血圧の日々の大きな変動は動脈硬化度の低さと関連することも示された。その一方で、血圧変動と中大脳動脈との拍動性指数との間に関連は認められなかった。 Gutteridge氏は、「この研究により、1日の中での血圧変動や、数日単位で見た場合の血圧変動が大きいことは認知機能の低下と関連し、また、収縮期の血圧変動が大きいことは動脈硬化度の高さと関連することが明らかになった。これらの結果は、血圧変動の種類により、それが影響を及ぼす生物学的機序も異なる可能性が高いこと、また、収縮期および拡張期の血圧変動の両方が、高齢者の認知機能にとって重要であることを示唆するものだ」と述べている。研究グループは、これらの結果を踏まえた上で、「血圧変動は認知機能障害の早期臨床マーカーや治療ターゲットとして役立つ可能性がある」との見方を示している。

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非浸潤性乳管がんの腫瘍径と断端、進展リスクとの関連は?/BMJ

 非浸潤性乳管がん(DCIS)の腫瘍径および切除断端の状態と、同側浸潤性乳がんおよび同側DCISのリスクとの関連は小さく、これら2つの因子を他の既知のリスク因子に加えた多変量モデルでは、臨床病理学的リスク因子だけでは低リスクDCISと高リスクDCISを区別することに限界があるという。オランダがん研究所(NKI)のRenee S. J. M. Schmitz氏らGrand Challenge PRECISION consortiumの研究グループが、国際統合コホート研究の結果を報告した。どのようなDCISで、その後のイベントリスクが高いかを明らかにする必要があるが、現在の臨床的特徴がどの程度役立つかは不明であった。BMJ誌2023年10月30日号掲載の報告。4つの大規模コホート約4万8千人のデータを統合解析 研究グループは、DCISの腫瘍径および切除断端の状態と、治療後の同側浸潤性乳がんおよび同側DCISへの進展リスク、ならびに同側浸潤性乳がんのステージおよびサブタイプとの関連性を検討する目的で、オランダ、英国、米国で行われた4つの大規模コホート研究を統合解析した。対象被験者は、1999~2017年に純型の原発性DCISと診断され、乳房温存術または乳房切除術のいずれかを受け、術後に放射線療法または内分泌療法あるいはその両方が実施された4万7,695例の女性患者。解析には、患者個々のデータを用いた。 主要評価項目は、同側浸潤性乳がんおよび同側DCISの10年累積発生率で、DCISの腫瘍径と切除断端の状態との関連について、多変量Cox比例ハザードモデルを用いて評価した。腫瘍径は同側DCISと、切除断端陽性は同側浸潤性乳がん・同側DCISと関連 同側浸潤性乳がんの10年累積発生率は3.2%であった。放射線療法の有無にかかわらず乳房温存術を受けた女性において、腫瘍径がより大きいDCIS(20~49mm)は20mm未満のDCISと比較し、同側DCISの補正後リスクのみ有意に増加した(ハザード比[HR]:1.38、95%信頼区間[CI]:1.11~1.72)。同側浸潤性乳がんおよび同側DCISのリスクは、切除断端陰性と比較して陽性で有意に高かった(浸潤性乳がんのHR:1.40[95%CI:1.07~1.83]、DCISのHR:1.39[1.04~1.87])。 術後内分泌療法は、乳房温存術のみの治療と比較して、同側浸潤性乳がんのリスク低下と有意な関連は認められなかった(HR:0.86、95%CI:0.62~1.21)。放射線療法の有無にかかわらず、乳房温存術を受けた女性では、DCISのグレードの大きさは同側浸潤性乳がんと有意に関連しなかったが、同側DCISのリスクは高かった(Grade1でのHR:1.42[95%CI:1.08~1.87]、Grade3でのHR:2.17[1.66~2.83])。 診断時の年齢が高いほど、同側DCISの1年当たりのリスクは低く(HR:0.98、95%CI:0.97~0.99)、同側浸潤性乳がんのリスクとの関連はみられなかった(HR:1.00、95%CI:0.99~1.00)。 腫瘍径が大きいDCIS(≧50mm)は小さいDCIS(<20mm)と比較し、StageIIIおよびIVの同側浸潤性乳がんを発症する割合が高かったが、切除断端陽性と陰性の比較では同様の関連性はみられなかった。 また、DCISの腫瘍径とホルモン受容体陰性HER2陽性同側浸潤性乳がん、ならびに切除断端陽性とホルモン受容体陰性同側浸潤性乳がんとの関連が確認された。

323.

ざ瘡に期待できる栄養補助食品は?

 ざ瘡(にきび)治療の補助としてビタミン剤やそのほかの栄養補助食品に関心を示す患者は多い。しかし、それらの有効性や安全性は明らかではなく、推奨する十分な根拠は乏しい。そこで、米国・Brigham and Women's HospitalのAli Shields氏らの研究グループは、ざ瘡治療における栄養補助食品のエビデンスを評価することを目的にシステマティックレビューを行った。JAMA Dermatology誌オンライン版2023年10月25日号の報告。 研究グループは、PubMed、Embase、Cochrane Central Register of Controlled Trials、Web of Scienceの各データベースを開設から2023年1月30日まで検索した。ざ瘡患者を対象に栄養補助食品(ビタミンやミネラル、植物抽出物、プレバイオティクス、プロバイオティクスなど)の摂取を評価した無作為化比較試験を解析し、臨床医が報告したアウトカム(全体評価や病変数など)、患者が報告したアウトカム(QOLなど)、有害事象を抽出した。バイアスリスクはCochrane risk of bias toolを用いて、研究の質をGood、Fair、Poorに分類した。 主な結果は以下のとおり。・42件の研究(3,346例)が組み入れ基準を満たした。・GoodまたはFairの分類の研究で栄養補助食品の有用性が示唆されたのは、ビタミンB5およびD、緑茶、プロバイオティクス、オメガ3脂肪酸であった。・これらの有用性評価に最も関連していたのは、病変数の減少または臨床医による全体評価スコアであった。・栄養補助食品の摂取による有害事象の発現はまれであったが、亜鉛摂取による消化管障害が報告された。 これらの結果より、研究グループは「このシステマティックレビューは、ざ瘡治療における栄養補助食品の可能性を示している。医師は、患者に栄養補助食品のエビデンスを提示する準備をしておくべきである」としたうえで、「多くの研究は小規模であり、今後の研究ではより大規模な無作為化比較試験に焦点を当てるべきである」とまとめた。

324.

STEMI、中医薬tongxinluoの上乗せで臨床転帰改善/JAMA

 中国・Chinese Academy of Medical Sciences and Peking Union Medical CollegeのYuejin Yang氏らは、ST上昇型心筋梗塞(STEMI)におけるガイドライン準拠治療への上乗せ補助療法として、中国伝統医薬(中医薬)のTongxinluo(複数の植物・昆虫の粉末・抽出物からなる)は30日時点および1年時点の両方の臨床アウトカムを有意に改善したことを、大規模無作為化二重盲検プラセボ対照試験「China Tongxinluo Study for Myocardial Protection in Patients With Acute Myocardial Infarction(CTS-AMI)試験」の結果で報告した。Tongxinluoは有効成分と正確な作用機序は不明なままだが、潜在的に心臓を保護する作用があることが示唆されている。中国では1996年に最初に狭心症と虚血性脳卒中について承認されており、心筋梗塞についてはin vitro試験、動物実験および小規模のヒト試験で有望であることが示されていた。しかし、これまで大規模無作為化試験では厳密には評価されていなかった。JAMA誌2023年10月24・31日合併号掲載の報告。対プラセボの大規模無作為化試験でMACCE発生を評価 CTS-AMI試験は2019年5月~2020年12月に、中国の124病院から発症後24時間以内のSTEMI患者を登録して行われた。最終フォローアップは、2021年12月15日。 患者は1対1の割合で無作為化され、STEMIのガイドライン準拠治療に加えて、Tongxinluoまたはプラセボの経口投与を12ヵ月間受けた(無作為化後の負荷用量2.08g、その後の維持用量1.04g、1日3回)。 主要エンドポイントは、30日主要有害心脳血管イベント(MACCE)で、心臓死、心筋梗塞の再発、緊急冠動脈血行再建術、脳卒中の複合であった。MACCEのフォローアップは3ヵ月ごとに1年時点まで行われた。 3,797例が無作為化を受け、3,777例(Tongxinluo群1,889例、プラセボ群1,888例、平均年齢61歳、男性76.9%)が主要解析に含まれた。30日時点、1年時点ともMACCEに関するTongxinluo群の相対リスク0.64 30日MACCEは、Tongxinluo群64例(3.4%)vs.プラセボ群99例(5.2%)で発生した(相対リスク[RR]:0.64[95%信頼区間[CI]:0.47~0.88]、群間リスク差[RD]:-1.8%[95%CI:-3.2~-0.6])。 30日MACCEの個々のエンドポイントの発生も、心臓死(56例[3.0%]vs.80例[4.2%]、RR:0.70[95%CI:0.50~0.99]、RD:-1.2%[95%CI:-2.5~-0.1])を含めて、プラセボ群よりもTongxinluo群で有意に低かった。 1年時点でも、MACCE(100例[5.3%]vs.157例[8.3%]、ハザード比[HR]:0.64[95%CI:0.49~0.82]、RD:-3.0%[95%CI:-4.6~-1.4])および心臓死(85例[4.5%]vs.116例[6.1%]、HR:0.73[0.55~0.97]、RD:-1.6%[-3.1~-0.2])の発生は、Tongxinluo群がプラセボ群よりも依然として低かった。 30日脳卒中、30日および1年時点の大出血、1年全死因死亡、ステント内塞栓症(<24時間、1~30日間、1~12ヵ月間)など、その他の副次エンドポイントでは有意差はみられなかった。 薬物有害反応(ADR)は、Tongxinluo群がプラセボ群よりも有意に多く(40例[2.1%]vs.21例[1.1%]、p=0.02)、主に消化管症状であった。 今回の結果を踏まえて著者は、「STEMIにおけるTongxinluoの作用機序を確認するため、さらなる研究が必要である」とまとめている。

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第188回 コロナ後遺症の新たな生理指標、セロトニン欠乏が判明

コロナ後遺症の新たな生理指標、セロトニン欠乏が判明新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後症状(long COVID)は患者数が莫大なだけに盛んに研究されて新たな成果が次々に発表されています。先週はそういうコロナ後遺症とタウリンの欠乏の関連を示した報告を紹介しましたが、その報告の10日前にはタウリンと同様にアミノ酸の1つであるトリプトファンの吸収低下を一因とするセロトニンの減少とコロナ後遺症の関連を裏付ける研究成果がCell誌に発表されています1,2)。神経伝達物質の1つであるセロトニン減少の発端となりうるのは腸の新型コロナウイルスです。腸に居座る新型コロナウイルスがトリプトファン吸収を抑制し、トリプトファンを原料とするセロトニン生成が減ると示唆されました。新型コロナウイルスが腸に長居しうることは糞便のウイルスRNA解析で示されました。その解析によるとコロナ後遺症患者の糞中からはそうでない患者(新型コロナウイルスに感染したものの長引く症状は生じなかった患者)に比べて新型コロナウイルスRNAが有意に多く検出されました。新型コロナウイルスを含むウイルス感染はインターフェロン(IFN)伝達を誘発することが知られています。さらには、コロナ後遺症患者の1型IFN増加の持続も先立つ研究で確認されています。腸に似せた組織(腸オルガノイド)やマウスでの検討の結果、その1型IFNがセロトニンの前駆体であるトリプトファン吸収を抑制することでセロトニンの貯蔵量を減らすようです。また、新型コロナウイルスが居続けることで続く炎症は血小板を介したセロトニン輸送の妨害やセロトニン分解酵素MAO(モノアミン酸化酵素)の亢進を介してセロトニンの流通を妨げうることも示されました。実際、コロナ後遺症患者では血中のセロトニンが乏しく、コロナ後遺症の発現の有無をセロトニンの量を頼りに区別しうることが確認されています。さて研究はいよいよ大詰めです。コロナ後遺症患者の大部分が被る疲労、認知障害、頭痛、忍耐の欠如、睡眠障害、不安、記憶欠損などの神経/認知症状とセロトニン欠乏を関連付けるとおぼしき仕組みが判明します。その仕組みとは迷走神経の不調です。中枢神経系(CNS)の外を巡るセロトニンは血液脳関門(BBB)を通過できませんが、迷走神経などの感覚神経を介して脳に作用します。ウイルス感染を模すマウスでの実験の結果、末梢のセロトニンを増やすことや感覚神経を活性化するTRPV1作動薬(カプサイシン)の投与で認知機能が正常化しました。続いて、感覚神経の種類を区別するタンパク質の刺激実験から末梢のセロトニン不足と脳の働きの低下の関連は感覚神経の一員である迷走神経伝達の不足を介すると示唆されました。その裏付けとして迷走神経に豊富に発現するセロトニン受容体(5-HT3受容体)の作動薬がウイルス感染を模すマウスの海馬神経反応や認知機能障害を正常化することが示されました。それらの結果を総括し、セロトニン不足が迷走神経伝達を弱めて認知機能を害するのだろうと結論されています。さて、そうであるなら選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)に属するフルオキセチン(fluoxetine)やフルボキサミン(fluvoxamine)などのセロトニン増加薬がコロナ後遺症に有効かもしれません。その可能性は今回の研究でも検討されており、ウイルス感染を模すマウスの記憶障害がフルオキセチンでほぼ解消しました。新型コロナウイルスに感染して間もない患者へのSSRIの試験はいくつか実施されています。その効果の程は今のところどっちつかずですが、それらの試験と同様にコロナ後遺症の神経/認知症状へのセロトニン伝達標的治療の効果も調べる必要があります。幸い、その試みはすでに始まっています。臨床試験登録サイトClinicaltrials.govを検索したところ、コロナ後遺症へのフルボキサミンの試験が進行中です3)。結果一揃いは再来年2025年3月中頃に判明する見込みです。コロナ後遺症の治療といえばこれまでのところ患者が訴える症状が頼りでした。今やセロトニンやタウリンの減少などの生理指標が明らかになりつつあり、見つかった生理指標を頼りに患者を治療や試験に割り当てられそうだと著者は言っています2)。参考1)Wong AC, et al. Cell. 2023;186:4851-4867.2)Viral persistence and serotonin reduction can cause long COVID symptoms, Penn Medicine research finds3)Fluvoxamine for Long COVID-19

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認知症入院患者におけるせん妄の発生率とリスク因子

 入院中の認知症高齢者におけるせん妄の発生率および関連するリスク因子を特定するため、中国・中日友好病院のQifan Xiao氏らは本調査を実施した。その結果、入院中の認知症高齢者におけるせん妄の独立したリスク因子として、糖尿病、脳血管疾患、ビジュアルアナログスケール(VAS)スコア4以上、鎮静薬の使用、血中スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)レベル129U/mL未満が特定された。American Journal of Alzheimer's Disease and Other Dementias誌2023年1~12月号の報告。 対象は、2019年10月~2023年2月に総合病棟に入院した65歳以上の認知症患者157例。臨床データをレトロスペクティブに分析した。対象患者を、入院中のせん妄発症の有無により、せん妄群と非せん妄群に割り付けた。患者に関連する一般的な情報、VASスコア、血中CRPレベル、血中SODレベルを収集した。せん妄の潜在的なリスク因子の特定には単変量解析を用い、統計学的に有意な因子には多変量ロジスティック回帰分析を用いた。ソフトウェアR 4.03を用いて認知症高齢者におけるせん妄発症の予測グラフを構築し、モデルの検証を行った。 主な結果は以下のとおり。・認知症高齢者157例中、せん妄を経験した患者は42例であった。・多変量ロジスティック回帰分析では、入院中の認知症高齢者におけるせん妄の独立したリスク因子として、糖尿病、脳血管疾患、VASスコア4以上、鎮静薬の使用、血中SODレベル129U/mL未満が特定された。・5つのリスク因子に基づく予測ノモグラムをプロットしたROC曲線分析では、AUCが0.875(95%信頼区間:0.816~0.934)であった。・予測モデルはブートストラップ法で内部検証し、予測結果と実臨床結果はおおむね一致していることが確認された。・Hosmer-Lemeshow検定により、予測モデルの適合性と予測能力の高さが実証された。 著者らは「本予測モデルは、入院中の認知症高齢者におけるせん妄を高精度で予測可能であり、臨床応用する価値がある」と述べている。

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若者のうつ病に対する孤独感の影響

 COVID-19パンデミックは、孤立の長期化や社会的関係の混乱をもたらし、それに伴って学生の孤独感は増大した。孤独は、うつ病を含むさまざまな精神疾患と関連しており、自傷行為や自殺など、重大な事態を引き起こす可能性がある。中国・広東技術師範大学のM-Q Xiao氏らは、孤独感がうつ病に影響を及ぼす要因について調査を行った。European Review for Medical and Pharmacological Sciences誌2023年9月号の報告。 COVID-19パンデミック中に中国広東省広州市の中等教育および高等教育を受けていた学生879人を対象に、アンケート調査を実施した。収集したデータは、包括的に分析した。 主な結果は以下のとおり。・データの分析により、孤独感がうつ病に対し、有意な正の予測効果を示すことが明らかとなった。・孤独感とうつ病の症状との関係に、目標思考のアプローチとレジリエンスが部分的に関連していることが示唆された。・レジリエンスや目標へのフォーカスは、表現抑制や認知的再評価のレベルとは無関係に、メディエーターとして特定された。・認知的再評価は、孤独感とうつ病とのメディエーターとして、負の緩和効果を示した。・表現抑制は、孤独感とうつ病との関係を明確に媒介しており、この関係ではレジリエンスが役割を果たしていた。 著者らは、「本調査結果により、COVID-19パンデミック中は、社交や対人関係を通じてネガティブな感情を軽減できなかったことが、孤独感の増大や、その後のうつ病発症につながっていたことが示された」とし、以下のようにまとめている。 レジリエンスについては、孤独感による低下が、好ましくない対人関係の経験を人生の他の側面に投影すること、自身は困難を克服する能力に欠けると思い込むことにつながり、それによってうつ状態を悪化させる可能性がある。また、その向上は、パンデミックにより起きた変化により良く適応し、うつ病リスクの軽減に寄与すると考えられるという。目標へのフォーカスについては、高い場合には、自身の経験からの学び、生活リズムの調整、うつ病レベルが低い傾向などが認められた。このことから、うつ病リスク軽減に、目標へのフォーカス向上を目指した介入が有用であることが示唆された。 さらに、自身の不幸の表現を抑制している場合は、うつ病レベルが上昇する可能性があるが、認知的再評価スキルが高い場合には、困難な状況に対する認知的視点を変えることで、うつ病リスクの低下につながる傾向がある、としている。

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手術低リスク重症大動脈弁狭窄症、TAVR vs.手術の5年追跡結果/NEJM

 手術リスクの低い症候性重症大動脈弁狭窄症患者を対象に、経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)と外科的大動脈弁置換術を比較した「PARTNER 3試験」の5年追跡解析の結果、全死因死亡、脳卒中および再入院の複合エンドポイントを含む2つの主要エンドポイントについて、いずれも両群に有意差は認められなかったことが示された。米国・Baylor Scott and White HealthのMichael J. Mack氏らが報告した。本試験では、1年時の死亡、脳卒中、再入院の複合エンドポイントの発生率はTAVRのほうが有意に低いことが示されていたが、長期的な予後については不明であった。NEJM誌オンライン版2023年10月24日号掲載の報告。2つの主要複合エンドポイントを評価 研究グループは、症候性大動脈弁狭窄症を有し、米国胸部外科医学会の予測死亡リスク(STS-PROM)スコア(範囲:0~100%、スコアが高いほど術後30日以内の死亡リスクが高い)が4%未満で、臨床的・解剖学的評価に基づき手術リスクが低いと判断された患者1,000例を、経大腿動脈アプローチでバルーン拡張型人工弁(SAPIEN 3)を留置するTAVR群(503例)、または外科的大動脈弁置換術を行う手術群(497例)に、1対1の割合に無作為に割り付け、臨床アウトカムおよび経胸壁心エコーデータを、ベースライン、植込み手技後、退院時、30日後、6ヵ月後、1年後、以降5年後まで毎年評価した。 5年解析時の第1主要エンドポイントは、全死因死亡、脳卒中、手技・弁・心不全に関連した再入院の非階層的複合エンドポイントで、Wald検定を用いてTAVR群の手術群に対する優越性を検討した。また、第2主要エンドポイントとして、全死因死亡、後遺症のある脳卒中、後遺症のない脳卒中、再入院日数の階層的複合エンドポイントを事前に設定し、win比を用いて解析した。TAVRと外科的大動脈弁置換術で、2つの主要エンドポイントに差はなし 無作為化された1,000例のうち、割り付けられた手技が開始されたas-treated集団計950例(TAVR群496例、手術群454例)が解析対象集団となった。 第1主要エンドポイントのイベントは、TAVR群111例、手術群117例に認められ、発生率(Kaplan-Meier推定値)はそれぞれ22.8%、27.2%(群間差:-4.3%、95%信頼区間[CI]:-9.9~1.3、p=0.07)であり、第2主要エンドポイントのwin比は1.17(95%CI:0.90~1.51、p=0.25)であった。第1主要エンドポイントの各構成要素の発生率(Kaplan-Meier推定値)は、全死因死亡がTAVR群10.0%、手術群8.2%、脳卒中がそれぞれ5.8%、6.4%、再入院が13.7%、17.4%であった。 5年時の弁血行動態は両群で類似しており、平均大動脈弁圧較差(平均±SD)はTAVR群12.8±6.5mmHg、手術群11.7±5.6mmHgであった。生体弁機能不全は、TAVR群で3.3%、手術群で3.8%に認められた。

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2型糖尿病の罹病期間と大脳皮質の厚さとの間に負の関連

 2型糖尿病患者の罹病期間と大脳皮質の厚さとの間に、負の関連が見られるとする報告が発表された。米ミシガン大学アナーバー校のEvan L. Reynolds氏らが米国先住民を対象に行った研究の結果であり、詳細は「Annals of Clinical and Translational Neurology」に7月30日掲載された。大脳皮質の厚さ以外にも、灰白質体積の減少や白質高信号領域の体積の増加という関連が認められたという。 認知症の有病率が世界的に上昇しており、その理由の一部は肥満や2型糖尿病の増加に起因するものと考えられている。また、糖尿病合併症と認知機能低下との関連も報告されている。一方、米国先住民であるピマインディアンは肥満や2型糖尿病の有病率が高く、糖代謝以外の代謝異常や慢性腎臓病の有病率も高い。しかしこれまでのところ、この集団を対象とする認知症リスクの詳細な検討は行われていない。これを背景としてReynolds氏らは、2型糖尿病罹病歴の長いピマインディアン51人を対象として、認知機能検査および脳画像検査による認知症リスクの評価結果と、糖代謝マーカーを含めた代謝関連臨床検査データとの関連を検討した。 解析対象者の主な特徴は、平均年齢が48.4±11.3歳、女性74.5%、BMI34.9±7.7で74.5%が肥満であり、糖尿病罹病期間は20.1±9.1年、HbA1c9.6±2.3%、降圧薬服用者58.8%など。認知機能に関しては、米国立衛生研究所(NIH)が公開している一般人口の標準値(Toolbox認知バッテリー)と有意差がなかった(45.3±9.8、P=0.64)。 脳画像検査が施行されたのは45人だった。代謝関連指標の中で、BMIやメタボリックシンドローム構成因子の該当項目数、血圧、HbA1c、トリグリセライド、HDL-Cなどは、脳画像検査データとの有意な関連が認められなかった。それに対して糖尿病罹病期間は、大脳皮質厚の菲薄化〔点推定値(PE)=-0.0061(95%信頼区間-0.0113~-0.0009)〕、灰白質体積の減少〔PE=-830.39(同-1503.14~-157.64)〕、白質高信号領域の体積の増加〔対数変換後のPE=0.0389(同0.0049~0.0729)〕という有意な関連が認められた。 論文の上席著者である同大学のEva Feldman氏は、「われわれの研究結果は、糖尿病が脳の健康に与える影響を理解する上で極めて重要と言える。今後、糖尿病患者の脳の健康を維持するための治療戦略を探る、大規模な長期介入研究が必要とされるが、今回の研究データはそのような将来の研究の基礎となり得る」と語っている。また同氏は、「糖尿病がなぜ認知機能を低下させるのかというメカニズムの解明と並行して、糖尿病患者の認知症発症予防につながる啓発活動を推し進めることも欠かせない。糖尿病が脳の健康の維持にとってリスクとなることを一般の人々に教育することも、われわれの使命の一部である」と付け加えている。 なお、2人の著者が、医薬品関連企業などとの利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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リポ蛋白(A)濃度の上昇は冠動脈心疾患再発の予測因子

 冠動脈心疾患(CHD)の既往のある高齢者におけるリポ蛋白(a)(Lpa)濃度の上昇は、CHD再発の予測因子であるという研究結果が、「Current Medical Research and Opinion」に6月12日掲載された論文で明らかにされた。 Lpaは、LDLの一部で、線溶因子であるプラスミノーゲンと相同性があるため、プラスミノーゲンと競合してその働きを阻害することによって動脈硬化を促進すると考えられている。LpaはCHDと死亡率の原因因子としてLDLと同等である可能性が示唆されている。Lpa濃度の上昇は、動脈硬化性心血管疾患および大動脈疾患の発症に関与することが明らかにされているが、CHD再発のリスク因子であるかどうかは明らかにされていない。そこで、ニューサウスウェールズ大学(オーストラリア)のLeon A. Simons氏および St. Vincent’s Hospital(オーストラリア)のJudith Simons氏は、オーストラリアのダボで1930年以前に生まれた高齢者を対象に、Lpa濃度の上昇とCHD再発との関連を調べる縦断的研究を実施した。 CHDの既往がある607例(平均年齢71歳、男性54%)を16年間追跡した。ベースライン時(1988~1989年)に脂質やその他のCHDリスク因子の検査を実施した。Cox比例ハザードモデルを用いて、Lpa濃度がCHDイベント再発の独立した寄与因子であるかどうかを評価した。 16年間の追跡期間中にCHDを再発した参加者は399例であった。CHD再発例のLpa濃度の中央値は130mg/L(四分位範囲60~315)、非再発例では105mg/L(同45~250)で、再発例の方が有意に高かった(Mann-WhitneyのU検定のP<0.07)。Lpa濃度が300mg/L以上の参加者の割合は、CHD再発例で26%、非再発例で19%と再発例の方が高く、Lpaが500mg/L以上の参加者の割合も、再発例で18%、非再発例で8%と再発例の方が高かった。 Lpa濃度の第1五分位(50mg/L未満)を基準とした場合、第5五分位(355mg/L以上)におけるCHD再発のハザード比(HR)は1.53〔95%信頼区間(CI)1.11~2.11、P=0.01〕であったことから、Lpa濃度の第5五分位はCHD再発の有意な予測因子であることが示された。その他のリスク因子(Lpa濃度の第5五分位を除く五分位数、年齢、性別など)は、CHD再発の有意な予測因子ではなかった。 Lpa濃度500mg/L未満を基準とした場合、500mg/L以上はCHD再発の有意な予測因子であった(HR 1.59、95%CI 1.16~2.17、P=0.004)。Lpa濃度300mg/L未満を基準とした場合、300mg/L以上はCHD再発の有意な予測因子であった(HR 1.37、95%CI 1.09~1.73、P=0.007)。 著者は、「本研究の結果は、Lpa濃度高値を改善することを目的として開発中の新規治療法が、CHD再発の予防に有効である可能性を示唆している。しかし、この治療法の潜在的な臨床効果はまだ確認できていない」と述べている。 なお、ノバルティスファーマは、本研究の解析を支援するために教育助成金を提供した。一名の著者は、脂質降下薬の製造会社との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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サヴァン症候群の「天才的能力」はギフテッドなのか?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第244回

サヴァン症候群の「天才的能力」はギフテッドなのか?photoACより使用サヴァン症候群については医師であればご存じの人が多いと思いますが、ある能力が異常に亢進する症候群です。一瞬見ただけで景色を写真記憶してそれを絵画にして描き出す能力、年月日から曜日を即座に言える能力、耳にした音楽をすべて再現できる能力…。見方によっては、才能を授けられた「ギフテッド」のように思われるかもしれません。Kawamura M, et al.Savant Syndrome and an "Oshikuramanju Hypothesis".Brain Nerve. 2020 Mar;72(3):193-201.この論文はサヴァン症候群の「おしくらまんじゅう仮説」を記したもので、なるほどと考えさせられた総説です。サヴァン症候群の根底にあるのは、特定の脳の機能低下ですが、別の機能が亢進するという状態になります。これが天才的な能力として目の当たりにされるわけです。脳の中では、それらの機能があたかも「おしくらまんじゅう」のようにひしめき合っていて、ある機能が失なわれたときにほかの機能がせり出してくるのではないか、ということです。この機序は獲得性サヴァン症候群においての見解です。反面、生まれながらにしてサヴァン症候群の場合、自閉スペクトラム症のように、器質的な原因があるケースが多いです。私もサヴァン症候群と思われる人とその家族にインタビューをした経験がありますが、コミュニケーションに少し苦労されている人が多かった印象です。国内の特別支援学校での調査によれば、ほとんどのサヴァン症候群児童は男性であり、これは自閉症児が男性に多いことに関係していると推察されています1)。サヴァン症候群の名が知られるようになったのは、映画「レインマン」(1988年)によるところが大きいです。自閉スペクトラム症の兄をダスティン・ホフマンが、その弟をトム・クルーズが演じています。また、「グッド・ドクター」という韓国ドラマの主人公の医師もサヴァン症候群として描かれていますね。日本でも山崎 賢人さんが主演でリメイクされました。1)有路 憲一, 他. サヴァン症候群の実態調査とその実践的価値. 信州大学総合人間科学研究. 2017;11:195-217.

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過去30年間における世界の頭痛有病率~世界疾病負荷研究

 近年、頭痛は世界的な健康課題として大きく注目されている。この懸念は、とくに低~中所得国で顕著であり、青少年や若年成人における有病率の増加に現れている。このような頭痛の急増により、頭痛患者のQOLは常に低いものとなっている。しかし、世界的な影響にもかかわらず、若年層を対象に頭痛の影響を調査した包括的な研究は、いまだ十分ではない。中国・上海交通大学のXin-Yu Li氏らは1990~2019年の30年間にわたり、15~39歳における頭痛の世界的な有病率を定量化するため、本研究を実施した。結果を踏まえて著者らは、片頭痛と緊張性頭痛(TTH)は世界の健康において大きな課題であるとし、その影響の強さは国によって違いがあり、女性、30~39歳、社会人口統計学的指数(SDI)が高い集団においては、とくに影響が大きいと指摘している。The Journal of Headache and Pain誌2023年9月18日号の報告。 研究は、1990~2019年の30年間にかけて実施された。204の異なる国と地域を対象に、とくに片頭痛とTTHの影響を評価した。包括的な評価では、年齢、性別、年、地域性、SDIなどのさまざまな人口統計学的要因と、頭痛の罹患率、有病率、障害調整生存年(DALY)との関連を分析した。 主な結果は以下のとおり。・2019年の世界における片頭痛の推定患者数は5億8,176万1,847.2例(95%不確定区間[UI]:4億8,830万9998.1~6億9,629万1,713.7)であり、1990年から16%の増加が認められた。・2019年のTTHの推定患者数は、9億6,480万8567.1例(同:8億958万2,531.8~11億5,523万5,337.2)であり、1990年から37%の増加が認められた。・片頭痛の有病率は、南アジアで最も高く、1億5,449万169.8例(同:1億3,029万6,054.6~1億8,246万4,065.6)であった。・高SDI地域では、1990年(人口10万人当たり2万2,429例)と2019年(人口10万人当たり2万2,606例)のいずれにおいても、最も顕著な片頭痛有病率が示された。・SDI分類のうち、中SDI地域は、1990年(2億1,013万6,691.6例)と2019年(2億8,757万7,250例)のいずれにおいても、TTH患者数が最も高かった。・過去30年間で片頭痛患者数が最も顕著に増加したのは、東アジアであった。・全体として、片頭痛およびTTHの疾患負荷とSDIとの間に、正の相関が認められた。 著者らは「片頭痛とTTHのマネジメントを現代医療のパラダイムに組み込むことは不可欠であり、このような戦略的統合は、頭痛に関連するリスク因子や治療介入の重要性について一般集団が認識を深めることに寄与する可能性がある」としている。

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食中毒発生率がパンデミック前の水準に増加

 米国では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック発生とともに低下していた食中毒発生率が、パンデミック前の水準に戻ったことが報告された。米疾病対策センター(CDC)のMiranda J. Delahoy氏らの研究によるもので、詳細はCDC発行「Morbidity and Mortality Weekly Report(MMWR)」6月30日号に掲載された。 2020年以降、COVID-19パンデミックに伴う人々の行動変容、公衆衛生対策、患者の受療行動の変化、検査施行件数の変動などの影響によって、さまざまな感染症の罹患率が低下していた。食中毒も同様に、米国ではカンピロバクターやサルモネラ菌による消化器感染症が、2020~2021年にはその前年より減少していた。しかし、感染症減少につながった多くの要因が取り除かれたことによって、再びそのリスクが増大してきている。 米国の食中毒アクティブサーベイランスネットワーク(FoodNet)は、米国内10カ所において、主に食品を介して伝播する8種類の病原体(カンピロバクター、サルモネラなど)によって生じる食中毒のサーベイランスを行っている。Delahoy氏らの研究はそのデータを用いて行われた。 解析の結果、2022年のカンピロバクター、サルモネラ、赤痢、リステリアによる食中毒の年間発生率は、パンデミック前と同等のレベルになっていた。また、志賀毒素産生性大腸菌(STEC)やエルシニアなどによる食中毒はパンデミック前よりもむしろ発生率が高くなっていた。2016~2018年を基準とした2022年の病原体別の発生率比(IRR)、および2022年の粗発生率(人口10万人当たりの発生件数)は以下のとおり。 IRR(95%信頼区間)・粗発生率の順に、カンピロバクターは1.02(0.96~1.08)・19.2、サルモネラは0.95(0.89~1.02)・16.3、赤痢は0.95(0.75~1.18)・4.9、リステリアは1.06(0.93~1.22)・0.3であり、これらは2016~2018年の平均発生率と有意差なし。STECは1.18(1.02~1.36)・5.7、エルシニアは2.41(2.03~2.88)・2.0、ビブリオは1.57(1.37~1.81)・1.0、サイクロスポーラは4.77(2.60~10.7)・0.9であり、これらは2016~2018年の平均発生率より有意に高かった。 米国は現在、2030年までに達成すべき公衆衛生上の目標を「Healthy People 2030」として設定し、国レベルでの対策を推進している。食中毒についても病原体別に発生率の目標を掲げ、例えばカンピロバクターは人口10万人当たり10.9以下とするとしている。今回の研究結果について著者らは、「COVID-19パンデミックの影響が沈静化したことで、2022年には消化器感染症の減少が見られなかった」とまとめ、「食中毒を防ぐには、食品生産者、加工業者、小売店、レストラン、および規制当局間の協力が必要」と述べている。 なお、消化器感染症の診断法として近年、培養によらない診断(culture-independent diagnostic test;CIDT)が急速に普及してきている。著者らはこの変化によって、パンデミック以前には検出されていなかった食中毒が検出されるようになり、それがIRRの上昇に部分的に関係している可能性があるとしている。

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自閉スペクトラム症とADHDの認知プロファイル~メタ解析

 これまでの研究によると、神経発達の状態は、ウェクスラー式知能検査(最新版はWAIS-IV、WISC-V)における特有の認知プロファイルと関連している可能性がある。しかし、自閉スペクトラム症または注意欠如多動症(ADHD)患者の認知プロファイルをどの程度反映できているかは、はっきりしていなかった。英国・ニューカッスル大学のAlexander C. Wilson氏は、同検査による自閉スペクトラム症とADHDの認知プロファイルの評価を調査する目的でメタ解析を実施した。その結果、ウェクスラー式知能検査の成績パターンは、診断目的で使用するには感度および特異度が不十分であるものの、自閉スペクトラム症では、言語的および非言語的推論の相対的な強さと処理速度の低さの認知プロファイルと関連していることが示唆された。一方、ADHDでは、特定の認知プロファイルとの関連性は低かった。Archives of Clinical Neuropsychology誌オンライン版2023年9月29日号の報告。 2022年10月までに公表された研究をPsycInfo、Embase、Medlineより検索した。自閉スペクトラム症またはADHDと診断された小児または成人を対象に、WAIS-IVまたはWISC-Vを用いて認知パフォーマンスを評価した研究を検索対象に含めた。検査のスコアはメタ解析を用いて集計した。主な結果は以下のとおり。・18件のデータソースより報告された、ニューロダイバーシティ(神経多様性)1,800例超のスコアを分析した。・自閉スペクトラム症の小児および成人は、言語的および非言語的推論において典型的な範囲内のパフォーマンスを発揮していたが、処理速度スコアは平均より約1 SD低く、作業記憶スコアはわずかに低かった。これは、自閉スペクトラム症における「spiky」の認知プロファイルの根拠と考えられる。・ADHDの小児および成人のパフォーマンスは、ほとんどが年齢で予想されるレベルであったが、作業記憶スコアはわずかに低かった。 結果を踏まえて著者は、「自閉スペクトラム症では、自身の長所や困難を特定しサポートするための認知評価が、とくに有益である可能性がある」としている。

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破傷風の予防【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第8回

今回は、破傷風の予防についてです。外傷患者さんを診たとき、「傷が汚いから破傷風トキソイドを打とう」という発言をよく聞くことがありますが、「“汚い”とは何をもって“汚い”と言うのか?」と聞かれるとすぐに答えるのは難しいのではないでしょうか。前回紹介した毎日犬にかまれているおじいさんの症例をベースに、破傷風予防の必要性を考えていきましょう。<症例>72歳男性主訴飼い犬にかまれた高血圧、糖尿病で定期通院中。受診2時間前に飼い犬のマルチーズに手をかまれた。自宅にあった消毒液で消毒し、包帯を巻いた状態で定期受診。診察が終わったときに自分から「今日手をかまれて血が出て大変だったんだよ」と言い、犬咬傷が判明。既往歴糖尿病、高血圧アレルギー歴なしバイタル特記事項なし右前腕2ヵ所に1cm程度の創あり。発赤なし。破傷風の予防接種の有無を聞くと、「そのようなものは知らない」と答える。さて、この患者さんは破傷風トキソイドを打つ必要があると考えますか? 私は迷うことなく「Yes」だと思います。しかし、もし犬にかまれたのではなく、「自宅内で転倒して額に1cmの挫創を負った」「屋外で転倒して肘に擦過創ができた」であればYes/Noが分かれるかもしれません。もしくはこの患者さんが14歳だったとしたらどうでしょうか? 今回は日本の国立感染症研究所とアメリカのCenters for disease Control and Preventionの情報を基に解説します1,2)。治療に入る前に破傷風に関して復習しましょう。破傷風は、Clostridium tetani(破傷風菌)が産生する神経毒素による神経疾患です。破傷風菌は偏性嫌気性グラム陽性有芽胞桿菌で土壌などの環境に広く分布しており、ある程度どのような場所でも傷を負えば感染のリスクがあります。日本では年間100例程度が発症しており、そのうち9例程度が死亡する非常に重篤な疾患です2)。私も数例診ましたが、痙攣のコントロールに難渋するなど非常に治療が難しく、たとえ助かったとしても重篤な合併症を残してしまう危険な疾患と考えています。しかし、ワクチン接種により基礎免疫を獲得することで、ほぼゼロに近い確率まで破傷風の発症を防ぐことできます。ガイドラインでは「基本的には破傷風に対する基礎免疫を持っている状態」が望ましいとされ、「傷がきれいであったとしても、基礎免疫がないもしくはブースターが必要な場合は破傷風トキソイドの投与が推奨」されています。では症例に戻って系統立ててみていきましょう。(1)基礎免疫はあるかまず破傷風に対する基礎免疫があるかを確認しましょう。初回投与から決められた期間に2回破傷風トキソイドを投与することにより基礎免疫を獲得し、最終接種から10年ごとに再投与することで基礎免疫が維持されます。日本では1968年から百日せき・ジフテリア・破傷風の3種混合ワクチン(DPT)の定期接種が始まりましたが、全国一律で開始されたわけではないようです。国立感染症研究所の情報によると、1973年以前の出生の人では抗体保有率が低いものの、1973年より後の出生の人では基礎免疫を獲得していると考えられます。今回の患者さんは定期接種がなかった時代に出生しているため、基礎免疫がないと判断します。次いで患者さんが、破傷風トキソイドを打ったことがあるかどうかを確認しましょう。外傷を契機に破傷風トキソイドを打ったことがある人がいますが、「受傷したときに1回しか打っていない」「記憶があやふや」という人も多く、その場合も基礎免疫がないと考えます。この患者さんにトキソイドについて尋ねたところ「何それ?」と回答されたので基礎免疫はないと判断しました。(2)傷の「きれい」「汚い」破傷風を起こす可能性が高い創=汚い、破傷風を起こす可能性が低い創=きれい、と表現されることが多く、これをもって破傷風トキソイドを打つかどうか判断している医師もいると思います。しかしながら、表1のとおりガイドライン上は「汚い」「きれい」で変わるのは基礎免疫がない患者で抗破傷風免疫グロブリンを打つかどうかです。ここを注意してください。表1 破傷風トキソイド・抗破傷風免疫グロブリン(TIG)の投与基準画像を拡大するでは、きれい/汚いはどう区別するのでしょうか? これは私もかなり探してみたのですが、書籍や文献によってまちまちです。CDCでは「汚い」に関しては「土壌、汚物、糞便、または唾液(動物や人間のかみ傷など)で汚染された傷を“汚い”と判断する必要がある。また、刺し傷または貫通傷を汚染されたものとみなし、破傷風のリスクが高い傷と判断する。壊死組織(壊死性、壊疽性の傷)、凍傷、挫傷、脱臼骨折、火傷を含む傷は、破傷風菌の増殖に適しておりリスクが高い」とされています。Colombet氏らは自身の論文で「明確に破傷風リスクが低い/高い傷を定義するのは困難」と述べていて、傷の状態や性状だけで判断は難しいと思います3)。よって基礎免疫がない外傷患者に対して破傷風トキソイドの投与は必須として、抗破傷風免疫グロブリンを投与するかどうかは医師の判断になります。症例に戻りましょう。破傷風トキソイドは投与して、抗破傷風免疫グロブリンを投与するかどうかの判断が必要になります。この傷はガイドラインに沿えば、きれいな傷とはならないので抗破傷風免疫グロブリンの適応となります。私はこの傷であれば、手元に抗破傷風免疫グロブリンがあれば投与を検討しますが、すぐ投与するためにあえて高次機能病院に受診させることはありません。私が必ず抗破傷風免疫グロブリンを投与するのは、開放骨折やデグロービング損傷など重症度が高い傷で破傷風のリスクが高いと判断したときです。この患者さんは、破傷風トキソイドを投与し、基礎免疫を獲得するために1ヵ月後と半年後に予防接種を受けてもらうことにしました。今回は、破傷風の予防に関してお話ししました。救急外来では破傷風トキソイドが適切に投与されていないとの報告もあり、実際に私も「傷がきれい」という理由で破傷風トキソイドを打たれなかった症例を経験することがあります4)。そのようなこともあり破傷風の予防には思い入れがありますので、参考になれば幸いです。破傷風の豆知識(1)破傷風トキソイドと抗破傷風免疫グロブリンは受傷後いつまでに打てばよい?UpToDateの「Wound management and tetanus prophylaxis」を参考にすると5)、「なるべく早く」が答えです。ただし、その場で投与できなかったとしても破傷風の発症は受傷から3~21日後ですので、可能であれば3日以内、最長で21日まで破傷風トキソイドと抗破傷風免疫グロブリンを破傷風感染予防目的に投与することは推奨されると記載されています。ただし、破傷風トキソイドに関しては基礎免疫を獲得していることが望ましいので、21日を過ぎて、もともと基礎免疫がない患者、もしくは基礎免疫があっても最終接種からの年数と傷の状態からブースト接種が必要な場合は破傷風トキソイドの投与を勧めるべきと考えます。つまり気が付いたときにはいつでも破傷風トキソイド投与を勧める必要があります。何らかの傷を負ったときの破傷風トキソイドは傷からの破傷風予防として保険適用です。(2)基礎免疫があれば破傷風のリスクが高い傷に抗破傷風免疫グロブリンを打たなくてもよい?表1を見てもらいたいのですが、基礎免疫がある人は抗破傷風免疫グロブリンの適応になりません。では1973年より後に生まれた人はたとえ破傷風のリスクが高い傷でも抗破傷風免疫グロブリンを打たなくてよいのでしょうか? 私は必要と考えています。なぜなら本当に基礎免疫があるかどうか確認できないことが多いからです。赤ちゃんのときのワクチン接種に関しては母子手帳に記載がありますが、患者は持ち歩いておらず、本人に聞いてもわからないことがほとんどです。そのため、私は基礎免疫があると確証が持てない場合で破傷風のリスクが高い傷の場合は抗破傷風免疫グロブリンを投与しています。将来的に、ワクチン接種歴がマイナンバーで管理されてすぐに接種歴がわかるようになれば、ほとんどの症例で抗破傷風免疫グロブリンの投与はしなくなるのかなと思います。1)CDC:Tetanus2)国立感染症研究所:破傷風とは3)Colombet I, et al. Clin Diagn Lab Immunol. 2005;12:1057-1062. 4)Liu Y, et al. Hum Vaccin Immunother. 2020;16:349-357.5)UpToDate:Wound management and tetanus prophylaxis

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日本人2型糖尿病でのチルゼパチドの効果、GLP-1RAと比較/横浜市立大

 横浜市立大学 循環器・腎臓・高血圧内科学教室の塚本 俊一郎氏らの研究グループは、日本人の2型糖尿病患者を対象に、新規GLP-1RAであるセマグルチドやGLP-1/GIPデュアルアゴニストであるチルゼパチドについて、従来の薬剤との比較や用量毎の治療効果の違いをネットワークメタ解析手法で解析した。その結果、チルゼパチドは比較した薬剤の中で最も体重減少とHbA1cの低下効果が高く、目標HbA1c(7%未満)の達成はチルゼパチドとセマグルチドで同等だった。Diabetes, Obesity and Metabolism誌2023年10月12日号の報告。日本人2型糖尿病患者3,875例を解析 研究方法として2023年7月までのPubMed、MEDLINE、EMBASE、Cochrane Libraryを系統的に検索。日本人の2型糖尿病患者においてGLP-1RAまたはGIP/GLP-1RAを比較した無作為化対照試験(RCT)を選択した。HbA1c値および体重減少における有効性に焦点を当て、間接的に治療法を比較するためにネットワークメタ解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・合計18のRCT、3,875例の日本人2型糖尿病患者が解析対象となった。・チルゼパチド15mgは、セマグルチド1.0mg皮下投与およびセマグルチド14mg経口投与と比較して、HbA1c値および体重を最も有意に減少させた。 HbA1c:平均差(95%信頼区間[CI])-0.52(-0.96~-0.08)および-1.23(-1.64~-0.81) 体重:平均差(95%CI)-5.07(-8.28~-1.86)および-6.84(-8.97~-4.71)・セマグルチド皮下投与は、経口投与と比較してHbA1cの優れた低下を示した。・皮下セマグルチド、経口セマグルチドともにデュラグルチド、リラグルチド、リキシセナチドなどの従来のGLP-1RAよりも有効だった。

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1日3,000歩の追加は高齢者の高血圧を改善する?

 1日当たりの歩数を3,000歩増やすことで、高齢の高血圧患者の血圧が有意に低下する可能性があるとする研究結果が報告された。米コネチカット大学運動学分野のLinda Pescatello氏らによるこの研究結果は、「Journal of Cardiovascular Development and Disease」に7月27日報告された。 米国では、高齢者の約80%が高血圧患者である。高血圧を抑えることは、心不全、心筋梗塞、脳卒中の発症予防につながる。Pescatello氏は過去の研究で、運動が高血圧患者の血圧に即時的な影響だけでなく持続的な影響も与え得ることを明らかにしている。今回の研究では、20週間にわたって高齢の高血圧患者の運動量を適度に増やすことで、同じ効果を得られるかどうかが検討された。 対象は、座位で過ごすことの多い肥満または過体重の高齢高血圧患者21人(66〜83歳、女性13人、男性8人)で、適度な運動量の増加として1日当たり3,000歩の追加を課した。高血圧は、収縮期血圧130〜159mmHgか拡張期血圧89〜99mmHg、またはその両方を満たすか、降圧薬を服用中の場合と定義された。対象者には、歩数計、血圧計、歩数記録帳が配布された。なお、研究グループは、1日当たりの追加歩数を3,000歩とした理由について、この追加により、米国スポーツ医学会が健康維持のために推奨している1日7,000歩を達成できる可能性が見込めたためだと説明している。論文の上席著者である米アイオワ州立大学運動学分野のDuck-chul Lee氏は、「健康に対するベネフィットを得る上で、3,000歩の追加という運動量は申し分ない量であり、ハードルが高過ぎて達成できないというものでもない」とコメントしている。 対象者の1日当たりの平均歩数は、試験開始時の3,899±2,198歩から、その10週間後には6,512±2,633歩、20週間後には5,567±2,587歩へと有意に増加していた。また、試験開始から20週間後には、収縮期血圧の平均値が137±10mmHgから130±11mmHgへ、拡張期血圧の平均値が81±6mmHgから77±6mmHgへ、それぞれ有意に低下していた。歩数の増加が血圧にもたらすこのような効果は、降圧薬服用の有無にかかわりなく認められた。他の研究結果に基づくと、本試験で認められた程度の血圧低下は、あらゆる原因による早期死亡リスクを11%、心臓関連の問題を原因とする死亡リスクを16%、心血管疾患の発症リスクを18%、脳卒中の発症リスクを36%低下させることが示唆されるという。 論文の筆頭著者である、米アイオワ州立大学運動学分野のElizabeth Lefferts氏は、「生活習慣に対する簡単な介入が、計画的な運動や薬物療法と同じように有効であることが明らかになり、心が躍った」と語る。そして、「歩数の増加により得られた効果は、高血圧の薬物療法に匹敵するものだ」と強調している。 Pescatello氏は、「以前の研究でわれわれは、運動と薬物療法を併用すると、運動が降圧薬の効果を増強することを示している」と述べ、「今回の結果は、運動に降圧療法としての価値があることを明示するものだ。もちろん降圧薬による治療効果を否定するつもりはない。運動も高血圧治療の手段の一つだということだ」と話す。 なお、本研究では、歩行速度や1回の歩行時間よりも、歩数の増加の方が重要なことも示されたという。この点についてPescatello氏は、「本当に重要なのは運動量であり、強度ではない。歩数の増加を目標に、個々の状況に合わせてそれを実践すれば、健康にベネフィットがもたらされる」と述べている。研究グループは今後、今回の研究結果を軸に、より大規模な臨床試験に着手することを考えているという。

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進行期肺がんの3割が悪液質を合併!?【DtoD ラヂオ ここが聞きたい!肺がん診療Up to Date】第3回

第3回:進行期肺がんの3割が悪液質を合併!?パーソナリティ日本鋼管病院 呼吸器内科 部長 田中 希宇人 氏ゲスト順天堂大学付属順天堂医院 宿谷 威仁 氏参考1)Shukuya t ,et al. Epidemiology, risk factors and impact of cachexia on patient outcome: Results from the Japanese Lung Cancer Registry Study. J Cachexia Sarcopenia Muscle.2023;14:1274-1285.2)未治療進行非小細胞肺癌における悪液質の合併と化学療法に与える影響の観察研究 NEJ050A試験関連サイト専門医が厳選した、肺がん論文・ニュース「Doctors'Picks」(医師限定サイト)講師紹介

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第187回 タウリン再び降臨~コロナ後遺症の治療効果があるかもしれない

タウリン再び降臨~コロナ後遺症の治療効果があるかもしれない新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行を乗り切って世間は落ち着きを取り戻しつつありますが、世界で6,500万人は下らない1)とされる感染後の長引く不調を有する人にCOVID-19は未だ足かせとなって取り付いたままです。昨年の米国での聞き取り調査の結果、成人の約7%がCOVID-19罹患後症状(long COVID)として知られるそういった感染後長期不調があると回答しました2)。小児のCOVID-19罹患後症状は成人に比べて少ないものの200例に1例(0.5%)に認められました3)。COVID-19罹患後症状の承認治療はまだありませんが、カナダのアルバータ州のCOVID-19入院患者117例を調べた結果4)によるとあるアミノ酸にもしかしたらその治療効果があるかもしれません。117例の経過は退院からおよそ17ヵ月後まで追跡され、症状が3つを超える重度のCOVID-19罹患後症状を55例が被りました。32例は症状が3つ以下の比較的軽度のCOVID-19罹患後症状を呈しました。経過の調査に加えて血液も調べられ、およそ6ヵ月間に何回か採取した血液中のサイトカイン、タンパク質、代謝産物が測定されました。それらの測定結果を機械学習にかけて解析したところサイトカインと代謝産物併せて20分子に基づく予後予想手段が導かれ、その手段が83%の正解率で退院後の経過不良患者を同定しうることが示されました。また、COVID-19罹患後症状の患者にとくに目立つ特徴としてあるアミノ酸が少ないことが判明しました。そのアミノ酸とはイカ、タコ、貝類などに多く含まれるタウリンです。研究を率いたアルバータ大学のGavin Oudit氏によるとタウリンが乏しい患者は症状がより多く、より多く死亡しました。タウリンが豊富なままの患者は逆に症状が少なく、経過がより良好でした5)。タウリンは食物にも含まれることに加えて肝臓でも作られ、免疫系などの体の生理機能の調節に携わります。Oudit氏はタウリンの多岐にわたる効果がCOVID-19罹患後症状の数々を被る患者の福音となることを期待しています。タウリンといえば、本連載の第167回で紹介したように、最近発表された研究で全般的な健康増進効果を示唆する結果も得られています。だからといって今すぐタウリンをふんだんに摂取し始めてよいわけではありません。タウリン補給は比較的無害ですが、臨床試験でのその効果の裏付けが必要です。Oudit氏らのチームはそういう裏付けを得るべくCOVID-19罹患後症状へのタウリンの効果を調べる第III相試験開始の手はずを整えています。体内のタウリンを今すぐどうしても増やしたいという人には運動がおすすめです。運動すると血中のタウリンが増えます。また、運動の健康向上効果のいくらかにタウリンが寄与しているようです。参考1)Davis HE, et al. Nat Rev Microbiol. 2023;21:133-146.2)Long COVID in Adults: United States, 2022. NCHS Data Brief No. 480, September 20233)Long COVID in Children: United States, 2022. NCHS Data Brief No. 479, September 20234)Wang W, et al. Cell Rep Med. 2023:101254.5)Researchers identify amino acid that may play a key role for predicting and treating long COVID / Eurekalert

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生化学的再発前立腺がん、エンザルタミドが無転移生存を改善/NEJM

 高リスクの生化学的再発を呈する前立腺がん患者の治療では、無転移生存期間に関して、リュープロレリン単独と比較してエンザルタミド+リュープロレリン併用およびエンザルタミド単剤療法の優越性を認め、エンザルタミドの安全性プロファイルは先行試験の結果と一致することが、米国・シダーズ・サイナイ医療センターのStephen J Freedland氏らが実施した「EMBARK試験」で明らかとなった。研究の成果は、NEJM誌2023年10月19日号に掲載された。244施設の国際的な無作為化第III相試験 EMBARK試験は、17ヵ国244施設が参加した国際的な無作為化第III相試験であり、2015年1月~2018年8月に患者の登録と無作為化を行った(PfizerとAstellas Pharmaの助成を受けた)。 対象は、生検で前立腺の腺がんを確認し、局所治療後に生化学的再発を示し、スクリーニング時に前立腺特異抗原(PSA)倍加時間が9ヵ月以下の高リスク病変を有し、血清テストステロン値≧150ng/dLで、全身状態が良好(ECOG PSスコアが0または1点)な成人患者であった。 被験者を、エンザルタミド(160mg、1日1回、経口)+リュープロレリン(22.5mg、12週ごと、筋肉内または皮下)を投与する群(併用群)、プラセボ+リュープロレリンを投与する群(リュープロレリン単独群)、エンザルタミド単剤を投与する群(単剤療法群)に、1対1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要評価項目は、リュープロレリン単独群と比較した併用群の無転移生存期間とし、独立中央判定委員会が盲検下に評価した。主な副次評価項目は、リュープロレリン単独群と比較した単剤療法群の無転移生存期間などであった。新たな安全性シグナルの発現はない 1,068例を登録した。併用群が355例、リュープロレリン単独群が358例、単剤療法群は355例であった。全体の年齢中央値は69歳(範囲:49~93)、白人が83.2%で、PSA倍加時間中央値は4.9ヵ月(範囲:0.9~18.9)、PSA値中央値は5.2ng/mL(範囲:1.0~308.3)だった。 追跡期間中央値は60.7ヵ月であった。5年時点での無転移生存率は、併用群が87.3%(95%信頼区間[CI]:83.0~90.6)、リュープロレリン単独群が71.4%(65.7~76.3)、単剤療法群は80.0%(75.0~84.1)であった。 無転移生存期間は、リュープロレリン単独群に比べ、併用群で有意に優れ(転移または死亡のハザード比[HR]:0.42、95%CI:0.30~0.61、p<0.001)、単剤療法群でも有意差を認めた(転移または死亡のHR:0.63、95%CI:0.46~0.87、p=0.005)。 また、リュープロレリン単独群に比べ併用群では、中間解析時点における全生存期間(HR:0.59、95%CI:0.38~0.91、p=0.02)、PSA増悪(PSA倍加時間≦10ヵ月と定義、0.07、0.03~0.14、p<0.001)、新たな抗腫瘍治療の初回使用までの期間(0.36、0.26~0.49、p<0.001)がいずれも有意に優れ、単剤療法群では全生存期間(0.78、0.52~1.17、p=0.23)には差がなかったが、PSA増悪(0.33、0.23~0.49、p<0.001)と新たな抗腫瘍治療の初回使用(0.54、0.41~0.71、p<0.001)は有意に良好だった。 3つの群に新たな安全性シグナルの発現はみられなかった。最も頻度の高い有害事象は、併用群とリュープロレリン単独群がホットフラッシュ(それぞれ、68.8%、57.3%)および倦怠感(42.8%、32.8%)で、単剤療法群は倦怠感(46.6%)、女性化乳房(44.9%)で、ホットフラッシュは21.8%であった。 有害事象による投与中止は、併用群が20.7%、リュープロレリン単独群が10.2%、単剤療法群は17.8%で認めた。有害事象による死亡は、それぞれ6例(1.7%)、3例(0.8%)、8例(2.3%)で発生したが、治療関連と判定されたものはなかった。生活の質(QOL)については3群間に大きな差は認めなかった。 著者は、「本試験のデータは、アンドロゲン受容体阻害薬エンザルタミドとアンドロゲン除去療法の併用が、アンドロゲン除去療法単独と比較して、臨床的に意義のある有益性をもたらしたとする既報の第III相試験の知見を裏付けるものである」としている。

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