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細胞治療が慢性脳卒中の機能再生を可能にする…ピッツバーグ大Wechsler氏単独インタビュー

 自力で歩けなかった慢性期脳卒中患者が、一人で歩けるようになる。細胞治療により、このような再生が現実に起ころうとしている。 慢性脳卒中患者の機能を再生する細胞治療の臨床試験が行われている。これらの試験の中心的役割を担い、Stroke誌に総説「Cell Therapy for Chronic Stroke」を発表したピッツバーグ大学 神経科 Lawrence R. Wechsler氏に、世界における慢性脳卒中の細胞治療について単独インタビューを行った。以下は1問1答。米国における脳卒中の状況は? 米国では毎年約80万人の脳卒中が発症し、後遺症による障害をかかえる患者は、4〜500万人と推定されている。急性期については、新たな治療法がいくつか出てきたが、慢性期になると、障害改善のためにできることはほとんどなく、脳卒中の問題は、イベント発症後、数ヵ月および数年後にあるといえる。細胞医療でなぜ効果が出るのか。 まだ不明な部分は多いが、細胞治療で移植した細胞が、サイトカイン、成長因子などを分泌して、生き残った細胞の機能回復を促進し、不可逆的に傷害された脳の領域を補うことが主な作用であると考えている。細胞治療の臨床試験はどこまで進んでいるのか。 すでに数種類の細胞による早期臨床試験が行われて、効果の可能性が示唆されている。現在2種の細胞において、第IIB相試験が開始あるいは開始予定である。これらは従来の試験より大規模で、かつ二重盲検である。試験の結果を心待ちにしている。効果があった患者についての印象は? スケールに表れた変化のみならず、評価指標には表れない小さな変化も報告されている。手がうまく使えた、バランスをとって歩けた、というものだが、細胞治療でこういったことが実現できれば、必ずしも発症前の状態に戻すことができなくとも、患者さんの世界は大きく変わると考えている。インタビューの全文はこちらhttps://www.carenet.com/series/trend/cg001195_018.html ■参考Wechsler氏の総説「Cell Therapy for Chronic Stroke」https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/STROKEAHA.117.018290

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応答的子育て介入が、小児のBMIを改善/JAMA

 小児期早期の急速な成長や体重増加は、その後の肥満リスクを増加させるが、子供の成長軌跡(growth trajectory)を改善する介入は確立されていないという。米国・Penn State College of MedicineのIan M. Paul氏らは、両親への教育的介入により、3歳時の子供のBMIが改善することを示し、JAMA誌2018年8月7日号で報告した。幼児期の急速な体重増加や若年期の過体重の予防に関する研究の成果は少ないが、応答的養育(responsive parenting)の枠組みを用いた教育的戦略は、後年の肥満に寄与する幼児期の行動の是正に有望と考えられている。応答的養育は、「小児のニードに対する、発育上適切で迅速、かつ条件に応じた養育的な反応」と定義される。体重増加の抑制効果を評価する単施設の無作為化試験 本研究(INSIGHT試験)は、小児の体重増加の抑制における応答的養育の有効性を評価する、単施設(Penn State Milton S. Hershey Medical Center)で実施された無作為化試験(米国国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所[NIDDK]などの助成による)。 初産の母親と子供を1組とし、小児期の肥満の予防を目的とした応答的養育に関する介入を行う群(介入群)、または家庭での安全性介入を行う群(対照群)に無作為に割り付けた。応答的養育の介入では、食事(feeding)、睡眠(sleep)、ふれあい遊び(interactive play)、情動調節(emotion regulation)に関する反応の仕方について、両親に専門的な助言が行われた。 2012年1月~2014年3月の期間に登録され、初回の各家庭の訪問が行われた279組(介入群:140組、対照群:139組)を、子供が3歳になるまで追跡した(2017年4月に完了)。初回訪問以降、看護師が各家庭を4回訪問し、各家庭は年1回、計3回受診した(最後の3歳の受診時は介入を行わなかった)。 主要アウトカムは、3年時のBMIのzスコア(0:母平均、1:平均+1SD、-1:平均-1SD)であった。BMIパーセンタイル値には有意差なし ベースラインにおいて子供は男児が介入群54%、対照群50%で、出生時のBMIはそれぞれ13.1(SD 1.2)、13.3(1.3)であった。また、母親の平均年齢は、介入群が28.7歳(4.6)、対照群は28.7歳(4.9)で、白人がそれぞれ87.1%、91.4%を占め、妊娠前のBMIは25.5(5.0)、25.3(5.6)だった。232組(83.2%)が3年間の試験を完了した。 3歳時の平均BMIのzスコアは、介入群が-0.13と、対照群の0.15に比べ有意に低かった(絶対差:-0.28、95%信頼区間[CI]:-0.53~-0.01、p=0.04)。一方、平均BMIパーセンタイル値は、介入群が47、対照群は54であり、有意差を認めなかった(介入群で6.9ポイント低下、95%CI:-14.5~0.6、p=0.07)。 3歳時の過体重の割合は、介入群が11.2%(13/116例)、対照群は19.8%(23/116例)と、両群間に有意な差はなく(絶対差:-8.6%、95%CI:-17.9~0.0、オッズ比[OR]:0.51、95%CI:0.25~1.06、p=0.07)、肥満もそれぞれ2.6%(3例)、7.8%(9例)であり、有意差を認めなかった(-5.2%、-10.8~0.0、0.32、0.08~1.20、p=0.09)。 7回の評価時点でのBMIの平均差(介入群-対照群)は、-0.43(95%CI:-0.67~-0.19)であり、介入群で有意に低かった。 著者は、「介入の長期的な有効性を評価するために、さらなる検討を要する」としている。

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広範囲ゲノムシーケンスは進行NSCLCに生存ベネフィットをもたらすか/JAMA

 進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者において、広範ゲノムシークエンシングは一部の患者の選択すべき治療情報とダイレクトに関連していたが、良好な生存との独立した関連は認められなかった。米国・オハイオ州立大学のCarolyn J. Presley氏らによる後ろ向きコホート研究の結果で、JAMA誌2018年8月7日号で発表された。進行NSCLC患者には、広範ゲノムシークエンシングが頻繁に用いられている。しかし、コミュニティ設定における同患者の、広範ゲノムシークエンシングと治療選択あるいは生存との関連性については、ほとんど知られていなかった。EGFR変異/ALK再構成の定期検査群と比較 研究グループは、全米を対象とするFlatiron Health Databaseを用いて、2011年1月1日~2016年7月31日に医療記録で確認された進行NSCLCで、191のがん治療のうち1つの治療を受けたことがある患者を特定し、広範ゲノムシークエンシングを受けている群と、EGFR変異とALK再構成またはALK再構成のみの定期検査を受けている(対照)群の臨床的アウトカムを比較した。 対象患者は、StageIIIB/IVまたは切除不能な非扁平上皮NSCLCで、少なくとも1ラインの抗腫瘍治療を受けていた。 広範ゲノムシークエンシングには、第3選択治療までに30以上の遺伝子を調べるあらゆるマルチ遺伝子シークエンシングアッセイを含んだ。 主要評価項目は、第1選択治療開始から12ヵ月間の死亡率および全生存率とした。治療選択との関連はみられるが、生存との関連は認められず 特定された進行NSCLC患者は5,688例(年齢中央値67歳[四分位範囲:41~85]、白人63.6%、喫煙歴あり80%)で、広範囲ゲノムシークエンシング群は875例(15.4%)、対照群は4,813例(84.6%)であった。 広範囲ゲノムシークエンシング群の患者において、4.5%が検査結果に基づいたターゲット治療を、9.8%が定期的なEGFR/ALKターゲット治療を受けていた。85.1%は非ターゲット治療を受けていた。 12ヵ月時点の補正前死亡率は、広範囲ゲノムシークエンシング群49.2%、対照群35.9%であった。操作変数解析の結果、予測死亡率は広範囲ゲノムシークエンシング群41.1%、対照群44.4%であり、広範囲ゲノムシークエンシングと12ヵ月死亡には有意な関連性は認められなかった(群間差:-3.6、95%信頼区間[CI]:-18.4~11.1、p=0.63)。同様の結果が、傾向スコア適合生存解析でも示された(42.0% vs.45.1%、ハザード比[HR]:0.92、95%CI:0.73~1.11、p=0.40)。非適合コホートでも同様であった(HR:0.69、95%CI:0.62~0.77、log-rank検定のp<0.001)。

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【GET!ザ・トレンド】脳神経細胞再生を現実にする(4)

インタビューのフルバージョン動画はこちら近年の研究で、ヒトの脳神経細胞にも再生機能があることが明らかになった。そのようななか、慢性脳卒中患者の機能を再生する細胞治療の臨床治験が行われている。これらの治験の中心的役割を担い、Stroke誌2018年4月18日号に総説「Cell Therapy for Chronic Stroke」*を発表したピッツバーグ大学 神経科 Lawrence R. Wechsler氏に、世界における慢性脳卒中の細胞治療の現状を聞いた。慢性脳卒中治療の現状について教えていただけますか。慢性脳卒中は、米国および世界のアンメット・メディカルニーズを代表するものでしょう。脳卒中診療の進化に多くの時間と労力を費やしてきたこともあり、急性期については、t-PAや機械的血栓除去といった進行抑制に介入する新たな治療法がいくつか出てきています。また、亜急性期では、理学療法である程度障害を改善することはできます。しかし、慢性期になると、障害改善のためにできることはほとんどありません。脳卒中の問題は、イベント発症後、数ヵ月および数年後にあります。米国では毎年約80万人の脳卒中が発症しており、後遺症による障害をかかえる患者さんは、4〜500万人と推定されています。現状では最大の努力をしても障害が残ってしまう、そういった患者さんを助ける試みが是が非でも必要です。先生の総説に代表されるように、慢性脳梗塞において、細胞治療が注目されていますが、細胞治療にどのような期待をお持ちですか。細胞療法が脳卒中の後遺症を持つ患者さんの機能を改善できるかに注目しています。少なくとも今この段階で、細胞治療は期待以上のものだと思います。発症前の状態に戻すことができれば、喜ばしいことですが、現段階ではまだ多くのハードルがあります。とはいえ、小さな機能の変化でも、その人の人生に大きな影響を与えることができます。たとえば、歩けなかった患者さんが、介助付きで歩けるようになる。手が麻痺した方がコップやペンを持てるようになる。話せなかった方が、コミュニケーションできるようになる。たとえ元に戻っていなくても、細胞治療でこういったことが実現できれば、患者さんの世界は大きく変わります。細胞治療はどのような機序で効果を発揮すると考えられますか。複数の機序があると思います。細胞タイプ、投与方法で、作用機序は変わってくる可能性があります。細胞がなぜ、いつ、どのように機能するのか、現時点では完全には理解されていません。ただ、一般的な細胞治療である間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell、以下MSC)において最も可能性が高いメカニズムは、免疫系の調節であると考えています。脳卒中後は激しい免疫応答があることがわかっており、その免疫応答の一部が回復の阻害する可能性があると考えています。この免疫応答や、有害な成分を抑制することによって、アウトカムを改善できるかもしれないと考えています。また、移植した細胞が、インターロイキンなどのサイトカイン、成長因子などを分泌して、生き残った細胞の機能回復を促進するパラクラインメカニズムにより、不可逆的に傷害された脳の領域を補うことが主な作用であると考えています。これらの要素が、神経細胞形成、血管新生の増加、グリア反応の減少、抗炎症作用などを生み出します。貢献度合いは定かではありませんが、こういったものの組み合わせが、何らかのベネフィットにつながる、と考えています。移植細胞自体が増殖再生するわけではないということですか。おそらく移植した細胞が、損傷した脳細胞に置き換わるような機能はないと思われます。不可逆的に損傷した脳の周辺には、修復反応を再生し回復を促進する機能を持った細胞がまだ存在します。細胞治療のターゲット領域はここで、周囲の細胞つまり再生反応をつないでいく細胞を活性化して、ダメージを受けた領域を補うと思われます。細胞治療の効果を有効に活用するために、どのような試みがなされていますか。MSC以外にも、神経前駆細胞、不死化腫瘍細胞などいくつかの細胞がありますが、最近、最も一般的に使用されているのはMSCです。そのMSCにも、骨髄の単核細胞由来のもの、歯髄、脂肪組織由来のものなどがあります。しかし、最も一般的なソースは骨髄です。骨髄由来のMSCの移植方法として、自家移植と同種(他家)移植がありますが、自家移植では手技の侵襲、高齢者の骨髄から採取した幹細胞の量と質の問題などがあります。一方、骨髄由来のMSCは同種(他家)移植でも拒絶反応がなく、免疫抑制が不要なこと、治療に十分な細胞量を産み出せることから、自家移植よりも同種(他家)移植が多く行われます。同種(他家)移植では、骨髄バンクから骨髄由来細胞を取り出し、企業が開発した方法で増殖し、いわゆる「Off the Shelf Product」を作り、脳卒中を起こした患者に、細胞を投与することが可能になります。細胞の投与経路も研究されています。静脈内投与、髄腔内投与、直接動脈内投与もできます。しかし、多くの研究で行われているのは、脳の穿刺孔から小さな針を入れ、細胞を脳に直接注入する方法です。投与経路を考えるうえで、脳卒中発症後の時間と、細胞の働きは重要です。発症後早い段階では、脳が発するシグナル(ホーミングシグナル)があり、動脈や静脈、髄腔内に投与された細胞は、損傷領域に引き込まれます。しかし、慢性期には、そのシグナルは消えてしまいます。つまり、慢性期では、静脈、動脈、髄腔内投与ではなく、損傷部位に直接注入しないと、そこで効果を発揮するのはむずかしいのです。そのため、慢性脳卒中モデルにおいては、定位脳手術を用いて、細胞を梗塞領域に直接注射することが最善のアプローチであるとされています。慢性脳卒中における細胞治療の臨床試験について教えていただけますか。まず、完了した試験についてお話しします。最初の試験群は10~15年前に行われた、Layton BioScience社の不死化腫瘍細胞の小規模な早期試験です。この細胞は、若年男性の奇形がん患者から単離され、定位脳手術によって、脳の損傷領域に直接移植しています。この研究は12例と、18例の2つの試験で行われました。非常に新しい研究であり、これらの細胞が腫瘍や重篤な反応を引き起こすか知見はありませんでしたが、細胞自体は安全で問題は生じませんでした。また、限定的な試験であったものの、有効性のヒントはいくつか示しました。さらに、ブタ胎児の細胞を用いた別の研究ありました。それも小規模な研究でしたが、合併症があり、5例の患者で中止になっています。この合併症は細胞に関連していなかったことが、判明しましたが、その懸念から、研究は再開されませんでした。その約10年後に、一連の新たな研究が行われました。まずピッツバーグ大学とスタンフォード大学が共同で行ったSanBio社の細胞(SB623)の第I相試験です。SB623は、骨髄由来のMSCであり、プラスミドを用いて、Notch-1を遺伝子導入した同種(他家)移植の製品です。脳卒中発症後6~60ヵ月の患者の梗塞部位の周辺に、定位脳手術で投与されました。このSB623の試験でも、手術に関連するもの以外に安全性の問題はありませんでした。また、小規模でコントロール群がないので、細胞の効果を証明できるような試験ではありませんでしたが、細胞が何らかの作用を示したのであろう、臨床的改善の示唆がいくつかありました。次のレベルの研究へ進むと決断するに十分な有効性を示すヒントがありました。もう1つはReNeuron社が行った試験です。この細胞はc-Mycという遺伝子を導入した神経前駆細胞(CTX0E03)です。CTX0E03の注入部位は脳梗塞部位ではなく被殻で、同じく定位脳手術で行われました。CTX0E03の試験も、安全性は適切で、一部の患者では臨床的に改善の徴候が見られました。細胞治療による改善の状況についてもう少し詳しく教えていただけますか。これらの早期試験では、一般的な脳卒中の機能スコアの一部に改善が見られました。グループ全体ではそれほど差は表れませんでしたが、患者さん個人を「ベースラインはここ、6ヵ月目はここ、12ヵ月目はここ」と、いろいろなスケールをとおして見ていくと、少なくともそこには細胞治療のベネフィットを示唆するシグナルがありました。その改善効果は一貫したもので、改善は最初の年に見られ、その後治療前の状態に悪化することなく、そのまま維持される傾向にありました。進行中および今後の試験についてはいかがですか。画像を拡大する慢性脳卒中細胞治療の臨床試験SanBio社のSB623で前述の第I相に続く、第IIb相試験ACTIsSIMAの組み入れが完了しています。患者の追跡期間は1年間なので結果が出るのはこれからですが、これは非常に興味深い研究です。その理由は、まず大規模な研究ということです。100例以上の患者が登録されています。そして、コントロールとしてSham(偽)手術群を登録していることです。Sham手術の患者は手術室で、細胞を投与された患者と同レベルの鎮静を与えられ、(表層レベルですが)頭蓋骨の穿刺孔施術も同様の手技で施行されます。脳に細胞を注入すること以外、すべてが同じように行われるわけです。また、手術チームと患者をフォロー・評価するチームを分けて、盲検が厳しく順守されるよう努力をしています。まだ結果は出ていませんが、本当に改善が認められるかどうか、とても示唆に富む試験だと思います。私たちはこの研究結果を心待ちにしています。また、ReNeuron社のCTX0E03細胞の第IIb相試験であるPISCES-IIIも行われます。トライアルのデザインは、Sham手術を採用し、盲検でチームを分離するなど、SanBio社のACTIsSIMA試験よく似ています。ACTIsSIMAおよびPISCES-III双方の研究でポジティブな結果がでれば、細胞治療が慢性脳卒中にとって、効果的な治療法であるという、強い示唆を与えてくれるでしょう。細胞治療で改善した患者さんの効果について、Wechsler先生はどのような印象をお持ちですか。興味深い質問です。というのも、測定していない項目において、ポジティブな変化を報告した患者が数多くいたのです。それらの患者さんのコメントは、記憶が良くなった、精神機能が改善された、活力がわいた、考えが明確になった、というものでした。運動機能については、スケールに表れた変化のみならず、評価指標には表れない小さな変化も患者さんから報告されています。手がうまく使えた、バランスをとって歩けた、といったものです。こういたものが、実際の効果なのか、(良くなりたいという患者さん思いからくる)プラセボ効果なのか、適切コントロール試験が重要になってきます。日本の臨床医にメッセージをいただけますか。慢性脳卒中の細胞治療は有望で、その結果は期待できるものです。しかし、まだ証明されたものではありません。実際にこれが効果的な治療になるかどうかを、進行中の研究で、最後まで調べる必要があります。細胞治療が、慢性脳卒中治療の選択肢に加わり、多くの患者さんを助けられるのであれば歓迎すべきことです。私は細胞治療が成功することを期待していますし、現状のすべての徴候を見るかぎり、効果があると言えるでしょう。また、細胞治療の発展形として、成長因子やサイトカインといった細胞の分泌物を同定・分離し、それらの物質を適正な標的に与えることができれば、細胞を注入する必要性すらなくなるかもしれません。私たちの最終目標は、脳を再構成することだと考えています。機能が失われた脳については、まだゴールから少し離れたところにありますが、進歩は続いています。いつかは、細胞を投与することで、残っている機能を増強させるだけでなく、脳を置き換えることができるようになる。そうすれば、さらに高い効果を得られるようになるでしょう。それが、われわれが今細胞治療で目指していることです。Lawrence R. Wechsler氏インタビュー動画ハイライト

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全身性エリテマトーデスに新たな経口薬登場か/Lancet

 標準治療ではコントロール不十分な全身性エリテマトーデス(SLE)の患者において、経口選択的JAK1/JAK2阻害薬であるバリシチニブ4mg投与は、徴候や症状を有意に改善したことが示された。米国・カリフォルニア大学ロサンゼルス校のDaniel J. Wallace氏らによる第II相プラセボ対照二重盲検無作為化試験の結果で、Lancet誌2018年7月21日号で報告している。安全性は、従来のバリシチニブ試験でみられたものと一致していた。現状ではSLE患者の医療的ニーズを十分に満たす治療法はない。著者は、「今回の結果は、SLEの経口治療薬として、JAK1/JAK2阻害薬バリシチニブの可能性について第III相試験の実施を支持するものであった」とまとめている。24週間の第II相プラセボ対照二重盲検無作為化試験でバリシチニブの効果を検討 第II相試験は、11ヵ国78医療施設で患者を募り、24週間にわたって行われた。適格患者は、SLEと診断され、皮膚または関節に疾患活動性の炎症が認められる18歳以上の患者であった。 被験者を無作為に1対1対1の割合で3群に割り付け、それぞれバリシチニブ4mg、同2mg、プラセボを24週間投与した。 主要エンドポイントは、24週時点の関節炎または皮疹の消失(Systemic Lupus Erythematosus Disease Activity Index-2000:SLEDAI-2Kで定義)を達成した患者の割合。有効性と安全性の解析は、試験薬を1回以上服薬した全患者を包含して行った。バリシチニブ4mg群で有意な改善を確認 2016年3月24日~2017年4月27日の間に、314例が無作為化を受けた(バリシチニブ4mg群104例、同2mg群105例、プラセボ群105例)。 24週時点で、SLEDAI-2Kで関節炎または皮疹消失を達成したのは、バリシチニブ4mg群70/104例(67%)(対プラセボオッズ比[OR]:1.8、95%信頼区間[CI]:1.0~3.3、p=0.0414)、バリシチニブ2mg群61/105例(58%)(同OR:1.3、95%CI:0.7~2.3、p=0.39)。 有害事象の報告は、プラセボ群68例(65%)、バリシチニブ2mg群75例(71%)、バリシチニブ4mg群76例(73%)であった。重篤有害事象の報告は、バリシチニブ4mg群10例(10%)、バリシチニブ2mg群11例(10%)、プラセボ群5例(5%)であった。死亡例の報告はなかった。なお重篤な感染症の報告は、バリシチニブ4mg群6例(6%)、バリシチニブ2mg群2例(2%)、プラセボ群1例(1%)であった。

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新規糖尿病治療薬imeglimin、日本での第III相試験の患者登録完了

 代謝性疾患の革新的な治療薬の研究開発に取り組んでいるフランスのバイオ医薬品企業POXEL SA(以下Poxel社)は、開発中の2型糖尿病治療薬imegliminの日本における第III相試験であるTIMES 1試験の患者登録が2018年7月3日に完了したことを発表した。本剤に関して、今年6月の第78回米国糖尿病学会(ADA)のサイエンスセッションで、前臨床モデルにおけるimeglimin独自の作用機序に関連した新規知見が発表されている。 imegliminは、世界保健機関(WHO)によって新たな化合物クラスである「Glimins」として登録され、同クラスとして初めて臨床試験が実施されている。本剤は、ミトコンドリアの機能を改善するという独自のメカニズムを有しており、また、2型糖尿病治療において重要な役割を担う3つの器官(肝臓・筋肉・膵臓)において、グルコース濃度依存的なインスリン分泌の促進、インスリン抵抗性の改善および糖新生の抑制という作用を示し、血糖降下作用をもたらすことが期待されている。さらに本剤の作用機序は、糖尿病によって引き起こされる細小血管・大血管障害の予防につながる血管内皮機能および拡張機能の改善作用や、膵臓β細胞の保護作用を有する可能性も示唆されている。 本剤の日本における第III相試験であるTIMES試験(Trials of Imeglimin for Efficacy and Safety)は、合計約1,100例の患者を対象とした3本のピボタル試験で構成されている。TIMES 1試験は、200例を超える日本人2型糖尿病患者を対象とした、多施設共同、二重盲検、プラセボ対照比較、無作為化、単剤療法試験である。TIMES 2およびTIMES 3試験の登録も2018年下半期の完了が期待されており、Poxel社は、提携する大日本住友製薬と緊密に連携し、2020年に予定している日本での承認申請をサポートするという。 2018年6月25日に開催された第78回米国糖尿病学会(ADA)のサイエンスセッションでは、前臨床モデルにおけるimeglimin独自の作用機序に関連した重要な新規知見が発表された(タイトル「Imeglimin Protects Ins-1 Cells and Human Islets Against High Glucose and High Fructose-induced Cell Death by Inhibiting the Mitochondrial PTP Opening」)。研究グループの一人であるフランス・グルノーブルアルプス大学のEric Fontaine氏は、このデータから、細胞死に関与するミトコンドリアのチャネルmPTPの開口を阻害する独自の作用機序によって、フルクトースおよびグルコースが誘発する細胞毒性によるβ細胞の細胞死に対して、imegliminが防御機能を有することが確認されたと述べている。

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内科も外科も、今、左心耳がアツイ(解説:今中和人氏)-888

 本論文は、開心術のついでに左心耳を閉鎖すれば、後日の心原性塞栓が予防できて予後が改善する、という仮説を検証している。2009年からの約8年間に、全米のprivateないしMedicare被保険者7万5,782人が冠動脈バイパスか弁膜症手術を受け、その際5.8%(4,374人)が左心耳閉鎖術(LAAO)も受けた。このうち4,295人と、LAAOしなかった同数の患者とをマッチさせて、平均フォロー2.1年で比較した。LAAO群の患者分布に合わせているため、両群とも3/4にAFの既往があり、年齢68歳、単独バイパスが1,200例(オフポンプ900例)、弁手術が2,300例、バイパス+弁手術が750例程度であった。 結果は、1次エンドポイントである遠隔期の塞栓症と総死亡はLAAO群で有意に抑えられ、その差は経時的に拡大した。左房内血栓の9割は左心耳由来とされているから、ここだけ見ると素直に納得しそうになるのだが、2次エンドポイントである新規AF、遠隔期のAF関連の受診と入院は、逆に非LAAO群で有意に少ないという結果で一気に混乱し始める。 あれっ? AFが少ない群に血栓症が多発するなんて、おかしくないか? 実はAF既往の有無でサブグループ解析をすると、AF既往ありの患者ではLAAOは血栓症・総死亡ともHR0.7未満の強い抑制効果を示したが、AFの既往がない患者ではHR0.9以上で無効だった。しかしAF既往ありの患者が3/4を占めるので、全体ではLAAOは血栓症と総死亡を有意に抑制していた。一方、AF既往がある患者ではLAAOによる遠隔期のAFの増加はHR1.1程度とわずかだったが、1/4にあたるAF既往なしの患者でHR1.4以上の大幅増だったため、全体ではLAAO群で術後AFが有意に多くなった。 つまりLAAOはAFの既往がある患者にはとても有益だが、それ以外の患者にはやや有害、という結果だったのだが、AFの既往、弁膜症手術(とくに僧帽弁)、抗凝固療法が高率なLAAO群の患者構成をそのまま適用したため、「AFが少ない群に血栓症が多い」という不思議な、そしてmisleadingな結論が誕生した。もちろん、AFの既往がある心臓手術患者は3/4どころか少数派である。 さらにAFの「既往」という表現もひっかかる。既往と聞くと、手術時点ではAFでなかったかのような印象を受けるが、それでは新規AFが有意に少ない非LAAO群の血栓症がグングン増えたのが説明困難で、既往と言っても多くは手術時点で慢性AFかそれに準じる状態だったのだろう。実際、除細動歴も抗凝固療法もLAAO群に完璧にマッチされているし、本文には“prior”とか“history”と書かれているが、表では“AF at baseline”となっている。すなわち、心臓手術時点でAFか、頻繁にAFになる患者にはLAAOを積極的に施行し、そうでない患者では手を出さないのがよろしい、ということであろう。 なお本論文が一括しているLAAOであるが、閉鎖方法の議論が最近ホットで、単なるタバコ縫合ではかなりリークが多いが、2層に縫合しても遠隔期に3割程度が漏れるとの報告がある。一方、とくに左房壁の菲薄な症例での切除・縫合に伴う出血は、生命に関わるリスクであり、自動縫合器や外側からの閉鎖デバイスは本邦では保険適用とコストの問題のほか、正しく左心耳の基部を処置できるか、という本質的問題もある。Watchmanデバイスも登場し、AFと左心耳については、内科医も外科医も当分、目が離せない。

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不眠症とアルコール依存との関連

 アルコールを“睡眠補助”として使用した際のリスクを評価するため、米国・ウェイン州立大学のTimothy Roehrs氏らは、睡眠前のエタノールの鎮静・催眠効果での耐性の発現、その後のエタノール用量漸増、気分の変化、エタノール“愛好”について評価を行った。Sleep誌オンライン版2018年5月12日号の報告。 対象は、不眠症以外に関しては医学的および精神医学的に健康であり、アルコール依存および薬物乱用歴のない21~55歳の不眠症患者。試験1において、24例に対し睡眠前にエタノールを0.0、0.3、0.6g/kg(各々8例)投与し、夜間睡眠ポリグラフ(NPSG)を8時間収集した。試験2において、エタノール0.45g/kgまたはプラセボによる6日間の前処置を行った後、睡眠前のエタノールまたはプラセボのどちらを選ぶか、7日以上の選択の夜にわたり評価した。 主な結果は以下のとおり。・エタノール0.6g/kg投与は、総睡眠時間および第2夜の第3~4段階の睡眠を増加させたが、これらの効果は第6夜には失われた(p<0.05)。・6日間のエタノールでの前処置は、プラセボでの前処置と比較し、選択の夜におけるエタノール自己投与が多かった(p<0.03)。 著者らは「本研究は、不眠症患者の“睡眠補助”としてのアルコール使用に伴うリスクを明示する最初の研究である。エタノール投与開始の初期には、NPSGの睡眠および鎮静作用の自己報告が改善したが、第6夜には消失した。耐性については、睡眠前のエタノール自己投与の増加と関連が認められた」としている。■関連記事アルコール依存症患者における不眠症に関するメタ解析うつ病とアルコールとの関係:2014年英国調査よりアルコール依存症治療に期待される抗てんかん薬

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複合型ADHD児における運動能力がADHD症状と睡眠問題に及ぼす影響

 複合型注意欠如多動症(ADHD-Combined Type:ADHD-CT)の小児は、睡眠や運動に関する問題を有する割合が高いといわれている。オーストラリア・ディーキン大学のNicole Papadopoulos氏らは、小児においてADHD-CTの有無にかかわらず、運動能力がADHD症状と睡眠問題との関係を緩和するか、この緩和によりADHD診断に違いがあるかについて検討を行った。Behavioral sleep medicine誌オンライン版2018年3月12日号の報告。 対象は、8~15歳の初等教育男児70例。その内訳は、ADHD-CT群38例(平均年齢:10歳2ヵ月[SD:1歳6ヵ月])、対照(典型的な発達)群32例(平均年齢:9歳6ヵ月[1歳5ヵ月])。運動能力の評価はMovement Assessment Battery for Children第2版(MABC-2)、ADHD症状の評価はConners' Parent Rating Scale(CPRS)、親より報告された睡眠問題の評価はChildren's Sleep Habits Questionnaire(CSHQ)を用いて、それぞれ測定した。 主な結果は以下のとおり。・ADHD症状スコアが高く、運動能力スコアが低い小児において、睡眠問題がより多く報告された。・緩和効果は、ADHD-CT群で認められたが、対照群では認められなかった。 著者らは「本知見は、運動能力の低下したADHD症状がより重症な小児では、睡眠問題リスクが高くなる可能性があることを示唆している。睡眠介入を含むADHD-CT児の睡眠問題のリスクファクターを検討する際には、運動能力を考慮することの重要性も示唆している」としている。■関連記事ADHD発症しやすい家庭の傾向日本でのADHDスクリーニング精度の評価:弘前大学ADHDの小児および青年における意図しない怪我のリスクとADHD薬の影響

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中国人50万人における睡眠障害の特徴

 不十分な睡眠や不眠症は、身体的および精神的な健康状態に影響を及ぼす。英国・オックスフォード大学のYiping Chen氏らは、中国の都市部と農村部における睡眠パターンと不眠症の特徴や相関について調査を行った。Sleep medicine誌2018年4月号の報告。 本研究は、中国の10地域(都市部:5地域、農村部:5地域)における30~79歳の成人51万2,891例を対象とした横断的研究である。面接官が管理するラップトップベースのアンケートを用いて、睡眠パターン(睡眠持続時間、昼間の眠気、いびき)および不眠症状に関する詳細情報を収集した。睡眠パターンや不眠症状と、社会経済的、ライフスタイル、行動および健康関連の因子との関連について、ロジスティック回帰を用いて調査を行った。 主な結果は以下のとおり。・全体として、平均睡眠時間は7.38時間(SD:1.37)であり、短時間睡眠(6時間以下)が23%、長時間睡眠(9時間以上)が16%と報告された。昼間の眠気は21%、頻繁ないびきは22%で報告された。・不眠症状は、全体の17%があると報告しており、男性(13%)よりも女性(19%)で多かった。また、その割合は、都市部(15%)よりも農村部(19%)で高く、独居者(23%)において高かった。・不眠症状を有する調整オッズ比(OR)が有意に高かったのは、うつ病エピソード患者(OR:6.10、95%CI:5.69~6.55)、全般性不安障害患者(OR:7.46、95%CI:6.65~8.37)、慢性疾患患者(OR:1.46、95%CI:1.44~1.49)であった。・対照的に、不眠症状のORは、昼間の眠気(OR:0.77、95%CI:0.75~0.78)や頻繁ないびき(OR:0.86、95%CI:0.84~0.87)の報告例で有意に低かった。 著者らは「中国の成人において、睡眠パターンは、社会経済的、ライフスタイル、健康関連の要因によって大きく異なっていた。不眠症状リスクは、精神的および身体的な健康状態の悪化と関連が認められた」としている。■関連記事不眠症になりやすい食事の傾向不眠症の人おすすめのリラクゼーション法とは睡眠不足だと認知症になりやすいのか

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アルコール依存症患者における不眠症に関するメタ解析

 アルコール依存症患者における不眠症の有病率は、36~91%であり、アルコール離脱後も持続する可能性がある。禁酒患者の不眠症を、アカンプロサートが減少させることが示唆されている。フランス・モンペリエ大学のPascal Perney氏らは、アカンプロサートは実際に不眠症を軽減させるのか、そしてその作用機序をより理解するため、大規模臨床試験データベースを用いて有効性の評価を行った。Alcohol and alcoholism誌オンライン版2018年3月30日号の報告。 本研究の目的は、個々の患者データのメタ解析を行い、不眠症の軽減に対するアカンプロサートの有効性の評価をすることである。12件の研究より3,508例が抽出された。6ヵ月間のフォローアップ後、ベースラインからの平均不眠症減少率は、アカンプロサート群で45%、対照群で26%であった(p<0.001)。 不眠症が記録されたアカンプロサートに関するすべてのランダム化試験より、患者データを抽出してメタ解析を行った。主要評価項目は、ハミルトンうつ病・不安評価尺度より得られた短時間睡眠指数(SSI:Short Sleep Index)により測定された、6ヵ月のフォローアップ後の不眠症の変化とした。メタ解析は、ランダム化治療効果、ランダム化試験効果およびベースライン重症度の共変量の調整を伴う、2レベルマルチレベル(患者/試験)混合モデルを用いて実施した。 主な結果は以下のとおり。・12件の研究より3,508例が抽出された。そのうち不眠症の患者は59.8%(95%CI:58.1~61.4)であった。・精神疾患既往歴、重度の依存、独居、γ-GTレベル異常が、不眠症のリスク因子であった。・6ヵ月間のフォローアップ後、ベースラインからの平均SSI減少率は、アカンプロサート群で45%、対照群で26%であった(治療効果:19%、95%CI:12.5~25.5、p<0.001)。・単変量媒介モデルでは、不眠症に対する禁酒の媒介効果は、不眠症軽減に対するアカンプロサート全体的効果の55.7%であった。 著者らは「アルコール依存症患者では、不眠症が一般的に認められる。不眠症は、禁酒により減少するが、アカンプロサート治療で、より減少する」としている。■関連記事認知症発症に対するアルコール使用障害の影響に関するコホート研究アルコール依存症治療に期待される抗てんかん薬お酒はうつ病リスク増加にも関連

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全身性エリテマトーデス〔SLE:Systemic Lupus Erythematosus〕

1 疾患概要■ 概念・定義全身性エリテマトーデス(Systemic Lupus Erythematosus:SLE)は、自己免疫異常を基盤として発症し、多彩な自己抗体の産生により多臓器に障害を来す全身性炎症性疾患で、再燃と寛解を繰り返しながら病像が完成される。全身に多彩な病変を呈しうるが、個々人によって障害臓器やその程度が異なるため、それぞれに応じた管理と治療が必要となる。■ 疫学本疾患は指定難病に指定されており、令和元年(2019年)度末の特定医療費(指定難病)受給者証所持者数は6万1,835件であり、計算上の有病率は10万人中50人である。男女比は1対9で女性に多く、発症年齢は10~30代で大半を占める。■ 病因発症要因として、遺伝的背景要因に加えて、感染症や紫外線などの環境要因が引き金となり、発症することが考えられているが、不明点が多い。その病態は、抗dsDNA抗体を主体とする多彩な自己抗体の出現に加え、多岐にわたる免疫異常によって形成される。自然免疫と獲得免疫それぞれの段階で異常が指摘されており、樹状細胞・マクロファージを含めた貪食能を持つ抗原提示細胞、各種T細胞、B細胞、サイトカインなどの異常が病態に関与している。体内の細胞は常に破壊と産生を繰り返しているが、前述の引き金などを契機に体内の核酸物質が蓄積することで、異常な免疫反応が惹起され、自己抗体が産生され免疫複合体が形成される。そして、それらが各臓器に蓄積し、さらなる炎症・自己免疫を引き起こし、病態が形成されていく。■ 症状障害臓器に応じた症状が、同時もしくは経過中に異なる時期に出現しうる。初発症状として最も頻度が高いものは、発熱、関節症状、皮膚粘膜症状である。全身倦怠感やリンパ節腫脹を伴う。関節痛(関節炎)は通常骨破壊を伴わない。皮膚粘膜症状として、日光過敏症や露光部に一致した頬部紅斑のほかに、手指や四肢体幹部に多彩な皮疹を呈し、脱毛、口腔内潰瘍などを呈する。その他、レイノー現象、腎炎に関連した浮腫、肺病変や血管病変と関連した労作時呼吸困難、肺胞出血に伴う血痰、漿膜炎と関連した胸痛・腹痛、神経精神症状など、さまざまな症状を呈しうる。■ 分類SLEは障害臓器と重症度により治療内容が異なる。とくに重要臓器として、腎臓、中枢神経、肺を侵すものが挙げられ、生命および機能予後が著しく障害される可能性が高い障害である。ループス腎炎は組織学的に分類されており、International Society of Nephrology/Renal Pathology Society(ISN/RPS)分類が用いられている。神経精神ループス(Neuropsychiatric SLE:NPSLE)では大きく中枢神経病変と末梢神経病変に分類され、それぞれの中でさらに詳細な臨床分類がなされる。■ 予後生命予後は、1950年代は5年生存率がおよそ50%であったが、2007年のわが国の報告では10年生存率がおよそ90%、20年生存率はおよそ75%である1)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)検査所見として、抗核抗体、抗(ds)DNA抗体、抗Sm抗体、抗リン脂質抗体(ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体、β2GPⅠ依存性抗カルジオリピン抗体など)が陽性となる。また、血清補体低値、免疫複合体高値、白血球減少(リンパ球減少)、血小板減少、溶血性貧血、直接クームス陽性を呈する。ループス腎炎合併の場合はeGFR低下、蛋白尿、赤血球尿、白血球尿、細胞性円柱が出現しうる。SLEの診断では1997年の米国リウマチ学会分類基準2)および2012年のSystemic Lupus International Collaborating Clinics(SLICC)分類基準3)を参考に、他疾患との鑑別を行い、総合的に判断する(表1、2)。2019年に欧州リウマチ学会と米国リウマチ学会が合同で作成した新しい分類基準4)が提唱された。今後はわが国においても本基準の検証を元に診療に用いられることが考えられる。画像を拡大する表2 Systemic Lupus International Collaborating Clinics 2012分類基準画像を拡大するループス腎炎が疑われる場合は、積極的に腎生検を行い、ISN/RPS分類による病型分類を行う。50~60%のNPSLESLE診断時か1年以内に発症する。感染症、代謝性疾患、薬剤性を除外する必要がある。髄液細胞数、蛋白の増加、糖の低下、髄液IL-6濃度高値であることがある。MRI、脳血流シンチ、脳波で鑑別を進める。貧血の進行を伴う呼吸困難、両側肺びまん性浸潤影あるいは斑状陰影を認めた場合は肺胞出血を考慮する。全身症状、リンパ節腫脹、関節炎を呈する鑑別疾患は、パルボウイルス、EBV、HIVを含むウイルス感染症、結核、悪性リンパ腫、血管炎症候群、他の膠原病および類縁疾患が挙がるが、感染症を契機に発症や再燃をすることや、他の膠原病を合併することもしばしばある。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)SLEの基本的な治療薬はステロイド、免疫抑制薬、抗マラリア薬であるが、近年は生物学的製剤が承認され、複数の分子標的治療が世界的に試みられている。ステロイドおよび免疫抑制薬の選択と使用量については、障害臓器の種類と重症度(疾患活動性)、病型分類、合併症の有無によって異なる。治療の際には、(1)SLEのどの障害臓器を標的として治療をするのか、(2)何を治療指標として経過をみるのか、(3)出現しうる合併症は何かを明確にしながら進めていくことが重要である。SLEの治療選択については、『全身性エリテマトーデス診療ガイドライン2019』の記載にある通り、重要臓器障害があり、生命や機能的予後を脅かす場合は、ステロイド大量投与に加えて免疫抑制薬の併用が基本となる5)(図)。ステロイドは強力かつ有効な免疫抑制薬でありSLE治療の中心となっているが、免疫抑制薬と併用することで予後が改善される。ステロイドの使用量は治療標的臓器と重症度による。ステロイドパルス療法とは、メチルプレドニゾロン(商品名:ソル・メドロール)250~1,000mg/日を3日間点滴投与、大量ステロイドとはプレドニゾロン換算で30~100mg/日を点滴もしくは経口投与、中等量とは同じく7.5~30mg/日、少量とは7.5mg/日以下が目安となるが、体重により異なる6)(表3)。ステロイドの副作用はさまざまなものがあり、投与量と投与期間に依存して必発である。したがって、副作用予防と管理を適切に行う必要がある。また、大量のステロイドを長期に投与することは副作用の観点から行わず、再燃に注意しながら漸減する必要がある。画像を拡大する画像を拡大する寛解導入療法として用いられる免疫抑制薬は、シクロホスファミド(同:エンドキサン)とミコフェノール酸モフェチル(同:セルセプト)が主体となる(ループス腎炎の治療については別項参照)。治療抵抗性の場合、免疫抑制薬を変更するなど治療標的を変更しながら進めていく。病態や障害臓器の程度により、カルシニューリン阻害薬のシクロスポリン(同:サンディミュン、ネオーラル)、タクロリムス(同:プログラフ)やアザチオプリン(同:イムラン、アザニン)も用いられる。症例に応じてそれぞれの有効性と副作用の特徴を考慮しながら選択する(表4)。画像を拡大するリツキシマブは、米国リウマチ学会(American College of Rheumatology:ACR)および欧州リウマチ学会(European League Against Rheumatism:EULAR)/欧州腎臓学会-欧州透析移植学会(European Renal Association – European Dialysis and Transplant Association:ERA-EDTA)の推奨7,8)においては、既存の治療に抵抗性の場合に選択肢となりうるが、重症感染症や進行性多巣性白質脳症の注意は必要と考えられる。わが国ではネフローゼ症候群に対しては保険承認されているが、SLEそのものに対する保険適用はない。可溶型Bリンパ球刺激因子(B Lymphocyte Stimulator:BLyS)を中和する完全ヒト型モノクローナル抗体であるベリムマブ(同:ベンリスタ)は、既存治療で効果不十分のSLEに対する治療薬として、2017年にわが国で保険承認され、治療選択肢の1つとなっている9)。本稿執筆時点では、筋骨格系や皮膚病変にとくに有効であり、ステロイド減量効果、再燃抑制、障害蓄積の抑制に有効と考えられている。ループス腎炎に対しては一定の有効性を示す報告10)が出てきており、適切な症例選択が望まれる。NPSLEでの有効性はわかっていない。ヒドロキシクロロキン(同:プラケニル)は海外では古くから使用されていたが、わが国では2015年7月に適用承認された。全身症状、皮疹、関節炎などにとくに有効であり、SLEの予後改善、腎炎の再燃予防を示唆する報告がある。短期的には薬疹、長期的には網膜症などの副作用に注意を要し、治療開始前と開始後の定期的な眼科受診が必要である。アニフロルマブ(同:サフネロー)はSLE病態に関与しているI型インターフェロンα受容体のサブユニット1に対する抗体製剤であり、2021年9月にわが国でSLEの適応が承認された。臨床症状の改善、ステロイド減量効果が示された。一方で、アニフロルマブはウイルス感染制御に関与するインターフェロンシグナル伝達を阻害するため、感染症の発現リスクが増加する可能性が考えられている。執筆時点では全例市販後調査が行われており、日本リウマチ学会より適正使用の手引きが公開されている。実臨床での有効性と安全性が今後検証される。SLEの病態は複雑であり、臨床所見も多岐にわたるため、複数の診療科との連携を図りながら各々の臓器障害に対する治療および合併症に対して、妊娠や出産、授乳に対する配慮を含めて、個々に応じた管理が必要である。4 今後の展望本稿執筆時点では、世界でおよそ30種類もの新規治療薬の第II/III相臨床試験が進行中である。とくにB細胞、T細胞、共刺激経路、サイトカイン、細胞内シグナル伝達経路を標的とした分子標的治療薬が評価中である。また、異なる作用機序の薬剤を組み合わせる試みもなされている。SLEは集団としてヘテロであることから、適切な評価のためのアウトカムの設定方法や薬剤ごとのバイオマーカーの探索が同時に行われている。5 主たる診療科リウマチ・膠原病内科、皮膚科、腎臓内科、その他、障害臓器や治療合併症に応じて多くの診療科との連携が必要となる。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 全身性エリテマトーデス(公費対象)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報全国膠原病友の会(膠原病患者とその家族の会)1)Funauchi M, et al. Rheumatol Int. 2007;27:243-249.2)Hochberg MC, et al. Arthritis Rheum. 1997;40:1725.3)Petri M, et al. Arthritis Rheum. 2012;64:2677-2686.4)Aringer M, et al. Ann Rheum Dis. 2019;78:1151-1159.5)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業 自己免疫疾患に関する調査研究(自己免疫班),日本リウマチ学会(編):全身性エリテマトーデス診療ガイドライン2019.南山堂,2019.6)Buttgereit F, et al. Ann Rheum Dis. 2002;61:718-722.7)Hahn BH, et al. Arthritis Care Res (Hoboken). 2012;64:797-808.8)Bertsias GK, et al. Ann Rheum Dis. 2012;71:1771-1782.9)Furie R, et al. Arthritis Rheum. 2011;63:3918-3930.10)Furie R, et al. N Engl J Med. 2020;383:1117-1128.公開履歴初回2018年04月10日更新2022年02月25日

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夢遊病に関するシステマティックレビュー

 夢遊病を誘発する薬剤は、患者自身だけでなく他人に対しても傷害のリスクをもたらし、服薬アドヒアランスに対しても影響を及ぼす。オーストラリア・南オーストラリア大学のHelen M. Stallman氏らは、夢遊病リスクを高める可能性のある薬剤を特定するため、文献のシステマティックレビューを行った。Sleep medicine reviews誌2018年2月号の報告。 夢遊病(「sleepwalking」「somnambulism」)をキーワードとして、CINAHL、EMBASE、PsycINFO、PubMed、ScienceDirectより検索を行った。83件が抽出され、そのうち基準を満たした62件をレビュー対象とした。 主な結果は以下のとおり。・主に以下の4クラス(29薬剤)が、夢遊病のトリガーであると同定された。 (1)ベンゾジアゼピン受容体アゴニストおよび他のGABAモジュレーター (2)抗うつ薬および他のセロトニン作動薬 (3)抗精神病薬 (4)β遮断薬・薬剤誘発性夢遊病の最も強力なエビデンスは、ゾルピデムとsodium oxybateであった。・その他すべての関連は、症例報告に基づいていた。 著者らは「本研究は、臨床試験のリスクプロファイルにおける夢遊病の重要性を示唆しており、とくにGABAA受容体でのGABA活性およびセロトニン作動活性の増強、β遮断薬によるノルアドレナリン活性の遮断を伴う薬剤で注意が必要である。薬剤による夢遊病リスクの懸念がある場合には、患者に対し安全な睡眠環境についての教育を行い、夢遊病の発症または悪化を報告することが推奨され、発症した際の代替治療の検討を行うべきである」としている。■関連記事夢遊病にビペリデンは有望!?がん患者の悪夢に有効な治療法はベンゾジアゼピン系薬の中止戦略、ベストな方法は

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再生不良性貧血〔AA : aplastic anemia〕

再生不良性貧血のダイジェスト版はこちら1 疾患概要■ 概念・定義再生不良性貧血は、末梢血でのすべての血球の減少(汎血球減少)と骨髄の細胞密度の低下(低形成)を特徴とする症候群である。同じ徴候を示す疾患群から、概念のより明確なほかの疾患を除外することによって診断することができる。病気の本態は「骨髄毒性を示す薬剤の影響がないにもかかわらず、造血幹細胞が持続的に減少した状態」である。再生不良性貧血という病名は、鉄欠乏性貧血や悪性貧血などのように、不足している栄養素を補充すれば改善する貧血とは異なり、血液細胞が再生しにくいという意味で付けられたが、治療方法が進歩した現在では、再生不良性貧血の骨髄は必ずしも「再生不良」とはいえないので、この病名は現実に即さなくなってきている。■ 疫学臨床調査個人票による調査では、2004~2012年の9年間の罹患数は約9,500(年間約1,000人)、罹患率は8.2(/100万人年)と推計された。罹患率の性比(女/男)は1.16であり、男女とも10~20歳代と70~80歳代でピークが認められ、高齢のピークの方が大きかった1)。これは欧米諸国の約3倍の発生率である。■ 病因成因によってFanconi貧血、dyskeratosis congenitaなどの先天性と後天性に分けられる。後天性の再生不良性貧血には原因不明の一次性と、クロラムフェニコールをはじめとするさまざまな薬剤や放射線被曝・ベンゼンなど化学物質による二次性がある。一次性(特発性)再生不良性貧血は、何らかのウイルスや環境因子が引き金になって起こると考えられているが詳細は不明である。わが国では特発性が大部分(90%)を占める。また、そのほかに特殊型として肝炎後再生不良性貧血は、A型、B型、C型などの既知のウイルス以外の原因による急性肝炎発症後1~3ヵ月で発症する。若年の男性に比較的多く重症化しやすいが、免疫抑制療法に対する反応性は特発性再生不良性貧血と変わらない。再生不良性貧血-発作性夜間ヘモグロビン尿症(paroxysmal nocturnal hemoglobinuria:PNH)症候群は、臨床的には再生不良性貧血でありながら、末梢血中にglycosylphosphadidylinositol(GPI)アンカー膜蛋白の欠失した血球が増加しており、溶血を伴う状態を指す。そのなかには、発症時から再生不良性貧血‐PNH症候群状態のもの(骨髄不全型のPNH)と、再生不良性貧血と診断されたのち長期間を経てPNHに移行するもの(二次性PNH)の2種類がある。再生不良性貧血の重症度は、血球減少の程度によって表1のように5段階に分けられている1)。画像を拡大する特発性再生不良性貧血の約70%は抗ヒト胸腺細胞ウサギ免疫グロブリン(anti-thymocyte globulin:ATG、商品名:サイモグロブリン)やシクロスポリン(CsA〔同:ネオーラル〕)などの免疫抑制療法によって改善することから、免疫学的機序による造血幹細胞の破壊・抑制が多くの例で関与していると考えられている。しかし、免疫反応の標的となる自己抗原は同定されていない。再生不良性貧血の約60%に、GPIアンカー膜蛋白の欠失したPNH形質の血球(PNH型血球)が検出されることや、第6染色体短腕の片親性二倍体により細胞傷害性T細胞からの攻撃を免れて造血を支持するようになった造血幹細胞由来の血球が約25%の例で検出されること2,3)などが、免疫病態の関与を裏付けている。一方、Fanconi貧血のように、特定の遺伝子異常によって発症する先天性再生不良性貧血が存在することや、特発性再生不良性貧血と診断されていた例のなかにテロメラーゼ関連の遺伝子異常を持つ例があることなどから、一部の例では造血幹細胞自身に異常があると考えられている。ただし、これらの遺伝子異常が検出される頻度は非常に低い。免疫抑制療法が効かない再生不良性貧血例のなかには、骨髄が脂肪髄であったために再生不良性貧血として治療されたが、その後短期間で異常細胞が顕在化し、診断が造血器悪性腫瘍に変更される例も含まれている。さらに、免疫抑制療法が効かないからといって、必ずしも免疫病態が関与していないという訳ではない。そのなかには、(1)免疫異常による発病から治療までの時間が経ち過ぎているために効果が出にくい、(2)免疫抑制療法の強さが不十分である、(3)免疫学的攻撃による造血幹細胞の枯渇が激しいために造血が回復しえない、などの理由で免疫抑制療法に反応しない例もある。このため、発病して間もない再生不良性貧血のほとんどは、造血幹細胞に対する何らかの免疫学的攻撃によって起こっていると考えたほうがよい。■ 症状息切れ・動悸・めまいなどの貧血症状と、皮下出血斑・歯肉出血・鼻出血などの出血傾向がみられる。好中球減少の強い例では発熱がみられる。軽症・中等症例や、貧血の進行が遅い重症例では無症状のこともある。他覚症状として顔面蒼白、貧血様の眼瞼結膜、皮下出血、歯肉出血などがみられる。■ 予後かつては重症例の50%が半年以内に死亡するとされていた。最近では血小板輸血、抗菌薬、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)などの支持療法が進歩し、免疫抑制療法や骨髄移植が発症後早期に行われるようになったため、約7割の患者が輸血不要となるまで改善し、9割が長期生存するようになっている。一部の重症例や、発症後長期間を経過した例は免疫抑制療法によっても改善せず、定期的な赤血球輸血・血小板輸血を必要とする。赤血球輸血が40単位を超えると糖尿病・心不全・肝障害などの鉄過剰症による症状が現れる。最近では、デフェラシロクス(商品名:エクジェイド)による鉄キレート療法が行われるようになったため、輸血依存例の予後の改善が期待されている。一方、免疫抑制療法により改善した長期生存例の約5%が骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome:MDS)、5~10%がPNHに移行する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 末梢血所見通常は赤血球、白血球、血小板のすべてが減少する。重症度の低い例では貧血と血小板減少だけしか認めないこともある。急性型では正球性正色素性、慢性型では通常大球性を示し、すべての例で網赤血球の増加を伴わない。重症例では好中球だけではなくリンパ球も減少する。■ 血液生化学検査血液生化学検査では血清鉄、鉄飽和率、血中エリスロポエチン値、トロンボポエチン値などの増加がみられる。とくにトロンボポエチンの増加は、前白血病状態との鑑別に重要である。トロンボポエチンが300pg/mL未満であれば再生不良性貧血は否定的である4)。■ 骨髄穿刺・生検所見再生不良性貧血と診断するためには両者を行うことが必須である。骨髄生検では細胞成分の占める割合が全体の30%以下に減少している。なかでも巨核球・幼若顆粒球・赤芽球の著しい減少が特徴的である。骨髄細胞が残存している場合には多くの例で赤芽球に異形成が認められる。好中球にも異形成を認めることがあるが、その割合が全好中球の10%を超えることはない。巨核球は減少しているため、異形成の有無は評価できないことが多い。ステージ4までの再生不良性貧血では、穿刺する場所によって骨髄が正形成または過形成を示すことがあるが、そのような場合でも巨核球は通常減少している。染色体は原則として正常であるが、病的意義の明らかでない染色体異常を少数認めることがある。■ 病理腸骨からの骨髄生検では細胞成分の占める割合が全体の30%以下に減少し、重症例では完全に脂肪髄化する(図1)。ただし、ステージ 1~3の患者では、細胞成分の多い部分が残存していることが多い。画像を拡大する■ 骨髄MRI骨髄穿刺・生検で評価できる骨髄は一部に限られるため、骨髄細胞密度を評価するためには胸腰椎を脂肪抑制画像で評価することが望ましい。重症再生不良性貧血例の胸腰椎をMRIで検索するとSTIR法では均一な低信号となり、T1強調画像では高信号を示す。ステージ3より重症度の低い例の胸腰椎画像は、残存する造血巣のため不均一なパターンを示す。■ フローサイトメトリーによるCD55・CD59陰性血球の検出Decay accelerating factor(DAF、CD55)、homologous restriction factor(HRF、CD59)などのGPIアンカー膜蛋白の欠失した血球の有無を、感度の高いフローサイトメトリーを用いて検索すると、明らかな溶血を伴わない再生不良性貧血患者の約半数に少数のCD55・CD59陰性血球が検出される。このようなPNH形質の血球陽性例は陰性例に比べて免疫抑制療法が効きやすく、また予後もよいことが知られている5)。■ 診断基準・鑑別診断わが国で使用されている診断基準を表2に示す1)。画像を拡大する再生不良性貧血との鑑別がとくに問題となるのは、MDS(2008年分類)のなかでも芽球の割合が少ないrefractory cytopenia with unilineage dysplasia(RCUD)、refractory cytopenia with multilineage dysplasia(RCMD)、idiopathic cytopenia of undetermined significance(ICUS)、骨髄不全の程度が強いPNH、欧米型の有毛細胞白血病などである。RCUD、RCMDまたはICUSが疑われる症例において、巨核球増加を伴わない血小板減少や血漿トロンボポエチンの上昇がみられる場合には、再生不良性貧血と同様の免疫病態による骨髄不全を考えたほうがよい。PNH形質血球の増加がみられる骨髄不全のうち、網赤血球の増加(>10万/μL)、正常上限の1.5倍を超えるLDH値の上昇、間接ビリルビンの上昇、ヘモグロビン尿などの溶血所見がみられる場合には、骨髄不全型PNHと診断する。骨髄生検上細網線維の増加や、血清可溶性インターロイキン2レセプター値の著増などがみられる場合は、有毛細胞白血病を疑う。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ ステージ1、2に対する治療輸血を必要としないこの重症度で、血球減少の進行がみられない場合には、血球減少が自然に回復する可能性があるため、無治療で経過をみることが勧められてきた。しかし、再生不良性貧血では診断から治療までの期間が長くなるほど免疫抑制療法の奏効率が低くなるため、診断後はできるだけ早期にCsAを投与して効果の有無をみたほうがよい。とくに血小板減少が先行する例は、免疫抑制療法に反応して改善することが多いので、血小板減少が軽度であっても、少量のCsAを短期間投与し反応性をみることが望ましい。図2は筆者の私案を示している。画像を拡大する■ 重症例(ステージ3以上など)に対する治療この重症度の患者に対する治療方針(筆者私案)を図3に示す。画像を拡大する患者が40歳以下でHLAの一致する同胞ドナーが得られる場合には、同種骨髄移植が第一選択の治療方法である。とくに20歳未満の患者では治療関連死亡の確率が低く、長期生存率も90%前後が期待できるため、最初から骨髄移植を行うことが勧められる。40歳以上の高齢患者に対してはATG・CsAか、ATG・CsA・エルトロンボパグ(ELT〔商品名:レボレード〕)併用療法を行う。サイモグロブリンの市販後調査によると、ステージ4・5例およびステージ2・3例におけるATG+CsAの有効率はそれぞれ44%(219/502)、64%(171/268)とされている。ELTは、ATG+CsAと同時またはATG+CsAの2週間後から併用することにより、ウマATG+CsAの有効率が90%まで向上することが、アメリカ国立衛生研究所(NIH)の臨床研究により示された6)。日本でも2017年8月より保険適用が認められ、初回のATG+CsA療法後に併用することが可能になっている。これにより、日本で唯一使用できるサイモグロブリンの有効率が高まる可能性がある。ただし、NIHの臨床試験では、2年間で約12%の症例に、第7染色体異常を中心とする新たな染色体異常が出現していることから、ELT併用によって異常造血幹細胞の増殖が誘発される可能性は否定できない。このため、若年患者に対する初回治療にELTを併用するかどうかは、患者の重症度、罹病期間、免疫病態マーカーの有無などを考慮して判断することが勧められる。とくに、治療前に骨髄FISH検査で第7染色体欠失細胞がないかどうかを確認する必要がある。保険で認められているサイモグロブリンの投与量は2.5~3.75mg/kgと幅が広く、至適投与量についてはよく分かっていない。サイモグロブリンは、リンフォグロブリンに比べて免疫抑制作用が強いため、サイトメガロウイルスやEBウイルスの再活性化のリスクが高いとされている。このため、治療後2~3週以降はできる限り頻回にEBウイルスコピー数をモニタリングする必要がある。重症例のうち初診時から好中球がほとんどなく、G-CSF投与後も好中球がまったく増えない劇症型の場合には、緊急的な臍帯血移植やHLA部分一致血縁ドナーからの移植適応がある。■ 難治例に対する治療免疫抑制療法が無効であった場合、初回治療としてELTが使用されなかった例に対しては約40%にELTの効果が期待できる7)。メテノロンやダナゾール(保険適用外)も重症度の低い一部の例には有効である。これらの薬物療法にすべて抵抗性であった場合には、非血縁ドナーからの骨髄移植の適応がある。支持療法としては、貧血症状の強さに応じて、ヘモグロビンで7g/dL以上を目安に1回あたり400mLの赤血球濃厚液‐LRを輸血する。輸血によって血清フェリチン値が1,000ng/mL以上となった場合には経口鉄キレート剤のデフェラシロクスを投与し、輸血後鉄過剰症による臓器障害を防ぐ。血小板数が1万/μL以下となっても、明らかな出血傾向がなければ予防的血小板輸血は通常行わないが、感染症を併発している場合や出血傾向が強いときには、血小板数が2万/μL以上となるように輸血を行う。4 今後の展望再生不良性貧血の発症の引き金となる自己抗原が同定されれば、その抗原に対する抗体や抗原特異的なT細胞を検出することによって、造血幹細胞に対する免疫的な攻撃によって起こった骨髄不全、すなわち再生不良性貧血であることが積極的に診断できるようになる。自己抗原やそれに対する特異的なT細胞が同定されれば、現在用いられているATGやCsAのような非特異的な免疫抑制剤ではなく、より選択的な治療法が開発される可能性がある。また、近年使用できるようになったELTは、治療抵抗性の再生不良性貧血に対しても約40%に奏効する画期的な薬剤であるが、どのような症例に奏効し、またどのような症例に染色体異常が誘発されるのか(ELTを使用すべきではないのか)は不明である。これらを明らかにするために前向きの臨床試験と定期的なゲノム解析が必要である。5 主たる診療科血液内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)特発性造血障害に関する調査研究班(資料)(再生不良性貧血診療の参照ガイドがダウンロードできる)公的助成情報難病情報センター 再生不良性貧血(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報再生つばさの会(再生不良性貧血の患者と家族の会の情報)1)再生不良性貧血の診断基準と診療の参照ガイド改訂版作成のためのワーキンググループ. 再生不良性貧血診療の参照ガイド 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業特発性造血障害に関する調査研究班:特発性造血障害疾患の診療の参照ガイド(平成22年度改訂版); 2011. p3-32.2)Katagiri T, et al. Blood. 2011; 118: 6601-6609.3)Maruyama H, et al. Exp Hematol. 2016; 44: 931-939 e933.4)Seiki Y, et al. Haematologica. 2013; 98: 901-907.5)Sugimori C, et al. Blood. 2006; 107: 1308-1314.6)Townsley DM, et al. N Engl J Med. 2017; 376: 1540-1550.7)Olnes MJ, et al. N Engl J Med. 2012; 367: 11-19.公開履歴初回2013年09月26日更新2018年01月23日

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病的肥満に対する袖状胃切除術 vs.ルーワイ胃バイパス術/JAMA

 病的肥満患者を対象とした、腹腔鏡下スリーブ状胃切除術と腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術の比較検討で、術後5年時点での超過BMI減少率に有意差は確認されなかったことが示された。スイス・St ClaraspitalのRalph Peterli氏らが、減量、併存疾患の変化、QOLの改善、有害事象という点で、両手術の間で違いがあるかを検証した無作為化比較試験「SM-BOSS試験」の結果を報告した。病的肥満の治療において、スリーブ状胃切除術の使用が増加しているが、標準治療であるルーワイ胃バイパス術と比較した場合の、スリーブ状胃切除術の長期成績は不明であった。JAMA誌2018年1月16日号掲載の報告。病的肥満約200例で、スリーブ状胃切除術とルーワイ胃バイパス術を比較 SM-BOSS試験(Swiss Multicenter Bypass or Sleeve Study)は、2007年1月~2011年11月にスイスの肥満症治療センター4施設で実施された(最終追跡調査は2017年3月)。 減量手術を検討した病的肥満患者3,971例のうち、217例を登録し、腹腔鏡下スリーブ状胃切除術(SG)群(107例)または腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術(RYGB)群(110例)のいずれかに無作為に割り付け、5年間追跡した。 主要評価項目は体重減少で、超過BMI減少率(100×[ベースラインBMI値-追跡時BMI値]/[ベースラインBMI値-25])で算出した。併存疾患(高血圧、2型糖尿病、脂質異常症、閉塞性睡眠時無呼吸、胃食道逆流、関節痛、うつ、高尿酸血症)の変化および有害事象についても、探索的評価項目とした。5年後の超過BMI減少率に、両術式間で有意差なし 登録された217例(平均年齢45.5歳、女性72%、平均BMI値43.9)のうち、205例(94.5%)が試験を完遂した。 SG群とRYGB群とで、術後5年時の超過BMI減少率に有意差は確認されなかった(61.1% vs.68.3%、絶対差:-7.18%[95%CI:-14.30~-0.06]、多重比較補正後のp=0.22)。 胃食道逆流症は、RYGB群のほうがSG群より改善率が高く(60.4% vs.25.0%)、悪化(症状の悪化または治療の増加)率は低かった(6.3% vs.31.8%)。再手術または処置が必要となった患者数は、SG群101例中16例(15.8%)、RYGB群104例中23例(22.1%)であった。 なお、探索的評価項目の2型糖尿病については検出力が不足しており、厳格に管理された状況下での無作為化試験であるため一般化の可能性は低いなど、研究の限界について著者は指摘している。

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病的肥満にスリーブ状胃切除術vs.ルーワイ胃バイパス術/JAMA

 病的肥満患者に対し、腹腔鏡下スリーブ状胃切除術は腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術に比べ、5年後の超過体重減少率において、その効果は同等ではないことが明らかにされた。また、ルーワイ胃バイパス術のほうがスリーブ状胃切除術と比べて5年後の超過体重減少率はより大きかったが、その差は事前規定の同等性マージンに照らして統計的に有意ではなかった。フィンランド・トゥルク大学のPaulina Salminen氏らが、240例を対象に行った多施設共同非盲検無作為化試験「SLEEVEPASS試験」の結果で、JAMA誌2018年1月16日号で発表された。同研究グループによれば、腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術と比較した長期的エビデンスがないにもかかわらず、腹腔鏡下スリーブ状胃切除術の施術件数は急増しているという。5年間追跡し超過体重減少率や併存疾患などを比較 SLEEVEPASS試験は、2008年3月~2010年6月に18~60歳の病的肥満患者240例を対象に行われた。 被験者は無作為に2群に分けられ、一方には腹腔鏡下スリーブ状胃切除術(121例)が、もう一方には腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術(119例)が施術された。研究グループは、術後5年間追跡し、腹腔鏡下スリーブ状胃切除術の腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術に対する有効性の同等性を検証した。 主要エンドポイントは超過体重減少率(%EWL)で、事前に規定した臨床的同等性マージンは-9~9%EWL。副次エンドポイントは、併存疾患の解消や生活の質(QOL)の改善、すべての有害事象(全罹患率)および死亡率などだった。有効性に有意差なし、QOLや治療関連死亡率も同等 被験者240例の平均年齢は48歳(SD 9)、ベースライン平均BMI値は45.9(SD 6.0)、女性は69.6%だった。80.4%が5年間の追跡を完了した。ベースライン時、2型糖尿病の罹患率は42.1%、脂質異常症は34.6%、高血圧症は70.8%だった。 5年後の推定平均%EWL値は、腹腔鏡下スリーブ状胃切除術群が49%(95%信頼区間[CI]:45~52)だったのに対し、腹腔鏡下ルーワイ胃バイパス術群は57%(同:53~61)だった。胃バイパス術群のほうが高率で群間差は8.2%(同:3.2~13.2)であったが、信頼区間値が事前に規定したマージン内になく、同等性の基準は満たしていなかった。 一方で、2型糖尿病の完全または部分寛解が認められたのは、胃切除術群37%(41例中15例)、胃バイパス術群45%(40例中18例)だった(p>0.99)。脂質異常症治療薬の服用を中止した患者は、それぞれ47%、60%(p=0.15)、高血圧症治療薬の服用を中止した患者は、それぞれ29%、51%(p=0.02)だった。 QOL(p=0.85)や治療関連死亡率も、両群間で統計的有意差はなかった。5年後の全罹患率は、胃切除術群19%(23例)、胃バイパス術群26%(31例)だった(p=0.19)。

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睡眠時間長いと糖尿病リスク高、日系人で強い関連

 米国・ハワイ大学がんセンターのGertraud Maskarinec氏らが、日系アメリカ人を含む約15万人の多民族コホートにおいて2型糖尿病発症と睡眠時間の関連を調査したところ、睡眠時間が長い(9時間以上)と2型糖尿病リスクが12%高く、これは、炎症・脂質プロファイルの悪化・アディポネクチンの低下が介在する可能性が示唆された。Sleep health誌2018年2月号に掲載。 本研究は、ハワイおよびカリフォルニアにおける多民族コホートでの前向き研究で、1993~96年に参加者を募集した。参加者は、白人、アフリカ系アメリカ人、日系アメリカ人、ハワイ先住民、ラテン系の15万1,691人で、9,695人はバイオマーカーが測定された。睡眠持続時間はコホート参加時に自己申告され、糖尿病の状況は3種類のアンケートで入手、3種類の管理データで確認した。バイオマーカーは、参加後9.6±2.1年間、標準測定法により測定した。時変アウトカムとしての糖尿病リスクをCox回帰により推定した。 主な結果は以下のとおり。・7.9±3.5年の追跡期間中、8,487例が糖尿病の新規発症と診断された。・7~8時間の睡眠時間と比較して、9時間以上では高い発症率(ハザード比:1.12、95%CI:1.04〜2.11)と有意に関連した。6時間以下では発症率が4%高かったが有意ではなかった(95%CI:0.99~1.09)。他の民族より日系アメリカ人において、また併存疾患のない参加者において関連が強かった。・睡眠時間は、CRPおよびトリグリライドと正相関し、HDLコレステロールおよびアディポネクチンと逆相関したが、レプチンレベルおよびインスリン抵抗性指数とは関連しなかった。

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不眠症患者におけるスボレキサントの覚醒状態軽減効果に関する分析

 中途覚醒を減少させるスボレキサントの効果について、米国・メルク・アンド・カンパニーのVladimir Svetnik氏らは、覚醒発作の持続時間および頻度に関して調査を行った。Sleep誌オンライン版2017年11月3日号の報告。 スボレキサント(40/30mg、20/15mg)またはプラセボの投与を行った不眠症患者1,518例を対象とした臨床試験データの睡眠ポリグラフの記録より、長いまたは短い覚醒発作の回数および時間、睡眠の質と発作特性との関連を分析した。覚醒および睡眠発作の特性について、不眠症患者におけるスボレキサントと実験的に一過性不眠症を誘発させた健康な被験者におけるゾルピデムに関して比較を行った。 主な結果は以下のとおり。・スボレキサントは、プラセボと比較し、長い覚醒発作(2分超)の回数や時間を減少させ、短い覚醒発作(2分以内)の回数や時間を増加させた。・第1夜目における長い覚醒発作の時間は、32~54分短縮され、短い覚醒発作の時間は、2~6分増加した。・スボレキサントは、プラセボと比較し、長い覚醒から睡眠に戻る時間が平均して2倍速かった。・長い覚醒発作に費やした時間が短縮されることは、プラセボに対し自己報告により睡眠の質が良好/優れるとするオッズ比が1.59~2.19であった。・短い覚醒発作に費やした時間がわずかに増加しても、オッズ比に影響を及ぼさなかった。・スボレキサントの高用量投与(40/30mg)では、この所見がより顕著であった。・スボレキサントの覚醒および睡眠発作の特性は、入眠初期段階のすべての期間において覚醒および睡眠発作の回数を同様に減少させたゾルピデムとは異なっていた。 著者らは「スボレキサントは、長い覚醒発作を減少させることにより、中途覚醒を減少させる。そして、このことが睡眠の質に良い影響を及ぼす」としている。■関連記事2つの新規不眠症治療薬、効果の違いは新規不眠症治療薬は安全に使用できるか不眠症になりやすい食事の傾向

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シェーグレン症候群〔SS:Sjogren's syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義眼・口腔乾燥を主症状とし、多彩な全身臓器症状を呈し、慢性に経過する全身性自己免疫疾患である。疾患名は1933年に報告したスウェーデンの眼科医ヘンリック・シェーグレン(Henrik Sjogren *oはウムラウト)に由来する。■ 疫学中年以降の女性に好発(女性 vs.男性 14 vs.1)し、国内に少なくとも数万人(厚生労働省研究班推定)の罹患数とされ、潜在例はさらに多いと推定されている。■ 病因病理学的には、涙腺・唾液腺などの外分泌腺にリンパ球浸潤とそれに伴う腺構造破壊、線維化が認められる。免疫学的には、リンパ球・サイトカイン・ケモカイン異常、高IgG血症、多彩な自己抗体産生が認められる。■ 症状1)腺症状ドライアイ(眼乾燥)、ドライマウス(口腔乾燥)が二大症状である。気道粘膜、胃腸、膣、汗腺などの分泌腺障害に起因する乾燥症状を認める例もある。2)全身症状・腺外臓器病変(1)全身:微熱、倦怠感(2)甲状腺:慢性甲状腺炎(3)心血管:肺高血圧症(4)肺:間質性肺疾患(5)消化器:慢性胃炎、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性肝硬変(6)腎臓:間質性腎炎、腎尿細管性アシドーシス(7)神経:末梢神経障害(三叉神経障害)、中枢神経障害(無菌性髄膜炎、横断性脊髄炎)(8)関節:多関節炎(9)皮膚:環状紅斑(疾患特異性が高い)、高ガンマグロブリン性紫斑(下腿点状出血斑)、薬疹(10)リンパ:単クローン性病変、悪性リンパ腫(11)精神:うつ病■ 分類本疾患のみを認める一次性(原発性)とほかの膠原病を合併する二次性(続発性)に分類される。■ 予後腺症状のみであれば生命予後は一般に良好である。腺外症状、とくに悪性リンパ腫を認める例では予後が不良である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 検査所見1)血液検査異常(1)腺障害:血清唾液腺アミラーゼ上昇(2)免疫異常:疾患標識自己抗体(抗SSA抗体、抗SSB抗体)・リウマトイド因子・抗核抗体陽性、高ガンマグロブリン血症、末梢リンパ球数減少を認める。2)腺機能検査異常涙液分泌低下は、シルマーテスト、涙液層破壊時間(BUT)により評価する。乾燥性角結膜炎は、ローズベンガル染色、フルオレセイン染色、リサミングリーン染色を用いて評価する。唾液分泌低下は、ガムテスト、サクソンテストにより評価、より客観的には唾液腺シンチグラフィーが用いられる。涙腺、唾液腺の形態は、超音波あるいはMRI検査により評価される。3)腺外臓器病変に応じた各種検査肺野およびリンパ節の評価についてはCT検査が有用である。また、間質性腎炎の評価には尿検査が行われる。● 診断で考慮すべき点潜在例も多く、その可能性を疑うことが診断への第一歩である。ドライアイ、ドライマウスの有無を問診し、典型例では問診のみで診断がつくこともある。本疾患が疑われた際は、診断基準に沿って確定診断を行うことが望ましい。しばしば、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス(SLE)などの他の自己免疫疾患を合併する。診断のための検査が困難である場合には、専門施設への紹介を考慮する。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 腺症状1)眼点眼薬(人工涙液、ムチン/水分分泌促進薬、自己血清)、涙点プラグ挿入術、ドライアイ保護眼鏡装用2)口腔催唾薬(M3ムスカリン作動性アセチルコリン受容体刺激薬)、唾液噴霧薬がそれぞれ用いられる。■ 腺外症状 全身症状に対しては非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が用いられる。免疫学的な活動性が高く、臓器障害を呈する症例では、ステロイドおよび免疫抑制薬が用いられる。● 治療で考慮すべき点眼症状に対しては治療が比較的奏功する一方で、口腔乾燥症状は改善が乏しい例も多い。腺症状に対するステロイドの有用性は否定的である。リンパ増殖性疾患、悪性リンパ腫を含む腺外症状もまれではないため、注意深く経過観察する。腺外臓器病変、ほかの膠原病を有する例は、リウマチ内科専門医へのコンサルトを考慮する。不定愁訴が多い例もあるが、本疾患を正しく理解をしてもらえるようによく患者に説明する。4 今後の展望欧米では、抗CD20モノクローナル抗体の臨床試験が報告されているが、その有用性については十分確立されていない。リンパ球などの免疫担当細胞を標的とした新規治療薬の臨床試験が国際的に進められている。5 主たる診療科リウマチ科(全身倦怠感、関節痛、リンパ節腫脹)、眼科(眼乾燥症状)耳鼻咽喉科(リンパ節腫脹、唾液腺症状)、歯科・口腔外科(口腔・乾燥症状)、小児科(小児例)6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報厚生労働省難病情報センター シェーグレン症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本シェーグレン症候群学会(医療従事者向けのまとまった情報)シェーグレン症候群財団ホームページ(米国)(医療従事者向けのまとまった情報)Up to date(医療従事者向けのまとまった情報)1)Firestein GS, et al. Kelley and Firestein’s Textbook of Rheumatology 10th edition.Philadelphia;Elsevier Saunders:2016.2)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業 自己免疫疾患に関する調査研究班 編集. シェーグレン症候群診療ガイドライン2017年版.診断と治療社;2017.3)日本シェーグレン症候群学会 編集.シェーグレン症候群の診断と治療マニュアル 改訂第2版.診断と治療社;2014.公開履歴初回2017年12月12日

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