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知っていますか?「リバース聴診器」法【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第295回

知っていますか?「リバース聴診器」法皆さんは、「リバース聴診器」ってご存じでしょうか? 私も実はあまり知らなくてですね、今日おどろき論文のコーナーで紹介するに至りました。Zhang Q, et al. Application of a reverse stethoscope to overcome communication barriers: A case report of an elderly patient with illiteracy and profound hearing loss. Medicine (Baltimore). 2025 Oct 24;104(43):e45546.あくまで補聴機器がすぐ使えない状況での当座のツールとして、難聴患者さんが聴診器イヤーピースをつけて、医療従事者がベルに優しく話すという手法が紹介されています。これを「リバース聴診器」法と呼びます(写真)。写真. 「リバース聴診器」法(CC BY 4.0)(文献より引用)画像を拡大するこの論文の主人公は74歳の男性で、末期腎不全に対する血液透析が必要でした。患者さんは82dBの音圧でやっと知覚できるレベルの重度難聴で、文字の読解はほぼ不可能、家族や支援資源にも乏しく、補聴器や人工内耳の使用歴もありませんでした。初診時には問診が立ち行かず、腰部痛を身ぶりで示す以外の情報が得られないうえ、透析手技の説明が伝わらず、不安のため頻脈を呈していました。医療チームは大声での会話、身ぶりによる説明、図表を用いた簡易マニュアルと三段階で試みましたが、音の歪みや抽象的図像の解釈困難のため、どれも失敗に終わりました。標準化した10問で理解度を評価すると、正答は1問のみ(10%)、1問当たり平均4.5分、総面談時間45分に達し、患者さんは退室しようとするほど苛立っていました。代替手段が急務であったため、チームは「リバース聴診器」法を導入しました。患者さんの外耳道に優しく挿入し、医師は胸部ピースを口から約2cmに構えて通常会話と同程度の音量(60~70dB)で発語しました。介入後、同じ10問で再評価すると、正答は8/10(80%)へ改善し、総時間は12分、1問当たり1.2分に短縮しました。生理学的指標も落ち着き、心拍数は110/分から78/分へ改善しました。これによりインフォームドコンセントがうまくいき、穿刺手順やリスクの理解が得られ、同意のうえで透析が実施できました。間に合わせの手法として、「リバース聴診器」法も知っておきたいところですね。

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糖尿病を予防するにはランニングよりも筋トレの方が効果的?

 糖尿病の発症予防のために運動をするなら、ランニングよりもウエートリフティングの方が適しているのかもしれない。その可能性を示唆する研究結果が、「Journal of Sport and Health Science」に10月30日掲載された。米バージニア工科大学運動医学研究センターのZhen Yan氏らが行った動物実験の結果であり、高脂肪食で飼育しながらランニングをさせたマウスよりもウエートリフティングをさせたマウスで、より好ましい影響が確認されたという。 論文の上席著者であるYan氏は、「私たちは誰でも長く健康な人生を送りたいと願っている。そして、運動を習慣的に続けることが、その願いの実現のためにメリットをもたらすことは誰もが知っている。ランニングなどの持久力をつける運動と、ウエートリフティングなどのレジスタンス運動(筋トレ)は、どちらもインスリン感受性を高めるというエビデンスが、ヒトを対象として行われた数多くの研究で示されてきている」と話す。 しかし、糖尿病の発症を防ぐという点で、それらの運動のどちらが優れているのかという疑問に対しては、まだ明確な答えが得られていない。そこでYan氏らは、これら二つのタイプの運動の効果を直接的に比較するため、マウスを用いた研究を行った。 ウエートリフティングをさせる1群は、餌の容器に蓋をして、その上に重りを載せたゲージ内で飼育した。この群のマウスが餌を食べるためには、肩の部分に取り付けられた小さな首輪を使って重りをどかす必要があり、その動作がヒトのウエートリフティングのトレーニングに相当するという仕組み。著者らによると、この方法はマウスにウエートリフティングをさせるために開発された初の手法だという。なお、研究期間中に蓋の重りを徐々に重くしていった。 別の1群は回転ホイールのあるゲージで飼育し、ランニングをさせる群とした。このほかに、特に運動をさせない1群も設けた。これら3群は、高脂肪食で飼育した。 8週間後、運動をさせた2群のマウスは、運動をさせなかった群に比較して、ともに脂肪量の増加が少なかった。ただし、ウエートリフティングをさせたマウスの方が、その抑制効果がより大きかった。また、ウエートリフティングをさせたマウスのインスリン抵抗性は、運動をさせなかったマウスよりも低く(インスリンの感受性が高く)、血糖値が高くなりにくい状態だった。これに対して、ランニングをさせたマウスのインスリン抵抗性は、運動をさせなかったマウスと同程度に高かった。 Yan氏は、「健康上のメリットを最大化するには、『できるだけ持久力を高める運動と筋トレの両方を行うべき』というのが、われわれの研究からの重要なメッセージだ」と述べている。また、「本研究の結果は、何らかの理由で持久力を高める運動ができない人にとって朗報と言える。筋トレは糖尿病予防という点で、持久力のための運動と同等、あるいはそれ以上の効果を期待できる」と付け加えている。

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第39回 「不整脈ならカフェインは禁止」の常識が覆る?コーヒー愛好家に朗報

心臓に持病があるから、あるいは動悸が気になるからコーヒーを控えているという方も多いかもしれません。しかし、2025年11月にJAMA誌に掲載された最新の臨床試験「DECAF試験」1)が、その「常識」に大きな疑問を投げかけました。コーヒーを飲むことが、むしろ心房細動の再発予防につながるかもしれないというデータが報告されたのです。今回は、長年の医学的通説を覆す可能性のあるこの研究について、具体的なデータを交えながら解説していきます。「コーヒーは心臓に悪い」は迷信?「コーヒー(カフェイン)は不整脈の引き金になる」。これは長い間、医療現場でも患者さんの間でも広く信じられてきた通説でした。医師から「不整脈を抑えるために、コーヒーやお茶は控えましょう」と指導された経験がある方もいるかもしれません。実際に、この研究の参加者スクリーニングの段階でも、多くの患者さんが「コーヒーは発作の原因になる」と信じて参加を辞退したり、医師からのアドバイスで既にコーヒーを断っていたりしました。しかし、近年の観察研究(人々の生活習慣と病気の関連を観察する研究)では、コーヒーを飲む習慣がある人の方が、むしろ心房細動のリスクが低い、あるいは変わらないという結果が相次いで報告されていました。はたして、コーヒーは心臓にとって「毒なのか、薬なのか」。この矛盾に決着をつけるべく行われたのが、今回のランダム化比較試験「DECAF試験」です。これは、実際に患者さんをくじ引きで「コーヒーを飲むグループ」と「断つグループ」に分け、その後の経過を比較するという、コーヒーの影響を検証するのに信頼性のより高い研究手法です。200例の患者で検証、「飲む」vs.「断つ」の直接対決研究チームは、持続性の心房細動(または心房細動の既往がある心房粗動)を持ち、電気的除細動(電気ショックで心臓のリズムを正常に戻す治療)を受ける予定の患者200例を対象に調査を行いました。参加者はランダムに以下の2つのグループに分けられました。カフェイン摂取グループ(100例)1日1杯以上のカフェイン入りコーヒーを飲むことを推奨。カフェイン断ちグループ(100例)コーヒー(カフェインレス含む)やその他のカフェイン製品を完全に断つことを推奨。試験開始前の時点では、両グループとも平均して週に7杯(1日1杯程度)のコーヒーを飲んでいました。試験期間中、摂取グループはそのままの習慣を続け、カフェイン断ちグループは摂取量をゼロに近づけました。そして、電気ショックの治療によって正常なリズムを取り戻した後、6ヵ月間でどれだけの人が再び心房細動(または心房粗動)を起こすかを追跡しました。なんと、コーヒーを飲んだ方が再発しなかったその結果は、従来の「常識」とは正反対のものでした。6ヵ月の追跡期間中に不整脈が再発した人の割合は、以下のとおりでした。カフェイン断ちグループ:64%カフェイン摂取グループ:47%なんと、コーヒーを飲んでいたグループのほうが、再発率が明らかに低かったのです。統計的に分析すると、コーヒー摂取グループは断ちグループに比べて、再発のリスクが39%も低いという結果になりました。さらに、心房細動の再発だけでなく、入院や救急外来の受診といった有害事象についても比較が行われましたが、コーヒー摂取グループで悪影響が増えることはありませんでした。むしろ、不整脈に関連した入院の数は、コーヒー摂取グループのほうが少ない傾向さえ見られました。この結果は、「心房細動の再発防止のためにコーヒーはやめたほうがいい」という従来の指導が、必ずしも正しくない可能性を強く示唆しています。なぜカフェインが「心臓の保護」につながるのか?なぜ、刺激物であるはずのカフェインが、逆に不整脈を抑える結果となったのでしょうか。研究者たちはいくつかのメカニズムを推測しています。一つは、カフェインが「アデノシン受容体」をブロックするためです。アデノシンという物質は、心房細動を引き起こしやすくする作用があることが知られています。カフェインはこのアデノシンの働きを邪魔することで、結果的に不整脈の発生を抑えている可能性があります。また、コーヒーには抗炎症作用や抗酸化作用を持つ成分も含まれています。全身の炎症は心房細動のリスク因子の一つであるため、コーヒーが炎症を抑えることで心臓を守っている可能性も考えられます。さらに、興味深い視点として「運動量」の影響も挙げられています。過去の研究では、コーヒーを飲む人は1日の歩数が多い傾向にあることが示されています。適度な運動は心房細動の予防に有効であるため、コーヒーを飲むことで活動的になり、それが間接的に再発予防につながったのかもしれません。コーヒー好きは無理に我慢しなくてもいい?今回の研究は、心房細動の患者さん、とくにコーヒー好きの方にとっては朗報と言えるでしょう。これまでは再発を恐れて好きなコーヒーを我慢していたかもしれませんが、少なくとも1日1杯程度の適度な摂取であれば、我慢する必要がないばかりか、むしろ有益である可能性が出てきたからです。ただし、この結果を生活に取り入れる際にはいくつか注意点もあります。まず、この研究で推奨されたのは「1日1杯程度のコーヒー」であり、カフェインの過剰摂取や、エナジードリンクのような高濃度のカフェイン製品を推奨するものではありません。エナジードリンクには他の成分も含まれており、同様の効果があるかは不明です。また、この研究は電気的除細動を受けた後の患者さんを対象としています。すべてのタイプの不整脈患者さんに当てはまるかどうかは、まださらなる検証が必要です。しかし、少なくとも「不整脈と診断されたら一律にコーヒー禁止」という画一的な指導は見直されるべき時期に来ているようです。香り高いコーヒーを楽しむリラックスタイムが、実は心臓のリズムを整える助けになるかもしれない。私のようなコーヒー好きには、そんなうれしいニュースの大きな第一歩となる研究だったかもしれません。参考文献 参考文献・参考サイト 1) Wong CX, et al. Caffeinated Coffee Consumption or Abstinence to Reduce Atrial Fibrillation: The DECAF Randomized Clinical Trial. JAMA. 2025 Nov 9. [Epub ahead of print]

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eGFRcysとeGFRcrの乖離は死亡・心血管イベントと関連/JAMA

 外来患者において、eGFRcys(シスタチンC値を用いて算出した推定糸球体濾過量)の値がeGFRcr(クレアチニン値を用いて算出した場合)の値より30%以上低い患者は、全死因死亡、心血管イベントおよび腎代替療法を要する腎不全の発現頻度が有意に高いことが示された。米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のMichelle M. Estrella氏らChronic Kidney Disease Prognosis Consortium Investigators and Collaboratorsが、Chronic Kidney Disease Prognosis Consortium(CKD-PC)の患者データのメタ解析結果を報告した。eGFRの算出にクレアチニン値を用いた場合とシスタチンC値を用いた場合でeGFR値が異なる可能性があるが、これまでその差異の頻度および重要性は明らかになっていなかった。今回の解析では、外来患者の約11%および入院患者の約35%で、eGFRcys値がeGFRcr値より30%以上低い患者が認められることも示されている。JAMA誌オンライン版2025年11月7日号掲載の報告。eGFRcys値がeGFRcr値より30%以上低い患者の割合および特色を評価 研究グループは2024年4月~2025年8月に、CKD-PCの被験者で、ベースラインでシスタチンC値とクレアチニン値を同時に測定し、臨床アウトカムの情報が得られた患者のデータを集約し、個人レベルのメタ解析を行った。eGFRcys値とeGFRcr値の不一致率を評価し、不一致率がより高いことと関連する特色を明らかにし、また不一致率と有害アウトカムの関連を評価した。 主解析では、負の大きなeGFR値の差(eGFRdiff)を評価した(eGFRcys値がeGFRcr値より30%以上低いことと定義)。副次(従属的)アウトカムは、全死因死亡、心血管死、アテローム動脈硬化性疾患、心不全、腎代替療法を要する腎不全などであった。外来患者の11.2%が該当、全死因死亡などが高いことと関連 23の外来患者コホート82万1,327例(平均年齢59[SD 12]歳、女性48%、糖尿病13.5%、高血圧症40%)と2つの入院患者コホート3万9,639例(67[16]歳、31%、30%、72%)のデータが包含された。 外来患者において、11.2%が負の大きなeGFRdiffを有していた。負の大きなeGFRdiffは、コホート間でばらつきがみられた(範囲:2.8%~49.8%)。外来患者全体の平均eGFRcr-cys値(クレアチニン値とシスタチンC値を用いて算出)は86(SD 23)であった。 入院患者では、34.2%が負の大きなeGFRdiffを有していた。全体の平均eGFRcr-cys値は63(SD 33)であった。 外来患者の平均追跡期間11(SD 4)年において、負の大きなeGFRdiffは、eGFRdiffが-30%~30%であった場合と比較して、全死因死亡(28.4 vs.16.8/1,000人年、ハザード比:1.69、95%信頼区間:1.57~1.82)、心血管死(6.1 vs.3.8、1.61、1.48~1.76)、アテローム動脈硬化性疾患(13.3 vs.9.8、1.35、1.27~1.44)、心不全(13.2 vs.8.6、1.54、1.40~1.68)、腎代替療法を要する腎不全(2.7 vs.2.1、1.29、1.13~1.47)の発現頻度がいずれも高かった。

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夜間の人工光が心臓の健康に悪影響を与える

 人工的な光による夜間の過剰な照明の悪影響、いわゆる“光害”が、心臓病のリスクを高めることを示すデータが報告された。米マサチューセッツ総合病院のShady Abohashem氏らの研究によるもので、米国心臓協会(AHA)年次学術集会(AHA Scientific Sessions 2025、11月7~10日、ニューオーリンズ)で発表された。 この研究の解析対象は、2005~2008年に同院でPET検査またはCT検査を受けた466人(年齢中央値55歳、男性43%)。光害のレベルは、人工衛星のデータに基づき各地の夜間の人工光の強さを割り出したデータベースと、研究参加者の居住地住所を照らし合わせて把握した。 2018年末までの医療データを遡及的に追跡したところ、79人(17%)に重大な心臓病が記録されていた。解析の結果、夜間の人工光への曝露が多い人は、脳へのストレス、血管の炎症、そして重大な心臓病が多く認められた。これらのうち重大な心臓病については、夜間人工光への曝露量が1標準偏差多いごとに、5年間でのリスクが35%、10年間では22%上昇するという関連があった。この関連は、心臓病の既知のリスク因子、および、騒音公害や社会経済的地位といった、近年明らかになってきた新たなリスク因子の影響を調整後も、なお有意だった。 Abohashem氏は、「夜間の人工光への曝露がわずかに多いだけでも、脳と動脈へのストレスが増大するという関連が見いだされた。脳がストレスを感知すると免疫反応を引き起こし、血管に炎症を起こし得るシグナルが発せられる。このプロセスは、時間の経過とともに動脈硬化を進行させていき、やがて心臓発作や脳卒中のリスク上昇となって現れてくるのではないか」と述べている。なお、この研究では、交通騒音の激しい地域、所得水準の低い地域、および、ストレスを増大させる可能性のあるその他の環境因子のある地域の居住者では、重大な心臓病のリスクがより高いという傾向も観察された。 人工光による悪影響を回避する手段としてAbohashem氏は、「夜間は室内の照明が明るすぎないように調節して、寝室は暗くし、寝る前にはテレビや電子機器などの画面を見ないようにすると良い」とアドバイスしている。また研究者らは、「都市の不必要な屋外照明を減らしたり、街灯を遮蔽したり、人の動きに反応して点灯するセンサー付き照明に変えたりすることで、人々の健康を改善できるかもしれない」と述べている。 米ペンシルベニア州立大学の睡眠研究者でAHAの広報を担当しているJulio Fernandez-Mendoza氏は、「この研究結果は、夜間の過度の人工光への曝露を減らすことが公衆衛生上の課題であることを示唆しており、人工光の悪影響に関するエビデンスを補強するものだ」と述べている。同氏はまた、「夜間の人工光への過度な曝露が健康に悪く、特に心臓病のリスクを高めることは知られていたが、その悪影響がどのように生じるのかは分かっていなかった。本研究は、考えられるメカニズムの一つ、つまり脳がストレスに反応することの影響を検証しており、この領域の研究を大きく進歩させる知見と言えるのではないか」と付け加えている。なお、同氏は本研究に関与していない。 本研究の発表者らは今後、夜間の人工光への曝露を減らすことによって、心臓の健康状態が改善されるかどうかを調べることを予定している。なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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1日1杯のコーヒーは心房細動を予防する?(解説:名郷直樹氏)

 コーヒーは紅茶、日本茶と並び、日本でも最もよく飲まれているカフェイン含有飲料であるが、カフェインの依存性や不整脈に対して避けるべきものとして扱われてきた歴史がある。しかし、カフェインと不整脈の関係を検討した研究結果は必ずしも一致したものではなく、2023年にはカフェインと上室性期外収縮に必ずしも関連が認められなかったというランダム化比較試験も発表されている1)。 このように関連が不確実な状況を踏まえて行われたのが、今回のコーヒーと心房細動の再発の関連をみたランダム化比較試験である2)。電気的除細動術予定で日頃コーヒーを飲んでいる患者を対象とし、1日1杯以上のコーヒーを飲むグループと、コーヒーを6ヵ月間禁止するグループを比較して、心房細動と心房粗動の発生を1次アウトカムとした、プラセボを使わず、アウトカムの評価をマスキングしたProspective Randomized Open Blinded Endpoint Study:PROBE Studyである。 結果は、心房細動と心房粗動の発生が1日平均1杯のコーヒーを飲む群で47%、禁止群で64%、ハザード比0.61、95%信頼区間0.42~0.89、絶対危険減少でみれば17%という大きな効果であり、コーヒーを飲むことが、発生を増やすどころか予防するという結果である。 コーヒーを飲む群の試験参加前後のコーヒー摂取量については、平均値では1日1杯と差がないものの、摂取量の75パーセンタイルの上限は、試験前では18杯に対し、試験後には11杯と減少している。この多量摂取者の摂取量の減少が再発予防に関連している可能性がある。コーヒー摂取と心房細動、心房粗動の関係が線形ではなく、U字型であれば、過量摂取者の減少によって効果が過大評価されているかもしれない。 上記を考慮すれば、これまでどちらかといえばコーヒーを避けるように指導してきた状況に対し、現在コーヒーを常に飲んでいる人たちにコーヒー摂取を禁止しないで済むという対応につなげやすい点でこの論文の臨床的価値は高い。ただ、2杯以上のコーヒー摂取がどうかといえば、それについて結論を出すことは困難である。また、日頃コーヒーを飲んでいない人に対してコーヒーを飲んだほうがいいかどうかもはっきりしない。 コーヒーを飲まない人のカフェイン摂取、コーヒーを飲む人たちに対する適切な摂取量に関する研究が今後期待される。 ここまで書いたことは論文の一般的な評価と一般的な利用法にすぎない。それに付け加えて、最後に私自身のことを書いておきたい。私自身は1日3~5杯のコーヒーを飲む。食後や休憩時間のゆったりした時間に飲むコーヒーは、自分自身にとって最も心地よい時間である。それを1杯に制限するよりは、電気的除細動を受けることで心房細動を予防するほうを選びたい。手術を待つまでのコーヒー制限も簡便である。個別の状況で、この論文をどう使うかについて、正しい/間違いはない。エビデンスもまた実際にどうするかに関わる一要素にすぎないことは、強調しておきたい。

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災害避難で車中泊は危険なのか?【実例に基づく、明日はわが身の災害医療】第11回

災害避難で車中泊は危険なのか?大規模災害の後、体育館が避難所として運営され、多くの避難者が生活していますが、避難所ではなく自家用車の中で生活している避難者も多くいるようです。避難所管理医師として、車中泊をする避難者の健康管理を行政から依頼されました。どのようなケアをすればいいでしょうか?車中泊する人は多い大規模災害時、避難所の収容限界や感染対策、プライバシーの問題から「車中泊」を選ぶ避難者は少なくありません。車中泊であれば、他人の物音に悩まされることもなく、周囲に気を使わずに夜中でもパソコンやスマートフォンを操作できます。実際、2016年の熊本地震では、避難者の6~7割が一時的に車中泊を経験しました1)。一方、震災関連死した被災者の約3割が車中泊経験者でした2)。こうした経緯から、車中泊は「避けるべきリスク」として語られがちです。しかし、指定避難所が満員である場合や、家族・ペットの事情などを考慮すると、多くの被災者にとって「積極的に選ばれる避難手段」となっているのが現実です。車中泊は血栓症のリスクなのか?医療者が注目すべきは、この避難様式が深部静脈血栓症(DVT)や肺血栓塞栓症(PTE)のリスク因子となる点です3~5)。熊本地震後の調査では、車中泊経験者のDVT発症率は約10%に達し、心肺停止に至る重症PTEの症例も報告されています6)。このような事実から、「車中泊は極力避けるべき」と主張する支援者もおられます。しかし近年の研究では、問題の本質は「車中泊」そのものではなく、その過ごし方と環境にあることが示されています。とくに以下の要因がリスクを高めるといわれています。長時間の下肢屈曲保持(座席での就寝など)トイレ不足による水分制限 → 脱水・血液濃縮下肢運動不足 → 筋ポンプ機能の低下高齢、肥満、静脈瘤、悪性腫瘍、妊産婦、血栓症などの家族歴経口避妊薬や睡眠薬などの服薬歴寒冷環境や強いストレスによる交感神経の緊張車中泊中の血栓症の予防はどうするか?これらのリスクを有する避難者に対しては、車内でも可能な非薬物的予防が有効であり、避難所を預かる医師として、以下のような適切なアドバイスが必要です。足を伸ばせる姿勢を確保する弾性ストッキングや保温具を活用し、下肢を冷やさない1~2時間ごとの足関節運動や体位変換を行う簡易トイレを活用してトイレの不安を減らし、水分を十分に摂取するハイリスク群に対しては、薬物療法としてDOAC(直接作用型経口抗凝固薬)の予防的投与も一案です。しかし、腎機能障害時の出血リスクが高まり、とくに災害時は脱水環境になりやすいため、慎重な判断が求められます。現実的には薬物よりも、まずは非薬物的な予防と環境整備を優先すべきでしょう。災害時の車中泊を一律に「危険」と断じるのではなく、適切な介入と支援を行うことで、DVTやPTEは予防することができます。われわれ医療者は、やみくもにリスクばかり強調するのではなく、避難行動の多様性を尊重しながら、あらゆる状況で被災者の健康を守れる体制を事前に整えておく必要があります。 1) 熊本県. 平成28年熊本地震における車中泊の状況について. 2023年10月15日 2) 日本経済新聞. 熊本地震1年 関連死の犠牲者、3割が車中泊を経験. 2017年4月16日 3) 日本循環器学会/日本高血圧学会/日本心臓病学会合同ガイドライン. 2014年版 災害時循環器疾患の予防・管理に関するガイドライン 4) Sato K, et al. Risk Factors and Prevalence of Deep Vein Thrombosis After the 2016 Kumamoto Earthquakes. Circ J. 2019;83:1342-1348. 5) Sueta D, et al. Venous Thromboembolism Caused by Spending a Night in a Vehicle After an Earthquake (Night in a Vehicle After the 2016 Kumamoto Earthquake). Can J Cardiol. 2018;34:813.e9-813.e10. 6) 坂本 憲治ほか. 熊本地震後に発生した静脈血栓塞栓症と対策プロジェクト. 日本血栓止血学会誌. 2022;33:648-654.

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ピロリ菌が重いつわりを長引かせる可能性、妊婦を対象とした研究から示唆

 妊娠中の「つわり」は多くの人が経験する症状であるが、中には吐き気や嘔吐が重く、入院が必要になるケースもある。こうした重いつわり(悪阻)で入院した妊婦164人を解析したところ、ヘリコバクター・ピロリ菌(以下ピロリ菌)に対する抗体(IgG)が陽性である人は入院が長引く傾向があることが分かった。妊娠前や妊娠初期にピロリ菌のチェックを行うことで、対応を早められる可能性があるという。研究は、日本医科大学武蔵小杉病院女性診療科・産科の倉品隆平氏、日本医科大学付属病院女性診療科・産科の豊島将文氏らによるもので、詳細は10月6日付けで「Journal of Obstetrics and Gynaecology Research」に掲載された。 妊娠悪阻は妊娠の0.3〜2%にみられる重度のつわりで、持続する嘔吐や体重減少により入院を要することも多い。進行すると電解質異常や肝・腎機能障害、ビタミンB1欠乏によるウェルニッケ脳症(意識障害やふらつきを伴う急性脳症)などを生じることがある。原因としてヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)や胎盤容積の大きさなどが知られるが、近年はピロリ菌感染との関連も指摘されている。しかし、日本人妊婦における感染と重症度や入院期間との関係は十分に検討されていない。本研究では、重度妊娠悪阻で入院した症例を対象に、入院時の各種指標とピロリ菌に対するIgG抗体の有無が入院期間に及ぼす影響を後ろ向きに検討した。 本研究では、2011年1月~2023年6月までに日本医科大学付属病院または日本医科大学武蔵小杉病院で入院治療を要した重度妊娠悪阻患者164人が含まれた。患者はまず、抗H. pylori IgG抗体の有無(陽性群 vs 陰性群)に基づき2群に分けられた。その後、すべての患者を長期入院群(21日以上)と短期入院群(21日未満)に分類して、二次解析が行われた。統計手法には、マン・ホイットニーのU検定、t検定、フィッシャーの正確確率検定、ロジスティック回帰分析が適宜用いられた。 解析対象164人中、抗H. pylori IgG抗体陽性の患者は23人(14.0%)、陰性は141人(86.0%)であった。これら2群の入院期間を比較したところ、抗H. pylori IgG抗体陽性群の入院中央値(範囲)は24日(6〜70日)であり、陰性群の中央値15日(2〜80日)と比べて有意に長かった(P=0.032)。 次に長期入院群と短期入院群を比較したところ、長期入院群では尿ケトン体強陽性(3≦)の割合(P=0.036)や抗H. pylori IgG陽性の割合(P=0.022)が有意に高かった。入院時の検査所見を比較すると、長期入院群では血清遊離サイロキシン(FT4)値が有意に高かったが、その他の検査項目に有意差は認められなかった。 多変量ロジスティック回帰分析の結果、単変量解析で有意だった因子を調整後も、入院長期化の独立したリスク因子として確認されたのは抗H. pylori IgG陽性のみであった(オッズ比〔OR〕 4.665、95%信頼区間〔CI〕 1.613~13.489、P=0.004)。尿ケトン体強陽性は入院期間延長の傾向を示したが、統計的有意差は認められなかった(OR 2.169、95%CI 0.97~4.85、P=0.059)。一方、尿ケトン体強陽性の有無で患者を層別すると、陽性群の入院中央値は19日(4〜80日)、陰性群の12日(2〜55日)であり、有意に入院期間が延長されていた(P=0.001)。 著者らは「今回の研究結果から、抗H. pylori IgG抗体の検査で、重度の悪阻で入院が長引きやすい妊婦を特定できる可能性が示唆された。抗体陽性の妊婦は、入院中により注意深く観察されることで、体調管理の助けになると考えられる。また、妊娠前からの準備(プレコンセプションケア)が、悪阻の予防策として有効かもしれない」と述べている。 また、著者らは、妊娠前のピロリ菌スクリーニングや除菌の有効性については現時点では仮説にすぎず、本研究はその可能性を示すにとどまると説明している。今後は、ガイドラインや保険制度の見直しを含め、前向き研究で有効性や費用対効果を検証することが重要だとしている。

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第295回 注目の試験でGLP-1薬のアルツハイマー病治療効果示せず

注目の試験でGLP-1薬のアルツハイマー病治療効果示せずGLP-1受容体作動薬(GLP-1薬)は肥満、糖尿病、それらと密接に関わる心血管疾患や腎疾患の治療を進歩させました。また、GLP-1薬が他の数々の疾患治療にも有益なことを示唆する研究成果が続々と発表されています。とくに、アルツハイマー病などの神経変性疾患の治療はGLP-1薬の新たな用途として有望視されていましたが、Novo Nordisk社が先週月曜日に速報した2つの第III相試験結果はその期待に沿うものではありませんでした。evokeとevoke+という名称のそれら2試験のどちらでも残念なことにセマグルチド経口投与のアルツハイマー病進展を遅らせる効果がみられなかったのです1)。セマグルチドなどのGLP-1薬が神経変性疾患を予防しうることは示唆されていたものの、すでにそうなってしまってからでは手遅れと多くの研究者は感じていたようです2)。Novo Nordisk社でさえ試験が成功する見込みは薄い(low likelihood of success)と悟っていました1)。しかしそれでもアルツハイマー病へのセマグルチドの可能性の検討は責務と感じていたと同社の最高科学責任者(CSO)のMartin Holst Lange氏は言っています。過去何十年もアルツハイマー病は多岐にわたり研究されてきましたが、如何せん飛躍的な進歩には至っていません。救いの手がまったく間に合っていないアルツハイマー病のそのような状況をNovo Nordisk社は見過ごすことはできなかったのです。アルツハイマー病にGLP-1が有益そうな報告が増えていることにも背中を押され、さかのぼること5年前の2020年12月にNovo Nordisk社はその責任を果たすための第III相試験の決定を発表します3)。明けて翌春2021年5月にevoke試験とevoke+試験が始まり4,5)、初期段階のアルツハイマー病患者のべ4千例弱(3,808例)が組み入れられ、2試験とも被験者は最大14 mg/日のセマグルチドを連日服用する群かプラセボ群に1対1の比で割り振られました。2試験とも約2年間(104週間)の主要な治療期間とその後の約1年間(52週間)の延長期間の経過を調べる算段となっていました。しかし、今回速報された2年間の経過の解析結果で両試験ともアルツハイマー病進展の有意な抑制効果が示せず、1年間の延長は中止となりました。発表によると、セマグルチドはアルツハイマー病と関連する生理指標一揃いを改善しましたが、その作用はどちらの試験でもアルツハイマー病の進展を遅らせる効果には繋がりませんでした。具体的には、知能や身のこなしを検査する臨床認知症評価尺度(CDR-SB)の104週時点の点数のベースラインとの差の比較で、セマグルチドがプラセボより優越なことが示せませんでした。目当ての効果は認められなかったとはいえ、evoke/evoke+試験からは貴重な情報の数々が得られそうです。たとえばその1つは脳での抗炎症作用です。先立つ試験で示唆されているような体重減少とは独立した手広い抗炎症作用がセマグルチドにあるかどうかが、糖尿病や肥満ではない多数の被験者が参加したそれら2つの大規模試験で明らかになりそうです2)。それに、試験には脆弱な患者が多く参加しており、脂肪に加えて筋肉も減らすセマグルチドなどのGLP-1薬がそういう患者に安全かどうかも知ることができそうです。evoke/evoke +試験のより詳しい結果一揃いが今週3日に米国サンディエゴでのClinical Trials on Alzheimer’s Disease(CTAD)の学会で発表されます1)。また、結果の全容が来春2026年3月のAlzheimer’s and Parkinson’s Diseases Conferences(AD/PD)で報告される予定です。 参考 1) Evoke phase 3 trials did not demonstrate a statistically significant reduction in Alzheimer's disease progression / Novo Nordisk 2) Popular obesity drug fails in hotly anticipated Alzheimer’s trials / Science 3) Novo Nordisk to enter phase 3 development in Alzheimer’s disease with oral semaglutide / Novo Nordisk 4) EVOKE試験(ClinicalTrials.gov) 5) EVOKE Plus試験(ClinicalTrials.gov)

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75歳以上における抗凝固薬と出血性脳卒中の関連~日本の後ろ向きコホート

 高齢者における抗凝固薬使用と出血性脳卒中発症の関連を集団ベースで検討した研究は少ない。今回、東京都健康長寿医療センター研究所の光武 誠吾氏らが、傾向スコアマッチング後ろ向きコホート研究で検討した結果、抗凝固薬を処方された患者で出血性脳卒中による入院発生率が高く、ワルファリン処方患者のほうが直接経口抗凝固薬(DOAC)処方患者より発生率が高いことが示唆された。Aging Clinical and Experimental Research誌2025年11月13日号に掲載。 本研究は、北海道のレセプトデータを用いた後ろ向きコホート研究で、2016年4月~2017年3月(ベースライン期間)に治療された75歳以上の高齢者を対象とした。曝露変数はベースライン期間中の抗凝固薬処方、アウトカム変数は2017年4月~2020年3月の出血性脳卒中による入院であった。共変量(年齢、性別、自己負担率、併存疾患、年次健康診断、要介護認定)を調整した1対1マッチングにより、抗凝固薬処方群と非処方群の入院発生率を比較した。 主な結果は以下のとおり。・71万7,097例中、6万6,916例(9.3%)が抗凝固薬を処方されていた。・傾向スコアマッチング後、抗凝固薬処方群(383.2/100万人月)が非処方群(252.2/100万人月)より出血性脳卒中による入院発生率が高かった(ハザード比[HR]:1.64、95%信頼区間[CI]:1.39~1.93)。・1種類の抗凝固薬を処方された患者(6万1,556例)において、マッチング後、ワルファリン処方群がDOAC処方群より出血性脳卒中による入院発生率が有意に高かった(HR:1.67、95%CI:1.39~2.01)。 著者らは「本研究の結果は、高齢者への抗凝固薬、とくにワルファリンの処方において、出血性脳卒中リスクを最小限にすべく慎重な検討が必要であることを強調している」とまとめている。

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AIがわずかな精子を検出、不妊カップルが妊娠成功

 19年にわたり不妊治療を受けていたカップルの男性の精子から、高度な人工知能(AI)を用いたシステムにより2匹の運動能力のある精子を特定。これを卵子に注入したところ、2つの胚が発育し、それを母親に移植した結果、妊娠が成功したとする研究結果が報告された。研究グループは、「この新しい技術は、男性が無精子症である他の不妊カップルにも役立つ可能性がある」と述べている。米コロンビア大学不妊治療センター所長のZev Williams氏らによるこの研究結果は、「The Lancet」11月8日号に掲載された。 研究の背景情報によると、不妊症の約40%は男性側の要因によるもので、精液中に精子がほとんど存在しないか、全く検出できない無精子症や極少精子症がその約10〜15%を占めている。このようなカップルの多くが、長年にわたり不妊治療の失敗、侵襲的処置、精神的苦痛を繰り返し経験する。現在の不妊症の標準治療は、精巣内精子採取術(TESE)や熟練した胚培養士による手作業での精子探索を経て顕微授精(ICSI)を行うというものだが、これらは時間がかかり、侵襲的である上に成功率も限られている。Williams氏は、「精子数が極めて少ない男性の精液から生存可能な精子を特定し、採取するより良い方法を見つけることが、この分野では長年の課題となっていた」と話す。 こうした課題を解決するためにWilliams氏らは、AIとマイクロ流体技術を組み合わせて精液サンプルからわずかな精子を高速で探索し、リアルタイムで検出・採取する、非侵襲的なSperm Tracking and Recovery(STAR)システムを開発した。STARシステムは、高性能画像技術を使って精液サンプルをスキャンし、1時間以内に110万枚以上の画像を解析できる。検出された精子は、マイクロ流体デバイスにより自動的に分離される。 今回の研究では、19年の不妊治療歴を有するカップルに対し、このSTARシステムを初めて臨床で応用した例が報告された。カップルのうち、男性(39歳)は、包括的な検査から、Y染色体およびホルモン値は正常だが両側精巣の萎縮と小結石が認められ、過去に受けた複数回の広範囲な精子検査ではごくわずかな精子しか見つかっていなかった。一方、女性(37歳)には、卵巣予備能の著しい低下が見られた。 Williams氏らは、男性から採取した精液サンプル(3.5mL)を洗浄し、800μLのバッファーに懸濁し、STARシステムで処理した。その結果、通常の顕微鏡検査では精子は検出されなかったのに対し、STARシステムは、約2時間で250万枚の画像を解析し、7匹の精子を検出した。これらの精子のうち、運動性が正常だった2匹と2個の卵子を用いてICSIを行ったところ、両方とも分割期胚に発育。それらを3日目に移植したところ、移植13日目に妊娠反応が陽性となり、妊娠8週時点で胎児の心拍も確認された。 Williams氏は、「男性の要因による不妊症のカップルの多くは、生物学的な子どもを授かる可能性はほとんどないと告げられる。しかし、胚を作るのに必要なのは、たった1匹の健康な精子だけだ」と強調する。研究グループは、このSTARシステムは、精巣から精子を外科的に採取する手順や、技術者が精液サンプルを手作業で丹念に検査し、生存可能な精子を見つけて捕獲する手順に取って代わる可能性があると述べている。 研究グループは現在、より大規模な臨床試験を実施して、STARシステムの有効性を評価している最中である。(HealthDay News 2025年11月5日)

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再発・難治性DLBCLに対するチサゲンレクルユーセルの5年追跡結果(JULIET)/JCO

 再発・難治性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)へのチサゲンレクルユーセルを評価した単群非盲検多施設共同国際第II相JULIET試験における5年の解析結果について、米国・Oregon Health and Science University Knight Cancer InstituteのRichard T. Maziarz氏らが報告した。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2025年11月18日号に掲載。 本試験の対象は、2ライン以上の治療後に病勢進行した再発・難治性DLBCL(原発性縦隔DLBCLを除く)の成人患者115例で、主要評価項目は奏効率(ORR)、副次評価項目は奏効期間(DOR)、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)、安全性などであった。 5年追跡調査での主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値は74.3ヵ月であった。・DORの中央値は到達せず、奏効例における5年無イベント率は61%であった。とくに、女性、ベースライン時の国際予後指数(IPI)リスク因子が2つ未満、ベースライン時StageI/IIの患者で高かった。・5年推定PFS率は28%であった。・全投与患者における5年OS率は32%で、完全奏効または部分奏効を達成した患者では56%であった。・投与後いずれかの時点で奏効を達成した患者に関連するベースライン特性として、再発(vs.難治性)、ブリッジング療法が1つ(vs.2つ以上)、LDH値が正常上限値以下(vs.正常上限値超)、CRP値が15mg/L未満(vs.15mg/L超)が挙がった。・長期OSに関連するベースライン特性として、LDHが正常上限値以下、CRP値が15mg/L未満が挙がった。・新たな安全性シグナルや2次性悪性腫瘍は報告されなかった。 著者らは「これらの結果は、再発・難治性DLBCL患者におけるチサゲンレクルユーセルによる治癒の可能性の支持を継続している」とした。

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1~2個のSLN転移陽性早期乳がん、ALND省略で生存アウトカムは?メタ解析

 センチネルリンパ節(SLN)転移陽性の乳がん患者に対しては、これまで腋窩リンパ節郭清(ALND)が推奨されてきたが、乳房温存術(BCS)を受ける患者でSLN転移が限局的な患者に対しては、Z0011試験などの結果を踏まえALND省略が考慮されるようになっている。しかし、乳房全切除術(TM)を受ける患者に関しては、エビデンスが限られ、結果も一貫していない。中国・Qilu Hospital of Shandong UniversityのJinyi Xie氏らは、1〜2個のSLN転移陽性早期乳がん患者において、ALND群とセンチネルリンパ節生検(SLNB)単独群の生存アウトカムを比較することを目的としてメタ解析を実施。BCSを受ける患者とTMを受ける患者におけるサブグループ解析も行い、結果をOncologist誌オンライン版11月14日号で報告した。 PubMed、Embase、Cochrane Library、Web of Scienceを対象に2024年12月までに発表された文献を系統的に検索し、計29件の研究(うち6件は無作為化比較試験、23件は観察研究)を特定した。これらの研究には計14万6,407例の患者が含まれる。全生存期間(OS)、無病生存期間(DFS)、無再発生存期間(RFS)などの生存アウトカムをランダム効果モデルまたは固定効果モデルを用いて統合解析し、異質性と出版バイアスはI2統計量、Begg検定およびEgger検定を用いて評価した。さらに、研究デザイン、手術の種類(TM vs.BCS)、T分類に基づくサブグループ解析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・ALND群とSLNB単独群の間でOS(オッズ比[OR]:0.93、95%信頼区間[CI]:0.83~1.04)、DFS(OR:1.02、95%CI:0.87~1.20)、RFS(OR:1.08、95%CI:0.89~1.30)に有意な差は認められなかった。・しかしTMサブグループにおいては、ALND群でOSの改善と関連していた(OR:0.75、95%CI:0.62~0.90)。同様に、T3~T4の患者ではALND群でOSアウトカムが良好な傾向がみられた。・DFSとRFSについては、サブグループ間で有意な差は認められなかった。 著者らは、今回の結果は1~2個のSLN転移陽性早期乳がん患者において、SLNB単独はALNDと同等の生存成績を示し、BCSを受ける患者における安全性を支持するものとした。一方、TMを受ける患者やT3~T4の患者においてALNDが生存利益と関連する可能性が示唆された。しかし、選択バイアスや交絡による影響を受けている可能性があるため、現時点でこれらのサブグループ解析結果が治療方針を変更する根拠とはならないとし、質の高い前向き研究による検討が求められると結んでいる。

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日本人不眠症におけるBZDからDORAへの切り替え方法

 デュアルオレキシン受容体拮抗薬(DORA)は、不眠症に対する効果的な薬物療法であるにもかかわらず、臨床現場では依然として多くの患者にベンゾジアゼピン受容体作動薬(BZD)が不眠症治療薬として使用されている。不眠症治療において、BZDからDORAへの適切な切り替え方法を確立することは重要である。千葉大学の金原 信久氏らは、不眠症治療におけるBZDからDORAへの切り替えに関する成功事例について報告した。Clinical Psychopharmacology and Neuroscience誌2025年11月30日号の報告。 長期にわたりBZDを服用している210例の不眠症患者を対象とした、DORA(スボレキサントまたはレンボレキサント)導入後3ヵ月時点でのDORA継続率に関する先行研究の2次解析を実施した。半減期に基づき分類したBZDの種類がDORA継続率およびBZD減量率に及ぼす影響も検討した。 主な結果は以下のとおり。・超短時間作用型/短時間作用型BZDを服用していた患者では、DORAへの切り替え失敗率が有意に低いことが明らかとなった。・DORAへの切り替え成功に関する2つのロジスティック回帰分析では、DORAの3ヵ月継続を予測する因子として、次の3つが特定された。●ベースライン時のBZD高用量(Exp[B]:1.570、95%信頼区間[CI]:1.090〜2.262)●BZD服用期間の短さ(Exp[B]:0.991、95%CI:0.985〜0.997)●超短時間作用型/短時間作用型BZDの使用(Exp[B]:7.335、95%CI:2.054〜26.188)・また、ベースライン時のBZD高用量は、DORA継続とBZD減量の両方を予測する因子であることが示唆された(Exp[B]:1.801、95%CI:1.008〜3.216)。 著者らは「BZD高用量を服用している患者においては、不眠症治療薬をDORAに切り替える際に、超短時間作用型/短時間作用型BZDの減量を行うことで、DORAへの切り替えが成功する可能性が高いことが示唆された。一方、長期にわたりBZDを服用している患者においては、慎重な切り替えが必要となる」と結論付けている。

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糖尿病治療、継続の鍵は「こころのケア」と「生活支援」

 病気の治療を続けたいと思っていても、気持ちの落ち込みや生活の負担が重なると、通院や服薬をやめてしまうことがある。今回、全国の糖尿病患者を対象にした調査で、心理的苦痛や先延ばし傾向がある人ほど治療を中断しやすいことが明らかになった。その背景として、経済的困難や介護・家事の負担、糖尿病治療への燃え尽き症候群(糖尿病バーンアウト)がみられたという。研究は鳥取大学医学部環境予防医学分野の桑原祐樹氏らによるもので、詳細は9月30日付けで「BMJ Open Diabetes and endocrinology」に掲載された。 世界的に糖尿病の有病率は増加しており、合併症による健康への影響が大きな課題となっている。適切な血糖管理により、多くの合併症は予防または遅らせることが可能である。しかし、治療を継続し、医療機関を受診し続けることは容易ではなく、治療中断やアドヒアランスの低下は血糖管理の不良、合併症の進行、死亡リスク、医療コストの増大につながる。過去の研究では、治療継続に関わる心理・社会的要因(抑うつや薬剤費など)が限定的に検討されてきたが、患者の体験と治療中断の関係については十分に解明されていない。本研究は、心理・社会的要因と患者体験が糖尿病治療の中断にどのように関連するかを明らかにすることを目的とした。 この横断研究では、220万人のパネル会員を持つ楽天リサーチ(現:楽天インサイト)株式会社を通じて、構造化オンラインアンケートを実施した。登録されている糖尿病患者1万8,000人のうち、40〜79歳の1万人を便宜的に抽出した。参加者には「現在、糖尿病の治療を受けていますか?(医療機関での定期的な血液検査や生活指導を含む)」と尋ね、「はい」と答えた者を治療継続群、「いいえ」と回答し、かつ「過去に定期的に治療を受けていたが、現在は医療機関を受診していない」を選択した者を治療中断群に分類した。群分けに続いて、参加者の心理的要因(気分障害・不安障害、自己肯定感、先延ばし傾向)および社会的要因(孤独感、逆境的な幼少期経験:ACE)を測定した。群間の割合の差はカイ二乗検定で評価し、糖尿病治療の中断と心理・社会的要因との関連は、潜在的交絡因子を調整したロジスティック回帰分析で検討した。 適格性を検証後、最終的な解析対象は4,715人(男性86.8%、女性13.2%)となった。69人の参加者が糖尿病治療の中断を報告し、51人が3カ月以上治療を中断していた。 次に、ロジスティック回帰分析により、心理・社会的要因と糖尿病治療中断との関連を検討した。性別、年齢、学歴、世帯収入、糖尿病の型で調整後、心理的苦痛(調整オッズ比〔AOR〕 1.87、95%信頼区間〔CI〕 1.06~3.30、P=0.032)および先延ばし傾向が強いこと(AOR 2.64、95%CI 1.25~5.56、P=0.011)は、治療中断と有意に関連していた。 さらに、治療継続群と治療中断群との患者体験を比較した。全体として、参加者のうち9.7%が経済的困難を訴えていた。また、12.1%が糖尿病バーンアウトを報告していた。経済的困難(9.5%対21.7%、P=0.002)、育児または介護の困難(1.5%対10.0%、P<0.001)、および糖尿病バーンアウト(11.9%対26.7%、P=0.001)を報告した人の割合は、治療継続群に比べて治療中断群で有意に高かった。 著者らは、「潜在的な交絡因子を調整した後も、心理的苦痛および強い先延ばし傾向は治療中断と有意に関連していた。いくつかの心理社会的要因の経験は、治療継続群と比較して治療中断群で有意に多く認められた。医療従事者および医療システムは、糖尿病患者の転帰不良を最小限に抑えるために、これらの要因への対応を優先すべきだ」と述べた。 なお、本研究の限界として、選択バイアスが避けられなかった点、自己申告式の質問票であったため情報バイアスが存在していた可能性がある点などを挙げている。

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統計が苦手でも大丈夫!ChatGPTで研究デザインと統計解析を相談する方法【誰でも使えるChatGPT】第6回

皆さん、こんにちは。近畿大学皮膚科の大塚です。さて、今回は多くの臨床医が苦手意識を持つ「統計解析」にChatGPTを活用する方法についてお話しします。「統計の教科書を読んでも難しくてわからない」「どの統計手法を使えばいいのか判断できない」「サンプルサイズが小さいけど、どう対処すればいいのか」こうした悩みを抱えている先生方は多いのではないでしょうか。今回ご紹介するのは、ChatGPTを「統計の家庭教師」として活用する方法です。ただし重要なのは、ChatGPTに実際の計算をさせるのではなく、研究デザインの相談や統計手法の選択といった「方針決定」の段階で活用するということです。実際のデータ解析は統計ソフトで行い、ChatGPTはその前段階での相談相手として使う。この使い分けが成功のカギとなります。関連サイトChatGPTINDEX臨床研究における統計相談の3つの段階この相談から得られること統計手法選択での重要なポイント論文記載での活用ChatGPTに「させてはいけないこと」統計相談の5つのルールTake-Home Message臨床研究における統計相談の3つの段階ChatGPTを統計相談で活用する場面は、大きく3つに分けられます。段階1:研究デザインの検討データを集める前の段階で、どのような研究デザインが適切か、どんな評価項目を設定すべきかを相談します。この段階での相談が最も効果的で、後からの修正は困難なため、研究の成否を左右します。段階2:統計手法の選択データを収集した後、どの統計手法を使うべきかを相談します。データの性質(連続変数かカテゴリカル変数か、正規分布するか、対応があるかなど)に応じて、適切な検定方法を提案してもらいます。段階3:結果の解釈支援統計ソフトで解析した結果をどう解釈し、論文にどう記載するかを相談します。p値の意味、効果サイズの解釈、適切な図表の選び方などをアドバイスしてもらえます。それでは、それぞれの段階での具体的な活用例を見ていきましょう。実践例1:研究デザインの相談【研究を始める前】シナリオ「当院のアトピー性皮膚炎患者さんに新しい治療を始めたが、その効果を客観的に評価して学会発表したい。でも、どんな研究デザインが適切なのか、わからない…」多くの先生が、日常診療の中で「この治療効果を論文にできないだろうか」と考えることがあるでしょう。しかし、研究デザインをどう組み立てるか、評価項目をどう設定するか、サンプルサイズはどのくらい必要かなど、わからないことだらけです。こうした初期段階での疑問に、ChatGPTは具体的な提案をしてくれます。研究計画の立案支援あなたは臨床研究の方法論に詳しい統計の専門家です。以下の研究課題について、適切な研究デザインを提案してください。【研究課題】「当院皮膚科外来のアトピー性皮膚炎患者に対するデュピルマブ導入後の治療効果と患者QOLの変化を評価したい」【現状】- 対象過去1年間にデュピルマブを開始した患者、約30例- 評価項目EASI、DLQI、VAS(かゆみ)- データカルテから後方視的に収集可能- 比較対照なし(単群での評価)以下の項目について具体的に提案してください:1.適切な研究デザイン(後ろ向きvs.前向き、など)2.主要評価項目と副次評価項目の設定3.評価時点の設定(ベースライン、フォローアップ)4.除外基準の設定5.必要なサンプルサイズの考え方6.この研究の限界と対処法ChatGPTからの回答例 【提案する研究デザイン】後ろ向きコホート研究(Single-arm observational study)【詳細な設計】1.研究デザイン- 後ろ向き観察研究(Retrospective cohort study)- 単群での治療前後比較- 理由:すでにデータが蓄積されており、介入を加えない観察研究として実施可能2.評価項目主要評価項目:EASI(Eczema Area and Severity Index)- 投与開始時と16週後の変化量- 50%以上の改善率(EASI-50)副次評価項目:- DLQI(生活の質)の変化- VAS(かゆみ)の変化- 治療継続率- 有害事象の発現率3.評価時点の設定- ベースライン(投与開始時)- 4週後- 16週後(主要評価時点)- 52週後(長期効果の評価)※データがあれば4.除外基準- 他の生物学的製剤の使用歴がある患者- 重症な併存疾患がある患者- 評価時点でのデータ欠損が多い患者5.サンプルサイズ30例は小規模だが、記述統計と効果サイズの報告としては妥当- 検出力計算は困難だが、探索的研究として位置付ける- 可能であれば40~50例まで増やすことを推奨6.研究の限界と対処法限界:- 対照群がない- 後ろ向き研究のため、データ欠損の可能性- 選択バイアス(デュピルマブを選択した患者特性)対処法:- ベースライン特性を詳細に記述- 欠損データの扱いを明記- 既報告の他施設データとの比較を考察で言及この相談から得られることこのように、ChatGPTに相談することで、研究の全体像が見えてきます。とくに重要なのは「研究の限界」を先に把握できることです。後ろ向き研究であること、対照群がないこと、サンプルサイズが小さいことなど、あらかじめ限界を理解したうえで研究を進めれば、論文執筆時の考察でも適切に言及することができます。また、倫理審査を申請する際にも、この提案内容は非常に参考になります。評価項目や評価時点が明確になっていれば、倫理審査委員会での質問にも的確に答えられるでしょう。ただし、注意すべきは、ChatGPTの提案はあくまで「たたき台」であるということです。実際には、自施設の状況や利用可能なリソースに応じて調整が必要ですし、可能であれば生物統計の専門家に相談することをお勧めします。実践例2:統計手法の選択相談【データ収集後】シナリオ「データは集まったけど、どの統計手法を使えばいいのかがわからない…」研究計画どおりにデータを収集したものの、いざ統計解析をしようとすると、どの検定方法を使えばいいのかわからなくなることはよくあります。対応のあるt検定か、対応のないt検定か。正規分布しない場合はどうするのか。多重比較の補正は必要なのか。こうした具体的な疑問に、ChatGPTは明確な答えを提示してくれます。統計手法の選択あなたは医学統計の専門家です。以下のデータに対して、適切な統計解析手法を提案してください。【研究内容】アトピー性皮膚炎患者30例のデュピルマブ治療前後の比較【データの種類】- EASIスコア(連続変数、正規分布を仮定) - 治療前:平均28.5±標準偏差10.2 - 16週後:平均12.3±標準偏差8.5- DLQIスコア(連続変数、やや右に偏った分布) - 治療前:中央値15(四分位範囲12~20) - 16週後:中央値6(四分位範囲3~10)- 治療効果(カテゴリカル変数) - 著効:12例 - 有効:15例 - 無効:3例【質問】1.治療前後のEASIスコアの比較に適した検定方法2.DLQIスコアの比較に適した検定方法3.治療効果の割合を示す適切な方法4.多重比較の補正が必要か5.効果サイズ(Effect Size)の計算方法ChatGPTからの回答例 【統計解析の提案】1.EASIスコアの比較推奨:対応のあるt検定(Paired t-test)理由:- 同一患者の治療前後比較- 連続変数- 正規分布を仮定できる- サンプルサイズが30で中心極限定理が適用可能代替法:- 正規性が怪しい場合はWilcoxon符号順位検定2.DLQIスコアの比較推奨:Wilcoxon符号順位検定(Wilcoxon signed-rank test)理由:- 分布が偏っている(ノンパラメトリック検定が適切)- 対応のあるデータ- 中央値と四分位範囲で記述されている3.治療効果の割合推奨:記述統計として割合と95%信頼区間を提示- 著効率:40.0%(95%CI:22.7~59.4%)- 有効以上の割合:90.0%(95%CI:73.5~97.9%)検定は不要(単群での評価のため)4.多重比較の補正今回は不要理由:- 主要評価項目はEASI(1つ)- 副次評価項目は探索的な位置付け- ただし、考察では多重性の問題に言及すべき5.効果サイズの計算推奨:Cohen's d計算式:d=(平均の差)/(標準偏差のプール値)d=(28.5~12.3)/ √[(10.22+8.52)/2]d ≒1.73(非常に大きな効果サイズ)解釈:- d>0.8:大きな効果- あなたの研究:d=1.73(非常に強い治療効果を示唆)統計手法選択での重要なポイントこの例で注目すべきは、ChatGPTが「なぜその検定方法を選ぶのか」という理由も説明してくれる点です。単に「対応のあるt検定を使いなさい」と言われるより、「同一患者の前後比較だから対応のあるt検定」という理由がわかれば、次回以降の研究でも応用できます。また、効果サイズ(Cohen's d)の計算式まで提示してくれるのも便利です。統計学的有意差だけでなく、効果サイズを報告することは、最近の医学雑誌では標準的になってきています。p値だけでは臨床的な意義はわかりませんが、効果サイズを見れば「どのくらい強い効果なのか」がわかります。ただし、ここでも注意が必要です。ChatGPTが提案する計算式や数値は、必ず統計ソフトで再計算して確認してください。手計算での誤りやバージョンによる違いがある可能性があるためです。実践例3:結果の解釈とグラフ作成の相談シナリオ「統計ソフトで解析したけど、p値の解釈や図表のつくり方で悩んでいる」統計ソフトを使って検定を実行すると、p値やt値などの数値が出力されます。しかし、これをどう解釈し、論文にどう記載すればいいのかがわからないという声をよく聞きます。また、結果を図表で示す際に、どの種類のグラフが適切かも悩ましい問題です。結果の解釈支援あなたは統計結果をわかりやすく説明する専門家です。以下の解析結果について、論文に記載すべき内容と適切な図表の形式を提案してください。【解析結果】対応のあるt検定(EASIスコア)- 治療前:28.5±10.2- 16週後:12.3±8.5- 平均差:16.2(95%CI:12.5~19.9)- t値=8.95、p<0.001- Cohen's d=1.73【質問】1.この結果を論文に記載する際の文例2.適切な図表の形式(グラフの種類)3.p値の解釈で注意すべき点4.臨床的意義の考察ポイントChatGPTからの回答例 【論文記載の文例】Results部分:「デュピルマブ投与開始から16週後、EASIスコアは治療前の28.5±10.2から12.3±8.5へ有意に改善した(平均差:16.2点、95%CI:12.5~19.9、p<0.001)。効果サイズはCohen's d=1.73であり、非常に大きな治療効果が認められた」【推奨する図表】図1:Box plot(箱ひげ図)+Individual data points- X軸:治療前、16週後- Y軸:EASIスコア- 個別症例の変化を線で結ぶ- 理由:個々の患者の変化が視覚的にわかる図2:Bar graph(棒グラフ)with error bars- 平均値と標準誤差を表示- マーク(p<0.001)を追加- シンプルでわかりやすい【p値の解釈での注意点】適切な解釈:「治療前後で統計学的に有意な差が認められた(p<0.001)」避けるべき表現:「治療前後で有意差があったため、治療効果が証明された」理由:統計学的有意差と臨床的重要性は別物【臨床的意義の考察ポイント】1.MCID(臨床的に意味のある最小変化量)との比較- EASIのMCIDは一般的に6~7点- 今回の改善幅16.2点はMCIDを大きく上回る2.EASI-50、EASI-75の達成率- 50%以上改善した患者の割合を計算- 他の研究との比較が可能3.効果サイズ(d=1.73)の解釈- 非常に大きな効果- 単群研究でもこの効果サイズは臨床的に重要論文記載での活用この例でとくに役立つのは、具体的な文例を提示してくれる点です。統計の専門用語を適切に使いながら、医学論文として自然な表現で記載する方法がわかります。また、「避けるべき表現」も示してくれるので、よくある誤りを防ぐことができます。グラフの種類についても、単に「箱ひげ図がいい」と言うだけでなく、「個別症例の変化を線で結ぶ」という具体的な提案があるため、実際に作図する際のイメージが湧きやすくなります。ChatGPTに「させてはいけないこと」ここまで、ChatGPTの有効な活用法を見てきましたが、逆に「させてはいけないこと」も明確にしておく必要があります。実際のデータ解析をさせないChatGPTに患者データを入力して、「この30例のデータを解析してください」と依頼することは避けてください。その理由は3つあります。1)個人情報保護の問題です。たとえ氏名を伏せても、年齢、性別、検査値などの組み合わせで個人が特定される可能性があります。2)計算の正確性が保証されません。ChatGPTは統計ソフトではなく、計算ミスのリスクがあります。3)再現性の担保が困難です。同じデータで同じ質問をしても、異なる結果が返ってくる可能性があります。統計ソフトの代わりにしないChatGPTはあくまで「アドバイザー」であり、実際の計算は必ずR、SPSS、JMP、Excelなどの統計ソフトで行ってください。「どの統計手法を使うべきか」はChatGPTに相談し、「実際の計算」は統計ソフトで行う、という役割分担が重要です。p-hackingの相談をしない「有意差が出る方法を教えて」「p値を0.05未満にする方法は?」といった質問は、研究不正につながります。統計手法は研究デザインの段階で決めるべきであり、結果を見てから手法を変えることは許されません。統計相談の5つのルールChatGPTを統計相談で活用する際は、以下の5つのルールを守ってください。ルール1:実データは入力しない患者の個人情報保護のため、実際のデータは入力せず、サマリー統計(平均値、標準偏差など)や仮想データのみを使用してください。ルール2:提案は必ず検証するChatGPTの提案内容は、必ず統計の教科書や専門家に確認してください。複数の情報源でクロスチェックすることが重要です。ルール3:計算は専用ソフトでChatGPTは方針決定まで。実際の解析は必ず統計ソフトで行ってください。ルール4:研究デザインは早めに相談データ収集前の研究デザイン段階で相談するのが最も効果的です。後から修正するのは困難です。ルール5:限界を明記するサンプルサイズの制約、研究デザインの限界、AIで相談したことなどは、研究ノートに記録しておきましょう。Take-Home Message今回ご紹介した統計相談でのChatGPT活用法は、統計が苦手な臨床医にとって心強い味方となるはずです。しかし、重要なのは「使い方を間違えない」ことです。ChatGPTを統計の家庭教師として活用する3原則を、もう一度確認しておきましょう。原則1:相談相手として使う計算機ではなく、考え方を学ぶツールとして使いましょう。「どんな統計手法が適切か」の方針決定に活用してください。原則2:研究の早い段階からデータ収集前の研究デザイン相談が最も効果的です。後からの修正は困難ですから、計画段階でしっかり相談しましょう。原則3:必ず専門家の確認を統計の専門書で裏付けを取り、可能なら生物統計家への相談も検討してください。重要な判断はAIだけに頼らないでください。統計が苦手でも、AIを使えば一歩を踏み出すことができます。統計の専門家に相談する前の「予習」として、ChatGPTで基本的な方向性をつかむことで、より実りある議論が可能になります。研究の質を高めながら、効率的に進めるために、ChatGPTを「あなたの理解度に合わせて解説してくれる優しい統計の先生」として活用してみてください。

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第38回 食卓を支配する「超加工食品」の正体とは? 世界的権威が警告する健康リスクと、今日からできる見分け方

スーパーマーケットやコンビニに並ぶ、色鮮やかで手軽な食品たち。袋を開ければすぐに食べられ、味も見た目にもおいしく、しかも安価だったりします。私たちの生活に欠かせない存在となったこれらの食品ですが、その多くが「超加工食品」と呼ばれるカテゴリーに属することをご存じでしょうか。近年、この超加工食品が私たちの健康に深刻な悪影響を及ぼしているという科学的証拠が次々と明らかになっています。そして今回、医学誌The Lancet誌が、超加工食品に関する大規模な特集シリーズを組み、その健康リスクについて警鐘を鳴らしました1)。本記事では、この最新の論文に基づき、超加工食品とはいったい何なのか、具体的にどのようなリスクがあるのか、そして私たちはどう向き合えばよいのかを考えていきたいと思います。キッチンにはない「謎の成分」が目印? 超加工食品の定義と見分け方まず、私たちが普段口にしている食品は、加工の度合いによって4つのグループに分けられます。これを「Nova分類」と呼びます。 1.未加工・最小限の加工食品 野菜、果物、肉、卵、牛乳など、素材そのものや、乾燥・粉砕・加熱などの単純な加工しかしていないもの 2.加工食材 料理に使う油、バター、砂糖、塩など 3.加工食品 缶詰の野菜、チーズ、焼きたてのパンなど、素材に塩や油を加えて保存性を高めたりおいしくしたりしたもの 4.超加工食品 ここが今回の主役です超加工食品とは、単に加工された食品というわけではありません。最大の特徴は、「家庭のキッチンには通常置いていないような工業的な成分」が含まれていることです。具体的には、カゼイン、乳糖、乳清などの抽出物や、加水分解タンパク質、異性化糖(高果糖コーンシロップ)、硬化油などが挙げられます。さらに、風味を良くしたり、見た目を整えたりするための「化粧品のような添加物」、たとえば香料、着色料、乳化剤、甘味料、増粘剤などがふんだんに使われています。身近な例で言えば、炭酸飲料、スナック菓子、大量生産された袋入りのパン、チキンナゲットなどの再構成肉製品、インスタントスープ、そして「ヘルシー」をうたうダイエットシェイクや一部の植物性代替肉なども、実は多くがこのカテゴリーに含まれます。「ヘルシー」な「超加工食品」がこの世の中にはたくさん存在するのです。しかし、実際には見分け方はシンプルです。パッケージの表側に騙されてはいけません。見分けるには、パッケージの裏側にある原材料名を見る必要があります。もしそこに、あなたの家のキッチンにない、見慣れない名前(たとえば「○○抽出物」「○○色素」「乳化剤」「スクラロース」など)が並んでいたら、それは超加工食品である可能性が高いと言えます。なぜ「超加工」されると体に悪いのか? 栄養バランスだけではない複合的なリスクそれでも、「カロリーや栄養バランスに気をつければ、加工食品でも問題ないのでは?」と思うかもしれません。しかし、今回の論文は、問題がそれほど単純ではないことを指摘しています。第一に、栄養の質が劇的に低下します。超加工食品の割合が増える食事は、糖分、脂肪、塩分が高くなりやすく、逆に健康維持に不可欠な食物繊維、タンパク質、ビタミン、ミネラルが不足する傾向があります。第二に、「食べ過ぎ」を引き起こす構造になっています。超加工食品は、企業が利益を最大化するために、消費者が「もっと食べたい」と感じるように設計されています。柔らかくて噛む必要があまりない、心地よい食感、絶妙に調整された味と香りなど、私たちの満腹中枢を麻痺させるのです。実際、米国国立衛生研究所(NIH)が行った実験では、栄養価をそろえた食事であっても、超加工食品中心の食事をしたグループは、そうでない食事をしたグループに比べて、1日当たり約500kcalも多く摂取し、体重が増加したというデータがあります。第三に、食品添加物や汚染物質のリスクです。パッケージから溶け出す化学物質や、加工過程で生成される有害物質、そして乳化剤や人工甘味料などが腸内環境(マイクロバイオーム)を乱し、体に炎症を引き起こす可能性が指摘されています。つまり、超加工食品は、単に栄養が偏っているだけでなく、物理的な構造や化学的な組成そのものが、私たちの体のシステムを狂わせる可能性があるのです。がん、心臓病、うつ病まで… データが示す深刻な健康リスクでは、実際に超加工食品を食べ続けると、どのような病気のリスクが上がるのでしょうか。論文では、世界中の100以上の長期的な追跡調査の結果を統合し、解析しています。その結果、超加工食品の摂取量が多いグループは、少ないグループに比べて、以下のような病気のリスクが統計的に有意に高くなることが明らかになりました。 肥満・過体重:リスクが21%増加 2型糖尿病:リスクが25%増加 心血管疾患(心臓病や脳卒中など)による死亡:リスクが18%増加 うつ病:リスクが23%増加 クローン病:リスクが90%増加 全死亡リスク(あらゆる原因による死亡):リスクが18%増加 とくに注目すべきは、これらのリスク上昇の度合いが、健康に良いとされる「地中海食」がもたらす病気予防効果と、ほぼ同程度のインパクト(ただし逆方向、つまり悪影響として)を持っているという点です。つまり、超加工食品を食べることは、健康的な食事のメリットを相殺し、さらにマイナスに突き落とすほどの力を持っていると言えます。ただし、すべての超加工食品が同じように悪いわけではないでしょう。たとえば、全粒粉を使った大量生産のパンやヨーグルトなどは、清涼飲料水や加工肉に比べればリスクが低い可能性があります。しかし、全体として見れば、加工されていない食品(普通のヨーグルトや手作りの肉料理)の方が、超加工されたバージョン(甘味や香料入りのヨーグルトやソーセージ)よりも健康的であるという大原則は変わりません。私たちはどうすればいいのか?この論文の結論として、超加工食品の蔓延は、世界的な慢性疾患の増加の「主要な推進要因」であると断定されています。イギリスやアメリカでは、すでにカロリー摂取量の半分以上が超加工食品で占められています。日本や韓国などのアジア諸国はまだそこまで高くはありませんが、その消費量は年々増加傾向にあります。私たち消費者ができることは、まず「知ること」です。買い物の際、時々パッケージの裏を見て、なじみのない添加物が入っていないか確認することが第一歩です。そして、無理のない範囲で「素材」に近い食品を選び、自宅で調理する頻度を増やすことが、最善の防衛策といえます。もちろん、忙しい現代社会において、超加工食品を完全にゼロにすることは現実的ではないでしょう。しかし、「便利さ」の裏側に、私たちの健康を蝕むリスクが潜んでいることを理解し、日々の選択を少しずつ変えていくことが、自分や家族の未来を守ることにつながるのではないでしょうか。 参考文献・参考サイト 1) Monteiro CA, et al. Ultra-processed foods and human health: the main thesis and the evidence. The Lancet. 2025 Nov 18. [Epub ahead of print]

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認知症リスクを低下させるコーヒー、紅茶の摂取量は1日何杯?

 コーヒーと紅茶の摂取量と認知症の長期リスクとの関連性は、これまで十分に解明されていなかった。さらに、これらの関連性における循環炎症バイオマーカーの潜在的な媒介的役割についても、ほとんど研究されていない。中国・浙江大学のMinqing Yan氏らは、コーヒーと紅茶の摂取量と循環炎症バイオマーカーおよび認知症の長期リスクとの関連を明らかにするため、2つの縦断的研究を評価した。European Journal of Epidemiology誌オンライン版2025年10月27日号の報告。 対象は、Health and Retirement Study(HRS、2013~20年、6,001例)およびFramingham Heart Study Offspringコホート(FOS、1998~2018年、2,650例)に参加したベースライン時点で認知症でない人。コーヒーと紅茶の摂取量は、両コホートにおいて半定量的な食物摂取頻度調査票を用いて評価した。認知症の診断は、検証済みのアルゴリズムと臨床審査パネルを用いて確定した。コーヒーと紅茶の摂取量と認知症との関連性を評価するために、Cox比例ハザードモデルを用いた。循環炎症バイオマーカーがこれらの関連性を媒介しているかどうかを検討するため、媒介分析を実施した。 主な内容は以下のとおり。・フォローアップ期間中央値は、HRSで7.0年、FOSで11.1年。認知症を発症した人は、HRSで231例、FOSで204例であった。・コーヒー摂取が1日2杯以上の場合は、1日1杯未満と比較し、認知症リスクの28~37%低下が認められた。【HRS】ハザード比(HR):0.72、95%信頼区間(CI):0.52~0.99、p-trend=0.045【FOS】HR:0.63、95%CI:0.45~0.90、p-trend=0.015・適度な紅茶摂取は、非摂取者と比較して、HRSにおいて認知症リスクの低下と関連していたが、FOSでは有意な関連性は認められなかった。【HRS:1日0~1杯未満】HR:0.65、95%CI:0.48~0.89【HRS:1日1~2杯未満】HR:0.53、95%CI:0.30~0.94・媒介分析の結果、コーヒー摂取量と認知症との関連性は、インターロイキン-10(IL-10、29.30%)、シスタチンC(24.45%)、C-反応性蛋白(CRP、16.54%)、インターロイキン-1受容体拮抗薬(IL-1RA、11.06%)、可溶性腫瘍壊死因子受容体-1(sTNFR-1、10.78%)によって部分的に媒介されていることが示唆された。 著者らは「コーヒーの摂取量が多いほど、認知症リスクの低さに関連しており、この関連性は一連の炎症性バイオマーカーによって部分的に媒介されていると考えられる。適量の紅茶摂取も、認知症のリスク低下と関連している可能性がある。これらの知見を検証するためにも、今後さらに大規模な観察研究および介入研究が求められる」と結論付けている。

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急増するナッツ類アレルギー、近年はより少ない量で発症の傾向/国立成育医療研究センター

 近年、日本では木の実(ナッツ類)アレルギーの有病率が急速に増加しており、とくに、クルミアレルギーの有病率は2014年と比較して4倍以上増加し、比較的安定しているピーナッツを上回ったという。現在、ナッツ類は日本において卵に続いて2番目に多い食物アレルギーの原因となっている1)。 国立成育医療研究センターの久保田 仁美氏らの研究チームは、日本における直近10年間に発生したナッツ類アレルギー症例の調査結果から、近年ではより少ない摂取量でアレルギー症状が出ることが判明したことを報告した。同センターは2025年11月17日にプレスリリースを出し、同内容はThe Journal of Allergy and Clinical Immunology誌2026年1月号にも掲載された。 研究者らは、2013~23年の10年間に同センターの患者に対して行った1,275件のピーナッツ、カシューナッツ、クルミの経口負荷試験データを用いて、ナッツ類それぞれのED05値(アレルギー患者集団のうち、5%の人でアレルギー症状が引き起こされる量)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・2013~23年全期間のED05値は、ピーナッツ4.88mg、カシューナッツ0.53mg、クルミ4.37mgだった。・2013~19年と2020~23年のED05値を比較したところ、クルミは2019年以前は14.94mgだったが、2020年以降は3.26mgに大幅に減少しており、以前より少ない摂取量でアレルギーが引き起こされることがわかった。ピーナッツとカシューナッツは有意差は認められなかったものの、同様に減少傾向がみられた(ピーナッツ:8.87mg→4.12mg、カシューナッツ:4.29mg→0.66mg)。 研究チームは「ED05値の変化は、日本におけるクルミアレルギー患者の増加や、重症化などの変化が影響している可能性がある。食習慣がグローバル化する中で日本国内における食物アレルギーの原因食物も変化している。今回の調査で、ナッツ類のED05値は欧米で報告される値に近づきつつあり、食物アレルギーのリスク評価を定期的に見直す重要性が改めて認識された」としている。

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肝細胞がん、周術期の併用補助療法で無イベント生存改善/Lancet

 再発リスクが中等度または高度の切除可能な肝細胞がん患者において、手術+周術期camrelizumab(抗PD-1抗体)+rivoceranib(VEGFR2チロシンキナーゼ阻害薬)併用療法は手術単独と比較して、無イベント生存期間(EFS)を有意に改善し、安全性プロファイルは管理可能と考えられることが、中国・Liver Cancer Institute and Key Laboratory of Carcinogenesis and Cancer InvasionのZheng Wang氏らによる「CARES-009試験」の結果で示された。本研究の成果は、Lancet誌2025年11月1日号に掲載された。中国16施設で行われた第II/III相の無作為化試験 CARES-009試験は、中国の16施設で実施した第II/III相の非盲検無作為化試験であり、2021年3月~2024年1月に参加者を登録した(Shanghai Hospital Development CenterおよびJiangsu Hengrui Pharmaceuticalsの助成を受けた)。 年齢18~75歳、中国肝がん病期分類(CNLC)に基づき、門脈本幹腫瘍栓(Vp4)のないStageIb~IIIa(バルセロナ臨床肝がん[BCLC]病期分類で、腫瘍径>5cmのStageA、StageB、Vp4病変や肝外転移のないStageCに相当)と判定された切除可能な肝細胞がん患者を対象とした。再発リスクは、CNLC StageIb~IIaを中等度、同IIb~IIIaを高度とした。 これらの参加者を、手術+周術期治療群(周術期治療群)または手術単独群に無作為に割り付けた。周術期治療群では、術前補助療法としてcamrelizumab(2週ごと、静注)+rivoceranib(1日1回、経口)を2サイクル投与後、手術を実施し、術後補助療法としてcamrelizumab(3週ごと、静注)+rivoceranib(1日1回、経口)を最大で15サイクル投与した。 第III相の主要評価項目は、担当医判定によるEFS(無作為割り付けから、外科的に切除不能な病勢進行、局所または遠隔再発、全死因死亡までの期間)とした。294例を登録、手術全例でR0達成 294例(ITT集団)を登録し、周術期治療群に148例(年齢中央値58.0歳[四分位範囲:51.3~66.0]、男性88%、B型肝炎ウイルス感染が肝がんの主原因の患者76%)、手術単独群に146例(59.0歳[50.8~66.0]、86%、78%)を割り付けた。 周術期治療群のうち、141例(95%)が実際に術前補助療法を受け、131例(93%)が2サイクルを完了した。術後補助療法は110例が受けた。根治的外科切除術は、周術期治療群で136例(92%)、手術単独群で143例(98%)に実施され、全例で完全切除(R0)が達成された。MPR、DFSも良好 事前に規定された中間解析(追跡期間中央値21.3ヵ月)におけるEFS中央値は、手術単独群が19.4ヵ月(95%信頼区間[CI]:14.9~評価不能)であったのに対し、周術期治療群は42.1ヵ月(23.2~評価不能)であり、ハザード比(HR)は0.59(95%CI:0.41~0.85、p=0.0040)と事前に規定された統計学的有意性の境界値(p=0.0148)を満たした。 主な副次評価項目である病理学的著効(MPR:切除標本中の生存腫瘍細胞の割合が50%以下)の達成率も周術期治療群で有意に優れた(35%vs.8%、p<0.0001)。全生存期間(OS:無作為割り付けから全死因死亡までの期間)については、中間解析時にデータが不十分で解析はできなかった。また、副次評価項目である担当医判定による無病生存期間中央値(DFS:外科切除術から再発または死亡までの期間)は周術期治療群で良好だった(40.8ヵ月vs.19.4ヵ月、HR:0.59、95%CI:0.40~0.86)。Grade3以上の治療関連有害事象は38% 安全性の評価では、290例(周術期治療群141例、手術単独群149例[周術期治療群のうち手術のみを受けた6例を、手術単独群に含めた])を解析の対象とした。Grade3以上の治療関連有害事象は、周術期治療群で53例(38%)に発現し、手術単独群では認めなかった。重篤な治療関連有害事象は、周術期治療群で19例(13%)にみられた。 周術期治療群では、治療関連有害事象により術前補助療法で5例(4%)、術後補助療法で17例(12%)が、いずれかの薬剤の投与中止に至った。術前補助療法中に治療関連死が2例で発生し、1例は肝不全(治療関連の可能性あり)、1例は肝腎不全(因果関係は不確定)によるものであった。また、同群で免疫関連有害事象が33例(23%)報告され、このうち7例(5%)はGrade3以上だった。 術後合併症は、Clavien-Dindo分類のGrade2以上が、周術期治療群で46例(35%)、手術単独群で24例(16%)に発生した。 著者は、「これらの知見は、再発リスクが中等度または高度の切除可能な肝細胞がんに対する有望な新規の治療アプローチとして、周術期camrelizumab+rivoceranibを支持するものである」「病理学的奏効は、複数の固形がんで術前補助療法の生存に関連する代替エンドポイントとして注目を集めているが、肝細胞がんにおけるMPRの閾値は研究によって異なるため、最適なカットオフ値を決定するための大規模な研究が求められる」としている。

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