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Z薬の使用と全死亡率との関係~メタ解析

 ゾルピデム、エスゾピクロン、ゾピクロン、zaleplonなどの非ベンゾジアゼピン系睡眠薬であるZ薬は、世界中の不眠症患者に広く用いられている。Z薬は、ベンゾジアゼピン系薬剤よりも安全性が高いと考えられてきたが、いくつかの研究においてZ薬の副作用についての議論が巻き起こっている。韓国・慶北大学校のJi-Yeon Park氏らは、Z薬と全死因死亡率との関連性を評価するため、観察コホート研究のメタ解析を実施した。Neuropsychiatric Disease and Treatment誌2006年1月23日号の報告。 2025年3月14日までに報告された観察コホート研究をPubMed、Embase、Scopusより検索し、メタ解析を実施した。研究対象集団は臨床患者であった。Z薬と全死因死亡率との関連性を評価するため、ランダム効果モデルを用いて全死因死亡率の統合ハザード比(HR)、95%信頼区間(CI)を算出した。感度分析およびサブグループ解析も実施した。 主な結果は以下のとおり。・9件のコホート研究より参加者201万8,397例をメタ解析に含めた。・Z薬の使用は、全死亡リスクの増加と有意な関連が認められた(HR:1.600、95%CI:1.027~2.491、p=0.038)。ただし、研究間の異質性は有意に高かった(I2=99.642%、p<0.001)。・感度分析では、結果の安定性が確認された(HR:1.440~1.761、各々p<0.05)。・サブグループ解析では、地域、フォローアップ期間、研究の質にかかわらず、一貫して正の相関傾向が認められた(HR:1.120~1.780)が、一部は統計的に有意ではなかった。 著者らは「本メタ解析において、Z薬の使用と全死亡率との間に正の関連が示された。しかし、研究間の異質性が非常に高いため、これらの結果の解釈には注意が必要である」としながらも「臨床医は、高リスク患者にZ薬を使用する際には注意を払うべきである」と結論付けている。

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若年女性で膵がん増加の兆候~日本全国データ解析

 膵がんは依然として予後不良ながんの一つであり、その発症動向の変化が注目されている。今回、日本の全国データを解析した研究で、若い女性における膵がん罹患率の上昇を示す兆候が確認された。また、高齢者では膵体尾部切除を中心に膵がんの手術件数が増加していることも明らかになった。研究は、稲毛病院整形外科の城戸優充氏、京都府立医科大学外科学教室消化器外科学部門の森村玲氏らによるもので、詳細は「Annals of Gastroenterological Surgery」に1月22日付でオンライン掲載された。 膵がんは世界的に罹患率が上昇しており、2022年には世界で約51万人が新たに診断され、がん死亡原因の上位を占めている。日本は人口10万人当たりの罹患率(粗罹患率)が世界で最も高く、2023年には男女ともにがん死亡原因の第3位となるなど、その影響は大きい。近年は若年発症例の増加も国際的に懸念されているが、日本における最新の発症動向や術式別の手術実態については、全国規模での詳細な検討が十分とはいえない。そうした中、本研究では、日本の全国規模データを用いて、近年の膵がん罹患率の推移と年齢・性別ごとの特徴、さらに術式別の手術動向について包括的に検討した。 膵がんの罹患データ(2016~2021年)は、国立がん研究センターの全国がん登録データを用いて解析した。手術件数(2016~2023年)は、厚生労働省の管理する匿名医療保険等関連情報データベース(National Database of Health Insurance Claims and Specific Health Checkups:NDB)から抽出した。膵臓は、「膵頭部(すいとうぶ)」「膵体部(すいたいぶ)」「膵尾部(すいびぶ)」の3つの部位に分けられる。膵がんの手術は、膵体尾部切除(膵体部・尾部を切除)と膵頭十二指腸切除(膵頭部や十二指腸などを切除)に分類し、さらに開腹手術と腹腔鏡手術に区分した。なお、コード定義の変更により、膵頭十二指腸切除および術式別(開腹・腹腔鏡)のデータは2020~2023年のみ取得可能であり、膵体尾部切除は2016~2023年の期間で解析した。人口10万人当たりの罹患率・手術率を算出し、ポアソン回帰分析で年間リスク比(RR)を推定した。多重比較の影響を考慮し、ボンフェローニ補正を適用した。 2016~2021年の調査期間中、日本では年間平均約4万3,000人が膵がんと診断され、症例の約8割は65歳以上であった。 年齢調整後の膵がん罹患率は、男性・女性・男女合計のいずれにおいても有意に上昇した(RR=1.007、1.016、1.011、いずれもP<0.0001)。特に10~29歳の女性では顕著な上昇がみられた(RR=1.347~1.449、いずれもP<0.0009)。 膵体尾部切除の手術率も、男性・女性・男女合計のいずれにおいても有意に増加した(RR=1.033、1.032、1.033、いずれもP<0.0001)。年齢別にみると、65~89歳の高齢者で特に増加が顕著であった(RR=1.018~1.114、いずれもP<0.0012)。膵頭十二指腸切除の手術率も2020~2023年にかけて増加したが、解析期間が短いため年次推移の統計的評価は行えなかった。 2023年の膵がん手術は計1万4,397件で、その内訳は膵頭十二指腸切除が65.6%(9,444件)、膵体尾部切除が34.4%(4,953件)であった。アプローチ別では、開腹手術が77.0%(1万1,079件)と主流で、腹腔鏡手術は23.0%(3,318件)、ロボット支援手術は8.8%(1,271件)であった。 著者らは、「日本の膵がん疫学において、若年女性での罹患増加の兆候と、高齢者での膵体尾部切除の増加という二つの変化がみられた」と述べている。若年女性については組織型の違いも含めた原因解明とハイリスク群への層別スクリーニングが、高齢者については低侵襲手術を含む外科治療体制の整備が、今後の課題として重要になるとしている。 なお、本研究の限界として、病期・組織型などの臨床情報を含まないデータの使用、コード変更に伴う解析期間の制約、異なるデータベースを用いた推定による解釈の不確実性などを挙げている。

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がん患者、24時間以内の死亡予測は可能か

 角膜反射の消失は、末期がん患者において24時間以内に死が差し迫っていることを示す特異的かつ臨床的に有用な徴候であることを韓国・Gyeongsang National University Changwon HospitalのSe-Il Go氏らが明らかにした。BMJ Supportive and Palliative Care誌2026年2月27日号掲載の報告。 研究者らは、末期がん患者における24時間以内の死亡を予測する上で、角膜反射の予後予測的意義を評価することを目的として前向き観察研究を実施。Gyeongsang National University Changwon Hospitalのホスピスセンターに入院し、死期が迫っている進行がん患者665例の分析を行った。訓練を受けた看護師が標準化された基準を用いて、角膜反射およびそのほかの臨死期の徴候を1日3回評価。混合効果ロジスティック回帰を用いて24時間以内の死亡予測因子を特定し、24~96時間における診断性能を検討した。 主な結果は以下のとおり。・角膜反射の消失は24時間以内の死亡と強く関連しており(オッズ比5.48、p<0.001)、24時間死亡は70.7%であった。・角膜反射の消失の特異度は85.0%、陽性的中率は70.7%といずれも高かった。・鎮静度を10段階に分けて評価するRichmond Agitation-Sedation Scale(RASS)スコアが-4(深い鎮静状態)または-5(昏睡)の患者においても角膜反射の消失は24時間死亡の有意な予測因子であり、角膜反射が消失した患者の71.2%が、反射が残存した患者の37.1%が24時間以内に死亡した。・そのほかの有意な予測因子として、末梢性チアノーゼ、酸素飽和度低下、低血圧などが認められた。 研究者らは「本研究結果は、臨死期の予後予測および意思決定への応用を裏付けるもの」としている。

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血栓後症候群、血管内治療が症状およびQOLを有意に改善/NEJM

 中等症または重症の血栓後症候群(PTS)および腸骨静脈閉塞を有する患者において、血管内治療は標準治療と比較し、6ヵ月後のPTS重症度を有意に軽減し健康関連QOLを改善した。ただし、出血リスクは高かった。米国・ワシントン大学のSuresh Vedantham氏らC-TRACT Trial Investigatorsが、同国29施設で実施した第III相無作為化非盲検評価者盲検比較試験「Chronic Venous Thrombosis: Relief with Adjunctive Catheter-Directed Therapy trial:C-TRACT試験」の結果を報告した。PTSは深部静脈血栓症(DVT)発症後によくみられ、下肢の重篤な症状により患者の活動性やQOLを著しく低下させることがある。血管内治療は、慢性静脈閉塞を除去でき、PTS重症度を軽減することが期待されていた。NEJM誌オンライン版2026年4月13日号掲載の報告。血栓後症候群に対する血管内治療の有効性を、6ヵ月後のPTS重症度で評価 研究グループは、中等症または重症のPTSを有し、画像診断により腸骨静脈閉塞(閉塞または50%以上の狭窄)が確認された患者を登録した。 PTSは、登録の3ヵ月以上前に発症したDVTの同側下肢における慢性静脈疾患と定義し、静脈症状により日常活動や作業能力に著しい制限が生じ、修正Venous Clinical Severity Score(VCSS)が8以上、Villalta PTSスコアが10以上、または開放性静脈性潰瘍を認める場合を中等症または重症とした。 適格患者を、血管内治療(腸骨静脈ステント留置および強化抗血栓療法)群または非血管内治療(標準治療のみ)群に1対1の割合で無作為に割り付けた。両群とも標準的なPTS治療として、圧迫療法、抗凝固療法、生活指導を行い、開放性静脈性潰瘍を有する患者はエビデンスに基づくケアを行うため創傷/潰瘍ケアクリニックへ紹介された。 主要アウトカムは、無作為化後6ヵ月時のPTS重症度で、VCSS(スコア範囲:0~30、高スコアほど重症)を用いて盲検下で評価した。主要な副次アウトカムは、無作為化後6ヵ月時の患者報告によるQOLで、静脈疾患に特異的なVenous Insufficiency Epidemiological and Economic Study Quality of Life(VEINES-QOL)質問票(範囲:0~100、4~6ポイントの変化を臨床的に重要な変化と定義)、および包括的なMedical Outcomes Study 36-Item Short-Form Health Status Survey(SF-36)を用いて評価した。安全性アウトカムは、出血、静脈血栓塞栓症の再発、および死亡とした。PTS重症度は血管内治療群で有意に低下、生活の質も向上 2018年7月~2025年6月に225例が無作為化された。このうち画像検査で腸骨静脈閉塞がないことが判明した1例を除く224例(血管内治療群112例、非血管内治療群112例)が主要解析の対象集団となった。 無作為化後6ヵ月時のPTS重症度は、血管内治療群が非血管内治療群に比べて有意に低かった(平均[±SD]VCSSスコア:8.1±5.1 vs.10.0±4.9、補正後群間差:-2.0、95%信頼区間[CI]:-3.2~-0.8、p=0.001)。 VEINES-QOLスコア(平均値±標準偏差)は、6ヵ月時点で血管内治療群62.8±24.6、非血管内治療群48.6±26.7であり、血管内治療群が良好であった(補正後群間差:14.5ポイント、95%CI:9.5~19.4、p<0.001)。同様に、SF-36の身体機能スコアも血管内治療群のほうが良好であった(補正後群間差:6.1ポイント、95%CI:2.8~9.3、p<0.001)。 安全性については、出血(大出血+非大出血)は血管内治療群のほうが非血管内治療群より発現割合が有意に高く(11.6%vs.3.6%、p=0.03)、その主な要因は非大出血であった(9.8%vs.2.7%)。

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加齢観が健康改善に関連、高齢者の約半数で機能向上

 加齢は、身体的な衰退や認知機能の低下とイコールだと捉えられやすい。しかし新たな研究によると、高齢者でも心構え次第で歳とともに健康状態が改善するケースが少なくないことが示唆された。米イェール大学公衆衛生大学院のBecca Levy氏らが、米国健康・退職研究(Health and Retirement Study;HRS)のデータを解析して明らかにしたもので、詳細は「Geriatrics」に3月4日掲載された。 HRSは米国立加齢研究所のサポートにより、50歳以上の米国民を対象に隔年で実施されている長期追跡調査。Levy氏らの研究ではこのHRS参加者のうち、加齢に対する考え方と健康状態に関するデータに欠落のない1万1,000人以上を解析対象とした。加齢に対する考え方は、「歳を取ると役立たなくなると感じる」、「若いころと同じくらいに幸せだ」などの5項目の質問に対する同意の程度をスコア化して評価した。身体的健康状態は歩行速度で評価し、認知機能は妥当性が評価された電話による認知機能評価(Telephone Interview for Cognitive Status;TICS)にて評価した。 最長12年間の追跡で、参加者の45%が身体的健康または認知機能のいずれか、あるいはその両方で改善を示した。具体的には、身体的健康については4,638人(平均年齢74.03±6.07歳)を平均8.54±2.86年追跡し、対象者の28.00%に歩行速度の向上が認められた。認知機能については1万1,314人(同68.12±9.92歳)を平均8.04±3.27年追跡し、対象者の31.88%にTICSスコアの上昇が認められた。この結果の重要な点として、Levy氏は、「全体の平均値で評価すると、こうした改善は認められず、加齢による機能低下が示唆された。しかし、個々人の推移を見ると全く異なる変化が認められ、健康状態が改善していた高齢者がかなりの割合を占めていた」と指摘している。 また、加齢をポジティブに捉えている人は、身体的健康と認知機能の双方が改善することが多いという関連も見つかった。具体的には、加齢の捉え方のスコアが中央値を上回っている人は、スコアが中央値以下の人と比べ、交絡因子(年齢、性別、人種/民族、教育歴、婚姻状況、社会的孤立、抑うつレベル、認知症の遺伝的リスク〔APOE4〕など)を調整後、TICSスコア上昇のオッズ比(OR)が1.04(95%信頼区間1.00~1.08)であり、歩行速度の向上はOR1.09(同1.02~1.17)だった。なお、加齢に対する否定的な考え方が、記憶力や歩行速度の低下、心臓病やアルツハイマー病のリスク増大につながる可能性があることは、先行研究でも示されている。 Levy氏は、「得られた結果は、晩年になっても健康状態を改善する余地のあることを示唆している。そして、その可能性に影響を及ぼし得る加齢観は変更可能である。これらの知見は、高齢者の健康のために、個人ができることと社会的に介入すべきことの双方の可能性を開くものと言える」と総括。また研究者らは、一連の研究成果が高齢者の潜在的な回復力を活用する予防医療、リハビリテーション、健康増進プログラムの推進につながるだろうと述べている。

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第58回 【解説】医療機器サプライチェーンの危機:日米が直面する「透析インフラ」の脆弱性

近年、私たちの生命維持に直結する医療インフラが思わぬ形で脅威にさらされています。現在、日本とアメリカの双方で、人工透析などに不可欠な医療機器の供給危機が表面化しています。引き金となった原因は両国で異なりますが、浮き彫りになったのは「医療物資のサプライチェーンが抱える構造的な脆弱性」という共通の課題です。本稿では、日米それぞれの現状と今後の見通しについて解説していきます。中東情勢が直撃する日本現在、日本が直面しているのは、中東情勢の悪化に端を発するプラスチック原料「ナフサ」の世界的欠乏による直接的な打撃です。日本やアジアの医療機器メーカーは、製造工程において中東産のナフサに大きく依存しています。ロイター通信の報道によると、ナフサの供給不足により、国内シェアの大部分を占める医療機器メーカーのタイやベトナム工場で生産に遅れが生じ始めています1)。影響は深刻で、人工透析に使用されるチューブなどの「透析回路」は、早いもので2026年8月ごろから国内への出荷が困難になる可能性が指摘されています。また、手術用の廃液容器に至っては4月半ばで供給が途絶える見込みとされています。日本国内には約34万人(2024年末時点)の透析患者がおり、代替品の確保や調達先の多角化は待ったなしの状況です2)。 政府も危機感を強めており、高市政権下で経済産業省などがエネルギーの安定供給を含めた対応策の整理を急いでいるようです。構造的弱点が露呈した米国一方、アメリカの状況は日本とは少し異なります。アメリカでは、国内で豊富に採れる天然ガス由来の「エタン」をプラスチックの主な代替原料としているため、今回の中東情勢を起因とするナフサ不足の直接的な影響は受けていません。しかし、それならアメリカで全く問題がないのかといえば、そうではありません。アメリカもまた透析回路をはじめとする医療機器の深刻な不足にあえいでいるのです。その原因は、サプライチェーンの「極端な寡占化」と「製造拠点の偏在」という構造的な弱点にあるようです。アメリカでは、2025年初頭に主要サプライヤーの工場で発生した製造・供給トラブルの余波が現在も長引いており、FDAのリストでも血液回路が全国的な不足状態の物品に指定されています3)。 過去にも自然災害による特定工場の被災で全米の透析液が枯渇する事態が起きており、単一の企業や地域に過度に依存するリスクが恒常的に顕在化しているのです。命をつなぐインフラを守るための課題と今後の展望「原材料の海外依存(日本)」と「サプライヤーの寡占化(米国)」。原因は違いますが、一部の供給網の乱れが即座に患者の命を脅かすというリスクは日米共通です。この危機を乗り越えるため、日米の現場では使用機材の最大限の節約と、重症患者への優先使用といった運用レベルの対応が迫られています。さらに抜本的な対策として、米国腎臓学会は政府に対し、透析関連物資を自然災害や有事に備える「国家戦略備蓄」に正式に組み込むよう強く求めています4)。日本においても、今回のナフサ不足を教訓とし、調達ルートの多角化や国内製造基盤の支援、さらには重要医療物資の国家的な備蓄体制の構築が不可欠となるでしょう。グローバル化に伴い、いわば効率化されすぎてしまったサプライチェーンを、いかに強靱なものにしていくか。日米の医療現場と政府は今、大きな岐路に立たされているといえるでしょう。 1) Reuters(ロイター通信)「ナフサ供給不足に関する報道」2026年3月27日(参照日:2026年4月17日) 2) 日本透析医学会(JSDT)統計調査委員会「わが国の慢性透析療法の現況(2024年12月31日現在)」日本透析医学会ホームページ(統計調査資料)(参照日:2026年4月17日) 3) U.S. Food and Drug Administration (FDA), “Disruptions in Availability of Hemodialysis Bloodlines - Letter to Health Care Providers,” 2025 Mar 14. (参照日:2026年4月17日) 4) American Society of Nephrology (ASN), “RE: CMS-1516-ANPRM-Medicare Program; Ensuring Safety Through Domestic Security with Made in America Personal Protective Equipment (PPE) and Essential Medicine Procurement in Medicare Participating Hospitals” (comment letter), 2026 Mar 30.(参照日:2026年4月17日)

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認知症の病理を叩く「表街道」、脳を育む「援護射撃」――Lancetの14の危険因子を読み解く(その3)【外来で役立つ!認知症Topics】第40回

前回、私はLancet誌の提唱する認知症の修正可能な14の危険因子1)を、「疾患・障害リスク」と「生活・環境リスク」とに分ける考え方を述べた。前者は従来のアミロイド仮説を軸に、そこから派生した慢性炎症や抗酸化などの病理から説明しやすいもので、糖尿病や高LDLコレステロール(LDL-C)が代表的だ。これはいわば、アルツハイマー病の病理進行をくい止めようという「表街道」の予防法である。一方、後者はアミロイド仮説とは異なり、脳内ネットワークや認知予備能といった考え方で説明される。健常な神経細胞を増やす、あるいは減少させないという、側面からの「援護射撃」ともいえる。この考え方をイラストに示した。以下に示す個々の危険因子について、それが「表街道」と「援護射撃」のどちらに属するかを述べていく。画像を拡大する筆者作成若年期の教育:脳の「控え選手」を育てる援護射撃若年期の危険因子だが、これは「教育」が中心となる。ここで作る大脳の基礎力が十分でなかったとしても、後年これを育み続けることが予防につながると考えればいい。この考え方の基本は、以前から知られる「認知予備能」に関連する。ざっくり言えば、人は生まれ持った脳細胞の一部しか使わないうちに一生を終える。これまで使ってこなかった「控え選手の神経細胞(予備能)」に働きかけるのである。具体的な方法としては、新たな社会交流が勧められる。とくにインターネットリテラシーが低い人こそ、ここで情報を得る習慣を持てば大きな成果が期待できる。教育は、まさに一生続く「援護射撃」なのである。中年期の危険因子:再発とうっかり事故を防ぐ表街道中年期の危険因子のトップは、第38回で述べたとおり難聴と高LDL-Cだが、続いて「うつ病」に触れたい。うつ病経験者は、そうでない者と比べ認知症の危険性が2倍とされる。背景には、神経炎症や、脳由来栄養因子を介した神経の可塑性障害、コルチゾール過剰分泌による海馬体積の減少説などがある。臨床的に大切なのは、うつ病は何度も繰り返しやすく、その再発自体が認知症発症の危険性を高める点だ。だからこそ再発予防が重要であり、主治医と共にフォローを欠かさないことが、病理を抑える「表街道」の対策となる。次に「頭部外傷」については、中等度のもので認知症リスクを2.3倍、重度で4~4.5倍にも増大させる2)。ボクシングなどによる頭部外傷が、50年以上も後にリスクとして現れる。なお高齢者では「転落が脳挫傷原因の3分の2以上」とされるだけに、住環境への配慮が重要になる。照明の改善、手すりやレールの設置、段差の除去や滑りにくい床への改善などが望ましい。身体機能面からは、運動機能の維持、視力や聴力の調整も重要となる。そして、単純ながら基本となるのが「適切な履物」の着用だ。屋内でスリッパなど履かないほうがよい人は多い。これもまた、脳への物理的ダメージを回避する「表街道」の予防といえる。運動不足:座りっぱなしを解消する援護射撃運動不足という危険因子は、従来からいわれてきた運動の予防効果の裏返しである。最近は、単に「たくさん運動すればよい」というより、「身体活動をしない者が運動すれば効果が生まれる」という考え方に変化してきた。最近、老年医学の分野では「座りがちな」という意味の英語で「sedentary」という言葉をよく見かける。そこですべき運動は、有酸素運動の一辺倒ではなく、レジスタンス運動やバランス運動を組み合わせることが重要だ。腰や膝の障害で運動が難しい人の場合でも、皿洗いや掃除、洗濯物干しなどの家事労働を長時間行えば、運動不足をかなり補える。こうした活動の積み重ねが、脳を支える「援護射撃」となる。糖尿病と高血圧:血管から病理を断つ表街道の王道糖尿病は認知症リスクを60%高めるとされるが、アルツハイマー病以上に、血管性認知症の危険性を高める。生物学的メカニズムとしては、直接的な血管障害や神経障害のほかにインスリン分解酵素(IDE)の影響が指摘されている。インスリンとアミロイドβ(Aβ)は同じIDEで分解されるため、高インスリン血症になるとAβの分解が滞り、蓄積していくと考えられる。なお低血糖発作は深刻な危険因子だと強調されている。食事による対応では、地中海食、そこに減塩を超えたダッシュ食、低炭水化物が推奨される。運動では、有酸素運動、レジスタンス運動、バランス運動を組み合わせた「表街道」の包括的な管理が求められる。そして、高血圧こそ認知症発症における最重要な修正可能リスクだろう。40~65歳の中年期の高血圧は、認知症リスクを61~69%増加させるが、降圧薬による治療により、認知症全体で12%、アルツハイマー病で16%のリスクを低減できるとされる3)。高血圧が認知症の危険因子となる理由として複数の説がある。まず脳血管損傷経路、また酸化ストレスと神経炎症経路、血液脳関門破壊経路、さらに脳構造変化と脳萎縮などである。これらをみると、アルツハイマー病の病理が形成されていくプロセスに関わる仮説の多くが高血圧と関連すると改めてわかる。治療面では、とくに血流の改善と脳構造の保護が重要である。わが国のガイドラインでは、年齢別、個人差を考慮した段階的な血圧管理を推奨している。また、いわゆる白衣高血圧の多さを考慮してか、最近では家庭用血圧計における継続的な測定結果が重視される。診察室での血圧よりも、自宅でリラックスして測定した値こそ「真の値」と考えるからだ。『高血圧管理・治療ガイドライン2025』では、全年齢の降圧目標が、「診察室血圧130/80mmHg未満、家庭血圧125/75mmHg未満」に定められている4)。なお言うまでもないが、血圧コントロールのみならず糖尿病や脂質異常症などの関連疾患の包括的な管理を通して、大きな予防効果が期待できる。これも「表街道」の予防法だ。認知症の修正可能な危険因子に関する今回の解説は以上である。14の危険因子のうちあと6つ、主にライフスタイルに関連するものが残っているが、これについては次回に述べることにしよう。参考文献・参考サイト1)Livingston G, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet standing Commission. Lancet. 2024;404:572-628.2)Gottlieb S. Head injury doubles the risk of Alzheimer's disease. BMJ. 2000;321:1100.3)Ding J, et al. Antihypertensive medications and risk for incident dementia and Alzheimer's disease: a meta-analysis of individual participant data from prospective cohort studies. Lancet Neurol. 2020;19:61-70.4)日本高血圧学会高血圧管理・治療ガイドライン委員会編. 高血圧管理・治療ガイドライン2025. ライフサイエンス出版; 2025.

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第315回 キノコが作る抗酸化物質L-エルゴチオネインが生理痛を緩和

キノコ(真菌)が作る硫黄含有アミノ酸の類いのL-エルゴチオネイン(L-ergothioneine、以下「EGT」)が安全に女性の生理痛を和らげました1,2)。EGTは抗酸化作用を担うことで知られます。有機カチオン輸送体のOCTN1を介して細胞内に取り込まれ、蓄積し、フリーラジカルを捕らえてDNAやタンパク質が酸化で傷つかないようにする働きを有します。生理痛を引き起こす原発性月経困難症(PD)は若年女性に最も多い婦人科疾患で、骨盤に明らかな病変がないにもかかわらず月経の直前や最中に生じる下腹部痛を特徴とします。PDの有病率は高ければ9割を超え、患者の生きやすさ、学業、仕事の生産性を大きく損なわせます。子宮の過剰収縮、虚血、低酸素を招く子宮内膜プロスタグランジンの過剰生成がPDの根源とされ、それらの虚血が炎症反応と重度の酸化ストレスを招くようです。抗酸化物質の枯渇と並行して活性酸素種(ROS)や脂質過酸化指標が増えることは生理痛の重症度と密接に関連します。そこで中国の南京市のGene III Biotechnology社のGuohua Xiao氏らは抗酸化物質のEGTに白羽の矢を立て、その生理痛緩和効果を調べる臨床試験を実施しました。試験にはPDと診断済みで、先立つ1ヵ月間に鎮痛薬や漢方薬などのPD治療を試みたことがない18~30歳の女性40例が参加しました。半数の20例は120mgのEGTを3回の月経の間に毎日服用し、あとの半数の20例にはプラセボが与えられ、生理痛のピークの推移が視覚アナログ尺度(Visual Analog Scale:VAS)で測定されました。EGT投与群のVASはベースライン時に4.8で、その後の1、2、3回目の生理時にはそれぞれ4.1、3.6、2.3に有意に下がっていました。プラセボ群では有意なVAS低下は認められませんでした。EGTは細胞に蓄積することから投与を続けるほどより有効なようです。実際、3回目の生理のときのEGT投与のVAS低下はプラセボを有意に上回りました。今回の試験で血中の炎症バイオマーカーはEGT群とプラセボ群で差がありませんでした。炎症を減らしてプロスタグランジンの生成を阻止するイブプロフェンなどの昔ながらの鎮痛薬が今のところ生理痛の緩和に使うべきとされていますが、どうやらEGTはそれら鎮痛薬が手を出す馴染みの炎症経路とは独立した細胞保護経路を介して鎮痛効果を発揮するのかもしれません。EGTは全身の炎症反応の誘発に至るより前に細胞ストレス発生源のフリーラジカルを排除してしまうらしいとXiao氏は言っています2)。Xiao氏は多施設でのより大規模な試験を計画しています。今回の試験で有害事象は幸いにも認められませんでしたが、大規模試験を実施すればEGTの効果を支える仕組みのみならず、安全性もより正確に把握できそうです。Xiao氏が年初に報告した別の試験では、肝機能異常を示す被験者の肝機能、体調、睡眠の指標がEGTで改善しています3)。2024年に報告された無作為化試験では軽度認知障害の高齢者の記憶/学習能力を改善しうるEGTの効果が示されており4)、その取り柄は生理痛緩和にとどまらず幅広いようです。参考1)Guo C, et al. Efficacy and Safety of Oral L-Ergothioneine Supplementation in Primary Dysmenorrhea: A Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Clinical Trial. medRxiv. 2026 Mar 27.2)Antioxidant in mushrooms may target uterus cells to ease period pain / NewScientist3)Guo C, et al. Hepatoprotective Efficacy of GeneIII L-Ergothioneine Capsules: A Self-Controlled Clinical Trial. medRxiv. 2026 Jan 2.4)Yau YF, et al. J Alzheimers Dis. 2024;102:841-854.

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次世代の経口TYK2阻害薬が乾癬症状を大幅に改善

 重症の尋常性乾癬患者は、効果があまり高くないが服用しやすい内服薬か、効果は極めて高いが手間のかかる注射製剤による治療かのいずれかを選ばざるを得ないことが多い。しかし、こうしたトレードオフは今後、変わる可能性がある。中等症から重症の尋常性乾癬患者約1,800人を対象とした2件の第3相臨床試験で、次世代のチロシンキナーゼ2(TYK2)阻害薬Zasocitinib(ザソシチニブ)の1日1回の経口投与が、これまで注射製剤でしか期待できなかったレベルの皮膚の改善をもたらす可能性が示された。この研究結果は、米国皮膚科学会(AAD)年次総会(2026 AAD Annual Meeting、3月27〜31日、米デンバー)で発表された。 尋常性乾癬は、皮膚細胞の増殖が過剰に速くなることで、厚く盛り上がった赤い発疹と銀白色の鱗屑を形成する疾患であり、増悪時にはかゆみや灼熱感を伴う。一方、武田薬品工業株式会社が開発を主導しているZasocitinibは現在、最終段階の試験中であり、米食品医薬品局(FDA)の承認は得られていない。 この2件の国際多施設共同ランダム化比較試験では、21カ国の中等症から重症の尋常性乾癬の成人患者(各試験の対象者数は693人および1,108人)を対象に、Zasocitinibの有効性と安全性および忍容性が評価された。対象者は、Zasocitinib、プラセボ、または実薬対照のアプレミラストを投与する群にランダムに割り付けられた。 その結果、16週時点で医師による静的総合評価(sPGA)のスコア0(消失)/1(ほぼ消失)を達成した患者の割合は、Zasocitinib群で71.4%および69.2%だったのに対し、プラセボ群では10.7%および12.6%、アプレミラスト群では32.1%および29.7%であり、Zasocitinib群で有意に高かった。皮膚症状の完全な消失(sPGAスコア0)の達成率についても、Zasocitinib群で有意に高かった(Zasocitinib群:39.9%および33.7%、プラセボ群:0.7%および1.4%、アプレミラスト群8.0%および6.5%)。 また、16週時点で、乾癬の面積と重症度の指数であるPASI(Psoriasis Area and Severity Index)による評価でPASI 90(ベースラインから90%以上の改善)を達成した割合は、Zasocitinib群で61.3%および51.9%であり、プラセボ群での5.0%および4.0%、アプレミラスト群での16.8%および15.9%と比較して有意に高かった。 さらに、40週時点でPASI 75、PASI 90またはsPGA 0/1を達成し、試験期間を通じてZasocitinib投与を継続した患者の90%以上が、60週時点でもその効果を維持していた。安全性については、新たな懸念は認められなかった。最も一般的な副作用は、風邪のような上気道感染症など、比較的軽度のものであった。また、約6.5%の患者でにきび(ざ瘡)が報告されたが、これはTYK2阻害薬と呼ばれるこの薬剤クラスの既知の副作用である。 主任研究者であるカナダ・オンタリオ州の皮膚科医のMelinda Gooderham氏は、「乾癬治療の目標は皮膚症状の消失またはほぼ消失であり、これまでは主に注射製剤によって達成されてきた。今回の試験の結果は、1日1回の内服薬でも迅速かつ持続的な症状消失効果が得られる可能性を示した」と述べている。 武田薬品工業株式会社の消化器・炎症領域責任者でシニア・バイスプレジデントのChinweike Ukomadu氏は、「本試験の結果は、高選択的なTYK2阻害が中等症から重症の尋常性乾癬患者に対し、皮膚症状の消失、またはほぼ消失という治療効果をもたらす可能性を示している」と述べている。同社は、今後1年以内にFDAへの承認申請を行う予定である。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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緩和ケア:オピオイド過量徴候【かかりつけ医のためのがん患者フォローアップ】第8回

「緩和ケア」はがん診療を行う上で重要な役割を担っています。とくにがん患者の約70%が痛みを経験するといわれており、がん疼痛管理においてオピオイドは欠かせない薬剤です。しかし、治療経過の中で痛みの原因そのものが軽減した場合や、全身状態の変化により薬剤の代謝や排泄が変化した場合には、オピオイドが過量となることがあります。オピオイド使用中の患者さんやご家族から、「眠気が強い」「様子がいつもと違う」といった相談が、かかりつけ医に寄せられることも少なくありません。このような場面で、「外来での対応にとどめてよいのか」「病院への相談や紹介が必要なのか」と判断に迷うことも多いと思います。今回は、オピオイド過量が疑われる場面における評価のポイントと対応について、症例を通して整理します。【症例1】70歳、男性主訴悪心、嘔吐、眠気病歴進行胃がん(StageIV)に対して緩和的化学療法を実施中。初診時より心窩部痛を自覚しており、オキシコドンを使用していた。1ヵ月前のCTで原発巣の縮小を指摘されていた。1週前から日中も寝て過ごすことが多くなり、悪心のため食事摂取量も低下していた。昨日より嘔吐も出現したため、家族に連れられてかかvりつけ医(クリニック)を受診。診察所見呼吸数12回/分、瞳孔2.5mm/2.5mm、眠気が強い様子ではあるが、意思疎通は問題なく可能。発熱なし、腹部圧痛なし、心窩部の持続痛なし、腸蠕動音正常、食事摂取割合3割程度。排便は毎日あり、普通便。内服ロキソプロフェン60mg 3錠 分3、アセトアミノフェン500mg 3錠 分3、オキシコドン徐放錠60mg/日、オキシコドン散10mg/回(最近は使用せず)【症例2】58歳、女性主訴尿量減少、傾眠病歴進行直腸がん術後再発に対して緩和的化学療法を実施中。以前から骨盤内病変による臀部痛、肛門部痛があり、モルヒネ製剤を使用していた。3日前からストマ排泄量が増加し、口渇感と尿量減少を自覚していた。本日朝より傾眠傾向となり、「声をかけたら返答はあるがすぐに寝入ってしまう」と家族がかかりつけ医(クリニック)に相談。診察所見話しかけると覚醒し、短文での簡単なコミュニケーションは可能だが、刺激がなくなるとすぐに入眠する。呼吸数8回/分、瞳孔1.5mm/1.5mm。抗がん剤10日前にイリノテカンを含む治療を実施。内服ロキソプロフェン60mg 3錠 分3、モルヒネ徐放性剤120mg/日、モルヒネ速放性製剤ステップ1 オピオイド過量徴候の評価オピオイド過量となりやすい状況オピオイド過量は、必ずしも増量時に起こるわけではありません。外来で評価する際には、まず過量となりやすい背景がないかを整理しておくことが重要です。不適切なベース設定疼痛評価が十分でないまま増量が続いている場合全身状態の変化脱水、肝機能障害、腎機能障害により、オピオイドの代謝・排泄が低下している場合痛みの大きな変化がん治療や神経ブロックなどにより、痛みが大幅に軽減した場合代謝産物の蓄積腎機能障害がある、または急激に進行した場合(オピオイド代謝産物が蓄積しやすい)このような状況がある場合には、「投与量が変わっていない」ことだけで過量を否定しないことが重要です。必ず確認したい3つのポイントオピオイド過量を疑う際には、以下の3点を必ず確認します。(1)眠気(傾眠)眠気が強くなっていないか、呼びかけへの反応が鈍くなっていないかを確認します。刺激がなくなるとすぐに入眠してしまう場合は注意が必要です。家族からの「最近よく寝ている」「反応が遅い」といった訴えは重要なサインになります。(2)呼吸抑制呼吸数は必ず実測します。呼吸数の低下は、オピオイド過量を示唆する最も重要な所見の1つです。短時間でも数えて確認することが望まれます。(3)縮瞳縮瞳はオピオイド過量の典型的な所見です。他の症状と併せて評価することで、判断の助けになります。上記に加えて、他のオピオイド関連副作用(悪心・嘔吐、便秘、せん妄など)が悪化していないかも確認します。これらの副作用が目立ってきている場合も、過量を疑うきっかけとなります。ステップ2 対応は?では、冒頭の患者さんの対応を考えてみましょう。症例1の場合、画像上で原発巣の縮小が確認されており、レスキュー薬の使用もないことから、痛みの原因そのものが軽減している可能性があり、相対的オピオイド過量が疑われます。眠気や悪心といった所見はみられるものの、意思疎通は可能で呼吸数も保たれており、急速な悪化は認められていません。このような場合には、外来での対応が可能です。対応としては、オピオイドの漸減を行います(表1)。表1 オピオイドの減量方法画像を拡大するオピオイド退薬症候(表2)の出現を避けるため、急激な減量は避け、症状を確認しながら慎重に調整することが重要です。減量後は、数日以内の再診や電話でのフォローを行い、痛みの再燃や副作用、退薬徴候の出現がないかを確認します。経過の中で判断に迷う場合には、病院側と情報を共有しながら対応することで、安全に調整を進めることができます。表2 オピオイド退薬症候画像を拡大する症例2の場合、傾眠の進行と呼吸数の低下が認められ、オピオイド過量による中枢神経抑制が強く疑われます。加えて、下痢による脱水や尿量減少を背景に、腎機能障害が急速に進行している可能性があり、短時間で状態が悪化するリスクが高い状況です。このような場合には、外来での減量や経過観察にとどまらず、速やかに病院へ相談・紹介することが適切です。呼吸抑制や意識障害が進行している可能性があるため、ナロキソンによる拮抗や注射製剤への切り替えを含めた速やかなオピオイド用量調整が必要となることがあり、病院での対応が望まれます。外来では、オピオイドを大きく調整する判断は避け、呼吸数や意識状態、脱水や尿量減少といった背景因子を整理したうえで、病院側に情報を共有します。早期に連携することで、重篤化を防ぐことが重要です。まとめオピオイド過量は、増量時だけでなく、痛みの軽減や全身状態の変化をきっかけに生じることがあります。外来では、まず眠気(傾眠)、呼吸数、縮瞳の3点を確認し、急な変化がないかを評価することが重要です。状態が安定している場合には、かかりつけ医での慎重な減量や経過観察が可能な一方、呼吸抑制や意識障害を伴う場合には、外来で完結させず速やかに病院へ相談する判断が求められます。日常診療での気付きを共有しながら連携して対応することが、安全ながん疼痛管理につながります。1)Isaac T, et al. Pain Res Manag. 2012;17:347-352.2)Snijders RAH, et al. Cancers(Basel). 2023;15:591.3)World Health Organization. WHO guidelines for the pharmacological and radiotherapeutic management of cancer pain in adults and adolescents. Geneva: World Health Organization;2018.4)日本緩和医療学会編. がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版. 金原出版;2020.講師紹介

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マルチビタミン・ミネラルが生物学的老化の進行をわずかに抑制か

 毎日マルチビタミン・ミネラル(MVM)を摂取することで得られる健康への効果は、老化の進み方にも及ぶ可能性があるようだ。新たな研究において、MVMを2年間摂取した高齢者では、生物学的老化における「wear and tear(体や遺伝子に蓄積していく摩耗や損耗)」の進行が遅くなる傾向が認められた。この効果は、研究開始時点ですでに老化が加速していた高齢者において顕著だったという。米マス・ジェネラル・ブリガムで予防医学部門副部長を務めるHoward Sesso氏らによるこの研究の詳細は、「Nature Medicine」に3月9日掲載された。 Sesso氏は、「現在、人々の関心は、単に長生きすることだけではなく、より良く生きることにも向けられている。MVMの摂取に生物学的老化の指標と関連する利益があることを示した本研究結果は、非常に興味深い。また、より健康で質の高い老化に寄与する、身近で安全な介入法をさらに探るための扉を開く結果でもある」とニュースリリースで述べた。 生物学的老化の検査では、日常生活による体の「wear and tear」が遺伝子、特にDNAメチル化に及ぼす影響を評価し、それに基づき生物学的年齢を推定する。生物学的年齢は、体の状態が暦年齢より若いか老いているかを示す指標である。 今回の研究では、958人(平均年齢70.2歳、女性50.3%)を対象に、MVMまたはココアから抽出されたフラバノール(500mg/日、以下、フラバノール)の摂取がDNAメチル化に基づく生物学的老化指標へ与える影響を検討した。対象者は、1)フラバノールとMVM、2)フラバノールとMVMプラセボ、3)フラバノールプラセボとMVM、4)フラバノールプラセボとMVMプラセボを摂取する群にランダムに割り付けられた。2年に及ぶ試験期間中に、研究グループは5種類のエピジェネティッククロックを用いて生物学的年齢を繰り返し評価した。 その結果、MVMの摂取は、第2世代のエピジェネティッククロック(PCPhenoAge、PCGrimAge)で、生物学的老化の進行を有意に抑制した。この効果は、試験開始時に生物学的老化が加速していた人で、より大きかった。第1世代の老化指標(PCHorvath、PCHannum)や老化速度を示すDunedinPACEでは、プラセボ群と比べて生物学的老化の進行速度を抑制する傾向は認められたものの、統計学的な有意差は認められなかった。一方、フラバノールの摂取は、いずれの生物学的老化指標にも影響を及ぼさなかった。 論文の共著者である米オーガスタ大学ジョージア医科大学内ジョージア予防研究所所長のYanbin Dong氏は、「今回検討された5種類のエピジェネティッククロックに加え、今後追加される指標を用いても、同様の生物学的老化の遅延が試験終了後も持続するのかを明らかにするため、追跡研究を計画している」と述べている。 また研究グループは、MVMがなぜ老化の進行を遅らせ得るのかについて解明するためにさらなる研究が必要だとしている。Sesso氏は、「多くの人が、必ずしも具体的な利益を理解しないままMVMを摂取している。したがって、その潜在的な健康効果に関する知見は、できるだけ多く得られることが望ましい」と語っている。

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体内CAR-T細胞生成による多発性骨髄腫治療、ESO-T01の第I相試験結果/Nat Med

 体内でのCAR-T細胞の生成は、体外培養やリンパ球除去を省略できるため、細胞療法へのアクセスを簡素化・迅速化する可能性がある。今回、再発・難治性多発性骨髄腫の成人患者を対象に、体内でCAR-T細胞を生成するレンチウイルスベクターであるESO-T01の安全性と忍容性を評価した第I相試験の結果を、中国・Huazhong University of Science and TechnologyのNing An氏らがNature Medicine誌オンライン版2026年3月25日号に報告した。 ESO-T01は、ナノボディ指向性の免疫遮蔽レンチウイルスベクターで、ヒト化抗B細胞成熟抗原(BCMA)CARをコードしている。本試験では、白血球アフェレーシス、体外培養、リンパ球除去化学療法を実施せずに、0.2×109形質導入単位を静脈内に単回投与した。前治療歴の多い男性患者5例(治療ライン中央値:3)が連続して登録され、追跡期間中央値は6.0ヵ月であった。主要評価項目は安全性、忍容性、副次評価項目は有効性、薬物動態、薬力学などであった。 主な結果は以下のとおり。・全例でGrade3以上の有害事象が認められた。・サイトカイン放出症候群が4例(Grade3が3例、Geade2が1例)に認められ、副腎皮質ステロイド、トシリズマブ、支持療法で管理された。・最も多かった毒性は一過性の血球減少および可逆的な肝酵素値の上昇で、Grade2の感染症が3例に認められた。・Grade1の免疫エフェクター細胞関連神経毒性が1例に認められ、骨髄外病変に関連する脊髄圧迫により死亡した。・5例中4例で奏効が得られ、うち3例は厳格な完全寛解であった。・評価可能な奏効例(4例)すべてで、60日目までに微小残存病変陰性(10-5)が確認された。

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局所進行前立腺がん、エストラジオールパッチの有効性は?/NEJM

 局所進行前立腺がん患者において、アンドロゲン除去療法としての経皮エストラジオール(tE2)は、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LH-RH)アゴニストに対して、3年無転移生存(MFS)率に関して非劣性であることが示された。ただし、ほてりの発現割合は低かったものの、女性化乳房の発現割合が高かったという。英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのRuth E. Langley氏らSTAMPEDE-1 and PATCH Investigatorsが、アダプティブデザインの無作為化非盲検非劣性試験「STAMPEDE-1試験」および「PATCH試験」の結果を報告した。tE2は、前立腺がん患者におけるアンドロゲン除去療法としてLH-RHアゴニストに代わる選択肢である。tE2により、テストステロンが抑制され、LH-RHアゴニストによるエストロゲン欠乏の副作用や、経口エストロゲンによる血栓塞栓症の副作用が軽減される可能性があった。NEJM誌オンライン版2026年3月25日号掲載の報告。tE2群vs.LH-RHアゴニスト群、主要評価項目は3年MFS率 研究グループは、StageT3またはT4/N0またはNx/M0で前立腺特異抗原(PSA)≧20ng/mLまたはGleasonスコア(範囲:2~10)6以上、あるいはPSA値やGleasonスコアにかかわらずN+かつM0の限局性前立腺がんを有する患者を、tE2群またはLH-RHアゴニスト群に割り付けた(最初の200例は2対1の割合、その後は1対1の割合)。 tE2群では、エストラジオール100μgを放出するtE2パッチを患者自身が貼付し、用量は週2回、4枚より開始して、4週時点で血清テストステロン値が去勢レベル(1.7nmol/L未満)に達していた場合は週2回、3枚に減量した。LH-RHアゴニスト群では、4週または12週ごとにLH-RHアゴニストを皮下投与した。 主要評価項目は、3年MFS率で、生存期間は無作為化から転移(骨盤リンパ節の進行を除く)の確認またはあらゆる原因による死亡までの期間と定義した。非劣性マージンは4%ポイントで、これはLH-RHアゴニスト投与で観察された3年MFS率から算出された目標ハザード比1.31に相当する。副次評価項目は、血清テストステロン値、全生存期間(OS)、および安全性であった。3年MFS率は87.1%vs.85.9%で、tE2パッチの非劣性を検証 2007~22年に、英国の75施設で1,360例の患者が登録された(tE2群721例、LH-RHアゴニスト群639例)。患者背景は、年齢中央値72歳(四分位範囲:68~77)で、85%(1,157例)がT3病期、65%(883例)がN0であった。 3年MFS率は、tE2群で87.1%、LH-RHアゴニスト群で85.9%(群間差:1.2%ポイント、95%信頼区間[CI]:-2.5~4.9)であった。転移または死亡のハザード比(HR)は0.96(片側95%CIの上限1.11)であり、非劣性の基準を満たした。 割り付けられた治療を継続した患者のうち、各群とも85%の患者において、無作為化後1年間、去勢レベルのテストステロン値が維持された。また、5年OS率は、tE2群で81.1%、LH-RHアゴニスト群で79.2%であった(死亡のHR:0.90、95%CI:0.75~1.07)。 安全性については、治療期間中、ほてりがtE2群で44%、LH-RHアゴニスト群で89%の患者に認められた(Grade2以上の事象はそれぞれ8%、37%)。また、女性化乳房がそれぞれ85%および42%に発生した(Grade2以上の事象はそれぞれ37%、9%)。

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MASLD患者の心血管疾患入院、糖尿病合併で院内死亡リスク約2倍

 代謝異常関連脂肪性肝疾患(MASLD)患者が心血管疾患(CVD)で入院した場合、糖尿病併存例では院内死亡や合併症のリスクが有意に高いことが、日本の大規模レジストリ研究で明らかになった。研究は、宮崎大学医学部内科学講座循環器・腎臓内科学分野の小牧聡一氏、松浦祐之介氏らによるもので、2月15日付の「Diabetic Medicine」に掲載された。 MASLDは、従来の非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)に代わる新たな疾患概念として提唱されており、世界で最も頻度の高い慢性肝疾患の一つとされる。CVDとの関連が強いことから心血管リスク評価の重要性が指摘されているが、診断基準を構成する各代謝因子が予後に及ぼす影響については、十分に明らかになっていなかった。糖尿病はMASLDにおける肝関連合併症との関連が知られる一方、CVDで入院したMASLD患者の院内転帰に及ぼす影響については不明な点が多かった。そこで研究グループは、日本全国の心血管入院データを用いて、MASLD患者における糖尿病と院内転帰(死亡・合併症)との関連を検討した。 本研究は、2012年4月から2023年3月までの全国規模の日本循環器疾患レジストリ(Japanese Registry of All Cardiac and Vascular DiseasesーDiagnosis Procedure Combination:JROADーDPC)のデータを用いた後ろ向き横断研究である。解析対象は、CVDで入院したMASLD患者10,614人。MASLDは、肝脂肪化に加え、少なくとも1つの心代謝リスク因子(高血圧、脂質異常症、糖尿病、関連薬剤の使用、またはBMI23kg/m2以上〔アジア人のBMI基準〕)を有する場合と定義した。主要評価項目は院内死亡、副次評価項目は主要な心血管系および非心血管系の院内合併症発生とした。統計解析では、糖尿病の有無による患者背景および転帰を比較したうえで、院内死亡との関連を検討するため多変量ロジスティック回帰解析を実施した。 対象患者の年齢中央値は66歳で、66.9%が男性だった。MASLD患者10,614人のうち、4,550人(42.9%)が糖尿病を合併していた。糖尿病非合併患者と比較して、糖尿病合併患者では虚血性心疾患(35.5% vs. 30.8%)、急性冠症候群(18.8% vs. 16.9%)、心不全(27.3% vs. 25.4%)の割合がいずれも有意に高かった(いずれもP<0.05)。 院内死亡率(5.6% vs. 3.3%、P<0.001)および全合併症発生率(23.6% vs. 19.7%、P<0.001)も糖尿病合併群で有意に高く、合併症発生率の差は主として心血管系イベント(16.8% vs. 10.5%、P<0.001)の増加によるものと考えられた。さらに心血管系イベントの内訳では、糖尿病合併例で入院後の心不全や急性冠症候群の発症が多く、大動脈内バルーンパンピング(IABP)、体外式膜型人工肺(ECMO)、人工呼吸管理などの高度治療を要する割合も高かった。 多変量ロジスティック回帰解析の結果、糖尿病は院内死亡の独立した予測因子であることが確認された(オッズ比 1.99、95%信頼区間 1.60~2.47、P<0.001)。さらに、敗血症、大出血、がんも院内死亡の独立した規定因子であった。一方、脂質異常症や虚血性心疾患は死亡リスク低下と関連し、抗血小板薬、スタチン、ACE阻害薬/ARBの使用も死亡率低下と関連していた。 著者らは、CVDで入院したMASLD患者において、糖尿病合併が院内死亡率および合併症発生率の上昇と関連していたと結論づけた。そのうえで、「MASLDの心代謝リスク因子が予後に及ぼす影響を一律に捉えるのではなく、特に糖尿病の有無といった代謝表現型に基づいて層別化して評価することが、より精度の高いリスク評価や個別化医療の推進につながる可能性がある」としている。 なお、本研究の限界として、診断が病名コードに基づくため誤分類の可能性がある点、検査値や治療詳細が含まれていない点、残余交絡の可能性や因果関係を示せない点、非MASLD対照群がない点が挙げられている。

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第56回 406万人の命が「食事」で防げる。世界204ヵ国のデータが突きつける、私たちの食卓への警告

先月、Nature Medicine誌に、食事と心臓病の関係を世界規模で解析した大規模研究が発表されました1)。世界204ヵ国からのデータをもとに、虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)の死亡・障害負担のうち、食事リスクに起因する割合を包括的に推計したものです。虚血性心疾患は、数十年にわたり世界の死因第1位であり続けています。「心臓病は生活習慣病」とよく言われますが、では実際にどの食習慣がどれほどのインパクトを持っているのか。この研究は、その問いに対してこれまでで最も精緻な答えを示しています。年間406万人の命を奪う「食卓のリスク」研究の結果、2023年に世界で食事リスクに起因する虚血性心疾患の死亡者数は約406万人と推計されました。これは虚血性心疾患による全死亡のかなりの割合を占めています。ただし明るい兆しもあります。1990年から2023年にかけて、食事に起因する虚血性心疾患の年齢調整死亡率は約43.9%低下しました。これは世界的な食生活改善や医療の進歩を反映していると考えられます。しかし、人口増加と高齢化の影響で、絶対的な死亡者数は約41.6%増加しており、問題の深刻さが解消されたわけではありません。「足りないもの」が心臓を蝕むこの研究で特に注目すべきは、心臓病リスクを高める食事要因の顔ぶれです。13の食事要因を個別に評価した結果、最も大きな死亡寄与を示したのは、ナッツ・種子類の摂取不足(10万人当たり9.87人の死亡に寄与)、全粒穀物の摂取不足(同9.22人)、果物の摂取不足(同7.25人)、そして食塩の過剰摂取(同7.15人)でした。つまり、「何を摂りすぎているか」よりも「何が足りていないか」のほうが、実は心臓にとってはより大きな脅威となっているようなのです。加工肉や砂糖入り飲料の過剰摂取ももちろんリスクではありますが、それ以上に、ナッツ、全粒穀物、果物、豆類といった「守るための食材」を日常的に食べていないことが、世界中で多くの命を奪っています。「減塩」だけでは不十分うれしいニュースとして、日本を含むアジア太平洋地域は、この研究で食事関連の虚血性心疾患負担が最も低い地域の一つでした(10万人当たり12.20人の死亡)。これは日本の食文化が持つ優位性を示唆するデータと言えるかもしれません。しかし、安心するのは早計です。日本では食塩の過剰摂取が依然として深刻な問題であり、地域別ランキングでも高い順位を占めています。加えて、全粒穀物やナッツ・種子類の摂取量は欧米と比べて少ない傾向にあります。白米中心の食事は日本の食文化の根幹ですが、精白米は全粒穀物の健康効果を享受できないという点では、改善の余地があるでしょう。これまで日本の循環器疾患対策では「減塩」が柱とされてきましたが、このデータは、それだけでは不十分であることを示唆しています。ナッツや全粒穀物、果物、豆類といった「心臓を守る食材」を意識的に食卓に加えていくことが、今後の日本における心疾患予防の新たな柱となる可能性があります。所得格差が「食の格差」を生むこの研究ではさらに、社会開発指標(SDI)の低い国ほど食事関連の虚血性心疾患負担が重いことも示されました。低所得国では、野菜、果物、全粒穀物、ナッツ、豆類といった保護的な食材へのアクセスが限られているために、心疾患のリスクが高くなっています。一方、高所得国では加工食品や砂糖入り飲料の過剰摂取が問題です。つまり、所得水準によってリスクの顔つきが異なるのです。この知見は、日本国内にも当てはまります。経済的に余裕のない世帯では、安価で高カロリーな加工食品に頼りがちになり、新鮮な果物やナッツ、全粒穀物といった食品の摂取が不足する傾向があることは、国内の研究でも指摘されています。食事による健康格差は、決して遠い国の話ではありません。研究の限界と、それでも揺るがない価値もちろん、この研究にも限界はあります。まず、各国の食事データの質にばらつきがあり、一部の国では推計モデルに依存しています。また、ここで示された食事の影響は、因果関係を保証するものではありません。さらに、各食事要因間の複合的な相互作用(たとえば、全粒穀物の摂取が多い人は全体的に食事の質が高い傾向にある、など)を完全には考慮できていません。しかし、204ヵ国を対象に13の食事要因を網羅的に評価し、33年間の推移を追跡したこの研究の規模と包括性は、他に類を見ません。「食事を変えることで心臓病の相当部分を予防できる」というメッセージは、これらの限界を踏まえてもなお、揺るぎないものです。明日から始められること最後に、この研究が示す教訓。それは、「減らす」ことだけでなく「加える」「替える」ことも大切だということです。食塩を減らす、砂糖を減らす、だけではなく、毎日の食事に一握りのナッツを添える、白米の一部を玄米や雑穀米に替える、果物を意識的に増やす。こうした小さな積み重ねが、10年後、20年後の心臓の健康を大きく左右する可能性があります。世界406万人の死というデータは衝撃的ですが、裏を返せば、それだけの命が「食卓を変えること」で守れる余地があるということ。壮大なデータが教えてくれたのは、毎日の食事の力がいかに大きいかということだったのです。 1) GBD 2023 IHD & Dietary Risk Factors Collaborators. Global, regional and national burden of ischemic heart disease attributable to suboptimal diet, 1990-2023: a Global Burden of Disease study. Nat Med. 2026 Mar 30. [Epub ahead of print]

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日本の乳がん・子宮頸がん・卵巣がんの5年純生存率の推移:2000~14年(CONCORD-3)

 日本の乳がん、子宮頸がん、卵巣がんの女性の5年純生存率は2000~14年に改善し、この期間を通じて世界的に高い水準を維持したことが世界的ながん生存率調査プログラムであるCONCORD-3の日本人データを用いた分析により示された。神奈川県立がんセンターの渡邉 要氏らがJapanese Journal of Clinical Oncology誌2026年3月号で報告した。 本研究は、国内16の地域がん登録データから、2000~14年に乳房、子宮頸部、卵巣に原発する腫瘍と診断された15~99歳の女性のデータを分析した。追跡期間は診断後5年間、もしくは2014年12月31日までとした。上皮内がんや死亡診断書のみの登録は除外した。5年純生存率は、診断の暦年、形態、および病期別にPohar-Perme法を用いて推定し、International Cancer Survival Standard(ICSS)の重み付けを用いて年齢を調整した。 主な結果は以下のとおり。・2000年から2014年の間に、乳がんの5年純生存率は、85.9%(95%信頼区間:85.2~86.6)から89.4%(同:88.9~89.9)に、子宮頸がんの5年純生存率は67.5%(同:66.3~68.7%)から71.4%(同:70.4~72.3)に、卵巣がんの5年純生存率は35.5%(同:33.8~37.%)から46.3%(同:44.9~47.7)に改善した。・局所のStageで診断された腫瘍の5年生存率は一貫して高く(乳がんは98%超、子宮頸がんは90%超)、卵巣がんの生存率は形態によって大きく異なった。 著者らは「この改善は、乳がんおよび子宮頸がんの早期発見と、あらゆるがんに対する集学的治療の進歩によるものと考えられる。遠隔転移を伴う子宮頸がんおよび卵巣がんの生存率は依然として課題であり、検診と治療戦略の強化の必要性が改めて浮き彫りになった」と結論している。

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脳ケアスコア「BCS」が高いほど脳卒中発症リスクが低い

 米マサチューセッツ総合病院のEvy M. Reinders氏らは、脳卒中リスクの地理的・人種的差異を探る前向きコホート研究(Reasons for Geographic and Racial Differences in Stroke;REGARDS)のデータを解析。修正可能な12項目の因子を評価する「脳ケアスコア(Brain Care Score;BCS)」が良好であるほど、脳卒中発症リスクが低いことを見いだした。詳細は「Neurology」に12月18日掲載された。 この研究では、REGARDS参加者のうち、ベースラインで脳卒中の既往がなく、BCSスコア算出に必要なデータに欠落のない1万861人(平均年齢63.2±8.4歳、女性57.4%、黒人30.6%)を解析対象とした。解析に際しては、米国では脳卒中リスクに人種差があることから、黒人と白人を層別化して比較検討した。 BCSスコアは、脳卒中や認知症、老年期うつ病のリスクに関連している、BMI、血圧、血糖値、コレステロール、喫煙・飲酒・食事・運動・睡眠習慣、ストレスなど、修正可能な12項目を評価する。スコア範囲は0~21点で、スコアが高いほど脳ケアが優れていることを意味する。本研究の解析対象者のベースライン値は14.4±2.4で、黒人(13.8±2.5)は白人(14.7±2.3)より低値だった(P<0.001)。 中央値15.9年の追跡で696件の脳卒中(虚血性、出血性、およびくも膜下出血)が発生した。カプランマイヤー解析での脳卒中累積発生率は全体で6.2%であり、人種別でも黒人・白人ともに6.2%であった。交絡因子(年齢、性別、収入、教育歴、医療保険、居住地域など)を調整した解析からは、黒人ではBCSスコアが5点高いごとに脳卒中リスクが53%低い(ハザード比〔HR〕0.47〔95%信頼区間0.36~0.61〕)という有意な関連が認められた。それに対して白人では25%のリスク低下にとどまり(HR0.75〔同0.62~0.92〕)、関連の強さに有意差があった(P=0.0045)。 脳卒中のタイプ別の解析では、虚血性脳卒中では全体解析と同様の傾向が観察された。一方、出血性脳卒中に関しては症例数が少ないため不確実性が大きく、統計学的に有意な関連が見られなかった。 Reinders氏は、「身体的要因、生活習慣要因、および社会心理学的要因を統合して脳の健康状態を測るBCSスコアを用いた検討により、特に黒人などの脳卒中リスクの高い集団で、生活習慣の改善がより大きなリスク抑制につながる可能性が示唆された」と総括している。 なお、1人の著者が製薬企業との利益相反(COI)に関する情報を開示している。

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EGFR変異陽性NSCLC、オシメルチニブに局所療法を追加すべき患者は?(NorthStar)/ELCC2026

 EGFR遺伝子変異陽性の局所進行または転移を有する非小細胞肺がん(NSCLC)において、局所地固め療法(LCT)の有効性や、LCTのベネフィットを受ける集団は、十分に検討されていない。そこで、未治療のEGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者を対象に、導入療法後のオシメルチニブ+LCTの有用性を検討する海外第II相無作為化比較試験「NorthStar試験」が実施されている。本試験の1次解析では、LCTの追加により主要評価項目の無増悪生存期間(PFS)が改善したことが示された。また2次解析の結果、導入療法後のリンパ節転移の消失や胸水の消失が、LCTの有効性の予測因子となる可能性が示された。欧州肺がん学会(ELCC2026)において、Saumil N. Gandhi氏(米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンター)が本試験の2次解析の結果を報告した。・試験デザイン:海外第II相無作為化比較試験・対象:未治療の局所進行または転移を有するEGFR遺伝子変異(exon19欠失またはL858R)陽性のNSCLC患者のうち、導入療法としてオシメルチニブ(6~12週間)が投与され、病勢進行が認められなかった患者・試験群(LCT群):LCT(放射線療法または手術)+オシメルチニブ継続(56例)・対照群:オシメルチニブ継続(63例)・評価項目:[主要評価項目]PFS[2次解析の評価項目]安全で効果的な放射線療法の実施方法、LCTによるベネフィットが得られる患者の予測因子、LCT後の再発パターン など 主な結果は以下のとおり。・対象患者のうち、ベースライン時(導入療法開始前)に転移数が3以下であった割合は29%、3超であった割合は71%であった。LCT群に割り付けられた患者のうち、ベースライン時の転移数が3超であった患者の59%がLCTを完遂した。・1次解析においてPFS中央値はLCT群25.3ヵ月、対照群17.5ヵ月であり、LCT群でPFSが改善した(ハザード比[HR]:0.66、片側90%信頼区間[CI]:0.50~0.87)。・LCT群のうち、放射線療法を受けた患者の約80%が放射線療法の期間もオシメルチニブを継続していたが、Grade1~3の肺臓炎の発現割合は約17%と許容可能であった。肺V20Gy(20Gy以上の線量が照射される肺の体積割合)が25%以上の患者では肺臓炎が44%(4/9例)に発現したのに対し、25%未満の患者では7%(2/29例)であり、肺V20Gy 25%以上で肺臓炎リスクが高かった(p<0.007)。・原発巣に対する放射線の生物学的実効線量(BED)が高い場合、PFSが良好であった。PFS中央値はBED 75Gy以上の集団49.1ヵ月、BED 75Gy未満の集団22.3ヵ月であった(HR:0.31、90%CI:0.14~0.70、p=0.006)。・導入療法後のPET/CTまたはCTに基づくリンパ節転移の消失は、LCT群の良好なPFSと関連していた。PFS中央値はリンパ節転移消失の集団49.1ヵ月、リンパ節転移残存の集団22.3ヵ月であった(HR:0.34、90%CI:0.15~0.76、p=0.011)。・導入療法後にリンパ節転移が残存していた集団では、LCTの追加によるPFSの延長は認められなかった。この集団のPFS中央値はLCT群19.0ヵ月、対照群15.9ヵ月であった(HR:0.93、90%CI:0.60〜1.43)。一方、リンパ節転移が消失した患者では、LCT群でPFSの改善がみられた(41.5ヵ月vs.19.6ヵ月、HR:0.43、90%CI:0.23~0.78、p=0.008)。・導入療法後に胸水が残存していた集団では、LCTの追加によるPFSの延長は認められなかった。この集団のPFS中央値はLCT群15.3ヵ月、対照群12.9ヵ月(HR:0.90、90%CI:0.52〜1.55)であった。無作為化時点で胸水がない集団では、LCT群でPFSが良好な傾向がみられた(32.7ヵ月vs.22.3ヵ月、HR:0.63、90%CI:0.39~1.02)。・LCT群における再発は、局所領域のみの再発は約20%であり、大部分が遠隔転移であった。

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第38回 交通事故の原因は?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)外傷は受傷機転を意識しよう!2)ショックの初動を理解しよう!3)ショックの鑑別に「初動を変える原因」を1度は考えよう!【症例】63歳男性。軽自動車を運転中、スピードはそれほど出ていなかったものの、電柱に追突した。目撃した通行人が救急要請。●受診時のバイタルサイン意識1/JCS血圧80/48mmHg脈拍108回/分(整)呼吸24回/分SpO293%(RA)体温36.5℃瞳孔3/3mm +/+既往歴心筋梗塞ショックの原因今回の症例、皆さんであればどのように対応するでしょうか。交通事故の傷病者ですから、外傷に伴う出血などを念頭に精査するでしょうか。少なくとも血圧の低下、頻脈を認めショックであることはすぐにわかると思います。外傷の初期診療としては、JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)などにのっとって、まずABC(気道・呼吸・循環)の安定化を図ります。大量出血の可能性のある胸腹部外傷や骨盤骨折などを念頭に対応することになりますが、今回の症例では、目撃者情報からも、高エネルギー外傷ではなく、本人にも明らかな疼痛の訴えはありませんでした。ショックは大きく、(1)血液分布異常性ショック(Distributive shock)、(2)循環血液量減少性ショック(Hypovolemic shock)、(3)心原性ショック(Cardiogenic shock)、(4)閉塞性ショック(Obstructive shock)に分類されます。このうち頻度が高いのは、(1)の血液分布異常性ショック、とくに敗血症性ショックでしょう1,2)(表1)。一方で、今回のような外傷では、当然ながら出血に伴う(2)循環血液量減少性ショックも考える必要があります。表1 ショックの原因@ER画像を拡大するショックの鑑別:評価すべきHi-Phy-Vi細かな原因まで同定できなくても、病態として4つのうちどれに該当するのかは、病歴(History)、身体所見(Physical examination)、バイタルサイン(Vital signs)を意識して評価すれば、おおよそ見当をつけることができます。最低限、以下の事項は迅速に確認しましょう。病歴では、今回のような外傷や吐下血、血便などのエピソードがあれば、出血に伴う(2)循環血液量減少性ショックを考えます。数時間から数日の経過で発症し、とくに発熱など感染を示唆する所見があれば、敗血症に代表される(1)血液分布異常性ショックを考えます。また、胸痛や呼吸困難などの症状が突然、あるいは急性に出現し、ショック徴候を伴う場合には、(3)心原性ショックだけでなく、(4)閉塞性ショックも念頭に置く必要があります。身体所見では、頸部や皮膚所見に注目します。(1)と(2)では、絶対的あるいは相対的に血管内ボリュームが不足するため、頸静脈は臥位でも虚脱していることが多いです。その一方で、(3)や(4)では頸静脈怒張を認めることがあります。バイタルサインでは、多くの場合、頻呼吸、頻脈、血圧低下を認めますが、脈圧にも注目しましょう。脈圧が収縮期血圧の25%未満であれば、心拍出量低下が示唆され、心原性ショックを考える手がかりになります。超音波が使用可能であれば、RUSH(Rapid Ultrasound in Shock)プロトコルなどを用いて、ショックの鑑別を体系的に評価しましょう。超音波は術者の技量に依存しますが、だからこそ普段から意識して技術を磨き、ショック患者に対しても迅速かつ自信を持ってプローブを当てられることは大きな強みになります。FAST(Focused Assessment with Sonography for Trauma)陰性を確認するだけで安心してはいけません。1度は早期に考慮すべきショックの原因多くのショックは、細胞外液投与を行い、それでも目標血圧を達成できなければノルアドレナリンなどの昇圧薬を用いることで、ある程度バイタルサインを安定化させることができます。しかし、それだけでは対応できないショックの原因もあります。私は表2の5つを意識しています。表2 ショックの「初動を変える原因」(1)アナフィラキシーアナフィラキシーの治療はアドレナリンが第1選択です。成人であれば、大腿外側に0.5mgを筋注します。細胞外液投与も必要ですが、アドレナリンを早期かつ適切に投与できるかどうかが予後を左右します。(2)出血外傷や消化管出血による大量出血では、細胞外液投与だけでは対応できません。失っているのは血液ですから、細胞外液は過量にならないよう注意しつつ、輸血を早期に考慮する必要があります。(3)中毒中毒では、解毒薬や拮抗薬が存在する場合があります。頻度は高くありませんが、通常のショックとは反応が異なると感じた場合には、鑑別として意識しておくとよいでしょう。(4)閉塞性ショックショックの4分類の1つですが、決して頻度は高くありません(表1)。しかし、脱気や心膜穿刺などの処置が必要になるため、必ず1度は考える必要があります。(5)ショック+徐脈ショックでは通常、頻脈になります。それにもかかわらず、血圧低下やショック徴候を認めているのに徐脈である場合には、表3のような病態を考える必要があります。とくに、高K(カリウム)血症、徐脈性不整脈、下壁梗塞では迅速な対応が求められます。心電図と血液ガス検査は早期に確認しましょう3)。表3 ショック+徐脈今回の症例では、来院後に身体所見をくまなく確認したところ、下腹部から臀部、さらに下腿にかけて皮疹を認め、強制呼気で喘鳴を聴取しました。そうです。原因は「アナフィラキシー」だったのです。アナフィラキシーに伴う意識消失とショックによって事故を起こしていたのでした。外傷後であり、さらに心筋梗塞の既往もあったため、現場の救急隊はショックの原因として出血や心原性は考慮していたものの、アナフィラキシーは鑑別に挙がらず、皮疹の存在にも気付いていませんでした。アナフィラキシーでは、約10%で皮疹を認めないとされますが、多くの症例では皮膚症状を伴います。ただし、疑って皮膚所見を探しにいかなければ、その存在に気付かないことも少なくありません。急性発症の皮膚症状に加えて、呼吸器症状(喘鳴など)、循環器症状(失神など)、消化器症状(嘔気・嘔吐、腹痛など)を認める場合には、1度はアナフィラキシーの可能性を意識し、病歴と身体所見を丁寧に評価しましょう。 1) Standl T, et al. Dtsch Arztebl Int. 2018;115:757-768. 2) Cecconi M, et al. Intensive Care Med. 2014;40:1795-1815. 3) 坂本 壮. 救急外来ただいま診断中 第二版. 中外医学社. 2024.

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日本の成人血液腫瘍の5年純生存率の推移:2000~14年(CONCORD-3)

 日本における成人血液腫瘍患者の5年純生存率(net survival)は2000~14年に全体的に改善し、その改善は高齢患者よりも若年患者においてより顕著であったことが、世界的ながん生存率調査を目的としたCONCORD-3プログラムの日本人データを用いた分析により示された。国立病院機構 四国がんセンターの吉田 功氏らがJapanese Journal of Clinical Oncology誌2026年3月号で報告した。 本研究では、国内16の地域がん登録データから2000~14年に骨髄系またはリンパ球系悪性腫瘍と診断され、2014年12月31日まで追跡された成人患者(15~99歳)のデータを分析した。Pohar-Perme法を用いて年齢層および形態学的サブタイプごとの5年純生存率を推定し、International Cancer Survival Standard(ICSS)の重み付けを用いて年齢を調整した。 主な結果は以下のとおり。・骨髄系腫瘍の5年純生存率は、15~44歳の患者では2000~04年の57.3%から2010~14年の72.3%へ、45~54歳の患者では同期間に41.9%から61.3%へ有意な改善が認められた。・リンパ球系腫瘍では全年齢層で5年純生存率が改善したが、高齢患者における改善はそれほど顕著ではなかった。・骨髄増殖性腫瘍、古典的ホジキンリンパ腫、濾胞性リンパ腫では、5年純生存率が10%以上改善した。びまん性B細胞リンパ腫および急性骨髄性白血病では、中程度の改善が認められた。

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