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1.

開胸手術は不要に? 世界初の低侵襲冠動脈バイパス術が登場

 動脈の詰まりによって起こる心疾患に苦しむ人に対する開胸手術は、近い将来、過去のものになるかもしれない。心疾患の長い既往歴を持つ67歳の男性に対して、胸壁を切開せずに行う世界初の低侵襲冠動脈バイパス術のVECTOR法(Ventriculo-coronary transcatheter outward navigation and reentry)が実施され、成功裡に終えたことが明らかにされた。手術から6カ月が経過しても、男性には動脈の詰まりに起因する心臓の問題は一切認められなかったという。米エモリー大学医学部のAdam Greenbaum氏らによるこの症例報告は、「Circulation: Cardiovascular Interventions」に1月6日掲載された。 Greenbaum氏は、「この患者は多くの治療歴があり、血管疾患やその他の複雑な要因を抱えていたため、開胸手術は選択肢になかった。このような症例において低侵襲な代替手段があることは、極めて重要だ」とニュースリリースで述べている。 冠動脈バイパス術とは、血流が著しく阻害された動脈を迂回し、心臓に血液と酸素を届ける新たな通路を作る手術である。これまで、最も低侵襲とされる冠動脈バイパス術でさえ、肋骨の間から胸部を切開し、筋肉を押し分け、骨を切除して手術部位に到達する必要がある。 これに対し、VECTOR法は、脚の血管(大腿動脈)からガイドカテーテルを挿入し、大動脈を経由して左冠動脈主幹部まで到達させる。また、大腿静脈からもガイドカテーテルを挿入して右心室に到達させ、スネア(ワイヤーなどを引っ掛けて回収する輪状のワイヤー)を配置する。その後、大腿動脈側のガイドカテーテルを介してガイドワイヤーを挿入し、左冠動脈主幹部から心筋中隔へ導き、中隔枝を介して右心室にワイヤーを貫通させる。次いで、右心室内に配置したスネアを操作してガイドワイヤーの先端を捕捉し、そのままワイヤーを大腿静脈側から体外へ引き出す。こうして大動脈から静脈までの連続したガイドワイヤーレールが形成され、これを足場として、治療用ガイドワイヤーやデバイスを、逆行性に左冠動脈主幹部内へ送達することが可能になる。 VECTOR法は、人に使用される以前は動物を用いた一連の前臨床試験で実証されていた。今回、VECTOR法が実施された男性は、カルシウムの蓄積により人工心臓弁の交換が必要な状態だった。しかし、左冠動脈の開口部が弁に非常に近接していたため、通常の経カテーテル大動脈弁置換術を行うと血流が遮断される可能性が高かった。Greenbaum氏は、「そこでわれわれは、冠動脈の開口部を危険域の外に移動させてしまえばよいのではないかと考えた」と振り返る。 研究グループは、VECTOR法が広く臨床で使われるようになるには、今後さらに多くのヒトを対象とした試験が必要だと述べている。報告書の筆頭著者である米エモリー大学心臓病学分野のChristopher Bruce氏は、「この成果を得るには、従来の枠にとらわれない発想が必要だったが、われわれは、非常に実用的な解決策を開発したと考えている」と話している。同氏は、「構想から動物実験、そして臨床応用へと、このプロジェクトが比較的短期間で実現したのを見るのは、極めて感慨深いことだった」と付け加えている。 なお、VECTOR法に関する研究は、米国国立心肺血液研究所(National Heart, Lung, and Blood Institute)の支援を受けて実施された。

2.

診療科別2025年下半期注目論文5選(消化器内科編~肝胆膵領域)

The Lancet Commission on addressing the global hepatocellular carcinoma burden: comprehensive strategies from prevention to treatmentChan SL, et al. Lancet. 2025;406:731-778.<Lancet誌委員会レビュー>:肝がん、2050年に全世界で倍増する可能性肝がんは、適切な対策を講じなければ2050年に152万人へと倍増する可能性があるとLancet誌が報告しています。地域ごとの背景は大きく異なり、中国では肝がん対策の進展が停滞し、欧州や北米ではMASLDやアルコール関連肝障害に伴う発がんが増加しています。またアフリカでは、人口増加に加え高いウイルス性肝炎の有病率が危惧されています。この“倍増の危機”を抑えるためには、国際的な協調や対策の強化が喫緊の課題です。Association between longitudinal weight change and clinical outcome in individuals with MASLDShi Y, et al. Hepatology. 2025 Oct 8. [Epub ahead of print]<1万例超対象の国際共同研究>:MASLD患者における体重変化の臨床転帰への影響国際共同研究によるMASLD 10,014例の解析により、これまで漠然と重要視されてきた“体重変化”が、治療評価に直結する強力なエビデンスとして示されました。5%超の体重増加は肝関連イベントの増加と肝硬度悪化、5%超の減量は改善と関連。GLP-1RA/SGLT2i使用を調整しても、体重変化自体が独立した主要因でした。Risk of de novo HCC in patients with MASLD following direct-acting antiviral-induced cure of HCV infectionLiu CH, et al. J Hepatol. 2025;82:582-593.<DAA後の新規肝がん発症リスク>:MASLDを有する患者では発がん率が約2倍C型肝炎は直接作用型抗ウイルス薬(DAA)でほぼ100%治癒する時代ですが、その後の肝がん管理は依然として重要です。本研究ではC型肝炎治療後の1,598例を解析し、MASLDを有する患者では発がん率が約2倍に上昇していました。MASLDはそれ自体が肝がんリスクを高めるだけでなく、肥満や糖尿病などの心代謝危険因子(CMRFs)を介して肝がん発症を促す“橋渡し役”にもなっていることが明らかになりました。ウイルス学的著効(SVR)後もMASLDとCMRFsの適切な管理と、継続的なHCCサーベイランスが不可欠です。Neoadjuvant FOLFIRINOX versus neoadjuvant gemcitabine-based chemoradiotherapy in resectable and borderline resectable pancreatic cancer (PREOPANC-2): a multicentre, open-label, phase 3 randomised trialJanssen QP, et al. Lancet Oncol. 2025;26:1346-1356.<PREOPANC-2試験>:切除可能・境界切除可能膵がんに対するFOLFIRINOX、OSに有意差認めずFOLFIRINOXは切除可能・境界切除可能膵がんに対し、ゲムシタビン併用化学放射線療法と比較して全生存期間(OS)の延長を示しませんでした。安全性は両群で許容可能と判断され、どちらの術前療法も臨床的に選択肢となりうることが示されました。IgG4-related disease in the Japanese population: a whole-genome sequencing studyZhang YO, et al. Lancet Rheumatol.2026;8:e11-e22.<日本のIgG4関連疾患における全ゲノム解析>:HLA・FCGR2Bに加え、C4コピー数変動が新たな感受性因子として同定日本人における自己免疫性膵炎をはじめとしたIgG4関連疾患患者を対象とした全ゲノム解析により、既知のHLA・FCGR2Bに加え、補体C4が独立した遺伝的感受性因子であることが示されました。また、PTCH1およびlncRNA LOC102724227がミクリッツ病特異的な感受性遺伝子として明らかになり、IgG4関連疾患の臓器多様性を生む遺伝的多様性が示唆されました。

3.

日本人高齢者の緊急入院で死亡率が高いのは? インフルvs.コロナvs.RSV

 50歳以上(平均年齢81.4歳)を対象とした前向きコホート研究において、急性呼吸器症状による緊急入院では、RSウイルス(RSV)陽性者がSARS-CoV-2やインフルエンザA/B陽性者と比較して、30日全死亡率が高かった。このことからRSV感染症は、高齢者の看過できない死亡リスク因子であることが示唆された。本研究結果は、森本 剛氏(兵庫医科大学)らによって、Clinical Microbiology and Infection誌オンライン版2026年1月10日号で報告された。 研究グループは、日本の3施設(島根県立中央病院、洛和会音羽病院、奈良市立病院)において、急性呼吸器症状または徴候を呈して緊急入院した50歳以上の成人を対象に、前向きコホート研究「EVERY study」を実施した。登録期間は2023年7月1日~2024年12月31日とした。入院後24時間以内に採取された鼻咽頭ぬぐい液を用いて、FilmArray呼吸器パネル2.1による多項目遺伝子検査を行い、RSV、SARS-CoV-2、インフルエンザA/Bの陽性割合と臨床転帰(30日全死亡、下気道疾患[LRTI]、modified LRTI[画像所見を組み込んだ定義])を検討した。また、ワクチン接種歴(COVID-19[新型コロナウイルス感染症]ワクチンとRSVワクチンは過去に1回以上接種で接種あり、インフルエンザワクチンは当該シーズンに1回以上接種で接種ありとした)も調べた。 主な結果は以下のとおり。・解析対象となった3,067例(平均年齢81.4歳、男性55.3%)において、各ウイルスの陽性割合は、インフルエンザA/Bが2.3%、SARS-CoV-2が18.0%、RSVが1.6%であった。・解析対象(3,067例)のワクチン接種割合は、インフルエンザワクチン37.9%、COVID-19ワクチン62.3%、RSVワクチン0%であった。・抗ウイルス薬の投与割合は、インフルエンザA/B群62.3%、SARS-CoV-2群71.8%、RSV群0%であった。・30日全死亡率は、インフルエンザA/B群が2.9%であったのに対し、SARS-CoV-2群8.4%、RSV群14.3%であった。・インフルエンザA/B群を対照とした場合の30日全死亡の調整オッズ比は、SARS-CoV-2群が2.9(95%信頼区間[CI]:0.83~17.9)、RSV群が5.2(95%CI:1.2~36.7)であり、RSV群が高かった。・入院時のLRTIの割合は、インフルエンザA/B群88.4%、SARS-CoV-2群82.8%、RSV群87.8%であった。modified LRTIは、それぞれ95.7%、93.1%、93.9%といずれも高率であった。 本研究結果について、著者らは「急性呼吸器症状で緊急入院する高齢者において、RSVはインフルエンザやCOVID-19よりも高い死亡率に関連するリスク因子であった」と結論付けている。また「RSV陽性者の高い死亡率の背景には、抗ウイルス薬の使用機会がないことやワクチン未接種が影響している可能性がある」と考察し、日常診療におけるRSVの認識向上とともに、ワクチン接種を含む予防の重要性を強調している。

4.

DM合併冠動脈疾患、Abluminus DES+シロリムスステントの有用性は?/Lancet

 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受ける糖尿病合併患者において、血管壁側(abluminal)およびバルーン表面をコーティングしたシロリムス溶出ステント(Abluminus DES+SES)は、XIENCE耐久性ポリマーエベロリムス溶出ステント(XIENCE EES)と比較し、12ヵ月時の虚血による再度の標的病変血行再建術および標的病変不全の発生率が高く、非劣性は認められなかった。ブラジル・Heart Institute of University of Sao PauloのAlexandre Abizaid氏らが、16ヵ国74施設で実施した無作為化非盲検比較試験「ABILITY Diabetes Global試験」の結果を報告した。著者は、「糖尿病合併患者における治療成績の最適化が依然として課題であることが浮き彫りとなり、この患者集団における虚血リスクを低減するためステント設計および補助的薬物療法のさらなる革新が必要である」とまとめている。Lancet誌2026年1月17日号掲載の報告。Abluminus DES+SESのXIENCE EESに対する非劣性を評価 研究グループは、慢性冠症候群または非ST上昇型急性冠症候群で少なくとも1つの新規冠動脈病変に対しPCIを施行する1型または2型糖尿病の成人(18歳以上)患者を、Abluminus DES+SES群またはXIENCE EES群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 Abluminus DES+SES群では、薬剤移行を促進するためにバルーン拡張時間を45秒以上とすることが推奨された。また、全例に、臨床ガイドラインおよび現地の標準治療に基づいて2剤併用抗血小板療法を行った。 主要エンドポイントは、per-protocol集団における12ヵ月時点の虚血による再度の標的病変血行再建術(ID-TLR)および標的病変不全(TLF)(心血管死、標的血管心筋梗塞、またはID-TLRの複合エンドポイントと定義)の2つで、非劣性マージンはそれぞれ2.8%および3.0%とした。いずれも累積発生率はKaplan-Meier法で推定し、Cox比例ハザードモデルを用いてハザード比(HR)とその95%信頼区間(CI)を算出した。複合主要エンドポイントのID-TLRとTLFの発生、非劣性基準を満たさず 2020年6月12日~2022年9月9日に、3,032例がAbluminus DES+SES群(1,514例)またはXIENCE EES群(1,518例)に無作為に割り付けられた。3,032例中2,931例(96.7%)が死亡までまたは24ヵ月間の追跡調査を完了した。年齢中央値は68.0歳(四分位範囲:60~74)で、879例(29.0%)が女性、2,153例(71.0%)が男性であった。 per-protocol集団における12ヵ月時のID-TLRは、Abluminus DES+SES群で1,421例中67例(Kaplan-Meier推定値:4.8%、95%CI:3.9~6.2)、XIENCE EES群で1,446例中30例(2.1%、1.6~3.2)に認められ、絶対リスク群間差は2.7%(95%CI:1.3~4.1)で非劣性基準を満たさなかった(非劣性のp=0.44)。 また、TLFはAbluminus DES+SES群で137例(Kaplan-Meier推定値:9.7%、95%CI:8.4~11.5)およびXIENCE EES群で89例(6.2%、5.3~7.8)に認められ、絶対リスク群間差は3.5%(95%CI:1.5~5.5)であり(非劣性のp=0.68)、いずれの主要エンドポイントも絶対リスク群間差の95%CIの下限が0を上回った。 TLFを個別にみると、標的血管心筋梗塞は、Abluminus DES+SES群のほうが発生率は高かったが(Kaplan-Meier推定値:5.2%[95%CI:4.1~6.5]vs.3.1%[2.4~4.3])、心血管死(2.9%[2.1~3.9]vs.2.1%[1.5~3.0])および全死因死亡(3.7%[2.8~4.8]vs.3.3%[2.5~4.4])に有意差は認められなかった。 結果は、24ヵ月時点でもITT集団において一貫性が認められたが、12ヵ月から24ヵ月までのランドマーク解析では、両群間に有意差は認められなかった。

5.

不安定な外果骨折、ギプス固定は手術に非劣性/BMJ

 初回X線検査で足関節窩が整合しており安定とみられたものの、外旋ストレステストでは不安定と判定されたWeber分類タイプBの足関節外果単独骨折の治療において、ギプス固定は手術に対して非劣性であることが認められ、概してギプス固定は手術と比較し治療関連有害事象が少ないことが示された。フィンランド・オウル大学病院のTero Kortekangas氏らが、同大学病院の外傷専門センターで実施した実用的無作為化非劣性試験「SUPER-FIN試験」の結果を報告した。足関節骨折の約3分の2は外果骨折(Weber B)である。最近の臨床試験やガイドラインでは、特定の患者に対し保存治療を支持するケースが増えているが、不安定なWeber B外果骨折に対しては主たる治療として手術が行われる状況が続いていた。BMJ誌2026年1月14日号掲載の報告。6週間ギプス固定と、手術+6週間ギプス固定で、2年時のOMASを比較 研究グループは、2012年12月~2019年3月に来院した、足関節外果(腓骨)単独骨折(Weber B)を認め静止X線で足関節窩が整合していることが確認された、16歳以上の全患者840例を対象に試験を行った。外旋ストレステストを実施し、ストレス陽性(内側クリアスペースが5mm以上の場合を不安定と定義)が確認され適格基準を満たした126例を、6週間のギプス固定群または開放整復とプレート固定による手術と6週間のギプス固定を行う手術群に、1対1の割合で無作為に割り付け2年間追跡した(最終追跡調査は2021年7月7日)。 主要アウトカムは、2年時のOlerud-Molander Ankle Score(OMAS、0~100点、高スコアほどアウトカムが良好で症状が少ないことを示す)で、非劣性マージンは-8点と規定した。副次アウトカムは、足関節機能、疼痛、健康関連QOL、足関節可動域およびX線所見で、治療関連有害事象も評価した。ギプス固定の非劣性が認められた 無作為化された患者126例のうち2年間の追跡調査を完遂した121例(96%)を主要解析対象集団とした。 2年時のOMAS(平均±SD)は、ギプス固定群89±17点、手術群87±16点で、平均群間差は1.3点(95%信頼区間:-4.8~7.3)であった。副次アウトカムはいずれも、統計学的に有意な群間差は認められなかった。 各群で1例に骨癒合不全のX線所見が認められた。また、手術群では、浅部創傷感染が1例、創傷治癒遅延が1例に認められ、9例が金属器具除去処置を受け、うち2例に術後感染(深部1例、浅部1例)が発生した。

6.

重度の慢性便秘に対する手術は「最終手段」

 米国消化器病学会(AGA)が発表した新しいガイドラインにおいて、重度の慢性便秘患者に対する外科的手術は最終手段とすべきことが明示された。治療に反応しない難治性便秘の患者に対しては、結腸の一部または全てを切除する結腸切除術を検討することがある。しかし、ガイドラインの著者らは、結腸切除術は重大な健康リスクを伴い、必ずしも症状の改善につながるわけではないとしている。米マサチューセッツ総合病院(ボストン)消化器運動研究室ディレクターのKyle Staller氏らがまとめたこのガイドラインは、「Clinical Gastroenterology and Hepatology」に1月7日掲載された。 Staller氏は、「慢性便秘に何年も苦しんできた人にとって、手術は永続的な解決策に聞こえることがある。特に、多くの薬が効かなかった場合にはなおさらだ」と話す。同氏はさらに、「検査で、結腸の動きが極端に遅く、他の治療で何も効果が得られない場合に手術が検討されることがある。しかし、手術はほとんどの患者には適しておらず、事実上リスクを伴い、手術後も腹部膨満感、腹痛、排便コントロール困難などの症状が続く人もいる」と述べている。 米国では約8~12%の人が慢性便秘に苦しんでいると推定されている。Staller氏は、「多くの人は、生涯のどこかの時点で便秘を経験するが、食事の見直し、食物繊維や水分の摂取、市販の下剤の使用といった簡単な対策で改善する。難治性便秘はそれとは別物であり、時間をかけて処方薬やバイオフィードバック、骨盤底筋療法を試しても改善しない状態を指す」と説明している。一方、結腸切除術は、腸閉塞、持続性の腹痛、腹部膨満感、便秘の再発、下剤への継続的依存など、高い合併症率と関連しているという。 新ガイドラインでは、手術を検討する前に踏むべき複数のステップが示されている。例えば、まずは慢性便秘の原因から薬剤の副作用、神経疾患、精神的問題を除外すべきことが述べられている。オピオイド系鎮痛薬や抗精神病薬、鉄剤は便秘を引き起こすことが知られている。また、膀胱疾患、アレルギー、気分障害の治療に使われる抗コリン薬も、腸の不随意運動に関与する神経伝達物質の働きを阻害するため、便秘と関連している。さらに、パーキンソン病や多発性硬化症といった神経疾患、摂食障害や抑うつ・不安などの精神的な問題も便秘リスクに影響する。 精神的な問題が便秘に関与することもあるため、術前の心理評価も意思決定プロセスの重要な一部として推奨されている。また、米食品医薬品局(FDA)の承認薬や市販薬に加え、便秘への有効性が示されている適応外使用薬も全て試すべきだとされている。さらに、大腸通過時間検査や排便造影検査など、結腸機能に加えて腸管全体の活動を評価する検査の実施を推奨している。その上で、最終手段として、一時的人工肛門(ストーマ)の使用を推奨している。これは可逆的で、恒久的な結腸切除が有益かどうかを判断する材料になる。 以上のように、ガイドラインは、手術には慎重な個別判断が必要であることを強調している。Staller氏は、「最良の結果は、十分な準備と共有された意思決定から生まれる。手術が本当に必要な場合でも、現実的な期待を持ち、消化器内科医、外科医、精神医療専門家が連携することで最善の結果が得られる」と述べている。 Staller氏は、慢性便秘のリスクを下げるためにできることとして、1)便秘を悪化させる薬剤について、定期的に医師と見直すこと、2)食事を極端に制限するのではなく規則正しく摂取すること、3)腸の運動を促すために身体的に活発に過ごすこと、4)便意のあるときは我慢せずに排泄すること、5)症状が続く場合は自己判断で治療を強化せず、医療機関を受診すること、を挙げている。また、正常な排便習慣には個人差があり、毎日排便する必要はないことも付け加えている。さらに同氏は、「何より重要なのは、便秘はしばしば長期的な管理を要する慢性疾患であると理解することだ。それがフラストレーションを防ぎ、症状が重症化・難治化するリスクを減らすことにつながる」と述べている。

7.

うつ病か?せん妄か?うつ病の過剰診断の現状

 精神科以外の臨床医によるうつ病とせん妄の誤診は一般的である。うつ病の過剰診断は、正常な情緒反応へのスティグマやせん妄への対応遅延につながる可能性がある。米国・クリーブランド・クリニックのMolly Howland氏らは、精神科以外の医療サービスとコンサルテーション・リエゾン精神科(CLP)サービスとの間における診断の一致率を調査するため、多施設におけるレトロスペクティブカルテレビューを実施した。Journal of Psychosomatic Research誌2026年2月号の報告。 クリーブランド・クリニックの2施設における入院患者を対象に、うつ病およびせん妄の紹介について調査した。紹介理由とCLPサービスの診断の一致率を評価した。従属変数として、うつ病の過剰診断、うつ病と誤診されたせん妄を、独立変数として、チームの主要専門分野、人口統計学的、臨床的変数を用いて、多変量ロジスティック回帰モデルを実施した。 主な結果は以下のとおり。・診断一致率は、せん妄で88%、厳密なうつ病診断で67%、広義のうつ病診断で80%であった。・CLP精神医学的診断を受けなかったうつ病で紹介された患者のうち、適応障害が49%、不安症/強迫症が18%、せん妄が16%、神経認知障害が4%で診断された。・高齢、過去の精神医学的診断は、うつ病の過剰診断の可能性を低下させた。・向精神薬の使用は、せん妄がうつ病と誤診される可能性を高めた。 著者らは「プライマリケアでは、うつ病が過剰診断されており、せん妄はより正確に診断されていた。しかし、代替診断のほとんどが不安症/強迫症であったことを考えると、プライマリケアは心理的苦痛の特定に長けているように思われ、これは精神科医によるスティグマ解消の啓発や教育活動に関連している可能性がある。プライマリケアでは、過去の精神疾患診断をうつ病のリスク因子として認識し、高齢者の症状にも配慮していたが、過去の向精神薬の使用はバイアスをもたらす可能性が示唆された。直接的な知識や態度の評価を含む、さらなる研究が今後求められる」としている。

8.

米国臨床腫瘍学会消化器がんシンポジウム(American Society of Medical Oncology Gastrointestinal Cancers Symposium:ASCO GI 2026)まとめ

レポーター紹介2026年1月8~10日に、米国臨床腫瘍学会消化器がんシンポジウム(American Society of Medical Oncology Gastrointestinal Cancers Symposium:ASCO GI 2026)が米国・サンフランシスコで開催され、後の実臨床を変え得る注目演題が複数報告された。国立がん研究センター中央病院 頭頸部・食道内科 医員の山本 駿氏が重要演題をピックアップし、結果を解説する。1. 食道がん術前FLOT療法の第II相試験:生存時間解析Phase II study of neoadjuvant chemotherapy with fluorouracil, leucovorin, oxaliplatin and docetaxel for resectable esophageal squamous cell carcinoma: Survival analysis【♯350】本邦の食道がんの約60%を占める、切除可能な局所進行食道扁平上皮がんに対する標準的術前化学療法は、JCOG1109試験の結果から術前DCF(ドセタキセル+シスプラチン+5-FU)療法である。しかし、術前DCF療法は発熱性好中球減少や嘔気・嘔吐、粘膜障害といった有害事象が起こりやすく、慎重な有害事象管理が求められるレジメンである。そのような中、欧米の胃がん、食道胃接合部がんを中心に開発が進められているFLOT療法(フルオロウラシル+ロイコボリン+オキサリプラチン+ドセタキセル)は、DCF療法と同系統の薬剤の組み合わせによるレジメンであるが、発熱性好中球減少の頻度が限定的であり、投与時間も短いことから、食道扁平上皮がんでの開発が希求されていた。そのような背景から、切除可能な食道扁平上皮がんに対する術前FLOT療法の有効性・安全性を評価する、この多施設共同第II相試験が行われた。2025年のASCO GIで、主要評価項目である病理学的奏効割合(pRR)が43.4%と有望な結果が報告されていた。今年のASCO GIでは、生存期間解析の結果が報告されており、フォローアップ期間中央値は27ヵ月で、解析対象となった53例では、2年無増悪生存期間(PFS)割合が50.4%、2年全生存期間(OS)割合が78.2%であった。なお、本試験は鎖骨上リンパ節転移陽性例(cM1)も含まれており、それらを除いた44例のcM0症例では、2年PFS割合が49.4%、2年OS割合が76.4%であった。JCOG1109試験の患者背景と比較すると、本試験には75歳以上も含まれ、クレアチニンクリアランスも50mL/分以上とJCOG1109試験よりも緩い基準とされていたため、ややフレイルな対象が含まれていたが、それでもJCOG1109試験に極端に劣らない生存期間が得られていることは重要なポイントである。現状、全身状態が保たれ、シスプラチンが投与可能な症例における標準的な術前治療はDCF療法であるが、とくに腎機能障害や心機能障害など、シスプラチンが不適な症例においては、今後は術前FLOT療法が治療選択肢の1つとして挙がってくる可能性が示唆される。参考サイトjRCT登録番号:jRCTs0312000942. 胃がん・食道胃接合部がんHERIZON-GEA-01試験Zanidatamab + chemotherapy ± tislelizumab for first-line (1L) HER2-positive locally advanced, unresectable, or metastatic gastroesophageal adenocarcinoma(mGEA): Primary analysis from HERIZON-GEA-01【♯LBA285】今回のASCO GIで最も注目度が高かった演題が、このHERIZON-GEA-01試験である。現在、未治療のHER2陽性の切除不能な進行胃がん・食道胃接合部がんに対する標準治療は、ToGA試験とKEYNOTE-811試験の結果から、PD-L1 CPS 1以上であればトラスツズマブとペムブロリズマブ、2剤併用化学療法、PD-L1 CPS 1未満であればトラスツズマブと2剤併用化学療法である。しかし、OS中央値は15~20ヵ月であり、いまだに予後は限定的である。そのような中、HER2の細胞外ドメイン2、4に結合して抗腫瘍効果を発揮する二重特異性抗体であるzanidatamabの開発が進められ、未治療のHER2陽性の切除不能な進行胃がん・食道胃接合部がんを対象にした研究が、このHERIZON-GEA-01試験である。本試験は、トラスツズマブ+化学療法を対照群として、試験群にはzanidatamab+化学療法(zanidatamab群)、zanidatamab+チスレリズマブ+化学療法(zanidatamab+チスレリズマブ群)の2群、計3群が設定され、全体で914例が登録された。主要評価項目であるPFS中央値は、8.1ヵ月vs.12.4ヵ月vs.12.4ヵ月であり、zanidatamab群(ハザード比[HR]:0.65、95%信頼区間[CI]:0.52~0.81)と、zanidatamab+チスレリズマブ群(HR:0.63、95%CI:0.51~0.78)は、対照群と比較してどちらも優越性を示した。もう1つの主要評価項目であるOS中央値は、19.2ヵ月vs.24.4ヵ月vs.26.4ヵ月であり、zanidatamab群(HR:0.80、95%CI:0.64~1.01)は優越性を示せなかったが、zanidatamab+チスレリズマブ群は優越性を示した(HR:0.72、95%CI:0.57~0.90)。安全性に関しては、下痢の発生頻度が高く、全Gradeで試験治療群であるzanidatamab群では76%、zanidatamab+チスレリズマブ群では82%と報告されたが、初回の下痢発現までは約1週間であり、1サイクル目の7日間のロペラミド内服でコントロール可能と報告された。今回のHERIZON-GEA-01試験は中間解析の結果であるが、すでにzanidatamab+チスレリズマブを含むレジメンはPFS/OSの優越性を証明しており、practice changeとなった発表といえる。zanidatamabと2剤併用化学療法は、現段階ではOSの優越性を示していないが、今後の最終解析の結果が期待される。本レジメンは下痢の発生頻度が高いが、上記のような対応が可能であれば、実臨床でも十分投与可能と考える。さらにはサブ解析ではあるが、4剤併用療法はPD-L1 CPS発現によらず有望な結果を示しており、HER2陽性かつPD-L1 CPS 1未満であっても免疫チェックポイント阻害薬が初回治療で使用可能になるかが期待される。参考サイトHERIZON-GEA-01試験(ClinicalTrials.gov)ILUSTRO試験(コホート4A/B)Phase 2 ILUSTRO trial of 1L zolbetuximab plus mFOLFOX6 and nivolumab in patients with CLDN18.2+ locally advanced (LA) unresectable or metastatic gastric or gastroesophageal junction (mG/GEJ) adenocarcinoma【♯LBA284】HER2陰性、CLDN18.2陽性の切除不能な進行胃がん、食道胃接合部がんに対する標準的な初回薬物療法は、SPOTLIGHT試験とGLOW試験の結果からゾルベツキシマブと2剤併用化学療法であるが、同対象はCheckMate 649試験やKEYNOTE-859試験にも含まれており、抗PD-1抗体と2剤併用化学療法も選択肢である。しかし、同対象にゾルベツキシマブと抗PD-1抗体を併用した場合のデータは乏しく、その検討を行ったのがILUSTRO試験のコホート4A/Bである。ILUSTRO試験(コホート4A/B)は、未治療のHER2陰性かつCLDN18.2陽性(50%以上の発現例)の、切除不能な進行胃がん・食道胃接合部がんを対象に、ゾルベツキシマブとニボルマブとmFOLFOX6の併用療法を検討した第II相試験である。71例が登録された、有効性を検討したコホート4Bでは、PFS中央値は14.8ヵ月であり、CLDN18.2高発現(75%以上)/中等度発現(50~75%)では18.0ヵ月vs.6.7ヵ月と高発現群で良好な傾向であった。さらに客観的奏効割合は62.1%であり、こちらもCLDN18.2発現別では68.1%vs.40.0%と、高発現群で良好な傾向が示唆された。なおPFSのPD-L1 CPS発現別の解析では、1以上/1未満で23.6ヵ月vs.12.1ヵ月で、PD-L1 CPS 1以上で治療効果が高い傾向であった。有害事象プロファイルも嘔気や食欲不振の頻度が高かったが、Grade3以上の発現頻度は限られていた。現在、HER2陰性で、CLDN18.2陽性、PD-L1 CPS 1以上の初回治療例を対象に、抗PD-1抗体と2剤併用化学療法に、ゾルベツキシマブの上乗せを検討する国際共同第III相試験であるLUCERNA試験が進行中である。ILUSTRO試験の結果を加味すると、非常に有望な試験治療と考えられ、今後の進捗に期待がかかる。参考サイトILUSTRO試験(ClinicalTrials.gov)3. 大腸がんBREAKWATER試験(コホート3)BREAKWATER: Primary analysis of first-line (1L) encorafenib + cetuximab (EC) + FOLFIRI in BRAF V600E mutant metastatic colorectal cancer(mCRC)【♯13】BREAKWATER試験は、未治療のBRAFV600E変異を有する切除不能な進行大腸がんを対象に、エンコラフェニブとセツキシマブの意義を検証した第III相試験であり、すでにmFOLFOX6療法との併用においては、標準治療群と比較して、有意なOSの延長(HR:0.49、95%CI:0.375~0.632)が報告されている。今回のBREAKWATER試験コホート3は、同じ未治療のBRAFV600E変異を有する切除不能な進行大腸がんを対象に、FOLFIRI±ベバシズマブ療法と、FOLFIRI+エンコラフェニブ+セツキシマブ併用療法を直接比較した。コホート3には147例が登録され、主要評価項目である奏効率(ORR)は39.2%vs.64.4%と報告され、有意差を示した(p=0.0011)。またOSはimmatureであるが、HR:0.49(95%CI:0.237~1.032)と報告され、現段階ではmFOLFOX6療法をベースにした場合のHRと近い値が得られていると考えられた。有害事象も好中球減少や下痢など、予期されうるプロファイルであり、mFOLFOX6療法では末梢神経障害が懸念されうる点も加味すると、FOLFIRI療法をベースとした併用療法も実臨床ではニーズはあると推察される。今後はさらにmatureした生存期間の結果の報告が期待される。参考サイトBREAKWATER試験(ClinicalTrials.gov)COMMIT試験NRG-GI004/SWOG-S1610: COlorectal cancer dMMR Immuno-Therapy (COMMIT) study A randomized phase III study of atezolizumab monotherapy versus mFOLFOX6/bevacizumab/atezo in the first-line treatment of patients with dMMR or MSI-H metastatic colorectal cancer【♯14】dMMR/MSI-highを有する切除不能な進行大腸がんの初回薬物療法は、抗PD-1抗体、またはニボルマブ+イピリムマブ併用療法である。とくにニボルマブ+イピリムマブ併用療法はCheckMate 8HW試験で高い有効性と忍容性を示しており、実臨床でも頻用されていると推察される。そのような中、米国を中心に行われたCOMMIT試験は、未治療のdMMR/MSI-highを有する切除不能な進行大腸がんを対象に、抗PD-L1抗体であるアテゾリズマブ単剤療法と、アテゾリズマブ+ベバシズマブ+mFOLFOX6併用療法を直接比較したランダム化第III相試験である。主要評価項目はPFSと設定され、副次評価項目はORRやOS等が設定された。当初ベバシズマブ+mFOLFOX6療法群も設定されていたが、KEYNOTE-177試験の結果から登録中止とされた。またCheckMate 8HW試験の結果により、2025年3月には全体の登録が中止された。予定していた中間解析の時期と近かったことから、102例の登録例における解析が行われた。主要評価項目であるPFS中央値は、5.3ヵ月vs.24.5ヵ月(HR:0.439、95%CI:0.23~0.84、p=0.0103)と報告され、事前に規定した有意水準(0.0152)を満たし、アテゾリズマブ+ベバシズマブ+mFOLFOX6併用群の優越性が示された。ただし、CheckMate 8HW試験で確立されたニボルマブ+イピリムマブ併用療法は3年PFS割合が67%であり、忍容性も保たれていたことを加味すると、現状ではmFOLFOX6療法をベースとするCOMMIT試験レジメンを積極的に選択すべき集団が明らかでない。そのため、このCOMMIT試験のみでなく、CheckMate 8HW試験におけるmatureしたOSの結果の報告も期待される。参考サイトCOMMIT試験(ClinicalTrials.gov)

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災害時、“トイレが使えない”現実を前に――医療者として何を備えるべきか【実例に基づく、明日はわが身の災害医療】第13回

災害時、“トイレが使えない”現実を前に――医療者として何を備えるべきか大規模災害が発生した際、医療機関が直面する最も深刻なインフラ障害の一つが「トイレ」です。能登半島地震の支援で現地へ向かった際、私自身その現実を痛感しました。支援に入った本部で突き付けられたのは、「下水が完全に止まっている」という事実でした。小便は雪解け水をバケツで汲み、便器に流し込んで重力で無理やり流すしかありませんでした。大便については、幸いポータブルトイレがあったため対応できましたが、もしなかったら、支援に入った医療者も被災者も、排泄すらままならない状況だったと思います。排泄物の処理方法、照明のない暗い個室、強い臭気や衛生面の不安……。診療の前に、人としての基本が揺らぐ環境がそこにありました。図1. トイレに雪解け水を利用図2. 災害時ポータブルトイレトイレが使えないと、なぜ医療が成り立たなくなるのか災害時、排泄環境は「最初に悪化し」「最後まで復旧が遅れる」インフラといわれています。しかし、その影響は単なる不便さにとどまりません。高齢者や基礎疾患のある方は、排泄を我慢するだけで、脱水、急性腎障害、電解質異常、便秘、せん妄を起こしやすいことが指摘されています1)。我慢そのものが健康被害につながるのです。また、適切な排泄管理ができない環境ではノロウイルスなどの胃腸炎が集団発生しやすく、避難所や臨時診療所の医療機能を大きく低下させるリスクがあります2,3)。国際的な災害医療基準でも「医療従事者自身のトイレ環境の確保」は必須項目として位置付けられています4,5)。医療者が安全にトイレを使用できなければ、長時間にわたる診療継続は困難になります。つまりトイレとは、医薬品や医療機器と同様に医療を支える基礎インフラなのです。来たるべきトイレ問題に何を備えておくべきか能登での経験から、小規模医療機関であっても「トイレが止まれば診療が止まる」という現実が浮き彫りになりました。ここでは『避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン』6)を基に、無理なく準備できる最低限の備えをまとめます。(1)携帯トイレ(凝固剤タイプ)の備蓄1日5〜7回を目安に、職員と患者さん分の数日分を備蓄しておくことが望ましいです。既存の洋式トイレにビニール袋をかぶせ、用を足したら凝固剤を入れ、封をして破棄することで、下水道が止まっていてもトイレを使用することができます。(2)ポータブルトイレの準備能登でも、ポータブルトイレが“あるか・ないか”で現場の負担が大きく変わりました。急性期は50人当たりに1台のトイレが推奨されており、有床診療所や小規模な病院であれば、職員も合わせて1、2台あれば足りるでしょう。発災時に災害用のトイレが迅速に調達できるよう、関係団体と協定を結んでおくのもよいと思います。マンホール直上にトイレを設置する方法もあります7,8)。マンホールトイレは、下水道管路にあるマンホールの上に簡易な便座やパネルを設け、災害時に迅速にトイレ機能を確保するものです。図3. 東日本大震災や熊本地震で使用されたマンホールトイレ(参考文献8より)(3)雑用水(洗浄・手洗い用水)のストック雪解け水でしのいだ経験からも、飲用とは別に生活用水の備蓄は必須だと実感しました。飲料水の確保は考えていても、排泄用の水を試算にいれてないことが多いため、事前に計算して備蓄しておくことをお勧めします。また感染症予防のために手洗い水の確保も重要です。(4)トイレ空間の簡易照明停電下でトイレが真っ暗になると、転倒リスクが高まり、医療者の利用にも支障を来します。また防犯上も明かりは必須です。充電式、乾電池式のヘッドライトなどが役立ちます。トイレを確保することは、医療と被災者の安全を守ること災害時には、医療者も被災者も排泄の安全を確保することが不可欠です。医療者は診療継続のため、被災者は健康保持のため、清潔で使いやすいトイレの存在が重要になります。診療を守るための第一歩として、今一度、災害時のトイレの備えを見直していただければと思います。 1) 阪東 美智子. 避難所・応急仮設住宅の現状と課題 ― 高齢者・障がい者への配慮や健康影響の視点から. 保健医療科学. 2021;70:407-417. 2) Kasaoka S, et al. Poor Environmental Conditions Created the Acute Health Deteriorations in Evacuation Shelters after the 2016 Kumamoto Earthquake. Tohoku J Exp Med. 2023;26:309-315. 3) 前田 信治, ほか. 東日本大震災時における避難所のトイレの実態調査. 空気調和・衛生工学会論文集. 2018;43:59-64. 4) Sphere Association. The Sphere Handbook: Humanitarian Charter and Minimum Standards in Humanitarian Response. WASH Section. 2018. 5) World Health Organization (WHO). Technical Notes on Drinking-water, Sanitation and Hygiene in Emergencies. WHO Press. 2013. 6) 避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン. 内閣府. 2022. 7) マンホールトイレ整備・運用のためのガイドライン2025年版. 国土交通省. 2025. 8) 国土交通省. 災害時に使えるトイレ

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第303回 がん細胞が作るアルツハイマー病予防タンパク質を発見

中国の研究者らによる10年を優に超える研究が実を結び、がん細胞が放つタンパク質のシスタチンC(Cyst-C)がどうやらアルツハイマー病を阻止する効果を担うことが突き止められました1,2)。がんとアルツハイマー病の併発がまれなことは長く知られており、そのどちらかがもう片方を防ぐ仕組みがあるのかもしれないと考えられてきました。イタリア北部の100万人超を調べた2013年の報告では、アルツハイマー病患者のがんのリスクは50%低く、がん患者のアルツハイマー病のリスクは35%低いことが示されています3)。米国でのFramingham Heart試験も同様で、がん生存者のアルツハイマー病のリスクががんでない人に比べて33%低いという結果となっています4)。最近のメタ解析でもやはりがん患者はアルツハイマー病をより免れていました。2020年9月2日までの22の観察試験の960万例超が解析され、がんと診断された人のアルツハイマー病発生率はがんではない人より11%低いことが示されます5)。アルツハイマー病の病変を抑制するがんの効果を示唆する報告もあります。785例を死ぬまで追跡した試験では、アルツハイマー病のアミロイドやタウ病変の程度ががんと診断された人では低くて済んでいました6,7)。それらの裏付けの数々に背中を押され、中国の武漢市の華中科技大学(Huazhong University of Science and Technology)の神経学者Youming Lu氏らはがんがアルツハイマー病を生じにくくする仕組みを調べることを思い立ちます2)。まずLu氏らは研究に最適なマウス作りに取り掛かります。実に6年の歳月を費やした後に、アルツハイマー病を模すマウスに3種類(肺、前立腺、大腸)の腫瘍を移植する手段に行き着きます。それらのマウスはアルツハイマー病に特有の脳のアミロイド病変を生じずに済みます。続いてがん細胞が放つタンパク質の数々を解析し、血液脳関門を通過して脳に浸透しうるタンパク質が探索されました。6年を超える取り組みの甲斐あって、Lu氏らはとうとうCyst-Cにたどり着きます。Cyst-Cは脳のアミロイド重合体に結合し、続いて脳の免疫細胞のマイクログリアの受容体TREM2を活性化します。そうしてマイクログリアがアミロイド病変を分解できるようにします。水に濡れずに済む抜け道をマウスに覚えさせる迷路実験でCyst-Cの記憶改善効果も確認されました。アルツハイマー病マウスはその抜け道を探すのに苦労しますが、Cyst-Cやがん細胞の分泌タンパク質一揃いを与えたところ手際が良くなり、抜け道をより早く見つけられるようになりました8)。アルツハイマー病の薬といえば大抵が脳の新たな障害の予防が焦点ですが、Cyst-Cはすでに生じてしまったアミロイド病変の除去を促す効果があります。ヒトでもマウスと同様の効果があるなら、認知症の新たな治療法へと通じる道が開けそうです。参考1)Li X, et al. Cell. 2026 Jan 22. [Epub ahead of print] 2)Cancer might protect against Alzheimer’s - this protein helps explain why / Nature3)Musicco M, et al. Neurology. 2013;81:322-328.4)Driver JA, et al. BMJ. 2012;344:e1442.5)Ospina-Romero M, et al. JAMA Netw Open. 2020;3:e2025515.6)Karanth SD, et al. Brain. 2022;145:2518-2527.7)Cancer Tied to Reduced Risk of Alzheimer’s Disease / TheScientist8)Cancer tumors may protect against Alzheimer's by cleaning out protein clumps / Medical Xpress

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逆流性食道炎へのボノプラザン、5年間の安全性は?(VISION研究)

 逆流性食道炎は再発や再燃を繰り返しやすく、カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)やプロトンポンプ阻害薬(PPI)による維持療法が長期に及ぶことがある。P-CABのボノプラザンは、PPIより強力かつ持続的な酸分泌抑制を示すが、長期使用による高ガストリン血症を介した胃粘膜の変化や、腫瘍性変化のリスクが懸念されていた。 CareNet.comでは、P-CABとPPIの安全性に関するシステマティックレビューおよびメタ解析結果を報告した論文(Jang Y, et al. J Gastroenterol Hepatol. 2026;41:28-40.)について、記事「P-CABとPPI、ガストリン値への影響の違いは?」を公開している。本論文では、P-CAB群はPPI群と比較して血清ガストリン値が高かったものの、有害事象プロファイルはPPI群と同様であることが示唆された。しかし、メタ解析に含まれた研究は観察期間が短く、本邦で実施されたボノプラザンとランソプラゾールの比較試験「VISION研究」は含まれていない。 そこで本稿では、逆流性食道炎患者を対象に、5年間の維持療法としてボノプラザンとランソプラゾールを比較した国内第IV相試験「VISION研究」について紹介する。本試験では、維持療法を実施した5年間において、ボノプラザン群とランソプラゾール群のいずれでも、腺窩上皮細胞の腫瘍性/異形成性変化が1例も認められず、逆流性食道炎の累積再発率はボノプラザン群で低かった。本試験の結果は、上村 直実氏(国立国際医療研究センター国府台病院 名誉院長/東京医科大学内視鏡センター 客員教授)らによって、Clinical Gastroenterology and Hepatology誌2025年4月号で報告された。【VISION研究の概要】・試験デザイン:国内多施設共同非盲検無作為化並行群間比較第IV相試験・対象:Helicobacter pylori(H. pylori)陰性で、ロサンゼルス分類A~Dの逆流性食道炎患者(H. pylori除菌歴のある患者は除外)・試験群(ボノプラザン群):ボノプラザン(20mg、1日1回)を最大8週間→ボノプラザン(10mgまたは20mg、1日1回)を最大260週間 139例対照群(ランソプラゾール群):ランソプラゾール(30mg、1日1回)を最大8週間→ランソプラゾール(15mgまたは30mg、1日1回)を最大260週間 69例・評価項目:[主要評価項目]胃粘膜病理組織学的検査で臨床的に問題となる症例の割合(腺窩上皮細胞の腫瘍性/異形成性変化など)[副次評価項目]内視鏡所見での逆流性食道炎再発割合、治療期終了時における逆流性食道炎の治癒割合、安全性[その他の評価項目]血清ガストリン値、血清クロモグラニンA値など 主な結果は以下のとおり。・本試験において、最大8週間の治療期から最大260週間の維持療法期へ移行したのは、ボノプラザン群135例、ランソプラゾール群67例であった。・維持療法期へ移行した患者の平均年齢は、ボノプラザン群60.4歳、ランソプラゾール群61.5歳であった。男性の割合はそれぞれ71.9%、61.2%であり、治療開始時の血清ガストリン値(平均値)はそれぞれ130.2pg/mL、155.4pg/mLで、血清クロモグラニンA値の中央値は両群ともに0ng/mLであった。・260週時における血清ガストリン値の中央値は、ボノプラザン群625pg/mL、ランソプラゾール群200pg/mL、血清クロモグラニンA値の中央値はそれぞれ250ng/mL、100ng/mLであり、ボノプラザン群が高かった(p<0.0001)。血清ガストリン値と血清クロモグラニンA値は、両群で投与期間を通じて安定して推移し、4~260週時のいずれの測定時点においてもボノプラザン群が高値であった(p<0.001)。・260週時点までに、腺窩上皮細胞の腫瘍性/異形成性変化が認められた症例は、ボノプラザン群、ランソプラゾール群のいずれも0例であった。260週時点の病理組織学的所見の発現割合の詳細は以下のとおり(ボノプラザン群vs.ランソプラゾール群)。 腺窩上皮細胞の腫瘍性/異形成性変化:0%vs.0% 壁細胞隆起/過形成:97.1%vs.86.5%(p=0.01) 腺窩上皮細胞過形成:14.7%vs.1.9%(p=0.01) G細胞過形成:85.3%vs.76.9%(p=0.29) ECL細胞過形成:4.9%vs.7.7%(p=0.49)・維持療法期に胃底腺ポリープ(260週時の発現割合:ボノプラザン群72.1%、ランソプラゾール群84.9%)および胃過形成性ポリープ(同:23.1%、11.3%)の発現が増加したが、いずれも両群に有意な差はみられなかった。・神経内分泌腫瘍は、いずれの群にも認められなかった。・有害事象の発現割合は、ボノプラザン群93.3%(126/135例)、ランソプラゾール群95.5%(64/67例)であり、治療関連有害事象は、それぞれ45.9%(62/135例)、53.7%(36/67例)に発現した。204週時までに、ボノプラザン群で腺窩上皮型腺腫が1例、ランソプラゾール群で胃底腺型胃腺腫が1例認められた。・260週時点までの逆流性食道炎の累積再発率は、ボノプラザン群10.8%、ランソプラゾール群38.0%であった(p=0.001、log-rank検定)。 本結果について、本論文の筆頭著者である上村氏にコメントを求めたところ、以下の回答が得られた。【上村氏のコメント】日本人の胃酸分泌はH. pylori感染率の低下とともに増えてきた 日本人の胃酸分泌はH. pyloriの感染率の低下に伴い次第に増加してきた。すなわち50年前の1970年代には陽性者が80%以上であり、加齢とともに胃酸分泌が低下していた。その後、感染率が低下するとともに、高齢になっても胃粘膜の老化現象を認めず胃酸分泌の低下を認めないH. pylori未感染者が多数を占めるようになり、2020年代の30歳未満の感染率は5%台まで低下し、除菌治療の影響も加わって高酸分泌を呈する高齢者も多くなり、逆流性食道炎を含む胃食道逆流症(GERD)の患者が増加している。胃酸分泌の増加と酸関連疾患の変化とともに新たな胃酸分泌抑制薬が開発された 1980年に登場したヒスタミン受容体拮抗薬(H2ブロッカー)により外科的治療が必要であった胃潰瘍や十二指腸潰瘍に対して、H2ブロッカーを用いた内科的な治療が主体となった。さらに強力な胃酸分泌抑制が必要となった1990年にPPIが登場して、難治性潰瘍やGERDの治療および低用量アスピリン(LDA)や非ステロイド消炎鎮痛薬(NSAID)による潰瘍の予防に大きな役割を果たしている。2000年に保険適用となったH. pylori除菌治療により消化性潰瘍の再発がほぼ消失して、コントロールが必要な主な酸関連疾患は逆流性食道炎・GERDとなってきた。2015年には、PPIよりさらに強力な酸分泌抑制薬のボノプラザン(VPZ)が日本において開発されて、PPIから置き変わりつつあるのが現状である。VISION研究はボノプラザン長期投与の安全性を検証する試験 H2ブロッカーが出現した当初から酸分泌抑制に対するフィードバックとして出現する高ガストリン血症によるEnterochromaffin-like(ECL)細胞の過形成に続く神経内分泌腫瘍(Neuroendocrine cell neoplasm:NEN[カルチノイド])の発生が危惧されていた。しかし、より強力な酸分泌抑制を有するPPIの長期投与による高ガストリン血症が、胃カルチノイドの発生リスクを著明に上昇させる明確なエビデンスも得られていない。 筆者らが本研究を企画したのは、VPZの承認を目的とした臨床治験の結果において、血清ガストリン値がPPIに比べてもさらなる高値を示し、3,000pg/mL以上の高値を示す症例が存在したことから、一般診療現場における長期投与が胃内微小環境に与える影響、とくに腫瘍性変化のリスクを危惧したためである。 VPZを含むP-CABとPPIの安全性に関するYewon Jang氏らによるメタ解析には、日本の臨床治験3試験と米国の1試験を含む11の研究結果が解析されているが、CareNet.comの記事に指摘されているように、観察期間が1年以下と短く、腫瘍の発生や組織学的変化のリスクを評価するには短期間にすぎるものである。さらに一般臨床の現場では数年間使用されることもあり、長期間の胃酸分泌抑制に伴う副事象の解明が必要と考えて5年間の経過観察とした次第である。 VISION研究では、VPZ群とPPI群に無作為に分類して、5年間毎年、生検を含む内視鏡検査により胃内微小環境の変化を観察した結果、内視鏡的に胃底腺ポリープや過形成ポリープの新たな発生や数の増加を認めた。一方、PPIに比べてVPZは有意な高ガストリン血症および高クロモグラニンA血症を呈したものの、カルチノイドなどの組織学的腫瘍性変化を認めなかった。内分泌腫瘍の腫瘍マーカーとして知られている血清クロモグラニンA値が高値を示した点から、ECL細胞が胃底腺粘膜全体に増加している可能性も推測され、カルチノイドの発生には5年よりさらに長期間の慎重な観察が必要と思われた。 VISION研究の結果から、著明な肝機能異常や骨折および重篤な腸管感染症のリスクはPPIと同様の安全性を示すことが確認された。しかし、本研究はH. pylori陽性や除菌後を除く陰性の逆流性食道炎患者としている点は非常に重要であり、一般の診療現場では、本試験の結果をそのまま充当できないH. pylori現感染者や除菌後の患者に対する診療では胃がんやカルチノイドのリスクにも注意することが必要である。

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精神疾患早期介入プログラムで治療を受けた患者のLAI抗精神病薬継続率は?

 精神疾患の早期介入プログラムで治療を受けた患者は、通常治療を受けた患者と比較し、治療成績が良好であり、長時間作用型注射剤(LAI)抗精神病薬の使用率が20~50%と高くなるといわれている。このプログラムでは通常2~3年間治療が行われ、その後、多くの患者は他の精神保健サービスへ移行し退院する。また、罹病期間がより長期の統合失調症患者を対象とした研究において、経口抗精神病薬への切り替えが一般的に行われている可能性が示唆されている。しかし退院後のフォローは、複数の臨床サービスや医療提供者間での患者記録の移行という課題によって複雑化しているのが現実である。カナダ・ダルハウジー大学のCandice E. Crocker氏らは、精神疾患の早期介入サービス(EIS)から退院した後に、LAI抗精神病薬の使用が継続されるかどうかを調査した。Therapeutic Advances in Psychopharmacology誌2025年10月16日号の報告。 本レトロスペクティブコホート研究では、精神疾患のEISによる治療を完了した患者を対象に、LAI抗精神病薬による治療の継続または中止の影響を検討した。2016~18年の3年間にわたる、精神疾患のEISを受け退院した患者のレトロスペクティブコホートを作成し、退院時および退院後6ヵ月、12ヵ月、18ヵ月、24ヵ月時点での、その後2年間の精神保健アウトカムと処方された抗精神病薬についてフォローアップ調査を行った。 主な結果は以下のとおり。・カナダの3州にある3施設から退院し、完全なフォローアップ調査が実施可能であった85例の患者のうち、60例(71%)が24ヵ月後もLAI抗精神病薬を継続していた。・EIS入院時のコホートにおける患者の平均年齢は22±4.7歳であった。・退院時に最も多く使用されたLAI抗精神病薬はアリピプラゾールであり、LAI抗精神病薬を継続していた患者の多くは24ヵ月後も同一製剤を使用していた。・中止の主な理由は、患者からの希望であった。・LAI抗精神病薬を継続した患者と継続しなかった患者では、再入院の減少という点において臨床転帰に有意差が認められた。 著者らは「精神疾患のEISの利用は、退院後24ヵ月が経過しても、LAI抗精神病薬継続の良好なアドヒアランスと関連していることが示唆された」としている。

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鼻毛を抜くと鼻前庭炎のリスク?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第298回

鼻毛を抜くと鼻前庭炎のリスク?鼻毛処理と疾患リスクに関する論文は少なく、このコラムでは過去に「鼻毛と喘息の関係」を取り上げました。Lipschitz N, et al. Nasal vestibulitis: etiology, risk factors, and clinical characteristics: A retrospective study of 118 cases. Diagn Microbiol Infect Dis. 2017 Oct;89(2):131-134.2008年10月~2015年1月までの約6年間に、イスラエル・Sheba Medical Centerに鼻前庭炎で入院した118入院例(115人)を後ろ向きに解析しています。入院適応は、外来での抗菌薬治療に反応しなかった症例、顔面蜂窩織炎の進行例、鼻前庭膿瘍が見られた例でした。したがって、本研究の対象は軽症例ではなく、いわば「外来治療で治まらなかった症例」の集団です。平均年齢44.33歳(8~96歳)、男性64例・女性51例で性差なし。65歳以上は10.17%のみで、小児は8歳の1例のみでした。糖尿病は12例(10.17%)、免疫抑制状態は3例(慢性骨髄性白血病1例、全身性エリテマトーデス1例、抗リン脂質抗体症候群1例)のみで、これらの患者も合併症なく経過しました。小児例が少ない点について著者らは、鼻ほじりや鼻かみの頻度が高い小児でもっと多くてもよいはずだと考察していますが、明確な説明はついていません。患者が申告した先行する習慣・行為は以下のとおりです。 鼻毛抜き:17例(14.41%) 鼻を強くかむ:11例(9.32%) 鼻ほじり:10例(8.47%) 鼻ピアス:4例(3.39%)感染部位には左右差があり、右側40.68%、左側33.05%、正中26.27%と右側優位でした(p<0.0001)。右利き優位の集団で、右手による鼻ほじりが多いことを反映していると考察されています。問診で「どちらの手でほじりますか」と聞く機会はないかもしれませんが、右側優位という知見は覚えておいてよいでしょう。膿瘍から培養が行われたのは18例で、15例から菌が分離されました。MSSAが13例(81.25%)で、MRSAが1例、Prevotella属1例でした。症状出現から入院までの期間は平均5.28日(1~30日)。入院前に外来で抗菌薬を投与されていたのは39.83%で、最多はアモキシシリン・クラブラン酸(76.6%)でした。当然ながら、入院後は、点滴治療に切り替えています。本研究は対照群を設定しておらず、一般集団における鼻毛抜きの習慣の頻度は不明です。したがって、鼻毛抜きが真のリスク因子であるかどうか、つまり鼻毛を抜く人は抜かない人に比べて鼻前庭炎を発症しやすいのかどうかは、本研究からは結論できません。とはいえ、鼻毛を抜く行為が毛包に微小外傷を生じさせ、それが細菌の侵入門戸となりうるという機序には生物学的妥当性があります。

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高齢者だから一律に減量・ICI単剤ではない!【高齢者がん治療 虎の巻】第6回

<今回のPoint>高齢者にも適応可能な標準治療が増えており、「高齢だから治療しない」という考えはもはや通用しない。免疫チェックポイント阻害薬は、高齢者でも適切に使えば有効性があり、副作用リスクとのバランスを見ながら“使いどころ”を見極めることが重要。ベストサポーティブケアは多職種と共有しながら日常診療に組み込むことで実践的な価値が生まれる。<症例>81歳、男性。嗄声のため耳鼻科を受診したところ胸部CTで左肺に腫瘤を指摘された。精査の結果、肺腺がんStageIVB(骨転移、副腎転移あり)と診断され、本人は積極的な治療を希望している。既往に高血圧、脂質異常症、脊柱管狭窄症があり、Performance Status(PS)は1。82歳の妻と同居しているが、妻は脳梗塞後遺症のため介護が必要である。息子夫婦は車で40分程度の地域で生活している。娘は他県に嫁いでおり、治療のサポートは困難である。遺伝子変異検査ではドライバー変異なしPD-L1 TPS 5%G8:11点(失点項目:年齢、併用薬数、BMI、食事量の減少など)CARGスコア:platinum-doubletを想定 11点[高リスク(陽性項目:年齢、転倒歴、歩行)]多職種カンファレンスで治療方針を決定することになった。「高齢だから治療しない」はもう古い―肺がん治療にエビデンスあり75歳の日本人の平均余命は、男性で12.13年、女性で15.74年とされています1)。一方、切除不能・進行非小細胞肺がんでベストサポーティブケア(BSC)のみが行われた場合、予後は一般に1年未満です。そのため、明らかな命に関わる併存疾患がない場合には、遺伝子変異が陰性であっても、暦年齢のみで治療を見送るのではなく、何らかの積極的治療を検討する必要があります。以下は70歳以上を対象とした主な非小細胞肺がんの臨床試験の要約です。(表1)画像を拡大する免疫チェックポイント阻害薬の有効性と“使いどころ”現在、ドライバー遺伝子変異が陰性の非小細胞肺がんに対しては、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)を中心とした治療が1次治療の主軸となっています。しかしながら、高齢者に対してICIをどのように使用するのかの指針はなく、irAE管理の問題から高齢者には使用しにくいという声もあると聞きます。以下に、ICI関連の高齢者を対象とした臨床試験をまとめます。(表2)画像を拡大するNEJ057試験の結果からは、一部の高齢者ではICI単剤が適切と考えられることが示唆されており、どのような患者がその適応となるかを見極めることが重要です。また、免疫老化の影響から高齢者ではICIの効果が劣る可能性が指摘される一方で、臨床試験の結果からは、高齢者こそICIの恩恵を受ける可能性があるとも考えられます。治療選択にあたっては、PD-L1発現、腫瘍サイズや転移部位といった腫瘍側の因子に加えて、個々の免疫状態を考慮することが重要です。暦年齢にとらわれず、適切な症例選択を行うことで、ICI治療の真の価値を引き出すことが可能になります。高齢者機能評価(GA)の日常診療での有用性筆者らは、根治的治療が困難な75歳以上の非小細胞肺がん患者1,020例を対象に、患者満足度を主要評価項目としたクラスターランダム化第III相比較試験「ENSURE-GA study」を実施しました。本試験は全国78施設に協力いただき、治療開始前にGAを実施し、その結果を患者・家族と共有するとともに多職種チームにより脆弱性を認めた項目に関してできる限り介入をする群(GAM群)と、GAの結果は提供せず通常通りに診療を実施する非介入群(SC群)に施設をランダム化しました。その結果、GAM群では患者満足度が有意に上昇することが明らかとなりました2)。また、本試験では開始前と終了後に参加施設へアンケート調査を実施したところ、試験開始時にGAを日常診療で実施している施設の割合は25%にとどまっていました。ところが、2022年の試験終了時には、GA導入率は56%と大幅に上昇していました。さらに、「GAの実施は日常診療に役立ったか?」という問いに対しては、すべての施設から「役立った」との肯定的な回答が得られています。これらの結果は、GAの実施が患者満足度を向上させるのみならず、医療現場への定着・活用を促す実践的な意義を示しています。今後は、治療適応の見極めにとどまらず、患者の価値観や希望に基づいた支援を継続的に提供するための枠組みとして、GAのさらなる普及が期待されます。冒頭の症例の治療選択肢に正解はないと思います。GA結果を患者と家族に提示しつつ、患者の希望や環境に合わせた治療を、医療者とともに納得して選択した治療内容が正解だと思います。どの治療を選ぶとしても食事量の低下や転倒歴への対応、有害事象を早めに覚知できる体制を構築してから治療を開始することが重要です。日本人肺がん患者におけるG8とCARGスコア:ENSURE-GA試験より第2回ではG8(Geriatric 8)、第5回ではCARGスコア(Cancer and Aging Research Groupスコア)を紹介しましたが、いずれも「日本では妥当性が検証されていない点に注意」と述べました。ENSURE-GA試験では、これらのスクリーニングツールについて日本人肺がん患者における実際の妥当性を検討しています。G8については、国際的なカットオフ値である14点を用いた場合、91.4%(908例中834例)が陽性と判定され、ほとんどの症例が「脆弱性あり」とされました3)。この結果は、「日本人高齢者においては従来の基準は過度に感度が高過ぎる可能性」を示唆しており、日本人に適したカットオフ値の再検討や、肺がん患者に特化した新たなスクリーニングツールの開発の必要性を浮き彫りにしています。現時点では、75歳以上の非小細胞肺がん患者でG8が15点以上の症例は、上位10%の“お元気な”高齢者とみなすことができるため、ほぼperfect healthとして標準的治療を選択するといった活用法が有効です。一方、CARGスコアについては、治療レジメンごとに有害事象との関連を解析しましたが、Grade3以上の有害事象を予測するには十分な鑑別能は確認されませんでした(表3)4)。今後はがん種別・治療内容別に有害事象をより精緻に予測できる新たなスコアリングツールの開発が求められます。(表3)画像を拡大する1)厚生労働省:令和5年簡易生命表の概況2)Soda S, et al. J Clin Oncol. 2023;41:12041.3)中島和寿. 第64回日本肺癌学会学術集会(2023年). 「高齢肺癌患者における機能評価の有用性を検討するクラスターランダム化第III相試験 (ENSURE-GA study)」4)ASCO2024:Geriatric assessment in older patients with non-small cell lung cancer: Insights from a cluster-randomized, phase III trial-ENSURE-GA study (NEJ041/CS-Lung001).講師紹介

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アルツハイマー病に伴うアジテーション、最適なブレクスピプラゾールの投与量は?

 アルツハイマー病に伴うアジテーションは、患者の転帰と介護者の負担に重大な影響を及ぼす。ブレクスピプラゾールは有望な治療選択肢と考えられている。しかし、至適用量は依然として不明であった。サウジアラビア・King Faisal UniversityのMahmoud Kandeel氏らは、アルツハイマー病に伴うアジテーションの治療におけるブレクスピプラゾールの異なる用量の有効性と安全性を比較するため、システマティックレビューおよびネットワークメタ解析を実施した。Journal of Alzheimer's Disease誌オンライン版2025年12月8日号の報告。 PRISMAガイドラインに従い、2025年1月までに公表された研究をPubMed、Embase、Web of Science、Scopusより検索した。ブレクスピプラゾールの異なる用量(0.5~3mg/日)とプラセボを比較した4件のランダム化比較試験(1,451例)を解析に含めた。主要アウトカムは、Cohen-Mansfield Agitation Inventory(CMAI)、Clinical Global Impression-Severity Scale(CGI-S)、Neuropsychiatric Inventory-Nursing Home Version(NPI-NH)スコアの変化と安全性評価とした。 主な結果は以下のとおり。・ブレクスピプラゾール2mgは、プラセボと比較し、CMAIスコア(平均差[MD]:-5.88、95%信頼区間[CI]:-8.13~-3.63)、CGI-Sスコア(MD:-0.48、95%CI:-0.95~-0.01)の有意な改善が認められた。・複数回投与においてNPI-NHスコアの有意な改善が認められ、高用量(2~3mg)投与で最も効果が高かった(MD:-4.60、95%CI:-7.54~-1.66)。・高用量(2~3mg)では、治療下で発現した有害事象が増加した(リスク比:1.20~1.33)。しかし、重篤な有害事象についてはプラセボと比較して有意な差は認められなかった。 著者らは「アルツハイマー病に伴うアジテーションに対するブレクスピプラゾール2mgによる治療は、良好な安全性プロファイルを維持しながら、最適な治療効果をもたらすことが明らかとなった。これらの知見は、個々の反応と忍容性に基づき、低用量から治療を開始しながら2mgまで慎重に漸増することを支持している」とし「今後の研究では、長期的なアウトカムと実臨床における有効性に焦点を当てるべきである」としている。

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自己免疫性溶血性貧血、抗CD19 CAR-T細胞療法が有用/NEJM

 難治性自己免疫性溶血性貧血(AIHA)患者において、CD19を標的とするキメラ抗原受容体(CAR)-T細胞療法(抗CD19 CAR-T細胞療法)は予想された毒性を示し、持続的な寛解をもたらしたことを、中国・Institute of Hematology and Blood Diseases HospitalのRuonan Li氏らが報告した。AIHA患者は持続的な自己反応性B細胞活性により、再発のリスクが高い。難治性AIHAは3ライン以上の治療に対して寛解が得られない、より進行した病態であるが、抗CD19 CAR-T細胞療法はB細胞を著しく減少させて難治性AIHAに対するドラッグフリー寛解を達成する、有用な治療法となる可能性が示唆されていた。NEJM誌2026年1月15日号掲載報告。適応外使用/第I相の試験参加者のうち、適格患者に抗CD19 CAR-T細胞を投与 研究グループは、適応外使用プログラムまたは第I相試験に参加していた原発性の難治性AIHA患者をスクリーニングし、本検討に登録した。適格基準は、温式、冷式または混合AIHA、もしくはエバンス症候群を含む原発性AIHAと診断され3ライン以上の治療を受けたが長期的な疾患コントロールが得られず、スクリーニングでヘモグロビン値が10g/dL未満、ECOG PSが2以下、肝臓や肺など臓器機能が十分あることであった。 自己の抗CD19 CAR-T細胞を、適応外使用プログラムの患者には1.0×106/kg、第I相試験の患者には0.5×106/kgまたは1.0×106/kgを単回投与した。 検討では、安全性(サイトカイン放出症候群および免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群を含む有害事象の発現、特徴、重症度)の評価を第一とし、次いで有効性(完全奏効は、症状消失、ヘモグロビン値の上昇、溶血マーカーの正常化)および薬物動態を評価した。B細胞の再構築および再発の原因は、フローサイトメトリー、シングルセルRNAシーケンシング、およびシングルセルB細胞受容体シーケンシングによって解析された。安全性プロファイルは予想どおり、長期寛解を含む迅速な寛解を達成 2023年9月~2024年10月に、11例が登録され(適応外使用5例、第I相試験6例)、抗CD19 CAR-T細胞が投与された。 追跡期間中央値12.2ヵ月(範囲:7.3~21.9)において、11例全例が完全奏効を示し、完全奏効までの期間中央値は45日(範囲:21~153)、ドラッグフリー寛解期間の中央値は11.5ヵ月(範囲:6.8~21.0)であった。 Grade1または2のサイトカイン放出症候群が9例、Grade1の免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群が1例、Grade3の免疫エフェクター細胞関連血液毒性が1例に認められた。7例に計15件の感染症が発生したが、Grade4以上の感染症は認められなかった。 連続検体のマルチオミクス評価では、ドラッグフリー寛解が得られた患者における再構成B細胞集団はナイーブB細胞が優勢で、HLA-DRB5+B細胞、CD4+T細胞、およびB細胞成熟抗原を発現する長寿命形質細胞間のクロストークが、再発特異的B細胞ニッチの形成に寄与していた。

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Orforglipronは抗肥満薬として2型糖尿病を合併した肥満症に対して有効である(解説:住谷哲氏)

 GLP-1はG蛋白質共役受容体(G-protein coupled receptor:GPCR)の1つであるGLP-1受容体に結合して細胞内にシグナルを伝達するが、そのシグナルにはGタンパク質依存的シグナルとβアレスチン(arrestin)依存的シグナルとがある。前者はcAMPなどのセカンドメッセンジャーを介して細胞内Ca濃度を上昇させることでGLP-1作用を発揮する。後者は従来GLP-1受容体の脱感作を誘導すると考えられてきたが、近年その他の多様な細胞内シグナル伝達を担っていることが明らかになりつつある。 本試験で用いられたorforglipronは、もともと中外製薬で中分子医薬品として創薬されたOWL833が2018年にEli Lillyに導出されて臨床開発が継続されてきた薬剤であり、GLP-1受容体に結合してGタンパク質依存的シグナルのみを活性化しβアレスチン依存的シグナルを活性化しないことが知られている。このようにGPCRを介したGタンパク質依存的シグナルとβアレスチン依存的シグナルとを選択的に活性化させる分子はバイアスドリガンド(biased ligand)と呼ばれる1)。 本試験はorforglipronの体重減少効果を主要評価項目として、2型糖尿病を合併した肥満患者を対象として実施された。結果は、36mgの投与による72週後の体重変化量は-9.6%であった。これはATTAIN-1で示された2型糖尿病を合併しない肥満患者における体重変化量の-11.2%と比較するとやや小さかった2)。参考までにこれまで報告されているGLP-1受容体作動薬の体重減少効果については、リラグルチド3mgの-6.0%、セマグルチド2.4mgの-9.6%、チルゼパチド15mgの-14.7%、経口セマグルチド14mgの-4.7%、同25mgの-7.3%と比較するとセマグルチド2.4mgとほぼ同等の体重減少効果が認められたことになる。 現在わが国では、GLP-1受容体作動薬のセマグルチドとGIP/GLP-1受容体作動薬のチルゼパチドが抗肥満薬として承認されているが、いずれも注射薬である。一方で、米国FDAは経口セマグルチド25mgを昨年12月に抗肥満薬として承認して、本年より発売開始予定である。経口セマグルチドはペプチドホルモンであるためバイオアベイラビリティが低く、服薬方法にかなりの制約があるのが難点であるが、orforglipronはその問題点をクリアしている。したがって、服薬アドヒアランスの点ではorforglipronに一日の長があるといえよう。いずれにせよ熾烈な抗肥満薬開発競争は、まだまだ続きそうである。

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第45回 「その抗菌薬投与は患者の益になるか?」重度認知症・肺炎診療の常識を問う

高齢化率が世界最高水準の日本において、重度認知症患者の肺炎診療はいわば日常的な光景です。「肺炎だから入院」「とりあえず抗菌薬」というフローは、多くの医療機関で標準的な対応として定着しているでしょう。しかし、NEJM Evidence誌に掲載された論考1)は、この「当たり前」の診療行為に対し、生存期間、QOL、そして患者の快適さという観点から鋭い問いを投げかけています。 本稿では、同誌の“Tomorrow's Trial”(将来行われるべき臨床試験の提案)として発表された記事1)を基に、重度認知症患者に対する肺炎治療の現在地と、われわれが直面している倫理的・臨床的ジレンマについて解説します。抗菌薬は「死」を10日先送りするだけ? この記事で紹介されるのは、87歳の重度認知症女性の症例です。寝たきりで会話ができず、家族の認識もできない状態で、発熱と呼吸器症状を呈して搬送されました。胸部X線で浸潤影を認め、臨床的には細菌性肺炎が疑われます。 ここで日本の臨床現場でもよくある葛藤が生じます。娘は、「母が苦しまず、現状の生活を維持できるなら生きていてほしい」と願っています。しかし、果たして抗菌薬投与はこの願いをかなえるのでしょうか? 残念ながら、重度認知症患者の肺炎に対して、抗菌薬投与が生存期間、QOL、患者の快適さを改善させるかどうかを比較したランダム化比較試験は、現時点では存在しません。 そのため、根拠とできるのは観察研究の結果のみですが、そのデータは衝撃的です。ある研究では、抗菌薬投与群は非投与群に比べて最初の10日間の死亡率の低下傾向が見られるものの(非投与群76%vs.投与群39%)、10日以降の死亡リスクには差がないことが示されています。これは、抗菌薬による治療が「死を約10日間遅らせる」可能性を示す一方、同時に「死にゆくプロセスを延長させているだけ」である可能性も示唆しています。「治療」がもたらす侵襲と不利益 「とりあえず抗菌薬を入れておこう」という判断が、患者にとって無害であれば問題は少ないかもしれません。しかし、重度認知症患者、とくに人生の最終段階に近い深刻なフレイルの患者にとって、抗菌薬治療が大きな負担となりうることも強調されるべきでしょう。 点滴確保による身体的苦痛、不慣れな急性期病院への搬送、環境の変化による混乱、そして知らない医療スタッフに囲まれるストレスは、認知症患者にとって計り知れない苦痛です。さらに、薬剤耐性菌の出現や、致死的になりうるClostridioides difficile感染症のリスク、下痢や腎機能障害といった副作用も無視できません。 また、米国の介護施設における観察研究では、呼吸器感染症が疑われた認知症患者の約70%に抗菌薬が処方されていましたが、実際に臨床的な細菌感染の基準を満たしていたのはそのうちの約33%にすぎなかったという報告もあります。診断の不確実性と「念のための投与」が、過剰医療と患者の負担を招いている現状が浮き彫りになっています。世界の潮流と日本の立ち位置 重度認知症患者の肺炎に対するアプローチには、地域によって大きな差があります。記事では、オランダと米国ミズーリ州の比較が紹介されています。 オランダでは、重度認知症患者の肺炎に対し、23%が抗菌薬なしで管理されていました。これは、治療方針が明示的に「緩和」に向けられており、あえて抗菌薬を差し控えるという選択がなされているためです。一方、ミズーリ州では重症度が高いほど抗菌薬が使用される傾向にあり、非投与率は15%にとどまりました。 日本はおそらく米国ミズーリ州に近い、あるいはそれ以上に「肺炎=治療」の文化が根強いといえるかもしれません。しかし、患者の予後が数ヵ月単位である場合、その治療が「治癒」を目指しているのか、それとも症状緩和を目指しているのか、その境界線は曖昧です。われわれには「答え」が必要である 本記事の著者らは、こうした長年の疑問に決着をつけるため、重度認知症の肺炎患者を対象とした、抗菌薬静注群とプラセボ静注群を比較する二重盲検RCTの実施を提案しています。主要評価項目は30日生存率だけでなく、QOLや患者の快適さといった「患者・家族中心の指標」が含まれる必要があるでしょう。 「肺炎に抗菌薬を使わない(プラセボを使う)」という試験デザインは、一見倫理的に許容されないように感じられるかもしれません。しかし、抗菌薬治療に確実な有益性のエビデンスがなく、むしろ害の可能性がある以上、この比較試験は倫理的に正当化されるものとなるでしょう。 日本の臨床現場において、すぐにオランダのような「あえて治療しない」選択肢を組み込むことはなかなか難しいでしょう。しかし、われわれが漫然と行っている抗菌薬投与が、本当に患者の「快適さ」や「望ましい最期」に寄与しているのか、一度立ち止まって考えるべき時が来ているのかもしれません。 次回の診療で、重度認知症患者の肺炎に直面した際、少し自問してみるのもいいのではないでしょうか。「この点滴は、患者の苦痛を取り除いているのか、それとも死の過程を引き延ばしているだけなのか」と。そんなことを考えてみるだけでも、慣例に流されがちな日々の処方に、「患者の尊厳」という重みを問い直し、静かな一石を投じることになるはずです。 1) Ahmad A, et al. Do Antibiotics Improve Survival, Quality of Life, and Comfort in Patients with Advanced Dementia and Pneumonia? NEJM Evid. 2026;5:EVIDtt2400447.

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片頭痛へのフレマネズマブ、小児・思春期児にも有益/NEJM

 反復性片頭痛を有する6~17歳の小児・思春期児において、フレマネズマブはプラセボと比較して、片頭痛および頭痛の日数を減少させたことが、米国・シンシナティ小児病院医療センターのAndrew D. Hershey氏らが行った3ヵ月間の海外第III相多施設共同無作為化プラセボ対照二重盲検試験の結果で示された。フレマネズマブ群で最も多くみられた有害事象は、注射部位紅斑であった。フレマネズマブは、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)に選択的に結合するヒト化モノクローナル抗体で、成人の片頭痛予防について承認されている。小児・思春期児について、無作為化試験のエビデンスが求められていた。結果を踏まえて著者は、「小児・思春期児におけるフレマネズマブの有効性と安全性をさらに調べるため、長期の追跡調査を行う必要がある」とまとめている。NEJM誌2026年1月15日号掲載の報告。プラセボと比較、3ヵ月投与の有効性と安全性を評価 試験は2020年8月20日~2024年3月13日に、9ヵ国89施設で被験者を募り行われた(74施設で少なくとも被験者1例が登録された)。 研究グループは、反復性片頭痛(片頭痛が6ヵ月以上持続かつ月当たりの頭痛日数が14日以下と定義)と診断された6~17歳の患児を、フレマネズマブ(体重45kg未満は120mg、45kg以上は225mgを月1回)皮下投与群または適合プラセボ投与群に無作為に割り付けて3ヵ月投与し、有効性と安全性を評価した。被験者は、急性頭痛の治療に、片頭痛に特異的な治療薬を用いることが許容された。 主要エンドポイントは、月当たりの平均片頭痛日数のベースラインからの変化量。重要な副次エンドポイントは、月当たりの中等度以上の頭痛日数の変化量、月当たりの片頭痛日数の50%以上低減などであった。月当たりの平均片頭痛日数減少、-2.5日vs.-1.4日で有意差 237例が無作為化され、234例が全解析集団に包含された。フレマネズマブ群が123例(120mg群36例、225mg群87例)、プラセボ群が111例であった。3ヵ月の二重盲検試験期間を完了したのは、フレマネズマブ群96.7%、プラセボ群94.6%であった。ベースラインの人口統計学的および臨床的特性は両群で類似しており、月当たり平均片頭痛日数(±SD)はフレマネズマブ群7.8±3.1日、プラセボ群7.5±2.8日であった。 主要エンドポイントについて、月当たりの平均片頭痛日数は、フレマネズマブ群(-2.5日、95%信頼区間[CI]:-3.2~-1.7)がプラセボ群(-1.4日、95%CI:-2.2~-0.7)と比べて有意に減少した(群間差:1.1日、p=0.02)。 月当たりの中等度以上の頭痛日数は、フレマネズマブ群(-2.6日)がプラセボ群(-1.5日)と比べて有意に減少した(群間差:1.1日、p=0.02)。また、月当たりの片頭痛日数が50%以上低減した被験者は、フレマネズマブ群47.2%、プラセボ群27.0%であった(群間差:20.1%、p=0.002)。 安全性について、少なくとも1つの有害事象を有したのはフレマネズマブ群68/123例(55.3%)、プラセボ群55/112例(49.1%)であったが、ほとんどが重篤ではなく、軽度~中程度の有害事象であった。 フレマネズマブ群で最も多く見られた有害事象は、注射部位紅斑(9.8%)であった(プラセボ群5.4%)。

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アトピー性皮膚炎治療薬のネモリズマブがかゆみを迅速に軽減

 最近承認された注射型のアトピー性皮膚炎(AD)治療薬ネモリズマブ(商品名Nemluvio)が、悩ましいこの疾患に苦しむ患者に迅速なかゆみの緩和をもたらすことが、新たな研究で示された。スイスの製薬会社であるガルデルマ社の研究者らの報告によると、治療開始からわずか2日でかゆみが軽減した患者の割合は、ネモリズマブを投与された群でプラセボを投与された群の3倍以上に上ることが示された。さらに、ネモリズマブ群では睡眠も改善した。ガルデルマ社治療用皮膚科学プログラム責任者であるChristophe Piketty氏らによるこの研究結果は、「Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology」に12月16日掲載された。 Piketty氏は、「今回の結果は、ネモリズマブがかゆみを迅速に軽減し、結果としてADや結節性痒疹(PN)患者の睡眠改善にもつながるという理解を強化するものだ」とニュースリリースで述べている。ガルデルマ社はネモリズマブの開発企業であり、本研究への資金提供も行っている。 米食品医薬品局(FDA)は2024年に、中等症〜重症のADおよびPNの治療薬としてネモリズマブを承認した。ADは、免疫系の異常によりアレルゲンや刺激物に対する皮膚の防御機能が低下することで発症する。モノクローナル抗体であるネモリズマブは、かゆみやその他のADの症状の原因となるサイトカインのIL-31が受容体に結合するのを阻害し、かゆみのシグナル伝達を遮断する。 この研究では、FDAが承認の根拠とした4件の臨床試験のデータの事後解析を実施し、投与初期(最初の14日間)のかゆみの改善について評価した。解析対象は、AD患者1,728人(ARCADIA1、2試験)とPN患者560人(OLYMPIA1、2試験)であった。対象者は毎日かゆみと睡眠障害の強さを自己報告した。かゆみはpeak pruritus numerical rating scale(PP-NRS)で、睡眠はsleep disturbance numerical rating scale(SD-NRS)で評価し、スコアがベースラインから4点以上低下した場合を改善と見なした。 その結果、投与2日目にPP-NRSに改善が認められたAD患者の割合は、ネモリズマブ群で10.7%であったのに対し、プラセボ群では2.9%にとどまっていた。同様に、投与2日目に改善が認められたPN患者の割合はそれぞれ17.2%と3.7%であった。SD-NRSに改善が認められた割合についても、AD患者ではネモリズマブ群9.9%、プラセボ群4.6%、PN患者ではそれぞれ13.4%と4.3%であり、ネモリズマブ群で有意な改善が見られた。さらに、投与14日目にPP-NRSに改善が認められたAD患者の割合は、ネモリズマブ群で25.5%、プラセボ群で8.9%、PN患者の割合は37.0%と10.2%であり、群間差は投与14日目まで拡大していた。 研究グループは、「かゆみは中等症〜重症のADおよびPN患者が最も苦痛に感じる症状であり、かゆみの迅速な改善は重要な治療目標だ」と指摘している。また、「かゆみを迅速に軽減し、疾患の重症度や患者の生活の質(QOL)に臨床的に有意な改善をもたらす治療法は、ADおよびPNの現在の治療選択肢において重要だ」と述べている。

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