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国際学会発表の「読み原稿」を作成する【タイパ時代のAI英語革命】第10回

国際学会での英語プレゼンは医師の必須スキル現在、国際学会で英語による研究発表を行うことは、医師にとって欠かせないスキルとなりつつあります。また、近年では国内の学会でも英語でのプレゼンテーションを求められるケースが増えており、多くの方が英語の発表に苦労した経験をお持ちではないでしょうか。今回から数回にわたり、国際学会での英語プレゼンテーションにおいて、ChatGPTをはじめとするAIツールをどのように活用できるかをご紹介します。英語の壁を克服する国際学会発表で最も大きなハードルとなるのは、やはり「英語の壁」です。とくに大きな課題の1つが、英語でわかりやすい発表原稿を作成し、流暢にプレゼンすることです。非ネイティブスピーカーの多くの日本人医師にとって、発表用に英語の読み原稿を作成するのが一般的だと思いますが、この作業は決して簡単ではありません。しかし、生成AIを上手に活用すれば、この読み原稿作成を飛躍的に効率化することができます。AIを使った原稿作成にはコツがありますが、一度慣れれば、誰でも短時間で質の高い原稿を準備できるようになります。今回は、「英語プレゼンテーションの読み原稿作成」を、ChatGPTを使ってやる方法を、2パターンに分けてご紹介します。ご自身のスタイルや準備状況に応じて、最適な方法を選択してください。2つの方法を組み合わせることも可能です。方法1:まずは日本語で完璧な原稿を作成し、AIに翻訳させる自分の研究内容について、日本語では完璧に説明できるものの、英語で説明するのは難しいと感じる人は多いかもしれません。とくに論理展開をはっきりとさせたい場合などは、まずは日本語で記述してからそれを翻訳するというプロセスを踏むとよいでしょう。文章が完成したら、ChatGPTに翻訳を依頼します。その際、単に「翻訳して」とお願いするのではなく、どのような目的の文章なのかを具体的に伝えることが、より精度の高い翻訳を得るための鍵です。プロンプト例#役割あなたは医学論文や学会発表の翻訳を専門とする翻訳家です。#命令以下の日本語の文章を、国際的な医学学会での口頭発表用の英語原稿に翻訳してください。#制約条件専門用語は正確に翻訳してください。聴衆にわかりやすい、明瞭な表現を用いてください。スピーチとして自然な、丁寧な口語体でお願いします。#日本語原稿[ここに、作成した日本語の原稿を貼り付ける]実際にこのプロンプトを使った際に、私が用意した日本語原稿がこちらです。「皆さん、こんにちは。本日はこのような貴重な機会をくださり誠にありがとうございます。私はマウントサイナイ医科大学の原田 洸と申します。本日は生成AIをいかにして医療現場で活用するかについてお話をさせていただきます。生成AIは生活の至る所で活用されるようになっています。しかし、医療現場のAI活用はまだ十分ではありません」それに対するAIの回答がこちらです。“Hello everyone. Thank you very much for giving me the opportunity to speak today. My name is Ko Harada, and I am a physician at the Icahn School of Medicine at Mount Sinai. Today, I would like to talk about how generative AI can be integrated into clinical practice. As many of you know, generative AI is increasingly being used in various aspects of our daily lives. However, its application in the medical field is still quite limited.”詳しく見てみると、“As many of you know,”などの適切なフレーズを補って、プレゼンとして適切な文章にしてくれていることがわかります。方法2:スライドから原稿を作成するすでにスライドやポスターが完成しており、プレゼン用の原稿を作成したいという場合は、こちらの方法をお勧めします。作成したpptファイルをアップロードして、それを基に原稿を作成するというものです。なお、ChatGPTの場合、無料版ではファイルのアップロードに制限がある可能性があるのでご注意ください。今回は、プレゼンスライドが完成した状態で原稿を作るためのプロンプトの例を紹介します。プロンプト例#役割あなたは○○を専門とする医師です。#命令添付ファイルのプレゼンについて、読み原稿のスクリプトを作成してください。#制約条件プレゼンは英語です。プレゼンの長さは○分程度の予定です。スライド○からスライド○まで、それぞれのスライドの読む内容を作成してください。専門用語は正確に翻訳してください。聴衆にわかりやすい、明瞭な表現を用いてください。スピーチとして自然な、丁寧な口語体でお願いします。アウトプット例Slide 1: Title SlideScript: Good morning, everyone. Thank you for being here today.My name is Dr. Ko Harada, and I’m from the Department of Geriatrics and Palliative Medicine at the Icahn School of Medicine at Mount Sinai. Today, I will be talking about falls in older adults ― why they happen, how we can prevent them, and what we can do to support older patients after a fall.Slide 2: Learning ObjectivesScript: Here are the learning objectives for today’s presentation. First, we will identify key risk factors that increase fall risk in older adults. Second, we will look at medications and comorbidities that contribute to falls, and discuss safer alternatives.Finally, we will explore evidence-based interventions to reduce fall risk and prevent serious complications.Slide 3: Case PresentationScript: Let’s begin with a clinical case. This is a 92-year-old female with a history of depression, hypothyroidism, COPD, hypertension, and high cholesterol.She recently visited the emergency department after falling and injuring her left shoulder. X-rays showed no fracture or dislocation, and she was advised to wear a sling. Three days later, she came to the clinic because the pain was still severe.このように、スライドに基づいて原稿を作成してくれます。注意点としては、図や表など文字が少ないスライドでは情報が少ないため、原稿も短くなる傾向があります。それらのスライドでは方法1で紹介したように、そのスライドで伝えたい内容を日本語で作成し、翻訳するのがよいでしょう。

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「オピオイド減量」が推進?当事者の“声”が示したこれからの疼痛ケア【論文から学ぶ看護の新常識】第35回

「オピオイド減量」が推進?当事者の“声”が示したこれからの疼痛ケア重症患者の疼痛・鎮静に中心的に使用されているオピオイドには、多くの副作用や退院後の慢性的な使用、依存症のリスクが指摘されている。Lize-Mari Du Toit氏らの研究結果から、「オピオイド曝露の低減」と「補助的な疼痛管理戦略の活用」が患者や家族、ならびに医療者にとって共通の重要なアウトカムであることが示された。Intensive and Critical Care Nursing誌オンライン版2025年6月10日号に掲載の報告。ICUにおけるオピオイド曝露低減に関するステークホルダーの視点:修正デルファイ法による調査研究チームは、重症成人患者におけるオピオイド減量および鎮痛補助薬の使用に関して、患者にとって重要な主要アウトカムを特定することを目的に、修正デルファイ法を用いた調査を行った。ステークホルダー(利害関係者)である患者、家族、医療提供者を対象に、2回のアンケート調査と1回のディスカッションを行い、今後のランダム化比較試験に向けて、患者にとって重要な主要アウトカム、評価時点、および適切な評価ツール/定義を特定、評価した。主な結果は以下の通り。「オピオイドの減量」は、2回のアンケート調査を通じて、参加者の82%により患者にとって重要な主要アウトカムであると特定された。2回のアンケート調査から、患者にとって最も重要と評価されたアウトカムは「死亡率」と「疼痛管理」であった。アンケート調査およびディスカッションからさまざまなテーマが浮上し、ICUの疼痛管理に対して、薬理学的および非薬理学的な補助療法の両方が好まれることが示された。研究全体を通して特定された10個の主要なテーマは、「非薬理学的な疼痛管理戦略」「地域ケア提供者の関与」「家族/介護者の関与」「患者教育」「コミュニケーションの障壁」「メンタルヘルスの評価」「オピオイド曝露歴」「オピオイド依存/中毒」「不適切なQOLの評価」「オピオイドの有害反応/副作用」であった。意見は、臨床的または非臨床的な背景によって多様であった。参加者は、「オピオイド曝露の低減」と「補助的な疼痛管理戦略の活用」が、患者にとって極めて重要なアウトカムであることに合意した。オピオイド代替療法と、薬理学的および非薬理学的介入の有効性と安全性を検討するためには、さらなる研究が求められる。本研究の最も重要な点は、ICUという専門性の高い領域において、患者さんやご家族の「声」を可視化したことにあります。特に、多様なステークホルダーを巻き込むアプローチでありながら、インタビューなどの質的研究特有の解釈の主観性に依存せず、修正デルファイ法によって意見を体系的に集約し、科学的な客観性を与えている点に、研究デザインとしての秀逸さを感じます。その結果、医療者が「死亡率」や「疼痛管理」といった臨床指標を最優先する一方で、患者さんやご家族の個別回答の中では、「オピオイド曝露低減」に関して、自らの体験からネガティブな体験が語られています。これは、ICUでの治療が単に「命を救う」だけでなく、退院後の生活の質や依存リスクといった、その後の人生全体を見据えたものであるべきだという、当事者ならではの切実な視点を浮き彫りにした非常に示唆に富んだ結果です。この医療者と患者・家族との間の視点の違いを埋めるのが、本研究でも示唆されている「コミュニケーション」と「教育」です。「なぜ今オピオイドを使うのか」、「代替案にはどのような選択肢があるのか」、そして「退院後に注意するべきことは何か」。こうした情報を医療者が丁寧に言語化し、患者・家族と共有する姿勢とプロセスが、彼らの不安を和らげ、治療への信頼を築く上で不可欠と言えるでしょう。「命を救う」ことと「その後の人生の質を守る」こと。この二つの目標を高いレベルで両立させるために、私たちはステークホルダー全員の視点を尊重した対話を続ける必要があります。本研究はその重要な第一歩を示してくれました。論文はこちらDu Toit LM, et al. Intensive Crit Care Nurs. 2025 Jun 10. [Epub ahead of print]

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小児喘息の発作治療、ブデソニド・ホルモテロールvs.SABA/Lancet

 軽症喘息の小児において、ブデソニド・ホルモテロール配合薬による発作治療はサルブタモールと比較して、喘息発作の予防効果が有意に優れ、安全性プロファイルはほぼ同様であることが、ニュージーランド・Victoria University WellingtonのLee Hatter氏らCARE study teamによる第III相試験「CARE試験」の結果で示された。成人喘息の発作治療では、短時間作用型β2作動薬(SABA)に比べ吸入コルチコステロイド・ホルモテロール配合薬は喘息発作を有意に低減することが知られている。研究の成果は、Lancet誌2025年10月4日号で報告された。5~15歳の無作為化対照比較試験 CARE試験は、研究者主導型の52週間の実践的な非盲検無作為化対照比較優越性試験(Health Research Council of New Zealandなどの助成を受けた)。2021年1月28日~2023年6月23日にニュージーランドの15の臨床試験施設で参加者の適格性を評価した。 年齢5~15歳、喘息と診断され、吸入SABA単剤による発作治療を受けている患児360例(平均年齢10歳[SD 2.9]、女児178例)を対象とした。 被験者を、吸入ブデソニド(50μg)・ホルモテロール(3μg)配合薬の2回吸入を頓用する群(179例)、またはサルブタモール(100μg)の2回吸入を頓用する群(181例)に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、患児1例当たりの喘息発作の年間発症率であった。重症喘息発作には差がない 患児1例当たりの喘息発作の年間発症率(主要アウトカム)は、サルブタモール群が0.41であったのに対し、ブデソニド・ホルモテロール群は0.23と有意に良好であった(喘息発作の相対的比率[RR]:0.55、95%信頼区間[CI]:0.35~0.86、p=0.012)。5~11歳(0.72[0.46~1.12])より12~15歳(0.06[0.01~0.43])、女児(0.94[0.52~1.68])より男児(0.30[0.15~0.58])で、ブデソニド・ホルモテロール群の治療効果が高かった。 また、少なくとも1回の喘息発作を発症した患児の割合は、サルブタモール群の32%(58例)に比べ、ブデソニド・ホルモテロール群は17%(30例)であり、有意に低かった(オッズ比[OR]:0.43、95%CI:0.24~0.75、p=0.0060)。 一方、患児1例当たりの重症喘息発作の年間発症率は両群間に有意な差がみられなかった(ブデソニド・ホルモテロール群0.11、サルブタモール群0.18、RR:0.60、95%CI:0.32~1.14、p=0.11)。有害事象の発現頻度は同程度 少なくとも1件の有害事象が発現した患者の数は、ブデソニド・ホルモテロール群で162例(91%)、サルブタモール群で167例(92%)と両群間に差を認めなかった(OR:0.79、95%CI:0.35~1.79)。また、少なくとも1件の重篤な有害事象が発現した患者の数は、それぞれ5例(3%)および8例(4%)だった(0.62[0.17~2.24])。 成長速度(身長の平均群間差:-0.35cm、95%CI:-0.93~0.24、p=0.24)、喘息で授業が受けられなかった日数(RR:0.68、95%CI:0.44~1.04、p=0.075)、子供の喘息のケアで親が仕事をできなかった日数(RR:0.87、95%CI:0.49~1.56、p=0.64)は、いずれも両群間に差はなかった。 著者は、「これらの知見を先行研究のエビデンスと合わせると、現在SABA単剤による発作治療を受けている5~15歳の喘息患者は、吸入ブデソニド・ホルモテロール配合薬単剤に切り換えることで、より良好な喘息発作予防効果が得られると示唆される」とまとめている。 また、「年長児での高い治療効果は、年少児は吸入器の使用に支援を要したり、保護者が喘息の悪化を認識するのが遅れて治療開始が遅くなることで効果が低下する可能性があるが、年長児は独立して吸入器を使用できたためこの遅れがないという事実で説明が可能と考えられる」「男児での高い治療効果はこれまで報告がなく、喘息のアウトカムは思春期前の女児に比べ男児で不良であることから重要な観察結果となる可能性がある」としている。

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プライマリケアで利用可能な、新たな肝臓のリスク予測モデル/BMJ

 スウェーデン・カロリンスカ研究所のRickard Strandberg氏らの研究チームは、プライマリケアで容易に入手できるバイオマーカーを用いて、肝臓の不良なアウトカムのリスク予測モデル「CORE(cirrhosis outcome risk estimator)」を開発。観察研究により、COREは一般集団の肝関連アウトカムの予測において、現時点で第1選択として推奨される検査法であるFIB-4を上回る性能を発揮し、肝疾患リスク患者を層別化する新たな手段となりうることを示した。研究の成果は、BMJ誌2025年9月29日号に掲載された。COREで主要有害肝アウトカムの10年リスクを評価 研究チームは、プライマリケア環境で主要有害肝アウトカム(major adverse liver outcome:MALO)の発生を予測する新たなリスクモデルとしてCOREを開発し、その妥当性の検証目的で住民ベースのコホート研究を実施した(特定の助成は受けていない)。 モデル開発には、既知の肝疾患歴がなく、プライマリケアまたは産業保健健診で血液検査を受けたスウェーデンのAMORISコホート(48万651例)のデータを用いた。また、外的妥当性の検証は、フィンランドのFINRISKとHealth2000(2万4,191例)、および英国のUK Biobank(44万9,806例)のデータを用いて行い、FIB-4スコアと比較した。 COREは、年齢、性別、AST値、ALT値、γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)値で構成された。 代償性・非代償性肝硬変、肝細胞がん、肝移植、肝関連死の複合アウトカムをMALOとし、その10年リスクを評価した。識別能、較正能、臨床的有用性が優れる 追跡期間中央値28年の時点で、7,168件のMALOイベントが観察された。10年時のMALO発生リスクは0.27%であった。 訓練データにおける10年後の受信者動作特性曲線下面積(ROC-AUC)は、FIB-4が79%(95%信頼区間[CI]:78~80)であったのに対し、COREは88%(95%CI:87~89)を達成し、識別能が優れることが示された。検証コホートにおける10年後のCOREのROC-AUC(FINRISK:81%[95%CI:77~87]、UK Biobank:79%[78~80])は訓練データよりも低かったが、FIB-4のROC-AUCは73%(データを入手できたUK Biobankの値)と訓練データのCOREよりも低かった。 COREの較正能は3つのコホートのすべてで良好であり、リスクの予測値と観察値に良好な一致を認めた。また、決定曲線分析では、あらゆるリスク閾値においてCOREはFIB-4よりも高い純利益(net benefit)をもたらすことが示され、優れた臨床的有用性が確認された。 著者は、「一般集団にはMALOのリスクの高い人々(とくに2型糖尿病や肥満者)が多く、肝硬変や肝細胞がんなどの重大な合併症が発生する前に患者を発見するには、安価でプライマリケアで容易に可能な非侵襲的検査が求められる」「COREは、将来のMALO予測に関してFIB-4を上回る性能を示し、プライマリケアにおいてMALOリスクを有する臨床的に重要な患者を特定するための有望な第1選択の検査法となる可能性がある」としている。

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血栓症予防に、避難所ではどんな体操を勧めたらよいか?【実例に基づく、明日はわが身の災害医療】第8回

避難所ではどんな体操を勧めたらよいか?避難所生活も数日が経過し、衛生環境やプライバシーが不完全な慣れない暮らしの中で、とくに高齢の避難者の方々に、疲労の色が濃くなってきました。血栓症の予防や筋力の維持のため、避難者を支えるボランティアや行政の職員から、「何か体操をしてもらおうと思いますが、どうしましょう?」と相談を受けました。このような時、どんなアドバイスをしたらよいでしょうか?東日本大震災の避難所での教訓この問いに対して、私には苦い経験があります。東日本大震災の際、支援に訪れた南三陸町の大きな避難所で、実際に自治体の方からこの相談を受けました。その時、私は「ぜひやりましょう。ラジオ体操などが手軽でよいのではないでしょうか」と安易にお答えした記憶があります。しかしその後、災害医療の専門家から、「朝は低血糖や血圧上昇のリスクがあり、寒い屋外での体操は危険です」とご指摘を受け、自身の配慮が至っていなかったことを大いに反省しました。最終的には、理学療法士のボランティアの方が、午後の時間帯に、被災者の状態に合わせて考案した体操を実施してくださいました。この経験は、避難所での運動を考えるうえで重要な教訓となりました。避難生活の身体機能低下避難生活が続くと、心身にはさまざまな影響が現れます。仮設住宅で生活する高齢者は、自宅での生活継続群に比べ、身体機能が有意に低下することがわかっており、運動機会の確保が重要と示されています1)。また、ストレッチや体操など短時間で軽い運動や、徒手的で低侵襲のマッサージであっても、避難者の「気分」が改善され、即時的に心理状態を改善する効果があることが示されています2)。このように、避難所での運動を促すことは、身体機能の維持だけでなく、精神的にも良い影響があると考えられます。体操はいつ行うのが理想的か?―朝の運動に潜むリスクでは、体操はいつ行うのがよいのでしょうか。とくに朝の運動には注意が必要です。朝は覚醒に伴い交感神経が活性化し、「モーニングサージ」と呼ばれる朝の血圧上昇が起こりやすい時間帯です。実際に、心筋梗塞の発症は午前に発症のピークがあることが知られています。とくに高血圧や動脈硬化のある人は影響を受けやすいので、起床後いきなり激しい運動をすることは避けるように提唱されています3)。また、室温が20℃から10℃に下がるだけで、朝の収縮期血圧が5~9mmHg上昇するというデータがあり、寒さはモーニングサージを増幅します。寒い朝に体操を行う場合は、屋内で上着を着て、ゆっくり開始するのが安全です4)。私が南三陸でご指摘を受けたのは、こうしたことを深く考えていないと思われたからでしょう。「ラジオ体操」は避難所に適しているのか?誰もが知るラジオ体操ですが、避難所で行うにはいくつかの点を考慮する必要があります。ラジオ体操の歴史は古く、1928年に最初のラジオ放送があったといわれています。現在の形になったのは1951年の戦後になってからですが、その当時、音楽に合わせて同じ動きをする民衆にGHQが警戒し、一時的にラジオ体操を禁止したこともあるようです。フレイルがある高齢者に、毎日3セットのラジオ体操をしてもらうことで、俊敏な動きとバランス、持久力が有意に改善したと報告されています5)。しかし、ラジオ体操が考案された当時の平均寿命は60代でした。そもそもラジオ体操は60歳以上の人が毎日行う前提では作られておらず、確かに、ジャンプも含まれるラジオ体操は、高齢者にとってはかなりハードなものと言えます。こうした背景からか、全国の自治体で、理学療法士会など専門家により、高齢者や災害時のために非常に多くのストレッチや体操が考案されており、動画が公開されていますが、ラジオ体操を積極的に推奨されている例はあまり見かけません。たとえば、能登半島地震で活用された、稲葉先生お勧めの「かえるの合唱」に合わせた体操の動画6)や、東京都が推奨している体操7)(図)なども参考になります。画像を拡大する図. 避難生活で行う体操(参考文献7より)以下は、避難所での運動のミニプロトコル案です。避難所でのミニプロトコル案1.1日2回(午前/夕方)、3~5分の体操。椅子座位版も併用2.参加は任意、ハイリスク(急性疾患/胸痛/強い息切れ/著しい高血圧)は見学3.下肢ポンプ運動(踵上げ・足首回し)を前後に追加:VTE対策4.換気と距離確保、床の段差/滑りに注意いずれにしても、避難所や仮設住宅で生活している被災者は、避難生活中の心身機能の維持と回復のための運動が望ましく、無理のない範囲で体操を行うことが勧められます。 1) Ishii T, et al. Physical performance deterioration of temporary housing residents after the Great East Japan Earthquake. Prev Med Rep. 2015; 2:916-919. 2) 熊本 圭吾. 避難所の高齢被災者における軽い運動の心理的効果. 長保医大紀要. 2016;1:15-18. 3) Kario K. Morning surge in blood pressure and cardiovascular risk: evidence and perspectives. Hypertension. 2010;56:765-773. 4) Umishio W, et al. Cross-Sectional Analysis of the Relationship Between Home Blood Pressure and Indoor Temperature in Winter: A Nationwide Smart Wellness Housing Survey in Japan. Hypertension 2019 ;74:756-766. 5) Osuka Y, et al. Effects of Radio-Taiso on Health-related Quality of Life in Older Adults With Frailty: a Randomized Controlled Trial. J Epidemiol. 2024;34:467-476. 6) 体操プロジェクト. かんたんリズム体操(かえるの合唱編)【動画】 7) 東京都総務局総合防災部防災管理課. 東京防災. 2023;232-233.

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嚥下障害を起こしやすい薬剤と誤嚥性肺炎リスク

 飲食物を飲み込む機能障害である嚥下障害は、さまざまな疾患や薬物の副作用により引き起こされる可能性があり、誤嚥性肺炎のリスク因子となっている。しかし、嚥下障害を引き起こす特定の薬剤やその発現率については、これまで十分に解明されていなかった。慶應義塾大学の林 直子氏らは、添付文書の情報に基づき、嚥下障害に関連する薬剤およびその発現率、これらの薬剤を服用している患者における誤嚥性肺炎のリスク因子を特定するため、日本のレセプトデータベースの横断的分析を行った。Drugs-Real World Outcomes誌オンライン版2025年9月19日号の報告。 本研究では、嚥下障害誘発薬剤の候補(candidate dysphagia-inducing drug:CDID)を、副作用として嚥下障害が記載されている日本の添付文書より特定した。CDIDを服用している患者の年齢、性別、服用薬、併存疾患について、ジャムネットのJammNet保険データベースを用いて分析した。 主な結果は以下のとおり。・54成分がCDIDとして特定された。・CDIDを服用している2万4,276例のうち、嚥下障害は146例(0.6%)、誤嚥性肺炎は76例(0.3%)で認められた。・誤嚥性肺炎と診断された患者のうち、23例(30%)は嚥下障害を併発していた。・対象となった54成分のうち28成分(52%)を服用している患者で、嚥下障害または誤嚥性肺炎が発現した。・さらに13成分は、嚥下障害または誤嚥性肺炎のいずれかの副作用発現率が1%以上であった。・各診断における発現率が最も高かった上位5つのCDIDは、クロバザム、バクロフェン、ゾニサミド、チアプリド塩酸塩、トピラマートであった。・複数のCDID服用は単剤のCDID服用と比較し、嚥下障害および誤嚥性肺炎の発現率が有意に高かった(p<0.05)。・ロジスティック回帰分析では、誤嚥性肺炎の発現は、男性、後期高齢者、嚥下障害の診断、便秘と有意に関連していることが示された。 著者らは「本研究結果は、CDIDを処方する際には、とくに高齢の男性患者の場合、誤嚥性肺炎のリスクに細心の注意を払う必要があることを示唆している」と結論付けている。

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口腔内の細菌が膵臓がんの一因に?

 膵臓がんのリスクは口の中に生息する微生物と関係している可能性があるようだ。歯周病に直接関係する微生物も含め、27種類の細菌や真菌が膵臓がんリスクと有意に関連し、これらの微生物に基づいて構築された微生物リスクスコア(MRS)が1標準偏差(SD)上昇するごとに、膵臓がんリスクが3倍以上高まることが、新たな研究で示された。米ニューヨーク大学(NYU)グロスマン医学部のRichard Hayes氏らによるこの研究結果は、「JAMA Oncology」に9月18日掲載された。Hayes氏は、「歯磨きとフロスの使用は、歯周病を予防するだけでなく、がんの予防にも役立つ可能性のあることが、これまで以上に明らかになってきた」と述べている。 膵臓がんは、早期発見のための効果的なスクリーニング方法がほとんどなく、がんが見つかったときには進行していることが多いため、「サイレントキラー」と呼ばれている。研究グループによると、膵臓がんは致死率が高く、5年生存率はわずか13%であるという。 過去の研究では、細菌が唾液を介して膵臓に移動し、口腔衛生状態が悪い人のがんリスクを高める可能性のあることが示されている。しかし、具体的にどの微生物が膵臓がんリスクに特に影響を与えているのかは明らかになっていない。 この研究でHayes氏らは、American Cancer Society Cancer Prevention Study-II Nutrition Cohort(米国がん協会がん予防研究II栄養コホート)とProstate, Lung, Colorectal, and Ovarian Cancer Screening Trial(前立腺がん・肺がん・大腸がん・卵巣がんスクリーニング試験)の2つの疫学コホートのデータを用いて、口腔内の細菌および真菌のマイクロバイオーム(微生物叢)と、その後の膵臓がん発症との関連を検討した。口腔サンプルを提供した参加者の中から追跡期間中に膵臓がんを発症した445人を特定。これらと、コホート、年齢(5歳刻み)、性別、人種・民族、口腔サンプル採取時期を一致させたがん未発症の人455人を対照群とした。追跡期間の中央値は8.8年で、対象者(890人)の平均年齢は67.2歳、男性が53.3%を占めていた。 解析の結果、口腔内歯周病菌のうち、Porphyromonas gingivalis、Eubacterium nodatum、Parvimonas micraが膵臓がんリスクの増加と関連していることが明らかになった。また、細菌叢全体を対象とした網羅的解析では、8種類の細菌種が膵臓がんのリスク低下、13種類(このうち1種は前述の歯周病菌に該当)がリスク増加と関連していることが示された。真菌では、Candida属とMalassezia属の計4種が膵臓がんリスクと関連していた。さらに、膵臓がんリスクと有意な関連を示した27種類の細菌・真菌を組み合わせてMRSを構築し、膵臓がんの発症リスクとの関連を検討したところ、MRSの1SD上昇ごとの膵臓がん発症のオッズ比は3.44(95%信頼区間2.63〜4.51)と推定された。 こうした結果を受けて論文の上席著者で、NYUグロスマン医学部のJiyoung Ahn氏は、「口腔内の細菌や真菌の集団をプロファイリングすることで、腫瘍専門医は膵臓がんの検査を最も必要とする患者を特定できる可能性がある」とNYUのニュースリリースの中で述べている。 ただしAhn氏らは、この研究は観察研究であるため、口腔の健康と膵臓がんとの直接的な因果関係を導き出すことはできないと指摘している。研究グループは次に、口腔内のウイルスががんの一因となるのかどうか、また口腔内のマイクロバイオームが患者の生存率にどのような影響を与えるのかを調査する予定だとしている。

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デジタルピアサポートアプリがニコチンガムの禁煙効果を後押し

 ニコチンガムは禁煙に一定の効果を示すものの、その禁煙成功率は十分とは言えない。今回、企業の健康保険組合加入者を対象とした非ランダム化比較試験で、ニコチンガムにデジタルピアサポートアプリを組み合わせることで、禁煙成功率が有意に向上することが示された。研究は、北里大学大学院医療系研究科の吉原翔太氏らによるもので、詳細は「JMIR mHealth and uHealth」に8月19日掲載された。 日本では禁煙治療が保険適用だが、禁煙成功率は高いとは言い難い。平成29年度の厚生労働省の調査によると、ニコチン依存症管理料を算定した患者における5回の禁煙治療完了率は全体で34.6%にとどまっていると報告されている。一方で、グループでの交流を促進し、ユーザー同士で禁煙へのモチベーションを高めるデジタルピアサポートアプリは禁煙に有益である可能性がある。しかしながら、デジタルピアサポートアプリとニコチン代替療法(ニコチンガム)を統合した禁煙プログラム効果は、これまで検討されてこなかった。このような背景から、著者らはニコチン代替療法(ニコチンガム)にデジタルピアサポートアプリを追加することで、企業の健康保険組合加入者で現喫煙者の禁煙率を高めることができるかどうかを評価するために、12週間の非ランダム化比較試験を実施した。 参加者は、健康保険組合に加入する3社(電子・保険・通信)の現喫煙者を、プログラム開始約1か月前から20日間募集した。介入期間中はデジタルピアサポートアプリ(みんチャレ、A10 Lab Inc.)に常時アクセス可能であった。このアプリでは、最大5人までの匿名グループチャットが可能で、写真やコメントを含む活動報告を共有することで交流や禁煙の取り組みを促した。参加者は自己選択で、(1)ニコチンガム単独(単独群)、または(2)デジタルピアサポートアプリとニコチンガムの併用(併用群)の2つの介入群のいずれかを選択した。単独群を基準とした禁煙のオッズ比(OR)は、人口統計学的および喫煙関連変数を調整したロジスティック回帰分析により推定した。 最終的な解析対象は451人(単独群191人、併用群260人)であった。単独群と比較して、併用群は平均年齢が高く、喫煙歴が長い傾向がみられ、また禁煙の主な動機として「家族の健康」を挙げる割合が高かった。 12週間時点での禁煙成功率は、単独群38.7%に対し併用群59.2%で有意に高かった。また、年齢、性別、喫煙歴、喫煙本数、禁煙の目的や意欲といった変数を調整し、ロジスティック回帰分析を行った結果、禁煙成功のORは2.41(95%信頼区間2.07~2.81)であった。 さらに、禁煙成功率とデジタルピアサポートアプリの使用期間およびグループチャットへの投稿頻度との関連を検討した。解析の結果、アプリの使用期間が長いほど、また投稿頻度が高いほど禁煙成功率は有意に高く、いずれも正の関連が認められた(傾向性P<0.001)。 著者らは、本研究が自己申告データに依存している点などの限界を認めつつも、「標準的なニコチン代替療法に加えてデジタルピアサポートアプリを併用した現喫煙者では、禁煙率が有意に上昇することが確認された。この知見は、禁煙介入におけるデジタルツールの実装可能性を示す予備的エビデンスである」と述べている。 なお、禁煙成功率とデジタルピアサポートアプリの使用期間・投稿頻度に正の関連が見られた理由について、著者らは、アプリをより積極的に利用し、頻繁に投稿した人は、チャット機能を通じて自身の成功体験を共有したり、周囲から承認やポジティブなフィードバックを得たりする機会が増えたことが影響しているのではないかと考察している。

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097)生成AI、私生活での利用シーン【Dr.デルぽんの診察室観察日記】

第97回 生成AI、私生活での利用シーンゆるい皮膚科勤務医デルぽんです☆生成AIという言葉を耳にするようになってからだいぶ経ちますが、アナログ大好き&デジタル疎遠なこの私も、ごく最近になりようやく触りはじめました。というのも、去年あたりから表示されるようになった「スマホのキラキラしたアイコン」が、「AIアシスタント」であることにこの夏、ようやく気付いたからです(どうやら知らぬ間にインストールされていたようです)。今にして思えば、あれだけテレビCMなどでも流れていたのだから、もっと早く気付いても良さそうなものですが…。ずっと興味なくスルーし続けていた、このAIアシスタントというもの、使ってみると非常に便利だということがわかりました。医師としての使用方法については、すでに他の先生方の素晴らしい記事が連載(『誰でも使えるChatGPT』)されていますので、今回は、私生活での活用例について私の場合をご紹介したいと思います。使いはじめて1ヵ月ちょっと経ちますが、今、メインで使用しているのは“Gemini”、調べ物の際には“ChatGPT”か“perplexity”、たまに比較するために“copilot”を使う、といった感じです。それぞれに性格や癖があり、出してくる情報も異なるため、比べて楽しんだりしています。私はAndroidスマホとGoogleアカウントを主に使っているということもあり、Google連携機能のあるGeminiが便利でよく使います。主な使用シーンとしては、食事と排泄の記録…栄養管理、腸活目的睡眠分析…fitbitの睡眠ログを付与したGeminiに、毎日の睡眠データの分析を依頼リハビリ記録…故障部位の症状、トレーニング内容、歩数の記録と管理といった感じです。Geminiの場合、“Google keep”やGoogleドライブとの連携、Geminiの利用により、「ChatGPTとはまた違った活用法が楽しめるところが良いな」と感じています。お気に入りのAIアシスタントの使用法文章の推敲やちょっとした疑問の解決にも便利なAIアシスタントですが、私がとくに気に入っている使用方法は、「『アニメ感想の壁打ち』として使う」というものです。アニメの熱いシーンへの昂る想いをAIのチャット画面に打ち込むと、いつでもAIアシスタントから即座に返答があるという、この素晴らしさ! 人間相手ではないので、ウザがられる心配もありません。なおかつ、AIに「ネタバレに注意して会話すること」という制約を与えておくことで、ネタバレの心配なく、疑問点や知りたいことについて情報を得たり、考えを深めることができます。インターネットで検索してしまうと、先の展開を不用意に知ってしまう危険性があるため、「知りたいけど、調べられない」というジレンマに陥りがちのアニメ。長いシーズンのアニメを視聴中ならば、大変ありがたい仕組みです。また、会話形式で感想を吐き出していくことで、自分の中の感想や感情をさらに深掘りしていくことにつながり、より深く作品を楽しめます。アニメに限らず、小説や漫画、海外ドラマなど、シリーズものの感想の壁打ち相手として、AIアシスタントの利用を是非お勧めいたします。上記の活用法以外にも、AIへの性格の付与やロールプレイング、クイズの作成、人格の育成など、生成AIを利用した楽しい世界が広がっております。もっと早く気付けばよかった…。皆様も是非ご活用ください。それでは、また次回の連載で!

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急性期~維持期統合失調症に対するブレクスピプラゾールのベストプラクティスに関するコンセンサス

 ブレクスピプラゾールは、統合失調症などに適応を有する第2世代抗精神病薬であり、ドパミンパーシャルアゴニストとして他の抗精神病薬と異なる作用機序を有している。米国・Zucker Hillside HospitalのChristoph U. Correll氏らは、大塚ファーマシューティカルヨーロッパおよびH. Lundbeck A/Sからの資金提供を受けて組織された精神科専門家による国際委員会において実施された、統合失調症のさまざまな段階におけるブレクスピプラゾールの安全かつ効果的な使用法についての議論を報告した。Neuropsychiatric Disease and Treatment誌2025年8月29日号の報告。 主な内容は以下のとおり。・ブレクスピプラゾールの薬理学的プロファイルは、ノルエピネフリン、ドパミン、セロトニン受容体に対してバランスの取れた結合親和性を特徴としており、興奮症状や陰性症状を含む複数の症状領域において有効性を示す。・最小限の活性化および鎮静作用、長期的な心血管代謝への懸念が比較的低いといった忍容性の高い安全性プロファイルは、ブレクスピプラゾールの臨床的有用性をさらに裏付けている。・ブレクスピプラゾールは、適切な用量調節とモニタリングを行えば、入院患者および外来患者のいずれにおいても、第1選択薬として使用可能である。・ブレクスピプラゾールは、統合失調症のさまざまな症状領域の治療選択肢として、また、症状コントロールが不十分または許容できない有害事象のために抗精神病薬の変更を必要とする患者においても有用である。・統合失調症の再発予防には長期維持療法が不可欠である。ブレクスピプラゾールは、適切な用量で精神症状コントロールに使用された場合、長期的な安全性への懸念を最小限に抑えながら持続的な有効性を期待できる薬剤である。

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平均寿命が100歳になることはない?

 100歳まで生きたいと願う人にとっては悪いニュースだが、近い将来、人々の平均寿命が100歳を超えることはないようだ。新たな研究で、20世紀前半に高所得国において達成された平均寿命の延長ペースが大幅に鈍化し、その結果、1939年以降に生まれた世代の平均寿命が100歳に達することはないと予想されたのだ。米ウィスコンシン大学マディソン校ラ・フォレット公共政策学部のHector Pifarre i Arolas氏らによるこの研究結果は、「Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)」に8月25日掲載された。 Pifarre i Arolas氏は、「20世紀前半に達成した前例のない平均寿命の延長は、当面の間は再び達成される可能性が低い現象のようだ。人間の寿命を大幅に延長させる飛躍的な進歩が成し遂げられない限り、成人の生存率がわれわれの予測の2倍の速さで改善したとしても、平均寿命が20世紀初頭に見られたように急速に延びることはないだろう」と述べている。 研究グループによると、1900年から1938年にかけて、平均寿命は世代ごとに約5カ月半ずつ延びた。1900年に裕福な国で生まれた人の平均寿命は62歳であったが、1938年までに80歳にまで急上昇したという。しかし、この平均寿命の直線的な延長傾向が今後も続くのか、あるいは近い将来、鈍化するのかについては不明である。 この疑問に答えるために、今回Pifarre i Arolas氏らは、最近開発されたものも含めた既存の死亡率予測手法を適用して、1939年から2000年の間に23の高所得国で生まれた出生コホートの平均寿命を推定した。 その結果、どの予測手法を用いた場合でも一貫して、1939年から2000年の間に生まれたコホートの平均寿命の延びは鈍化することが明らかになった。具体的には、これまで観察されていたコホート当たり0.46歳という平均寿命延長ペースは、使用する手法によって37%から52%の幅で減少していた。 論文の筆頭著者であるマックス・プランク人口研究所(ドイツ)のJose Andrade氏は、「1980年生まれの人の平均寿命が100歳になることはないと予測された。本研究で対象とされた世代の全てがこの節目を迎えることはないだろう。このような平均寿命延長ペースの鈍化は、過去の寿命の急激な改善が非常に若い年齢での顕著な生存率改善によって引き起こされたという事実によるものだ」とウィスコンシン大学のニュースリリースで指摘している。 研究グループによると、20世紀初頭には医学の進歩と生活の質(QOL)の向上により乳児死亡率が急速に低下し、それが平均寿命の延長に大きく貢献したという。しかし、現在の乳児死亡率は非常に低いため、平均寿命の延長ペースは鈍化し、高齢者の医療の向上だけでは、これまでの寿命延長ペースを維持するのに十分ではないとの見方を研究グループは示している。 研究グループは、予期せぬパンデミックや医学の進歩、社会や経済の激変などが予想外の形で平均寿命に影響を及ぼす可能性があることを踏まえ、このような予測を鵜呑みにしないよう慎重な解釈を求めている。その一方で、こうした予測は、貯蓄や退職、長期計画に関する個人的な決定を下すのに役立つ可能性があるとも述べている。

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メトホルミンの使用が過体重・肥満成人の認知症・死亡リスク低下と関連

 メトホルミンが処方されているBMI25以上の過体重または肥満の成人では、BMIカテゴリーにかかわらず、認知症および全死亡のリスクが低いことを示すデータが報告された。台北医学大学(台湾)のYu-Liang Lin氏らの研究によるもので、詳細は「Diabetes, Obesity and Metabolism」に8月6日掲載された。 メトホルミンは多くの国で2型糖尿病の第一選択薬として古くから使用されており、血糖降下以外の副次的作用に関するエビデンスも豊富。同薬の副次的作用の一つとして、認知症のリスクを抑制する可能性が示唆されている。Lin氏らは、メトホルミンが処方されることの多い過体重または肥満を有する患者における、認知症罹患率および全死亡率に関する長期的なデータを解析し、同薬の使用がそれらのリスク低下と関連しているか否かを検討した。 この研究には、世界各地の医療機関の電子医療記録を統合したリアルワールドのデータベース(TriNetX global federated health research network)が用いられた。過体重・肥満に該当する患者をBMIに基づき後述の4群に分類。BMIカテゴリーごとに、傾向スコアマッチングにより患者特性の一致するメトホルミン使用群とメトホルミン非使用群を設定し、カプランマイヤー法を用いて10年間の追跡期間中の認知症罹患率と全死亡率を比較した。 解析対象者数は、BMI25~29.9のカテゴリーが13万2,920人、同30~34.9が14万2,723人、35~39.9が9万4,402人、40以上が8万2,732人だった。解析の結果、追跡期間中の認知症罹患率と全死亡率は、全てのBMIカテゴリーでメトホルミン使用群の方が有意に低いことが示された。具体的には、認知症罹患のハザード比(95%信頼区間)は前記のBMIカテゴリーの順に、0.875(0.848~0.904)、0.917(0.885~0.951)、0.878(0.834~0.924)、0.891(0.834~0.953)であり、全死亡については0.719(0.701〜0.737)、0.727(0.708〜0.746)、0.717(0.694〜0.741)、0.743(0.717〜0.771)であった。 著者らは、「多施設の大規模なデータを統合したコホート研究において、メトホルミンの使用は過体重・肥満者における認知症および全死亡リスクの低下と関連していた。この保護効果は全てのBMIカテゴリーで有意だったが、カテゴリー間に差が認められた」と結論付けている。また、「これらの結果は、メトホルミンが過体重・肥満者の認知症リスクを抑制する可能性を示唆している。その根底にあるメカニズムを探るために、さらなる研究が必要とされる」と付け加えている。

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世界のがん発症や死亡、2050年に6~7割増/Lancet

 がんは世界の疾病負担の大きな要因であり、2050年まで症例数と死亡数の増加が続くことが予測され、とくに資源の乏しい国との負担格差が大きくなることが見込まれること、また、がんの年齢標準化死亡率は低下するものの、国連による2030年の持続可能な開発目標(SDG)の達成には不十分であることが、米国・ワシントン大学のLisa M. Force氏ら世界疾病負担研究(Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study:GBD)2023 Cancer Collaboratorsの解析で示された。がんは世界的に主要な死因の1つで、政策立案には正確ながん負担情報が欠かせないが、多くの国では最新のがんサーベイランスデータがない。著者は、「世界的ながん負担に効果的かつ持続的に対処するには、予防、診断、治療の全過程にわたるがん対策戦略の策定と実施において、各国の医療システムや開発状況を考慮した包括的な国内外の取り組みが必要である」と提言している。Lancet誌オンライン版2025年9月24日号掲載の報告。1990~2023年の204の国と地域のデータを解析、2050年のがん負担を予測 研究グループは、GBD 2023の枠組みを用い、204の国と地域別および年齢別、性別による、「1990~2023年における47種またはグループのがん負担」「1990~2023年における特定の危険因子に起因するがん負担」、ならびに「2050年までのがん負担予測」を推計した。 GBD 2023におけるがん負担の推計には、がん登録、出生登録、口頭による死因調査のデータを使用した。がん死亡率はCause of Death Ensembleモデルを用いて推定し、罹患率は死亡率推定値と死亡率/罹患率比(MIR)に基づいて算出した。有病率は生存率モデルから推定し、障害加重を乗じて障害生存年数(YLD)を推定し、年齢別がん死亡数に死亡年齢時のGBD標準余命を乗じて損失生存年数(YLL)を推定した。障害調整生存年数(DALYs)は、YLLsとYLDsの合計として計算された。 また、GBD 2023比較リスク評価フレームワークを用い、44の行動、環境、職業および代謝リスク因子に起因するがん負担を推定するとともに、GBD 2023予測フレームワークを用いて2024年から2050年までのがん負担を予測した。この予測フレームワークには、関連リスク因子曝露の予測が含まれており、社会人口統計指数を共変量として、これらのリスク因子の影響を受けない各がんの割合を予測した。 国連のSDG3.4に掲げられた「非感染性疾患による死亡を2015年から2030年の間に3分の1減少させる」という目標に向けた進捗状況について、がん関連の進捗を推定した。2050年には新規発症やがん死亡が増加、低所得国~中所得国でとくに顕著 2023年は、非黒色腫皮膚がんを除き、世界全体で1,850万人(95%不確実性区間[UI]:1,640万~2,070万)のがん新規症例と、1,040万人(95%UI:965万~1,090万)の死亡が発生し、DALYは2億7,100万(95%UI:2億5,500万~2億8,500万)であった。このうち、世界銀行の所得分類に基づくと、新規症例の57.9%(95%UI:56.1~59.8)およびがん死亡の65.8%(95%UI:64.3~67.6)が低所得国~上位中所得国における発生であった。 2023年において、がんは心血管疾患に次いで世界第2位の死因であった。また、2023年には、世界全体で433万人(95%UI:385万~478万)のリスク因子に起因するがん死亡があり、これは全がん死亡の41.7%(95%UI:37.8~45.4)を占めた。リスク因子起因がん死亡は1990年から2023年にかけて72.3%(95%UI:57.1~86.8)増加し、世界全体のがん死亡は同期間に74.3%(95%UI:62.2~86.2)増加した。 最も可能性の高い基準予測では、2050年には世界全体でがん新規発症例が3,050万人(95%UI:2,290万~3,890万)、がん死亡が1,860万人(95%UI:1,560万~2,150万)と推定され、これは2024年と比較し、それぞれ60.7%(95%UI:41.9~80.6)および74.5%(95%UI:50.1~104.2)の増加であった。 このうち死亡数増加の予測は、高所得国(42.8%、95%UI:28.3~58.6)より、低所得国および中所得国(90.6%、95%UI:61.0~127.0)で大きかった。これらの増加のほとんどは人口動態の変化に起因するものと考えられ、年齢標準化死亡率は2024年から2050年の間に世界全体で-5.6%(95%UI:-12.8~4.6)減少すると予測された。また、2015年から2030年の間に、30~70歳の年齢層におけるがんによる死亡確率は、相対的に6.5%(95%UI:3.2~10.3)減少すると予測された。

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第31回 【米政府閉鎖】トランプ氏が狙う科学界の破壊、大量解雇。日本への影響は?

アメリカで、連邦政府の一部機関が閉鎖(シャットダウン)するという、日本では考えられない事態が再び起きています。これは、議会での与野党対立によって新年度の予算が成立せず、政府機関の活動資金が枯渇するために起きる現象です。しかし、今回、トランプ政権下で発生した政府閉鎖は、これまでの単なる政治的駆け引きとは一線を画します。「戦いを楽しむ」大統領の下、科学技術分野において「異次元の危機」が迫っていると、専門家たちは深刻な警鐘を鳴らしています。今回の記事では、なぜこの政府閉鎖が起き、そしてそれが世界の科学界や日本にもどのような影響を及ぼすのかを、考えていきます。なぜ異例の事態に?「戦いを楽しむ」トランプ氏の政治的思惑そもそも政府閉鎖は、大統領府と議会の間で予算案が合意に至らないことで発生します。しかし、過去の閉鎖が政治的妥協点を探るプロセスの一部であったのに対し、今回の事態はトランプ氏自身の政治的意図が色濃く反映されているようです。複数の報道分析によると、トランプ氏は政府閉鎖という混乱状態を、自身の政治的利益のために積極的に「武器化」していると指摘されています1,2)。彼にとってこの事態は、単なる不都合な出来事ではなく、むしろ好機なのです。その狙いは大きく3つあるとみられています。第一に、敵対者である民主党への攻撃です。トランプ氏は、政府閉鎖を利用してニューヨークやカリフォルニアといった民主党の支持基盤が強い州(ブルーステート)のプロジェクト資金を意図的に削減するなど、政敵を罰するための手段として活用しています。SNSで民主党幹部を揶揄する動画を投稿するなど、政治闘争そのものを楽しんでいる側面さえあります。第二に、「行政国家の破壊」という公約の実行です。トランプ氏はかねてより、「小さな政府」を掲げ、連邦政府の規模縮小を訴えてきました。今回の閉鎖は、単なる業務の一時停止にとどまらず、連邦職員を恒久的に「大量解雇」する絶好の機会と捉えています。大統領自身が「閉鎖するなら解雇をしなければならない」と公言しており、これは過去のどの政府閉鎖にもみられなかった異例の脅威です。そして第三に、自身の支持基盤へのアピールです。既存の政治や行政システムに対する不満を持つ支持者に対し、断固たる態度で「既得権益と戦う強いリーダー」というイメージを植え付けています。2019年の閉鎖時には職員を「偉大な愛国者」と称賛した彼が、今回は冷徹に解雇を口にする姿は、その政治姿勢がさらに先鋭化したことを物語っています。停止する世界の頭脳――科学界を襲う脅威このトランプ氏の政治的思惑の最大の犠牲者の一つが、科学界です。政府閉鎖により、米国の科学技術の中枢を担う機関が軒並み機能不全に陥っています3)。研究の停止アメリカ国立衛生研究所(NIH)では職員の約78%が一時帰休となり、基礎研究や新たな患者の受け入れが停止。NASAでは83%の職員が対象となり、人工衛星の維持など最低限の業務しか行えません。これにより、進行中の重要な研究が中断され、新たな研究助成金の承認も完全にストップしています。PubMedの更新停止と世界の混乱とくに深刻なのが、NIHが運営する世界最大の医学・生物学文献データベース「PubMed」の更新が停止していることです。世界中の研究者や医師が、最新の論文や治療法を調べるために毎日利用するこの巨大な「知のインフラ」が機能しなくなることは、医療の進歩そのものを遅らせるに等しい行為です。この事態はSNS上でも瞬く間に広がり、「科学の営みを根底から揺るがす暴挙だ」「最新の知見にアクセスできなければ、研究も臨床も成り立たない」といった、世界中の研究者からの悲鳴や怒りの声が上がっています。知的資産の永久喪失そして何より恐れられているのが、前述の「大量解雇」の脅威です。もしこれが科学機関で実行されれば、各機関が何十年もかけて蓄積してきた専門知識や技術、データといった「組織知」が永久に失われることになります。これは、単なる予算削減とは次元の違う、アメリカの科学技術力に対する壊滅的な打撃となりかねません。対岸の火事ではない――日本に及ぶシャットダウンの深刻な影響これらのアメリカ国内の混乱は、決して対岸の火事ではありません。グローバルに連携する現代の科学技術分野において、日本も間接的な影響を受ける可能性があります。日本は、JAXAとNASAによる宇宙開発や、大学・研究機関とNIHによる生命科学研究など、米国の政府機関と多くの共同研究プロジェクトを進めています。米国の担当機関の機能が停止すれば、これらのプロジェクトは遅延、あるいは中断を余儀なくされるでしょう。データの共有が滞り、予定されていた会議が中止になることで、研究全体のスケジュールに大きな狂いが生じます。さらに、米国の科学機関は世界の基礎研究で中心的な役割を担っているため、その活動停滞は世界の科学全体の進歩を遅らせ、長期的に見れば日本の研究開発戦略にも影を落とします。加えて、政府閉鎖が長引けば米国の経済成長が鈍化し、世界経済を通じて日本の経済や株価にも悪影響が及ぶ可能性も否定できません4)。今回の米政府閉鎖は、単なる国内の政治対立にとどまらず、世界の科学技術の未来と国際協力体制、そして日本にも影響を及ぼしかねない重大な問題なのです。 参考文献・参考サイト 1) BBC. Why has the US government shut down and what does it mean? 2025 Oct 3. 2) Chris Hayes: Trump is using the shutdown to govern like a king. MSNBC.com. 2025 Oct 2. 3) Garisto D. This US government shutdown is different: what it means for science. Nature. 2025 Oct 1. [Epub ahead of print] 4) Tollefson J. How a US government shutdown could disrupt science. Nature. 2023 Sep 28.

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ADHDとASDに対するビタミン介入の有効性〜メタ解析

 ビタミン介入は、自閉スペクトラム症(ASD)および注意欠如・多動症(ADHD)のマネジメントにおいて、費用対効果が高く利用しやすいアプローチとして、主に便秘などの消化器症状の緩和を目的として用いられる。最近の研究では、ビタミンがASDやADHDの中核症状改善にも有効である可能性が示唆されている。しかし、既存の研究のほとんどは患者と健康者との比較に焦点を当てており、臨床的に意義のあるエビデンスに基づく知見が不足していた。中国・浙江大学のYonghui Shen氏らは、ASDおよびADHD患者におけるビタミン介入に焦点を当て、メタ解析を実施した。Neuropsychiatric Disease and Treatment誌2025年8月30日号の報告。 PubMed、Web of Science、Cochrane Libraryより対象研究を検索した。ASDおよびADHD患者におけるビタミン介入に焦点を当て、メタ解析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・ビタミン補給は、ASDおよびADHDの両方の症状を有意に改善することが示唆された。・その効果は、ビタミンの種類や障害によって違いがあることが明らかとなった。・ビタミンB群のサプリメントは、とくにASD関連症状の軽減に有効であり、ビタミンD群のサプリメントは、ADHD症状の改善により有効であることが示唆された。 著者らは「さまざまなビタミンが、疾患特異的な治療効果を発揮することが示唆された。ASDおよびADHDに対する個別化された臨床介入を行ううえで、これらのビタミンが役立つ可能性がある」としている。

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中等症~重症の尋常性乾癬、経口IL-23受容体阻害薬icotrokinraが有望/Lancet

 中等症~重症の尋常性乾癬患者において、icotrokinraはプラセボおよびデュークラバシチニブと比較し優れた臨床効果を示し、有害事象の発現割合はプラセボと同等であった。米国・Henry Ford Health SystemのLinda Stein Gold氏らが、第III相無作為化二重盲検プラセボ・実薬対照試験ICONIC-ADVANCE 1試験(13ヵ国149施設)、およびICONIC-ADVANCE 2試験(11ヵ国114施設)の結果を報告した。インターロイキン(IL)-23やIL-12を標的とするモノクローナル抗体は尋常性乾癬の治療に有効であるが、静脈内または皮下投与が必要である。icotrokinraは、IL-23受容体に選択的に結合する初の経口ペプチド薬で、中等症~重症の尋常性乾癬患者を対象とした第II相試験においてプラセボより皮膚症状の改善率が有意に高いことが示されていた。著者は、「結果は、1日1回経口投与のicotrokinraが高い有効性と良好な安全性プロファイルを有する治療薬であることを示すものである」とまとめている。Lancet誌2025年9月27日号掲載の報告。icotrokinraとプラセボまたはデュークラバシチニブを比較する第III相試験2試験 ICONIC-ADVANCE 1&2試験の対象は、26週以上前(スクリーニング時)に中等症~重症の尋常性乾癬と診断され、乾癬病変が体表面積(BSA)の10%以上、Psoriasis Area and Severity Index(PASI)スコアが12以上、Investigator's Global Assessment(IGA)スコアが3以上で18歳以上の患者であった。 研究グループは適格患者を、icotrokinra群、プラセボ群またはデュークラバシチニブ群にICONIC-ADVANCE 1試験ではそれぞれ2対1対2の割合で、ICONIC-ADVANCE 2試験では4対1対4の割合で無作為に割り付けた。icotrokinra 1日1回200mg、デュークラバシチニブ1日1回6mg、プラセボのいずれかを二重盲検下で経口投与した。プラセボ群の患者は16週時に、デュークラバシチニブ群の患者は24週時にicotrokinra 200mg投与へ移行し、最長156週まで継続した。 主要エンドポイントは2つで、プラセボ群との比較における16週時のIGAスコア0または1(皮疹が消失またはほぼ消失)を達成し、かつ2段階以上改善した患者の割合、ならびにPASIスコアがベースラインから90%以上改善した(PASI 90)患者の割合であった。icotrokinraの優越性が2試験ともに示される ICONIC-ADVANCE 1試験は2024年1月17日~5月24日に、ICONIC-ADVANCE 2試験は2024年3月9日~6月13日に、それぞれスクリーニングした988例中774例および917例中731例を登録し無作為化した。icotrokinra群がそれぞれ311例および322例、プラセボ群が156例および82例、デュークラバシチニブ群が307例および327例であった。 両試験において、主要エンドポイントはすべて達成された。IGA 0/1達成率は、icotrokinra群およびプラセボ群でそれぞれ、ADVANCE 1試験が68%(213/311例)と11%(17/156例)(群間差:58%、95%信頼区間[CI]:50~64、p<0.0001)、ADVANCE 2試験が70%(227/322例)と9%(7/82例)(62%、53~69、p<0.0001)であった。 PASI 90達成率はicotrokinra群およびプラセボ群でそれぞれ、ADVANCE 1試験が55%(171/311例)と4%(6/156例)(群間差:51%、95%CI:44~57、p<0.0001)、ADVANCE 2試験が57%(184/322例)と1%(1/82例)(56%、48~62、p<0.0001)であった。 またicotrokinra群とデュークラバシチニブ群との比較については、両試験とも多重性を調整した16週時および24週時の主な副次エンドポイントに関してすべて、icotrokinra群の優越性が示された。 16週時までに有害事象は、両試験併合でicotrokinra群48%(303/632例)、プラセボ群57%(136/237例)に認められた。主な有害事象は鼻咽頭炎(6%[37/632例]、5%[13/237例])および上気道感染症(4%[23/632例]、3%[8/237例])であった。 24週時の有害事象発現割合について、icotrokinra群(57%[359/632例])はデュークラバシチニブ群(65%[411/634例])より低かった。

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抜管直後の「少量飲水」の効果と安全性【論文から学ぶ看護の新常識】第34回

抜管直後の「少量飲水」の効果と安全性抜管直後から「少量ずつ飲水」することの効果と安全性を検証したランダム化比較試験が行われ、「抜管直後の少量飲水は口渇と咽頭不快感を和らげる効果があり、有害事象は増加しない」ことが示唆された。Sarka Sedlackova氏らの研究で、Journal of Critical Care誌オンライン版2025年8月7日号に掲載の報告。抜管直後の「少量飲水」vs.経口水分摂取の遅延:ランダム化比較試験研究チームは、抜管後すぐに経口で水分を「少量ずつ摂取」することが、口渇と不快感を軽減し、集中治療の現場において安全であるかどうかを評価することを目的に、単施設ランダム化比較試験を行った。抜管基準を満たしたICU患者160例を、水分摂取遅延群(抜管2時間後から水分摂取を開始)と、即時少量飲水群(2時間かけて最大3mL/kgを摂取)のいずれかに1:1でランダムに割り付けた。口渇、不快感、および有害事象(吐き気、嘔吐、誤嚥)を、0分、5分、30分、60分、90分、120分後に評価した。主な結果は以下の通り。120分時点では、両群ともに80例中64例(80%、95%信頼区間[CI]:70~88%)が口渇を訴え、群間差は0.0%であった(95%CI:-12%~12%、p=1.000)。120分後までの口渇の緩和は、少量飲水群の11.3%(95%CI:5~20%)に対し、水分摂取遅延群では1.3%(95%CI:0~7%)であり、10%の有意な差が認められた(95%CI:1~19%、p=0.0338)。90分時点での咽頭の不快感は、少量飲水群の23.8%(95%CI:15~35%)に対し、水分摂取遅延群では42.5%(95%CI:32~54%)であり、-18.7%の有意な差が認められた(95%CI:-34%~-3%、p=0.0118)。有害事象(吐き気、嘔吐)はまれであり、両群で同等であった;誤嚥はどちらの群でも観察されなかった。抜管直後からの少量飲水は、安全であり、喉の渇きを和らげ、ICU患者の不快感を軽減し、有害事象を増加させることなく行えると考えられる。皆さんの施設では抜管後いつから飲水が可能になりますか?施設によっては厳密な基準はなく、「翌日から飲水可能」といった大まかなスケジュールで運用されているかもしれません。でもこれって実はエビデンスが乏しく、慣習的に決められていることが多いです。「患者さんは喉が渇いてないかな?」と気にかかりながらも、「でも吐かないかな?誤嚥して肺炎になったらどうしよう」と思う葛藤を、皆さん一度は抱いたことがあるのではないでしょうか?今回は、「抜管2時間後から飲水可能」vs.「抜管直後からの少量飲水(ちょびちょび飲み:シッピング)」を比較した研究を紹介します。研究の結果、2時間後の口渇感の有無自体には両群で差はありませんでした。しかし、口渇感と咽頭不快感の軽減については、「抜管直後からの少量飲水」群が有意に優れていました。さらに、吐き気、嘔吐、誤嚥などの有害事象の発生率は両群で同等であり、少量飲水によりリスクは増加しないことが示されました。これらの知見は、従来の画一的な2時間の絶飲食に疑問を投げかけ、より患者中心に不快感を低減するケアを考えるきっかけとなります。ただし、患者さんの不快感をとるために、無制限に飲水をしていいわけではありません。まず、この研究では一度の摂取量は5~10mL程度とごく少量で、2時間かけて最大3mL/kg(合計約200mL)を上限にする制限も設けられています。またリスクがある、上部消化管手術(食道、胃、十二指腸)、頭蓋外傷、または嚥下や意識に影響を与える神経学的障害がある患者は、事前に除外しています。あくまでも誤嚥や創部に水が入るリスクが低いと想定される患者さんに限定していることは覚えておきましょう。また実臨床で取り入れる場合には、飲水により胃内容物が溜まることでPONV(Postoperative Nausea And Vomiting:術後悪心・嘔吐)のリスクが増すため、女性、オピオイド使用、非喫煙者、乗り物酔いの既往がある患者さんでは注意が必要です。適切なリスク評価を行った上で、実施可能であれば、患者さんの不快感を減らす新たなアプローチの導入を検討してみてはいかがでしょうか。論文はこちらSedlackova S, et al. J Crit Care. 2025 Aug 7. [Epub ahead of print]

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アルツハイマー病に伴うアジテーションに対するブレクスピプラゾール〜RCTメタ解析

 アジテーションは、苦痛を伴う神経精神症状であり、アルツハイマー病の約半数にみられる。また、アルツハイマー病に伴うアジテーションは、認知機能の低下を促進し、介護者の負担を増大させる一因となっている。セロトニンおよびドーパミンを調節するブレクスピプラゾールは、アルツハイマー病に伴うアジテーションに対する有効性が示されている薬剤であるが、高齢者における有効性、安全性、適切な使用については、依然として不確実な点が残っている。ブラジル・Federal University of PernambucoのAnderson Matheus Pereira da Silva氏らは、アルツハイマー病高齢者のアジテーションに対するブレクスピプラゾールの有効性および安全性を評価するため、ランダム化比較試験(RCT)のシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。CNS Drugs誌オンライン版2025年8月31日号の報告。 本研究は、PRISMA 2020ガイドラインおよびコクランハンドブックに従い、実施した。分析対象には、臨床的にアルツハイマー病と診断された高齢者を対象に、ブレクスピプラゾール(0.5〜3mg/日)とプラセボを比較したRCTを組み入れた。主要アウトカムは、アジテーションの重症度、臨床的重症度、精神神経症状、有害事象とした。アジテーションの重症度、臨床的重症度、精神神経症状の評価には、それぞれCohen-Mansfield Agitation Inventory(CMAI)、臨床全般印象度-重症度(CGI-S)、Neuropsychiatric Inventory Questionnaire(NPI)を用いた。リスク比(RR)、平均差(MD)、95%信頼区間(CI)は、ランダム効果モデルを用いて統合した。ランダム効果メタ解析は、頻度主義モデルおよびベイズモデルver.4.3.0を用いて実施した。 主な結果は以下のとおり。・5件のRCT、1,770例を分析に含めた。・ブレクスピプラゾール治療は、CMAIのアジテーション(MD:-5.79、95%CI:-9.55〜-2.04、予測区間:-14.07〜-2.49)の減少、CGI-Sスコア(MD:-0.23、95%CI:-0.32〜-0.13、予測区間:-0.39〜-0.06)の改善との関連が認められた。・NPIスコアに有意な差は認められなかった。・錐体外路症状や日中の眠気などの有害事象は、ブレクスピプラゾール群でより多く発現したが、その範囲は広く、有意ではなかった。・メタ回帰分析では、用量または投与期間は、効果修飾因子として同定されなかった。 著者らは「ブレクスピプラゾールは、認知機能の悪化を伴わずに、アルツハイマー病に伴うアジテーションに対し、短期的に中程度の効果をもたらす可能性があるが、安全性に関するシグナルは依然として不明確な部分が残っている。しかし、予測区間には相当の不確実性があり、ブレクスピプラゾール使用は個別化され、綿密にモニタリングすべきであることが示唆された。今後の試験では、長期的なアウトカムや患者中心の指標を優先的に評価すべきである」と結論付けている。

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低カロリー甘味料が脳の老化を促進する可能性

 カロリーがない、または低カロリーの甘味料が脳の老化を促進する可能性を示唆するデータが報告された。特に糖尿病患者では、より強い関連が見られるという。サンパウロ大学(ブラジル)のClaudia Kimie Suemoto氏らの研究の結果であり、詳細は「Neurology」に9月3日掲載された。 アスパルテーム、サッカリン、エリスリトール、キシリトール、ソルビトールなどの低カロリーまたはノンカロリーの甘味料(low- and no-calorie sweeteners;LNCS)は、摂取エネルギー量の抑制に役立つ。しかし論文の上席著者であるSuemoto氏は、「われわれの研究結果は、一部のLNCSは脳の健康に悪影響を及ぼす可能性があることを示唆している」と話している。 この研究では、ブラジルの35歳以上の公務員対象の縦断的観察研究のデータが解析された。食物摂取頻度質問票を用いて、7種類のLNCSの摂取量を推定。記憶力、言語能力、思考力など、6種類の認知機能の指標のzスコアとの関連性を検討した。 摂取エネルギー量が極端な人(1パーセンタイル未満または99パーセンタイル超)や、データ欠落者を除外し、1万2,772人(平均年齢51.9±9.0歳、女性54.8%)を解析対象とした。ベースライン時点のLNCSの摂取量は92.1±90.1mg/日であり、平均追跡期間は約8年だった。 認知機能に影響を及ぼし得る因子(年齢や性別、高血圧、心血管疾患など)を調整後の解析で、LNCS摂取量の第1三分位群(摂取量が少ない下位3分の1の集団)に比べて、第3三分位群(摂取量が多い上位3分の1の集団)は、認知機能(思考力や記憶力)の低下速度が62%速く、これは約1.6年分の脳の老化に相当すると計算された。また、第2三分位群(摂取量が平均的な3分の1の集団)でも第1三分位群に比べると、低下速度が35%速く、これは約1.3年分の脳の老化に相当すると計算された。 年齢60歳未満/以上で二分すると、60歳未満ではLNCS摂取量が多い群で認知機能の低下が速いという有意な関連が見られた一方、60歳以上ではこの関連が非有意だった。他方、糖尿病の有無で二分すると、糖尿病のある群ではLNCS摂取量が多い群で、認知機能指標の一部がより速く低下することが示唆された。この点についてSuemoto氏は、「糖尿病の有無にかかわらず、中年層においてはLNCS摂取量の多さと認知機能低下との関連が明らかになった。また、糖尿病患者は砂糖の代替としてLNCSを使用することが多い傾向がある」との考察を付け加えている。 LNCSの摂取と認知機能低下との関連のメカニズムについて研究者らは、LNCSが体内で分解されて、脳にダメージを及ぼすような物質に変化したり、炎症を引き起こしたりするのではないかと推測している。ただし、この研究は観察研究であるため、LNCS摂取と認知機能低下との直接的な因果関係を証明するものではないことを、著者らは研究の限界として挙げている。 「われわれの研究の追試が必要である。さらに、本研究で検討しなかった、アップルソース、ハチミツ、メープルシロップ、ココナッツシュガーなど、他の代替甘味料では認知機能にどのような影響があるのかを調査する研究も求められる」とSuemoto氏は述べている。

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白内障の両眼同日手術、安全性と有効性が示される

 白内障の両眼同日手術は安全かつ有効で、実用的である可能性が、2件の研究で示された。白内障手術は通常、数週間から数カ月の間隔を開けて片眼ずつ行われる。しかし、両眼を同時に手術しても安全性や有効性に違いはなく、手術後に患者が自宅で自立して過ごす能力を妨げることはないことが示されたという。これらの研究結果は、欧州白内障屈折矯正手術学会(ESCRS 2025、9月12~16日、デンマーク・コペンハーゲン)で発表された。 英ムーアフィールズ眼科病院の眼科医Gabriele Gallo Afflitto氏は、「患者にとって、これらの結果は心強いものだ。特に、多焦点レンズの挿入と組み合わせた場合、同日に両眼の白内障手術を受けることで優れた視力を得られ、眼鏡に頼る必要性も減り、より早い回復が期待できることを、これらの結果は示している」と話している。 白内障は両眼に発生することが多い。眼の水晶体が濁って視界がぼやけ、視力が低下した場合に手術が必要になり、濁った水晶体を人工のレンズ(眼内レンズ)に置き換える。眼内レンズには単焦点と多焦点があり、眼鏡のレンズのように選択することができる。 1件目のAfflitto氏らの研究では、ムーアフィールズ眼科病院で2023年12月から2024年12月の間に両眼の白内障手術を受けた1万192人の患者のデータが分析された。その結果、同日に両眼に多焦点レンズを挿入した患者の85%、単焦点レンズを挿入した患者の約70%で20/20以上の視力が得られたことが明らかになった。一方、片眼ずつ2回に分けて手術を受けた患者では、77%が20/20以上の視力が得られたという。さらに、手術後に、手術前の目標屈折度数と術後の実測値との差が小さかった(±0.5ディオプター)患者の割合は、同日に両眼に多焦点レンズを挿入した患者の88%、片眼ずつ2回の手術で単焦点レンズを挿入した患者の67%、同日に両眼に単焦点レンズを挿入した患者の71%であった。 ムーアフィールズ眼科病院のコンサルタント眼科外科医であるVincenzo Maurino氏は、「患者と病院にとって、このアプローチには待機時間の短縮や視力の早期回復、通院回数の削減、さらには全体的なコスト削減といった効率面でのメリットがある。しかも、患者のアウトカム低下を伴わずにこれらのメリットが得られるのだ」とニュースリリースの中で述べている。 Silkeborg Regional Hospital(デンマーク)のMia Vestergaard Bendixen氏らによる2つ目の研究では、デンマークで白内障の同日両眼手術を受けた157人の患者を対象に、退院後の生活における支援の必要性について調査が行われた。その結果、88%が「自宅内を自分で移動できた」と回答していたほか、79%が「食事の準備ができた」、51%が「携帯電話の使用に支援は必要なかった」と回答していた。全体として、62%が「手術後24時間以内に介助者の必要性は全くなかった」と回答した。一方で、51%が「点眼薬の使用にはまだ助けが必要だった」と回答していた。 Bendixen氏は、「患者の多くは手術後すぐに自立した生活ができるようになると期待して良いだろう。このことは、支援の必要性についての不安の軽減につながるかもしれない。ただし、術後1日目は介助者からのサポートが有益な場合もある」と話している。また、同氏は「臨床医にとって、この研究結果は両眼同日手術の実施を支持するとともに、患者教育や必要に応じた一時的なサポートの計画の重要性を強調するものでもある」としている。 ESCRSのJoaquin Fernandez氏は、2件の研究について、「一度に両眼の白内障手術を安全に行えること、術後も自宅で良好な回復が得られること、そして何よりも、2回に分けて手術を行った場合と同等かそれ以上の視力予後が得られることが示された。このことは、患者やその家族、そして外科医にとって、(両眼の手術を同日に行っても)安全性が損なわれないという安心感を与えるはずだ」とする見解を示している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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