サイト内検索

検索結果 合計:4764件 表示位置:1 - 20

1.

ベンゾジアゼピンの使用は認知症リスクにどの程度影響するのか?

 ベンゾジアゼピン系薬剤(BZD)は、不眠症や不安症の治療に幅広く使用されている。しかし、BZDの長期使用は、認知機能低下を加速させる可能性がある。認知症の前駆症状がBZD使用のきっかけとなり、逆因果バイアスが生じている可能性もあるため、エビデンスに一貫性が認められていない。カナダ・Universite de SherbrookeのDiego Legrand氏らは、BZDの使用量、投与期間、消失半減期が認知症発症と独立して関連しているかどうかを検証し、前駆期による交絡因子について検討を行った。Journal of the Neurological Sciences誌2025年12月15日号の報告。 Canadian Community Health Surveyから抽出したtorsade cohortを対象に、医療行政データベースにリンクした症例対照研究を実施した。BZDの使用量、投与期間、消失半減期は、多変量条件付きロジスティック回帰を用いて解析した。モデル1では、認知症リスク因子を調整した。モデル2では、BZDの潜在的な適応症(不眠症、不安症、うつ病)についても調整した。前駆症状の影響を検証するため、インデックス日を診断の1~10年前に変更した。症例群は50歳以上の認知症患者とし、対照群は性別、年齢、フォローアップ調査、教育歴でマッチングさせた。 主な結果は以下のとおり。・症例群1,082例および対照群4,262例において、モデル1では、BZDの使用が認知症と関連していることが示唆された(オッズ比[OR]:1.65、95%信頼区間:1.42~1.93)。・認知症リスクは、半減期が長い薬剤(OR:2.81)のほうが、半減期が中程度の薬剤(1.57)よりも高かった。・モデル2では、180日超の慢性的なBZDの使用は、診断前4年以内において、認知症リスクとの関連が認められた。 著者らは「BZDの使用は、認知症リスクの上昇と関連しており、半減期が長い薬剤で最も強い関連が認められた。BZDの慢性的な使用との関連が4年間の前駆症状に限定されていることは、適応による交絡、あるいは逆因果関係を示唆している。これらの知見は、高齢者におけるBZDの使用は、慎重かつ期限を限定して行うべきであることを強調している」と結論付けている。

2.

DES留置後1年以上の心房細動、NOAC単剤vs.NOAC+クロピドグレル併用/NEJM

 1年以上前に薬剤溶出ステント(DES)の留置を受けた心房細動患者において、非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)単剤療法はNOAC+クロピドグレルの併用療法と比較し、全臨床的有害事象(NACE)に関して非劣性であることが認められた。韓国・Yonsei University College of MedicineのSeung-Jun Lee氏らが、同国32施設で実施した研究者主導の無作為化非盲検非劣性試験「Appropriate Duration of Antiplatelet and Thrombotic Strategy after 12 Months in Patients with Atrial Fibrillation Treated with Drug-Eluting Stents trial:ADAPT AF-DES試験」の結果を報告した。ガイドラインの推奨にもかかわらず、DES留置後の心房細動患者におけるNOAC単剤療法の使用に関するエビデンスは依然として限られていた。NEJM誌オンライン版2025年11月8日号掲載の報告。第2または第3世代DES留置後1年以上の高リスク心房細動患者が対象 研究グループは、心房細動と診断され、登録の1年以上前に第2世代または第3世代のDESを留置するPCIを受け、CHA2DS2-VAScスコアが2以上の19~85歳の患者を、NOAC単剤療法群またはNOAC+クロピドグレル併用療法群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 NOACは担当医師の選択としたが、試験ではアピキサバンまたはリバーロキサバンのみを使用した。 主要エンドポイントは、無作為化後12ヵ月時点における全死因死亡、心筋梗塞、ステント血栓症、脳卒中、全身性塞栓症または大出血もしくは臨床的に重要な非大出血の複合であるNACEで、非劣性マージンは主要エンドポイント発現率の群間差の片側97.6%信頼区間(CI)の上限が3.0%とし、ITT解析を行った。なお、非劣性が認められた場合、主要エンドポイントにおけるNOAC単剤療法の優越性を第1種過誤率4.8%(両側)として検定することが事前に規定された。12ヵ月時のNACE発現率、単剤群9.6%vs.併用群17.2% 2020年4月~2024年5月に計1,283例がスクリーニングされ、このうち960例が無作為化された(単剤療法群482例、併用療法群478例)。平均年齢は71.1歳、女性が21.4%であった。 主要エンドポイントのイベントは単剤療法群で46例(Kaplan-Meier推定値9.6%)、併用療法群で82例(17.2%)に発現し、絶対群間差は-7.6%(95.2%CI:-11.9~-3.3、非劣性のp<0.001)、ハザード比(HR)は0.54(95.2%CI:-0.37~0.77、優越性のp<0.001)であった。 大出血もしくは臨床的に重要な非大出血は、単剤療法群で25例(5.2%)、併用療法群で63例(13.2%)に発現した(HR:0.38、95%CI:0.24~0.60)。大出血の発現率はそれぞれ2.3%および6.1%(HR:0.37、95%CI:0.18~0.74)、臨床的に重要な非大出血の発現率は2.9%および7.1%(0.40、0.21~0.74)であった。

3.

アトピー性皮膚炎患者に最適な入浴の頻度は?

 アトピー性皮膚炎患者にとって入浴は判断の難しい問題であり、毎日の入浴が症状の悪化を引き起こすのではないかと心配する人もいる。こうした中、新たなランダム化比較試験で、入浴の頻度が毎日でも週に1~2回でも、入浴がアトピー性皮膚炎の症状に与える影響に違いはないことが明らかになった。 この試験を実施した英ノッティンガム大学臨床試験ユニットのLucy Bradshaw氏は、「アトピー性皮膚炎の人でも自分に合った入浴頻度を選べることを意味するこの結果は、アトピー性皮膚炎の症状に苦しむ人にとって素晴らしい知らせだ」と述べている。この臨床試験の詳細は、「British Journal of Dermatology」に11月10日掲載された。 アトピー性皮膚炎は、皮膚の水分保持力の低下や外的刺激や病原体から体を守る力(バリア機能)の低下により、皮膚の乾燥、かゆみ、凹凸などが生じる疾患である。今回の試験では、438人のアトピー性皮膚炎患者(16歳未満108人)を対象に、入浴の頻度が症状に与える影響が検討された。入浴は、シャワーだけを浴びる場合とバスタブに身体を浸す場合の双方を含めた。対象者は、4週間にわたり、週に1〜2回入浴する群(220人)と毎日(週に6回以上)入浴する群(218人)にランダムに割り付けられた。主要評価項目は、週に1回、POEM(patient oriented eczema measure)を使って患者が報告したアトピー性皮膚炎の症状であった。 その結果、ベースライン、および1、2、3、4週目の平均POEMスコアは、毎日入浴した群でそれぞれ14.5点、11.7点、12.2点、11.7点、11.6点、週1〜2回入浴した群ではそれぞれ14.9点、12.1点、11.3点、10.5点、10.6点であった。両群間の4週間の平均POEMスコアの調整差は−0.4(95%信頼区間−1.3~0.4、P=0.30)であり、有意な差は認められなかった。 共著者の1人であり、自身もアトピー性皮膚炎に罹患しているノッティンガム大学Centre of Evidence Based Dermatology(CEBD)のAmanda Roberts氏は、「この研究結果には非常に安心した」と話す。同氏は、「日常生活の中にはアトピー性皮膚炎の症状に影響する可能性があるものがたくさんある。そのため、入浴やシャワーの頻度はそこに含まれないと知っておくのは、心配事が一つ減って喜ばしいことだ」と話している。 研究グループは次の研究で、アトピー性皮膚炎の再発の治療において、ステロイド薬をどのくらいの期間使用すべきかを調べる予定だという。Bradshaw氏は、「アトピー性皮膚炎患者と緊密に協力しながらこの研究を共同設計できたことは素晴らしい経験だった。われわれは、これまでの研究では十分に注目されてこなかった、アトピー性皮膚炎患者の生活にまつわる疑問に答えを見つけ始めたところだ」と述べている。

4.

第40回 2050年には世界の3人に2人が都市住民に~「住む場所」が健康と寿命を左右する? 最新研究が示す都市の未来

便利だが、空気が悪くストレスがたまる都会。不便だが、自然豊かで空気がきれいな田舎。どちらが健康に良いかという議論は、古くから繰り返されてきました。しかし、世界中で急速な「都市化」が進む今、この問いはより複雑で、かつ切実なものになっています。2025年11月、Nature Medicine誌に掲載された論文1)は、都市での生活が私たちの健康に及ぼす影響について、社会的な不平等や気候変動といった視点を交えながら、多角的な分析を行っています。今回は、この論文を基に、都市という環境が私たちの体にどういった「見えない影響」を与えているのか、そしてこれからの都市生活において私たちが意識すべきことは何なのかを解説していきたいと思います。加速する都市化と、広がる「健康の格差」まず、私たちが直面している数字を見てみましょう。現在、人類の過半数がすでに都市部で暮らしており、その割合は2050年までに世界人口の3分の2に達すると予測されています。とくに、これからの都市化の主役は、高所得国ではなく、低・中所得国の都市です。都市は、創造性やイノベーションの中心地であり、経済的なチャンスや高度な医療サービスへのアクセスを提供する場所です。しかし一方で、都市は深刻な対立や暴力の場にもなりえます。さらに、急速で無秩序な都市の拡大は、非感染性疾患(糖尿病や心臓の病気など)、感染症、けがのリスクを高め、社会的な不平等を拡大させる要因にもなっています。この論文でとくに強調されているのが、都市内における「格差」の問題です。世界中で推定11億2,000万人もの人が、スラム街などの劣悪な環境で暮らしており、同じ都市に住んでいても、住むエリアによって健康状態や寿命に大きな開きがあることがわかっています。これは私の住むニューヨークエリアでも痛いほど感じることです。健康を決めるのは「病院」ではなく「街の構造」私たちは健康について考えるとき、「遺伝子」や「個人の生活習慣(何を食べるか、運動するか)」に目を向けがちです。しかし、この論文では、健康は「物理的環境」や「社会的環境」の複雑な相互作用によっても形作られると指摘されています。これを理解するために、少し深掘りしてみましょう。物理的環境大気汚染、騒音、猛暑、緑地の有無、住宅の質、交通機関の利便性などです。たとえば、歩道や自転車レーンが整備されている地域に住む人は、自然と身体活動量が増えますが、高速道路の近くに住む人は、排気ガスによる喘息や心臓病のリスクが高まります。社会的環境地域の安全性、暴力の有無、社会的孤立、人種差別、そして「ご近所付き合い」(社会的結束)などです。これらは心理的なストレスを通じて、私たちのホルモンバランスや免疫系に影響を与え、病気を引き起こす要因となります。重要なのは、これらの要因がバラバラに存在するのではなく、連鎖しているという点です。たとえば、所得の低い地域(社会的要因)には、工場や交通量の多い道路(物理的要因)が集中しやすく、結果としてそこに住む人々の健康が損なわれるという悪循環が生じています。つまり、健康を守るためには、単に病院を増やすといった介入だけでなく、都市計画そのものを見直す必要があるのです。「気候変動対策」は最強の「予防医療」この論文が提示するもう1つの重要な視点は、都市において気候変動対策が、一石二鳥になるという事実です。気候変動は、熱波による熱中症や洪水のリスクを高め、都市の住民の健康を脅かします。しかし、この対策として行われる政策の多くは、実は私たちの健康を改善することがわかってきました。たとえば、都市内の移動を自動車から徒歩や自転車、公共交通機関にシフトさせる「アクティブ・トランスポート」の推進は、温室効果ガスの排出を減らすだけでなく、大気汚染を改善し、人々の運動不足を解消します。また、街中に木々を植え、緑地を増やす「グリーンインフラ」の整備は、ヒートアイランド現象を緩和して気温を下げるだけでなく、住民のメンタルヘルスを改善し、ストレスを減らす効果も実証されています。論文ではさらに、住宅の断熱性能を高めることも、エネルギー効率を上げてCO2を削減すると同時に、寒さや暑さによる健康被害を防ぐ有効な手段であると述べられています。つまり、地球に優しい街づくりは、そのまま「体に優しい街づくり」になるのです。私たちが知っておくべきこと、できることでは、こうした研究結果を受けて、私たちはどうすればよいのでしょうか。まず、「住環境は健康リスクである」という認識を持つことです。自分が住んでいる場所の空気はきれいか、歩きやすいか、緑はあるか、安全か。引っ越しや住宅選びの際には、部屋の広さや家賃だけでなく、「健康に資する環境か」という視点を持つことが重要なのだと思います。次に、政策への関心です。自転車専用レーンの設置や公園の整備、大気汚染規制といった都市政策は、単なるインフラ整備ではなく、公衆衛生上の介入そのものです。政治的な意思がなければ、こうした健康的で公平な都市は実現できないでしょう。ただし、まだ解明されていないことも数多く残されています。たとえば、どのような政策に最も効果があるのか、特定の地域で成功したモデルは他の都市でも通用するのかといった点です。今後の研究では、都市間のデータを比較し、政策の効果が検証され続ける必要があるでしょう。都市化は避けられない未来です。しかし、その都市が私たちの寿命を縮める場所になるのか、それとも健康で豊かな生活を支える場所になるのかは、これからの都市計画と、それを監視・支持する私たちの意識にかかっているともいえます。人類が今後も健康に生き残り、繁栄するためには、環境に配慮した都市化以外に選択肢はないのかもしれません。 参考文献 1) Diez Roux AV, Bilal U. Advancing equitable and sustainable urban health. Nat Med. 2025;31:3634-3647.

5.

認知症リスク低減効果が高い糖尿病治療薬は?~メタ解析

 糖尿病治療薬の中には、血糖値を下げるだけでなく認知機能の低下を抑える可能性が示唆されている薬剤がある一方、認知症の発症・進展は抑制しないという報告もある。今回、国立病院機構京都医療センターの加藤 さやか氏らは、システマティックレビュー・ネットワークメタアナリシスにより、9種類の糖尿病治療薬について2型糖尿病患者の認知症リスクの低減効果があるのかどうか、あるのであればどの薬剤がより効果が高いのかを解析した。その結果、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、チアゾリジン薬、DPP-4阻害薬が認知症リスクの低減効果を示し、その効果はこの順に高い可能性が示唆された。Diabetes, Obesity and Metabolism誌オンライン版2025年10月22日号に掲載(2026年1月号に掲載予定)。 本研究では、PubMed、Cochrane Library、医中誌Webを開始時から2023年12月31日まで検索し、糖尿病治療薬の認知症への効果を評価した英語または日本語で報告された試験を選定した。 主な結果は以下のとおり。・67試験(408万8,683例)が対象となり、単剤療法と対照群(糖尿病治療薬の使用なし、プラセボ)の比較が3試験、単剤療法と追加療法の比較が1試験、リアルワールドデータベース研究が63試験であった。・解析の結果、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、チアゾリジン薬、DPP-4阻害薬が、対照群(プラセボ、糖尿病治療薬の使用なし、他の糖尿病治療薬)と比較して認知症リスクが低減し、その効果はこの順で高い可能性が示唆された。・インスリンは認知症リスクの上昇と関連していた。・メトホルミン、SU薬、グリニド薬、α-グルコシダーゼ阻害薬は、認知症リスクとの有意な関連は認められなかった。

6.

IgA腎症、sibeprenlimabは蛋白尿を有意に減少/NEJM

 IgA腎症患者において、sibeprenlimabはプラセボと比較して蛋白尿を有意に減少させたことが、オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学のVlado Perkovic氏らVISIONARY Trial Investigators Groupが行った、第III相多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照試験「VISIONARY試験」の中間解析の結果で示された。IgA腎症の病態形成には、a proliferation-inducing ligand(APRIL)というサイトカインが深く関わると考えられている。sibeprenlimabはヒト化IgG2モノクローナル抗体で、APRILに選択的に結合して阻害する。第II相のENVISION試験では、sibeprenlimabの4週ごと12ヵ月間の静脈内投与により、蛋白尿の減少と推算糸球体濾過量(eGFR)の安定がみられ血清APRIL値の抑制に伴いガラクトース欠損IgA1値が低下した。安全性プロファイルは許容範囲内であった。NEJM誌オンライン版2025年11月8日号掲載の報告。sibeprenlimab 400mg vs.プラセボ、4週ごと100週間皮下投与を評価 VISIONARY試験は31ヵ国240施設で行われ、IgA腎症患者における腎機能温存能の評価を目的に、支持療法との併用によるsibeprenlimab 400mgの4週ごと皮下投与の有効性と安全性を評価した。 生検でIgA腎症と確認された成人患者を、sibeprenlimab 400mgまたはプラセボを4週ごと100週間にわたり皮下投与する群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 今回の中間解析における主要有効性エンドポイントは、ベースラインと比較した9ヵ月時点の24時間尿蛋白/クレアチニン比であった。 重要な副次エンドポイント(試験完了時に評価)は、24ヵ月にわたるeGFRスロープ(年率換算)であった。その他の副次エンドポイントは、血清免疫グロブリン値の変化、安全性などだった。また、探索的エンドポイントとして、ガラクトース欠損IgA1値および血清APRIL値の変化、随時尿の尿蛋白/クレアチニン比、血尿、および蛋白尿の寛解などが含まれた。24時間尿蛋白/クレアチニン比、sibeprenlimab群がプラセボ群より51.2%低下 計510例が無作為化された(sibeprenlimab群259例、プラセボ群251例)。事前に規定された中間解析(データカットオフ日:2024年9月4日)には、9ヵ月時点の24時間尿蛋白/クレアチニン比の評価を完了した試験登録当初の320例(sibeprenlimab群152例、プラセボ群168例)が包含された。 両群のベースライン特性は類似していた。320例のうち男性が62.5%、アジア人が59.1%を占め、97.5%がRA系阻害薬を、40.0%がSGLT2阻害薬をそれぞれ試験前に服用していた。年齢中央値は42歳、平均eGFRは63.4mL/分/1.73m2、24時間尿蛋白/クレアチニン比中央値は1.25であった。初回腎生検から無作為化までの期間中央値は1.5年で、おおむねIgA腎症と診断された患者を代表する試験集団であった。 9ヵ月時点で、24時間尿蛋白/クレアチニン比は、sibeprenlimab群では顕著な低下(-50.2%)が認められた一方、プラセボ群では上昇(2.1%)が認められた。24時間尿蛋白/クレアチニン比の補正後幾何最小二乗平均値は、sibeprenlimab群がプラセボ群と比較して51.2%(96.5%信頼区間:42.9~58.2)有意に低かった(p<0.001)。 またsibeprenlimab群では、血清APRIL値が95.8%、病原性ガラクトース欠損IgA1値が67.1%、それぞれベースラインから低下していた。 安全性プロファイルは両群で類似していた。死亡例の報告はなく、治療期間中に報告された重篤な有害事象の発現頻度は、sibeprenlimab群3.5%、プラセボ群4.4%であった。

7.

アトピー性皮膚炎へのウパダシチニブ、増量および減量の有効性と安全性/BJD

 成人の中等症〜重症のアトピー性皮膚炎に対する、JAK1阻害薬ウパダシチニブのこれまでの主要な臨床試験では、15mg(UPA15)および30mg(UPA30)の固定用量1日1回投与による有効性と安全性が評価されてきた。カナダ・クイーンズ大学のMelinda Gooderham氏らは、日本を含む第IIIb/IV相無作為化国際多施設共同盲検treat-to-target試験を実施し、12週間の治療後の臨床反応に基づくUPA30への増量およびUPA15への減量の有効性と安全性を検討した。British Journal of Dermatology誌2025年12月号掲載の報告より。 18歳以上65歳未満の中等症〜重症のアトピー性皮膚炎患者461例が1:1の割合でUPA15群またはUPA30群に無作為に割り付けられ、12週間の二重盲検期間中1日1回経口投与された。UPA15群では、12週時点でEczema Area and Severity Index(EASI)-90未達成の患者は30mgに増量し(UPA15/30群)、EASI-90を達成した患者は15mgの投与を継続した(UPA15/15群)。UPA30群では、12週時点でEASI-90未達成の患者は30mgの投与を継続し(UPA30/30群)、EASI-90を達成した患者は15mgに減量した(UPA30/15群)。 主要有効性評価項目は、24週時点におけるEASI-90達成率で、安全性についても評価された。 主な結果は以下のとおり。・UPA15群に229例、UPA30群に232例が割り付けられた。・24週時点で、UPA15/30群の48.1%(64/133例、95%信頼区間[CI]:39.6~56.6)がEASI-90を達成し、UPA30/15群の68.5%(89/130例、95%CI:60.5~76.4)がEASI-90を維持していた。・24週時点で、UPA15/15群では74.6%(53/71例、95%CI:64.5~84.8)、UPA30/30群では29.3%(24/82例、95%CI:19.4~39.1)がEASI-90を維持していた。・24週時点で、UPA15/30群の32.5%(27/83例、95%CI:22.5~42.6)およびUPA30/15群の38.0%(38/100例、95%CI:28.5~47.5)が最悪のかゆみの数値評価尺度(WP-NRS)0または1を達成し、それぞれ20.7%(17/82例、95%CI:12.0~29.5)および35.0%(35/100例、95%CI:25.7~44.3)がEASI-90かつWP-NRS 0/1を達成した。・24週時点における試験治療下での有害事象の発現率は、UPA15/15群では43.1%(31/72例)、UPA15/30群では54.2%(78/144例)、UPA30/30群では61.5%(56/91例)、UPA30/15群では48.9%(65/133例)であった。悪性腫瘍、中央判定された静脈血栓塞栓症イベント、死亡は報告されていない。 著者らは、「12週時点のEASI-90達成状況に応じたウパダシチニブの用量漸増/減量戦略により、24週時点でのEASI-90達成および維持が可能であることが示された」とし、安全性についても既知のウパダシチニブの安全性プロファイルと一致し、新たな安全性上の懸念は確認されなかったとまとめている。

8.

第296回 脳の水はけをよくする手術がアルツハイマー病患者に有効

脳の水はけをよくする手術がアルツハイマー病患者に有効脳全域の水流を生み出す細道が10年以上前に見つかり、以来、その謎めいた水路がアルツハイマー病などの神経変性疾患に寄与しているかどうかが検討されるようになりました。今や時代は進み、その流れを改善する方法が実際にヒトで試験されるに至っています。米国・サンディエゴでの先月11月中旬のSociety for Neuroscience(SfN)学会では、脳の水流を改善する薬やその他の手段の手始めの検討の有望な成果をいくつかのチームが発表しています。動物やヒトの脳から有毒なタンパク質を除去しうることや、神経変性疾患を模すマウスの症状を回復するなどの効果が得られています1)。とくに中国での取り組みは随分と先を行っており、アルツハイマー病の特徴のタンパク質を洗い流すのを後押しする手術をヒトに施した成果がこの10月初めに報告されました。その成功の宣言を心配する向きがある一方で歓迎もされました。その有望な成果に触発された米国の外科医のチームは、よりしっかりとした臨床試験を計画しており、早ければ来年早々にアルツハイマー病患者の組み入れを始めるつもりです。手術の試みはとても信じられないとワシントン大学の神経科学者Jeffrey Iliff氏はScience誌に話しています。しかし、13年前には知る由もなかった脳の水路が見つかったように、手術は効かないといういわれはないと同氏は言っています。さかのぼること13年ほど前の2012年に、他でもないIliff氏とその同僚が脳の細胞のアストロサイトによって形成される脳の水路一帯を初めて報告しました2)。Iliff氏らはそれをグリンパティック経路と名付けました。グリンパティック経路は脳の血管の周りに形成され、収縮と弛緩を繰り返すことで脳脊髄液(CSF)を押し出します。そうして血管に沿って流れていく間に脳の奥深くからの老廃物が回収され、髄膜リンパ管を経由して首のリンパ節に至り、やがては血流に排出されます。グリンパティック経路の活動は就寝中に最も盛んで、不眠、外傷性脳損傷(TBI)、脳血管疾患で妨げられます。そのような何らかの要因で脳の洗浄が滞ることと認知症を生じやすくなることの関連が調べられるようになっており、たとえばIliff氏らがmedRxiv誌に最近掲載した研究成果では、ヒトのグリンパティック経路がアルツハイマー病を特徴づける2つのタンパク質、ベータアミロイドとタウを睡眠中に脳の外に排出することが示されています3)。中国で開発された脳を洗い流す外科処置はリンパ浮腫の一般的な治療手段に似たもので、dcLVA(deep cervical lymphovenous anastomosis)と呼ばれます。dcLVAは首のリンパ節やリンパ管を頸静脈に繋いで脳の排水の向上を目指します。2020年に中国の形成外科医のQingping Xie氏がアルツハイマー病患者にdcLVAを初めて施しました。今やXie氏はその治療を中国やその他の国に向けて宣伝しています。他にも熱心な研究者は多いらしく、最近の報告によると今年7月1日時点で30弱の臨床試験の登録があり、アルツハイマー病患者およそ1,300例が組み入れられたか組み入れ予定となっています4)。先に触れたとおり、この10月初めには中国の鄭州大学のJianping Ye氏らが最もまとまった症例数のdcLVA手術の成績を報告しました。同国の軽~中等度のアルツハイマー病患者41例にdcLVAが施され、脳の排水の指標とされたAβやタウの血液やCSFの値の改善が3ヵ月時点の検査でおよそ3例に2例以上にみられました5)。また、病院での3ヵ月時点の認知機能検査で18例中9例のアルツハイマー病は進行が止まってむしろ回復傾向にありました。Ye氏らの報告には批判の声もあり、その中には中国の神経外科医からのものも含まれます。アルツハイマー病を脳のリンパ浮腫の一種とみなすYe氏らの考えを疑う研究者もいます。グリンパティック経路の不調の多くはアストロサイトの内側を発端としており1)、詰まりを取り除けば済むという話ではなさそうだからです。一方、Ye氏らの試験がだいぶ拙いとは知りつつもその有望な成績に見入ってしまった研究者もいます。米国のエール大学の形成外科医のBohdan Pomahac氏はdcLVAをさらに突っ込んで研究すべく、ワシントン大学のチームと組んで動物実験を行っています。すべてうまくいって今月の資金集めが済んだら、慎重に選定した初期アルツハイマー病患者にdcLVAを施す臨床試験をPomahac氏は開始するつもりです1)。手術ではなく薬で脳の水はけをよくする試みも研究されており、家の配管を定期的に掃除するように脳のグリンパティック経路を定期的または日常的に手入れする手段がやがては実現するかもしれません。参考1)Brain’s ‘plumbing’ inspires new Alzheimer’s strategies-and controversial surgeries / Science 2)Iliff JJ, et al. Sci Transl Med. 2012;4:147ra111.3)Dagum P, et al. The glymphatic system clears amyloid beta and tau from brain to plasma in humans. medRxiv. 2025 Oct 16.4)Lahmar T, et al. J Prev Alzheimers Dis. 2026;13:100335.5)Ma X, et al. J Alzheimers Dis Rep. 2025;9:25424823251384244.

9.

術後VTEの予防、REGN7508Catがエノキサパリンを上回る/Lancet

 カナダ・Thrombosis and Atherosclerosis Research InstituteのJeffrey I. Weitz氏らは、2つの第II相試験(ROXI-VTE-I、ROXI-VTE-II)において、人工膝関節全置換術後の静脈血栓塞栓症(VTE)の予防効果に関して、エノキサパリンと比較してREGN7508Catは優越性を有するが、REGN9933A2は優越性を持たないと報告した。REGN9933A2は、凝固XI因子(FXI)のアップル2ドメインに結合してFXIIaによるFXI活性化のみを阻害し、REGN7508Catは、FXIの触媒ドメインに結合してFXIaの活性を阻害するとともに、FXIIaおよびトロンビンによるFXI活性化をも阻害する完全ヒト型モノクローナル抗体である。研究の成果は、Lancet誌2025年11月29日号で発表された。2つの国際的な無作為化試験 ROXI-VTE-I試験とROXI-VTE-II試験は、それぞれ術後VTEの予防におけるREGN9933A2およびREGN7508Catの有効性と安全性の評価を目的とする非盲検無作為化試験であり、前者は2023年5月~2024年5月に7ヵ国15施設で、後者は2024年6月~2025年1月に5ヵ国12施設で参加者を登録した(Regeneron Pharmaceuticalsの助成を受けた)。 両試験とも、年齢50歳以上で、片側の膝関節に対する初回の待機的人工膝関節全置換術を受けた患者を対象とした。 ROXI-VTE-I試験では、REGN9933A2(300mg、単回、静脈内)、エノキサパリン(40mg、1日1回、皮下)、探索的比較としてアピキサバン(2.5mg、1日2回、経口)の投与を受ける群に1対1対1で、ROXI-VTE-II試験では、REGN7508Cat(250mg、単回、静脈内)またはエノキサパリン(40mg、1日1回、皮下)の投与を受ける群に2対1で、それぞれ参加者を無作為に割り付けた。 両試験の主要エンドポイントは、修正ITT集団における、試験薬の初回投与(術後12~24時間)から12日目までに発現し、客観的に確定されたVTE(術側下肢の無症候性深部静脈血栓症、いずれかの下肢の客観的に確定された症候性深部静脈血栓症、確定された非致死性または致死性肺塞栓症の複合)とした。REGN9933A2とREGN7508Catは、対数オッズ比(log OR)の事後確率が95%を超える場合に、エノキサパリンより優越性があると判定した。 主な安全性アウトカムは、大出血および臨床的に重要な非大出血の複合であった。事後確率、I試験78.5%、II試験99.8% ROXI-VTE-I試験は373例(REGN9933A2群123例[年齢中央値66歳、女性77%]、エノキサパリン群125例[66歳、83%]、アピキサバン群125例[66歳、71%])、ROXI-VTE-II試験は179例(REGN7508Cat群120例[67歳、77%]、エノキサパリン群59例[66歳、75%])を登録した。追跡期間中央値は両試験とも74日(四分位範囲:72~76)であった。 ROXI-VTE-I試験では、12日目までにVTEがREGN9933A2群で116例中20例(17%)、エノキサパリン群で117例中26例(22%)、アピキサバン群で113例中14例(12%)に発生した。平均補正後オッズ比(aOR)は0.78(90%信用区間[CrI]:0.47~1.32)、事後確率は78.5%であり、エノキサパリンに対するREGN9933A2の優越性は示されなかった。 一方、ROXI-VTE-II試験では、12日目までにVTEがREGN7508Cat群で113例中8例(7%)、エノキサパリン群で58例中10例(17%)に発生した。ROXI-VTE-I試験のエノキサパリン群と統合したデータに基づく平均aORは0.37(90%CrI:0.20~0.68)、事後確率は99.8%と、エノキサパリンに対するREGN7508Catの優越性を確認した(名目上のp=0.04)。主な安全性アウトカムのイベントは発生せず 大出血および臨床的に重要な非大出血の発現は認めなかった。最も頻度の高い試験治療下での有害事象は、術後の貧血(ROXI-VTE-I試験:REGN9933A2群123例中9例[7%]、エノキサパリン群125例中11例[9%]、アピキサバン群125例中16例[13%]、ROXI-VTE-II試験:REGN7508Cat群120例中6例[5%]、エノキサパリン群0例)であった。 また、重篤な有害事象は、ROXI-VTE-I試験ではREGN9933A2群で4例(3%)、エノキサパリン群で1例(1%)、アピキサバン群で2例(2%)に発現し、ROXI-VTE-II試験ではREGN7508Cat群で2例(2%)にみられ、エノキサパリン群では認めなかった。両試験ともに試験薬の投与中止の原因となった有害事象の報告はなく、試験薬関連の有害事象や重篤な有害事象も発生せず、試験期間中の死亡例もなかった。 著者は、「これら2つの試験は、FXIの阻害は出血リスクを増加させずに血栓症を軽減するという考え方への支持をより強固なものにする」「今後、REGN9933A2とREGN7508Catの安全性を確定し、これらの異なる作用機序が、FXI活性化の駆動因子に応じた個別化治療を可能にするかを明らかにするための試験が求められる」としている。

10.

知っていますか?「リバース聴診器」法【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第295回

知っていますか?「リバース聴診器」法皆さんは、「リバース聴診器」ってご存じでしょうか? 私も実はあまり知らなくてですね、今日おどろき論文のコーナーで紹介するに至りました。Zhang Q, et al. Application of a reverse stethoscope to overcome communication barriers: A case report of an elderly patient with illiteracy and profound hearing loss. Medicine (Baltimore). 2025 Oct 24;104(43):e45546.あくまで補聴機器がすぐ使えない状況での当座のツールとして、難聴患者さんが聴診器イヤーピースをつけて、医療従事者がベルに優しく話すという手法が紹介されています。これを「リバース聴診器」法と呼びます(写真)。写真. 「リバース聴診器」法(CC BY 4.0)(文献より引用)画像を拡大するこの論文の主人公は74歳の男性で、末期腎不全に対する血液透析が必要でした。患者さんは82dBの音圧でやっと知覚できるレベルの重度難聴で、文字の読解はほぼ不可能、家族や支援資源にも乏しく、補聴器や人工内耳の使用歴もありませんでした。初診時には問診が立ち行かず、腰部痛を身ぶりで示す以外の情報が得られないうえ、透析手技の説明が伝わらず、不安のため頻脈を呈していました。医療チームは大声での会話、身ぶりによる説明、図表を用いた簡易マニュアルと三段階で試みましたが、音の歪みや抽象的図像の解釈困難のため、どれも失敗に終わりました。標準化した10問で理解度を評価すると、正答は1問のみ(10%)、1問当たり平均4.5分、総面談時間45分に達し、患者さんは退室しようとするほど苛立っていました。代替手段が急務であったため、チームは「リバース聴診器」法を導入しました。患者さんの外耳道に優しく挿入し、医師は胸部ピースを口から約2cmに構えて通常会話と同程度の音量(60~70dB)で発語しました。介入後、同じ10問で再評価すると、正答は8/10(80%)へ改善し、総時間は12分、1問当たり1.2分に短縮しました。生理学的指標も落ち着き、心拍数は110/分から78/分へ改善しました。これによりインフォームドコンセントがうまくいき、穿刺手順やリスクの理解が得られ、同意のうえで透析が実施できました。間に合わせの手法として、「リバース聴診器」法も知っておきたいところですね。

11.

糖尿病を予防するにはランニングよりも筋トレの方が効果的?

 糖尿病の発症予防のために運動をするなら、ランニングよりもウエートリフティングの方が適しているのかもしれない。その可能性を示唆する研究結果が、「Journal of Sport and Health Science」に10月30日掲載された。米バージニア工科大学運動医学研究センターのZhen Yan氏らが行った動物実験の結果であり、高脂肪食で飼育しながらランニングをさせたマウスよりもウエートリフティングをさせたマウスで、より好ましい影響が確認されたという。 論文の上席著者であるYan氏は、「私たちは誰でも長く健康な人生を送りたいと願っている。そして、運動を習慣的に続けることが、その願いの実現のためにメリットをもたらすことは誰もが知っている。ランニングなどの持久力をつける運動と、ウエートリフティングなどのレジスタンス運動(筋トレ)は、どちらもインスリン感受性を高めるというエビデンスが、ヒトを対象として行われた数多くの研究で示されてきている」と話す。 しかし、糖尿病の発症を防ぐという点で、それらの運動のどちらが優れているのかという疑問に対しては、まだ明確な答えが得られていない。そこでYan氏らは、これら二つのタイプの運動の効果を直接的に比較するため、マウスを用いた研究を行った。 ウエートリフティングをさせる1群は、餌の容器に蓋をして、その上に重りを載せたゲージ内で飼育した。この群のマウスが餌を食べるためには、肩の部分に取り付けられた小さな首輪を使って重りをどかす必要があり、その動作がヒトのウエートリフティングのトレーニングに相当するという仕組み。著者らによると、この方法はマウスにウエートリフティングをさせるために開発された初の手法だという。なお、研究期間中に蓋の重りを徐々に重くしていった。 別の1群は回転ホイールのあるゲージで飼育し、ランニングをさせる群とした。このほかに、特に運動をさせない1群も設けた。これら3群は、高脂肪食で飼育した。 8週間後、運動をさせた2群のマウスは、運動をさせなかった群に比較して、ともに脂肪量の増加が少なかった。ただし、ウエートリフティングをさせたマウスの方が、その抑制効果がより大きかった。また、ウエートリフティングをさせたマウスのインスリン抵抗性は、運動をさせなかったマウスよりも低く(インスリンの感受性が高く)、血糖値が高くなりにくい状態だった。これに対して、ランニングをさせたマウスのインスリン抵抗性は、運動をさせなかったマウスと同程度に高かった。 Yan氏は、「健康上のメリットを最大化するには、『できるだけ持久力を高める運動と筋トレの両方を行うべき』というのが、われわれの研究からの重要なメッセージだ」と述べている。また、「本研究の結果は、何らかの理由で持久力を高める運動ができない人にとって朗報と言える。筋トレは糖尿病予防という点で、持久力のための運動と同等、あるいはそれ以上の効果を期待できる」と付け加えている。

12.

第39回 「不整脈ならカフェインは禁止」の常識が覆る?コーヒー愛好家に朗報

心臓に持病があるから、あるいは動悸が気になるからコーヒーを控えているという方も多いかもしれません。しかし、2025年11月にJAMA誌に掲載された最新の臨床試験「DECAF試験」1)が、その「常識」に大きな疑問を投げかけました。コーヒーを飲むことが、むしろ心房細動の再発予防につながるかもしれないというデータが報告されたのです。今回は、長年の医学的通説を覆す可能性のあるこの研究について、具体的なデータを交えながら解説していきます。「コーヒーは心臓に悪い」は迷信?「コーヒー(カフェイン)は不整脈の引き金になる」。これは長い間、医療現場でも患者さんの間でも広く信じられてきた通説でした。医師から「不整脈を抑えるために、コーヒーやお茶は控えましょう」と指導された経験がある方もいるかもしれません。実際に、この研究の参加者スクリーニングの段階でも、多くの患者さんが「コーヒーは発作の原因になる」と信じて参加を辞退したり、医師からのアドバイスで既にコーヒーを断っていたりしました。しかし、近年の観察研究(人々の生活習慣と病気の関連を観察する研究)では、コーヒーを飲む習慣がある人の方が、むしろ心房細動のリスクが低い、あるいは変わらないという結果が相次いで報告されていました。はたして、コーヒーは心臓にとって「毒なのか、薬なのか」。この矛盾に決着をつけるべく行われたのが、今回のランダム化比較試験「DECAF試験」です。これは、実際に患者さんをくじ引きで「コーヒーを飲むグループ」と「断つグループ」に分け、その後の経過を比較するという、コーヒーの影響を検証するのに信頼性のより高い研究手法です。200例の患者で検証、「飲む」vs.「断つ」の直接対決研究チームは、持続性の心房細動(または心房細動の既往がある心房粗動)を持ち、電気的除細動(電気ショックで心臓のリズムを正常に戻す治療)を受ける予定の患者200例を対象に調査を行いました。参加者はランダムに以下の2つのグループに分けられました。カフェイン摂取グループ(100例)1日1杯以上のカフェイン入りコーヒーを飲むことを推奨。カフェイン断ちグループ(100例)コーヒー(カフェインレス含む)やその他のカフェイン製品を完全に断つことを推奨。試験開始前の時点では、両グループとも平均して週に7杯(1日1杯程度)のコーヒーを飲んでいました。試験期間中、摂取グループはそのままの習慣を続け、カフェイン断ちグループは摂取量をゼロに近づけました。そして、電気ショックの治療によって正常なリズムを取り戻した後、6ヵ月間でどれだけの人が再び心房細動(または心房粗動)を起こすかを追跡しました。なんと、コーヒーを飲んだ方が再発しなかったその結果は、従来の「常識」とは正反対のものでした。6ヵ月の追跡期間中に不整脈が再発した人の割合は、以下のとおりでした。カフェイン断ちグループ:64%カフェイン摂取グループ:47%なんと、コーヒーを飲んでいたグループのほうが、再発率が明らかに低かったのです。統計的に分析すると、コーヒー摂取グループは断ちグループに比べて、再発のリスクが39%も低いという結果になりました。さらに、心房細動の再発だけでなく、入院や救急外来の受診といった有害事象についても比較が行われましたが、コーヒー摂取グループで悪影響が増えることはありませんでした。むしろ、不整脈に関連した入院の数は、コーヒー摂取グループのほうが少ない傾向さえ見られました。この結果は、「心房細動の再発防止のためにコーヒーはやめたほうがいい」という従来の指導が、必ずしも正しくない可能性を強く示唆しています。なぜカフェインが「心臓の保護」につながるのか?なぜ、刺激物であるはずのカフェインが、逆に不整脈を抑える結果となったのでしょうか。研究者たちはいくつかのメカニズムを推測しています。一つは、カフェインが「アデノシン受容体」をブロックするためです。アデノシンという物質は、心房細動を引き起こしやすくする作用があることが知られています。カフェインはこのアデノシンの働きを邪魔することで、結果的に不整脈の発生を抑えている可能性があります。また、コーヒーには抗炎症作用や抗酸化作用を持つ成分も含まれています。全身の炎症は心房細動のリスク因子の一つであるため、コーヒーが炎症を抑えることで心臓を守っている可能性も考えられます。さらに、興味深い視点として「運動量」の影響も挙げられています。過去の研究では、コーヒーを飲む人は1日の歩数が多い傾向にあることが示されています。適度な運動は心房細動の予防に有効であるため、コーヒーを飲むことで活動的になり、それが間接的に再発予防につながったのかもしれません。コーヒー好きは無理に我慢しなくてもいい?今回の研究は、心房細動の患者さん、とくにコーヒー好きの方にとっては朗報と言えるでしょう。これまでは再発を恐れて好きなコーヒーを我慢していたかもしれませんが、少なくとも1日1杯程度の適度な摂取であれば、我慢する必要がないばかりか、むしろ有益である可能性が出てきたからです。ただし、この結果を生活に取り入れる際にはいくつか注意点もあります。まず、この研究で推奨されたのは「1日1杯程度のコーヒー」であり、カフェインの過剰摂取や、エナジードリンクのような高濃度のカフェイン製品を推奨するものではありません。エナジードリンクには他の成分も含まれており、同様の効果があるかは不明です。また、この研究は電気的除細動を受けた後の患者さんを対象としています。すべてのタイプの不整脈患者さんに当てはまるかどうかは、まださらなる検証が必要です。しかし、少なくとも「不整脈と診断されたら一律にコーヒー禁止」という画一的な指導は見直されるべき時期に来ているようです。香り高いコーヒーを楽しむリラックスタイムが、実は心臓のリズムを整える助けになるかもしれない。私のようなコーヒー好きには、そんなうれしいニュースの大きな第一歩となる研究だったかもしれません。参考文献 参考文献・参考サイト 1) Wong CX, et al. Caffeinated Coffee Consumption or Abstinence to Reduce Atrial Fibrillation: The DECAF Randomized Clinical Trial. JAMA. 2025 Nov 9. [Epub ahead of print]

13.

eGFRcysとeGFRcrの乖離は死亡・心血管イベントと関連/JAMA

 外来患者において、eGFRcys(シスタチンC値を用いて算出した推定糸球体濾過量)の値がeGFRcr(クレアチニン値を用いて算出した場合)の値より30%以上低い患者は、全死因死亡、心血管イベントおよび腎代替療法を要する腎不全の発現頻度が有意に高いことが示された。米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のMichelle M. Estrella氏らChronic Kidney Disease Prognosis Consortium Investigators and Collaboratorsが、Chronic Kidney Disease Prognosis Consortium(CKD-PC)の患者データのメタ解析結果を報告した。eGFRの算出にクレアチニン値を用いた場合とシスタチンC値を用いた場合でeGFR値が異なる可能性があるが、これまでその差異の頻度および重要性は明らかになっていなかった。今回の解析では、外来患者の約11%および入院患者の約35%で、eGFRcys値がeGFRcr値より30%以上低い患者が認められることも示されている。JAMA誌オンライン版2025年11月7日号掲載の報告。eGFRcys値がeGFRcr値より30%以上低い患者の割合および特色を評価 研究グループは2024年4月~2025年8月に、CKD-PCの被験者で、ベースラインでシスタチンC値とクレアチニン値を同時に測定し、臨床アウトカムの情報が得られた患者のデータを集約し、個人レベルのメタ解析を行った。eGFRcys値とeGFRcr値の不一致率を評価し、不一致率がより高いことと関連する特色を明らかにし、また不一致率と有害アウトカムの関連を評価した。 主解析では、負の大きなeGFR値の差(eGFRdiff)を評価した(eGFRcys値がeGFRcr値より30%以上低いことと定義)。副次(従属的)アウトカムは、全死因死亡、心血管死、アテローム動脈硬化性疾患、心不全、腎代替療法を要する腎不全などであった。外来患者の11.2%が該当、全死因死亡などが高いことと関連 23の外来患者コホート82万1,327例(平均年齢59[SD 12]歳、女性48%、糖尿病13.5%、高血圧症40%)と2つの入院患者コホート3万9,639例(67[16]歳、31%、30%、72%)のデータが包含された。 外来患者において、11.2%が負の大きなeGFRdiffを有していた。負の大きなeGFRdiffは、コホート間でばらつきがみられた(範囲:2.8%~49.8%)。外来患者全体の平均eGFRcr-cys値(クレアチニン値とシスタチンC値を用いて算出)は86(SD 23)であった。 入院患者では、34.2%が負の大きなeGFRdiffを有していた。全体の平均eGFRcr-cys値は63(SD 33)であった。 外来患者の平均追跡期間11(SD 4)年において、負の大きなeGFRdiffは、eGFRdiffが-30%~30%であった場合と比較して、全死因死亡(28.4 vs.16.8/1,000人年、ハザード比:1.69、95%信頼区間:1.57~1.82)、心血管死(6.1 vs.3.8、1.61、1.48~1.76)、アテローム動脈硬化性疾患(13.3 vs.9.8、1.35、1.27~1.44)、心不全(13.2 vs.8.6、1.54、1.40~1.68)、腎代替療法を要する腎不全(2.7 vs.2.1、1.29、1.13~1.47)の発現頻度がいずれも高かった。

14.

夜間の人工光が心臓の健康に悪影響を与える

 人工的な光による夜間の過剰な照明の悪影響、いわゆる“光害”が、心臓病のリスクを高めることを示すデータが報告された。米マサチューセッツ総合病院のShady Abohashem氏らの研究によるもので、米国心臓協会(AHA)年次学術集会(AHA Scientific Sessions 2025、11月7~10日、ニューオーリンズ)で発表された。 この研究の解析対象は、2005~2008年に同院でPET検査またはCT検査を受けた466人(年齢中央値55歳、男性43%)。光害のレベルは、人工衛星のデータに基づき各地の夜間の人工光の強さを割り出したデータベースと、研究参加者の居住地住所を照らし合わせて把握した。 2018年末までの医療データを遡及的に追跡したところ、79人(17%)に重大な心臓病が記録されていた。解析の結果、夜間の人工光への曝露が多い人は、脳へのストレス、血管の炎症、そして重大な心臓病が多く認められた。これらのうち重大な心臓病については、夜間人工光への曝露量が1標準偏差多いごとに、5年間でのリスクが35%、10年間では22%上昇するという関連があった。この関連は、心臓病の既知のリスク因子、および、騒音公害や社会経済的地位といった、近年明らかになってきた新たなリスク因子の影響を調整後も、なお有意だった。 Abohashem氏は、「夜間の人工光への曝露がわずかに多いだけでも、脳と動脈へのストレスが増大するという関連が見いだされた。脳がストレスを感知すると免疫反応を引き起こし、血管に炎症を起こし得るシグナルが発せられる。このプロセスは、時間の経過とともに動脈硬化を進行させていき、やがて心臓発作や脳卒中のリスク上昇となって現れてくるのではないか」と述べている。なお、この研究では、交通騒音の激しい地域、所得水準の低い地域、および、ストレスを増大させる可能性のあるその他の環境因子のある地域の居住者では、重大な心臓病のリスクがより高いという傾向も観察された。 人工光による悪影響を回避する手段としてAbohashem氏は、「夜間は室内の照明が明るすぎないように調節して、寝室は暗くし、寝る前にはテレビや電子機器などの画面を見ないようにすると良い」とアドバイスしている。また研究者らは、「都市の不必要な屋外照明を減らしたり、街灯を遮蔽したり、人の動きに反応して点灯するセンサー付き照明に変えたりすることで、人々の健康を改善できるかもしれない」と述べている。 米ペンシルベニア州立大学の睡眠研究者でAHAの広報を担当しているJulio Fernandez-Mendoza氏は、「この研究結果は、夜間の過度の人工光への曝露を減らすことが公衆衛生上の課題であることを示唆しており、人工光の悪影響に関するエビデンスを補強するものだ」と述べている。同氏はまた、「夜間の人工光への過度な曝露が健康に悪く、特に心臓病のリスクを高めることは知られていたが、その悪影響がどのように生じるのかは分かっていなかった。本研究は、考えられるメカニズムの一つ、つまり脳がストレスに反応することの影響を検証しており、この領域の研究を大きく進歩させる知見と言えるのではないか」と付け加えている。なお、同氏は本研究に関与していない。 本研究の発表者らは今後、夜間の人工光への曝露を減らすことによって、心臓の健康状態が改善されるかどうかを調べることを予定している。なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

15.

1日1杯のコーヒーは心房細動を予防する?(解説:名郷直樹氏)

 コーヒーは紅茶、日本茶と並び、日本でも最もよく飲まれているカフェイン含有飲料であるが、カフェインの依存性や不整脈に対して避けるべきものとして扱われてきた歴史がある。しかし、カフェインと不整脈の関係を検討した研究結果は必ずしも一致したものではなく、2023年にはカフェインと上室性期外収縮に必ずしも関連が認められなかったというランダム化比較試験も発表されている1)。 このように関連が不確実な状況を踏まえて行われたのが、今回のコーヒーと心房細動の再発の関連をみたランダム化比較試験である2)。電気的除細動術予定で日頃コーヒーを飲んでいる患者を対象とし、1日1杯以上のコーヒーを飲むグループと、コーヒーを6ヵ月間禁止するグループを比較して、心房細動と心房粗動の発生を1次アウトカムとした、プラセボを使わず、アウトカムの評価をマスキングしたProspective Randomized Open Blinded Endpoint Study:PROBE Studyである。 結果は、心房細動と心房粗動の発生が1日平均1杯のコーヒーを飲む群で47%、禁止群で64%、ハザード比0.61、95%信頼区間0.42~0.89、絶対危険減少でみれば17%という大きな効果であり、コーヒーを飲むことが、発生を増やすどころか予防するという結果である。 コーヒーを飲む群の試験参加前後のコーヒー摂取量については、平均値では1日1杯と差がないものの、摂取量の75パーセンタイルの上限は、試験前では18杯に対し、試験後には11杯と減少している。この多量摂取者の摂取量の減少が再発予防に関連している可能性がある。コーヒー摂取と心房細動、心房粗動の関係が線形ではなく、U字型であれば、過量摂取者の減少によって効果が過大評価されているかもしれない。 上記を考慮すれば、これまでどちらかといえばコーヒーを避けるように指導してきた状況に対し、現在コーヒーを常に飲んでいる人たちにコーヒー摂取を禁止しないで済むという対応につなげやすい点でこの論文の臨床的価値は高い。ただ、2杯以上のコーヒー摂取がどうかといえば、それについて結論を出すことは困難である。また、日頃コーヒーを飲んでいない人に対してコーヒーを飲んだほうがいいかどうかもはっきりしない。 コーヒーを飲まない人のカフェイン摂取、コーヒーを飲む人たちに対する適切な摂取量に関する研究が今後期待される。 ここまで書いたことは論文の一般的な評価と一般的な利用法にすぎない。それに付け加えて、最後に私自身のことを書いておきたい。私自身は1日3~5杯のコーヒーを飲む。食後や休憩時間のゆったりした時間に飲むコーヒーは、自分自身にとって最も心地よい時間である。それを1杯に制限するよりは、電気的除細動を受けることで心房細動を予防するほうを選びたい。手術を待つまでのコーヒー制限も簡便である。個別の状況で、この論文をどう使うかについて、正しい/間違いはない。エビデンスもまた実際にどうするかに関わる一要素にすぎないことは、強調しておきたい。

16.

災害避難で車中泊は危険なのか?【実例に基づく、明日はわが身の災害医療】第11回

災害避難で車中泊は危険なのか?大規模災害の後、体育館が避難所として運営され、多くの避難者が生活していますが、避難所ではなく自家用車の中で生活している避難者も多くいるようです。避難所管理医師として、車中泊をする避難者の健康管理を行政から依頼されました。どのようなケアをすればいいでしょうか?車中泊する人は多い大規模災害時、避難所の収容限界や感染対策、プライバシーの問題から「車中泊」を選ぶ避難者は少なくありません。車中泊であれば、他人の物音に悩まされることもなく、周囲に気を使わずに夜中でもパソコンやスマートフォンを操作できます。実際、2016年の熊本地震では、避難者の6~7割が一時的に車中泊を経験しました1)。一方、震災関連死した被災者の約3割が車中泊経験者でした2)。こうした経緯から、車中泊は「避けるべきリスク」として語られがちです。しかし、指定避難所が満員である場合や、家族・ペットの事情などを考慮すると、多くの被災者にとって「積極的に選ばれる避難手段」となっているのが現実です。車中泊は血栓症のリスクなのか?医療者が注目すべきは、この避難様式が深部静脈血栓症(DVT)や肺血栓塞栓症(PTE)のリスク因子となる点です3~5)。熊本地震後の調査では、車中泊経験者のDVT発症率は約10%に達し、心肺停止に至る重症PTEの症例も報告されています6)。このような事実から、「車中泊は極力避けるべき」と主張する支援者もおられます。しかし近年の研究では、問題の本質は「車中泊」そのものではなく、その過ごし方と環境にあることが示されています。とくに以下の要因がリスクを高めるといわれています。長時間の下肢屈曲保持(座席での就寝など)トイレ不足による水分制限 → 脱水・血液濃縮下肢運動不足 → 筋ポンプ機能の低下高齢、肥満、静脈瘤、悪性腫瘍、妊産婦、血栓症などの家族歴経口避妊薬や睡眠薬などの服薬歴寒冷環境や強いストレスによる交感神経の緊張車中泊中の血栓症の予防はどうするか?これらのリスクを有する避難者に対しては、車内でも可能な非薬物的予防が有効であり、避難所を預かる医師として、以下のような適切なアドバイスが必要です。足を伸ばせる姿勢を確保する弾性ストッキングや保温具を活用し、下肢を冷やさない1~2時間ごとの足関節運動や体位変換を行う簡易トイレを活用してトイレの不安を減らし、水分を十分に摂取するハイリスク群に対しては、薬物療法としてDOAC(直接作用型経口抗凝固薬)の予防的投与も一案です。しかし、腎機能障害時の出血リスクが高まり、とくに災害時は脱水環境になりやすいため、慎重な判断が求められます。現実的には薬物よりも、まずは非薬物的な予防と環境整備を優先すべきでしょう。災害時の車中泊を一律に「危険」と断じるのではなく、適切な介入と支援を行うことで、DVTやPTEは予防することができます。われわれ医療者は、やみくもにリスクばかり強調するのではなく、避難行動の多様性を尊重しながら、あらゆる状況で被災者の健康を守れる体制を事前に整えておく必要があります。 1) 熊本県. 平成28年熊本地震における車中泊の状況について. 2023年10月15日 2) 日本経済新聞. 熊本地震1年 関連死の犠牲者、3割が車中泊を経験. 2017年4月16日 3) 日本循環器学会/日本高血圧学会/日本心臓病学会合同ガイドライン. 2014年版 災害時循環器疾患の予防・管理に関するガイドライン 4) Sato K, et al. Risk Factors and Prevalence of Deep Vein Thrombosis After the 2016 Kumamoto Earthquakes. Circ J. 2019;83:1342-1348. 5) Sueta D, et al. Venous Thromboembolism Caused by Spending a Night in a Vehicle After an Earthquake (Night in a Vehicle After the 2016 Kumamoto Earthquake). Can J Cardiol. 2018;34:813.e9-813.e10. 6) 坂本 憲治ほか. 熊本地震後に発生した静脈血栓塞栓症と対策プロジェクト. 日本血栓止血学会誌. 2022;33:648-654.

17.

ピロリ菌が重いつわりを長引かせる可能性、妊婦を対象とした研究から示唆

 妊娠中の「つわり」は多くの人が経験する症状であるが、中には吐き気や嘔吐が重く、入院が必要になるケースもある。こうした重いつわり(悪阻)で入院した妊婦164人を解析したところ、ヘリコバクター・ピロリ菌(以下ピロリ菌)に対する抗体(IgG)が陽性である人は入院が長引く傾向があることが分かった。妊娠前や妊娠初期にピロリ菌のチェックを行うことで、対応を早められる可能性があるという。研究は、日本医科大学武蔵小杉病院女性診療科・産科の倉品隆平氏、日本医科大学付属病院女性診療科・産科の豊島将文氏らによるもので、詳細は10月6日付けで「Journal of Obstetrics and Gynaecology Research」に掲載された。 妊娠悪阻は妊娠の0.3〜2%にみられる重度のつわりで、持続する嘔吐や体重減少により入院を要することも多い。進行すると電解質異常や肝・腎機能障害、ビタミンB1欠乏によるウェルニッケ脳症(意識障害やふらつきを伴う急性脳症)などを生じることがある。原因としてヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)や胎盤容積の大きさなどが知られるが、近年はピロリ菌感染との関連も指摘されている。しかし、日本人妊婦における感染と重症度や入院期間との関係は十分に検討されていない。本研究では、重度妊娠悪阻で入院した症例を対象に、入院時の各種指標とピロリ菌に対するIgG抗体の有無が入院期間に及ぼす影響を後ろ向きに検討した。 本研究では、2011年1月~2023年6月までに日本医科大学付属病院または日本医科大学武蔵小杉病院で入院治療を要した重度妊娠悪阻患者164人が含まれた。患者はまず、抗H. pylori IgG抗体の有無(陽性群 vs 陰性群)に基づき2群に分けられた。その後、すべての患者を長期入院群(21日以上)と短期入院群(21日未満)に分類して、二次解析が行われた。統計手法には、マン・ホイットニーのU検定、t検定、フィッシャーの正確確率検定、ロジスティック回帰分析が適宜用いられた。 解析対象164人中、抗H. pylori IgG抗体陽性の患者は23人(14.0%)、陰性は141人(86.0%)であった。これら2群の入院期間を比較したところ、抗H. pylori IgG抗体陽性群の入院中央値(範囲)は24日(6〜70日)であり、陰性群の中央値15日(2〜80日)と比べて有意に長かった(P=0.032)。 次に長期入院群と短期入院群を比較したところ、長期入院群では尿ケトン体強陽性(3≦)の割合(P=0.036)や抗H. pylori IgG陽性の割合(P=0.022)が有意に高かった。入院時の検査所見を比較すると、長期入院群では血清遊離サイロキシン(FT4)値が有意に高かったが、その他の検査項目に有意差は認められなかった。 多変量ロジスティック回帰分析の結果、単変量解析で有意だった因子を調整後も、入院長期化の独立したリスク因子として確認されたのは抗H. pylori IgG陽性のみであった(オッズ比〔OR〕 4.665、95%信頼区間〔CI〕 1.613~13.489、P=0.004)。尿ケトン体強陽性は入院期間延長の傾向を示したが、統計的有意差は認められなかった(OR 2.169、95%CI 0.97~4.85、P=0.059)。一方、尿ケトン体強陽性の有無で患者を層別すると、陽性群の入院中央値は19日(4〜80日)、陰性群の12日(2〜55日)であり、有意に入院期間が延長されていた(P=0.001)。 著者らは「今回の研究結果から、抗H. pylori IgG抗体の検査で、重度の悪阻で入院が長引きやすい妊婦を特定できる可能性が示唆された。抗体陽性の妊婦は、入院中により注意深く観察されることで、体調管理の助けになると考えられる。また、妊娠前からの準備(プレコンセプションケア)が、悪阻の予防策として有効かもしれない」と述べている。 また、著者らは、妊娠前のピロリ菌スクリーニングや除菌の有効性については現時点では仮説にすぎず、本研究はその可能性を示すにとどまると説明している。今後は、ガイドラインや保険制度の見直しを含め、前向き研究で有効性や費用対効果を検証することが重要だとしている。

18.

第295回 注目の試験でGLP-1薬のアルツハイマー病治療効果示せず

注目の試験でGLP-1薬のアルツハイマー病治療効果示せずGLP-1受容体作動薬(GLP-1薬)は肥満、糖尿病、それらと密接に関わる心血管疾患や腎疾患の治療を進歩させました。また、GLP-1薬が他の数々の疾患治療にも有益なことを示唆する研究成果が続々と発表されています。とくに、アルツハイマー病などの神経変性疾患の治療はGLP-1薬の新たな用途として有望視されていましたが、Novo Nordisk社が先週月曜日に速報した2つの第III相試験結果はその期待に沿うものではありませんでした。evokeとevoke+という名称のそれら2試験のどちらでも残念なことにセマグルチド経口投与のアルツハイマー病進展を遅らせる効果がみられなかったのです1)。セマグルチドなどのGLP-1薬が神経変性疾患を予防しうることは示唆されていたものの、すでにそうなってしまってからでは手遅れと多くの研究者は感じていたようです2)。Novo Nordisk社でさえ試験が成功する見込みは薄い(low likelihood of success)と悟っていました1)。しかしそれでもアルツハイマー病へのセマグルチドの可能性の検討は責務と感じていたと同社の最高科学責任者(CSO)のMartin Holst Lange氏は言っています。過去何十年もアルツハイマー病は多岐にわたり研究されてきましたが、如何せん飛躍的な進歩には至っていません。救いの手がまったく間に合っていないアルツハイマー病のそのような状況をNovo Nordisk社は見過ごすことはできなかったのです。アルツハイマー病にGLP-1が有益そうな報告が増えていることにも背中を押され、さかのぼること5年前の2020年12月にNovo Nordisk社はその責任を果たすための第III相試験の決定を発表します3)。明けて翌春2021年5月にevoke試験とevoke+試験が始まり4,5)、初期段階のアルツハイマー病患者のべ4千例弱(3,808例)が組み入れられ、2試験とも被験者は最大14 mg/日のセマグルチドを連日服用する群かプラセボ群に1対1の比で割り振られました。2試験とも約2年間(104週間)の主要な治療期間とその後の約1年間(52週間)の延長期間の経過を調べる算段となっていました。しかし、今回速報された2年間の経過の解析結果で両試験ともアルツハイマー病進展の有意な抑制効果が示せず、1年間の延長は中止となりました。発表によると、セマグルチドはアルツハイマー病と関連する生理指標一揃いを改善しましたが、その作用はどちらの試験でもアルツハイマー病の進展を遅らせる効果には繋がりませんでした。具体的には、知能や身のこなしを検査する臨床認知症評価尺度(CDR-SB)の104週時点の点数のベースラインとの差の比較で、セマグルチドがプラセボより優越なことが示せませんでした。目当ての効果は認められなかったとはいえ、evoke/evoke+試験からは貴重な情報の数々が得られそうです。たとえばその1つは脳での抗炎症作用です。先立つ試験で示唆されているような体重減少とは独立した手広い抗炎症作用がセマグルチドにあるかどうかが、糖尿病や肥満ではない多数の被験者が参加したそれら2つの大規模試験で明らかになりそうです2)。それに、試験には脆弱な患者が多く参加しており、脂肪に加えて筋肉も減らすセマグルチドなどのGLP-1薬がそういう患者に安全かどうかも知ることができそうです。evoke/evoke +試験のより詳しい結果一揃いが今週3日に米国サンディエゴでのClinical Trials on Alzheimer’s Disease(CTAD)の学会で発表されます1)。また、結果の全容が来春2026年3月のAlzheimer’s and Parkinson’s Diseases Conferences(AD/PD)で報告される予定です。 参考 1) Evoke phase 3 trials did not demonstrate a statistically significant reduction in Alzheimer's disease progression / Novo Nordisk 2) Popular obesity drug fails in hotly anticipated Alzheimer’s trials / Science 3) Novo Nordisk to enter phase 3 development in Alzheimer’s disease with oral semaglutide / Novo Nordisk 4) EVOKE試験(ClinicalTrials.gov) 5) EVOKE Plus試験(ClinicalTrials.gov)

19.

75歳以上における抗凝固薬と出血性脳卒中の関連~日本の後ろ向きコホート

 高齢者における抗凝固薬使用と出血性脳卒中発症の関連を集団ベースで検討した研究は少ない。今回、東京都健康長寿医療センター研究所の光武 誠吾氏らが、傾向スコアマッチング後ろ向きコホート研究で検討した結果、抗凝固薬を処方された患者で出血性脳卒中による入院発生率が高く、ワルファリン処方患者のほうが直接経口抗凝固薬(DOAC)処方患者より発生率が高いことが示唆された。Aging Clinical and Experimental Research誌2025年11月13日号に掲載。 本研究は、北海道のレセプトデータを用いた後ろ向きコホート研究で、2016年4月~2017年3月(ベースライン期間)に治療された75歳以上の高齢者を対象とした。曝露変数はベースライン期間中の抗凝固薬処方、アウトカム変数は2017年4月~2020年3月の出血性脳卒中による入院であった。共変量(年齢、性別、自己負担率、併存疾患、年次健康診断、要介護認定)を調整した1対1マッチングにより、抗凝固薬処方群と非処方群の入院発生率を比較した。 主な結果は以下のとおり。・71万7,097例中、6万6,916例(9.3%)が抗凝固薬を処方されていた。・傾向スコアマッチング後、抗凝固薬処方群(383.2/100万人月)が非処方群(252.2/100万人月)より出血性脳卒中による入院発生率が高かった(ハザード比[HR]:1.64、95%信頼区間[CI]:1.39~1.93)。・1種類の抗凝固薬を処方された患者(6万1,556例)において、マッチング後、ワルファリン処方群がDOAC処方群より出血性脳卒中による入院発生率が有意に高かった(HR:1.67、95%CI:1.39~2.01)。 著者らは「本研究の結果は、高齢者への抗凝固薬、とくにワルファリンの処方において、出血性脳卒中リスクを最小限にすべく慎重な検討が必要であることを強調している」とまとめている。

20.

AIがわずかな精子を検出、不妊カップルが妊娠成功

 19年にわたり不妊治療を受けていたカップルの男性の精子から、高度な人工知能(AI)を用いたシステムにより2匹の運動能力のある精子を特定。これを卵子に注入したところ、2つの胚が発育し、それを母親に移植した結果、妊娠が成功したとする研究結果が報告された。研究グループは、「この新しい技術は、男性が無精子症である他の不妊カップルにも役立つ可能性がある」と述べている。米コロンビア大学不妊治療センター所長のZev Williams氏らによるこの研究結果は、「The Lancet」11月8日号に掲載された。 研究の背景情報によると、不妊症の約40%は男性側の要因によるもので、精液中に精子がほとんど存在しないか、全く検出できない無精子症や極少精子症がその約10〜15%を占めている。このようなカップルの多くが、長年にわたり不妊治療の失敗、侵襲的処置、精神的苦痛を繰り返し経験する。現在の不妊症の標準治療は、精巣内精子採取術(TESE)や熟練した胚培養士による手作業での精子探索を経て顕微授精(ICSI)を行うというものだが、これらは時間がかかり、侵襲的である上に成功率も限られている。Williams氏は、「精子数が極めて少ない男性の精液から生存可能な精子を特定し、採取するより良い方法を見つけることが、この分野では長年の課題となっていた」と話す。 こうした課題を解決するためにWilliams氏らは、AIとマイクロ流体技術を組み合わせて精液サンプルからわずかな精子を高速で探索し、リアルタイムで検出・採取する、非侵襲的なSperm Tracking and Recovery(STAR)システムを開発した。STARシステムは、高性能画像技術を使って精液サンプルをスキャンし、1時間以内に110万枚以上の画像を解析できる。検出された精子は、マイクロ流体デバイスにより自動的に分離される。 今回の研究では、19年の不妊治療歴を有するカップルに対し、このSTARシステムを初めて臨床で応用した例が報告された。カップルのうち、男性(39歳)は、包括的な検査から、Y染色体およびホルモン値は正常だが両側精巣の萎縮と小結石が認められ、過去に受けた複数回の広範囲な精子検査ではごくわずかな精子しか見つかっていなかった。一方、女性(37歳)には、卵巣予備能の著しい低下が見られた。 Williams氏らは、男性から採取した精液サンプル(3.5mL)を洗浄し、800μLのバッファーに懸濁し、STARシステムで処理した。その結果、通常の顕微鏡検査では精子は検出されなかったのに対し、STARシステムは、約2時間で250万枚の画像を解析し、7匹の精子を検出した。これらの精子のうち、運動性が正常だった2匹と2個の卵子を用いてICSIを行ったところ、両方とも分割期胚に発育。それらを3日目に移植したところ、移植13日目に妊娠反応が陽性となり、妊娠8週時点で胎児の心拍も確認された。 Williams氏は、「男性の要因による不妊症のカップルの多くは、生物学的な子どもを授かる可能性はほとんどないと告げられる。しかし、胚を作るのに必要なのは、たった1匹の健康な精子だけだ」と強調する。研究グループは、このSTARシステムは、精巣から精子を外科的に採取する手順や、技術者が精液サンプルを手作業で丹念に検査し、生存可能な精子を見つけて捕獲する手順に取って代わる可能性があると述べている。 研究グループは現在、より大規模な臨床試験を実施して、STARシステムの有効性を評価している最中である。(HealthDay News 2025年11月5日)

検索結果 合計:4764件 表示位置:1 - 20