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1.

心房細動患者における脳梗塞リスクを示すバイオマーカーを同定

 抗凝固療法を受けている心房細動(AF)患者においても、既知の脳梗塞リスクのバイオマーカーは脳梗塞リスクと正の関連を示し、そのうち2種類のバイオマーカーがAF患者の脳卒中発症の予測精度を改善する可能性があるとする2報の研究結果が、「Journal of Thrombosis and Haemostasis」に8月6日掲載された。 米バーモント大学のSamuel A.P. Short氏らは、抗凝固療法を受けているAF患者におけるバイオマーカーと脳梗塞リスクの関連を検討するために、登録時に45歳以上であった黒人および白人の成人3万239人を対象とし、前向きコホート研究を実施した。ベースライン時に、対象者の9種類のバイオマーカーが測定された。解析の結果、ワルファリンを内服していたAF患者713人のうち67人(9%)が、12年間の追跡期間中に初発の脳梗塞を発症していた。交絡因子を調整した後も、標準偏差1単位の上昇ごとに、N末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)、血液凝固第VIII因子、D-ダイマー、成長分化因子-15(GDF-15)は、いずれも新規脳卒中発症と正の関連を示した。ハザード比は、NT-proBNPで1.49(95%信頼区間1.11〜2.02)、GDF-15で1.28(同0.92〜1.77)であった。ただし、D-ダイマーとGDF-15の関連は、統計学的に有意とはならなかった。 2件目の研究で、Short氏らは、以前一般集団で脳卒中リスクと関連が報告されていたバイオマーカーが、AF患者でも同様に脳卒中リスクと関連するか、さらにCHA2DS2-VAScスコアによる予測を改善できるかを検討した。13年間の追跡期間中に、AF患者2,411人のうち163人(7%)が初発の脳梗塞を発症していた。解析の結果、NT-proBNP、GDF-15、シスタチンC、インターロイキン6(IL-6)、リポ蛋白(a)の高値は、それぞれ独立して脳卒中リスクの上昇と関連していた。CHA2DS2-VAScモデルの適合度と予測能は、これらのバイオマーカーを加えることで大きく改善した。NT-proBNPとGDF-15の2種類のみを追加したモデルが、最も適合性・予測能に優れていた。 Short氏は、「今回示されたモデルにより、医師は抗凝固療法の対象となる患者をより適切に選択できるようになり、救命や医療費削減につながる可能性がある」と述べている。

2.

新しい肥満の定義で米国人の7割近くが肥満に該当

 肥満の新しい定義により、肥満と見なされる米国人の数が劇的に増加する可能性があるようだ。長期健康調査に参加した30万人以上を対象にした研究で、BMIだけでなく、余分な体脂肪に関する追加の指標も考慮した新たな肥満の定義を適用すると、肥満の有病率が約40%から70%近くに上昇することが示された。米マサチューセッツ総合病院(MGH)の内分泌学者であるLindsay Fourman氏らによるこの研究結果は、「JAMA Network Open」に10月15日掲載された。 Fourman氏は、「肥満が蔓延しているだろうと考えてはいたが、これほどとは予想していなかった。現在、成人人口の70%が過剰な脂肪を持っている可能性があると考えられるため、どの治療アプローチを優先すべきかについての理解を深める必要がある」とニュースリリースで述べている。 これまで、肥満はBMIにより定義されてきた。しかしBMIでは、例えば、筋肉量の多いボディビルダーが肥満と判定されるなど、体重と脂肪や筋肉の量が区別されないため、理想的な数値とは言えないことが指摘されている。一方、ウエスト周囲径、ウエスト身長比、ウエストヒップ比などの新たに開発された指標により、人の体脂肪をより正確に評価し、肥満度を計算する動きも出てきている。 最近、Lancet Commission(ランセット委員会)が新たに提案した肥満の定義では、1)従来のBMIの肥満閾値を超え、かつウエスト周囲径やウエスト身長比などの身体測定値が1つ以上高値であるか、BMIが40超、2)BMIは肥満閾値を下回るが2つ以上の身体測定値が高値のいずれかに該当する場合、臓器機能障害や身体的制限の有無によって、肥満を臨床的肥満(過剰な脂肪が臓器や組織に悪影響を及ぼしている)と、前臨床的肥満(体脂肪は過剰だが臓器は正常に働いている)に分類する。研究グループによると、米国心臓協会(AHA)や米国肥満学会など少なくとも76団体がこの定義を支持しているという。 今回の研究でFourman氏らは、米国立衛生研究所(NIH)が主導するAll of Us Research Programの参加者データを用いた前向きコホート研究を実施し、この新しい肥満の定義が臨床上どのような意味を持つのかを検討した。対象は、2017年5月31日から2023年9月30日の間に身体測定データがそろっていた30万1,026人(平均年齢54歳、女性61.0%)であった。 その結果、肥満に分類された人の割合は、従来の定義では42.9%(12万8,992人)であったのが、新しい定義では68.6%(20万6,361人)に増えることが明らかになった。臨床的肥満に分類されたのは10万8,650人(36.1%)であった。また、肥満ではない人と比較すると、肥満者では臓器機能障害のオッズが高く、オッズ比はBMIと身体測定値に基づく肥満者で3.31、身体測定値のみに基づく肥満者で1.76であった。さらに、臨床的肥満者では肥満のない人または臓器機能障害のない人に比べて、糖尿病(調整ハザード比6.11)、心血管イベント(同5.88)、全死因死亡(同2.71)のリスクが高いことも示された。 Fourman氏は、「BMIが正常でも腹部に脂肪が蓄積している人は健康リスクが高まることが分かってきているため、過剰な体脂肪を特定することは極めて重要だ。大切なのは体組成であり、体重計の数値だけが問題ではない」と述べている。 本研究には関与していない、米サウスショア大学病院のArmando Castro-Tie氏は、「この新しい肥満の定義によって、必要な人に医療が届き、肥満関連の慢性疾患を発症する前に余分な体重を減らすことができるようになる」と述べている。同氏は、「肥満の真の定義や肥満者がどのような人なのかについての理解を深めるための研究はかなり遅れている。これらが明らかになれば、さまざまな人口集団における異なるレベルの肥満に対して本当に効果的なアプローチは何なのかを探る、より的を絞った研究ができるようになるだろう」とコメントしている。

3.

慢性便秘の改善にキウイが有効

 キウイは健康的なおやつ以上のものかもしれない。英国栄養士会(BDA)が新たに作成した慢性便秘に関する包括的な食事ガイドラインによれば、キウイ、ライ麦パン、特定のサプリメントは、薬に頼らずに慢性便秘を管理するのに役立つ可能性があるという。英キングス・カレッジ・ロンドン(KCL)准教授で登録栄養士でもあるEirini Dimidi氏らが作成したこのガイドラインは、「Journal of Human Nutrition and Dietetics」に10月13日掲載された。 Dimidi氏は、「本ガイドラインは医薬品ではなく、食事療法による便秘治療に焦点を当てている」と説明する。同氏は、「便秘に悩む人が、科学的エビデンスに基づいた情報を得ることで、自分で症状をコントロールして、生活の質(QOL)に多大な影響を及ぼしている症状を改善することができると感じてくれることを願っている」と話している。 慢性便秘とは、週3回未満の排便が3カ月以上続く状態と定義されている。慢性便秘の一般的な症状は、硬い便や塊状の便、膨満感、腹部不快感、吐き気などである。慢性便秘は世界人口の10%以上に影響を与えている。米国消化器病学会によると、米国だけでも年間約250万人が便秘を理由に医療機関を受診している。慢性便秘の状態では、お腹の張りや痛み、倦怠感から体を動かすことができなかったり気分に影響したりする可能性がある」と米栄養と食事のアカデミー(AND)の広報担当者で管理栄養士のSue-Ellen Anderson-Haynes氏はNBCニュースに語っている。 この研究でDimidi氏らは、慢性便秘に対する食事による介入の効果を検討した75件のランダム化比較試験(RCT)を対象に4件のシステマティックレビューとメタアナリシスを行い、その結果に基づいて、GRADEアプローチ(エビデンスの確実性と推奨の強さを評価する手法)によりガイドライン(推奨事項)を作成した。主な推奨事項は以下の通り。・キウイ:毎日3個(皮付きまたは皮なし)食べると便通が改善する。・ライ麦パン:1日6〜8枚食べると排便回数を増やすことができる。ただし、これは全ての人にとって現実的とはいえない可能性があることをDimidi氏らは指摘している。・食物繊維サプリメント:サイリウム(オオバコ)などのサプリメントを1日当たり10g以上摂取すると排便回数が増え、いきみが楽になる。・酸化マグネシウムのサプリメント:1日0.5〜1.5g摂取することで排便回数が増え、腹部膨満感や痛みが軽減される。・プロバイオティクス:プロバイオティクス全体としては一部の人で効果のある可能性があるが、個々の種または菌株ごとの効果は不明である。・ミネラル豊富な水:マグネシウムを豊富に含む水の1日0.5~1.5Lの摂取を他の治療法と組み合わせることで、効果を高めることができる。 Dimidi氏は、「このガイドラインは、『食物繊維や水の摂取量を増やしましょう』というような漠然とした既存の助言を、より具体的で研究に裏打ちされた助言に置き換えることを目的としている」と述べている。同氏らによると、慢性便秘の既存の治療計画のほとんどは薬物療法に依存しているという。Dimidi氏は、「高繊維食は、健康全般や大腸がんのリスク軽減など、腸の健康にも非常に有益であるというエビデンスはいくつもある。しかし便秘に関しては、それが便秘を改善すると断言できるほどの十分なエビデンスは存在しない」とNBCニュースに対して語っている。 このガイドラインの作成には関与していない米ミシガン大学の消化器専門医であるWilliam Chey氏は、本ガイドラインを、「主治医の診察を待つ間に自分で試すことのできることについてまとめた貴重なロードマップだ」と評している。

4.

肺動脈性肺高血圧症〔PAH : pulmonary arterial hypertension〕

1 疾患概要■ 概念・定義肺高血圧症(pulmonary hypertension:PH)は、肺動脈圧が上昇する一連の疾患の総称である。欧州の肺高血圧症診断治療ガイドライン2022では、右心カテーテルで安静時の平均肺動脈圧(mPAP)が20mmHgを超える状態と定義が変更された。さらに肺動脈性肺高血圧症(PAH)に関しても、mPAP>20mmHgかつ肺動脈楔入圧(PAWP)≦15mmHg、肺血管抵抗(PVR)>2 Wood単位(WU)と診断基準が変更された。しかし、わが国において、厚生労働省が指定した指定難病PAHの診断基準は2025年8月の時点では「mPAP≧25mmHg、PVR≧3WU、PAWP≦15mmHg」で変わりない。この数字は現在保険収載されている肺血管拡張薬の臨床試験がmPAP≧25mmHgの患者を対象としていることにある。mPAP 20~25mmHgの症例に対する治療薬の臨床的有用性や安全性に関する検証が待たれる。■ 疫学特発性PAHは一般臨床では100万人に1~2人、二次性または合併症PAHを考慮しても100万人に15人ときわめてまれである。従来、特発性PAHは30代を中心に20~40代女性に多く発症する傾向があったが、最近の調査では高齢者かつ男性の新規診断例の増加が指摘されている。小児は成人の約1/4の発症数で、1歳未満・4~7歳・12歳前後に発症のピークがある。男女比は小児では大差ないが、思春期以降の小児や成人では男性に比し女性が優位である。厚生労働省研究班の調査では、膠原病患者のうち混合性結合織病で7%、全身性エリテマトーデスで1.7%、強皮症で5%と比較的高頻度にPAHを発症する。■ 病因主な病変部位は前毛細血管の細小動脈である。1980年代までは血管の「過剰収縮ならびに弛緩低下の不均衡」説が病因と考えられてきたが、近年の分子細胞学的研究の進歩に伴い、炎症-変性-増殖を軸とした、内皮細胞機能障害を発端とした正常内皮細胞のアポトーシス亢進、異常平滑筋細胞のアポトーシス抵抗性獲得と無秩序な細胞増殖による「血管壁の肥厚性変化とリモデリング」 説へと、原因論のパラダイムシフトが起こってきた1, 2)。肺血管平滑筋細胞などの血管を構成する細胞の異常増殖は、細胞増殖抑制性シグナル(BMPR-II経路)と細胞増殖促進性シグナル(ActRIIA経路)のバランスの不均衡により生じると考えられている3)。遺伝学的には2000年に報告されたBMPR2を皮切りに、ACVRL1、ENG、SMAD9など、TGF-βシグナル伝達に関わる遺伝子が次々と疾患原因遺伝子として同定された4)。これらの遺伝子変異は家族歴を有する症例の50~70%、孤発例(特発性PAH)の20~30%に発見されるが、浸透率は10~20%と低い。また、2012年にCaveolin1(CAV1)、2013年にカリウムチャネル遺伝子であるKCNK3、2013年に膝蓋骨形成不全の原因遺伝子であるTBX4など、TGF-βシグナル伝達系とは直接関係がない遺伝子がPAH発症に関与していることが報告された5-7)。■ 症状PAHだけに特異的なものはない。初期は安静時の自覚症状に乏しく、労作時の息切れや呼吸困難、運動時の失神などが認められる。注意深い問診により診断の約2年前には何らかの症状が出現していることが多いが、てんかんや運動誘発性喘息、神経調節性失神などと誤診される例も少なくない。進行すると易疲労感、顔面や下腿の浮腫、胸痛、喀血などが出現する。■ 分類『ESC/ERS肺高血圧症診断治療ガイドライン2022』に示されたPHの臨床分類を以下に示す8)。1群PAH(肺動脈性肺高血圧症)1.1特発性PAH1.1.1 血管反応性試験でのnon-responders1.1.2 血管反応性試験でのacute responders(Ca拮抗薬長期反応例)1.2遺伝性PAH1.3薬物/毒物に関連するPAH1.4各種疾患に伴うPAH1.4.1 結合組織病(膠原病)に伴うPAH1.4.2 HIV感染症に伴うPAH1.4.3 門脈圧亢進症に伴うPAH(門脈肺高血圧症)1.4.4 先天性心疾患に伴うPAH1.4.5 住血吸虫症に伴うPAH1.5 肺静脈閉塞症/肺毛細血管腫症(PVOD/PCH)の特徴をもつPAH1.6 新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)2群PH(左心疾患に伴うPH)2.1 左心不全2.2.1 左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)2.2.2 左室駆出率が低下または軽度低下した心不全2.2 弁膜疾患2.3 後毛細血管性PHに至る先天性/後天性の心血管疾患3群PH(肺疾患および/または低酸素に伴うPH)3.1 慢性閉塞性肺疾患(COPD)3.2 間質性肺疾患(ILD)3.3 気腫合併肺線維症(CPFE)3.4 低換気症候群3.5 肺疾患を伴わない低酸素症(例:高地低酸素症)3.6 肺実質の成長障害4群PH(肺動脈閉塞に伴うPH)4.1 慢性血栓塞栓性PH(CTEPH)4.2 その他の肺動脈閉塞性疾患5群PH(詳細不明および/または多因子が関係したPH)5.1 血液疾患5.2 全身性疾患(サルコイドーシス、肺リンパ脈管筋腫症など)5.3 代謝性疾患5.4 慢性腎不全(透析あり/なし)5.5 肺腫瘍血栓性微小血管症(PTTN)5.6 線維性縦郭炎5.7 複雑先天性心疾患■ 予後1990年代まで平均生存期間は2年8ヵ月と予後不良であった。わが国では1999年より静注PGI2製剤エポプロステノールナトリウムが臨床使用され、また、異なる機序の経口肺血管拡張薬が相次いで開発され、併用療法が可能となった。近年では5年生存率は90%近くに劇的に改善してきている。一方、最大限の内科治療に抵抗を示す重症例も一定数存在し、肺移植施設への照会、肺移植適応の検討も考慮される。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)右心カテーテル検査による「肺動脈性のPH」の診断とともに、臨床分類における病型の確定、他のPHを来す疾患の除外(鑑別診断)、および重症度評価が行われる。症状の急激な進行や重度の右心不全を呈する症例はPH診療に精通した医師に相談することが望ましい。PHの各群の鑑別のためには、まず左心性心疾患による2群PH、呼吸器疾患/低酸素による3群PHの存在を検索し、次に肺換気血流シンチグラムなどにより肺血管塞栓性PH(4群)を否定する。ただし、呼吸器疾患/低酸素によるPHのみでは説明のできない高度のPHを呈する症例では1群PAHの合併を考慮すべきである。わが国の『肺高血圧症診療ガイダンス2024』に示された診断手順(図1)を参考にされたい9)。図1 PHの鑑別アルゴリズム(診断手順)画像を拡大する■ 主要症状および臨床所見1)労作時の息切れ2)易疲労感3)失神4)PHの存在を示唆する聴診所見(II音の肺動脈成分の亢進など)■ 診断のための検査所見1)右心カテーテル検査(指定難病PAHの診断基準に準拠)(1)肺動脈圧の上昇(安静時肺動脈平均圧で25mmHg以上、肺血管抵抗で3単位以上)(2)肺動脈楔入圧(左心房圧)は正常(15mmHg以下)2)肺血流シンチグラム区域性血流欠損なし(特発性または遺伝性PAHでは正常または斑状の血流欠損像を呈する)■ 参考とすべき検査所見1)心エコー検査にて、右室拡大や左室圧排所見、三尖弁逆流速度の上昇(>2.8m/s)、三尖弁輪収縮期移動距離の短縮(TAPSE<18mm)、など2)胸部X線像で肺動脈本幹部の拡大、末梢肺血管陰影の細小化3)心電図で右室肥大所見3 治療 (治験中・研究中のものも含む)『ESC/ERSのPH診断・治療ガイドライン2022』を基本とし、日本人のエビデンスと経験に基づいて作成されたPAH治療指針を図2に示す9,10)。図2 PAHの治療アルゴリズム画像を拡大するこれはPAH症例にのみ適応するものであって、他のPHの臨床グループ(2~5群)に属する症例には適応できない。一般的処置・支持療法に加え、根幹を成すのは3系統の肺血管拡張薬である。すなわち、プロスタノイド(PGI2)、ホスホジエステラーゼ 5型阻害薬(PDE5-i)、エンドセリン受容体拮抗薬(ERA)である。2015年にPAHに追加承認された、可溶性guanylate cyclase(sGC)刺激薬リオシグアトはPDE5-iとは異なり、NO非依存的にNO-cGMP経路を活性化し、肺血管拡張作用をもたらす利点がある。初期治療開始に先立ち、急性血管反応性試験(AVT)の反応性を確認する。良好な反応群(responder)には高用量のCa拮抗薬が推奨される。しかし、実臨床においてCa拮抗薬長期反応例は少なく、3~4ヵ月後の血行動態改善が乏しい場合には他の薬剤での治療介入を考慮する。AVT陰性例には重症度に基づいた予後リスク因子(表)を考慮し、リスク分類に応じて3系統の肺血管拡張薬のいずれかを用いて治療を開始する。表 PAHのリスク層別化画像を拡大する低~中リスク群にはERA(アンブリセンタン、マシテンタン)およびPDE5-i(シルデナフィル、タダラフィル)の2剤併用療法が広く行われている。高リスク群には静注・皮下注投与によるPGI2製剤(エポプロステノール、トレプロスチニル)、ERA、PDE5-iの3剤併用療法を行う。最近では初期から複数の治療薬を同時に併用する「初期併用療法」が主流となり良好な治療成績が示されているが、高齢者や併存疾患(高血圧、肥満、糖尿病、肺実質疾患など)を有する症例では、安全性を考慮しERAもしくはPDE5-iによる単剤治療から慎重に開始すべきである。右心不全ならびに左心還流血流低下が著しい最重症例では、体血管拡張による心拍出量増加・右心への還流静脈血流増加に対する肺血管拡張反応が弱く、かえって肺動脈圧上昇や右心不全増悪を来すことがあり、少量から開始し、急速な増量は避けるべきである。また、カテコラミン(ドブタミンやPDEIII阻害薬など)の併用が望まれ、体血圧低下や脈拍数増加、水分バランスにも十分留意する。初期治療開始後は3~4ヵ月以内に血行動態の再評価が望まれる。フォローアップ時において中リスクの場合は、経口PGI2受容体刺激薬セレキシパグもしくは吸入PGI2製剤トレプロスチニルの追加、PDE5-iからsGC刺激薬リオシグアトへの薬剤変更も考慮される。しかし、経口薬による多剤併用療法を行っても機能分類-III度から脱しない難治例には時期を逸さぬよう非経口PGI2製剤(エポプロステノール、トレプロスチニル)の導入を考慮すべきである。すでに非経口PGI2製剤を導入中の症例で用量変更など治療強化にも抵抗を示す場合は、肺移植認定施設に紹介し、肺移植適応を検討する。2025年8月にアクチビンシグナル伝達阻害薬ソタテルセプト(商品名:エアウィン 皮下注)がわが国でも保険収載された。これまでの3系統の肺血管拡張薬とは薬理機序が異なり、アクチビンシグナル伝達を阻害することで細胞増殖抑制性シグナルと細胞増殖促進性シグナルのバランスを改善し、肺血管平滑筋細胞の増殖を抑制する新しい薬剤である11)。ソタテルセプトは、既存の肺血管拡張薬による治療を受けている症例で中リスク以上の治療強化が必要な場合、追加治療としての有効性が期待される。3週間ごとに皮下注射する。主な副作用として、出血や血小板減少、ヘモグロビン増加などが報告されている。PHに対して開発中の薬剤や今後期待される治療を紹介する。吸入型のPDGF阻害薬ソラルチニブが成人PAHを対象とした第III相臨床試験を国内で進捗中である。トレプロスチニルのプロドラッグ(乾燥粉末)吸入製剤について海外での第II相試験が完了し、1日1回投与で既存の吸入薬に比べて利便性向上が期待できる。内因性エストロゲンはPHの病因の1つと考えられており、アロマターゼ阻害薬であるアナストロゾールの効果が研究されている。世界中で肺動脈自律神経叢を特異的に除神経するカテーテル治療開発が進められており、国内でも先進医療として薬物療法抵抗性PH対する新たな治療戦略として期待されている。4 今後の展望近年、肺血管疾患の研究は急速に成長をとげている。PHの発症リスクに関わる新たな遺伝的決定因子が発見され、PHの病因に関わる新規分子機構も明らかになりつつある。とくに細胞の代謝、増殖、炎症、マイクロRNAの調節機能に関する研究が盛んで、これらが新規標的治療の開発につながることが期待される。また、遺伝学と表現型の関連性によって予後転帰の決定要因が明らかとなれば、効率的かつテーラーメイドな治療戦略につながる可能性がある。5 主たる診療科循環器内科、膠原病内科、呼吸器内科、胸部心臓血管外科、小児科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 肺動脈性肺高血圧症(指定難病86)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本肺高血圧・肺循環学会合同ガイドライン(日本循環器学会)(2025年改訂された日本循環器学会および日本肺高血圧・ 肺循環学会の合同作成による肺高血圧症に関するガイドライン)肺高血圧症診療ガイダンス2024(日本肺高血圧・肺循環学会)(欧州ガイドライン2022を基とした日本の実地診療に即したガイダンス)2022 ESC/ERS Guidelines for the diagnosis and treatment of pulmonary hypertension(2022年に発刊された最新版の欧州ガイドライン、英文のみ)患者会の情報NPO法人 PAHの会(肺高血圧症患者と家族が運営している全国組織の患者会)Pulmonary Hypertension Association(世界最大かつ最古の肺高血圧症協会で16,000人以上の患者・家族・医療専門家からなる国際的なコミュニティ、日本語選択可) 1) Michelakis ED, et al. Circulation. 2008;18:1486-1495. 2) Morrell NW, et al. J Am Coll Cardiol. 2009;54:S20-31. 3) Guignabert C, et al. Circulation. 2023; 147: 1809-1822. 4) 永井礼子. 日本小児循環器学会雑誌. 2023; 39: 62-68. 5) Austin ED, et al. Circ Cardiovasc Genet. 2012;5:336-343. 6) Ma L, et al. N Engl J Med. 2013;369:351-361. 7) Kerstjens-Frederikse WS, et al. J Med Genet. 2013;50:500-506. 8) Humbert M, et al. Eur Heart J. 2022;43:3618-3731. 9) 日本肺高血圧・肺循環学会. 肺高血圧症診療ガイダンス2024. 10) Chin KM, et al. Eur Respir J. 2024;64:2401325. 11) Sahay S, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2024;210:581-592. 公開履歴初回2013年07月18日更新2025年11月06日

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寛解後の抗精神病薬の減量/中止はいつ頃から行うべきか?

 初回エピソード統合失調症患者における寛解後の抗精神病薬の早期減量または中止は、短期的な再発リスクを上昇させる。長期的なアウトカムに関する研究では、相反する結果が得られているため、長期的な機能改善への潜在的なベネフィットについては、依然として議論が続いている。オランダ・University of GroningenのIris E. Sommer氏らは、初回エピソード統合失調症患者の大規模サンプルを対象に、4年間にわたり抗精神病薬の減量/中止と維持療法の短期および長期的影響について比較を行った。JAMA Psychiatry誌オンライン版2025年10月1日号の報告。 本HAMLETT(Handling Antipsychotic Medication Long-Term Evaluation of Targeted Treatment)試験は、2017年9月~2023年3月にオランダの専門精神病ユニット26ヵ所で実施された単盲検実用的ランダム化臨床試験である。対象患者は、入院および外来診療から寛解となった初回エピソード統合失調症患者347例(男性:241例[69.5%]、平均年齢:27.9±8.7歳)。寛解後12ヵ月以内に抗精神病薬を減量/中止した場合と維持療法を12ヵ月間継続した場合のアウトカムを比較した。主要アウトカムは、WHODAS 2.0を用いて測定した患者による機能評価とした。副次的アウトカムは、研究者評価による全般的機能評価(GAF)、生活の質(QOL)、再発、陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)で測定した症状重症度、重篤な有害事象、副作用とした。 主な結果は以下のとおり。・対象患者347例は、早期中止/減量群(168例)と維持療法群(179例)にランダムに割り付けられた。・WHODAS 2.0では、時間と状態の交互作用は認められなかった。・1年目、中止/減量群は再発リスクの上昇(オッズ比:2.84、95%信頼区間[CI]:1.08~7.66、p=0.04)およびQOLの低下(β=-3.31、95%CI:-6.34~-0.29、p=0.03)との関連が認められた。・3年目(β=3.61、95%CI:0.28~6.95、p=0.03)および4年目(β=6.13、95%CI:2.03~10.22、p=0.003)には、時間との非線形効果が認められ、中止/減量群においてGAFが有意に良好であることが示された。4年目ではPANSSについても同様の傾向が認められた(p for trend=0.06)。・重篤な有害事象および副作用は両群で同程度であった。しかし、減量/中止群では自殺による死亡が3件確認されたのに対し、維持療法群では自殺による死亡が1件のみであった。 著者らは「抗精神病薬の減量/中止は、最初の1年目は再発リスクおよびQOL低下リスクとの関連が認められたが、3年目および4年目には研究者による機能評価が向上し、症状の重症度についても改善傾向が認められた。1年目以降、両群の抗精神病薬の投与量は同程度であったため、この結果は投与量の減少による直接的な影響ではなく、抗精神病薬を用いて精神病的脆弱性への対処を改善するための学習経験を反映している可能性がある。これらの知見は、抗精神病薬の減量/中止の潜在的な学習およびエンパワーメントの要素と短期的なリスクを慎重に比較検討する必要があることを示唆している」と結論付けている。

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高齢者への高用量インフルワクチン、入院予防効果は?/Lancet

 高用量不活化インフルエンザワクチン(HD-IIV)は、標準用量不活化インフルエンザワクチン(SD-IIV)と比較して、高齢者におけるインフルエンザまたは肺炎による入院に対して優れた予防効果を示すとともに、心肺疾患による入院、検査で確定したインフルエンザによる入院、全原因による入院の発生率も減少させることが明らかにされた。デンマーク・Copenhagen University Hospital-Herlev and GentofteのNiklas Dyrby Johansen氏らDANFLU-2 Study Group and GALFLU Trial Teamが、2試験の統合解析である「FLUNITY-HD」の結果で報告した。Lancet誌オンライン版2025年10月17日号掲載の報告。方法論的に統一された2つの試験の統合解析 FLUNITY-HDは、HD-IIVとSD-IIVを比較する方法論的に統一された2つの実践的なレジストリベースの実薬対照無作為化試験(DANFLU-2、GALFLU)の、事前に規定された個人レベルのデータの統合解析であり、一般化可能性の向上とともに、高齢者における重度の臨床アウトカムに対する2つのワクチンの相対的ワクチン有効率(relative vaccine effectiveness:rVE)の評価を目的とした。 DANFLU-2試験は65歳以上を対象とし、2022~23年、2023~24年、2024~25年のインフルエンザ流行期にデンマークで、GALFLU試験は65~79歳を対象とし、2023~24年と2024~25年の流行期にスペインのガリシアで行われた。 両試験では、参加者をHD-IIV(1株当たり60μgのヘマグルチニン[HA]抗原を含む)またはSD-IIV(同15μg)の接種を受ける群に無作為に割り付け、各流行期のワクチン接種後14日目~翌年5月31日に発生したエンドポイントについて追跡調査した。主要エンドポイントは、インフルエンザまたは肺炎による入院であった。主要エンドポイントが有意に優れ、全死因死亡、重篤な有害事象は同程度 46万6,320例(HD-IIV群23万3,311例、SD-IIV群23万3,009例)を解析の対象とした。全体の平均年齢は73.3(SD 5.4)歳、22万3,681例(48.0%)が女性、24万2,639例(52.0%)が男性で、22万8,125例(48.9%)が少なくとも1つの慢性疾患を有していた。 主要エンドポイントは、SD-IIV群で1,437例(0.62%)に発生したのに対し、HD-IIV群では1,312例(0.56%)と有意に低い値を示した(rVE:8.8%、95%信頼区間[CI]:1.7~15.5、片側p=0.0082)。 HD-IIV群では、心肺疾患による入院(HD-IIV群4,720例[2.02%]vs.SD-IIV群5,033例[2.16%]、rVE:6.3%、95%CI:2.5~10.0、p=0.0006)、検査で確定したインフルエンザによる入院(249例[0.11%]vs.365例[0.16%]、31.9%、19.7~42.2、p<0.0001)、全原因による入院(1万9,921例[8.54%]vs.2万348例[8.73%]、2.2%、0.3~4.1、p=0.012)の発生率が、いずれも有意に優れた。 全死因死亡の発生率は両群で同程度であった(HD-IIV群1,421例[0.61%]vs.SD-IIV群1,437例[0.62%]、rVE:1.2%、95%CI:-6.3~8.3、p=0.38)。また、国際疾病分類第10版(ICD-10)の分類コードによるインフルエンザ関連入院は、それぞれ164例(0.07%)および271例(0.12%)(rVE:39.6%、95%CI:26.4~50.5)、肺炎による入院は、1,161例(0.50%)および1,187例(0.51%)(2.3%、-6.0~10.0)で発生した。 重篤な有害事象の発生は両群で同程度だった(HD-IIV群1万6,032件vs.SD-IIV群1万5,857件)。公衆衛生上、大きな利益をもたらす可能性 全原因による入院1件の予防に要するHD-IIV接種の必要数は515例(95%CI:278~3,929)と推定され、SD-IIVからHD-IIVへの単純な切り替えにより、医療システムにおけるインフルエンザの負担を大幅に軽減できると考えられた。 著者は、「本研究は、従来のワクチン試験では通常評価が困難なきわめて重度のアウトカムについて、十分な検出力を持つ無作為化された評価を可能にした」「インフルエンザのワクチン接種は適応範囲が広いことを考慮すると、高齢者に特化して開発されたHD-IIVの導入は公衆衛生上、大きな利益をもたらす可能性がある」としている。

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既治療の非MSI-H/dMMR大腸がん、zanzalintinib+アテゾリズマブがOS改善(STELLAR-303)/Lancet

 再発・難治性の転移を有する大腸がん(高頻度マイクロサテライト不安定性[MSI-H]またはミスマッチ修復機構欠損[dMMR]を持たない)では、免疫療法ベースのレジメンであるzanzalintinib(TAMキナーゼ[TYRO3、AXL、MER]、MET、VEGF受容体などの複数のキナーゼの低分子阻害薬)+アテゾリズマブ(抗PD-L1抗体)によるchemotherapy-freeの併用治療は、標準治療のレゴラフェニブと比較して、肝転移の有無にかかわらず全生存期間(OS)に関して有益性をもたらし、安全性プロファイルは既報の当レジメンや類似の併用療法とほぼ同様だが、治療関連死が多いことが、米国・カリフォルニア大学ロサンゼルス校のJ. Randolph Hecht氏らSTELLAR-303 study investigatorsによる第III相試験「STELLAR-303」において示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2025年10月20日号で発表された。16ヵ国の非盲検無作為化試験 STELLAR-303試験は、16ヵ国121施設で実施した国際的な非盲検無作為化試験(Exelixisの助成を受けた)。2022年9月~2024年7月に参加者のスクリーニングを行った。 年齢18歳以上、転移を有する大腸腺がんと診断され、病勢が進行または標準治療が不応・不耐で、MSI-HまたはdMMRの腫瘍を持たない患者901例(年齢中央値60歳、男性528例[59%]、白人485例[54%]、アジア系338例[38%]、前治療レジメン数中央値2[四分位範囲[IQR]:2~3])を登録した。 被験者を、zanzalintinib(100mg、連日経口投与)+アテゾリズマブ(1,200mg、3週ごと、静脈内投与)を受ける群(451例)、またはレゴラフェニブ(160mg、28日を1サイクルとして1~21日に連日経口投与)を受ける群(450例)に無作為に割り付けた。 主要評価項目は、ITT集団におけるOSと、肝転移のない患者におけるOSの2つとした。客観的奏効率は4% 追跡期間中央値18.0ヵ月(IQR:14.6~21.5)の時点でのITT集団におけるOS中央値は、レゴラフェニブ群が9.4ヵ月(95%信頼区間[CI]:8.5~10.2)であったのに対し、zanzalintinib+アテゾリズマブ群は10.9ヵ月(9.9~12.1)と有意に優れた(層別ハザード比[HR]:0.80、95%CI:0.69~0.93、p=0.0045)。1年OS率は、zanzalintinib+アテゾリズマブ群46%、レゴラフェニブ群38%、2年OS率は、それぞれ20%および10%だった。 また、肝転移のない患者の中間解析では、OS中央値はzanzalintinib+アテゾリズマブ群が15.9ヵ月(95%CI:13.5~17.6)、レゴラフェニブ群は12.7ヵ月(10.9~15.5)であり、両群間に有意差を認めなかった(層別HR:0.79、95%CI:0.61~1.03、p=0.087)。 ITT集団における無増悪生存期間(PFS)中央値は、zanzalintinib+アテゾリズマブ群が3.7ヵ月、レゴラフェニブ群は2.0ヵ月(層別HR:0.68、95%CI:0.59~0.79)、肝転移のない患者ではそれぞれ5.3ヵ月および3.7ヵ月(0.66、0.52~0.83)であった。また、ITT集団における客観的奏効率は、zanzalintinib+アテゾリズマブ群が4%(16/451例)、レゴラフェニブ群は1%(5/450例)だった。Grade3/4の高血圧が15%に Grade3以上の治療関連有害事象は、zanzalintinib+アテゾリズマブ群で60%(268/446例)、レゴラフェニブ群で37%(161/434例)に発現した。最も頻度の高いGrade3/4の治療関連有害事象は、高血圧(zanzalintinib+アテゾリズマブ群15%、レゴラフェニブ群9%)、蛋白尿(6%、2%)、疲労感(6%、2%)、下痢(6%、2%)であった。 重篤な治療関連有害事象は、zanzalintinib+アテゾリズマブ群で26%、レゴラフェニブ群で10%にみられ、治療中止に至った有害事象はそれぞれ18%および15%に、治療関連死はそれぞれ1%(5例:zanzalintinibによる腸管穿孔2例、アテゾリズマブによる肺臓炎1例、腎不全1例、zanzalintinib+アテゾリズマブによる意識障害1例)および<1%(空腸穿孔1例)に発生した。 著者は、「この併用療法は、多くの前治療歴があり治療効果の向上が求められる患者において、新たな作用機序を有するchemotherapy-freeの治療選択肢となるだろう」「有害事象は既知のclass effectと一致し、新たな安全性シグナルは認めなかった」としている。

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原因不明の慢性咳嗽の“原因”が明らかに?

 英国・マンチェスター大学のAlisa Gnaensky氏らが、原因不明の慢性咳嗽(unexplained chronic cough:UCC)と原因が明らかな慢性咳嗽(explained chronic cough:ECC)を区別するための臨床リスク因子として、後鼻漏の有無を特定した。Allergy and Asthma Proceedings誌2025年9月1日号掲載の報告。本研究者らは過去の研究において、喘息や慢性閉塞性肺疾患よりもUCCである可能性が高い患者像*を報告していた。*鎮咳薬の服用量が多い、医療機関の受診回数/頻度が多い、肺機能が正常またはほぼ正常な高齢女性 本研究は、米国の7つの咳嗽センターで慢性咳嗽患者に配布された電子質問票を基に調査を行い、平均±標準誤差、連続変数の頻度(一元配置分析)、カテゴリ変数のクロス集計頻度(二元配置分析)を計算した。UCCとECCの単変量比較はt検定とノンパラメトリック一元配置分析を使用して行われた。 主な結果は以下のとおり。・登録全150例のうち、UCCは29例、ECCは121例であった。・UCCとECCの鑑別について、家族歴、年齢、性別、人種、季節性による有意差は認められなかった。・多重ロジスティック回帰分析の結果、後鼻漏の有無がUCCとECCの有意な鑑別因子であることが示された(オッズ比:4.8、95%信頼区間:1.6~15.3)。・咳嗽の重症度は、UCC患者、慢性気管支炎および/または肺気腫の患者、高血圧症、喫煙歴、高BMI、女性、教育水準、および環境刺激物質(香水[p=0.006]、家庭用洗剤[p=0.01]、芳香剤[p=0.03]、冷気[p=0.007]、タバコの煙[p=0.05])の反応性が高い患者ではより重症であった。 UCC患者はECC患者と比較して、特定の人口統計学的特徴、併存疾患を有し、環境刺激物質による重度の咳嗽を呈する頻度が高かった。これらの臨床的特徴は、UCCの診断を加速させるリスク因子を特定するのに役立つ可能性がある。

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アルコール依存症の再発率はどの程度?

 アルコール依存症は、早期死亡や障害の主要な要因である。インドでは、男性の約9%にアルコール依存症がみられるといわれている。アルコール依存症の短期アウトカムには、いくつかの臨床的要因が関与している可能性がある。インド・Jawaharlal Institute of Postgraduate Medical Education and ResearchのSushmitha T. Nachiyar氏らは、アルコール依存症患者の短期アウトカムについて調査を行った。Indian Journal of Psychological Medicine誌オンライン版2025年9月26日号の報告。 対象は、ICD-10 DCR基準に基づくアルコール依存症男性患者122例。アルコール依存症の重症度(SADQ)、断酒動機(SOCRATES)、全般認知能力(MoCA)、前頭葉認知能力(FAB)などの社会人口学的および臨床的パラメーターに基づき評価した。その後、過去30日間の飲酒について、タイムライン・フォローバック法を用いて1ヵ月および3ヵ月時点でフォローアップ調査を行った。 主な結果は以下のとおり。・患者の平均年齢は40.6±7.6歳。・アルコール摂取期間は18.56±7.22年、平均摂取量は1日当たり14.14±8.62単位であった。・SADQスコアは25.13±12.01であり、中等度の依存症と評価された。・MoCAスコアが低かった患者は67.2%(82例)、FABスコアが低かった患者は22.1%(27例)。・1ヵ月後の再発率は約30%、3ヵ月後の再発率は50%であった。・1ヵ月後の再発率と関連していた因子は、依存症発症時の年齢が若いことであった(p=0.012)。・3ヵ月時点で禁酒の継続と関連する因子は、既婚(p=0.040)、過去の禁酒歴(p=0.003)、MoCAスコア(26超)の高さ(p=0.042)であった。 著者らは「アルコール依存症患者の約30%は1ヵ月以内に再発し、50%は3ヵ月後までに再発することが確認された。依存症発症時の年齢が若いことは、1ヵ月後の再発を予測し、既婚であること、過去の禁酒歴、全般認知能力が良好であることは3ヵ月後の禁酒を予測することが示唆された」としている。

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ESMO2025 レポート 消化器がん(下部消化器編)

レポーター紹介2025年10月17~21日に、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)がドイツ・ベルリンで開催され、後の実臨床を変えうる注目演題が複数報告された。国立がん研究センター東病院の坂東 英明氏が消化器がん領域における重要演題をピックアップし、結果を解説する。上部消化器編は こちら4.【大腸がん】CheckMate 8HW試験のupdate(#LBA29)切除不能MSI-H/dMMR大腸がんに対してNIVO+IPIの有効性を検証したランダム化第III相試験であるCheckMate 8HW試験。各施設で行われたMSI/MMR判定より中央判定でMSI-H/dMMRと判定された症例における解析では、NIVO+IPIの化学療法もしくはNIVO単剤と比較したPFSの有効性の差がより明らかになっていた。今回は、事前に計画されていた、中央判定でMSI-H/dMMRと判定された症例における1次治療におけるNIVO+IPI vs.NIVOのPFS最終解析と、すべての治療におけるNIVO+IPI vs.NIVOのOS最終解析の結果が報告された。1次治療におけるNIVO+IPI vs.NIVOのPFSは事前に設定されたp<0.0383の閾値に到達しなかったものの、HRは0.69(95%CI:0.48~0.99、p=0.0413)と臨床的に意義のある差を認めた。OSにおいてもすべての治療ラインにおけるNIVO+IPI vs.NIVOのOSはHR:0.61(95%CI:0.45~0.83)と良好な結果であったが、予測されていたイベントの69%しか発生しておらず、immatureな結果であった。いずれにしても、これらの結果はNIVO+IPIがMSI-H/dMMR大腸がんにおける標準治療であることを支持するものである。5.【大腸がん】BREAKWATER試験のctDNA解析(#729MO)切除不能BRAF V600E変異大腸がんの1次治療としてmFOLFOX6+エンコラフェニブ+セツキシマブ(EC)とECと化学療法+ベバシズマブの3群を比較したBREAKWATER試験では、すでに奏効率(ORR)、PFS、OSにおいて有効性が検証されている。今回は事前に設定されていたBRAFの変異アレル頻度(variant allele frequency:VAF)に基づくctDNA検査と組織検査の一致、治療効果、治療に対する耐性との関係を解析した。ctDNA検査はGuardant Infinityが用いられた。組織のBRAF変異とctDNAのBRAF変異は高い一致が認められ、tumor burden(転移巣の腫瘍径の総和)とctDNAの検出には関連性が認められた。ctDNAのVAFにかかわらず、mFOLFOX6+ECは他治療と比較して良好なORRとOSを認めた。経時的な測定ではmFOLFOX6+EC症例で最も速やかなVAFの低下とその後の治療経過でも低下の維持が認められ、2コース目Day15におけるctDNA未検出が良好なOSと関連するとともに、そのような症例がmFOLFOX6+EC症例で最も多く認められた。mFOLFOX6+EC症例はEC症例より長期の治療が可能であったにもかかわらず、治療終了時のKRAS、NRAS、MAP2K1変異、MET遺伝子増幅など耐性獲得変異などの検出がより少なかった。これらの結果は、mFOLFOX6+ECの標準治療としての地位をより強化するものである。6.【大腸がん】DESTINY-CRC02試験の最終解析(#737MO)切除不能HER2陽性大腸がんに対して抗HER2抗体薬物複合体であるトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)の有効性を検討した多施設共同第II相試験であるDESTINY-CRC02試験は、HER2陽性(IHC 3+またはIHC 2+/ISH+)122例を対象に、T-DXd 5.4mg/kgおよび6.4mg/kg(各40例、追加42例)を3週ごとに投与し、主要評価項目は独立中央判定による確定奏効率(confirmed ORR:cORR)であった。最終解析では、追跡期間中央値が5.4mg/kg群14.2ヵ月、6.4mg/kg群12.7ヵ月に延長され、主要評価項目のcORRはそれぞれ37.8%(95%CI:27.3~49.2)および27.5%(14.6~43.9)と、5.4mg/kg群でより高い奏効率を示した。PFSは中央値5.8ヵ月vs.5.5ヵ月、OSは15.9ヵ月(12.6~18.8)vs.19.7ヵ月(9.9~25.8)であり、奏効期間(duration of response:DOR)は両群とも5.5ヵ月であった。安全性では、Grade3以上の有害事象が5.4mg/kg群で42.2%、6.4mg/kg群で48.7%に認められ、間質性肺疾患(ILD)はそれぞれ9.6%(主にGrade1~2)、17.9%と用量依存的な増加を示したが、新たな安全性シグナルは確認されなかった。これらの結果から、T-DXd 5.4mg/kgが有効性と安全性のバランスに優れた推奨用量と結論付けられた。この結果は標準治療後のHER2陽性大腸がんにおけるT-DXdの有用性を確立するものである。7.【大腸がん】STELLAR-303試験(#LBA30)現時点でMSI-H/dMMR以外の転移を有する大腸がんに対して免疫チェックポイント阻害薬がOSを有意に改善した第III相試験は存在しない。zanzalintinibはTAM kinase、MET、VEGFレセプターを阻害するマルチキナーゼ阻害薬であり、STELLAR-001試験でzanzalintinibとアテゾリズマブ(Atezo)の併用で良好な治療効果と許容される毒性を認めていた。その結果に基づき、ランダム化非盲検第III相試験であるSTELLAR-303試験が前治療のある転移性大腸がんに対して実施された。MSI-H/dMMR以外の標準治療終了後の転移性大腸がん901例をzanzalintinib+Atezo群(451例)とレゴラフェニブ群(450例)に1:1に割り付け、主要評価項目は、ITT症例におけるOSと肝転移を持たない症例におけるOSとdual primaryとなっていた。ITT症例におけるOS中央値でzanzalintinib+Atezo群10.9ヵ月vs.レゴラフェニブ群9.4ヵ月(HR:0.80、95%CI:0.69~0.93、p=0.0045)と統計学的に有意な差を認めた。肝転移のない症例においても中間解析でOS中央値15.9ヵ月vs.12.7ヵ月(HR:0.79、95%CI:0.61~1.03、p=0.087)と良好な傾向が認められた。サブグループ解析でもすべてのサブグループで試験治療が良好な傾向であり、肝転移ありの症例でも良好な結果であった。PFSにおいても、中央値でzanzalintinib+Atezo群3.7ヵ月vs.レゴラフェニブ群2.0ヵ月(HR:0.68、95%CI:0.59~0.79)と良好な結果であった。安全性においてはGrade3の有害事象がzanzalintinib+Atezo群56%vs.レゴラフェニブ群33%であったが、治療関連死は両群ともにまれであった。zanzalintinib+AtezoはMSI-H/dMMR以外の転移性大腸がんにおいて今後の治療オプションとなりうるが、治療効果の上乗せは大きくなく(中央値で1.5ヵ月)、日本は参加していない試験であり、今後各国での承認および本邦における導入の動向が注目される。8.【結腸がん】DYNAMIC-III試験(#LBA9)StageIII切除後結腸がんの標準治療は、リスクに応じて3~6ヵ月のオキサリプラチンベースの術後補助化学療法である。DYNAMIC-III試験はctDNAの結果を基にStageIIIの結腸がんに対してctDNA-positive症例には治療のescalation(ASCO 2025で報告済み)、ctDNA-negative症例には治療のde-escalationを実施する治療の有効性を検証するランダム化第II/III相試験である。今回、ctDNA-negative症例に治療のde-escalationを実施するコホートの結果が報告された。ctDNAの情報を基に治療を実施する群(事前に治療を規定して、ctDNAの結果を基にde-escalation)と主治医判断の下に治療を実施する群(ctDNAの結果はブラインド)に1:1に割り付けた。主要評価項目は3年RFSであり、非劣性マージンを7.5%とし、750例が必要と算出された。ctDNA-negative症例が75%と想定され、トータルで1,002例がランダム化された。ctDNA-negative cohortでは752例が対象となり、3~6ヵ月のオキサリプラチンベースの治療が行われた症例がde-escalation群で34.8%、標準治療群で88.6%(RR:0.41、p<0.001)と有意に少なく、治療関連の入院、Grade3~4の治療関連の有害事象も有意に少ない結果であった。3年RFSはde-escalation群で85.3%、標準治療群で88.1%であり、非劣性マージンである7.5%の95%CIの下限を満たさない結果であった。臨床的なLow Risk(T1-3N1)とHigh Risk(T4 and/or N2)の比較では、High Risk群でde-escalation群がより不良な結果であった。ctDNA陰性例と陽性例の比較では、陰性→陽性群でctDNA量が少ない群の順番でRFSが良好であった。ctDNAの情報を基にしたde-escalationの戦略はさらなる検討が必要と結論付けられた。

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機内における急病人の発生頻度は?~84の航空会社での大規模調査

 2025年には約50億人が民間航空機を利用すると予測されている。航空機内での急病(機内医療イベント)は、医療資源が限られ、専門的な治療へのアクセスが遅れるという制約の中で対応が必要となる。米国・デューク大学のAlexandre T. Rotta氏、MedAireのPaulo M. Alves氏らの研究グループは、84の航空会社が参加した大規模な国際データを分析し、機内医療イベントの発生頻度や、航空機の目的地変更につながる要因などを明らかにした。JAMA Network Open誌2025年9月29日号に掲載。 本研究では、2022年1月1日~2023年12月31日の期間に地上支援センターへ報告された、航空会社84社7万7,790例の機内医療イベントを対象に観察コホート研究が実施された。 主な結果は以下のとおり。・全7万7,790例の機内医療イベントにおいて、その発生頻度は乗客100万人当たり39例、フライト212便当たり1例の割合であった。・急病になった乗客は、女性が54.4%、年齢中央値43歳(IQR 27~61)であった。・機内医療イベントによる航空機の目的地変更は1.7%(1,333例)発生した。・全イベントのうち312例(0.4%)が死亡し、年齢中央値69歳(IQR 55~79)であった。急性心疾患による死亡が276例(88.5%)を占め、これらの死亡例において心肺蘇生法が実施されていた。・医療経験を持つ乗客ボランティアは、32.9%(2万5,570例)の医療イベントを支援した。また、目的地変更となった1,333例のうち1,056例(79.2%)、死亡に至った312例のうち246例(78.9%)でボランティアの関与があった。・目的地変更の主な原因は、神経系疾患(542例、40.7%)と心血管系疾患(359例、26.9%)であった。・目的地変更のオッズが高かったのは、脳卒中疑い(調整オッズ比[aOR]:20.35、95%信頼区間[CI]:12.98~31.91)、急性心疾患(aOR:8.16、95%CI:6.38~10.42)、意識変容(aOR:6.96、95%CI:5.98~8.11)であった。・全イベントにおける主な医療介入として、酸素療法(40.8%)、非麻薬性鎮痛薬(15.2%)、制吐薬(14.9%)が使用された。 本研究により、機内医療イベントは従来考えられていたよりも頻繁に発生していることが示された。世界的に航空旅客数が増加し続ける中、機内医療イベントは今後も避けられない課題であり、著者らはこれらの知見が、航空会社の方針、乗務員の訓練、緊急時対応プロトコルの改善に役立つ可能性があると結論付けている。

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がん治療のICI、コロナワクチン接種でOS改善か/ESMO2025

 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は、多くのがん患者の生存期間を延長するが、抗腫瘍免疫応答が抑制されている患者への効果は限定的である。現在、個別化mRNAがんワクチンが開発されており、ICIへの感受性を高めることが知られているが、製造のコストや時間の課題がある。そのようななか、非腫瘍関連抗原をコードするmRNAワクチンも抗腫瘍免疫を誘導するという発見が報告されている。そこで、Adam J. Grippin氏(米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンター)らの研究グループは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するmRNAワクチンもICIへの感受性を高めるという仮説を立て、後ろ向き研究を実施した。その結果、ICI投与前後100日以内にCOVID-19 mRNAワクチン接種を受けた非小細胞肺がん(NSCLC)患者および悪性黒色腫患者は、全生存期間(OS)や無増悪生存期間(PFS)が改善した。本研究結果は、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)で発表され、Nature誌オンライン版2025年10月22日号に掲載された1)。 本発表では、切除不能StageIIIまたはStageIVのNSCLC患者884例および転移を有する悪性黒色腫患者210例を対象とし、ICI初回投与の前後100日以内のCOVID-19 mRNAワクチン接種の有無で分類して解析した結果が報告された。また、COVID-19 mRNAワクチン接種が抗腫瘍免疫応答を増強させ得るメカニズムについて、前臨床モデル(マウス)を用いて検討した結果とその考察も紹介された。 主な結果は以下のとおり。【後ろ向きコホート研究】・NSCLC患者(接種群180例、未接種群704例)において、ICI初回投与の前後100日以内にCOVID-19 mRNAワクチンを接種した群は、StageやPD-L1発現状況にかかわらずOSが延長した。各集団のハザード比(HR)、95%信頼区間(CI)は以下のとおり(全体およびStage別の解析は調整HRを示す)。 全体:0.51、0.37~0.71 StageIII:0.37、0.16~0.89 StageIV:0.52、0.37~0.74 TPS 1%未満:0.53、0.36~0.78 TPS 1~49%:0.48、0.31~0.76 TPS 50%以上:0.55、0.34~0.87・悪性黒色腫患者(接種群43例、未接種群167例)においても、ICI初回投与の前後100日以内にCOVID-19 mRNAワクチンを接種した群は、OS(調整HR:0.37、95%CI:0.18~0.74)およびPFS(同:0.63、0.40~0.98)が延長した。・NSCLC患者において、生検前100日未満にCOVID-19 mRNAワクチンを接種した群は、未接種群、100日後以降接種群と比較してPD-L1 TPS平均値が高かった(31%vs.25%vs.22%)。同様に、生検前100日未満にCOVID-19 mRNAワクチンを接種した群はPD-L1 TPS 50%以上の割合も高かった(36%vs.28%vs.25%)。【前臨床モデル】・免疫療法抵抗性NSCLCモデルマウス(Lewis lung carcinoma)と免疫療法抵抗性悪性黒色腫モデルマウス(B16F0)において、COVID-19 mRNAワクチンとICIの併用は、ICI単独と比較して腫瘍体積を縮小した。・COVID-19 mRNAワクチンは、IFN-αの産生を増加させた。・悪性黒色腫モデルマウスにおいて、IFN-αを阻害するとCOVID-19 mRNAワクチンとICIの併用の効果は消失した。・COVID-19 mRNAワクチンは、複数の腫瘍関連抗原について、腫瘍反応性T細胞を誘導した。・COVID-19 mRNAワクチン接種によりCD8陽性T細胞が増加し、腫瘍におけるPD-L1発現も増加した。 COVID-19 mRNAワクチン接種が抗腫瘍免疫応答を増強させ得るメカニズムについて、Grippin氏は「免疫学的にcoldな腫瘍に対して、COVID-19 mRNAワクチンを接種するとIFN-αが急増し、腫瘍局所での自然免疫が活性化される。その活性化により腫瘍反応性T細胞が誘導され、これらが腫瘍に浸潤して腫瘍細胞を攻撃すると、腫瘍はT細胞応答を抑制するためにPD-L1の発現を増加させる。そこで、COVID-19 mRNAワクチンとの併用でICIを投与し、PD-1/PD-L1の相互作用を阻害することで、患者の生存期間の改善が得られるというメカニズムが示された」とまとめた。 なお、今回示された効果を検証するため、無作為化比較試験「Universal Immunization to Fortify Immunotherapy Efficacy and Response(UNIFIER)試験」が計画されている。

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HER2陽性尿路上皮がん、disitamab vedotin+toripalimabがPFS・OS改善(RC48-C016)/NEJM

 未治療のHER2陽性局所進行または転移のある尿路上皮がん患者において、HER2を標的とする抗体薬物複合体(ADC)であるdisitamab vedotinと抗PD-1抗体toripalimabの併用療法は、化学療法と比較して主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)を有意に延長することが認められた。中国・Peking University Cancer Hospital and InstituteのXinan Sheng氏らRC48-C016 Trial Investigatorsが、中国の72施設で実施した第III相無作為化非盲検試験「RC48-C016試験」の事前に規定されたPFS解析およびOS中間解析の結果を報告した。HER2を標的とするADCの単剤療法は、化学療法後のHER2陽性尿路上皮がんに対する有効な治療選択肢として確立されている。disitamab vedotinは、単剤療法として、またPD-1を標的とした免疫療法との併用において、有望な抗腫瘍活性と安全性が示されていた。NEJM誌オンライン版2025年10月19日号掲載の報告。PFSとOSを主要評価項目として、化学療法と比較 研究グループは、病理組織学的に確認された切除不能な局所進行または転移のある尿路上皮がんを有し、術前または術後補助療法後12ヵ月以内の病勢進行または再発は認められず、かつ全身化学療法未治療で、中央検査にてHER2陽性(IHCスコア1+、2+または3+)が確認された18歳以上の患者を、disitamab vedotin+toripalimab群と化学療法群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 disitamab vedotin+toripalimab群では、disitamab vedotin 2.0mg/kgとtoripalimab 3 mg/kgをいずれも2週間ごとに投与し、化学療法群では3週間を1サイクルとしてゲムシタビン1,000mg/m2を1日目と8日目に、シスプラチン70mg/m2またはカルボプラチンAUC=4.5を1日目に投与し、病勢進行、許容できない毒性発現または規定サイクル完了(化学療法は6サイクル、disitamab vedotin+toripalimabは上限なし)まで継続した。 主要評価項目は、盲検下独立中央判定によるPFS、およびOS、副次評価項目は奏効率、病勢コントロール率、奏効期間、安全性などであった。disitamab vedotin+toripalimab群のPFSとOSが有意に延長 適格患者484例が無作為化された(disitamab vedotin+toripalimab群243例、化学療法群241例)。 追跡期間中央値18.2ヵ月において、PFS中央値はdisitamab vedotin+toripalimab群13.1ヵ月(95%信頼区間[CI]:11.1~16.7)、化学療法群6.5ヵ月(5.7~7.4)であり、disitamab vedotin+toripalimab群で有意に延長した(ハザード比[HR]:0.36、95%CI:0.28~0.46、p<0.001[有意水準0.05])。OS中央値もそれぞれ31.5ヵ月(95%CI:21.7~推定不能)、16.9ヵ月(14.6~21.7)で、disitamab vedotin+toripalimab群で有意に延長した(HR:0.54、95%CI:0.41~0.73、p<0.001[有意水準0.009])。 奏効率は、disitamab vedotin+toripalimab群76.1%(95%CI:70.3~81.3)、化学療法群50.2%(43.7~56.7)であった。 安全性プロファイルはdisitamab vedotin+toripalimab群が化学療法群と比較し良好で、Grade3以上の治療関連有害事象はdisitamab vedotin+toripalimab群で55.1%、化学療法群で86.9%に認められた。 なお、著者は、中国のみで実施された臨床試験であること、両群とも完全奏効が得られた患者の割合は同時期の他の臨床試験で報告されている割合よりも低かったこと、中国ではアベルマブによる維持療法は未承認であるため利用できなかったことなどを研究の限界として挙げている。

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第34回 10代のSNS利用増、認知テストのスコア低下と関連か?米国大規模調査が示す懸念と対策の必要性

「若者のSNS利用は良いこと? 悪いこと?」この問題をめぐる議論は、世界中の教育者の間で熱を帯びていると言っていいでしょう。SNSが心に悪影響を与えるという研究があれば、「測れるほどの影響はない」という反論も出ます。そんな混沌とした状況が、子供たちや家庭を守るための明確なルール作りを遅らせてきた側面は否めません。そんな中、JAMA誌に掲載された最新の研究は、私たちに新たな視点を与えてくれます1,2)。今回の記事では、思春期初期のSNS利用時間の増加が、10代の認知能力にどのような影響を与えているのかについて明らかにしたこの研究について解説していきます。SNS利用時間の追跡、10代の利用パターン今回ご紹介する研究は、アメリカで行われている大規模な追跡調査「Adolescent Brain Cognitive Development (ABCD) Study」のデータをもとにしています。研究チームは、6,554人の子供たちを9歳から13歳まで追跡しました。そして、彼らが3年間にわたって、具体的に「ソーシャルメディア(SNS)」にどれくらいの時間を費やしているか、その利用パターンの違いを分析したのです。その結果、子供たちのSNS利用には、大きく分けて3つの異なるグループがあることがわかりました。まず、過半数の子供たち(57.6%)は、「ほとんど、あるいはまったく使わない」グループに属していました。彼らのSNS利用時間は非常に少なく、13歳時点でも1日の平均利用時間はおよそ18分にとどまりました。次に大きなグループ(36.6%)は、「低い頻度で(徐々に)増加する」パターンを示しました。9歳時点では利用時間が少なかったものの、年齢とともに増え、13歳時点では1日の平均利用時間がおよそ78分に達していました。少数派ながら見過ごせないグループ(5.8%)は、「高頻度で(急激に)増加する」経過をたどりました。彼らの利用時間も最初は少なかったのですが、その後急激に増加し、13歳時点では1日の平均利用時間が3時間以上と、他のグループに比べて突出して長くなっていました。ここで重要なのは、これらの時間はあくまで「SNS」の利用時間であり、ゲーム、動画視聴、学習目的でのコンピュータ利用など、他のスクリーンタイムは含まれていないという点です。SNS利用と脳のパフォーマンス次に研究チームは、これらの異なるSNS利用パターンが、13歳時点での認知能力とどのように関連しているかを調べました。認知能力の測定には、米国国立衛生研究所が開発した標準化されたテストが用いられました。そして、分析に当たっては、研究開始時点(9歳)での認知スコアを考慮に入れることで、もともとあった能力差が結果に影響するのを最小限に抑えました。その結果、一貫した傾向が見られました。「ほとんど、あるいはまったく使わない」グループと比較して、「低頻度で増加する」グループと「高頻度で急増する」グループの両方が、13歳時点でいくつかの重要な認知テストにおいて低いスコアを示したのです。具体的には、以下の項目で有意な差が見られました。読解認識文章を読む能力に関連絵画語彙言語知識を測る絵画シーケンス記憶出来事を覚える能力を測る総合スコア全体的な認知能力を示すさらに、これらの差には「量反応関係」のような傾向が見られました。つまり、「高頻度で急増する」グループは、「低頻度で増加する」グループよりも、基準となる「ほとんど使わない」グループとのスコア差が大きい傾向があったのです。ただし、この結果を解釈するには注意も必要です。統計的には意味のある差(偶然とは考えにくい差)でしたが、標準化されたスコアで見ると、実際の点差は比較的小さかったのです。また、3つのグループすべての平均スコアは、年齢相応の「平均的な範囲」内に収まっていました。では、この「小さな差」は重要ではないのでしょうか? 必ずしもそうとは言えません。集団レベルで見ればわずかな認知能力の平均的な違いでも、実社会では大きな影響をもたらす可能性があるからです。たとえば、平均的に課題を終えるのに時間がかかるようになったり、数学や読解のような積み重ねが必要な科目で遅れが出やすくなったり、学業への意欲そのものが低下したりするかもしれません。とくに、今回の研究で影響が見られたのが、語彙力や読解力といった、学習や経験を通じて獲得される能力(結晶性知能と呼ばれる)であったことは、この懸念を裏付けているようにみえます。なぜ関連が? 考えられる理由この研究は、SNS利用時間の増加と認知スコアの低さの間に「関連がある」ことを示しましたが、SNSが認知スコア低下の「原因である」と証明したわけではありません。しかし、研究者たちは、その関連性を説明できるいくつかの有力なメカニズムを挙げています。一つは「置き換え仮説」です。SNSの画面をスクロールしている時間は、本来であれば宿題、読書、趣味、あるいは学校での活動など、認知能力の発達にとってより有益な活動に使われたかもしれない時間です。SNSがこれらの活動時間を奪ってしまうことが、とくに言語知識系のスコア低下につながっているのではないかと考えられます。もう一つの重要な要因は「睡眠」です。思春期は脳が劇的に発達する時期であり、質の高い睡眠は学習、記憶の定着、感情のコントロールに不可欠です。しかし、SNSプラットフォームは、絶え間ない通知、アルゴリズムによって無限に続くフィード、刺激的なコンテンツなどで、若者の就寝時間を遅らせ、夜中の睡眠を妨害することが知られています。慢性的な睡眠不足が、注意力や学習能力に直接的な悪影響を与えている可能性があります。もちろん、逆の関係性も考えられます。つまり、もともと認知能力があまり高くない若者が、退屈しのぎや、アルゴリズムに惹きつけられやすいといった理由で、SNSにより多くの時間を費やすようになる可能性です。原因と結果の関係をはっきりさせるには、さらなる研究が必要でしょう。政策を動かすのに「十分な証拠」と言えるのか?このように、まだ解明されていない点や研究上の限界はあるものの、今回の研究結果は、既存の証拠と合わせて考えれば、社会的な対策の導入を正当化するのに「十分な証拠」なのかもしれません。エビデンス自体の強固さに疑問がついたとしても、政策決定は、証拠の確かさだけでなく、問題の緊急性、対策を講じること・講じないことの利益と不利益、実現可能性などを総合的に考慮して判断しなければならないからです。SNSには、社会的なつながりを育んだり、疎外された若者を支援したりといった潜在的な利点もあるでしょう。しかし、利益追求を第一とするプラットフォーム企業が、本質的に子供の利益を最優先する動機を持っているわけではないとも指摘されています。そして、今回の研究で示唆された発達上のコストを考えれば、行動を起こさないことのリスクは大きいとも論じられています。実際、かつて鉛への曝露に関する研究が、比較的小さな認知能力への影響を示唆しただけでも、大きな政策変更や公衆衛生上の対策につながった例もあります。それならば、今回観察された認知能力の差も、政策立案者が真剣に受け止めるべきなのかもしれません。年齢制限、より安全性を考慮したプラットフォーム設計基準、企業への説明責任の強化といった規制措置が、今こそ必要なのかもしれません。さらなる研究が待たれる一方、今回の研究は、思春期初期という脳の発達にとって極めて重要な時期におけるSNS利用が、無視できない認知的コストを伴う可能性を強く示唆しています。若者の健全な発達をデジタル時代にどう守っていくか。今こそアクションを検討すべき重要な問いだと言えるでしょう。 参考文献 1) Nagata JM, et al. Social Media Use Trajectories and Cognitive Performance in Adolescents. JAMA. 2025 Oct 13. [Epub ahead of print] 2) Madigan S, et al. Developmental Costs of Youth Social Media Require Policy Action. JAMA. 2025 Oct 13. [Epub ahead of print]

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英語の学会発表、練習にChatGPTをフル活用【タイパ時代のAI英語革命】第11回

英語の学会発表、練習にChatGPTをフル活用前回の記事では、国際学会での発表に向けた英語原稿の作成方法を解説しました。質の高い原稿が完成したら、次はいよいよ「発表練習」です。どんなに素晴らしい内容でも、聞き手に伝わらなければ意味がありません。伝わる英語を話すためには、「正しい発音」と「正しい抑揚」で話すことが重要です。そして、この練習にもChatGPTを活用することができます。今回は、作成した原稿を効果的に読み込み、自信を持って発表に臨むためのChatGPT活用法をご紹介します。Read Aloudで音声を読み上げるChatGPTは、単に文章を生成するだけでなく、生成した英文を音声で読み上げる「Read Aloud」機能を備えています(第4回参照、PCのブラウザ版ではこの機能がない場合もあり、その場合はスマホアプリかブラウザの拡張機能を使います)。この機能を活用すれば、ネイティブスピーカーの自然な発音とイントネーションを直接耳で確認しながら、発表練習を進めることができます。AIに原稿全体を読み上げてもらうことで、耳で聞いて不自然に感じる箇所や、リズムが悪い部分を発見しやすくなります。また、この機能を活用した「シャドーイング」は、英語のリスニング力とスピーキング力を同時に高める非常に効果的な練習法です。シャドーイングとは、聞こえてきた英文に合わせて、少し遅れて影(シャドー)のように自分も声に出して発音するトレーニング方法のことで、自然な発音を練習することができます。Read Aloudで読み上げるのは、ChatGPTが作成した文章だけなので、読み上げたい文章をChatGPTに出力させる必要があります。そのためのプロンプトがこちらです。プロンプト例Copy this, and read very slowly and clearly “[読み上げたい文章を入力]”.その後、図1のようにスピーカーのマークをタップすると、その文章をそのまま読み上げてくれます。実際のRead Aloudが話すスピードはネイティブスピーカーに近いため速いと感じるかもしれません。残念ながら、現時点ではこのスピードをうまく調整するのは難しいのですが、たとえば「Please add “...” at the end of each word.」という指示を追加するとしゃべる速度をやや遅くすることが可能です。図1スマートフォンの録音機能を活用するChatGPTの「Read Aloud」機能で生成された音声は、その場での確認に非常に便利ですが、オフラインや移動中に繰り返し聞きたい場合もあるでしょう。残念ながら、ChatGPTのインターフェースから直接音声をダウンロードする機能は提供されていませんが、スマートフォンの画面録画機能や録音アプリを活用することで、この音声を「保存」し、いつでもどこでも聞き返すことが可能になります。手順1.スマートフォンの画面録画機能(iOSのスクリーンレコーダーやAndroidの画面録画機能など)を起動します。2.ChatGPTの「Read Aloud」機能で音声を再生し、その音声をスマートフォンの画面録画や音声録音機能で記録します。3.録画・録音した音声ファイルは、スマートフォンのギャラリーやファイルアプリに保存されます。保存された音声を繰り返し再生し、シャドーイングやリスニング練習に活用しましょう。とくに、通勤時間やちょっとした空き時間など、場所を選ばずに練習できる点が大きなメリットです。ほかの表現を提案してもらう作成した原稿を声に出して読んでみると、書面では問題なかった文章が、口語としては不自然に感じられることがあります。そのような場合は、ChatGPTに修正案を提案してもらいましょう。口頭発表に適した、より自然でわかりやすい表現にすることが可能です。プロンプト例次の文章を、口頭で発表するのにより適した形に修正したものを3つ提案してください。具体的には、一文を短くし、聴衆が一度で理解しやすいように、より平易な単語や表現を使ってください。文章:「[ここに修正したい文章を入力]」アウトプット例:(修正前)The introduction of ChatGPT represents a significant milestone in the evolution of generative AI. This cutting-edge technology has spread to a variety of fields, including health care and education, influencing practices and methodologies.(修正後)ChatGPT is a big step forward in generative AI.This new tool is now used in many areas, like health care and education.It is changing the way people work and learn.このように具体的な指示を出すことで、ChatGPTはさまざまなニュアンスの代替案を提示してくれます。最も自然で、自分の口から発しやすい表現を選びましょう。専門用語の発音を確認する医学の学会発表では、専門用語が数多く登場します。これら英語の専門用語の発音に自信がない場合、一般的な辞書やChatGPTの音声読み上げ機能だけでは、実際の使われ方や微妙なニュアンスをつかむのが難しいことがあります。そこで活用したいのが「YouGlish」という無料ツールです。YouGlishは、YouTubeの膨大な動画の中から、特定の単語を含む動画を手軽に検索でき、発音が難しい専門用語の正しい発音を確認するのに非常に役立ちます。また、その単語が使われている実際の文脈や関連する背景情報も同時に把握できるのが特徴です。使い方はシンプルで、ウェブサイトにアクセスして検索窓に調べたい単語を入力します。たとえば「paracentesis(腹水穿刺)」と入力すると、米国英語や英国英語など、好みのアクセントを選んだうえで検索することが可能です(図2)。検索結果にはその単語が出てくる動画が字幕付きで表示され、単語が使われる直前のシーンから再生されます。再生速度も細かく調整できるため、発音練習には遅めのスピード設定がお勧めです。さらに、動画の再生中や周辺部分をチェックすることで、関連する医学用語(例:ascites[腹水]、catheter[カテーテル]など)の発音も併せて学べます。専門用語だけでなく、慣れていないフレーズや表現の実際の使われ方やトーンを確認する際にも、大いに役立つツールです。

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アルコール消費量と自殺リスクとの関係~メタ解析

 アルコール使用は、個人レベルにおける確立された自殺のリスク因子であるが、これが人口レベルで反映されているかは不明である。アルコールの有害な使用の削減について進捗状況を測る国際的な枠組みで用いられている、人口レベルの総アルコール消費量の指標である1人当たりアルコール消費量(APC)が自殺と関連しているとすれば、自殺予防の取り組みにおいて、アルコールは有用な目標となる可能性がある。カナダ・トロント大学のKatherine Guo氏らは、APCと自殺死亡率の間に関連があるかどうか、また関連がある場合には性別によって違いがあるかどうかを評価するため、メタ解析を実施した。JAMA Network Open誌2025年9月2日号の報告。 2025年2月24日までに公表されたAPCと自殺の関連を測定した独自の定量的研究をEmbase、Medline、PsycINFO、Web of Scienceより検索した。対象研究は、前後比較デザインを含む縦断的観察研究または横断的生態学的デザインによるオリジナルの定量的研究、関連性の尺度を示した研究とした。最終的に合計304件の研究が特定された。データ抽出は、1人のレビューアーで行い、2人目のレビューアーによりクロスチェックを行った。バイアスリスクは、Risk of Bias in Nonrandomized Studies of Exposure tool、エビデンスの質は、GRADEを用いて評価した。システマティックレビューおよびメタ解析は、PRISMAに従い実施した。APCと自殺死亡率の関連性のプール推定値を算出するため、ランダム効果メタ解析を実施した。性差の有無は、ランダム効果メタ回帰を用いて評価した。主要アウトカムは、1人当たりのアルコール消費量(リットル)として測定したAPCと自殺死亡率との関連とした。 主な結果は以下のとおり。・主要解析には合計13件の研究を含めた。・人口レベルでは、APCが1リットル増加するごとに自殺死亡率が3.59%(95%信頼区間:2.38~4.79)増加することが明らかとなった。・性差を示すエビデンスは、認められなかった。 著者らは「本システマティックレビューおよびメタ解析において、APCの増加は人口レベルでの自殺死亡率の上昇と関連しており、この関連は男女間で同様であった。したがって、APCは包括的な国家自殺予防戦略において検討すべき有用な目標となる可能性がある」と結論付けている。

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閉塞性睡眠時無呼吸症候群、就寝前スルチアムが有望/Lancet

 閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)は有病率が非常に高いが、承認された薬物治療の選択肢はいまだ確立されていない。ドイツ・ケルン大学のWinfried Randerath氏らFLOW study investigatorsは、炭酸脱水酵素阻害薬スルチアムについて有効性と安全性を評価した第II相の二重盲検無作為化プラセボ対照用量設定試験「FLOW試験」を実施。スルチアムの1日1回就寝前経口投与は、OSAの重症度を用量依存性に軽減するとともに、夜間低酸素や日中の過度の眠気などの改善をもたらし、有害事象の多くは軽度または中等度であることを示した。研究の成果は、Lancet誌2025年10月25日号で発表された。3種の用量とプラセボを比較 FLOW試験は欧州5ヵ国の28施設で実施され(Desitin Arzneimittelの助成を受けた)、2021年12月~2023年4月に参加者のスクリーニングを行った。 年齢18~75歳、未治療の中等症または重症のOSAと診断され、無呼吸低呼吸指数(AHI)3a(酸素飽和度の3%以上の低下を伴う低呼吸または覚醒[あるいはこれら双方])の発生が15~50回/時で、BMI値が18.5~35の患者298例(最大の解析対象集団[FAS]:平均年齢56.1歳[SD 10.5]、男性220例[74%]、平均BMI値29.1)を登録した。 被験者を、プラセボ群(75例)、スルチアム100mg群(74例)、同200mg群(74例)、同300mg群(75例)に無作為に割り付けた。1~3週目までに各群の目標値に達するように用量を漸増し、目標値到達後は12週間経口投与(1日1回、就寝前の1時間以内)した。 有効性の主要アウトカムは、AHI3aのベースラインから15週目までの相対的変化量とした。AHI4、ODI、ESS総スコアも良好 FASにおける15週の時点でのプラセボ群と比較したAHI3aの補正後平均変化量は、スルチアム100mg群が-16.4%(95%信頼区間:-31.3~-1.4、p=0.032)、同200mg群が-30.2%(-45.4~-15.1、p<0.0001)、同300mg群が-34.6%(-49.1~-20.0、p<0.0001)といずれの群も有意に優れ、有効性には用量依存性を認めた。 ベースラインから15週までのAHI4(酸素飽和度の4%以上の低下を伴う低呼吸)、酸素飽和度低下指数(ODI)、平均酸素飽和度の変化量は、いずれもプラセボ群に比しスルチアム200mg群(それぞれp=0.0006、p=0.0008、p<0.0001)および同300mg群(p<0.0001、p<0.0001、p<0.0001)で有意に改善した。 ベースラインで主観的な日中の過度の眠気(Epworth sleepiness scale[ESS]総スコア≧11点)を有していた患者(120例)では、15週時のESS総スコアがプラセボ群に比しスルチアム200mg群で有意に改善した(p=0.031)。また、総覚醒指数で評価した睡眠の分断化も、プラセボ群に比べ同200群(p=0.0002)および同300mg群(p<0.0001)で有意に良好だった。知覚異常が用量依存性に発現 試験期間中に発現した有害事象の頻度は、プラセボ群で61%(46/75例)、スルチアム100mg群で73%(54/74例)、同200mg群で84%(62/74例)、同300mg群で91%(68/75例)であり、用量依存的に増加した。いずれかの群において10%超の患者で発現した有害事象として、知覚異常(プラセボ群9%、スルチアム100mg群22%、同200mg群43%、同300mg群57%)、頭痛(8%、7%、16%、15%)、COVID-19(4%、4%、8%、13%)、上咽頭炎(12%、4%、9%、9%)を認めた。全体で知覚異常により15例(5%)が試験薬の投与中止に至ったが、118件の知覚異常イベントのうち98件(83%)は1回のみまたは散発的で、99件(84%)は軽度だった。 有害事象の多くは軽度または中等度であった。重篤な有害事象は11例(プラセボ群2例[3%]、スルチアム100mg群4例[5%]、同200mg群1例[1%]、同300mg群4例[5%])に発現し、このうち3例(100mg群で好中球減少1例および急性骨髄性白血病1例、200mg群で三叉神経障害1例)が治療関連の可能性があると判定された。 著者は、「睡眠中の気道虚脱には複数の病態生理学的機序が関与している可能性があり、OSAは臨床的な表現型の幅が広いため、病態に応じて個別化された治療戦略が求められる」「本研究は、標準治療である持続陽圧呼吸療法(CPAP)が施行できない患者では、スルチアムによる薬物療法が有望な治療選択肢となる可能性を示唆する」「ベネフィット・リスク比は200mg群で最も良好であった。今後、200mgで十分にコントロールできない場合に、300mgを考慮する研究を続ける必要があるだろう」としている。

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アルコール性肝線維化の有病率が過去20年間で2倍以上に

 多量飲酒者において、肝線維化の有病率が過去20年間で2倍以上に増加したというリサーチレターが、「Clinical Gastroenterology and Hepatology」に7月23日掲載された。 米南カリフォルニア大学ケック医科大学院のKalpana Gopalkrishnan氏らは、米国国民健康栄養調査(NHANES)の1999~2020年のデータを用いて、多量飲酒者の間で、進行したアルコール関連肝疾患のリスクが経時的に変化したかどうかを検討した。過去12カ月間のアルコール摂取量が、女性で1日当たり20g以上、男性で30g以上を多量飲酒と定義した。主要評価項目はFibrosis-4(FIB-4)スコアが高いこととし(65歳以下は2.67超、66歳以上は3.25超)、これを肝線維化の代替指標として使用した。 対象者4万4,628人のうち2,474人が多量飲酒者に該当した。解析の結果、多量飲酒者のうち、FIB-4が高い人の割合は経時的に増加し、1999~2004年には1.8%であったが、2013~2020年には4.3%となっていた。一方、多量飲酒をしない人においても、同期間に0.8%から1.4%に増加していた。多量飲酒者の平均年齢は上昇し、女性と貧困層の割合が高かった。平均アルコール摂取量は、いずれの期間でも同程度であった。また、多量飲酒者のメタボリック症候群の有病率は、1999~2004年の26.4%から2013~2020年の37.6%と増加し、多量飲酒をしない人でも32.0%から40.2%に増加していた。 共著者である同大学のBrian P. Lee氏は、「1990年代以降の多量飲酒者の人口統計学的特性および肝疾患との関連について総合的に調査したのは本研究が初めてであるが、今回の知見から、どのような集団がアルコール摂取量を抑えるためにより多くの介入を必要としているかについて、重要な情報が得られた。また、近年における肝疾患の増加傾向を説明できる可能性もある。さらに本研究の結果は、多量飲酒をする米国民の構成が20年前と比べて変化していることを示している」と述べている。

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アルツハイマー病のアジテーションに対するブレクスピプラゾール〜RCTメタ解析

 アルツハイマー病に伴うアジテーションは、患者および介護者にとって深刻な影響を及ぼす。セロトニンとドパミンを調整するブレクスピプラゾールは、潜在的な治療薬として期待されるが、最近の試験や投与量の違いにより、最適な有効性および安全性についての見解は、一致していない。ブラジル・Federal University of ParaibaのJoao Vitor Andrade Fernandes氏らは、アルツハイマー病に伴うアジテーションの治療におけるブレクスピプラゾールの有効性および安全性を用量特異的なアウトカムに焦点を当て評価するため、ランダム化比較試験(RCT)のシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Indian Journal of Psychiatry誌2025年9月号の報告。 アルツハイマー病に伴うアジテーションにおいてブレクスピプラゾールとプラセボを比較したRCTを、PubMed、Embase、Cochrane Libraryよりシステマティックに検索した。主要有効性アウトカムには、Cohen-Mansfield Agitation Inventory(CMAI)、臨床全般印象度-重症度(CGI-S)スコアの変化を用いた。安全性アウトカムには、治療関連有害事象(TEAE)、重篤な有害事象(SAE)、死亡率を含めた。メタ解析は、ランダム効果モデルを用いて実施し、平均差(MD)、オッズ比(OR)、95%信頼区間(CI)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・4つのRCT、1,710例を分析対象に含めた。・ブレクスピプラゾール2mg群は、プラセボ群と比較し、CMAIスコア(MD:-5.618、95%CI:-7.884〜-3.351、p<0.001)およびCGI-Sスコア(MD:-0.513、95%CI:-0.890〜-0.135、p=0.008)の有意な低下が認められた。・低用量(0.5〜1mg)群では、有効性が限定的であった。・TEAEは、ブレクスピプラゾール2mg群でより多く認められたが(OR:1.554、95%CI:1.045〜2.312、p=0.030)、SAE(OR:1.389、p=0.384)および死亡率(OR:2.189、p=0.301)はプラセボ群と有意な差が認められなかった。 著者らは「ブレクスピプラゾール2mgは、許容できる安全性プロファイルを有しており、アルツハイマー病に伴うアジテーションの軽減に有効である」と結論付けている。

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1950~2023年の年齢・男女別の死亡率の推移~世界疾病負担研究/Lancet

 米国・ワシントン大学のAustin E. Schumacher氏らGBD 2023 Demographics Collaboratorsは人口統計学的分析(世界疾病負担研究[Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study:GBD]2023)において、(1)サハラ以南のアフリカの大部分の地域における死亡率が前回の分析とは異なっており、青年期と若年成人女性ではより高く、高齢期では低いことを示し、(2)2020~23年のCOVID-19の世界的流行期と回復期には、死亡率の傾向が多様化し、その変動の時期と程度が国によって著しく異なると明らかにした。Lancet誌2025年10月18日号掲載の報告。分析に新たなモデル「OneMod」を導入 GBDでは、過去数年単位の全死因死亡や平均余命などの健康指標を、世界各国で比較可能な状態で提示し、定期的に更新している。現在のGBD 2023はGBD 2021を直接引き継ぐ調査であり、1950~2023年の各年の、204の国と地域、660の地方自治体の人口統計学的分析結果を報告している(ビル&メリンダ・ゲイツ財団の助成を受けた)。 また、GBD 2023では、GBD 2021とは異なる分析結果も導出されているが、これはOneModと呼ばれるより簡潔で透明性が高い新たなモデルを開発・適用するとともに、より時宜を得た情報提供を可能とする工夫がなされたためと考えられる。東アジアで5歳未満児死亡率が大きく減少 2023年に、世界で6,010万人(95%不確実性区間[UI]:5,900万~6,110万)が死亡し、そのうち467万人(95%UI:459万~475万)が5歳未満の小児であった。また、1950年以降の著しい人口増加と高齢化によって、1950~2023年に世界の年間死亡者数は35.2%(95%UI:32.2~38.4)増加し、年齢標準化全死因死亡率は66.6%(65.8~67.3)減少した。 2011~23年の年齢別死亡率の推移は、年齢および地域で異なっていた。(1)5歳未満児死亡率の減少が最も大きかったは、東アジアであった(67.7%の減少)。(2)5~14歳、25~29歳、30~39歳の死亡率増加が最も大きかったのは、高所得地域である北米であった(それぞれ11.5%、31.7%、49.9%の増加)。また、(3)15~19歳および20~24歳の死亡率増加が最も大きかったのは、東ヨーロッパだった(それぞれ53.9%、40.1%の増加)。 今回の分析では、サハラ以南アフリカ諸国の死亡率が前回の分析結果とは異なることが示された。(1)5~14歳の死亡率は前回の推定値を上回り、1950~2021年の国と地域の平均で、GBD 2021に比べGBD 2023で87.3%高く、同様に15~29歳の女性では61.2%高かった。一方、(2)50歳以上では、前回の推定値より死亡率が13.2%低かった。これらのデータは、分析におけるモデリング手法の進歩を反映していると考えられる。COVID-19で平均寿命が短縮、その後回復 調査期間中の世界の平均寿命は、次の3つの明確な傾向を示した。(1)1950~2019年にかけて、平均寿命の著しい改善を認めた。1950年の女性51.2歳(95%UI:50.6~51.7)、男性47.9歳(47.4~48.4)から、2019年には女性76.3歳(76.2~76.4)、男性71.4歳(71.3~71.5)へとそれぞれ延長した。(2)この期間の後、COVID-19の世界的流行により平均寿命は短縮し、2021年には女性74.7歳(95%UI:74.6~74.8)、男性69.3歳(69.2~69.4)となった。(3)2022年と2023年にはCOVID-19の世界的流行後の回復期が訪れ、2023年には平均寿命がほぼ世界的流行前(2019年)の水準(女性76.3歳[95%UI:76.0~76.6]、男性71.5歳[71.2~71.8])に復した。健康アウトカムの世界的な多様性を確認 204の国と地域のうち194(95.1%)が、2023年までに年齢標準化死亡率に関してCOVID-19の世界的流行後の少なくとも部分的な回復を経験し、126(61.8%)は世界的流行前の水準まで回復するか、それを下回っていた。 世界的流行の期間中およびその後の死亡率の推移には、国と地域で異なる複数のパターンがみられた。また、長期的な死亡率の傾向も年齢や地域によって大きく異なり、健康アウトカムの世界的な多様性が示された。 著者は、「これらの知見は、世界各国の健康施策の策定、実施、評価に資するものであり、医療の体制、経済、社会が世界の最も重要なニーズへの対応に備えるための有益な基盤となる」としている。

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