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可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬ベルイシグアトは、2021年、VICTORIA試験の結果に基づき、最近の心不全悪化を経験した左室駆出率(LVEF)の低下を伴う心不全(HFrEF)患者の治療薬として欧州医薬品庁(EMA)および米国食品医薬品局(FDA)の承認を得た。フランス・Universite de LorraineのFaiez Zannad氏らVICTORIA and VICTOR Study Groupsは、本薬のHFrEF患者全般における有効性と安全性の評価を目的に、VICTORIA試験と、最近の心不全の悪化を経験していないHFrEF患者を対象としたVICTOR試験の患者レベルのデータを用いた統合解析を行い、ベルイシグアトは、現行のガイドラインに基づく治療を受けている患者を含む幅広い臨床的重症度のHFrEF患者において、心不全による入院および心血管死のリスクを低減したことを明らかにした。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2025年8月30日号に掲載された。最近の心不全悪化ありとなしを合わせて解析 VICTORIA試験(試験期間:2016年9月~2019年9月、42ヵ国、616施設、5,050例)とVICTOR試験(同:2021年11月~2025年2月、36ヵ国、482施設、6,105例)は、いずれも第III相二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験(Merck Sharp & DohmeとBayerの助成を受けた)。 VICTORIA試験の対象は年齢18歳以上、最近の心不全の悪化(過去6ヵ月以内の心不全による入院、または過去3ヵ月以内の外来での利尿薬静脈内投与と定義)を経験したHFrEFで、NT-proBNP濃度の上昇がみられる患者であった。VICTOR試験の適格基準もほぼ同様であったが、最近の心不全の悪化を経験していないHFrEF患者を対象とした。 ベルイシグアトは、2.5mg(1日1回、経口投与)から開始し、28日目の目標用量を10mgとして漸増した。両試験の参加者はともに、必要に応じてガイドラインに基づく心不全の基礎治療を受けた。9割弱がNT-proBNP≦6,000pg/mL、平均LVEFは29.8% 全体(1万1,155例[ベルイシグアト群5,579例、プラセボ群5,576例])の年齢中央値は68.0歳(四分位範囲[IQR]:60.0~75.0)、2,648例(23.7%)が女性であった。ベースラインのNT-proBNP濃度中央値は1,864pg/mL(IQR:1,036~3,537)で、測定が可能であった1万790例中9,566例(88.7%)が6,000pg/mL以下だった。 また、1万1,155例中7,797例(69.9%)がNYHA心機能分類II、3,352例(30.1%)が同IIIまたはIVであり、平均LVEFは29.8(SD 7.7)%、平均推算糸球体濾過量(eGFR)は66.6(SD 25.9)mL/分/1.73m2であった。複合エンドポイントと個別の構成要素が有意に優れる 主要複合エンドポイント(心血管死または心不全による入院)の発生率は、プラセボ群が27.9%(1,556/5,576例)であったのに対し、ベルイシグアト群は25.9%(1,446/5,579例)と有意に低かった(ハザード比[HR]:0.91[95%信頼区間[CI]:0.85~0.98]、p=0.0088)。 複合エンドポイントの個別の構成要素である心血管死(ベルイシグアト群12.7%vs.プラセボ群14.1%、HR:0.89[95%CI:0.80~0.98]、p=0.020)、および心不全による初回入院(18.6%vs.19.9%、0.92[0.84~1.00]、p=0.043)は、いずれもベルイシグアト群で有意に優れた。 また、副次エンドポイントである心不全による全入院(初回、再入院)(HR:0.91[95%CI:0.85~0.97]、p=0.0050)、全死因死亡(15.9%vs.17.5%、0.90[0.82~0.99]、p=0.025)は、いずれもベルイシグアト群で有意に良好だった。 ベースラインのNT-proBNP濃度が6,000pg/mLを超える患者と比較して、6,000pg/mL以下の患者はベルイシグアトの治療効果が高く、プラセボ群に比べ心血管死および心不全による入院のリスクが顕著に低かった。新たな安全性シグナルの発現はない 重篤な有害事象は、ベルイシグアト群で27.7%(1,543/5,568例)、プラセボ群で29.2%(1,627/5,564例)に発現した。有害事象による試験薬の投与中止は、それぞれ7.8%および6.9%に発生した。貧血がベルイシグアト群の8.5%(471例)、プラセボ群の6.7%(375例)に、症候性低血圧がそれぞれ11.8%(657例)および9.8%(548例)に発生した。また、統合解析では、個別の試験で報告されたもの以外の新たな安全性シグナルは認めなかった。 著者は、「ベルイシグアトは、とくにHFrEF患者の多数を占めるNT-proBNP濃度が6,000pg/mL以下の患者で、有益性がより顕著であった」とし、「VICTOR試験では、ベルイシグアトは心血管死または心不全による入院の主要複合エンドポイントのリスクを低下させなかったが、安定した状態の歩行可能なHFrEF患者では、これらのリスクの減少と関連していた」「この統合解析の知見は、ベルイシグアトが、あらゆる病態のHFrEFにおいて特定の患者集団に臨床的な有益性をもたらす可能性を示唆する」としている。