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1.

RSVのワクチン接種を受けていた妊婦は約11%/国立成育医療研究センター

 呼吸器合胞体ウイルス(RSV)感染は、乳児の下気道感染症の主要な原因であり、多大な罹患、入院、医療費の増大を引き起こす。RSV母子免疫ワクチンは近年いくつかの国では公費で提供されているが、わが国では任意接種で高額な自己負担費用がかかるため、実際の接種率や社会経済的背景による差は依然として不明確である。そこで、国立成育医療研究センター社会医学研究部 臨床疫学・ヘルスサービス研究室の大久保 祐輔氏らの研究グループは、妊婦のRSVワクチンの接種率とその決定要因について全国調査を行った。その結果、ワクチン接種を受けていた妊婦は約11%に過ぎないことが判明した。この結果は、Journal of Infection and Chemotherapy誌2026年1月号に掲載された。妊婦のRSVワクチン接種、約9割が費用が高いと回答 研究グループは、2024年7月~2025年8月に出産した女性を対象に全国調査を実施した。質問票では、妊婦のRSVワクチンの接種状況、費用の負担感、ワクチン接種への躊躇に関する5Cモデルを含む関連意識、および人口統計学的特性を評価した。接種率を推定し、多変量修正ポアソン回帰分析を用いて接種に関連する要因を分析した。 主な結果は以下のとおり。・回答者1,279人のうち11.6%が妊婦用RSVワクチンの接種を受けていた。・世帯年収や教育歴が高いほどワクチン接種率が高い傾向が認められた。・関東圏外の地域および経産婦では接種率は低く、不妊治療歴のある妊婦、妊娠中のインフルエンザまたはジフテリア・百日咳・破傷風ワクチン接種歴のある妊婦では高かった。・5C領域では、「自信」と「集団的責任感」が高い接種率と関連し、「計算」は低い接種率と関連していた。・接種者の87.2%が費用を「高い」と評価し、未接種者が接種しなかった理由は「予防効果を知らなかった」(28.9%)と「ワクチンの存在を知らなかった」(27.3%)であり、77.5%が「無料であれば接種をする」と回答した。 研究グループは、「わが国の妊婦向けRSVワクチン接種率は低く、接種率は社会経済的・地域的格差が認められた。主な障壁は認知度の低さと高額な自己負担費用であった。自己負担費用の軽減と医療提供者による推奨の標準化により、接種率向上と不平等緩和が期待される」と結論付けている。

2.

旅行者下痢症、抗菌薬が効きにくい菌が増加

 新年の抱負の一つとして海外旅行を計画している人は、注意が必要だ。旅行者下痢症の治療に一般的に使われてきた抗菌薬が以前ほど効かなくなっていることが、新たな研究で示された。ただし、薬剤耐性の状況は地域によって異なり、原因菌の種類にも左右されるという。CIWEC Hospital and Travel Medicine Center(ネパール)の感染症専門医であるBhawana Amatya氏らによるこの研究の詳細は、「JAMA Network Open」に12月22日掲載された。 この研究では、旅行者下痢症の主な原因となる4種類の細菌(カンピロバクター、非チフス性サルモネラ、赤痢菌、下痢原性大腸菌)に対する抗菌薬の有効性が検討された。2015年4月14日から2022年12月19日までの間に、世界58カ所の熱帯医療センターで治療された859人の旅行者下痢症患者(年齢中央値30歳、男性51%)が解析対象とされた。有効性は抗菌薬に対する感受性を指標とし、中等度感受性と耐性の両方をまとめて「非感受性」と定義した。 その結果、カンピロバクターでは、フルオロキノロン系抗菌薬に対して75%、マクロライド系抗菌薬に対して12%が非感受性を示した。同様に、非チフス性サルモネラではそれぞれ32%および16%、赤痢菌では22%および35%が非感受性を示した。下痢原性大腸菌では、フルオロキノロン系抗菌薬に対して18%が非感受性を示した。フルオロキノロン系抗菌薬の例は、シプロフロキサシン、デラフロキサシン、レボフロキサシンなど、マクロライド系抗菌薬の例は、アジスロマイシンやエリスロマイシンなどである。 また、感染した地域により抗菌薬感受性パターンが異なることも明らかになった。例えば、南・中央アジアで感染した患者から分離された赤痢菌の79%はフルオロキノロン系抗菌薬に非感受性を示したのに対し、南米で感染した患者から分離された赤痢菌の78%はマクロライド系抗菌薬に非感受性を示した。 この研究をレビューした米ノースウェル・ヘルスのDavid Purow氏は、薬剤耐性増加の主な原因は抗菌薬の過剰使用である可能性が高いとの考えを示す。同氏は、「例えば、人が同じものに繰り返しさらされると次第に反応しなくなるのと同じように、細菌も同じ抗菌薬に繰り返し曝露されることで、時間とともに耐性を獲得する」と述べている。 現在、多くの旅行者が抗菌薬を携帯し、下痢の兆候が出るとすぐにこれを服用するが、研究グループとPurow氏はともに、「下痢症状が出た場合には、医師の診察を受けるべきだ」と話す。Purow氏は、「実際には、自分が感染した細菌が所持している抗菌薬に感受性を持つかどうかは分からない」と指摘している。また、市販の下痢止め薬を使うことで、抗菌薬を使わずに済む場合もあるという。 Purow氏は、「抗菌薬の使用を控えることは、薬剤耐性のさらなる拡大を防ぐことにもつながる。何を治療しているのか分からないまま抗菌薬を使用することが、世界全体に影響を及ぼす可能性があることを理解することが重要だ。また、症状がより重く、深刻になるまで抗菌薬の使用を待つという選択も有効かもしれない」と話している。

3.

診療科別2025年下半期注目論文5選(呼吸器内科編)

Effectiveness of high-dose influenza vaccine against hospitalisations in older adults (FLUNITY-HD): an individual-level pooled analysisJohansen ND, et al. Lancet. 2025 Nov 22;406:2425-2434.<FLUNITY-HD試験>:高齢者のインフルエンザ・肺炎入院予防、高用量ワクチンが標準用量に勝る事前に規定された統合解析において、高用量不活化インフルエンザワクチン(HD-IIV)は標準用量インフルエンザワクチン(SD-IIV)と比較して、インフルエンザまたは肺炎による入院に対し優れた予防効果を示し、また、副次評価項目である心肺疾患による入院、検査確定インフルエンザ入院、全原因入院の発生率も減少させました。HD-IIVは、本邦でも2026年10月より75歳以上を対象に定期接種化が決まっています。Inhaler-Related Greenhouse Gas Emissions in the US: A Serial Cross-Sectional AnalysisFeldman WB, et al. JAMA. 2025;334:1638-1649.<吸入器と環境問題>:米国における吸入器関連の温室効果ガス排出量本研究は、米国における過去10年間の吸入器関連の温室効果ガス排出量を分析したもので、とくに噴射剤(HFC)を含む加圧式定量噴霧吸入器(pMDI)が排出量の98%を占めることを明らかにしました。その社会的コストは57億ドル(1ドル150円換算で約8,550億円)と試算されています。これはもはや医療者個人だけの問題ではなく、政策レベルでの対応が求められる公衆衛生上の課題です。患者さんの吸入デバイス選択においては、吸気力や手技などを最優先すべきですが、環境負荷の少ないドライパウダー吸入器(DPI)やソフトミスト吸入器(SMI)への切り替えが可能かどうかを常に念頭に置く必要があります。Systemic Corticosteroids, Mortality, and Infections in Pneumonia and Acute Respiratory Distress Syndrome : A Systematic Review and Meta-analysisSoumare A, et al. Ann Intern Med. 2025 Dec 2. [Epub ahead of print]<重症肺炎・ARDSへのステロイド>:死亡率低下と感染リスクへの影響市中肺炎におけるステロイド投与に関する長年の論争に1つの決着を与える重要なメタ解析です。非COVIDの重症肺炎やARDSにおいて「低用量・短期間(プレドニン換算3mg/kg/日以下、15日以内)」かつ「早期導入」であれば、死亡率を有意に低下させ、かつ懸念される院内感染のリスクを増やさないという結果でした。集中治療領域において、適切なプロトコル下でのステロイド投与を支持する強固なエビデンスと言えます。Hypertonic Saline or Carbocisteine in BronchiectasisBradley JM, et al. N Engl J Med. 2025;393:1565-1577.<CLEAR試験>:気管支拡張症の増悪予防、高張食塩水とカルボシステインに効果なし気管支拡張症の増悪予防に対し、高張食塩水やカルボシステイン(ムコダインなど)は海外を中心に広く使用されていますが、そのエビデンスは限定的でした。本研究は、英国の大規模な2×2要因RCTで、結果は標準治療への上乗せ効果として、高張食塩水もカルボシステインも52週間の増悪回数を有意に減らさないというものでした(p=0.12、p=0.81)。健康関連QOL(QoL-B、SGRQ、EQ-5D-5L)も改善をしませんでした。本邦ではカルボシステインの使用頻度が高い状況があります。日常診療で気管支拡張症に対して、ルーチンに処方する意義を再考しても良いのかもしれません。Overall Survival with Amivantamab-Lazertinib in EGFR-Mutated Advanced NSCLCYang JC, et al. N Engl J Med. 2025;393:1681-1693.<MARIPOSA試験>:EGFR変異陽性NSCLCの1次治療におけるアミバンタマブ+ラゼルチニブの全生存期間MARIPOSA試験の最終OS解析結果です。現在の標準治療であるオシメルチニブ単剤に対し、アミバンタマブ・ラゼルチニブ併用がHR:0.75(p=0.005)と有意なOS延長を示したことは、EGFR変異陽性肺がん治療における大きなマイルストーンです。3年生存率60%という数字は驚異的ですが、一方でGrade3以上の有害事象が80%(オシメルチニブ群は52%)と高率である点には十分な注意が必要です。とくに皮膚障害や静脈血栓塞栓症(VTE)の管理が実臨床での導入の鍵となります。高い有効性と忍容性のバランスを患者ごとにどう判断するかが、われわれ臨床医に問われています。

4.

第44回 進行したアルツハイマー病が「元に戻る」? 驚きの最新研究で見えた治療の新たな光

「進行したアルツハイマー病は『不可逆』である」。 長年、一度失われた認知機能は元には戻らないというのが定説でした。しかし、2025年12月にCell Reports Medicine誌に発表された研究は、その常識を覆す可能性を秘めています1)。 今回は、進行したアルツハイマー病の状態から認知機能を「回復」させたという最新の研究成果と、その鍵を握る「NAD+」という物質について解説していきます。「手遅れ」の状態から記憶力が復活? アルツハイマー病の治療薬といえば、最近話題のレカネマブやドナネマブのように、脳に溜まった「アミロイドβ」というゴミを取り除くことで、病気の進行を「遅らせる」ものが主流です。しかし、今回の研究チームが報告したのは、進行を遅らせるだけでなく、進行した症状を「逆転」させたという衝撃的なデータでした。 研究チームが使用したのは、遺伝子操作によって重度のアルツハイマー病を発症するようにしたマウスです。このマウスに対し、人間で言えばすでに認知症がかなり進行し、脳内の炎症や神経細胞の損傷が進んでいる「進行期」にあたる段階から、「P7C3-A20」という化合物を投与し始めました。 通常であれば、この段階のマウスは記憶力や学習能力が著しく低下しています。しかし、この化合物を投与されたマウスたちは、驚くべき回復を見せました。 たとえば、新しい物体を見分けるテストや、プールの中で逃げ場所を探すテストにおいて、健康なマウスと変わらないレベルまで成績が回復したのです。 さらに、脳の内部を詳しく調べると、以下のような変化が起きていました。 血液脳関門の修復: 脳を有害物質から守るバリア機能(血液脳関門)が壊れていたのが、修復されていました。 炎症と酸化ストレスの減少: 脳内の慢性的な炎症や、細胞を錆びつかせる酸化ストレスが劇的に抑えられていました。 神経細胞の保護: 新しい神経細胞が生まれる機能が回復し、既存の神経細胞の死滅も防がれていました。 これは、単に「進行が止まった」だけでは説明がつかない、脳機能の「再生」に近い現象が起きたことを示唆しています。鍵を握る「NAD+」:脳のエネルギー通貨 では、この「P7C3-A20」という化合物は、一体何をしたのでしょうか? その答えは、「NAD+」という物質の調整にあります。 NAD+は、私たちのすべての細胞の中に存在し、エネルギーを生み出したり、傷ついたDNAを修復したりするために不可欠な「燃料」のようなものです。研究チームは、アルツハイマー病のマウスや、実際の人間の患者さんの脳内でも、このNAD+のバランス(恒常性)が崩れ、枯渇していることを突き止めました。 つまり、脳がダメージを受けたとき、それを修復するための「エネルギー(NAD+)」が足りず、防御システムが崩壊しているのがアルツハイマー病の進行に深く関わっているようなのです。 今回使用された「P7C3-A20」は、このNAD+を作る酵素を活性化させることで、脳内のNAD+レベルを正常に戻す働きをしました。重要なのは、NAD+を過剰に増やすのではなく、「正常なレベルに戻した」という点です。「アミロイドβがあっても発症しない人」の謎 さらにこの研究が興味深いのは、マウスだけでなく、人間のデータともリンクしている点です。 実は、亡くなった高齢者の脳の解剖を行うと、脳内ではアミロイドβの蓄積など、アルツハイマー病の特徴がはっきりと見られるにもかかわらず、生前は認知症を発症していなかった人が一定数存在します。 「なぜ彼らは、脳にゴミが溜まっていても認知症にならなかったのか?」 この長年の謎に対し、今回の研究は一つの答えを提案しています。研究チームが認知症にならなかった人の脳を調べたところ、彼らの脳内ではNAD+を作り出すシステムが正常に保たれていたのです。 つまり、アミロイドβなどのゴミがあっても、NAD+という「燃料」が十分にあり、脳の修復システム(レジリエンス=回復力)が正常に働いていれば、認知症の発症を防げる可能性があるというわけです。ただし、ぬか喜びは禁物 ここまで読むと、「NAD+のサプリを飲めばいいのでは?」「もうアルツハイマー病は治る病気になったのか?」と期待してしまうかもしれません。しかし、冷静になるべきいくつかの重要な「壁」があります。 まず、今回使われたのは、遺伝子操作によって強制的にアルツハイマー病を発症させたマウスです。人間のアルツハイマー病は、遺伝要因だけでなく、生活習慣や加齢など複雑な要因が絡み合って発症するため、マウスで効いた薬が人間でも同じように効くとは限りません。 また、「NAD+を増やせばいい」と単純に考えるのは危険です。過去の研究では、NAD+の前駆体(材料となる物質)を過剰に摂取すると、NAD+レベルが異常に高くなりすぎてしまい、たとえばがん細胞の増殖を助けてしまうリスクなどが指摘されています。今回のP7C3-A20という薬剤は、NAD+を「正常範囲」に留める特性があったため成功しましたが、市販のサプリメントで同様の安全で精密なコントロールができるかは不明です。 さらに、このP7C3-A20という化合物も、まだ人間での臨床試験の結果が出ているわけではありません。人間でも効果が見られるか、安全に使えるかを確認するには、それ相応のプロセスが必要です。私たちが知っておくべきこと それでも、この研究が示した「希望」は色褪せないでしょう。これまでアルツハイマー病の治療は「原因と思わしき物質(アミロイドβなど)を取り除く」ことに主眼が置かれてきました。しかし今回の研究は、「脳の回復力(レジリエンス)を高める」という新しいアプローチが、すでに進行してしまった病気に対しても有効である可能性を示しました。 「死んでしまった神経細胞は元には戻らない」というこれまでの常識に対し、実は細胞が死滅するずっと手前の段階で、エネルギー不足によって機能不全に陥っているだけの細胞が多くあり、それらは救済可能かもしれないのです。 ただし、今の私たちができることは、怪しいサプリメントに飛びつくことではなく、この「脳の回復力」に着目した新しい治療開発の行方に注目し続けることでしょう。そして、規則正しい生活や運動が、このNAD+レベルを含む脳の代謝システムを維持するのに良い影響を与える可能性についても、改めて検討されるべきかもしれません。 1) Chaubey K, et al. Pharmacologic reversal of advanced Alzheimer's disease in mice and identification of potential therapeutic nodes in human brain. Cell Rep Med. 2025 Dec 22. [Epub ahead of print]

5.

認知症患者への抗精神病薬、各薬剤の最適な投与量は?

 アルツハイマー病を含む認知症の神経精神症状(NPS)に対する抗精神病薬は、広く使用されている一方で、有効性と安全性のバランスが依然として大きな臨床課題となっている。東京・iこころクリニック日本橋の寺尾 樹氏らは、認知症のNPSに対する各種抗精神病薬の用量依存的な有効性と忍容性を比較するため、用量反応モデルに基づくネットワークメタ解析を実施した。Acta Psychiatrica Scandinavica誌2026年2月号の報告。 CENTRAL、PubMed、CINAHL、ClinicalTrials.govより網羅的に検索し、認知症のNPSに対する抗精神病薬を評価したランダム化比較試験を特定した。アルツハイマー病を含む認知症患者を対象に、アリピプラゾール、ブレクスピプラゾール、リスペリドン、クエチアピン、オランザピンのさまざまな用量における有効性(NPS重症度の変化)および忍容性(有害事象による治療中止)を評価するため、用量反応モデルに基づくネットワークメタ解析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・分析には、20研究、5,844例を含めた。・研究に含まれた抗精神病薬のほとんどが、有効性と忍容性の両方で、おおむね正の用量反応関係を示した。しかし、オランザピンは有効性に関してベル型曲線を示した。・アリピプラゾール10mg、ブレクスピプラゾール1~2.5mg、リスペリドン1~2mg、オランザピン2.5~5mgのみが、プラセボよりも有意に有効であった。・アリピプラゾール10mgまで、ブレクスピプラゾール3mgまで、リスペリドン1mgまで、オランザピン2.5mgまでおよび15mg、クエチアピン200mgまでであれば、プラセボと比較し忍容性が有意に低下することはなかった。・さらに、いくつかの抗精神病薬では、特定の用量間で有効性と忍容性に有意差が認められた。 著者らは「アリピプラゾール10mg、ブレクスピプラゾール1~2.5mg、リスペリドン1mg、オランザピン2.5mgは、いずれも有効性と忍容性が良好であり、好ましい治療選択肢となる可能性が示唆された。本モデルにはいくつかの不確実性要因が含まれているため、本知見は慎重に解釈する必要があり、臨床的意思決定を支援するための暫定的な枠組みとして捉えるべきである」としている。

6.

「最近の」研究、実際には何年前?/BMJ

 生物医学雑誌に掲載された論文の執筆者は、引用したエビデンスを「最近の(recent)」と表現することが多いが、この言い回しの裏にある引用文献の実際の発表年代を定量化した例はまれだという。スペイン・La Paz University HospitalのAlejandro Diez-Vidal氏とJose R. Arribas氏は、1,000編の論文を調査し、「最近の」引用文献はその発表と引用の時期に中央値で4年のずれがあり、ほぼ5編に1編の割合で発表が引用の時期より10年以上古く、「最近の」はきわめて弾力性に富む表現として使用されていることを明らかにした。BMJ誌2025年12月11日号クリスマス特集号「WORDS AND MEANINGS」掲載の報告。20の“recent”を含む表現でPubMedを検索 研究チームは、生物医学論文と、その論文で「最近」との記述で引用される過去の研究との時間的な隔たりを定量化する目的で、後ろ向き研究を実施した(特定の助成は受けていない)。 事前に定義した20の「最近」表現(recent article、recent evidence、recent literature、recent research、recent studyなど)に基づき、構造化PubMed検索を行った。 「最近の」という表現が、直接的に引用と結び付いている英語の生物医学論文(全文掲載)1,000編を解析の対象とした。これらの論文と、その参照先である「最近の」研究との時間的な隔たりを年単位で評価した。177編(17.7%)が、10年以上前の研究を「最近」と表現 引用された「最近の」研究の発表年代は大きく異なっていた。また、研究の発表から引用までの時間差は、0年から最長で37年に及んだ(平均5.53年、中央値4年[四分位範囲:2~7])。著者は、「37年の時間差は、この論文の執筆者が『最近』を『ルネサンス』と混同したのではないかと疑わざるを得ない」と指摘している。 最も多かった時間差は1年(159編[15.9%])であった。「最近」として、10年以上前の研究を引用した論文が177編(17.7%)あり、20年以上前の研究を引用した論文が26編(2.6%)あった。時間差の幅は、専門分野によって異なる 引用パターンは専門分野によって異なっていた。集中治療学、感染症学、遺伝学、免疫学、放射線医学では、発表から引用までの時間差(中央値)の幅が小さかった(約2年)。著者は、「この分野は、新たな病原体やゲノム、抗体が絶えず出現するため、過去を振り返る余裕がないのかもしれない」と冗談めいた論評をしている。一方、腎臓学、獣医学、歯学では、この時間差の幅がかなり大きかった(8.5~14年)。 また、内科、外科、疫学などの分野については、著者は「基礎研究の成果が、数十年にわたり臨床的に有用であり続けることに留意すべきだろう。このような分野の出版物では、発表から引用までの時間差の長さは陳腐化を意味するのではなく、重要なエビデンスの持続性を反映している」と指摘し、「とはいえ、『最近の』よりも正確な用語を用いることで、この違いをより適切に表現できるかもしれない」と考察している。高IFのジャーナルほど、より新しい研究を引用 表現別では、「最近のアプローチ(recent approach)」「最近の発見(recent discovery)」「最近の研究(recent study)」は古い研究と関連し、「最近の出版物(recent publication)」「最近の記事(recent article)」はより新しい研究の引用との結び付きが強かった。 また、引用までの時間差の長さは地域間で類似しており、時間の経過とともに徐々に短くなり、最新の出版物で最も短かった。さらに、インパクトファクター(IF)が高い(≧12)ジャーナルほど、より新しい研究を引用していた。 著者は、「『最近の』という用語は、真に最新のエビデンスを示す信頼できる指標というより、柔軟な修辞的装置として機能することが多いと示唆される」「本研究の知見は、この表現の廃止を求めるものではないが、執筆者は使用前に一呼吸置くこと――真に最近なのか、単に修辞的に都合がよいだけなのかを考える一瞬の時間を持つこと――を提唱したい」「読者と査読者は、『最近の』をうのみにせず、実際の時間差を厳密に確認すべきである」としている。

7.

2型糖尿病患者は難聴の有病率が高い

 2型糖尿病と難聴リスクとの関連が報告された。罹病期間が長い糖尿病患者は難聴有病率が高いことなどが示されている。バルセロナ大学(スペイン)のMiguel Caballero-Borrego氏、Ivan Andujar-Lara氏の研究によるもので、詳細は「Otolaryngology-Head and Neck Surgery」11月号に掲載された。 慢性高血糖に伴う神経や血管の障害は全身性であることから、聴覚系にも影響を及ぼす可能性がある。これまでにも、糖尿病患者では内耳毛細血管の超微細構造に変化が生じているという報告など、糖尿病と難聴の関連性を示すエビデンスが報告されている。ただし、実臨床での研究結果には一貫性が見られず、糖尿病罹病期間や性別などにより関連性が異なるのではないかとの考え方もある。Caballero-Borrego氏らはこれを背景として、システマティックレビューとメタ解析による検討を行った。 論文検索にはPubMed、Scopusを用い、2019年1月~2024年4月に収載された論文を対象とした。包括基準は、糖尿病と難聴との関連を検討したコホート研究、横断研究、症例対照研究で、英語またはスペイン語の論文とし、糖尿病以外の要因による聴覚障害の可能性を否定できない研究、1型糖尿病患者のみを対象とした研究、聴力検査の信頼性が低いと判定される研究などは除外した。 一次検索で8,354件の論文がヒットし、重複削除、タイトルと要約に基づくスクリーニング、全文精査を経て17件を抽出した。これらの研究の参加者数は糖尿病群が計3,910人、対照群が4,084人であり、糖尿病群の難聴の有病率は40.6~71.9%の範囲だった。 有病率を比較可能な4件の研究(糖尿病群2,358人、対照群3,561人)を統合した解析で、糖尿病群の難聴有病率は有意に高いことが明らかになった(オッズ比〔OR〕4.19〔95%信頼区間1.22~14.37〕)。また、糖尿病群の純音聴力閾値は対照群より有意に高く(3.19dB〔同1.08~5.19〕)、低音域(1.11dB〔0.62~1.57〕)および高音域(2.3dB〔1.97~2.63〕)も同様に、糖尿病群の方が有意に高かった。 HbA1cと難聴の重症度との関連も示された。例えば中等度難聴の糖尿病群は対照群に比し平均HbA1cが0.57%(0.1~1.05)高値であり、より重度の難聴の糖尿病群は対照群に比し0.95%(0.02~1.87)高値だった。また、糖尿病の診断後10年以上経過している患者は10年未満の患者に比べ、難聴有病率が有意に高いことも分かった(OR2.07〔1.45~2.94〕)。一方、性別は難聴の有病率に有意な影響を与えていなかった。 著者らは、「糖尿病における難聴は、潜在的に生じている可能性のある細小血管症の結果として現れるのではないか。つまり、糖尿病患者に見られる聴力の低下は早期の警告サインと考えられる。よって糖尿病患者に聴力低下を認めた場合、より綿密なモニタリングを行うとともに、難聴への進行リスクを最小限に抑えるため、治療内容を再検討する必要があるだろう」と述べている。

8.

炭酸脱水酵素阻害薬は睡眠時無呼吸症候群を改善(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

本邦における閉塞性睡眠時無呼吸症候群の疫学と治療の現状 本邦における閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA:Obstructive Sleep Apnea)の人口当たりの発症頻度は男性で3~7%(40~60代に多発)、女性で2~5%(閉経後に多発)と報告されており、男女合わせて500万例以上、総人口の約4%にOSA患者が存在すると考えられている。本邦における成人OSAに対する有効な治療法としては経鼻/経口の持続陽圧呼吸(CPAP:Continuous Positive Airway Pressure)が中心的位置を占める。CPAP不適あるいは不認容の非肥満(BMI<30kg/m2)患者に対する植込み型舌下神経(XII神経)電気刺激も有効な方法である。その他、比較的軽症のOSA患者に対するマウスピースや特殊な原因に対する耳鼻科的・口腔外科的手術/処置が有効な場合もある。いずれにしろ、OSA患者に施行されている治療はCPAPに代表される機械的治療が中心であり、現在のところ、有効性が確認され、かつ、保険適用を受けた薬物治療は存在しない。 本邦におけるOSA患者に対するCPAPの導入率はCPAP必要患者の15%前後と低く、米国の70%を大きく下回っている。その意味で、本邦におけるOSA患者に対する治療は不十分であり、OSAを“扇の要”として関連する種々の疾患(病的肥満、糖尿病、治療抵抗性高血圧、冠動脈疾患、心房細動、心不全、脳卒中、大動脈解離、認知症など)の管理に少なからず影響を与えている(OSAを頂点とするMetabolic Domino現象)。さらに、OSA患者では明確な機序不明であるがメラノーマ、腎臓がん、膵臓がんなどの悪性腫瘍の発生率が高いことも注意すべき事項の1つである。以上の諸点を鑑みると、今回論評の対象としたRanderath氏らの論文で明らかにされた内服の炭酸脱水酵素(CA:Carbonic Anhydrase)阻害薬のOSA抑制効果は近未来のOSAに対する治療を質的に変化させる可能性がある。抗糖尿病薬GIP/GLP-1受容体作動薬であるチルゼパチド(商品名:マンジャロ)もOSAを改善することが報告されている(Malhotra A, et al. N Engl J Med. 2024;391:1193-1205.)。しかしながら、チルゼパチドは、あくまでも肥満の軽減を介して2次的に無呼吸頻度を低下させるものであり、OSA自体を1次的に改善させるものではない。それ故、チルゼパチドは今回の論評には含めない。 睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)には中枢性のもの(CSA:Central Sleep Apnea)も存在するが、その頻度はOSAに比べ有意に低いこと(SAS全体の10%以下)、発症機序に不明な点が多いことなどから本論評においては詳細な評価を割愛した。炭酸脱水酵素(CA)と睡眠時無呼吸の関係 CAは生体細胞に広く分布し、細胞内代謝の結果として産生されるCO2とH2Oとの反応を触媒しH2CO3を産生する。H2CO3はH+とHCO3ーに自然解離し、HCO3ーはクロライド・シフトを介して細胞外に排出、H+は細胞内の蛋白に吸着され細胞内pHは一定に維持される(生理的pH下ではγ-グロブリン以外の蛋白は陰イオンとして存在しH+と結合)。生体には臓器特異的に15~16種類に及ぶCAのアイソザイムが存在することが報告されており、各臓器において細胞内pHの恒常性維持に寄与している。このような細胞内環境下でCAの活性を阻害すると、細胞内でのCO2処理が遅延し細胞内CO2濃度が上昇、細胞内アシドーシスが招来される。その結果として、脳幹部(延髄、橋)に局在する呼吸中枢神経群(延髄表層に存在するCO2感受性の中枢化学受容体を含む)のCO2感受性が亢進し、換気応答が活性化される。さらに、細胞内アシドーシスは咽頭/喉頭に存在する上気道筋群の筋緊張を維持する。以上の機序を介して、CAの阻害は睡眠時の閉塞性無呼吸の発生を1次的に抑制するとされているが、これ以外の未知の機序が関係する可能性も指摘されている。CA阻害薬の分類と臨床 臨床的に使用可能なCA阻害薬には点眼薬と内服薬の2種類が存在する。点眼薬(商品名:ドルゾラミド、ブリンゾラミドなど)は主として眼圧低下と緑内障治療薬として使用される。内服薬のうち1954年に緑内障治療薬としてFDAに承認された歴史的薬剤であるアセタゾラミド(商品名:ダイアモックス)は静注薬としても使用可能であり、緑内障以外にてんかん、メニエール病、急性高山病、尿路結石症の発作予防など幅広い保険適用を獲得している。最近認可された内服CA阻害薬として本論評の対象としたスルチアム(商品名:オスポロット)が存在するが、スルチアムは、本邦においては精神運動発作(てんかん)のみに使用が限定されている。CA阻害薬のOSAに対する治療効果-大規模研究の結果 SAS(OSA、CSA)発症にかかわる重要な因子としてCAが関与する化学反応が長年注目されてきたが確証が得られるには至らなかった。しかしながら、2020年、Christopher氏らはアセタゾラミド内服薬のSAS抑制効果に関して28研究(OSA:13研究、CSA:15研究)を基にメタ解析を施行した(Schmickl CN, et al. Chest. 2020;158:2632-2645.)。彼らの解析結果によると、アセタゾラミド内服(36~1,000mg/日)によってSAS患者の無呼吸/低呼吸指数(AHI:Apnea-Hypopnea Index)が37.7%(絶対値として13.8/時)低下すること、さらには、AHIの低下はOSA患者とCSA患者でほぼ同等であることが示された。アセタゾラミドによる無呼吸抑制効果は投与量依存性を示し、薬剤量が高いほど顕著であった。Christopher氏らの解析結果は、アセタゾラミドの内服がOSAのみならずCSAの治療にも有効である可能性を示している。 本論評の対象としたRanderath氏らの論文は、OSAに対するCA阻害薬スルチアムの効果を解析した第II相二重盲検無作為化プラセボ対照用量設定試験(FLOW試験)の結果を報告した(欧州5ヵ国、28病院における治験)。対象は未治療、中等症以上のOSA患者298例で、プラセボ群(75例)、スルチアム100mg群(74例)、同200mg群(74例)、同300mg群(75例)の4群に振り分けられた。観察期間は、薬物投与量が一定になってから12週間(薬剤投与開始から15週間)と設定された。スルチアムの1日1回就寝前投与は、AHI、夜間低酸素血症、日中の傾眠傾向(Epworth Sleepiness Scaleによる評価)などOSAに付随する重要な症状を用量依存的に改善した。スルチアム投与によって重篤な有害事象は認められなかったが、知覚異常を中心とする中等症以下の多彩な有害事象が発生した。“治療効果と副反応”の比はスルチアム200mgの連日投与で最も高く、この用量がOSA治療に最も適していると結論された。 以上のように、OSA治療におけるCA阻害薬の有効性が実証されつつあり、本邦においてもCPAPにかわる新たな治療法としてCA阻害薬の内服治療の有効性を検証する臨床治験が早急に実施されることを期待するものである。この問題に関連して、2025年4月、本邦の塩野義製薬は米国Apnimed社と合弁会社を設立し(Shionogi-Apnimed Sleep Science)、睡眠時無呼吸症候群に対するスルチアムを含めた新たな薬物治療戦略を世界レベルで開始しており、今後の動向が注目される。

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親のうつ病の特定の症状は子どもの報酬処理に影響か

 親にうつ病があると、その子どももうつ病を発症しやすいことが知られているが、こうしたリスクは、うつ病のある特定の症状に関連している可能性のあることが、新たな研究で示唆された。物事を楽しめない、あるいは物事に興味を持てないといったタイプの親の症状は、周囲で起きていることに対する子どもの反応の仕方に影響を与え得ることが示されたという。米ニューヨーク州立大学ビンガムトン校(SUNY-BU)気分障害研究所のBrandon Gibb氏とElana Israel氏によるこの研究の詳細は、「Journal of Experimental Child Psychology」2026年2月号に掲載された。 Gibb氏らによると、子どもの脳が肯定あるいは否定的なフィードバックにどのように反応するかには、親のうつ病が影響を及ぼすことがすでに明らかにされている。その原因に、物事に対する興味や喜びが失われる状態である「アンヘドニア(無快感症)」と呼ばれるうつ病の症状が関わっている可能性があるとGibb氏らは言う。 Gibb氏らは今回の研究で、7〜11歳の子どもとその親217組を対象に実験を行った。この実験は、親のアンヘドニアの症状が、子どもの報酬系における肯定的あるいは否定的なフィードバック処理にどのような影響を与えるのかを明らかにする目的で計画された。 Israel氏は、「この研究は、物事への興味や関心が薄れ、喜びを感じにくくなるというリスク要因がある場合、それが環境からのフィードバックに対する脳の反応の仕方に反映される可能性があるという考え方に基づいている」と説明している。また同氏は、「親に強いアンヘドニアを伴ううつ病があると、その子どもでは反応が弱くなると予想され、その一方で他のうつ病の症状は、理論的にはこの特定の脳反応にはそれほど強く関連しないはずだ」とニュースリリースの中で述べている。 実験では、子どもに2枚の扉を見せ、向こう側に賞金がある扉を当てるよう指示した。正解の扉を選ぶと賞金が得られ、間違えると失う仕組みだった。その結果、親のアンヘドニアの症状のレベルが高いほど、子どもは賞金を獲得した場合でも、逃した場合でも、その反応は鈍くなる傾向が認められた。一方、アンヘドニアを伴わないうつ病の症状レベルが高い親の場合では、子どもの反応が鈍化する傾向は見られなかった。 Israel氏は、「この結果から言えるのは、親のアンヘドニアに特有の何かが子どもの神経反応に影響を与える可能性があるということだ。さらに、うつ病の中核的特徴である興味や喜びの喪失、関心の低下に陥るリスクが高い子どもの特定につながる研究結果でもある」と述べている。 研究チームは、今後の研究課題として、アンヘドニアの症状がある親が治療を受けたり、状態が改善し始めたりした場合に、家族の相互作用がどのように変化するのかを調べることを挙げている。また、同級生からの社会的フィードバックなど他の種類のフィードバックに対する子どもの反応にも親のうつ病による影響があるのかどうかについて検討することが重要であると述べている。 Israel氏は、「前向きな気分や関心、良好な親子関係の強化を目的とした介入について検討している研究者もいる。今回の知見を活かして、そのような介入による効果が得られる可能性が最も高い家族を特定できるかどうかを検証することが重要だ」と述べている。

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宅配食で血糖コントロールが改善する

 糖尿病の管理に適した宅配食が、血糖コントロールの改善につながることを示した研究結果が報告された。米アーカンソー大学のEliza Short氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of Nutrition Education and Behavior」12月号に掲載された。 この研究では、宅配食を12週間利用した糖尿病患者は、HbA1cが有意に低下した。一方で、食事の質が健康的か否かを表す指標(Healthy Eating Index-2015〔HEI-2015〕)には有意な変化が見られなかった。このことから研究者らは、糖尿病患者が普段、非健康的な食品を選択して食べているとは言えず、むしろ、食品を宅配することによって、健康的な食品を手軽に入手できるようになることが、血糖コントロール状態の違いを生んだのではないかと考えている。 論文の筆頭著者であるShort氏は、「明らかになった結果は、食料不安を抱え、交通アクセスの不便さといった障壁を抱えている人々の糖尿病管理に、目に見える改善をもたらすためには、個々の患者に合わせて調整された食品を自宅に配達するという方法が有効である可能性を示している」と研究成果を総括。また、「多くの2型糖尿病患者にとって、健康的な食品を確実に入手できるということは、単に便利であるということにとどまらず、不可欠なヘルスケアとも言える」と、宅配食の意義を強調している。 この研究には、アーカンソー州内の五つのフードパントリー(食料不安を抱えている人に無償または低価格で食品を提供する支援活動)の利用者の中から、101人の2型糖尿病患者(平均年齢57.1±10.6歳、女性67.3%)が参加した。参加者には12週間にわたって毎週、食品ボックスを宅配。その食品ボックスの中身は、2019年の米国糖尿病学会(ADA)の食事療法ガイドラインに準拠し、でんぷん質の少ない野菜、全粒穀物、タンパク質食品、新鮮な果物などで構成されていた。 また、食品ボックスには、レシピおよび、そのレシピどおりに調理するために必要なその他の食材も含まれていた。さらに、糖尿病自己管理のための教育用資材も同梱されており、それらの資材は英語だけでなく、スペイン語、マーシャル語で書かれていた(同州には北太平洋マーシャル諸島出身者が多い)。研究期間中97%の参加者が、これらの食品と資材を完全に受け取ることができた。 宅配食を開始した時点のHbA1cは平均9.9±2.3%だった。これが宅配開始12週間後には9.1±2.0%となり、共変量を調整後に0.56パーセントポイントの有意な低下が確認された(P=0.01)。HEI-2015は開始時点が59.9±16.9、12週間後が59.5±13.0で有意な変化がなかった(P=0.47)。 研究者らは、「食習慣が発症リスクに関連している疾患の予防・治療にとって、栄養価の高い食品は『薬』とも言える。これからは、このような考え方に基づく領域が成長していくのではないか。本研究結果はその発展に寄与し得ると考えられる」と述べている。また、「今後の研究では、こうしたプログラムの参加者の健康に最も影響を与えるのはどの要素なのか(食品を宅配することか、教育用資材か、あるいはその両方なのか)を明らかにする必要がある」と付け加えている。

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抗コリン薬負荷と認知症リスクの評価に有用な予測ツールを検証

 抗コリン薬の使用は、認知機能低下などの副作用と関連している。英国・リバプール大学のInnocent Gerald Asiimwe氏らは、ベースライン時の抗コリン薬の投与量と認知症リスクとの関連性を調査し、抗コリン薬投与指数(ACMI)の外部検証を行った。Age and Ageing誌2025年10月30日号の報告。 2つの大規模前向きコホートであるUKバイオバンク(UKB、研究期間:2000〜15年、参加者:12万5,260例)および米国All of Us(AoU、研究期間:2000〜22年、参加者:9万2,047例)のデータを分析した。臨床的および遺伝的共変量を調整し、死亡を競合リスクとしてCox比例ハザードモデルを用いて、ACMIで算出されたベースライン時の年間抗コリン薬投与量と認知症リスクとの関連性を評価した。探索的遺伝子解析では、UKBにおけるアセチルコリンシグナル伝達経路遺伝子の候補遺伝子解析とAoUにおける多遺伝子ハザードスコアの開発を行った。 主な結果は以下のとおり。・ベースラインにおけるACMIリストに掲載されている88種類の薬剤のいずれかの使用は、認知症リスク上昇(UKBハザード比[HR]:1.15、95%信頼区間[CI]:1.09〜1.21、AoU:1.06、1.04〜1.09)および死亡率上昇(UKB:1.23、1.19〜1.27、AoU:1.16、1.13〜1.19)との関連が認められた。・APOEが認知症リスクに及ぼす遺伝的影響が示唆された(UKB[APOEε4 vs.ε3キャリア]HR:2.05、95%CI:1.86〜2.26、AoU:1.61、1.44〜1.80)。・有意な遺伝子と薬剤間の相互作用は認められなかった。 著者らは「2つの大規模コホートにおいて、ベースライン時のACMIスコアの高さが認知症および死亡リスクの上昇と関連していることから、ACMIの外部検証が成功したといえる。因果関係の推論はできないが、これらの知見は、リスク層別化のための予後予測ツールとして、またより安全な抗コリン薬使用に関する将来の研究に役立つ情報として、ACMIが潜在的に有用であることを裏付けている」としている。

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鼻に歯が生えていた2例【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第297回

鼻に歯が生えていた2例さまざまな場所に歯が生えるものですが、過去に脳内に歯が生えた事例を紹介しました。今度は鼻の中です。脳に比べるとインパクトは少ないかもしれませんが、おどろき医学論文マニアとして、紹介しなければなりません。Bergamaschi IP, et al. Intranasal Ectopic Tooth in Adult and Pediatric Patients: A Report of Two Cases. Case Rep Surg. 2019 Sep 17;2019:8351825.「先生、鼻の中に“歯”があると言われたんですけど……」。外来でこんな訴えが飛び出したら、皆さんどうされるでしょうか。「抜けた歯が鼻腔に入ったのかな? いや、でもなんで歯が鼻に?」と一瞬フリーズしたくなりますが、世の中には“鼻から歯が生える”患者さんが存在します。今回は、ブラジルの口腔外科チームが報告した「鼻腔内異所性歯」の成人例と小児例、2症例を扱った論文をご紹介します。1例目は、32歳の女性です。主訴はズバリ「鼻の中に歯がある」というものでした。この患者さんによると、この状態は痛みを引き起こし、とくに寒い日には鼻血が出るとのことでした。詳しく病歴を聴取すると、6歳のときに顔面外傷を負い、上顎前歯部に損傷を受けたことが判明しました。つまり、26年もの間、歯が鼻の中に存在していたことになります。臨床診察で鼻尖部を持ち上げてみると、なんと右鼻孔内に上顎中切歯の歯冠が観察されました。6歳といえば、ちょうど前歯の永久歯が萌出する時期であり、Nollaの発育段階では7(歯冠完成、歯根の3分の1発育)に相当します。この時期に外傷を受けたことで、本来口腔内に萌出するはずだった歯が、上方に変位して鼻腔内に迷い込んでしまったと考えられます。ここで疑問が生じます。なぜ26年間も放置されていたのでしょうか。論文によると、これは「専門家からの誤った情報提供」が原因だったとのことです。つまり、症状(痛みや鼻出血)に対する対症療法のみが行われ、その原因である鼻腔内の歯が長年見過ごされていたということです。2例目は、左側の片側性口唇口蓋裂を有する8歳の女児です。この子供は、左側鼻閉を主訴に紹介されてきました。原因は、肉芽組織に囲まれた鼻腔内の硬い組織塊でした。口腔内診察とCT検査の結果、この白色塊は左側側切歯の異所性萌出であることが判明しました。口腔内では左側側切歯が欠損しており、塊の透過性は他の歯と一致していました。興味深いことに、CT検査では、この形成異常歯の上部は軟組織内に埋入しており、骨性支持がない状態でした。母親によると、この白色塊は腸骨骨移植による口鼻瘻孔閉鎖術の3ヵ月後に出現したとのことです。口唇口蓋裂自体が多因子性の病因を持つため、異所性萌出に対する遺伝的素因も否定できませんが、手術操作による歯胚の変位も原因として考えられます。両症例とも、治療は全身麻酔下での歯の外科的摘出でした。「鼻から歯を抜く」という、一見すると大手術のように思える処置ですが、実際の手技は比較的シンプルで、無事に済んだそうです。

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退職後でも認知機能が維持される人の特徴は?

 多くの先進国において、公的年金の受給年齢の引き上げが行われている。これは、退職を遅らせることで認知機能の老化に影響を与える可能性がある。しかし、退職が認知機能に及ぼす影響は個人や状況によって異なる可能性が高いと考えられる。慶應義塾大学の佐藤 豪竜氏らは、退職と認知機能の異質性について、その関連性を調査した。International Journal of Epidemiology誌2025年10月14日号の報告。 米国、英国、欧州で行われた3つの縦断研究(Health and Retirement Study、English Longitudinal Study on Ageing、Survey of Health, Ageing and Retirement in Europe)より得られたデータを統合し、分析した。本データセットは、2014〜19年に19ヵ国で実施された3つのwave調査を網羅している。本研究では、wave1では、就労していた1万2,811人を対象とし、各調査で共変量情報を収集した。wave2では、50〜80歳の参加者の退職状況を評価した。wave3では、単語想起テストを用いて認知機能を測定した。本分析では、退職の判断基準として公的年金受給年齢を用いた操作変数因果フォレスト推定法を採用した。 主な結果は以下のとおり。・退職傾向スコアが0.1〜0.9であった7,432人のうち、2,165人(29.1%)がwave2で退職していた。・分析の結果、退職者は労働者よりも平均1.348語多く記憶していたことが明らかになった。・退職と認知機能の関連は異質性を示した。・より大きな認知的利益が観察された人の特徴は、女性、社会経済的地位の高い人、退職前の健康状態が良好な人、退職前に身体活動を行っていた人であった。 著者らは「観察された異質性の関連は、政策立案者が年金制度に早期退職の選択肢を組み込み、個人がそれぞれの状況に基づいて退職を決定できるようにすることを検討すべきであることを示唆している」とまとめている。

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大気汚染は運動の健康効果を損なう

 大気汚染は、定期的な運動によって得られると期待している健康効果の一部を損なう可能性のあることが、新たな研究で示唆された。運動がもたらすはずの死亡リスクの低減効果は、大気汚染のひどい地域に住む人では半減することが示されたという。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)心理学・疫学教授のAndrew Steptoe氏らによるこの研究結果は、「BMC Medicine」に11月28日掲載された。 Steptoe氏は、「われわれの研究は、大気汚染が運動の効果をある程度弱めることを示しているが、完全に打ち消すわけではない」とニュースリリースの中で述べている。同氏は、「今回の結果は、微小粒子状物質(PM2.5)による健康被害を改めて示すものだ。健康的な老化にはきれいな空気と身体活動の両方が重要と考えられ、健康を害する汚染レベルを下げる努力を強化する必要がある」と話している。 この研究でSteptoe氏らは、まず、米国、英国、台湾、中国、デンマークなどに住む151万5,094人を対象とした7つの研究データを統合し、解析した。これらの研究の追跡期間中央値は12.3年で、この間に11万5,196人が死亡していた。 その結果、1週間当たりの運動量が7.5〜15MET/時間(150〜300分/週の中強度の運動に相当)と推奨レベルを満たしていた人では、死亡リスクが約30%低いことが示された。しかし、同じ運動量でも、空気が汚れている地域(PM2.5濃度≧25μg/m3)で運動を行っている場合には、死亡リスクの低下は12〜15%とほぼ半減することが明らかになった。 次に、3つの大型コホート(86万9,038人、死亡者数4万5,080人)を対象に、個人レベルでPM2.5の濃度別に運動の効果を比較し、この結果が再現されるのかを検討した。その結果、ほとんど運動をしない群(1週間当たり1MET/時間未満)+高汚染(PM2.5濃度が35〜50μg/m3)を基準とした場合、運動量の推奨レベルを満たしていた人の死亡リスクは、PM2.5 濃度が35〜50μg/m3で25%(ハザード比0.75)、25〜35μg/m3で33%(同0.67)、15〜25μg/m3と10〜15μg/m3でそれぞれ66%(同0.34)、10μg/m3未満で70%(同0.30)低下し、大気汚染レベルが高いほど、死亡リスクの減少幅は小さくなることが示された。 研究グループは、世界人口のほぼ半数(46%)が、PM2.5濃度に関する安全基準を超える地域に住んでいると指摘している。論文の筆頭著者である国立中興大学(台湾)のPo-Wen Ku氏は、「この研究は、汚染された環境においても運動が有益であることを強調している。しかし、大気の質を改善すれば、健康上の利益を大幅に高めることができる」と述べている。 研究グループは、このような結果ではあったものの、運動習慣のある人は落胆しないでほしいと話している。共著者の1人であるUCLの医療・社会統計学教授のPaola Zaninotto氏は、「われわれは、人々に屋外での運動をやめてほしいとは考えていない。大気の質を確認したり、より空気のきれいなルートを選んだり、汚染がひどい日は運動の強度を少し落とすことで、運動の健康効果を最大限に引き出すことができる」と述べている。

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MASLD患者における死亡リスクを最も高める3つの心血管代謝リスク因子を特定

 代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)の患者では、高血圧、耐糖能異常、低HDLコレステロール(HDL-C)といった心血管代謝のリスク因子(CMRF)が最も死亡リスクを高めるという研究結果が、「Clinical Gastroenterology and Hepatology」に9月17日掲載された。 米南カリフォルニア大学ケック医学部のMatthew Dukewich氏らは、MASLDを有する米国成人における個々のCMRFと全死亡率との関連を調査した。本研究では、脂肪肝指数(Fatty Liver Index;FLI)が60を超え、かつ少なくとも1つのCMRFを有する20歳以上の成人2万1,872人が対象となった。 その結果、参加者の平均BMIは33.6kg/m2で、CMRFの中央値は3であった。個々のCMRFについて調整後解析を行ったところ、高血圧(調整ハザード比1.39)、耐糖能異常(同1.26)、低HDL-C(同1.15)が死亡リスクの有意なリスク因子であった。過体重・肥満のCMRFについてBMIカテゴリー別に層別解析を行ったところ、BMI 35~40 kg/m2、40~45kg/m2、45kg/m2超の群では、BMI 25~30kg/m2の群と比較して死亡リスクが有意に高かった。年齢で調整した解析では、CMRFの数の増加が死亡リスク上昇と関連した。 責任著者である同大学のNorah A. Terrault氏は、「MASLDは複雑な疾患であり、この研究は臨床管理において注力すべきポイントに新たな示唆を与える」と述べている。

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ヘルペス陽性早期アルツハイマー病、バラシクロビルは有効か?/JAMA

 神経科学的、疫学的、および電子的健康記録を用いた研究において、単純ヘルペスウイルス(HSV)がアルツハイマー病(AD)の病態形成に関与する可能性が示唆されている。米国・New York State Psychiatric InstituteのD. P. Devanand氏らは、早期AD症状を有するHSV(HSV-1またはHSV-2)陽性の患者を対象に、HSVに有効な抗ウイルス薬であるバラシクロビルの臨床的ベネフィットを検討するプラセボ対照無作為化試験「VALAD試験」を実施。主要アウトカムの認知機能の悪化に関して、バラシクロビルの有効性は示されなかったことを報告した。著者は、「早期AD症状を有するHSV陽性患者に対する治療に、バラシクロビルは推奨されないことが示唆された」とまとめている。JAMA誌オンライン版2025年12月17日号掲載の報告。対プラセボで78週の認知機能の変化を評価 VALAD試験は、臨床的にADが疑われると診断またはADバイオマーカーが陽性で軽度認知障害(MCI)と診断され、HSV-1またはHSV-2の血清抗体検査(IgGまたはIgM)が陽性、ミニメンタルステート検査(MMSE)スコアが18~28の成人を対象とした。 試験は、米国の記憶障害に関する外来専門クリニック3施設で実施された。被験者募集は2018年1月~2022年5月に行われ、適格被験者はバラシクロビル4g/日投与群または適合プラセボ群に無作為に割り付けられ追跡評価を受けた。最終フォローアップは2024年9月であった。 主要アウトカムは、11項目のAlzheimer's Disease Assessment Scale Cognitive(ADAS-Cognitive)サブスケールスコア(範囲:0~70、高スコアほど障害が重いことを示す)について、78週時点における最小二乗平均(LSM)変化量であった。 副次アウトカムは、(1)Alzheimer's Disease Cooperative Study-Activities of Daily Living(ADCS-ADL)スケールスコアのLSM変化量、(2)6つの脳領域(内側眼窩前頭皮質、前帯状皮質、頭頂葉、後帯状皮質、側頭葉、楔前部)に関する、18F-florbetapirを用いたアミロイドPETの標準化集積比(SUVR、高スコアほどアミロイドが高レベルであることを示す)のLSM変化量、(3)4つの脳領域(扁桃体、海馬、嗅内野、海馬傍回)に関する、18F-MK-6240を用いたタウPETの側頭葉内側部SUVR(高スコアほどタウが高レベルであることを示す)のLSM変化量であった。 有害事象の発現頻度を安全性アウトカムとした。バラシクロビル群のほうが認知機能の悪化が大きい 120例が無作為化され(バラシクロビル群60例、プラセボ群60例)、うち93例(77.5%、バラシクロビル群45例、プラセボ群48例)が試験を完遂した。被験者120例は、平均年齢71.4歳(SD 8.6)、女性が55%、ADと診断された者が75%、MCIと診断された者が25%であった。人種別では白人が両群とも76.7%を占めている。 78週時点で、11項目のADAS-CognitiveサブスケールスコアのLSM変化量(主要アウトカム)は、バラシクロビル群10.86(95%信頼区間[CI]:8.80~12.91)vs.プラセボ群6.92(4.88~8.97)であり、バラシクロビル群がプラセボ群よりも認知機能の悪化が大きいことが示唆された(群間差:3.93、95%CI:1.03~6.83、p=0.01)。 副次アウトカムは、いずれも78週時点で、(1)ADCS-ADLスケールスコアのLSM変化量はバラシクロビル群-13.78(95%CI:-17.00~-10.56)vs.プラセボ群-10.16(-13.37~-6.96)であり(群間差:-3.62、95%CI:-8.16~0.93)、(2)18F-florbetapirアミロイドPET SUVRのLSM変化量は0.03(-0.04~0.10)vs.0.01(-0.06~0.08)であり(群間差:0.02、-0.08~0.12)、(3)18F-MK-6240タウPET側頭葉内側部SUVRのLSM変化量は0.07(-0.06~0.19)vs.-0.04(-0.15~0.07)であった(群間差:0.11、-0.06~0.28)。 最もよくみられた有害事象は、クレアチニン値上昇(バラシクロビル群5例[8.3%]vs.プラセボ群2例[3.3%])、COVID-19感染(3例[5.0%]vs.2例[3.3%])であった。

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新生児に対するビタミンK投与を拒否する親が増加傾向

 米国では、1961年に全ての新生児に対するビタミンKの筋肉内投与が開始されて以来、ビタミンK欠乏性出血症がほぼ解消された。ビタミンKは、血液凝固を助ける目的で投与される薬剤であり、ワクチンではない。しかし新たな研究で、近年、新生児へのビタミンK注射を拒否する親が増えていることが明らかにされた。研究グループは、注射の拒否により新生児が深刻な出血リスクにさらされる可能性があると警告している。米フィラデルフィア小児病院の新生児専門医であるKristan Scott氏らによるこの研究結果は、「The Journal of the American Medical Association(JAMA)」に12月8日掲載された。 この研究でScott氏らは、2017年から2024年の間に米国50州にある403カ所の病院で、妊娠35〜43週で生まれた509万6,633人の新生児の医療記録を調べた。その結果、全体の3.92%に当たる19万9,571人がビタミンKの注射を受けていないことが明らかになった。注射を受けていない新生児の割合は、2017年の2.92%から2024年の5.18%へと有意に増加しており、特に新型コロナウイルス感染症パンデミック以降に急増していた。この結果についてScott氏は、「増加自体は驚くことではないが、増加の大きさには驚いた」とNBCニュースに語っている。 新生児のビタミンK体内濃度は非常に低い。米疾病対策センター(CDC)によると、ビタミンKの投与を受けない場合、危険な出血を起こす可能性が80倍以上高くなるという。出血は、生後6カ月までの間にあざや内出血などの形で現れる可能性があり、最も重篤な場合には障害や死亡につながる脳出血が生じることもある。 このことを踏まえてScott氏は、「われわれは、出血リスクのある新生児の集団を作り出しているに等しい。本当に心配なのは脳出血、つまり脳卒中だ。脳出血が起こると、最終的には死に至る可能性がある」と話している。 専門家らは、オンライン上の誤情報やビタミンK注射とワクチンの混同が、こうした傾向の根底にあるのではないかと疑っている。この研究には関与していない米テキサス小児病院の新生児科医であるTiffany McKee-Garrett氏は、「親は、ビタミンK注射をワクチン接種と同等に捉えている」とNBCニュースに語っている。 一部の国では、新生児に経口ビタミンKを投与している。しかし医師らは、経口ビタミンKは信頼性が低く、場合によっては複数回投与する必要があるのに対し、ビタミンKの注射は1回の投与で効果があるとしている。 米NYC Health + Hospitalsの新生児科医であるIvan Hand氏は、「ビタミンK欠乏性出血症は予防可能であり、そもそも発生していること自体が問題だ」と話す。医師らは、現状のようなビタミンK投与が拒否される状態が続けば、出血イベントの発生数が増加する可能性が高いとの見方を示している。Hand氏は、「ビタミンK投与は極めて効果的であるが、人々はそのことを十分に理解していない。重度の出血を起こした乳児を見たことがないため、そのようなことは起こらないと思っているのだ。しかし、それが見られないのは、われわれがそうした乳児の治療をしているからだ」と話している。

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第300回 新調したての精子で体外受精が成功しやすくなる

新調したての精子で体外受精が成功しやすくなる射精してから間もない新調したての精子を使った体外受精(IVF)がどうやら妊娠の成功を増やすようです1,2)。体外受精では、精子を採取する2~7日前に前もって射精しておくことがたいてい男性に指示されます。できるだけ健康な精子が体外受精で受精するようにするためです。精巣で精子がより長く留まるとさまざまな内なる毒素、とくには活性酸素種(ROS)や、汚染物質などの外襲に見舞われる期間も長くなります。それが原因で精子はDNAを傷めて役目を果たせないようになるかもしれません。実際、精巣での滞在期間がより短い精子ほど質が良いのは本当のようです。2年ほど前のメタ解析では、前の射精から4日間以内の不妊男性の精液の質の改善がみられています3)。3年ほど前の別のメタ解析では前の射精後すぐの4時間以内の精子はDNA損傷が少なく、よく動くという結果が得られています4)。さらには、射精控えの期間が短いほどどうやら妊娠しやすくなることが、卵子に精子を直に注入する体外受精(intracytoplasmic sperm injection:ICSI)の1,691回の取り組みを調べた試験で示されています5)。しかし、精子が卵子に泳いで行く昔ながらの体外受精(conventional in vitro fertilization:c-IVF)で射精控えを短くすることに同様の取り柄があるかどうかはよくわかっておらず、c-IVFに最適な射精控えの期間も定まっていません。そこで中国の吉林大学第一病院(First Hospital of Jilin University)のYueying Zhu氏らは、同病院でc-IVFに臨むパートナー500組を募って、射精控え期間を短くすることに取り柄があるかどうかを無作為化試験で調べました。それらの男性はc-IVFの精子回収が先立つ2日以内の射精後の群(射精控え短期群)と標準の2~7日後の群(標準群)に1対1の割合で割り振られました。最終的に射精控え短期群の226組と標準群の227組が試験を完了しました。幸いにして射精控え短期群の妊娠継続(12週間以上の胎児の心臓の活動)達成率は標準群より有意に高く、それぞれ46%と36%でした(p=0.030)。射精から精子回収までの期間が短いことは精子不足でのICSI移行を増やすかもしれないとの懸念は当たらず、精子不足でのICSI移行率は両群で似たり寄ったりでした(それぞれ3%と2%)。今回報告された結果は試験の全容の一部にすぎません。被験者の経過の記録は進行中で、肝要の転帰である生児出生率を含むほかの評価項目が後に報告されます1)。盛りだくさんとはいえ今回の試験は1つの病院で実施されたものであり、多施設でより多くの被験者を募る試験でより短期の射精控えの効果を調べることが今後必要と著者は言っています。まだまだ調べることは多そうですが、より直前に射精しておくことが好調な精子を得る良い手段であることを今回の結果はひとまず示したようです2)。体外受精をしないパートナーの妊娠もそういう新調したての精子で改善するかどうかも今後の試験で判明しそうです。乗り物酔いの薬を米国承認身近な困りごとの薬を米国がここ40年で初めて承認しました6)。承認されたのは乗り物酔いの嘔吐を防ぐ飲み薬です。米国の製薬会社Vanda Pharmaceuticalsが開発しました。商品名はNereusです。Nereusは吐きそうな動き(motion)がある出来事(event)の1時間ほど前に1回きり経口服用します7)。その成分tradipitantは化学療法の悪心嘔吐の予防に使われる薬と同様にニューロキニン遮断作用を担います。米国の沿岸で被験者に船に乗ってもらった2つの第III相試験(Motion SyrosとMotion Serifos)でNereusの効果が裏付けられています。それらの試験で同剤投与群の嘔吐の発生率はプラセボ群の半分足らずで済みました8,9)。向こう数ヵ月のうちにNereusを米国で発売するとVanda社は同剤承認を知らせる先月末30日のニュースに記しています6)。参考1)Trigger-Day Ejaculation Improves Conventional in vitro fertilization Outcomes: A Prospective Randomized Controlled Trial. The Lancet on SSRN. 2025 Dec 2.2)IVF success may depend on how long men abstain from ejaculation / NewScientist3)Du C, et al. Andrology. 2024;12:1224-1235.4)Barbagallo F, et al. J Clin Med. 2022;11:7303.5)Gupta S, et al. J Hum Reprod Sci. 2021;14:273-280.6)Vanda Pharmaceuticals Announces FDA Approval of NEREUSTM(tradipitant)for the Prevention of Vomiting Induced by Motion7)NEREUS PRESCRIBING INFORMATION8)Polymeropoulos VM. et al. Front Neurol. 2025;16:1550670. 9)Vanda Pharmaceuticals Reports Positive Results from a Second Phase III Study of Tradipitant in Motion Sickness / PRNewswire

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P-CABとPPI、ガストリン値への影響の違いは?

 胃食道逆流症(GERD)および消化性潰瘍患者において、カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)はプロトンポンプ阻害薬(PPI)と比較して、全体的な有害事象プロファイルは同様であるが、血清ガストリン値の上昇が有意に大きいことが示された。韓国・亜洲大学校のYewon Jang氏らが、システマティックレビューおよびメタ解析の結果をJournal of Gastroenterology and Hepatology誌オンライン版2025年12月2日号で報告した。 研究グループは、MEDLINE、Embase、Cochrane Libraryのデータベースを用いて、2024年6月3日までに公開された文献を検索した。対象は、GERDまたは消化性潰瘍(胃潰瘍または十二指腸潰瘍)患者において、P-CABとPPIの安全性を比較した無作為化比較試験(RCT)および観察研究とした。なお、Helicobacter pylori除菌療法での使用は除外した。主な評価項目は有害事象および重篤な有害事象の発現割合とし、血清ガストリン値の変化についても解析した。最終的に11件の研究(RCT 10件、観察研究1件)が抽出され、合計5,896例(P-CAB群3,483例、PPI群2,413例)が解析に含まれた。 主な結果は以下のとおり。・特定の有害事象を報告した9件の研究において、下痢(7研究)、便秘(4研究)、上気道炎(4研究)、鼻咽頭炎(3研究)、悪心(3研究)、肝機能検査値異常(3研究)などが報告された。・主な有害事象(5%超に発現)は、鼻咽頭炎(P-CAB群16.4%vs.PPI群16.2%)、上気道炎(7.4%vs.5.1%)、下痢(5.2%vs.5.2%)であった。・P-CAB群ではPPI群と比較して、骨折が多く発現する傾向にあった(1.3%vs.0.4%)。・多くの研究で既存の肝障害患者は除外されていたにもかかわらず、肝関連有害事象は一定数発現した(ALT増加:P-CAB群2.9%vs.PPI群3.1%など)。・重篤な有害事象の発現割合は、ほとんどの研究で両群とも10%未満であり、両群で同程度であった。・血清ガストリン値の具体的な変化を報告した6件の研究のメタ解析の結果、P-CAB群はPPI群と比較して、血清ガストリン値の上昇が有意に大きかった(平均差:130.92pg/mL、95%信頼区間[CI]:36.37~225.47、p<0.01)。ただし、研究間の異質性が高かった(I2=98%)。・ボノプラザンとランソプラゾールを比較した3研究の解析でも、ボノプラザン群で血清ガストリン値の上昇が有意に大きかった(平均差:174.03pg/mL、95%CI:78.43~269.52、p<0.01、I2=98%)。 著者らは、本研究結果について「P-CABの有害事象プロファイルはPPIと同様であることが示唆された。しかし、P-CABを用いる患者では、胃酸分泌抑制に伴う血清ガストリン値上昇のモニタリングが不可欠である。また、P-CABとPPIのいずれを用いる場合でも、肝機能障害について注意深くモニタリングすることが求められる」と結論付けた。また、骨折について「先行研究では、長期のPPI使用者において、高ガストリン血症が骨折リスクの重要な要因であることが報告されている。P-CABも血清ガストリン値の上昇を誘発することから、同様のリスクを有する可能性が考えられる。そのため、とくに骨粗鬆症リスクのある患者において、P-CABの長期安全性を評価するためのさらなる検討が求められる」と考察した。

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左室駆出率が正常な急性心筋梗塞患者にβ遮断薬は有益ではない(解説:佐田政隆氏)

 急性心筋梗塞後の患者で、左室駆出率が40%未満の場合にβ遮断薬が有効であることは議論の余地がない。一方、駆出率の低下を伴わない心筋梗塞後に対しても、現在の各国ガイドラインではβ遮断薬の使用を推奨している。しかし、その根拠となったエビデンスは、再灌流療法や、スタチンやレニン・アンジオテンシン系阻害薬などの心保護薬の使用も一般的ではない1990年代までの臨床試験に基づくものであった。最近は、急性期再灌流療法の普及で、左室駆出率が良好なまま回復する症例が増え、本当にそのような場合に漫然と長期間β遮断薬を投与したほうがよいかどうかは、エビデンスがないのが現状であった。 そこで、最近、左室駆出率が40%以上の急性心筋梗塞を対象にβ遮断薬の有効性を検討する臨床試験が各国で行われた。そのメタ解析が2025年11月、American Heart Association 2025で発表され、同日New England Journal of Medicine誌に掲載された。スペインで行われたREBOOT試験(7,459例)、スウェーデン、エストニア、ニュージーランドで行われたREDUCE-AMI試験(4,967例)、ノルウェーで行われたBETAMI試験(2,441例)、デンマークで行われたDANBLOCK試験(2,277例)、日本で行われたCAPITAL-RCT試験(657例)の統合解析で、急性心筋梗塞(ST上昇型・非ST上昇型)後14日以内で左室駆出率が50%以上、高血圧や不整脈などβ遮断薬の積極的な適応がない患者を対象にしている。主要評価項目(全死因死亡、心筋梗塞、心不全の複合エンドポイント)について、β遮断薬群と非投与群で有意差は認められなかった(β遮断薬群:8.1%、非投与群:8.3%、HR:0.97、95%CI:0.87~1.07)。本試験で、左室駆出率が正常な急性心筋梗塞患者では、β遮断薬の有益性が否定されたことになる。 一方、BETAMI試験、DANBLOCK試験、REBOOT試験、CAPITAL-RCT試験のメタ解析では、心不全の徴候がなく左室駆出率が軽度低下(40~49%)した急性心筋梗塞患者において、β遮断薬は総死亡、再梗塞、心不全を減少させることが2025年欧州心臓病学会で発表された(Rossello X, et al. Lancet. 2025;406:1128-1137.)。 このような最近のエビデンスに基づき、急性心筋梗塞患者に対するガイドラインは改訂されていくものと思われる。

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