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拡張型心筋症の治療は回復後中止してよいか/Lancet

 症状および心機能が回復した拡張型心筋症患者では、薬物療法を中止すべきか否かが問題となる。英国・王立ブロンプトン病院のBrian P. Halliday氏らは、治療を中止すると再発のリスクが高まるとの研究結果(TRED-HF試験)を示し、Lancet誌オンライン版2018年11月11日号で報告した。拡張型心筋症患者のアウトカムはさまざまで、多くは良好な経過をたどる。回復した患者における治療中止を前向きに調査したデータはないため、専門家のコンセンサスは得られておらず、明確な推奨を記載したガイドラインはないという。中止と継続の再発リスクを比較する無作為化パイロット試験 本研究は、回復した拡張型心筋症患者における治療中止の安全性を評価する非盲検無作為化パイロット試験(英国心臓財団などの助成による)。 対象は、現在は無症状の拡張型心筋症で、左室駆出率が40%未満から50%以上に改善し、左室拡張末期容積(LVEDV)が正常化し、NT-pro-BNP濃度が250ng/L未満の患者であった。患者登録は、英国の病院ネットワークを通じて行われた。被験者は、治療を中止する群または継続する群に無作為に割り付けられた。 治療中止群は、4週ごとに臨床評価を行い、ループ利尿薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、β遮断薬、ACE阻害薬/ARBの順に投与を中止した。治療継続群は、6ヵ月後から同様の方法で治療を中止した。6ヵ月までを無作為割り付け期、6ヵ月以降は単群クロスオーバー期とした。 主要エンドポイントは、6ヵ月以内の拡張型心筋症の再発であった。再発の定義は、次の4つのうち1つ以上を満たす場合とした。1)LVEFの10%以上の低下かつLVEF<50%、2)LVEDVの10%以上の上昇かつ正常範囲を超える、3)NT-pro-BNP濃度がベースラインの2倍に上昇かつ400ng/L以上、4)徴候および症状に基づく心不全の臨床的エビデンス。全体の再発率は40%、再発予測因子の確立までは治療継続を 2016年4月21日~2017年8月22日の期間に51例が登録され、治療中止群に25例(年齢中央値:54歳[IQR:46~64]、男性:64%)、治療継続群には26例(56歳[45~64]、69%)が割り付けられた。 6ヵ月までに、治療中止群の11例(44%)が再発したのに対し、治療継続群では再発は認めなかった。Kaplan-Meier法による6ヵ月時の治療中止群のイベント発生率は45.7%(95%信頼区間[CI]:28.5~67.2、p=0.0001)であった。 6ヵ月以降、治療継続群は26例中25例(96%)で治療を中止した(1例は発作性心房細動が疑われたため中止できなかった)。このうち、単群クロスオーバー期の6ヵ月のフォローアップ期間中に9例が再発し、イベント発生率は36.0%(95%CI:20.6~57.8)であった。 したがって、治療を中止した50例中20例(40%)が再発したことになる。再発の原因は、LVEF低下が12例(60%)、LVEDV上昇が11例(55%)、NT-pro-BNP濃度上昇が9例(45%)、末梢浮腫の発現が1例(5%)であった。 両群とも死亡例の報告はなく、心不全による予定外の入院や主要有害心血管イベントもみられなかった。治療中止群で重篤な有害事象3件(非心臓性胸痛、尿路性敗血症、既存疾患への待機的手技のための入院)が認められた。 無作為割り付け期では、治療中止との関連が認められた因子として、LVEF低下(p=0.0001)、心拍数増加(p<0.0001)、拡張期血圧上昇(p=0.0083)、KCCQ(カンザスシティー心筋症質問票)スコア低下(p=0.0354)が挙げられた。 著者は、「再発の頑健な予測因子が確立されるまでは、期限を設けずに治療を継続すべきと考えられるが、患者が治療中止を希望する場合は、注意深く、かつさらなる情報を得るまでは無期限に、心機能の監視を行う必要がある」とし、「今後、心不全の薬物療法を安全に中止可能な患者や、一部の薬剤のみの継続投与によって心機能の恒久的な回復が維持できる患者のサブグループを同定する検討が必要である」と指摘している。

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急性非代償性心不全例へのARNi、ACE阻害薬よりNT-proBNP濃度が低下:PIONEER-HF/AHA

 アンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害薬(ARNi)は、2014年に報告されたPARADIGM-HF試験において、ACE阻害薬を上回る慢性心不全予後改善作用を示した。米国・シカゴで開催された米国心臓協会(AHA)学術集会ではそれに加え、急性心不全に対する有用性も示唆された。11月11日のLate Breaking Clinical TrialsセッションでEric J. Velazquez氏(米国・イェール大学)が報告したランダム化試験"PIONEER-HF"である。急性心不全入院例が対象 PIONEER-HF試験の対象は、急性非代償性心不全(左室駆出率[LVEF]≦40%、NT-proBNP≧1,600pg/mL または BNP≧400pg/mL)で入院後、血行動態が安定した881例である。平均年齢は61歳、72%が男性だった。 これら881例はARNi(海外商品名:Entresto)群とACE阻害薬(エナラプリル)群にランダム化され、二重盲検法で8週間追跡された(それぞれ対照薬のプラセボも服用)。ランダム化時のLVEFは約25%、収縮期血圧は118mmHgだった(いずれも中央値)。ARNiでNT-proBNP濃度が有意に低下、予後改善の可能性も その結果、1次エンドポイントである8週間後のNT-proBNP濃度低下率は、ARNi群(46.7%)でACE阻害薬群(25.3%)に比べ、有意(p<0.0001)に高値となった。両群ともNT-proBNP濃度は経時的に低下し続けたが、群間差は、試験開始1週間後の時点ですでに明らかになっていた。 また、探索的エンドポイントではあるものの、56週間の「死亡・心不全再入院・LVAD植え込み・心移植待機リスト登録」リスクも、ARNi群で有意に低くなっていた(ハザード比:0.54、95%信頼区間:0.37~0.79、9.3% vs.16.8%)。14例をACE阻害薬からARNiに切り替えると、1例でこれらのイベントを回避できる計算になる。 これらの有効性は、「心不全既往の有無」「レニン・アンジオテンシン系阻害薬服用例の有無」にかかわらず認められた。 一方、2次エンドポイントである「腎機能増悪」や「高カリウム血症」「症候性低血圧」「血管浮腫」の発現率は、両群間に有意差を認めなかった。 本試験はNovartisの資金提供を受けて行われた。また報告と同時に、NEJM誌にオンライン掲載された。なおEntrestoは、HFpEF例の心血管系死亡・心不全入院抑制作用をARBと比較するランダム化試験"PARAGON-HF"が進行しており、来年3月に終了予定である。「速報!AHA2018」ページはこちら【J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)とは】J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)は、臨床研究を適正に評価するために、必要な啓発・教育活動を行い、わが国の臨床研究の健全な発展に寄与することを目指しています。

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ペムブロリズマブ、単剤と化療併用で頭頸部扁平上皮がん1次治療のOS改善(KEYNOTE-048)/ESMO2018

 再発または転移性の頭頸部扁平上皮がん(HNSCC)治療では、プラチナ製剤による化学療法後の2次治療として、抗PD-1抗体ペムブロリズマブ、ニボルマブの有効性が確認されており、本邦ではニボルマブが2017年3月に適応を取得している。ドイツ・ミュンヘンで開催された欧州臨床腫瘍学会(ESMO2018)で、HNSCCの1次治療におけるペムブロリズマブ単剤および、化学療法との併用療法が、抗EGFR抗体セツキシマブと化学療法の併用療法と比較して全生存期間(OS)を改善することが明らかになった。イェールがんセンターのBarbara Burtness氏が発表した第III相KEYNOTE-048試験の中間解析結果より。 KEYNOTE-048試験は、局所治療で治癒不能、全身治療歴のない再発/転移性の中咽頭、口腔、喉頭の扁平上皮がん患者(ECOG PS:0~1、PD-L1発現測定のための腫瘍組織があり、中咽頭のHPVステータス[p16]が既知)を対象に行われたオープンラベル無作為化試験。患者は、ペムブロリズマブ単剤群(P群):3週おきにペムブロリズマブ200mgを35サイクルまで投与ペムブロリズマブ+化学療法併用群(P+C群):3週おきにペムブロリズマブ200mg、カルボプラチンAUC5またはシスプラチン100mg/m2、5-FU 1,000mg/m2/日の4日間投与を6サイクル、その後はペムブロリズマブ200mgを35サイクルまで投与セツキシマブ+化学療法併用群(E群):セツキシマブを初回のみ400mg/m2、その後は250mg/m2/週投与、3週おきにカルボプラチンAUC5またはシスプラチン100mg/m2、5-FU 1,000mg/m2/日の4日間投与を6サイクル、その後はセツキシマブ250mg/m2を毎週投与の3群に、ECOG PS 、PD-L1発現(TPS≧50%/<50%)、p16ステータス(陽性/陰性)を層別化因子として1:1:1の割合で無作為に割り付けられた。 主要評価項目は、CPS≧20、CPS≧1および全集団における全生存期間(OS)と無増悪生存期間(PFS)。副次評価項目は6ヵ月/12ヵ月PFS率、奏効率、安全性など、探索的項目は奏効期間(DOR)だった。今回は、PFSの最終解析結果、OSの中間解析結果が発表されている。 主な結果は以下のとおり。・2015年4月~2017年1月までの間に882例の患者が組み入れられた(P群:301例/P+C群:281例/ E群:300例)。・2018年6月13日のデータカットオフ時点で、追跡期間中央値はP群:11.7ヵ月/P+C群:13.0ヵ月/ E群:10.7ヵ月)。・患者背景は、年齢中央値がP群:62歳/P+C群:61歳/E群:61歳、男性83%/80%/87%、ECOG PS1が全群で61%、p16陽性が21%/21%/22%、PD-L1発現はTPS ≥50%が22%/24%/22%であった。・結果はP群 vs.E群とP+C群 vs.E群に分けて発表された。[ペムブロリズマブ単剤群(P群)vs.セツキシマブ+化学療法併用群(E群)] ・OS中央値は、CPS ≧20の患者において14.9ヵ月 vs. 10.7ヵ月(ハザード比[HR]:0.61、95%信頼区間[CI]:0.45~0.83、p=0.0007)、CPS≧1において12.3ヵ月 vs. 10.3ヵ月(HR:0.78、95%CI:0.64~0.96、p=0.0086)といずれもP群で有意に改善した。・PFS中央値は、CPS ≧20の患者において3.4ヵ月 vs. 5.0ヵ月(HR:0.99、95%CI:0.75~1.29、p=0.5)とP群で延長されなかった。試験計画に基づき、それ以上のPFS解析は行われなかった。・CPS ≧20の患者において、ORR は23% vs. 36%、DOR中央値は20.9ヵ月 vs.4.2ヵ月、CPS≧1においてORR は19% vs. 35%、20.9ヵ月 vs.4.5ヵ月であった。・Grade 3 以上の薬剤関連有害事象の発生率は17% vs. 69%であった。[ペムブロリズマブ+化学療法併用群(P+C群) vs.セツキシマブ+化学療法併用群(E群)]・中間解析時点でのOS中央値は、CPS ≧20およびCPS≧1の患者においてP+C群で有意な改善は見られなかった。全集団における解析では、13.0ヵ月 vs. 10.7ヵ月(HR:0.77、95%CI:0.63~0.93、p=0.0034)とP+C群で有意に改善した。・全集団におけるPFS中央値は、4.9ヵ月 vs. 5.1ヵ月(HR:0.92、95%CI:0.77~1.10、p=0.2)とP+C群で延長されなかった。・全集団におけるORR は36% vs. 36%、DOR中央値は6.7ヵ月 vs.4.3ヵ月であった。・Grade 3 以上の薬剤関連有害事象の発生率は71% vs. 69%であった。 Burtness氏は、「ペムブロリズマブを単剤で使うべきか、化学療法と併用するべきかはPD-L1発現に依存する可能性があり、現在この疑問に答えるための分析を行っている」と話している。また、ディスカッサントを務めたJean-Pascal Machiels氏(Cliniques universitaires Saint-Luc)は、ペムブロリズマブ単剤群と対照群のカプランマイヤー曲線が7ヵ月目付近で交差しており、その差がCPS≧1の患者においてよりクリアであることを指摘。「ペムブロリズマブ+化学療法併用群と対照群ではそのような差はみられない」と話した。

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ACE阻害薬と肺がんリスクの関連/BMJ

 ACE阻害薬の使用により、肺がんのリスクが増大し、とくに使用期間が5年を超えるとリスクが高まることが、カナダ・Jewish General HospitalのBlanaid M. Hicks氏らの検討で明らかとなった。研究の成果は、BMJ誌2018年10月24日号に掲載された。ACE阻害薬により、ブラジキニンおよびサブスタンスPが肺に蓄積し、肺がんリスクが高まることを示唆するエビデンスがある。この関連を検討した観察研究は限られており、結果は一致していないという。肺がんとの関連をARBと比較するコホート研究 研究グループは、ACE阻害薬の使用が肺がんリスクを高めるかを、ARBと比較する地域住民ベースのコホート研究を行った(Canadian Institutes of Health Researchの助成による)。 United Kingdom Clinical Practice Research Datalinkから、1995年1月1日~2015年12月31日の期間に、新規に降圧薬治療を受けた患者99万2,061例のコホートを同定し、2016年12月31日まで追跡した。 ACE阻害薬の累積使用期間および治療開始からの期間別の肺がんの発生率を、ARBと比較した。Cox比例ハザードモデルを用いて、補正ハザード比(HR)を推算し、95%信頼区間(CI)を算出した。肺がんリスクが14%増加、5年以上の使用で関連が明確に 降圧薬別の患者の割合は、ACE阻害薬使用例が21.0%、ARB使用例が1.6%、その他が77.4%であった。全体の平均年齢は55.6(SD 16.6)歳、男性が46.3%であった。最も多く使用されていたACE阻害薬はramipril(26%)で、次いでリシノプリル(12%)、ペリンドプリル(7%)の順だった。 平均フォローアップ期間は6.4(SD 4.7)年で、この間に7,952例が新たに肺がんと診断された(粗発生率:1.3[95%CI:1.2~1.3]件/1,000人年)。 全体として、ACE阻害薬の使用により、ARBと比較して肺がんリスクが有意に増加した(発生率:1.6件 vs.1.2件/1,000人年、HR:1.14、95%CI:1.01~1.29)。 使用期間が長くなるに従ってHRは徐々に上昇し、5年以降は明確な関連が認められ(HR:1.22、95%CI:1.06~1.40)、10年後にピークに達した(1.31、1.08~1.59)(傾向検定:p<0.001)。 治療開始からの期間についても同様の関連が認められ、期間が長くなるに従ってHRが上昇した(5.1~10年:1.14、95%CI:0.99~1.30、>10年:1.29、1.10~1.51)(傾向検定:p<0.001)。 著者は、「今回、観察された影響はさほど強くないが、小さな作用が結果として多くの患者を生み出す可能性があるため、これらの知見を他の疾患でも確認すべきだろう」と指摘し、「ACE阻害薬が肺がんの発生率に及ぼす影響を、より正確に評価するために、さらに長期のフォローアップを行う必要がある」としている。

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新たな薬剤、デバイスが続々登場する心不全治療(前編)【東大心不全】

急増する心不全。そのような中、新たな薬剤やデバイスが数多く開発されている。これら新しい手段が治療の局面をどう変えていくのか、東京大学循環器内科 金子 英弘氏に聞いた。後編はこちらから現在の心不全での標準的な治療を教えてください。心不全と一言で言っても治療はきわめて多様です。心不全に関しては今年(2018年)3月、「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」が第82回日本循環器学会学術集会で公表されました。これに沿ってお話ししますと、現在、心不全の進展ステージは、リスク因子をもつが器質的心疾患がなく、心不全症候のない患者さんを「ステージA」、器質的心疾患を有するが、心不全症候のない患者さんを「ステージB」、器質的心疾患を有し、心不全症候を有する患者さんを既往も含め「ステージC」、有効性が確立しているすべての薬物治療・非薬物治療について治療ないしは治療が考慮されたにもかかわらず、重度の心不全状態が遷延する治療抵抗性心不全患者さんを「ステージD」と定義しています。各ステージに応じてエビデンスのある治療がありますが、ステージA、Bはあくまで心不全ではなく、リスクがあるという状態ですので、一番重要なことは高血圧や糖尿病(耐糖能異常)、脂質異常症(高コレステロール血症)の適切な管理、適正体重の維持、運動習慣、禁煙などによるリスクコントロールです。これに加えアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、左室収縮機能低下が認められるならばβ遮断薬の服用となります。最も進行したステージDの心不全患者さんに対する究極的な治療は心臓移植となりますが、わが国においては、深刻なドナー不足もあり、移植までの長期(平均約3年)の待機期間が大きな問題になっています。また、重症心不全の患者さんにとって補助人工心臓(Ventricular Assist Device; VAD)は大変有用な治療です。しかしながら、退院も可能となる植込型のVADは、わが国においては心臓移植登録が行われた患者さんのみが適応となります。海外で行われているような植込み型のVADのみで心臓移植は行わないというDestination Therapyは本邦では承認がまだ得られていません。そのような状況ですので、ステージDで心臓移植の適応とならないような患者さんには緩和医療も重要になります。また、再生医療もこれからの段階ですが、実現すれば大きなブレーク・スルーになると思います。その意味では、心不全症状が出現したステージCの段階での積極的治療が重要になってきます。この場合、左室駆出率が低下してきた患者さんではACE阻害薬あるいはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)をベースにβ遮断薬の併用、肺うっ血、浮腫などの体液貯留などがあるケースでは利尿薬、左室駆出率が35%未満の患者さんではミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)を加えることになります。一方、非薬物療法としてはQRS幅が広い場合は心臓再同期療法(Cardiac Resynchronization Therapy:CRT)、左室駆出率の著しい低下、心室頻拍・細動(VT/VF)の既往がある患者さんでは植込み型除細動器(Implantable Cardioverter Defibrillator:ICD)を使用します。そうした心不全の国内における現状を教えてください。現在の日本では高齢化の進展とともに心不全の患者さんが増え続け、年間26万人が入院を余儀なくされています。この背景には、心不全の患者さんは、冠動脈疾患(心筋梗塞)に伴う虚血性心筋症、拡張型心筋症だけでなく、弁膜症、不整脈など非常に多種多様な病因を有しているからだと言えます。また、先天性心疾患を有し成人した、いわゆる「成人先天性心疾患」の方は心不全のハイリスクですが、こうした患者さんもわが国に約40万人いらっしゃると言われています。高齢者や女性、高血圧の既往のある患者さんに多いと報告されているのが、左室収縮機能が保持されながら、拡張機能が低下している心不全、heart failure with preserved ejection fraction(HFpEF)と呼ばれる病態です。これに対しては有効性が証明された治療法はありません。また、病因や併存疾患が複数ある患者さんも多く、治療困難な場合が少なくありません。近年、注目される新たな治療について教えてください。1つはアンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害薬(Angiotensin Receptor/Neprilysin Inhibitor:ARNI)であるLCZ696です。これは心臓に対する防御的な神経ホルモン機構(NP系、ナトリウム利尿ペプチド系)を促進させる一方で、過剰に活性化したレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)による有害作用を抑制する薬剤です。2014年に欧州心臓病学会(European Society of Cardiology:ESC)では、β遮断薬で治療中の心不全患者(NYHA[New York Heart Association]心機能分類II~IV、左室駆出率≦40%)8,442例を対象にLCZ696とACE阻害薬エナラプリルのいずれかを併用し、心血管死亡率と心不全入院発生率を比較する「PARADIGM HF」の結果が公表されました。これによると、LCZ696群では、ACE阻害薬群に比べ、心血管死や心不全による入院のリスクを2割低下させることが明らかになりました。この結果、欧米のガイドラインでは、LCZ696の推奨レベルが「有効・有用であるというエビデンスがあるか、あるいは見解が広く一致している」という最も高いクラスIとなっています。現在日本では臨床試験中で、上市まではあと数年はかかるとみられています。もう1つ注目されているのが心拍数のみを低下させる選択的洞結節抑制薬のivabradineです。心拍数高値は従来から心不全での心血管イベントのリスク因子であると考えられてきました。ivabradineに関しては左室駆出率≦35%、心拍数≧70bpmの洞調律が保持された慢性心不全患者6,505例で、心拍数ごとに5群に分け、プラセボを対照とした無作為化試験「SHIFT」が実施されました。試験では心血管死および心不全入院の複合エンドポイントを用いましたが、ivabradineによる治療28日で心拍数が60bpm未満に低下した患者さんでは、70bpm以上の患者さんに比べ、有意に心血管イベントを抑制できました。ivabradineも欧米のガイドラインでは推奨レベルがクラスIとなっています。これらはいずれも左室機能が低下した慢性心不全患者さんが対象となっています。その意味では現在確立された治療法がないHFpEFではいかがでしょう?近年登場した糖尿病に対する経口血糖降下薬であるSGLT2阻害薬が注目を集めています。SGLT2阻害薬は尿細管での糖の再吸収を抑制して糖を尿中に排泄させることで血糖値を低下させる薬剤です。SGLT2阻害薬に関しては市販後に心血管イベントの発症リスクが高い2型糖尿病患者さんを対象に、心血管イベント発症とそれによる死亡を主要評価項目にしたプラセボ対照の大規模臨床試験の「EMPA-REG OUTCOME」「CANVAS」で相次いで心血管イベント発生、とくに心不全やそれによる死亡を有意に減少させたことが報告されました。これまで糖尿病治療薬では心不全リスク低下が報告された薬剤はほとんどありません。これからはSGLT2阻害薬が糖尿病治療薬としてだけではなく、心不全治療薬にもなりえる可能性があります。同時にHFpEFの患者さんでも有効かもしれないという期待もあり、そうした臨床試験も始まっています。後編はこちらから講師紹介

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ファブリー病〔Fabry disease〕

ファブリー病のダイジェスト版はこちら1 疾患概要■ 定義α-ガラクトシダーゼAの酵素欠損により心臓、腎臓などの組織を中心にグロボトリオシルセラミド(GL-3)が蓄積することにより、心不全、腎不全を来す疾患である。遺伝形式はX-連鎖の遺伝形式をとる。■ 疫学約4万人に1人と推定される。腎不全患者の0.2~0.5%、左室肥大の患者の4%、女性左室肥大の12%、男性脳卒中患者の4.9%、女性患者の2.4%。イタリアでは新生児男児3,100人に1人の頻度、台湾では1,250人に1人と患者頻度は高い。■ 病因ライソゾーム酵素であるα-ガラクトシダーゼの酵素欠損により全身組織にグロボトリオシルセラミド(GL-3)などの糖脂質が蓄積する(図1)。とくに血管内皮細胞に蓄積、心筋、腎臓、リンパ節、神経節など、全身組織に蓄積する。画像を拡大する■ 臨床症状(表1)ファブリー病の臨床症状は多彩である。小児期からの四肢の激痛、無痛、無汗などの自律神経症状、蛋白尿、腎不全などの臨床症状、不整脈、弁膜症、心不全などの心症状、頭痛、脳梗塞、知能障害などの神経症状、精神症状、皮膚症状として被角血管腫、難聴、めまい、耳鳴り、角膜混濁などの眼科症状、咳などの呼吸器症状などを認める。ファブリー病の臨床症状の進展は図1を参照。画像を拡大する■ 分類臨床的には「古典型」、心型、腎型といわれる「亜型」、「ヘテロ接合体女性患者」に分類される古典型(表2)では皮膚症状(被角血管腫)、自律神経症状(低汗、無痛、四肢痛など)を有する。心型、腎型ではこれらの症状は少ない。ヘテロ接合体女性患者では心症状が主体であるが、痛みなどは男性患者と同様に認められる。画像を拡大する■ 予後古典型の患者は早期の酵素補充療法をしないと、腎不全、心不全、脳梗塞で40~50代で死亡する患者が多い。心型、腎型では60~70代で死亡、ヘテロ女性患者は60~70代で心不全にて死亡する患者が多い。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)次の流れに従い、診断を行う。(1)臨床症状:小児期からの四肢の激痛、無汗、皮膚の被角血管腫、心不全、蛋白尿、腎不全、脳梗塞などの症状(2)血清、白血球、尿などでα-ガラクトシダーゼの酵素欠損を証明する(3)尿中GL-3の蓄積(4)皮膚での病理所見:電子顕微鏡でミエリン様蓄積物質を認める(5)遺伝子診断 3 治療 (治験中・研究中のものも含む)ファブリー病の治療として対症療法と根治療法がある。表3に概略をまとめた。画像を拡大する1)対症療法(1)疼痛ファブリー病での痛みは、患者に大きな負担である。幼少時から四肢の灼熱感のある痛みが生じ、思春期はとくに強い。女性患者でも4~5歳から四肢の痛みを感じる患者がいる。痛みは四肢以外にも下顎、頸部などさまざまである。とくに梅雨の時期、夏などは疼痛が強い。カルバマゼピン(商品名:テグレトールほか)、ガバぺンチン(同:ガバペン)などが有効である。(2)消化器症状腹痛、胃痛、下痢などがみられ、整腸剤などの投与が有効である。(3)心肥大、心不全、不整脈徐脈性不整脈には、ペースメーカーが有効である。心筋保護作用としてのACE阻害薬、 ARBの投与が推奨される。高血圧、高脂血症の予防は重要である。(4)腎障害腎保護策のためにARB、ACE阻害薬は有効との報告がある。蛋白食制限、減塩は必要である。腎不全に対しての腹膜あるいは血液透析療法、さらには腎移植が試みられている。(5)脳梗塞脳梗塞の予防のためのアスピリン、抗血小板凝集薬の投与などの抗凝固療法が必要。(6)その他めまい、難聴などに対する対症療法として、めまいにはベタヒスチンメシル(同:メリスロンほか)、突発性難聴にはステロイドが使用される。2)酵素補充療法酵素補充療法は、現在遺伝子工学的手法の進歩に伴いαガラクトシダーゼAの酵素製剤が2製剤開発されている。アガルシダーゼ アルファ(商品名:リプレガル)とアガルシダーゼ ベータ(同:ファブラザイムほか)が開発されている。アガルシダーゼ ベータはCHO(Chinese Hamster Ovary)細胞から遺伝子工学手法で作成された。投与量としては体重1kgあたりアガルシダーゼ アルファは0.2mg、アガルシダーゼ ベータは1mgを2週間に1回投与する。副作用としては蕁麻疹、悪寒、吐き気、鼻汁、軽度血圧低下、気道に違和感などの症状が見られるが、抗ヒスタミン薬、ステロイドの投与で軽快する場合が多い。副作用は投与後3~5ヵ月後に多く見られ、その後は軽快する場合が多い。そして、効果のポイントは次のとおりである。(1)痛みへの効果痛みは軽減傾向にある。発汗障害は改善傾向にある。(2)腎臓への効果腎臓、とくに腎血管内皮細胞でのGL-3の蓄積は除去される。糸球体のたこ足細胞でのGL-3の蓄積の除去には時間がかかる。GFRが60mL/min/1.73m2以上であれば治療後も維持できる。また、60mL/min/1.73m2 以下であれば、治療にかかわらず機能は低下することが明らかにされている。尿蛋白質では、蛋白の排泄が+1以上であれば酵素治療しても腎機能は低下するが、尿蛋白がマイナスであれば腎機能は悪化しない。(3)心機能への効果心筋の肥厚、左室心筋重量は酵素補充療法により減少する。左室機能改善の改善を認める。(4)脳神経系への効果酵素補充療法により血管の内皮細胞への蓄積は軽快するが、脳梗塞の所見は治療により変化はないと考えられる。また、白質変性への効果も少ない。(5)耳鼻科的効果酵素補充による聴力への効果はあまり期待できない。聴力検査で効果が認められていない。(6)眼症状への効果角膜に対する効果は軽快する傾向にある。網膜動脈閉塞で失明する。(7)皮膚症状への効果被角血管腫への効果は少ない。低(無)汗症への効果はみられ、酵素治療により汗をかくようになりQOLは上がる。(8)消化器症状への効果酵素補充療法により下痢などに対する効果が報告され、酵素治療とともに下痢、腹痛は改善傾向にある。体重は増加する患者が多い。4 今後の展望1)シャペロン治療低分子薬(デオキシノジリマイシンなど)は、ライソゾーム酵素のゴルジーライソゾーム系での酵素の合成、分解過程で作用する。すなわち変異酵素が分解促進、あるいは活性基が障害されている場合、シャペロンは有効であり、全体の約50~60%の患者の遺伝子異常に効果があるといわれている。ミガーラスタット(商品名:ガラフォルド)は、2018年5月に発売され、わが国でも保険適用となった。今後、効果や安全性について、さらに知見の積み重ねがなされる。2)遺伝子治療・細胞治療ファブリー病の最終治療としては、遺伝子治療法の開発が重要である。ファブリー病マウスを用いて「アデノ随伴ウイルス」(AAV)あるいは「レンチウイルスベクター」を用いての治療研究が進められており、モデルマウスではGL-3の臓器からの除去に成功している。また、骨髄幹細胞、あるいは間質幹細胞を用いて、遺伝子治療と組み合わせての治療効果も研究されている。3)ファブリー病のスクリーニングファブリー病の治療のためには、早期診断が重要である。早期診断のための新生児マス・スクリーニングも報告され、ガスリー濾紙血を用いて酵素診断することにより可能である。濾紙血による新生児スクリーニングでは、台湾でのファブリー病患者頻度は1/1,250(男児)、イタリアでは1/3,500(男児)、日本では1/6,500の頻度であり、決して珍しい疾患でないことが証明されている。また、ハイリスク患者スクリーニングとして、心筋症患者、左室肥大患者、腎不全患者、若年性脳梗塞患者にはファブリー病の患者の頻度が高いことが報告されている。早期診断により治療効果をあげることが重要である。5 主たる診療科腎臓内科、循環器内科、小児科、皮膚科、眼科、耳鼻科 など※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療情報難病情報センター ライソゾーム病(ファブリー病を含む)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報ふくろうの会(ファブリー病患者と家族の会)1)Desnick RJ, et al. α-Galactosidase A deficiency: Fabry disease. In: Scriver CR et al, editors. The Metabolic and Molecular Bases of Inherited Disease, 8th ed. New York: McGraw Hill; 2001. p. 3733–3774. 2)Eng CM, et al. N Engl J Med. 2001; 345: 9–16.3)Rolfs A, et al. Lancet. 2005; 366: 1794–1796.4)Sims K, et al. Stroke. 2009; 40: 788-794.5)衛藤義勝. 日本内科学雑誌.2009; 98: 163-170.公開履歴初回2013年2月28日更新2018年9月11日

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小細胞がんにおけるROVA-Tの有効性(TRINITY)/日本臨床腫瘍学会

 進展型小細胞がん(ED-SCLC)は1次治療に良く反応するが、早期に再発し、予後不良である。3次治療以降で認可された治療法はなく、未治療の場合の全生存期間(OS)は1.5ヵ月とされる。また、現段階ではバイオマーカーによる治療は存在しない。 Delta-like Protein3(DLL3)は、正常細胞には発現しないが、小細胞肺がんに高発現するNotchリガンドであり、小細胞がん(SCLC)のマーカーとして期待されている。一方、rovalpituzumab tesirine(Rova-T)は抗DLL3抗体に細胞傷害性物質を結合させた抗体薬物複合体である。第I相試験で有効性を示したことから、オープンラベル単群第II相TRINITY試験が行われ、その結果が本年の米国臨床腫瘍学会年次総会(ASCO2018)で発表された。第16回日本臨床腫瘍学会では、米国・オハイオ州立大学のDavid Carbone氏が、その結果を発表している。・対象:DLL3を発現した(CNS転移を含む)3次治療以降(プラチナレジメン1回以上)の再発・難治SCLC・試験薬:対象患者にRova-T 0.3mg/kgを6週ごと2サイクル投与・評価項目:[主要評価項目]客観的奏効率(ORR)、全生存期間(OS)[副次的評価項目]奏効期間(DOR)、クリニカルベネフィット率(CBR)、無増悪生存期間(PFS) 主な結果は以下のとおり。・DLL3発現患者は339例登録され、そのうち高DLL3(75%以上の細胞がDLL3発現)は238例(70%)であった。・治験担当医評価のORRは18.0%、高DLL3では19.7%であった。・外部独立評価委員会のORRは12.4%、高DLL3で14.3%であった。・OS中央値は5.6ヵ月、高DLL3では5.7ヵ月であった。・治療関連有害事象は全Gradeで91%、Grade3以上で40%。多くみられた項目は光過敏症(35%)、疲労感(28%)、胸水貯留(28%)、末梢浮腫(26%)。治療中止や減量を必要とした割合は10%以下であった。■参考TRINITY試験(Clinical Trials.gov)■関連記事ASCO2016レポート 肺がん-2

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CCメールの“CC”の意味を知っていますか?【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第1回

第1回 CCメールの“CC”の意味を知っていますか?「論文・見聞・いい気分」の第1回目です。このコラムの使命は、論文へのアレルギーを払拭し、論文に慣れ親しみ、そして最終的には論文を書くことができるようになることを目指すという崇高なものであります。エッヘン! とはいえ堅苦しい内容ではなく、肩の力を抜いて読むことができるような軽妙なタッチでいきますので、よろしくお願いいたします。さて、あなたは英語の論文を読んだことがありますか? 何本の英語論文を読みましたか? 読んだこともないのに書くことができるはずはありません。まず読むことに慣れなければならないでしょう。小生の勤務する病院でも論文抄読会が定期的に開催されています。抄読会の数日前に担当者が選んだ論文のpdfがメールの添付ファイルとして参加者に送付されます。PubMedなどで検索しダウンロードしたファイルです。ペーパーレスの現代では当然かもしれませんが、私はこのメールを受けとるたびに思い出すことがあります。紹介しましょう。私が学生であったころ、30年以上昔の、昭和60年前後の時代の話です。ある教授が医学生を対象に英語論文の抄読会を開催しておりました。その時代には、すでにコピー機はあり、担当者は選んだ論文を参加者の人数分だけコピーして配布していました。その様子を見ながら、「便利だがダメな時代になったなぁ」と、その老先生自身がかつて学生時代に参加していた抄読会について語ってくれたのです。昭和35年前後の話と推察します。当時は、まず図書館に行き過去の雑誌を製本した書架から目標とする論文を探しだします。そして、貸出手続きをして自宅に持ち帰ります。なぜか? コピー機がない時代ですから、手打ちのタイプライターで論文の全文章を打ち直していたというのです。抄読会の参加者が5人であれば、5枚の紙の間に4枚のカーボン紙を挟んで打ち直していたそうです。まさにカーボンコピー (Carbon Copy)です。タイプライターで文書を作成する際に2枚の用紙の間にカーボン紙を挟むと、正副2通の文書が同時に作成できます。複写機やプリンターが発明される前の複写術です。この名残がEメールでのCCメールです。正副2通の文章を打つのではなく、抄読会の参加人数分だけ一度に打つのです。6人だと6枚目には文字があらわれず、5枚が限界とのことでした。5枚でも1文字ずつ力を込めてタイプしないと読めなかったそうです。抄読会の担当者の苦労は膨大ですが、間違いなく論文を読み、そして書く力が涵養されたことでしょう。第1回として、昔話をしました。おやすみなさい。

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ASCO2018レポート 肺がん-1

レポーター紹介2018 ASCO(American Society Clinical Oncology)Annual Meetingが、2018年6月1日~5日、米国・イリノイ州シカゴで開催された。第54回を数える今回の年次総会には、世界中からがん医療に関わる医師、看護師、薬剤師、患者、製薬企業などが多数参加しており、がんに関する幅広い研究成果や教育講演に接することができた。ここ数年、肺がん領域は毎年標準治療を変えるエビデンスが創出されているが、今年のASCOでもその勢いは続き、今年のガイドラインに掲載されうるエビデンスが多数報告された。免疫療法の到達点非小細胞肺がんの2次治療において、ニボルマブがドセタキセルに対して歴史的な勝利をおさめて3年ほどで、PD-L1高発現の患者集団の1次治療においてペムブロリズマブがプラチナ併用療法を凌駕することが示された。そして昨年末のESMO IO、今年に入ってからのAACR、そしてASCOと立て続けに、PD-L1の発現によらず、免疫チェックポイント阻害薬が1次治療を席巻するエビデンスが報告された。KEYNOTE-042PD-L1 TPS 1%以上の進行非小細胞肺がん患者を対象に、ペムブロリズマブとプラチナ併用療法を比較した第III相試験である。同様の患者集団に対しては、すでにニボルマブを用いたCheckMate 026試験が実施されており、ニボルマブは化学療法と同等であったが優越性を示すことはできなかった。KEYNOTE-042においてはそれに反して、hazard ratio 0.81(95%信頼区間:0.71~0.93)と統計学的にも有意に、ペムブロリズマブ単剤が化学療法に勝る結果が報告された。生存期間中央値では、ペムブロリズマブ群が16.7ヵ月、化学療法群が12.1ヵ月であった。CheckMate 026との違い、とくにニボルマブとペムブロリズマブの薬剤としての有効性の違いがあるのか、という点に注目が集まる結果である。試験の詳細を比較すると、KEYNOTE-042試験において、PD-L1 TPS 50%以上の患者集団の割合が高いこと、試験が免疫チェックポイント阻害薬未承認の国を中心として実施されているため、後治療でのクロスオーバーの割合が低いこと、などの点を考慮すると、薬剤の違いよりも他の相違点が結果に影響しているという考察がなされている。また、PD-L1 TPS 1~49%のサブセットにおいては、ペムブロリズマブの有効性は必ずしも化学療法よりも明らかに優れる結果ではなかったことから、化学療法実施不可の患者を除き、KEYNOTE-189で示された化学療法+ペムブロリズマブの選択が妥当とする見解が主流である。いずれにせよ、PD-L1陰性を除き、すべての非小細胞肺がん患者に対して免疫チェックポイント阻害薬単剤療法の使用を支持する結果が得られたことに高い評価が集まった。Pembrolizumab(pembro)versus platinum-based chemotherapy(chemo)as first-line therapy for advanced/metastatic NSCLC with a PD-L1 tumor proportion score(TPS)≧1%:Open-label, phase 3 KEYNOTE-042 study.(Abstract No: LBA4)Gilberto LopesKEYNOTE-407AACRで非扁平上皮非小細胞肺がんに対して実施されたKEYNOTE-189試験の結果が報告され、PD-L1の発現によらずプラチナ併用療法+ペムブロリズマブが新たな標準治療となる方向性が示された。KEYNOTE-407試験は、扁平上皮非小細胞肺がんに対して、PD-L1の発現によらずプラチナ併用療法+ペムブロリズマブの有効性を検証した第III相試験である。559人の患者を登録した本試験の結果、Co-primary endpointのOSとPFSともにペムブロリズマブ併用群が有意に生存を延長するという結果が得られた。OSではhazard ratio 0.64(95%信頼区間:0.49~0.85)、PFSではhazard ratio 0.56(95%信頼区間:0.45~0.70)であった。サブセット解析ではPD-L1の発現割合が高いほど有効性が増す傾向が示されたものの、PD-L1の発現によらない全集団でのOS、PFSの優越性が認められていることの意義は大きく、扁平上皮非小細胞肺がんの新たな標準治療が創出された試験となった。Phase3study of carboplatin-paclitaxel/nab-paclitaxel(Chemo)with or without pembrolizumab(Pembro)for patients(Pts)with metastatic squamous(Sq)non-small cell lung cancer(NSCLC).(Abstract No: 105)Luis G. Paz-AresIMpower 131PD-L1阻害薬であるアテゾリズマブとプラチナ併用療法を用いた試験のうち、扁平上皮非小細胞肺がんを対象としたものがIMpower 131試験である。本試験はアテゾリズマブ、カルボプラチン、パクリタキセルのArm A、アテゾリズマブ、カルボプラチン、アブラキサンのArm B、カルボプラチン、アブラキサンのコントロールとしてのArm Cを含む、3群のランダム化試験である。今回報告されたのは、その中でもArm BとArm Cの比較である。primary endpointであるPFSのhazard ratio 0.71(95%信頼区間:0.60~0.85)と、統計学的に有意な無増悪生存期間の延長が示された。一方、OSの中間解析も併せて報告されたがイベント数が不足しており、若干アテゾリズマブ群が良い傾向がみられたが、最終解析の結果を待つ必要がある結果であった。IMpower131: Primary PFS and safety analysis of a randomized phase III study of atezolizumab + carboplatin + paclitaxel or nab-paclitaxel vs carboplatin + nab-paclitaxel as 1L therapy in advanced squamous NSCLC.(Abstract No: LBA9000)Robert M. JotteCheckMate 227ニボルマブ、イピリムマブ併用療法、ニボルマブ、化学療法の併用療法、そして標準治療としての化学療法の3群のランダム化試験であるCheckMate 227試験からは、今回PD-L1陰性の進行非小細胞肺がん患者において化学療法と化学療法+ニボルマブを比較した解析結果が報告された。PFSのhazard ratioが0.74(95%信頼区間:0.58~0.94)と、ニボルマブと化学療法の併用によって、PD-L1陰性の患者集団においても無増悪生存期間が延長されるという結果が示されている。CheckMate 227試験に関しては、AACRにおいてTumor Mutation Burden(TMB)が高い患者集団におけるニボルマブ、イピリムマブ併用療法の良好な成績が報告されるなど、さまざまな解析が進行中である。最も重要な全集団におけるニボルマブ+化学療法の有効性に関する解析結果はまだ行われておらず、結果が待たれる。Nivolumab(Nivo)+platinum-doublet chemotherapy(Chemo)vs chemo as first-line(1L)treatment(Tx)for advanced non-small cell lung cancer(NSCLC)with<1% tumor PD-L1 expression:Results from CheckMate-227.(Abstract No: 9001)Hossein Borghaei

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「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン」5年ぶりの改訂

CKD診療ガイドラインが全面改訂 日本腎臓学会は6月、5年ぶりの改訂となる「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018」を発行した。今回は専門医だけではなく、かかりつけ医や非専門医の利用を想定して制作されており、全面改訂する際に「CKD診療ガイド2012」と「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2013」を一元化させている。 前回同様、全章がクリニカルクエスチョン(CQ)形式の構成。CKD診療ガイドライン2018の主な改訂ポイントとして“STOP-DKD宣言”で注目を集めた、糖尿病性腎臓病(DKD)が章立てられているほか、高血圧・心血管疾患(CVD)、高齢者CKDについても詳しく取り上げられている。CKD診療ガイドラインの役割 本ガイドラインはすべての重症度のCKD患者を対象とし、診療上で問題となる小児CKDの特徴と対処法、CKD患者の妊娠時についても簡潔に記載されている。ただし、末期腎不全(ESKD)に達した維持透析患者や急性腎障害(AKI)患者は除外されているため、必要に応じて他のガイドラインを参照する必要がある。本来であれば病診連携が必要とされる疾患だが、本ガイドラインは専門医が不在とする地域での、かかりつけ医によるCKD診療のサポートに配慮した構成となっている。CKD診療ガイドライン2018では75歳以上は150/90mmHg未満を推奨 CKD診療ガイドライン第4章の「高血圧・CVD」では、血圧基準値を「糖尿病の有無」「尿蛋白の有無(軽度尿蛋白[0.15g/gCr]以上を尿蛋白ありと判定)」「年齢(75歳で区分)」の3つのポイントで定めている。・75歳未満の場合 CKDステージを問わず、糖尿病および尿蛋白の有無で判定 糖尿病なし:尿蛋白(-)140/90mmHg未満、尿蛋白(+)130/80mmHg未満 糖尿病あり:尿蛋白(+)130/80mmHg未満・75歳以上の場合 糖尿病、尿蛋白の有無にかかわらず150/90mmHg未満 起立性低血圧やAKIなどの有害事象がなければ、140/90mmHg未満への降圧を目指すが、80歳以上の120/60mmHg以下での管理において、Jカーブ現象が見られたという研究報告もあることから過降圧への注意も提案されている。CKD診療ガイドライン2018では高齢者への対応に変化 CKD診療ガイドライン第12章「高齢者CKD」では、高齢者CKDの年齢が“75歳以上”と改訂されており、これは2017年に日本老年学会・日本老年医学会 高齢者に関する定義検討ワーキンググループ において、「75歳以上を高齢者」と定義付けたことが反映されている。また、同章にはフレイルに対する介入のCQが盛り込まれており、これは厚生労働省が今年度より本格実施を始めた「高齢者の低栄養防止・重症化予防等の推進」に沿った改訂であることが伺える。DKDの推奨検査項目と管理目標値 CKD診療ガイドライン第16章「糖尿病性腎臓病(DKD)」では4つのCQが挙げられており、「尿アルブミン尿の測定」「浮腫を伴うDKDへのループ利尿薬投与」「HbA1c7.0%未満」「集約的治療」を推奨している。とくに血管合併症の発症・進行抑制ならびに総死亡率抑制のために集約的治療が重要とされ、以下の管理目標値を推奨としている。・BMI 22(生活習慣の修正[適切な体重管理、運動、禁煙、塩分制限食など])・HbA1c7.0%未満(現行のガイドラインで推奨されている血糖)・収縮期血圧130mmHg未満かつ拡張期血圧80mmHg未満・LDLコレステロール120mg/dl、HDLコレステロール40mg/dl、中性脂肪150mg/dl未満(早朝空腹時) ただし、「多因子の厳格な治療を推奨することで、投与薬剤数の増加や薬剤に関連する低血糖、過降圧、浮腫、高カリウム血症などのリスクが高まることにも注意が必要であり、適切なモニタリングと患者背景や生活環境を十分に勘案するように」といった注意事項も明記されている。PKD病診連携の架け橋に 常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)は透析導入原因の第4位となる疾患であるが、指定難病のため腎臓専門医・専門医療機関への紹介が必要となる。CKD診療ガイドライン第17章-3には、かかりつけ医による診療ポイントとして「脳動脈瘤」「トルバプタンによる治療」「血圧管理」について記載されているが、詳細については「エビデンスに基づく多発性嚢胞腎(PKD)診療ガイドライン2017」を参照とされている。今後の方針 今後の方針として「同改訂委員会が継続しメディカルスタッフや患者を利用者に想定したCKD療養ガイド2018を作成、出版する」と記され、医療者と患者が一体となって治療に取り組むことで、透析導入予防や医療費抑制につながることが期待される。

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降圧薬が皮膚がんのリスク増加に関連

 米国・マサチューセッツ総合病院のK.A. Su氏らによる調査の結果、光感作性のある降圧薬(AD)による治療を受けた患者では、皮膚の扁平上皮がん(cSCC)のリスクが軽度に増加することが明らかになった。多くのADは光感作性があり、皮膚の日光に対する反応性を高くする。先行の研究では、光感作性ADは口唇がんとの関連性が示唆されているが、cSCCの発症リスクに影響するかどうかは不明であった。British Journal of Dermatology誌オンライン版2018年5月3日号掲載の報告。 研究グループは、北カリフォルニア州の包括的で統合的なhealthcare delivery systemに登録され、高血圧症に罹患した非ヒスパニック系白人のコホート研究において、ADの使用とcSCCリスクとの関連を調べた。ADの使用については電子データを用いて分析。ADは、公表論文に基づいて、光感作性(α2刺激薬、利尿薬[ループ系、カリウム保持性、サイアザイド系および配合剤])、非光感作性(α遮断薬、β遮断薬、中枢性交感神経抑制薬およびARB)または光感作性不明(ACE阻害薬、Ca拮抗薬、血管拡張薬およびその他の配合剤)に分類された。 Coxモデルを用いて補正ハザード比(aHR)と95%信頼区間(CI)を推定した。共変量は、年齢、性別、喫煙、合併症、cSCCおよび日光角化症の既往歴、調査年、医療制度の利用、医療保険会員の期間、光感作性ADの使用歴とした。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中に、cSCCを3,010例が発症した。・AD不使用群と比較し、cSCCのリスクは、光感作性AD使用歴ありの群(aHR:1.17、95%CI:1.07~1.28)、光感作性不明AD使用歴ありの群(aHR:1.11、95%CI:1.02~1.20)で増加したが、非光感作性AD使用歴ありの群では関連は認められなかった(aHR:0.99、95%CI:0.91~1.07)。・光感作性ADの処方数の増加に伴い、cSCCのリスクが軽度に増加した。1~7剤(aHR:1.12[95%CI:1.02~1.24])、8~15剤(同:1.19[1.06~1.34])、16剤以上(同:1.41[1.20~1.67])。

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治療抵抗性高血圧に、薬剤師による個別カウンセリングが有効である(解説:石上友章氏)-843

 世界の高血圧診療には、神話のような定説がある。その1つとして、『米国の黒人の高血圧は、食塩感受性で治療抵抗性である』という説がある。日本で診療している以上、この説を検証する機会は皆無だろうし、日常的にどうしても解決しなくてはならないClinical Questionとして取り上げられることもないだろう。したがって、日本人の研究者が、このCQを仮説化して臨床研究を行うこともない。しかしながら本論文のように、一流誌といわれる医学ジャーナルに、この仮説を事実として、何らかの介入によって検証する目的の、臨床研究が掲載されることは、決してまれではない。 われわれは、世界的な規模の人類遺伝学的解析によって、中央アフリカが起源とされる人類の足跡(migration)に一致した、アンジオテンシノーゲン遺伝子型の分布を明らかにした1,2)。(図)アンジオテンシノーゲン遺伝子は、高血圧症の成因に重要な、倹約遺伝子(thrifty gene)の1つであり、この研究の結果は、乾燥・高温の環境から、湿潤・低温の環境に適応していく過程で、倹約遺伝子型が淘汰された結果を観察しているといえる。そのほかに、これまでのさまざまな研究エビデンスから、ヒトのアンジオテンシノーゲン遺伝子は、食塩感受性・高血圧をもたらす倹約遺伝子の有力な1つである3-6)。しかし、人種=遺伝(子)ではない。遺伝子型が共通であれば、人種を越えて、表現型が一致する可能性がある。 本研究は、臨床試験としては、クラスターランダム化を採用した、質の高いエビデンスといえる。介入は、トレーニングされた薬剤師による、ヘルスプロモーションであり、非専門家である理容師による生活習慣の改善への動機付けと、医師とのアポイントメントの勧めを、能動的な対照に置いている。検証のしにくい研究仮説に対して、米国における特徴的な文化(Black Barbershop)を利用したうえ、ランダム化にあたっては、上記のようにクラスターランダム化の手法を用いて、治療抵抗性高血圧に対する、専門家による個別カウンセリングの有効性を証明した。 しかしこの結果が、特定の人種にだけ限定しているのかというと、疑問が残る。この研究の結果から導かれるステートメントは、本コメントのタイトルのように、より普遍化した形が望ましいのではないか。■参考1)Nakajima T, et al. Am J Hum Genet. 2002;70:108-123.2)Nakajima T, et al. Am J Hum Genet. 2004;74:898-916.3)Ishigami T, et al. Hypertension. 1997;30:1325-1330.4)Ishigami T, et al. Hypertension. 1999;34:430-434.5)Lantelme P, et al. Hypertension. 2002;39:1007-1014.6)Gociman B, et al. Kidney Int. 2004;65:2153-2160.

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床屋が医者の仕事、再び:ロス・バーバーショップ試験(解説:桑島巖氏)-841

 理髪店の店頭で、ぐるぐる回る、赤・青・白のらせん状マークは、元来理髪師が瀉血治療という医者の仕事も兼ねていたことからきているという説がある。再び床屋さんが医者の仕事にタッチするという興味ある論文が発表された。 米国の黒人男性は血圧コントロール不十分で、脳卒中や心筋梗塞などによる死亡が白人や黒人女性に比べて多い。その一因として高血圧に対する意識が低く、治療を受ける環境も十分でないことから、黒人の血圧管理の啓蒙と治療意識の促進が国策として求められている。このLos Angeles Barbershop試験はNIHの国立心肺血液研究所の支援によって行われたランダム化比較試験である。理髪店ごとにランダム化するクラスターランダム化が採用されている。 理髪店の常連客に自動血圧計によって血圧を測定してもらい、2回のスクリーニングで140mmHg以上の黒人男性を対象としている。介入群(介入理髪店群28店舗、139例)では、高血圧知識のある薬剤師による生活改善指導と降圧薬の処方を受けた。コントロール群(24店舗180例)では、理髪師が高血圧についての説明を行い、生活習慣の改善を促すとともに医療機関の受診を促した。 結果として6ヵ月後の平均血圧は、介入群では152.8mmHgから125.8mmHgに、コントロール群では154.6mmHgから145.4mmHに下降。その降圧度は各々27.0mmHg、9.3mmHgで、介入群の方が有意に大きかった。 理髪師は古来、外科治療も行っていたことは知られているが、一般人が定期的に接する理髪店が、生活習慣病の改善に寄与できる可能性を示している。 しかし、わが国とは事情が異なることも留意する必要がある。第一にわが国では職場や地域での定期健診が行き渡っており、高血圧をスクリーニングする環境が整備されているため、米国のような経済や人種による医療の恩恵に対する格差が格段はない。しかし、健康に無関心な中高年や中小企業で働く人々にとっては、高血圧を意識付ける1つの手段にはなりうる可能性がある。 本研究ではいくつかのLimitationがある。介入群では25ドル支給、薬剤費用と交通費を支給したとの記載があるが、それであれば被検者の治療に対するモチベーションも違ってくる可能性がある。また薬剤師は、米国のガイドラインに従い130mmHgを目標にしているのに対して、医師は140mmHgを降圧目標にしている可能性があり、このことが結果に影響しているかもしれない。

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米国で死亡率が増えている感染症は?/JAMA

 1980~2014年の米国における感染症死亡の動向を調べた結果、ほとんどの感染症疾患で死亡は減少していたが、郡(county)レベルでみるとかなりの格差があった。さらに同期間中に下痢症の死亡は増大していたという。米国・ワシントン大学のCharbel El Bcheraoui氏らによる調査報告で、JAMA誌2018年3月27日号で発表された。感染症はほとんどが予防可能だが、米国ではいまだに公衆衛生上の脅威とみなされている。そうした中でこれまで、郡レベルの感染症死亡の推定値は把握されていなかった。1980~2014年の下気道感染症、下痢症、HIV/AIDS、髄膜炎、肝炎、結核死亡率を推算 研究グループは、1980~2014年の下気道感染症、下痢症、HIV/AIDS、髄膜炎、肝炎、結核による年齢標準化死亡率と郡レベルの動向を、全米保健医療統計センター(National Center for Health Statistics:NCHS)の非識別死亡記録、国勢調査局(US Census Bureau)やNCHS、Human Mortality Databaseの集団計数を用いて推定した。郡レベルの感染症死亡率は、これらのデータを小地域別推定モデル(small-area estimation model)に適用して検証した。 主要評価項目は、下気道感染症、下痢症、HIV/AIDS、髄膜炎、肝炎、結核による年齢標準化死亡率で、郡、年次、性別ごとに推算し評価した。2014年の感染症死亡の主因は下気道感染症、26.87/10万人 1980~2014年に米国で記録された感染症死亡は、408万1,546例であった。 2014年の感染症死亡は11万3,650例(95%不確定区間[UI]:10万8,764~11万7,942)で、死亡率は10万人当たり34.10(95%UI:32.63~35.38)であったのに対し、1980年はそれぞれ7万2,220例(95%UI:6万9,887~7万4,712)、41.95(95%UI:40.52~43.42)であった。全体では、18.73%(95%UI:14.95~23.33)減少していた。 2014年の感染症死亡の主因は下気道感染症で(全感染症死亡数の78.80%)、死亡率は10万人当たり26.87(95%UI:25.79~28.05)であった。 すべての感染症による死亡率について、郡間にかなりの差があった。絶対死亡率の郡間のばらつきが最も大きかったのは下気道感染症で、死亡率の分布区分の差(10thパーセンタイル区分と90thパーセンタイル区分の差)は、10万人当たり24.5であった。ただし、死亡率の相対比(分布区分の10thパーセンタイル区分と90thパーセンタイル区分の比)が最も高かったのはHIV/AIDSで、10.0であった。 髄膜炎、結核の死亡率は、対象期間中すべての郡で低下していた。 しかしながら唯一、下痢症による死亡率だけは、2000~14年にかけて上昇していた。死亡率は10万人当たり2.41(95%UI:0.86~2.67)に達しており、高死亡率の郡の大部分は、ミズーリ州から米国北東部の地域にわたっていた。

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高齢・心房細動合併、日本人の拡張期心不全患者(JASPER)/日本循環器学会

 本邦における拡張期心不全(HFpEF)入院患者の現状、長期アウトカムなどは明らかになっていない。2018年3月23〜25日に大阪で開催された、第82回日本循環器学会学術集会で、北海道大学 安斉俊久氏が、「本邦における拡張期心不全の実態に関する多施設共同調査研究」JASPER試験(JApanese heart failure Syndrome with Preserved Ejection fRaction Study)の結果を初めて発表した。 解析対象は、2012年11月〜2015年3月に、全国15施設で登録されたHFpEF患者535例となった。海外研究と比較し、日本人患者では、平均年齢が高く(80歳)、BMIが低く(23.9kg/m2)と、心房細動合併が高い(61%)という特徴があった。 HFpEF患者の入院の原因は、食事のコンプライアンスの悪さが最も高く、逆に服薬コンプライアンス不良、腎障害は海外に比べ低かった。使用薬剤(経口)はループ利尿薬、β遮断薬、ARBの使用が多く、とくにARBとMRAの使用率は海外に比べ高かった。心不全の入院期間は16日と長く、総死亡率は1.3%と低かった。約40%の患者が、退院後2年以内にイベント(死亡あるいは入院)を起こし、イベントの半数は心血管系であった。長期死亡・入院の決定因子は、入院時の低収縮期血圧、血漿アルブミン低値、退院時のNYHA III〜IV、血漿BNP値であった。 日本人のHFpEF入院患者に対しては、心房細動および低栄養に焦点を当てた、予防的治療的な介入が重要となると、している。

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心不全ガイドラインを統合·改訂(後編)~日本循環器学会/日本心不全学会

 3月24日、日本循環器学会/日本心不全学会が、新たな心不全診療ガイドラインを公表した。本ガイドラインの主要な改訂ポイントを2回にわたってお伝えする。今回は後編。(前編はこちら)新たな心不全ガイドラインは診断フローチャートを簡略化 慢性心不全診断のフローチャートは、2010年版ガイドラインから大幅に簡略化された。基本的には欧州心臓病学会(ESC)の2016年版ガイドライン(Ponikowski P, et al. Eur Heart J.2016;37:2129-2200)を下敷きとしながらも、わが国の実態を踏まえ、画像診断を重視するチャートになっている。急性心不全治療のフローチャートも新規作成 「時間経過と病態を踏まえた急性心不全治療フローチャート」や、「重症心不全に対する補助人口心臓治療のアルゴリズム」の作成、「併存症の病態と治療」に関する記載の充実も新たな心不全診療ガイドラインの主要な改訂ポイントのひとつである。併存症は、心房細動、心室不整脈、徐脈性不整脈、冠動脈疾患、弁膜症、高血圧、糖尿病、CKD・心腎症候群、高尿酸血症・痛風、COPD・喘息、貧血、睡眠呼吸障害について記載されている。心不全合併高血圧には、4種薬剤が推奨クラスI、エビデンスレベルA 新たな心不全診療ガイドラインでは、高血圧を合併したHFrEFに対する薬物治療は、ACE阻害薬、ARB(ACE阻害薬に忍容性のない患者に対する投与)、β遮断薬、MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)の[推奨クラス、エビデンスレベル]が[I、A]、利尿薬が同上[I、B]、カルシウム拮抗薬が同上[IIa、B]とされた。なお、長時間作用型のジヒドロピリジン系以外のカルシウム拮抗薬は陰性変力作用のため使用を避けるべきと注記されている。 高血圧を合併したHFpEFに対する治療は、適切な血圧管理が同上[I、B]、基礎疾患の探索と治療が同上[I、C]とされた。心不全合併糖尿病には、包括的アプローチとSGLT2阻害薬(エンパグリフロジン、カナグリフロジン)を推奨 心不全を合併した糖尿病に対する治療は、食事や運動など一般的な生活習慣の改善も含めた包括的アプローチが同上[I、A]、SGLT2阻害薬(エンパグリフロジン、カナグリフロジン)が同上[IIa、A]、チアゾリジン薬が同上[III、A]とされた。CKD合併心不全は、CKDステージで推奨レベルが異なる CKD合併心不全に対する薬物治療は、CKDステージ3とステージ4~5に分けて記載されている。 CKDステージ3においては、β遮断薬、ACE阻害薬、MRAが同上[I、A]、ARBが同上[I、B]、ループ利尿薬が同上[I、C]となっている。CKDステージ4~5においては、β遮断薬が同上[IIa、B]、ACE阻害薬が同上[IIb、B]、ARB、MRAが同上[IIb、C]、ループ利尿薬が同上[IIa、C]とされた。新たな心不全ガイドラインでは血清尿酸値にも注目 心不全を伴う高尿酸血症の管理においては、血清尿酸値の心不全の予後マーカーとしての利用が[IIa、B]、心不全患者における高尿酸血症への治療介入が[IIb、B]とされた。国内未承認の治療法も参考までに紹介 海外ではすでに臨床応用されているにもかかわらず、国内では未承認の治療薬やデバイスがある。ARB/NEP阻害薬(ARNI)や、Ifチャネル阻害薬などだ。これらの薬剤は「今後期待される治療」という章で、開発中の治療と並び紹介されている。

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スペインにおける妊娠中の抗てんかん薬使用に関する比較研究

 妊娠中の抗てんかん薬処方パターンは、変化してきているが、スペインでどの程度の変化が起こっているかは、よくわかっていない。妊娠中の発作をコントロールするための新薬の有効性は重要であり、長年にもわたり医師がこれらの新薬を使ってきたことによって、その処方パターンは変化している可能性がある。スペイン・Hospital Mutua de TerrassaのM. Martinez Ferri氏らは、これらの疑問を評価するため、12年にわたって収集したスペインEURAPレジストリの結果を報告した。Neurologia誌2018年3月号の報告。 インフォームドコンセントに署名した後、患者はレジストリに登録され、妊娠初期、妊娠第2期、第3期の終わり、出産後、出産1年後に評価が行われた。抗てんかん薬、てんかんの種類、妊娠1期当たりおよび妊娠期間中全体での発作頻度、妊娠中の発作のない頻度、先天性奇形の頻度について分析を行った。2001年6月~2007年10月(前期)と2008年1月~2015年5月(後期)のデータの比較を行った。 主な結果は以下のとおり。・前期より304報、後期より127報の単剤療法の文献について比較を行った。・カルバマゼピン、フェニトイン、フェノバルビタールの使用が減少し、レベチラセタムの使用が明らかに増加した。また、バルプロ酸の使用がわずかに減少し、ラモトリギンおよびoxcarbazepineの使用がわずかに増加した。・カルバマゼピンおよびバルプロ酸で治療したてんかんの種類に変化は認められなかったが、後期においてラモトリギンで治療した全般てんかん症例は少なかった。・この傾向は、発作頻度の有意な変化とは関連が認められず、妊娠第3期における新規発作に対するより良いコントロールと関連が認められた。・発作コントロールに関して、レベチラセタムは、カルバマゼピンやバルプロ酸と同等であり、ラモトリギンよりも有効であった。・全般てんかんは、レベチラセタムで治療された症例の64%を占めていた。 著者らは「スペインにおける妊娠中の抗てんかん薬処方パターンは変化しており、カルバマゼピン、フェニトイン、フェノバルビタールの使用が減少していた。全般てんかんに対するラモトリギン使用が少ないため、この変化はてんかんの種類の影響を受けている。レベチラセタムは、古典的な抗てんかん薬と同様の発作コントロールを示し、ラモトリギンよりも効果的かつ良好であった」としている。■関連記事妊娠可能年齢のてんかん女性にはレベチラセタム単独療法がより安全「妊娠、抗てんかん薬」検索結果は患者に役立つか?新規抗てんかん薬の催奇形性リスクは

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成人アトピー、日米欧での有病率は約2~5%

 成人におけるアトピー性皮膚炎(AD)の有病率については認識に違いがあることから、フランス・ナント大学病院のSebastien Barbarot氏らは、米国、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、英国および日本においてWEBベースの国際横断研究を行った。その結果、各国における成人のAD有病率は2.1~4.9%で、評価尺度または地域に関係なく重症ADの割合は低いことが示された。Allergy誌オンライン版2018年2月13日号掲載の報告。成人アトピーの有病率を米国・カナダ・EU・日本で推定 研究グループは、成人におけるAD有病率を全体および重症度別に推定する目的で、WEBベースの国際横断研究を行った。 オンライン回答者には、ADの確認と重症度評価のためのアンケートを送付した。各国の参加者数は人口統計学的に割り当てた。ADの確認は、modified UK Working Party/ISAAC基準で陽性および医師によるAD診断歴の自己報告に基づいた。ADの治療を受けていると報告したADを有する参加者の割合を算出し、有病率の推定に用いた。重症度の評価尺度は、患者によるアトピー性皮膚炎評価スコア(PO-SCORAD)、患者による湿疹評価スコア(PO-EM)、および患者による全般評価(PGA)を用いた。 成人アトピーの国際横断の有病率を推定した主な結果は以下のとおり。・成人アトピーの時点有病率(有病者全体/治療中の集団)は、米国(4.9%/3.9%)、カナダ(3.5%/2.6%)、EU(4.4%/3.5%)および日本(2.1%/1.5%)であった。・成人アトピーの有病率は、概して女性より男性で低く、加齢とともに低下した。・成人アトピーの有病率は、各国内で地域による変動性が観察された。・成人アトピーの重症度は評価尺度および地域によって変化したが、重症ADの割合は評価尺度または地域に関係なく軽症および中等症ADの割合より低かった。

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複雑性尿路感染症に対するメロペネム/vaborbactamの効果(解説:吉田 敦 氏)-826

 多剤耐性グラム陰性桿菌、とくにカルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌(CPE)の増加と蔓延は、抗菌薬療法の限界を示唆する耐性菌、いわゆる「悪魔の耐性菌」として今や人類の脅威となっている。現在使用できる抗菌薬が限られている中で、セリン型のクラスAおよびクラスC βラクタマーゼを阻害するボロン酸であるvaborbactamとカルバペネム(メロペネム)を配合したメロペネム/vaborbactam(以下MEPM/VBT)が登場し、体内動態に関する第I相試験が行われていたが、今回第III相試験の結果が発表された。 本試験は国際多施設参加ランダム化比較試験であり、18歳以上の複雑性尿路感染症あるいは腎盂腎炎の症例を無作為にMEPM/VBT投与群(2g/2gを3時間かけて投与、1日3回)とピペラシリン/タゾバクタム(PIPC/TAZ)投与群(4g/0.5gを30分で投与、1日3回)に割り付けた。15回以上投与した後、あらかじめ定めた臨床的な改善基準を満たした場合、経口のレボフロキサシンに変更可能とし、治療期間は計10日間とした。primary end pointにはFDA基準(臨床的改善・治癒と、静注薬終了時の尿細菌数が104 CFU/mL未満)とEMA(欧州医薬品庁)基準(治療終了後に治癒確認を目的に診察した際の尿細菌数が103 CFU/mL未満)を用いた。 最終的に17ヵ国550例を対象とすることができ、272例がMEPM/VBT投与群に、273例がPIPC/TAZ投与群に割り付けられた。このうち腎盂腎炎は59%、尿中菌数が105 CFU/mL以上であったのは69%であり、原因微生物のうち65%は大腸菌、15%はK. pneumoniaeであった。なお大腸菌のうちPIPC/TAZ耐性率は5%、MEPM耐性菌はなく、K. pneumoniaeのうちPIPC/TAZ耐性率は42%、MEPM耐性率は5%であった。Primary end pointを達成した成功率は、FDA基準ではMEPM/VBT群98.4%、PIPC/TAZ群94.0%であり、MEPM/VBTはPIPC/TAZに非劣性であるばかりか、それよりも優れていた。EMA基準では、MEPM/VBT群66.7%、PIPC/TAZ群55.7%であり、これでも非劣性が判明した。有害事象はMEPM/VBT群39.0%、PIPC/TAZ群35.5%で報告されたが、抗菌薬に関連したものはそれぞれ15.1%、12.8%であり、重度のものは2.6%、4.8%であった。MEPM/VBT群で多かったのは頭痛や下痢、ALT上昇などであったが、副作用のために投与を中止したのは2.6%とPIPC/TAZ群の5.1%より少なかった。 今回の報告は、βラクタマーゼ・カルバペネム配合剤のヒト感染症例でのランダム化比較試験としては、初めてのものである。この結果を受けて、FDAは2017年8月に成人の複雑性尿路感染症を対象に本剤を認可した(Vabomere)。ただし本試験にはいくつかの限界が存在する。SIRSの基準を満足している割合が1/3以下と高くないこと、原因微生物がメロペネム耐性菌である割合が低く(PIPC/TAZ耐性率は高い)、そもそもカルバペネム耐性菌を主対象とした研究でないことである。そしてこれまでの検討で、MEPM/VBTはCPEのうちKlebsiella pneumoniae Carbapenemase(KPC)には有効であるが、クラスBのメタロβラクタマーゼ産生菌(代表的なのはNDM)にはあまり有効でないことが指摘されている1)。カルバペネム耐性腸内細菌科細菌による複数の感染症に対し、本剤の有効性を調べた続発試験(TANGO II)が行われたとも聞く。KPCが多い地域と、メタロβラクタマーゼ産生菌が多い本邦やアジアでは、本剤が適応となる状況は異なると思われる。メタロβラクタマーゼ産生菌に使用できる選択肢が増えることが、さらに望まれる状況にある。

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ミトコンドリア病〔mitochondrial disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義ミトコンドリア病は、ヒトのエネルギー代謝の中核として働く細胞内小器官ミトコンドリアの機能不全により、十分なATPを生成できずに種々の症状を呈する症候群の総称である。ミトコンドリアの機能不全を来す病因として、電子伝達系酵素、それを修飾する核遺伝子群、ピルビン酸代謝、TCAサイクル関連代謝、脂肪酸代謝、核酸代謝、コエンザイムQ10代謝、ATP転送系、フリーラジカルのスカベンジャー機構、栄養不良による補酵素の欠乏、薬物・毒物による中毒などが挙げられる。■ 疫学ミトコンドリア病の有病率は、小児においては10万人当たり5~15人、成人ではミトコンドリアDNA異常症は10万人当たり9.6人、核DNA異常症は10万人当たり2.9人と推計されている1)。一方、ミトコンドリア脳筋症(MELAS)で報告されたミトコンドリアDNAのA3243G変異の保因者は、健常人口10万人当たり236人という報告があり2)、少なくとも出生10万人当たり20人がミトコンドリア病と推計されている。■ 病因ミトコンドリアは、真核細胞のエネルギー産生を担うのみではなく、脂質、ステロイド、鉄および鉄・硫黄クラスターの合成・代謝などの細胞内代謝やアポトーシス・カルシウムシグナリングなどの細胞応答など、多彩な機能を持つオルガネラであり、核と異なる独自のDNA(ミトコンドリアDNA:mtDNA)を持っている。しかし、このmtDNAにコードされているのは13種類の呼吸鎖サブユニットのみであり、これ以外はすべて核DNA(nDNA)にコードされている。ミトコンドリアに局在する呼吸鎖複合体は、電子伝達系酵素IからIV(電子伝達系酵素)とATPase(複合体V)を指し、複合体IIを除き、mtDNAとnDNAの共同支配である。これらタンパク複合体サブユニットの構造遺伝子以外に、その発現調節に関わる多くの核の因子(アッセンブリー、発現、安定化、転送、ヘム形成、コエンザイムQ10生合成関連)が明らかになってきた。また、ミトコンドリアの形態形成機構が明らかになり、関連するヒトの病気が見つかってきた。ミトコンドリア呼吸鎖と酵素欠損に関連したミトコンドリア病の原因を、ミトコンドリアDNA遺伝子異常(図1)、核DNA遺伝子異常(図2)に分けて示す。図1 ミトコンドリアDNAとミトコンドリア病で報告された遺伝子異常画像を拡大する図2 ミトコンドリア病で報告された核DNAの遺伝子異常画像を拡大する■ 症状本症では、あらゆる遺伝様式、症状、罹患臓器・組織、重症度の組み合わせも取り得る点を認識することが重要である(図3)。エネルギーをたくさん必要とする臓器の症状が出やすい。しかし、本症は多臓器症状が出ることもあれば、単独の臓器障害の場合もあり、しかも、その程度が軽症から重症まで症例ごとに症状が異なる点が、本症の診断を難しくしている。画像を拡大する■ 分類表にミトコンドリア病の分類を示す。ミトコンドリア病の分類は、I 臨床病型による分類、II 生化学的分類、III 遺伝子異常による分類の3種に分かれている。それぞれ、オーバーラップすることが知られているが、歴史的にこの分類が現在も使用されている。表 ミトコンドリア病の分類I 臨床病型による分類1.MELAS:mitochondrial myopathy, encephalopathy, lactic acidosis and stroke-like episodes2.CPEO/KSS:chronic progressive external ophthalmoplegia / Kearns Sayre syndrome3.Leigh脳症   MILS:maternally inherited Leigh syndrome   核遺伝子異常によるLeigh脳症4.MERRF:myoclonus epilepsy with ragged-red fibers5.NARP:Neurogenic atrophy with retinitis pigmentosa6.Leber遺伝性視神経萎縮症7.MNGIE:mitochondrial neurogastrointestinal encephalopathy syndrome8.Pearson骨髄膵症候群9.MLASA:mitochondrial myopathy and sideroblastic anemia10.ミトコンドリアミオパチー11.先天性高乳酸血症12.母系遺伝を示す糖尿病13.Wolfram症候群(DiDmoad症候群)14.autosomal dominant optic atrophy15.Charcot-Marie-Tooth type 2A16.Barth症候群 II 生化学的分類1.基質の転送障害1)carnitine palmitoyltransferase I、II欠損症2)全身型カルニチン欠乏症3)organic cation transporter2欠損症4)carnitine acylcarnitine translocase欠損症5)DDP1欠損症2.基質の利用障害1)ピルビン酸代謝   Pyruvate carboxylase欠損症   PDHC欠損症2)脂肪酸β酸化障害3)TCAサイクル関連代謝   succinate dehydrogenase欠損症   fumarase欠損症   α−ketoglutarate dehydrogenase欠損症4)酸化的リン酸化共役の異常   Luft病5)電子伝達系酵素の異常   複合体I欠損症   複合体II欠損症   複合体III欠損症   複合体IV欠損症   複合体V欠損症   複数の複合体欠損症6)核酸代謝7)ATP転送8)フリーラジカルのスカベンジャー9)栄養不良による補酵素の欠乏10)薬物・毒物による中毒III 遺伝子異常による分類1.mtDNAの異常1)量的異常(mtDNA欠乏)   薬剤性(抗ウイルス剤による2次的減少)   γDNApolymerase阻害   核酸合成障害   遺伝性(以下の項目参照)2)質的異常   単一欠失/重複   多重欠失(以下の項目参照)   ミトコンドリアリボソームRNAの点変異   ミトコンドリア転移RNAの点変異   ミトコンドリアタンパクコード領域の点変異2.核DNAの異常1)酵素タンパクの構成遺伝子の変異   電子伝達系酵素サブユニットの核の遺伝子変異2)分子集合に影響を与える遺伝子の異常   (SCO1、SCO2、COX10、COX15、B17.2L、BSL1L、Surf1、LRPPRC、ATPAF2など)3)ミトコンドリアへの転送に関わる遺伝子の異常   (DDP1、OCTN2、CPT I、 CPT II、Acyl CoA synthetase)4)mtDNAの維持・複製に関わる遺伝子の異常   (TP、dGK、POLG、ANT1、C10ORF2、ECGF1、TK2、SUCLA2など)5)mitochondrial fusion に関わる遺伝子の異常   (OPA1、MFN2)6)ミトコンドリアタンパク合成   (EFG1)7)鉄恒常性   (FRDA、ABC7)8)分子シャペロン   (SPG7)9)ミトコンドリアの保全   (OPA1、MFN2、G4.5、RMRP)10)ミトコンドリアでの代謝酵素欠損   (PDHA1、ETHE1)■ 予後臨床試験で効果が証明された薬物治療は、いまだ存在しない。2012年に発表されたわが国のコホート研究では、一番症例数の多いMELASは、発症して平均7年で死亡している。また、その内訳は、小児型MELASで発症後平均6年、成人型MELASでは発症後平均10年で死亡している。そのほか、小児期に発症するLeigh脳症では、明確な疫学研究はないものの、発症年齢が低ければ低いほど早期に死亡することが知られている。いずれにしても、慢性進行性に経過する難病で、多くは寝たきりとなり、心不全、腎不全、多臓器不全に至り死亡する重篤な疾患である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)従来、用いられてきた診断までの方法を図4に示す。臨床症状からどの病気にも当てはまらない場合は、必ずミトコンドリア病もその鑑別に挙げることが大切である。代謝性アシドーシスも本症でよくみられる所見であり、アニオンギャップが20以上開大すれば、アシドーシスの存在を疑う。乳酸とピルビン酸のモル比(L/P比)が15以上(正常では10)、ケトン体比(3-hydroxybutyrate/acetoacetate:正常では33))が正常より増加していれば、1次的な欠損がミトコンドリアマトリックスの酸化還元電位の異常と推測できる。頭部単純CT検査では、脳の萎縮や大脳基底核の両側対称性石灰化などが判明することが多く、その場合、代謝性アシドーシスの存在を疑う根拠となる。頭部MRI検査では、脳卒中様発作を起こす病型であれば、T1で低吸収域、T2、Flairで高吸収域の異常所見がみられる。MELASでは、異常画像は血管支配領域に合致せず、時間的・空間的に出現・消失を繰り返す。脳卒中様発作のオンセットの判断は、DWI・ADC・T2所見を比較することで推測できる。MRSでの乳酸の解析は、高乳酸髄液症の程度および病巣判断に有用である。また、脳血流を定量的に判定できるSPM-SPECT解析は、機能的脳画像として病巣診断、血管性認知症、脳血流の不均衡分布の判断に有用である。画像を拡大する■ 筋生検最も診断に有用な特殊検査は、筋生検である。筋病理では、Gomori trichrome変法染色で、増生した異常ミトコンドリアが赤ぼろ線維(RRF:ragged-red fiber)として確認でき、ミトコンドリアを特異的に染色するコハク酸脱水素酵素(SDH)の活性染色でも濃染する。RRFがなくても、チトクロームC酸化酵素(COX)染色で染色性を欠く線維やSDHの活性染色で動脈壁の濃染(SSV:SDH reactive vessels)を認めた場合、本症を疑う根拠となる。■ 生化学的検査生検筋、生検肝、もしくは培養皮膚線維芽細胞からミトコンドリアを分離して、酸素消費速度や呼吸鎖活性、blue-native gelによる呼吸鎖酵素タンパクの質および量の推定を行い、生化学的に呼吸鎖異常を検証する。場合によっては、組織内のカルニチン、コエンザイムQ10、脂肪酸の組成分析の必要性も出てくる。大切なことは、ミトコンドリア機能のどの部分の、質的もしくは量的異常かを同定することである。この作業の精度により、その後の遺伝子解析手法への最短の道筋が立てられる。■ 遺伝子検査ミトコンドリア病の遺伝子検索は、mtDNAの検索に加えて新たに判明したnDNAの検索も行わなければいけない。疾患頻度の多いmtDNAの異常症の検出には、体細胞の分布から考え、非侵襲的検査法としては、尿細管剥奪上皮を用いた変異解析が最も有用である。尿での変異率は、骨格筋や心筋、神経組織との相関が非常に高い。一方、ほかの得られやすい臓器としては、血液(白血球)、毛根、爪、口腔内上皮細胞なども有用であるが、尿細管剥奪上皮と比較すると変異率として最大30~40%ほどの低下がみられる。mtDNAの異常症を疑った場合、生涯を通じて再生できない臓器もしくは罹患臓器由来の検体を、遺伝子検査の基本とすることが望ましい。■ 乳酸・ピルビン酸、バイオマーカー(GDF15)の測定従来、乳酸・ピルビン酸がミトコンドリア病のバイオマーカーとして用いられてきた。しかし、これらは常に高値とは限らず、血液では正常でも、髄液で高値をとる場合も多い。さらに、乳幼児期の採血では、採血時の駆血操作で2次的に高乳酸値を呈することもあり(採血条件に由来する高乳酸血症)、その場合は、高アラニン血症の有無で高乳酸血症の存在を鑑別しなければならない。そこで、最近見いだされ、その有用性が検証されたバイオマーカーが「GDF15」である。このマーカーは、感度、特異度ともに98%と、あらゆるMELASの診断に現在最も有用と考えられている3)。最新の診断アルゴリズムを図5に示す4)。従来用いられていた乳酸、ピルビン酸、L/P比、CKと比較しても、最も臨床的に有用である。さらに、GDF15は髄液にも反映しており、この点で髄液には分泌されないFGF21に比較して、より有用性が高い。画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)本症に対する薬物治療の開発は、多くの国で臨床試験として行われているが、2018年2月1日時点で、臨床試験で有効性を証明された薬剤は世界に存在しない。欧州では、Leber遺伝性視神経萎縮症に対して限定的にidebenone(商品名:Raxone)が、米国では余命3ヵ月と宣告されたLeigh脳症に対するvatiquinone(EPI-743)がcompassionate useとして使用されている。わが国では、MELASに対して、脳卒中様発作時のL-アルギニン(同:アルギU)の静注および発作緩解期の内服が、MELASの生存予後を大きく改善しており、適応症の申請を準備している。4 今後の展望創薬事業として、MELASに対するタウリン療法、Leigh脳症に対する5-ALAおよびEPI-743の臨床試験が終了しており、現在、MELAS/MELA Leigh脳症に対するピルビン酸療法が臨床試験中である。また、創薬シーズとして5-MAやTUDCAなどの候補薬も存在しており、今後有効性を検証するための臨床試験が組まれる予定である。5 主たる診療科(紹介すべき診療科)本症は臨床的に非常に多様性を有し、発症年齢も小児から成人、罹患臓器も神経、筋、循環器、腎臓、内分泌など広範にわたる。診療科としては、小児科、小児神経科、神経内科、循環器内科、腎臓内科、耳鼻咽喉科、眼科、精神科、老年科、リハビリテーション科など多岐にわたり、最終的には療養、療育施設やリハビリ施設の紹介も必要となる。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報小児慢性特定疾患情報センター ミトコンドリア病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター ミトコンドリア病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報:障害者手帳[肢体不自由、聴覚、視覚、心臓、腎臓、精神]、介護申請など)患者会情報日本ミトコンドリア学会ホームページ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報:ドクター相談室、患者家族の交流の場・談話室など)ミトコンドリア病患者・家族の会(MCM家族の会)(ミトコンドリア病患者とその家族および支援者の会)1)Gorman GS, et al. Ann Neurol. 2015;77:753-759.2)Manwaring N, et al. Mitochondrion. 2007;7:230-233.3)Yatsuga S, et al. Ann Neurol. 2015;78:814-823.4)Gorman GS, et al. Nat Rev Dis Primers. 2016;2:16080.公開履歴初回2018年3月13日

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