115.
レポーター紹介今年のASCOもCOVID-19の影響でVirtual meetingとなり、2年連続Web開催となった。2021年6月4日から始まったが、いつものようなワクワク感がない。今年は、肝胆膵領域でそこまで面白い演題がなかったこともあるのだが、海外の先生と接する機会もなく質問もできないので、演題を生で聞かなきゃという気持ちに焦りもなく、あとでon demandで見ようという感じになる。また、ASCO期間中に集中して行われていたmeetingも数少なくなり、ASCOが終わって1ヵ月たってもだらだらと行われている感じである。そして、気が付いたらESMO-GI(WCGC)まで終わっているという状況であり、ASCOだという華やかさがなく、寂しさを感じた。やはり顔を見ながら、お互いの意見を突き付けてdiscussionする機会が欲しい。いろんな先生と交流の機会があることで、やる気も高まってくるものである。しかも、昨年、ASCO memberは参加費が不要だったので、今年も不要になることを信じて事前登録もしていなかったため、ASCO当日、慌てて全額を支払い、Virtual meetingに参加することとなった。当日参加は1,395ドルもかかり、非常に痛い出費である。「くっそー、COVIDの野郎め」と八つ当たりしながら、ChicagoでDeep-Dish Pizzaを食べている自分をイメージして、いつものDomino’s Pizzaを食べつつ、今年のASCOを振り返りたいと思う。肝臓がんさて、本題です。まずは肝臓がんから解説します。今年の肝胆膵領域はあまり面白い演題がなかったなというのが本音である。肝細胞がん領域では、Oral presentationに2演題が選ばれていたが、Poster discussionでは1演題も採択されていなかった。また、今年発表されるであろうと期待されていたデュルバルマブ+tremelimumabの第III相試験(HIMALAYA)やペムブロリズマブ+レンバチニブの第III相試験(LEAP-002)、tislelizumabの第III相試験(RATIONALE-301)などの大規模試験の結果を期待していたのだが、報告されなかった。そして、今年も中国からFOLFOX肝動注化学療法の第III相試験が2演題であり、中国1国のみでいくつもの第III相試験を発表しており、どんなに肝細胞がんの患者さんがいるのだろうかと感じずにはいられなかった。進行肝細胞がんに対するオキサリプラチン+フルオロウラシル併用肝動注療法とソラフェニブ療法の比較:ランダム化第III相試験(The FOHAIC-1 study)著者:Ning Lyu, et al.、Oral presentation本試験は、肝内腫瘍量が多い進行肝細胞がん症例に対する1次薬物療法として、FOLFOX肝動注療法の有効性を、ソラフェニブをコントロールとして検証するランダム化第III相試験(FOHAIC-1試験)である。主な適格基準はBarcelona Clinic Liver Cancer(BCLC)Stage BまたはC、Child-Pugh分類A~B7、Eastern Cooperative Oncology Group(ECOG)-Performance Status(PS)0~2などで、肝動注群とソラフェニブ群に1:1で割り付けられた。FOLFOX肝動注療法は、オキサリプラチン130mg/m2、ロイコボリン(LV)200mg/m2、5-フルオロウラシル(5-FU)400mg/m2および5-FU 2,400mg/m2 46時間持続投与を3週間ごとに行い、ソラフェニブ群はソラフェニブ1回400mgを1日2回内服した。ソラフェニブ群の全生存期間(OS)の中央値を8.0ヵ月、肝動注群を14ヵ月、検出力90%、両側α=0.05として、36ヵ月間の登録期間、最大60ヵ月の追跡期間として、247例の登録が必要となり、260例の登録を目標症例数として設定された。登録患者は肝動注群(130例)とソラフェニブ群(132例)に割り付けられた。患者背景は両群において有意な差は認めなかった。本試験の治療成績を表に示す。主要評価項目であるOSは、ソラフェニブ群と比べて肝動注群で有意に良好であった。薬物療法によるダウンステージングは、肝動注群で16例(12.3%)、ソラフェニブ群で1例(0.8%)に認めた。また、腫瘍の肝占拠割合が50%以上または門脈本幹に腫瘍栓を有する高リスク群のOSも肝動注群で有意に良好であった。RECISTv1.1による客観的奏効割合(ORR)は肝動注群で有意に良好だった(p<0.001)。薬剤に関連したGrade3以上の有害事象はむしろソラフェニブ群で有意に多く、主な有害事象は、肝動注群のオキサリプラチン投与に伴う腹痛(40.6%)であったが、投与による有害事象で肝動注療法を中止した患者はいなかった。画像を拡大するこのように、肝内病変が進行した肝細胞がん患者を対象として、FOLFOX肝動注療法はソラフェニブと比較した第III相試験において、有意に良好なOSとORRが示された。かなり予後の厳しい肝腫瘍量が50%以上の症例や門脈本幹に腫瘍栓を有する症例でも有効であり、ダウンステージできた症例、局所療法にコンバージョンできた症例も高率に認められ、有害事象も低頻度であり、今後が期待される結果であった。しかし、本試験は中国単施設の結果で、B型肝炎の患者が90%前後を占める対象で行われた試験であり、解釈には注意が必要であることや、現在の標準治療であるアテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法と比較してどうなのかなど疑問点も残っており、この試験の結果に基づきFOLFOX肝動注療法が標準治療と位置付けられるまでには至っていない。術前補助療法としてのFOLFOX肝動注療法は、ミラノ基準外の切除可能BCLC Stage A/Bの肝細胞がん患者の予後を改善させた:多施設共同ランダム化第III相試験の中間解析著者:Li S, et al.、Oral presentationミラノ基準外のBCLC Stage A/Bの切除可能肝細胞がんに対して、術前補助療法FOLFOX肝動注療法を行った患者と肝動注療法は行わずに切除した患者の有効性と安全性を、多施設共同ランダム化第III相試験にて検討した。ミラノ基準外の切除可能BCLC Stage A/Bの肝細胞がん患者に対して、術前補助療法としてFOLFOX肝動注療法を施行した群と、術前補助療法を行わずに直接手術を行う群に1:1でランダムに割り付けられた。術前肝動注群は2サイクルのFOLFOX肝動注療法を施行し、忍容性があれば抗腫瘍効果を確認し、完全奏効/部分奏効が得られていれば切除、安定であれば追加の2サイクルの肝動注療法を行い、増悪の場合には次治療へ移行した。主要評価項目は全生存期間(OS)、副次評価項目は無増悪生存期間(PFS)、無再発生存期間(RFS)と安全性とした。切除可能肝細胞がん患者208例が登録され、術前化療群99例、切除先行群100例が解析対象となった。患者背景において、両群間に差は認めなかった。本試験の治療成績を表に示す。術前化療群では、ORR 63.6%、病勢制御割合(DCR)96.0%で、88例(88.9%)で肝切除が施行された。術前化療群は、脈管浸潤の割合が11.4%であり、切除先行群(39.0%)と比べて低値であった。OSとPFSは術前化療群で有意に良好であったが、RFSは両群間に有意差はなかった。FOLFOX肝動注療法群の有害事象は、Grade1を59.6%、Grade2を26.3%に認めたが、Grade3以上の重篤な有害事象は認めなかった。なお、OSとPFSのサブグループ解析では、50歳以下の若い患者や腫瘍が単発である患者、AFPが400ng/mL以上と高い患者、HBV-DNAが低い患者においてより良好な結果が示された。画像を拡大する著者らは、FOLFOXによる肝動注療法は、肝細胞がんに対して効果的で安全であること、ミラノ基準外の切除可能BCLC A/Bの肝細胞がん患者に対して生存期間の延長効果が見込まれることを結論付けた。本試験の結果、肝細胞がんの術前補助療法として、FOLFOX肝動注療法の有用性が示された。この演題のDiscussantは、39%の症例が多発例であり、通常、切除しないような症例が多数含まれていることや中国の5施設の結果であり、B型肝炎の患者が中心である点については注意して解釈すべきであり、日常診療に取り入れる前に世界規模または欧米での検証が必要であろうとコメントしていた。このように、中国からFOLFOX肝動注療法に関連する2演題が発表された。ともに、中国1ヵ国での第III相試験であり、全世界で受け入れられるには、さらなる試験が必要である。しかし、これだけの試験を中国だけで、症例集積できることが驚きである。しかも、この試験のほかにも、昨年、sintilimab+ベバシズマブ-バイオシミラーの第III相試験(ORIENT-32)、donafenibの第III相試験、apatinibの第III相試験など、進行がんでも中国1ヵ国で行った試験の結果が報告されており、計り知れないほど患者さんがいて、臨床試験に参加してくれる環境ができていることを考慮すると、今後の肝細胞がんの薬物療法の開発において、中国の存在が重要になってくることが改めて予想された。また、この数年、アジアを中心に肝細胞がんに対する肝動注療法の有用性を示唆する結果が報告されてきており、肝細胞がんの薬物療法において、肝動注療法が再度、見直される日が来る可能性も十分にあることが示された。余談であるが、Q&Aセッションで、抗がん剤の投与方法についてDiscussionがあった。通常、米国では肝動注を行う場合に抗がん剤が100mL程度注入できるポンプを皮下に埋め込んで投与を行うことが多い(ポンプは結構な大きさで、皮下に埋められる米国人患者もすごいのではあるが…)。中国ではポンプの合併症はどうかという質問があり、演者らはポンプを使用していないことを説明し、腫瘍の多いところにカテーテルを挿入して投与しているとのことであった。柔軟に対応が可能で、より効率よく抗がん剤が投与できることを解説していたが、では、カテーテルを留置せず、どうやって2日間のFOLFOXを投与しているのか、私には謎であった。質問できる知り合いの先生が中国にはいなかったため答えはわからないのであるが、おそらく3週に1回、血管造影を行い、カテーテルを挿入した後は2日間、動かずに安静にして投与しているのかなと勝手に想像しているところである。胆道がん胆道がんでは、ナノリポソーマルイリノテカン(Nal-IRI)+5-フルオロウラシル(5-FU)+ロイコボリン(LV)と5-FU/LVを比較したランダム化第II相試験がOral presentationで1演題、取り上げられていた。非常に期待できる2次治療のレジメンが報告されたが、遺伝子異常に基づく分子標的治療薬の開発に移行していた胆道がんが、また細胞障害性抗がん剤の開発に戻るのかなと、少し不安も隠せなかった。ゲムシタビン+シスプラチン併用療法後の転移性胆道がん患者に対するリポソーム型イリノテカンとフルオロウラシル、ロイコボリンの併用療法:多施設ランダム化比較第IIb相試験(NIFTY試験)著者:Yoo C, et al.、Oral presentation切除不能・転移性胆道がんに対してゲムシタビン+シスプラチン療法(GC)後に進行した症例の2次治療の標準治療は確立していない。ABC-06試験によって、2次治療としてFOLFOX療法を行うことで、積極的な症状コントロールのみを行った患者と比べて、OSが延長したことが示されたが、まだその治療成績は十分とは言い難い。ゲムシタビン耐性の膵がんに対するナノリポソーマルイリノテカン(Nal-IRI)+5-FU/ロイコボリン(LV)療法は、NAPOLI-1試験の結果、プラセボと比較してPFSとOSの延長が示された。胆道がんでも本レジメンによる治療が有効である可能性がある。1次治療でGC療法を行った転移性胆道がん患者を対象として、2次治療としてNal-IRI+5-FU/LVと5FU/LVを比較した多施設共同非盲検ランダム化比較第IIb相試験(NIFTY試験)が行われた。対象は、1次治療でGC療法を行って病勢の進行が確認された胆道がん患者174例であった。患者は、Nal-IRI(70mg/m2、90分)+5-FU(2400mg/m2、46時間)/LV(400mg/m2、30分)を2週に1回投与する群と、5-FU(2400mg/m2、46時間)/LV(400mg/m2、30分)を2週に1回投与する群に、1:1でランダムに割り付けられた。主要評価項目は盲検下の独立中央判定委員会によるPFSとして、副次評価項目は担当医師によるPFS、OS、ORR、安全性などであった。症例数設定は、Nal-IRI+5-FU/LV群のPFS中央値を3.3ヵ月、5-FU/LV群の中央値を2ヵ月、検出力80%、両側α=5%、ハザード比0.6で有意差が検出できるように設定し、総数174例が必要と判断された。患者背景において、両群に差は認めなかった。本試験の治療成績を表に示す。主要評価項目である独立中央判定委員会によるPFSはNal-IRI+5-FU/LV群で有意に良好であった。副次評価項目である担当医師によるPFSやOSもNal-IRI+5-FU/LV群で有意に良好であった。独立中央判定委員会によるORRは両群で有意差を認めなかったが、担当医師判定では統計学的な有意差を認めた。安全性について、好中球減少症と疲労は、5-FU/LV群と比較してNal-IRI+5-FU/LV群に多く認められたが、膵がんに対して行われたNAPOLI-1試験の結果と同様の結果であった。画像を拡大するNal-IRI+5FU/LV療法は、1次治療でGC療法を行った転移性胆道がん患者に対してPFS、OS、ORRを有意に改善させた。Nal-IRI+5-FU/LV療法の有害事象は十分に管理可能で、膵がんに対するNAPOLI-1試験で示された安全性と同様の結果であった。今回の検討は韓国のみで行われた臨床試験であり、全世界に一般化できる結果ではないが、この試験の統計学的事項は十分な検出力があり、PFSやORRも中央判定で行われており、抗腫瘍効果も十分に評価できる。この試験の結果から、Nal-IRI+5-FU/LV療法はGC療法で増悪した進行胆道がん患者に対する標準治療の1つとして考慮されるべきであると著者らは結論していた。確かに、本試験の結果はNal-IRI+5-FU/LV療法は、GC療法の2次治療としてABC-06試験で優越性が示されたFOLFOXレジメンよりも良好なPFS、OS、ORRが示されており、かなり期待できるレジメンである。また、ランダム化第II相試験ではあるが、第III相試験と遜色のない試験デザインで行われている。演者であるYoo先生は知り合いなので、直接、試験デザインについて聞いてみたところ、症例数設定は第III相試験としても十分であるが、主要評価項目としてPFSを選択したので、第IIb相試験としたとコメントがあった。なるほど、第IIb相試験というあまり聞き慣れない相にしているのはそういうことであったか、と。そして、Yoo先生は、第III相試験と宣言して行えばよかったなと後悔されていた。しかし、仮に本試験が第III相試験であったとしても、韓国1ヵ国の試験であり、アジアの結果を米国のFDAや欧州のEMEAが受け入れるかどうかは微妙である。また、本試験でOSでも有意差があるといっても、PFSが主要評価項目であるランダム化第II相試験であり、OSを主解析として行った試験ではないため、この試験結果をもって標準治療とするには時期尚早と考える。今後、Nal-IRI+5-FU/LVとFOLFOXのどちらが良いのかを明らかにする検討も必要であり、IDH1変異に対するIDH阻害剤、FGFR変異に対するFGFR阻害剤など、actionableな遺伝子変異を有する患者において、どちらを先行して治療すべきかなども明らかにする必要があると思われる。膵がん膵がんでは、Oral presentationに1演題も取り上げられていなかったが、Poster discussionでは6演題、取り上げられていた。膵がんにおいては薬物療法も停滞期で、なかなか次の良い薬剤が登場してこない状況である。今回のASCO2021で何らかの目を見張る結果が報告されることを期待したが、まだ突破口が見えていない現状であった。その中でも、やはり日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)からの発表などいくつか知っておいてほしい結果があるので、取り上げて解説する。局所進行膵がんに対するmodified FOLFIRINOXとゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法の無作為化比較第II相試験(JCOG1407)著者:Ozaka M, et al.、Poster discussionFOLFIRINOX療法とゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法(GEM+nab-PTX療法)は、それぞれProdige4-ACCORD11試験およびMPACT試験においてゲムシタビン単剤と比較して優越性を示したレジメンである。どちらも遠隔転移膵がんのみを対象とした試験であり、局所進行膵がんに対する評価はこれまで十分に行われていない。今回、局所進行膵がん患者を対象として、FOLFIRINOX療法の5-FUの静注とイリノテカンの投与量を150mg/m2に減量し、有害事象を軽減させたmodified FOLFIRINOX(mFOLFIRINOX)療法とGEM+nab-PTX療法の有効性と安全性を検討し、より有望な治療法を選択することを目的としてランダム化第II相試験(JCOG1407)が行われた。本試験の対象は、全身化学療法歴のない局所進行膵がん患者であり、mFOLFIRINOX療法群とGEM+nab-PTX療法群に1:1でランダムに割り付けられた。主要評価項目はOS(1年生存割合)、副次的評価項目はPFS、無遠隔転移生存期間、ORR、CA19-9奏効割合、有害事象発生割合などであった。症例数設定は、2つの試験治療群のうち、1年生存割合が良好な群を53%、不良な群を63%と仮定し、良好な試験治療を正しく選択できる確率が85%以上となるように算出した。また、2つの試験治療群のうち、良好な群の期待1年生存割合を70%と仮定し、閾値1年生存割合を53%、片側有意水準α=5%、検出力80%とし、必要症例数は120例と算出された。mFOLFIRINOX療法群に62例、GEM+nab-PTX療法群に64例で、計126例が登録された。患者背景では、両群に大きな偏りは見られなかった。JCOG1407試験の結果を表に示す。1年生存割合はGEM+nab-PTX療法群で良好だったが、2年生存割合はmFOLFIRINOX療法群で良好であり、ハザード比は1.162(95%CI:0.737~1.831)であった。PFSと無遠隔転移生存期間は有意差を認めなかったが、mFOLFIRINOX療法群で良好な傾向であった。ORRは有意差を認めなかったが、GEM+nab-PTX療法群で良好であった。CA19-9奏効割合はGEM+nab-PTX療法群で有意に良好であった。有害事象において、Grade3~4の好中球減少/白血球減少はGEM+nab-PTX療法群で高率、全Gradeの悪心/嘔吐や下痢はmFOLFIRINOX療法群で高率に認められたが、治療関連死は見られなかった。画像を拡大する本試験は、局所進行膵がんに対する2つのレジメンを比較した最初のランダム化試験であった。GEM+nab-PTX療法群の1年生存割合はmFOLFIRINOX療法群より良好であったが、mFOLFIRINOX療法群は2年生存割合が高く、その他の項目では良かったり悪かったりとなっており、どちらが良好とは言い難い結果であった。局所進行膵がんに対しては、『膵癌診療ガイドライン2019年版』でも転移性膵がんのエビデンスに基づき、mFOLFIRINOXとGem+nab-PTXが提案されているが、しっかりしたランダム化比較試験は行われていない。今回はJCOG肝胆膵グループで行われたmFOLFIRINOXとGem+nab-PTXを比較するランダム化第II相試験の結果は、主要評価項目である1年生存割合では、Gem+nab-PTXが良好であったが、全体の生存曲線や2年生存割合ではmFOLFIRINOXが優勢であった。下痢、悪心、嘔吐などの消化器毒性はmFOLFIRINOX群で高頻度に認められたが、骨髄抑制や神経障害はGem+nab-PTX群で高頻度に認められており、優劣はつけ難い結果であった。今後、長期間の追跡調査を行い、どちらを選択すべきかを明らかにしていくことが必要である。NRG1融合遺伝子陽性の膵がんや他の固形がんに対するzenocutuzumabの有効性と安全性著者:Schram AM, et al.、Oral presentation膵がんに対するNRG1融合遺伝子に対するzenocutuzumabのpreliminaryな結果が報告されていた。zenocutuzumab(MCLA-128)はADCC活性を持つHER2、HER3を阻害する二重特異性抗体で、HER3にNRG1 fusionのEGF-likeドメインの結合を阻害することで、HER2/HER3の二量体形成を阻害し、下流のPI3K/AKT/mTORシグナルによる腫瘍増殖を阻害する抗体製剤である。NRG1融合遺伝子を有する患者に有効性が期待され、開発が進んでいる。膵がんパートに登録された12例のうち5例(42%)に奏効が得られており、11例中11例全例でCA19-9の50%以上の低下が認められ、7例(64%)においては正常値まで低下したことが報告された。有害事象はGrade1~2であり、重篤な消化器や皮膚、心毒性は認めなかったことが報告され、期待されている薬剤である。膵がんにおけるNRG1融合遺伝子の頻度は1%未満といわれており、非常にまれではあるが、60歳以下の若年者やKRAS wildの患者に多く認められることを手掛かりとして、聖マリアンナ医大と国立がん研究センター東病院を中心に、NRG1のスクリーニングが行われている。術前化学放射線療法が膵がん患者の生存期間を改善させる:多施設共同第III相試験(PREOPANC)の長期治療成績著者:Van Eijck C, et al.、Poster discussion切除可能膵がんまたは切除可能境界膵がんに対して、ゲムシタビンによる術前化学放射線療法は、切除先行と比べて、R0切除割合や無病生存期間を改善させた。生存期間においては良好な傾向は示されていたが、有意な差を認めていなかった。今回、この試験を長期フォローアップすることで、生存期間への効果が検討された。結果を表に示す。R0切除割合やN0切除割合、Intention to treatによるOS、切除できた患者のOS、補助療法を受けた患者のOSにおいて、化学放射線療法群で有意に良好な結果が示された。切除可能膵がんまたは切除可能境界膵がんに対する術前治療の有効性が示されたことにより、日本ではすでに術前治療が標準治療であるが、海外でも術前治療へよりシフトすることが推測された。画像を拡大するまとめ今年のASCO2021では、肝細胞がんでは初回薬物療法として肝動注化学療法、胆道がんでは2次治療としてNal-IRI+5-FU/LV、膵がんでは局所進行膵がんの1次治療としてmFOLFIRINOX/Gem+nab-PTX、切除可能/切除可能境界膵がんに対する術前化学放射線療法など、少し昔の時代に戻ったかのように、主要演題には細胞障害性抗がん剤による治療が席巻していた。しかし、肝胆膵がんでは分子標的治療や免疫チェックポイント阻害薬を中心に治療開発が進んでおり、今後、新たなエビデンスはこれらの治療から生まれてくると思われる。今年のASCOでは世の中を大きく変えるような結果は出てこなかったが、世界的にも注目される重要な学会であり、Web開催であろうと、みんなが参加する学会である。ぜひ来年は、COVID-19が落ち着いて、現地でみんなと一緒にFace to Faceで談笑しながら、肝胆膵のOncologyについて語り合いたいものである。1)Ning Lyu, Ming Zhao. Hepatic arterial infusion chemotherapy of oxaliplatin plus fluorouracil versus sorafenib in advanced hepatocellular carcinoma: A biomolecular exploratory, randomized, phase 3 trial (The FOHAIC-1 study). J Clin Oncol 39, 2021 (suppl 15; abstr 4007)2)Shaohua Li, Chong Zhong, Qiang Li, et al. Neoadjuvant transarterial infusion chemotherapy with FOLFOX could improve outcomes of resectable BCLC stage A/B hepatocellular carcinoma patients beyond Milan criteria: An interim analysis of a multi-center, phase 3, randomized, controlled clinical trial. J Clin Oncol 39, 2021 (suppl 15; abstr 4008)3)Changhoon Yoo, Kyu-Pyo Kim, Ilhwan Kim, et al. Liposomal irinotecan (nal-IRI) in combination with fluorouracil (5-FU) and leucovorin (LV) for patients with metastatic biliary tract cancer (BTC) after progression on gemcitabine plus cisplatin (GemCis): Multicenter comparative randomized phase 2b study (NIFTY). J Clin Oncol 39, 2021 (suppl 15; abstr 4006)4)Masato Ozaka, Makoto Ueno, Hiroshi Ishii, et al. Randomized phase II study of modified FOLFIRINOX versus gemcitabine plus nab-paclitaxel combination therapy for locally advanced pancreatic cancer (JCOG1407). J Clin Oncol 39, 2021 (suppl 15; abstr 4017)5)Alison M. Schram, Eileen Mary O'Reilly, Grainne M. O'Kane, et al. Efficacy and safety of zenocutuzumab in advanced pancreas cancer and other solid tumors harboring NRG1 fusions. J Clin Oncol 39, 2021 (suppl 15; abstr 3003)6)Casper H.J. Van Eijck, Eva Versteijne, Mustafa Suker, et al. Preoperative chemoradiotherapy to improve overall survival in pancreatic cancer: Long-term results of the multicenter randomized phase III PREOPANC trial. J Clin Oncol 39, 2021 (suppl 15; abstr 4016)