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HR+/HER2+早期乳がん、de-escalateした術前補助療法に適した症例は?(ADAPT TP)/ESMO2021

 ホルモン受容体陽性HER2陽性(HR+/HER2+)早期乳がんに対するT-DM1(トラスツズマブ エムタンシン)でのde-escalateした術前補助療法において、治療前の腫瘍免疫原性が高いほど病理学的奏効(pCR)率が高く予後良好なことが、ドイツ・West German Study Group(WSG)によるADAPT triple positive(TP)試験で示された。WSGのNadia Harbeck氏が欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2021)で発表した。 ADAPT TP試験はWSGによる第II相試験で、ADAPTアンブレラ試験の一部である。すでに主要評価項目であるpCR率はT-DM1投与群で40%を超え、副次評価項目の生存アウトカムも良好だったことが報告されている。今回は、もう1つの副次評価項目であるトランスレーショナルリサーチについて、治療前の生検で分析されたバイオマーカーにより検討された。・対象:HR+/HER2+早期乳がん 375例・試験群A:T-DM1(3週ごと)12週 119例・試験群B:T-DM1(3週ごと)+内分泌療法12週 127例・試験群C:トラスツズマブ(3週ごと)+内分泌療法12週 129例術後または12週の生検後(pCRが得られない場合)は標準化学療法が推奨され、pCRが得られた場合は化学療法の省略が許容された。・評価項目[主要評価項目]pCR率(ypT0/is/ypN0)[副次評価項目]安全性、5年無浸潤疾患生存(iDFS)率、5年全生存率、トランスレーショナルリサーチ 早期奏効は、3週時点の生検でKi67が治療前の30%以上減少または低細胞密度(腫瘍細胞数が500個未満)の場合とした。腫瘍浸潤リンパ球とIHCの免疫マーカー(CD8、PD1、PDL1)、PIK3CA変異の有無、遺伝子(RNA)発現を治療前の検体で評価した。 主な結果は以下のとおり。・治療前におけるCD8発現やPD-L1発現が良好なpCRと関連し、また、良好なiDFSとより強い関連がみられた。iDFSのハザード比(HR)は、CD8A発現で0.61(95%信頼区間[CI]:0.36~1.01)、CD8 mRNA発現で0.66(95%CI:0.47~0.92)、免疫細胞PD-L1発現で0.32(95%CI:0.10~1.07)だった。・PIK3CA変異は16.32%に認められ、pCR率および5年iDFS率の低下と関連していた。すべての患者で予後が悪化したが、とくにT-DM1投与患者では5年iDFS率に22%の差があった(野生型90.2%、変異型68.4%、p=0.007)。・本試験における分子サブタイプは、luminal Aタイプが55.9%、luminal Bタイプが22.69%、HER2-enrichedタイプが21.3%、basal-likeタイプが0.93%であった。pCR率はHER2-enrichedタイプが最も高かったが、5年iDFS率はluminal Aタイプが89.8%と最も高く、HER2-enrichedタイプは80.9%と低かった。 Harbeck氏は、「HR+/HER2+早期乳がんにおいて、治療前における腫瘍免疫原性はde-escalateした術前補助治療後の高いpCR率と予後良好に関連していた。PIK3CA変異がある患者は、T-DM1を投与し術後に化学療法とトラスツズマブを投与しても予後不良であった。luminal Aタイプの患者は、HER2標的治療後にpCR率が低くても最も予後が良好だった」と結果をまとめ、「今後のde-escalation戦略については、luminal AタイプではpCR率と生存率、HER2-enrichedタイプではpCRによるアプローチが有望」とした。

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脳卒中治療ガイドラインが6年ぶりに改訂、ポイントは?

 今年7月、『脳卒中治療ガイドライン2021』が発刊された。2015年の前版(2017年、2019年に追補発行)から6年ぶりの全面改訂ということで、表紙デザインから一新。脳卒中治療ガイドライン2021では追補の内容に加え、関連学会による各指針など最新の推奨が全面的に取り入れられている。そこで、脳卒中ガイドライン委員会(2021)の板橋 亮氏(岩手医科大学内科学講座脳神経内科・老年科分野 教授)に、近年目覚ましい変化を遂げる脳梗塞急性期の治療を中心として、主に内科領域の脳卒中治療ガイドライン2021の変更点について話をうかがった。脳卒中治療ガイドライン2021の変更点にエビデンスレベルの追加 まず脳卒中治療ガイドライン2021の1番大きな変更点としては、追補2019までは推奨文にエビデンスレベルはついておらず、文献のエビデンスを踏まえた推奨度のみが記載されていたが、2021年版では推奨文に推奨度(ABCDE)とエビデンス総体レベル(高中低)の両方が記載された。すべての引用文献に、エビデンスレベル(1~5)が示されている。 さらに、脳卒中治療ガイドライン2021では今回初めてクリニカルクエスチョン(CQ)方式が一部に採用され、重要な臨床課題をピックアップしている。利便性を考慮し、あえてCQ方式と従来の推奨文方式の両方にて記載した内容もある。 また、脳卒中治療ガイドライン2021の全般的な構成の変更点として、前版までリハビリテーション関連の内容はすべて後半のページにまとめられていたが、今回から急性期に関してのリハビリテーションは前半ページ(目次I「脳卒中全般」)に記載された。脳卒中治療ガイドライン2021脳梗塞急性期の変更点 脳卒中治療ガイドライン2021の具体的な内容に関しては、たとえば目次II「脳梗塞・一過性脳虚血発作(TIA)」項の冒頭に、CQ「脳梗塞軽症例でもrt-PA(アルテプラーゼ)は投与して良いか?」「狭窄度が軽度の症候性頸動脈狭窄患者に対して頸動脈内膜剥離術(CEA)は推奨されるか?」が追加された。 また、脳卒中治療ガイドライン2021では、脳梗塞急性期における抗血小板療法の推奨として、DAPT(抗血小板薬2剤併用療法)の推奨度が見直され、発症早期の軽症非心原性脳梗塞患者の亜急性期までの治療法として、推奨度BからA(エビデンスレベル高)に引き上げられた(なお、高リスクTIAの急性期に限定した同療法は、DAPTの効果の大きさと出血リスク上昇を総合的に勘案し、推奨度Bで据え置きとなっている)。これに伴い、従来経静脈投与で用いられていた抗凝固薬アルガトロバン、抗血小板薬オザグレルNaは、推奨度BからCに引き下げられている。 さらに、脳梗塞急性期の抗凝固療法における直接阻害型経口抗凝固薬(DOAC)についての推奨、脳梗塞慢性期の塞栓源不明の脳塞栓症における抗血栓療法についての推奨などが、脳卒中治療ガイドライン2021には新たに追加された。 全体的には、『静注血栓溶解(rt-PA)療法適正治療指針 第三版』『経皮経管的脳血栓回収用機器 適正使用指針 第4版』などの推奨に準じた内容で、目新しさには欠けるかもしれないが、それが脳卒中治療ガイドライン2021として1つにまとめられたことは大きな意義を持つだろう。 詳細は割愛するが、塞栓源となる心疾患に対するインターベンションについての記載も充実した。たとえば、脳梗塞慢性期の奇異性脳塞栓症(卵円孔開存を合併した塞栓源不明の脳塞栓症を含む)については、『潜因性脳梗塞に対する経皮的卵円孔開存閉鎖術の手引き』に準じた推奨が、出血の危険性が高い非弁膜症性心房細動患者については、『左心耳閉鎖システムに関する適正使用指針』に準じた推奨が追記されている。脳卒中治療ガイドライン2021にテネクテプラーゼを記載 機械的血栓回収療法は、急性期治療の中でもとくに注目されており、軽症例や単純CTで広範な早期虚血が見られる例に関して、国際的な無作為化試験が行なわれている。本治療に関するエビデンスはここ数年で変わる可能性が高い。 また、海外ではCTPT系P2Y12拮抗薬チカグレロルとアスピリンによるDAPTの臨床試験が行われ,米国ではすでに脳卒中領域の承認を得ているが、わが国で導入される見通しは不明である。このように、推奨文にするほどではない、もしくはわが国では保険適用がない場合でも、臨床医に知っておいてほしい情報は、脳卒中治療ガイドライン2021の解説文の中にコラム形式で記載されている。 推奨文としては書いていないが、脳卒中治療ガイドライン2021の脳梗塞急性期の経静脈的線溶療法の解説文には、海外の一部で使われ始めているテネクテプラーゼについても記載がある。おそらく、無作為化試験の結果が揃えば、今後アルテプラーゼに代わって使われるようになるだろう。国内での臨床試験も行われる予定だが、わが国で導入できる目途は立っていないため、こちらも今後の展開に注目されたい。脳卒中治療ガイドライン2021は読みやすさを重視した構成 驚くことに、脳卒中治療ガイドライン2021は、前版から解説文の文字数を半分近くに減らしたという。現場で参照することを第一に、各項目はできる限り2ページ以内に収めるなど、読みやすさを重視した工夫が凝らされている。板橋氏は、「推奨文だけ読めば最低限の重要事項が確認できるように作られてはいるが、推奨度そしてエビデンスの根拠となる解説文の内容も是非確認していただきたく、できるだけ読んでもらえるように短くまとめた」と語った。また、手元に置いておきたくなるような脳卒中治療ガイドライン2021のスタイリッシュなデザインは、委員会事務局の黒田 敏氏(富山大学脳神経外科 教授)が選んだこだわりの青色が採用されたという。脳卒中治療ガイドライン2021の電子版は11月に発売予定だ。『脳卒中治療ガイドライン2021』・発行日 2021年7月15日・編集 一般社団法人日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会・定価 8,800円(税込)・体裁 A4判、320ページ・発行 株式会社協和企画

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冠動脈ステント留置後のDAPT期間、1ヵ月に短縮の可能性/NEJM

 薬剤溶出型冠動脈ステント留置による経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受けた出血リスクが高い患者において、抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)の34日間投与は193日間投与と比較して、純臨床有害事象および主要心臓・脳有害事象のリスクが非劣性で、大出血・臨床的に重要な非大出血のリスクは有意に低いことが、スイス・Universita della Svizzera ItalianaのMarco Valgimigli氏らが実施した「MASTER DAPT試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2021年8月28日号に掲載された。30ヵ国140施設の無作為化試験 本研究は、薬剤溶出型冠動脈ステント留置後の出血リスクが高い患者におけるDAPTの適切な投与期間の評価を目的とする医師主導の非盲検無作為化非劣性試験であり、2017年2月~2019年12月の期間に日本を含む30ヵ国140施設で参加者のスクリーニングが行われた(Terumoの助成を受けた)。 対象は、急性または慢性の冠症候群で、生分解性ポリマーシロリムス溶出型冠動脈ステント(Ultimaster、Terumo製)留置によるPCIが成功し、出血リスクが高いと判定された患者であった。 被験者は、DAPTを1ヵ月施行した時点で、抗血小板薬を1剤に切り換えることでDAPTの期間を短縮する群、またはDAPTをさらに2ヵ月以上継続投与する群(標準治療群)に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、次の3つの順位化された項目の、335日の時点での累積発生率であった。(1)純臨床有害事象(全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中、大出血の複合)、(2)主要心臓・脳有害事象(全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中の複合)、(3)大出血・臨床的に重要な非大出血。(1)と(2)は、per-protocol集団における非劣性(累積発生率の差の両側95%信頼区間[CI]の上限値が、(1)は3.6ポイントを超えない、(2)は2.4ポイントを超えない)の評価が、(3)はintention-to-treat集団における優越性(同様に上限値が0.0ポイントを超えない)の評価が行われた。主に臨床的に重要な非大出血の差が大きい 4,579例(intention-to-treat集団、平均年齢76.0歳、男性69.3%)が登録され、短縮群に2,295例、標準治療群に2,284例が割り付けられた。全体の33.6%が糖尿病、19.1%が慢性腎臓病、18.9%が心不全、12.4%が脳血管イベントの既往、10.6%が末梢血管疾患を有しており、36.4%は経口抗凝固薬の投与を受けていた。per-protocol集団は4,434例で、短縮群が2,204例、標準治療群は2,230例だった。 PCI施行後のDAPT投与期間中央値は、短縮群が34日(IQR:31~39)、標準治療群は193日(102~366)であった。短縮群では、抗血小板薬単剤療法として53.9%でクロピドグレルが使用され、標準治療群ではDAPTの1剤として78.7%で同薬が用いられた。 335日時点のper-protocol集団における純臨床有害事象の発生率は、短縮群が7.5%(165例)、標準治療群は7.7%(172例)であり、短縮群は標準治療群に対し非劣性であった(ハザード比[HR]:0.97[95%CI:0.78~1.20]、リスク差:-0.23ポイント[95%CI:-1.80~1.33]、非劣性のp<0.001)。 また、同集団における主要心臓・脳有害事象の発生率は、短縮群が6.1%(133例)、標準治療群は5.9%(132例)と、短縮群の標準治療群に対する非劣性が認められた(HR:1.02[95%CI:0.80~1.30]、リスク差:0.11ポイント[95%CI:-1.29~1.51]、非劣性のp=0.001)。 一方、intention-to-treat集団における大出血・臨床的に重要な非大出血の発生率は、短縮群が6.5%(148例)と、標準治療群の9.4%(211例)に比べ有意に低かった(リスク差:-2.82ポイント[95%CI:-4.40~-1.24]、優越性のp<0.001)。この差は、主に臨床的に重要な非大出血(BARC タイプ2)の発生率の差によるものであった(4.5% vs.6.8%)。 著者は、「出血リスクが高くない患者や、他の種類のステントを留置された患者には、本試験の結果は当てはまらない可能性がある」と指摘し、「本試験では、ステント内再狭窄やステント血栓症の患者は除外されている。また、純臨床有害事象と主要心臓・脳有害事象の発生率は予想よりも低く、非劣性マージンの範囲は広かった。したがって、短縮群のこの投与期間におけるこれらのイベントの発生率は、もう少し高い可能性が否定できない」と考察している。

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冠動脈血行再建術後のP2Y12阻害薬vs. DAPTのメタ解析/BMJ

 スイス・ベルン大学のMarco Valgimigli氏は、無作為化比較試験6件のメタ解析を行い、P2Y12阻害薬単独療法は抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)と比較して、死亡、心筋梗塞および脳卒中のリスクは同等であるが、P2Y12阻害薬単独療法の有効性は性別によって異なり、出血リスクはDAPTより低いことを明らかにした。BMJ誌2021年6月16日号掲載の報告。P2Y12阻害薬単独vs.DAPTの無作為化比較試験6件、2万4,096例をメタ解析 研究グループは、Ovid Medline、Embaseおよび3つのWebサイト(www.tctmd.com、www.escardio.org、www.acc.org/cardiosourceplus)を検索して、2020年7月16日までに発表された、経口抗凝固療法の適応がない患者における冠動脈血行再建術後の経口P2Y12阻害薬単独療法とDAPTの有効性を比較(中央判定)した無作為化比較試験を特定し、個々の患者レベルでのメタ解析を行った。 主要評価項目は全死因死亡・心筋梗塞・脳卒中の複合(非劣性マージン:ハザード比[HR]:1.15)であり、安全性の主要評価項目はBARC(Bleeding Academic Research Consortium)出血基準タイプ3または5の出血とした。 メタ解析には、6件の無作為化試験(合計2万4,096例)が組み込まれた。死亡・心筋梗塞・脳卒中の複合リスクは同等、出血リスクはP2Y12阻害薬単独が低い 主要評価項目のイベントは、per protocol集団においてP2Y12阻害薬単独療法群283例(2.95%)、DAPT群315例(3.27%)に認められた(HR:0.93、95%信頼区間[CI]:0.79~1.09、非劣性のp=0.005、優越性のp=0.38、τ2=0.00)。intention to treat集団ではそれぞれ303例(2.94%)、338例(3.36%)であった(0.90、0.77~1.05、優越性のp=0.18、τ2=0.00)。 治療効果は、性別(交互作用のp=0.02)を除くすべてのサブグループで一貫していた。P2Y12阻害薬単独療法は、女性では主要評価項目イベントのリスクを低下させるが(HR:0.64、95%CI:0.46~0.89)、男性では低下させないことが示唆された(1.00、0.83~1.19)。 BARC出血基準タイプ3または5の出血リスクは、P2Y12阻害薬単独療法群がDAPT群より低かった(0.89% vs.1.83%、HR:0.49、95%CI:0.39~0.63、p<0.001、τ2=0.03)。この結果は、P2Y12阻害薬の種類(交互作用のp=0.02)を除くすべてのサブグループで一貫しており、クロピドグレルではなく新しいP2Y12阻害薬をDAPTレジメンに使用した場合に有益性が高いことが示唆された。

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限界はあるが必要だった研究(解説:野間重孝氏)-1403

 アスピリンは世界で初めて人工合成された医薬品で、ドイツ・バイエル社がこの開発に成功したのは1897年にさかのぼる。ところが、低用量アスピリンに血小板凝集抑制作用があることが発見されたのは1967年のことだった。Gruentzigが経皮的冠動脈形成術(PTCA)を初めて行ったのが1977年であることを考えると、不思議な暗合を感じてしまうのは評者だけではないと思う。 PTCAは確かに画期的な技術ではあったが、バルーンによる拡張のみでは血管壁の解離、リコイルを防ぐことができず、高頻度に発生する急性冠動脈閉塞や慢性期再狭窄率の高さが問題となっていた。これに解決策を与えるべく開発されたのが冠動脈ステントだった。慢性期に対する効果はSTRESS、BENESTENT両試験により証明されたが、亜急性期ステント血栓症(SAT)にはなかなか解決策が見いだされなかった。当初アスピリンとワルファリンの併用による効果が期待されたが、十分な効果は得られなかった。90年代初めに開発されたチエノピリジン系薬剤であるチクロピジンとアスピリンの併用、つまり抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)が初めてこの問題に解決策を与えたのである。 ステント開発によって術成績は飛躍的に向上し、とくに急性期合併症は激減したのだが、慢性期再狭窄による再血行再建術が必要になる率はそれでも15~30%に上るとされた。これに対して開発されたのが薬物溶出ステント(DES)であった。しかしDESの登場は新たな問題を引き起こした。金属のみによるステントでは比較的早くストラットが内膜により覆われるのに対し、DESでは内膜による皮膜形成に時間がかかり、ストラットがむき出しになっている期間が長いため、別のメカニズムからSATが問題となってきたのである。この頃にはチエノピリジン系薬剤も第2世代となり、クロピドグレルが主役となっていた。現在チエノピリジン系薬剤は第3世代の開発も進み、また違った機序の新規血小板機能抑制剤も開発されているが、それでもクロピドグレルの市場占有率は高いまま推移しているのは本論文にあるとおりである。アスピリン、クロピドグレル併用によるDAPTは確かにSATの発生を抑えたが、今度はDAPTをいつやめればいいのか、またやめた後にどちらの薬剤を残すのかが新たな問題として浮上した。 一方、ステント開発メーカーも手をこまねいていたわけではない。ストラットの菲薄化、形状の工夫、ポリマーの生体適合性の改善などを通して機材面からSAT発生率の低下が図られた。この結果、現在米国心臓病学会(ACC)、米国心臓協会(AHA)、欧州心臓病学会(ESC)のガイドラインで、出血リスクの低い患者では6ヵ月以上のDAPTを推奨するものの、出血リスクのある患者では1~3ヵ月のクロピドグレルの併用を推奨するというところにまでなったのである。SATの予防と出血リスクは、いわばトレードオフの関係にあるのである。 本論文は残ったもうひとつの問題、つまりDAPTをやめた後にどちらの薬剤を残すのかという問題を中心に据えた初めての大規模臨床研究である。ただし、これには少しただし書きが必要である。というのは、DAPTの期間を検討する一連の研究の中で、この問題は併せて扱われてきたからである。とくに最近のGLOBAL LEADERS試験、SMART-CHOICE試験、STOPDAPT-2試験などで短期間のDAPTとチエノピリジン系薬剤による耐容性はすでに十分議論されており、理由はさまざまであるにせよ、持続する薬剤としてはチエノピリジン系薬剤が選択されているのである。そもそも出血傾向はアスピリンで強く、またアスピリンでは胃腸障害などの副作用も問題になるからである。しかし著者らの言うとおり、この問題のみを正面から扱い、さまざまなレベルの冠動脈疾患を対象とした大規模臨床研究は、確かにこの研究が最初といえるのである。そしてこの問題について明快な解答を与えたことは評価されなければならないだろう。 しかし指摘されなければならないのは、これはあくまでクロピドグレルの成績だ、ということである。つまり、本研究からはDAPTの相手がプラスグレルであったり、チカグレロルであったらどうなのか、という点には言及できないということである。とくに第3世代チエノピリジン系薬剤であるプラスグレルは、代謝による効果のバラツキがほとんどないこと、さらに効果発現が速やかであることから、急性期の処置が必要な症例ではこちらのほうが選択されるケースが多いのではないだろうか。評者の周囲では、プラスグレルの場合もそちらを残すことを選択する臨床医が増えている印象がある。なお本稿は論文評であって総説ではないため解説できないが、なぜプラスグレルやチカグレロルがクロピドグレルに替わって標準治療薬とならなかったのかについての歴史的経緯は、若い方々には調べてみると参考になる点が多いと思うのでお勧めする。 気になった点をもうひとつ挙げると、著者ら自身がdiscussionの中で第3番目のlimitationとして認めているように、プロドラッグであるクロピドグレルでは肝臓における代謝は個人差が大きく、とくに東洋人でこの代謝酵素であるCYP2C19の欠損が報告されるケースが目立つことに関する議論である。この論文が韓国から発表されていることを考えると、著者らがこうした代謝の個人差の検討が行われていないことに対して、少し強いコメントをせざるを得ないことは理解できる。しかし、著者らが“The clinical significance of clopidogrel resistance is still under debate”と書き、さらにaspirin resistanceの問題を持ち出すなどの論述姿勢は適当だったのだろうか。また同国からクロピドグレルの効果についてAsian paradoxなる報告があるというが、これは定説といえるのだろうか。臨床研究において明らかになった事実を、自分たちはただ淡々と発表したのだと言えばよかったのではないだろうか。 評者はこの論文評欄において、一見当たり前であるように思われていることや類推が可能である事柄であっても、しっかり証明することの重要性を強調してきた。そういう意味でこの論文は評価されなければならないのは当然であるが、上記のように結果解釈の応用に限界がある点は指摘されなければならない。

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HR-/HER2+乳がん術前治療、トラスツズマブ+ペルツズマブ±PTXの予後(ADAPT)/ASCO2021

 ホルモン受容体陰性HER2陽性(HR-/HER2+)の乳がん患者に対する、トラスツズマブ+ペルツズマブ±パクリタキセルによる術前療法の予後に関する有望な結果が、米国臨床腫瘍学会年次総会(2021 ASCO Annual Meeting)において、ドイツ・West German Study Group(WSG)のNadia Harbeck氏から報告された。 このADAPT試験はWSGにより実施されたオープンラベルの第II相無作為化比較試験である。この試験のpCR率の結果は2017年に公表されており、今回はその生存に関する報告である。また、本試験と同じデザインでのHR-/HER2+集団に対するpCR率の良好な結果は2020年のESMOで公表されている。・対象:遠隔転移のないHR-/HER2+乳がん134例(5:2の割合で2群に割り付け)・試験群A:トラスツズマブ(初回8mg/kg、その後3週ごとに6mg/kg)+ペルツズマブ(初回840mg、その後3週ごとに420mg)(TP群:92例)・試験群B:トラスツズマブ+ペルツズマブ+パクリタキセル(80mg/m2を1回/週)(TPPtx群:42例)・評価項目:[主要評価項目]pCR率(乳房内の浸潤がんとリンパ節転移がない例[ypT0/is ypN0]におけるpCR率と、非浸潤がんも含めて完全に残存腫瘍のない例[ypT0 ypN0]におけるpCR率)[副次評価項目]無浸潤疾患生存期間(iDFS)、遠隔無再発生存期間(DDFS)、全生存期間(OS)、安全性、バイオマーカー検索など 3週間目にKi67値がベースライン比30%以上低下、もしくは浸潤がん細胞数が500個以下への減少が認められた症例などを早期奏効例とした。 主な結果は以下のとおり。・患者背景は、50歳未満が33~41%(年齢中央値:52~54歳)、N0が54~62%、核異形度3が88.0%、HER2-IHC3+が86~91%、ベースラインのKi67値は50%であった。・既報のpCR率は、ypT0/is ypN0でTP群34.4%、TPPtx群90.5%であった。また、ypT0 ypN0ではTP群24.4%、TPPtx群78.6%であった。・iDFS率は、5年時点でTP群87%、TPPtx群98%、ハザード比[HR] 0.32(95%信頼区間[CI]:0.07~1.47)、p=0.144であった。・OS率は、5年時点でTP群94%、TPPtx群98%(死亡は1名のみ)、HR 0.41(95%CI:0.05~3.55)、p=0.422であった。・pCRが得られた症例(69例)と得られなかった症例(63例)でiDFSを比較した場合、pCR例は5年時iDFS率が98%、non-pCR例では82%、HRは0.14(95%CI:0.03~0.64)、p=0.011であった。・TP群において、pCRが得られなかったIHC1+/2+およびFISH陽性例や、Basalタイプ、または早期奏効を得られなかった症例を、non-sensitive症例(31例)として、その他の症例とiDFSを比較した場合、5年時のiDFS率はnon-sensitive79%、その他93%、HRは1.99、p=0.255であった。 演者のHarbeck氏は「化学療法の有無によらず、両群とも優れたpCR率と生存率を示した。また、抗体2剤のみによる術前治療は早期奏効が得られた場合に有望であり、今後はさらにIHC3+症例やBasalタイプ以外、RNAなどで選別した症例でも検討する必要がある」と述べた。

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心血管疾患へのアスピリン、用量による有効性・安全性の差なし/NEJM

 心血管疾患患者のアスピリン治療において、1日用量81mgは同325mgと比較して、心血管イベントや大出血の頻度について統計学的に有意な差はなく、投与中止や用量変更の割合は325mgで高いことが、米国・デューク大学のW. Schuyler Jones氏らが実施した「ADAPTABLE試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2021年5月27日号に掲載された。適切な用量を無作為化試験で評価 研究グループは、心血管疾患患者における死亡、心筋梗塞、脳卒中のリスクを抑制し、大出血の発生を最小化する適切なアスピリンの用量を検討する目的で、実践的デザインの非盲検無作為化試験を行った(米国患者中心アウトカム研究所[PCORI]の助成による)。参加者の募集は、米国のPCORnetに参加する40施設において、2016年4月に開始され2019年6月に終了した。 各施設の電子カルテのデータから、アテローム動脈硬化性心血管疾患と確定された患者が選出された。被験者は、アスピリン1日1回81mgの投与を受ける群または同様に325mgの投与を受ける群に無作為に割り付けられた。 有効性の主要アウトカムは、全死因死亡、心筋梗塞による入院、脳卒中による入院の複合とし、生存時間(time-to-event)解析が行われた。安全性の主要アウトカムは大出血による入院とし、同様に生存時間解析で評価された。割り付け用量の曝露日数も325mg群で短い 1万5,076例が登録され、アスピリン81mg群に7,540例、同325mg群に7,536例が割り付けられた。全体の年齢中央値は67.6歳で、68.7%が男性であった。ベースライン時に、35.3%に心筋梗塞の既往歴が、53.0%に過去5年以内の冠動脈血行再建術の既往歴が認められた。 無作為化の前に、1万3,537例(アスピリン使用の事前情報が得られた患者の96.0%)がすでにアスピリンを投与され、このうち85.3%が81mg、2.3%が162mg、12.2%が325mgの連日投与を受けていた。追跡期間中央値は26.2ヵ月(IQR:19.0~34.9)だった。 有効性の主要アウトカムは、81mg群が590例(追跡期間中央値の時点での推定値7.28%)、325mg群は569例(同7.51%)で発生し、両群間に差はみられなかった(ハザード比[HR]:1.02、95%信頼区間[CI]:0.91~1.14)。複合アウトカムの個々の構成要素(全死因死亡、心筋梗塞による入院、脳卒中による入院)にも、両群間に差はなかった。 大出血による入院(安全性の主要アウトカム)は、81mg群が53例(0.63%)、325mg群は44例(0.60%)で発生し、両群間に差は認めなかった(HR:1.18、95%CI:0.79~1.77)。 アスピリンの投与中止は、81mg群が7.0%、325mg群は11.1%で発生した。また、81mg群に比べ、325mg群は用量変更の頻度が高く(7.1% vs.41.6%)、割り付けられた用量のアスピリン曝露日数中央値が短かった(650日[IQR:415~922]vs.434日[139~737])。 著者は、「用量を時変共変量とする感度分析では、325mgの投与を継続した患者は経時的にイベント発生率が低下したが、無作為化後の他の分析と同様に、この分析にも患者の行動や医師の見解、アウトカムに影響を及ぼす可能性のある有害事象など多くのバイアスの寄与が考えられる」としている。

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PCI後のDAPT終了後、クロピドグレル単剤が有効/Lancet

 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)として薬剤溶出ステント(DES)留置術を施行され、6~18ヵ月の抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)を受けた後、抗血小板薬単剤による長期の維持療法を要する患者において、クロピドグレルはアスピリンと比較して、死亡や血栓性疾患、出血を含む複合エンドポイントのリスクが低いことが、韓国・ソウル大学病院のBon-Kwon Koo氏らが実施した「HOST-EXAM試験」で示された。Lancet誌オンライン版2021年5月16日号掲載の報告。韓国37施設の非盲検無作為化試験 本研究は、韓国の37施設が参加した医師主導の非盲検無作為化試験であり、2014年3月~2018年5月の期間に患者登録が行われた(韓国・ChongKunDangなどの助成による)。 対象は、年齢20歳以上、DESによるPCI施行後に、臨床的イベントを発症することなく6~18ヵ月のDAPTを終了した患者であった。虚血性および大出血性の合併症を有する患者は除外された。 被験者は、長期維持療法期の抗血小板薬単剤療法として、クロピドグレル(75mg、1日1回)またはアスピリン(100mg、1日1回)の経口投与を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。投与期間は24ヵ月間であった。 主要エンドポイントは、全死因死亡、非致死的心筋梗塞、脳卒中、急性冠症候群(ACS)による再入院、BARC(Bleeding Academic Research Consortium)出血基準タイプ3以上の複合とされ、intention-to-treat解析が行われた。血栓関連エンドポイントや全出血も良好 5,530例が登録され、このうち5,438例(98.3%)が無作為化の対象となった。クロピドグレル群に2,710例(49.8%)、アスピリン群に2,728例(50.2%)が割り付けられた。主要エンドポイントの確認は5,338例(98.2%)で完了した。 全体の平均年齢は63.5(SD 10.7)歳で、74.5%が男性であった。PCI施行時の診断名の割合は、安定狭心症が25.5%、不安定狭心症が35.5%、非ST上昇型心筋梗塞が19.4%、ST上昇型心筋梗塞が17.2%だった。 24ヵ月の追跡期間における主要エンドポイントの発生は、クロピドグレル群が152例(5.7%)と、アスピリン群の207例(7.7%)に比べ有意に良好であった(ハザード比[HR]:0.73、95%信頼区間[CI]:0.59~0.90、p=0.0035)。 血栓関連複合エンドポイント(心臓死、非致死的心筋梗塞、脳卒中、ACSによる再入院、ステント血栓症[definite/probable])の発生は、クロピドグレル群が99例(3.7%)、アスピリン群は146例(5.5%)で(HR:0.68、95%CI:0.52~0.87、p=0.0028)、全出血(BARCタイプ2以上)の発生は、それぞれ61例(2.3%)および87例(3.3%)であり(0.70、0.51~0.98、p=0.036)、いずれも有意な差が認められた。 著者は、「これまでの研究で、PCI施行後の長期維持療法期にどの抗血小板薬単剤療法が最良の臨床結果をもたらすかに関して重要な仮説が提起されてきたが、DESによるPCI施行後の安定した同質の患者集団を対象とした今回の研究により、大規模な無作為化試験で初めてこれらの知見を確認することができた」としている。

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トシリズマブとサリルマブ、重症COVID-19患者に有効/NEJM

 集中治療室(ICU)で臓器補助(organ support)を受けた重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者において、インターロイキン6(IL-6)受容体拮抗薬のトシリズマブとサリルマブによる治療は、生存を含むアウトカムを改善することが認められた。英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのAnthony C. Gordon氏らが、現在進行中の国際共同アダプティブプラットフォーム試験である「Randomized, Embedded, Multifactorial Adaptive Platform Trial for Community-Acquired Pneumonia:REMAP-CAP試験」の結果を報告した。重症COVID-19に対するIL-6受容体拮抗薬の有効性は、これまで不明であった。NEJM誌オンライン版2021年2月25日号掲載の報告。アダプティブプラットフォーム臨床試験でトシリズマブとサリルマブの有効性を評価 研究グループは、ICUで臓器補助開始後24時間以内のCOVID-19成人患者を、トシリズマブ(8mg/kg体重)群、サリルマブ(400mg)群、または標準治療(対照群)のいずれかに無作為に割り付けた。 主要評価項目は、21日以内の非臓器補助日数(患者が生存し、ICUで呼吸器系または循環器系の臓器補助を要しない日数)で、患者が死亡した場合は-1日とした。 統計にはベイズ統計モデルを用い、優越性、有効性、同等性または無益性の事前基準を設定。オッズ比>1は、生存期間の改善、非臓器補助期間の延長、あるいはその両方を示すものとした。標準治療と比較しトシリズマブ、サリルマブで非補助日数が増加、90日生存も改善 トシリズマブ群およびサリルマブ群のいずれも、事前に定義された有効性の基準を満たした。 解析対象は、トシリズマブ群353例、サリルマブ群48例、対照群402例であった。非臓器補助期間の中央値は、トシリズマブ群10日(四分位範囲:-1~16)、サリルマブ群11日(0~16)、対照群0日(-1~15)であった。対照群に対する補正後累積オッズ比中央値は、トシリズマブ群1.64(95%信頼区間[CI]:1.25~2.14)、サリルマブ群1.76(1.17~2.91)で、対照群に対する優越性の事後確率はそれぞれ99.9%、99.5%であった。 90日生存についても、トシリズマブ群とサリルマブ群のプール解析群で改善が認められ、対照群に対するハザード比は1.61(95%CI:1.25~2.08)、優越性の事後確率は99.9%超であった。 その他のすべての副次評価項目についても、これらIL-6受容体拮抗薬の有効性が支持された。

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冠動脈小血管に対するDCBとDESの長期成績(解説:上田恭敬氏)-1354

 径が3mm以下の冠動脈小血管に対するDCBとDESの成績を比較した、all-comerの無作為化非劣性試験であるBASKET-SMALL 2において、3年の長期成績が報告された。本試験では、1年でのDCBのDESに対する非劣性がすでに報告されている。 対象患者はDCB群382症例とDES群376症例であり、今回の解析では、3年間のMACE(心臓死、心筋梗塞、TVR)を主要評価項目としている。DAPT期間は、ACS症例では両群とも12ヵ月、非ACS症例ではDCB群で1ヵ月、DES群で6ヵ月が推奨された。DCB群の5%で、ベイルアウトのステント留置が必要であった。 MACE(15%、HR=0.99、p=0.95)、心臓死(5% vs.4%、HR=1.29、p=0.49)、心筋梗塞(6%、HR=0.82、p=0.52)、TVR(9%、HR=0.95、p=0.83)のいずれにおいても、DCB群とDES群の群間に差を認めなかった。ステント血栓症、major bleedingにも有意差を認めなかった。DESとしてTaxus ElementとXienceが用いられているが、DCBとXienceの成績にも差はなさそうである。すなわち、3年の長期にわたって、DESと同等のDCBの成績が示されたことになる。 本試験の結果から判断すると、3mm以下の冠動脈小血管に対しては、DCBとDESは同等、あるいはステントレスである(体内留置異物がない)こととDAPT期間を短くできることを加味すれば、DESよりもDCBが優れているようにも思われる。ただし、ステントを必要としない良好な拡張が得られることが必要である。もう一つ、血管の開存・虚血の解除という点で、必ずしもDCBとDESが同等とは限らないことに注意が必要である。3mm以下の小血管では再狭窄が必ずしもTVRにつながらない可能性が、3mm以上の血管よりも大きいであろう。このことは理解したうえで、「径が3mm以下の冠動脈小血管」に対しては、DESと同等のDCBの有用性・安全性が確認された結果といえる。

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消化性潰瘍の予防法が明確に-『消化性潰瘍診療ガイドライン2020』

 消化性潰瘍全般の国内有病率は減少傾向を示す。しかし、NSAIDs服用患者や抗凝固薬、抗血小板薬服用患者の潰瘍罹患率は増加の一途をたどるため、非専門医による予防対策も求められる。これらの背景を踏まえ、今年6月に発刊された『消化性潰瘍診療ガイドライン2020』(改訂第3版)では、「疫学」と「残胃潰瘍」の章などが追加。また、NSAIDs潰瘍と低用量アスピリン(LDA:low-dose aspirin)潰瘍の予防に対するフローチャートが新たに作成されたり、NSAIDsの心血管イベントに関する項目が盛り込まれたりしたことから、ガイドライン作成委員長を務めた佐藤 貴一氏(国際医療福祉大学病院消化器内科 教授)に、おさえておきたい改訂ポイントについてインタビューを行った(zoomによるリモート取材)。消化性潰瘍診療ガイドライン2020で加わった内容 消化性潰瘍診療ガイドライン2020では、主に治療や予防に関する疑問をCQ(clinical question)28項目、すでに結論が明らかなものをBQ(background question)61項目、今後の研究課題についてFRQ(future research question)1項目に記載し、第2版より見やすい構成になっている。CQとFRQにはそれぞれ「出血性潰瘍の予防」「虚血性十二指腸潰瘍の治療法」に関する内容が加わった。佐藤氏は、「NSAIDs潰瘍やLDA潰瘍の治療、とくに予防においてはフローチャートに基づき、プロトンポンプ阻害薬(PPI)による適切な対応をしていただきたい」と話した。 続いて、高齢者診療で慢性胃炎、他剤の副作用回避のために処方されることが多いPPIやヒスタミン2受容体拮抗薬(H2RA)の長期処方時に注意すべきポイントについては、「PPI服用による、肺炎、認知症、骨折などの有害事象が観察研究では危惧されているが、昨年報告された3年間にわたるPPIとプラセボ投与の大規模無作為化試験1)で有意差が見られたのは腸管感染症のみだった。とはいえ、必要以上に長期にわたってPPIを投与するのは避けるべき」と漫然処方に対し注意喚起した。一方で、H2RAは、せん妄など中枢神経系の副作用が高齢者でみられることが報告され注意が必要なため、「PPIやH2RAの有害事象を今後のガイドラインに盛り込むかどうか検討していきたい」とも話した。消化性潰瘍診療ガイドライン2020で強く推奨された服用例 H.pylori陰性、NSAIDsの服用がない患者で生じる特発性潰瘍は増加傾向を示し、2000~03年の潰瘍全体の中の頻度は約1~4%であったのが、2012~13年には12%となっている。同じくLDA服用者において、Nakayama氏ら2)が2000~03年と2004~07年の出血性潰瘍症例を比較した結果、 LDA服用者の比率が9.9%から18.8% へと有意に増加(p=0.0366)していたことが明らかになった。この背景について、同氏は「LDA服用例に消化性潰瘍や出血性潰瘍の予防がなされていなければ、それらの患者はさらに増加する恐れがある。LDA服用例の出血性胃潰瘍症例は2000年代前半より後半で有意に増加したと報告されている」とし、「すでに循環器内科医の多くの方はPPIを用いた潰瘍予防を行っている。今後は消化性潰瘍既往のある患者はもちろん、既往のない場合は保険適用外のため個別の症状詳記が必要になるが、高齢者にはPPI併用による潰瘍予防策を講じていただきたい」と話した。消化性潰瘍診療ガイドラインでは、抗血小板2剤併用療法(DAPT)時にPPI併用による出血予防を行うよう強く推奨している。消化性潰瘍診療ガイドライン2020でおさえておきたい項目 今回の消化性潰瘍診療ガイドライン2020の改訂でおさえておきたいもう1つのポイントとして、「BQ5-13:NSAIDsは心血管イベントを増加させるか?」「CQ5-14:低用量アスピリン(LDA)服用者におけるCOX-2選択的阻害薬は通常のNSAIDsより潰瘍リスクを下げるか?」の項目がある。NSAIDsの心血管イベントの有害事象については、これまでナプロキセン(商品名:ナイキサン)服用者のリスクが低いとされてきた。しかし、今回の文献検討では必ずしもそうではなかったと同氏は話した。「潰瘍出血のNSAIDsとLDA服用例で、セレコキシブ(商品名:セレコックス)+PPI群とナプロキセン+PPI併用群の上部消化管出血再発を比較したRCT3)では、セレコキシブ群で再発率が有意に低く心血管イベントの発生には差を認めなかったため、LDA服用の心血管疾患例でNSAIDs併用投与時にはセレコキシブ+PPIが有用」と説明。また、セレコキシブの添付文書には心血管疾患者への投与は禁忌とあるが、これは冠動脈バイパス術の周術期患者のみに該当し、そのほかの心血管患者は慎重投与であることから、個々の患者の状態に応じた柔軟な治療選択を提唱した。消化性潰瘍診療ガイドライン2020の治療フローチャート このほか、消化性潰瘍の治療フローチャートには治療に残胃潰瘍、特発性潰瘍の診断が消化性潰瘍診療ガイドライン2020に追加された。残胃潰瘍とは、外科的胃切除術後の残胃に生じる潰瘍を示す病態だが、現時点では有病率のデータはない。同氏は「近年では残胃で潰瘍を経験するなど実臨床で遭遇する機会が増えているため、新たに章立てしフローチャートに追加した。胃亜全摘術後の胃と小腸の吻合部分の潰瘍は吻合部潰瘍として知られており、これまで吻合部潰瘍が取り上げられていた。しかし、吻合部だけでなく、残胃内に潰瘍が生じることが多いため、今回取り上げた。その中にはNSAIDs潰瘍もあるが、ピロリ陽性、陰性の潰瘍もある」とコメントした。 最後に佐藤氏は「日常診療において、ピロリ菌除菌時に処方される薬剤、とくにクラリスロマイシンは併用注意薬や併用禁忌薬が多い。そのため、患者の紹介を受けた際には常用薬に該当薬剤が含まれていないか注意しながら治療選択を進めている」と、消化器潰瘍の診察時ならではの見逃してはいけないポイントを話した。

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PCI後プラスグレルのde-escalation法、出血リスクを半減/Lancet

 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を行った急性冠症候群(ACS)患者に対し、術後1ヵ月間プラスグレル10mg/日を投与した後、5mg/日に減量する、プラスグレルをベースにしたde-escalation法は、1年間のネット有害臨床イベントを低減することが、韓国・ソウル大学病院のHyo-Soo Kim氏らが同国35病院2,338例を対象に行った「HOST-REDUCE-POLYTECH-ACS試験」の結果、示された。イベントリスクの低減は、主に虚血の増大のない出血リスクの減少によるものであった。PCI後のACS患者には1年間、強力なP2Y12阻害薬ベースの抗血小板2剤併用療法(DAPT)が推奨されている。同療法では早期の段階において薬剤の最大の利点が認められる一方、その後の投与期には出血の過剰リスクが続くことが知られており、研究グループは、抗血小板薬のde-escalation法が虚血と出血のバランスを均衡させる可能性があるとして本検討を行った。Lancet誌2020年10月10日号掲載の報告。韓国35病院で2,338例を無作為化、有害臨床イベント発生を比較 HOST-REDUCE-POLYTECH-ACS試験は、韓国35病院で行われた多施設共同無作為化非盲検非劣性試験。PCIを実施したACS患者を1対1の割合で無作為に2群に割り付け、全例に術後1ヵ月間プラスグレル10mg/日+アスピリン100mg/日を投与した後、一方の群ではプラスグレルを5mg/日に減量(de-escalation群)、もう一方の群には10mg/日を継続投与した(対照群)。 主要エンドポイントは、1年時点のネット有害臨床イベント(総死亡、非致死的心筋梗塞、ステント血栓症、血行再建術の再施行、脳卒中、BARC出血基準2以上の出血)の発生で、絶対非劣性マージンは2.5%とした。 主な副次エンドポイントは、有効性アウトカム(心血管死、心筋梗塞、ステント血栓症、虚血性脳卒中)と安全性アウトカム(BARC出血基準2以上の出血)だった。de-escalation群、虚血リスクの増大なし、出血リスクは半減 2014年9月30日~2018年12月18日に3,429例がスクリーニングを受け、うち1,075例がプラスグレル適応基準を満たさず、16例が無作為化エラーにより除外され、2,338例がde-escalation群(1,170例)、対照群(1,168例)に割り付けられた。 ネット有害臨床イベントの発生は、de-escalation群82例(Kaplan-Meier法による予測値:7.2%)、対照群116例(10.1%)で、de-escalation群の非劣性が示された(絶対リスク差:-2.9%、非劣性のp<0.0001、ハザード比[HR]:0.70[95%信頼区間[CI]:0.52~0.92]、同等性のp=0.012)。 de-escalation群は対照群に比べ、虚血のリスク増大はみられず(HR:0.76、95%CI:0.40~1.45、p=0.40)、出血イベントリスクは有意に減少した(0.48、0.32~0.73、p=0.0007)。

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遺伝子型ガイドのP2Y12阻害薬選択は本当に無効なのか?(解説:中川義久氏)-1288

 血小板凝集では、周囲からの刺激に反応してADPが血小板から放出され、これが血小板のADP受容体P2Y12を介してさらなる血小板凝集の連鎖を引き起こす。この受容体へのADPの結合を阻害し、血小板の凝集と血栓の形成を抑制する代表的な薬剤がチエノピリジン系抗血小板薬である。BMSが導入された時期には、第1世代チエノピリジン系抗血小板薬のチクロピジンのみであった。現在では副作用の発生頻度がチクロピジンよりも少ない第2世代チエノピリジン系薬剤であるクロピドグレルが多く使用されている。クロピドグレルは肝臓のCYP2C19で代謝されて活性化するが、CYP2C19の遺伝子多型により薬効が異なる。代謝能の低い遺伝子型である機能喪失型(loss-of-function:LOF)を持つ患者では効きが弱い、すなわち血小板凝集が十分に抑制されない。プラスグレルは第3世代のチエノピリジン系薬剤である。チカグレロルはADP受容体阻害薬ではあるが、チエノピリジン系ではなく、シクロペンチルトリアゾロピリミジン系薬剤に分類される。この新規のADP受容体阻害薬である、プラスグレルとチカグレロルは、CYP2C19遺伝子多型による低反応性はない。 PCI後の抗血小板薬の選択を、CYP2C19のLOFの有無に基づいて行う「TAILOR-PCI試験」の結果が2020年8月25日付のJAMA誌に掲載された。これは3月のACC.20/WCCのLate-Breaking Clinical Trialsセッションで発表された内容が論文化されたものである。 遺伝子型ガイド群ではCYP2C19のLOF保有者にはチカグレロルを、従来治療群にはクロピドグレルを投与している。LOF保有者のみを解析対象としている。全患者にアスピリンが投与され、DAPTが継続されている。12ヵ月時点の心血管死・心筋梗塞・脳卒中・ステント血栓症・重度虚血再発の複合で定義される主要評価項目は、遺伝子型ガイド群で4.0%、従来治療群で5.9%に認められ、ハザード比:0.66、p=0.06と有意差はなかった。副次評価項目である出血イベントにも有意差は認められなかった。本研究の公式の解釈は、遺伝子型ガイドのP2Y12阻害薬の選択戦略は無効ということになる。 しかし、本当に遺伝子型ガイドによる個別化した治療戦略に意味がないと言い切ってもよいであろうか? 本試験の後付け解析ではあるが、初期3ヵ月に限ればハザード比:0.21、p=0.001と、遺伝子型ガイドが主要評価項目の発生を8割近く抑制している。イベント発生のリスクの高い時期でなければ差異は表出されない可能性がある。この研究が計画されたのは2012年であり、2013~18年と6年間も時間を要している。この間にDESは進化し、植込み技術の向上も相まってステント血栓症は激減した。このイベント率の低下によって研究デザインのパワーが不足することになった可能性もある。 PCI術後にDAPTを中止し単剤とする場合に、アスピリンを中止しADP受容体阻害薬のみを継続する方向への動きがある。またDAPT期間そのものが短縮化している。その代表的な研究がSTOPDAPT-2試験(Watanabe H, et al. JAMA. 2019;321:2414-2427.)である。単剤投与であれば、一層と遺伝子型ガイドによって有効な薬剤を選択する価値が高まる可能性もある。 少なくとも、この「TAILOR-PCI試験」の結果から、遺伝子型ガイドによるP2Y12阻害薬を選択する治療戦略には意味がないと、結論付けることはできない。CYP2C19のLOF保有者が多いとされる日本から決着をつける研究が望まれる。

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抗凝固薬非適応TAVI例、アスピリン単独 vs.DAPT/NEJM

 経口抗凝固薬の適応がない経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)を受けた患者では、3ヵ月間のアスピリン投与はアスピリン+クロピドグレル併用に比べ、1年後の出血や出血・血栓塞栓症の複合の発生が有意に少ないことが、オランダ・St. Antonius病院のJorn Brouwer氏らが実施したPOPular TAVI試験のコホートBの検討で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2020年8月30日号に掲載された。長期の抗凝固療法の適応のない患者におけるTAVI後の出血や血栓塞栓症イベントに及ぼす効果について、抗血小板薬2剤併用(DAPT)と比較した1剤の検討は十分に行われていないという。抗凝固薬非適応の患者のTAVI施行後3ヵ月間に抗血小板薬投与 本研究は、欧州の17施設が参加した医師主導の非盲検無作為化試験であり、2013年12月~2019年3月の期間に患者登録が行われた(オランダ保健研究開発機構の助成による)。 対象は、TAVIが予定されており、長期の経口抗凝固薬投与の適応のない患者であった。被験者は、TAVI施行後の3ヵ月間に、抗血小板薬アスピリン単独(80~100mg、1日1回)またはアスピリン(80~100mg、1日1回)+クロピドグレル(75mg、1日1回)の抗血小板薬2剤併用の投与を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、12ヵ月以内の全出血(小出血、大出血、生命を脅かす/障害を伴う出血)、および非手技関連出血の2つであった。TAVI穿刺部位出血の多くは非手技関連出血とされた。副次アウトカムは、1年後の心血管死、非手技関連出血、脳卒中、心筋梗塞の複合(第1複合副次アウトカム)、および心血管死、脳梗塞、心筋梗塞の複合(第2複合副次アウトカム)の2つの非劣性(非劣性マージン7.5%ポイント)および優越性とした。抗凝固薬非適応TAVI例は抗血小板薬1剤で出血イベントが有意に少ない 抗凝固薬の適応のない患者のTAVI施行665例が登録され、アスピリン単独の抗血小板薬1剤群に331例、アスピリン+クロピドグレルの抗血小板薬2剤併用群には334例が割り付けられた。全体の平均年齢は80.0±6.3歳、女性が48.7%であった。 出血イベントは、アスピリン単独群では50例(15.1%)、併用群では89例(26.6%)に認められ、単独群で有意に少なかった(リスク比[RR]:0.57、95%信頼区間[CI]:0.42~0.77、p=0.001)。また、非手技関連出血は、それぞれ50例(15.1%)および83例(24.9%)にみられ、単独群で有意に少なかった(0.61、0.44~0.83、p=0.005)。 第1複合副次アウトカムは、単独群で76例(23.0%)、併用群では104例(31.1%)に発現し、単独群の併用群に対する非劣性(群間差:-8.2%、95%CI:-14.9~-1.5、非劣性のp<0.001)および優越性(RR:0.74、95%CI:0.57~0.95、優越性のp=0.04)が確認された。 第2複合副次アウトカムは、それぞれ32例(9.7%)および33例(9.9%)で発現し、単独群の併用群に対する非劣性(群間差:-0.2%、95%CI:-4.7~4.3、非劣性のp=0.004)は認められたが、優越性(RR:0.98、95%CI:0.62~1.55、p=0.93)は示されなかった。 試験期間中に、経口抗凝固薬の投与を開始したのは、アスピリン単独群が44例(13.3%)、アスピリン+クロピドグレル併用群は32例(9.6%)で、TAVI施行後の投与期間中央値はそれぞれ12日(IQR:4~59)および6日(3~66)だった。経口抗凝固薬開始の主な理由は、心房細動の新規発症であった。 著者は、「これらの結果は、大出血の発生(2.4% vs.7.5%、RR:0.32、95%CI:0.15~0.71)の差が、主な要因であった」としている。

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チカグレロルのDAPTからSAPTへの移行時期:3ヵ月vs.12ヵ月の比較試験(解説:上田恭敬氏)-1276

 急性冠症候群症例を対象として、PCI後にチカグレロルとアスピリンによるDAPTを3ヵ月で終了してチカグレロルの単剤療法へ移行する群と12ヵ月間DAPTを継続する群に無作為に割り付け、12ヵ月間のnet adverse clinical event(出血と脳心血管イベント)を主要評価項目として比較したRCTの結果である。出血はTIMI major bleeding、脳心血管イベントは死亡、心筋梗塞、ステント血栓症、脳卒中、標的血管再血行再建としている。登録症例数は、DAPT 3ヵ月群が1,527症例、12ヵ月群が1,529症例であった。 結果は、主要評価項目の発生頻度が3.9%対5.9%(p=0.01)と、3ヵ月DAPT群で有意に低値であった。出血イベントが3ヵ月DAPT群で有意に低値であったためであり、脳心血管イベントのそれぞれ、および組み合わせに群間差はなかった。 DAPT期間が短いほうが、出血イベントが少なくなるのは予想通りである。問題は、DAPT短縮によって本当に脳心血管イベントが増えないのかということである。 DAPT試験では、DAPTを継続することによって、心筋梗塞の発症を半減することができている。DAPT試験と本試験を比べると、DAPT試験では、はるかに多い約5,000症例が各群に割り付けられていること、全体の脳心血管イベント発生頻度が高いこと、単剤療法はアスピリンであること、12ヵ月間DAPTでイベントを発生しなかった人だけが対象であること、などが違いとして挙げられる。本試験では、ステントや薬物療法の進歩によって、全体的に脳心血管イベントが減少したために、DAPT期間を短縮しても問題がなかった、あるいは単剤療法がアスピリンではなくチカグレロルであったから問題がなかったと解釈することもできるだろうが、出血リスクが低くて脳心血管イベント発生リスクが高い人を選べばDAPT継続にもメリットがある可能性を否定するものではないだろう。しかし、チカグレロルなどP2Y12阻害薬の単剤療法であれば、脳心血管イベント抑制効果においてDAPTと同等である可能性も否定できず、アスピリンが必要な期間がさらに短縮されたり、元々不要との考えに至る可能性もあるのかもしれない。さらにエビデンスの蓄積が待たれる。

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DES留置のACS、短期DAPT後にチカグレロル単剤で予後改善/JAMA

 薬剤溶出ステント(DES)留置術を受けた急性冠症候群(ACS)患者では、抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)を3ヵ月間施行後にチカグレロル単剤療法に切り替えるアプローチは、12ヵ月間のチカグレロルベースのDAPTと比較して、1年後の大出血と心血管イベントの複合アウトカムの発生をわずかに低減し、統計学的に有意な改善が得られることが、韓国・延世大学校医科大学のByeong-Keuk Kim氏ら「TICO試験」の研究グループによって示された。研究の成果は、JAMA誌2020年6月16日号に掲載された。経皮的冠動脈インターベンション(PCI)としてDES留置術を受けたACS患者では、アスピリン+P2Y12阻害薬による短期DAPT施行後にアスピリンを中止することで、出血リスクが軽減するとされる。一方、新世代DES留置術を受けたACS患者において、アスピリン中止後のチカグレロル単剤療法に関する検討は、これまで行われていなかったという。韓国の38施設が参加した無作為化試験 研究グループは、DES留置後のACS患者における、3ヵ月間のDAPT施行後のチカグレロル単剤への切り替えは、12ヵ月間のチカグレロルベースのDAPTと比較して、純臨床有害事象(net adverse clinical event:NACE)を低減するかを検証する目的で、多施設共同非盲検無作為化試験を実施した(韓国・心血管研究センターなどの助成による)。 対象は、2015年8月~2018年10月の期間に、韓国の38施設でDES(超薄型生体吸収性ポリマーシロリムス溶出性ステント)留置術を受けたACS患者(ST上昇型心筋梗塞、非ST上昇型心筋梗塞、不安定狭心症)であった。 被験者は、3ヵ月間のDAPT(アスピリン+チカグレロル)施行後に、アスピリンを中止してチカグレロル(90mg、1日2回)単剤に移行する群、またはアスピリンを中止せずにチカグレロルベースのDAPTを12ヵ月間継続する群に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは1年後のNACEの発生とした。NACEは、大出血と主要心脳血管有害事象(MACCE:死亡、心筋梗塞、ステント血栓症、脳卒中、標的血管再血行再建術)の複合と定義された。大出血の発生は有意に低下、MACCEには差がない 3,056例(平均年齢61歳、女性628例[20%]、ST上昇型心筋梗塞36%、糖尿病27%)が登録され、2,978例(97.4%)が試験を完遂した。チカグレロル単剤群に1,527例、12ヵ月チカグレロルベースDAPT群には1,529例が割り付けられた。 主要アウトカムは、チカグレロル単剤群で59例(3.9%)に発生し、12ヵ月DAPT群の89例(5.9%)と比較して、その差は小さいものの統計学的に有意であった(絶対群間差:-1.98%、95%信頼区間[CI]:-3.50~-0.45、ハザード比[HR]:0.66、95%CI:0.48~0.92、p=0.01)。 事前に規定された10項目の副次アウトカムのうち、8項目には有意な差はみられなかった。TIMI出血基準による大出血(1.7% vs.3.0%、HR:0.56、95%CI:0.34~0.91、p=0.02)および大出血または小出血(3.6% vs.5.5%、0.64、0.45~0.90、p=0.01)の発生は、チカグレロル単剤群で良好であったが、MACCE(2.3% vs.3.4%、0.69、0.45~1.06、p=0.09)およびその5つの構成要素の個々の発生には差がなかった。 著者は、「これらの知見を解釈する際には、イベント発生率が予想よりも低かった点などを考慮する必要がある」としている。

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アジアの肺がんのためのガイドライン、局所進行肺がんPan-Asian ESMOガイドライン【肺がんインタビュー】 第47回

第47回 アジアの肺がんのためのガイドライン、局所進行肺がんPan-Asian ESMOガイドライン出演:九州がんセンター 呼吸器腫瘍科 瀬戸 貴司氏アジアの肺がん治療の特性や現状に適合した初めてのガイドラインである、局所進行肺がんPan-Asian ESMOガイドラインが本年(2020年)1月、Annals of Oncology誌に発表された。このガイドラインはどう作られ、どう読み、どう活用するべきか、作成委員の一人である九州がんセンター瀬戸 貴司氏に聞いた。参考K Park, et al. Pan-Asian Adapted ESMO Clinical Practice Guidelines for the Management of Patients With Locally-Advanced Unresectable Non-Small-Cell Lung Cancer: A KSMO-ESMO Initiative Endorsed by CSCO, ISMPO, JSMO, MOS, SSO and TOS.An Oncol.2020;31:191-201P E Postmus, et al. Early and Locally Advanced Non-Small-Cell Lung Cancer (NSCLC): ESMO Clinical Practice Guidelines for Diagnosis, Treatment and Follow-Up.Ann Oncol. 2017 Jul 1;28(suppl_4):iv1-iv21.

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テーマ、デザインともに価値を見いだせない(解説:野間重孝氏)-1233

 この研究デザインについてはpre-studyとも言える論文(Qaderdan K, et al. Am Heart J. 2015;170:981-985.)で説明されていると言うのであるが、元論文に当たってみても著者らが言うような明確といえるほどの説明はなされていない。この種の評論を書くと意地悪ジイさん扱いされてしまいそうであることを覚悟して書き込ませていただくと、最近の論文は研究デザインとその意味付けといった最も重要な部分や統計処理などを○○参照とかappendix参照などで済ませているケースが目立つ。それでその○○なりappendixに当たってみると―予想通りというか―説明不足であったり、非常にわかりづらかったりするのである。また、appendixだけで70~80ページなどというものも珍しくない。多くの雑誌でページ数や構成に厳しい注文が出されることが原因の1つであるようだ。これは執筆者の皆さんというより雑誌編集者の皆さんへ苦言を呈したい。 上記はさておき、この論文で行われた研究内容自体は決して難解なものではなく、70歳以上の高齢者のNSTEMI患者を対象として、クロピドグレル投与群とチカグレロル/プラスグレル投与群に無作為に分け、1年間フォローしたというものである。 疑問点はなぜ上記のような分け方がなされたのかという点にあるのだが、この点について著者らは何も説明していない。クロピドグレル、プラスグレルはいずれもチクロピジンと同じチエノピリジン系に属する薬剤であり、P2Y12に不可逆的に結合することで血小板凝集を抑制する薬剤である。この系統の薬剤はいわゆるプロドラッグで、肝臓で代謝を受けることにより効果を発揮する。ここでクロピドグレルがCYP2C19の多形性に大きく影響されるのに対して、プラスグレルは小腸のカルボキシエステラーゼに続いて複数の肝臓の代謝酵素(CYP3A、CYP2B6、CYP2C9、CYP2C19)によって速やかに代謝され活性化するため、効果の個体差が小さいことに加え、効果発現までの時間が大幅に短縮されていることに大きな違いがある。しかしながら、両薬がいずれもチエノピリジン系に属する薬剤であることには変わりはない。 一方チカグレロルはcyclo pentyl triazolo pyrimidine(CPTP)系に分類される薬剤で、チエノピリジン系薬剤との大きな違いは自身が活性体であって代謝を受けることなく効果を発揮すること、P2Y12への結合が可逆的である点にある。このため効果の発現が速やかであるとともに、中止により比較的短期間で血小板機能が回復することが利点である。しかしこの有利な特徴の反面、1日2回投与が必要であること、出血合併症の頻度がやや高いこと、呼吸困難等の副作用が比較的高頻度で生じることが欠点とされ、実際わが国の標準プロトコールではDAPTにおいて「何らかの理由で他の抗血小板薬が使用できない場合」に限定されて使用許可がなされている(ただし欧州ではクロピドグレルより優先順位が高く設定されている)。 上記より疑問点は容易に浮かび上がると思う。なぜクロピドグレルvs.チカグレロル/プラスグレルというデザインがなされたのかという点である。本研究では結果としてプラスグレルがチカグレロル/プラスグレル群の5%にしか投与されなかったことで、偶然クロピドグレルvs.チカグレロルの図式が成立したかに見えるのであるが(5%といえども決して無視できない数字だという意見は当然ある)、これは当初からのデザインによるものではない。さらにチカグレロルに出血性合併症が多いことはすでにPLATO試験、PEGASUS試験で明らかにされていることであり、とくに目新しい結果ではない。呼吸困難が問題になることも、ある程度当初からわかっていたことだったといえる。さらに上記のようにプラスグレルの作用には個人差があり、これがかえって結果に対して有利に働いた可能性も指摘されなくてはならないのではないだろうか。 大変にぶしつけな書き方になってしまい申し訳ないが、評者はこの研究については研究テーマ、デザイン両観点から価値を見いだすことができない。

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COVID-19に特例承認のレムデシビル、添付文書と留意事項が公開

 2020年5月8日、ギリアド・サイエンシズ社(以下、ギリアド社、本社:米カリフォルニア州)は、特例承認制度の下、レムデシビル(商品名:ベクルリー)が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬として承認されたことを発表した。現時点では供給量が限られているため、ギリアド社より無償提供され、公的医療保険との併用が可能である。 本治療薬は5月1日に米国食品医薬品局(FDA)よりCOVID-19治療薬としての緊急時使用許可を受け、日本では5月4日にギリアド社の日本法人から厚生労働省へ承認申請が出されていた。レムデシビル投与、対象者の選定に注意 レムデシビルはエボラウイルス、マールブルグウイルス、MERSウイルス、SARSウイルスなど、複数種類の新興感染症病原体に対し、in vitroと動物モデルを用いた試験の両方で広範な抗ウイルス活性が認められている核酸アナログである。 添付文書に記載されている主なポイントは以下のとおり。・投与対象者は、酸素飽和度(SpO2)が94%(室内気)以下、酸素吸入を要する、体外式膜型人工肺(ECMO)導入または侵襲的人工呼吸器管理を要する重症患者。・警告には急性腎障害、肝機能障害の出現について記載されており、投与前及び投与中は毎日腎機能・肝機能検査を行い、患者状態を十分に観察する。・臨床検査値(白血球数、白血球分画、ヘモグロビン、ヘマトクリット、血小板数、クレアチニン、グルコース、総ビリルビン、AST、ALT、ALP、プロトロンビン時間など)について、適切なモニタリングを行う。・Infusion Reaction(低血圧、嘔気、嘔吐、発汗、振戦など)が現れることがある。・用法・用量は、通常、成人及び体重40kg以上の小児にはレムデシビルとして、投与初日に200mgを、投与2日目以降は100mgを1日1回点滴静注する。通常、体重3.5kg以上40kg未満の小児にはレムデシビルとして、投与初日に5mg/kgを、投与2日目以降は2.5mg/kgを1日1回点滴静注する。なお、総投与期間は10日までとする。ただし、これに関連する注意として、「本剤の最適な投与期間は確立していないが、目安としてECMO又は侵襲的人工呼吸器管理が導入されている患者では総投与期間は10日間までとし、ECMO又は侵襲的人工呼吸器管理が導入されていない患者では5日目まで、症状の改善が認められない場合には10日目まで投与する」「体重3.5kg以上40kg未満の小児には、点滴静注液は推奨されない」との記載があり、投与期間や体重制限などに注意が必要である。・小児や妊婦への投与は治療上の有益性などを考慮する。・主な有害事象は、呼吸不全(10例、6%)、急性呼吸窮迫症候群(3例、1.8%)、呼吸窮迫(2例、1.2%)、敗血症性ショック(3例、1.8%)、肺炎(2例、1.2%)、敗血症(2例、1.2%)、急性腎障害(6例、3.7%)、腎不全(4例、2.5%)、低血圧(6例、3.7%)など。 このほか、厚生労働省が発出した留意事項には、適応患者の選定について、以下を参考にするよう記載されている。■■■<適格基準> ・PCR検査においてSARS-CoV-2が陽性 ・酸素飽和度が94%以下、酸素吸入又はNEWS2スコア4以上・入院中 <除外基準>・多臓器不全の症状を呈する患者 ・継続的に昇圧剤が必要な患者 ・ALTが基準値上限の5倍超 ・クレアチニンクリアランス30mL/min未満又は透析患者 ・妊婦■■■ また、本剤を投与する医療機関において迅速なデータ提供を求めており、「本剤には承認条件として可能な限り全症例を対象とした調査が課せられているが、本剤については安全性及び有効性に関するデータをとくに速やかに収集する必要がある」としている。2つの臨床試験と人道的見地に基づき承認へ 今回の承認は、アメリカ国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)が主導するプラセボ対象第III相臨床試験(ACTT:Adaptive COVID-19 Treatment Trial、COVID-19による中等度から重度の症状を呈する患者[極めて重症の患者を含む]を対象)、ならびにギリアド社が実施中のCOVID-19重症患者を対象とするグローバル第III相試験(SIMPLE Study:重症例を対象にレムデシビルの5日間投与と10日間投与を評価)の臨床データ、そして、日本で治療された患者を含むギリアド社の人道的見地から行われた投与経験データに基づくもの。 ギリアド社によると、2020年10月までに50万人分、12月までに100万人分、必要であれば2021年には数百万人分の生産量を目標としている(各患者が10日間投与を受けると想定して計算)。

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てんかん重積、レベチラセタムvs.ホスフェニトインvs.バルプロ酸/Lancet

 てんかん重積状態の小児・成人・高齢者は、レベチラセタム、ホスフェニトイン、バルプロ酸に対して類似した反応を示し、約半数の患者で治療が成功したことが示された。米国・国立小児病院のJames M. Chamberlain氏らが、米国の58施設の救急部門で実施した多施設共同無作為化二重盲検responsive-adaptive試験「ESETT試験」で対象を小児まで拡大した後の、3つの年齢群のアウトカムについての解析結果を報告した。ベンゾジアゼピン抵抗性あるいは確定したてんかん重積状態は、小児と成人で病態生理は同じものと考えられていたが、根本的な病因や薬力学の違いが治療に対して異なった影響を及ぼす可能性があった。結果を踏まえて著者は、「3剤のいずれもベンゾジアゼピン抵抗性てんかん重積状態に対する、第1、第2選択薬の候補と考えられる」とまとめている。Lancet誌オンライン版2020年3月20日号掲載の報告。ベンゾジアゼピン抵抗性てんかん重積状態の患者で、年齢群別に検討 研究グループは、2歳以上で、5分以上の全身痙攣発作に対し十分量のベンゾジアゼピンで治療を受けたことがあり、救急部門にてベンゾジアゼピン系薬の最終投与後5分以上30分未満の持続性または再発性の痙攣が続く患者を対象に試験を行った。 ベイズ法を用いるとともに年齢を層別化(<18歳、18~65歳、>65歳)して、response-adaptive法によりレベチラセタム群、ホスフェニトイン群およびバルプロ酸群に無作為に割り付けた。すべての患者、治験責任医師、治験スタッフおよび薬剤師が、治療の割り付けに関して盲検化された。 有効性の主要評価項目は、薬剤投与後1時間時点での追加の抗てんかん薬を必要としない意識の改善を伴う臨床的に明らかな発作消失とし、安全性の主要評価項目は、致死的な低血圧または不整脈とした。有効性および安全性は、intention-to-treat解析で評価した。年齢群を問わず3剤への反応は同等、約半数の患者が治療成功 2015年11月3日~2018年12月29日に478例が登録され、小児225例(<18歳)、成人186例(18~65歳)、高齢者51例(>65歳)の計462例が割り付けられた。レベチラセタム群が175例(38%)、ホスフェニトイン群が142例(31%)、バルプロ酸群が145例(31%)で、ベースラインの特性は各年齢群・治療群間でバランスが取れていた。 有効性の主要評価項目を達成した患者の割合は、レベチラセタム群で小児52%(95%信頼区間[CI]:41~62)、成人44%(95%CI:33~55)、高齢者37%(95%CI:19~59)であり、ホスフェニトイン群で小児49%(95%CI:38~61)、成人46%(95%CI:34~59)、高齢者35%(95%CI:17~59)、バルプロ酸群で小児52%(95%CI:41~63)、成人46%(95%CI:34~58)、高齢者47%(95%CI:25~70)であった。 有効性または安全性の主要評価項目は、各年齢群とも治療群間で差はなかった。また、安全性の副次評価項目は、小児の気管内挿管を除いていずれの年齢群も治療群間による差は認められなかった。

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