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冠動脈疾患における抗血栓療法にフォーカスしたガイドラインを公開/日本循環器学会

 日本循環器学会は2020年3月13日、「2020年JCSガイドライン フォーカスアップデート版 冠動脈疾患患者における抗血栓療法」を学会ホームページに公開した。本ガイドラインは、2019年に発表された「急性冠症候群ガイドライン(2018 年改訂版)」と「安定冠動脈疾患の血行再建ガイドライン(2018年改訂版)」の2つのガイドラインの抗血栓療法に関して、発表後に多くの重要なエビデンスや新たな概念が発表されたことから、この内容にのみ焦点を当て作成された。ガイドラインには周術期の抗血栓療法に関する項目が新設 今回の冠動脈疾患患者における抗血栓療法にフォーカスしたガイドラインでは、諸外国と異なっていると言われるわが国の虚血と出血のリスクバランスを考慮し、国内の臨床試験や大規模臨床研究を数多く引用し作成された。今回のアップデートにおける特徴は以下のとおり。1)2019年4月に欧米誌に同時掲載された学術研究コンソーシアムによる高出血リスク患者についてのコンセンサスドキュメント(Academic Research Consortium for High Bleeding Risk:ARC-HBR)を治療戦略のガイドとして採用2)ARC-HBRの評価基準を基に、低体重、フレイル、心不全、透析などのリスク因子を加味した「日本版HBR評価基準」を作成3)急性冠症候群(ACS)と安定冠動脈疾患を併せて冠動脈疾患全般における抗血栓療法とし、また実臨床に即して時系列に沿って項立て4)ガイドラインの必須項目に限定した簡易なフローチャートを作成5)「周術期の抗血栓療法」に関する項目が新設 出血リスクの評価方法については、2018年改訂版のガイドラインでは、ACS、安定冠動脈疾患ともにPRECISE-DAPTスコアが採用されたが、最近、提唱された高出血リスク(HBR)の概念が、出血リスクが高いと言われる東アジアでより実践的と考えられることから、本ガイドラインではHBRの概念が基本戦略として採用された。 今回の冠動脈疾患患者における抗血栓療法にフォーカスしたガイドラインでは他にも、Loadingのタイミングや薬剤選択が明記され、また、HBRをガイドにした抗血栓薬の投薬期間を定められた(短期DAPT後はP2Y12阻害薬単剤を推奨)。さらに、心房細動後のde-escalationについてはエビデンスに基づくものになっている。

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TAVRの術後は抗血小板療法?抗凝固療法?(解説:上妻謙氏)-1191

 経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)は、重症大動脈弁狭窄症に対する治療として標準治療となったが、術後の抗血栓療法についての十分なエビデンスが存在しない。今までTAVR後の抗血栓療法としては3~6ヵ月のアスピリンとクロピドグレルによる2剤併用抗血小板療法(DAPT)が標準とされてきたが、この抗血小板療法についての大規模研究は少なく、とくにランダマイズトライアルは皆無である。TAVR後に抗血小板療法が良いのか抗凝固療法が良いのかが疑問であったため、低用量アスピリンに加えてリバーロキサバン10mgとクロピドグレル投与を無作為で比較するGALILEO試験が行われ、結果はすでに発表された。 この試験ではリバーロキサバンを用いた抗凝固療法は有効性の複合エンドポイントで抗血小板療法群に劣り、出血のエンドポイントである安全性エンドポイントでも劣る傾向にあった。したがって、TAVR後の抗血栓療法は抗血小板療法が標準ということが守られた形になっている。一方、TAVRでも外科的手術の生体弁でも、術後早期からの弁尖肥厚と可動性低下が4D-CTを使用することによってレポートされていて、これが血栓の付着によるものと考えられ、生体弁の耐久性を低下させる原因となっているとされていた。 そこで、GALILEO試験の主なサブスタディとして、このGALILEO 4-D試験がデザインされた。4-D CTとは3-Dに加え時間の要素を加えた実際の弁尖の厚みと可動性を評価できるもので、それぞれ5段階に半定量化されて評価された。GALILEO試験1,644例の患者のうち、このサブスタディには231例がエンロールされた。115例がリバーロキサバン群、116例が抗血小板療法群に割り当てられ、実際に4-D CTで評価できたのはそれぞれ97例と101例であった。結果は術後90日の時点で評価され、プライマリーエンドポイントである少なくとも1つの弁尖の可動性低下がグレード3以上であった割合は、リバーロキサバン群2.1%に対し抗血小板療法群10.9%と有意にリバーロキサバン群が良好であり、弁尖肥厚についても12.4%対32.4%とリバーロキサバン群が良好であった。これらの所見はエコーでも評価されたが、エコーでは検出されなかった。 このスタディの結果から言えることは、生体弁の耐久性を向上させるためには抗凝固療法が良い可能性があるが、抗凝固療法による短期臨床イベントの上昇のデメリットが今のところ上回っているということである。このスタディの問題点は抗凝固に低用量のDOACがアスピリンと組み合わされて使用されていることだろう。アスピリンと抗凝固の併用は心房細動でも最もイベントの多い組み合わせであり、出血リスクの高い患者の多いTAVRに適さなかったと考えられる。DOAC単剤であればどうだったのかが検証されることが望ましい。

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short DAPT vs.standard DAPTの新展開:黄昏るのはアスピリン?クロピドグレル?(解説:中野明彦氏)-1170

はじめに 本邦でBMSが使えるようになったのは平成6年、ステント血栓症予防には抗凝固療法(ワルファリン)より抗血小板剤:DAPT(アスピリン+チクロピジン)が優れるとわかったのはさらに数年後だった。その後アスピリンの相方が第2世代のADP受容体P2Y12拮抗薬:クロピドグレルに代わり、最近ではDAPT期間短縮の議論が尽くされているが、DAPT後の単剤抗血小板薬(SAPT)の主役はずっとアスピリンだった。そして時代は令和、そのアスピリンの牙城が崩れようとしている。 心房細動と異なり、ステント留置後の抗血栓療法には虚血リスク(ステント血栓症)と出血リスクの交差時期がある。薬剤溶出性ステント(DES)の進化・強化、2次予防の浸透などによる虚血リスク減少と、患者の高齢化に代表される出血リスク増加を背景に、想定される交差時期は前倒しになってきている。最新の欧米ガイドラインでは、安定型冠動脈疾患に対するDES留置後の標準DAPT期間を6ヵ月とし、出血リスクに応じて1~3ヵ月のshort DAPTをオプションとして認めている。同様に急性冠症候群(ACS)では標準:12ヵ月、オプション:6ヵ月である。もちろん日本循環器学会もこれに追従している。 しかし2018年ごろから、アスピリンに代わるSAPTとしてP2Y12拮抗薬monotherapyの可能性を模索する試験が続々と報告されている。・STOPDAPT-21):日本、3,045例、1 Mo(→クロピドグレル)vs.12 Mo、all comer(ACS 38%)、心血管+出血イベント・出血イベントともにshort DAPTに優越性・SMART-CHOICE2):韓国、2,993例、3 Mo(→クロピドグレル)vs.12 Mo、all comer(ACS 58%)、MACCEは非劣性、出血イベントはshort DAPTに優越性・GLOBAL-LEADERS3):EUを中心に18ヵ国、1万5,968例、1 Mo(→クロピドグレル、ACSはチカグレロル)vs.12 Mo DAPT→アスピリン、2年間、all comer(ACS 47%)、総死亡+Q-MI・出血イベントともに非劣性チカグレロルのmonotherapy チエノピリジン系(チクロピジン、クロピドグレル、プラスグレル)とは一線を画するCTPT系P2Y12拮抗薬であるチカグレロルは、代謝活性化を経ず直接抗血小板作用を発揮するため、作用の強さは血中濃度に依存し個体差がない。またADP受容体との結合が可逆的なため薬剤中断後の効果消失が速い。DAPTの一員としてPEGASUS-TIMI 54・THEMIS試験などで重症安定型冠動脈疾患への適応拡大が模索されているが、現行ガイドラインではACSに限定されている。 今回のTWILIGHT試験はPCI後3ヵ月間のshort DAPT(アスピリン+チカグレロル)とstandard DAPTの比較試験で、SAPTとしてチカグレロルを残した。前掲試験と異なる特徴は、・虚血・大出血イベントを合併した症例を除外し、3ヵ月後にランダム化したランドマーク解析であること・all comerではなく、虚血や出血リスクが高いと考えられる症例・病変*に限定したこと・3分の2がACSだがST上昇型心筋梗塞は含まれていないなどである。*:年齢65歳以上、女性、トロポニン陽性ACS、陳旧性心筋梗塞・末梢動脈疾患、血行再建の既往、薬物療法を要する糖尿病、G3a以上の慢性腎臓病、多枝冠動脈病変、血栓性病変へのPCI、30mmを超えるステント長、2本以上のステントを留置した分岐部病変、左冠動脈主幹部≧50%または左前下行枝近位部≧70%、アテレクトミーを要した石灰化病変 結果、ランダム化から1年間の死亡+虚血イベントは同等(short DAPT:3.9% vs.standard DAPT:3.9%)で、BARC基準2/3/5出血(4.0% vs.7.1%)・より重症なBARC基準3/5 出血(1.0% vs.2.0%)はほぼダブルスコアだった。 筆者らは「PCI治療を受けたハイリスク患者は、3ヵ月間のDAPT(アスピリン+チカグレロル)を実施した後、DAPT継続よりもチカグレロル単剤に切り替えたほうが総死亡・心筋梗塞・脳梗塞を増やすことなく出血リスクを減らすことができる」と結論付けた。日本への応用、そしてその先は? しかしどこか他人事である。 第1に、ACSに対するクロピドグレルvs.チカグレロルのDAPT対決(PLATO試験4))に参加できず別に施行したブリッジ試験(PHILO試験5))が不発に終わった日本では、チカグレロルの適応が大幅に制限されている。したがって、われわれが日常臨床で本試験を実感することはできない。 第2に出血イベントの多さに驚く。3ヵ月のDAPT期間内に発生した死亡+虚血イベントが1.2%だったのに対し、BARC 3b以上の大出血は1.5%だった。出血リスクの高い対照群や人種差のためかもしれないが、本来なら虚血イベントが上回るはずのPCI後早期に出血イベントのほうが多かったのでは本末転倒である。ランダム化後の出血イベント(上記)も加えると、さらに日本の臨床試験とかけ離れてくる。PHILO試験が出血性イベントで失敗したことを考えれば、プラスグレルのように日本人特有の用量設定が必要なのでは、と感じる。 とはいえ、脳出血や消化管出血のリスクが付きまとうアスピリンに代わるP2Y12拮抗薬monotherapyは魅力的なオプションではある。PCI後の抗血小板療法は血栓症予防と出血性合併症とのトレードオフで論ずるべき問題であり、症例や使用薬剤によって虚血リスクと出血リスクの交差時期(至適short DAPT期間)は変わるに違いない。さらに、どのP2Y12拮抗薬がmonotherapyとして最適なのか? 2次予防としても有効なのか? アスピリンのように「生涯」継続するのか? 医療経済的に釣り合うのか? 最初からmonotherapyではダメなのか? …検討すべき問題は山積するが、新しい時代に本試験が投じた一石は小さくない。

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術後管理は手術を救えるか?―CABG編(解説:今中和人氏)-1156

 「人間、左前下行枝さえ保たれていれば何とかなる」とはいうものの、冠動脈バイパス手術の中・長期的便益は、ひとえに開存グラフトによってもたらされるのであり、グラフトの開存維持はまさに死活問題。その重要因子の1つは内服薬で、何をどのくらい処方すべきか、いろいろと考案されてきた。古くはアスピリン、ビタミンK拮抗薬と、それらの併用に始まり、近年ではチエノピリジン系(クロピドグレル、チカグレロル)やOACの中でもリバーロキサバンの、単剤ないし併用といったところである。 大伏在静脈グラフト(SVG)の開存性と内服薬に関するメタ解析である本論文は、3,266の候補論文を1979年から2018年の間に発表されたランダム化試験21本に絞り込み、1次アウトカムをSVG閉塞と出血イベント、2次アウトカムを全死因死亡と遠隔期心筋梗塞と定義して解析している。対象患者数は4,803例で、年齢は44~83歳、男性が83%、待期手術が83%、SVG本数は1患者当たり1.14~3.60本であった。 40年もの期間から容易に想像できるように、プロトコル、つまり処方薬剤・投与量・コンビネーション・投与期間はまったくバラバラだし、placebo対照の研究もあれば投与薬剤間の比較研究もある。この恐ろしく不統一なプロトコルを、薬剤とそのコンビネーションのみに基づいて群分けし、群間比較をしているのだが、絞りに絞った21論文とはいいながら、とくに2次アウトカムは書かれていない論文も多く、さらにたとえば流量が乏しかったのでDAPTに変更したが、群分けは当初のplacebo群のまま、といったintention to treat法に伴うbiasなどが目立ち、科学的公正性が高いのはわずか5論文とのことである。そのため、結果の信頼性はmoderate・low・very lowに3区分(highがない!)され、図表を見ると緑・黄色・赤に塗り分けられてキレイといえばキレイだが、めまいがするほど複雑である。読む側でさえそう感じるのだから、書いた側の苦労がしのばれる。 結論は、SVG閉塞に関しては、対placeboで、クロピドグレル単剤を除くすべての薬剤(単剤・併用)で有意に良好、アスピリン単剤に比し、アスピリン+クロピドグレル、アスピリン+チカグレロルの併用が有意に良好で、その他の出血イベント、全死亡、遠隔期心筋梗塞は有意差がなかった。著者らはこの知見を本メタ解析の収穫として強調している。その他、SVG閉塞に関して、アスピリンへのリバーロキサバンの併用は、クロピドグレル、チカグレロルを併用した症例に有意に劣るという結果が出ているが、あまり詳述されていない。この薬剤については他の疾患や治療でも多様な結果が出ているようで、なかなか難しい。なお、古い論文も多く、スタチンをはじめ血液凝固関係以外の薬剤は検討対象外となっている。 読者として注意を要すると思われるのは、SVG閉塞の評価時期がとても早く、全4,800例のうち、3ヵ月以内の評価が600例もおり、平均観察期間が1年を超えているのは1論文216例のみであること、薬剤投与期間が観察期間未満で、やはりとても短いことである。とくに1ヵ月や50日後のSVG評価が250例もいて、これでは薬剤の効果をみているのか、吻合の質をみているのか、はたまた「術後管理は手術を救えるのか」をみているのか、かなり疑問である。ところが、これら観察期間の短い論文の多くが、著者らが収穫と強調するチエノピリジン併用に関する論文なので、どうも釈然としない。いずれにせよ、もっと長期の観察でないと、薬剤の効果をみたことになりにくいと考える。 もう1つは単剤でも併用でも、どの薬剤も対placeboで出血を有意に増やさない、という結論である。実はオッズ比2.53~5.74ながら95%信頼区間が恐ろしく広く、有意差なしということだが、理論的に大いに疑問である。ちなみにこれらのデータの信頼度はvery lowだそうで、図表は真っ赤っ赤。対placeboの疑義はともかく、アスピリンに上述の諸薬剤を併用しても、アスピリン単剤に比して出血イベントはさして増えていないようだが、何せ観察期間が短い論文ばかり。安全と鵜呑みにするのは危険である。 引き続き、あまり術後管理頼みにならない手術を心掛けて参りましょう。

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コマーシャルペーパーといわれても致し方がないのではないか(解説:野間重孝氏)-1136

 チカグレロルとプラスグレルは、世界の薬剤市場でクロピドグレルの後継を巡って、いわばライバル薬品として扱われているといってよい。両剤ともに作用の発現が早く、また投与中止後、薬効の消失が速やかであることが期待できるという点で共通している。しかしプラスグレルはいわゆるチエノピリジン系に属し、そのものは活性を有しないのに対し、チカグレロルはそのものが活性を持つという点が大きく異なる。ただし、プラスグレルはクロピドグレルと異なり、複数のCYPにより代謝されるため、チカグレロルに劣らない速度で活性を発揮することが可能になっている。 チカグレロルの有用性を検討した主な試験は2つあり、1つがPLATO試験(2009年)、もう1つがPEGASUS試験(PEGASUS-TIMI 54、2015年)である。これらの試験により、出血性合併症がやや多いものの、心血管イベントの発症抑制のためのDAPTの構成薬品として有用なだけでなく、クロピドグレルよりも成績が良いことが示された。しかしこれらの試験では日本人を中心とする東洋人の参加が少なかったことを受け、PHILO試験(2015年)が日本、台湾、韓国の急性冠症候群(ACS)患者を対象として施行された。いわばブリッジ試験であったが、この試験は規模が十分でないとされたものの、結果においてクロピドグレルに対する優位性を示すことができない一方で、それまでも問題視されていた出血イベントが増加してしまった。このことから、同剤はわが国でもPCI後の抗血小板剤として2016年9月に認可されたものの、「アスピリンを含む抗血小板剤2剤併用療法が適切である場合で、かつ、アスピリンと併用する他の抗血小板剤の投与が困難な場合に限る」というただし書きが付けられてしまった。 プラスグレルとの直接比較はPRAGUE-18試験(2016年)で行われたが、この試験は安全性を確かめることに重点が置かれていたことから、両剤の優劣を確かめることなく、一応の安全性が確認された段階で早期中止になってしまった。この後両者の直接比較は行われていなかったが、Schupke Sらが本年に発表したISAR-REACT 5試験で、両者でACSに対する効果に差がないにもかかわらず、以前から問題にされていた出血性イベントにはっきり差があることが示された。このCLEAR!ジャーナル四天王でも東海大学の後藤 信哉氏が同研究の論文評で、「日本の宇部興産と第一三共が開発したプラスグレルこそがクロピドグレルの後継となれるポテンシャルのあった薬なのかもしれない。いいものを持ちながら戦略性にて欧米に負ける日本の現状の問題を提起する試験であった」と、強い調子で書かれた気持ちがよくわかる。つまり世界的な薬剤シェアでは、プラスグレルはクロピドグレルの後継を巡ってチカグレロルに負け越しているのが現状なのである(ちなみに現在でもシェアトップはクロピドグレル)。 本試験は6ヵ月以上の血糖降下薬の投与を受けた2型糖尿病を持つ安定冠動脈疾患患者から、PCI・冠動脈バイパスの既往の有無、冠動脈造影で50%以上の狭窄を指摘されているかのいずれかの因子を持つ患者を選び、これをアスピリン+プラセボ群とアスピリン+チカグレロル群に無作為に分け、中央値で3.3年間フォローし、心血管死、心筋梗塞、脳卒中の複合エンドポイントの発生率をintention to treat解析により検討したものである。結果はチカグレロル群がプラセボ群に比し有意に良好であったが、出血性イベントではチカグレロル群で有意に多かった。 本研究はAstraZeneca社の助成によって行われたとあるが、一体何の目的で行われたものなのか疑問である。プラセボを相手に行えば、差が出ることも、出血性合併症が多いことも、上記のPEGASUS試験ですでにわかっていたことではないのか。著者らは「大出血の発生率は有意に高かったが、致死的出血および頭蓋内出血では有意差がなかった」というが、一体何が言いたいのだろうか。大出血で有意差が出ればそれで十分ではないか。 さらに事前に規定された探索的エンドポイントである総合的臨床ベネフィットにおいて有意に優れていたものの、非PCI群では差が出なかったというが、これも糖尿病患者の冠動脈内に治療のためとはいえ異物を残すわけだから、PCIを振り分け因子として振り分ければ当たり前なのではないかと考えられる。つまり第1に、糖尿病は当然のように心血管イベントの危険因子である。第2に、PCIや冠動脈バイパスなどのインターベンションの成績は非糖尿病患者に比べて糖尿病患者では劣る。そして第3として、その心血管イベントの予防に対してDAPTは有効である。以上、考えていただければ容易におわかりいただけるように、本研究はチカグレロルの特別の優位性を示す研究とはいえない。なお蛇足ながら付け加えさせていただくと、糖尿病は薬物療法に対して種々の影響を持ちそうに思われるだろうが、少なくともDAPTの長期vs.短期の検討を行う際に糖尿病の存在は独立した影響因子にはならないことが現在では定説になっている(Gargiulo G, et al. BMJ. 2016;355:i5483.)。 以上、糖尿病という因子を持ち込むことによっていかにも説得力を持つように見せているが、本試験は要するにSAPT vs.DAPTの試験にすぎない。企業助成によるコマーシャルペーパーといわれても致し方がないのではないかと思う。

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1ヵ月のDAPTとその後のP2Y12阻害薬によるSAPTが標準治療となるか?(解説:上田恭敬氏)-1122

 合併症なく成功したPCI症例3,045症例を対象として、アスピリンとクロピドグレルによるDAPTを12ヵ月行う群(12ヵ月DAPT群:1,522症例)とDAPTを1ヵ月施行後にクロピドグレルによるSAPTに変更する群(1ヵ月DAPT群:1,523症例)に無作為に割り付けて、1年間の心臓死、心筋梗塞、脳卒中、ステント血栓症、出血イベントの複合エンドポイントを主要エンドポイントとする、多施設オープンラベル無作為化比較試験であるSTOPDAPT-2試験の結果が報告された。 P2Y12阻害薬はクロピドグレルに限定し、ステントはCoCr-EES(Xience Series、Abbott Vascular)に限定している。また、ほかの抗血栓薬を必要とする症例は除外している。症例の約38%はACS症例であった。 主要エンドポイントの発生頻度は、12ヵ月DAPT群の3.70%に対して1ヵ月DAPT群では2.36%と有意に低くなり、「1ヵ月DAPT」は「12ヵ月DAPT」に比して、非劣性(p<0.001)のみならず優位性(p=0.04)が示された。有意差ではないものの、血行再建術施行頻度が、12ヵ月DAPT群で5.26%に対して、1ヵ月DAPT群で6.77%(p=0.08)とやや増加が見られる点が気になるが、ほかには副次エンドポイントの中で、1ヵ月DAPT群に有意に頻度の増加が認められる項目はなかった。 過去に報告されているDAPT試験の結果を念頭に置いて、本試験の結果を解釈する必要がある。まず、PCIを施行した患者全体を、出血リスクを考慮せずに対象として1年以内のイベントを見ると、虚血性イベントの発生頻度はDAPTの期間によって変わらず、出血性イベントは12ヵ月群で有意に多いことが本試験で示されたため、PCI後1年間については、1ヵ月のDAPTで十分であると思われる。しかし、本試験の結果は、1年以後長期にわたって生じてくる虚血性イベントを抑制するために、DAPTのほうがSAPTより優れている可能性を否定するものではない。 とくに、1年間のDAPTで出血性イベントを起こさなかった患者を対象とした場合には、出血イベントの高リスク患者を除外できるため、その後DAPTを長期間継続することが有用な可能性はDAPT試験の結果から十分に想定される。そのようなDAPTの長期使用が本当に無用あるいは有害なのかどうかについては、早急に結論するのではなく、今後の検討を待つ必要がある。もちろん、P2Y12阻害薬によるSAPTであれば、DAPTと同程度に有効である可能性もあるだろうから、その検証は非常に重要である。 さらに、有効性に個人差が大きいクロピドグレルではなく、有効性に個人差が小さく出血リスクはクロピドグレルと同程度である日本人投与量でのプラスグレルを使った場合には、さらにSAPT群に有利な結果が得られる可能性が想定されるのではないだろうか。いずれにしても、アスピリンではなく、P2Y12阻害薬の単剤投与によるSAPTの効果に対する期待は非常に大きい。

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高リスクPCI施行患者の出血、チカグレロル単独vs.DAPT/NEJM

 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受けた出血・虚血イベントリスクの高い患者において、術後3ヵ月間チカグレロル+アスピリンの併用投与後、チカグレロル単剤投与への変更は併用投与継続の場合と比べて、死亡・心筋梗塞・脳卒中のリスクを上昇することなく臨床的に重大な出血リスクを有意に低下することが示された。米国・マウントサイナイ医科大学のRoxana Mehran氏らが行ったプラセボ対照二重盲検無作為化試験の結果で、NEJM誌オンライン版2019年9月26日号で発表された。これまでP2Y12阻害薬を早期に中断して抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)の期間を最短とするアプローチについて、いくつかの試験が行われていたが、概して低リスクの患者が対象で虚血イベントに関する検出力が不足していた。研究グループは、アスピリン投与期間を短縮することで、とくに消化器毒性についてのアスピリンに関連した出血リスクを回避でき、P2Y12阻害薬の効力を長期に受けられる可能性があるとの仮説を立て検討を行った。BARC出血基準タイプ2、3、5の発生リスクを比較 研究グループは、11ヵ国187ヵ所の医療機関を通じ、PCIで薬剤溶出ステントを1ヵ所以上に埋設し、担当医がチカグレロル+アスピリン療法下で退院させることを予定していた、出血または虚血イベントリスクが高い患者を対象に試験を行った。 PCIを施行しチカグレロル+アスピリンを3ヵ月投与した後、大出血イベントまたは虚血イベントのなかった患者を無作為に2群に分け、両群にチカグレロルを継続したまま、一方にはアスピリンを、もう一方にはプラセボを、いずれも1年間併用投与した。 主要エンドポイントは、BARC出血基準タイプ2、3、5の出血とした。また、全死因死亡・非致死的心筋梗塞・脳卒中の複合エンドポイントについても評価。非劣性マージンは絶対差1.6ポイントとした。チカグレロル単剤投与群でBARC出血基準2、3、5発症リスクは0.56倍に  2015年7月~2017年12月に9,006例が試験に登録され、そのうち3ヵ月後に無作為化を受けたのは7,119例(intention-to-treat集団)だった。平均年齢は65歳、女性が23.8%、糖尿病を有していたのは36.8%で、64.8%が急性冠症候群によるPCI施行であった(29.8%が非ST上昇型心筋梗塞)。無作為化後1年間の服薬アドヒアランスはチカグレロル+アスピリン(併用)群、チカグレロル+プラセボ(単剤)群で同等だった(85.9% vs.87.1%)。 無作為化から1年間の主要エンドポイントの発生率は、単剤群4.0%、併用群7.1%で(ハザード比[HR]:0.56、95%信頼区間[CI]:0.45~0.68、p<0.001)、群間差は-3.08ポイント(95%CI:-4.15~-2.01)だった。BARC出血基準タイプ3または5の発生リスクの群間差も同様だった(発生率は単剤群1.0%、併用群2.0%、HR:0.49[95%CI:0.33~0.74])。 全死因死亡・非致死的心筋梗塞・脳卒中の複合エンドポイント発生率は、両群ともに3.9%だった(群間差:-0.06ポイント[95%CI:-0.97~0.84]、HR:0.99[95%CI:0.78~1.25]、非劣性のp<0.001)。■「DAPT」関連記事ステント留置後のDAPT投与期間、1ヵ月は12ヵ月より有効?/JAMA

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猫は虎に劣っていない! 非劣性試験について考える【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】 第14回

第14回 猫は虎に劣っていない! 非劣性試験について考えるジャーン! 日本発の「STOPDAPT-2試験」(JAMA. 2019;321:2414-2427.)がJAMA誌に掲載され、「ジャーナル四天王」で解説されました。ジャーナル四天王は、NEJM、Lancet、JAMA、BMJという世界を代表する医学雑誌から臨床現場に影響が大きいものを紹介するCareNet.comの人気の連載企画です。そこで紹介される論文は欧米発のものがほとんどです。STOPDAPT-2試験は、PCI術後の2剤の抗血小板薬併用療法であるDAPT期間についての研究です。1ヵ月間のDAPT後にクロピドグレル単剤投与を行う介入治療群は、12ヵ月間のDAPTを継続する標準治療群に対して、“非劣性”でかつ“優越性”も有することを示したものです。ぜひとも一読をお薦めします。優越性試験では、P値が0.05より小さければ差がある、0.05以上なら差がないとします。差がないことと、非劣性であるということは決定的に異なります。P値は差があることは証明できても、非劣性の証明はできないのです。介入治療群と標準治療群を比較した差が、良くても悪くてもこのくらい範囲内であれば許容できるというマージンを研究開始前に定めておく必要があるのが非劣性試験です。これを非劣性マージンといいます。非劣性試験が必要となる理由の1つは優越性を求めることの非倫理性です。有意に優れる治療を証明するということは、劣っている治療効果を対照患者に期待することの裏返しともいえます。ここに倫理的な抵抗感があります。介入治療と標準治療との差が非常に小さく、優越性試験で差があることを示すには非現実的なほど多くの被験者数が必要になる場合なども、非劣性試験が必要となる理由です。少し話が難しくなってきました。論文片手にソファーでくつろいでいると、我が家の愛猫がやってきます。自分の膝の上に飛び乗って喉をゴロゴロと鳴らしながら「香箱座り」をします。これは、手首を内側に折り曲げ、その上に上半身を乗せるスタイルです。関節が柔軟な猫特有の座り方ですが、危険にさらされた時に即座に立ち上がって行動できないので、リラックスしている証拠です。自分は、本連載の自己紹介の中で「猫をこよなく愛する、いきおい余って虎にも挑戦中」と記しているように虎にも興味をもっています。写真で自分が頭を載せているのは「ぬいぐるみ」ではなく生きている虎です。猫と虎は同じネコ科です。虎にしてみれば、猫がトラ科に属するべきであり、虎がネコ科というのは釈然としないに違いありません。猫と虎を比較すると大きさが決定的に違います。他の外見上の違いとして、虎は鼻が大きく耳が丸くて小さいです。虎は体重を支えるため、猫に比べて足が太くしっかりとしています。身体が大きくなっても目の大きさはあまり変わらず、相対的に虎は目が小さく見えます。大きな目がクリクリする猫はかわいいペット、虎は獰猛な肉食獣という正反対のイメージがありますが、どちらもしなやかで魅力的なハンターです。猫と虎を比較するには、優越性と非劣性のいずれの検討を行えばよいのでしょうか? 非劣性試験ならば、猫が虎に劣らない非劣性マージンはどうなるのか? 猫の背を撫でながら、このように何の価値もないことに思索を巡らせる時間を楽しむ自分は幸せです。

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short DAPTとlong DAPTの新しいメタ解析:この議論、いつまで続けるの?(解説:中野明彦氏)-1105

【はじめに】 PCI(ステント留置)後の適正DAPT期間の議論が、まだ、続いている。 ステントを留置することで高まる局所の血栓性や五月雨式に生じる他部位での血栓性イベントと、強力な抗血小板状態で危険に晒される全身の出血リスクの分水嶺を、ある程度のsafety marginをとって見極める作業である。幾多のランダム化試験やメタ解析によって改定され続けた世界の最新の見解は「2017 ESC ガイドライン」1)に集約されている。そのkey messageは、・安定型狭心症は1~6ヵ月、ACSでは12ヵ月間のDAPTを基本とするが、その延長は虚血/出血リスクにより個別的に検討されるべきである(DAPT score・PRECISE DAPT score)。・ステントの種類(BMS/DES)は考慮しない。・DAPTのアスピリンの相方として、安定型狭心症ではクロピドグレル、ACSではチカグレロル>プラスグレルが推奨される。 一方本邦のガイドラインは、安定型狭心症で6ヵ月、ACSでは6~12ヵ月間を標準治療とし、long DAPTには否定的である。 言うまでもないが、DAPTの直接の目的はステント血栓症予防である。ステント血栓症の原因は複合的で、病態(ACS vs.安定型狭心症)のほかにも、患者因子(抗血小板薬への反応性・糖尿病・慢性腎臓病・左室収縮能など)、病変因子(血管径・病変長・分岐部病変など)、ステントの種類(BMS、第1世代DES、第2世代以降のDES)、さらには手技的因子(stent underexpansion、malappositionなど)が関連すると報告されている。そしてステント血栓症は留置からの期間によって主たるメカニズムが異なり、頻度も変わる2)。1年以降(VLST:Very Late Stent Thrombosis)の発生頻度は1%をはるかに下回り、in-stent neoatherosclerosisが主役となる。またVLSTの数倍も他病変からのspontaneous MIが発症するといわれている。こうした点がDAPTの個別的対応の背景であろう。【本メタ解析について】 ステント留置後のadverse eventは時代とともに減少し、したがって数千例規模のRCT でもsmall sample sizeがlimitationになってしまう。これを補完すべく2014年頃からRCTのメタ解析が年2~3本のペースで誌上に登場してきた。本文はその最新版で、これまでで最多の17-RCT(n=46,864)を解析した。DAPTはアスピリン+クロピドグレルに限定し、単剤抗血小板療法(SAPT)はアスピリンである。従来の「short DAPT=12ヵ月以内」を細分化して「short(3~6ヵ月)」と「standard(12ヵ月)」に分離、これを「long(>12ヵ月)」と比較する3アーム方式で議論を進めている。 その結論・主張は、(1)総死亡・心臓死・脳卒中・net adverse clinical eventsはDAPT期間で差がない(2)long DAPTはshort DAPTに比して非心臓死や大出血を増やす(だからlong DAPTは極力避けたほうがいい)(3)short DAPTとstandard DAPTではACSであってもステント血栓症や心筋梗塞に差がない(だからshort DAPTでいい) などである。しかし一方、long DAPTの超遅発性ステント血栓症・心筋梗塞抑制効果についてはほとんど触れられておらず、short DAPTに肩入れしている印象を受ける。筆者が、おそらく虚血患者に接する機会が少ないであろう臨床薬理学センター所属のためだろうか? 本メタ解析の構図は「DAPTに関するACC/AHA systematic review report(2017)」3)に似ていて、これに2016年以降発表されたRCTを中心に6報加えて議論を展開している。long DAPTほど血栓性イベント抑制に勝り出血性合併症が増える結論は同じだが、ACC/AHA reportはテーラーメードを意識してかリスクによる選択の余地を強調している。 さらにいくつか気になる点がある。評者もご多分に漏れず統計音痴なので、その指摘は的を射ていないかもしれないけれど、できれば本文をダウンロードしてご意見をいただきたい。 たとえば、MIやステント血栓症はlong DAPTで有意に抑制しているのに心臓死はshort DAPTで少ない傾向にあったこと。あるいは非心臓死(有意差あり)・心臓死のOdd Ratioが共に総死亡より大きかったこと。これらは各エンドポイントが試験により含まれたり含まれなかったりしていたためらしい。 また、たとえば各試験でのevent ratioが大きく異なること。同じshort vs.standard DAPTの試験でも12ヵ月MI発症率が0%(IVUS-XPL)~3.9%(I-LOVE-IT2)と幅がある。調べてみるとperiprocedural MIを含めるかどうかなど、そもそも定義が異なるようである。 そして、例えばランダム化の時期である。short vs.standardのほとんどがPCI前後に振り分けているのに対し、standard vs.longはすべてで急性期イベントが終了した12ヵ月後に振り分けランドマーク解析している。これでもshort vs.longの図式が成り立つのだろうか?【まとめ】 DAPT有用性の議論はあのゴツイPalmaz-Schatz stentから始まった。第1世代DESも確かに分厚かった。しかし技術の粋を集め1年以内のステント血栓症が大幅に減少した現時点において、short DAPTにシフトするのは異論がないところであろう。とりわけcoronary imagingを駆使してoptimal stentingを目指すことができる本邦においては、なおさらである。しかし一方、心筋梗塞二次予防に特化したメタ解析4)では、long DAPTが致死性出血や非心臓死を増やすことなく心臓死やMI・脳卒中を有意に抑制した、との結果だった。 ステント血栓症が減ったからこそ、二次予防に抗血小板薬(DAPT)をどう活かすかという視点も必要であろう。解析の精度はさておき「short term DAPT could be considered for most patients after PCI with DES」と結論付けたSAPT(アスピリン)vs.DAPT(アスピリン+クロピドグレル)の議論はそろそろ終わりにしても良いのではないだろうか。 現在はアスピリンの代わりにクロピドグレルやP2Y12 receptor inhibitor(チカグレロル)によるSAPT、少量DOACの有効性も検討されて、PCI後の抗血栓療法は新しい時代に入ろうとしている。 木ばかりでなく森を見るようにしたいと思う。

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アジアの非喫煙女性の肺腺がんの危険因子

 アジアの非喫煙女性において、結核が肺がん発生の危険因子であることを支持する研究結果が、米国・国立がん研究所のJason Y. Y. Wong氏らにより報告された。この研究は、Female Lung Cancer Consortium in Asiaにおける結核ゲノムワイド関連解析(GWAS)の結果を用いて、結核への遺伝的な感受性が非喫煙者の肺腺がん発生に影響するかどうか調査したものである。Genomics誌オンライン版2019年7月12日号に掲載。 本研究では、5,512例の肺腺がん症例と6,277例のコントロールのGWASデータを使用し、結核関連遺伝子セットと肺腺がんとの関連をadaptive rank truncated product法によるパスウェイ解析を用いて評価した。なお、遺伝子セットは、以前の結核GWASでの遺伝的変異体と関連が知られている、もしくは示唆される31個の遺伝子から成る。続いて、以前の東アジアの結核GWASでの3つのゲノムワイドの有意な変異体を用いて、メンデルランダム化により結核と肺腺がんとの関連を評価した。 その結果、結核関連遺伝子セットと肺腺がんとの関連が認められた(p=0.016)。さらに、メンデルランダム化で、結核と肺腺がんとの関連が示された(OR:1.31、95%CI:1.03~1.66、p=0.027)。

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PCI技術の爛熟の時代―「不射の射」を目指す(解説:後藤信哉氏)-1086

 PCI日本導入直後のころ、1枝病変を対象に心臓外科のback upの下、POBAをしていた。5%が急性閉塞して緊急バイパスとなった。ステントの導入により解離による急性閉塞から、2週間以内のステント血栓症に合併症がシフトした。頑固なステント血栓症もアスピリンとチクロピジンの抗血小板薬併用療法により制圧された。安全性の改善されたクロピドグレルが標準治療となると、長期に継続する抗血小板療法による出血合併症が血栓イベントよりも大きな時代を迎えた。 PCIをしている先生方には外科的な直感があるのであろう。本邦のSTOPDAPT、 STOPDAPT-2、今回のSMART-CHOICEなどアスピリン早期中止の有用性を示唆する論文が多く発表されている。DAPTの長期継続の有無にかかわらず、総死亡を含む一次エンドポイントの発現率は3%程度にすぎない。また総死亡に占める心血管死亡の比率も半分を割っている。 歴史的に考えると、1)急性期に5%が急性冠閉塞したPOBA時代、2)亜急性期の10%近いステント血栓症を2~3%に低減させたステントと抗血小板薬併用療法の時代が終わり、3)補助的な抗血小板療法が不要となったPCI技術の爛熟の時代に入っている可能性が高い。 筆者は中島 敦の『名人伝』を愛読している。弓の名人を目指して鍛錬する若者が、「君は射の射をして不射の射を知らない」と諭され、修行の後「弓の名人になって」ついに弓を忘れるという物語である。PCIの黎明期に多くのinterventionistが技を極める鍛錬をした。これからは「不射の射」として心血管病の一次予防に注力する必要がある。

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DES留置後のクロピドグレル併用DAPT、至適期間は?/BMJ

 中国・中南大学のShang-He-Lin Yin氏らは、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)で薬剤溶出ステント(DES)留置後のクロピドグレルを用いる抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)について、標準(12ヵ月間)または長期(>12ヵ月間)と短期(<6ヵ月間)の有効性と安全性を比較検証したシステマティックレビューとネットワークメタ解析の結果を報告した。すべての臨床症状を有する患者において短期と比較して、長期は大出血と非心臓死が増加し、標準で全出血のリスクが増加した。また、急性冠症候群(ACS)患者では、短期と標準で有効性と安全性は同様であった。新世代DES留置患者では、短期と比較して長期で全死因死亡が増加した。著者は、「DAPTの至適期間は、患者個々の虚血/出血リスクを考慮すべきではあるが、本検討において、DESを留置するPCIではほとんどの患者に短期DAPTを考慮することが望ましいことが示唆された」とまとめている。BMJ誌2019年6月28日号掲載の報告。無作為化比較試験17件についてネットワークメタ解析を実施 研究グループは、Medline、Embase、Cochrane Library for clinical trials、PubMed、Web of Science、ClinicalTrials.govおよびClinicaltrialsregister.euを用い、1983年6月~2018年4月に発表された、PCIによるDES留置後のDAPTに関する無作為化比較試験を特定し、システマティックレビューおよびネットワークメタ解析を行った。 解析には、DAPTの3つの期間(短期、標準、長期)のうち2つを比較検証した研究17件(計4万6,864例)が組み込まれた。 主要評価項目は、心臓死または非心臓死、全死因死亡、心筋梗塞、ステント血栓症、すべての出血性イベントとした。DES留置後のクロピドグレルを用いたDAPTは6ヵ月未満が望ましい 短期DAPTと比較し、長期DAPTは大出血(オッズ比[OR]:1.78、95%信頼区間[CI]:1.27~2.49)および非心臓死(OR:1.63、95%CI:1.03~2.59)の発生率増加が、標準DAPTはあらゆる出血(OR:1.39、95%CI:1.01~1.92)の発生率が増加することが示された。他の評価項目については顕著な差は確認されなかった。 感度解析の結果、短期または標準DAPTと比較し、18ヵ月以上のDAPTでは非心臓死と出血がさらに増加することが明らかとなった。サブグループ解析では、新世代DESを留置した患者において、長期DAPTは短期DAPTより全死因死亡が増加した(OR:1.99、95%CI:1.04~3.81)。また、ACSを呈し新世代DESを留置した患者において、標準DAPTは短期DAPTと同様の有効性と安全性を示した。 著者は、プールした試験の異質性は低く、結果の解釈に対する信用性は高いと考えられるとする一方、研究の限界として、クロピドグレルを基本にしたDAPTの期間を主に評価したもので、他のP2Y12阻害薬では結論が異なる可能性があること、いくつかの試験では報告されていない評価項目があることなどを挙げている。

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第24回 脳梗塞/TIA患者の抗血小板薬2剤併用療法はいつまで行うのがベスト?【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 抗血小板薬2剤併用療法(Dual antiplatelet therapy:DAPT)は、脳梗塞の既往がある患者さんやステント留置後の患者さんでよく行われるため、薬局で処方を見掛けることも多いと思います。今回は、2018年にBMJ誌に掲載された軽症虚血性脳梗塞または高リスク一過性脳虚血発作(TIA)患者におけるクロピドグレル+アスピリンのDAPTとアスピリン単独療法を比較したシステマティックレビュー(以下、SR)を紹介します1)。この研究が行われた背景には、BMJ Rapid Recommendations(RapidRecs)プロジェクトの一環として、治療方法の推奨を作るという目的があります。インパクトのある新規研究が発表されたら、診療ガイドラインの推奨を素早く作成するのが望ましいですが、現実的には特定の臨床上の疑問(Clinical question)に対して網羅的に研究を調査し、それらをまとめて分析統合を行う手順、つまりSRが行われ、新規研究が出てから推奨を作成するまでの時間的ギャップが課題となっています。たとえば、SRが最新かつ信頼があつい期間といえる“寿命”を調べた研究では、後行研究が出た後の統計的有意差の変化、効果量の50%を超える相対的な変化や意思決定に影響を与えるために十分な新情報、先行研究への重要な警告、より優れた治療法の出現を既存SRの寿命のシグナルとみた場合に、SRの“寿命”の中央値は5.5年で、1年以内に15%、2年以内に23%のエビデンスが覆り、7%はすでに出版時点で逆の結果が出ているという報告があり2)、タイムリーに新規研究を含めたまとめを作ることの大切さを物語っています。2020年には医学情報量が倍増するのにかかる期間はわずか0.2年(73日)になるという予測すらありますから3)、RapidRecsのように即座にSRを行う重要性は今後ますます増えるでしょう。DAPTを24時間以内に開始し、10~21日間の継続でベネフィット最大DAPT vs.アスピリン単独療法のSRに話を戻しますと、本研究は2018年7月にNew England Journal of Medicine誌に掲載されたPOINT trial(Johnston SC, et al. N Engl J Med. 2018;379:215-225.PMID: 29766750)の結果を受けて行われています。内容としては、急性軽症虚血性脳卒中または高リスクTIAと診断された患者で、クロピドグレル+アスピリンのDAPTを発症後3日以内に開始した場合と、アスピリン単独療法を発症後3日以内に開始した場合を比較し(最終的に組み入れられた研究は発症後24時間以内または12時間以内)、90日までの転帰(全死亡、脳卒中による死亡、非致死的虚血性/出血性脳卒中、頭蓋外出血、TIA、心筋梗塞、機能的転帰など)を調査した研究です。データベースのMEDLINE、EMBASE、CENTRAL、Cochrane Library、ClinicalTrials.gov、WHO website、PsycINFO、grey literatureを網羅的に検索して研究を集めています。2名の評価者によって、各研究のバイアスのリスクが評価され、最終的な合意形成は第三者を交えてされています。バイアスのリスクの評価基準は、Cochraneのrisk of biasツールの調整版が用いられており、各研究におけるランダム割り付けの有無、脱落データの割合、割り付けの隠蔽化、研究参加者/介入者/アウトカム評価者のマスキング、その他バイアスが評価されていますので、厳密な方法論で行われたSRとみてよいと思います。最終的に採用されたランダム化比較試験は3件(FASTER、CHANCE、POINT)で、合計症例数は1万447例でした。アウトカムごとに統合された結果をみると、DAPT群ではアスピリン単独群に比べ、非致死的脳卒中の再発が低減しており、リスク比は0.70(95%信頼区間[CI]:0.61~0.80)、絶対リスク減少率は1.9%(NNT換算すると53)でした。総死亡については両群で有意差はありませんでしたが(リスク比:1.27、95%CI:0.73~2.23)、中等度または重度の頭蓋外出血については、DAPT群のリスク比は1.71(95%CI:0.92~3.20)、絶対リスク上昇率は0.2%とアスピリン単独群よりも増加傾向にあり、軽微または小出血もDAPT群のリスク比は2.22(95%CI:1.60~3.08)、絶対リスク上昇率は0.7%と有意に増加しています。機能的転帰には有意差はありませんでした。経時的変化を見てみると、脳卒中イベントの発症の多くはDAPT群でもアスピリン単独群でもランダム化後10日以内に生じていますが、21日以降はほぼ平行線となっています。一方で、出血イベントはDAPT群で長期的にやや増えていきます。これらのことから、ハイリスクのTIAおよび軽度の虚血性脳卒中の患者における本研究の結果は、BMJ誌のClinical Practice Guideline4)のまとめとして以下の2点が強く推奨されています。イベント発生後24時間以内にDAPTを開始するDAPTは10~21日間継続し、21日を超える継続はしないDAPT継続中の患者さんの中には、脳卒中の再発が心配で治療を継続させたいという方もいるかもしれませんが、もし2剤で21日を超えて長期間投与されている場合は出血イベントのリスクを考慮し、処方医への情報提供を検討すべきと思います。1)Hao Q, et al. BMJ. 2018;363:k5108.2)Shojania KG, et al. Ann Intern Med. 2007;147:224-233.3)Densen P. Trans Am Clin Climatol Assoc. 2011;122:48-58.4)Prasad K, et al. BMJ. 2018;363:k5130.

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ステント留置後のDAPT投与期間、1ヵ月は12ヵ月より有効?/JAMA

 STOPDAPT試験(2016年)により、コバルトクロム合金製エベロリムス溶出ステント(CoCr-EES)留置術後の抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)を3ヵ月で終了するアプローチの安全性が確認されている。京都大学の渡部 宏俊氏らSTOPDAPT-2試験の研究グループは、今回、DAPT投与期間をさらに短縮して1ヵ月とし、その後クロピドグレル単剤投与に切り換える治療法について検討し、この超短期的DAPTは、主要な心血管イベント/出血イベントの抑制効果に関して、DAPTを12ヵ月投与する標準治療に対し非劣性で、優越性も有することが示された。JAMA誌2019年6月25日号掲載の報告。日本の90施設で1ヵ月DAPT群と12ヵ月DAPT群に無作為に割り付け 本研究は、日本の90施設が参加した多施設共同非盲検無作為化試験であり、2015年12月~2017年12月の期間に患者登録が行われ、2019年1月に最後の1年フォローアップを終了した(Abbott Vascularの助成による)。 対象は、CoCr-EES留置術による経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受けた患者であった。経口抗凝固薬を要する患者や、頭蓋内出血の既往を有する患者は除外された。 被験者は、術後にアスピリン+P2Y12阻害薬(クロピドグレルまたはプラスグレル)によるDAPTを1ヵ月行い、その後はクロピドグレル単剤に切り換える群(1ヵ月DAPT群)、または術後にアスピリン+P2Y12阻害薬によるDAPTを1ヵ月行い、その後はアスピリンとクロピドグレルによるDAPTを12ヵ月時まで継続する群(12ヵ月DAPT群)に無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは、12ヵ月時の心血管死、心筋梗塞、虚血性または出血性脳卒中、ステント血栓症(definite)、TIMI出血基準の大出血または小出血の複合であり、相対的非劣性マージンは50%とした。1ヵ月DAPT群が心血管イベントを増加させずに出血イベントを抑制 3,009例(intention-to-treat集団)が登録され、2,974例(99%)が試験を完遂した。1ヵ月DAPT群に1,500例、12ヵ月DAPT群には1,509例が割り付けられた。全体の平均年齢は68.6歳、男性が78%で、糖尿病が39%、安定冠動脈疾患が62%、急性冠症候群が38%に認められた。多くが、血栓リスクおよび出血リスクが低~中等度の患者であった。 主要エンドポイントの発生率は、1ヵ月DAPT群が2.36%、12ヵ月DAPT群は3.70%であった(絶対差:-1.34%、95%信頼区間[CI]:-2.57~-0.11、ハザード比[HR]:0.64、95%CI:0.42~0.98)。非劣性の判定基準が満たされ(p<0.001)、優越性にも有意差が認められた(p=0.04)。 心血管イベントの副次エンドポイント(心血管死、心筋梗塞、虚血性または出血性脳卒中、ステント血栓症[definite])の発生率は、1ヵ月DAPT群が1.96%、12ヵ月DAPT群は2.51%であった(絶対差:-0.55%、95%CI:-1.62~0.52、HR:0.79、95%CI:0.49~1.29)。非劣性の判定基準は満たした(p=0.005)が、優越性は認めなかった(p=0.34)。 また、出血イベントの副次エンドポイント(TIMI出血基準の大出血または小出血)の発生率は、1ヵ月DAPT群が0.41%、12ヵ月DAPT群は1.54%であり(絶対差:-1.13%、95%CI:-1.84~-0.42、HR:0.26、95%CI:0.11~0.64)、1ヵ月DAPT群の優越性が確認された(p=0.004)。 著者は、「これらの知見により、薬剤溶出ステント留置術後に、DAPTを1ヵ月行った後クロピドグレル単剤投与を行うレジメンは、DAPTを12ヵ月継続する標準治療よりも高い有益性をもたらすことが示唆される」とまとめ、「このレジメンの有益性は、心血管イベントを増加させずに出血イベントを抑制することでもたらされたため、出血リスクが高くない患者でも治療選択肢となる可能性がある。また、虚血リスクが低~中等度の患者が多かったことから、虚血リスクの高い患者において、さらなる検討を要する」と指摘している。

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DES留置後、DAPT3ヵ月+P2Y12阻害薬単剤vs.DAPT12ヵ月/JAMA

 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)で薬剤溶出ステント(DES)を留置した患者において、3ヵ月間の抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)+P2Y12阻害薬単剤療法は、12ヵ月間のDAPTと比較し、主要心・脳血管イベント(MACCE:全死因死亡、心筋梗塞または脳卒中の複合エンドポイント)の発生に関して非劣性であることが検証された。韓国・成均館大学校のJoo-Yong Hahn氏らが、同国の33施設で実施した非盲検無作為化非劣性試験「SMART-CHOICE試験」の結果を報告した。これまで、PCI後の短期間DAPT+P2Y12阻害薬単剤療法に関するデータは限定的であった。JAMA誌2019年6月25日号掲載の報告。DES留置患者約3,000例で、12ヵ月時の主要心・脳血管イベントを評価 研究グループは、PCIでDESを留置した患者2,993例を、アスピリン+P2Y12阻害薬3ヵ月間、その後P2Y12阻害薬単剤療法(P2Y12阻害薬単剤群、1,495例)、またはアスピリン+P2Y12阻害薬12ヵ月間(DAPT群、1,498例)のいずれかに無作為に割り付けた。登録は2014年3月18日に開始され、2018年7月19日に追跡調査が完了した。 主要評価項目は、PCI実施後12ヵ月時点でのMACCE(非劣性マージンは1.8%)、副次評価項目はMACCEの個別のイベントおよび出血(BARC出血基準のタイプ2~5)であった。 無作為化された2,993例(平均年齢64歳、女性795例[26.6%])のうち、2,912例(97.3%)が試験を完遂した。治験プロトコールの順守率はP2Y12阻害薬単剤群で79.3%、DAPT群で95.2%であった。P2Y12阻害薬単剤群、DAPT群に対して非劣性、出血は42%低下 12ヵ月時点で、MACCEはP2Y12阻害薬単剤群で42例、DAPT群で36例に認められた(2.9% vs.2.5%、群間差:0.4%、片側95%信頼区間[CI]:-∞~1.3%、非劣性のp=0.007)。副次評価項目は、全死因死亡(21例[1.4%]vs.18例[1.2%]、ハザード比[HR]:1.18、95%CI:0.63~2.21、p=0.61)、心筋梗塞(11例[0.8%]vs.17例[1.2%]、HR:0.66、95%CI:0.31~1.40、p=0.28)、脳卒中(11例[0.8%]vs.5例[0.3%]、HR:2.23、95%CI:0.78~6.43、p=0.14)のいずれも有意差はなかった。 出血の発現頻度は、P2Y12阻害薬単剤群がDAPT群と比較して有意に低かった(2.0% vs.3.4%、HR:0.58、95%CI:0.36~0.92、p=0.02)。 著者は、非劣性マージンが比較的広く検出力が不足している可能性や、非盲検試験で対象が低リスク集団であったことなどを指摘し、「他の集団でさらなる検証が必要である」とまとめている。

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TAVR導入後5年で、米国の術後脳卒中は減少したか/JAMA

 米国では2012~15年の期間に、経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVR)の施行数が5倍以上に増加したが、TAVR後の脳卒中リスクは知られていない。米国・クリーブランドクリニックのChetan P. Huded氏らは、全国的な調査を行い、2011~17年の術後30日以内の脳卒中発生率は2.3%で、この期間の年間発生率の推移に大きな変動はないことを明らかにした。研究の詳細は、JAMA誌2019年6月18日号に掲載された。約10万例のレジストリデータを後ろ向きに解析 研究グループは、米国におけるTAVR導入後5年間の術後30日以内の脳卒中の発生状況を調査し、脳卒中と30日死亡率、薬物療法と30日脳卒中リスクとの関連を評価する目的で、後ろ向きコホート研究を行った(米国心臓病学会[ACC]全国心血管データレジストリなどの助成による)。 2011年11月9日~2017年5月31日までに、米国胸部外科学会(STS)/ACC経カテーテル的弁治療レジストリに参加する521施設でTAVR(経大腿動脈、非経大腿動脈)を受けた患者10万1,430例のデータを解析した。30日フォローアップは、2017年6月30日に終了した。 術後30日時の一過性脳虚血発作および脳卒中の評価を行った。また、Cox比例ハザードモデルを用いて脳卒中と30日死亡率の関連を、傾向スコアマッチングを用いて抗血栓薬療法と退院後30日時の脳卒中の関連を評価した。約7割が術後3日以内に発生、死亡率:脳卒中16.7% vs.非脳卒中3.7% 10万1,430例の年齢中央値は83歳(IQR:76~87)、女性が4万7,797例(47.1%)で、8万5,147例(83.9%)が経大腿動脈アクセスであった。術後30日のフォローアップデータは全例で得られた。 30日時に、2,290例(2.3%)が脳卒中を、373例(0.4%)が一過性脳虚血発作を発症した。調査対象の期間中、術後30日脳卒中の発生率は増加も減少もせず、全例(傾向検定:p=0.22)および経大腿動脈アクセス群(p=0.47)の双方で安定的に推移した。 30日以内の脳卒中のうち、1,119例(48.9%)は術後の初日に、1,567例(68.4%)は3日以内に発生した。 脳卒中2,290例のうち383例(16.7%)が死亡したのに対し、非脳卒中9万9,140例では3,662例(3.7%)が死亡し、脳卒中の発生は30日死亡率の上昇と有意な関連を示した(p<0.001、リスク補正後30日死亡のハザード比[HR]:6.1、95%信頼区間[CI]:5.4~6.8、p<0.001)。 傾向スコアマッチングによる解析では、経大腿動脈アクセス群の30日脳卒中リスクは、退院時の抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)による治療の有無とは関連がなく(DAPT例0.55% vs.非DAPT例0.52%、HR:1.04、95%CI:0.74~1.46)、経大腿動脈以外でのアクセス群でも、退院時DAPTの有無で30日脳卒中リスクに差はなかった(0.71% vs.0.69%、1.02、0.54~1.95)。 同様に、退院時の経口抗凝固薬療法の有無についても、経大腿動脈アクセス群(0.57% vs.0.55%、HR:1.03、95%CI:0.73~1.46)および経大腿動脈以外でのアクセス群(0.75% vs.0.82%、0.93、0.47~1.83)の双方で、30日脳卒中リスクに差は認めなかった。 著者は、本試験で得られたTAVR導入後5年の主な知見を次のようにまとめている。1)TAVR技術の改善や、術者の経験の積み重ねにもかかわらず、TAVR後30日脳卒中の経時的な発生率に変化はない、2)TAVR後30日脳卒中の多くが、施術後3日以内に発生している、3)早期脳卒中は、30日死亡率の上昇と独立の関連がある、4)DAPTと経口抗凝固薬は、いずれも30日時の神経学的イベントのリスクとは関連しない。

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ISC 2019 速報

ISC(国際脳卒中学会議)が、米国・ハワイにて2月6~8日に開催されました。Late-Breakingの発表を含めた主要トピックスの中から、事前投票で先生方からの人気の高かった上位6演題のハイライト記事をお届けします。ISC 2019注目演題一覧※(掲載予定)の演題は変更となる場合がございます。2月6日発表演題Dual Antiplatelet Therapy Using Cilostazol for Secondary Stroke Prevention in High-risk Patients: The Cilostazol Stroke Prevention Study for Antiplatelet Combination (CSPS.com)高リスク患者における二次性脳卒中予防のためのDAPT:抗血小板薬併用療法のシロスタゾールによる脳卒中予防試験(CSPS.com)について2月7日発表演題Treatment of Carotid Stenosis in Asymptomatic, Non-Octogenarian, Standard Risk Patients with Stenting versus Endarterectomy: A Pooled Analysis of the CREST and ACT I Trials無症候性の標準リスク患者の頸動脈狭窄症治療における治療ステント留置術と動脈内膜摘出術の比較:CRESTおよびACT I試験の統合解析A Randomized Trial of Intensive versus Standard Blood-Pressure Control in Patients with a History of Stroke: The Recurrent Stroke Prevention Clinical Outcome (RESPECT) Study脳卒中歴のある患者における集中的血圧コントロールと標準的血圧コントロールの無作為化試験:再発性脳卒中予防臨床転帰(RESPECT)研究Main Results of the Enhanced Control of Hypertension and Thrombolysis Stroke Study (enchanted) of the Early Intensive Blood Pressure Control After thrombolysis急性期脳梗塞例に対する、SBP「<130-140mmHg」と「<180mmHg」による、90日後の「死亡・要介助」への影響を比較するRCTThe New Generation Hydrogel Endovascular Aneurysm Treatment Trial (HEAT): Final Results新世代ハイドロゲル血管内動脈瘤治療試験(HEAT):最終結果MISTIE III Surgical Results: Efficiency of Hemorrhage Removal Determines mRSMISTIE III手術成績:非外傷性頭蓋内出血に対する、低侵襲手術がmRSに与えた影響J-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)とはJ-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)は、臨床研究を適正に評価するために、必要な啓発・教育活動を行い、わが国の臨床研究の健全な発展に寄与することを目指しています。

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STEMIでの至適DAPT期間は6ヵ月それとも12ヵ月?(解説:上田恭敬氏)-974

オリジナルニュースSix months versus 12 months dual antiplatelet therapy after drug-eluting stent implantation in ST-elevation myocardial infarction (DAPT-STEMI): randomised, multicentre, non-inferiority trial(2018/10/2掲載) 第2世代DESによって治療されたSTEMI症例で6ヵ月間イベントがなかった症例を、その時点でDAPTからSAPT(アスピリン単独)へ変更する群とそのままさらに6ヵ月間DAPTを継続する群に無作為に割り付け、その後18ヵ月(PCIからは24ヵ月)までの全死亡、心筋梗塞、血行再建術、脳卒中、出血(TIMI major)の複合頻度を主要評価項目として非劣性が検討された。 432症例がSAPT群、438症例がDAPT群に割り付けられた。主要評価項目の発生頻度は、SAPT群で4.8%、DAPT群で6.6%となり、非劣性が示された。 本試験では1,100症例のSTEMIが6ヵ月間観察された後に各群に割り付けられているが、割付の時点で92症例は基準を満たしていたにもかかわらず割り付けられずに脱落している。イベント発生頻度がいずれの群においても予想より低かったことと合わせて、このことはlimitationとして記載されており、より低リスクの症例だけがエントリーされたとも考えられる。本試験の10倍以上の症例数で検討されたDAPT試験で認められた、DAPT継続群での心筋梗塞の減少や出血イベントの増加は、本試験では認められなかった。やはり、虚血イベントのリスクも出血イベントのリスクも低い症例が登録されたための結果ではないだろうか。 よって、本試験の結果について、「一般的に」STEMI症例でPCI後のDAPT期間を12ヵ月から6ヵ月に短縮しても大丈夫と解釈すべきではなく、「特定の症例を選択すれば」DAPT期間を12ヵ月から6ヵ月に短縮しても大丈夫と解釈すべきだろう。ただし、どんな特定の症例かは不明であり、そのような症例ではDAPT期間を短縮しても虚血イベントは増えないが、出血イベントが減るわけでもないという結果なので、積極的にDAPT期間を短縮する必要もないのかもしれない。逆に、出血イベントが減るメリットのある症例群では、その代わりに虚血イベントは増えてしまうかもしれない。臨床的に真に欲しいエビデンスを得るための臨床試験を実施するのは非常に難しいと思う。

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チカグレロル併用DAPT1ヵ月+単剤23ヵ月を標準DAPTと比較/Lancet

 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後2年の全死因死亡あるいは新規Q波心筋梗塞の抑制という点で、チカグレロルとアスピリンによる抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)1ヵ月→チカグレロル単剤療法23ヵ月は、標準的DAPT 12ヵ月→アスピリン単剤療法12ヵ月と比較し優越性は認められなかった。ベルギー・ハッセルト大学のPascal Vranckx氏らが、18ヵ国130施設で実施した無作為化非盲検優越性試験「GLOBAL LEADERS」の結果を報告した。アスピリンとの併用において、チカグレロルはクロピドグレルより主要有害心イベントと全死亡率を有意に低下するが、アスピリン150mg/日以上がチカグレロルの治療効果を弱めることが示唆されていた。Lancet誌オンライン版2018年8月24日号掲載の報告。DES留置患者約1万6千例で検討したGLOBAL LEADERS試験 GLOBAL LEADERS試験の対象は、PCIを施行しバイオリムスA9薬剤溶出性ステント(DES)を留置する安定冠動脈疾患(安定CAD)/急性冠症候群(ACS)患者。アスピリン(75~100mg/日)+チカグレロル(1日2回90mg)を1ヵ月間、その後チカグレロル単剤療法を23ヵ月間行う介入群と、標準的DAPT(アスピリン75~100mg/日+クロピドグレル75mg/日[安定CAD患者]またはチカグレロル1日2回90mg[ACS患者])を12ヵ月間、その後アスピリン単剤療法を12ヵ月間行う対照群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要評価項目は、2年時点の全死因死亡または中央評価による新規の非致死性Q波心筋梗塞の複合(評価者盲検)。主な副次安全性評価項目は、施設報告によるBARC出血基準Grade3または5の出血で、intention-to-treat解析で評価した。 2013年7月1日~2015年11月9日に、1万5,968例が介入群7,980例と対照群7,988例に無作為に割り付けられた。全死因死亡および非致死性心筋梗塞の発生に有意差なし 2年時点における死亡または非致死性新規Q波心筋梗塞の発生は、介入群で304例(3.81%)、対照群で349例(4.37%)に認められた(率比:0.87、95%信頼区間[CI]:0.75~1.01、p=0.073)。事前に定義したACSと安定CADのサブグループ解析においても、主要評価項目に関する治療効果に差はなかった(p=0.93)。 Grade3または5の出血は、介入群163例ならびに対照群169例で確認された(2.04% vs.2.12%、率比:0.97、95%CI:0.78~1.20、p=0.77)。 著者は、今回の試験は非盲検で行われており、全死因死亡と2年時点の複合エンドポイントに関して検出力不足であったことなどを研究の限界として挙げている。

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CABG後もSAPTよりDAPTが優れている?(解説:上田恭敬氏)-879

 SVGを用いた待機的CABG症例を対象とし、術後の抗血小板療法をチカグレロル+アスピリン併用(DAPT)、チカグレロル単独、アスピリン単独の3群に無作為に割り付け、1年後のSVG開存を主要評価項目としたRCTの結果が報告された。SVGの開存はCTあるいはCAGによって評価された。 本試験では、中国の6施設において500症例が、チカグレロル+アスピリン併用(168症例)、チカグレロル単独(166症例)、アスピリン単独(166症例)の3群に割り付けられた。主要評価項目である1年時点でのSVG開存率は、チカグレロル+アスピリン併用群で88.7%とアスピリン単独群の76.5%より有意に高値であったが、チカグレロル単独群の82.8%はアスピリン単独群と統計的に差を認めなかった。 出血性イベントについては、軽度のものまで含めるとチカグレロル+アスピリン併用群で頻度が多いように思われたが、出血性イベントおよびMACE(composite of cardiovascular death, nonfatal myocardial infarction, or nonfatal stroke)を統計的に比較するには症例数が少な過ぎたと結論している。 以上より、本研究で示されたことは、「CABG後1年でのSVG開存率がアスピリン単独群よりもチカグレロル+アスピリン併用群で有意に高かった」ということで、MACEや出血性イベントの違いについては十分評価できなかったということになる。しかし、試験がオープンラベルで行われたこともlimitationとして指摘されており、エビデンスとして確立するためには、今回の結果をより大規模のRCTで検証する必要がある。PCI後の抗血栓療法において、DAPT vs.SAPTが活発に議論されているが、CABG後においても、今後同様の議論が展開されるべきであろう。そのためには、CABG症例を対象としたさまざまなRCTが実施される必要がある。

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