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高齢NVAF患者、DOAC使用実態と2年間の転帰(ANAFIEレジストリ)/日本循環器学会

 本邦では、80代あるいは90代の心房細動患者も少なくないが、最適な抗凝固療法は必ずしも明らかになっていない。85歳以上の超高齢者が約25%を占める、3万例超の日本人高齢非弁膜症性心房細動(NVAF)患者の大規模レジストリ(ANAFIE)の結果を、第85回日本循環器学会学術集会(2021年3月26日~28日)で井上 博氏(富山県済生会富山病院)が発表した。高齢NVAF患者での抗凝固療法の臨床転帰、DOACをワルファリンと比較 ANAFIEレジストリは、日本人高齢NVAF患者におけるリアルワールドでの抗凝固療法の使用状況と臨床転帰を調査するために実施された、多施設共同前向き観察研究。75歳以上のNVAF患者を登録、2年間の追跡調査が行われた。 脳卒中/全身性塞栓症(SEE)、大出血、および2年間の全死因死亡の発生率は、カプランマイヤー分析によって推定された。各イベントのハザード比は、治療群(抗凝固薬なし、ワルファリン[WF]、およびDOAC)間のCox比例ハザードモデルを使用して分析された。 75歳以上のNVAF患者を2年間追跡調査したANAFIEレジストリの主な結果は以下のとおり。・2016年10月~2018年1月に33,278例のNVAF患者が登録され、32,275例が解析対象とされた。・平均年齢は81.5歳、85歳以上は26.1%(8,419例)含まれた。男性:57.3%、平均CHA2DS2-VAScスコア:4.5、平均HAS-BLEDスコア:1.9、発作性心房細動:42.1%/持続性心房細動:16.5%/長時間持続性・永続性心房細動:41.4%であった。・92.4%が経口抗凝固薬による治療を受けていた(ワルファリン:25.5%、DOAC:66.9%)。・DOACの投与状況は通常用量(appropriate:17.7%、overdose:3.2%)、減量用量(appropriate:44.2%、underdose:16.8%)。・ワルファリンの平均至適範囲内時間(TTR)は75.5%であった。・平均追跡期間1.88年における各イベントの発生率は以下のとおり: 脳卒中/SEE(全体:3.01%、85歳未満:2.69%、85歳以上:3.91%) 大出血(全体:2.00%、85歳未満:1.80%、85歳以上:2.55%) 頭蓋内出血(全体:1.40%、85歳未満:1.28%、85歳以上:1.76%) 心血管死亡(全体:2.03%、85歳未満:1.39%、85歳以上:3.85%) 全死因死亡(全体:6.95%、85歳未満:4.89%、85歳以上:12.77%) net clinical outcome(全体:10.14%、85歳未満:7.92%、85歳以上:16.44%)・転倒歴(登録前1年以内)、カテーテルアブレーション歴が、脳卒中/SEE、大出血および全死因死亡の独立したリスク因子であり、多剤併用は大出血および全死因死亡と関連していた。・ワルファリン群と比較して、DOAC群では出血性脳卒中および消化管出血を除く全てのイベントリスクが低く、抗凝固薬なし群では脳卒中/SEEおよび全死因死亡のリスクが高かった。  これらの結果を受けて井上氏は、日本人高齢NVAF患者においてDOACは広く用いられており、良好にコントロールされたワルファリン投与群と比較して、脳卒中/SEE、大出血および全死因死亡リスクが有意に低かったとして発表を締めくくった。

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第25回 その吐血、緊急内視鏡は必要ですか?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)上部消化管出血を疑うサインを知ろう!2)緊急内視鏡の判断を適切に行えるようになろう!【症例】45歳男性。自宅で洗面器1杯分の吐血を認めたため、両親の運転する車で救急外来を受診した。独歩可能な状態で、その後吐血は認めていない。どのようなマネジメントが適切だろうか?●受診時のバイタルサイン意識清明/JCS血圧128/51mmHg脈拍95回/分(整)呼吸20回/分SpO297%(RA)体温36.0℃瞳孔3/3 +/+既往歴高血圧内服薬定期内服薬なしはじめに吐血を主訴に救急外来を受診する患者さんは多く、救急外来が血の海になることも珍しくありません。バイタルサインの管理、内視鏡のタイミング、輸血のタイミングなど悩んだ経験があるのではないでしょうか?今回はまず押さえておくべき上部消化管出血の管理についてまとめておきます。上部消化管出血を疑うサインとは新鮮血の吐血やコーヒー残渣様の嘔吐を認める場合には、誰もが上部消化管出血を疑うと思いますが、それ以外にはどのような場合に疑うべきでしょうか。黒色便、鉄欠乏性貧血などは有名ですね。救急外来などの外来で見逃しがちなのが、訴えがはっきりしない場合です。脱力など自宅で動けない、元気がない、倦怠感などの主訴で来院した場合には、消化管出血に代表される出血性病変を考えるようにしましょう。その他、急性冠症候群、カリウムやカルシウムなどの電解質異常、そして敗血症や菌血症を考えるとよいでしょう。[失神・前失神を見逃すな]失神は以前に「第13回 頭部外傷その原因は?」でも取り上げましたが、診察時には状態は安定しており重症度を見誤りがちです。しかし、心血管性失神を見逃してしまうと致死的となり得ます。また、出血に伴う起立性低血圧も対応が遅れれば、予後はぐっと悪くなってしまうため必ず出血源を意識した対応が必要になります。ちなみに、前失神は失神と同様に危険なサインであり、完全に意識を失っていなくても体内で起こっていることは同様であり軽視してはいけません。意識を失ったか、失いそうになったかは必ず確認しましょう。緊急内視鏡の適応は?目の前の上部消化管出血疑い患者さんの内視鏡はいつ行うべきでしょうか?ショックバイタルでマズい場合には誰もが緊急内視鏡が必要と判断できると思いますが、本症例のように、一見するとバイタルサインが安定している場合には意外と判断は難しいものです。いくつかの指標が存在しますが、今回は“Glasgow Blatchford score(GBS)”(表1)を覚えておきましょう。GBS≦1の場合には入院の必要性はなく、緊急での対応は一般的には不要です1,2)。前述した通り、失神は重要なサインであり、点数も2点と黒色便よりも高く設定されています。失神を認める上部消化管出血は早期の内視鏡治療が必要と覚えておきましょう。1分1秒を争うわけではありませんが、血圧が普段よりも低めであるが故に止まっているだけですので、処置を行うことなく帰宅の判断はお勧めできません。表1  Glasgow Blatchford score(GBS)画像を拡大するちなみに、Hb値は濃度であり、また早期に変化は認められないため、Hb値が問題ないからと出血はたいしたことないと判断してはいけません。黒色便を認める場合には、数日の経過が経っていることが多く、Hb値も普段よりも低下しています。GBSも2点以上となりますが、即刻内視鏡なのか、24時間以内に内視鏡なのか、より具体的な緊急度は、その他バイタルサインやNSAIDs、抗血栓薬などのリスク因子も考慮し判断します。[抗血栓薬内服中の患者ではどうする?]絶対的な指標はありませんが、頭部外傷患者の対応と同様に、内服しているから緊急かというとそうではありません。しかし、リスクの1つではあるため、具体的な処方薬と用量、内服している理由、効果の評価(PT-INRなど)などと共に慎重な経過観察が必要となります。抗血栓薬を止めるのは簡単ですが、そのおかげで脳梗塞などを引き起こしてしまっては困りますよね。明らかな出血を認めている場合に内服を中止することはもちろんですが、その後の具体的な対応をきちんと決めておく必要があります。GBS以外の有名なリスクスコアに“AIMS65”(表2)がありますが、それにはPT-INRの項目が含まれており、緊急度に関わるとされます3)。また、PT-INRが1.5未満であってもDOAC(Direct oral anticoagulants)内服中の患者では、早期の内視鏡が推奨されています。そのような理由から、抗血栓薬を内服している患者さんでは、早期の内視鏡(24時間以内)を行うのが理想的でしょう。※GBSもAIMS65も覚えるのは大変ですよね。私は“MDCalc”というアプリをスマホに入れて計算しています。表2 AIMS65画像を拡大する現実問題として、夜間や時間外などに来院した患者の内視鏡をすぐに行うのか、一晩様子をみてOKなのかどうかを判断する必要があります。上記の内容を頭に入れつつ、施設毎の対応を構築しておきましょう。消化器内科医師などがいつでもすぐに対応可能な施設であれば、GBS≧2でも輸液や輸血でバイタルサインが安定している場合には一晩待てるかもしれませんが、そうではない場合には、「GBSで◯点以上の場合」、「肝硬変患者の吐血の場合」、「抗血栓薬を内服している場合」には緊急で行うなど、具体的なプランを立てておくとよいでしょう。スコアは絶対的なものではありませんが、GBSやAIMS65などを意識しておくと、確認すべき項目を見落とさなくなるでしょう。失神の有無は前述の通り重要ですし、抗血栓薬などの影響から凝固線溶機能に異常を来している場合には拮抗薬など追加の対応が必要なこともありますからね。最後に、上部消化管出血に伴い緊急内視鏡の判断をした場合には、気管挿管など気道の管理が必要ないかは必ず意識してください。ショックや重度の意識障害は気管挿管の適応であり、バイタルサインが不安定な場合には確実な気道確保目的の気管挿管が必須となります。慌てて内視鏡室へ移動し、不穏になり急変、誤嚥して酸素化低下などは避けなければなりません。救急外来で人数をかけ対応することができればベストですが、どうしても少ない人数で対応しなければならない場合には、確実な気道確保を行い万全の状態で内視鏡を行うようにしましょう。まとめ失神・前失神を伴う上部消化管出血は緊急性が高い!GBSやAIMS65を参考に、患者背景・薬の内服理由も考慮し対応を!緊急内視鏡を行う場合には、気管挿管など気道管理の徹底を!1)Blatchford O, et al. Lancet. 2000;356:1318-1321.2)Stanley AJ, et al. BMJ. 2017;356:i6432.3)Saltzman JR, et al. Gastrointest Endosc. 2011;74:1215-1224.

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DOAC でどこまで攻めるか?心房細動を合併した弁置換術後の場合(解説:香坂俊氏)-1345

ワルファリンの有効な代替薬としてDOACが販売されるに至り、さまざまな病態に関して抗血栓治療に関する知見が集まりつつある(本当に2011年以降たくさんのエビデンスが出てきている)。まず心房細動や静脈血栓症といった従来からワルファリンが第1選択とされる病態に対してDOACが有効な代替薬であるということが示された。さらにその後、安全性(副作用としての出血の発症率)に関しては完全に勝るというところが定着し、現在たとえば新規心房細動に対してのDOACの処方率は7割を越えている。最近では、そこからさらに心房細動を合併する冠動脈疾患患者に対しては抗血小板治療を最小限に抑えてよい(ステントなどを使用して抗血小板薬を2剤使用しなくてはならない患者はなるべく早期に1剤に落とし、その後落ち着いて1年ぐらいたったらその1剤も落として抗凝固薬だけに絞る)という知見が得られるに至っている。ワルファリンを使わなくてはならない病態として、心房細動や静脈系の血栓症以外に、人工弁患者が挙げられる。DOACは基本的にこの分野に関しては効果が不十分であるといわれており、ダビガトランというDOACで一度RCTが行われたことがあるが、有害事象が多く、基本的に機械弁に対しては今でもワルファリンが用いられる。が、しかし生体弁に関してはどうか? という疑問は解決されずにきた(生体弁は膜で覆われていてそもそも抗凝固薬が必要ないのだが、心房細動を合併している場合などに問題となる)。今回発表されたRIVER試験では、DOACの中でもとくに抗血栓作用が強いとされるリバーロキサバンを用いてワルファリンとの比較が行われた。詳細に関しては関連記事に譲るが(生体弁による僧帽弁置換術後のAF患者、リバーロキサバンの効果は?/NEJM)、総じてリバーロキサバンはワルファリンに劣らぬ結果を出すことに成功している(非劣性であり、やはりこの分野でもワルファリンの有効な代替薬となることが示された)。DOACの特徴としては、比較的に均一の患者を扱うRCTよりも、多彩な患者を治療しなくてはならないリアルワールドで力を発揮するところにある(https://pmc.carenet.com/?pmid=32341789)。RIVERで用いられたリバーロキサバンの用量は海外用量(20mg、腎機能低下例では15mg)であり、わが国の用量(15mg、同10mg)と若干異なるというところはあるものの、今後この試験結果をきっかけとして心房細動を合併する生体弁患者に関してもDOAC使用の理解が深まっていくのではないか。

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日本人のCOVID-19による血栓症発症率は?

 合同COVID-19関連血栓症アンケート調査チームによる『COVID-19関連血栓症に関するアンケート調査』の結果が12月9日に発表された。それによると、日本人での新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連血栓症の発症率は、全体では1.85%であることが明らかになった。 この調査は、COVID-19の病態の重症化に血栓症が深く関わっていることが欧米の研究で指摘されていることを受け、日本人COVID-19関連血栓症の病態及び診療実態を明らかにすることを目的として行われたもの。2020年8月31日までに入院したCOVID-19症例を対象とし、全国の病院399施設のうち109施設からCOVID-19患者6,082例に関する回答が寄せられた。なお、合同調査チームは厚生労働省難治性疾患政策研究事業「血液凝固異常症等に関する研究」班、日本血栓止血学会、日本動脈硬化学会の3組織合同によるもの。 主な調査結果は以下のとおり。・Dダイマーは症例全体の72%で測定され、入院中に基準値の3~8倍の上昇を認めたのはそのうちの9.5%、8倍以上の上昇を認めたのは7.7%と、多くの症例で血栓傾向がみられた。・血栓症は1.85%(血栓症に関する回答のあった5,687例のうち105例)に発症し、発症部位は(重複回答を可として)、症候性脳梗塞22例(血栓症症例の21.0%)、心筋梗塞7例(同6.7%)、深部静脈血栓症41例(同39.0%)、肺血栓塞栓症29例(同27.6%)、その他の血栓症21例(同20.0%)であった。・血栓症は、軽/中等症の症例での発症が31例(軽/中等症症例の0.59%)、人工呼吸器/ECMO使用中の発症が50例(人工呼吸/ECMO症例まで要した重症例の13.2%)であった。・症状悪化時に血栓症を発症したのは64例だったが、回復期にも26例が血栓症を発症していた。・抗凝固療法は、76病院で6,082例のうち880例(14.5%)に実施された。治療法の主な内訳は、未分画ヘパリン591例(880例中の67.2%)、低分子量ヘパリン111例(同13.0%)、ナファモスタット234例(同26.6%)、トロンボモジュリンアルファ42例(同4.8%)、前述の薬剤併用138例(同15.7%)、直接経口抗凝固薬[DOAC]91例(同10.3%)、その他42例(同4.8%)だった。・予防的抗凝固療法の実施について回答した49施設によると、予防的投与を行った患者背景として、Dダイマー高値、NPPV(非侵襲的陽圧換気)/人工呼吸患者、酸素投与患者などが挙げられた。

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がん患者、抗凝固薬の中止時期を見極めるには/日本癌治療学会

 がん患者は合併症とどのように付き合い、そして医師はどこまで治療を行うべきか。治療上で起こりうる合併症治療とその中止タイミングは非常に難しく、とりわけ、がん関連血栓症の治療には多くの腫瘍専門医らは苦慮しているのではないだろうかー。 10月23日(金)~25日(日)にWeb開催された第58回日本癌治療学会学術集会において、会長企画シンポジウム「緩和医療のdecision making」が企画された。これには会長の弦間 昭彦氏の“decision makingは患者の治療選択時に使用される言葉であるが、医療者にとって治療などで困惑した際に立ち止まって考える機会”という思いが込められている。今回、医師のdecision makingに向けて発信した赤司 雅子氏(武蔵野赤十字病院緩和ケア内科)が「合併症治療『生きる』選択肢のdecision making-抗凝固薬と抗菌薬-」と題し、困惑しやすい治療の切り口について講演した。本稿では抗凝固療法との向き合い方にフォーカスを当てて紹介する。医師のバイアスがかからない意思決定を患者に与える がん治療を行いながら並行して緩和医療を考える昨今、その場に応じた1つ1つの細やかな意思決定の需要性が増している。臨床上のdecision makingは患者のリスクとベネフィットを考慮して合理的に形成されているものと考えられがちであるが、実際は「多数のバイアスが関係している」と赤司氏は指摘。たとえば、医師側の合理的バイアス1)として1)わかりやすい情報、2)経験上の利益より損失、3)ラストケース(最近経験した事柄)、4)インパクトの大きい事象、などに左右される傾向ある。これだけ多数のバイアスのかかった情報を患者に提供し、それを基にそれぞれが判断合意する意思決定は“果たして合理的なのかどうか”と疑問が残る。赤司氏は「患者にはがん治療に対する意思決定はもちろんのこと、合併症治療においても意思決定を重ねていく必要がある」と述べ、「とくに終末期医療において抗凝固薬や抗菌薬の選択は『生きる』という意味を含んだ選択肢である」と話した。意思決定が重要な治療―がん関連血栓症(CAT) 患者の生死に関わる血栓症治療だが、がん患者の血栓症リスクは非がん患者の5倍も高い。通常の血栓症の治療期間は血栓症の原因が可逆的であれば3ヵ月間と治療目安が明確である。一方、がん患者の場合は原因が解決するまでできるだけ長期に薬物治療するよう現時点では求められているが、血栓リスク・出血リスクの両方が高まるため薬剤コントロールに難渋する症例も多い。それでも近年ではワーファリンに代わり直接経口抗凝固薬(DOAC)が汎用されるようになったことで、相互作用を気にせずに食事を取ることができ、PT-INR確認のための来院が不要になるなど、患者側に良い影響を与えているように見える。 しかし、DOACのなかにはP糖タンパクやCYP3A4に影響する薬物もあることから、同氏は「終末期に服用機会が増える鎮痛剤や症状緩和の薬剤とDOACは薬物相互作用を起こす。たとえば、アビキサバンとデキサメタゾンの併用によるデキサメタゾンの血中濃度低下、フェンタニルやオキシコドン、メサペインとの相互作用が問題視されている。このほか、DOACの血中濃度が2~3倍上昇することによる腎機能障害や肝機能障害にも注意が必要」と実状を危惧した。DOACの調節・中止時の体重換算は今後の課題 また、検査値指標のないDOACは体重で用量を決定するわけだが、悪液質が見られる場合には筋肉量が低下しているにも関わらず、浮腫や胸水、腹水などの体液の貯留により体重が維持されているかのように見えるため、薬物投与に適した体重を見極めるのが難しい。これに対し、同氏は「自施設では終末期がん患者の抗凝固療法のデータをまとめているが、輸血を必要としない小出血については、悪液質を有する患者で頻度が高かった。投与開始時と同量の抗凝固薬を継続するのかどうか、検証するのが今後の課題」と話した。また、エドキサバンのある報告2)によると、エドキサバンの血中濃度が上昇しても大出血リスクが上昇するも脳梗塞/塞栓症のリスクは上昇しなかったことから、「DOACの少量投与で出血も塞栓症も回避することができるのでは」とコメント。「ただし、この報告は非がん患者のものなので、がん患者への落とし込みには今後の研究が待たれる」とも話した。 さらに、抗凝固薬の中止タイミングについて、緩和ケア医とその他の医師ではそのタイミングが異なる点3)、抗凝固薬を開始する医師と中止する医師が異なる点4)などを紹介した。 このような臨床上での問題を考慮し「半減期の短さ、体内での代謝などを加味すると、余命が短め週の単位の段階では、抗凝固療法をやめてもそれほど影響はなさそうだが、薬剤選択には個々の状況を反映する必要がある」と私見をまとめ、治療の目標は「『いつもの普段の自分でいられること』で、“decision making”は合理的な根拠を知りながら、その上で個別に考えていくことが必要」と締めくくった。

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DOAC服用心房細動患者のイベント発生予測因子/日本循環器学会

 心房細動患者の抗凝固薬治療と予後を調べた多施設共同前向き観察研究であるRAFFINE研究から、直接経口抗凝固薬(DOAC)服用患者における脳梗塞および全身塞栓症の独立した予測因子として年齢、糖尿病、脳梗塞の既往が、また重大な出血の独立した予測因子として年齢、脳梗塞の既往が示唆された。第84回日本循環器学会学術集会(2020年7月27日~8月2日)で宮崎 彩記子氏(順天堂大学医学部循環器内科)が発表した。 RAFFINE(Registry of Japanese Patients with Atrial Fibrillation Focused on anticoagulant therapy in New Era)研究は、心房細動治療の実態把握とDOAC服用者におけるイベント発生の予測因子の調査を目的とした前向き研究である。対象は、2013~15年に研究参加施設に外来通院していた20歳以上の非弁膜症性心房細動(発作性、持続性、永続性のすべて)患者で、入院患者、研究参加の同意が得られなかった患者、余命1年以下と判断された患者を除外した3,706例が解析対象となった。観察は1年ごとに3年(最大5年)まで、観察期間中央値は1,364日であった。 主な結果は以下のとおり。<ベースライン時の状況>・3,706例の非弁膜症性心房細動患者のうち、ワルファリン服用患者(ワルファリン群)1,576例、DOAC服用患者(DOAC群)1,656例、経口抗凝固薬(OAC)投与なしの患者(No-OAC群)474例であった。・年齢およびCHADS2スコアはワルファリン群で高く、No-OAC群では低かった。また、うっ血性心不全既往歴、高血圧、糖尿病、脳梗塞/TIA既往歴を有する患者の割合もワルファリン群で高く、No-OAC群で低かった。・発作性心房細動の割合は、ワルファリン群28.0%、DOAC群41.0%、No-OAC群64.6%とNo-OAC群で高かった。消化管出血はNo-OAC群が最も高く、HAS-BLEDスコアはワルファリン群で最も高かった。・抗血小板薬を投与されていた割合は、ワルファリン群28.6%、DOAC群17.9%、No-OAC群40.7%で、No-OAC群で高かった。<観察期間での調査>・DOAC服用患者の割合はベースライン44.7%から3年時の58.7%まで徐々に増加していた。・DOAC投与量については、適応内の通常用量が38%、適応内の減量が29%、適応外の低用量が27%、適応外の過量が6%で、適応外用量は33%であった。適応外用量の割合を薬剤別にみると、ダビガトラン(n=653)では35%、リバーロキサバン(n=569)では35%、アピキサバン(n=408)では27%、エドキサバン(n=26)では31%であった。・DOAC服用者における脳梗塞および全身塞栓症の独立した予測因子として、年齢(ハザード比[HR]:1.09、95%CI:1.04~1.13、p<0.0001)、糖尿病(HR:2.17、95%CI:1.23~3.82、p=0.007)、脳梗塞/TIAの既往(HR:2.65、95%CI:1.46~4.80、p=0.001)が示唆されたが、適応外用量は関連しなかった。また、重大な出血(ISTH基準)の独立した予測因子としては、年齢(HR:1.07、95%CI:1.03~1.10、p<0.0001)、脳梗塞/TIAの既往(HR:2.06、95%CI:1.17~3.61、p=0.011)が示唆され、抗血小板薬投与は関連しなかった 宮崎氏は、DOAC服用者における適応外用量が33%に認められたことから、イベント発生におけるDOACの適応外用量の影響を調べるためにさらなる研究が必要と述べた。

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抗血栓療法受難の時代(解説:後藤信哉氏)-1246

 20世紀の後半からアスピリン、クロピドグレル、DOACsと抗血栓療法が世界の注目を集めた。心筋梗塞、脳梗塞、静脈血栓症などは致死的イベントの代表であった。抗血栓薬にて多少出血が増えても、「心血管死亡」が減るのであれば、メリットが大きいと考えられた。冠動脈ステントなど人工物では血栓性が高いとされ、アスピリン・クロピドグレルの抗血小板薬併用療法も推奨されてきた。血栓イベント予防のために抗凝固薬と抗血小板薬を併用している症例も実臨床では多数見掛けた。 21世紀になって体重コントロール、運動習慣、食事への配慮が普及した。世界的に見れば血栓イベントは重要な死因の1つであるが、教育の行き届いた先進諸国での血栓イベントが目に見えて減少した。体内に入れる医療材料の血栓性も制御されるようになった。抗血栓薬による血栓イベント低下効果よりも、抗血栓薬による出血イベントが注目されるようになった。 本研究では、すでに抗凝固薬を服用中のTAVIの症例が対象となった。本研究の対象症例は326例と多くない。80歳以上で、ほとんどの症例が心房細動を合併したリスクの高い症例である。しかし、心血管死亡・総死亡、虚血性脳卒中いずれもクロピドグレルの追加により減少のサインすらない。出血はクロピドグレル群で多い。重篤な出血には有意差はないが、傾向としてクロピドグレルの追加により増加する。心房細動にてDOACと強いマーケット活動が持続しているが、実臨床ではワルファリン使用が一般的である。本研究の対象も多くはワルファリン治療下である。TAVIでは一般に抗血小板薬併用療法が施行されているが、抗凝固療法施行中の症例に抗血小板薬を追加する必要はない。重篤な出血を惹起する抗血栓薬は使わずに済めば使わないほうがよい。抗血栓薬にとっては受難の時代になった。

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がん患者のVTE治療、アピキサバンは低分子ヘパリンに非劣性/NEJM

 がん患者の静脈血栓塞栓症(VTE)の治療において、直接経口抗凝固薬(DOAC)アピキサバンは、低分子ヘパリン(LMWH)ダルテパリン皮下投与と比較して、VTE再発に関して非劣性で、消化管の大出血のリスクを増加させないことが、イタリア・ペルージャ大学のGiancarlo Agnelli氏らが行った「Caravaggio試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2020年3月29日号に掲載された。現行の主要なガイドラインでは、がん患者のVTE治療にはLMWHが推奨され、最近、DOACであるエドキサバンとリバーロキサバンの使用の考慮が追加されたが、これらのDOACは出血のリスクが高いため有益性は限定的だという。LMWHと比較する無作為化非劣性試験 本研究は、がん患者のVTE治療におけるアピキサバンのダルテパリンに対する非劣性を検証する医師主導の非盲検無作為化非劣性試験である(Bristol-Myers SquibbとPfizerの提携組織の助成による)。 対象は、年齢18歳以上、症候性または急性の近位型深部静脈血栓症(DVT)または肺塞栓症(PE)を有するがん患者であった。これらの患者が、アピキサバン群(10mg[1日2回]、7日間経口投与後、5mg[1日2回]を投与)、またはダルテパリン群(200 IU/kg[1日1回]、1ヵ月皮下投与後、150 IU/kg[1日1回]を投与)に無作為に割り付けられ、6ヵ月の治療が行われた。 有効性の主要アウトカムは、試験期間中に客観的に確定されたVTE再発(症候性のDVTまたはPEの再発)とした。安全性の主要アウトカムは大出血であった。事前に規定された非劣性マージンは、ハザード比(HR)の両側95%信頼区間(CI)上限値2.00とした。VTE再発:5.6% vs.7.9%、大出血:3.8% vs.4.0% 2017年4月~2019年6月までに、欧州9ヵ国、イスラエル、米国の119施設に1,155例が登録された。アピキサバン群が576例(平均年齢67.2[SD 11.3]歳、男性292例[50.7%])、ダルテパリン群は579例(67.2[10.9]歳、276例[47.7%])であった。治療期間中央値は、アピキサバン群が178日(IQR:106~183)、ダルテパリン群は175日(79~183)だった(p=0.15)。 ベースラインのPE±DVTは、アピキサバン群が52.8%、ダルテパリン群は57.7%、DVTはそれぞれ47.2%、42.3%、症候性DVTまたはPEは、79.9%、80.3%であった。また、活動性のがんは、アピキサバン群が97.0%、ダルテパリン群は97.6%、局所進行・再発または転移を有するがんは、それぞれ67.5%、68.4%だった。 VTE再発は、アピキサバン群が576例中32例(5.6%)、ダルテパリン群は579例中46例(7.9%)で認められ、アピキサバン群のダルテパリン群に対する非劣性が確認され、優越性は示されなかった(ハザード比[HR]:0.63、95%信頼区間[CI]:0.37~1.07、非劣性のp<0.001、優越性のp=0.09)。 このうち、DVT再発は、アピキサバン群が576例中13例(2.3%)、ダルテパリン群は579例中15例(2.6%)で発生し(HR:0.87、95%CI:0.34~2.21)、PE再発はそれぞれ576例中19例(3.3%)および579例中32例(5.5%)で発生した(0.54、0.29~1.03)。 大出血は、アピキサバン群が576例中22例(3.8%)、ダルテパリン群は579例中23例(4.0%)で発生し、両群間に有意な差はみられなかった(HR:0.82、95%CI:0.40~1.69、p=0.60)。消化管大出血は、アピキサバン群が576例中11例(1.9%)、ダルテパリン群は579例中10例(1.7%)で発生した(1.05、0.44~2.50)。 また、臨床的に重要な非大出血(アピキサバン群576例中52例[9.0%]vs.ダルテパリン群579例中35例[6.0%]、HR:1.42、95%CI:0.88~2.30)や、全死因死亡(576例中135例[23.4%]vs.579例中153例[26.4%]、0.82、0.62~1.09)の発生にも、両群間に差はなかった。 著者は、「これらのがん患者におけるアピキサバンの良好な安全性プロファイルは、一般集団のVTE治療におけるアピキサバンの無作為化試験の結果と一致する。これらの知見を合わせると、消化器がんを含め、アピキサバンが適応となるVTEを有するがん患者の割合が拡大する可能性がある」と指摘している。

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弁膜症治療のガイドライン、8年ぶり改訂/日本循環器学会

 日本循環器学会は2020年3月13日、「2020年改訂版 弁膜症治療のガイドライン」を学会ホームページで公開した。診断や薬物治療も含めて弁膜症における診療全体に言及するとの意味から、これまでの「弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン」(2012年に一部改訂版が発行)から名称が変更され、全面改訂が行われている。弁膜症治療のガイドラインは欧米人との体格差を考慮した基準を提示 改訂された弁膜症治療のガイドラインでは、僧帽弁閉鎖不全症(MR)については、新たに心房性機能性MRの概念が導入されたほか、重症一次性MRの手術適応の判断において、日本独自の参考値が示された。無症候の場合の左室機能低下のマーカーとしてのLVEFやLVESDは、これまで欧米患者のデータに基づくものが使用されてきた経緯がある。今回、小柄な日本人に当てはめる場合の参考値として、BSA≦1.7m2の症例では LVESD index≧24mm/m2が提示された。 大動脈弁閉鎖不全症(AR)についても、慢性重症ARの手術適応の判断において、日本人観察研究のデータなどから体格差を考慮した左室サイズの基準を提案している。LVESDの基準は、ESC/ACC/AHAでともに>50mmとされているが、今回の弁膜症治療のガイドラインでは>45mmとしている。LVEDDについては、ESCでは>70mm、ACC/AHAでは>65mmとされており、本ガイドラインでは>65mmが採用された。弁膜症治療のガイドラインはTAVI vs.SAVRで患者背景や解剖学的安全性を重視 大動脈弁狭窄症(AS)について、改訂された弁膜症治療のガイドラインでは重症度評価のためのフローチャートを掲載。真の重症ASを見逃すことのないよう、また中等度ASへの不必要な介入を防ぐことを目的に、SViやLVEFから診断を進められるよう構成されている。  重症ASの手術適応では、欧米のガイドラインが有症候性のみをTAVIの適応としているのに対し、今回の弁膜症治療のガイドラインでは無症候性でも適応となりうる(例:LVEF<50%、very severe ASなど)とした点が大きな特徴となっている。 TAVI vs.SAVRの推奨については、欧米では年齢やSTSスコアの基準が設けられているのに対し、本ガイドラインではそれらは示されなかった。年齢に加え、手術リスクや弁の耐久性、フレイルなどのさまざまな要素を加味し、患者の希望も尊重したうえで、最終的には弁膜症チームで決定することが重要であることを強調している。 ただし、弁膜症治療のガイドラインとして優先的に考慮する大まかな目安としては、80歳以上TAVI、75歳未満SAVRとされている。また、選択の目安としてTAVI、SAVRそれぞれを考慮する具体的な因子が一覧表化されている。弁膜症治療のガイドラインは5つのCQを設定し、システマティックレビューを実施 改訂された弁膜症治療のガイドラインでは、従来のガイドラインに採用されているが実際にどの程度のエビデンスがあるのか疑問が残る項目や、いまだ議論が残る項目を、クリニカルクエスチョン(CQ)として5つ取り上げ、システマティックレビューの結果に基づき、推奨の強さとエビデンス総体の強さが示されている。5つのCQは、以下の通り:CQ 1 無症候性重症一次性MRで左室収縮末期径(LVESD)<40mmかつ左室駆出率(LVEF)>60%、心房細動も肺高血圧もない症例の早期手術は推奨すべきか?CQ 2  LVEFの保たれた(≧50%)無症候性重症ARに、LVESD index>25mm/m2で大動脈弁手術を推奨すべきか?CQ 3  LVEFの保たれた無症候性超重症ASに早期手術は必要か?CQ 4 左心系弁手術の際、軽症のTRであっても弁輪拡大が高度(>40mmもしくは>21mm/m2)な場合は三尖弁形成を加えるべきか?CQ 5 生体弁置換術後の心房細動例に直接経口抗凝固薬(DOAC)は使用可能か?

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第34回 ワルファリン服用時PT-INR2.0~3.0の根拠を説明できますか?【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 ワルファリンはあまりにも有名な抗凝固薬であり、直接経口抗凝固薬(DOAC)もワルファリンとの非劣性試験を行っており、血栓塞栓症の予防薬としてのベンチマークとなっています。多くの薬剤師がその説明に慣れているのではないかと思いますが、スタンダードとされるその効果はどの程度で、なぜPT-INRを2.0~3.0くらいで管理する必要があるのか根拠を示しながら服薬指導できているでしょうか。今回は、意外に正確に即答するのが難しいワルファリンに関するエビデンスを紹介します。ワルファリンは脳卒中リスクを対照群に比べて60%、抗血小板薬に比べて40%低下ワルファリンの血栓塞栓症予防効果は、数多くの試験で示唆されています。非弁膜症性心房細動患者の脳卒中予防効果についてまとめたメタ解析がありますので、押さえておくとよいでしょう1)。この解析には29試験、合計2万8,044例の被験者が含まれており、その平均年齢は71歳で、平均フォローアップ期間は1.5年です。6試験、2,900例の解析によるワルファリン服用群の脳卒中の相対リスクは、抗血栓薬を服用していない対照群と比べて64%低下(95%信頼区間[CI]:49%~74%)、死亡率は26%低下しています。一方、8試験、4,876例の解析による抗血小板薬服用群の脳卒中の相対リスクは、対照群と比べて22%低下(95%CI:6%~35%)しています。また、12試験、1万2,963例の解析によるワルファリン群の脳卒中の相対リスクは、抗血小板薬群と比べて39%低下(95%CI:22%~52%)しています。対照群と比べて約60%、抗血小板薬群と比べて約40%の脳卒中リスク低減というのはとても大きな効果で、DOACが出るまでスタンダードとされていた理由もうなずけます。ただし、試験の前提としてワルファリンの用量が調整されていたことは留意しておくべきで、現実においても当然同様に必要です。上記解析では、抗血小板薬はワルファリンより小さいとはいえ、一定の脳卒中予防効果を示しています。しかし、日本人の非弁膜症性心房細動患者において、アスピリン150~200mg/日投与群と抗血小板薬や抗凝固薬を服用しないプラセボ群を比較した試験(JAST)では、アスピリンは脳卒中予防に対して有効でなかったうえに、中間解析で重篤な出血が増加して試験中止になっているため、推奨されているわけではありません2)。不整脈により生じる脳卒中予防でワルファリンがよく用いられるのにそういった背景があることを知っていると、説明で役に立つかもしれません。PT-INR 2.0~3.0管理群は1.5~1.9管理群よりも有意に深部静脈血栓塞栓症再発が少ないワルファリンの薬効評価では、血液の凝固速度を表すPT-INRの数値をみます。日本血栓止血学会によれば、ワルファリンによる一般的な抗凝固療法では2.0~3.0に管理するとあります。通常の標準値は1.0前後で、それより数値が大きいほど血が止まりにくくなるため、内出血や鼻血、歯茎からの出血などが生じやすくなります。なぜ2.0~3.0がよいのかについては、静脈血栓塞栓症予防におけるINRコントロールの最適値を検討した研究があります3)。ワルファリン治療を3ヵ月以上行っている静脈血栓塞栓症患者738例を、INR 1.5~1.9の低強度管理群とINR 2.0~3.0の通常強度管理群に1:1に割り付け、有効性と安全性を比較しています。主要アウトカムは静脈血栓塞栓症再発および出血です。その結果、深部静脈血栓塞栓症の再発は、INR 1.5~1.9管理群では16回(1.9/100人・年)、INR 2.0~3.0管理群では6回(0.7/100人・年)と有意差があり、ハザード比は2.8(95%CI:1.1~7.0)でした。一方で、重大な出血、全出血発生頻度はともに両群間に有意差はありませんでした。管理が不十分だと塞栓症リスクが3倍近く上昇することは知っておくとよいでしょう。さらに、PT-INRの目標値1.5~2.0と2.0~3.0で比較した別の研究においても、一貫性のある結果が得られており、目標値の妥当性がよくわかります。逆に3.0を超えても予防効果が用量依存的に上がるわけではなく、出血性リスクが高くなるのであくまでも基準値を目指すのがよいということになります4)。抗凝固療法などの予防薬は患者さん自身に治療効果が見えづらくてアドヒアランスが低下しがちです。どの程度の出血傾向があれば注意すべきなのかという目安を伝えることはもちろん重要ですが、治療しない場合と比べてどの程度の効果が期待できて、どのくらいの目標値で管理するとそれがリスクを避けながら最大化されるのかをしっかりと説明できるとよいと思います。そのようなときに、これらの知見をお役立ていただければ幸いです。1)Hart RG, et al. Ann Intern Med. 2007;146:857-867. 2)Sato H, et al. Stroke. 2006;37:447-451. 3)Kearon C, et al. N Engl J Med. 2003;349:631-639. 4)Crowther MA, et al. N Engl J Med. 2003;349:1133-1138.

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TAVRの術後は抗血小板療法?抗凝固療法?(解説:上妻謙氏)-1191

 経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)は、重症大動脈弁狭窄症に対する治療として標準治療となったが、術後の抗血栓療法についての十分なエビデンスが存在しない。今までTAVR後の抗血栓療法としては3~6ヵ月のアスピリンとクロピドグレルによる2剤併用抗血小板療法(DAPT)が標準とされてきたが、この抗血小板療法についての大規模研究は少なく、とくにランダマイズトライアルは皆無である。TAVR後に抗血小板療法が良いのか抗凝固療法が良いのかが疑問であったため、低用量アスピリンに加えてリバーロキサバン10mgとクロピドグレル投与を無作為で比較するGALILEO試験が行われ、結果はすでに発表された。 この試験ではリバーロキサバンを用いた抗凝固療法は有効性の複合エンドポイントで抗血小板療法群に劣り、出血のエンドポイントである安全性エンドポイントでも劣る傾向にあった。したがって、TAVR後の抗血栓療法は抗血小板療法が標準ということが守られた形になっている。一方、TAVRでも外科的手術の生体弁でも、術後早期からの弁尖肥厚と可動性低下が4D-CTを使用することによってレポートされていて、これが血栓の付着によるものと考えられ、生体弁の耐久性を低下させる原因となっているとされていた。 そこで、GALILEO試験の主なサブスタディとして、このGALILEO 4-D試験がデザインされた。4-D CTとは3-Dに加え時間の要素を加えた実際の弁尖の厚みと可動性を評価できるもので、それぞれ5段階に半定量化されて評価された。GALILEO試験1,644例の患者のうち、このサブスタディには231例がエンロールされた。115例がリバーロキサバン群、116例が抗血小板療法群に割り当てられ、実際に4-D CTで評価できたのはそれぞれ97例と101例であった。結果は術後90日の時点で評価され、プライマリーエンドポイントである少なくとも1つの弁尖の可動性低下がグレード3以上であった割合は、リバーロキサバン群2.1%に対し抗血小板療法群10.9%と有意にリバーロキサバン群が良好であり、弁尖肥厚についても12.4%対32.4%とリバーロキサバン群が良好であった。これらの所見はエコーでも評価されたが、エコーでは検出されなかった。 このスタディの結果から言えることは、生体弁の耐久性を向上させるためには抗凝固療法が良い可能性があるが、抗凝固療法による短期臨床イベントの上昇のデメリットが今のところ上回っているということである。このスタディの問題点は抗凝固に低用量のDOACがアスピリンと組み合わされて使用されていることだろう。アスピリンと抗凝固の併用は心房細動でも最もイベントの多い組み合わせであり、出血リスクの高い患者の多いTAVRに適さなかったと考えられる。DOAC単剤であればどうだったのかが検証されることが望ましい。

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長期透析中AF患者へのDOAC、臨床的メリットは

 脳卒中リスク低減のため、心房細動(AF)には直接経口抗凝固薬(DOAC)が推奨されているが、長期間に渡って透析治療を受けている患者は出血リスクが高く、臨床的メリットは不明である。米国・マウントサイナイ・ベスイスラエル病院の工野 俊樹氏らは、長期透析中のAF患者に対するDOACの有効性および安全性についてネットワークメタ解析の手法を用いて調査を行った。Journal of American College of Cardiology誌オンライン版2020年1月28日号に掲載。DOACが長期透析中のAF患者の血栓塞栓症のリスク低下と関連しない 本調査では、2019年6月10日までにMEDLINEおよびEMBASEに登録された文献データを検索。その結果、AFのある長期透析患者に関する16件の観察研究(7万1,877例)が特定され、うち2件がDOACについて調査を行っていた。有効性のアウトカムは、虚血性脳卒中/全身性血栓塞栓症(SE)および全死因死亡、安全性のアウトカムには大出血だった。ただし、ダビガトランとリバロキサバンのアウトカムは、主要な出血イベントに限定されていた。 長期透析中AF患者へのDOACの有用性について調査した主な結果は以下の通り。・アピキサバンとワルファリンは、抗凝固薬なしと比べ脳卒中/SEの有意な減少と関連していなかった(アピキサバン5mg;ハザード比[HR]:0.59、95%信頼区間[CI]:0.30〜1.17、アピキサバン2.5mg;HR:1.00、95%CI:0.52~1.93、ワルファリン;HR:0.91、95%CI:0.72~1.16)。・アピキサバン5 mgは、死亡リスクが有意に低かった(vs.ワルファリン;HR:0.65、95%CI:0.45~0.93、vs.アピキサバン2.5 mg;HR:0.62、95%CI:0.42~0.90、vs.抗凝固薬なし;HR:0.61、95%CI:0.41~0.90)。・ワルファリンは、アピキサバン5mg/2.5mgおよび抗凝固薬なし、よりも大出血のリスクが有意に高かった(vs.アピキサバン5mg;HR:1.41、95%CI:1.07~1.88、vs.アピキサバン2.5mg;HR:1.40、95%CI:1.07~1.8、vs.抗凝固薬なし;HR:1.31、95%CI:1.15~1.50)。・ダビガトランおよびリバロキサバンは、アピキサバンおよび抗凝固薬なしよりも重大な出血リスクが有意に高かった。 今回のネットワークメタ解析では、DOACが長期透析中のAF患者の血栓塞栓症のリスク低下と関連しないことを示しており、ワルファリン、ダビガトラン、およびリバロキサバンは、アピキサバンおよび抗凝固薬なしと比べ有意に高い出血リスクと関連していた。著者らは、「透析中のAF患者の抗凝固薬に関してはアピキサバンの有効性と安全性を調べたランダム化試験が必要であり、ワルファリンとの比較だけではなく抗凝固薬なしとの比較も必要である」と述べている。

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肺がん患者の血栓症の実態を探る大規模前向き試験「Rising-VTE」【肺がんインタビュー】 第30回

第30回 肺がん患者の血栓症の実態を探る大規模前向き試験「Rising-VTE」がん患者では静脈血栓塞栓症(VTE)リスクが高い。がん患者の生命予後の改善に伴い、VTE発症も増加している。しかし、いまだに日本人がん患者におけるVTEの大規模研究はない。そのような中、肺がん患者を対象にした、日本初の大規模前向き観察試験「Rising-VTE」試験が進行中である。試験責任者である島根大学の津端 由佳里氏に試験の背景と狙いを聞いた。「この患者さんが出血で亡くなったら…」データがない日本人がん患者のVTEこの試験を行おうと考えられたきっかけは何ですか。国立がん研究センターでの研修時、両側下肢のVTEの患者さんを診たことがきっかけです。当時、指導医と相談して、その患者さんにワルファリン療法を開始しました。ところが、カンファレンスで「もしこの患者さんが出血で亡くなったらどうするの?」と、当時の上司に指摘されました。がん患者のVTEのデータは海外の研究しかなかったのです。その後、島根大学に戻ると、肺がん患者さんの生命予後の延びに伴ってVTEの患者さんも多くなっていると実感しました。「こういう治療をするなら、津端先生自身が日本人のデータを出さなければいけない」。研修当時の上司の言葉が、ずっと心に残っていました。がん患者さんにVTEが多いのはなぜですか。また、VTEの合併はどの程度ですか。がん患者さんのVTEリスクが高いのは、がん細胞が凝固促進因子を積極的に作り出して凝固傾向を招いているからです。KhoranaのVTEリスクスコア*を用いた海外の報告では、入院がん患者の20%にVTEが存在するとあります。*Khorana VTEリスクスコア:がんの部位、血小板数、ヘモグロビン値、赤血球造血刺激因子製剤の使用、白血球数、BMIをリスク因子とし、合計点からVTE発症を予測するスコアDOACの登場で臨床試験実現この試験ではDOAC(direct oral anticoagulant:直接作用型経口抗凝固薬)をお使いですが、試験の実現に至った経緯との関係はありますか。まず、ワルファリンでの臨床試験を考えましたが、抗がん剤とワルファリンは相性が良くありません。ワルファリンの代謝はCYPに影響されるため、抗がん剤との併用が問題になることが多くあります。さらに、ワルファリンの効果はビタミンなど食事の内容に影響されます。化学療法を受けている患者さんは摂食に障害が出ることも多く、ワルファリンがコントロールしにくいのです。また、がん患者さんは出血リスクも高いため、出血傾向の問題になりえます。このようなことから、ワルファリンで研究するのは難しいと思っていました。そのような中、DOACが下肢VTEに承認されました。DOACであれば、出血リスクも少なく、食事の影響も受けにくいので、がん患者さんのVTE試験ができると思いました。そこで、医師主導で臨床試験をやりたいのでご支援いただけないかと、第一三共株式会社に相談しました。ちょうど同社にも、がん患者さんのデータに対するニーズがあり、ご了承いただき、医師主導臨床試験が実現しました。試験の概要について教えてください。Rising-VTEは多施設前向き観察試験です。国内の35施設から根治的な治療を行わない肺がん患者さんを登録し、診断時にVTE合併の有無を確認します。VTE合併のある患者さんには、エドキサバン(商品名:リクシアナ)の投与を行い、VTEの再発状況と治療の安全性を観察します。VTE合併のない患者さんには通常の治療を行い、2年間観察し、症候性および無症候性のVTEの発症を観察します。“医師の知りたい”に応える試験この試験で注目すべきことは何ですか?日本では、がん患者の血栓塞栓症の大規模な研究はまったくありませんでした。前向きの観察研究として、そして4期の肺がんを対象としたものとしては、初めてかつ最大規模であると考えています。医師主導臨床試験ですので、医師が知りたいと思うことをClinical Questionとして取り上げています。メーカーが考えたプロモーションのための試験ではなく、医師が知りたいと思ったことを提案し、それに関して企業からサポートを受けた試験ですので、日常診療に即した結果を大いに期待していただけると思います。「医師が知りたいと思うこと」とは、どのようなことですか。VTEの診療は、基本的にはASCO(米国臨床腫瘍学会)のガイドラインに準じて行います。この試験により、欧米人との発症の差や日本人としてのリスクをみることができます。また、がんの臨床経過とVTE発症の関係がみられると思います。がん細胞が血栓塞栓因子を出しているため、がんが良くなると血栓塞栓も良くなり、がんが悪くなると血栓塞栓も悪くなります。がんの臨床経過とVTE発症の関係をみることで、VTE治療の開始時期、中断と再開のタイミングなども検討できます。そして、4期の肺がんに特化することで、臨床に有益な細かな情報が得られます。肺がんでは、分子標的治療薬、免疫CP阻害薬、細胞障害性抗がん剤という3種の薬剤を使います。また、遺伝子変異検査を行っています。どの薬剤でどれくらい血栓塞栓が出るか、どの遺伝子変異でどれくらい血栓塞栓が出るか、そのほか、組織型などの患者背景によるリスクが明らかになってくると思います。試験のスケジュールはどのようなものですか。2016年6月から登録を開始し、2018年8月に登録は完了しました。登録症例数は1,000例を目標としましたが、最終的には1,021例の登録を頂きました。経過観察期間である2020年8月まで、VTEがどれだけ発症したか、最初にVTEがあった人の結果はどうだったかを調査します。最終結果は2021年になる予定です。最後に読者の方にメッセージをお願いします。がんとVTEは昔から非常に注目されていましたが、腫瘍を治療する医師と循環器内科医師の連携の機運も高まる中、最近はさらに注目を浴びています。当試験のベースラインのデータでも、肺がん診断時に6.4%の患者さんがVTEを合併し、そのうち80%の方が無症候性でした。目の前の患者さんにもVTE合併の可能性があることを念頭に置いて、積極的なVTEスクリーニングを心掛けていただければと思います。Rising-VTE試験世界肺癌学会(WCLC2019)での発表はこちら

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脳梗塞・心筋梗塞既往歴のない患者でのアスピリン中止提案 【うまくいく!処方提案プラクティス】第8回

 今回は、抗血小板薬の中止提案を行った症例を紹介します。抗血小板薬の目的が動脈硬化性疾患の1次予防なのか2次予防なのかによって治療や提案すべき薬剤が異なってきますので、普段から患者さんの既往歴などの情報を得て、エビデンスを提示しながら提案できるとよいでしょう。患者情報80歳、女性(個人在宅)、体重:53kg、Scr:0.8基礎疾患:アルツハイマー型認知症、心不全、僧帽弁閉鎖不全症、骨粗鬆症、腰部脊柱管狭窄症、症候性てんかん、心房細動、高血圧症、脂質異常症血  圧:130/70台服薬管理:同居の長男夫婦がカレンダーにセットされた薬で管理、投薬。長男夫婦の在宅時間に合わせて用法を朝夕・就寝前に設定。往  診:月2回処方内容1.アルファカルシドール錠0.5μg 1錠 分1 朝食後2.アゾセミド錠30mg 1錠 分1 朝食後3.ウルソデオキシコール酸錠100mg 3錠 分1 朝食後4.L-アスパラギン酸カルシウム錠200mg 2錠 分2 朝夕食後5.バルプロ酸ナトリウム徐放錠200mg 2錠 分2 朝夕食後6.プラバスタチン錠10mg 1錠 分1 夕食後7.センノシド錠12mg 2錠 分1 就寝前8.アレンドロン酸錠35mg 1錠 分1 起床時 毎週木曜日9.アスピリン腸溶錠100mg 1錠 分1 朝食後(新規追加)本症例のポイントこの患者さんは、もともと循環器系の複合的な疾患がありますが、主治医からの診療情報提供書やケアマネジャーからのフェイスシートによると、脳梗塞や心筋梗塞の既往はありませんでした。ところが今回、心房細動と診断され、アスピリン腸溶錠が開始になったため大変驚きました。脳梗塞・心筋梗塞後などの再発予防目的(2次予防)としての抗血小板薬服用は臨床的使用意義が大きいことが確認されています。しかし、発症を未然に防ぐ目的(1次予防)の抗血小板薬の服用は、臨床効果よりも有害事象が上回ることが指摘されています。【JPAD試験1)】対象:動脈硬化性疾患の既往歴のない30〜85歳の2型糖尿病患者2,539例方法:アスピリン(81mgまたは100mg)投与群と非投与群に1:1に無作為に割り付けた(追跡中央値4.37年)評価項目:動脈硬化性疾患結果:動脈硬化性疾患の発現はアスピリン投与群で13.6件/1,000人年、非投与群で17.0件/1,000人年とアスピリン群で20%低い傾向にあるものの、統計学的有意差はなかった。【JPPP試験2)】対象:高血圧、脂質異常症、糖尿病を有する60〜85歳の日本人1万4,464例方法:既存の薬物療法+アスピリン(81mgまたは100mg)併用群と既存の薬物療法のみの群に無作為に1:1に割り付けた(追跡中央値5.02年)評価項目:心血管死亡、非致死的脳卒中、非致死的心筋梗塞の複合アウトカム結果:複合的アウトカムの発現率はアスピリン投与群で2.77%、アスピリン非投与群で2.96%とほぼ同等であったが、胃部不快感、消化管出血、さらに重篤な頭蓋外出血の有害事象はアスピリン投与群で有意に多かった。処方医は私が普段から訪問同行していない医療機関の医師でしたので、治療方針や処方意図は十分に把握できていないものの、上記の低用量アスピリンの1次予防のエビデンスから今回のアスピリン腸溶錠の中止および代替案の提示が必要と考えました。処方提案と経過医師にトレーシングレポートを用いて、JPAD試験とJPPP試験のデータを紹介し、1次予防のアスピリン腸溶錠の臨床的意義は低く、むしろ消化管出血などの有害事象のリスクがあるため、他剤への変更を提案しました。代替案については、心房細動における1次予防には直接経口抗凝固薬(DOAC)が適応と考え、腎機能・体重に合わせた補正用量であるエドキサバン30mg/日を提示しました。その後、トレーシングレポートを読んだ医師より電話連絡があり、提案のとおりにアスピリンを中止してエドキサバン30mgに変更する承認を得ることができました。速やかに処方変更の対応を行い、患者さんは胃部不快感や胃痛もなく経過しています。またエドキサバン変更後の皮下出血や鼻出血などの出血兆候もなく、副作用モニタリングは現在も継続中です。今回の症例のように1次予防の抗血小板薬については、基礎疾患や現病歴から適応の判断を検討し、医師とディスカッションを行うことで変更が可能かもしれません。1)Ogawa H, et al. JAMA. 2008;300:2134-2141.2)Ikeda Y, et al. JAMA. 2014;312:2510-2520.

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心房細動アブレーションは患者の予後を改善するのか(解説:今井靖氏)-1110

 本邦においても100万人近い心房細動患者が存在し、動悸、胸部不快感などの自覚症状をもたらすのみならず、脳塞栓、心不全の原因としても重要な疾患である。DOACの普及に伴い抗凝固療法の導入率が増加したが、その時流と並行して心房細動に対するカテーテルアブレーションも増加の途にある。リズムコントロールの手段として薬物療法に比して顕著に有効性が高く、薬物治療抵抗性、有症候性心房細動患者のQOL改善の手段として非常に優れた治療と考えられる。 一方、心房細動カテーテルアブレーションの長期生存率あるいは脳梗塞リスクに与える効果については今まで前向き試験として明らかにされたものはなく、CABANA試験において心房細動症例をカテーテルアブレーションあるいは薬物療法に割り付け、前者が後者に比較して予後に優れるか否かが検証された。医師主導・オープンラベルの10ヵ国にまたがる多施設国際共同研究であるが、対象として65歳以上、あるいは脳梗塞に対するリスク因子を1つ以上有する65歳未満の症候性心房細動2,204例を登録(2009年11月~2016年4月)、2017年末まで追跡がなされた。主要エンドポイントは死亡、後遺症を残す脳卒中、重症の出血あるいは心停止の複合とされ、副次エンドポイントとしては全死亡、死亡+心臓血管系入院、心房細動再発などである。2,204例(中央値68歳、女性37.2%、42.9%が発作性)が組み入れられ、カテーテルアブレーション群のうち1,006例(90.8%)が手技を受けた。一方、薬物療法群のうち301例(27.5%)が結果的にカテーテルアブレーションを受けていた。 intention-to-treat(ITT)解析では、追跡期間中央値48.5ヵ月において主要エンドポイントは、カテーテルアブレーション群89例(8.0%)、薬物療法群101例(9.2%)で、統計的有意差を認めなかった(ハザード比[HR]:0.86、95%信頼区間[CI]:0.65~1.15、p=0.30)。副次エンドポイントの全死亡では差がなかったが(5.2% vs.6.1%、HR:0.85、95%CI:0.60~1.21、p=0.38)、死亡または心臓血管系入院(51.7% vs.58.1%、HR:0.83、95%CI:0.74~0.93、p=0.001)、および心房細動の再発(49.9% vs.69.5%、HR:0.52、95%CI:0.45~0.60、p<0.001)は統計的有意差をもってカテーテルアブレーション群で低率であった。残念ながらカテーテルアブレーションによる主要エンドポイント減少効果が認められなかった。 実際に治療を受けたか否かという観点でper protocol解析を行うと、主要エンドポイントにおいてカテーテルアブレーションのHRは0.74(95%CI:0.54~1.01)、12ヵ月で見た場合、0.73(95%CI:0.54~0.99)と差を認めないか僅差であった。副次エンドポイントの1つである全死亡で見ると、6ヵ月で0.69(95%CI:0.47~1.10)、12ヵ月で0.68(95%CI:0.47~0.99)であった。この試験における限界として、クロスオーバーが相当数あること、イベント発生数が期待されたよりも低率に抑えられていたことなどがあり、研究デザインなどについても検討すべき点が含まれると考えられた。しかしこの研究からの日常臨床における解釈としては、長期予後改善効果は証明されていないが、症状が強い薬物治療抵抗性の心房細動アブレーションに対する適応の妥当性は堅持されるものと考えられる。 心不全合併心房細動については、昨年報告されたCASTLE-AF試験において、カテーテルアブレーション群が薬物療法群に比較して予後を改善することが報告され注目された。心房細動が心不全の惹起因子となっている場合、心房細動の抑制が心不全改善に寄与することが期待されるが、一方、心不全・心機能悪化の結果として心房細動が生じた場合、心房細動は予後不良のマーカーであってそれをカテーテル治療で抑制しても効果が得られないという可能性もあるため、心不全合併心房細動についても症例ごとに治療適応を判断する必要性があると思われる。今回のCABANA試験、またCASTLE-AF試験においてもカテーテルアブレーション手技は5~10年前あたりからの登録症例を最近まとめた研究であり、カテーテルアブレーション技術自体は高周波アブレーションにおいても3-Dガイド、コンタクトフォースなどのさらなる技術革新、クライオ、ホット、レーザーなどのバルーン技術の積極的導入など目覚ましい進歩があり、現在の日々の診療データ集積から心房細動アブレーションの有効性・問題点について検討を続ける必要性がある。

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short DAPTとlong DAPTの新しいメタ解析:この議論、いつまで続けるの?(解説:中野明彦氏)-1105

【はじめに】 PCI(ステント留置)後の適正DAPT期間の議論が、まだ、続いている。 ステントを留置することで高まる局所の血栓性や五月雨式に生じる他部位での血栓性イベントと、強力な抗血小板状態で危険に晒される全身の出血リスクの分水嶺を、ある程度のsafety marginをとって見極める作業である。幾多のランダム化試験やメタ解析によって改定され続けた世界の最新の見解は「2017 ESC ガイドライン」1)に集約されている。そのkey messageは、・安定型狭心症は1~6ヵ月、ACSでは12ヵ月間のDAPTを基本とするが、その延長は虚血/出血リスクにより個別的に検討されるべきである(DAPT score・PRECISE DAPT score)。・ステントの種類(BMS/DES)は考慮しない。・DAPTのアスピリンの相方として、安定型狭心症ではクロピドグレル、ACSではチカグレロル>プラスグレルが推奨される。 一方本邦のガイドラインは、安定型狭心症で6ヵ月、ACSでは6~12ヵ月間を標準治療とし、long DAPTには否定的である。 言うまでもないが、DAPTの直接の目的はステント血栓症予防である。ステント血栓症の原因は複合的で、病態(ACS vs.安定型狭心症)のほかにも、患者因子(抗血小板薬への反応性・糖尿病・慢性腎臓病・左室収縮能など)、病変因子(血管径・病変長・分岐部病変など)、ステントの種類(BMS、第1世代DES、第2世代以降のDES)、さらには手技的因子(stent underexpansion、malappositionなど)が関連すると報告されている。そしてステント血栓症は留置からの期間によって主たるメカニズムが異なり、頻度も変わる2)。1年以降(VLST:Very Late Stent Thrombosis)の発生頻度は1%をはるかに下回り、in-stent neoatherosclerosisが主役となる。またVLSTの数倍も他病変からのspontaneous MIが発症するといわれている。こうした点がDAPTの個別的対応の背景であろう。【本メタ解析について】 ステント留置後のadverse eventは時代とともに減少し、したがって数千例規模のRCT でもsmall sample sizeがlimitationになってしまう。これを補完すべく2014年頃からRCTのメタ解析が年2~3本のペースで誌上に登場してきた。本文はその最新版で、これまでで最多の17-RCT(n=46,864)を解析した。DAPTはアスピリン+クロピドグレルに限定し、単剤抗血小板療法(SAPT)はアスピリンである。従来の「short DAPT=12ヵ月以内」を細分化して「short(3~6ヵ月)」と「standard(12ヵ月)」に分離、これを「long(>12ヵ月)」と比較する3アーム方式で議論を進めている。 その結論・主張は、(1)総死亡・心臓死・脳卒中・net adverse clinical eventsはDAPT期間で差がない(2)long DAPTはshort DAPTに比して非心臓死や大出血を増やす(だからlong DAPTは極力避けたほうがいい)(3)short DAPTとstandard DAPTではACSであってもステント血栓症や心筋梗塞に差がない(だからshort DAPTでいい) などである。しかし一方、long DAPTの超遅発性ステント血栓症・心筋梗塞抑制効果についてはほとんど触れられておらず、short DAPTに肩入れしている印象を受ける。筆者が、おそらく虚血患者に接する機会が少ないであろう臨床薬理学センター所属のためだろうか? 本メタ解析の構図は「DAPTに関するACC/AHA systematic review report(2017)」3)に似ていて、これに2016年以降発表されたRCTを中心に6報加えて議論を展開している。long DAPTほど血栓性イベント抑制に勝り出血性合併症が増える結論は同じだが、ACC/AHA reportはテーラーメードを意識してかリスクによる選択の余地を強調している。 さらにいくつか気になる点がある。評者もご多分に漏れず統計音痴なので、その指摘は的を射ていないかもしれないけれど、できれば本文をダウンロードしてご意見をいただきたい。 たとえば、MIやステント血栓症はlong DAPTで有意に抑制しているのに心臓死はshort DAPTで少ない傾向にあったこと。あるいは非心臓死(有意差あり)・心臓死のOdd Ratioが共に総死亡より大きかったこと。これらは各エンドポイントが試験により含まれたり含まれなかったりしていたためらしい。 また、たとえば各試験でのevent ratioが大きく異なること。同じshort vs.standard DAPTの試験でも12ヵ月MI発症率が0%(IVUS-XPL)~3.9%(I-LOVE-IT2)と幅がある。調べてみるとperiprocedural MIを含めるかどうかなど、そもそも定義が異なるようである。 そして、例えばランダム化の時期である。short vs.standardのほとんどがPCI前後に振り分けているのに対し、standard vs.longはすべてで急性期イベントが終了した12ヵ月後に振り分けランドマーク解析している。これでもshort vs.longの図式が成り立つのだろうか?【まとめ】 DAPT有用性の議論はあのゴツイPalmaz-Schatz stentから始まった。第1世代DESも確かに分厚かった。しかし技術の粋を集め1年以内のステント血栓症が大幅に減少した現時点において、short DAPTにシフトするのは異論がないところであろう。とりわけcoronary imagingを駆使してoptimal stentingを目指すことができる本邦においては、なおさらである。しかし一方、心筋梗塞二次予防に特化したメタ解析4)では、long DAPTが致死性出血や非心臓死を増やすことなく心臓死やMI・脳卒中を有意に抑制した、との結果だった。 ステント血栓症が減ったからこそ、二次予防に抗血小板薬(DAPT)をどう活かすかという視点も必要であろう。解析の精度はさておき「short term DAPT could be considered for most patients after PCI with DES」と結論付けたSAPT(アスピリン)vs.DAPT(アスピリン+クロピドグレル)の議論はそろそろ終わりにしても良いのではないだろうか。 現在はアスピリンの代わりにクロピドグレルやP2Y12 receptor inhibitor(チカグレロル)によるSAPT、少量DOACの有効性も検討されて、PCI後の抗血栓療法は新しい時代に入ろうとしている。 木ばかりでなく森を見るようにしたいと思う。

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循環器医もがんを診る時代~がん血栓症診療~/日本動脈硬化学会

 がん患者に起こる“がん関連VTE(Venous Thromboembolism、静脈血栓塞栓症)”というと、腫瘍科のトピックであり、循環器診療とはかけ離れた印象を抱く方は多いのではないだろうか? 2019年7月11~12日に開催された、第51回日本動脈硬化学会総会・学術集会の日本腫瘍循環器病学会合同シンポジウム『がん関連血栓症の現状と未来』において、山下 侑吾氏(京都大学大学院医学研究科循環器内科)が「がん関連静脈血栓塞栓症の現状と課題~COMMAND VTE Registryより~」について講演し、循環器医らに対して、がん関連VTE診療の重要性を訴えた。なぜ循環器医にとって、がん関連VTEが重要なのか 循環器医は、虚血性心疾患、不整脈、および心不全などの循環器疾患を主に診療しているが、血栓症/塞栓症のような“血の固まる病気”への専門家として、わが国ではVTE診療における中心的な役割を担っている。VTEは循環器医にとって日常臨床で遭遇する機会の多い身近な疾患であり、山下氏は「VTE診療は循環器医にとって重要であるが、その中でもがん関連VTEの割合は高く、とくに重要である」と述べた。発症原因のはっきりしないVTEでは、がんに要注意! 「循環器医の立場としては、VTEの発症原因が不明で、なおかつVTEを再発するような患者では、後にがんが発見される可能性があり、日常臨床で経験する事もある」と述べた同氏は、VTE患者でのがん発見・発症割合1)を示し、VTEの原因としての“がん”の重要性を注意喚起した。さらに同氏は、所属する京都大学医学部附属病院で2010~2015年の5年間に、肺塞栓症やDVT(Deep Vein Thrombosis、深部静脈血栓症)の保険病名が付けられた診療科をまとめた資料を提示し、循環器内科を除外した場合には、産婦人科、呼吸器科、消化器科および血液内科などの腫瘍を多く扱う診療科でVTEの遭遇率が高かったことを説明した。 近年では、がん治療の進歩によりがんサバイバーが増加し、経過観察期間にVTEを発症する例が増えているという。がん患者と非がん患者でVTE発症率を調査した研究2)でも、がん患者のVTE発症率が経年的に増加している事が報告されており、VTE患者全体に占めるがん患者の割合は高く、循環器医にとって、「VTEの背景疾患として、がんは重要であり、日常臨床においては、循環器医と腫瘍医との連携・協調が何よりも重要」と同氏は強調した。がん関連VTEの日本の現状と課題 本病態が重要にも関わらず、現時点での日本における、がん関連VTEに関する報告は極めて少なく、その実態は不明点が多い状況であった。そこで同氏らは、国内29施設において急性症候性VTEと診断された3,027例を対象とした日本最大規模のVTEの多施設共同研究『COMMAND VTE Registry』を実施し、以下のような結果が明らかとなった。・活動性を有するがん患者は、VTE患者の中で23%(695例)存在した(がんの活動性:がん治療中[化学療法・放射線療法など]、がん手術が予定されている、他臓器への遠隔転移、終末期の状態を示す)。・がんの原発巣の内訳は、肺16.4%(114例)、大腸12.7%(88例)、造血器8.9%(62例)が多く、欧米では多い前立腺5.2%(36例)や乳房3.7%(26例)は比較的少数であった。・がん患者のVTE再発率は非常に高く、活動性を有するがん患者ではVTE診断後1年時点で11.8%再発し、なかでも遠隔転移を起こしている患者では22.1%と極めて高い再発率であった。・がん患者の総死亡率は極めて高く、とくに活動性を有するがん患者では49.6%がVTE診断後1年時点で亡くなっていた。・死亡した活動性を有するがん患者(464例)の死因は、がん死が81.7%(379例)で最多であったが、それに次いで、肺塞栓症4.3%(20例)、出血3.9%(18例)であった。 この結果を踏まえ、「再発率だけでなく、死亡率も高いがん関連VTE患者を、どこまでどのように介入するか、今後も解決しなければならない大きな問題である」とし、がん治療中のVTEマネジメントが腫瘍医および循環器医の双方にとって今後の課題であることを示した。 欧米でVTE治療に推奨されている低分子ヘパリンは、残念ながら日本では使用できず、ワルファリンやDOACが使用されている。しかし、ワルファリンは化学療法の薬物相互作用などによりINRの変動が激しく、用量コントロールにも難渋する。また、前述の研究の結果によると、活動性を有するがん患者ではワルファリンによる治療域達成度は低かった。このような患者に対し、VTE治療のガイドライン3)では抗凝固療法の長期継続を推奨しているが、「実際は中止率が高く、抗凝固療法の継続が難しい群であった」と現状との乖離について危惧し、「DOAC時代となった日本でも、がん関連VTEに対する最適な治療方針を探索する研究が必要であり、わが国から世界に向けた情報発信も期待される」と締めくくった。

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