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リアルワールドの成績はどう読み解くべき?

 無作為化比較試験(RCT)の結果を基に承認された薬剤が、実臨床でも開発試験と同様の成績が得られるかを確認するためのリアルワールド・エビデンス。その特性や限界、結果を読み解く際の注意点について、井上 博氏(富山県済生会富山病院 院長/富山大学名誉教授)が、6月8日都内にて、バイエル薬品株式会社主催の会合で講演した。リアルワールド・エビデンスの特性と限界 開発試験で行われるRCTはエビデンスレベルの高い試験であり、治験薬の有効性や安全性を検証するために必要である。しかし、開発試験では重篤例や高齢者など複雑な対象は除外され、また周到な監視の下で厳密な経過観察が必要とされているため、一般人口や日常診療に常に当てはめることはできない。そこで、治験薬承認後にも、レジストリ等の前向き観察研究や後ろ向きデータベース研究などで、リアルワールドでの安全性・有効性を確認することが重要である。 リアルワールド(実臨床)で得られたエビデンスの特性として、自然歴、危険因子、治療の実施状況、長期予後、真の患者集団での治療方針のリスク、広範な患者集団でのニーズとギャップ、開発試験では見つからない低頻度の有害事象が明らかになるということが挙げられる。 一方、リアルワールド・エビデンスの限界として、年齢などの交絡因子を調整できない、単一施設であることが多い、追跡期間が比較的短い、非投与群や他の治療という対照を設定しにくい、データベース解析では得られる情報に限りがある、他のリアルワールド・エビデンスとの比較が難しいといったことのほか、研究資金提供元の影響の可能性、対象集団とRCT参加集団との差なども挙げられる。井上氏は「これらを知ったうえで成績を読み解いてほしい」と述べた。複数のリアルワールド・エビデンスで確認することが重要 井上氏は、実際のリアルワールド・エビデンスの例として、ワルファリンの実臨床における有効性と安全性を検討した2つのレジストリ研究の結果を紹介した。 1つは、参加施設の多くが一般開業医であったFUSHIMI AFレジストリで、この研究では、脳卒中または全身性塞栓症、重大出血のイベントの発生率にワルファリン投与の有無による差が認められなかった。この理由として、井上氏は、ワルファリンの投与量が十分ではなかったためではないかと考察している。もう1つの研究は、主に循環器専門医によるJ-RHYTHMレジストリで、この研究ではワルファリン投与群で有意な血栓塞栓症の低下と重大出血の増加が示された。 このように、市販後、実施される臨床研究では、さまざまな特性や限界があるため、実臨床における薬剤の安全性・有効性については、複数のリアルワールド・エビデンスで確認することが重要であると強調した。DOACにおけるリアルワールド・エビデンス 現在、心房細動患者の塞栓症予防に4剤の直接作用型経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant:DOAC、旧名称:NOAC)が承認されており、すでにリアルワールド・エビデンスが報告されつつある。現在も、各領域の抗凝固薬使用に関する“unmet medical needs”の解決を目的として、さまざまな臨床研究が進行中であり、井上氏は「今後、さらにDOACの位置付けが明らかになることが期待される」と結んだ。

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盲目的で残念な研究~出血リスクスコアの意義を考える~(解説:西垣 和彦 氏)-530

抗凝固薬の宿命 抗凝固薬は、心房細動により惹起される重篤な心原性脳血栓塞栓症を予防し、臨床的に有用である。しかし反面、出血という副作用の発生率は確実に助長させる。それは、いわば抗凝固薬の持つ相反性であり、宿命でもある。このことは、ワルファリンからNOAC(DOAC)にパラダイムシフトしても、出血イベントを来さない抗凝固薬はない。たとえ、ワルファリンより出血頻度がきわめて低下したアピキサバンやダビガトランであっても、やはり出血イベントを払拭できない。血栓塞栓症と出血という、まさに表裏一体の関係は、もはや抗凝固薬の性質として素直に認めざるを得ない。 そこで多くの研究者が、抗凝固薬投与前に事前に出血イベントを予測できないものかと、出血リスクスコアを開発してきた。これは一見自然な成り行きとも思えるが、はたして出血リスクスコアの開発自体は本質的に重要なことであろうか。 本論文は、バイオマーカーを取り入れたABC出血リスクスコアを提唱しているが、これを検証することで改めて出血リスクスコアの持つ意義について考えてみる。本論文のポイントは? 本論文のポイントをまとめる。心房細動患者の重大出血予測を改善するために、新たにバイオマーカーを取り入れた出血リスクスコアを、アピキサバン vs.ワルファリンの比較試験であるARISTOTLE試験患者1万4,537例(抽出コホート)を用いて開発、併せて内的妥当性検証も行った。さらに、ダビガトラン vs.ワルファリンのRE-LY試験患者8,468例(検証コホート)を用いて、外的妥当性も検証した。 新たな出血リスクスコアは、最も予測が強力であった5つの変数(cTnT-hs、GDF-15、ヘモグロビン、出血歴、年齢)を含んだABC出血リスクモデルとして構築された。また、代替バイオマーカー(cTnT-hsをcTnI-hs、ヘモグロビンをヘマトクリット、GDF-15をシスタチンCまたはeGFRにそれぞれ置換)を用いた修正ABC出血リスクスコアも構築し検証した。 その結果、抽出コホートにおいて、ABC出血リスクスコアのC統計量は0.68(95%信頼区間[CI]:0.66~0.70)であり、HAS-BLEDスコアの0.61(0.59~0.63)、ORBITスコアの0.65(0.62~0.67)と比較し、ABC出血リスクスコアの予測が有意に優れていた。検証コホートでも、ABC出血リスクスコアのC統計値は0.71(0.68~0.73)で、HAS-BLEDスコア0.62(0.59~0.64)、ORBITスコア0.68(0.65~0.70)より相互に有意差が認められた。さらに、代替バイオマーカーを用いた修正ABC出血リスクスコアも同様な結果であった。 出血リスクスコアが実臨床で使用されるのに必要な要件 出血リスクスコアを実臨床に使用するために必要な要件は、以下の3つである。 第1に、簡便なスコアで、計算しやすいものであることである。ただし、それぞれの項目に対する加重が一概に1点だの2点だのといえないところに、そもそもの問題がある。現在、よく使われているHAS-BLEDスコアは、この点を度外視し簡便性だけを追求して簡単に総得点を導き出すものである。一方、本論文にあるABC出血リスクスコアはまったくこの対極で、簡便性よりも予測能を上げることに専念している(が、後述するようにこれも十分ではない)。ABC出血リスクスコアは、スコアをノモグラムで算出する“らしい”が、どう算出すればよいのか丁寧な説明もされておらず、とても普及を目的にしているとは思えない。 第2に、予測能に優れているとの根拠であるC統計量が決して高くないことである。C統計量は、連続変数である独立変数と二分変数であるアウトカムとの関係の強さを評価するROC曲線から求められる、ROC曲線面積(AUC)に相当する。このAUC値は0.5~1.0までの値をとるが、1.0に近いほど予測能が高いといえる。現実的には、せめて0.8はほしい値である。AUC 0.5 ~0.7ではLow accuracyと呼ばれ、この値から予測することは問題外である。本論文のC統計量は、抽出コホートでABC出血リスクスコア0.68であり、HAS-BLEDスコア0.61、ORBITスコア0.65よりは少しは高いが、いずれも決して予測能が高いとはいえない値である。蛇足だが、最近はこの手の無理矢理な解析やら解釈が横行しており憂慮している。たとえば、PRASFIT-ACSで発表された心血管イベントを予測するPRUのカットオフ値262のAUCは0.58しかなく、PRUはまったく有用ではない指標であると考えられるのに、今や企業の販売促進戦略の原動力となっている。 最後に、たとえ良いスコアであっても、臨床に還元される臨床研究でなければその意義はない。われわれにこのスコアをどう利用しろというのであろうか。出血リスクスコアを利用して明確にリスクの層別化ができ、それが抗凝固薬ごとに減量する基準となり、投与後の出血イベントを抑制できた後に、晴れてその有用性を語れるものである。結論として 論文著者は、「ABC出血リスクスコアを抗凝固薬治療の意思決定支援に活用すべき」といっているが、盲目的で残念な研究である。そもそも、塞栓症リスクと出血リスクの項目が重複している以上、塞栓症リスクが高い症例は出血リスクも当然高くなり、出血リスクスコアを算出する意義すら希薄であるのが現実といわざるを得ない。

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