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Dr.田中和豊の血液検査指南 総論・血算編

【総論】 第1回 検査の目的 第2回 検査の指標 第3回 診断過程における検査の役割 第4回 検査の選択とマネジメント 第5回 Bayes統計学【血算編】 第1回 白血球1 白血球増加症 第2回 白血球2 白血球分画異常症 第3回 白血球3 白血球減少症 第4回 赤血球1 多血症 第5回 赤血球2 貧血 第6回 赤血球3 正球性貧血・小球性貧血 第7回 血小板1 血小板増加症 第8回 血小板2 血小板減少症 第9回 血小板3 汎血球減少症 第10回 血小板4 TTP・HUS・HIT 【総論】すべてのベースとなる検査の基本からスタート。日々の診療で検査を行うことが目的になっていませんか?念のための検査をやっていませんか?何のために検査を行うのか、どのような検査をどのように行えばよいのか、また、その結果をどのように解釈し、マネジメントを行うのか。Dr.田中和豊流の“血液検査学”を理解するための前提の講義です。【血算編】白血球・赤血球・血小板の検査値をどのように解釈し、治療を行うのか。Dr.田中和豊式“鉄則”や、鑑別診断や経験的治療の“フローチャート”を用い、やるべきことをシンプルにレクチャーします。この番組を見ると、血液検査の数値を見たときに、実臨床で何をすべきかをしっかりと理解できるようになるはずです。※この番組をご覧になる際に、「問題解決型救急初期検査 第2版(医学書院)」ご参考いただくと、より理解が深まります。書籍はこちら ↓【問題解決型救急初期検査 第2版(医学書院)】【総論】第1回 検査の目的医学生、初期研修医 の皆さん!その検査は何のためにやっていますか?検査を行うことが目的になっていませんか?念のための検査をやっていませんか? そんな検査に、田中和豊先生が喝を入れます! 日々の診療で行う検査について、今一度、考え直してみましょう。【総論】第2回 検査の指標検査を行うためには、それぞれの検査の特性を知らなければなりません。傷病を診断するための検査の特性を示すいくつかの指標があります。例えば、有病率と罹患率、感度と特異度、精密度・再現性・信頼度、尤度比などです。それらの指標の考え方と意義、そしてそれらをどのように用いるのか?田中和豊先生が医学生・初期研修医向けにシンプルにわかりやすく解説します。【総論】第3回 診断過程における検査の役割診療において検査を行うとき、検査前にその疾患である確率と検査を行い、その結果による検査後の確率の変化について考えていきましょう。検査前確率と検査後の確率の関係はBayesの定理によってその関係式が導き出されます。また、検査前の確率から、検査後の確率を算出する方法は2つあり、それにはオッズ比と尤度比という指標を用います。今回は、これらの関係について、そして検査後確率の算出方法について、詳しく解説します。医学生・初期研修医の方は必見です。【総論】第4回 検査の選択とマネジメント今回は、検査の選択、検査計画、検査の解釈、診断、マネジメントについて解説します。 それぞれの場面において何を優先して考えるべきか、その結果から何を導き出すのか、Dr.田中和豊が示す“鉄則”を確認していきましょう!【総論】第5回 Bayes統計学今回はBayes統計学について考えます。Bayes統計学は、原因から結果という自然な時間の流れに逆行する“逆確率”であるということ、事前確率を推定する“主観確率”であるということから、異端の統計学とのレッテルを貼られ、一統計学の世界から抹殺されていた時期もありました。そして、現在どのようにBayes統計学をEBMに応用しているのか、その歴史と意義について詳しく解説します。【血算編】第1回 白血球1 白血球増加症血液検査の原則から確認しましょう。採血は痛い!だから患者のためには、きちんとした計画そして評価が必要です。 そして、いよいよ血算編。まずは3回にわたって白血球についてみていきます。今回は、白血球増加症について。白血球が増加しているとき、確認すべきステップと鉄則は?Dr.田中和豊がシンプルかつわかりやすくにお教えします。【血算編】第2回 白血球2 白血球分画異常症今回は、白血球分画の異常について取り上げます。白血球の分画の基準値は%で示されますが、実際の異常を診る場合には絶対数を計算して確認しましょう。 好中球増加症、リンパ球増加症、異形リンパ球、単球増加症、好酸球増加症についてぞれぞれの異常値とその原因についてシンプルにわかりやすく解説します。 好中球増加症で用いられる左方移動や右方移動についてもその命名の歴史からご説明します。【血算編】第3回 白血球3 白血球減少症今回は白血球減少症についてです。白血球減少症の原因は、産生低下と破壊亢進の2つ。そのため、通常、問診や診察で簡単に判断できます。 すなわち白血球減少症では、鑑別よりも、マネジメントが問題となります。 その中でもとくに重要な発熱性好中球減少症について詳しく解説します。 Dr.田中和豊式フローチャートに沿って対応すれば、慌てずに対処できます。【血算編】第4回 赤血球1 多血症今回から3回にわたって赤血球について解説します。 まずは、赤血球の基本から。 赤血球の指標には、RBC、Hb 、Hctがありますが、実は、この3つの指標はほぼ同じもので、どれを使用してもかまいません。 しかし、実際には、Hbを使用することが多いのではないでしょうか。 それは、赤血球を評価するためには、赤血球の機能である酸素運搬能を評価することとなり、その動脈酸素運搬能DO2を算出する際に直接比例するHbを多血症や貧血の指標として用いるのです。 Hbの指標を用いて、基準値、多血症について、考えていきましょう。※スライドの文字に修正があります。誤)多血症 polycythermia⇒ 正)多血症 polycythemiaとなります。【血算編】第5回 赤血球2 貧血臨床上、最も多く遭遇する病態である「貧血」について解説します。血液単位容積あたりのヘモグロビン量の減少を貧血と呼びます。 まずは、その貧血の定義と鑑別診断について考えていきましょう。MCV(平均赤血球容積)で貧血を分類し、その中で大球性貧血について詳しくみていきます。田中和豊式鑑別診断のフローチャートで体系立てて診断・治療をすすめていきましょう。【血算編】第6回 赤血球3 正球性貧血・小球性貧血赤血球の最終話は、正球性貧血と小球性貧血について解説します。 それぞれの鑑別診断とその後の対応について、田中和豊式フローチャートで解説します。小球性貧血の中でも頻度の高い、鉄欠乏性貧血については、著量なども含め、詳しく見ていきます。最後には赤血球に関するまとめまで。しっかりと確認してください。【血算編】第7回 血小板1 血小板増加症今回から4回にわたって血小板について解説します。血小板の異常は、数の異常と、機能異常がありますが、このシリーズでは、数の異常について取り上げていきます。まずは、血小板増加症から。血小板増加症は、一次性と2次性に分類されます。それらをどのような順番で鑑別していくのか、田中和豊式フローチャートで確認していきましょう。【血算編】第8回 血小板2 血小板減少症今回は血小板減少症を取り上げます。血小板減少症は、プライマリケアにおいて、遭遇することが多い疾患です。そのため、マネジメントを身に付けておくことが重要となります。Dr.田中和豊式フローチャートで手順をしっかりと確認しましょう。対応するうえで重要なポイントとなる「血小板輸血」、「敗血症」などについても詳しく解説します。最後に、Dr.田中和豊が実際に経験した症例「血小板数3,000/μLの29歳女性」について振り返ります。その時のDr.田中のマネジメントはどうだったのか!【血算編】第9回 血小板3 汎血球減少症今回は汎血球減少症、無効造血、溶血性貧血について取り上げます。それぞれの疾患の定義と鑑別疾患をシンプルにわかりやすく解説します。いずれも、鑑別疾患が限られる疾患ですので、しっかりと覚えておきましょう。【血算編】第10回 血小板4 TTP・HUS・HIT最終回の今回は、TTP:血栓性血小板減少性紫斑病、HUS:溶血性尿毒症症候群 、HIT:ヘパリン起因性血小板減少症について取り上げます。それぞれの診断のポイントと、治療例を解説します。 また、血小板に関してこれまでを総括します。重要なポイントをおさらいしましょう!

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カナグリフロジンと下肢切断リスク(解説:住谷哲氏)-1303

 最新のADA/EASD高血糖管理ガイドラインにおいて、SGLT2阻害薬は心不全またはCKDが問題となる2型糖尿病患者に対して、HbA1cの個別目標値とは切り離してメトホルミンに追加すべき薬剤と位置付けられている。糖尿病ケトアシドーシス、性器感染症の増加はすべてのSGLT2阻害薬に共通の有害事象であるが、下肢切断リスクの増加はカナグリフロジンに特異的と考えられている。これは、これまで報告されたエンパグリフロジン、カナグリフロジン、ダパグリフロジン、ertugliflozinのCVOTのなかで、唯一下肢切断リスクの増加がカナグリフロジンのCANVAS programで報告されたことによる。しかしその後に報告されたカナグリフロジンのCREDENCEでは下肢切断リスクの増加は認められなかった。つまり本当にカナグリフロジン特異的に下肢切断リスクが増加するか否かについては、はっきりしていない。 カナグリフロジンの使用が多い米国で、カナグリフロジンまたはGLP-1受容体作動薬のいずれかが新たに投与された患者における下肢切断リスクを比較検討したのが本論文である。対照としてGLP-1受容体作動薬が選択されたのは、ほぼ同程度のASCVDリスクを有する患者に両薬剤のいずれかが選択されることが多いことによる。さらに、下肢切断リスクは高齢患者、ASCVD既往のある患者のリスクが高いことが知られているので、この両因子で層別した解析を実施した。結果として、カナグリフロジン投与により下肢切断リスクが増加するのは、ASCVD既往のある65歳以上の高齢者に限定されており、そのNNTは556人/0.5年であった。 実臨床では今回明らかにされた「ASCVD既往を有する65歳以上の高リスク患者」に対してSGLT2阻害薬を選択することが多い。その際はカナグリフロジンではなくほかのSGLT2阻害薬を投与すればよいのだろうか? カナグリフロジンの使用がほとんどない北欧からの報告(対象患者における投与薬剤の比率はダパグリフロジン61%、エンパグリフロジン38%、カナグリフロジン1%)では、本論文と同様にGLP-1受容体作動薬を対照として、ダパグリフロジン、エンパグリフロジンともに下肢切断リスクの増加を認めている1)。さらに複数あるSGLT2阻害薬のなかで、カナグリフロジンのみが下肢切断リスクを増加させるメカニズムとしていくつかの仮説が提唱されているが、はたしてそれが正しいのか否かは明らかでない。筆者はSGLT2阻害薬による下肢切断リスクの増加は、存在するとしてもおそらくclass effectだろうと考えている。CREDENCEの結果に基づくと、ESKDへの移行阻止のNNTは43人/2.5年である。したがって、ここでも個別の患者のrisk-benefitを慎重に考慮したうえで、EBMのStep4「情報の患者への適用」を悩みながら実践することが求められる。

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アンチエイジングのためのHealthy Statement作成が始動/日本抗加齢医学会

 近年、EBM普及推進事業Mindsの掲げるガイドライン作成マニュアルが普及したこともあり、各学会でガイドラインの改訂が活発化している。さまざまな専門分野の医師が集結する抗加齢医学においても同様であるが、病気を防ぐための未病段階の研究が多いこの分野において、ガイドライン作成は非常にハードルが高い。Healthy Statement-ガイドライン作成の第一歩 そこで、日本抗加齢医学会は第20回総会を迎える節目の今年、ワーキング・グループを設立し、今後のガイドライン作成、臨床への活用を目的にコンセンサス・レポートとしてHealthy Statement(以下、ステートメント)の作成を始めた。ステートメントの現況は、9月25日(金)~27日(日)に開催された第20回日本抗加齢医学会の会長特別プログラム1「Healthy Agingのための学会ステートメント(ガイドライン)作成に向けて」にて報告された。 ステートメントは健康寿命の延伸に関して科学的なエビデンスが蓄積されつつある4つの分野(食事、運動、サプリメント、性ホルモン)が検討されており、今回、新村 健氏(兵庫医科大学内科学総合診療科)、宮本 健史氏(熊本大学整形外科学講座)、阿部 康ニ氏(岡山大学脳神経内科学)、堀江 重郎氏(順天堂大学大学院医学研究科泌尿器外科学/日本抗加齢医学会理事長)らが、各部門の作成状況を発表した。各分野、抗加齢に特化したデータ抽出進む 『食事・カロリー制限とアンチエイジング』について講演した新村氏は、「抗加齢医学の領域において、食事療法・カロリー制限に関するエビデンスは十分と言えず、ガイドライン・診療の手引きを作成するだけの材料が揃っていないのが現状」とし、「食事療法の選択としては日本人での実行性と重要性を重視し、健常者または重篤な疾患を持たない者を対象者に想定している」と述べた。さらに今後の方針として「1つの食事療法に対して、複数のアウトカムから評価し、アンチエイジング医学の多様性を意識する」と話した。 『運動・エクササイズとアンチエイジング』については宮本氏がコメント。「運動介入と高齢者の骨密度、認知症や寿命延伸に関するデータをまとめ、CQを作成した。とくに運動介入は高齢者の骨密度の軽度の増加、認知症予防に強く推奨される。また要介護化の予防に中等度、寿命・健康寿命の延伸には弱く推奨される」など話した。 『サプリメント・機能性表示WGからの報告』について阿部氏が講演。「本ワーキング・グループは感覚器、歯科、循環器、消化器/免疫、皮膚科、脳神経の6領域において活動を行っている。サプリメントは分類上では機能性表示食品に該当するが、医薬品のように観察研究や介入研究が多くデータが豊富に揃っていた。評価文、根拠文献、評価上の要点、エビデンスグレードの各案が出揃い、完成近い品目もある」と解説した。このほか、アルツハイマー病治療において、アミロイドβの根本治療が全滅している現在、サプリメント活用のメリットにも言及した。 『テストステロン(男性ホルモン)』については堀江氏が既存のエビデンスとして、テストステロン低値の人の早逝、内蔵脂肪との関連、そのほか低テストステロンが惹起する身体機能の低下や合併症について説明。「テストステロンはメタボリックシンドローム、耐糖能異常、うつ病、フレイルなどの疾患との関連において十分なエビデンスが存在する。これらのデータを踏まえ、テストステロンは未病のための明日の健康指標になる。さらには、社会参画や運動量など人生のハツラツ度に影響するホルモンであることから、今日の健康指標にもつながる」とし、「今後、性ホルモン分野としてエストロゲン、テストステロンの両方について報告していく」と締めくくった。抗加齢医学の目標、ステートメント完成は2021年を目処 講演後、大会長の南野氏は「抗加齢医学は集団も然り、研究疾患もヘテロである。このヘテロジェナイティを認識したうえで、足りないエビデンスをわれわれで補うことが最終目標である」と述べた。これに堀江氏は「われわれは疾患ではなく、疾患に至る前段階を捉えて研究を行っている。診療ガイドラインの疾患アウトカムと異なるエビデンスが必要であり、それゆえ研究対象も従来の研究とは異なる。たとえば、高齢者の認知機能ではなく40歳くらいの若年者の機能探索がその1つである」と補足し、今後の抗加齢医学会の進むべき道について強調した。Healthy Statementは来年6月頃までにまとめられ、2021年の本学術集会にて発表される予定である。 なお、本講演は10月8日(木)~21日(水)の期間限定でケアネットYouTubeにて配信している。

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コクラン共同計画のロゴマークからメタ解析を学ぶ【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第27回

第27回 コクラン共同計画のロゴマークからメタ解析を学ぶこの原稿を執筆している2020年7月末には、新型コロナウイルスへの感染者数が再び増加しています。パンデミック収束の気配はありません。数多くの、抗ウイルス薬やワクチンの開発の報道はありますが、決定的な方策はない状況です。どの薬剤にも、有効という臨床試験の結果もあれば、無効という結果もあるからです。同じ臨床上の課題について、それぞれの試験によって結果が異なることは、医学の世界では珍しいことではありません。このような場合に有効な方法がメタ解析です。メタ解析は、複数のランダム化比較試験の結果を統合し分析することです。メタ解析の「メタ」を辞書的にいえば、他の語の上に付いて「超」・「高次」の意味を表す接頭語で、『より高いレベルの~』という意味を示すそうです。メタ解析の結果は、EBMにおいて最も質の高い根拠とされます。ランダム化比較試験を中心として、臨床試験をくまなく収集・評価し、メタ解析を用いて分析することを、システマティック・レビューといいます。このシステマティック・レビューを組織的に遂行し、データを提供してくれるのが、コクラン共同計画です。英語のまま「コクラン・コラボレーション」(Cochrane Collaboration)と呼ばれることも多いです。本部は、英国のオックスフォード大学にあり、日本を含む世界中100ヵ国以上にコクランセンターが設立されています。システマティック・レビューを行い、その結果を、医療関係者や医療政策決定者、さらには消費者である患者に届け、合理的な意思決定に役立てることを目的としている組織です。フォレスト・プロット図をデザイン化した、コクラン共同計画のロゴマークをご存じでしょうか。早産になりそうな妊婦にステロイド薬を投与することによって、新生児の呼吸不全死亡への予防効果を検討した、メタ解析の結果が示されています。数千人の未熟児の救命につながったと推定される、システマティック・レビューの成功例なのです。この図を、Cochrane Collaborationの2つの「C」で囲んだデザインが、コクラン共同計画のロゴです。フォレスト・プロットの図から、メタ解析の結果を視覚的に理解することができます。横線がいくつか並んでいますが、これは、過去の複数のランダム化比較試験の結果を上から順に記載したものです。1本の縦線で左右に区切られており、この線の左側は介入群が優れていることを意味します。すべての研究を統合した結果が一番下の「ひし形」に示されます。ロゴの図をみると、7つの臨床研究の結果を統合し、ひし形が縦線の左にあることから、ステロイド薬使用という介入が有効であるという結果が読み取れます。縦線が樹木の幹で、各々の研究をプロットした横線が枝葉で、全体として1本の樹木のようにみえることからフォレスト・プロットと呼ばれるのです。個々の試験では、サンプルサイズが小さく結論付けられない場合に、複数の試験の結果を統合することにより、検出力を高めエビデンスとしての信頼度を高めるのがメタ解析です。症例数が多いほど、結論に説得力があるのです。数は力なのです。多ければ良いというものではない場合もあります。それは、猫の数です。面倒みることができないほど多くの猫の数になる、いわゆる多頭飼育崩壊です。メタ解析ではなく、「メチャ飼い過ぎ」でしょうか、苦しいダジャレです。仲良く猫たちが、じゃれ合う姿は可愛らしいものですが、何事にも程合いがあります。小生は、ただ1匹の猫さまに愛情を集中しています。ここでわが家の愛猫が、原稿を執筆しているパソコンのキーボードの上に横たわりました。自分が猫のことを考えているのが伝わったのか、邪魔をしようという魂胆のようです。ウーン可愛い過ぎる! 原稿執筆終了です。

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ライフ・イズ・ビューティフル【こんな人生に意味はない」と嘆かれたら?(ナラティブセラピー)】Part 2

そもそもなぜ人生に意味が「ある」の?このように、ナラティブセラピーとは、外在化、相対化、アナザーストーリー化によって、自分の人生に意味を見いだすことであると言えます。なお、ナラティブ(語り)に重点を置いた医療であるナラティブ・ベイスト・メディスン(NBM)が近年注目されています。これは、根拠(主流秩序)に重点を置いた医療であるエビデンス・ベイスト・メディスン(EBM)とは対照的に、本人の人生の意味に重点を置いた医療を行うことです。それでは、そもそもなぜ人生に意味が「ある」のでしょうか? ここから、人生の意味付けの起源を3つの段階に分けて、進化心理学的に掘り下げてみましょう。(1)「人生がある」―概念化原始の時代から、もともと動物は、その瞬間を本能的に生きており、「人生の意味」どころか、「人生がある」ことにも気付いていません。約700万年前に人類が誕生して、300~400万年前にアフリカの森からサバンナに出た時、助け合い(協力)と競い合い(競争)を同時に行う部族の生活の中で、相手の心を読む、つまり相手の視点に立つ心理を進化させてきました(心の理論)。約20万年前に喉の構造の進化から発語が可能になり、その後、言葉によって自分自身を外から見る視点を持つ思考が可能になりました(メタ認知)。また、過去、現在、未来という言葉によって、時間軸を外から見る視点を持つようにもなりました。1つ目は、概念化です。概念化によって、人間は自分がいつか死んで人生がなくなる、裏を返せば、今「人生がある」ことに気付くようになりました。(2)「人生に意味がある」―宗教約6万年前に、概念化によって超越的な存在を意識できるようになり、部族の結束やモラルを強める原始宗教が誕生しました。そして、「人間は神のために生きている」「来世のために生きている」との教えが説かれました。2つ目は、宗教です。宗教によって、「人生に意味がある」ことに気付くようになりました。ただし、その人生の意味は、もっぱら部族(社会)に従属された受動的なものだったでしょう。人生の意味を主体的に考えていたのは、古代ギリシアの哲学者などの一部の人に限られていました。(3)「人生に意味があると考えることに意味がある」―心理学18世紀からの産業革命によって、生産性や効率性などの合理主義や、貨幣経済や民主政治によってはっきり個人を区別する個人主義が世の中に広がっていきました。もはや宗教の教えは不合理であることに気付いてしまいました。そして、個人的な人生の意味を主体的に考えるようになったことで、かえって人生に意味はあるとは限らないことに気付くようになりました(実存的空虚)。すると、がんの告知のように、突然、人生の終わりを告げられるのは、「神の思し召し」として納得できなくなり、「生きている意味が分からない」と訴えるようになりました(実存的苦痛)。第二次世界大戦後、ユダヤ人で精神科医のフランクルは、強制収容所の体験から、「あなたが人生の意味を問う前に、あなたは人生からその意味を問われている」という考え方(ロゴセラピー)を広めました(フランクル心理学)。これは、外在化を行うナラティブセラピーに通じます。3つ目は、心理学です。心理学によって、「人生に意味があると考えることに意味がある」ことに気付くようになりました。こうして、ようやく自分で人生の意味付けをする手段を手に入れました。「ライフ・イズ・ビューティフル」とは?―「それでも人生は美しい」この映画の構成は、前半が戦前のグイドの恋物語、後半が戦中のグイドの収容所生活でした。実は、後半だけでなく、前半も彼の人生の意味付けは、一貫していることに気付きます。それは、ユーモアによって主流社会(主流秩序)をひっくり返していることです。たとえば、故障したグイドの車が国王のパレードに乱入してしまった時、グイドは国王と見間違われてしまいますが、彼はそのまま国王になりきります。また、グイドはドーラの気を惹きたいあまりに、ドーラの職場である小学校で監査役になりすまし、演説を披露します。さらに、ドーラとファシストとの婚約パーティでは、ドーラが気乗りしない中、グイドが「ユダヤ馬」と落書きされた馬にまたがって登場し、ドーラと駆け落ちしてしまいます。そして、ラストシーンでグイドは、収容所のドイツ兵に射殺される直前でさえも、ゴミ箱のぞき穴から隠れて見ているジョズエのために、いたずらっ子のようにウインクして、おどけた行進をやってのけます。彼の人生の意味付けは、息子に「それでも人生は美しい」というアナザーストーリーのメッセージを残すことだったのでした。そして、このセリフこそが、このコラムのタイトルの「『こんな人生に意味はない』と嘆かれたら?」という問いへの答えと言えます。この映画から学べることは、人生は美しいかどうかではなく、人生は美しいと思えるかどうかです。このことに気付いた時、自分の人生を、周りのせいにして「意味がない」と不平不満を言い続けるのか、自分の責任としてそのまま味わい深めていき「美しい」と意味付けるかは、自分次第であると思えるのではないでしょうか?<< 前のページへ■関連記事僕の生きる道【自己成長】ショーシャンクの空に【心の抵抗力(レジリエンス)】[改訂版]

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循環器領域のプレシジョン・メディシンを目指して(解説:香坂俊氏)-1232

Precision Medicine(プレシジョン・メディシン)という言葉がある。個別化医療と訳されることがあるが、こちらは実はPersonalized Medicineのことであり、日本語では「精密医療」と訳されることが多い。Precision Medicineという言葉が一躍脚光を浴びるようになったのは、バラク・オバマが大統領であった時期である(遠い昔のように思われるが、2015年のことだ)。彼がその年の一般教書演説で「今後米国はPrecision Medicineの徹底を目指す」と宣言し、そしてそのために巨額の研究費を支出することが表明され、欧米の学会で取り上げられることが多くなった。この一般教書演説のときのPrecision Medicineのイメージとしては「遺伝子の情報に応じたオーダーメイド治療の実現」という側面が強い。古典的なEBMが大規模RCTの結果を「極力すべての人たちにあてはめる」ということをゴールにするとしていたとすると、Precision Medicineはさらにその先、遺伝子のタイプに応じて医療を使い分けるということをゴールにしていた(完全な個別化ではなく、遺伝子の情報によって集団をさらに小分けにするという感じ)。この医療のPrecision化はがん領域において進捗が著しく、がん患者のがん遺伝子を調べ、選択的な治療薬の投与を行うという手法で、乳がん、肺がんなどの領域で実績を上げている。一方で循環器領域では、正直いまひとつパッとしていなかったが、今回取り上げる「Genotype-Guided Strategy for P2Y12 Inhibitors(POPular Genetics試験)」が初めて抗血小板領域におけるPrecision化に道筋をつけた。この試験では、遺伝子型に応じて抗血小板薬を選択するプレシジョン群と従来通りの治療を行う群にSTEMI症例(Primary PCI実施例)をランダム化した。プレシジョン群ではCYP2C19機能喪失型アレル保有者であればプラスグレルかチカグレロル(強めの抗血小板薬)を投与し、非保有者には従来通りのクロピドグレル(普通の抗血小板薬)を投与したが、その結果として2群で塞栓系のイベントの発症率には変化がなく、プレシジョン群で出血イベントの発症率が低かった(12ヵ月のハザード比:0.78、95%CI:0.61~0.98、p=0.04)。このことは日本人のACS患者さんにとっても意義が深い。なぜならば、日本人ではとくにCYP2C19機能喪失型アレル保有者は多いとされているからである(約6人に1人)。それならばすべてのACS患者さんにプラスグレルなどの「強めの抗血小板薬」を投与すればよいかというと、東アジア人においてはこうした薬剤で出血する割合も高いとされており、そういうわけにもいかない(日本では減量されたプラスグレルが市販されているが、それでも最近の解析結果をみてみると出血する割合はクロピドグレルよりも高くなるようである:Shoji S, et al. JAMA Netw Open. 2020;3:e202004. あるいは Akita K, et al. Eur Heart J Cardiovasc Pharmacother.2019 Oct 8. [Epub ahead of print])。このように、徐々にではあるが、循環器領域においてもプレシジョン化が進みつつある。抗血小板薬や抗凝固薬の使用に関してとくに有望であるとされているが、ほかに希望が持たれている分野としてはスタチンの使用(遺伝子型に応じて副作用の発症頻度が異なる)、あるいは心不全に対するACEやARBの使用(性差が存在し、それも遺伝子型によるものではないかと推測されている)などが挙げられ、引き続き注目していきたい分野である。

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衝撃のISCHEMIA:安定冠動脈疾患に対する血行再建は「不要不急」なのか?(解説:中野明彦氏)-1224

はじめに 安定型狭心症に対する治療戦略は1970年代頃からいろいろな構図で比較されてきた。最初はCABG vs.薬物療法、1990年代はPCI(BMS) vs.CABG、そして2000年代後半からPCI(+OMT)vs.OMT(最適な薬物療法)の議論が展開された。PCI vs.OMTの代表格がCOURAGE試験(n=2,287)1)やBARI-2D(n=2,368)、FAME2試験(n=888)である。とりわけ米国・カナダで行われ、総死亡+非致死性心筋梗塞に有意差なしの結果を伝えたCOURAGE試験のインパクトは大きく、米国ではその後の適性基準見直し(AUC:appropriate use criteria)や待機的PCI数減少につながった。一方COURAGEはBMS時代のデータであり、症例選択基準やPCI精度にバイアスが多いなど議論が沸騰、結局「虚血領域が広ければPCIが勝る」とのサブ解析2)が出て何となく収束した。しかしこの仮説は後に否定され3)、本試験15年後のfollow-up4)も結論に変化はなかった。ISCHEMIA試験:主要評価項目安定冠動脈疾患、侵襲的戦略と保存的戦略に有意差なし/NEJM 上記PCI vs.OMTの試験はサンプルサイズ・デバイス(BMSが主体)・虚血評価不十分・低リスクなどが問題点として指摘された。ISCHEMIA試験はこうしたlimitationを払拭し COURAGEから10年以上の時を経て発表されたが、そのインパクトはさらに大きかった。構図は侵襲的戦略 vs.保存的戦略、すなわち血管造影を行い可能なら血行再建療法(PCI or CABG)を行う群と、基本的にはOMTで抵抗性の場合のみ血行再建療法を加える群との比較である。米国の公的施設(NHLBI)の援助を受けた37ヵ国の国際共同試験で、対象はストレスイメージング・FFRや運動負荷試験によって中等度~高度の虚血が証明された安定型狭心症である。そもそもOMTで事足りるということか、血管造影は行わず冠動脈CT で左冠動脈主幹病変を除外してランダム化された(n=5,179)のも特徴的であり、結果として造影による選択バイアスは減少した。実際の血行再建はそれぞれ79%(PCI 76%、CABG 24%)と21%に施行され、PCIはDESを原則とした。 今度こそは侵襲的戦略(血行再建療法)有利と思われたが、3.2年以上(中間値)の追跡期間で、主要評価項目(心血管死、心筋梗塞、不安定狭心症・心不全・心停止後の蘇生に伴う入院、の複合エンドポイント)の血行再建群の調整後ハザード比は0.93(95%CI:0.80~1.08、p=0.34)と優位性は示されなかった。 ACSの多くは非狭窄部から発生することが以前から指摘されている。したがってPCIで stable plaqueをつぶしても予後改善や心筋梗塞発症抑制につながらない。これが永らくPCI がCABGに勝てない理由である。しかしISCHEMIA試験ではそのCABGを仲間に加えてもOMTに勝てなかった。ソフトエンドポイント:QOLの改善効果 ISCHEMIA試験の「key secondary outcomes」の1つに狭心症由来のQOLが加えられ、今回その詳細が報告された。1次エンドポイントである「SAQ Summary score:Angina Frequency score・Physical Limitation score・Quality of Life scoreの平均値」は両群とも平均70強(登録時)だった。Angina Frequency scoreは登録時平均80強(週1回程度の狭心症状に相当)で、それ以上(毎日あるいは週数回)が2割、無症状も1/3を占めていた。少なくとも36ヵ月までは血行再建群で症状緩和効果は維持され、登録時に狭心症状が強い症例ほど恩恵が多い、という骨子は常識的な結論であろう。 しかし同様の検討が行われたCOURAGE試験では、24ヵ月まで保たれたQOLの改善効果が36ヵ月後には消滅してしまった5)。確かに本試験でもポイント差が縮まってきており、この先を注視する必要がある。予後もイベントも抑えないから「不急」であるが、もし症状を抑える効果も限定的なら「不要」の議論も起こり得る。そして折しも 新たなデバイスや手技の進化に閉塞感が漂う血行再建術と、PCSK9阻害薬・SGLT2阻害薬・新規P2Y12受容体拮抗薬など次々EBMが更新される薬物療法、両者の位置付けはこれからどうなるだろうか? 日本でも数年前から安定冠動脈疾患に対する治療戦略が問われており、PCIへの診療報酬はAUCを前提にしつつ冷遇の方向に改定されている。折しも、新型コロナウイルスパンデミックへの緊急事態宣言発令を受けて、日本心血管インターベンション治療学会(CVIT)から“感染拡大下の心臓カテーテル検査及び治療に関する提言”が出された。曰く「慢性冠症候群、安定狭心症に対するPCIで、緊急性を要しないものについては延期を推奨する」である。時同じくして掲載されたISCHEMIA試験はこれにお墨付きを与えることになった。 今回のパンデミックにより今まで当たり前だったことが当たり前ではなくなった。人々の価値観や人生観・死生観までもが変容するに違いない。虚血性心疾患に対する医療もアフター・コロナでは新たなパラダイムシフトで臨むことになるのかもしれない。

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がん&チーム医療のエキスパートを目指す、アジア最大の学びの場 シリーズ がんチーム医療(1)【Oncologyインタビュー】第16回

皆さんは「J-TOP」という名前を聞いたことがあるでしょうか? J-TOPは「Japan TeamOncology Program」の頭文字をつなげた略称で、「がん領域におけるチーム医療」を学ぶことを目的に設立されたプログラムです。J-TOPが発足したのは2001年のこと。がんにおけるチーム医療で有名な米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンター(MDA)の上野 直人教授による、日本癌治療学会学術集会でのシンポジウムがきっかけでした。翌年からMDAのチーム医療を学ぶためのEducational Seminarが始まり、同時に参加者から選抜してMDAへ短期留学するプログラムもスタートしました。留学に参加したメンバーは帰国後も情報交換を続け、MDAと連携しながら留学支援以外にも日本独自の活動を広げ、後進を育成してきたのです。J-TOPへの参加資格は医師(病理医・放射線診断医を含む)、看護師、薬剤師などの資格を持つ医療者であることで、現在約3,500人の会員がいます。職種の垣根なく、ディスカッションしながら協働することで、真のチーム医療の体得を目指しています。過去のMDA短期留学経験者を中心とした100名余りの「チューター」および「J-TOPフレンズ」が、若手や中堅の学びを支えています。また、チューターとして経験を積んだ後、さらに主体的に関わりたいと考えたメンバーは、審査を経て「J-メンター」としてMDAのメンターと一緒に、教育プログラムの企画やJ-TOPの運営に携わります。J-TOPの5つの中心事業J-TOPの具体的な活動を1つずつご紹介しましょう。1)Team Science Oncology Workshop年に1回行われるワークショップは、3日間、全国から集まった参加者がチーム医療のフレームワークを学び、プログラム作成を通してコンフリクトを含むチームダイナミクスを経験する場です。また、期間を通して自分自身のキャリア形成についての理解も深めます。講師はMDAのメンターとJ-メンターが中心となり、講義もディスカッションもすべて英語で行われます。参加者の多くは日本人ですが、台湾、フィリピン、韓国、中国などからも参加しており、15人前後の多国籍チームが3日間かけてプログラムを作成し、最終日にプレゼンテーションを行います。3日間のワークショップはそれなりにハードですが、チーム形成・キャリア形成に必要となるさまざまなスキルの理論と実践を体験することができますし、現場に持ち帰って使える内容ばかりです。英語力はあるに越したことはないですが、参加と学びへの意欲が最も重要となり、チューターも入って参加者がチームメンバーとして議論に参加できるよう支援します。これまでの累計参加者は1,000人を超えており、2020年は11月21日~23日の三連休に都内で開催予定です。ワークショップ中のグループワークの様子。活発な議論が繰り広げられます。複数の人が集まれば必ずコンフリクトが生まれますが、コンフリクトを克服していくチームダイナミクスも、ワークショップの醍醐味の1つ講義での質疑応答の様子。真剣に、でも楽しみながら学びます国や職種などさまざまな背景を持つチューター・メンターが、ワークショップ参加者をサポート。事務手続きは事務局(笛木 浩氏・2列目左端)が担当2)地域に根差したオンコロジーセミナーがん医療に携わる医師、薬剤師、看護師、歯科医師、栄養士、ソーシャルワーカーなどが参加型セミナーを通じて、がんのチーム医療に対する理解を深め、実践するスキルを養うセミナーです。1)のワークショップとは異なり、地域それぞれの課題をテーマとして扱うことと、症例ベースの日本語でのディスカッションが特徴ですが、セミナーを通じて学ぶことの本質は変わりません。毎年1回、日本各地で開催しており、2020年は5月23日~24日に愛媛県の松山大学での開催を予定しています。※COVID-19の影響で延期となりました。3)MDアンダーソンがんセンター留学研修プログラム(Japanese Medical Exchange Program:JME)J-TOPの根幹をなす事業として、MDAに5週間、短期留学するプログラムです。プログラムはMDAのチーム医療を学び、日本で実践するためのJ-TOP向けのオリジナルの内容です。この留学に参加するには、1)のワークショップへの参加が必須条件です。ワークショップ期間中の発言やリーダーシップを見ながら、日米のメンターが留学に適した人を選考する、という仕組みです。留学の定員は現在、医師(治療医)2名、医師(病理医・放射線診断医)各1名、看護師2名、薬剤師2名の最大8名です。4)ウェブサイト(サイト・掲示板運営)J-TOPのさまざまな活動紹介のほか、「掲示板」で患者さんやご家族などから寄せられるがん医療に関する疑問にチューターやメンターが回答します。回答はJ-TOPのベテランから最近加わった人まで、幅広いメンバーがチームを組んで対応します。回答前に、「質問者が求めていることは何か」「どういった提案が不安を和らげられるか」など、メンバー間でディスカッションしたうえで回答案を作成します。治療法などの質問が多くなりますが、セカンドオピニオンにならないよう、注意しながら回答します。回答案を作るまでに多くの時間を要する場合もありますが、掲示板という公共的な場への発信を通し、専門的知識を社会に還元しようと尽力しています。投稿者とのやりとりやメンバー間のディスカッションがチーム医療、EBM、患者さんへのエンパワーメントの在り方など、私たち自身にも大きな学びとなっています。また、最近ではSNSを有効活用するプロジェクトチームが活動し、ワークショップの際などにはライブ感たっぷりにFacebook、Twitterなどへ投稿して、皆さんにJ-TOPに興味を持ってもらえる工夫をしています。5)医療連携拡大事業(Project ECHO)Project ECHO(Extension for Community Healthcare Outcome)は、ニューメキシコ大学が中心となって進める、地域医療の質の均てん化を目的としたプログラムです。地域の医療者と専門家をオンラインでつないだうえで、無料の医療教育プログラム提供や合同症例検討会などの活動を展開しています。実際に、ニューメキシコ大学ではECHOモデルで専門家が地域医療者に症例ベースのメンタリングを行うことでC型肝炎ウイルス感染を減らした1)ように、Project ECHOはエビデンスに基づいた活動でもあるのです。MDAはこの取り組みをがん治療に広げようとしており、J-TOPはそのアジアのハブとして業務委託を受け、Project ECHO Oncology Network Education(ONE)と名付けて2019年6月より日本語でのメンタリングを開始しました。Project ECHO ONEの運営メンバーは日本のメンター、チューターのみならず、海外からJ-TOPメンバーとして活動しているインターナショナル・チューターも含まれます。2020年1月より、海外の医療機関からの症例提示・メンタリングを開始しており、その第一弾はフィリピンからでした。フィリピン以外にベトナム、マレーシア、台湾、日本からの聴講があり、Project ECHO ONEはアジアのハブとして機能しています。メンバ-発案の2つの新たな取り組み以降は、J-TOPのメンバーが発案し開始したもので、取り組みの素晴らしさからJ-TOPの恒常的なプロジェクトになったものです。6)MBTIを用いた体験学習(自己理解・他者理解のための研修会)チーム医療は多様なメンバーを理解できるか否かが成功への分岐点になります。その一助となる概念がMBTIです。MBTIとは、ユングの心理学をベースとした性格検査ツールです。人の情報の取り方や判断の仕方には、多様性がありながらも一定の特徴があります。MBTIのフレームを使うと、こうした人の認知の仕方を16のタイプに分類できるようになります。大切なことは16のすべてのタイプは同等に価値があり、そこには「違い」はあるけれど「優劣」はない、ということです。MBTIはこうした認知の仕方による誤解の源泉を明らかにし、グループワークによって理解し、日々の業務や生活に活かすための体験型学習全般を指します。MBTI実施には、日本MBTI協会より認定を受けた「MBTI認定ユーザー」が必要です。J-TOPには現在5人の認定ユーザーがおり、MBTIをチーム医療に活かすための研修会を行っており多くの反響を得ています。7)EBMのためのトレーニング(International Journal Club)科学的根拠に基づく医療のトレーニングのための抄読会です。MDAのスタッフとの双方向的なディスカッションを行います。英語で学術論文の紹介を行い、批判的吟味のトレーニングをするとともに、参加者同士で自施設の現状や日米間の違いを議論する国際的でハイレベルな学びの空間を共有することを通じて、がん医療の質向上に貢献しています。薬剤師の企画によりスタートしましたが、現在ではさまざまな職種のメンバーが参加しています。どの取り組みも、がんとチーム医療の専門知識を学ぶと同時に、職種のヒエラルキーをなくし、多職種が真に協働することを目的に行われています。学びの時間を共有し、「この空間では何を言っても大丈夫」という心理的安全性を担保することで、自分と異なる専門性や意見を持つ人と建設的な議論ができるスキルを習得します。貴重なチューター・メンターとの絆、就職や共同研究につながった例も私自身は、2014年にセミナーと留学プログラムに参加したことをきっかけに、J-TOPに関わるようになり、2018年から執行委員会・運営委員会議長を務めています。J-TOPは患者中心のチーム医療を実践するために必要なことを学ぶ組織です。医療者が教育を受けることは、患者さんに最も良い治療を届けるための最短の方法です。私はJ-TOPに参加する中で、リーダーシップを発揮するスキル、チームへの参加を通して自身のキャリアを積み上げるノウハウを学びました。J-TOPがなければ今の私はない、と感じます。J-TOPのメンバーはそれぞれが身に付けたスキルを活かして、それぞれのフィールドの第一線で活躍しています。ぜひ、多くの医療従事者にJ-TOPを経験していただき、目の前の患者さんに、施設でのチーム形成に、そしてご自身のキャリア形成に活かして欲しいと思っています。2014年にMDAに留学し、チーム医療を学ぶ筆者(前列中央)とJ-TOP設立者の上野直人MDA乳腺腫瘍内科教授(後列右端)仲間や支援してもらったチューター・メンターとの絆は長く続き、実際にこの縁から就職や共同研究につながった例もあります。目指すは「環太平洋で最高峰のOff the Job Training教育機関」。英語を使う場が多いこともあって、参加への障壁を感じる方もいるようですが、学ぶ意欲さえあれば大丈夫です。少しでも興味を持たれた方は、ぜひその扉を開いてみてください。参考1)Arora S, et al. N Engl J Med. 2011;364:2199-2207.2)ジャパン チームオンコロジー プログラム(J-TOP)

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シェアード・ディシジョン・メイキングをシェアしたい!【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第21回

第21回 シェアード・ディシジョン・メイキングをシェアしたい!今回は、シェアード・ディシジョン・メイキング(Shared decision making)を紹介したいと思います。皆さんご存じのように、EBMは根拠(evidence)に基づく(based)医療(medicine)の頭文字です。最良の治療方針を決定するには、エビデンスに基づいて判断しなければなりません。そのエビデンスを構築する土台が臨床研究です。臨床研究は、介入研究と観察研究に大別されます。ランダマイズ研究は介入研究の代表です。患者を2つのグループにランダム化し、一方には新規の治療や薬物の介入を行い、他方には従来から行われている治療を行います。一定期間後に病気の罹患率・生存率などを比較し、介入の効果や安全性を検証します。ランダマイズ研究では、どのような患者を研究に組み入れるか、逆に除外するかという参加基準を設定して研究を遂行します。そこから得られるエビデンスのレベルは高く、EBMの中核を構成します。レジストリ研究は、観察研究の1つで、研究対象となる疾患の患者の情報を順次データベースに登録し、使用した薬物や治療法による経過の優劣について、統計学的に比較するものです。ランダマイズ研究とレジストリ研究の意味を考えさせられる面白いデータを紹介しましょう。EAST試験のサブ解析の論文です(Am J Cardiol 1997; 79: 1453-59)。20年以上昔の古い臨床研究ですが、循環器領域の医師だけでなく、すべての医療関係者に知っていてほしい興味深い内容です。お付き合いください。EAST試験は冠動脈多枝疾患に対する血行再建法を比較するランダマイズ試験です(N Engl J Med 1994; 331: 1044-50)。参加基準を満たし組み入れ可能と判断された842例中、実際にCABGかPCIいずれかにランダム化されたのは392例でした。残り450例は、担当医と患者が相談し、個々の事例にあわせて最善と思われる血行再建法が選択されました。このランダム化されなかった患者は、レジストリ群として登録され解析されました。その結果、レジストリ群の3年生存率は96.4%で、ランダム化群の 93.4%と比較して有意に優れていたのです。EAST研究の本来の目的は、CABGとPCIの比較ですが、ランダム化したどちらの群の治療成績よりも、レジストリ群の治療成績が優れていたのです。この解釈は難しいですが、ランダム化してCABGとPCIの優劣に決着をつける以前に、医師は個々の患者の状態に合わせて、CABGとPCIの適切な選択ができていたことを意味します。医師の存在価値が証明された素晴らしい内容です。このレジストリ群では、「Shared decision making」が実践されていた可能性が高いと、自分は推察しています。EBMに基づいて確実性の高い治療法が選択できる場合には、「Informed consent」で問題はありません。治療法間の差が明確ではなく、絶対的に優れている治療法がない場合には、「Shared decision making」の出番です。これは決してEBMを否定するものではなく、治療法の優劣に不確実性のある場合に用いられる手法です。医療者と患者がエビデンスを共有(シェア)して一緒に治療方針を見つけ出していく手法で、「共有意思決定」とも称されます。数字としての治癒率や生存率の数値の優劣だけでなく、各治療法への患者の希望(選好: preference)や価値観も総合して、適切な治療法を一緒に考えていくものです。循環器領域だけでなく、治療法の選択肢が増えているがん治療の現場で、必要とされていくことが予測されます。ぜひとも、この「Shared decision making」を皆様とシェアしたいと思い紹介しました。今回は少し重い内容になってしまい、本コラムのテーマでもある猫の出番がないことが残念です。お許しください。

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出血ハイリスクの重症患者に対する予防的なPPI・H2RAは有用か?(解説:上村直実氏)-1177

 プロトンポンプ阻害薬(PPI)やH2受容体拮抗薬(H2RA)など酸分泌抑制薬は胃食道逆流症に対する有用性により世界中で頻用されている一方、長期投与による肺炎や骨折のリスク、腸内細菌叢の変化に伴うClostridium difficile(CD)感染症のリスク増加などを危惧する報告が散見されている。このように酸分泌抑制薬の有用性と安全性のバランスは臨床現場で最も注目されている課題の1つである。 重症患者が主体のICUにおいて消化管出血の予防処置としてPPIやH2RAが当然のように投与されているが、薬剤のリスクを考慮した有用性に関する確実なコンセンサスが得られていないのが現状である。今回、この予防投与の有用性を検証するために、研究デザインの質やバイアスリスクを詳細に吟味したシステマティックレビュー/ネットワークメタ解析の結果がBMJ誌に掲載された。選択された72研究1万2,660例について検討した結果、消化管出血のハイリスク患者ではPPIやH2RAの予防投与は臨床的に消化管出血を減少する成績が示された一方、リスクの低い患者においては出血予防の有用性は統計学的には少ないものとされている。 ICUでは抗菌薬の使用が多く、PPI併用によるCD感染症の増加が危惧されるが、本研究の結果からCD感染症は予想より少ないと思われた。一方、酸分泌抑制薬により肺炎を惹起するリスクが増加することは確かなようであり、医療現場ではさらなる注意が必要である。 最も高いレベルの『エビデンス』とされるメタ解析やシステマティックレビューの評価には、選択された研究論文の質はもとより結果の解釈が大切であり、さらに選択論文のアウトカムのみでなく各研究の調査因子の違いにも注意が必要であること、調査因子が多くなると研究結果が不均一になる傾向にあること等、本研究論文から得られる教訓は多かった。EBM全盛時代となっているが、エビデンスレベルを研究デザインにより設定することが適切であるのか、また実際の診療現場では『エビデンス』を参考資料として個々の患者に対する最善の対処を行っているのか考えさせられた次第である。

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知っておくべきガイドラインの読み方/日本医療機能評価機構

 日本で初となるGRADE Centerが設立された。これにより、世界とガイドライン(GL)のレベル統一が図れるほか、日本のGLを世界に発信することも可能となる。この設立を記念して、2019年11月29日、公益財団法人日本医療機能評価機構がMinds Tokyo GRADE Center設立記念講演会を実施。福岡 敏雄氏(日本医療機能評価機構 執行理事/倉敷中央病院救命センター センター長)が「Minds Tokyo GRADE Center設立趣旨とMindsの活動」を、森實 敏夫氏(日本医療機能評価機構 客員研究主幹)が「Mindsの診療ガイドライン作成支援」について講演し、GL活用における今後の行方について語った。そもそもGRADEとは何か 近年のGLでよく見かけるGRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)アプローチとは、エビデンスの質と益と害のバランスなどを系統的に評価する方法で、診療ガイドライン(CPG)作成において世界的に広く受け入れられているものである。また、GRADE CenterはGRADEアプローチを普及させる国際的な活動組織であり、2019年現在、米国、カナダ、ドイツなどで設立されている。患者・市民を巻き込むガイドラインが主流に 今回の主催者であるEBM普及推進事業Minds(Medical Information Network Distribution Service)は、厚生労働省の委託を受け、公益財団法人日本医療機能評価機構が運営する事業である。単なる情報提供にとどまらず、CPGの普及などにも広く貢献するほか、4つの取り組み(1.CPG作成支援、2.CPG評価選定・公開、3.CPG活用促進、4.患者・市民支援[CPG作成・活用に関わる])を行っている。 1では、CPG作成のためのマニュアル作成(Minds診療ガイドライン作成マニュアルは2020年改訂版の発刊を予定)に力を入れている。2では、AGREE IIを利用した評価を複数人で実施、公開に際しては各ガイドラインの出版社などにも許可を得ている。3、4は現在の課題であり、福岡氏は「医師・医療者と患者・家族とのインフォームドコンセントをより効率的で安全に行えるように支援し、患者の願い、家族の思いやそれぞれの負担など患者視点を導入しなければガイドラインのレベルが向上しないと言われている」と現行GLの問題点について指摘。さらに「どうやってガイドラインに患者を取り入れていくか、現場で使用するなかで患者と協調していくのかが、国際会議でも重要なトピックとして語られている」と述べた。日本がGRADEで認められた意味とメリット 今回、世界13番目のGRADEセンターに認定された経緯について、同氏はCPG作成支援が評価された点を挙げ、「われわれはセミナー・ワークショップや意見交換会、そして、オンデマンド相談会などを行っている。この活動によって、GLの作成段階で患者視点を取り入れる例が増加している。これによりGLが現場で活用しやすく、患者・家族に受け入れてもらいやすくなる」と、説明した。 さらに、GRADE認定されたメリットについて、「GRADEで認められると海外GL作成チームとディスカッションが可能になるばかりか、日本のGL作成ノウハウを海外に輸出することもできる」と、日本がGRADEから情報を受けるだけではなく、日本人の努力が世界に発信できる状況になったことを喜び、「GRADE内では、未来のGL作成者のための世界共通プラットフォームやトレーニングコース開設の動きもある」とも付け加えた。 GRADEアプローチでは、推奨を“向き”(実施することを or 実施しないことを)と“強さ”(強く推奨する or 弱く[条件付きで]推奨する)で表す。これについて、CPG作成支援活動を行う森實氏は、「弱い推奨の場合、条件付きという語を“裁量的”や“限定的”と表現することも可能である。それゆえ“個別の患者さんに合わせた決断が必要”で、患者さんの価値観・好みに合わせた結論に到達することを手助けする必要がある。そのためには何らかの決断支援ツールが有用」と述べ、「その方法として、患者にシステマティックレビューの結果をわかりやすく提示することも重要」とコメントした。 最後に、福岡氏は「ガイドライン作成の目的は、より良い社会作りと市民の幸せを前提とするべきである。専門家のためのみの作成ではない」と強調しつつ、「GRADEの進化はすさまじく、少しでも見失うと議論はあっという間に進んでいる。世界のGRADEミーティングに参加することで最新情報をキャッチアップしたい」と、締めくくった。

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露骨に不利な条件でもワルファリンが負けなかった訳は?(解説:後藤信哉氏)-1129

 NEJMのEditorであったマーシャ・エンジェル博士は、製薬企業による情報操作の実態を著書『ビッグ・ファーマ 製薬企業の真実』に描いた。個別医師の経験よりもランダム化比較試験の結果を重視するEBMの世界は、ランダム化比較試験が「作為なく」施行されていることが前提になっている。エンジェル博士の著書にも紹介されているが、純粋に科学的な仮説検証研究とは言えないランダム化比較試験が、製薬会社主導にて多数施行されている実態がある。本論文も製薬企業が主導したことを明記したランダム化比較試験であるが、試験プロトコールはfairに設計されたとは言えない。 PCIを施行された症例では抗血小板薬が標準治療として確立されている。脳卒中リスクを有する非弁膜症性心房細動では抗凝固薬が標準治療である。しかし、脳卒中リスクを有する非弁膜症性心房細動症例がPCIを受けたら、抗凝固薬と抗血小板薬が必要となるわけではない。両薬とも重篤な出血イベントを増加させるので、個別症例のリスク評価に応じた治療選択が必須である。本研究では、非弁膜症性心房細動症例かつPCIを受けた症例をワルファリンとエドキサバンにランダムに振り分けた。速やかに安定した薬効を発現するエドキサバンとワルファリンの直接比較はワルファリンに不利である。開始初期には薬効も揺らぐ。それでもエドキサバンはワルファリンへの有効性、安全性の優越性を示せなかった。さらに、エドキサバンの抗血小板薬はP2Y12阻害薬のみ、ワルファリン群ではアスピリンとP2Y12阻害薬にて3剤併用となった。ここまでワルファリンを不利にしてもエドキサバンが勝てない理由は何なのか。非弁膜症性心房細動を合併したPCI症例では、もはや出血、血栓イベントは重要な臨床イベントではないのかもしれない。 各種疾病が合併した複雑な症例の標準治療をランダム化試験で決めるとの方法も行き詰まっている。次世代の個別最適化治療の論理の確立が待たれる。

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Evidence Based Medicine追求への神髄を見た(解説:岡慎一氏)-1092

 ホルモン薬を使った避妊方法はいくつかある。その中で、黄体ホルモン製剤であるメドロキシプロゲステロン酢酸エステル剤の筋注薬(DMPA-IM)は、避妊には有効であるが、30年来の観察研究からHIV感染のリスクを高める可能性があるとされていた。とくに、2つのメタアナリシスの結果では、この避妊法は他の方法に比べ40~50%もHIV感染リスクを高めるとされていた。しかし、WHOの見解では、対象となった多くの論文は、重大なlimitationを抱えており、有効で安全な避妊法の質の高いエビデンスを出すためには、追加の研究が必要であると結論付けた。 問題はここからである。この研究では、Evidenceを追究するために、どの避妊法がHIV感染率を高めるのかを比較するRCTを行ったのである。対象者は、避妊を希望するsexually activeな若い女性である。倫理的な問題はかなり議論されたようである。3つの方法を比較しているが、各群2,600人以上を組み入れている。もちろん、HIVに感染しないためのsafer sex promotion packageも十分行っている。DMPA-IM群には、4.19/100PYのHIV感染が起こり、他の2群3.94/100PY、3.31/100PYよりやや高めに見えるが、3群間に有意な差はなかった。この結果から、EBMとしてガイドラインには、3つの避妊法はいずれも有効で、HIV感染予防を一緒に行うことが推奨されるであろう。アフリカの女性にとって避妊も大事である。あっぱれな研究である。

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TIMI Studyから学ぶ臨床研究

 NPO法人 臨床研究適正評価教育機構(J-CLEAR/理事長 桑島 巖氏)は2019年4月20日、都内においてJ-CLEAR講演会を開催。6名の講演者が特定臨床研究の現状や糖尿病領域の臨床試験の変遷などについて発表した。 本稿では、第1部「特定臨床研究法施行のあとさき」に続き、第2部、第3部の話題をお届けする。SGLT2阻害薬は腎機能を保護するか 第2部では、「相次ぐ糖尿病新規治療薬:助っ人、それとも敵?」をテーマに2題の講演が行われた。 はじめに「SGLT2阻害薬の腎機能保護作用に関する最近の知見」をテーマに栗山 哲氏(東京慈恵会医科大学 客員教授)が講演を行った。患者数が1,330万人と推定される慢性腎臓病(CKD)をコモンディジーズと位置付けた上で、CKDによる心血管イベント発生のリスクと関連性を概括し、腎臓を守ることは生命予後の改善になると述べた。そして、心・腎保護作用としてSGLT2阻害薬によるEMPA-REG、CANVAS、DECLARE TIMI 58、CREDENCEの各試験結果を示し、試験内容を説明した。 腎臓保護のためには「糸球体障害、尿細管障害、血管障害」の3つがターゲットとなり、「KDIGOガイドライン2014」で示されたように血圧、血糖、ACE阻害薬/ARBなどを優先して考慮するとともに、脂質、尿酸、貧血、減塩なども同時に考えるべきと提案する。 これらの保護に作用するのがSGLT2阻害薬であり、その作用は、食塩感受性改善など食塩関連、血糖低下・糖毒性改善など血糖関連に多面的に作用するとともに、尿酸値の低下、LDL-Cの低下などにも作用する。これらの作用が先述の3つのターゲットを改善するとともに、腎機能障害進行抑制に寄与すると考えられると効果の仕組みを説明した。 最後に今後のSGLT2阻害薬の課題として、諸効果の持続可能性、副作用のリスクを挙げ、レクチャーを終えた。臨床研究結果が医師の行動を変えるためには 次に「医療の現実、教えます:脚気論争から糖尿病治療薬論争まで」をテーマに名郷 直樹氏(武蔵国分寺公園クリニック 院長)が、明治期の脚気論争から最近のディオバン事件までを振り返り、臨床研究の問題点を糖尿病治療薬とも絡め説明した。 「脚気論争」は医学史の中でもよく知られた史実で、「臨床試験の正確さよりも、なぜ治療に結びつく医療がなされなかったのか、“負の歴史”として語られている」と同氏は語るとともに、コレラ菌論争や現在の治療薬の偏重傾向にある糖尿病治療薬に関しても触れた。これら過去の反省を医療者は踏まえ、「病態生理から臨床データをひとつながりにする」「日々の実践教育にRCTによるEBM教育を入れる」「研究結果と現場のギャップを明確にする」などを今後の臨床研究に活かすべきだと提言を行った。 最後に、同氏は「臨床研究は医者の行動を変えないが、間違いながらも(軌道)修正可能な医療を進めていきたい。どういう研究をするかだけでなく、どう研究が使われるかも視野に入れる必要がある」と語り、講演を終えた。わが国が見習うべき臨床研究方法“TIMI Study” 第3部では「負けない臨床研究の作り方:TIMI Study*に学ぶ」をテーマに後藤 信哉氏(東海大学循環器内科 教授)が、最近臨床研究で目にする機会の多い“TIMI Study”の概要とわが国が進むべき方向性を解説した。 はじめに臨床研究の利害関係者を「臨床医・臨床研究者」「企業(薬剤、機器)」「規制当局」「患者」の4つに分け、それぞれの立場から臨床研究の目的・目標を説明した。それぞれの利益とは、臨床医・臨床研究者は質の高いジャーナルに論文を多数掲載すること、企業として製品で利益を生むこと、規制当局として許認可のために役立つ科学的根拠を得ること、患者にとって疾患が治癒することである。この4つの利害関係者の思いが合致し、目的を充足させていると思える体制の構築に成功しているのが“TIMI Study Group”だと語る。 具体的には、「ランダム化比較試験が、標準治療の転換を目指す唯一正しい方法とコンセプトを確立させている」「標準プロトコールとして、ランダム化比較試験が有効性と安全性を検証するものと完成させている」「同グループと協調して標準的プロトコールの症例登録をするため、各国のコーディネーターが決まっている」「同グループに臨床研究を委託することで薬剤開発メーカーは投資リスクを低くすることができる」「同グループが検証した臨床試験の結果は、アカデミアにはNEJMなどのhigh impact journalへの論文発表、規制当局には認可承認に必要な科学的データの提供、新薬開発メーカーには認可承認とその後の販売拡大に必要な科学的根拠を提供する」と5つの要素を挙げ説明した。 実際、同氏も参加したSGLT2阻害薬ダパグロフロジンの“DECLARE TIMI 58試験”を例に、試験がどのような目的とプロセスで行われ、結果どのような影響があったかを報告した。DECLARE TIMI 58試験では、企業と規制当局は同薬剤が心血管死亡、心筋梗塞、脳卒中を増やさないことを示すことで、心不全入院、腎不全悪化予防の可能性を示唆した。臨床医・臨床研究者では本試験の論文がNEJMを含め他のジャーナルにも17本掲載され、患者には同薬剤への懸念を減らすインパクトがあったという。補足で同氏へのメリットとしては、共著の研究者になったことと“Circulation”への掲載のほか、わが国の研究貢献度の比重が増したと考えていると感想を語った。 そして、「こうした四者にメリットとなる研究を創造したTIMI Studyグループに、わが国の臨床研究も見習うべきところがある」と述べ、(1)「何が正しいか」を定義し、検証する方法を確立することが重要(2)検証する理論ができたら、その理論を広報して「世界を一色に染める」ことが重要(3)利害関係のある四者すべてが「Win/Win/Win」であると納得しながら、結果としては一人勝ちになる仕組みを考えることが重要と3つのポイントを提言し、レクチャーを終えた。*TIMI Study Groupとは、循環器領域に特化したアカデミック臨床研究機関。設立から約70以上の臨床研究を手掛け、いずれの結果も一流医学雑誌に発表・掲載されている。(ケアネット 稲川 進)■参考臨床研究適正評価教育機構■関連CLEAR!ジャーナル四天王

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腰痛診療ガイドライン2019発刊、7年ぶりの改訂でのポイントは?

 2019年5月13日、日本整形外科学会と日本腰痛学会の監修による『腰痛診療ガイドライン2019』(編集:日本整形外科学会診療ガイドライン委員会、腰痛診療ガイドライン策定委員会)が発刊された。本ガイドラインは改訂第2版で、初版から実に7年ぶりの改訂となる。いまだに「発展途上」な腰痛診療の道標となるガイドライン 初版の腰痛診療ガイドライン作成から現在に至るまでに、腰痛診療は大きく変遷し、多様化した。また、有症期間によって病態や治療が異なり、腰痛診療は複雑化してきている。そこで、科学的根拠に基づいた診療(evidence-based medicine:EBM)を患者に提供することを理念とし、『Minds 診療ガイドライン作成の手引き 2014』で推奨されるガイドライン策定方法にのっとって腰痛診療ガイドライン2019は作成された。腰痛診療ガイドライン2019は9つのBackground Questionと9つのClinical Question 腰痛診療ガイドライン2019では、疫学的および臨床的特徴についてはBackground Question (BQ)として解説を加え、それ以外の疫学、診断、治療、予防についてはClinical Question (CQ)を設定した。それぞれのCQに対して、推奨度とエビデンスの強さが設定され、益と害のバランスを考慮して評価した。推奨度は、「1.行うことを強く推奨する」、「2.行うことを弱く推奨する(提案する)」、「3.行わないことを弱く推奨する(提案する)」、「4.行わないことを強く推奨する」の4種類で決定する。エビデンスの強さは、「A(強):効果の推定値に強く確信がある」、「B(中):効果の推定値に中程度の確信がある」、「C(弱):効果の推定値に対する確信は限定的である」、「D(とても弱い):効果の推定値がほとんど確信できない」の4種類で定義される。腰痛診療ガイドライン2019では腰痛の定義がより明確に 腰痛診療ガイドライン2019において、腰痛は「疼痛の部位」、「有症期間」、「原因」の3つの観点から定義された。疼痛の部位からの定義では、「体幹後面に存在し、第12肋骨と殿溝下端の間にある、少なくとも1日以上継続する痛み。片側、または両側の下肢に放散する痛みを伴う場合も、伴わない場合もある」とされた。有症期間からは、発症から4週間未満のものを急性腰痛、発症から4週間以上3ヵ月未満のものを亜急性腰痛、3ヵ月以上継続するものを慢性腰痛と定義した。原因別の定義では、「脊椎由来」、「神経由来」、「内臓由来」、「血管由来」、「心因性」、「その他」に分類される。とくに「悪性腫瘍」、「感染」、「骨折」、「重篤な神経症状を伴う腰椎疾患」といった重要疾患を鑑別する必要がある。腰痛診療ガイドライン2019では運動療法は慢性腰痛に対して強く推奨 腰痛診療ガイドライン2019では、運動療法については「急性腰痛」、「亜急性腰痛」、「慢性腰痛」のそれぞれについて評価され、そのうち「慢性腰痛」に対しては、「運動療法は有用である」として強く推奨(推奨度1、エビデンスの強さB)されている。それに対して、「急性腰痛」、「亜急性腰痛」に対してはエビデンスが不明であるとして推奨度は「なし」とされた。腰痛診療ガイドライン2019では各薬剤の推奨度とエビデンスの強さを評価 腰痛診療ガイドライン2019が初版と大きく異なる点は、推奨薬の評価方法である。まず、腰痛診療ガイドライン2019では、「薬物療法は疼痛軽減や機能改善に有用である」として、強く推奨(推奨度1、エビデンスの強さB)されている。そのうえで、腰痛を「急性腰痛」、「慢性腰痛」、「坐骨神経痛」に区別して、各薬剤についてプラセボとのランダム化比較試験のシステマティックレビューを行うことでエビデンスを検討し、益と害のバランスを評価して推奨薬を決定した。オピオイドについては、過量使用や依存性を考慮して弱オピオイドと強オピオイドに分けられている。 腰痛診療ガイドライン2019での各薬剤の推奨度とエビデンスの強さは以下のとおり。●急性腰痛に対する推奨薬<非ステロイド性抗炎症薬> 推奨度1、エビデンスの強さA<筋弛緩薬> 推奨度2、エビデンスの強さC<アセトアミノフェン> 推奨度2、エビデンスの強さD<弱オピオイド> 推奨度2、エビデンスの強さC<ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液> 推奨度2、エビデンスの強さC●慢性腰痛に対する推奨薬<セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬> 推奨度2、エビデンスの強さA<弱オピオイド> 推奨度2、エビデンスの強さA<ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液> 推奨度2、エビデンスの強さC<非ステロイド性抗炎症薬> 推奨度2、エビデンスの強さB<アセトアミノフェン> 推奨度2、エビデンスの強さD<強オピオイド>(過量使用や依存性の問題があり、その使用には厳重な注意を要する) 推奨度3、エビデンスの強さD<三環系抗うつ薬> 推奨度なし*、エビデンスの強さC(*三環系抗うつ薬の推奨度は出席委員の70%以上の同意が得られなかったために「推奨度はつけない」こととなった)●坐骨神経痛に対する推奨薬<非ステロイド性抗炎症薬> 推奨度1、エビデンスの強さB<Caチャネルα2δリガンド> 推奨度2、エビデンスの強さD<セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬> 推奨度2、エビデンスの強さC

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「心筋症診療ガイドライン(2018年改訂版)」発表/日本循環器学会

 「心筋症診療ガイドライン(2018年改訂版)」が、2019年3月29日に発表された。本ガイドラインは「肥大型心筋症の診療に関するガイドライン(2012年改訂版)」および2011年発表の「拡張型心筋症ならびに関連する二次性心筋症の診療に関するガイドライン」の統合・改訂版。第83回日本循環器学会学術集会(3月29~31日、横浜)において、心筋症診療ガイドライン作成の合同研究班班長を務めた北岡 裕章氏(高知大学医学部 老年病・循環器内科学)が、その内容について講演した。 同氏は、心筋症診療ガイドラインの本改訂において重視した点として下記3つのポイントを挙げたうえで、心筋症全体の定義と分類、肥大型心筋症(HCM)、拡張型心筋症(DCM)の診断・治療について、主な改訂点を解説した。1.これまでの心筋症の分類法を参考にしながら、わが国の診療実態に即した心筋症の新しい定義の作成2.HCMは、EBMの十分でない疾患であるため、ACCF/AHA、ESCのガイドラインを参考に、わが国より発信されたエビデンスを盛り込みながら、診療現場での実際の意思決定に有用であること3.DCMにおける病因解明の進歩を折り込み、本症が左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)の代表的な疾患であることより、急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)を参照した最新の診療・治療方針を明示すること心筋症診療ガイドラインでは心筋症を4つの基本病態に整理 心筋症の分類としては、米国心臓協会(AHA)の病因による分類(2006年発表)、欧州心臓病学会(ESC)の形態による分類(2008年発表)が知られる。心筋症診療ガイドラインでは、従来通り形態や機能から心筋症を診断する。その際には、“常に病因としての遺伝性/非遺伝性を意識し、心アミロイドーシスやファブリー病など二次性心筋症を鑑別したうえで確定されるべきである”とされた。 原発性(特発性)心筋症としての病名を、肥大型心筋症、拡張型心筋症、不整脈原性右室心筋症、拘束型心筋症の4つに分類している。さらに“これらの病型にOverlapがあることを明示した”ことも重要なポイントである。新ガイドラインでは肥大型心筋症は安静時に圧較差がなくても負荷をかけて心エコー推奨 肥大型心筋症については、近年の報告から「左室壁15mm(家族歴がある場合は13 mm)以上の心肥大」と診断上の定義を心筋症診療ガイドラインでは明記。そして閉塞性肥大型心筋症(HOCM)については、安静時に圧較差がある症例に加えて、負荷によって30mmHg以上の圧較差を認める場合もHOCMとして定義している。北岡氏は、「従来、HOCMは安静時の圧較差30mmHg以上と提唱されてきた。しかしこの10年ほどで、安静時には圧較差が認められなくても、負荷をかけると認められる症例が多く存在し、HCM全体の7割程度で、圧較差が病態と関係するということが分かってきた」とその背景を解説した。HCMと確定診断された患者では、バルサルバ手技などによる負荷を、心エコー検査中に行うことを推奨している。 そのほか新たな心筋症診療ガイドラインでは、MRIは形態学的評価だけでなく、二次性心筋症との鑑別あるいは予後予測において、最も推奨度の高いクラスIに変更された。心筋生検については、MRIの進歩などによりルーチンでの実施は不要と位置付けられている。「ただし、決して心筋生検の重要性が後退したということではなく、不明の場合の最終検査としては非常に重要」と同氏は補足。また、遺伝子診断についての推奨度が2012年版から大きく再整理・変更されていることも説明された。肥大型心筋症の突然死予防にガイドラインでICD植込み適応をフローチャート化 肥大型心筋症の薬物治療については、従来通りで新ガイドラインに大きな変更はない。突然死予防は、ICD植込み適応の考え方が再整理された。2012年度版から5つの主要リスク因子および修飾因子を一部変更。これまで重みづけされていなかった各主要リスク因子についてエビデンスを基に重みづけし、フローチャートの形でICD植込み適応の推奨度を示した。 そのほか、圧較差と不整脈に対する治療法は、近年の知見を盛り込んだ形に一部変更されている。不整脈については、心房細動患者に対する抗凝固療法にクラスIの推奨度とエビデンスレベルが記された。エビデンスの充実からワルファリン使用の推奨が明記され、DOACについても「有用性が期待される」という形で新たに記載された。抗がん剤によるリスクを整理、またクラスIの推奨となった遺伝子検査も(DCM) 新たな心筋症診療ガイドラインでは、DCMの定義に大きな変更はないが、近年左室機能障害を引き起こす重要な原因として指摘されている抗がん剤について、報告されている発症率とともに一覧化された表が初めて掲載された。 検査に関しては、HCM同様二次性心筋症との鑑別や予後予測においてもMRIによる評価に推奨度が記載された。「ただし、HCMほどデータが十分ではないという判断から、クラスIIaの推奨度となっている」と同氏は話した。心筋生検の位置づけはHCMと同様となっている。 DCMにおける遺伝子検査については、「40以上ある原因遺伝子の中で、特にタイチンとラミンについては検査に臨床的意義があると判断された」と述べ、タイチンにIIa、ラミンにIの推奨度が記載されている。MitraClipの COAPT試験の結果を反映 DCMの治療に関しては、「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」に基づく内容となっている。加えて、その後の知見としてMitraClipの COAPT試験の結果も反映された。 また、ラミンA/C変異を有する患者は予後が悪いことが、日本人を対象とした試験でも報告されている。そのため、新たな心筋症診療ガイドラインでは“提言”の形で、ESCあるいはAHA/ACC/HRSガイドラインにおけるICD植込み適応(リスク因子と推奨度)を紹介している。

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バビル2世とEBMの深い関係を知っていますか?【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第8回

第8回 バビル2世とEBMの深い関係を知っていますか?オヤジギャグとカラオケでのアニメソング歌唱がやめられません。嫌われるとわかっていても、若手医師から総スカンをくっても、やめられません。オヤジギャグは思い浮かんだら言わずにはおれません。アニメソングの十八番は「バビル2世」の主題歌と、タイガーマスクのエンディング曲「みなし児のバラード」です。昭和時代に少年期を過ごした皆さまには共感をいただけるものと思います。今回は、医療関係者としてぜひ知っておくべき(?)ウンチクとして、EBMと「バビル2世」の深い関係を紹介します。知らないとチコちゃんに「ボーっと生きてんじゃねーよ!」と叱られます。バビル2世は、バビルの塔に住んでいると主題歌にも歌われています。本来のマンガのタイトルは「バベル2世」の予定であったのが、当時の編集担当者が予告を打つ際に誤植のまま進めてしまい、「バビル2世」になったという逸話があります。そのまま「バビル2世」で続いているのは、昭和という時代の寛大さでしょうか。ここからは「バベルの塔」として記したいと思います。旧約聖書に記されたバベルの塔について要約します。大洪水の後、ノアの子孫である世界中の人々は、同じ言語を話す1つの民族であったそうです。神が作り出した石や漆喰ではなく、人造物として作り出したレンガやアスファルトを用いて、天国へ続く超高層の塔を築きはじめたのです。その様子を見ていた神は人間の結束力と能力を危惧し、言葉を混乱させその企てを阻んだのです。言葉を混乱させる=つまり多言語化という罰が与えられ、多種多様な言語が登場しました。日本語・英語・中国語・フランス語・スペイン語・アラビア語…挙げればきりがありません。言語が統一され続けていたならば、多少の文化の違いはあっても、現在ほど戦争や対立は生じていないのではないかと思われます。学問の世界では、統一した言語として英語への集約が完了しつつあります。神は、英語を母国語とする者には軽微な罰しか与えず、日本語を母国語とするわれわれには厳罰を与えたのです。神の試練に感謝できるほど人格が完成していない自分としては、この不公平さを嘆かずにはおれません。「日本人がバベルの塔建設を提案したわけではない」と言いたくなります。研究論文だけでなく、英語を使う地域での症例報告や薬剤の副作用情報などは共有されやすく、英語が母国語でない地域の情報は無視されやすくなります。これを「バベルの塔バイアス」と呼ぶ場合もあるようです。人工知能(AI)による翻訳の精度が急速に進化しています。日本語で書いた論文も瞬時に翻訳してくれる世界が目前に迫っているのです。英語が苦手な日本人にとっては朗報ですが、それを知った神は新たな罰を与えるかもしれません。その罰が、医師不要時代の登場であるかもしれません。神さま、お手柔らかにお願いいたします。

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高齢者でもスタチンは投与すべきなのか?(解説:平山篤志氏)-923

 今後多くの先進国は、高齢化社会を迎える。とくにわが国は高齢化率が著しく、諸外国に先駆けて数多くの未知なる諸問題に対処してゆかねばならない。その1つにEvidence Based Medicineがある。医学の世界では、EBMに基づいてガイドラインが作成され、治療に対応している。EBMとして最もエビデンスレベルが高いとされるのは、Randomized Control Trial(RCT)で得られた結果である。だが、多くの場合RCTでは高齢者が除外されているか、また含まれていても数が少ないため十分なEBMを得ることができていない。RCTでは少数であっても実臨床では数多い高齢者についての情報を得るために、近年はReal World Evidenceということが注目されるようになり、電子カルテベースのデータや保険会社のデータ、あるいはレジストリー研究からの結果が出されるようになっている。 本論文もその1つで、スペインの電子カルテからのデータを基に、75歳以上の高齢者でコレステロール低下目的にスタチンを投与することの有用性が検討された。電子カルテのレコードから75歳以上で初めてスタチンを投与された患者と、さまざまな背景因子を合わせた患者(プロペンシティーマッチした)を比較したものである。結果は興味深く、75歳以上ではスタチンの投与は心血管イベント低下効果がないとするものである。ただ、糖尿病患者では有用性があることも示されたが、この効果も85歳以上では効果が消失するようである。ガイドラインでは1次予防としてもスタチンの投与の有用性は広く示されているため、75歳以下だけでなく、高齢者でも有用なのではと推測されていたが、本論文では安易なスタチンの投与はすべきでないとしている。結論を出すには2022年ごろに発表される高齢者を対象としたRCTの結果(STAREE試験)を待たなければならないが、本論文の結果は安易にガイドラインを高齢者に適応すべきではないという示唆でもある。 ただ、(1)これまでスタチンを投与してきた患者を75歳で中止すべきなのか? (2)75歳以上の高齢者では各個人間での相違(合併症、虚弱度、食事など)を考慮すべきではないか? (3)スペインと他の地域での高齢者は同じなのか? など、年齢だけでは規定できない多くの要素があり、Real World Evidenceだからといって、普遍化はできない。高齢者では、RCTやReal World Evidenceにも多くのバイアスがあるので、これまでのEBMに基づいた治療ではなく、一人ひとりの背景因子をしっかり把握して個人に合ったエビデンスの適応を考慮しなければならないであろう。

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EBMの威力を痛感させたGLOBAL LEADERS試験(解説:後藤信哉氏)-914

 ステント留置後の血栓性閉塞にはアスピリン・チクロピジン併用療法が画期的効果を示した。その後、多くの抗血小板薬が冠動脈インターベンション、急性冠症候群を対象として開発された。血栓イベントを恐れるあまり、欧米では大容量の抗血小板薬が使用され、出血イベントが増えた。その結果、抗血小板薬の早期中止を求めて「必要期間短縮」を目指すランダム化比較試験が計画された。本研究でも12ヵ月のアスピリン・P2Y12受容体阻害薬(クロピドグレルまたはチカグレロル)を標準治療として、アスピリン・チカグレロル1ヵ月使用後、チカグレロル単剤にするプロトコールと比較された。実臨床に近い試験としてエンドポイントは冠動脈の閉塞を反映するQ波性心筋梗塞と総死亡とされた。 世界の実臨床を反映する試験として、試験結果以上にベースラインの各項目が興味深い。登録された症例の半数弱は急性冠症候群であった。70%以上の症例は橈骨動脈アプローチが選択されている。インターベンション施行前から75%程度の症例ではTIMI 3の血流があり、インターベンション後に99%以上になった。カテーテルの術者にとってステント血栓症、Q波性心筋梗塞に興味が集中しがちだが、これらのイベントは総死亡の半数以下であった。総死亡の詳細は示されていない。心血管死亡でなく総死亡であることに注目する必要がある。急性冠症候群、冠動脈インターベンション後の症例は血栓イベントリスクが高いとして抗血小板薬の開発標的となっていた。今回のGLOBAL LEADERS試験は半数に急性冠症候群を選択しても、冠動脈インターベンション後の症例の予後は現在の標準治療にて十分に良好であることを示した。多数の薬剤を開発し、多数のランダム化比較試験を施行した結果、疾病の予後がシステム的に改善された好例である。まさに仮説検証を繰り返し、標準治療をシステム的に改善させたEBMの威力を実感させた試験であった。

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病院スタッフのEBM順守で脳卒中患者のアウトカム改善か/JAMA

 中国・Capital Medical UniversityのYilong Wang氏らは、同国40の公的病院を対象に、急性虚血性脳卒中(AIS)患者に関するエビデンスに基づく医療パフォーマンスの病院スタッフの順守について、多面的な質改善の介入で変化が認められるかを調べる多施設共同クラスター無作為化試験を行った。その結果、all-or-none評価では認められなかったが、複合指標評価でわずかだが統計的に有意な改善が認められたことを報告した。研究グループは、「今回認められた所見の一般化可能性について、さらなる研究で明らかにする必要がある」とまとめている。JAMA誌2018年7月17日号掲載の報告。公的40病院を対象に、質的介入群vs.通常群のクラスター無作為化試験 検討は、中国の40の公的病院を対象に行われた。登録被験者は、2014年8月10日~2015年6月20日にAISで入院した患者4,800例で、12ヵ月間フォローアップを行った(最終フォローアップ2016年7月30日)。 20病院では多面的な質改善の介入(クリニカルパス、ケアプロトコール、コーディネーターによる質監視、パフォーマンス指標のモニタリングとフィードバックなど)が行われ、20病院では通常ケアが行われた(対照群)。 主要アウトカムは、9つのAISパフォーマンス指標に対する病院スタッフの順守で、複合指標順守率とall-or-noneで評価した(共主要アウトカム)。副次アウトカムは、3、6、12ヵ月時点で評価した院内死亡率、長期的アウトカム(新規の血管イベント、後遺症[修正Rankinスケールスコア:3~5]、全死因死亡)であった。介入群の複合指標順守率が有意に高率、新規血管イベント発生も減少 登録・無作為化を受けた4,800例(平均年齢65歳、女性36.6%)のうち、3,980例(82.9%)が12ヵ月間のフォローアップを完了した。 介入群の患者は、対照群の患者よりもパフォーマンスが高い傾向が認められた。複合指標順守率に有意差が認められた(88.2% vs.84.8%、絶対差:3.54%[95%信頼区間[CI]:0.68~6.40]、p=0.02)。all-or-noneによる評価では、両群間に統計的な有意差は認められなかった(53.8% vs.47.8%、絶対差:6.69%[95%CI:-0.41~13.79]、p=0.06)。 新規の臨床的に認められた血管イベントは、介入群が対照群と比べて有意に減少した。3ヵ月時点は3.9% vs.5.3%(差:-2.03%[95%CI:-3.51~-0.55]、p=0.007)、6ヵ月時点は6.3% vs.7.8%(差:-2.18%[95%CI:-4.0~-0.35]、p=0.02)、12ヵ月時点は9.1% vs.11.8%(差:-3.13%[95%CI:-5.28~-0.97]、p=0.005)であった。

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