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待機的心臓手術後のAKI発生、周術期ダパグリフロジン投与で抑制/JAMA

 待機的心臓手術を受ける患者において、SGLT2阻害薬ダパグリフロジン(10mg)の周術期における4回投与(手術日前日~術後2日目まで1日1回経口投与)はプラセボと比較して、術後7日間の急性腎障害(AKI)の発生を減少させたことが示された。オランダ・アムステルダム大学医療センターのMaartina J. P. Oosterom-Eijmael氏らMERCURI-2 Study Groupが、同国で行った多施設共同二重盲検プラセボ対照無作為化試験の結果を報告した。待機的心臓手術を受ける患者の2~50%でAKI発生が認められるが、これを予防する薬物療法は確立されていない。SGLT2阻害薬は先行研究において、腎保護効果がある可能性やAKI発生の減少が示されていた。JAMA誌オンライン2026年7月30日号掲載の報告。オランダの7施設で無作為化試験、ダパグリフロジン群vs.プラセボ群 研究グループは、待機的心臓手術を受ける患者において、手術前日から開始するダパグリフロジンの投与が、プラセボとの比較において術後7日間のAKI発生を減少させるとの仮説について検証した。 試験はオランダの7施設(大学医療センター2施設、非大学病院5施設)で実施され、対象は待機的心臓手術を受ける18歳以上の成人患者とした。除外基準は1型糖尿病、2型糖尿病でBMI値25未満かつ1日複数回のインスリン注射を施行、ベースラインeGFRが20mL/分/1.73m2未満、糖尿病性ケトアシドーシスの既往、登録時評価の収縮期血圧100mmHg未満、SGLT2阻害薬服用中、SGLT2阻害薬に対する既知/疑いのアレルギーであった。また、妊娠(可能性を含む)・授乳中、妊娠を希望する女性なども除外された。 被験者を、1日1回経口投与のダパグリフロジン(10mg)群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付け、手術前日(院内で午後3時~午後8時)に投与を開始し、術後2日目まで合計4回投与した(2回目は手術当日の朝、3回目は術後1日目、4回目は術後2日目)。 主要評価項目は、術後7日間におけるAKI発生の群間差とした。AKIは、Kidney Disease:Improving Global Outcomes(KDIGO診断基準)に基づき、術後48時間以内に血清クレアチニン値0.3mg/dL(26.5μmol/L)以上上昇、術後7日以内に血清クレアチニン値が基礎値より1.5倍以上増加、または術後6~12時間の尿量が0.5mL/kg/時未満と定義した。術後7日間のAKI発生率、28%vs.52%で有意差 被験者登録は2023年6月8日~2025年1月27日に行われ、最終追跡調査日は2025年5月16日であった。 784例が登録・無作為化され(各群392例)、778例(99%)が追跡評価を完了した(6例は手術を受けなかった)。ベースラインの両群の患者特性は類似しており、年齢中央値68歳(四分位範囲[IQR]:61~74)、76%が男性、97%が白人であり、BMI中央値27(IQR:25~30)、eGFR中央値80mL/分/1.73m2(IQR:67~89)であった。 7日間のAKI発生は、ダパグリフロジン群111/392例(28%)、プラセボ群205/392例(52%)であった(相対リスク:0.54、95%信頼区間:0.45~0.65、p<0.001)。 最も多くみられた術後の有害事象は、心房細動および再手術であった。心房細動の発現率はダパグリフロジン群45%(176/392例)、プラセボ群45%(176/392例)であり、再手術率はそれぞれ11%(43/392例)、10%(39/392例)であった。

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世界で長寿化が進む一方で不健康な期間も拡大

 世界中で人々はこれまでになく長生きするようになったが、延長した人生の多くを健康問題を抱えながら過ごしているようだ。「The Lancet Public Health」8月号に掲載された研究で、平均寿命と健康寿命の差(morbidity gap)は、1990年の8.8年から2023年には10.7年へと約2年拡大したことが示された。 論文の上席著者である米ワシントン大学医学部のChristopher Murray氏は、「この研究結果は、今後の健康増進は、寿命の延長だけでなく、健康な状態で生きる期間を延ばすことによって実現されることを示唆している。健康的な老化の進展は、寿命だけでなく健康寿命によって評価されるべきであり、不健康な状態で過ごす期間(以下、不健康な期間)を減らすためには、予防、長期的な疾患管理、慢性疾患のケアへの投資を拡充する必要がある」とニュースリリースで述べている。 研究グループは、世界疾病負担研究(Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study〔GBD〕2023)のデータを用いて、1990~2023年における204カ国・地域の平均寿命と健康寿命の差の経時的な変化を解析するとともに、この差に寄与する主な疾患やリスク因子についても評価した。 その結果、世界の平均寿命は1990年の64.6歳から2023年には73.8歳へ、健康寿命は55.9歳から63.1歳へと延長した。一方で、平均寿命と健康寿命の差も、1990年の8.8年から2023年の10.7年へと1.9年増加し、不健康な期間も長くなった。世界全体で、平均寿命に占める不健康な期間の割合は、1990年の13.6%から2023年には14.5%へ上昇した。国別では、不健康な期間が最も長かったのは米国で平均14.0年、次いでオーストラリアが13.9年、カナダが13.7年だった。また、1990年から2023年にかけての不健康な期間の拡大は、人生の終末期に集中するのではなく、成人期全体で認められた。さらに、ほぼ全ての国・地域で女性は男性より長生きする一方、不健康な期間も長かった。2023年の不健康な期間は女性が平均12.1年、男性は9.3年だった。 不健康な期間の延長に最も大きく寄与していたのは、腰痛などの筋骨格系疾患で、その次に多かったのはうつ病や不安症などの精神疾患だった。加齢性難聴、転倒や不慮の外傷、その他の非感染性疾患なども主な要因として挙げられた。また、不健康な期間に関連する主なリスク因子は、空腹時の高血糖、高BMI、母子の栄養不良、喫煙であった。 保健指標評価研究所(IHME)のシニアサイエンティフィックライターであるCatherine Bisignano氏は、「世界のほぼ全ての地域で、女性は男性より長生きしているが、その延びた年月の多くを不健康な状態で過ごしている」と指摘する。同氏は、「健康的な老化を実現するためには、障害とともに生きる期間を長引かせる疾患やリスク因子への対策を強化する必要がある。これらに対して予防やより良い長期ケアを早期から行うことは、社会や医療制度、経済に大きな利益をもたらす可能性がある」と述べている。

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5人に1人はLp(a)高値、CVD死を見落とさないために~Lp(a)の今をインタビュー(前編)

『2022 EAS Lp(a) Consensus Statement』を皮切りに、2025年3月にはLp(a) Global Summitにて『Lp(a)検査と管理に関するブリュッセル国際宣言』が採択された。さらに同年8月の『2025 ESC/EAS Focused Update』、翌2026年3月の『ACC/AHA脂質異常症ガイドライン』改訂へと続き、国際的にLp(a)測定の推奨強化へ向けた大きな潮流が生まれている。では、日本における現在のLp(a)測定のあり方は、諸外国と比較してどのような状況にあるのだろうか。日本版コンセンサスステートメントの発出を目前に控え、国内でLp(a)測定を普及・啓発していくうえで留意すべきポイントとは――。今回、Lp(a)研究の第一人者であるFlorian Kronenberg氏(オーストリア・インスブルック医科大学 遺伝疫学研究所 教授/所長)が来日。ケアネットの単独インタビューに応じ、Lp(a)測定の臨床的意義や最新の知見について語った。※本編は2回にわたってお届けします。後編「Lp(a)測定での4つの重要プロセス、Lp(a)研究の第一人者がアドバイス」は8月27日公開予定です。INDEXLp(a)がこれほどまで注目される理由Lp(a)が心血管リスクを高めるメカニズムLp(a)高値の驚くべき頻度、Lp(a)の特性と啓発すべき対象者とはCVD死の多くは“予防可能”、Lp(a)測定を促す取り組み―Lp(a)がこれほどまで注目される理由欧州全体において、心血管疾患(CVD)が死因第1位であるという深刻な問題は広く認識されています。同時に、これらの死亡の多くは予防可能であることが分かっています。ところがCVD有病率の3分の1はコレステロールが原因である一方で、Lp(a)測定の理解、家族性高コレステロール血症(FH)への治療介入不足が原因で十分にコントロールできていないこと、一般市民における認知不足などが課題となっています。われわれは2025年3月24~25日にベルギー・ブリュッセルで開催された「Lp(a) Global Summit」において『Lp(a)検査と管理に関するブリュッセル国際宣言』を行いました1)。その宣言および複数のガイドライン推奨も踏まえて、欧州委員会(EU)は「EU Safe Hearts Plan(欧州心血管疾患対策計画)」において、加盟国に対してスクリーニング項目に何を含めるべきかなど、非常に明確な指針を打ち出し、そこにはLp(a)高値やFHのスクリーニングが盛り込まれました。それと同時に、上述の課題解決のためにもEUは国民自身が「リスクを知る」ことを非常に重要視しています。リスクを認識すれば、健康へのモチベーションやヘルスリテラシーが向上し、最終的には治療アドヒアランスの向上につながると捉えています。上記計画の中では何度もLp(a)やFHについて言及されており、加盟国がプログラムを実装できるよう委員会がサポートしています。具体的な認知向上への取り組みについては後述します(CVD死の多くは“予防可能”、Lp(a)測定を促す取り組み)。―Lp(a)が危険な理由、そのメカニズムと心血管リスクの過小評価Lp(a)濃度と心血管リスクには明確な相関関係があることが知られており、Lp(a)濃度が高くなればなるほど、心筋梗塞や脳卒中リスクが比例して高くなります。とくに125nmol/L(50mg/dL)を超えると、リスクが格段に跳ね上がります。その理由は、Lp(a)粒子1個あたりの動脈硬化惹起性が、通常のLDL粒子と比較して格段に高いためです。構造を見るとLDL粒子に似ていますが、Lp(a)には「アポリポ蛋白(a)」という特別なタンパク質が結びついており、さらに、多くの「酸化リン脂質(OxPL)」を搬送しているため、非常に動脈硬化を起こしやすい性質を持っているのです2,3)。(図1)注意すべきLDL様粒子の構造4)画像を拡大するただし、これまでの研究結果5)から、Lp(a)が高値であっても従来の一般的なリスク因子(高血圧、糖尿病、過体重、不健康な生活習慣など)に早期介入することで、CVDの絶対的生涯リスクが大きく低減することが示されています。たとえば、従来のリスク因子を多く持っている人でも、Lp(a)が低ければ、生涯の心血管イベントの絶対リスクは25%程度に留まります。一方で、同じように従来の一般的なリスク因子を多く持ち、Lp(a)が150mg/dLの高値である場合、生涯の絶対リスクは68%にまで跳ね上がってしまいます。もし、医師がその患者のLp(a)の数値を知らなければ、心血管リスクを劇的に「過小評価」してしまうことになります。しかし、従来の危険因子を持たずLp(a)濃度のみが高い人の場合、心血管イベントの生涯リスクは、欧州一般人口における心血管疾患死亡の平均リスクよりも低いんです。人々が過度に不安になるのを避けるためにも、また健康的なライフスタイルを継続し、可能な限り危険因子を増やさないよう心掛けてもらうためにも、この点は伝えるべきです。これに対し、従来の危険因子を有し、かつLp(a)が高い人に対しては、危険因子プロファイルの改善に徹底的に取り組むよう助言すべきです。(図2)Lp(a)濃度が高くても、心血管疾患リスク増加と必ずしも関連しない画像を拡大する(表1)UK Biobankデータ[図2参照]に基づく、Lp(a)と従来リスク因子の有無による介入方法画像を拡大する―Lp(a)高値の驚くべき頻度、特性や啓発すべき対象者とはLp(a)を啓発するにあたり、医療者(医師)側にも認識不足というギャップがあるため、医師と一般公衆の双方への啓発が必要です。現在、Lp(a)はさまざまなコンセンサスステートメントやガイドラインに織り込まれるようになり、「成人は生涯に少なくとも一度は必ずLp(a)を測定すべきだ」という方針が示されています。というのは、Lp(a)高値の頻度は“5人に1人”と言われており、決して“珍しい状態”ではないからです。たとえば、FHの発症頻度は地域によって異なりますが250~350人に1人と言われています。それに比べ、Lp(a)高値の人は周りを見渡せば必ず身近に該当者がいるレベルです。つまり、患者自身がLp(a)高値だと知ることは、適切な対処ができるという意味で「特権」とも言えるのです。次に、『生涯に1度の測定』が推奨される理由は、遺伝的にほぼ90%決定付けられ、生活習慣(食事や運動)によって数値を下げることはできないからであり、一般的には、信頼性が高く十分に標準化された測定法が用いられていることを前提とすれば、多くの場合、生涯に一度の測定で十分です。Lp(a)値には±20%程度の変動がみられますが、これは測定技術上の変動、検体採取方法(前分析条件)、および一部の生理学的変化に関連するものであるため、この変動を過大評価すべきではありません。ただし、以下の患者では、Lp(a)の再測定が推奨されます。◯腎機能障害の患者Lp(a)値が上昇。とくにネフローゼ症候群では、Lp(a)値が3~4倍に上昇することがある◯肝機能障害のある患者Lp(a)は肝臓で産生されるため、肝機能障害の場合にはLp(a)値が低下するこのほかにも、再測定の意義が問われることが多い対象者について、私見を交えながらお伝えしますと、以下のようになります。(表2)現時点での患者背景ごとの再測定の是非画像を拡大する―CVD死の多くは“予防可能”、Lp(a)測定を促す取り組みこれまでに説明してきたとおり、CVDとの戦いにおいて最も重要な柱となるのは、Lp(a)などのリスク因子のスクリーニングです。Lp(a)やコレステロール、血圧などの値は、心筋梗塞や脳卒中を発症するよりもかなり前の段階から、高値を示しているため、これらのリスク因子を早期に検出し、対処することがきわめて重要なのです。そのLp(a)測定に関する認知向上には多くの方法があります。Lp(a)に関する国内のコンセンサスステートメントを作成すること(日本でも数週間以内に利用可能になる予定)Lp(a)を、より幅広い医師を対象とした脂質異常症あるいは心血管疾患診療に関するガイドラインに組み込むこと(これは、脂質代謝および脂質管理・治療というより広い文脈の中にLp(a)を位置付けることを含む)さまざまな診療科・専門領域の学会・学術集会でLp(a)に関する講演の実施、また、Lp(a)測定を提供することLp(a)を説明するための、医師向けおよび患者向けの優れた情報資材を作成することLp(a)およびASCVDリスクに関する典型的な症例[Lp(a)の重要性を強く印象付けるもの]を紹介しながら、メディアでの注目を集めること患者団体と連携し、Lp(a)の重要性が伝わるような症例を紹介・発信することLp(a)アンバサダーグループを構築すること繰り返し、繰り返し、繰り返し…あらゆる機会を捉えて発信し続けることアンバサダーグループは、Lp(a)とともに生きる経験を持ち、Lp(a)について十分な教育を受けた人々です。私たちはFH EuropeおよびLp(a) International Task Forceにおいて、この取り組みを行っています。そして、世界中の人々に啓発を促すため、私自身は年間70回ほど、Lp(a)について講演を行っています。後編に続く―――。 参考 Kronenberg F, et al. Eur Heart J. 2022;43:3925-3946. Kronenberg F,et al. Atherosclerosis. 2023;374:107-120. 1) FH Europe Foundation:Say YES to better cardiovascular health across the world 2) Kronenberg F, et al. J Int Med. 2013;273:6-30. 3) Koschinsky ML, et al. Atherosclerosis. 2022;349:92-100. 4) Koschinsky ML, et al. Pharmacol Res. 2023;194:106843. 5) Kronenberg F, et al. Curr Atheroscler Rep. 2024;26:75-82.

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選択的Nav1.8阻害薬LTG-001、術後疼痛を軽減/NEJM

 Nav1.8は末梢神経系に発現している電位依存性ナトリウムチャネルで、疼痛シグナル伝達において重要な役割を果たすという。LTG-001は、オピオイドと同等の鎮痛効果をもたらすように設計された、経口投与が可能な非オピオイド系の選択的Nav1.8阻害薬である。米国・Latigo BiotherapeuticsのNeil Singla氏らは、腹壁形成術後に疼痛を訴える患者において、低・高用量のLTG-001はプラセボと比較して、48時間後の疼痛スコアを有意に改善し、高用量ではオピオイドのレスキュー使用量が少ないことを示した。研究の成果はNEJM誌2026年7月30日号に掲載された。4群を比較する無作為化第IIb相試験 研究グループは、LTG-001の術後の疼痛緩和効果の評価を目的に二重盲検無作為化プラセボ対照第IIb相試験を実施した(Latigo Biotherapeuticsの助成を受けた)。 2025年7~12月に米国の4施設で参加者を登録した。対象は、年齢18~65歳、腹直筋縫縮術を伴う待機的下腹部腹壁形成術を受け、術後4時間以内の言語的カテゴリー評価尺度(verbal categorical rating scale[VRS]:4段階[疼痛なし~重度疼痛])で中等度または重度の安静時疼痛を示し、数値的疼痛評価尺度(numeric pain rating scale[NPRS]:11段階[0点:疼痛なし~10点:想像しうる最悪の痛み])で安静時に5点以上の患者であった。 被験者343例を、低用量LTG-001(85例)、高用量LTG-001(86例)、酒石酸水素ヒドロコドン-アセトアミノフェン(86例)、プラセボ(86例)を投与する4群に無作為に割り付けた。 低用量LTG-001群は、負荷用量として300mgを、その後は維持用量として150mgを12時間ごとに48時間、経口投与した。高用量LTG-001群は、負荷用量450mg、維持用量300mgを同様に投与した。 主要評価項目は、48時間の治療期間におけるベースラインと各評価時点の疼痛強度の差の時間加重合計(SPID48)とした。SPID48は、NPRSスコアに基づき、数値が高いほどベースラインからの疼痛軽減度が大きいことを示す(急性疼痛における臨床的に意義のある最小差は確立されていない)。低・高用量ともSPID48が有意に改善 全体で患者の95.6%が試験を完了した。ベースラインにおける4群の被験者特性は類似しており、平均年齢は39.9~41.2歳、女性が98~99%であり、VRSで中等度疼痛の患者割合の範囲は43~52%、重度疼痛は42~57%であり、各群の平均NPRSスコアの範囲は7.3~7.5点だった。 最小二乗平均SPID48は、低用量LTG-001群が161.05(95%信頼区間[CI]:142.93~179.16)、高用量LTG-001群が185.30(95%CI:167.26~203.34)、酒石酸水素ヒドロコドン-アセトアミノフェン群が164.08(95%CI:146.02~182.14)、プラセボ群は123.22(95%CI:105.23~141.21)であった。 SPID48の最小二乗平均差は、低用量LTG-001群とプラセボ群が37.82(95%CI:12.62~63.03、p=0.003)、高用量LTG-001群とプラセボ群は62.08(95%CI:36.95~87.21、p<0.001)であり、いずれもLTG-001群で有意に良好であった。 オピオイドの総レスキュー使用量(最小二乗平均)は、プラセボ群(18.35モルヒネ ミリグラム当量[MME])と比較し、高用量LTG-001群(11.00MME)は有意に少なかったが(群間差:-7.35MME、95%CI:-13.12~-1.58、p=0.01)、低用量LTG-001群(12.95MME)では有意差はなかった。 また、オピオイドのレスキュー投与を受けなかった患者の割合は、高用量LTG-001群がプラセボ群に比べ有意に高かった(52%vs.22%、p<0.001)。 意義のある疼痛緩和(NPRSスコアのベースラインから2点以上の低下)が達成されるまでの時間中央値は、低用量LTG-001群が60.0分、高用量LTG-001群は51.7分であり、酒石酸水素ヒドロコドン-アセトアミノフェン群は82.8分、プラセボ群は87.5分であった。高用量LTG-001群は発熱、失神寸前の状態の頻度が高い 有害事象の発生率は高用量LTG-001群で最も低かった(低用量LTG-001群62%、高用量LTG-001群50%、酒石酸水素ヒドロコドン-アセトアミノフェン群63%、プラセボ群65%)。最も頻度の高い有害事象は、悪心、頭痛、めまいであり、これらの多くは軽度または中等度であった。 プラセボ群との比較で高用量LTG-001群は、発熱(7%vs.2%)と失神寸前の状態(6%vs.1%)の頻度が高かった。重篤な有害事象は各群で1例ずつ発生した。LTG-001群とプラセボ群では、試験レジメンの中断や試験中止に至った有害事象、および死亡例は認められなかった。 著者らは、「これらの結果を確認し、他の急性疼痛モデルにおけるLTG-001の有効性および安全性プロファイルを明らかにし、LTG-001の相対的有効性を他のNav1.8阻害薬と比較するために、さらなる検討が必要である」としている。

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第70回 あなたの体は何歳ですか?「老化時計」が明かす、臓器ごとに進む老いの正体

この100年で人間の平均寿命はおよそ2倍になりました。ところが、健康に過ごせる期間(健康寿命)は同じペースでは延びておらず、心臓病やがん、認知症、身体の障害などを抱えて暮らす人はむしろ増えています。この「長生きするけれど健康ではない」というギャップを埋める鍵として注目されているのが、老化の速さそのものを数値で測る「生物学的時計」です。今回はそんな概念を取り扱った論文をもとに最新の知見をシェアしていきます1)。老化は「一定のスピード」では進まないかつて老化は、誰の体でも年齢とともに一定の速さで進むものと考えられてきました。しかし近年の大規模な研究で、その常識は覆されつつあります。血液中のタンパク質やDNAの変化を数万人規模で追跡すると、老化は一定ではなく、人生のなかで何度か「波」となって加速することがわかってきたのです2)。論文の中では、成人期におよそ3つの大きな転換期があると指摘されています。目安は「30~40歳ごろ」「60~70歳ごろ」「80歳前後」。この時期に体内の分子レベルの変化が一気に進むことが、複数の独立した研究で繰り返し確認されています。つまり老化は坂道をなだらかに下るというより、階段を数段まとめて下りるようなイメージに近いのです。この転換期は、生活を見直したり対策を打ったりする「介入の窓」にもなりうると期待されています。脳と免疫の「若さ」が寿命を左右するもう1つの重要な発見が、同じ人の体の中でも臓器ごとに老化のスピードが違うということです。心臓は実年齢より若いのに、肝臓は老けている、といったことが実際に起こります。英国の大規模データを用いた研究では、ある臓器が実年齢より「老けている」人ほど、その臓器に関連する病気や死亡のリスクが高いことが示されました。とくに3つ以上の臓器で老化が進んでいる人では、その傾向がはっきりと強まります。また、脳の生物学的な老化が進んでいる人では、アルツハイマー病を発症するリスクが約3.1倍に上ったと報告されています。逆に、脳や免疫が「若い」状態を保っている人は長生きしやすい傾向がありました3)。老化時計を活用することで、症状が出るより何年も前に、リスクの高い人を見つけ出せる可能性もあるわけです。老化時計は遅らせられる?では、この時計の進み方は変えられるのでしょうか。論文によれば、運動、適度なカロリー制限、オメガ3脂肪酸やビタミンDの摂取などが、DNAの老化の指標をわずかに遅らせる可能性が報告されています4)。また、少し有名な話になりましたが、帯状疱疹ワクチンの接種者で認知症が少なく、老化が緩やかだったという研究も複数あります5)。糖尿病や肥満の治療に使われるGLP-1受容体作動薬にも、老化を遅らせる働きの可能性が指摘されています。ただし、過度な期待は禁物です。これらの効果は示されているとしてもまだ「わずか」で、長期的に寿命や健康寿命を本当に延ばすのかは未確認です。また、市販されている老化測定検査は測定方法がバラバラで標準化されておらず、同じ人が受けても結果が大きく食い違うことがあります。現時点では、個人が一度の検査結果に一喜一憂する段階にはありません。大切なのはおそらく、特別な検査を受けることよりも、運動・睡眠・食事といった昔から知られた生活習慣が、体の「老化時計」の進み方に確かに影響するという事実です。ただし、ここでご紹介した「老化時計」は、病気になってから治す「後追いの医療」から、リスクを早期に見つけて防ぐ「先手の医療」へと転換する、次の大きな一歩になろうとしているのもまた事実だと思います。1)Wyss-Coray T, et al. Biological aging clocks in health and disease. Nat Med. 2026;32:2383-2394.2)Oh HS, et al. Organ aging signatures in the plasma proteome track health and disease. Nature. 2023;624:164-172.3)Balachandran A, et al. Pace of aging associations of healthspan and lifespan in older adults in the US and UK. Nat Aging. 2025;5:1132-1142.4)Belsky DW, et al. DunedinPACE, a DNA methylation biomarker of the pace of aging. eLife. 2021;11:e73420.5)Kim JK, et al. Association between shingles vaccination and slower biological aging: evidence from a U.S. population-based cohort study. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2026;81:glag008.

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若年発症がんの増加、背景に生物学的老化の加速?

 近年、若い世代でのがん発症リスクが増加していることが示されているが、それを説明し得る要因が新たな研究によって浮かび上がった。この研究を実施した米セントルイス・ワシントン大学医学部准教授のYin Cao氏らによると、若い世代に見られる生物学的老化の加速が、がんに対処する体の仕組みに影響を及ぼしている可能性があるという。詳細は、「Nature Medicine」に6月22日掲載された。 研究グループの説明によると、50歳未満または55歳未満で診断される若年発症がんは、1990年から2019年にかけて世界全体で24%増加し、現在も増加し続けている。また、米国、英国、カナダ、オーストラリアでは、1990年代生まれの人は1960年代生まれの人と比べて若年発症大腸がんリスクが少なくとも4倍高いという。 研究グループによると、なぜ若い世代でがんリスクが高まっているのかについては明らかになっていない。一般的に、がんは加齢に伴う疾患と見なされている。高齢者でがんリスクが高いのは、がんの発生につながる細胞損傷が長年にわたって蓄積しているためと考えられている。このことから研究グループは、生物学的老化の加速が若い世代のがんリスクの上昇に関与しているのではないかと考えた。生物学的老化とは、出生からの経過年数を表す暦年齢とは異なり、日々の生活の中で生じる身体の摩耗や損傷の蓄積を反映した生物学的年齢に基づく老化を指す。 今回の研究では、英国の大規模なヘルスリサーチ・プロジェクトであるUKバイオバンクの参加者である15万4,169人(女性55%、白人92%)の若年成人と、米国の同様の研究プロジェクト(All of Us Research Program)参加者1万262人(女性69%、非ヒスパニック系白人54%)のデータを解析した。参加者ごとに、血液検査の測定値に基づく全身の生物学的年齢(PhenoAge、Klemera−Doubal Method〔KDM〕年齢)と、メタボロミクス解析に基づく生物学的年齢を推定し、出生コホート(世代)による違いと若年発症がんとの関連を検討した。さらに、生体内に存在する全てのタンパク質(プロテオーム)を解析するプロテオミクス解析により臓器ごとの生物学的年齢を推定し、臓器別老化と若年発症がんリスクとの関連を検討した。 その結果、若い世代ほど生物学的老化が加速している可能性が示され、生物学的年齢が暦年齢より高いほど、がんリスクも高まることが示された。例えば英国では、暦年齢で調整後の解析でも、1950~1954年生まれの人と比べて1965~1975年生まれの人では、標準化したPhenoAgeに基づく年齢差(生物学的年齢−暦年齢)が23%大きかった。この生物学的老化の加速は、若年発症固形がんリスクの8%の上昇と関連していた。さらに、参加者を生物学的老化の加速の程度に基づき分類すると、生物学的老化が最も加速していた群では、加速の程度が最も低かった群と比較して、若年発症固形がんリスクが15%高かった。米国でも同様に、1965~1969年生まれの人と比べて1990~1999年生まれの人では標準化したPhenoAgeに基づく年齢差が平均で92%大きかった。 さらに、生物学的老化の加速は、若年者における特定の臓器のがんのリスク上昇にも関連していた。例えば、免疫系の老化が進んでいることは若年発症肺がんのリスク上昇に関連していた一方、脂肪組織の老化が進んでいることは若年発症大腸がんのリスク上昇に関連していた。 研究グループによると、生物学的老化が加速する原因はまだ明らかになっていないが、環境要因、生活習慣、社会的要因などが若い世代の体に長期的な影響を及ぼし、老化を加速させている可能性は考えられるという。Cao氏は、「われわれの最終的な目標は、現代の環境がどのように生物学的な変化として体内に組み込まれ、がんリスクを高めるのかを解明し、がん予防を幅広い対象者への推奨から個別化された介入へと転換させることだ。これによって、より早期段階でリスクを特定し、個々人の生物学的特性に合わせた予防戦略を開発することに一歩近付くことができる」と話している。

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断食模倣食、歯周病患者の炎症マーカー低下と関連

 断食を模倣した食事スタイルを短期間実施することで、歯周病に伴う炎症が軽減されるとする、英キングス・カレッジ・ロンドン(KCL)のGiuseppe Mainas氏らによる論文が6月10日、「Journal of Clinical Periodontology」に掲載された。論文の筆頭著者である同氏は、「本研究結果は歯周病の治療において、適切な歯磨きに加えて生活習慣の改善も重要であることを示唆している」と述べている。 歯周病対策として多くの歯科医は、歯の周囲の感染部位の清掃に重点を置いている。一方で、食生活が歯周病に何らかの影響を及ぼす可能性について検討している研究者もいる。 Mainas氏らの研究は、スペインで実施された。歯周病患者28人を募集し、無作為に2群に分けて、1群を短期間の断食模倣食を実施する断食群、他の1群を通常の食事を続ける対照群とした。断食群では6カ月の間に3回にわたり、5日間の断食模倣食を実施した。5日間のうち初日の摂取量は約1,100kcalとし、2~5日目は1日当たり約750kcalとして、6日目は普段の食事への移行日、7日目からは通常の食事とした。 6カ月間に複数回にわたり、血液と歯肉溝滲出液(歯と歯茎の間の小さな隙間からにじみ出ている液体)を採取して、炎症に関わるマーカーを測定した。その結果、断食群に割り当てられていた患者では、血液と歯肉溝滲出液の双方で炎症マーカーの低下が認められた。 論文の上席著者であるKCLのLuigi Nibali氏は、「断食が歯茎の健康に良い影響を与えるメカニズムとして、いくつかの要因が考えられる」とし、以下のような解説を加えている。 まず断食は、細胞やDNAにダメージを与え得る「炎症」の主要な原因である、体内の酸化ストレスを軽減するという。また、ケーキやビスケットのような高カロリー食品や精製された炭水化物の摂取も炎症を引き起こす可能性があることから、断食によってそれらの食品の摂取が減ることも、体内の酸化ストレス軽減につながる、としている。 Nibali氏はまた、体内の健康維持に有用なマイクロバイオームに対して、断食が有益な効果をもたらす可能性もあるとしている。ただし、「この関係性を確認するには、さらなる研究が求められる」という。 Mainas氏らは、今回の研究結果を今後の歯周病治療に反映させるよりも先に、より大規模な研究を行う必要があると考えている。「糖尿病患者など、食事制限の実施が危険なケースもあるため、断食模倣食は対象患者を慎重に選んで推奨すべきだろう。われわれは現在、断食模倣食の実施が困難な高リスク者に対して、明らかにされたメリットをどのような形で適用可能かを検討している」と同氏は述べている。

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豆類や大豆製品の摂取で高血圧リスクが低下か

 豆類(エンドウ豆、レンズ豆、ヒヨコ豆など)および大豆製品(大豆、豆腐、味噌など)の摂取が、高血圧発症リスクの低下に役立つ可能性を示唆するデータが報告された。それらの摂取量が多い人には、高血圧が少ないという。植物性食品に関する英国の医療専門家団体(Plant-Based Health Professionals UK)のMichael Metoudi氏らの研究によるもので、詳細は「BMJ Nutrition, Prevention & Health」に5月7日掲載された。 これまでに行われたいくつかの研究で、豆類や大豆製品の摂取量が多いほど高血圧のリスクが低いことが示唆されてはいるが、結果の一貫性が十分でない。これを背景としてMetoudi氏らは、豆類や大豆製品の摂取と高血圧リスクとの関連性を明らかにするため、システマティックレビューとメタ解析を実施した。 PubMedおよびEmbaseに2025年6月14日までに収載された文献を対象とする検索の結果、12件の前向きコホート研究を報告した10報の論文が抽出された。12件のうち5件は米国からの報告であり、そのほかに中国から2件、英国、フランス、日本、韓国、イランから各1件報告されていた。研究参加者数は1,152~8万8,475人の範囲だった。 豆類の摂取量と高血圧リスクの関連を検討した10件の研究のうち、3件は摂取量が多い人の方が少ない人よりも高血圧リスクが低いと報告しており、7件は有意差がないと報告していた。メタ解析の結果、豆類の摂取量が多い人は少ない人よりも高血圧リスクが16%低いという関連が示された(相対リスク〔RR〕0.84〔95%信頼区間0.77~0.93〕)。 大豆製品の摂取量と高血圧リスクを検討した7件の研究のうち、4件は摂取量が多い人の方が少ない人よりも高血圧リスクが低いと報告しており、3件は有意差がないと報告していた。メタ解析の結果、大豆製品の摂取量が多い人は少ない人よりも高血圧リスクが19%低いという関連が示された(RR0.81〔同0.70~0.93〕)。 用量反応解析から、豆類に関しては1日の摂取量が約170gまでは、摂取量が多いほど高血圧リスクが低いという直線的な関係が見られた。大豆製品に関しては非線形の関係が見られ、1日の摂取量が60~80gほどでリスク低下がほぼ頭打ちになることが判明した。 この結果について著者らは、「豆類や大豆に豊富に含まれる、カリウム、マグネシウム、食物繊維などの栄養素が、高血圧リスクを抑制するように働くのではないか」と述べている。なお、英国や欧州における豆類の摂取量は1日に8~15gほどであり、心血管系の健康のために推奨されている65~100gを大きく下回っているとのことだ。 「BMJ Nutrition, Prevention & Health」誌の運営に関与している英国のシンクタンク(NNEdPro Global Institute for Food, Nutrition and Health)のSumantra Ray氏は、「この報告は、植物性食品の心血管保護効果を支持するものだ。本論文の著者らは、世界的な高血圧の負担軽減に向けて、豆類や大豆製品の摂取を増やす食事戦略を支持するエビデンスを強化したと言える」とコメントしている。

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【GET!ザ・トレンド】Less is More?β-ラクタマーゼ阻害薬nacubactamが拓くAMR治療の展望

薬剤耐性菌(AMR)は公衆衛生における世界的な社会課題である。なかでもカルバペネム系抗菌薬に耐性を示すカルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)はWHOの細菌優先病原体リストにおいて、クリティカル(最重要)に分類されている。そのCREに対し、Meiji Seikaファルマは新規β-ラクタマーゼ阻害薬nacubactam(OP0595)を承認申請中である。CRE感染症に対する同剤の特徴と効果、さらに新規抗菌薬開発の課題について、同社研究開発本部の加藤誠司氏らに話を聞いた。喫緊の課題カルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)AMRついての世界的な調査報告書であるJim O'Neill氏による耐性菌レポートによれば、新規抗菌薬の研究開発等の対策を講じなければ2050年までに年間1,000万人がAMRにより死亡すると報告されている。これを受け、WHOが薬剤耐性に関するグローバル・アクションプランを策定し、それを基に日本を含む世界各国がそれぞれの国の課題に応じたアクションプランを策定し取り組んでいる。抗菌薬に耐性を示す代表的な機序としてβ-ラクタム系抗菌薬の分解酵素であるβ-ラクタマーゼがある。カルバペネマーゼはβ-ラクタマーゼの1種で、その名のとおりカルバペネム系抗菌薬を分解する酵素である。カルバペネム系抗菌薬は重症感染症治療に使用される。最後の砦であるカルバペネム系抗菌薬を無効化するカルバペネマーゼ産生菌による感染症は、患者の重篤化、入院長期化、さらに死亡率の増加を招く。そのためCRE感染は5類感染症として全例報告が義務付けられるなど、日本でも喫緊の課題とされている。nacubactamによるβラクタマーゼへの阻害活性と、エンハンサー効果nacubactamは、Meiji Seikaファルマが自社で創出した新規β-ラクタマーゼ阻害薬である。2025年12月にカルバペネム系薬に耐性のグラム陰性菌による感染症治療薬として国内承認申請された。同剤はβ-ラクタム薬(セフェピム[CFPM]またはアズトレオナム[AZT])との併用で、CREに対するβ-ラクタム薬の分解を阻害するだけでなく、併用するβ-ラクタム薬の抗菌活性を増強させるという従来のβ-ラクタマーゼ阻害薬にはない特性を持っている。具体的には、nacubactamはPBP2の阻害作用を有する。一方、CFPMやAZTといったβ-ラクタム系抗菌薬はPBP3を阻害する。つまり、CFPMおよびAZTとnacubactamの併用により、PBP2とPBP3双方を阻害して抗菌活性・殺菌作用を増強することが可能となる(エンハンサー効果)。β-ラクタマーゼ阻害薬を単味製剤として開発していることも大きな意味を持つ。単味製剤のメリットとして既存抗菌薬との組み合わせ次第で将来出現する細菌にも柔軟に対応できる可能性がある。また、既存の抗菌薬と組み合わせて耐性菌に対応できるため、従来の配合剤のようにそれぞれのβ-ラクタム薬との配合剤を新薬として医療機関で保管する必要がなくなり、薬剤数抑制の観点からもメリットが生まれると考えられる。β-ラクタマーゼはAmbler分類でクラスAからDに分かれている。国や地域によって優勢なクラスや型が異なり、それに応じて有効な薬剤も変わる。画像を拡大するなかでもクラスBに有効な薬剤は限られており、その対策には課題が残る。最新報告によれば、国内のCREは約1,000例で、大部分はクラスBのIMP型だ。また、近年はクラスBのNDM型も増加傾向にある。厚生労働省によるカルバペネム低感受性腸内細菌目細菌株の感性率を見ると、セフェピムおよびnacubactamとの併用(以下、CFPM/NAC)はクラスA、C、Dのβラクタマーゼに高い感性率を示す。また、アズトレオナムおよびnacubactamとの併用(以下、AZT/NAC)はA、C以外にもクラスB(IMP型、NDM型とも)にも高い感性率を示すことが明らかになっている。画像を拡大する2つの第III相国際共同試験nacubactamの臨床開発では、欧州・日本を含むアジアで2つのグローバル第III相臨床試験(Integral-1、Integral-2)が実施された。Integral-1試験は、カルバペネム感受性の複雑性尿路感染症または急性単純性腎盂腎炎患者を対象に、CFPM/NACおよびAZT/NACをカルバペネム系抗菌薬であるイミペネム/シラスタチン(IPM/CS)と比較した二重盲検比較試験である※。IPM/CSに対する主要評価項目(投与終了7日後の総合臨床効果)において、AZT/NACは非劣性を、CFPM/NACは非劣性かつ優越性を証明した。結果は米国の感染症の学会であるIDWeek2025で反響を呼びThe Lancet Infectious Diseases誌による学会のハイライトにも取りあげられ、試験の内容はThe Lancet2026年5月16日号に掲載された。※通常の成人で、セフェピム2g+nacubactam1g、アズトレオナム2g+nacubactam1gまたはIPM1g /CS1g (いずれも1日3回静注)を投与もう1つの第III相試験であるIntegral-2試験は、CRE感染症患者を対象とした試験である。欧州臨床微生物学感染症学会議(ESCMID Global2026)では口頭演題に採択され発表に至っている。ESCMID Global 2026では、nacubactamに関する10演題が発表され、いずれも活発な議論が展開されたという。同剤に対する世界的な注目度の高さが窺える。新たなスタイルで行われたnacubactamの開発新規抗菌薬の開発にはさまざまな困難が伴う。感染症は被験者数が限られているため、臨床開発において症例を集積するには多くの国・施設の協力が不可欠だ。その分、開発コストは莫大になる。一方で、適正使用により患者数が限定されるなか、安定供給のための製造コストも増加しており経済合理性の欠如から、大手製薬メーカーが抗菌薬開発から撤退する負のサイクルに陥っている。nacubactamの開発に当たってはAMEDによる医療研究開発革新基盤創成事業(CiCLE)の支援を得ている※。この研究課題では、第I相試験の薬物動態(PK/PD)からシミュレーションした用法用量を、第II相を介さずに第III相試験で検証している。結果は評価項目を達成し、第II相試験を省略して開発することが可能となった。困難な状況の中で「プロジェクトメンバー全員が、CREによる感染症に苦しむ患者さん全員を救うという思いでnacubactamの開発にあたっている」と加藤氏は述べる。※CiCLE研究開発課題「非臨床PK/PD理論を活用した新規β-ラクタマーゼ阻害剤(OP0595)の単味製剤の研究開発」プル型インセンティブの拡大が抗菌薬開発の鍵を握る新規抗菌薬の開発にあたっては、承認取得後の課題も深刻だ。上市後の適正使用を徹底すると使用症例数は絞られ、販売額は縮小する。加藤氏によれば、新薬の上市まで至った会社も事業が維持できず倒産する事例も少なくない。新規抗菌薬の開発を支える仕組みとして、研究開発費を支援するプッシュ型インセンティブと、承認・発売後の採算性を維持・向上させるプル型インセンティブ制度がある。国内ではプル型インセンティブとして抗菌薬確保支援事業が設けられているが、その予算枠では安定供給に資する製造コストを維持するのに課題もあり、今後の抗菌薬開発においてはプル型インセンティブの拡充がより重要になっていくと考えられる。Meiji Seikaファルマとしても、製薬協と連携しながらプル型インセンティブの拡大に向け、国への働きかけを続けている。nacubactamは新たなβ-ラクタマーゼ阻害薬として、β-ラクタム薬との併用で従来にはない強力な抗菌活性を発揮する。また、単味製剤の利点を生かし、新たな組み合わせを開発することで将来的に新たな耐性菌に備えることができる可能性を持つ。第一歩としてCREという最重要耐性菌に立ち向かうnacubactamに注目したい。 参考 1) O'Neill J, Review on Antimicrobial Resistance. Tackling Drug-Resistant Infections Globally: Final Report and Recommendations. Wellcome Trust and HM Government 2) 厚生労働省 薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書(サマリ版) 3) 国立健康危機管理研究機構(JIHS)国際感染症センターカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)感染症に関する一般的事項 4) 国際健康危機管理研究機構(JIHS)カルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)感染症, 2024年現在 5) Takahashi S, et al. Lancet.2026;407:1929-1940.

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高い心肺フィットネス、心房細動リスク上回る健康効果

 若い男性では、心肺フィットネスレベルが高いほど心房細動(AF)リスクが上昇するとされてきたが、そのリスクは従来考えられていたほど大きくない可能性があるようだ。112万人超のスウェーデン人男性を対象とした新たな研究で、心肺フィットネスレベルが高い男性ではAFリスクの上昇が認められたものの、AF以外の心血管疾患(CVD)リスクの低下はAFリスクの上昇を上回ることが示された。研究グループは、「今回の研究は、高い心肺フィットネスレベルやレースへの参加が心血管の健康に大きなリスクをもたらすとする見方について、より慎重な解釈が必要であることを示している」と述べている。ウプサラ大学(スウェーデン)のMarcel Ballin氏らによるこの研究の詳細は、「Circulation」に5月21日掲載された。 この研究でBallin氏らは、1972~1995年に徴兵検査を受け、心肺フィットネス検査を完了した112万4,049人(平均年齢18.3歳)のスウェーデン人男性のデータを解析した。評価項目はAFおよびAF以外のCVD(脳卒中、虚血性心疾患など)とし、それぞれについて、診断または死亡から成る複合エンドポイントを2023年12月31日まで追跡した。 追跡期間中に4万5,179人(4.0%)がAF、9万6,404人(8.6%)がAF以外のCVDを発症していた。発症時の年齢中央値は、AFで54.8歳、AF以外のCVDで54.4歳だった。心肺フィットネスレベルをその高低に応じて10段階のグループに分けて解析した結果、成人期初期では、レベルが最も低い群と比較して最も高い群でAFリスクに軽度の上昇が認められた一方で、AF以外のCVDリスクには低下が認められた。この利益とリスクの関係は、40歳まではAFリスクの上昇による影響がCVDリスクの低下による利益を上回っていたが、45歳以降ではCVDリスクの低下による利益がAFリスクの上昇による影響を上回るようになった。 さらに研究グループは、対象者の約半数を占めていた兄弟ペアを対象に解析を行った。兄弟は、遺伝的背景や幼少期の環境、社会経済的要因などを共有しているため、これらの交絡因子の影響をより正確に評価できると考えられるからだ。その結果、35歳時点ですでにAFリスクの上昇を上回るCVDリスクの低下が認められた。また、主解析で見られた、年齢依存的に利益とリスクの関係が逆転する現象は認められなかった。 こうした結果から研究グループは、「これまで報告されてきた心肺フィットネスレベルとAFとの関連は、兄弟間で共有される遺伝的要因や環境要因によって、少なくとも一部は説明される可能性がある」と結論付けている。また、生涯にわたって見れば、高い心肺フィットネスレベルが健康にもたらす利益は、AFリスクの上昇による不利益を上回ると言えると述べている。

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アルツハイマー病のバイオマーカー、中年期にも検出可能か/Lancet

 アミロイドβ(Aβ)およびリン酸化タウ(p-tau)タンパク質の蓄積を特徴とするアルツハイマー病の神経病理学的所見は、主に高齢者の検体のバイオマーカーを用いて評価しており、中年期の血漿バイオマーカーの状態や、その認知機能との関連はほとんど知られていないという。米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のXiaqing Jiang氏らは、これらの血漿バイオマーカーによって定義されるアルツハイマー病の神経病理学的陽性所見は、相対的に頻度は低いものの、中年期にも検出可能であり、認知能力の低下やその加速と関連し、特定の集団においてより強い関連性を持つ可能性があることを示した。研究の成果はLancet誌2026年5月30日号で報告された。米国の前向きコホート研究 研究グループは、中年期におけるアルツハイマー病の神経病理学的所見を示す血漿バイオマーカーの特徴と認知能力との関連を検証する目的で、地域ベースの前向きコホート研究を実施した(米国国立心肺血液研究所[NHLBI]などの助成を受けた)。 解析には、Coronary Artery Risk Development in Young Adults(CARDIA)研究の参加者のデータを用いた。CARDIA研究では、1985~86年に米国の4市で年齢18~30歳の黒人と白人5,115人を登録した。 認知機能は、30年目と35年目に5つの標準化された検査で測定した。また、血漿中のAβ42、Aβ40、p-tau217濃度を測定し、p-tau217/Aβ42比とAβ42/Aβ40比を算出した。 アルツハイマー病の神経病理学的状態(陰性、中間的、陽性)は、各バイオマーカー(p-tau217/Aβ42、p-tau217、Aβ42/40)について、アミロイドPETで検証したカットオフ値に基づいて定義した。 アルツハイマー病の神経病理学的所見と、認知機能(Zスコア)および認知機能の急速な低下との関連を、多変量線形回帰とロジスティック回帰を用いて評価した。処理速度と実行機能の能力低下と関連 1,350人が解析の対象となった。平均年齢は61(SD 3.6)歳(範囲:53.0~69.0)、779人(58%)が女性、613人(45%)が黒人、737人(55%)が白人であった。 アルツハイマー病の神経病理学的所見の、バイオマーカー別の陽性者は、p-tau217/Aβ42で86人(6%)、Aβ42/40で196人(15%)、p-tau217で48人(4%)であった。 これは、処理速度に関する能力低下と関連し(アルツハイマー病の神経病理学的所見の陽性群と陰性群を比較した標準化認知機能差が、Aβ42/40、p-tau217、p-tau217/Aβ42で-0.54~-0.25の範囲、p=0.0001~0.0048)、実行機能の能力低下とも関連した(-0.42~-0.19の範囲、p=0.0070~0.049)。 また、アルツハイマー病の神経病理学的所見の陽性者は陰性者と比較して、言語性記憶(Aβ42/40のオッズ比[OR]:4.31[95%信頼区間[CI]:1.71~10.9]、p-tau217/Aβ42のOR:2.44[1.16~5.13])、処理速度(p-tau217のOR:3.98[95%CI:1.71~9.3]、p-tau217/Aβ42のOR:3.35[1.77~6.35])の加速度的低下のオッズが上昇していた。早期発見での価値を強調する知見 一方、これらの血漿バイオマーカーは、全般的認知機能(global cognition)や流暢性(fluency)とは関連しなかった。 また、一貫性はみられなかったが、血漿バイオマーカーと認知機能の関連にはいくつかの効果修飾が観察され、女性や黒人の参加者、およびAPOEε4保有者においてより強い関連性を認めた。 著者は、「これらの知見は、アルツハイマー病は臨床症状が現れる数十年前に始まっているという概念を裏付けており、一般住民における早期発見のための血漿バイオマーカーの潜在的な価値を強調するものである。血漿バイオマーカーを用いたアルツハイマー病の神経病理学的所見の早期検出は、リスクの低減や薬物療法などによる、中年期の成人に対する時宜にかなった予防や介入を可能にすると考えられる」としている。 また、「手軽な血液検査によってアルツハイマー病の初期の神経病理学的変化を有する個人を特定できれば、認知症の発症の遅延や予防を目的とした戦略や臨床試験の対象を絞り込むのに役立ち、臨床現場と公衆衛生施策の両方に重要な示唆を与える」と指摘している。

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脳梗塞治療と心筋梗塞治療の類似性と相違(解説:後藤信哉氏)

 今の若い世代の循環器内科医にとって、心筋梗塞に対する再灌流療法は冠動脈インターベンションであろう。1986年から循環器内科医をしている筆者は、心筋梗塞治療に血栓溶解療法が主流になりそうな時代があったことを知っている。血栓溶解療法には内因系のプラスミノーゲンをプラスミンに転換することにより、線溶効果を狙う。ヒトの身体はバランスが取れているので、線溶を亢進させれば、体内の血栓性も亢進する。血栓溶解療法には血小板、凝固系を阻害する抗血栓療法の併用が必須である。われわれは1980~90年代に多数の抗凝固薬、抗血小板薬の併用を試してきた。 脳梗塞治療では血管インターベンションが血栓溶解療法を完全に置換してはいない。本研究でも血栓溶解療法施行時の併用療法が比較された。心筋梗塞後も、当初は抗血小板併用療法が試された。本研究でもチカグレロルを早期から開始する抗血小板併用療法にて予後が改善されたと報告されている。 チカグレロルの用量として循環器と同様90mg bidが選択されている。急性冠症候群では国際共同試験では90mg bidがクロピドグレルよりも有効とされた。しかし、日本などの東アジアではglobal試験の優越性を確認できなかった(Goto S, et al. Circulation Journal. 2015;79:2452-2460.)。本試験は中国にて施行されたがglobal doseが選択されたのは興味深い。 出血合併症から考えれば線溶療法より冠動脈インターベンションが優れていることが心筋梗塞では示されている。抗血小板薬併用療法も、出血合併症リスクが循環器では強調されている。現在、脳領域は1980~90年代の循環器内科を追いかけているようだが、脳梗塞治療も心筋梗塞治療同様カテーテルインターベンションの時代になるのか? いつまでも線溶療法の時代が持続するのか? 興味深く見守りたい。

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日本のがん死亡率低下も、大腸がん・膵がん・子宮頸がんは依然高水準

 日本では全がんの年齢調整死亡率(ASR)が着実に低下している一方で、大腸がん、膵がん、子宮頸がんなど一部のがん種では依然として国際的に高い死亡率が続いていることが明らかになった。胃がんと肝がんでは大幅な改善が認められたものの、予防や検診による死亡率低下が期待されるがん種において十分な成果が得られていない実態が浮き彫りとなった。国立がん研究センターの片野田 耕太氏らによる本研究の結果はJapanese Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2026年3月5日号に掲載された。 研究では、国際がん研究機関(IARC)のGlobal Cancer Observatoryデータベースおよび各国の人口動態統計を用い、日本、韓国、米国、英国、カナダ、オーストラリアなどの高所得国における1980~2024年のがん死亡率の推移を比較した。解析対象は全がんに加え、胃がん、大腸がん、肝がん、膵がん、肺がん、乳がん、前立腺がん、子宮頸がん、子宮体がんだった。肝がん・胃がんは日本の成功事例 歴史的に日本で死亡率が高かった胃がんと肝がんについては、長期的に大幅な減少がみられ、欧米諸国との国際格差は大幅に縮小した。とくに女性の肝がん死亡率については、日本が欧米諸国を下回る水準にまで低下した。著者らはこの背景として、B型・C型肝炎ウイルス検査の全国的な実施、妊婦へのHBs抗原検査、さらには直接作用型抗ウイルス薬(DAA)の普及といった一連の肝炎対策が有効に機能したと考えられ、WHOが掲げる2030年までのC型肝炎排除目標に向け、国際的なモデルケースになり得る、としている。 一方、胃がんも日本における死亡率は低下し続けているものの、韓国の減少速度には及ばなかった。日本ではヘリコバクター・ピロリ除菌の保険適用拡大など1次予防が進む一方、韓国では内視鏡検診を中心とした2次予防が強力に推進されている。また、韓国では国家健康保険制度により検診データが一元管理されているのに対し、日本では職域検診の精度管理やデータ統合に課題が残ることが示唆された。大腸がん・膵がん・子宮頸がんは深刻な高水準 大腸がん死亡率は1980年代には欧米のほうが高かったが、その後減少が進んだ。これに対し日本では明確な低下傾向がみられず、近年では比較対象国の中でも高い水準となっている。韓国も近年減少傾向に転じており、日本との差が広がっている。 膵がんは、日本において男女とも死亡率の上昇が続いており、国際的にみても高い水準が際立っている。早期発見が困難で予後不良な疾患であるが、喫煙や2型糖尿病が重要なリスク因子であり、禁煙や糖尿病管理といった1次予防の重要性が改めて示された。 子宮頸がんにおいても、日本の相対的な立ち位置は悪化した。欧米諸国や韓国では死亡率が大幅に減少した一方、日本では高止まりが続いている。HPVワクチンの積極的勧奨の中止と再開の経緯もあって接種率はいまだ不十分であり、ワクチン接種と検診の双方を速やかに強化する必要性が示された。乳がん・肺がんでも改善が緩やか 女性の乳がん死亡率は欧米では着実に低下している一方、日本では増加傾向が続き、差は縮小している。男性の肺がんでも欧米に比べて死亡率低下が緩やかであり、近年では日本の死亡率が欧米を上回る状況となっている。一部のがんでは予防を強化する必要性 本研究により、日本の全がんのASRは他国と同様に引き続き低下していることが示された。とくに、かつて日本の死亡率の高さの要因となっていた胃がん、肝がんで持続的な低下がみられ、欧米諸国との差は縮小し、女性の肝がんでみられるように一部では逆転している。一方で、日本は大腸がん、膵がん、および子宮頸がんにおいて依然として最も高い死亡率を示している。女性の乳がんおよび男性の肺がんでは、日本における低下の遅れ、あるいは継続的な増加により、死亡率が欧米諸国の水準に近づいている。これらのがんの多くでは、1次予防および2次予防の方法が確立されており、胃がん、肝がんで達成された死亡率低下を再現するために、予防対策を強化する必要性が示唆される。

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第62回 コンゴでエボラ流行、87人死亡。私たちが知らない落とし穴

2026年5月17日、世界保健機関(WHO)は、アフリカ・コンゴ民主共和国の東部イトゥリ州で発生しているエボラ出血熱の流行を、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」に該当すると宣言しました1)。アフリカ連合によれば、すでに87例が亡くなり、疑い例を含めると336例の感染が判明しているとされています。隣国ウガンダではコンゴ人男性の死亡例もすでに報告されており、周辺国への波及が強く警戒される事態となっています2)。「またエボラ?」と思った方も多いかもしれません。「エボラのワクチンはあるって聞いたけど、どうして今も流行を抑えられないんだろう?」そんな素朴な疑問を抱いた方もいるかもしれません。実は、今回のニュースを少し立ち止まって整理してみると、その「あるはずのワクチン」の話に、知っておきたい大切な落とし穴が隠れています。そもそもエボラとは、どんな病気?エボラウイルス病は、フィロウイルス科に属するエボラウイルスによって引き起こされる感染症です。潜伏期間はおよそ6〜12日(最短2日、最長21日)で、発症後は突然の発熱、激しい頭痛、筋肉痛、倦怠感など、決して特徴的とはいえない症状から始まります3)。数日のうちに嘔吐や下痢が加わり、大量の体液の喪失をきたすことが、その病態の中心になります。「出血熱」という名前が独り歩きしている感がありますが、実際には出血が目立つ患者さんは少数派で、多くは脱水と臓器の障害、ショックで命を落とします3)。致死率は流行ごとに大きく異なります。1976~2022年までの集計によれば、ザイールウイルスで約66.6%、スーダンウイルスで約48.5%、そして今回コンゴで検出されたブンディブギョウイルスでは約32.8%とされています4)。「3割」と聞くと低く感じるかもしれませんが、新型コロナウイルス感染症の致死率が1%前後であったことを思えば、いかに恐ろしい数字かが分かるかと思います。感染は、症状のある患者さんや亡くなった方の血液・体液との直接接触によって起こります。空気感染はしません。つまり、感染拡大の主役となるのは、家族の看病、葬儀での遺体への接触、そして十分な防護具なしで治療にあたる医療者です3)。逆にいえば、「症状のない人」からはうつらない。これも知っておきたい大切なポイントです。なぜ「緊急事態宣言」がそんなに重い意味を持つのかWHOが「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」を宣言するのは、その感染症が「国境を越える拡大リスクがあり、国際協調的な対応が必要」と判断されたときに限られます。これまでに発令されたのは、新型インフルエンザ(H1N1)、ポリオ、エボラ(西アフリカ流行、東部コンゴ流行)、ジカウイルス、新型コロナウイルス、エムポックスなど、ごく限られた事例です。つまりPHEICは、「世界中で警報を共有しましょう」「物資、人材、検査体制を国際的に動かしましょう」という、最上位レベルの号令です。今回もWHOは、コンゴと国境を接するウガンダや南スーダンへの飛び火を念頭に、検査強化や接触者追跡の必要性を強く訴えています2)。日本に直接的な影響が及ぶ可能性は現時点では高くはないものの、グローバル化した現代において、こうした宣言を「対岸の火事」と片付けるのは適切ではないと、私は考えています。エボラに対する承認済みのワクチンは?実は、エボラに対しては承認済みのワクチンがあります。「rVSV-ZEBOV(商品名:Ervebo)」と呼ばれるもので、2019年に欧米で承認され、その後アフリカ複数カ国でも使用が認められました。すでに30万人を超える人に接種されています5)。流行が発生すると、患者の接触者と、そのまた接触者にワクチンを打つ「リング・ワクチネーション」という戦略が用いられ、実際の流行抑制に効果を上げてきました6)。では、なぜ今回はそれができないのでしょうか。実は、承認されているErveboは、エボラウイルスの中の「ザイールウイルス」専用のワクチンであり、今回検出された「ブンディブギョ株」に対する有効性は確立されていないのです5)。エボラウイルス属にはザイール、スーダン、ブンディブギョ、タイフォレストなど複数の種が含まれ、それぞれ抗原性(ウイルスの顔立ち)が異なります。実験動物のデータでも、ザイールウイルス向けワクチンはスーダンウイルスにはうまく反応しないことが示されており、ウイルスが違えば効果はなくなる、というのが現実です5)。承認されている治療薬(atoltivimab/maftivimab/odesivimab[商品名:Inmazeb]やansuvimab[商品名:Ebanga]など)も同様に、ザイールウイルスにのみ有効性が確認されている薬剤です5)。ではなぜ、ブンディブギョ向けのワクチンが整備されてこなかったのか。理由は単純で、これまでブンディブギョの流行が散発的かつ小規模で、製薬開発の優先順位がどうしても下がってきたからです。2014年の西アフリカ大流行(約2万9,000例感染)が世界を震撼させ、Erveboの開発が一気に進んだことを思えば、対照的な状況といえます5)。これは「市場原理だけにワクチン開発を委ねるとどうなるか」という、グローバルヘルスにおける古くて新しい問題でもあります。流行が起きるまで開発の動機が生まれず、いざ流行すれば「ワクチンがない」と慌てる。この繰り返しを断ち切るために、CEPI(感染症流行対策イノベーション連合)など国際的な枠組みが動いてはいますが、まだ十分とは言いがたいのが実情です。日本に住む私たちが今すぐエボラそのものを過剰に恐れる必要はないでしょう。感染経路は限定的で、症状のない人からは感染しないからです。ただ、海外渡航前後の発熱を安易に放置しないこと、そして「アフリカで起きていることは、いずれ自分たちの問題にもなり得る」という視点を持つことは、パンデミックの時代に大切な姿勢かもしれません。今回のニュースは、感染症が今なお人類にとって克服しきれない相手であること、そして国家間で協力してワクチン開発を進める難しさを、改めて教えてくれているように思います。 1) WHO. Epidemic of Ebola Disease caused by Bundibugyo virus in the Democratic Republic of the Congo and Uganda determined a public health emergency of international concern. 2026 17 May. 2) 共同通信. コンゴのエボラ熱、緊急事態宣言 WHO、東部の州で死者87人. 2026年5月17日. 3) Bray M, et al. Clinical manifestations and diagnosis of Ebola disease. UpToDate. Waltham, MA: UpToDate Inc. Accessed May 17, 2026. 4) Izudi J, et al. Case fatality rate for Ebola disease, 1976-2022: A meta-analysis of global data. J Infect Public Health. 2024;17:25. 5) Chertow DS, et al. Treatment and prevention of Ebola and Sudan virus disease. UpToDate. Waltham, MA: UpToDate Inc. Accessed May 17, 2026. 6) Muyembe JJ, et al. Ebola Outbreak Response in the DRC with rVSV-ZEBOV-GP Ring Vaccination. N Engl J Med. 2024;391:2327.

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経皮的電気神経刺激療法は線維筋痛症の痛みの軽減に有効

 実臨床環境で実施された初の試験において、経皮的電気神経刺激療法(TENS)が線維筋痛症に伴う動作時の痛み(以下、動作時痛)の軽減に有効である可能性が示された。TENSは、皮膚に貼った電極を介して微弱な電流を流し、痛みを遮断または軽減する治療法で、外来で長年使用されている。論文の筆頭著者である米アイオワ大学理学療法・リハビリテーション科学分野のDana Dailey氏は、「本研究は、他の治療にTENSを併用することで追加的な効果がもたらされることを示している。研究参加者は全員、鎮痛薬の使用や理学療法も受けていたが、それでもなおTENSは追加的な症状緩和をもたらした」と述べている。この研究は、「JAMA Network Open」に3月27日掲載された。 これまでにも、線維筋痛症に対するTENSの効果を検討した研究は存在したが、いずれも厳密に管理された条件下で実施された臨床試験であった。今回の研究は、米国内の28の外来理学療法クリニックの患者384人(平均年齢53歳、女性91%)を対象に、外来での理学療法にTENSを追加することで、線維筋痛症に伴う動作時痛が軽減するかどうかが検証された。対象者は、理学療法にTENSを追加する群(TENS群、191人)と理学療法のみを受ける群(理学療法群、193人)にランダムに割り付けられた。TENS群では、電極を上・下背部に貼り付け、快適かつ十分な強度の刺激で1日2時間の治療が行われた。治療は連続して実施することも、1日の中で分割して行うことも可能であった。効果は、1日、30日、60日、90日、および180日時点に評価された。理学療法単独群にも60日目以降にTENSが追加された。主要評価項目は試験開始時から60日時点までの動作時痛の変化量とし、0(痛みなし)~10(これ以上想像できないほどひどい痛み)の尺度で評価した。 その結果、60日時点の動作時痛は、TENS群で理学療法群と比較して有意に低かった(群間差−1.2、95%信頼区間−1.6~−0.7)。TENSの効果は用量反応性であり、患者評価による改善度の指標(Patient Global Impression of Change;PGIC)で改善を報告した割合は、TENS群で有意に高かった(72%対51%、P=0.001)。動作時痛が30%以上改善した割合も、TENS群で有意に高かった(41%対13%、P<0.001)。さらにTENS群では、安静時の痛み、痛みによる生活支障、動作時疲労、安静時疲労、線維筋痛症の重症度などにも有意な改善が認められた。全体として、TENSを使用した患者の81%がTENSが有用であると評価し、180日時点でも55%がTENSを毎日使用していた。 論文の上席著者であるアイオワ大学理学療法・リハビリテーション科学分野のKathleen Sluka氏は、「理学療法群の患者にTENSの装置を提供し、使用を開始してもらったところ、TENS群と同様の改善が認められた。この点は非常に重要である」と述べている。 Sluka氏は、「痛みの軽減に加え、疲労も軽減したことに興奮した。現時点で有効な治療法はほとんどない疲労にも効果が及んだことは、非常に意義深い」と述べている。同氏はさらに、「ランダム化比較試験の結果を実臨床に移行すると、交絡因子が多過ぎて効果が再現されないことが少なくない。しかし、本介入は実臨床でも有効であった」と結論付けている。

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早期発症統合失調症に対するブレクスピプラゾールの有効性~第III相試験事後解析

 米国・Zucker Hillside HospitalのChristoph U. Correll氏らは、早期発症統合失調症患者に対するブレクスピプラゾールの有効性と安全性を評価するため、第III相試験の事後解析の結果を報告した。Psychiatry Research誌2026年6月号の報告。 統合失調症患者を対象とした4件の6週間ランダム化二重盲検プラセボ対照試験のデータを統合した。18~65歳の成人を対象とした試験が3件(NCT01396421、NCT01393613、NCT01810380)、13~17歳の青年を対象とした試験が1件(NCT03198078)であった。早期発症の基準は、年齢が13~35歳、罹病期間が5年以内とした。ブレクスピプラゾール2~4mg/日投与群(ブレクスピプラゾール群)またはプラセボ投与群(プラセボ群)にランダムに割り付けられた患者データを統合した。有効性の評価は、主に陽性・陰性症状評価尺度(PANSS:すべての試験の主要エンドポイント)を用いた。機能の変化は、成人では個人的・社会的機能遂行度尺度(PSP)、青年ではChild Global Assessment Scale(CGAS)を用いて測定した。また、安全性も評価した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者は476例(ブレクスピプラゾール群:289例、プラセボ群:187例)。・ベースラインから6週目までのPANSS総スコア(最小二乗平均差[LSMean]:-3.6、95%信頼区間[CI]:-7.0~-0.1、p=0.04、Cohen's d:0.19)およびPSP/CGAS複合機能スコア(LSMean:2.3、95%CI:0.1~4.5、p=0.04、Cohen's d:0.19)の変化は、ブレクスピプラゾール群のほうがプラセボ群よりも大きかった。・治療中に発現した有害事象(TEAE)の発現率は、ブレクスピプラゾール群で50.7%、プラセボ群で46.3%であった。・ブレクスピプラゾール群で最も多くみられたTEAEは、不眠(ブレクスピプラゾール群:9.2%、プラセボ群:9.5%)およびアカシジア(ブレクスピプラゾール群:6.5%、プラセボ群:2.1%)であった。 著者らは「本解析により、統合失調症の初期段階の患者におけるブレクスピプラゾールの有効性が示され、統合失調症に対するブレクスピプラゾールのエビデンスが拡充された。また、ブレクスピプラゾールの安全性プロファイルは、これまでの臨床試験の結果と一致していた」としている。

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脳内出血既往患者、低用量3剤配合降圧薬の追加で再発減少/NEJM

 脳内出血患者において、標準治療に加え3種類の低用量降圧薬の配合錠を1日1回投与することにより、プラセボと比較し脳卒中の再発および主要心血管イベントの発生が減少したことを、オーストラリア・George Institute for Global HealthのCraig S. Anderson氏らTrident Research Groupが「TRIDENT試験」の結果で報告した。降圧は脳卒中を予防する、唯一の立証済み治療法である。標準的な降圧治療への低用量3剤配合降圧薬の追加が、標準治療単独より血圧をさらに低下させ、脳卒中再発リスクを低減できるかどうかは明らかにされていなかった。NEJM誌2026年4月23日号掲載の報告。テルミサルタン20mg+アムロジピン2.5mg+インダパミド1.25mgの配合錠 TRIDENT試験は、12ヵ国(オーストラリア、ブラジル、ジョージア、マレーシア、オランダ、ナイジェリア、シンガポール、スリランカ、スイス、台湾、英国、ベトナム)の61施設で実施された無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験。 対象は、非外傷性の脳内出血の既往歴があり、ベースラインの収縮期血圧が130~160mmHgで臨床的に安定(必要に応じて降圧治療中)の18歳以上の患者とした。 研究グループは、導入期として全例に低用量降圧薬の3剤配合錠(テルミサルタン20mg+アムロジピン2.5mg+インダパミド1.25mg)を1日1回2週間投与し、導入期終了後に同意が得られた適格患者を3剤配合錠(継続)群またはプラセボ群に無作為に割り付けた。 主要アウトカムは脳卒中の初回再発、副次アウトカムは無作為化後6ヵ月時点の血圧コントロール(収縮期血圧130mmHg未満と定義)、主要心血管イベント(非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中または心血管死の複合)、心血管死、および安全性であった。脳卒中の再発は、3剤配合錠群4.6%vs.プラセボ群7.4% 2017年9月28日~2024年11月30日に、スクリーニングを受け適格性を評価された2,206例が導入期に参加し、導入期終了後に1,670例が無作為化された(3剤配合錠群833例、プラセボ群837例)。1,670例の平均(±標準偏差)年齢は57.8±11.4歳、563例(33.7%)が女性、1,213例(72.6%)がアジア系で、1,114例(66.7%)がスリランカ在住であった。 追跡期間中央値2.5年(四分位範囲:1.6~4.4)時点で、追跡期間中の平均収縮期血圧は3剤配合錠群127mmHg、プラセボ群138mmHgであり、平均拡張期血圧はそれぞれ82mmHg、86mmHgであった。 脳卒中再発は、3剤配合錠群38例(4.6%)、プラセボ群62例(7.4%)に発生し、ハザード比(HR)は0.61(95%信頼区間[CI]:0.41~0.92、p=0.02)であった。脳内出血再発は3剤配合錠群15例(1.8%)、プラセボ群37例(4.4%)であった(HR:0.40、95%CI:0.22~0.73)。 主要心血管イベントの発生割合は、3剤配合錠群がプラセボ群より有意に低かった(6.6%vs.9.8%、p=0.04)。 重篤な有害事象は、3剤配合錠群で193例(23.2%)、プラセボ群で218例(26.0%)に認められた。投与中止に至った有害事象の発現率はそれぞれ13.6%、6.0%であり、主な事象は血清クレアチニン値の20%以上の上昇であった。

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抗菌薬が腸内環境を変える期間は想像以上に長い

 抗菌薬は、危険な感染症を治療する重要な薬として知られている。しかし、新たな研究で、抗菌薬はこれまで考えられていた以上に長期間にわたり身体に影響を残す可能性が示された。約1万5,000人の成人を対象とした研究で、特定の抗菌薬が腸内マイクロバイオームに対して、最長で約8年にわたり影響を及ぼすことが明らかになった。ウプサラ大学(スウェーデン)のGabriel Baldanzi氏らによるこの研究結果は、「Nature Medicine」に3月11日掲載された。 この研究では、スウェーデンの3つの大規模コホート研究のデータを統合して、8年間の抗菌薬の使用歴と腸内マイクロバイオームとの関連を検討した。対象者に処方された抗菌薬は、スウェーデン処方薬レジストリを用いて把握した。対象者の総計は1万4,979人で、過去8年間で1回以上の抗菌薬使用歴があった割合は69.7〜73.7%であった。参加者から便サンプルを採取し、さらに生活習慣や食事に関する詳細なアンケートにも回答してもらった。 他の使用薬剤や腸内マイクロバイオームに影響を与える既知の因子を調整した多変量解析の結果、腸内マイクロバイオームの多様性の低下と最も強く関連していたのは抗菌薬の使用後1年未満であったが、1〜4年前および4〜8年前の使用でも関連は有意であった。抗菌薬の種類別に見ると、クリンダマイシン、フルオロキノロン系、フルクロキサシリンは、腸内マイクロバイオームの組成への影響が大きく、菌種の存在量との関連の大部分を占めていた。これらの抗菌薬の4〜8年前の使用は、解析対象菌種の10〜15%で存在量の変化と関連していた。一方、ペニシリンV、広域ペニシリン、ニトロフラントインは、数種類の菌種の変化とのみ関連していた。4〜8年前の1コースの抗菌薬の使用でも、未使用と比較すると、腸内マイクロバイオームの組成の変化と関連していた。 論文の筆頭著者であるウプサラ大学のGabriel Baldanzi氏は、「4〜8年前の抗菌薬の使用が、現在の腸内マイクロバイオームの組成と関連していることが分かった。特定の抗菌薬は、1コースの治療でもその痕跡が残る」と述べている。 腸内マイクロバイオームのバランスは、人の健康にとって極めて重要である。過去の研究でも、抗菌薬の使用量が多いほど、2型糖尿病、心疾患、肥満、重篤な消化管感染症、さらには大腸がんのリスクが高まることが報告されている。こうした長期的な腸内環境の変化が、その一因ではないかと考えられている。 研究を率いたウプサラ大学分子疫学分野のTove Fall氏は、「今回の結果は、同等の効果を持つ抗菌薬が2種類ある場合には、腸内マイクロバイオームへの影響がより小さい方を選択するなど、今後の処方指針に役立つ可能性がある」と述べている。 ただし研究グループは、医師に処方された薬の服用を自己判断で中止すべきではないと強調し、「重要なのは、本当に必要な場合に適切な抗菌薬を選択し、長期的に体内の生態系を守ることだ」としている。

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鼻腔ブラシ生検でアルツハイマー病が検出可能に?

 将来、嗅裂と呼ばれる鼻の奥の部位から採取した検体を用いた鼻腔ブラシ生検で、アルツハイマー病(AD)の初期兆候を検出できるようになるかもしれない。米デューク・ヘルスが特許を取得した実験段階にあるこのブラシ生検によって、思考力や記憶力の問題が現れる前に神経細胞や免疫細胞の初期の変化を捉えることができたとする研究結果が報告された。この小規模ながら有望な研究は、「Nature Communications」に3月18日掲載された。責任著者である米デューク大学医学部教授のBradley Goldstein氏は、「もし早い段階で診断できれば、臨床的なADの発症を防ぐ治療の開始につなげられる可能性がある」と述べている。 Goldstein氏によると、今回の研究の目的は、「脳にダメージが蓄積する前の極めて早い段階でADを確認できるようにすること」であった。ADは脳の疾患だが、生体内の脳組織を直接調べるのは難しい。一方で、嗅覚は初期から障害されることが多く、嗅覚の神経細胞は嗅裂から採取できる。そこで研究グループは、22人の参加者の嗅裂からブラシを使って嗅上皮の検体を採取し、単一細胞RNA解析により各細胞における遺伝子発現を調べた。参加者は、健常者、脳脊髄液(CSF)バイオマーカー検査でADと診断された人、認知機能は年齢相応だがCSFバイオマーカー検査でADの前臨床段階にあると判定された人で構成されていた。採取された検体から、約22万個の細胞のそれぞれについて数千の遺伝子発現を測定することができ、得られたデータは数百万に上った。 その結果、ADの前臨床段階にある人においても、炎症に関与するT細胞やミエロイド細胞、嗅覚神経細胞の変化が見つかり、また、CD8陽性T細胞の活性化亢進がフローサイトメトリーによって裏付けられた。さらに、これらの変化を組み合わせることで、臨床的ADと前臨床段階のADを区別する一定の性能(ROC曲線下面積〔AUC〕0.81)も示された。 研究グループによると、現行のADの血液検査では、病状が進行してからでないと確認できないマーカーを検出する。一方、今回の検査は、生きた神経や免疫の活動を捉えるため、より直接的に疾患に関連する変化を見つけ、より早期段階で介入できるようになる可能性がある。 論文の筆頭著者でデューク大学医学科学者養成プログラムの学生であるVincent D’Anniballe氏は、「これまでにADについて明らかにされていることの多くは、剖検で得られた組織の解析結果に基づいていた。しかし、生きた神経組織を調べることができるようになり、診断と治療に新たな可能性が生まれた」と述べている。 Mary Umsteadさんは、若年性ADで亡くなった姉のMariah Umsteadさんのために今回の研究に参加した。Mariahさんは57歳でADの診断を受けたが、家族はそれよりはるか以前から症状に気付いていたという。Maryさんは、「研究参加のチャンスが巡ってきたとき、私はすぐに飛びつきました。Mariahを失ったときのような悲しみを、他の家族に味わってほしくないし、どの患者にも私たちが経験したようなつらい思いをしてほしくないからです」と語った。 デューク大学の研究グループは、このブラシ生検が治療の経過を追跡するのに役立つかどうかを明らかにすることを目標に、デューク大学・ノースカロライナ大学アルツハイマー病研究センター(Duke-UNC ADRC)と共同で、研究対象をより大規模な集団に拡大している。なお、今回の研究は米国立衛生研究所(NIH)の助成を受けて実施された。

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増える麻しん、医療従事者向け「麻しんを疑った際の対応」公開/JIHS

 日本では、2015年にWHOにより麻しんの排除認定を受けているが、2026年1月からの国内の発生報告数(速報値)は4月8日までに236例と、2020年以降同期間としては最多で、すでに2025年の1年間の発生報告数(265例)に迫る数字となっている。国立健康危機管理研究機構(JIHS)では、医療機関向けのリーフレット「 麻しんを疑った際の対応」を公開。典型的皮疹やコプリック斑を写真で示すとともに、感染対策や臨床対応のポイントを簡潔にまとめている。<麻しんを疑った際の対応(一部抜粋)>麻しんを疑う所見:・発熱+発疹+カタル症状(咳・鼻汁・結膜充血)・口腔内のコプリック斑・海外渡航歴または麻しん患者発生地域への移動歴、接触歴・ワクチン2回未完了または不明※修飾麻しん(麻しんに対する免疫が不十分な人に生じる、軽症で非典型的な麻しん)では、典型所見に乏しいことがあるので注意(1)感染対策・個室管理対応、患者にマスク着用を促し、扉を閉める(可能なら陰圧室)・空気感染対策(原則、N95マスク)+標準予防策を行う・対応する医療者と接触者を最小化する(2)臨床対応・ワクチン接種歴聴取、臨床評価、脱水や呼吸管理等・合併症:中耳炎、肺炎、下痢等による脱水、脳炎※麻しん患者との接触後、72時間以内に麻しん含有ワクチンを接種すること等によって、麻しんの発症を予防できる可能性がある(3)連絡・届け出・院内ICTへ即時連絡・麻しんと臨床診断したら直ちに発生届提出・できるだけ早期(発疹出現後1週間以内)に、保健所の指示に基づく検体(咽頭ぬぐい液・尿・EDTA血)を採取し、提出する・提出方法は、自治体ごとに異なるため、管轄の保健所に問い合わせる※必要に応じてIgM抗体検査も実施するが、発疹出現後3日以内は偽陰性に注意する

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