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亜鉛欠乏はCKM症候群の進行リスクを高めるか

心血管・腎・代謝(CKM)症候群は、代謝異常、慢性腎臓病(CKD)、心血管疾患が連続的に進展する疾患概念として注目されている。微量元素の1つである亜鉛が欠乏することで心血管・腎アウトカムの悪化をもたらすことが報告されているものの、CKM症候群の進行との関連は十分に明らかでない。今回、台湾・Chi Mei HospitalのKuan-Chieh Tu氏らは、CKMステージ1または2の成人において、亜鉛欠乏はCKMステージ3~4への進行リスク上昇と有意に関連していたことを明らかにした。本研究結果は、Frontiers in Nutrition誌2026年7月23日号に掲載された。本研究は、世界の医療機関172施設の匿名化電子健康記録を集積したTriNetX Global Collaborative Networkを用いた後ろ向きコホート研究である。2010年1月1日~2026年3月31日に、CKMステージ1または2に該当し、前年に血清亜鉛測定を受けた18歳以上を対象とした。血清亜鉛濃度70μg/dL未満を亜鉛欠乏群、70~120μg/dLを対照群とし、1:1の傾向スコアマッチング後に解析を行った。主要評価項目は、CKMステージ1~2からステージ3~4への進行に相当する心血管疾患または進行CKDの新規発症とした。副次評価項目は、主要心血管イベント(MACE)、冠動脈疾患、末梢動脈疾患、心房細動、虚血性脳卒中、心不全、進行CKD、全死亡などであった。追跡期間は最大365日で、中央値はいずれの群も365日であった。主な結果は以下のとおり。・適格基準を満たしたCKMステージ1~2かつ血清亜鉛測定済みの患者は22万4,495例で、このうち亜鉛欠乏群9万168例、対照群13万4,327例であった。傾向スコアマッチング後は各群7万4,245例となり、平均年齢は亜鉛欠乏群49.5歳、対照群48.9歳、女性の割合はそれぞれ69.5%、71.2%であった。・主要評価項目であるCKMステージ3~4への進行は、亜鉛欠乏群4,864例(6.6%)、対照群3,752例(5.1%)に発生し、亜鉛欠乏はCKM進行リスク上昇と関連していた(ハザード比[HR]:1.36、95%信頼区間[CI]:1.30~1.41、p<0.001)。・副次評価項目はそれぞれ以下の結果となった。 ●MACEのHRは1.35(95%CI:1.30~1.41、p=0.001、亜鉛欠乏群5,434例[7.3%]、対照群4,204例[5.7%])で、亜鉛欠乏群でリスクが高かった。 ●冠動脈疾患のHRは1.33(95%CI:1.26~1.41、p<0.001、2,731例[3.7%]vs.2,131例[2.9%])。 ●末梢動脈疾患では1.17(95%CI:1.06~1.31、p=0.003、729例[1.0%]vs.646例[0.9%])。 ●心房細動では1.42(95%CI:1.29~1.56、p<0.001、1,024例[1.4%]vs.748例[1.0%])。 ●虚血性脳卒中では1.38(95%CI:1.22~1.55、p<0.001、638例[0.9%]vs.481例[0.6%])。 ●心不全では1.61(95%CI:1.48~1.74、p<0.001、1,501例[2.0%]vs.971例[1.3%])。 ●進行CKDでは1.31(95%CI:1.21~1.43、p<0.001、1,226例[1.7%]vs.955例[1.3%])。 ●全死亡では1.65(95%CI:1.55~1.75、p<0.001、2,906例[3.9%]vs.1,820例[2.5%])。・ランドマーク解析でも、亜鉛欠乏とCKM進行との関連は維持された。リスク上昇はインデックス日後3ヵ月以内でHR 1.57(95%CI:1.47~1.66)、3ヵ月~1年でHR 1.24(95%CI:1.18~1.31)、6ヵ月~1年でHR 1.21(95%CI:1.14~1.28)であり、1~3年の追跡に限定しても有意であった(HR:1.12、95%CI:1.07~1.16)。・3~12ヵ月後の再測定でも亜鉛欠乏を認める持続性亜鉛欠乏を曝露とした解析でも、CKM進行リスクは上昇していた(HR:1.58、95%CI:1.36~1.83、p<0.001)。また、感染症(HR:1.24、95%CI:1.21~1.26)、敗血症(HR:1.56、95%CI:1.47~1.65)、治癒不良創傷(HR:1.31、95%CI:1.23~1.40)、CRP高値(HR:1.27、95%CI:1.24~1.31)、動脈硬化性プラーク(HR:1.21、95%CI:1.09~1.34)、心拡大(HR:1.71、95%CI:1.58~1.85)、eGFR 45mL/分/1.73m2未満(HR:1.35、95%CI:1.31~1.40)のリスクも高かった。本研究結果について著者らは、「CKMステージ1~2患者において、亜鉛欠乏はCKMステージ3~4への進行、ならびに心血管、腎、死亡アウトカムの幅広い悪化と関連していた」とし、「亜鉛欠乏はCKM健康状態不良の重要なマーカーであり、CKM進行リスクが高い患者の同定に役立つ可能性がある」と結論付けた。

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アトピー性皮膚炎に、Tregを調節する新規IL-2受容体作動薬が有望/Lancet

 中等度~重度のアトピー性皮膚炎患者において、rezpegaldesleukinはプラセボと比較して、重症度評価指標のEczema Area and Severity Index(EASI)スコアの変化率を含む複数の臨床評価項目を有意に改善し、良好な有害事象プロファイルをもたらすことが示された。米国・ジョージ・ワシントン大学のJonathan I. Silverberg氏らREZOLVE-AD Study Investigatorsが「REZOLVE-AD試験」の結果を報告した。rezpegaldesleukinは、制御性T細胞(Treg)を選択的に増殖させ、その機能を強化するインターロイキン-2(IL-2)受容体作動薬であり、アトピー性皮膚炎などの自己免疫疾患や炎症性疾患に新たな治療アプローチを提供すると考えられている。研究の成果は、Lancet誌2026年8月29日号で報告された。3用量とプラセボを比較する無作為化第IIb相試験 REZOLVE-AD試験は、10ヵ国(北米、欧州、オーストラリア)の107施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照比較第IIb相試験であり、2023年11月~2025年1月に参加者を登録した(Nektar Therapeuticsの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、登録の少なくとも12ヵ月前に診断が確定した慢性アトピー性皮膚炎(米国皮膚科学会コンセンサス基準)で、EASIスコア(0~72点、高点数ほど病変の重症度が高く、より広範)が16.0点以上、validated Investigator Global Assessment for Atopic Dermatitis(vIGA-AD)スコア(0~4点、高点数ほど病変の全体的な外観が重度)が3点(中等度)以上であり、病変の体表面積(BSA)が全身の10%以上に及ぶ患者であった。 被験者393例(平均年齢37.1歳[SD 14.4]、女性203例[52%])を、rezpegaldesleukin 24μg/kg(2週ごと)投与群(104例)、18μg/kg(2週ごと)投与群(106例)、24μg/kg(4週ごと)投与群(110例)、プラセボ群(73例)に無作為に割り付けた。 本論では、導入期間(16週間)の結果が報告された。主要評価項目は、ベースラインから16週までのEASIスコアの平均変化率であった。24μg/kg(2週ごと)投与群で、副次評価項目がすべて改善 平均発症時年齢は15.9歳(SD 19.2)、平均罹患期間は21.5年(SD 14.9)であった。ベースラインのvIGA-ADスコアは3点が68%、平均総EASIスコアは26.0(SD 9.77)点、関連病変のBSAが全身に占める平均割合は40%(SD 20.00)であった。 ベースラインから16週までのEASIスコアの平均変化率は、rezpegaldesleukin 24μg/kg(2週ごと)投与群が-61%(SE 3.8)、18μg/kg(2週ごと)投与群が-58%(SE 3.8)、24μg/kg(4週ごと)投与群が-53%(SE 3.7)、プラセボ群は-31%(SE 4.5)であった。 16週時における平均EASIスコア変化率のプラセボ群との差は、rezpegaldesleukin 24μg/kg(2週ごと)投与群で-30%ポイント(95%信頼区間[CI]:-41.3~-18.0、p<0.0001)、18μg/kg(2週ごと)投与群で-27%ポイント(95%CI:-38.5~-15.7、p<0.0001)、24μg/kg(4週ごと)投与群で-22%ポイント(95%CI:-33.3~-10.3、p=0.0002)であり、いずれも有意に優れた。 rezpegaldesleukin 24μg/kg(2週ごと)投与群では、6項目の副次評価項目がすべて、プラセボ群に比べ有意に改善した。EASI-50達成率のプラセボ群との差は32%(p<0.0001)、EASI-75達成率の差は26%(p=0.0008)、EASI-90達成率の差は16%(p=0.011)、vIGA-AD奏効(0~1点の達成かつベースラインから2点以上の低下)の差は12%(p=0.047)、Numerical Rating Scale(NRS)奏効(ベースラインでスコアが4点以上の患者における4点以上の低下)の差は27%(p=0.0011)、BSAのベースラインからの変化率の差は-37%(p<0.0001)であった。70%で注射部位反応 投与期間中に発生した有害事象で、rezpegaldesleukin投与群(320例)の少なくとも5%に認め、かつプラセボ群(73例)よりも発生率が高かったイベントとして、注射部位反応(223例[70%]vs.3例[4%])、好酸球増多(25例[8%]vs.2例[3%])、発熱(20例[6%]vs.2例[3%])、頭痛(20例[6%]vs.3例[4%])、上気道感染症(19例[6%]vs.4例[5%])、関節痛(16例[5%]vs.1例[1%])を認めた。 注射部位反応のほぼすべて(>99%)は、重症度が軽度~中等度であり、最終的に消退した。重篤または重度の有害事象のリスク増加を示す証拠はなく、導入期間中に死亡例の報告はなかった。 著者は、「これらの知見は、Treg増強に基づく新たな生物学的製剤のさらなる開発を支持するものである」としている。また、「重要な点として、本研究はTregの調節が臨床的な有益性をもたらすことを示した初めての大規模臨床試験であり、アトピー性皮膚炎の治療パラダイムにおける主要な標的としてのTregの臨床的可能性を明らかにしたことが挙げられる」と指摘している。

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Lp(a)測定での4つの重要プロセス、Lp(a)研究の第一人者がアドバイス~Lp(a)の今をインタビュー(後編)

前編では、Lp(a)の第一人者であるDr. Florian Kronenberg氏(オーストリア・インスブルック医科大学遺伝疫学研究所 教授/所長)が治療薬のない状況であっても「Lp(a)測定が重視される」のか、Lp(a)が心血管疾患(CVD)イベントの生涯リスクに及ぼす影響を中心に解説した。後編では、Lp(a)測定が失速した30年前の出来事の振り返り、1次予防への測定意義や日本の医療への期待などについて語った。※前編はこちら(8月18日公開:5人に1人はLp(a)高値、CVD死を見落とさないために)INDEX30年前の出来事と、現代における科学的証明の歴史CVDの1次予防にもLp(a)測定が有用専門家が伝えたい4つの重要プロセス測らない理由なんてあるのか?スクリーニングで世界に先駆ける、日本へ期待すること―30年前の出来事と、現代における科学的証明の歴史なぜ、Lp(a)測定が失速してしまったのか。それは1990年代にアメリカで行われた大規模な研究において、「Lp(a)と心血管アウトカムには関連性がない」という結果が報告されたことが要因でした。しかし後になって、当時の測定法には技術的な問題があり、それがこのような否定的な結果につながったのではないかと考えられるようになりました。この研究結果により、Lp(a)研究は一度完全に死にかけました。私がこの分野に関わり始めた頃も、周囲から「その分野はやめなさい、もう死んだ分野だから」と言われたものです。しかし、私は遺伝子データから「Lp(a)高値の人は遺伝的に心血管リスクが高いはずだ」という確信を持っていたため、研究を続けました。その後、大きな転機が訪れました。デンマークの研究グループが10万人規模の膨大なビッグデータを持って(われわれの研究に)参入してきたのです。彼らのデータを解析した結果、Lp(a)が高い人は将来明らかに心血管イベントを起こしていることが判明しました1)。さらに、彼らが私たちの遺伝子解析手法をその10万人に適用したところ、遺伝子変異とLp(a)高値、そして心血管疾患の間に強固な因果関係があることが完全に証明されたのです。その後、『2022年EAS Lp(a)コンセンサスステートメント』の作成にあたって、イギリスの「UKバイオバンク」が持つ50万人規模のデータを解析したところ、その結果も同様の方向性を示していました。現在では欧米だけではなく、日本を含めた世界中の研究グループが同様の関連性を確認しており、世界基準の事実となっています。―CVDの1次予防にもLp(a)測定が有用2025年にブリュッセルで開催され、『Brussels International Declaration on Lp(a) Testing and Management』2)の策定につながった「Lp(a) Global Summit」において、Lp(a)測定を心血管疾患(CVD)の1次予防として行う費用対効果に関する世界初の解析結果が発表され3)、Lp(a)を広くスクリーニングすることで、多くの心筋梗塞や虚血性脳梗塞を回避し、結果として医療費の大幅な削減につながることが証明されたのです。たとえば、20~30代の若者が自身のLp(a)が高値だと知ったとしたら、「血圧をしっかり下げよう」「禁煙しよう」「糖尿病を予防しよう」という強力なモチベーションにもなります。当然ながら、心筋梗塞や脳梗塞を経験した2次予防の患者さんがLp(a)を知ることもきわめて重要です。現実として、心筋梗塞後の患者の一部で、1年後にコレステロール低下薬の服用を止めてしまっているというデータがあります。しかし、自分が「Lp(a)高値という高リスクを抱えている」と知っていれば、将来の再発を防ぐために“従来のリスク因子に対する治療を継続する”強い動機となり、結果としてアドヒアランスの向上にもつながります。つまり、Lp(a)測定はCVDリスクの1次予防と2次予防の双方に重要と言えるのです。Lp(a) Global Summitでの一枚後方左から2番目がKronenberg氏、前方左から3番目には斯波 真理子氏が写る画像を拡大する繰り返しになりますが(前編参照)、心血管イベントの絶対的な生涯リスクは、Lp(a)が高かったとしてもほかの従来の一般的なリスク因子(高LDL-C、高血圧、糖尿病、過体重、不健康な生活習慣など)を減らすことで低減させることができるため、Lp(a)自体は生活習慣で下げることができなくても、「ほかの従来の一般的なリスク因子を徹底的に管理しようという意識を高める」というアプローチを取ることができます。「Lp(a)は現在の薬で下げられないのに、なぜ測るのか?」という疑問を持つ人が医療者の中にも存在しますが、「Lp(a)が高くて下げられないからこそ、ほかの従来の危険因子を徹底的に管理しようという意識を高めるために、今すぐ測定すべきだ」というのが私の答えです。Lp(a)値を把握せず、従来のリスク因子に対する治療も十分に行わないというのは、まったく意味がありません。―専門家が伝えたい4つの重要プロセスそこで、多くの国際的なガイドラインとも一致する、私が皆さんにお伝えしたい重要なアドバイス4点を紹介しましょう。1.全員、人生で少なくとも一度はLp(a)を測定すべきである2.リスク評価の際は、Lp(a)の値だけでなく、全体のバランス、患者の全体像、そのほかのリスク因子も含めて総合的に判断する3.Lp(a)が高値である場合は、ほかのコントロール可能なリスク因子(高LDL-C、高血圧、糖尿病、喫煙など)を徹底的に治療・管理する4.Lp(a)高値がみつかった場合は、その「家族(親、子、兄弟姉妹)」も機会があれば早めに検査を行う測定タイミングは、初めて脂質プロファイル(健康診断などの血液検査)を取るときが理想的で、早ければ早いほどいいでしょう。Lp(a)は遺伝的要因が非常に強いため、家族歴こそが最大のヒントになります。もしご家族や親戚に若くして心筋梗塞や脳卒中を起こされた方がいる場合は、Lp(a)高値が関連している可能性が疑われます。ぜひ、そのような患者さんにLp(a)測定を強くお勧めします。次にLp(a)の基準値(カットオフ値)の考え方について解説しましょう。Lp(a)のリスクは、ある数値を境に白黒はっきり分かれるようなカットオフ値(閾値)ではなく、数値が高くなるにつれてリスクが上昇していく“連続的なもの”として捉える必要があります4)。たとえば、122nmol/Lだから安全で、127nmol/Lだから危険、という単純な生物学的区切りはありません。測定法や標準化の違いによって105や125という数字のブレは生じますが、本質的なリスクに大差はありません。絶対的な一律の区切りが必要なのではなく、患者個人の全体的なリスク(糖尿病などの有無や既往歴)に応じて、個別に数値を評価し対応する必要があるものです。LDL-Cの基準値も、まったくリスクのない人であれば欧州では「116mg/dL未満」が目安ですが、心筋梗塞の既往があれば「55mg/dL未満」、さらに、同時に末梢動脈疾患(PAD)などを合併していれば「40mg/dL未満」と患者背景やリスク因子の重なりによって目標値が変わるように、Lp(a)も同様に、ほかのリスク因子と合わせて総合的に判断すべきです。―測らない理由なんてあるのか?実際に心イベントを繰り返した患者さんが、「ガイドラインで推奨されていたのに、なぜ何年も前にLp(a)を検査してくれなかったのか」と医師に不満を訴えるような事例は世界で起きています。同様のことを繰り返さないためにも医師への啓発を進め、Lp(a)測定を通常の診療プロセスに組み込む必要があります。さらにポジティブなニュースとして、現在、Lp(a)自体を劇的(80~90%)に低下させる新薬の臨床試験が進んでいます。最終的な試験結果を待つ必要がありますが、これが承認されれば、2次予防の患者さんに対してさらなるイベント再発を防ぐ強力な選択肢を提供できるようになります。―スクリーニングで世界に先駆ける、日本へ期待すること日本のスクリーニングは間違いなく他国の一歩先を行っています。日本には成人健康診査のみならず、小児期という非常に早い時期から検診が行われているケースもあると聞きました。これは国として大変重要な取り組みであり、今後Lp(a)のスクリーニングを導入していく上でも、素晴らしい土台です。これは私にとっても大きな学びとなり、欧州に戻ったらぜひ共有したいと思っています。しかし、「スクリーニングが行われていること」は一側面に過ぎず、「スクリーニング結果を踏まえ、どのように対応(治療・管理)するか」という点においては、まだギャップ(課題)があると感じています。これは日本に限った問題ではなく、世界中で直面している課題でもあります。政策立案者にとっては、常に自国のデータが重要となるため、一般住民を対象とした大規模コホートを構築し、「Lp(a)高値の有病率」「 Lp(a)が日本でもリスク因子である」ことを示す予後データを構築することが望まれます。後者についてはLEAP研究5)をはじめ、質の高い研究によるデータが多ければ多いほど、医療コミュニティでLp(a)が受け入れられる可能性は高くなります。日本には企業健診など、素晴らしいスクリーニングシステムがありますよね。肉体労働者から事務職まで(幅広い職域を)含む代表的な集団を雇用している大企業に研究協力してもらえれば、多数の対象者を迅速かつ低コストで集めることができます。このときに必要なのはLp(a)測定にかかる追加費用のみです。もちろん将来的には、医師がLp(a)測定を行うようになることが重要です。現在、日本動脈硬化学会が主導するLp(a)に関するコンセンサスステートメントが間もなく発刊される予定だと聞いています。これは欧米のガイドラインの「成人は生涯に少なくとも一度は必ずLp(a)を測定すべき」と完全に整合性の取れた内容になるでしょう。また、順天堂大学の三井田 孝氏らが日本国内での測定法の標準化を先導されていますが、国際的にもIFCC(国際臨床化学臨床検査医学連合)が中心となって、Lp(a)測定の標準化を進める取り組みが動いています。これらが整えば、次は実装段階に入っていきます。今後、日本からLEAP研究5)やLp(a)JAPAN study6)のサブ解析結果や心血管リスクに関する大規模な試験などが発信されれば、政策提言や医療者を説得する上でも非常に強力な材料になるでしょう。スクリーニングのさらなる普及を含め、日本における今後の発展に大いに期待しています。 参考 1) Kamstrup PR, et al. Circulation. 2008;117:176-184. 2) Kronenberg F, et al. Atherosclerosis. 2025;406:119218. 3) Morton JI, et al. Atherosclerosis. 2025:409:120447. 4) Kronenberg F, et al. Eur Heart J. 2022;43:3925-3946. 5) Yamada T, et al. J Atheroscler Thromb. 2026;33:1049-1059. 6) Kataoka Y, et al. Eur Heart J. 2026 May 24. [Epub ahead of print]

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COPD中等度増悪1回でも12年後の死亡・再増悪リスク増

 Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease(GOLD)2026では、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の増悪リスク評価において、中等度増悪1回の患者も高リスク(Group E)に分類されることになったが、この変更を支持する予後データは限られている。今回、韓国・The Catholic University of KoreaのJoon Young Choi氏らは、Korean COPD Subgroup Studyのデータを用いて、中等度増悪1回が将来の増悪および長期死亡リスクを同定するか、またGOLD2026の増悪歴に基づくリスク定義がGOLD2025より予後識別能を改善するかを検討した。その結果、中等度増悪1回は、将来の増悪および12年死亡リスクの上昇と独立して関連し、GOLD2026基準はGOLD2025基準より全死亡の判別能が高かった。Chest誌オンライン版2026年7月29日号に掲載。 本研究は、韓国の前向き多施設COPDコホートであるKorean COPD Subgroup Studyのデータを用いた解析である。対象はCOPD患者1,551例で、初年度の増悪歴に基づき、増悪なし、中等度増悪1回、中等度増悪2回以上もしくは重度増悪1回以上に分類した。2年目の将来の増悪は負の二項回帰モデルで評価し、最長12年の全死亡および呼吸器疾患による死亡はCox比例ハザードモデルで評価した。さらに、GOLD2025およびGOLD2026の増悪歴に基づくリスク定義について、時間依存性AUC解析により予後判別能を比較した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象1,551例のうち、初年度に中等度増悪1回を経験した患者は241例(15.5%)、中等度増悪2回以上または重度増悪1回以上を経験した患者は392例(25.3%)であった。増悪なしは918例(59.2%)であった。・中等度増悪1回は、増悪なしと比較して、2年目の中等度~重度増悪リスクの上昇と関連していた(調整発生率比[aIRR]:2.42、95%信頼区間[CI]:1.85~3.17)。・中等度増悪1回は、2年目の重度増悪リスクの上昇とも関連していた(aIRR:2.21、95%CI:1.27~3.85)。・最長12年の追跡において、中等度増悪1回は全死亡リスクの上昇と独立して関連していた(調整ハザード比[aHR]:1.49、95%CI:1.02~2.15)。・中等度増悪1回は、呼吸器疾患による死亡リスクの上昇とも独立して関連していた(aHR:3.21、95%CI:1.76~5.88)。・GOLD2026基準では、中等度増悪1回の241例を含めて633例(40.8%)が増悪歴に基づく高リスク群に分類される一方、GOLD2025基準で高リスクに該当するのは中等度増悪2回以上または重度増悪1回以上の392例(25.3%)であった。・10年時点の全死亡判別能は、GOLD2026基準がGOLD2025基準を上回った(AUC:0.760 vs.0.734、ΔAUC:0.025、95%CI:0.004~0.046)。 著者らは、「中等度増悪1回は、将来の増悪および死亡リスクが高いCOPD患者を同定する指標であり、GOLD2026でこれらの患者を高リスクに分類することを支持する結果であった」とまとめている。

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第73回 インフルエンザワクチンが変わる? 米国で世界初の「mRNAインフルワクチン」承認

新型コロナワクチンでおなじみになった「mRNAワクチン」という技術。これをインフルエンザに応用したモデルナのワクチン「mRNA-1010(商品名:mFLUSIVA)」が、この夏、米国で承認されました1)。対象は50歳以上の成人で、米国では2026~27年シーズンからの接種開始が見込まれています。製造期間が「6ヵ月」から「6週間」に皆さまご存じのとおり、従来のインフルエンザワクチンの多くは、鶏の卵の中でウイルスを育てて作られています。この方法では製造に約6ヵ月かかるため、「今年はどの型が流行するか」という予測を、流行の半年も前、2~3月頃には決めてしまわなければなりません。ところがインフルエンザウイルスは絶えず姿を変えるため、秋になってみたら別の型が流行していて、ワクチンとの「ミスマッチ」が起きてしまうことがあります。一方、mRNAワクチンはウイルスの設計図にあたる遺伝情報を合成して作るため、製造は約6週間で済むとされます。流行の直前まで中身を調整できるわけですから、予測が外れるリスクを減らせるのではと期待されているのです。「27%減」は何を意味するのか承認の根拠となった臨床試験には、米国を含む11ヵ国で50歳以上の約4万1,000人が参加しました。半分の方がmRNAワクチンを、残り半分が従来型ワクチンを接種し、約半年間の経過をみたところ、検査で確定したインフルエンザの発症はmRNA群で約2.0%、従来型群で約2.8%。相対的にみてmRNA群が約27%少なかった、という結果です2)。ここで少し立ち止まってみたいのですが、この「27%」は割合の比較であって、「接種した人の27%が発症を免れる」という意味ではありません。100人当たりでいえば、発症が約0.8人減った計算になります。小さな差に見えるかもしれませんが、社会全体でみれば入院や死亡の減少につながりうる差ですし、リスクの高い65歳以上に限った解析でも同程度の効果が確認されています。副反応は、注射部位の痛みや倦怠感、頭痛などが従来型よりやや多かったものの、大半は軽度から中等度で、一時的なものだったと報告されています。まだわからないこと、私たちにできることもちろん、限界もあります。データはまだ1シーズン分だけで、米国で65歳以上の標準とされる「高用量ワクチン」との直接比較は行われていません。免疫能の低下した方やフレイルのある高齢者での効果も、まだ確立していません。そのため65歳以上への承認は条件付きの「迅速承認」で、今後2シーズンかけて約40万人規模の市販後試験で効果が検証される予定です。ソーシャルメディアなどでは「mRNAワクチンは効かない」といった根拠のない主張も聞かれますが、mRNAワクチンが中心だった新型コロナワクチンは、控えめに見積もっても世界で250万人以上の命を救ったと推計されており、データはむしろ逆の結果を示しています3)。日本では、インフルエンザに対するmRNAワクチンはまだ承認されていません。当面は従来型ワクチンでの接種が続きますが、米国では65歳以上は人口の2割弱ながら、インフルエンザ関連死亡の70~85%を占めるとされます。高齢の方にとって毎年の接種が大切であることは、これまでと変わりません。新しい技術の続報を待ちながら、今シーズンもまずは現行のワクチンで備えましょう。1)Rubin R. What to know about the mRNA flu vaccine, newly approved by the FDA. JAMA. 2026 Aug 14. [Epub ahead of print]2)Leroux-Roels I, et al. Efficacy and safety of an mRNA seasonal influenza vaccine in adults. N Engl J Med. 2026;394:1803-1813.3)Ioannidis JPA, et al. Global estimates of lives and life-years saved by COVID-19 vaccination during 2020-2024. JAMA Health Forum. 2025;6\:e252223.

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待機的心臓手術後のAKI発生、周術期ダパグリフロジン投与で抑制/JAMA

 待機的心臓手術を受ける患者において、SGLT2阻害薬ダパグリフロジン(10mg)の周術期における4回投与(手術日前日~術後2日目まで1日1回経口投与)はプラセボと比較して、術後7日間の急性腎障害(AKI)の発生を減少させたことが示された。オランダ・アムステルダム大学医療センターのMaartina J. P. Oosterom-Eijmael氏らMERCURI-2 Study Groupが、同国で行った多施設共同二重盲検プラセボ対照無作為化試験の結果を報告した。待機的心臓手術を受ける患者の2~50%でAKI発生が認められるが、これを予防する薬物療法は確立されていない。SGLT2阻害薬は先行研究において、腎保護効果がある可能性やAKI発生の減少が示されていた。JAMA誌オンライン2026年7月30日号掲載の報告。オランダの7施設で無作為化試験、ダパグリフロジン群vs.プラセボ群 研究グループは、待機的心臓手術を受ける患者において、手術前日から開始するダパグリフロジンの投与が、プラセボとの比較において術後7日間のAKI発生を減少させるとの仮説について検証した。 試験はオランダの7施設(大学医療センター2施設、非大学病院5施設)で実施され、対象は待機的心臓手術を受ける18歳以上の成人患者とした。除外基準は1型糖尿病、2型糖尿病でBMI値25未満かつ1日複数回のインスリン注射を施行、ベースラインeGFRが20mL/分/1.73m2未満、糖尿病性ケトアシドーシスの既往、登録時評価の収縮期血圧100mmHg未満、SGLT2阻害薬服用中、SGLT2阻害薬に対する既知/疑いのアレルギーであった。また、妊娠(可能性を含む)・授乳中、妊娠を希望する女性なども除外された。 被験者を、1日1回経口投与のダパグリフロジン(10mg)群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付け、手術前日(院内で午後3時~午後8時)に投与を開始し、術後2日目まで合計4回投与した(2回目は手術当日の朝、3回目は術後1日目、4回目は術後2日目)。 主要評価項目は、術後7日間におけるAKI発生の群間差とした。AKIは、Kidney Disease:Improving Global Outcomes(KDIGO診断基準)に基づき、術後48時間以内に血清クレアチニン値0.3mg/dL(26.5μmol/L)以上上昇、術後7日以内に血清クレアチニン値が基礎値より1.5倍以上増加、または術後6~12時間の尿量が0.5mL/kg/時未満と定義した。術後7日間のAKI発生率、28%vs.52%で有意差 被験者登録は2023年6月8日~2025年1月27日に行われ、最終追跡調査日は2025年5月16日であった。 784例が登録・無作為化され(各群392例)、778例(99%)が追跡評価を完了した(6例は手術を受けなかった)。ベースラインの両群の患者特性は類似しており、年齢中央値68歳(四分位範囲[IQR]:61~74)、76%が男性、97%が白人であり、BMI中央値27(IQR:25~30)、eGFR中央値80mL/分/1.73m2(IQR:67~89)であった。 7日間のAKI発生は、ダパグリフロジン群111/392例(28%)、プラセボ群205/392例(52%)であった(相対リスク:0.54、95%信頼区間:0.45~0.65、p<0.001)。 最も多くみられた術後の有害事象は、心房細動および再手術であった。心房細動の発現率はダパグリフロジン群45%(176/392例)、プラセボ群45%(176/392例)であり、再手術率はそれぞれ11%(43/392例)、10%(39/392例)であった。

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世界で長寿化が進む一方で不健康な期間も拡大

 世界中で人々はこれまでになく長生きするようになったが、延長した人生の多くを健康問題を抱えながら過ごしているようだ。「The Lancet Public Health」8月号に掲載された研究で、平均寿命と健康寿命の差(morbidity gap)は、1990年の8.8年から2023年には10.7年へと約2年拡大したことが示された。 論文の上席著者である米ワシントン大学医学部のChristopher Murray氏は、「この研究結果は、今後の健康増進は、寿命の延長だけでなく、健康な状態で生きる期間を延ばすことによって実現されることを示唆している。健康的な老化の進展は、寿命だけでなく健康寿命によって評価されるべきであり、不健康な状態で過ごす期間(以下、不健康な期間)を減らすためには、予防、長期的な疾患管理、慢性疾患のケアへの投資を拡充する必要がある」とニュースリリースで述べている。 研究グループは、世界疾病負担研究(Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study〔GBD〕2023)のデータを用いて、1990~2023年における204カ国・地域の平均寿命と健康寿命の差の経時的な変化を解析するとともに、この差に寄与する主な疾患やリスク因子についても評価した。 その結果、世界の平均寿命は1990年の64.6歳から2023年には73.8歳へ、健康寿命は55.9歳から63.1歳へと延長した。一方で、平均寿命と健康寿命の差も、1990年の8.8年から2023年の10.7年へと1.9年増加し、不健康な期間も長くなった。世界全体で、平均寿命に占める不健康な期間の割合は、1990年の13.6%から2023年には14.5%へ上昇した。国別では、不健康な期間が最も長かったのは米国で平均14.0年、次いでオーストラリアが13.9年、カナダが13.7年だった。また、1990年から2023年にかけての不健康な期間の拡大は、人生の終末期に集中するのではなく、成人期全体で認められた。さらに、ほぼ全ての国・地域で女性は男性より長生きする一方、不健康な期間も長かった。2023年の不健康な期間は女性が平均12.1年、男性は9.3年だった。 不健康な期間の延長に最も大きく寄与していたのは、腰痛などの筋骨格系疾患で、その次に多かったのはうつ病や不安症などの精神疾患だった。加齢性難聴、転倒や不慮の外傷、その他の非感染性疾患なども主な要因として挙げられた。また、不健康な期間に関連する主なリスク因子は、空腹時の高血糖、高BMI、母子の栄養不良、喫煙であった。 保健指標評価研究所(IHME)のシニアサイエンティフィックライターであるCatherine Bisignano氏は、「世界のほぼ全ての地域で、女性は男性より長生きしているが、その延びた年月の多くを不健康な状態で過ごしている」と指摘する。同氏は、「健康的な老化を実現するためには、障害とともに生きる期間を長引かせる疾患やリスク因子への対策を強化する必要がある。これらに対して予防やより良い長期ケアを早期から行うことは、社会や医療制度、経済に大きな利益をもたらす可能性がある」と述べている。

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5人に1人はLp(a)高値、CVD死を見落とさないために~Lp(a)の今をインタビュー(前編)

『2022 EAS Lp(a) Consensus Statement』を皮切りに、2025年3月にはLp(a) Global Summitにて『Lp(a)検査と管理に関するブリュッセル国際宣言』が採択された。さらに同年8月の『2025 ESC/EAS Focused Update』、翌2026年3月の『ACC/AHA脂質異常症ガイドライン』改訂へと続き、国際的にLp(a)測定の推奨強化へ向けた大きな潮流が生まれている。では、日本における現在のLp(a)測定のあり方は、諸外国と比較してどのような状況にあるのだろうか。日本版コンセンサスステートメントの発出を目前に控え、国内でLp(a)測定を普及・啓発していくうえで留意すべきポイントとは――。今回、Lp(a)研究の第一人者であるFlorian Kronenberg氏(オーストリア・インスブルック医科大学 遺伝疫学研究所 教授/所長)が来日。ケアネットの単独インタビューに応じ、Lp(a)測定の臨床的意義や最新の知見について語った。※本編は2回にわたってお届けします。後編「Lp(a)測定での4つの重要プロセス、Lp(a)研究の第一人者がアドバイス」は8月27日公開予定です。INDEXLp(a)がこれほどまで注目される理由Lp(a)が心血管リスクを高めるメカニズムLp(a)高値の驚くべき頻度、Lp(a)の特性と啓発すべき対象者とはCVD死の多くは“予防可能”、Lp(a)測定を促す取り組み―Lp(a)がこれほどまで注目される理由欧州全体において、心血管疾患(CVD)が死因第1位であるという深刻な問題は広く認識されています。同時に、これらの死亡の多くは予防可能であることが分かっています。ところがCVD有病率の3分の1はコレステロールが原因である一方で、Lp(a)測定の理解、家族性高コレステロール血症(FH)への治療介入不足が原因で十分にコントロールできていないこと、一般市民における認知不足などが課題となっています。われわれは2025年3月24~25日にベルギー・ブリュッセルで開催された「Lp(a) Global Summit」において『Lp(a)検査と管理に関するブリュッセル国際宣言』を行いました1)。その宣言および複数のガイドライン推奨も踏まえて、欧州委員会(EU)は「EU Safe Hearts Plan(欧州心血管疾患対策計画)」において、加盟国に対してスクリーニング項目に何を含めるべきかなど、非常に明確な指針を打ち出し、そこにはLp(a)高値やFHのスクリーニングが盛り込まれました。それと同時に、上述の課題解決のためにもEUは国民自身が「リスクを知る」ことを非常に重要視しています。リスクを認識すれば、健康へのモチベーションやヘルスリテラシーが向上し、最終的には治療アドヒアランスの向上につながると捉えています。上記計画の中では何度もLp(a)やFHについて言及されており、加盟国がプログラムを実装できるよう委員会がサポートしています。具体的な認知向上への取り組みについては後述します(CVD死の多くは“予防可能”、Lp(a)測定を促す取り組み)。―Lp(a)が危険な理由、そのメカニズムと心血管リスクの過小評価Lp(a)濃度と心血管リスクには明確な相関関係があることが知られており、Lp(a)濃度が高くなればなるほど、心筋梗塞や脳卒中リスクが比例して高くなります。とくに125nmol/L(50mg/dL)を超えると、リスクが格段に跳ね上がります。その理由は、Lp(a)粒子1個あたりの動脈硬化惹起性が、通常のLDL粒子と比較して格段に高いためです。構造を見るとLDL粒子に似ていますが、Lp(a)には「アポリポ蛋白(a)」という特別なタンパク質が結びついており、さらに、多くの「酸化リン脂質(OxPL)」を搬送しているため、非常に動脈硬化を起こしやすい性質を持っているのです2,3)。(図1)注意すべきLDL様粒子の構造4)画像を拡大するただし、これまでの研究結果5)から、Lp(a)が高値であっても従来の一般的なリスク因子(高血圧、糖尿病、過体重、不健康な生活習慣など)に早期介入することで、CVDの絶対的生涯リスクが大きく低減することが示されています。たとえば、従来のリスク因子を多く持っている人でも、Lp(a)が低ければ、生涯の心血管イベントの絶対リスクは25%程度に留まります。一方で、同じように従来の一般的なリスク因子を多く持ち、Lp(a)が150mg/dLの高値である場合、生涯の絶対リスクは68%にまで跳ね上がってしまいます。もし、医師がその患者のLp(a)の数値を知らなければ、心血管リスクを劇的に「過小評価」してしまうことになります。しかし、従来の危険因子を持たずLp(a)濃度のみが高い人の場合、心血管イベントの生涯リスクは、欧州一般人口における心血管疾患死亡の平均リスクよりも低いんです。人々が過度に不安になるのを避けるためにも、また健康的なライフスタイルを継続し、可能な限り危険因子を増やさないよう心掛けてもらうためにも、この点は伝えるべきです。これに対し、従来の危険因子を有し、かつLp(a)が高い人に対しては、危険因子プロファイルの改善に徹底的に取り組むよう助言すべきです。(図2)Lp(a)濃度が高くても、心血管疾患リスク増加と必ずしも関連しない画像を拡大する(表1)UK Biobankデータ[図2参照]に基づく、Lp(a)と従来リスク因子の有無による介入方法画像を拡大する―Lp(a)高値の驚くべき頻度、特性や啓発すべき対象者とはLp(a)を啓発するにあたり、医療者(医師)側にも認識不足というギャップがあるため、医師と一般公衆の双方への啓発が必要です。現在、Lp(a)はさまざまなコンセンサスステートメントやガイドラインに織り込まれるようになり、「成人は生涯に少なくとも一度は必ずLp(a)を測定すべきだ」という方針が示されています。というのは、Lp(a)高値の頻度は“5人に1人”と言われており、決して“珍しい状態”ではないからです。たとえば、FHの発症頻度は地域によって異なりますが250~350人に1人と言われています。それに比べ、Lp(a)高値の人は周りを見渡せば必ず身近に該当者がいるレベルです。つまり、患者自身がLp(a)高値だと知ることは、適切な対処ができるという意味で「特権」とも言えるのです。次に、『生涯に1度の測定』が推奨される理由は、遺伝的にほぼ90%決定付けられ、生活習慣(食事や運動)によって数値を下げることはできないからであり、一般的には、信頼性が高く十分に標準化された測定法が用いられていることを前提とすれば、多くの場合、生涯に一度の測定で十分です。Lp(a)値には±20%程度の変動がみられますが、これは測定技術上の変動、検体採取方法(前分析条件)、および一部の生理学的変化に関連するものであるため、この変動を過大評価すべきではありません。ただし、以下の患者では、Lp(a)の再測定が推奨されます。◯腎機能障害の患者Lp(a)値が上昇。とくにネフローゼ症候群では、Lp(a)値が3~4倍に上昇することがある◯肝機能障害のある患者Lp(a)は肝臓で産生されるため、肝機能障害の場合にはLp(a)値が低下するこのほかにも、再測定の意義が問われることが多い対象者について、私見を交えながらお伝えしますと、以下のようになります。(表2)現時点での患者背景ごとの再測定の是非画像を拡大する―CVD死の多くは“予防可能”、Lp(a)測定を促す取り組みこれまでに説明してきたとおり、CVDとの戦いにおいて最も重要な柱となるのは、Lp(a)などのリスク因子のスクリーニングです。Lp(a)やコレステロール、血圧などの値は、心筋梗塞や脳卒中を発症するよりもかなり前の段階から、高値を示しているため、これらのリスク因子を早期に検出し、対処することがきわめて重要なのです。そのLp(a)測定に関する認知向上には多くの方法があります。Lp(a)に関する国内のコンセンサスステートメントを作成すること(日本でも数週間以内に利用可能になる予定)Lp(a)を、より幅広い医師を対象とした脂質異常症あるいは心血管疾患診療に関するガイドラインに組み込むこと(これは、脂質代謝および脂質管理・治療というより広い文脈の中にLp(a)を位置付けることを含む)さまざまな診療科・専門領域の学会・学術集会でLp(a)に関する講演の実施、また、Lp(a)測定を提供することLp(a)を説明するための、医師向けおよび患者向けの優れた情報資材を作成することLp(a)およびASCVDリスクに関する典型的な症例[Lp(a)の重要性を強く印象付けるもの]を紹介しながら、メディアでの注目を集めること患者団体と連携し、Lp(a)の重要性が伝わるような症例を紹介・発信することLp(a)アンバサダーグループを構築すること繰り返し、繰り返し、繰り返し…あらゆる機会を捉えて発信し続けることアンバサダーグループは、Lp(a)とともに生きる経験を持ち、Lp(a)について十分な教育を受けた人々です。私たちはFH EuropeおよびLp(a) International Task Forceにおいて、この取り組みを行っています。そして、世界中の人々に啓発を促すため、私自身は年間70回ほど、Lp(a)について講演を行っています。後編に続く―――。 参考 Kronenberg F, et al. Eur Heart J. 2022;43:3925-3946. Kronenberg F,et al. Atherosclerosis. 2023;374:107-120. 1) FH Europe Foundation:Say YES to better cardiovascular health across the world 2) Kronenberg F, et al. J Int Med. 2013;273:6-30. 3) Koschinsky ML, et al. Atherosclerosis. 2022;349:92-100. 4) Koschinsky ML, et al. Pharmacol Res. 2023;194:106843. 5) Kronenberg F, et al. Curr Atheroscler Rep. 2024;26:75-82.

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選択的Nav1.8阻害薬LTG-001、術後疼痛を軽減/NEJM

 Nav1.8は末梢神経系に発現している電位依存性ナトリウムチャネルで、疼痛シグナル伝達において重要な役割を果たすという。LTG-001は、オピオイドと同等の鎮痛効果をもたらすように設計された、経口投与が可能な非オピオイド系の選択的Nav1.8阻害薬である。米国・Latigo BiotherapeuticsのNeil Singla氏らは、腹壁形成術後に疼痛を訴える患者において、低・高用量のLTG-001はプラセボと比較して、48時間後の疼痛スコアを有意に改善し、高用量ではオピオイドのレスキュー使用量が少ないことを示した。研究の成果はNEJM誌2026年7月30日号に掲載された。4群を比較する無作為化第IIb相試験 研究グループは、LTG-001の術後の疼痛緩和効果の評価を目的に二重盲検無作為化プラセボ対照第IIb相試験を実施した(Latigo Biotherapeuticsの助成を受けた)。 2025年7~12月に米国の4施設で参加者を登録した。対象は、年齢18~65歳、腹直筋縫縮術を伴う待機的下腹部腹壁形成術を受け、術後4時間以内の言語的カテゴリー評価尺度(verbal categorical rating scale[VRS]:4段階[疼痛なし~重度疼痛])で中等度または重度の安静時疼痛を示し、数値的疼痛評価尺度(numeric pain rating scale[NPRS]:11段階[0点:疼痛なし~10点:想像しうる最悪の痛み])で安静時に5点以上の患者であった。 被験者343例を、低用量LTG-001(85例)、高用量LTG-001(86例)、酒石酸水素ヒドロコドン-アセトアミノフェン(86例)、プラセボ(86例)を投与する4群に無作為に割り付けた。 低用量LTG-001群は、負荷用量として300mgを、その後は維持用量として150mgを12時間ごとに48時間、経口投与した。高用量LTG-001群は、負荷用量450mg、維持用量300mgを同様に投与した。 主要評価項目は、48時間の治療期間におけるベースラインと各評価時点の疼痛強度の差の時間加重合計(SPID48)とした。SPID48は、NPRSスコアに基づき、数値が高いほどベースラインからの疼痛軽減度が大きいことを示す(急性疼痛における臨床的に意義のある最小差は確立されていない)。低・高用量ともSPID48が有意に改善 全体で患者の95.6%が試験を完了した。ベースラインにおける4群の被験者特性は類似しており、平均年齢は39.9~41.2歳、女性が98~99%であり、VRSで中等度疼痛の患者割合の範囲は43~52%、重度疼痛は42~57%であり、各群の平均NPRSスコアの範囲は7.3~7.5点だった。 最小二乗平均SPID48は、低用量LTG-001群が161.05(95%信頼区間[CI]:142.93~179.16)、高用量LTG-001群が185.30(95%CI:167.26~203.34)、酒石酸水素ヒドロコドン-アセトアミノフェン群が164.08(95%CI:146.02~182.14)、プラセボ群は123.22(95%CI:105.23~141.21)であった。 SPID48の最小二乗平均差は、低用量LTG-001群とプラセボ群が37.82(95%CI:12.62~63.03、p=0.003)、高用量LTG-001群とプラセボ群は62.08(95%CI:36.95~87.21、p<0.001)であり、いずれもLTG-001群で有意に良好であった。 オピオイドの総レスキュー使用量(最小二乗平均)は、プラセボ群(18.35モルヒネ ミリグラム当量[MME])と比較し、高用量LTG-001群(11.00MME)は有意に少なかったが(群間差:-7.35MME、95%CI:-13.12~-1.58、p=0.01)、低用量LTG-001群(12.95MME)では有意差はなかった。 また、オピオイドのレスキュー投与を受けなかった患者の割合は、高用量LTG-001群がプラセボ群に比べ有意に高かった(52%vs.22%、p<0.001)。 意義のある疼痛緩和(NPRSスコアのベースラインから2点以上の低下)が達成されるまでの時間中央値は、低用量LTG-001群が60.0分、高用量LTG-001群は51.7分であり、酒石酸水素ヒドロコドン-アセトアミノフェン群は82.8分、プラセボ群は87.5分であった。高用量LTG-001群は発熱、失神寸前の状態の頻度が高い 有害事象の発生率は高用量LTG-001群で最も低かった(低用量LTG-001群62%、高用量LTG-001群50%、酒石酸水素ヒドロコドン-アセトアミノフェン群63%、プラセボ群65%)。最も頻度の高い有害事象は、悪心、頭痛、めまいであり、これらの多くは軽度または中等度であった。 プラセボ群との比較で高用量LTG-001群は、発熱(7%vs.2%)と失神寸前の状態(6%vs.1%)の頻度が高かった。重篤な有害事象は各群で1例ずつ発生した。LTG-001群とプラセボ群では、試験レジメンの中断や試験中止に至った有害事象、および死亡例は認められなかった。 著者らは、「これらの結果を確認し、他の急性疼痛モデルにおけるLTG-001の有効性および安全性プロファイルを明らかにし、LTG-001の相対的有効性を他のNav1.8阻害薬と比較するために、さらなる検討が必要である」としている。

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第70回 あなたの体は何歳ですか?「老化時計」が明かす、臓器ごとに進む老いの正体

この100年で人間の平均寿命はおよそ2倍になりました。ところが、健康に過ごせる期間(健康寿命)は同じペースでは延びておらず、心臓病やがん、認知症、身体の障害などを抱えて暮らす人はむしろ増えています。この「長生きするけれど健康ではない」というギャップを埋める鍵として注目されているのが、老化の速さそのものを数値で測る「生物学的時計」です。今回はそんな概念を取り扱った論文をもとに最新の知見をシェアしていきます1)。老化は「一定のスピード」では進まないかつて老化は、誰の体でも年齢とともに一定の速さで進むものと考えられてきました。しかし近年の大規模な研究で、その常識は覆されつつあります。血液中のタンパク質やDNAの変化を数万人規模で追跡すると、老化は一定ではなく、人生のなかで何度か「波」となって加速することがわかってきたのです2)。論文の中では、成人期におよそ3つの大きな転換期があると指摘されています。目安は「30~40歳ごろ」「60~70歳ごろ」「80歳前後」。この時期に体内の分子レベルの変化が一気に進むことが、複数の独立した研究で繰り返し確認されています。つまり老化は坂道をなだらかに下るというより、階段を数段まとめて下りるようなイメージに近いのです。この転換期は、生活を見直したり対策を打ったりする「介入の窓」にもなりうると期待されています。脳と免疫の「若さ」が寿命を左右するもう1つの重要な発見が、同じ人の体の中でも臓器ごとに老化のスピードが違うということです。心臓は実年齢より若いのに、肝臓は老けている、といったことが実際に起こります。英国の大規模データを用いた研究では、ある臓器が実年齢より「老けている」人ほど、その臓器に関連する病気や死亡のリスクが高いことが示されました。とくに3つ以上の臓器で老化が進んでいる人では、その傾向がはっきりと強まります。また、脳の生物学的な老化が進んでいる人では、アルツハイマー病を発症するリスクが約3.1倍に上ったと報告されています。逆に、脳や免疫が「若い」状態を保っている人は長生きしやすい傾向がありました3)。老化時計を活用することで、症状が出るより何年も前に、リスクの高い人を見つけ出せる可能性もあるわけです。老化時計は遅らせられる?では、この時計の進み方は変えられるのでしょうか。論文によれば、運動、適度なカロリー制限、オメガ3脂肪酸やビタミンDの摂取などが、DNAの老化の指標をわずかに遅らせる可能性が報告されています4)。また、少し有名な話になりましたが、帯状疱疹ワクチンの接種者で認知症が少なく、老化が緩やかだったという研究も複数あります5)。糖尿病や肥満の治療に使われるGLP-1受容体作動薬にも、老化を遅らせる働きの可能性が指摘されています。ただし、過度な期待は禁物です。これらの効果は示されているとしてもまだ「わずか」で、長期的に寿命や健康寿命を本当に延ばすのかは未確認です。また、市販されている老化測定検査は測定方法がバラバラで標準化されておらず、同じ人が受けても結果が大きく食い違うことがあります。現時点では、個人が一度の検査結果に一喜一憂する段階にはありません。大切なのはおそらく、特別な検査を受けることよりも、運動・睡眠・食事といった昔から知られた生活習慣が、体の「老化時計」の進み方に確かに影響するという事実です。ただし、ここでご紹介した「老化時計」は、病気になってから治す「後追いの医療」から、リスクを早期に見つけて防ぐ「先手の医療」へと転換する、次の大きな一歩になろうとしているのもまた事実だと思います。1)Wyss-Coray T, et al. Biological aging clocks in health and disease. Nat Med. 2026;32:2383-2394.2)Oh HS, et al. Organ aging signatures in the plasma proteome track health and disease. Nature. 2023;624:164-172.3)Balachandran A, et al. Pace of aging associations of healthspan and lifespan in older adults in the US and UK. Nat Aging. 2025;5:1132-1142.4)Belsky DW, et al. DunedinPACE, a DNA methylation biomarker of the pace of aging. eLife. 2021;11:e73420.5)Kim JK, et al. Association between shingles vaccination and slower biological aging: evidence from a U.S. population-based cohort study. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2026;81:glag008.

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若年発症がんの増加、背景に生物学的老化の加速?

 近年、若い世代でのがん発症リスクが増加していることが示されているが、それを説明し得る要因が新たな研究によって浮かび上がった。この研究を実施した米セントルイス・ワシントン大学医学部准教授のYin Cao氏らによると、若い世代に見られる生物学的老化の加速が、がんに対処する体の仕組みに影響を及ぼしている可能性があるという。詳細は、「Nature Medicine」に6月22日掲載された。 研究グループの説明によると、50歳未満または55歳未満で診断される若年発症がんは、1990年から2019年にかけて世界全体で24%増加し、現在も増加し続けている。また、米国、英国、カナダ、オーストラリアでは、1990年代生まれの人は1960年代生まれの人と比べて若年発症大腸がんリスクが少なくとも4倍高いという。 研究グループによると、なぜ若い世代でがんリスクが高まっているのかについては明らかになっていない。一般的に、がんは加齢に伴う疾患と見なされている。高齢者でがんリスクが高いのは、がんの発生につながる細胞損傷が長年にわたって蓄積しているためと考えられている。このことから研究グループは、生物学的老化の加速が若い世代のがんリスクの上昇に関与しているのではないかと考えた。生物学的老化とは、出生からの経過年数を表す暦年齢とは異なり、日々の生活の中で生じる身体の摩耗や損傷の蓄積を反映した生物学的年齢に基づく老化を指す。 今回の研究では、英国の大規模なヘルスリサーチ・プロジェクトであるUKバイオバンクの参加者である15万4,169人(女性55%、白人92%)の若年成人と、米国の同様の研究プロジェクト(All of Us Research Program)参加者1万262人(女性69%、非ヒスパニック系白人54%)のデータを解析した。参加者ごとに、血液検査の測定値に基づく全身の生物学的年齢(PhenoAge、Klemera−Doubal Method〔KDM〕年齢)と、メタボロミクス解析に基づく生物学的年齢を推定し、出生コホート(世代)による違いと若年発症がんとの関連を検討した。さらに、生体内に存在する全てのタンパク質(プロテオーム)を解析するプロテオミクス解析により臓器ごとの生物学的年齢を推定し、臓器別老化と若年発症がんリスクとの関連を検討した。 その結果、若い世代ほど生物学的老化が加速している可能性が示され、生物学的年齢が暦年齢より高いほど、がんリスクも高まることが示された。例えば英国では、暦年齢で調整後の解析でも、1950~1954年生まれの人と比べて1965~1975年生まれの人では、標準化したPhenoAgeに基づく年齢差(生物学的年齢−暦年齢)が23%大きかった。この生物学的老化の加速は、若年発症固形がんリスクの8%の上昇と関連していた。さらに、参加者を生物学的老化の加速の程度に基づき分類すると、生物学的老化が最も加速していた群では、加速の程度が最も低かった群と比較して、若年発症固形がんリスクが15%高かった。米国でも同様に、1965~1969年生まれの人と比べて1990~1999年生まれの人では標準化したPhenoAgeに基づく年齢差が平均で92%大きかった。 さらに、生物学的老化の加速は、若年者における特定の臓器のがんのリスク上昇にも関連していた。例えば、免疫系の老化が進んでいることは若年発症肺がんのリスク上昇に関連していた一方、脂肪組織の老化が進んでいることは若年発症大腸がんのリスク上昇に関連していた。 研究グループによると、生物学的老化が加速する原因はまだ明らかになっていないが、環境要因、生活習慣、社会的要因などが若い世代の体に長期的な影響を及ぼし、老化を加速させている可能性は考えられるという。Cao氏は、「われわれの最終的な目標は、現代の環境がどのように生物学的な変化として体内に組み込まれ、がんリスクを高めるのかを解明し、がん予防を幅広い対象者への推奨から個別化された介入へと転換させることだ。これによって、より早期段階でリスクを特定し、個々人の生物学的特性に合わせた予防戦略を開発することに一歩近付くことができる」と話している。

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断食模倣食、歯周病患者の炎症マーカー低下と関連

 断食を模倣した食事スタイルを短期間実施することで、歯周病に伴う炎症が軽減されるとする、英キングス・カレッジ・ロンドン(KCL)のGiuseppe Mainas氏らによる論文が6月10日、「Journal of Clinical Periodontology」に掲載された。論文の筆頭著者である同氏は、「本研究結果は歯周病の治療において、適切な歯磨きに加えて生活習慣の改善も重要であることを示唆している」と述べている。 歯周病対策として多くの歯科医は、歯の周囲の感染部位の清掃に重点を置いている。一方で、食生活が歯周病に何らかの影響を及ぼす可能性について検討している研究者もいる。 Mainas氏らの研究は、スペインで実施された。歯周病患者28人を募集し、無作為に2群に分けて、1群を短期間の断食模倣食を実施する断食群、他の1群を通常の食事を続ける対照群とした。断食群では6カ月の間に3回にわたり、5日間の断食模倣食を実施した。5日間のうち初日の摂取量は約1,100kcalとし、2~5日目は1日当たり約750kcalとして、6日目は普段の食事への移行日、7日目からは通常の食事とした。 6カ月間に複数回にわたり、血液と歯肉溝滲出液(歯と歯茎の間の小さな隙間からにじみ出ている液体)を採取して、炎症に関わるマーカーを測定した。その結果、断食群に割り当てられていた患者では、血液と歯肉溝滲出液の双方で炎症マーカーの低下が認められた。 論文の上席著者であるKCLのLuigi Nibali氏は、「断食が歯茎の健康に良い影響を与えるメカニズムとして、いくつかの要因が考えられる」とし、以下のような解説を加えている。 まず断食は、細胞やDNAにダメージを与え得る「炎症」の主要な原因である、体内の酸化ストレスを軽減するという。また、ケーキやビスケットのような高カロリー食品や精製された炭水化物の摂取も炎症を引き起こす可能性があることから、断食によってそれらの食品の摂取が減ることも、体内の酸化ストレス軽減につながる、としている。 Nibali氏はまた、体内の健康維持に有用なマイクロバイオームに対して、断食が有益な効果をもたらす可能性もあるとしている。ただし、「この関係性を確認するには、さらなる研究が求められる」という。 Mainas氏らは、今回の研究結果を今後の歯周病治療に反映させるよりも先に、より大規模な研究を行う必要があると考えている。「糖尿病患者など、食事制限の実施が危険なケースもあるため、断食模倣食は対象患者を慎重に選んで推奨すべきだろう。われわれは現在、断食模倣食の実施が困難な高リスク者に対して、明らかにされたメリットをどのような形で適用可能かを検討している」と同氏は述べている。

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豆類や大豆製品の摂取で高血圧リスクが低下か

 豆類(エンドウ豆、レンズ豆、ヒヨコ豆など)および大豆製品(大豆、豆腐、味噌など)の摂取が、高血圧発症リスクの低下に役立つ可能性を示唆するデータが報告された。それらの摂取量が多い人には、高血圧が少ないという。植物性食品に関する英国の医療専門家団体(Plant-Based Health Professionals UK)のMichael Metoudi氏らの研究によるもので、詳細は「BMJ Nutrition, Prevention & Health」に5月7日掲載された。 これまでに行われたいくつかの研究で、豆類や大豆製品の摂取量が多いほど高血圧のリスクが低いことが示唆されてはいるが、結果の一貫性が十分でない。これを背景としてMetoudi氏らは、豆類や大豆製品の摂取と高血圧リスクとの関連性を明らかにするため、システマティックレビューとメタ解析を実施した。 PubMedおよびEmbaseに2025年6月14日までに収載された文献を対象とする検索の結果、12件の前向きコホート研究を報告した10報の論文が抽出された。12件のうち5件は米国からの報告であり、そのほかに中国から2件、英国、フランス、日本、韓国、イランから各1件報告されていた。研究参加者数は1,152~8万8,475人の範囲だった。 豆類の摂取量と高血圧リスクの関連を検討した10件の研究のうち、3件は摂取量が多い人の方が少ない人よりも高血圧リスクが低いと報告しており、7件は有意差がないと報告していた。メタ解析の結果、豆類の摂取量が多い人は少ない人よりも高血圧リスクが16%低いという関連が示された(相対リスク〔RR〕0.84〔95%信頼区間0.77~0.93〕)。 大豆製品の摂取量と高血圧リスクを検討した7件の研究のうち、4件は摂取量が多い人の方が少ない人よりも高血圧リスクが低いと報告しており、3件は有意差がないと報告していた。メタ解析の結果、大豆製品の摂取量が多い人は少ない人よりも高血圧リスクが19%低いという関連が示された(RR0.81〔同0.70~0.93〕)。 用量反応解析から、豆類に関しては1日の摂取量が約170gまでは、摂取量が多いほど高血圧リスクが低いという直線的な関係が見られた。大豆製品に関しては非線形の関係が見られ、1日の摂取量が60~80gほどでリスク低下がほぼ頭打ちになることが判明した。 この結果について著者らは、「豆類や大豆に豊富に含まれる、カリウム、マグネシウム、食物繊維などの栄養素が、高血圧リスクを抑制するように働くのではないか」と述べている。なお、英国や欧州における豆類の摂取量は1日に8~15gほどであり、心血管系の健康のために推奨されている65~100gを大きく下回っているとのことだ。 「BMJ Nutrition, Prevention & Health」誌の運営に関与している英国のシンクタンク(NNEdPro Global Institute for Food, Nutrition and Health)のSumantra Ray氏は、「この報告は、植物性食品の心血管保護効果を支持するものだ。本論文の著者らは、世界的な高血圧の負担軽減に向けて、豆類や大豆製品の摂取を増やす食事戦略を支持するエビデンスを強化したと言える」とコメントしている。

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【GET!ザ・トレンド】Less is More?β-ラクタマーゼ阻害薬nacubactamが拓くAMR治療の展望

薬剤耐性菌(AMR)は公衆衛生における世界的な社会課題である。なかでもカルバペネム系抗菌薬に耐性を示すカルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)はWHOの細菌優先病原体リストにおいて、クリティカル(最重要)に分類されている。そのCREに対し、Meiji Seikaファルマは新規β-ラクタマーゼ阻害薬nacubactam(OP0595)を承認申請中である。CRE感染症に対する同剤の特徴と効果、さらに新規抗菌薬開発の課題について、同社研究開発本部の加藤誠司氏らに話を聞いた。喫緊の課題カルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)AMRついての世界的な調査報告書であるJim O'Neill氏による耐性菌レポートによれば、新規抗菌薬の研究開発等の対策を講じなければ2050年までに年間1,000万人がAMRにより死亡すると報告されている。これを受け、WHOが薬剤耐性に関するグローバル・アクションプランを策定し、それを基に日本を含む世界各国がそれぞれの国の課題に応じたアクションプランを策定し取り組んでいる。抗菌薬に耐性を示す代表的な機序としてβ-ラクタム系抗菌薬の分解酵素であるβ-ラクタマーゼがある。カルバペネマーゼはβ-ラクタマーゼの1種で、その名のとおりカルバペネム系抗菌薬を分解する酵素である。カルバペネム系抗菌薬は重症感染症治療に使用される。最後の砦であるカルバペネム系抗菌薬を無効化するカルバペネマーゼ産生菌による感染症は、患者の重篤化、入院長期化、さらに死亡率の増加を招く。そのためCRE感染は5類感染症として全例報告が義務付けられるなど、日本でも喫緊の課題とされている。nacubactamによるβラクタマーゼへの阻害活性と、エンハンサー効果nacubactamは、Meiji Seikaファルマが自社で創出した新規β-ラクタマーゼ阻害薬である。2025年12月にカルバペネム系薬に耐性のグラム陰性菌による感染症治療薬として国内承認申請された。同剤はβ-ラクタム薬(セフェピム[CFPM]またはアズトレオナム[AZT])との併用で、CREに対するβ-ラクタム薬の分解を阻害するだけでなく、併用するβ-ラクタム薬の抗菌活性を増強させるという従来のβ-ラクタマーゼ阻害薬にはない特性を持っている。具体的には、nacubactamはPBP2の阻害作用を有する。一方、CFPMやAZTといったβ-ラクタム系抗菌薬はPBP3を阻害する。つまり、CFPMおよびAZTとnacubactamの併用により、PBP2とPBP3双方を阻害して抗菌活性・殺菌作用を増強することが可能となる(エンハンサー効果)。β-ラクタマーゼ阻害薬を単味製剤として開発していることも大きな意味を持つ。単味製剤のメリットとして既存抗菌薬との組み合わせ次第で将来出現する細菌にも柔軟に対応できる可能性がある。また、既存の抗菌薬と組み合わせて耐性菌に対応できるため、従来の配合剤のようにそれぞれのβ-ラクタム薬との配合剤を新薬として医療機関で保管する必要がなくなり、薬剤数抑制の観点からもメリットが生まれると考えられる。β-ラクタマーゼはAmbler分類でクラスAからDに分かれている。国や地域によって優勢なクラスや型が異なり、それに応じて有効な薬剤も変わる。画像を拡大するなかでもクラスBに有効な薬剤は限られており、その対策には課題が残る。最新報告によれば、国内のCREは約1,000例で、大部分はクラスBのIMP型だ。また、近年はクラスBのNDM型も増加傾向にある。厚生労働省によるカルバペネム低感受性腸内細菌目細菌株の感性率を見ると、セフェピムおよびnacubactamとの併用(以下、CFPM/NAC)はクラスA、C、Dのβラクタマーゼに高い感性率を示す。また、アズトレオナムおよびnacubactamとの併用(以下、AZT/NAC)はA、C以外にもクラスB(IMP型、NDM型とも)にも高い感性率を示すことが明らかになっている。画像を拡大する2つの第III相国際共同試験nacubactamの臨床開発では、欧州・日本を含むアジアで2つのグローバル第III相臨床試験(Integral-1、Integral-2)が実施された。Integral-1試験は、カルバペネム感受性の複雑性尿路感染症または急性単純性腎盂腎炎患者を対象に、CFPM/NACおよびAZT/NACをカルバペネム系抗菌薬であるイミペネム/シラスタチン(IPM/CS)と比較した二重盲検比較試験である※。IPM/CSに対する主要評価項目(投与終了7日後の総合臨床効果)において、AZT/NACは非劣性を、CFPM/NACは非劣性かつ優越性を証明した。結果は米国の感染症の学会であるIDWeek2025で反響を呼びThe Lancet Infectious Diseases誌による学会のハイライトにも取りあげられ、試験の内容はThe Lancet2026年5月16日号に掲載された。※通常の成人で、セフェピム2g+nacubactam1g、アズトレオナム2g+nacubactam1gまたはIPM1g /CS1g (いずれも1日3回静注)を投与もう1つの第III相試験であるIntegral-2試験は、CRE感染症患者を対象とした試験である。欧州臨床微生物学感染症学会議(ESCMID Global2026)では口頭演題に採択され発表に至っている。ESCMID Global 2026では、nacubactamに関する10演題が発表され、いずれも活発な議論が展開されたという。同剤に対する世界的な注目度の高さが窺える。新たなスタイルで行われたnacubactamの開発新規抗菌薬の開発にはさまざまな困難が伴う。感染症は被験者数が限られているため、臨床開発において症例を集積するには多くの国・施設の協力が不可欠だ。その分、開発コストは莫大になる。一方で、適正使用により患者数が限定されるなか、安定供給のための製造コストも増加しており経済合理性の欠如から、大手製薬メーカーが抗菌薬開発から撤退する負のサイクルに陥っている。nacubactamの開発に当たってはAMEDによる医療研究開発革新基盤創成事業(CiCLE)の支援を得ている※。この研究課題では、第I相試験の薬物動態(PK/PD)からシミュレーションした用法用量を、第II相を介さずに第III相試験で検証している。結果は評価項目を達成し、第II相試験を省略して開発することが可能となった。困難な状況の中で「プロジェクトメンバー全員が、CREによる感染症に苦しむ患者さん全員を救うという思いでnacubactamの開発にあたっている」と加藤氏は述べる。※CiCLE研究開発課題「非臨床PK/PD理論を活用した新規β-ラクタマーゼ阻害剤(OP0595)の単味製剤の研究開発」プル型インセンティブの拡大が抗菌薬開発の鍵を握る新規抗菌薬の開発にあたっては、承認取得後の課題も深刻だ。上市後の適正使用を徹底すると使用症例数は絞られ、販売額は縮小する。加藤氏によれば、新薬の上市まで至った会社も事業が維持できず倒産する事例も少なくない。新規抗菌薬の開発を支える仕組みとして、研究開発費を支援するプッシュ型インセンティブと、承認・発売後の採算性を維持・向上させるプル型インセンティブ制度がある。国内ではプル型インセンティブとして抗菌薬確保支援事業が設けられているが、その予算枠では安定供給に資する製造コストを維持するのに課題もあり、今後の抗菌薬開発においてはプル型インセンティブの拡充がより重要になっていくと考えられる。Meiji Seikaファルマとしても、製薬協と連携しながらプル型インセンティブの拡大に向け、国への働きかけを続けている。nacubactamは新たなβ-ラクタマーゼ阻害薬として、β-ラクタム薬との併用で従来にはない強力な抗菌活性を発揮する。また、単味製剤の利点を生かし、新たな組み合わせを開発することで将来的に新たな耐性菌に備えることができる可能性を持つ。第一歩としてCREという最重要耐性菌に立ち向かうnacubactamに注目したい。 参考 1) O'Neill J, Review on Antimicrobial Resistance. Tackling Drug-Resistant Infections Globally: Final Report and Recommendations. Wellcome Trust and HM Government 2) 厚生労働省 薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書(サマリ版) 3) 国立健康危機管理研究機構(JIHS)国際感染症センターカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)感染症に関する一般的事項 4) 国際健康危機管理研究機構(JIHS)カルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)感染症, 2024年現在 5) Takahashi S, et al. Lancet.2026;407:1929-1940.

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高い心肺フィットネス、心房細動リスク上回る健康効果

 若い男性では、心肺フィットネスレベルが高いほど心房細動(AF)リスクが上昇するとされてきたが、そのリスクは従来考えられていたほど大きくない可能性があるようだ。112万人超のスウェーデン人男性を対象とした新たな研究で、心肺フィットネスレベルが高い男性ではAFリスクの上昇が認められたものの、AF以外の心血管疾患(CVD)リスクの低下はAFリスクの上昇を上回ることが示された。研究グループは、「今回の研究は、高い心肺フィットネスレベルやレースへの参加が心血管の健康に大きなリスクをもたらすとする見方について、より慎重な解釈が必要であることを示している」と述べている。ウプサラ大学(スウェーデン)のMarcel Ballin氏らによるこの研究の詳細は、「Circulation」に5月21日掲載された。 この研究でBallin氏らは、1972~1995年に徴兵検査を受け、心肺フィットネス検査を完了した112万4,049人(平均年齢18.3歳)のスウェーデン人男性のデータを解析した。評価項目はAFおよびAF以外のCVD(脳卒中、虚血性心疾患など)とし、それぞれについて、診断または死亡から成る複合エンドポイントを2023年12月31日まで追跡した。 追跡期間中に4万5,179人(4.0%)がAF、9万6,404人(8.6%)がAF以外のCVDを発症していた。発症時の年齢中央値は、AFで54.8歳、AF以外のCVDで54.4歳だった。心肺フィットネスレベルをその高低に応じて10段階のグループに分けて解析した結果、成人期初期では、レベルが最も低い群と比較して最も高い群でAFリスクに軽度の上昇が認められた一方で、AF以外のCVDリスクには低下が認められた。この利益とリスクの関係は、40歳まではAFリスクの上昇による影響がCVDリスクの低下による利益を上回っていたが、45歳以降ではCVDリスクの低下による利益がAFリスクの上昇による影響を上回るようになった。 さらに研究グループは、対象者の約半数を占めていた兄弟ペアを対象に解析を行った。兄弟は、遺伝的背景や幼少期の環境、社会経済的要因などを共有しているため、これらの交絡因子の影響をより正確に評価できると考えられるからだ。その結果、35歳時点ですでにAFリスクの上昇を上回るCVDリスクの低下が認められた。また、主解析で見られた、年齢依存的に利益とリスクの関係が逆転する現象は認められなかった。 こうした結果から研究グループは、「これまで報告されてきた心肺フィットネスレベルとAFとの関連は、兄弟間で共有される遺伝的要因や環境要因によって、少なくとも一部は説明される可能性がある」と結論付けている。また、生涯にわたって見れば、高い心肺フィットネスレベルが健康にもたらす利益は、AFリスクの上昇による不利益を上回ると言えると述べている。

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アルツハイマー病のバイオマーカー、中年期にも検出可能か/Lancet

 アミロイドβ(Aβ)およびリン酸化タウ(p-tau)タンパク質の蓄積を特徴とするアルツハイマー病の神経病理学的所見は、主に高齢者の検体のバイオマーカーを用いて評価しており、中年期の血漿バイオマーカーの状態や、その認知機能との関連はほとんど知られていないという。米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のXiaqing Jiang氏らは、これらの血漿バイオマーカーによって定義されるアルツハイマー病の神経病理学的陽性所見は、相対的に頻度は低いものの、中年期にも検出可能であり、認知能力の低下やその加速と関連し、特定の集団においてより強い関連性を持つ可能性があることを示した。研究の成果はLancet誌2026年5月30日号で報告された。米国の前向きコホート研究 研究グループは、中年期におけるアルツハイマー病の神経病理学的所見を示す血漿バイオマーカーの特徴と認知能力との関連を検証する目的で、地域ベースの前向きコホート研究を実施した(米国国立心肺血液研究所[NHLBI]などの助成を受けた)。 解析には、Coronary Artery Risk Development in Young Adults(CARDIA)研究の参加者のデータを用いた。CARDIA研究では、1985~86年に米国の4市で年齢18~30歳の黒人と白人5,115人を登録した。 認知機能は、30年目と35年目に5つの標準化された検査で測定した。また、血漿中のAβ42、Aβ40、p-tau217濃度を測定し、p-tau217/Aβ42比とAβ42/Aβ40比を算出した。 アルツハイマー病の神経病理学的状態(陰性、中間的、陽性)は、各バイオマーカー(p-tau217/Aβ42、p-tau217、Aβ42/40)について、アミロイドPETで検証したカットオフ値に基づいて定義した。 アルツハイマー病の神経病理学的所見と、認知機能(Zスコア)および認知機能の急速な低下との関連を、多変量線形回帰とロジスティック回帰を用いて評価した。処理速度と実行機能の能力低下と関連 1,350人が解析の対象となった。平均年齢は61(SD 3.6)歳(範囲:53.0~69.0)、779人(58%)が女性、613人(45%)が黒人、737人(55%)が白人であった。 アルツハイマー病の神経病理学的所見の、バイオマーカー別の陽性者は、p-tau217/Aβ42で86人(6%)、Aβ42/40で196人(15%)、p-tau217で48人(4%)であった。 これは、処理速度に関する能力低下と関連し(アルツハイマー病の神経病理学的所見の陽性群と陰性群を比較した標準化認知機能差が、Aβ42/40、p-tau217、p-tau217/Aβ42で-0.54~-0.25の範囲、p=0.0001~0.0048)、実行機能の能力低下とも関連した(-0.42~-0.19の範囲、p=0.0070~0.049)。 また、アルツハイマー病の神経病理学的所見の陽性者は陰性者と比較して、言語性記憶(Aβ42/40のオッズ比[OR]:4.31[95%信頼区間[CI]:1.71~10.9]、p-tau217/Aβ42のOR:2.44[1.16~5.13])、処理速度(p-tau217のOR:3.98[95%CI:1.71~9.3]、p-tau217/Aβ42のOR:3.35[1.77~6.35])の加速度的低下のオッズが上昇していた。早期発見での価値を強調する知見 一方、これらの血漿バイオマーカーは、全般的認知機能(global cognition)や流暢性(fluency)とは関連しなかった。 また、一貫性はみられなかったが、血漿バイオマーカーと認知機能の関連にはいくつかの効果修飾が観察され、女性や黒人の参加者、およびAPOEε4保有者においてより強い関連性を認めた。 著者は、「これらの知見は、アルツハイマー病は臨床症状が現れる数十年前に始まっているという概念を裏付けており、一般住民における早期発見のための血漿バイオマーカーの潜在的な価値を強調するものである。血漿バイオマーカーを用いたアルツハイマー病の神経病理学的所見の早期検出は、リスクの低減や薬物療法などによる、中年期の成人に対する時宜にかなった予防や介入を可能にすると考えられる」としている。 また、「手軽な血液検査によってアルツハイマー病の初期の神経病理学的変化を有する個人を特定できれば、認知症の発症の遅延や予防を目的とした戦略や臨床試験の対象を絞り込むのに役立ち、臨床現場と公衆衛生施策の両方に重要な示唆を与える」と指摘している。

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脳梗塞治療と心筋梗塞治療の類似性と相違(解説:後藤信哉氏)

 今の若い世代の循環器内科医にとって、心筋梗塞に対する再灌流療法は冠動脈インターベンションであろう。1986年から循環器内科医をしている筆者は、心筋梗塞治療に血栓溶解療法が主流になりそうな時代があったことを知っている。血栓溶解療法には内因系のプラスミノーゲンをプラスミンに転換することにより、線溶効果を狙う。ヒトの身体はバランスが取れているので、線溶を亢進させれば、体内の血栓性も亢進する。血栓溶解療法には血小板、凝固系を阻害する抗血栓療法の併用が必須である。われわれは1980~90年代に多数の抗凝固薬、抗血小板薬の併用を試してきた。 脳梗塞治療では血管インターベンションが血栓溶解療法を完全に置換してはいない。本研究でも血栓溶解療法施行時の併用療法が比較された。心筋梗塞後も、当初は抗血小板併用療法が試された。本研究でもチカグレロルを早期から開始する抗血小板併用療法にて予後が改善されたと報告されている。 チカグレロルの用量として循環器と同様90mg bidが選択されている。急性冠症候群では国際共同試験では90mg bidがクロピドグレルよりも有効とされた。しかし、日本などの東アジアではglobal試験の優越性を確認できなかった(Goto S, et al. Circulation Journal. 2015;79:2452-2460.)。本試験は中国にて施行されたがglobal doseが選択されたのは興味深い。 出血合併症から考えれば線溶療法より冠動脈インターベンションが優れていることが心筋梗塞では示されている。抗血小板薬併用療法も、出血合併症リスクが循環器では強調されている。現在、脳領域は1980~90年代の循環器内科を追いかけているようだが、脳梗塞治療も心筋梗塞治療同様カテーテルインターベンションの時代になるのか? いつまでも線溶療法の時代が持続するのか? 興味深く見守りたい。

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日本のがん死亡率低下も、大腸がん・膵がん・子宮頸がんは依然高水準

 日本では全がんの年齢調整死亡率(ASR)が着実に低下している一方で、大腸がん、膵がん、子宮頸がんなど一部のがん種では依然として国際的に高い死亡率が続いていることが明らかになった。胃がんと肝がんでは大幅な改善が認められたものの、予防や検診による死亡率低下が期待されるがん種において十分な成果が得られていない実態が浮き彫りとなった。国立がん研究センターの片野田 耕太氏らによる本研究の結果はJapanese Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2026年3月5日号に掲載された。 研究では、国際がん研究機関(IARC)のGlobal Cancer Observatoryデータベースおよび各国の人口動態統計を用い、日本、韓国、米国、英国、カナダ、オーストラリアなどの高所得国における1980~2024年のがん死亡率の推移を比較した。解析対象は全がんに加え、胃がん、大腸がん、肝がん、膵がん、肺がん、乳がん、前立腺がん、子宮頸がん、子宮体がんだった。肝がん・胃がんは日本の成功事例 歴史的に日本で死亡率が高かった胃がんと肝がんについては、長期的に大幅な減少がみられ、欧米諸国との国際格差は大幅に縮小した。とくに女性の肝がん死亡率については、日本が欧米諸国を下回る水準にまで低下した。著者らはこの背景として、B型・C型肝炎ウイルス検査の全国的な実施、妊婦へのHBs抗原検査、さらには直接作用型抗ウイルス薬(DAA)の普及といった一連の肝炎対策が有効に機能したと考えられ、WHOが掲げる2030年までのC型肝炎排除目標に向け、国際的なモデルケースになり得る、としている。 一方、胃がんも日本における死亡率は低下し続けているものの、韓国の減少速度には及ばなかった。日本ではヘリコバクター・ピロリ除菌の保険適用拡大など1次予防が進む一方、韓国では内視鏡検診を中心とした2次予防が強力に推進されている。また、韓国では国家健康保険制度により検診データが一元管理されているのに対し、日本では職域検診の精度管理やデータ統合に課題が残ることが示唆された。大腸がん・膵がん・子宮頸がんは深刻な高水準 大腸がん死亡率は1980年代には欧米のほうが高かったが、その後減少が進んだ。これに対し日本では明確な低下傾向がみられず、近年では比較対象国の中でも高い水準となっている。韓国も近年減少傾向に転じており、日本との差が広がっている。 膵がんは、日本において男女とも死亡率の上昇が続いており、国際的にみても高い水準が際立っている。早期発見が困難で予後不良な疾患であるが、喫煙や2型糖尿病が重要なリスク因子であり、禁煙や糖尿病管理といった1次予防の重要性が改めて示された。 子宮頸がんにおいても、日本の相対的な立ち位置は悪化した。欧米諸国や韓国では死亡率が大幅に減少した一方、日本では高止まりが続いている。HPVワクチンの積極的勧奨の中止と再開の経緯もあって接種率はいまだ不十分であり、ワクチン接種と検診の双方を速やかに強化する必要性が示された。乳がん・肺がんでも改善が緩やか 女性の乳がん死亡率は欧米では着実に低下している一方、日本では増加傾向が続き、差は縮小している。男性の肺がんでも欧米に比べて死亡率低下が緩やかであり、近年では日本の死亡率が欧米を上回る状況となっている。一部のがんでは予防を強化する必要性 本研究により、日本の全がんのASRは他国と同様に引き続き低下していることが示された。とくに、かつて日本の死亡率の高さの要因となっていた胃がん、肝がんで持続的な低下がみられ、欧米諸国との差は縮小し、女性の肝がんでみられるように一部では逆転している。一方で、日本は大腸がん、膵がん、および子宮頸がんにおいて依然として最も高い死亡率を示している。女性の乳がんおよび男性の肺がんでは、日本における低下の遅れ、あるいは継続的な増加により、死亡率が欧米諸国の水準に近づいている。これらのがんの多くでは、1次予防および2次予防の方法が確立されており、胃がん、肝がんで達成された死亡率低下を再現するために、予防対策を強化する必要性が示唆される。

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第62回 コンゴでエボラ流行、87人死亡。私たちが知らない落とし穴

2026年5月17日、世界保健機関(WHO)は、アフリカ・コンゴ民主共和国の東部イトゥリ州で発生しているエボラ出血熱の流行を、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」に該当すると宣言しました1)。アフリカ連合によれば、すでに87例が亡くなり、疑い例を含めると336例の感染が判明しているとされています。隣国ウガンダではコンゴ人男性の死亡例もすでに報告されており、周辺国への波及が強く警戒される事態となっています2)。「またエボラ?」と思った方も多いかもしれません。「エボラのワクチンはあるって聞いたけど、どうして今も流行を抑えられないんだろう?」そんな素朴な疑問を抱いた方もいるかもしれません。実は、今回のニュースを少し立ち止まって整理してみると、その「あるはずのワクチン」の話に、知っておきたい大切な落とし穴が隠れています。そもそもエボラとは、どんな病気?エボラウイルス病は、フィロウイルス科に属するエボラウイルスによって引き起こされる感染症です。潜伏期間はおよそ6〜12日(最短2日、最長21日)で、発症後は突然の発熱、激しい頭痛、筋肉痛、倦怠感など、決して特徴的とはいえない症状から始まります3)。数日のうちに嘔吐や下痢が加わり、大量の体液の喪失をきたすことが、その病態の中心になります。「出血熱」という名前が独り歩きしている感がありますが、実際には出血が目立つ患者さんは少数派で、多くは脱水と臓器の障害、ショックで命を落とします3)。致死率は流行ごとに大きく異なります。1976~2022年までの集計によれば、ザイールウイルスで約66.6%、スーダンウイルスで約48.5%、そして今回コンゴで検出されたブンディブギョウイルスでは約32.8%とされています4)。「3割」と聞くと低く感じるかもしれませんが、新型コロナウイルス感染症の致死率が1%前後であったことを思えば、いかに恐ろしい数字かが分かるかと思います。感染は、症状のある患者さんや亡くなった方の血液・体液との直接接触によって起こります。空気感染はしません。つまり、感染拡大の主役となるのは、家族の看病、葬儀での遺体への接触、そして十分な防護具なしで治療にあたる医療者です3)。逆にいえば、「症状のない人」からはうつらない。これも知っておきたい大切なポイントです。なぜ「緊急事態宣言」がそんなに重い意味を持つのかWHOが「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」を宣言するのは、その感染症が「国境を越える拡大リスクがあり、国際協調的な対応が必要」と判断されたときに限られます。これまでに発令されたのは、新型インフルエンザ(H1N1)、ポリオ、エボラ(西アフリカ流行、東部コンゴ流行)、ジカウイルス、新型コロナウイルス、エムポックスなど、ごく限られた事例です。つまりPHEICは、「世界中で警報を共有しましょう」「物資、人材、検査体制を国際的に動かしましょう」という、最上位レベルの号令です。今回もWHOは、コンゴと国境を接するウガンダや南スーダンへの飛び火を念頭に、検査強化や接触者追跡の必要性を強く訴えています2)。日本に直接的な影響が及ぶ可能性は現時点では高くはないものの、グローバル化した現代において、こうした宣言を「対岸の火事」と片付けるのは適切ではないと、私は考えています。エボラに対する承認済みのワクチンは?実は、エボラに対しては承認済みのワクチンがあります。「rVSV-ZEBOV(商品名:Ervebo)」と呼ばれるもので、2019年に欧米で承認され、その後アフリカ複数カ国でも使用が認められました。すでに30万人を超える人に接種されています5)。流行が発生すると、患者の接触者と、そのまた接触者にワクチンを打つ「リング・ワクチネーション」という戦略が用いられ、実際の流行抑制に効果を上げてきました6)。では、なぜ今回はそれができないのでしょうか。実は、承認されているErveboは、エボラウイルスの中の「ザイールウイルス」専用のワクチンであり、今回検出された「ブンディブギョ株」に対する有効性は確立されていないのです5)。エボラウイルス属にはザイール、スーダン、ブンディブギョ、タイフォレストなど複数の種が含まれ、それぞれ抗原性(ウイルスの顔立ち)が異なります。実験動物のデータでも、ザイールウイルス向けワクチンはスーダンウイルスにはうまく反応しないことが示されており、ウイルスが違えば効果はなくなる、というのが現実です5)。承認されている治療薬(atoltivimab/maftivimab/odesivimab[商品名:Inmazeb]やansuvimab[商品名:Ebanga]など)も同様に、ザイールウイルスにのみ有効性が確認されている薬剤です5)。ではなぜ、ブンディブギョ向けのワクチンが整備されてこなかったのか。理由は単純で、これまでブンディブギョの流行が散発的かつ小規模で、製薬開発の優先順位がどうしても下がってきたからです。2014年の西アフリカ大流行(約2万9,000例感染)が世界を震撼させ、Erveboの開発が一気に進んだことを思えば、対照的な状況といえます5)。これは「市場原理だけにワクチン開発を委ねるとどうなるか」という、グローバルヘルスにおける古くて新しい問題でもあります。流行が起きるまで開発の動機が生まれず、いざ流行すれば「ワクチンがない」と慌てる。この繰り返しを断ち切るために、CEPI(感染症流行対策イノベーション連合)など国際的な枠組みが動いてはいますが、まだ十分とは言いがたいのが実情です。日本に住む私たちが今すぐエボラそのものを過剰に恐れる必要はないでしょう。感染経路は限定的で、症状のない人からは感染しないからです。ただ、海外渡航前後の発熱を安易に放置しないこと、そして「アフリカで起きていることは、いずれ自分たちの問題にもなり得る」という視点を持つことは、パンデミックの時代に大切な姿勢かもしれません。今回のニュースは、感染症が今なお人類にとって克服しきれない相手であること、そして国家間で協力してワクチン開発を進める難しさを、改めて教えてくれているように思います。 1) WHO. Epidemic of Ebola Disease caused by Bundibugyo virus in the Democratic Republic of the Congo and Uganda determined a public health emergency of international concern. 2026 17 May. 2) 共同通信. コンゴのエボラ熱、緊急事態宣言 WHO、東部の州で死者87人. 2026年5月17日. 3) Bray M, et al. Clinical manifestations and diagnosis of Ebola disease. UpToDate. Waltham, MA: UpToDate Inc. Accessed May 17, 2026. 4) Izudi J, et al. Case fatality rate for Ebola disease, 1976-2022: A meta-analysis of global data. J Infect Public Health. 2024;17:25. 5) Chertow DS, et al. Treatment and prevention of Ebola and Sudan virus disease. UpToDate. Waltham, MA: UpToDate Inc. Accessed May 17, 2026. 6) Muyembe JJ, et al. Ebola Outbreak Response in the DRC with rVSV-ZEBOV-GP Ring Vaccination. N Engl J Med. 2024;391:2327.

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経皮的電気神経刺激療法は線維筋痛症の痛みの軽減に有効

 実臨床環境で実施された初の試験において、経皮的電気神経刺激療法(TENS)が線維筋痛症に伴う動作時の痛み(以下、動作時痛)の軽減に有効である可能性が示された。TENSは、皮膚に貼った電極を介して微弱な電流を流し、痛みを遮断または軽減する治療法で、外来で長年使用されている。論文の筆頭著者である米アイオワ大学理学療法・リハビリテーション科学分野のDana Dailey氏は、「本研究は、他の治療にTENSを併用することで追加的な効果がもたらされることを示している。研究参加者は全員、鎮痛薬の使用や理学療法も受けていたが、それでもなおTENSは追加的な症状緩和をもたらした」と述べている。この研究は、「JAMA Network Open」に3月27日掲載された。 これまでにも、線維筋痛症に対するTENSの効果を検討した研究は存在したが、いずれも厳密に管理された条件下で実施された臨床試験であった。今回の研究は、米国内の28の外来理学療法クリニックの患者384人(平均年齢53歳、女性91%)を対象に、外来での理学療法にTENSを追加することで、線維筋痛症に伴う動作時痛が軽減するかどうかが検証された。対象者は、理学療法にTENSを追加する群(TENS群、191人)と理学療法のみを受ける群(理学療法群、193人)にランダムに割り付けられた。TENS群では、電極を上・下背部に貼り付け、快適かつ十分な強度の刺激で1日2時間の治療が行われた。治療は連続して実施することも、1日の中で分割して行うことも可能であった。効果は、1日、30日、60日、90日、および180日時点に評価された。理学療法単独群にも60日目以降にTENSが追加された。主要評価項目は試験開始時から60日時点までの動作時痛の変化量とし、0(痛みなし)~10(これ以上想像できないほどひどい痛み)の尺度で評価した。 その結果、60日時点の動作時痛は、TENS群で理学療法群と比較して有意に低かった(群間差−1.2、95%信頼区間−1.6~−0.7)。TENSの効果は用量反応性であり、患者評価による改善度の指標(Patient Global Impression of Change;PGIC)で改善を報告した割合は、TENS群で有意に高かった(72%対51%、P=0.001)。動作時痛が30%以上改善した割合も、TENS群で有意に高かった(41%対13%、P<0.001)。さらにTENS群では、安静時の痛み、痛みによる生活支障、動作時疲労、安静時疲労、線維筋痛症の重症度などにも有意な改善が認められた。全体として、TENSを使用した患者の81%がTENSが有用であると評価し、180日時点でも55%がTENSを毎日使用していた。 論文の上席著者であるアイオワ大学理学療法・リハビリテーション科学分野のKathleen Sluka氏は、「理学療法群の患者にTENSの装置を提供し、使用を開始してもらったところ、TENS群と同様の改善が認められた。この点は非常に重要である」と述べている。 Sluka氏は、「痛みの軽減に加え、疲労も軽減したことに興奮した。現時点で有効な治療法はほとんどない疲労にも効果が及んだことは、非常に意義深い」と述べている。同氏はさらに、「ランダム化比較試験の結果を実臨床に移行すると、交絡因子が多過ぎて効果が再現されないことが少なくない。しかし、本介入は実臨床でも有効であった」と結論付けている。

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