1.
世界的には家屋内で固形燃料(石炭・木炭、木材、作物残渣、糞)を用いて調理をする家庭は減少しており、家庭内空気汚染(household air pollution:HAP)に起因する疾病負担は大幅に減少しているものの、HAPは依然として主要な健康リスクであり、とくにサハラ以南のアフリカと南アジアでは深刻であることが、米国・ワシントン大学のKatrin Burkart氏ら世界疾病負担研究(Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study:GBD)2021 HAP Collaboratorsの解析で示された。著者は、「本研究で得られたHAPへの曝露と疾病負担に関する推定値は、医療政策立案者らが保健介入を計画・実施するための信頼性の高い情報源となる。多くの地域や国でHAPが依然として深刻な影響を及ぼしている現状を踏まえると、資源の乏しい地域で、よりクリーンな家庭用エネルギーへ移行させる取り組みを加速させることが急務である。このような取り組みは、健康リスクの軽減と持続可能な発展を促進し、最終的には何百万もの人々の生活の質と健康状態の改善に寄与することが期待される」とまとめている。Lancet誌オンライン版2025年3月18日号掲載の報告。1990~2021年の204の国と地域のデータを解析 研究グループは、1990~2021年の204の国と地域におけるHAPへの曝露と傾向、ならびに白内障、慢性閉塞性肺疾患、虚血性心疾患、下気道感染症、気管がん、気管支がん、肺がん、脳卒中、2型糖尿病および生殖に関する有害なアウトカムの媒介要因に関する疾病負担を推定した。 まず、調理に固形燃料を使用する人が曝露する微小粒子状物質(PM2.5)の燃料種別平均濃度(μg/m3)を、燃料種、地域、暦年、年齢および性別ごとに推定した。次に、疫学研究のシステマティック・レビューと、新たに開発されたメタ回帰ツールを用いて、疾患特異的ノンパラメトリック曝露反応曲線を作成し、PM2.5濃度の相対リスクを推定した。 また、曝露推定値と相対リスクを統合し、性別、年齢、場所、暦年ごとの原因別の人口寄与割合と疾病負担を推定した。HAP起因の疾病負担は減少、ただしサハラ以南アフリカと南アジアでは高リスク 2021年には、世界人口の33.8%(95%不確実性区間[UI]:33.2~34.3)にあたる26億7,000万人(95%UI:26億3,000万~27億1,000万)が、あらゆる発生源からのHAPに曝露しており、平均濃度は84.2μg/m3であった。これは、1990年にHAPに曝露した世界人口の割合(56.7%、95%UI:56.4~57.1)と比較すると顕著に減少しているが、絶対値でみると、1990年のHAP曝露者30億2,000万人から3億5,000万人(10%)の減少にとどまった。 2021年には、HAPに起因する世界の障害調整生存年(DALY)は1億1,100万(95%UI:7,510万~1億6,400万)であり、全DALYの3.9%(95%UI:2.6~5.7)を占めた。 2021年のHAPに起因する世界のDALY率は、年齢標準化DALYで人口10万人当たり1,500.3(95%UI:1,028.4~2,195.6)で、1990年の4,147.7(3,101.4~5,104.6)から63.8%減少した。 HAP起因の疾病負担は、サハラ以南のアフリカと南アジアで依然として最も高く、それぞれ人口10万人当たりの年齢標準化DALYは4,044.1(95%UI:3,103.4~5,219.7)と3,213.5(2,165.4~4,409.4)であった。HAP起因DALY率は、男性(1,530.5、95%UI:1,023.4~2,263.6)のほうが女性(1,318.5、866.1~1,977.2)よりも高かった。 HAP起因の疾病負担の約3分の1(518.1、95%UI:410.1~641.7)は、妊娠期間の短縮と低出生体重が媒介要因であった。 HAP起因の疾病負担の変化の傾向と要因分析の結果、世界のほとんどの地域で曝露の減少がみられたが、とくにサハラ以南のアフリカでは曝露の減少が人口増加によって相殺されていたことが示された。